ゲスト
(ka0000)
海辺の竜。逃げる半魚人
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/18 09:00
- 完成日
- 2017/11/22 20:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●伝令
生臭い潮の香りが押し寄せる。
酷い臭いだ。
だが生命に満ちた臭いだ。
驚きバランスを崩そうとする軍馬を宥め、小高い丘を一気に登る。
騎兵が鞍から飛び降り古ぼけた聖堂に近づくと、鉄で補強された分厚い扉が開け放たれた。
「さすが領主様の軍だ。早速参りましょう!」
頭頂からつま先まで完全装備の司祭が、ぐっと拳を握って勢いよく走り始めた。
このままフルマラソンでも走り抜けそうな様子は非常に心強いのだが、向かっている方向が予想外だった。
「司祭殿、歪虚はそっちじゃありません! 山です山!」
「何をおっしゃる。海から歪虚が攻めて来たから大急ぎで鎧を着たわけで」
「海? ちょ、どういうことですか。山に竜種が出たから援軍要請に来たんですよっ」
司祭と伝令がお互いの勘違いに気づく。
太陽光を反射して海原がぎらりと光り、狼煙の煙が上がって警鐘が猛烈な勢いで鳴らされ始める。
「た」
「大変だぁ!」
ハンターズソサエティーへ伝令が駆け込む、1時間前の情景だった。
●ただいま混乱中
「準備が出来次第転移門に向かって下さいっ」
オフィス職員が拡声器片手に叫ぶが喧噪にかき消されてほとんど聞こえない。
大量の弾薬がCAMに積み込まれていく。
幻獣が主に手伝ってもらって装備の最終確認を行っている。
「海側と山側の両方から歪虚が迫っています。山側はまだ時間が……」
情報が錯綜している。
流言飛語の類いではないだろうが、現地がどこなのか敵が何なのかはっきりしない。
ふと視線があう。
大人パルムが端末へ高速入力。
貴方の目の前に半透明の立体映像が現れた。
『海岸は放棄しろ。丘の手前で迎え撃つ』
巨大な半魚人の膝をメイスで砕きながら、全身金属鎧の司祭が大声で命令する。
『ですがっ』
『退くのは恥ではない。戦う力を持たぬ同胞を守れぬことを恥と思え』
『そうじゃなくて、水平線に特大の歪虚がいますっ。上陸されたら聖堂ももちませんっ』
『何ぃ!?』
全身鎧の司祭が振り返る。
ずいぶん荒れてしまった船着き場の向こう、いつもなら凪に近いはずの海が荒れ始めている。
『ぬぅ、あれは』
『蜥蜴……まさか、竜種!?』
傷だらけの蜥蜴頭が熱を帯び、水面の広範囲を激しく煮立たせていた。
●竜種歪虚
『あの糞蜥蜴、ブチ殺してやらぁっ』
蜥蜴頭の竜種が怒り狂っている。
強力な同属につきあってマテリアル稼ぎ……具体的には聖堂教会の聖遺物漁りやマテリアルが豊富な土地巡りをしていたのだが、好き勝手暴れる同属の巻き添えになり重傷を負うわ超高位歪虚に狙われるわで散々だった。
『なんだお前等。邪魔だ』
CAMの数割増しサイズの半魚人の首を爪で斬り飛ばす。
少し小さなサイズの半魚人が包囲網を作るが、大きく息を吸って負のマテリアルを混ぜて吐き出すだけで全て吹き飛ぶ。
『チッ、腹が重い』
海底にめり込んでいたときに食らったものが悪いのだろうか。
妙に腹が重くて動きが鈍かった。
『フン』
横から高速で突き出された槍を軽々躱して尻尾で一撃。
上半身が砕かれた半魚人が海の中に沈んでいく。
『消化する暇もない。早く地上に……ハンターか』
転移の気配を感じて目を細める。
この状況では飛んで逃げるのは難しい。
つまり、真正面から打ち砕くしかない訳だ。
『纏めてくらって消化してやる』
巨大な体を水中でくねらせ、全長20メートル越えの竜が漁村へ近づいていった。
生臭い潮の香りが押し寄せる。
酷い臭いだ。
だが生命に満ちた臭いだ。
驚きバランスを崩そうとする軍馬を宥め、小高い丘を一気に登る。
騎兵が鞍から飛び降り古ぼけた聖堂に近づくと、鉄で補強された分厚い扉が開け放たれた。
「さすが領主様の軍だ。早速参りましょう!」
頭頂からつま先まで完全装備の司祭が、ぐっと拳を握って勢いよく走り始めた。
このままフルマラソンでも走り抜けそうな様子は非常に心強いのだが、向かっている方向が予想外だった。
「司祭殿、歪虚はそっちじゃありません! 山です山!」
「何をおっしゃる。海から歪虚が攻めて来たから大急ぎで鎧を着たわけで」
「海? ちょ、どういうことですか。山に竜種が出たから援軍要請に来たんですよっ」
司祭と伝令がお互いの勘違いに気づく。
太陽光を反射して海原がぎらりと光り、狼煙の煙が上がって警鐘が猛烈な勢いで鳴らされ始める。
「た」
「大変だぁ!」
ハンターズソサエティーへ伝令が駆け込む、1時間前の情景だった。
●ただいま混乱中
