ゲスト
(ka0000)
【HW】Bar木蓮のひっくり返った夢の夜
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/31 22:00
- 完成日
- 2017/11/08 01:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
open 18:00pm
close 1:00am
l.o. 0:30am
●
ビジネス街の駅、改札を出て数メートルの所にそのホテルのエントランス。
最上階で展望エレベーターを降り、ホールを出て左。夜景を眺める宿泊客を横目に柔らかな絨毯を敷いた廊下を突き当たりまで。
bar木蓮の穏やかな間接照明の光が今宵も灯されている。
バーカウンターの中には酒瓶が並び、カウンターには隙間を詰めた椅子が並ぶ。小さなテーブルセットも置かれているが、寛げる席の殆どは夜景を望む窓へ向く。
全面を硝子張りにした窓側のカウンター席からは高層階からの華やかな夜景を望む。
連なる車のライトと、林立するビル、昏い湾を渡す華やかな橋、数えるほどの物寂しい本物の星を扇ぎ聳えるタワー。
古いジャズを聞きながら、地上の星空を眺めて、ミックスナッツを摘まみながら旨い酒を楽しむ。
ここにはそんな客が多い。
華やかな夜の界隈に、長く続く店が有る。
Bar木蓮は、半世紀の長きにわたって街を眺めてきた。
その街を見下ろすこのホテルに出された支店には、本店の店長の孫息子、木蓮ソウビが勤めている。
カウンターの中で椅子に掛けて、客を待ちながら静かに氷を研いでいた。
意気揚々と始めたこの店も、最初は客層に怯むばかり、シェイカーをひっくり返したことも数知れず。
けれど、一年、二年、と、越えていく内に、彼にもそれなりの貫禄が備わり、若い頃の失敗を、当時からの常連と肴の代わりに語らうようにさえ。
●
昨日の客は、外つ国での商談を終えてきた顔馴染みの客。出発した時と同じウィスキーで祝杯に付き合い。
新婚らしい2人には、可憐な色と甘い香りのカクテルに祝いのメッセージを添えて。
ふらりと訪れた身なりの良い老紳士に、最近置き始めた焼酎、運良く入荷していた彼の故郷の地酒。
祖父が退いたからと言って流れてきたロングドレスの夫人のお喋りを聞き流し、彼女の去った席に残されたルージュに溜息を零し。
さて、今宵のお客様は。
open 18:00pm
close 1:00am
l.o. 0:30am
●
ビジネス街の駅、改札を出て数メートルの所にそのホテルのエントランス。
最上階で展望エレベーターを降り、ホールを出て左。夜景を眺める宿泊客を横目に柔らかな絨毯を敷いた廊下を突き当たりまで。
bar木蓮の穏やかな間接照明の光が今宵も灯されている。
バーカウンターの中には酒瓶が並び、カウンターには隙間を詰めた椅子が並ぶ。小さなテーブルセットも置かれているが、寛げる席の殆どは夜景を望む窓へ向く。
全面を硝子張りにした窓側のカウンター席からは高層階からの華やかな夜景を望む。
連なる車のライトと、林立するビル、昏い湾を渡す華やかな橋、数えるほどの物寂しい本物の星を扇ぎ聳えるタワー。
古いジャズを聞きながら、地上の星空を眺めて、ミックスナッツを摘まみながら旨い酒を楽しむ。
ここにはそんな客が多い。
華やかな夜の界隈に、長く続く店が有る。
Bar木蓮は、半世紀の長きにわたって街を眺めてきた。
その街を見下ろすこのホテルに出された支店には、本店の店長の孫息子、木蓮ソウビが勤めている。
カウンターの中で椅子に掛けて、客を待ちながら静かに氷を研いでいた。
意気揚々と始めたこの店も、最初は客層に怯むばかり、シェイカーをひっくり返したことも数知れず。
けれど、一年、二年、と、越えていく内に、彼にもそれなりの貫禄が備わり、若い頃の失敗を、当時からの常連と肴の代わりに語らうようにさえ。
●
昨日の客は、外つ国での商談を終えてきた顔馴染みの客。出発した時と同じウィスキーで祝杯に付き合い。
新婚らしい2人には、可憐な色と甘い香りのカクテルに祝いのメッセージを添えて。
