• 天誓

【天誓】悲しき無敗の英雄

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/14 07:30
完成日
2017/11/22 01:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 高い壁に囲まれ、幾つもの支柱と銅線が張り巡らされた都市――アネリブーベ。
 囚人を収監するアネリの塔を中心としたこの都市は別名『監獄都市』と呼ばれ別師団や帝国内部の者達から敬遠されることが多い。
 そんなアネリブーベにも、過去英雄視される人物がいた。


「ふぅ……これで今日の雑用は終わりだな」
 そう言って、アネリの塔の地下に収納された物資を確認したマイラーは、妙に慣れてしまった囚人生活を思い出して苦笑を浮かべた。
 彼がアネリブーベに送られたのはもう2年近く前になる。
 捕まった理由は『冤罪』。その辺りの主張が認められたのか、現在は師団の雑用係として忙しく動き回っており、働きに応じて刑期が軽減するのは他の囚人と同じ扱いになっている。
 そもそも帝国の囚人は刑罰に応じて刑期が決められ、戦闘や職務の報酬に応じて刑期が軽減されていくのが特徴だ。勿論、報酬は刑期だけに留まらず、釈放後の生活に困らないよう金銭の報酬は師団の方で管理して、外に出た時に支給されるようになっている。
「まあ、刑期削減を目標としない囚人やあまりにも凶悪な囚人はこの限りには無い訳だが……」
 そうした囚人は彼が今いる地下の更に奥の方に投獄されるのが習わしだが、ゼナイドが師団長になってからはそうした囚人はすっかり鳴りを潜めたとの話だ。
「そこにいるのはマイラーッスか?」
 物思いにふけるように立ち尽くしていた所へ掛かった声に振り返る。
 そこにいたのは黒いローブを頭から被った少女だ。彼女は振り返った顔が見知ったものだとわかると、嬉しそうに駆け寄って来た。
「ソウルイーターに就任した囚人界希望の星がこんなところで如何したんだ?」
「なんっすかそれは……そんなこと言ったらマイラーは囚人界のホープっすよ?」
 何だそれは。と互いに笑い合って肩を竦める。
 彼女は最近帝国第十師団隠密部隊の『ソウルイーター』に移籍したばかり少女――ジュリだ。
 彼女の経歴も少し変わっており、最近までエルフハイムの調査を行っていたはずだが、突然戻って来るとは何かあったのだろうか。
「エゴに呼び出されたッス。なんでも師団の緊急事態だとか……」
 エゴとはジュリと同じソウルイーターの1人で白の死神と呼ばれる人物だ。そんな彼女が緊急事態だと言う事はかなりのことなのだろう。
「まだ俺の方に話が来てないとなると内々の件なのか? まあ、それなら俺には関係ない訳だが……師団長なら英霊の保護に出ていて留守だ。マンゴルトの旦那は執務室にいる時間だな」
「了解したっす。そしたらマンゴの旦那の所に行くッスよ」
「おう。気をつけてな」
 そう言って彼女を見送ろうとした時、背後に冷たい感覚が過った。
 マイラーとジュリはほぼ同時に飛び退くと、双方の武器である刀と短剣を抜き取る。そうして迫る『何か』に向き直ると凄まじい勢いで刃が飛んできた。
「ジュリッ!」
 真正面から巨大な刃を受け止めたジュリは、刃と共に吹き飛ばされ傍にあった木箱に激突する。だがそれを見送り切る余裕はマイラーにもなかった。
 刃がジュリから抜けるよりも早く差し込まれた剣に、マイラーも透かさず反応する。
 攻撃主を確認するように剣の先に目を飛ばしながら回避行動を試みる。素早く床と壁を蹴って宙を返り、先程補充したばかりの物資すらも足場にして間合いを取る。そして部屋の入口まで到達したところで漸く襲撃者の姿が見えた。
「見覚えのない奴だな。元々の職業柄人の顔を覚えるのが趣味みたいなもんなんだが、ここでは見た事のない顔だ――いや、顔は見えてないか」
 捉えたのはバシネットのような兜を被った人物だ。
 兜の天辺からは白く長い髪が伸び、体のラインを強調するような純白の甲冑を纏っている。その事からもわかるがこの人物の性別は女。だが普通の女でないことは確かだ。
 先程の動きも然る事ながら、彼女が携える武器が普通ではない。
『……貴様、囚人か?』
 思った以上に綺麗な声だった。
 静かに、真実だけを求めるかのような音色で問いかけてくる声にマイラーは頷く。
「帝国第十師団親衛隊所属、雑用係のマイラーだ。俺を囚人と問うからにはアンタも囚人なんだろう?」
『第十師団親衛隊……成程。雑用係で今の動きとは恐れ入った。現代の囚人の質は高いと見える』
 現代の囚人。今、この人物はそう言っただろうか。
 驚異的な身体能力と脳に直接響くような声。これらが指し示す答えは……。そこまで頭を巡らせた時、マイラーの立つ入口を臨む階段から声が届いた。
「君たち2人は何故頼んでもいないのに直接面倒ごとに首を突っ込むのだろうね」
 ゆったりとした足取りで近付いてくるのは白の死神エゴだ。彼女はマイラーが見据える人物を見止めると、優雅な礼を彼女に向けて微笑んだ。
「漸く顕現されたようだね。常勝無敗の剣豪『リーベ』」
「リーベ? リーベってコロッセオの女王……あのリーベか!?」
「おや、君でも知っているのだね。そう、彼女は常勝無敗の剣豪にしてコロッセオの女王リーベなのだよ。リーベはボクたち囚人の英雄だ。コロッセオで勝ち続けたことで刑期を終わらせた最初の人物。そして今の刑期制度のモデルとなった人物でもあるのだよ」
「法律を習った者なら知ってる。だがリーベは……」
 リーベは何百年も前に亡くなっている。ならばここにいる彼女は――待て、エゴは確か『顕現した』と言っていたか。だとしたらまさか彼女は……。
「英霊、なのか」
「その顔は囚人都市に英霊が現れるなど予想外、と言ったところだね。でも考えても見給え。リーベは囚人の英雄でありコロッセオのヒーロー……いや、この場合はヒロインかな? まあ、いずれにせよ彼女を英雄視し語り継ぐ者は多いのだよ」
 何となくは納得がいった。では彼女がここにいて戦いを挑んて来た理由は何だ。
「まさか英霊として顕現してまで闘いを求める、とかじゃないだろうな。だとしたら俺には荷が重いぞ」
 ぼやくように吐き出した声にエゴが「正解」と笑う。
「ゼナイド様に言われてるのだよ。英霊が現れたら力を示して仲間にしろって」
『私は闘い続ける。故に私は強者を求めよう。我が衣に砂を付ける強者を此処に――私は私よりも強い者の話しか聞かぬ』
 リーベはそう放つと、携えた四本の武器に手を添えた。