「準備が出来次第転移門に向かって下さいっ」
オフィス職員が拡声器片手に叫ぶが喧噪にかき消されてほとんど聞こえない。
大量の弾薬がCAMに積み込まれていく。
幻獣が主に手伝ってもらって装備の最終確認を行っている。
「海側と山側の両方から歪虚が迫っています。山側はまだ時間が……」
情報が錯綜している。
流言飛語の類いではないだろうが、現地がどこなのか敵が何なのかはっきりしない。
ふと視線があう。
大人パルムが端末へ高速入力。
貴方の目の前に半透明の立体映像が現れた。
『海岸は放棄しろ。丘の手前で迎え撃つ』
巨大な半魚人の膝をメイスで砕きながら、全身金属鎧の司祭が大声で命令する。
『ですがっ』
『退くのは恥ではない。戦う力を持たぬ同胞を守れぬことを恥と思え』
『そうじゃなくて、水平線に特大の歪虚がいますっ。上陸されたら聖堂ももちませんっ』
『何ぃ!?』
全身鎧の司祭が振り返る。
ずいぶん荒れてしまった船着き場の向こう、いつもなら凪に近いはずの海が荒れ始めている。
『ぬぅ、あれは』
『蜥蜴……まさか、竜種!?』
傷だらけの蜥蜴頭が熱を帯び、水面の広範囲を激しく煮立たせていた。
●竜種歪虚
『あの糞蜥蜴、ブチ殺してやらぁっ』
蜥蜴頭の竜種が怒り狂っている。
強力な同属につきあってマテリアル稼ぎ……具体的には聖堂教会の聖遺物漁りやマテリアルが豊富な土地巡りをしていたのだが、好き勝手暴れる同属の巻き添えになり重傷を負うわ超高位歪虚に狙われるわで散々だった。
『なんだお前等。邪魔だ』
CAMの数割増しサイズの半魚人の首を爪で斬り飛ばす。
少し小さなサイズの半魚人が包囲網を作るが、大きく息を吸って負のマテリアルを混ぜて吐き出すだけで全て吹き飛ぶ。
『チッ、腹が重い』
海底にめり込んでいたときに食らったものが悪いのだろうか。
妙に腹が重くて動きが鈍かった。
『フン』
横から高速で突き出された槍を軽々躱して尻尾で一撃。
上半身が砕かれた半魚人が海の中に沈んでいく。
『消化する暇もない。早く地上に……ハンターか』
転移の気配を感じて目を細める。
この状況では飛んで逃げるのは難しい。
つまり、真正面から打ち砕くしかない訳だ。
『纏めてくらって消化してやる』
巨大な体を水中でくねらせ、全長20メートル越えの竜が漁村へ近づいていった。
リプレイ本文
●人と魚の異形
喉奥から零れる腐臭は人間由来のもの。
だらしなく開いた口からは際限なく濁った唾液が零れている。
人と魚の要素を混ぜ、どちらでもない理屈で捏ね上げたのがこの半魚人達だ。
戸締まりされた家の窓や玄関を拳で壊し、中に誰もいないのに気づいて隣の家に向かうのを繰り返している。
既に4分の1の家屋が破損した。
このままでは、歪虚の撃退に成功しても村人の生活が成り立たなくなってしまうかもしれない。
プラズマの光が1体の全身ともう1体の左半身を覆う。
分厚い筋肉を持つ歪虚は致命傷こそ受けなかったが、巨体が災いして爆発を効率よく受け止め深手を負う。
苛立たしげに拳を振るい、もう1体は逆側から蹴りを繰り出してくる。
ユーレン(ka6859)のエクスシアは斜め前へ出て威力のある蹴りを躱し、真正面から来た拳をCAM用ランスで受けて被害を軽減させた。
「やっとユニットに騎乗できる日が来たか」
覚醒者の搭乗を前提に調整された機体はかなり扱い辛くしかも高価だ。
操縦の面でも苦労に晒されているユーレンは、しかし楽しげに口角をつり上げている。
「お互い頑張ろうぞ、エクスシア」
4メートル級歪虚による打撃を受けたにも関わらず、ユーレン機はかすり傷程度のダメージしか受けていない。
CAM用ピストルを使いグレネードを連発。
ユーレンの前にいる半魚人も、ユーレンを無視して村に入り込もうとした半魚人も、高温で焼かれて生き物のものに聞こえない悲鳴をあげた。
新手が出現する。
岸の近くの海に2回り以上大きな半魚人の上半身が見える。
全長は推定で7メートルほどだろう。
ユーレンは危険から逃げず、しかし無駄な危険は冒さない。
丘の上の聖堂に到達すれば1匹でも脅威になる4メートル級を確実に倒すため、じりじり丘に向かって下がりつつグレネードを使う。
弾切れの後は槍での攻防に切り替える。
数で圧倒しようと4メートル級が集まって来たときには、虎の子のマテリアルソードを解禁して長大な刃を振り下ろす。
頭から胸まで断たれた半魚人が後ろに倒れ、胸を深く斬られた歪虚にもたれかかって邪魔になる。
もう1方の腕に持つ槍で牽制を行わせつつプロテクションを発動。エクスシアの防御向上を継続させた。
「小型の半魚人も殲滅とはまではいかぬか。じゃが!」
仰け反るように後ろへ跳ぶ。
真横から飛んできた激流が胸部装甲を削り、勢いを緩めず頑丈な小屋を反対側まで貫く。大型半魚人の必殺技だった。
「時間は稼がせてもらうぞ」