ふらりと訪れた身なりの良い老紳士に、最近置き始めた焼酎、運良く入荷していた彼の故郷の地酒。
祖父が退いたからと言って流れてきたロングドレスの夫人のお喋りを聞き流し、彼女の去った席に残されたルージュに溜息を零し。
さて、今宵のお客様は。
リプレイ本文
●
「あー、疲れた! 今日も一日よく働いたわ、私!」
扉を開けたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)を迎える軽やかなピアノとサックスの音色。
いつもの席へと歩きながら店内を見回せば、見慣れぬ若い女性客が2人、楽しげなお喋りに花を咲かせ、今は窓側を向いて座っているが奥の方には、この店で時折見かける青年の後ろ姿があった。
硝子に映った姿に、彼もグリムバルドに気付いたらしく、前髪を掻き上げるように振り返って朱金と氷青の瞳を細めた。
いらっしゃいませ、そう声を掛けられてカウンターの中程の席に座る。
「いつもの!」
メニューボードを一瞥もせず、そう注文する彼女の言葉は、いつも通り甘いカクテルのお勧めを。
金の双眸をにっこりと、人懐っこく笑って見せた。
シェーカーの中、氷が回る音がからりからりと軽やかに。
シンプルなグラスに注がれたクランベリーの赤いカクテル。甘酸っぱさに溶け込んだウォッカの酒精、穏やかな潮風を感じさせる。
くぅっと一口で半分ほど煽り、仕事中強張っていた肩の力を抜く。
これで、また明日も頑張れそうだ。さて、次の一杯は。
グリムバルドが最初のグラスを空けて長針が一回りした頃、一軒目で頬を仄かに色付かせた榊 兵庫(ka0010)が扉を開けた。
曲目が代わりジャズドラムが賑やかにリズムを刻む。
華やかな容貌と吊しでは見かけないスーツの質、有名ブランドのバッグのデザインの新しさが彼女の地位を覗わせる。
お久しぶりです、声を掛けた支店長は彼女が座るまでに棚から瓶を1つ選ぶ。
酒齢18、トウコさんにお出しするにはまだ若いでしょうか。そう言ってラベルを見せる。見慣れた銘柄のウィスキーだが、飲み直しの1杯目には十分。
「……とりあえず、ロックをダブルで」
味を見るように一口、琥珀の色と深い香り。チェイサーが出され、ゆったりともう一口味わって。
「ヘイ、アンタ一人かい?」
1つ隔てた席から声を掛けられた。
赤い髪の大柄な青年がタンブラーを手に白い歯を見せた。
夜景の見えるテーブル席に座っている2人の女性客。
明日は休みが取れる、前から来たかった、ちょっと背伸びをして、バーは憧れだった。
親しげな様子と、零れる会話。
駅で偶然邂逅した、同じ会社の友人らしいしろくま(ka1607)とルキハ・ラスティネイル(ka2633)。
柔らかに波打たせた白の毛並み、まろい手を頬に寄せてころころと微笑む大柄なしろくまは、酔いが回り始めているのか楽しそうに笑っている。
黒いブリッジにスクエアのフリムレス、細身ながらもスーツの胸許は窮屈そうに。
しろくまを微笑ましそうに見詰め、透明な硝子の奥で緑の瞳を柔和に細める。
「くまー、夜景も綺麗。来て良かったくま」
しろくまはルキハとその向こうの窓の先を眺めて、うっとりと仄かな酔いに任せている。
頑張っている自分へのご褒美だったけれど、ここに来て本当に良かった。
「ご褒美だったの? それじゃあ……」
ルキハは店員に声を掛けると、声を潜めてメニューボードから注文を。
暫くして運ばれてきたのは、リボンを掛けたタンブラーに注がれたウィスキー。
透明な水に浮かぶそれがしろくまの前に置かれると静かに揺らぐ。
「カクテルって、花言葉みたいなのがあるの知ってる?」
しろくまは目の前に置かれたグラスに戸惑って、きょとんと円らな目を瞬いた。
リボンを撫でて首を傾げた彼女に、耳打ちを擦るようにこっそりと。
ウィスキーフロートのカクテル言葉を囁いた。
「楽しい関係、……っていう意味があるのヨ」
白い、頬を色付かせてしろくまは目を瞠る。
「ありがとうくまー」
ルキハちゃん、さすが、すごーい、と一頻り手放しで賞賛して、お返しがしたいと店員を呼んだ。