 帝国皇帝に恋をした少女がいた。
 彼女は皇帝に愛を求め、その結果王妃の怒りに触れて投獄された。
 少女は如何すれば再び皇帝に会えるだろうかと考え、そんな彼女に看守が言った。
「コロッセオで勝ち続ければ陛下からお言葉を賜れる」と。
 それ以降少女は闘いを学び、コロッセオに挑んで勝ち続けた。

 そして数年後――少女は皇帝に拝謁を賜る事になるのだが、その時には彼女の愛した皇帝はいなくなっていた。
 常勝を続けた褒美に少女は刑期を終えたが、彼女の心は囚われたままだった。
 これが常勝無敗の剣豪『リーベ』の物語である。

リプレイ本文

●初戦――挑戦者・ゾファル&アデリシア
「いぇーい、みんな見てルゥ? 俺様ちゃん絶対勝っちゃうじゃんよぉ」とは、ゾファル・G・初火(ka4407)の台詞である。
 彼女はコロッセオの中央に進み出ながら言葉を紡ぐと、周囲に笑顔と手を振りまきながら対戦相手の前に立った。
『初戦はお前達か……成程。強いマテリアルだ』
 リーベはそう言うと、自らの前で立ち止まったゾファルとアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)を見る。
 双方共に「相手に不足なし」と判断したのだろう。
 己が武器に手を伸ばす姿を見て、審判役を押し付けられたマイラーが前に出た。
「勝敗が決した段階で声をかける。その時は潔く手を引くように。では――」