ユーレン機頭上を、ワイバーンが高速で横切った。
『歪虚の一部を丘まで誘き寄せる。CAM隊の準備は?』
「問題ない」
両手を操縦桿に置いたまま、ユーレンがトランシーバー越しの声に応える。
先程から雑音が混じり始めている。
機体の標準装備の通信機だと意思疎通に難儀するほどだ。高確率でより強力な歪虚が接近中なのだろう。
『了解。開始する』
ワイバーンが速度と高度を落とす。
地面にも半魚人型歪虚にも非常に近く、見ている側が肝が冷えるほどだ。
「……こいつはまた」
猛烈な向かい風でも目を開いたまま、クラン・クィールス(ka6605)が手綱を握って微細な調整を行う。
失速直前の速度を保って家と家の間を抜け、干されている網の上を飛び越え、半魚人が追いつけるぎりぎりの速度を保つ。
物理的に食い出のあるワイバーンと、村人よりはるかに目立つマテリアルのクランを目指して半魚人が集まってくる。
時に振るわれる拳や尻尾を悠々と躱し、速度を保つため反撃は行わずに徐々に丘へ近づけていく。
予想以上に骨が折れる依頼だった。
「まぁ、言っていても仕方ない」
半歩間違えばワイバーン諸共すり下ろされない進路から変更。
半魚人の手に届かない高度へ駆け昇った。
「綺導・沙織。エーデルワイス弐型。出ます!」
聖堂周辺の戦いが始まる。
白く細見のエクスシアが肩部大型ランチャーから一度に10ものミサイルを放ち、近くの聖堂戦士があっと驚くほどの精度で歪虚に命中させる。
半魚人の全高は4メートル前後。
雑魔としてはかなりの格であり、この地の聖堂戦士団では戦死者を覚悟しなくてはならない相手なのに、白い巨人により一方的に打ち減らされていく。
「状況を報告願います!」
『海側に大型半魚人10。速度は1。防戦中だが何体か抜ける』
「はい!」
元気に答えて小型ミサイル10発を再装填。
ふらつきそうになる機体を超人級反射神経と士官学校仕込みの技術で抑え、先頭で駆けてくる体格の良い半魚人に狙いを付けた。
引き金を引く前に半魚人の上体が揺れる。
筋肉に覆われた胸部に小さくない穴が開き、紫に近いどす黒い地が反対側から零れる。
『頑丈だね。私の銃では何発必要か』
こんな言葉遣いなのに芝居気のない、素で偉そうな態度の声が沙織(ka5977)の耳に届く。
もっとも沙織が意識するのは声では無く同時に送られてきた数値だ。
エーデルワイス弐型が半ば自動で狙いを微修正。沙織が意識の引き金を引くと狙いがより正確になったミサイルが飛び出した。
直撃。打撃と爆発。舞い散る血と骨が陽光に融けてこの世から消える。
『ふむ。手柄をとられてしまったね』
沙織は思わず笑ってしまった。
ここまであからさまにサポートしてくれているのにこの言動。合いの手を入れた方がいいのだろうか。
そんなことを考えている間も手と足と脳が動く。
ほぼ無意識で新たな目標に当てるための計算を終了。再装填と狙いの修正の指示を四肢と脳波を使って完璧に伝える。もちろん偉そうな声と一緒に送られてきたデータも反映済みだ。
『おお。まただ』
久我・御言(ka4137)機によるライフル弾1発で血を流し、久我機が集めて渡したデータを元に沙織機が止めを刺す。
歪虚の数が驚くほどの速度で減っていき、人類を獲物として見ていた半魚人が初めて恐怖を覚えた。
『楽をさせてはくれないようだ。沖から全長20メートル越えの竜種が接近中。大型の半魚人も、ほう、家の陰からでも見えるね』
最も危険な地上で時間を稼いできたユーレンは、一度戦場から離れて機体を停止させていた。
強力なヒールで大破から中破壊程度まで癒やせているようだが、大型魚人と戦うことを考えるともう少し回復が必要だ。
『ドラゴンを視認した』
久我ではない声を受信する。
『サイズより気配が強い。警戒を』
唐突に通信が途切れる。
不自然の空気の揺れを感じた直後、複数の家が同時に燃え上がり延長線上の地面が橙色に染まった。
「なんて威力」
驚愕しても沙織の操縦に乱れはない。
魔銃「ナシャート」を発動体にしてマテリアルライフルを発動。
紫の光が近くと遠くの半魚人を撃ち抜く。
遠くの1体はそれで倒せたのだが、近くの1体は運だけで直撃を避け最終防衛線にとりつこうとする。
久我機は聖堂を守る聖堂戦士団を援護している。
エーデルワイス弐型の火力では、半魚人を食い止めるのは不可能に思われた。
「威力はこの程度で十分だけどね」
ナシャートから複数の光の線が延びる。
丘を登り切る直前の半魚人に接近。複数の攻撃を避ける技術も力も無く、一度大きく震えてから歪虚が崩れ落ちる。
もう1つの光の線は射程内に入った別の1体に届き、かなりの深手を負わせて紫の血を流させる。
『残り6。全て視界内』
「はい!」
退き撃ちする時間的余裕も空間的余裕もない。
