ゲスト
(ka0000)
盲愛、死に花咲きて散る
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/24 12:00
- 完成日
- 2014/12/02 00:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
僕達は二人で良かった。
母親のお腹の中にいた時から、僕達は二人きりだったんだから。
口減らしのために遠い場所に捨てられても、君がいてくれたから平気だった。
君が死ぬ時は僕も一緒に死のう。
始まりも二人だったんだ、終わりも二人一緒がいいと思っていた。
けど、死に対面した時、君だけでも生き残って欲しいと願った。
だから、僕は――……。
※※※
「緊急の依頼です、どなたか力をお貸しください」
案内人の凛とした声がオフィスに響き渡る。
案内人の隣には泥にまみれた12、13歳くらいの少女がいた。
「どうしたんだ?」
急を要する状態なのだと悟り、数名のハンター達が案内人に言葉を投げかける。
「少し離れた場所に、小さな森があります」
「雑魔が闊歩する森の中、少年が1人取り残されているのです」
「お願い、お兄ちゃんを助けて……!」
案内人の言葉を阻むように、少女がハンター達に縋りつく。
「死ぬ時は二人だよって言ってたのに、お兄ちゃんが雑魔を引きつけて……っ!」
「私も一緒にって思ったのに、お兄ちゃんが許してくれなくて……1人になるのは嫌だよ、お願い、助けて!」
お兄ちゃんがいてくれないと、私1人ぼっちになっちゃうよ――。
少女は涙をボロボロとこぼしながらハンター達に縋りついた。
「事情は分かりましたね?」
「おそらくこうしている間にも、この子のお兄さんは危険にさらされています」
「すぐに出発できる方、準備をお願い致します」
案内人の言葉を聞き、数名のハンター達はそれぞれ準備を開始した。
母親のお腹の中にいた時から、僕達は二人きりだったんだから。
口減らしのために遠い場所に捨てられても、君がいてくれたから平気だった。
君が死ぬ時は僕も一緒に死のう。
始まりも二人だったんだ、終わりも二人一緒がいいと思っていた。
けど、死に対面した時、君だけでも生き残って欲しいと願った。
だから、僕は――……。
※※※
「緊急の依頼です、どなたか力をお貸しください」
案内人の凛とした声がオフィスに響き渡る。
案内人の隣には泥にまみれた12、13歳くらいの少女がいた。
「どうしたんだ?」
急を要する状態なのだと悟り、数名のハンター達が案内人に言葉を投げかける。
「少し離れた場所に、小さな森があります」
「雑魔が闊歩する森の中、少年が1人取り残されているのです」
「お願い、お兄ちゃんを助けて……!」
案内人の言葉を阻むように、少女がハンター達に縋りつく。
「死ぬ時は二人だよって言ってたのに、お兄ちゃんが雑魔を引きつけて……っ!」
「私も一緒にって思ったのに、お兄ちゃんが許してくれなくて……1人になるのは嫌だよ、お願い、助けて!」
お兄ちゃんがいてくれないと、私1人ぼっちになっちゃうよ――。
少女は涙をボロボロとこぼしながらハンター達に縋りついた。
「事情は分かりましたね?」
「おそらくこうしている間にも、この子のお兄さんは危険にさらされています」
「すぐに出発できる方、準備をお願い致します」
案内人の言葉を聞き、数名のハンター達はそれぞれ準備を開始した。
リプレイ本文
●少年を救助すべく集まった者達
「それじゃ、行こうか」
シュタール・フラム(ka0024)が森を見つめながら呟く。
ハンター達は少年が逃げ回っている森に到着するまでは馬で移動しており、それぞれ協力して二人で乗ったりして、なるべくギルドから森にかかる時間を短縮していた。
「少年の名前はユウらしいね、ランちゃん――……ギルドで泣きじゃくっていた妹さんから聞いたよ。私には家族が沢山いるけど、この地ではお姉ちゃんと二人きり。お姉ちゃんがいなくなったら私も嫌だもん、だからあの子のお兄ちゃんも助け出すよ、絶対一人きりになんてさせない」
