ゲスト
(ka0000)
【幻視】廃病棟×死体×殺人鬼【界冥】
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/21 07:30
- 完成日
- 2017/10/29 08:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※要注意※
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD『【幻視】Black Storm【界冥】』との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
「あー……なんか騒がしくなってきた?」
言いながらネネ=グリジュは、あえて一度意識して全身を脱力させた。
投げ出すように広げた両腕が弛緩していく感覚と同時に、ゆっくりと沈みこんでいくような心地にうっとりと目を細める。
リアルブルーに来てから、新しく手に入れた寝具は大層気に入った。低反発だか何だか、聞きなれない言葉が逆に気になって試してみたが、この初めての感覚に彼女は大いに満足しているようだ。
「景観がいまいちだけどー。ゆっくり寝てられる分には別にどうでもいいんだけどねー」
沈む感覚を何度も味わうかのように、ゴロゴロと寝返りを打つ。それは朝の出勤前、布団から出たくなくて悪あがきしているような様でもありまさに怠惰と言った姿であった。
実際、その通りではある。起きたくない。働きたくない──だが、働かねばならないだろう。
面倒そうに首を回して、陰鬱な景色を確認する。アレクサンドルの潜伏する廃病院。身を寄せた彼女に割り当てられた、別棟。
彼女は怠惰ではあるが愚鈍ではない。前回の戦い、適当に蹴散らせばいいと思っていたハンターに危うく追い詰められかけたという事実は正しく認識している。コーリアス亡き後、帰還の方法を失った今、リアルブルーを単独で彷徨うのは危険と判断しここに身を寄せたわけだ。
最も。どのみち。ハンターたちが、アレクサンドルを放置しておくわけがないという事も予想はしていたが。
かと言って。
「……よい、しょっと」
名残惜しむように彼女は上半身を持ち上げた。ベッドの縁に脚を投げ出し、腰掛けるような体勢に変える。腰と手が沈み込む感覚にまた目元が緩む。ああ本当、これは本当にいいものを手に入れた。
──だからまあ、これを手に入れるための『ちょっとしたやんちゃ』については後悔はない。
人類視点で言うならば、『とある大型家具の展示場で起きた惨劇』によって、彼女の討伐を望む動きが出来たとしても、だ。
「適当にこっちの人形とあっちの人形でキャーキャー言って帰ってくれればそれでいいんだけどさあ……まあ、流石にそれは、無いか」
そうして。
何らかの気配を察知すると。
彼女は、諦めたようにベッドから立ち上がり、武器である鉈を手に取った。
これまでの報告で、この病棟に潜むネネ=グリジュという歪虚がどのような存在であるかはある程度認識されていた。
だからこそだろう。病棟に一歩踏み込んだハンターを出迎えた二つの人影。それが、いかに綺麗な姿であろうとも、生きた人間ではないという事を看過するのは難しいことではなかった。
報告は……有ったのだ。家具屋での事件。その際に彼女は、非常に綺麗なやり方で居合わせた被害者を殺して回っていたと。打撃により、内部の致命的な箇所に損害を与え、一見して外傷は分からない程度の死体へと変えられた。
勿論、情けや手向けなどと言った気持ちが彼女にあるわけがない。その後利用するためと言うのも副産物でしかない。彼女はただ、その場にあるベッド全てを、なるべく汚したくなかったというそれだけだ。
そこまでは、すぐに理解できる。直接彼女に相対する、あるいは彼女が手を下したされる事件に関わっていないハンターでも。これまでの経緯を軽くでも聞いていれば。
身構えるハンターたち。だがそこに、どこからともなく、声がした。
『……あんたらさあ。アレクサンドルのところ行けば? あたし、別に邪魔しないし』
ネネの声。だが、周囲に彼女の姿は見つからない。どこかから声をこの場所に届けているのか。
『どうかしら。ほっといてくれればさあ。あたし今のベッドが飽きるまでは大人しく寝てるわよ? まあ、飽きたらまた新しいの取りに行くけどさ。でもそんなの、他の歪虚に比べたら大人しいもんでしょーぉ? むしろ、あんたら人間同士の諍いとかー? 事故やら災害で死んじゃうほうがよっぽど多いんじゃない?』
そこまで言うと、ゆらり、と二体の人影が前に出る。
『そうじゃないならー。まあ、お相手するのは主にいつも通りの人形ちゃんたちなんだけど―お。気を付けてねー?』
次の瞬間。
人影の一体が、爆ぜた。
……いや、爆発したわけでは無い。歪に変形し、そのシルエットを膨れ上がらせた。全身から幾つも生える、土の針。人型に見えたうちの一体は、彼女がこれまでも見せた土人形であると知れる。
『こんな感じでぇ。今回の土人形ちゃんは割とガチで凶悪にしといたからあ。死体だと思って色々気を使って気を付けようとするとこの通りざっしゅざっしゅだし』
