• 郷祭1017

【郷祭】マグノリアクッキー祭の支度

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/11/03 07:30
完成日
2017/11/08 23:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 白磁のトレイの上には紅葉のクッキーと銀杏のクッキー、それぞれ皮ごと煮詰めた鮮やかな赤い林檎と、黄色い梨のジャムを飾って色を差す。
 編み込むような模様で縁取った秋めく葉を思わせるクッキーをテーブルへ運び、支店長は店員達を見回した。
「どうかしら?」

 ヴァリオスで人気のマグノリアクッキー、そのジェオルジの支店を任されている。
 近付いて来た郷祭、村長祭とも呼ばれ、地域の各地から集まってきた代表の会議に合わせ彼方此方で催しが開かれる。
 春と秋。
 マグノリアクッキーが参加するのは、今年の春から続けて2回目。
 支店と移動販売の馬車と、少しずつジェオルジでの客が掴めてきたところ。
 今回も確りと宣伝と収益の効果を上げたいところだ。

「悪くないよ。鮮やかで店の白に映えるし」
「美味しいわね、支店長、これ店で出さないんですか?」
「紅葉は可愛いですけど、銀杏はちょっとのっぺりしてません?」
「ジャムが垂れそうだ。減らすか、……もう少し煮詰めてみたら」
「クッキーの食感、縁だけちょっと違いますよね。何か変えました? こっちの方が良いかもですねー」
 試食した店員達の言葉を言葉を書き留めて、彼女自身も、改めてもう1つずつ摘まんでみる。
 確かにジャムが垂れそうだし、葉の面積が広い銀杏は紅葉に比べてどことなく寂しい。
 ともあれ、全体的に悪い評価では無さそうだ。
「何度もありがとう。また試食に付き合ってくれる?」
「いいですよー、支店長のクッキーは……まあ、大抵美味しいですし……」
「夏のゴーヤジャムは失敗だったけどね。それより、支店長」

「なにかしら?」

「このクッキーだけなんですか?」


『郷祭販売商品のアイデア募集、試食有ります』

 店員の言葉に、雷に打たれたように震えた支店長は店のキッチンに籠もること数時間。
 結局クッキーしか思い付かなかったと、砂糖とバターの香りに塗れてふらふらになりながら戻ってきた。
 店員達も、クッキーか、ケーキかと店と似たラインナップを上げるばかり。
 それぞれに顔を見合わせて、これは困ったと頷いた。

 オフィス通じてマグノリアクッキージェオルジ支店を尋ねたハンター達は、貸し切りのプレートを下げたドアから店内の小さな喫茶スペースへ招かれた。
 先ずはどうぞと、紅葉と銀杏のクッキーが出される。
 試食の物より確りと煮詰めたジャムは土台のクッキーによく馴染み、銀杏には広い範囲を満たすジャムを飽きさせないように砕いたナッツが散りばめられている。

 そのちょっとしたティータイムの後に、支店長は穏やかに切り出した。
 郷祭で今食べて貰ったクッキーと一緒に並べる商品を考えている。
 他の種類のクッキーやパウンドケーキでも良いけれど、それではいつもの店と同じになってしまうから、新しいお客様も、いつものお客様も楽しめる特別な物を作りたい。

「だから皆さんのアイデアを聞かせて貰いたいの。何でも良いわ。でも、食べ物、おいしい物限定で……出来ればクッキーと一緒に食べて貰える物」

 完成したら、この場で試食会。
 支店長はハンター達を見回してにっこりと微笑んだ。

リプレイ本文


 依頼を聞き、先に店へ向かった星野 ハナ(ka5852)は事前にキッチンを借りて自作の菓子を準備する。
 作りたい物は、スイートポテトとプリン、何れも季節の食材を生かした物だ。
 蒸した甘藷に砂糖とクリームを加えて漉す。丸く固めて焼けば出来上がりだが、一つは更にジャムを塗って、もう1つはきつね色に焼けた薄皮を剥いでカップケーキの型に詰めてみる。匙を添えれば持ち歩きにも良さそう。
 牛乳を混ぜた卵液をカップに注ぎ、一つはオーブンへ、もう1つは中を刳り抜いた南瓜に注いで蒸し、飾り付けのクッキーを選ぶ。