 ――BATTLE START――

 初手、アデリシアの先制。
「新たな英霊……さながら戦神に仕える戦乙女の如し。ですが……!」
 私にも私が信仰する戦神はいる! そう踏み込んで放ったのは八角棍での一撃だ。
 間合いを詰め、渾身の力を振り絞って叩き込む一撃にリーベの腕が動く。
「抜き取ったのは――剣! 後方回避。その後、反撃を!」
 間近で抜き取られた剣が棍を受け止める。そして次の瞬間、
「アデちゃん?!」
 棍を受け止めた勢いで振り下ろされた剣が大地に突き刺さり、蛇が這うように土は捲れて突起物を出現させた。
 その距離は優にゾファルへも迫る。
「っ、これは手加減なんてしてる余裕ないじゃん♪ ま、俺様ちゃん、初めからそんなこと考えてないじゃんよぉ~♪」
 楽しそうに口角を釣り上げたゾファルが回避の為に飛躍した足を地面に突き、蹴った。
 低空滑走で一気に接近に持ち込む様子の彼女にリーベが剣を構える。
「ひゅ~♪ 真正面から受け止める気じゃーん!」
 なら望みどおりに叩き込む。
 守りを捨て、極限まで高めたマテリアル。それを全身に纏いながら踏み込んだゾファルは腕を折る勢いで拳を叩き込んだ。
 凄まじい勢いで降り注ぐ拳を剣の腹で受け止め、リーベの口から微かな吐息が漏れる。
『……悪くない』
 攻撃を受け止めた事によって下がった足。拳を受け止めた事で動きを阻害された剣。
 戦いによって自らが追い込まれゆく感覚。それらに零れた声を聞いてか否か、ゾファルは更なる攻撃を叩き込む。
「まだまだいくじゃん!」
 脚を振り上げ、胴を蹴り、その身を大地に滑らせる事を目的に放とうとした蹴りが宙で止まる。
 そして次の瞬間、ゾファルの体が吹き飛んだ。
「拙い! ホーリーヴェ――、ッ?!」
 アデリシアの目に映るのは風圧らしきものに吹き飛ばされるゾファルと、鎌を抜き取ったリーベの姿。そして自らに迫る風の刃!
 咄嗟に棍を持つ手の向きを変えて防御に移る。が、風の方が早い。
 アデリシアはゾファルと僅かに離れた位置に転げると、次なる攻撃に転じようとするリーベを見た。
『我が剣は陛下の刃。我が鎌は陛下の死を狩る刃。この双方を抜かせた貴殿らに敬意を称し私も本気を出そう』
 言うや否や地面を蹴って加速した彼女の姿にアデリシアの顔が上がる。しかしその瞬間、彼女の体が凄まじい勢いで蹴り上げられた。しかもその身は同じく大地に転がされたゾファルに向かっているではないか。
「……ッ、光の、加護を……!」
 せめてゾファルには光の防御壁を。そう願いを込めて放った光が一瞬にして砕け散る。
 それはアデリシアがゾファルにぶつかった衝撃でのものだった。
『反撃せよ。まだ闘えるであろう』
 彼女は乞う。
 逆境にあっても立ち向かう姿を。その雄姿を。
「……、ひひっ……俺様ちゃんすげーたのしい!」
 クイッと口角を拭って起き上がったゾファルが、倒れたアデリシアの肩を叩いて飛び出す。
 その顔に浮かぶのは歓喜。彼女は逆境に置いて尚も闘いを楽しんでいる。
『来い』
 獣の如く急接近する彼女へ、アデリシアの最後の加護が加わる。それを目視し、リーベは剣を地面に突き刺した。
 大地を隆起させて迫る衝撃がゾファルの脇を貫く。そして彼女の口から血が溢れ出ると同時にリーベの腕から鈍い音が響く。
 それは彼女が放ったギリギリの一打がもたらした成果だった。けれど勝負はここまで――
「勝者、リーベ!」
 響く声にゾファルが満足げに膝を付く。そしてその姿を見ていたリーベは『成程』と小さく零し、次の対戦相手を見た。