そして。もう一体は。その、土人形の伸ばした針に刺し貫かれ穴を開けて色々と『赤』や『白』、『ピンク』、『黄色』等の『中身』を覗かせたそれは、紛れもなく人の死体であることも。
『それとも今回はのっけから諦めて全部まとめてぶち潰しに来る? あははーそれがいいかもね。まあそう思ってこの子たちはこの子たちでざっしゅざっしゅされてもそれなりに動くようにしてあるんだけどさぁ』
身体の左半分に無数に穴を開け、ぼたぼたと血と何かを垂らしながら。死人形はなお数歩前に出る。
『焼く? 潰す? 刻む? 穿つ? 一生懸命壊してね? でもあたしももう油断しない。あんたらが気力体力削ってるところを、これから、不意を打ってじわじわ襲って殺す』
嬲るような声が響く。これまでも、ハンターたちの、人類の負の感情を効率的に揺さぶろうと画策してきた歪虚の声。
『面倒くさいでしょぉ? 面倒だったら帰っていいわよ?』
哄笑と共に声は途切れ。そして、じっとりと悪意に満ちた殺気が、周囲に生まれた。
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD『【幻視】Black Storm【界冥】』との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
「あー……なんか騒がしくなってきた?」
言いながらネネ=グリジュは、あえて一度意識して全身を脱力させた。
投げ出すように広げた両腕が弛緩していく感覚と同時に、ゆっくりと沈みこんでいくような心地にうっとりと目を細める。
リアルブルーに来てから、新しく手に入れた寝具は大層気に入った。低反発だか何だか、聞きなれない言葉が逆に気になって試してみたが、この初めての感覚に彼女は大いに満足しているようだ。
「景観がいまいちだけどー。ゆっくり寝てられる分には別にどうでもいいんだけどねー」
沈む感覚を何度も味わうかのように、ゴロゴロと寝返りを打つ。それは朝の出勤前、布団から出たくなくて悪あがきしているような様でもありまさに怠惰と言った姿であった。
実際、その通りではある。起きたくない。働きたくない──だが、働かねばならないだろう。
面倒そうに首を回して、陰鬱な景色を確認する。アレクサンドルの潜伏する廃病院。身を寄せた彼女に割り当てられた、別棟。
彼女は怠惰ではあるが愚鈍ではない。前回の戦い、適当に蹴散らせばいいと思っていたハンターに危うく追い詰められかけたという事実は正しく認識している。コーリアス亡き後、帰還の方法を失った今、リアルブルーを単独で彷徨うのは危険と判断しここに身を寄せたわけだ。
最も。どのみち。ハンターたちが、アレクサンドルを放置しておくわけがないという事も予想はしていたが。
かと言って。
「……よい、しょっと」
名残惜しむように彼女は上半身を持ち上げた。ベッドの縁に脚を投げ出し、腰掛けるような体勢に変える。腰と手が沈み込む感覚にまた目元が緩む。ああ本当、これは本当にいいものを手に入れた。
──だからまあ、これを手に入れるための『ちょっとしたやんちゃ』については後悔はない。
人類視点で言うならば、『とある大型家具の展示場で起きた惨劇』によって、彼女の討伐を望む動きが出来たとしても、だ。
「適当にこっちの人形とあっちの人形でキャーキャー言って帰ってくれればそれでいいんだけどさあ……まあ、流石にそれは、無いか」
そうして。
何らかの気配を察知すると。
彼女は、諦めたようにベッドから立ち上がり、武器である鉈を手に取った。
これまでの報告で、この病棟に潜むネネ=グリジュという歪虚がどのような存在であるかはある程度認識されていた。
だからこそだろう。病棟に一歩踏み込んだハンターを出迎えた二つの人影。それが、いかに綺麗な姿であろうとも、生きた人間ではないという事を看過するのは難しいことではなかった。
報告は……有ったのだ。家具屋での事件。その際に彼女は、非常に綺麗なやり方で居合わせた被害者を殺して回っていたと。打撃により、内部の致命的な箇所に損害を与え、一見して外傷は分からない程度の死体へと変えられた。
勿論、情けや手向けなどと言った気持ちが彼女にあるわけがない。その後利用するためと言うのも副産物でしかない。彼女はただ、その場にあるベッド全てを、なるべく汚したくなかったというそれだけだ。
そこまでは、すぐに理解できる。直接彼女に相対する、あるいは彼女が手を下したされる事件に関わっていないハンターでも。これまでの経緯を軽くでも聞いていれば。
身構えるハンターたち。だがそこに、どこからともなく、声がした。
『……あんたらさあ。アレクサンドルのところ行けば? あたし、別に邪魔しないし』
ネネの声。だが、周囲に彼女の姿は見つからない。どこかから声をこの場所に届けているのか。
『どうかしら。ほっといてくれればさあ。あたし今のベッドが飽きるまでは大人しく寝てるわよ? まあ、飽きたらまた新しいの取りに行くけどさ。でもそんなの、他の歪虚に比べたら大人しいもんでしょーぉ? むしろ、あんたら人間同士の諍いとかー? 事故やら災害で死んじゃうほうがよっぽど多いんじゃない?』
そこまで言うと、ゆらり、と二体の人影が前に出る。