注文を伝えられた支店長は、にこやかに応じてシェーカーへ同じウィスキー、そしてラムとレモンを加える。
注がれたグラスには色違いのリボンを掛けて、しろくまへ宛てたカードにはカクテルの名前と、添えられる言葉を綴った。
●
仕事疲れを覗わせるスーツ姿でエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、ドアを開けて店内を覗う。
窓側のカウンターの奥の席、振り返ると入り口までを見回せる席からこちらを眺めている青年と目が合った。
彼の隣にロングドレスの女性が座ると、一時、エラと絡んだ視線はやがて逸れて、彼女へ向かう。
エラがカウンターの空席に着くと、隣からグリムバルドが声を掛けた。
初めまして、或いは、久しぶり、と。
どこかで出会った気がするのなら、それはきっとこの店だろう。
「お疲れさまです」
「ほんとね! 今日も一日頑張ったわ。お疲れさま」
注文は軽めの物をメニューボードから探す。
すぐに出されたのは、丸く研がれた氷を浮かべたウィスキー、細かな炭酸がグラスの中を静かに浮き上がっていく。傾ければ仄かなレモンの香りが爽やかに広がった。
グリムバルドも新しく注文を、果皮で鳥を作ったオレンジがグラスの縁を飾るハーベイ・ウォールバンガー。
季節の話し、天気の話し、当たり障りのない話題と、ごく簡単でありふれた自己紹介。
名刺の交換は控えて、暈かしながらの仕事の話しをつらつらと。
「……最近、コンビニの食事に飽きまして。近くで美味い飯屋は開いてませんかね」
「この辺だとそーね、……飯屋ねー」
思い浮かぶのは酒場、居酒屋、とグラスを傾けながら。エラ自身も同様に苦笑を見せて頷いた。
今日は変わった客が多いわね、と、グリムバルドは会話の途切れた隙に店を眺めた。
インペリアルフィズのカクテル言葉は楽しい会話。差し出されたグラスを受け取って、小さな音で乾杯を。
その言葉の通り、楽しそうに会話を弾ませている。
奥の席に居た青年は、女性を見送り別の誰かを口説いているようだ。
時折聞こえる話題はどうやらその女性の恋愛絡みの愚痴と惚気らしく、青年にとっては空振りのようだが、女性は楽しそうに話している。
カウンターの、もう一組。トウコとボルディア・コンフラムス(ka0796)も杯を重ねて楽しんでいる。
ボルディアが友人の急用で予定を変更してきたというと、トウコも仕事の酒の飲み直しだと溜息を零す。
「お酒に対しての冒涜よね」
パンツスーツの脚を組んで頬杖を。目を伏せれば歩の赤い頬に長い睫が影を落とす。
お酒には、気の置けない仲間か、美味しい肴が必要なのにと、カクテルグラスを揺らしながら。
「俺も、酒は気の合う仲間と飲みたい質だからね」
俺たちは気が合いそう。どうかしら。
首を傾げればさらりとした黒髪が肩に揺れる。
口数は控えめなトウコに、ボルティアは積極的に話し掛ける。
氾濫しているニュースから見かけた可愛らしい子犬の話し。猫と犬、どちらが好きか尋ねて、俺は犬が好きだなと、相好を崩した顔はその体躯に似合わぬ程溌剌として稚い。
「お仕事は、何をされているの」
「――見ての通りさ……っと、プロレスラーじゃねぇぜ?」
スポーツ選手かしら、チェリーの残ったグラスを置き、トウコがじっとボルティアを見詰めた。
その言いかけた言葉を遮って、ボルティアは声を落とした。
「兵士になってもう随分経つ……誰かの為に命を張れるんだ。こんな誇らしい事はねぇさ」
筋張った手に握られたグラスの中、氷がからんと小さく鳴った。
「もふもふ癒しで、お話ししてると自然と和んじゃうのがねー、しろくまちゃんの素敵なところよネ」
タンブラーに注がれた酒は少しずつその境目を溶け合わせていく。
「きゃー、そんなに褒めてもくまは何も返せないくまー」
両手で挟むように持ったそれで顔を隠すように照れるしろくまに微笑んで、ルキハは自分へ贈られたタンブラーをかちんと触れ合わせた。
「改めて、かんぱーい」
「かんぱいくまー、ありがとうくまー」
円らな瞳を潤ませてしろくまもグラスを傾けた。
一口目のウィスキーは濃く、2口目は境を超えた水が溶け込んですっきりと、幾つもの味わいを楽しみながら、2人で夜景へ目を向ける。