天竜寺 詩(ka0396)は拳を強く握り締めながら呟く。
「そうだね。泣いてる子供がいる、助けを求める子供がいる。それだけで俺がお金関係なく動くのに十分過ぎる理由だよ」
ジュード・エアハート(ka0410)は愛犬の頭を撫でながら真剣な表情で呟く。彼はランからユウの持ち物を借りて来ており、愛犬のルーナに匂いを嗅がせ、少しでも発見を早める事が出来ればと考えていた。
「……兄を失う時の悲しみ、私には分かると思います。CAM乗りだった私のお兄ちゃんは、私を残して一人逝っちゃいましたから……」
栂牟礼 千秋(ka0989)は当時の事を思い出しているのか、拳を強く握り締めながら呟く。
だからこそ彼女は今回の依頼を受けたのだろう。妹が兄を助ける、自分が出来なかった事をあの子にさせてあげたかったから、自分のように兄を亡くして泣く子供を見たくなかったから。
「妹を一人残そうなんてダメダメですよね、妹さんのためにもお兄さんは頑張って生きてもらいませんと! あと雑魔もきっちり退治して、後の安全も確保しましょう!」
プルミエ・サージ(ka2596)が仲間のハンター達に告げる。
「そうですね、一人は……寂しいです、絶対に妹さんだけが残されるなんてあってはいけません」
白主・アイノネ(ka2628)もプルミエの言葉に賛同するように頷きながら答える。
「まだ幼い兄妹、こんな歳で兄妹を死に別れさせるわけにはいきません! 必ず、お兄さんを連れて帰ってあの子を安心させましょう」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は愛用の『ユナイテッド・ドライブ・ソード』を握り締めながら呟く。
「さて、そろそろ行こうかの。はんたーとやらは雑魔から困った人を守るのが仕事と聞いたのじゃ。幼き兄妹を守れずしてはんたーは名乗れまい」
カエデ・グリーンフィールド(ka3568)が呟き、ハンター達は少年が逃げ惑う森の中へと足を踏み入れたのだった。
●捜索開始!
今回のハンター達は班を2つに分けて行動する作戦を実行していた。
A班:シュタール、天竜寺、白主、ヴァルナの4名。
B班:ジュード、栂牟礼、プルミエ、カエデの4名。
その中でA班ではヴァルナ、B班ではジュードが犬を連れて来ており、それぞれユウの持ち物の匂いを嗅がせている。
「まずは少年でも、雑魔でも痕跡を見つけよう」
シュタールが呟き、ハンター達はそれぞれの班で行動を開始し始めた。
※A班
「これで、ユウくんが気づいてくれればいいんだけど……」
天竜寺は『シャイン』を使用して『リュミエールボウ』を光らせ、遠目でも分かるようにする。
願うのは少年が見つけてくれることだけど、この際雑魔でもいいと天竜寺は考えていた。雑魔を引きつける事が出来れば、その分だけ少年が安全になれるのだから。
「この辺から匂いが強くなっているみたいですね、連れて来た犬も匂いで迷っているみたいです」
ヴァルナは犬の様子を見ながら、少し困ったように呟いた。
「大きな森ではありませんし、逃げる途中で何度も同じ場所をぐるぐるとしていたのかも……」
「それならば、確実にどちらかの班がユウくんと会うでしょうね。僕達の班は時計回り、B班は逆時計回りで森の中を捜索する事になっていますから」
白主の言葉に「そうですね、ただ今の状況がどうなっているか心配ではあります……」とヴァルナも俯きながら言葉を返す。
「……ちょっと来てくれ」
シュタールが近くの木に触れながら天竜寺、白主、ヴァルナに言葉を投げかける。
3人がシュタールの傍に駆け寄ると、木に残された爪痕、それと人のものであろう靴跡だった。
「……俺達が考えているよりも、少年の状況は悪いのかもしれないな」
シュタールは少年が逃げようとしているなら、小さな身体が有利になるよう動くと考えていた。しかし、この足跡や爪痕を見る限り、現在も追いかけられている可能性が出てきた。
