ゲスト
(ka0000)
【初心】沼の巨人を撃て
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/28 22:00
- 完成日
- 2017/11/04 01:35
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ハンターオフィスにて
職員が依頼の内容を説明する。
今回は、沼に現れた巨人を退治してほしいとこのとだ。
なんでもその沼は底なし沼で、うっかり踏み入れた動物や自殺者、投げ入れられた物などがそこには溜まっているらしい。結果、負のマテリアルが蓄積し、沼の巨人が出現したのだという。
その巨人は現在、沼に近づく者へ、沼に溜まったゴミや死骸を投げつけることで、かたっぱしから迎撃しているそうだ。まだ死人はでていないが、放置していられない−−−−そこで、依頼が舞い込んだという経緯だ。ちなみに、浄化術の手配は済んでいる。
「今回の依頼はハンター養成のためにソサエティから特別支援がうけられるものになっております。つきましては、ベテランハンターがひとり同行いたします」
と、職員はそこで言葉を区切って、隣にいた目つきの悪い中年女性へ目配せした。
「私はマリア・シュタインといいます。攻撃より守備が専門。今回はよろしくたのみます−−−−じゃ、戦闘面の相談に移ってもいいでしょうか?」
職員は、「どうぞ」と先を促した。
マリアは悪い目つきに不似合いな丁寧な口調で続ける。
「敵は底なし沼の巨人、ということで接近戦は推奨されません。うっかり沼に足を踏み入れれば、沼底と友達になるだけでしょう。よって、射撃や魔法による攻撃が推奨される−−−−まあ、具体的な作戦は諸君に一任しますね。先ほども言いましたが、私は守備が専門です。飛来物の肩代わりならまかせて……といってもこの人数は1人では守りきれませんので、ぜひ諸君の活躍を見せてくださいね」
職員が依頼の内容を説明する。
今回は、沼に現れた巨人を退治してほしいとこのとだ。
なんでもその沼は底なし沼で、うっかり踏み入れた動物や自殺者、投げ入れられた物などがそこには溜まっているらしい。結果、負のマテリアルが蓄積し、沼の巨人が出現したのだという。
その巨人は現在、沼に近づく者へ、沼に溜まったゴミや死骸を投げつけることで、かたっぱしから迎撃しているそうだ。まだ死人はでていないが、放置していられない−−−−そこで、依頼が舞い込んだという経緯だ。ちなみに、浄化術の手配は済んでいる。
「今回の依頼はハンター養成のためにソサエティから特別支援がうけられるものになっております。つきましては、ベテランハンターがひとり同行いたします」
と、職員はそこで言葉を区切って、隣にいた目つきの悪い中年女性へ目配せした。
「私はマリア・シュタインといいます。攻撃より守備が専門。今回はよろしくたのみます−−−−じゃ、戦闘面の相談に移ってもいいでしょうか?」
職員は、「どうぞ」と先を促した。
マリアは悪い目つきに不似合いな丁寧な口調で続ける。
「敵は底なし沼の巨人、ということで接近戦は推奨されません。うっかり沼に足を踏み入れれば、沼底と友達になるだけでしょう。よって、射撃や魔法による攻撃が推奨される−−−−まあ、具体的な作戦は諸君に一任しますね。先ほども言いましたが、私は守備が専門です。飛来物の肩代わりならまかせて……といってもこの人数は1人では守りきれませんので、ぜひ諸君の活躍を見せてくださいね」
リプレイ本文
その日は曇っていた。灰色の雲が重く垂れ込め、生ぬるい風が気だるそうに吹いている。
草原も、まるで化石になってしまったかのように灰色で、瑞々しい生命の迸りを微塵も感じさせない。
ただ、沼からする嫌な匂いだけが、動的なものを感じさせていた。
その沼に向かって走る影が4つ、あった。
「ウォーターウォークは全員にかけたから、沼に入ってもそう簡単には沈まないよ。でも、これの効果が切れるまで殴り合うとなると、多分ジリ貧だから、気をつけて」
ユーリヤ(ka5142)が髪をなびかせて走って行く。