『そうじゃないならー。まあ、お相手するのは主にいつも通りの人形ちゃんたちなんだけど―お。気を付けてねー?』
次の瞬間。
人影の一体が、爆ぜた。
……いや、爆発したわけでは無い。歪に変形し、そのシルエットを膨れ上がらせた。全身から幾つも生える、土の針。人型に見えたうちの一体は、彼女がこれまでも見せた土人形であると知れる。
『こんな感じでぇ。今回の土人形ちゃんは割とガチで凶悪にしといたからあ。死体だと思って色々気を使って気を付けようとするとこの通りざっしゅざっしゅだし』
そして。もう一体は。その、土人形の伸ばした針に刺し貫かれ穴を開けて色々と『赤』や『白』、『ピンク』、『黄色』等の『中身』を覗かせたそれは、紛れもなく人の死体であることも。
『それとも今回はのっけから諦めて全部まとめてぶち潰しに来る? あははーそれがいいかもね。まあそう思ってこの子たちはこの子たちでざっしゅざっしゅされてもそれなりに動くようにしてあるんだけどさぁ』
身体の左半分に無数に穴を開け、ぼたぼたと血と何かを垂らしながら。死人形はなお数歩前に出る。
『焼く? 潰す? 刻む? 穿つ? 一生懸命壊してね? でもあたしももう油断しない。あんたらが気力体力削ってるところを、これから、不意を打ってじわじわ襲って殺す』
嬲るような声が響く。これまでも、ハンターたちの、人類の負の感情を効率的に揺さぶろうと画策してきた歪虚の声。
『面倒くさいでしょぉ? 面倒だったら帰っていいわよ?』
哄笑と共に声は途切れ。そして、じっとりと悪意に満ちた殺気が、周囲に生まれた。
リプレイ本文
「なんとも、悪趣味な人形ですね」
夜桜 奏音(ka5754)が呟いた。
Holmes(ka3813)の鋭すぎる嗅覚が、まき散らされた腐臭にひくつく。鼻を押さえようとは思わなかった。この先、これこそが必要になる。ならばこそこの腐臭は、むしろ覚えておくべきものだ。
「ふん、聞いていた通りフザケタ敵の様だ」
紫炎(ka5268)が吐き捨てる。
「人を殺め、死者を愚弄するその所業……存在させてよい相手ではないな」
確実に倒す。その意志を込めた呟きに、米本 剛(ka0320)が頷いた。
「ネネという歪虚の言を信じられませんからね。自分がネネという歪虚を討つ理由はそれだけでも充分ですな。まぁ……歪虚の言を信じる、って状況が早々ある訳ではないですが」
「これで逃げられたら被害が広がりますし、ここで終わらせますよ」
奏音が言う。そこで、お喋りは一旦しまいになった。彼らは事前の打ち合わせの通りに、二手に分かれての捜索を開始する。
続く廊下に、幾つものドアが並んでいる。居並ぶドアの一つを、先行する紫炎は躊躇いなく開け放った。敵は、その先にいた。
奇襲には警戒している。紫炎がとっさに上体を引くのと同時に、身構えていたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が割り込み、盾を掲げ、弾く。奏音の符が、星野 ハナ(ka5852)の銃弾が、バランスを崩した敵に次々と着弾する。
「許せ」
目の前のそれが何であるか正しく認識し、紫炎は十字剣を構え一度侘びと死体の安寧を祈った。それでも、その剣はしっかりと振るわれる。シガレットが放つ閃光が、その斬撃を追うように重ねられた。
この場の敵は合計三体。
怖いのは、先ほど見せられた土人形の攻撃だ。シガレットはそう認識している。その上で、どう動くか。己の役割は仲間を護る動きで継続戦闘力を高める事と見定めている。重体者が一人でるだけでガクンと探索も戦闘も落ち込む。ならば護りやすく動くためには。
頭数を減らすこと。刹那で判断し、近づく敵を優先して味方と攻撃を合わせる。危険と判断した土人形ではなく、まず、紫炎に接近した死体にとどめを刺した。動きを停止したのを確認し、次の敵を見定め──
「きゃっはー! 殺してるぅ!?」
部屋の奥から、声がした。負のマテリアルの気配が膨れ上がる。シガレットの眼前の土人形、その向こう側から、女のものらしい細腕がちらりと覗く。土人形の肩を粉砕しながら、シガレットを鉈が襲った。
「まったく、やるじゃんあんたら、ちょっとは遠慮──……」
「まぁ何の人形だろうが歪虚だろうが近づかれる前に全ブッコロが今回の方針ですしぃ?」
ネネの哄笑を、ハナが遮った。反論ではなくもっと物理的に。迷いも不快感も見せずあっけらかんと彼女は五色に輝く符を放つ。
「リアルブルーに歪虚放流なんて有り得ないですぅ。ハンター舐めんなこの腐れ歪虚♪」
ハナが言い放つと共に、紫炎が前に出て、ネネの退路に回り込もうとする……が、察知した人形の一体が、タックルから抱き着くようにしてそれを阻害した。
奏音は、素早く別動隊への連絡を試みていた。まだ本格的な手出しはしない。合流まで時間稼ぎが出来ないか、と探る。だが、ハナが既に符を放っていて、連打の勢いに、ネネは完全に身構えている。もはや交戦は不可避。ならばと地縛符を放つ。足元に産まれた感触に、ネネがかなり嫌な顔をしながら飛びのくのが見えた。
ネネにとって今の奏音の術に耐えるのはかなりギリギリだった。そして、ハナの五色光符陣。何より……。