「夜景が素敵くまー」
「そうね、それに……」
賑わいに惹かれたのだろうか、隣のテーブルやカウンターも埋まっている。
いい男やいい女がいるのに、ほっとくなんて。
「話し掛けてみましょうよ! 美味しいスイーツのお店を見付けたの」
「どきどきするくまー」
良い夜ですね、一緒に飲みませんか。
会話を楽しんだり、勧められた酒を味わったりして、そろそろ酔いも回ってきた頃合い。
「ルキハちゃん、飲み過ぎくまー」
「うーん、久しぶりに沢山飲んで、酔っちゃったー」
柔らかくもふもふとした体を寄せたしろくまを抱き返して、埋まる感触に満面の笑みを浮かべたルキハは、最後に同席した客へ手を振って、しろくまを支えながら店を出る。
「また一緒に行きましょうくま」
ぎゅうっと抱き付いたままで誘う言葉に、ルキハは勿論と即答を。
「また来ましょうねえ!」
●
あのもふもふした子、可愛かったわ。
グリムバルドは、2人が出て行った扉を振り返る。
話し掛けられてつい、勧めてしまったカクテル。テキーラをベースに、オレンジとシェイク、沈めた石榴の赤いシロップが日の出を思わせる。
可愛らしくて飲みやすいが、度数は決して低くない。
大丈夫だったかしらと、ともに座っていた友人に抱き付いていた様子を思い出しながら呟いた。
エラは話せる話題ではなかったらしく、聞き役に徹してナッツをつまみながら寛いでいる。
「話さなくて良かったの? きっと美味しいご飯のお店も知ってたわよ」
「芸能関係は疎くて……興味はありますが、触れる機会が乏しいもので」
それは残念、そう言いながら、何杯目かのグラスを空ける。
エラの手許のグラスも変わっている。
「それも美味しいわよね。木蓮さんは腕が良いから、これで渋いオジサマだったら結婚してほしいくらいだわ」
グリムバルドの声が聞こえたのだろう、ジュースのボトルを持った支店長の手が微かに震えた。
注がれたグレープフルーツのジュースがコースターを敷いてエラの前へ。
「どうも、……飲み過ぎてしまって」
穏やかなその面差しは、渋い、と評するには確かに若すぎるように見えた。
グラスを空けて、そろそろ帰るとエラが腰を浮かせ、グリムバルドも腕時計を眺めて、それに続く。
また来るわ、と手を振って。エラも軽く手を擡げ。
カウンターから支店長が有り難う御座いましたとそれに応じる。
2人と擦れ違うように店を訪れた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は空席を探す様に店を眺める。
夜も更け、多くの席が空いているが、真っ直ぐにヘルヴェル(ka4784)の隣へと向かった。
「こんばんは。今日は随分と賑やかな様ですね……盛況な様で何より。……マティーニを」
いらっしゃいませ、支店長が辞儀を、慣れた店員が灰皿を置く。
静かに差し出されたカクテルグラス、透明な底にオリーブを沈めハーブの香りを漂わせる。
引き締まった飲み口のアルコールを楽しんで、煙草に火を灯した。
紫煙を燻らせ、夜景を眺めていれば、硝子に映るカウンターで支店長が数種のスピリッツをシェーカーに注いでいた。
オリーブに口付けて、コーラで割られたその酒の行き先を目で追う。
「あちらの女性にキールを……今のお酒は彼女には少々キツそうだ」
届けられたカクテルに驚いた女性が慌てて振り返った視線に、彼からだと言う様に、ヘルは蜜鈴へ手を向けた。
男性にしてはほっそりとした指を立てて口角を上げる。
「……まあ、個人的にはもう少しつまみを充実させてくれると嬉しいのだけれどね」
酒の話題が転じて、互いによく通っていたらしいことを知ると、トウコとボルティアが同時に笑う。
純粋に酒を楽しんでいると言いながら、トウコはちらりとメニューボードへ目を向けた。
「俺も。誰かと話しながら酒が飲めればいいと思ってるが、食いでのあるもんが欲しいよな」
今夜が退屈なまま終わらなくて良かった。飲み直しには多い杯を重ねて、トウコは少し眠たそうに瞼を伏せる。日が変わってしまうまでに、そう、最後の1口を飲み干して。