「沼の中っていうのは厄介だけど、頑張るよ」
並んでイリエスカ(ka6885)も駆ける。
「俺はチャージがしたいんだ~~! ……ソウルトーチで岸辺近くまで引き付けられたら、チャージ可能なんじゃね?」
そう叫んでいるのはセイ(ka6982)である。彼はチャージがしたかった。しかし、底なし沼という戦地では、接近戦は難しい。
ハンターたちの接近に気がついたのであろう。波一つ立てなかった沼の中心が隆起した。そして、天高くせり上がったかと思うと、そのまま人の形をつくっていく。
かくして、底なし沼に住まう巨人は姿を現した。
暗い灰色の空よりもさらに濁った灰色のどろどろとした体躯をそびやかして巨人は、ハンターたちを睥睨する。
「見た目どおりタフそう……単純にタフなのは地道に削るしかないのが辛い……」
ユーリヤが苦々しそうに言う。
「ところでコイツって歪虚か? それともおかしくなった精霊か? ……俺はデストリアでチャージできればなんでもいいけどな」
セイが素朴な疑問を口にした。
それに、最後尾を走っていた同行者のマリア・シュタインがこたえる。
「歪虚で間違いありません。もっともこの沼が信仰され正のマテリアルが蓄積すればいつかは精霊が生まれるかもしれませんね」
彼女はやはり、悪い目つきで、それと裏腹に丁寧な口調だった。
「B班の方々は大丈夫でしょうか?」
ハンターたちは今回、2班で別れる作戦をとることにした。
「私はA班」
キーラ・ハスピーナ(ka6427)が説明する。
A班の他の人員は坂上 瑞希(ka6540)とマリナ アルフェウス(ka6934)だ。
「マリアさんにはB班に回ってもらうよ。ヒーラーはどっちの班にもいたほうがいいよね」
キーラの言うように、ヒーラーを分けて配置することで、体力の保持、異常状態の回復を迅速かつ的確に行うためだ。
また、A班は射撃を主とする後衛。B班は巨人に接近し注意を引きつける役割を担っている。
ところかわって、後衛のA班である。
巨人の出現を確認し、すでに射撃ポイントを定め終わっていた。
瑞希は凛とした雰囲気をまとい、銀灰色の右目で巨人を見つめていた。
「まぁ、まだ人死には出ていないみたいだけれど、これも世のため人のため。恨むなら負のマテリアルから生まれた自分を恨むことね」
「……敵情報を確認。Type-Sにて出撃。戦闘試験を行う」
マリナは完全なる射撃態勢で、淡々とした口調で告げる。
「B班の方も、準備オーケーみたいだね」
キーラが前方をひた走る味方を確認する。
「今生きてる人たちが迷惑してるんだから、頑張るよ!」
この沼は、少しは名の知れた底なし沼で、うっかり迷い込んでしまった動物や、人間の捨てたゴミ、あるいは自殺者やいわれの確かでない死体などが底にたっぷりしずんでいた。
巨人はその性質上、沼から出て来ることはない。であるから、攻撃方法は必然的に、そのゴミを掬って投げつけることになる。
また一つ大きな衣装タンスが飛んで来た。
「なんでこんなもの捨ててあるの!?」
ユーリヤは横に飛びつつ飛来物を避ける。タンスは地面へと突き刺さり、平地を彩る前衛的なオブジェとなった。
続いて、どう考えても動物の死骸らしい、それでいてなんの動物かわからない死骸、ただ死骸だとわかるものが、イリエスカに向かって放られる。
だがしかし、横合いから登場したマリアの盾で弾かれて、足元の沼に再びゆっくり沈んでいった。
「うわ、ひどい臭い!」
イリエスカが顔をしかめる。
「これまた、なんの死骸かわからないというのが不気味ですね……」
マリアも袖で鼻を覆っていた。
「こんな攻撃方法なら、腕を使えなくすれば攻めやすくなるかな?」
狙いすましてイリエスカは巨人の腕に向かって引き金を引く。
「おーい、こっちに来いよ! 俺にチャージさせろ〜!」
セイは沼のほとりでソウルトーチを発動させる。巨人の注意を引きつけるためだ。
巨人は目論見通り、セイに向かって、アンダースローのように泥をすくって浴びせかけた。
「うおお!? 前が見えねえ!?」
泥によって視界が塞がれたのだ。マリアのヒールが異常状態を回復させようとするが、泥だけは拭えなかった。