シガレットの助けを受け、紫炎がしがみついてくる人形を振りほどく。再び纏まりつかれぬよう腕を切り落とすその動きにも、迷いはない。
「……っち」
舌打ち一つ。呆気なく、ネネは撤退に転じた。飛び上がり、侵入してきた窓から上半身を外に出す。そのまま、片腕で器用に窓の桟を掴むと、その腕の力だけで己の身体を引っ張り上げる。
敵の撤退の判断が、拍子抜けするほど早い。ハナと奏音、二重の足止めをかなり嫌がったのだろう、とは思うが……。
「やはり、上か」
残る二体の人形を片付けた後、紫炎が呟いた。
転移ができる様な話は聞いて居なかった。今の襲撃、乱入時も撤退時もその様子が見られなかったことから、それは間違いないだろう。ならばすぐに逃げることが出来る場所──窓がある部屋か、あるいは屋上を拠点にしているのではないか。紫炎はそう推察し、上がりながら捜索することを提案した。
先ほど連絡した敵の退却と、これからの進路方針を別グループに説明し、一行は捜索を再開した。
ガラガラと、石壁が崩れる音が廊下に反響する。大穴が開き、部屋と廊下の見通しが涼しくなる。
倒壊しない程度に建物の壁を崩壊させる。死角を減らし奇襲への警戒を軽減するための方策だ。派手な音をまき散らしながら進む一行の前に、廊下の向こうから、ぬう、と姿を現す影があった。死体。その手に、猟銃。
剛が、Holmesが、味方を守る盾となるべく前に出る。スファギ(ka6888)は、一歩行動が遅れた。立ち位置的に仲間から離れる位置になる。
死体が、銃口をスファギの方へと向け。火を噴いたのは、しかしメアリ・ロイド(ka6633)の銃が先。狙ったのは死体の銃を持つその手だ。猟銃を支える手が弾け飛ぶ。
前回凄惨な死を目の当たりにし涙を止められなかったメアリは、しかし、それゆえにネネは討伐せねばと奮起してこの依頼に参加した。……だから今は、気にならない。使命感と怒りが、それを上回っている。
バラバラと、奥から新手が出てくる。
(被害者の死体は可能な限り傷めずが理想ではありますが……)
いざその時を迎えて、剛はわずかに表情を歪める。理想はあっても、現状はそうも言っていられないということは彼は瞬時に飲み込んでいた。
後から来た新手の一体を、Holmesの鎌が打ち据える。土人形の方だと匂いで分かっていた。その身に秘める危険な槍攻撃を認識してなお、執拗な斬撃を彼女は止めようとはしなかった。
「こんな悪趣味な物を遺族に渡す訳にもいかないしね」
Holmesが採った方針は剛とは逆だった。名誉のために、徹底的に破壊する。そのために自分の身を危険に晒すことにも躊躇いは無かった。土人形が爆ぜる。突き出される無数の槍を、彼女はかわし、受ける。自身の回復力を信じ、傷を受けることより手数が止まることを厭った。剛が共に前に出てくれたこともあって、その目論見が外れることは無かった。
人形たちとの戦闘内容自体は順当……と、言えるかは微妙だ。大きなイレギュラーもなく対応はしている。ただ、拙速を是とする割には全体的に防御に偏り過ぎてはいた。そういう意味では、もう一斑に比べやや戦闘は間延びしているとも言える。が、お蔭で負傷は少ない。
どちらかと言えば致命的な問題は、探索時に発生した。
スファギが、唐突に単独行動に出た。偶然だが、彼もまたネネと同じように窓を利用したショートカットを使って上階へと上がる。個人的な目標として、スファギはネネの愛用する寝具を先回りして破壊することを狙っていた。
予想だにしてない上に、あっという間のことだ。遺された一行は顔を見合わせる。
「……どちらが悪役か分かったもんじゃないね」
皮肉として用意していた言葉が、このタイミングで思わずHolmesから零れた。死体を容赦なく破壊し、壁や寝具を破損して回り。挙句の果てが……身勝手にしか見えない単独行動か。
「全くよね」
声は、残された一行とは離れたところから。複数の気配と共に聞こえてきた。結局、呆けている暇はなく一行は身構える。まず歩いてきたのは二組の死体人形。それの。
片方一体の方の首が、ハンターの眼前で、ごろん、と落ちた。
生気の抜けきった男の顔、それを、歪虚の手が掴む。濁った眼球を、一行に向けて。
「何なのもう。あんたらはさあ、もっとこれに苦しまないといけないはずでしょ?」
「──……っ!」
息を飲む音は、誰のものだったか。それが、動き始める合図になった。
剛が制圧射撃を繰り出す。Holmesはファントムハンドを繰り出して逃亡を阻害しようとするが、これは回避された。
「Here's Johnny!」
結果に怯むことなく彼女は、冷静にトランシーバーでもう一斑に連絡を入れる。
そしてメアリは……先ほど開けた壁の穴から手近な部屋に飛び込むと、見せつけるようにそこにある寝具に向けて機械杖を叩きつけた。そこにあるのは病室によくあるパイプベッドではあったが、とにかくこちらがやろうとしていることをアピールする意味はある。
ネネの顔が分かる程度に歪む。
彼女は今回のハンターたちに対し、己の目論見が通じないことを悟った。移動阻害、行動阻害の能力を持つ手合いがやけに多い。