●第二戦――挑戦者・ヒース
「常勝無敗の英霊、戦い続けた理由は愛、かぁ」
 叶わなかった恋はまるで呪いが如く。その想いがどれほどのものだったのか。その想いで闘い続けた少女の心情は計り知れない。
 ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は初戦で傷ついたリーベの腕を見ると、彼女がまだ抜いていない2本の武器に目を向けた。
 彼の目的は後の戦いに向けて少しでも多くの情報を手に入れる事。つまり先程の闘い以上に彼女を追い付けなければいけない。と言う訳だ。
「まあ、心囚われた戦乙女を解放する、なんて役を演じる事は出来ないねぇ。だけど、ただ一人の戦士として挑むことは出来る。その内に秘めた想い、刃に乗せてぶつけるといい。ボクが、応えてやる」
 そう言って抜き取った二刀の刀にリーベの足が踏み込みを意識して開かれる。
「ヒース・R・ウォーカー。振るうは機械刀・紫電と絶火刃・ルベルクス。全身全霊を持って、貴女に挑む」
『来い。貴殿の力を見せよ』
 抜き取られた湾曲した刀――シミター。それが炎を纏うと、闘いの火ぶたは切って落とされた。

 ――BATTLE START――

 先に飛び出したのはリーベだった。
 地面を蹴る速度は初戦と相違ない。違う点があるとすれば持っている武器と、片手を遊ばせている事だろう。
「その腕、想像以上にダメージが大きいのかなぁ?」
 間合い確保の為に先んじて飛び退いた彼に、シミターから渦巻く炎が襲い来る。それは普通の剣よりも僅かに距離を伸ばした程度の物だったが避けるのが遅ければ直撃していただろう。
『咄嗟の判断で肉体を強化させたか。ならば、これは如何だ』
 突き出した刃をそのままに、間髪入れずに繰り出される連撃にヒースの眉が上がる。
 火の粉を舞わせ、剣圧で斬りに掛かるその攻撃を、ヒースは紙一重で避けてゆく。その度に切り裂かれる幻影は彼の未来の姿か、それとも――
『反撃せよ。さもなくばこの闘い、もう終いにする』
「はは……確かに、ここままじゃ全身全霊が嘘になるかぁ。なら」
 両脚に発言したオーラが色を濃くするのとほぼ同時に、彼の手にする武器にも同色のオーラが纏わりつく。そしてリーベの斬撃が頬を掠めるのを見届けると、今まで後退のみだった足が前へ出た。
「これがボクの刃。受け取ってくれるかなぁ!」
 間合いは既に詰められている。
 それを更に詰めて踏み込んだヒースが放つのはリーベと同じ連撃だ。
 次々と叩き込む斬撃と同時に自らも切り裂かれる衝動に目を細めるが、手を止めるつもりはない。
『……無傷と言う訳にはいかないか』
 小さな声を落として、リーベが更に突っ込んで来た。これにヒースの目が見開かれる。
「っ……これは……予想外、だねぇ」
 自らの胴を貫いた炎の刃。それと同じく彼女の腕を貫いた紫電の刃。
 リーベは先程負傷した腕を犠牲にヒースの攻撃を止めた。そして突き入れた刃に更なる炎を纏わせようとしたところで制止の声が掛かる。
「勝者、リーベ!」
 この声を聞きながら、ヒースはこう零した。
「皇帝を想い会う為に鍛えた技と力なんだろうねぇ……その想い、その技に敬意を抱くよ。ボクも、見習わせてもらうよぉ」と。