そこへ、大きな岩が飛んで来る。
セイはそれを正面から受け止めた。そして、にやりと笑う。
「そう、それでいいんだよ。こっちへ来い。そして、俺にチャージさせてくれ〜!」
セイは、巨人に向かって銃を乱射する。
「あー、チャージしてぇ……」
とつぶやきながら。
「戦闘準備完了。作戦行動開始」
マリナはその言葉とともに、威嚇射撃を放った。マリナの周囲にはデータの青い破片のようなものがきらきらと漂っている。
足踏みをする巨人。そこへ、マテリアルの込められた弾丸が腹を貫通して飛んでいった。
「着弾を確認」
しかし、巨人の腹はみるみる湿った音をたてて再生していく。
「さて、このデカブツはどのくらいでおちるかしらね?」
そこへ、瑞希のレイターコールドショットも撃ち込まれた。着弾点には霜が降り始める。
続いてキーラの矢が大気を引き裂いて飛んで行く。
「チャージ完了。ロックオン」
その頃には、マリナのリロードが済んでおり、重撃弾にマテリアルを乗せて発射されていた。
マリナの弾丸が巨人の肩を撃ち抜く。それでも巨人は身をかがめてゴミを引き出し、なおも投げつけんとする。
しかし、その刹那、ユーリヤのアイスボルトが命中し、氷結によってコントロールが効かなくなったのであろう、巨人はあらぬ方向へとゴミを投げるばかりだった。
ハンターたちの協力によって、巨人は凍傷により、回避、攻撃はままならず、威嚇射撃によって移動もまともにできはしない。
しかし、その有り余るタフネスでいまだ倒れる様子はなかった。
その後、幾つもの撃ち合いがあった。
撃っては避け、避けては撃ち返す。戦いは消耗戦の様相である。
沼の周りの草原には巨人の投げたゴミが突き刺さっている。
或いは家財、或いは死骸、或いは死体、或いは原型をとどめないほど劣化した何か。
それらとともに掬い上げられた泥が周囲に悪臭を放っていた。
曇天。吹きすさぶ風はもはやなく、悪臭、死臭、血臭、或いは戦意、殺意、戦闘への高揚、そういったものが、今この沼地を中心として吹きだまっていた。
しかし、そんな膠着した戦況もついに動き出す。
たったひとつの弾丸によって。
ついに、瑞希のレイターコールドショットが巨人にヒットした。巨人の行動がその冷気によって制限される。
続いて、ユーリヤのアイスボルトも巨人へ突き刺さる。
「チャンスだよ! 畳みかけよう!」
キーラの号令。ハンターたちの戦意が一気に燃え盛る。
しかし、巨人も黙っていない。沼の底から、大きなテーブルを取り出して一投、瑞希に仕返しとばかりに放るのだった。
それを瑞希はまともに受けた。蹌踉めく肢体。しかし、膝をつくにはまだ早い。
「まったく、泥臭いのはお呼びじゃないってのよ……女の子には優しくしなさいって習わなかったのかしら」
そんなセリフを言いつつ、再び照準を定める。
まだ、巨人は倒れない。しかし、確実にダメージは堆積していた。
マリナの威嚇射撃を振り切って、巨人は大きく一歩を踏み出した。湿った音なのに、その質量からか、破裂音じみた足音を響かせて歩き出す。
そこへ、すかさずセイのソウルトーチが一層きらめく。
「ヘイヘイ、こっちへ来いよ巨人野郎」
巨人は、足元のイリエスカに泥を浴びせつつもセイから視線が外せない。
巨人が動いたのをみて、マリナは即座に射撃ポイントを変更した。
なるべくなら射程ギリギリに敵を収める。そして、殺す。それがマリナの戦術だった。
再度、射撃態勢をとり、マリナは巨人へ弾丸を撃ち込む。
敵を殲滅するために。
ユーリヤも前線にいたために、いくつかの傷を体に作っていた。
「後衛には手出しさせないよ?」
ファイアーアローが巨人の視界を邪魔するように飛んでいった。
「パーティプレイの醍醐味は役割分担だよね、やっぱり」
巨人は、岸辺へそれでも歩いて行く。より確実にハンターたちを捉えようとするためであろう。しかし、ユーリヤの攻撃により、すこし蹌踉めいた。
「図体だけデカいくせにしゃしゃってんじゃないわよ!! 死に晒しなさい!!」
ここぞとばかりに、込められた重撃弾とマテリアルによる射撃は巨人に確かに命中した。
倒れそうになる巨体を持ち上げるところへ、マリナの威嚇射撃が殺到し、巨人はまたも足踏みしてしまう。