沙織は銃の射程を忘れたかのように半魚人の群れに突っ込み囮になり、半魚人はそれを最大の隙を見せて数で圧殺しようと待ち受ける。
「燃え」
CAMと比べれば小さなナシャートが業火を思わせる光を帯びる。
その光に半魚人が気づいたときには、既に逃げるも防ぐも不可能だった。
「なさい!」
リアルブルーで鍛えた技術でCAMを走らせ、クリムゾンウェストで磨いた術をCAMを介して解き放つ。
溢れた破壊の力が、ユーレン達に手傷を負わされていた半魚人達に止めを刺した。
●海の魔性
血で血を洗うと表現するには、CAMサイズの半魚人達は浮き足立ちすぎていた。
「半魚、なんですかねあれは。名状し難い訳でもないですが、はてさて」
マッシュ・アクラシス(ka0771)のワイバーンが光の豪雨を降らせて巨大半魚人を串刺しにした。
巨体の敵にはこの種の攻撃がよく効く。
無傷の半魚人が瞬く間に負傷者に変わり、捕食では無く逃げることを目的に岸へ上がって丘を目指す。
大技は連発できないので己の弓で以て追撃を行う。
かなりの距離で的中はしたものの、魔法を集中訓練させたワイバーンによる大技ほどの威力は無い。
「まあ、いいでしょう」
ユーレン機が戦場に復帰し大型半魚人に仕掛けている。
一撃浴びせては逃げる大型を追いまた一撃。
あの調子なら丘にたどり着く前に何体か倒せるだろう。
ソレル・ユークレース(ka1693)は次の大型の処理に移ろうとして、水平線よりずっと近くの気配に気づく。
「以前の大規模作戦級か」
蜥蜴頭だけが小さく見える現状でも本能が警鐘を鳴らしている。
ソレルは操縦桿についたボタンを押して対VOIDミサイルを発射。
ハンターを避けて隠密裏に上陸しようとした半魚人複数を爆発に巻き込んだ。
「弾数が足りないかね」
弾切れの量産型対VOIDミサイルを切り離す。
移動力が増えるような変化はないが、荷物にしかならないパーツを持ち運ぶよりはいい。
CAM基準では小ぶりなハンマーサイズの装備を手にとって、魔導型デュミナスを駆り大型歪虚の迎撃に向かう。
速度に3倍の差があるのですぐに追いつく。
踏み込みからの上段の振り下ろしでメイスを肩にめり込ませる。
なかなかの手応えだ。
骨を2、3本砕いた手応えはあるが、状態異常が全て弾かれた感触もある。
機体ごと振り返る。
水流発射の予備動作中半魚人にメイスをぶつけ、長距離高圧水流を中断させさらなる追撃を行う。
「海からやって来る奴さんの歓迎にもスキルは残しておかんとな」
踏込も渾身撃も温存だ。
とにかく時間優先、効率優先で逃げる大型にメイスを当て続ける。
そこへ魔力の矢が突き刺さる。
鱗が分厚い肩から背中に抜ける壮絶な威力であるのに、それを為した黒の夢(ka0187)はとても不満げな表情を浮かべていた。
「あのお魚水属性なのね」
土属性の魔術書があればあっという間に殲滅出来る気もするが、今スキルを使い過ぎると接近中の竜種歪虚相手に戦う力が足りなくなる。
だからワイバーンに任せることにする。
「ペインー、我輩ミディアムがいいのなー」
ワイバーンの背で優雅に寝そべり、一見いい加減な、実際は一欠片の容赦もない指示で大型半魚人にけしかける。
反撃の槍や水流が繰り出されても軽々と躱し、苛立たせるためにわざと効き目の薄い炎属性のブレスを使い、爪で切り裂き半魚人を削る。
「竜種? む、あの子会った事あるような無いような」
半魚人に対する興味が0になる。
ワイバーンを180度反転させ、未だ岸より離れていた竜種へ一足足飛びで近づいた。
竜は顔も上げない。
鮮やかな身のこなしで水をかき分け丘に近づいていく。
ただ、腹の一部が奇妙に膨れているため、見た目の程速度は出ていなかった。
「お腹が重いの? なら半分こする?」
巨大かつ壮絶な癖に、酷く無邪気な殺気が竜種の鱗を撫でる。
竜種が残像すら見える速度で身を捻る。
水の属性を帯びた重力波がその巨体を覆い、しかし強靱な鱗と分厚い筋で受け流しかすり傷程度に抑える。
『この臭い、奴の……』
巨大な瞳が黒の夢を見て、細められ、何度も瞬きする。
『お前、本当にハンターか?』
負の気配が濃い。
超高位の覚醒者なら膨大な正しいマテリアルと同時に負のマテリアルも持っていることがある。
が、この黒いエルフは負の側に偏りすぎている気がする。
契約者と間違うほどではないし気を付けなければ気づかない程度ではあるが……。
「ダーリン以外の竜も喋ったり出来るのかな。それもと例外?」
小首を傾げる様は愛らしく同時に妖艶でもある。
竜種はそれに答えようとはせず、脅威であり、そして成長の糧でもあるマテリアルの塊に向け高熱の息を吐き出した。
ワイバーンが鬼気を放つ。
殺気を感知し熱が迫るより速く斜め移動を開始。
ほぼ水平なブレスを余波込みで躱して竜種の死角に滑り込んだ。
「よう」
最も大きかった半魚人が縦に割れた。