「ヴァルナはB班に連絡を入れてくれ、俺はその間に足跡などを調べて移動経路の予測を立ててみる」
「分かりました」
シュタールの言葉に頷き、ヴァルナは『魔導伝話』でB班に連絡を入れる。
「……どうか、したの?」
けれど、B班に連絡を取ったヴァルナの表情が浮かないのを見て、白主が不思議そうに呟く。
「B班が、雑魔に追いかけられているユウ君を保護したとの事ですが……現在2匹の雑魔と交戦中、ユウ君も……危ない状況だとの事です」
ヴァルナの言葉に「そんなっ……!」と天竜寺が酷く動揺した声を出した。
「方向はこっちじゃないか? 微かに音も聞こえたし、足跡も向こうに続いている」
シュタールの言葉に、ヴァルナは頷く。
「急ごう……! ユウ君を助けなくちゃ……!」
「そうだね」
A班のハンター達は表情に焦りの色を滲ませながら、B班のいる場所に急ぎ始めた。
※B班
少し時間が戻り、まだB班が少年を保護していない時――。
「不自然に枝が折れてる、勢いよく折れてるからここを走って行ったんだろうね。高さ的にも子供の身長くらいだし、ここを通ったのは間違いなさそうだよ」
ジュードが木の枝を見ながら分析を行う。
「ユウくーん! どこにいるんですかー? ユウくーん!」
プルミエは何度もユウの名前を呼ぶけど、ハンター達が待っているような答えは返ってこない。
「木の洞とかに隠れてくれていたら探しやすいんだけど……この辺だと雑魔に丸見えだし、もっと分かりにくい場所に隠れてるのかな……」
プルミエは小さくため息を吐く。
森に入って、まだそんなに経っていないけど、時間が掛かれば掛かるほど状況は悪くなる。
だからプルミエだけではなく、他のハンターにも焦りが出て来ていた。
「む、この辺ではないのか? 妹君が大きな洞のある木の所で別れたと言っていたが……」
カエデが呟きながら、大きな木を見上げる。
その根元には確かに大きな洞があり、小さな足跡が目立っている。
「この森には洞のある木が多いですが、今までで1番大きな洞ですね。ですが、ユウ君はどの洞にもいなかった……一体、どこにいるんでしょう」
栂牟礼が小さなため息を吐きながら呟く。
その時、ジュードの連れていた犬が「ウゥゥ……」と威嚇を始める。
ハンター達が警戒を強めた時、雑魔に追われている少年の姿が目の前に現れた。
腕や足を噛みつかれ、既に走る事すらままならない状態だったけど、生きたいという意志が少年の心を奮い立たせていたらしい。
「狼型雑魔を撃つよ!」
「それじゃ、わたしは人型を!」
ジュードが狼型を、プルミエが人型を撃ち、雑魔とユウを引きはがす。
そのまま倒れこむユウを栂牟礼が抱きかかえ、雑魔から距離を取った。
「……酷い」
目を逸らしたくなるほどの傷を見て、栂牟礼が苦しそうに眉根を寄せながら呟く。
普通の子供だったら既に事切れていたかもしれない傷を、ユウはかろうじて耐えている。
「い、も……と、らん、たす……け……」
喋るたびにヒュウと嫌な音が響き、栂牟礼は慌てて『ヒール』を施す。
栂牟礼が治療して、ジュードとプルミエが雑魔対応をしている間にA班から連絡が入り、カエデが応答している。
「皆の者、A班がすぐにこちらに向かうそうじゃ!」
カエデはA班からの伝言を伝え、自らも『模造刀』を構えて戦線に出たのだった。
●少年を守るために
A班がB班と合流した後、天竜寺はすぐユウの元に向かい、栂牟礼と共に治療に当たり始める。
「せめて別々にいてくれたら、この子を連れて逃げる事も出来たのに……」
雑魔を振り切って逃げる事も可能ではないけど、その際、ハンター達を追いかけてきた雑魔を放置して帰還する事になる。
付近には集落もあるため、別の犠牲者が出るのは間違いないだろう。
「ともかく、こいつらを片づけないことにはな……俺達を無視して獲物に食らいつけると思うなよ!」
シュタールは雑魔から少し距離を取り『魔導拳銃 サラマンダー』で射撃を行う。