●第三戦――挑戦者・源一郎
「ここまでで負った傷は腕1本。技を見せていない武器も1本、か……」
 門垣 源一郎(ka6320)はここまでの闘いを思い出し、今回の英霊勝負の条件を思い返す。
 強者の話しか聞かないと言った彼女は連戦を受け入れている。その自信は生前の彼女の実績からも伺える。
 つまりこの勝負、ハンターが勝てる見込みは殆どないと見て良い。ならば彼女は何を問うのか。
「少し良いか?」
 何かのヒントになれば。そんな思いで問いかけた声にリーベの首が傾げられる。
「もし差し支えなければだが逸話の後の話を教えてくれないか。時の皇帝との謁見の後、どこへ向かったのか……」
 彼女は未来を探す事が出来たのか? 絶望から立ち直れたのか? 幸せに人生を送る事が出来たのか?
 その疑問を込めて問いかけた言葉に絶望の答えが返ってくる。
『何処へとは不可思議な。当然陛下の元へ向かったが……それが如何かしたか?』
「それは……」
 彼女も自分と同じと言う事なのか。未来に希望を見いだせず、歩む事を止め――
「……では何故顕現した」
 ギリっと噛み締めた奥歯に呼応して武器を握る手にも力が篭る。それをただ見つめ、リーベは4本目の武器を手に取った。
「まあ色々思う所はあるだろうが今は闘いに専念してくれ。では」

 ――BATTLE START――

 闘いの幕が上がり、リーベの持つメイスの鎖だけが静かな音を落としてゆく。
 お互いの様子を伺いながらコロッセオを時計回りに動き続けること僅か。源一郎が初めの一歩を踏み出した。
「……後続の為に行くしかない!」
 範囲攻撃の有無を見極めながら肉体を強化させて踏み込む。
 チェーンメイスはメイス自体が範囲攻撃として飛んでくる危険性もある。事前情報では防壁を張る可能性もあるとのこと。
 であるなら容易に防御を敷けない攻勢に出るべきだ。
 源一郎はリーベの背後を目指して加速し、思わぬ声を拾った。
『私は闘い続ける。故に私は強者を求めよう。私は私を私ヲ――……コロスッ!』
「!」
 語尾の勢いに合わせて放たれたメイスが、咄嗟の回避に出た源一郎の足を掠める。そこから漂う血の匂いに目を細めて着地すると、彼は再びリーベの背後を取るべく最接近を試みた。
『コロスコロスコロセッ!!』
「……これが常勝無敗の剣豪」
 彼女が連戦を受け入れた理由が見えた気がした。しかし今は戦闘中、他所事を考えている場合ではない。
 源一郎はすぐさま顔を上げると、彼女が踏み込むタイミングに合わせてルーンソードを放った。
 これにリーベはすぐさま反応を示す。
 手にしていたチェーンメイスのチェーンの部分を振り回して氷の壁を形成。迫る刃を叩き落すと、今度はメイスを源一郎に向けて投げつけた。
「これは想定内だ」
 引き戻したルーンソードを再び投擲しながら距離を測る。そうして己が盾を握り締めると自らを狙ったメイスが地面に落ちるのに合わせて飛び出した。
 肉体強化で超接近し、そこから更に素早さを強化して連撃を放つ。
 リーベはメイスを諦めると、シミターに手を伸ばした。だが間に合わない。
『――ッ!』
 声無き悲鳴が上がり、連撃を回避する為に身を捩った彼女の腿が抉れる。
 凄まじい勢いで鎧が剥がれ、リーベは奇声のような音を出して手にしたシミターを振り下ろした。
 頭上から振り下ろされた攻撃は回避のしようがない。そう思った時、白の死神「エゴ」が攻撃を受け止め戦闘は終了となった。