 星野がキッチンに籠もっている間に、クッキーの試食を終え、依頼の説明を受けたハンター達はテーブルでそれそれに顔を見合わせて首を捻る。
 クッキーだけでも十分だと思うけどな、と、鞍馬 真(ka5819)は籠に盛られた格子柄を1つ摘まみ、さくりと齧りながらメモ帳とペンを取り出した。
「2人とも、何か思い付く物は有るかな?」
 まだ湯気を立てるコーヒーを1口、星空の幻(ka6980)は少し間を置いて、案としてはと手を上げた。
「クレープですかね」
 鉄板があれば調理出来るだろうかと、鞍馬は書き留めながら首を傾げた。
 聞いていた店員も、鉄板の準備は可能だと頷き、グラムに視線を戻して続きを促す。
「クッキーとかトッピングしたら美味しくなれそうなの……旬の生のフルーツでも、ドライフルーツを使ったクッキーでも」
「美味しそうだね。クレープなら、甘いものが苦手という人のために、おかず系のクレープを用意できるかも」
 同調し、クッキーを摘まむ。さくりとしたそれはクリームと合わせて柔らかなクレープの生地に包んでも美味しいだろう。
 生の果物を使った物は、普段店には置かない新しさもあるのでは無いだろうか。
 ペンを止め、鞍馬はフィリテ・ノート(ka0810)へも尋ねる。
「そう、ね……パンってどうかしら?」
 スパイスやドライフルーツでデコレーションしても良いし、クッキーとの食感の違いも楽しめる。
 その場でトースト出来るのなら柔らかくて芳ばしい香りを広げてくれるだろう。
 フィリテが店員を見ると難しそうな顔で首を横に、作れないことも無いが少し厳しい。
 面白そうな案だから、支店長が気に入ったなら、協力してくれるパン屋を探すだろうと肩を竦める。
 それも良いわねと、支店長が笑って近くのパン屋を数軒挙げる。折角だから隣同士に出店しましょうか、と。

 支店長がその作業に出てしまったため、パンの話しは止まり、他の案はと再びクッキーを摘まみ、カップを傾けながら。
「クッキーの種類を増やすのはどうかしら?」
 フィリテがカップを眺めながら。細かくした紅茶の葉やコーヒー豆を混ぜ込んで、甘さを抑える代わりに香りを強く付けた物。
 種類を増やすなら、デコレーションも増やせるかも知れないと、鞍馬がクッキーを眺めながら。
「クリームを挟んで、クッキーサンドを作るとか」
 それらは何れも可能だという。種類は店で扱っている物に近い物があるから、人気を見ながら吟味したり、新しくしたり、前回よりも持っていく種類を増やしてみよう。
 クッキーサンドは、その場で作って出せたら良いだろう、クレープやパンにもクリームは使うだろうから、少し多めに用意しておこう。
 それから、と、鞍馬は売場の方へ視線を向けた。
 店で使っているドライフルーツをそのまま販売することは出来ないだろうか。
「普段から取り扱っているだろうから、調達の心配も無いし、クッキーと食べて美味しいだろうから」
 そのままという発想はなかったと、店員が1人キッチンへ、粒のままの苺と杏子、ごろごろとしたその隙間にレーズンとラズベリー。
 白い紙を敷いた小皿に盛って戻ると、こんな感じかしらとその場でリボンを掛けて綴じる。
 リボンを解けば広がる甘酸っぱい色合いに、覗き込んだグラムが赤い瞳を輝かせた。