続いて放たれた、マリナの弾丸は巨人の頭を吹き飛ばした。
しかし巨人は、沼から掬い上げたゴミを放り投げようとする。
「あとちょっと、あとちょっとでチャージできる……」
巨人は徐々に岸辺に近づいている。
セイの弾丸が巨人の右肩に命中し、腕をもぎ取った。
「じゃ、ボクは左腕を貰って行くね!」
イリエスカだ。イリエスカは狙いすました一撃で宣言通り巨人の左腕を吹き飛ばした。
頭に両腕。巨人はもはや再生する気力も、歩く気力もないらしい。そこへ、
「えっと、私がとどめでいいのかな?」
キーラが戸惑いながらも矢を番える。
「えいやっ」
という掛け声とともに放たれた矢は巨人の胸に篦深く突き刺さった。
そして、ついにキーラの矢を中心としてどろどろと溶けていった。
人型を保てなくなり、再びただの水と泥に戻ったのだ。
巨大な質量を受けて沼は大きく波打った。
「わわっ!?」
「おっと、転ぶところだった!」
「わー! 二人とも大丈夫!?」
ユーリヤとイリエスカが波打つ沼の上でなんとか体勢を立て直す。
沼はそれきり静まって、動くこともなかった。
「敵の消滅を確認。作戦終了。データ採取完了」
マリナがやはり淡々とした声で告げた。
その時、一陣の風が吹き抜けたが、老婆の足並みのようにのろいもので、悪臭を払うにはたりなかった。
「あ、あ……、俺はチャージがしたかったんだ〜〜!!」
それ以上に、セイの絶叫が草原を駆け抜けたのだった。
「こんな、ところで、死ぬのは、正気を、疑う、ね」
瑞希は、覚醒中とは違い、ぼんやりとした雰囲気だ。
「自殺した人も、まさかこんな形で他人に迷惑かけちゃうなんて思ってもみなかっただろうね……。人にはいろんな事情があるだろうから、私からはそもそも自殺なんかするな、なんて言えないけど……」
キーラは、草原に打ち捨てられた、人間の死体、そして、動物の死骸を見ていった。
「せめて、安らかに」
そっと、優しいお祈りをして、キーラは目を閉じる。
生前の苦しみをせめて死後には引きずらないように、と。
「デストリア……次は思いっきりチャージしような~」
セイは、デストリアをいたわりながら次の戦いに思いを馳せていた。
デストリアも同意するようにブルリと一度震えるのだった。
セイはデストリアについた泥を払おうとするが、乾いてしまってうまくとれなかった。
「ああいう場所の泥はぜってぇ身体に悪い! 多少寒いがまだまだ水浴びできる季節だ。川で泥を落としてから帰ろうぜ? 勿論俺は視線が通らない離れた所を選ぶからさ」
「いや、さすがに寒すぎじゃない? 普通にあったかいお風呂に入りたいよ」
ユーリヤはセイのワイルドな提案をやんわり断った。
「いえーい! マリナ、依頼達成だよ! ほらほらハイタッチ!」
イリエスカはマリナへと駆けていった。
マリナは無表情ではあるが、イリエスカのハイタッチにこたえた。
「ああ、お腹減って来ちゃった。ねえマリナ、ご飯食べに行こ? この前いいお店見つけたんだ。とっても美味しいからオススメだよー」
イリエスカは笑顔でマリナに言う。
「戦闘後の補給は非常に重要である。提案を受け入れる。しかし、その前にやることがある」
マリナは、同行者であるマリアに向かってあることを問うた。
「……今後を考慮し、浄化術の使用を提案する」
「ごめんなさい。浄化術は得意分野ではないのです。あとで専門家が来るはずですから、問題はないと思いますよ。もろもろのゴミ処理なども報告がてら頼んでおきましょう」
「了解した」
「諸君、討伐依頼お疲れ様。では、オフィスに戻って報告に行きましょう」
こうして、沼の巨人退治の幕は下りたのだった。
草原も、まるで化石になってしまったかのように灰色で、瑞々しい生命の迸りを微塵も感じさせない。
ただ、沼からする嫌な匂いだけが、動的なものを感じさせていた。
その沼に向かって走る影が4つ、あった。
「ウォーターウォークは全員にかけたから、沼に入ってもそう簡単には沈まないよ。でも、これの効果が切れるまで殴り合うとなると、多分ジリ貧だから、気をつけて」
ユーリヤ(ka5142)が髪をなびかせて走って行く。