同じ駅へ向かうと知れば、それならもう少しと連れだって。エレベーターの中、重なる硝子越しに明滅する光りの海が近付いてくる。
閉店の時間が近づいて、店の客も減ってきた頃。1つ空けられていた席を詰めてヘルが蜜鈴に話し掛けた。
「よろしければ俺と少し、お話しませんか?」
黒のスリーピースに固めた装いで、辛口のカクテルを揺らす。
彼の隙を探すように、2色の瞳が猫の様に笑む。
名を尋ねれば、蜜鈴、と指先が綴り、みすず、と読む。
「綺麗なお名前、ですね……蜜さん?」
硬い殻の中はとても、とても甘い蜜。そう呼んでは駄目だろうか。そっと呼び掛ければ、蜜鈴は青い目を細めた。
「好きに呼んでくれて構わない、私も」
君の名を聞いても良いだろうか。そう尋ねてヘルが名乗ると蜜鈴の双眸が甘く笑う。
「ヘル、1杯プレゼントさせて貰っても良いかな?」
アップルジャックにライムを搾り、シロップを加える。華やかな薔薇色が甘酸っぱく香る。
「ありがとうございます、頂きますね」
グラスを傾けるヘルを眺めながら蜜鈴は2本目の煙草に火を灯した。
「――私を甘いと感じるか否かは、ヘル次第、かな?」
静かにラブバラードが流れ、眼下の明かりは次第に一つ、また一つと消えて行く。
ピアノの高い音が軽やかに、フレーズが切り替わる頃にグラスを置いて、ヘルも煙草を取り出した。
「蜜さん、俺もいいですか?」
ライターを出す様子も無いその仕草に、構わないよと目を伏せ、咥えたままの煙草の先をヘルの方へ傾ける。
刻み葉に灯った赤い火は、ヘルが軽く吸うと移って、じりと焦がすように葉を燃やす。
やがて同じように煙を昇らせても、暫くは離さずに絡んだ紫煙の昇る先を眺めた。
「……普段より、美味しく感じます、ね」
同意を求められると、くっと蜜鈴が喉で笑い頷く。
煙草を深く吸って零した白い煙がヘルに届くまで横目に追って、悪戯っぽく覗った表情は。果たして。
窓側の席、閉店近くまで座っていた2人が帰り、店員達も仕事を終えて引き上げていく。
道具を片付けて支店長も店を閉めて帰宅の途に。
寒さにコートの襟を立てながら、今夜は良い夢が見られそうだと、ぽかりと浮かんだ月を見上げた。
「あー、疲れた! 今日も一日よく働いたわ、私!」
扉を開けたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)を迎える軽やかなピアノとサックスの音色。
いつもの席へと歩きながら店内を見回せば、見慣れぬ若い女性客が2人、楽しげなお喋りに花を咲かせ、今は窓側を向いて座っているが奥の方には、この店で時折見かける青年の後ろ姿があった。
硝子に映った姿に、彼もグリムバルドに気付いたらしく、前髪を掻き上げるように振り返って朱金と氷青の瞳を細めた。
いらっしゃいませ、そう声を掛けられてカウンターの中程の席に座る。
「いつもの!」
メニューボードを一瞥もせず、そう注文する彼女の言葉は、いつも通り甘いカクテルのお勧めを。
金の双眸をにっこりと、人懐っこく笑って見せた。
シェーカーの中、氷が回る音がからりからりと軽やかに。
シンプルなグラスに注がれたクランベリーの赤いカクテル。甘酸っぱさに溶け込んだウォッカの酒精、穏やかな潮風を感じさせる。
くぅっと一口で半分ほど煽り、仕事中強張っていた肩の力を抜く。
これで、また明日も頑張れそうだ。さて、次の一杯は。
グリムバルドが最初のグラスを空けて長針が一回りした頃、一軒目で頬を仄かに色付かせた榊 兵庫(ka0010)が扉を開けた。
曲目が代わりジャズドラムが賑やかにリズムを刻む。
華やかな容貌と吊しでは見かけないスーツの質、有名ブランドのバッグのデザインの新しさが彼女の地位を覗わせる。
お久しぶりです、声を掛けた支店長は彼女が座るまでに棚から瓶を1つ選ぶ。
酒齢18、トウコさんにお出しするにはまだ若いでしょうか。そう言ってラベルを見せる。見慣れた銘柄のウィスキーだが、飲み直しの1杯目には十分。
「……とりあえず、ロックをダブルで」
味を見るように一口、琥珀の色と深い香り。チェイサーが出され、ゆったりともう一口味わって。
「ヘイ、アンタ一人かい?」