「マジパンっていうお菓子みたいな、家や果物を模した一口サイズのクッキーも面白いと思うわ。どんなイベントにも対応出来そうだし」
 有りますよ、と店員があっさりと差し出したのは赤い帽子の老人、次の季節に向けた試作品だという。
 味と見た目の両立が難しいが、持っていって飾るのは良い案だと思う。
 今まで考えなかったから、やっぱり聞いて見る物ですねとしみじみと話している。
 祭で飾るなら、この店の形やジャムに使っている果物の形を作るのが良いですねと、その人形をなでながら。
 人形の話しに、グリムや鞍馬も加わって、何を飾ろうかと賑やかになる頃、支店長が帰ってきて、星野もキッチンからトレイを抱えて出てきた。
 鞍馬が支店長にメモを見せると、クレープね、と呟いてすぐに笑顔で任せてと言う。


 支店長がキッチンへ、出来たての方が美味しいでしょうと、スイートポテトとプリンの試食を先に始めることになった。
 煎れ直された紅茶とコーヒーがそれぞれ差し出され、皿に乗せたスイートポテトが配られる。
「ジャム塗スイートポテトはちょっとお店と被っちゃうかなぁと思いましたけどぉ、時期物は取入れたいじゃないですかぁ」
 クッキーと同じ林檎のジャムを使っているという。
 照りを付ける程度に塗られたそれはスイートポテトの色を変えるほどでは無いが、含めば仄かに林檎の香りを感じる。
「食べ歩きを考えるならぁ、コーンカップにスイートポテト盛ってクッキー差すのが持ち歩きしやすくて食感もいろいろ楽しめて1番おすすめですぅ」
 続けてカップに入れたもの。
 盛りつけで印象が変わる物だと、同じクッキーを皿に乗せて。見比べる。
 南瓜のプリンから一掬い、当日のメニューに加えるには、南瓜の数が足りないが、南瓜の味を移して柔らかく蕩ける様な食感に頬が緩む。
「プリンも外気が低ければ結構保ちますよぅ?」
 焼きプリンを眺めた店員にそう声を掛けて、星野も漸く椅子に座った。

 そうしている内に、お待たせ、と隣のテーブルにクレープの生地が運ばれる。手伝いに行った店員がフルーツを並べたバットやクリームを泡立てたボウルを抱えてくる。
 折角だからその場でクリームを塗り、砕いたクッキーを散らす。そこにそれぞれの好みを聞きながらフルーツを足して、円錐形に巻いたクレープの頭には、籠から摘まんだ渦巻きのアイスボックスクッキーを2つほど。
 当日は包み紙とスタンドが必要ね。そう笑いながら柔らかなクレープを手渡していく。
「おかず系はごめんなさい、使えそうなものが今は卵しかなくて……」
 薄切りの半熟ゆで卵に軽く塩を振って。提案したからと言って受け取った鞍馬が食べてみるが、想像よりもずっとあっさりとしている。
 生地の甘さの所為もあり、不味くは無いが美味しいとも言い難いその味に首を捻って言葉を探す。
「今度はトマトやベーコンを用意してみるわ。……それから、トッピングよね」
 鞍馬の反応を想像通りだと微笑んで。
 視線を向けられたフィリテはこくんと頷いて支店長の手許を見詰めた。
「模様に、合わせて、果物をトッピングしても良いと思うわ」
 ココアを混ぜた茶色の生地と、プレーンの白い生地。細く伸ばして重ねて作る格子柄や伸ばして巻いて作る渦巻き柄。生地を冷やしてから切ると、断面にはそれぞれの模様が現れる。
 クリームで支え、黒い部分にラズベリーを飾って、渦巻きに沿ってチョコスプレーを散らして、その場で飾られると、クッキーの印象ががらりと変わる。