「こんな子供を狙うなんて、しかもあんな風にいたぶるような真似……よほど風穴を開けられたいと見えるよ。いいよ、お望み通り、風穴だらけにしてあげるから」
ジュードはユウの姿を見て、怒りを露にしながら呟く。
「無駄な時間は掛けられないんだよね、だからさっさとやられてくれる?」
プルミエは『オートマチックST43』を雑魔に向けて放つ。
「お主らがいなければ、少年も怪我はしなかった、妹君も悲しい顔をせずに済んだのじゃ。幼き兄妹を弄んだ罪は重いぞ」
カエデは『模造刀』を構え『クラッシュブロウ』を使用して雑魔に攻撃を仕掛ける。
「私も行きます」
ヴァルナもカエデと同時に駆け出し、カエデは人型へ、ヴァルナは狼型へ攻撃を行った。
(早く雑魔を退治してしまわないと……)
治療を受けているユウをちらりと見ながら、白主は『メリケンサック』を装着した手で『渾身撃』を繰り出した。
その攻撃から白主が雑魔に対して抱いている怒りが垣間見えるような気がする。
「犬っころ、これでトドメだ。五芒星の全弾持っていけ」
シュタールは狼型雑魔に狙いを定め、攻撃を行い、まずは1体の雑魔を退治した。
「しっかり! 妹さんを1人にしないであげて!」
天竜寺は『ヒール』を掛け続けながら、必死にユウに言葉を投げかける。
傷自体はほとんど塞がっているけど、血を失い過ぎており、油断は許さない状況だ。
「い、も……とは、だい、じょうぶ……ですか……」
「大丈夫ですよ、ギルドであなたを助けてくれと何度も私達に頼んできたんです。妹さんのためにも気をしっかり持ってください」
栂牟礼がユウに言葉を返す。
治療を受け始めてから、ユウは妹が無事かどうかの質問しかしない。
そのたびにハンターが答えているけど、恐らく意識が朦朧としてユウの耳には届いていないのだろう。
そして、少年が意識を失うと同時に人型雑魔の退治が終わった。
「その子は……!?」
意識を失ったユウを見て、ジュードが顔を青ざめさせながら問いかけてくる。
「大丈夫ですよ。意識を失っただけです、これからすぐ病院に運べば恐らくは大丈夫かと……ただ、確実ではないので急ぐに越した事はないでしょう」
「……急ごう。せっかくここまでやったんだ、最悪の事態になる事だけは避けたい」
シュタールがユウを抱え、ハンター達はユウの身体に負担が掛からないようにまずは病院へ向かうことにしたのだった――……。
●再会
あれから数時間が経った。
ずっと『ヒール』を掛け続けていたのが良かったらしく、しばらく絶対安静だが最悪の事態になる事はないだろう、と担当した医者が言っていた。
「遅くなってすまなかったな」
シュタールは寝台の上で眠るユウの頭を撫でながら、ホッと安堵のため息を吐いて呟く。
「お兄さんが無事で良かったね」
天竜寺はユウの手を握り締めるランを抱きしめる。
ハンター達からの連絡を受けて、ランは何度も「ありがとうございます」と泣きながら頭を下げていた。
「お礼は十分もらったから、その分だけお兄さんの傍にいてあげてね」
「……はいっ」
天竜寺に頭を撫でられ、再び瞳に涙を浮かべながらランは勢いよく頷いた。
(良かった……大事な人を失うのはつらいから、俺達はあの子の大事な人を守れたんだ……)
ランが微笑む姿を見て、ジュードはユウを守ったのだという実感が込み上げてくる。
「あなたのお兄さんは頑張りましたよ。きっと、あなたに会いたい一心で頑張ったんですよ。これからもお互いを大事にして生きてくださいね」
栂牟礼の言葉に「……はい、お兄ちゃんを助けてくれてありがとうございました」とランは再度お礼の言葉を返した。
(私のお兄ちゃんは助からなかったけど、あの子を助ける事が出来て良かった)
自分の兄が助からなかった事を重ねてしまい、その差を悲しく思う。
「お姉さん達は大丈夫ですか? お兄ちゃんを助けるために、傷だらけ……」
ランはハンター達の姿を見ながら、酷く申し訳なさそうな表情を見せた。
「大丈夫だよ、あなたのお兄さんが受けた傷に比べればなんて事ないんだから! これは名誉の負傷、だからあなたが気にする必要はないんだからね」