1つ隔てた席から声を掛けられた。
赤い髪の大柄な青年がタンブラーを手に白い歯を見せた。
夜景の見えるテーブル席に座っている2人の女性客。
明日は休みが取れる、前から来たかった、ちょっと背伸びをして、バーは憧れだった。
親しげな様子と、零れる会話。
駅で偶然邂逅した、同じ会社の友人らしいしろくま(ka1607)とルキハ・ラスティネイル(ka2633)。
柔らかに波打たせた白の毛並み、まろい手を頬に寄せてころころと微笑む大柄なしろくまは、酔いが回り始めているのか楽しそうに笑っている。
黒いブリッジにスクエアのフリムレス、細身ながらもスーツの胸許は窮屈そうに。
しろくまを微笑ましそうに見詰め、透明な硝子の奥で緑の瞳を柔和に細める。
「くまー、夜景も綺麗。来て良かったくま」
しろくまはルキハとその向こうの窓の先を眺めて、うっとりと仄かな酔いに任せている。
頑張っている自分へのご褒美だったけれど、ここに来て本当に良かった。
「ご褒美だったの? それじゃあ……」
ルキハは店員に声を掛けると、声を潜めてメニューボードから注文を。
暫くして運ばれてきたのは、リボンを掛けたタンブラーに注がれたウィスキー。
透明な水に浮かぶそれがしろくまの前に置かれると静かに揺らぐ。
「カクテルって、花言葉みたいなのがあるの知ってる?」
しろくまは目の前に置かれたグラスに戸惑って、きょとんと円らな目を瞬いた。
リボンを撫でて首を傾げた彼女に、耳打ちを擦るようにこっそりと。
ウィスキーフロートのカクテル言葉を囁いた。
「楽しい関係、……っていう意味があるのヨ」
白い、頬を色付かせてしろくまは目を瞠る。
「ありがとうくまー」
ルキハちゃん、さすが、すごーい、と一頻り手放しで賞賛して、お返しがしたいと店員を呼んだ。
注文を伝えられた支店長は、にこやかに応じてシェーカーへ同じウィスキー、そしてラムとレモンを加える。
注がれたグラスには色違いのリボンを掛けて、しろくまへ宛てたカードにはカクテルの名前と、添えられる言葉を綴った。
●
仕事疲れを覗わせるスーツ姿でエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、ドアを開けて店内を覗う。
窓側のカウンターの奥の席、振り返ると入り口までを見回せる席からこちらを眺めている青年と目が合った。
彼の隣にロングドレスの女性が座ると、一時、エラと絡んだ視線はやがて逸れて、彼女へ向かう。
エラがカウンターの空席に着くと、隣からグリムバルドが声を掛けた。
初めまして、或いは、久しぶり、と。
どこかで出会った気がするのなら、それはきっとこの店だろう。
「お疲れさまです」
「ほんとね! 今日も一日頑張ったわ。お疲れさま」
注文は軽めの物をメニューボードから探す。
すぐに出されたのは、丸く研がれた氷を浮かべたウィスキー、細かな炭酸がグラスの中を静かに浮き上がっていく。傾ければ仄かなレモンの香りが爽やかに広がった。
グリムバルドも新しく注文を、果皮で鳥を作ったオレンジがグラスの縁を飾るハーベイ・ウォールバンガー。
季節の話し、天気の話し、当たり障りのない話題と、ごく簡単でありふれた自己紹介。
名刺の交換は控えて、暈かしながらの仕事の話しをつらつらと。
「……最近、コンビニの食事に飽きまして。近くで美味い飯屋は開いてませんかね」
「この辺だとそーね、……飯屋ねー」
思い浮かぶのは酒場、居酒屋、とグラスを傾けながら。エラ自身も同様に苦笑を見せて頷いた。
今日は変わった客が多いわね、と、グリムバルドは会話の途切れた隙に店を眺めた。
インペリアルフィズのカクテル言葉は楽しい会話。差し出されたグラスを受け取って、小さな音で乾杯を。
その言葉の通り、楽しそうに会話を弾ませている。
奥の席に居た青年は、女性を見送り別の誰かを口説いているようだ。
時折聞こえる話題はどうやらその女性の恋愛絡みの愚痴と惚気らしく、青年にとっては空振りのようだが、女性は楽しそうに話している。
カウンターの、もう一組。トウコとボルディア・コンフラムス(ka0796)も杯を重ねて楽しんでいる。