「真お姉ちゃん、こっち美味しいですよ」
 グラムがクッキーと刻んだ林檎を巻いてプレッツェルを飾ったクレープを差し出した。
 グラムの手にも、半分ほど食べた同じ物が握られている。
 お姉ちゃん、と、呼ばれた鞍馬は暫く戸惑ってから、私のことかなと首を傾げた。
 受け取ったクレープは甘く、かりっと焼かれたプレッツェルと林檎の爽やかな甘酸っぱさがアクセントに。クッキーは確かにさっきまで摘まんでいた物と同じだが、クリームに紛れたそれは少ししっとりと食感を変える。
「美味しいですね」
 唇に跳ねそうなクリームを舐めとって、素直な感想を告げながら頬が綻ぶ。
 クリームを乗せ、スプレーとフルーツを散らしたクッキーをそれぞれに、少し硬めのクッキーに蕩けるクリームがよく合って、好みのフルーツを選んで飾る。
 フェリテは赤くて可愛らしい苺を乗せて。
 鞍馬は少し悩んでベリーを数種類散らし。
 グラムはそれを眺めながら、交互に隙無く盛って、出来映えに頷く。
 星野は杏子を載せて、少し迷って、スイートポテトも乗せてみる。
 満載になったクッキーを食べ、カップが空く頃、フィリテがそれを眺めて店員に尋ねた。
「口直しに飲み物は難しいかしら?」
「クッキーには、コーヒーを頂きたいですね。ほっこりすると思うの……」
 グラムもコーヒーを飲みながら勧める。
 支店長も寛ぎながら、いつか実現したいと試食の様子を眺める。
 お祭りの会場でこんな風に楽しむことが出来たら良い。

 店員が選んで来たクッキーが数枚フィリテの前に置かれる。
 コーヒーは置いていないけれど、紅茶の茶葉を使ったものや、砂糖を控えて甘さを抑えた物、生地に野菜を練り込んだもの。
 茶葉の細かな粒や、野菜の色に染まっている。
 近い物を選んでみたから食べてみて。当日はもう少し変えて、コーヒーのクッキーも作ってみるけれど。
 さく、と紅茶のクッキーを齧る。
「美味しいです、色んなクッキーが有ると、賑やかで楽しいと思うわ」
 テーブルを並べて、片方はクッキーを色々と。それからドライフルーツの包みも置いて。
 もう片方にはクレープ用の鉄板と、クッキーとパンにトッピングするクリームやスパイスを並べて。
 トッピングはその場で選んで貰うのも楽しいだろう。
 課題はおかず系クレープと、ドリンクだろうか。実現は次に回すことになるかも知れないけれど。
 そんな風に書き留めながら支店長もクリームで飾ったクッキーを齧る。
 大勢で食べるのは久しぶりだと懐かしそうに目を細めた。

 試食の片付けを終えて解散しようかという頃に、窓ががたがたと鳴る。その音に肩を竦め鞍馬がキッチンへ目を向けた。
「こんな天気だと、焼き芋とか欲しくなりそうだな」
 流石に焚き火やオーブンを盛っていくのは難しいだろうが、窓辺に寄ったグラムも風に枝を揺らす木を眺めて頷いた。
 焼き芋では無いけれど。
 と、支店長は沢山用意されたスイートポテトに手を伸ばす。
 これを温めておくくらいなら、鉄板の隅でも出来るかも知れないと。
 今回は準備が忙しくなりそうだ。店員達が困ったように笑いながら。
 けれど、当日の目処が立ったことに安堵して。


 今日はありがとう、そう言って見送られたハンター達が店を出る中、グラムと鞍馬が店内に残る。
 今月のクッキーと、先程まで摘まんでいたアイスボックスクッキーを袋に詰めた小さなセットが置かれている。
 今月のクッキーは杏子と無花果を使っているらしい。
「お土産に1つ貰っていこうか」
「もう少し欲しいですね……また買いに来るかも」
 会計を済ませ、それぞれ小さな袋を抱えて店を出る。
 髪を風に遊ばれながら、秋の空の下を歩いて行った。

 後日、店の窓には今日の試食から再度試行錯誤を重ね、決定したメニューに合わせて広告が貼られていた。
 丸い文字で綴られて、背景には様々な果物のイラストが添えられている。
 その中には2つに割って湯気を立てる甘藷も紛れていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 白銀の審判人
    星空の幻(ka6980
    オートマトン|11才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦会議
星空の幻(ka6980
オートマトン|11才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/11/02 23:12:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/02 23:09:08