異臭を放つ臓腑と体液が飛ぶ空間を平然と通り、返り血だけを浴びたボルディア・コンフラムス(ka0796)が大股で現れる。
「テメェがボスか」
竜種の動きが一瞬に満たない間止まる。
そして、蜥蜴頭からでも分かるほどはっきりと、食欲と見分けのつかない歓喜を露わにした。
大気が揺れる。
竜種の足が海底に届き、水面から首から肩まで出て翼を広げられる。
「上等!」
巨大な熱が吐き出される。
砂浜が数十メートルに渡って灼熱の地獄へ変わる。
「あの黒蜥蜴なら耐えるぞ。テメェはどうだ!」
恐るべき装備力に相応しい防御力で耐え、覚醒者としての格に相応しい速度で以て巨大斧を一閃。
ドラゴンの喉に触れる寸前、ただひたすら巨大な爪が迎え撃ち双方退かずに巨大な火花を散らす。
『奴ガ夢中ニナルノモ当然ダナァッ!』
発音が対人間用のそれから離れていく。
負のマテリアルが巨体を高速で巡り、より鋭くより獰猛に巨体が変わる。
ボルディアも負けてはいない。
祖霊をほとんど力尽くで呼び込んで一時的に巨大化。
龍を一撃で肉片に変えかねない超巨大斧を真横に薙ぐ。
竜爪が迎撃する。
爪が凹み、竜種が横に数メール押され、各所から鮮血が噴き出し両者を汚す。
ドラゴンの反撃。
ひたすら熱い膨大なエネルギーを狙いも付けずにまき散らし、砂の数割をどろりと溶かして膨大な水蒸気を発生させる。
熱は下がらず水蒸気も止まらない。
ボルディアは大重量装備のまま身軽に跳んで、熱と炎を避け、避け、分厚い斧で受けて耐え、その度に巨大斧を振るって火花を散らす。
『オォ!』
熱量を変えずにブレスを絞る。
色の無いブレスがボルディアを巻き込んで振るわれた直後、熱に耐えきれずに大量の砂と鉄が爆発する。
「痒いなぁ!」
両手で斧を持ち振り上げる。
竜の胸から喉にかけて凹んで大きく仰け反って、しかし倒れも気絶もせず体を捻って砂浜に着地する。
大気がみしりと軋み、海岸の小さな生き物が死滅した。
「ひでぇな」
ソレルがつぶやく。
数時間前までの平和は消え去り、今ここにあるのは歪虚の暴虐のみ。
魔導型デュミナスがあってもソレルが立ち向かうには強すぎる相手だ。
己が自然と笑っているのに気づく。
彼我の戦力差はかつてあの時以上。
だが、あのときとは違って側にはいなくても相棒がいる。
気合いの入った同僚が7人もいるのだ。
「やる気は充分。さて、やろうじゃねえか」
目標大型ドラゴン。
長距離巡行用ブースター、発動。
一瞬遅れて砂浜が左右に分かれ、魔導型デュミナスがドラゴンの行く手を遮る形で着地する。
「行け。ここでくたばるほど殊勝じゃないだろう」
「へっ、この程度で」
初撃と変わらぬ速度で斧を振り下ろす。
斧と竜爪が噛み合い、両者の腕から同時に血が噴き出す。
血が足りずボルディアの目が一瞬虚ろになる。
そのタイミングで竜爪が繰り出され、ソレルのデュミナスがぎりぎりハンマーで受けボルディアは自らのイェジドに回収された。
止めようとしてもヴァーミリオンは反応せずドラゴンの射程外まで急ぐ。
ボルディアが肩をすくめて力を抜くと、うっかり悲鳴を上げたくレベルの痛みが体奥から伝わってきた。
●竜と踊る
『ドケ。雑魚ニ興味ハナイ』
傲然と見下ろす竜の前で、ソレルは穏やかに微笑んだ。
「その図体で自信がないのか」
竜の目が一気に血走る。
挑発している間もソレルは高速で思考を続けている。
先程までのような広範囲ブレスが来ると、CAMのサイズが不利に働き短時間で大破してしまう。ボルディアの攻撃中に近づかなかったのはそのためだ。
竜の巨体がぶれる。
皆無に近い予備動作で力を溜めて、岩盤すら抜ける突きが魔導型デュミナスを襲う。
大きすぎる音は音として認識出来ない。
胸から腰にかけての装甲が砕かれ、複数のパーツが機能を失い予備の回路が稼働を始める。
「雑魚も潰せないのか。竜ではなく蜥蜴か?」
落ち着き払った態度で、心底不思議そうにたずねてみせる。
巨大な竜はブレスを吐くことを忘れ、ソレルの機体を潰そうと両方の手を振り上げた。
「半魚人に比べれば、此方のが可愛らしく見えるものですなあ……」
マッシュが矢を放す。
限界まで引き絞られていた大弓が力を解放し、たった1本の矢に膨大なエネルギーを持たせて加速させる。
いくつもの竜鱗が砕けて破片が宙に舞う。
衝撃でシャフトしか残っていない矢が細かく震えて残った力を歪虚に渡す。
『コレハッ』
デュミナスがメイスを振り上げる。
強靱さと柔軟さを兼ね備えているはずの竜の表面が、ただのメイスの一撃でひび割れ窪んで大きな凹みが出来る。
一瞬とはいえマッシュ機に全神経を集中したのが、大型竜種最大の隙になった。
「思い出した。ダーリンのお仲間なのな」
ぽん、と手を打つ音と共に水の力を帯びた重力波が吹き荒れる。
竜種の巨体に非常によく効く。