それから……あからさまに寝具を狙って破壊するというハンターの動きは、まあ、正解だった。実のところ、アレクサンドルが倒されるという事になれば、実際のところ、もう気軽に、こちらの世界で気軽に奪いに行くという事は困難だろうと思っていたのだ。そうなると、今ある宝は確保しておきたかった。これが、彼女の、この場そのものから逃げるという選択肢をギリギリまで狭めている。
そして。これまで散々人類を苦しめてきたはずの彼女のやり口が、彼らには全く通じている気配が無いという事が、彼女を大いに混乱させていた。
苛立ち。そこに。
なんだか笑い出しそうな感覚が混ざるのは、何なのだろうか。
ともあれ彼女は、一撃離脱を繰り返し消耗を図るという方針をハンターの能力、戦略により早々に撤回することになった。
わかった。お望み通り。貴方たちとは、ここで決着を付けよう。
残る人形を、彼女はこの場に集結させる。
戦闘は続いている。もぎ取った男の首を、ネネは一行に向けて投げつけた。Holmesの鎌が、それを受けて、落とす。
「死体は所詮物だ、生きちゃあいない。だけど生きていた」
決然と、彼女は告げる。
「死とは名誉あるものであるべきだ。決してこんな戯れの材料として使われて良い物ではないんだ」
ネネの気配が変わったことを、決着の時が近いことを、肌で感じていた。
「そーお? あんだけ容赦なく壊しといで? なんだかんだ、楽しかったんじゃない? あんたもさあ!」
鉈が、彼女を強襲する。受け止めきれず血飛沫を上げる彼女の肩を、剛が素早く癒す。
「……遺族の方には詫びを入れる覚悟をもって対処します。……貴女の首を以って仇とする、その、つもりですよ」
剛が、彼女の言葉を否定するように真っ直ぐに彼女を見つめる。
メアリは、ネネに向けた銃撃を繰り返す。だが、まだ仲間に合わせるというほど、積極的にネネを狙える状況にない。三人は消耗しながらも何とかこの場を持ちこたえていた。そして。
薄暗い空間に、五色の光が舞う。
「怠惰の眷属は一時撤退とかで力を蓄えて強力になって戻ってきますし、まずは逃がさないようにしてここで確実に倒します」
照らされる奏音の顔は、かつての強敵を思い出し嫌な表情に歪んではいたが。それでも、味方を勇気づけ安心させるに足るものだった。
「イェルズ・オイマトに助けられた借りをそのままにするのはよろしくないねェ」
続く声はシガレットのもの。
「アレクサンドルに向かった本体の妨げにならねェように、ここで倒させてもらうぜぇ?」
別動隊の到着。
セイクリッドフラッシュ。彼を中心に産まれた衝撃波が、人形たちをまたしてもまとめて吹き飛ばす。
ハナは、相変わらずぶれなかった。余計な感情も理屈も挟まず、符の尽きるまで五色光符陣を叩き込む構え。
「容赦ないのねあんたら! 良いのソレで?」
乱戦となった舞台で、歪虚が乾いた哄笑を上げる。その声はいよいよもって追い詰められつつある事実にひきつってもいる様で。
「……道具に使う程人間が好きか、劣等感でも抱いているか」
人形たちの動きに異変を感じたスファギが、遅れてようやく合流した。結果的に彼の狙いは、完全に空振りになった事になる。
「劣等感? 違う。あたしはあんたらなんて気にしてなかった。そのはずだった」
ここからは、消耗戦だ。決定打は、まだない。それでも、それぞれが技能を駆使し、技能が無いものは積極的に囮となり身体を張って行く手を阻み、逃亡を防ぐ。そうしていれば、人形はその数を減らしていく。
……ネネを直接狙う攻撃が、増える。ハンターの何名かは、意識して攻撃を合わせ、より深くその攻撃をねじ込もうとする。
メアリの銃撃が鋭さを増していく。目、耳、それから関節の柔らかい部位などを狙うその意図は、『安眠を妨害するであろう箇所』。うっとおしげに睨み付けるネネの視線に、彼女は呟きで返した。
「邪魔する理由? 強いて言うならお前が居ると安心できないからだ。……惨めったらしい死を味わえよ、殺人鬼」
その言葉にネネは。
「あはははは。それよそれ。ねえ、あんたら結局、『私たち』になりつつない? いや、元々やっぱり、私たちと貴方たちって同質なのかしら。コーリアス様が言ったとおり、さあ……」
そんな戯言、今更メアリには興味なかった。ただの挑発。こいつは、殺さなきゃいけない。大切な人達が殺されないためにも。
「何なのかしらね。本当、こんなことあたしどうでもいいはずだったのに。ねえ──あたしやっぱりコーリアス様のことが好きだったのかしら」
けど、その、言葉に。
「もう──黙れ」
メアリは、反応していた。同じじゃない。同じであってたまるか。こんなものと。
その時、機導砲を放とうと構えた杖から、焔が立ち上がる。
『妾の紅蓮の劫火……その助けとなる様に……』
聞こえた気がした。ここに居ない、味方の声。祈りが。
『之以上、傷付かぬ様に……涙流さずとも進める様に……』
この焔は、敵を討つ為の力。だけどメアリ自身には、温かく包み込むような炎だった。微かに震えていた手が握り直される。しっかりと構えなおされた杖から、出力を超えた威力が、真っ直ぐに放たれる。歪虚の身体が、大きくのけぞった。
「貴様に安らぎなど与えん! この地で朽ち果てるがいい、歪虚!!」
紫炎が強く踏み込む。渾身の一撃を大きく振りかぶる。
「お休みの時間だ、ネネ君」
崩れ落ちる歪虚の身体に、Holmesが酷薄に告げた。