「沼の中っていうのは厄介だけど、頑張るよ」
並んでイリエスカ(ka6885)も駆ける。
「俺はチャージがしたいんだ~~! ……ソウルトーチで岸辺近くまで引き付けられたら、チャージ可能なんじゃね?」
そう叫んでいるのはセイ(ka6982)である。彼はチャージがしたかった。しかし、底なし沼という戦地では、接近戦は難しい。
ハンターたちの接近に気がついたのであろう。波一つ立てなかった沼の中心が隆起した。そして、天高くせり上がったかと思うと、そのまま人の形をつくっていく。
かくして、底なし沼に住まう巨人は姿を現した。
暗い灰色の空よりもさらに濁った灰色のどろどろとした体躯をそびやかして巨人は、ハンターたちを睥睨する。
「見た目どおりタフそう……単純にタフなのは地道に削るしかないのが辛い……」
ユーリヤが苦々しそうに言う。
「ところでコイツって歪虚か? それともおかしくなった精霊か? ……俺はデストリアでチャージできればなんでもいいけどな」
セイが素朴な疑問を口にした。
それに、最後尾を走っていた同行者のマリア・シュタインがこたえる。
「歪虚で間違いありません。もっともこの沼が信仰され正のマテリアルが蓄積すればいつかは精霊が生まれるかもしれませんね」
彼女はやはり、悪い目つきで、それと裏腹に丁寧な口調だった。
「B班の方々は大丈夫でしょうか?」
ハンターたちは今回、2班で別れる作戦をとることにした。
「私はA班」
キーラ・ハスピーナ(ka6427)が説明する。
A班の他の人員は坂上 瑞希(ka6540)とマリナ アルフェウス(ka6934)だ。
「マリアさんにはB班に回ってもらうよ。ヒーラーはどっちの班にもいたほうがいいよね」
キーラの言うように、ヒーラーを分けて配置することで、体力の保持、異常状態の回復を迅速かつ的確に行うためだ。
また、A班は射撃を主とする後衛。B班は巨人に接近し注意を引きつける役割を担っている。
ところかわって、後衛のA班である。
巨人の出現を確認し、すでに射撃ポイントを定め終わっていた。
瑞希は凛とした雰囲気をまとい、銀灰色の右目で巨人を見つめていた。
「まぁ、まだ人死には出ていないみたいだけれど、これも世のため人のため。恨むなら負のマテリアルから生まれた自分を恨むことね」
「……敵情報を確認。Type-Sにて出撃。戦闘試験を行う」
マリナは完全なる射撃態勢で、淡々とした口調で告げる。
「B班の方も、準備オーケーみたいだね」
キーラが前方をひた走る味方を確認する。
「今生きてる人たちが迷惑してるんだから、頑張るよ!」
この沼は、少しは名の知れた底なし沼で、うっかり迷い込んでしまった動物や、人間の捨てたゴミ、あるいは自殺者やいわれの確かでない死体などが底にたっぷりしずんでいた。
巨人はその性質上、沼から出て来ることはない。であるから、攻撃方法は必然的に、そのゴミを掬って投げつけることになる。
また一つ大きな衣装タンスが飛んで来た。
「なんでこんなもの捨ててあるの!?」
ユーリヤは横に飛びつつ飛来物を避ける。タンスは地面へと突き刺さり、平地を彩る前衛的なオブジェとなった。
続いて、どう考えても動物の死骸らしい、それでいてなんの動物かわからない死骸、ただ死骸だとわかるものが、イリエスカに向かって放られる。
だがしかし、横合いから登場したマリアの盾で弾かれて、足元の沼に再びゆっくり沈んでいった。
「うわ、ひどい臭い!」
イリエスカが顔をしかめる。
「これまた、なんの死骸かわからないというのが不気味ですね……」
マリアも袖で鼻を覆っていた。
「こんな攻撃方法なら、腕を使えなくすれば攻めやすくなるかな?」
狙いすましてイリエスカは巨人の腕に向かって引き金を引く。
「おーい、こっちに来いよ! 俺にチャージさせろ〜!」
セイは沼のほとりでソウルトーチを発動させる。巨人の注意を引きつけるためだ。
巨人は目論見通り、セイに向かって、アンダースローのように泥をすくって浴びせかけた。
「うおお!? 前が見えねえ!?」
泥によって視界が塞がれたのだ。マリアのヒールが異常状態を回復させようとするが、泥だけは拭えなかった。