●最終戦――挑戦者・ユーリ&フィルメリア
「常勝無敗の剣豪……囚人達の英雄……」
 そう呟くユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はこれまでの闘い。特に先の源一郎との闘いを思い出し目を伏せた。
「私は負けられない。けれど彼女は……」
「戦い続ける理由、強者を求める理由、その根底にあるのは話に聞く伝承の恋心故……けれど彼女の心は」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)の声に小さく頷いたユーリは、「蒼姫刀『魂奏竜胆』」を抜き取ると、その切っ先をリーベに向けてこう放った。
「英霊リーベ。貴女が敗北を望むのであれば私がその導となろう。言葉はこの身と刃を以て交え、戦いにおいて語り合うと誓う。私の刃に込められし祈りと想いは、容易く阻めなはしない!」
 常勝無敗の英霊は死を望んでいる。
 彼女は英霊になった今でも尚、恋い焦がれた皇帝を想っている。そしてその相手の元へ行く事を願っている。
 だが彼女が死を得た所で想い人の元へ行けるとは限らない。何故なら彼女は英霊と言う存在だから。
「英霊は語り継がれる伝承などによって能力に補正が掛かる、という様な事を聞いた気がするわ。もしそうだとするなら、彼女の皇帝を追いたいと願う気持ちも伝承が生み出した感情の可能性もあるわね」
 つまり、リーベが敗北を望み、その先に死を望むのであればそれは伝承の――民衆の想いと言う事になる。
「その想いを斬る。と言ったら怒られるかしら。でも、『今』を生きる者として先達である貴女を救いたい。恋い焦がれた時の皇帝が誰なのか、それも興味があるけれど、今はハンデ有りの状況下でも貴女と対等に渡り合うくらいはしてみせないとね!」
 片腕と片脚を負傷した常勝無敗の剣豪。その彼女に勝つために、フィルメリアはユーリの隣に立って拳を握り締める。
「では最終戦――」

 ――BATTLE START――

 先手を取ったのはユーリとフィルメリアだ。
 彼女達は地面を蹴るのと同時にお互いに目で合図を送ると、左右に分かれるようにして飛び出した。
 リーベを挟むようにして展開する彼女らの目に、剣を手にする姿が飛び込んでくる。
「フィル!」
 間合いを詰めるユーリにリーベの土属性スキルが迫る。が、フィルメリアの機導砲がこの行動を遮った――否、正確にはリーベの動きを邪魔した、と言うべきか。
 剣を地上に刺す瞬間、刃に機導砲を当てたのだ。結果、接近するユーリとは僅かに照準をずらしてスキルを展開。
 ユーリはかすり傷で済み、リーベは目前に迫る彼女に武器を捨てた。
「武器を? ううん、これは……!」
 数多の視線を乗り越えた者の勘だろうか。寸前で飛び退いた彼女の目に鎌が振り薙がれる。
 そうする事で放たれた風の刃は、ユーリとフィルメリアを巻き込む勢いで迫る。
 しかしこの攻撃も2人の連携によって遮られてしまう。
「ユーリ、このまま押すわよ!」
 自らに迫りくる風を光の障壁に纏わせた雷撃で弾き飛ばすと、フィルメリアはユーリに合わせて飛び出した。
 左右から突っ込んで来る姿に氷の壁を形成する。しかしその行動はユーリの斬撃によって阻まれてしまう。しかも次いでフィルメリアが叩き込んできた鎧徹しにリーベの動きが止まった。
「未来を――どうか、前を向いて」
 囁き、ユーリの持つ二刀の刃がリーベの兜を、そして鎧を砕く。
 そうして一瞬の静寂の後、彼女の纏う鎧と兜が崩れ落ち、それと同時にリーベの膝も地面へと着く。そこで勝敗を決める声が響いた。
「勝者、ユーリ・フィルメリアペア!」

 こうして常勝無敗の剣豪『リーベ』とハンターの闘いは終わった。
 幼い少女の面影を覗かせる英霊は、自らを破ったハンターにこう言葉を残したという。

『私は闘い続ける。故に私は認めよう。貴殿ら『今』を生きる者たちの力を――……感謝する』

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参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/09 08:48:10
アイコン 質問卓
門垣 源一郎(ka6320
人間(リアルブルー)|30才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/11/08 21:25:11
アイコン 相談卓
門垣 源一郎(ka6320
人間(リアルブルー)|30才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/11/11 23:07:08