特に防御が弱まった胴体部分への効きは壮絶なほどで、骨と内臓まで深く傷つき鮮やかな鮮血が喉を遡る。
「ねぇねぇ、汝も空から海底にでも刺さって埋まったの? 岩を食べたの?」
『ヤ、野郎ノ女ノ趣味ダケは理解デキン』
ブレスを真下に叩き付ける。
集束の甘い炎が半球状に広がり、足止め担当のCAMだけでなく黒の夢のワイバーンまで巻き込まれた。
「後退する」
『逃ガスカ!』
ソレル機がブースターを使い斜め後ろ、つまり民間人はいない囮には絶好の位置へ飛ぶ。
彼を脅威と認めた竜が高精度高出力の鋭く絞ったブレスを吐こうとして、脇腹に鮮烈な激痛を感じてブレスの発射に失敗する。
「守りは俺に任せろ。お前は飛ぶのに専念だ」
地面にめり込むように着地したワイバーンの背中で、クランが全身を使ってソーブレードを引き抜く。
血と脂にまみれた竜鱗がぱらぱらと零れ、彼の鎧とワイバーンを赤黒く彩る。
『ヌ』
咄嗟に尻尾を振り回す。
かすっただけでもワイバーン諸共ミンチな威力がある。
ソレルは竜の腹を蹴ってわずかに位置をずらし、巨大な質量を紙一重で躱して再飛翔までの時間を稼ぐ。
「ヒット&アウェイと行きたい所だが、甘くは無いな」
追撃の炎を横に滑る飛行で回避。
再度剣を構えるものの竜に隙は見えなかった。
「敵も味方も満身創痍だね」
コマンダータイプの魔導型デュミナスが家の陰から姿を現し、何の変哲も無い銃での射撃を開始する。
腹に異物を抱え込んだ竜はろくに回避が出来ない。
1発ごとに受けるダメージは小さくても、範囲ブレスで焼けない距離から攻撃されるのは鬱陶しい。
「焦ってきたね」
高出力の絞ったブレス。
久我は悠々と躱し、絣かけたときもシールドを使って損害を抑える。
実戦で磨かれデュミナスは見たよりずっと頑丈だ。
目立つ場所から延々射撃するのが竜種のかんに障った。
巨大竜が砂浜を北上する。
銃弾を浴びても魔力の矢を受けても歩みを止めず、範囲ブレスで一気に仕留めようとデュミナスを目指す。
「後で請求されても困りますが」
マッシュが息を吐く。
漁村への村外が増えるばかりだが気にしている余裕はない。
通常の矢を打つ手を止め、全体に声をかけた上で貫徹の矢を放つ。
今度は後頭部に突き立った。
最後の重力波とスキル込みの銃弾が次々に命中し、膨大とはいえ限りのある竜の生命を削る。
「追いつかれてしまったか。はて、どうしよう」
巨大な脅威に迫られても久我の態度は変わらない。
村から離れた場所に誘導されているのにも気づかず、20メートル級の歪虚が鉄すら焼き尽くす炎を周囲にばらまいた。
HMDに無数のエラーが表示される。
だが現状とは少しだけ違う。久我が使った防御障壁の分被害が減り、甚大なダメージを受けても辛うじてデュミナスは動く。
「最期まで抵抗といこうか」
魔導鋸槍をひょいと振り上げ、不自然に出っ張った竜の腹をぽこんと叩く。
吐き気が襲う。
竜の胃腸が不規則に蠕動し、炎だか体液だか負マテリアルだか分からない物が竜の口から噴き出した。
久我は、逃げた。
ブーストパックの速度を活かしてブレスの追撃により大破するまでに射程外に逃れる。追撃に使われた3度のブレスが、久我の狙い通りに無駄になる。
歪虚が地団駄を踏んでも意味は無く、物理的な力すら伴う視線を左右に向ける。
10連のミサイル、大小の砲弾、単発の術などが全て別方向から向かって来る。
『コノ程度で勝テルト』
今は空を飛べない。
対単体のブレスではなかなか当たらず当たっても致命傷にならない。
ならば被弾覚悟で近づき範囲攻撃で仕留めようと決断したタイミングで、後ろ足の片方に鋭い痛みが走った。
「硬いな」
赤黒いオーラで覆われた腕で、クランがソーブレードを竜から引き抜く。
あらゆる面で全力を出さなければ分厚い竜の表面を抜けない。
全力を出せば空中で高度を保つことが出来ず、このように攻撃のたびに不時着することになる。
竜は無視をした。
雑魚など最後に潰せば問題ないと、あまりにも甘すぎる判断を下してしまった。
「正面切ってやり合うのはCAM連中に任せたかったが、な」
竜を追う。
無視されようが足を斬り、炎を撒かれようが腹を刺す。
『邪魔ヲ』
竜種が振り返る。
雑さの消えた炎がワイバーンとクランを取り巻き生命力を削る。
「邪魔はするさ」
最早何本目になるか分からない矢が鱗と鱗の間に突き刺さる。
矢が来た方向に向き直っても、飛べぬ竜では届かぬ距離を飛ぶ別のワイバーンが見えるだけだ。
龍は巨大だ。重傷者を入れても8人で倒そうとするのは無茶が過ぎる。
だがその程度の無茶を押し通せないようでは、歪虚という勢力に勝つどころか抵抗も出来ない。
「……この質と数ならいけるか。クランさんは一時後退。CAMは射程外に後退可能な位置から射撃を継続」
マッシュは淡々と戦場を誘導する。