「お気に入りのテディベアも、温かな寝床もなしだ。鉈を抱えて独りで眠れ」
その言葉に、その身体を崩れさせながら歪虚は唇をゆがめた。
「だから……こんなものを眠りに例えるのって……わけわかんないっての……」
倒れた歪虚の身体は、やがて塵と融けて完全に無となる。
廃病院に遺されるのは、人の遺体、それのみだ。散々その死を弄んだ歪虚の死は、醜く残されることは無い。
それが何とも、理不尽だった。
夜桜 奏音(ka5754)が呟いた。
Holmes(ka3813)の鋭すぎる嗅覚が、まき散らされた腐臭にひくつく。鼻を押さえようとは思わなかった。この先、これこそが必要になる。ならばこそこの腐臭は、むしろ覚えておくべきものだ。
「ふん、聞いていた通りフザケタ敵の様だ」
紫炎(ka5268)が吐き捨てる。
「人を殺め、死者を愚弄するその所業……存在させてよい相手ではないな」
確実に倒す。その意志を込めた呟きに、米本 剛(ka0320)が頷いた。
「ネネという歪虚の言を信じられませんからね。自分がネネという歪虚を討つ理由はそれだけでも充分ですな。まぁ……歪虚の言を信じる、って状況が早々ある訳ではないですが」
「これで逃げられたら被害が広がりますし、ここで終わらせますよ」
奏音が言う。そこで、お喋りは一旦しまいになった。彼らは事前の打ち合わせの通りに、二手に分かれての捜索を開始する。
続く廊下に、幾つものドアが並んでいる。居並ぶドアの一つを、先行する紫炎は躊躇いなく開け放った。敵は、その先にいた。
奇襲には警戒している。紫炎がとっさに上体を引くのと同時に、身構えていたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が割り込み、盾を掲げ、弾く。奏音の符が、星野 ハナ(ka5852)の銃弾が、バランスを崩した敵に次々と着弾する。
「許せ」
目の前のそれが何であるか正しく認識し、紫炎は十字剣を構え一度侘びと死体の安寧を祈った。それでも、その剣はしっかりと振るわれる。シガレットが放つ閃光が、その斬撃を追うように重ねられた。
この場の敵は合計三体。
怖いのは、先ほど見せられた土人形の攻撃だ。シガレットはそう認識している。その上で、どう動くか。己の役割は仲間を護る動きで継続戦闘力を高める事と見定めている。重体者が一人でるだけでガクンと探索も戦闘も落ち込む。ならば護りやすく動くためには。
頭数を減らすこと。刹那で判断し、近づく敵を優先して味方と攻撃を合わせる。危険と判断した土人形ではなく、まず、紫炎に接近した死体にとどめを刺した。動きを停止したのを確認し、次の敵を見定め──
「きゃっはー! 殺してるぅ!?」
部屋の奥から、声がした。負のマテリアルの気配が膨れ上がる。シガレットの眼前の土人形、その向こう側から、女のものらしい細腕がちらりと覗く。土人形の肩を粉砕しながら、シガレットを鉈が襲った。
「まったく、やるじゃんあんたら、ちょっとは遠慮──……」
「まぁ何の人形だろうが歪虚だろうが近づかれる前に全ブッコロが今回の方針ですしぃ?」
ネネの哄笑を、ハナが遮った。反論ではなくもっと物理的に。迷いも不快感も見せずあっけらかんと彼女は五色に輝く符を放つ。
「リアルブルーに歪虚放流なんて有り得ないですぅ。ハンター舐めんなこの腐れ歪虚♪」
ハナが言い放つと共に、紫炎が前に出て、ネネの退路に回り込もうとする……が、察知した人形の一体が、タックルから抱き着くようにしてそれを阻害した。
奏音は、素早く別動隊への連絡を試みていた。まだ本格的な手出しはしない。合流まで時間稼ぎが出来ないか、と探る。だが、ハナが既に符を放っていて、連打の勢いに、ネネは完全に身構えている。もはや交戦は不可避。ならばと地縛符を放つ。足元に産まれた感触に、ネネがかなり嫌な顔をしながら飛びのくのが見えた。
ネネにとって今の奏音の術に耐えるのはかなりギリギリだった。そして、ハナの五色光符陣。何より……。
シガレットの助けを受け、紫炎がしがみついてくる人形を振りほどく。再び纏まりつかれぬよう腕を切り落とすその動きにも、迷いはない。
「……っち」
舌打ち一つ。呆気なく、ネネは撤退に転じた。飛び上がり、侵入してきた窓から上半身を外に出す。そのまま、片腕で器用に窓の桟を掴むと、その腕の力だけで己の身体を引っ張り上げる。
敵の撤退の判断が、拍子抜けするほど早い。ハナと奏音、二重の足止めをかなり嫌がったのだろう、とは思うが……。
「やはり、上か」
残る二体の人形を片付けた後、紫炎が呟いた。
転移ができる様な話は聞いて居なかった。今の襲撃、乱入時も撤退時もその様子が見られなかったことから、それは間違いないだろう。ならばすぐに逃げることが出来る場所──窓がある部屋か、あるいは屋上を拠点にしているのではないか。紫炎はそう推察し、上がりながら捜索することを提案した。
先ほど連絡した敵の退却と、これからの進路方針を別グループに説明し、一行は捜索を再開した。
ガラガラと、石壁が崩れる音が廊下に反響する。大穴が開き、部屋と廊下の見通しが涼しくなる。