ボルディアが友人の急用で予定を変更してきたというと、トウコも仕事の酒の飲み直しだと溜息を零す。
「お酒に対しての冒涜よね」
パンツスーツの脚を組んで頬杖を。目を伏せれば歩の赤い頬に長い睫が影を落とす。
お酒には、気の置けない仲間か、美味しい肴が必要なのにと、カクテルグラスを揺らしながら。
「俺も、酒は気の合う仲間と飲みたい質だからね」
俺たちは気が合いそう。どうかしら。
首を傾げればさらりとした黒髪が肩に揺れる。
口数は控えめなトウコに、ボルティアは積極的に話し掛ける。
氾濫しているニュースから見かけた可愛らしい子犬の話し。猫と犬、どちらが好きか尋ねて、俺は犬が好きだなと、相好を崩した顔はその体躯に似合わぬ程溌剌として稚い。
「お仕事は、何をされているの」
「――見ての通りさ……っと、プロレスラーじゃねぇぜ?」
スポーツ選手かしら、チェリーの残ったグラスを置き、トウコがじっとボルティアを見詰めた。
その言いかけた言葉を遮って、ボルティアは声を落とした。
「兵士になってもう随分経つ……誰かの為に命を張れるんだ。こんな誇らしい事はねぇさ」
筋張った手に握られたグラスの中、氷がからんと小さく鳴った。
「もふもふ癒しで、お話ししてると自然と和んじゃうのがねー、しろくまちゃんの素敵なところよネ」
タンブラーに注がれた酒は少しずつその境目を溶け合わせていく。
「きゃー、そんなに褒めてもくまは何も返せないくまー」
両手で挟むように持ったそれで顔を隠すように照れるしろくまに微笑んで、ルキハは自分へ贈られたタンブラーをかちんと触れ合わせた。
「改めて、かんぱーい」
「かんぱいくまー、ありがとうくまー」
円らな瞳を潤ませてしろくまもグラスを傾けた。
一口目のウィスキーは濃く、2口目は境を超えた水が溶け込んですっきりと、幾つもの味わいを楽しみながら、2人で夜景へ目を向ける。
「夜景が素敵くまー」
「そうね、それに……」
賑わいに惹かれたのだろうか、隣のテーブルやカウンターも埋まっている。
いい男やいい女がいるのに、ほっとくなんて。
「話し掛けてみましょうよ! 美味しいスイーツのお店を見付けたの」
「どきどきするくまー」
良い夜ですね、一緒に飲みませんか。
会話を楽しんだり、勧められた酒を味わったりして、そろそろ酔いも回ってきた頃合い。
「ルキハちゃん、飲み過ぎくまー」
「うーん、久しぶりに沢山飲んで、酔っちゃったー」
柔らかくもふもふとした体を寄せたしろくまを抱き返して、埋まる感触に満面の笑みを浮かべたルキハは、最後に同席した客へ手を振って、しろくまを支えながら店を出る。
「また一緒に行きましょうくま」
ぎゅうっと抱き付いたままで誘う言葉に、ルキハは勿論と即答を。
「また来ましょうねえ!」
●
あのもふもふした子、可愛かったわ。
グリムバルドは、2人が出て行った扉を振り返る。
話し掛けられてつい、勧めてしまったカクテル。テキーラをベースに、オレンジとシェイク、沈めた石榴の赤いシロップが日の出を思わせる。
可愛らしくて飲みやすいが、度数は決して低くない。
大丈夫だったかしらと、ともに座っていた友人に抱き付いていた様子を思い出しながら呟いた。
エラは話せる話題ではなかったらしく、聞き役に徹してナッツをつまみながら寛いでいる。
「話さなくて良かったの? きっと美味しいご飯のお店も知ってたわよ」
「芸能関係は疎くて……興味はありますが、触れる機会が乏しいもので」
それは残念、そう言いながら、何杯目かのグラスを空ける。
エラの手許のグラスも変わっている。
「それも美味しいわよね。木蓮さんは腕が良いから、これで渋いオジサマだったら結婚してほしいくらいだわ」
グリムバルドの声が聞こえたのだろう、ジュースのボトルを持った支店長の手が微かに震えた。
注がれたグレープフルーツのジュースがコースターを敷いてエラの前へ。
「どうも、……飲み過ぎてしまって」
穏やかなその面差しは、渋い、と評するには確かに若すぎるように見えた。
グラスを空けて、そろそろ帰るとエラが腰を浮かせ、グリムバルドも腕時計を眺めて、それに続く。