回避に優れたものを比較的に近距離に置き、攻撃力の分回避能力に不安があるものは出来るだけ遠方に。
もちろん範囲攻撃で一気に落とされないよう距離は開けて、だ。
「そろそろ卑怯と泣き言を囀る頃ですか」
竜がフンと鼻を鳴らす。
血が流れ存在する力がすり減ろうが決して焦らず、なかなか当たらないのを承知で射程内のハンターにブレスを向ける。
「っ」
不運にもワイバーンが直撃を浴びる。
クランが庇って主従墜落死の展開はなかったものの、クランが気絶をして朦朧としたワイバーンがふらふら高度を下げていく。
竜の顎が開かれ白い牙が陽光に照らされる。
そのタイミングで、紅のイェジドがドラゴンの尻を張り飛ばしてたたらを踏ませた。
「聖堂へ向かなさい。ヒールで歓迎してくれるはずです」
ワイバーンが黙礼して北へ飛ぶ。
マッシュは口を閉じ淡々と矢を放っては回避という行動を繰り返す。
「銃への切り替えを検討したくなりますね」
矢をつがえるのに使う時間が惜しい。
飛ぶのに労力を裂かないと落ちてしまうので、リロードの分どうしても攻撃頻度が落ちるのだ。まあ、弓には射程という巨大メリットがあるわけだが。
空気に火薬と鉄の臭いが混じり出す。
今回使われたのはミサイルだけで200を超えている。
それでもなおブレスを吐ける竜を褒めるべきか、それだけ使ってもまだ弾薬に余裕がある人類を誇るべきか、平時なら少しは迷ったかもしれない。
竜種が回避でも防御でもない動きを見せる。
右の後ろ脚から力が抜け、体が傾き受けの精度が落ちる。
「攻撃はこのまま。削り切ります」
淡々と矢を当てる。
非常に地味だがこれでいい。
歪虚の余力が減る。ハンターの体力と矢玉には余裕がある。
歪虚の余力がさらに減る。ハンターの体力と矢玉には余裕がまだある。
『ヲオォッ!!』
ドラゴンの戦い方が焦りで乱れた。
CAMを数機覆える巨大な炎を遠くまで飛ばし、存在する力を使いすぎて目に見えて萎んでいく。
渾身のブレスは、火薬臭い空気をかき回しただけで空の向こうへ消えていった。
とすんと小さな音を立てて眉間に矢が突き立つ。
マッシュが腕を下ろすと、暴威を誇った竜が死して永い時を経た残骸に変わり果ていて、その死体すら見る間に薄れて消えていく。
「討伐完了。……腹のあった場所にあるのは、船ですか」
古びた漁船に見える何かが、砂浜に転がっていた。
喉奥から零れる腐臭は人間由来のもの。
だらしなく開いた口からは際限なく濁った唾液が零れている。
人と魚の要素を混ぜ、どちらでもない理屈で捏ね上げたのがこの半魚人達だ。
戸締まりされた家の窓や玄関を拳で壊し、中に誰もいないのに気づいて隣の家に向かうのを繰り返している。
既に4分の1の家屋が破損した。
このままでは、歪虚の撃退に成功しても村人の生活が成り立たなくなってしまうかもしれない。
プラズマの光が1体の全身ともう1体の左半身を覆う。
分厚い筋肉を持つ歪虚は致命傷こそ受けなかったが、巨体が災いして爆発を効率よく受け止め深手を負う。
苛立たしげに拳を振るい、もう1体は逆側から蹴りを繰り出してくる。
ユーレン(ka6859)のエクスシアは斜め前へ出て威力のある蹴りを躱し、真正面から来た拳をCAM用ランスで受けて被害を軽減させた。
「やっとユニットに騎乗できる日が来たか」
覚醒者の搭乗を前提に調整された機体はかなり扱い辛くしかも高価だ。
操縦の面でも苦労に晒されているユーレンは、しかし楽しげに口角をつり上げている。
「お互い頑張ろうぞ、エクスシア」
4メートル級歪虚による打撃を受けたにも関わらず、ユーレン機はかすり傷程度のダメージしか受けていない。
CAM用ピストルを使いグレネードを連発。
ユーレンの前にいる半魚人も、ユーレンを無視して村に入り込もうとした半魚人も、高温で焼かれて生き物のものに聞こえない悲鳴をあげた。
新手が出現する。
岸の近くの海に2回り以上大きな半魚人の上半身が見える。
全長は推定で7メートルほどだろう。
ユーレンは危険から逃げず、しかし無駄な危険は冒さない。
丘の上の聖堂に到達すれば1匹でも脅威になる4メートル級を確実に倒すため、じりじり丘に向かって下がりつつグレネードを使う。
弾切れの後は槍での攻防に切り替える。
数で圧倒しようと4メートル級が集まって来たときには、虎の子のマテリアルソードを解禁して長大な刃を振り下ろす。
頭から胸まで断たれた半魚人が後ろに倒れ、胸を深く斬られた歪虚にもたれかかって邪魔になる。
もう1方の腕に持つ槍で牽制を行わせつつプロテクションを発動。エクスシアの防御向上を継続させた。
「小型の半魚人も殲滅とはまではいかぬか。じゃが!」
仰け反るように後ろへ跳ぶ。
真横から飛んできた激流が胸部装甲を削り、勢いを緩めず頑丈な小屋を反対側まで貫く。大型半魚人の必殺技だった。