倒壊しない程度に建物の壁を崩壊させる。死角を減らし奇襲への警戒を軽減するための方策だ。派手な音をまき散らしながら進む一行の前に、廊下の向こうから、ぬう、と姿を現す影があった。死体。その手に、猟銃。
剛が、Holmesが、味方を守る盾となるべく前に出る。スファギ(ka6888)は、一歩行動が遅れた。立ち位置的に仲間から離れる位置になる。
死体が、銃口をスファギの方へと向け。火を噴いたのは、しかしメアリ・ロイド(ka6633)の銃が先。狙ったのは死体の銃を持つその手だ。猟銃を支える手が弾け飛ぶ。
前回凄惨な死を目の当たりにし涙を止められなかったメアリは、しかし、それゆえにネネは討伐せねばと奮起してこの依頼に参加した。……だから今は、気にならない。使命感と怒りが、それを上回っている。
バラバラと、奥から新手が出てくる。
(被害者の死体は可能な限り傷めずが理想ではありますが……)
いざその時を迎えて、剛はわずかに表情を歪める。理想はあっても、現状はそうも言っていられないということは彼は瞬時に飲み込んでいた。
後から来た新手の一体を、Holmesの鎌が打ち据える。土人形の方だと匂いで分かっていた。その身に秘める危険な槍攻撃を認識してなお、執拗な斬撃を彼女は止めようとはしなかった。
「こんな悪趣味な物を遺族に渡す訳にもいかないしね」
Holmesが採った方針は剛とは逆だった。名誉のために、徹底的に破壊する。そのために自分の身を危険に晒すことにも躊躇いは無かった。土人形が爆ぜる。突き出される無数の槍を、彼女はかわし、受ける。自身の回復力を信じ、傷を受けることより手数が止まることを厭った。剛が共に前に出てくれたこともあって、その目論見が外れることは無かった。
人形たちとの戦闘内容自体は順当……と、言えるかは微妙だ。大きなイレギュラーもなく対応はしている。ただ、拙速を是とする割には全体的に防御に偏り過ぎてはいた。そういう意味では、もう一斑に比べやや戦闘は間延びしているとも言える。が、お蔭で負傷は少ない。
どちらかと言えば致命的な問題は、探索時に発生した。
スファギが、唐突に単独行動に出た。偶然だが、彼もまたネネと同じように窓を利用したショートカットを使って上階へと上がる。個人的な目標として、スファギはネネの愛用する寝具を先回りして破壊することを狙っていた。
予想だにしてない上に、あっという間のことだ。遺された一行は顔を見合わせる。
「……どちらが悪役か分かったもんじゃないね」
皮肉として用意していた言葉が、このタイミングで思わずHolmesから零れた。死体を容赦なく破壊し、壁や寝具を破損して回り。挙句の果てが……身勝手にしか見えない単独行動か。
「全くよね」
声は、残された一行とは離れたところから。複数の気配と共に聞こえてきた。結局、呆けている暇はなく一行は身構える。まず歩いてきたのは二組の死体人形。それの。
片方一体の方の首が、ハンターの眼前で、ごろん、と落ちた。
生気の抜けきった男の顔、それを、歪虚の手が掴む。濁った眼球を、一行に向けて。
「何なのもう。あんたらはさあ、もっとこれに苦しまないといけないはずでしょ?」
「──……っ!」
息を飲む音は、誰のものだったか。それが、動き始める合図になった。
剛が制圧射撃を繰り出す。Holmesはファントムハンドを繰り出して逃亡を阻害しようとするが、これは回避された。
「Here's Johnny!」
結果に怯むことなく彼女は、冷静にトランシーバーでもう一斑に連絡を入れる。
そしてメアリは……先ほど開けた壁の穴から手近な部屋に飛び込むと、見せつけるようにそこにある寝具に向けて機械杖を叩きつけた。そこにあるのは病室によくあるパイプベッドではあったが、とにかくこちらがやろうとしていることをアピールする意味はある。
ネネの顔が分かる程度に歪む。
彼女は今回のハンターたちに対し、己の目論見が通じないことを悟った。移動阻害、行動阻害の能力を持つ手合いがやけに多い。
それから……あからさまに寝具を狙って破壊するというハンターの動きは、まあ、正解だった。実のところ、アレクサンドルが倒されるという事になれば、実際のところ、もう気軽に、こちらの世界で気軽に奪いに行くという事は困難だろうと思っていたのだ。そうなると、今ある宝は確保しておきたかった。これが、彼女の、この場そのものから逃げるという選択肢をギリギリまで狭めている。
そして。これまで散々人類を苦しめてきたはずの彼女のやり口が、彼らには全く通じている気配が無いという事が、彼女を大いに混乱させていた。
苛立ち。そこに。
なんだか笑い出しそうな感覚が混ざるのは、何なのだろうか。
ともあれ彼女は、一撃離脱を繰り返し消耗を図るという方針をハンターの能力、戦略により早々に撤回することになった。
わかった。お望み通り。貴方たちとは、ここで決着を付けよう。
残る人形を、彼女はこの場に集結させる。
戦闘は続いている。もぎ取った男の首を、ネネは一行に向けて投げつけた。Holmesの鎌が、それを受けて、落とす。
「死体は所詮物だ、生きちゃあいない。だけど生きていた」
決然と、彼女は告げる。
「死とは名誉あるものであるべきだ。決してこんな戯れの材料として使われて良い物ではないんだ」
ネネの気配が変わったことを、決着の時が近いことを、肌で感じていた。