プルミエはランの頭を撫でながら、にっこりと微笑む。
その中、白主はユウの傍に立っていた。
「1人は、寂しいですよ……生きていて欲しい、そうでしょう、僕も大切な人と一緒に命が危なくなればそう思うんでしょうね」
ユウはランが大事だからこそ、自分が危険な目に遭ってもランを逃がした。
その気持ちは白主だけではなく、他のハンター達にも理解は出来る。ユウと同じ立場になれば、同じ行動をするハンターだっているはずだから。
「でも、やっぱり残される側はつらいんです。それは埋もれていてはいけない悲しみなんでしょうけど……けれど、君はよく生きていてくれましたね、ありがとう」
白主の言葉に他のハンター達も聴き入っている。
「私はより多くの人の力になりたいとハンターになりました、今日はそれを全う出来たことを嬉しく思います。本当に、良かったです」
ヴァルナはにっこりと微笑みながら呟く。
「妾達に掛かれば問題ない、おぬしは兄の心配だけしておれば良いのじゃ」
からからと笑うカエデに「はい、もうお兄ちゃんに無理はしないよう言っておきます」とランも笑顔で言葉を返す。
結局ハンター達がいる間、ユウは目覚めなかったが、医者の話では明日にでも目覚めるだろうとの事だった。
これからもあの兄妹がお互いを想い合って生きていけるよう、ハンター達は願わずにはいられなかった。
END
「それじゃ、行こうか」
シュタール・フラム(ka0024)が森を見つめながら呟く。
ハンター達は少年が逃げ回っている森に到着するまでは馬で移動しており、それぞれ協力して二人で乗ったりして、なるべくギルドから森にかかる時間を短縮していた。
「少年の名前はユウらしいね、ランちゃん――……ギルドで泣きじゃくっていた妹さんから聞いたよ。私には家族が沢山いるけど、この地ではお姉ちゃんと二人きり。お姉ちゃんがいなくなったら私も嫌だもん、だからあの子のお兄ちゃんも助け出すよ、絶対一人きりになんてさせない」
天竜寺 詩(ka0396)は拳を強く握り締めながら呟く。
「そうだね。泣いてる子供がいる、助けを求める子供がいる。それだけで俺がお金関係なく動くのに十分過ぎる理由だよ」
ジュード・エアハート(ka0410)は愛犬の頭を撫でながら真剣な表情で呟く。彼はランからユウの持ち物を借りて来ており、愛犬のルーナに匂いを嗅がせ、少しでも発見を早める事が出来ればと考えていた。
「……兄を失う時の悲しみ、私には分かると思います。CAM乗りだった私のお兄ちゃんは、私を残して一人逝っちゃいましたから……」
栂牟礼 千秋(ka0989)は当時の事を思い出しているのか、拳を強く握り締めながら呟く。
だからこそ彼女は今回の依頼を受けたのだろう。妹が兄を助ける、自分が出来なかった事をあの子にさせてあげたかったから、自分のように兄を亡くして泣く子供を見たくなかったから。
「妹を一人残そうなんてダメダメですよね、妹さんのためにもお兄さんは頑張って生きてもらいませんと! あと雑魔もきっちり退治して、後の安全も確保しましょう!」
プルミエ・サージ(ka2596)が仲間のハンター達に告げる。
「そうですね、一人は……寂しいです、絶対に妹さんだけが残されるなんてあってはいけません」
白主・アイノネ(ka2628)もプルミエの言葉に賛同するように頷きながら答える。
「まだ幼い兄妹、こんな歳で兄妹を死に別れさせるわけにはいきません! 必ず、お兄さんを連れて帰ってあの子を安心させましょう」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は愛用の『ユナイテッド・ドライブ・ソード』を握り締めながら呟く。
「さて、そろそろ行こうかの。はんたーとやらは雑魔から困った人を守るのが仕事と聞いたのじゃ。幼き兄妹を守れずしてはんたーは名乗れまい」
カエデ・グリーンフィールド(ka3568)が呟き、ハンター達は少年が逃げ惑う森の中へと足を踏み入れたのだった。
●捜索開始!