また来るわ、と手を振って。エラも軽く手を擡げ。
カウンターから支店長が有り難う御座いましたとそれに応じる。
2人と擦れ違うように店を訪れた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は空席を探す様に店を眺める。
夜も更け、多くの席が空いているが、真っ直ぐにヘルヴェル(ka4784)の隣へと向かった。
「こんばんは。今日は随分と賑やかな様ですね……盛況な様で何より。……マティーニを」
いらっしゃいませ、支店長が辞儀を、慣れた店員が灰皿を置く。
静かに差し出されたカクテルグラス、透明な底にオリーブを沈めハーブの香りを漂わせる。
引き締まった飲み口のアルコールを楽しんで、煙草に火を灯した。
紫煙を燻らせ、夜景を眺めていれば、硝子に映るカウンターで支店長が数種のスピリッツをシェーカーに注いでいた。
オリーブに口付けて、コーラで割られたその酒の行き先を目で追う。
「あちらの女性にキールを……今のお酒は彼女には少々キツそうだ」
届けられたカクテルに驚いた女性が慌てて振り返った視線に、彼からだと言う様に、ヘルは蜜鈴へ手を向けた。
男性にしてはほっそりとした指を立てて口角を上げる。
「……まあ、個人的にはもう少しつまみを充実させてくれると嬉しいのだけれどね」
酒の話題が転じて、互いによく通っていたらしいことを知ると、トウコとボルティアが同時に笑う。
純粋に酒を楽しんでいると言いながら、トウコはちらりとメニューボードへ目を向けた。
「俺も。誰かと話しながら酒が飲めればいいと思ってるが、食いでのあるもんが欲しいよな」
今夜が退屈なまま終わらなくて良かった。飲み直しには多い杯を重ねて、トウコは少し眠たそうに瞼を伏せる。日が変わってしまうまでに、そう、最後の1口を飲み干して。
同じ駅へ向かうと知れば、それならもう少しと連れだって。エレベーターの中、重なる硝子越しに明滅する光りの海が近付いてくる。
閉店の時間が近づいて、店の客も減ってきた頃。1つ空けられていた席を詰めてヘルが蜜鈴に話し掛けた。
「よろしければ俺と少し、お話しませんか?」
黒のスリーピースに固めた装いで、辛口のカクテルを揺らす。
彼の隙を探すように、2色の瞳が猫の様に笑む。
名を尋ねれば、蜜鈴、と指先が綴り、みすず、と読む。
「綺麗なお名前、ですね……蜜さん?」
硬い殻の中はとても、とても甘い蜜。そう呼んでは駄目だろうか。そっと呼び掛ければ、蜜鈴は青い目を細めた。
「好きに呼んでくれて構わない、私も」
君の名を聞いても良いだろうか。そう尋ねてヘルが名乗ると蜜鈴の双眸が甘く笑う。
「ヘル、1杯プレゼントさせて貰っても良いかな?」
アップルジャックにライムを搾り、シロップを加える。華やかな薔薇色が甘酸っぱく香る。
「ありがとうございます、頂きますね」
グラスを傾けるヘルを眺めながら蜜鈴は2本目の煙草に火を灯した。
「――私を甘いと感じるか否かは、ヘル次第、かな?」
静かにラブバラードが流れ、眼下の明かりは次第に一つ、また一つと消えて行く。
ピアノの高い音が軽やかに、フレーズが切り替わる頃にグラスを置いて、ヘルも煙草を取り出した。
「蜜さん、俺もいいですか?」
ライターを出す様子も無いその仕草に、構わないよと目を伏せ、咥えたままの煙草の先をヘルの方へ傾ける。
刻み葉に灯った赤い火は、ヘルが軽く吸うと移って、じりと焦がすように葉を燃やす。
やがて同じように煙を昇らせても、暫くは離さずに絡んだ紫煙の昇る先を眺めた。
「……普段より、美味しく感じます、ね」
同意を求められると、くっと蜜鈴が喉で笑い頷く。
煙草を深く吸って零した白い煙がヘルに届くまで横目に追って、悪戯っぽく覗った表情は。果たして。
窓側の席、閉店近くまで座っていた2人が帰り、店員達も仕事を終えて引き上げていく。
道具を片付けて支店長も店を閉めて帰宅の途に。
寒さにコートの襟を立てながら、今夜は良い夢が見られそうだと、ぽかりと浮かんだ月を見上げた。
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