「そーお? あんだけ容赦なく壊しといで? なんだかんだ、楽しかったんじゃない? あんたもさあ!」
鉈が、彼女を強襲する。受け止めきれず血飛沫を上げる彼女の肩を、剛が素早く癒す。
「……遺族の方には詫びを入れる覚悟をもって対処します。……貴女の首を以って仇とする、その、つもりですよ」
剛が、彼女の言葉を否定するように真っ直ぐに彼女を見つめる。
メアリは、ネネに向けた銃撃を繰り返す。だが、まだ仲間に合わせるというほど、積極的にネネを狙える状況にない。三人は消耗しながらも何とかこの場を持ちこたえていた。そして。
薄暗い空間に、五色の光が舞う。
「怠惰の眷属は一時撤退とかで力を蓄えて強力になって戻ってきますし、まずは逃がさないようにしてここで確実に倒します」
照らされる奏音の顔は、かつての強敵を思い出し嫌な表情に歪んではいたが。それでも、味方を勇気づけ安心させるに足るものだった。
「イェルズ・オイマトに助けられた借りをそのままにするのはよろしくないねェ」
続く声はシガレットのもの。
「アレクサンドルに向かった本体の妨げにならねェように、ここで倒させてもらうぜぇ?」
別動隊の到着。
セイクリッドフラッシュ。彼を中心に産まれた衝撃波が、人形たちをまたしてもまとめて吹き飛ばす。
ハナは、相変わらずぶれなかった。余計な感情も理屈も挟まず、符の尽きるまで五色光符陣を叩き込む構え。
「容赦ないのねあんたら! 良いのソレで?」
乱戦となった舞台で、歪虚が乾いた哄笑を上げる。その声はいよいよもって追い詰められつつある事実にひきつってもいる様で。
「……道具に使う程人間が好きか、劣等感でも抱いているか」
人形たちの動きに異変を感じたスファギが、遅れてようやく合流した。結果的に彼の狙いは、完全に空振りになった事になる。
「劣等感? 違う。あたしはあんたらなんて気にしてなかった。そのはずだった」
ここからは、消耗戦だ。決定打は、まだない。それでも、それぞれが技能を駆使し、技能が無いものは積極的に囮となり身体を張って行く手を阻み、逃亡を防ぐ。そうしていれば、人形はその数を減らしていく。
……ネネを直接狙う攻撃が、増える。ハンターの何名かは、意識して攻撃を合わせ、より深くその攻撃をねじ込もうとする。
メアリの銃撃が鋭さを増していく。目、耳、それから関節の柔らかい部位などを狙うその意図は、『安眠を妨害するであろう箇所』。うっとおしげに睨み付けるネネの視線に、彼女は呟きで返した。
「邪魔する理由? 強いて言うならお前が居ると安心できないからだ。……惨めったらしい死を味わえよ、殺人鬼」
その言葉にネネは。
「あはははは。それよそれ。ねえ、あんたら結局、『私たち』になりつつない? いや、元々やっぱり、私たちと貴方たちって同質なのかしら。コーリアス様が言ったとおり、さあ……」
そんな戯言、今更メアリには興味なかった。ただの挑発。こいつは、殺さなきゃいけない。大切な人達が殺されないためにも。
「何なのかしらね。本当、こんなことあたしどうでもいいはずだったのに。ねえ──あたしやっぱりコーリアス様のことが好きだったのかしら」
けど、その、言葉に。
「もう──黙れ」
メアリは、反応していた。同じじゃない。同じであってたまるか。こんなものと。
その時、機導砲を放とうと構えた杖から、焔が立ち上がる。
『妾の紅蓮の劫火……その助けとなる様に……』
聞こえた気がした。ここに居ない、味方の声。祈りが。
『之以上、傷付かぬ様に……涙流さずとも進める様に……』
この焔は、敵を討つ為の力。だけどメアリ自身には、温かく包み込むような炎だった。微かに震えていた手が握り直される。しっかりと構えなおされた杖から、出力を超えた威力が、真っ直ぐに放たれる。歪虚の身体が、大きくのけぞった。
「貴様に安らぎなど与えん! この地で朽ち果てるがいい、歪虚!!」
紫炎が強く踏み込む。渾身の一撃を大きく振りかぶる。
「お休みの時間だ、ネネ君」
崩れ落ちる歪虚の身体に、Holmesが酷薄に告げた。
「お気に入りのテディベアも、温かな寝床もなしだ。鉈を抱えて独りで眠れ」
その言葉に、その身体を崩れさせながら歪虚は唇をゆがめた。
「だから……こんなものを眠りに例えるのって……わけわかんないっての……」
倒れた歪虚の身体は、やがて塵と融けて完全に無となる。
廃病院に遺されるのは、人の遺体、それのみだ。散々その死を弄んだ歪虚の死は、醜く残されることは無い。
それが何とも、理不尽だった。
依頼結果
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MVP一覧
- 聖盾の騎士
紫炎(ka5268)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/21 01:43:46 |
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13日の金曜日へようこそ 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/10/21 02:00:30 |