今回のハンター達は班を2つに分けて行動する作戦を実行していた。
A班:シュタール、天竜寺、白主、ヴァルナの4名。
B班:ジュード、栂牟礼、プルミエ、カエデの4名。
その中でA班ではヴァルナ、B班ではジュードが犬を連れて来ており、それぞれユウの持ち物の匂いを嗅がせている。
「まずは少年でも、雑魔でも痕跡を見つけよう」
シュタールが呟き、ハンター達はそれぞれの班で行動を開始し始めた。
※A班
「これで、ユウくんが気づいてくれればいいんだけど……」
天竜寺は『シャイン』を使用して『リュミエールボウ』を光らせ、遠目でも分かるようにする。
願うのは少年が見つけてくれることだけど、この際雑魔でもいいと天竜寺は考えていた。雑魔を引きつける事が出来れば、その分だけ少年が安全になれるのだから。
「この辺から匂いが強くなっているみたいですね、連れて来た犬も匂いで迷っているみたいです」
ヴァルナは犬の様子を見ながら、少し困ったように呟いた。
「大きな森ではありませんし、逃げる途中で何度も同じ場所をぐるぐるとしていたのかも……」
「それならば、確実にどちらかの班がユウくんと会うでしょうね。僕達の班は時計回り、B班は逆時計回りで森の中を捜索する事になっていますから」
白主の言葉に「そうですね、ただ今の状況がどうなっているか心配ではあります……」とヴァルナも俯きながら言葉を返す。
「……ちょっと来てくれ」
シュタールが近くの木に触れながら天竜寺、白主、ヴァルナに言葉を投げかける。
3人がシュタールの傍に駆け寄ると、木に残された爪痕、それと人のものであろう靴跡だった。
「……俺達が考えているよりも、少年の状況は悪いのかもしれないな」
シュタールは少年が逃げようとしているなら、小さな身体が有利になるよう動くと考えていた。しかし、この足跡や爪痕を見る限り、現在も追いかけられている可能性が出てきた。
「ヴァルナはB班に連絡を入れてくれ、俺はその間に足跡などを調べて移動経路の予測を立ててみる」
「分かりました」
シュタールの言葉に頷き、ヴァルナは『魔導伝話』でB班に連絡を入れる。
「……どうか、したの?」
けれど、B班に連絡を取ったヴァルナの表情が浮かないのを見て、白主が不思議そうに呟く。
「B班が、雑魔に追いかけられているユウ君を保護したとの事ですが……現在2匹の雑魔と交戦中、ユウ君も……危ない状況だとの事です」
ヴァルナの言葉に「そんなっ……!」と天竜寺が酷く動揺した声を出した。
「方向はこっちじゃないか? 微かに音も聞こえたし、足跡も向こうに続いている」
シュタールの言葉に、ヴァルナは頷く。
「急ごう……! ユウ君を助けなくちゃ……!」
「そうだね」
A班のハンター達は表情に焦りの色を滲ませながら、B班のいる場所に急ぎ始めた。
※B班
少し時間が戻り、まだB班が少年を保護していない時――。
「不自然に枝が折れてる、勢いよく折れてるからここを走って行ったんだろうね。高さ的にも子供の身長くらいだし、ここを通ったのは間違いなさそうだよ」
ジュードが木の枝を見ながら分析を行う。
「ユウくーん! どこにいるんですかー? ユウくーん!」
プルミエは何度もユウの名前を呼ぶけど、ハンター達が待っているような答えは返ってこない。
「木の洞とかに隠れてくれていたら探しやすいんだけど……この辺だと雑魔に丸見えだし、もっと分かりにくい場所に隠れてるのかな……」
プルミエは小さくため息を吐く。
森に入って、まだそんなに経っていないけど、時間が掛かれば掛かるほど状況は悪くなる。
だからプルミエだけではなく、他のハンターにも焦りが出て来ていた。
「む、この辺ではないのか? 妹君が大きな洞のある木の所で別れたと言っていたが……」
カエデが呟きながら、大きな木を見上げる。
その根元には確かに大きな洞があり、小さな足跡が目立っている。