そこへ、大きな岩が飛んで来る。
セイはそれを正面から受け止めた。そして、にやりと笑う。
「そう、それでいいんだよ。こっちへ来い。そして、俺にチャージさせてくれ〜!」
セイは、巨人に向かって銃を乱射する。
「あー、チャージしてぇ……」
とつぶやきながら。
「戦闘準備完了。作戦行動開始」
マリナはその言葉とともに、威嚇射撃を放った。マリナの周囲にはデータの青い破片のようなものがきらきらと漂っている。
足踏みをする巨人。そこへ、マテリアルの込められた弾丸が腹を貫通して飛んでいった。
「着弾を確認」
しかし、巨人の腹はみるみる湿った音をたてて再生していく。
「さて、このデカブツはどのくらいでおちるかしらね?」
そこへ、瑞希のレイターコールドショットも撃ち込まれた。着弾点には霜が降り始める。
続いてキーラの矢が大気を引き裂いて飛んで行く。
「チャージ完了。ロックオン」
その頃には、マリナのリロードが済んでおり、重撃弾にマテリアルを乗せて発射されていた。
マリナの弾丸が巨人の肩を撃ち抜く。それでも巨人は身をかがめてゴミを引き出し、なおも投げつけんとする。
しかし、その刹那、ユーリヤのアイスボルトが命中し、氷結によってコントロールが効かなくなったのであろう、巨人はあらぬ方向へとゴミを投げるばかりだった。
ハンターたちの協力によって、巨人は凍傷により、回避、攻撃はままならず、威嚇射撃によって移動もまともにできはしない。
しかし、その有り余るタフネスでいまだ倒れる様子はなかった。
その後、幾つもの撃ち合いがあった。
撃っては避け、避けては撃ち返す。戦いは消耗戦の様相である。
沼の周りの草原には巨人の投げたゴミが突き刺さっている。
或いは家財、或いは死骸、或いは死体、或いは原型をとどめないほど劣化した何か。
それらとともに掬い上げられた泥が周囲に悪臭を放っていた。
曇天。吹きすさぶ風はもはやなく、悪臭、死臭、血臭、或いは戦意、殺意、戦闘への高揚、そういったものが、今この沼地を中心として吹きだまっていた。
しかし、そんな膠着した戦況もついに動き出す。
たったひとつの弾丸によって。
ついに、瑞希のレイターコールドショットが巨人にヒットした。巨人の行動がその冷気によって制限される。
続いて、ユーリヤのアイスボルトも巨人へ突き刺さる。
「チャンスだよ! 畳みかけよう!」
キーラの号令。ハンターたちの戦意が一気に燃え盛る。
しかし、巨人も黙っていない。沼の底から、大きなテーブルを取り出して一投、瑞希に仕返しとばかりに放るのだった。
それを瑞希はまともに受けた。蹌踉めく肢体。しかし、膝をつくにはまだ早い。
「まったく、泥臭いのはお呼びじゃないってのよ……女の子には優しくしなさいって習わなかったのかしら」
そんなセリフを言いつつ、再び照準を定める。
まだ、巨人は倒れない。しかし、確実にダメージは堆積していた。
マリナの威嚇射撃を振り切って、巨人は大きく一歩を踏み出した。湿った音なのに、その質量からか、破裂音じみた足音を響かせて歩き出す。
そこへ、すかさずセイのソウルトーチが一層きらめく。
「ヘイヘイ、こっちへ来いよ巨人野郎」
巨人は、足元のイリエスカに泥を浴びせつつもセイから視線が外せない。
巨人が動いたのをみて、マリナは即座に射撃ポイントを変更した。
なるべくなら射程ギリギリに敵を収める。そして、殺す。それがマリナの戦術だった。
再度、射撃態勢をとり、マリナは巨人へ弾丸を撃ち込む。
敵を殲滅するために。
ユーリヤも前線にいたために、いくつかの傷を体に作っていた。
「後衛には手出しさせないよ?」
ファイアーアローが巨人の視界を邪魔するように飛んでいった。
「パーティプレイの醍醐味は役割分担だよね、やっぱり」
巨人は、岸辺へそれでも歩いて行く。より確実にハンターたちを捉えようとするためであろう。しかし、ユーリヤの攻撃により、すこし蹌踉めいた。
「図体だけデカいくせにしゃしゃってんじゃないわよ!! 死に晒しなさい!!」
ここぞとばかりに、込められた重撃弾とマテリアルによる射撃は巨人に確かに命中した。