「この森には洞のある木が多いですが、今までで1番大きな洞ですね。ですが、ユウ君はどの洞にもいなかった……一体、どこにいるんでしょう」
栂牟礼が小さなため息を吐きながら呟く。
その時、ジュードの連れていた犬が「ウゥゥ……」と威嚇を始める。
ハンター達が警戒を強めた時、雑魔に追われている少年の姿が目の前に現れた。
腕や足を噛みつかれ、既に走る事すらままならない状態だったけど、生きたいという意志が少年の心を奮い立たせていたらしい。
「狼型雑魔を撃つよ!」
「それじゃ、わたしは人型を!」
ジュードが狼型を、プルミエが人型を撃ち、雑魔とユウを引きはがす。
そのまま倒れこむユウを栂牟礼が抱きかかえ、雑魔から距離を取った。
「……酷い」
目を逸らしたくなるほどの傷を見て、栂牟礼が苦しそうに眉根を寄せながら呟く。
普通の子供だったら既に事切れていたかもしれない傷を、ユウはかろうじて耐えている。
「い、も……と、らん、たす……け……」
喋るたびにヒュウと嫌な音が響き、栂牟礼は慌てて『ヒール』を施す。
栂牟礼が治療して、ジュードとプルミエが雑魔対応をしている間にA班から連絡が入り、カエデが応答している。
「皆の者、A班がすぐにこちらに向かうそうじゃ!」
カエデはA班からの伝言を伝え、自らも『模造刀』を構えて戦線に出たのだった。
●少年を守るために
A班がB班と合流した後、天竜寺はすぐユウの元に向かい、栂牟礼と共に治療に当たり始める。
「せめて別々にいてくれたら、この子を連れて逃げる事も出来たのに……」
雑魔を振り切って逃げる事も可能ではないけど、その際、ハンター達を追いかけてきた雑魔を放置して帰還する事になる。
付近には集落もあるため、別の犠牲者が出るのは間違いないだろう。
「ともかく、こいつらを片づけないことにはな……俺達を無視して獲物に食らいつけると思うなよ!」
シュタールは雑魔から少し距離を取り『魔導拳銃 サラマンダー』で射撃を行う。
「こんな子供を狙うなんて、しかもあんな風にいたぶるような真似……よほど風穴を開けられたいと見えるよ。いいよ、お望み通り、風穴だらけにしてあげるから」
ジュードはユウの姿を見て、怒りを露にしながら呟く。
「無駄な時間は掛けられないんだよね、だからさっさとやられてくれる?」
プルミエは『オートマチックST43』を雑魔に向けて放つ。
「お主らがいなければ、少年も怪我はしなかった、妹君も悲しい顔をせずに済んだのじゃ。幼き兄妹を弄んだ罪は重いぞ」
カエデは『模造刀』を構え『クラッシュブロウ』を使用して雑魔に攻撃を仕掛ける。
「私も行きます」
ヴァルナもカエデと同時に駆け出し、カエデは人型へ、ヴァルナは狼型へ攻撃を行った。
(早く雑魔を退治してしまわないと……)
治療を受けているユウをちらりと見ながら、白主は『メリケンサック』を装着した手で『渾身撃』を繰り出した。
その攻撃から白主が雑魔に対して抱いている怒りが垣間見えるような気がする。
「犬っころ、これでトドメだ。五芒星の全弾持っていけ」
シュタールは狼型雑魔に狙いを定め、攻撃を行い、まずは1体の雑魔を退治した。
「しっかり! 妹さんを1人にしないであげて!」
天竜寺は『ヒール』を掛け続けながら、必死にユウに言葉を投げかける。
傷自体はほとんど塞がっているけど、血を失い過ぎており、油断は許さない状況だ。
「い、も……とは、だい、じょうぶ……ですか……」
「大丈夫ですよ、ギルドであなたを助けてくれと何度も私達に頼んできたんです。妹さんのためにも気をしっかり持ってください」
栂牟礼がユウに言葉を返す。
治療を受け始めてから、ユウは妹が無事かどうかの質問しかしない。
そのたびにハンターが答えているけど、恐らく意識が朦朧としてユウの耳には届いていないのだろう。
そして、少年が意識を失うと同時に人型雑魔の退治が終わった。
「その子は……!?」
意識を失ったユウを見て、ジュードが顔を青ざめさせながら問いかけてくる。
「大丈夫ですよ。意識を失っただけです、これからすぐ病院に運べば恐らくは大丈夫かと……ただ、確実ではないので急ぐに越した事はないでしょう」
「……急ごう。せっかくここまでやったんだ、最悪の事態になる事だけは避けたい」
シュタールがユウを抱え、ハンター達はユウの身体に負担が掛からないようにまずは病院へ向かうことにしたのだった――……。
●再会
あれから数時間が経った。
ずっと『ヒール』を掛け続けていたのが良かったらしく、しばらく絶対安静だが最悪の事態になる事はないだろう、と担当した医者が言っていた。
「遅くなってすまなかったな」
シュタールは寝台の上で眠るユウの頭を撫でながら、ホッと安堵のため息を吐いて呟く。
「お兄さんが無事で良かったね」
天竜寺はユウの手を握り締めるランを抱きしめる。
ハンター達からの連絡を受けて、ランは何度も「ありがとうございます」と泣きながら頭を下げていた。
「お礼は十分もらったから、その分だけお兄さんの傍にいてあげてね」
「……はいっ」
天竜寺に頭を撫でられ、再び瞳に涙を浮かべながらランは勢いよく頷いた。
(良かった……大事な人を失うのはつらいから、俺達はあの子の大事な人を守れたんだ……)
ランが微笑む姿を見て、ジュードはユウを守ったのだという実感が込み上げてくる。
「あなたのお兄さんは頑張りましたよ。きっと、あなたに会いたい一心で頑張ったんですよ。これからもお互いを大事にして生きてくださいね」
栂牟礼の言葉に「……はい、お兄ちゃんを助けてくれてありがとうございました」とランは再度お礼の言葉を返した。
(私のお兄ちゃんは助からなかったけど、あの子を助ける事が出来て良かった)
自分の兄が助からなかった事を重ねてしまい、その差を悲しく思う。
「お姉さん達は大丈夫ですか? お兄ちゃんを助けるために、傷だらけ……」
ランはハンター達の姿を見ながら、酷く申し訳なさそうな表情を見せた。
「大丈夫だよ、あなたのお兄さんが受けた傷に比べればなんて事ないんだから! これは名誉の負傷、だからあなたが気にする必要はないんだからね」
プルミエはランの頭を撫でながら、にっこりと微笑む。
その中、白主はユウの傍に立っていた。
「1人は、寂しいですよ……生きていて欲しい、そうでしょう、僕も大切な人と一緒に命が危なくなればそう思うんでしょうね」
ユウはランが大事だからこそ、自分が危険な目に遭ってもランを逃がした。
その気持ちは白主だけではなく、他のハンター達にも理解は出来る。ユウと同じ立場になれば、同じ行動をするハンターだっているはずだから。
「でも、やっぱり残される側はつらいんです。それは埋もれていてはいけない悲しみなんでしょうけど……けれど、君はよく生きていてくれましたね、ありがとう」
白主の言葉に他のハンター達も聴き入っている。
「私はより多くの人の力になりたいとハンターになりました、今日はそれを全う出来たことを嬉しく思います。本当に、良かったです」
ヴァルナはにっこりと微笑みながら呟く。
「妾達に掛かれば問題ない、おぬしは兄の心配だけしておれば良いのじゃ」
からからと笑うカエデに「はい、もうお兄ちゃんに無理はしないよう言っておきます」とランも笑顔で言葉を返す。
結局ハンター達がいる間、ユウは目覚めなかったが、医者の話では明日にでも目覚めるだろうとの事だった。
これからもあの兄妹がお互いを想い合って生きていけるよう、ハンター達は願わずにはいられなかった。
END
依頼結果
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/24 09:01:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/19 07:53:03 |