倒れそうになる巨体を持ち上げるところへ、マリナの威嚇射撃が殺到し、巨人はまたも足踏みしてしまう。
続いて放たれた、マリナの弾丸は巨人の頭を吹き飛ばした。
しかし巨人は、沼から掬い上げたゴミを放り投げようとする。
「あとちょっと、あとちょっとでチャージできる……」
巨人は徐々に岸辺に近づいている。
セイの弾丸が巨人の右肩に命中し、腕をもぎ取った。
「じゃ、ボクは左腕を貰って行くね!」
イリエスカだ。イリエスカは狙いすました一撃で宣言通り巨人の左腕を吹き飛ばした。
頭に両腕。巨人はもはや再生する気力も、歩く気力もないらしい。そこへ、
「えっと、私がとどめでいいのかな?」
キーラが戸惑いながらも矢を番える。
「えいやっ」
という掛け声とともに放たれた矢は巨人の胸に篦深く突き刺さった。
そして、ついにキーラの矢を中心としてどろどろと溶けていった。
人型を保てなくなり、再びただの水と泥に戻ったのだ。
巨大な質量を受けて沼は大きく波打った。
「わわっ!?」
「おっと、転ぶところだった!」
「わー! 二人とも大丈夫!?」
ユーリヤとイリエスカが波打つ沼の上でなんとか体勢を立て直す。
沼はそれきり静まって、動くこともなかった。
「敵の消滅を確認。作戦終了。データ採取完了」
マリナがやはり淡々とした声で告げた。
その時、一陣の風が吹き抜けたが、老婆の足並みのようにのろいもので、悪臭を払うにはたりなかった。
「あ、あ……、俺はチャージがしたかったんだ〜〜!!」
それ以上に、セイの絶叫が草原を駆け抜けたのだった。
「こんな、ところで、死ぬのは、正気を、疑う、ね」
瑞希は、覚醒中とは違い、ぼんやりとした雰囲気だ。
「自殺した人も、まさかこんな形で他人に迷惑かけちゃうなんて思ってもみなかっただろうね……。人にはいろんな事情があるだろうから、私からはそもそも自殺なんかするな、なんて言えないけど……」
キーラは、草原に打ち捨てられた、人間の死体、そして、動物の死骸を見ていった。
「せめて、安らかに」
そっと、優しいお祈りをして、キーラは目を閉じる。
生前の苦しみをせめて死後には引きずらないように、と。
「デストリア……次は思いっきりチャージしような~」
セイは、デストリアをいたわりながら次の戦いに思いを馳せていた。
デストリアも同意するようにブルリと一度震えるのだった。
セイはデストリアについた泥を払おうとするが、乾いてしまってうまくとれなかった。
「ああいう場所の泥はぜってぇ身体に悪い! 多少寒いがまだまだ水浴びできる季節だ。川で泥を落としてから帰ろうぜ? 勿論俺は視線が通らない離れた所を選ぶからさ」
「いや、さすがに寒すぎじゃない? 普通にあったかいお風呂に入りたいよ」
ユーリヤはセイのワイルドな提案をやんわり断った。
「いえーい! マリナ、依頼達成だよ! ほらほらハイタッチ!」
イリエスカはマリナへと駆けていった。
マリナは無表情ではあるが、イリエスカのハイタッチにこたえた。
「ああ、お腹減って来ちゃった。ねえマリナ、ご飯食べに行こ? この前いいお店見つけたんだ。とっても美味しいからオススメだよー」
イリエスカは笑顔でマリナに言う。
「戦闘後の補給は非常に重要である。提案を受け入れる。しかし、その前にやることがある」
マリナは、同行者であるマリアに向かってあることを問うた。
「……今後を考慮し、浄化術の使用を提案する」
「ごめんなさい。浄化術は得意分野ではないのです。あとで専門家が来るはずですから、問題はないと思いますよ。もろもろのゴミ処理なども報告がてら頼んでおきましょう」
「了解した」
「諸君、討伐依頼お疲れ様。では、オフィスに戻って報告に行きましょう」
こうして、沼の巨人退治の幕は下りたのだった。
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/28 02:30:06 |
|
![]() |
相談卓 キーラ・ハスピーナ(ka6427) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/10/28 06:53:19 |