「時間は稼がせてもらうぞ」
ユーレン機頭上を、ワイバーンが高速で横切った。
『歪虚の一部を丘まで誘き寄せる。CAM隊の準備は?』
「問題ない」
両手を操縦桿に置いたまま、ユーレンがトランシーバー越しの声に応える。
先程から雑音が混じり始めている。
機体の標準装備の通信機だと意思疎通に難儀するほどだ。高確率でより強力な歪虚が接近中なのだろう。
『了解。開始する』
ワイバーンが速度と高度を落とす。
地面にも半魚人型歪虚にも非常に近く、見ている側が肝が冷えるほどだ。
「……こいつはまた」
猛烈な向かい風でも目を開いたまま、クラン・クィールス(ka6605)が手綱を握って微細な調整を行う。
失速直前の速度を保って家と家の間を抜け、干されている網の上を飛び越え、半魚人が追いつけるぎりぎりの速度を保つ。
物理的に食い出のあるワイバーンと、村人よりはるかに目立つマテリアルのクランを目指して半魚人が集まってくる。
時に振るわれる拳や尻尾を悠々と躱し、速度を保つため反撃は行わずに徐々に丘へ近づけていく。
予想以上に骨が折れる依頼だった。
「まぁ、言っていても仕方ない」
半歩間違えばワイバーン諸共すり下ろされない進路から変更。
半魚人の手に届かない高度へ駆け昇った。
「綺導・沙織。エーデルワイス弐型。出ます!」
聖堂周辺の戦いが始まる。
白く細見のエクスシアが肩部大型ランチャーから一度に10ものミサイルを放ち、近くの聖堂戦士があっと驚くほどの精度で歪虚に命中させる。
半魚人の全高は4メートル前後。
雑魔としてはかなりの格であり、この地の聖堂戦士団では戦死者を覚悟しなくてはならない相手なのに、白い巨人により一方的に打ち減らされていく。
「状況を報告願います!」
『海側に大型半魚人10。速度は1。防戦中だが何体か抜ける』
「はい!」
元気に答えて小型ミサイル10発を再装填。
ふらつきそうになる機体を超人級反射神経と士官学校仕込みの技術で抑え、先頭で駆けてくる体格の良い半魚人に狙いを付けた。
引き金を引く前に半魚人の上体が揺れる。
筋肉に覆われた胸部に小さくない穴が開き、紫に近いどす黒い地が反対側から零れる。
『頑丈だね。私の銃では何発必要か』
こんな言葉遣いなのに芝居気のない、素で偉そうな態度の声が沙織(ka5977)の耳に届く。
もっとも沙織が意識するのは声では無く同時に送られてきた数値だ。
エーデルワイス弐型が半ば自動で狙いを微修正。沙織が意識の引き金を引くと狙いがより正確になったミサイルが飛び出した。
直撃。打撃と爆発。舞い散る血と骨が陽光に融けてこの世から消える。
『ふむ。手柄をとられてしまったね』
沙織は思わず笑ってしまった。
ここまであからさまにサポートしてくれているのにこの言動。合いの手を入れた方がいいのだろうか。
そんなことを考えている間も手と足と脳が動く。
ほぼ無意識で新たな目標に当てるための計算を終了。再装填と狙いの修正の指示を四肢と脳波を使って完璧に伝える。もちろん偉そうな声と一緒に送られてきたデータも反映済みだ。
『おお。まただ』
久我・御言(ka4137)機によるライフル弾1発で血を流し、久我機が集めて渡したデータを元に沙織機が止めを刺す。
歪虚の数が驚くほどの速度で減っていき、人類を獲物として見ていた半魚人が初めて恐怖を覚えた。
『楽をさせてはくれないようだ。沖から全長20メートル越えの竜種が接近中。大型の半魚人も、ほう、家の陰からでも見えるね』
最も危険な地上で時間を稼いできたユーレンは、一度戦場から離れて機体を停止させていた。
強力なヒールで大破から中破壊程度まで癒やせているようだが、大型魚人と戦うことを考えるともう少し回復が必要だ。
『ドラゴンを視認した』
久我ではない声を受信する。
『サイズより気配が強い。警戒を』
唐突に通信が途切れる。
不自然の空気の揺れを感じた直後、複数の家が同時に燃え上がり延長線上の地面が橙色に染まった。
「なんて威力」
驚愕しても沙織の操縦に乱れはない。
魔銃「ナシャート」を発動体にしてマテリアルライフルを発動。
紫の光が近くと遠くの半魚人を撃ち抜く。
遠くの1体はそれで倒せたのだが、近くの1体は運だけで直撃を避け最終防衛線にとりつこうとする。
久我機は聖堂を守る聖堂戦士団を援護している。
エーデルワイス弐型の火力では、半魚人を食い止めるのは不可能に思われた。
「威力はこの程度で十分だけどね」
ナシャートから複数の光の線が延びる。
丘を登り切る直前の半魚人に接近。複数の攻撃を避ける技術も力も無く、一度大きく震えてから歪虚が崩れ落ちる。
もう1つの光の線は射程内に入った別の1体に届き、かなりの深手を負わせて紫の血を流させる。
『残り6。全て視界内』
「はい!」
退き撃ちする時間的余裕も空間的余裕もない。
沙織は銃の射程を忘れたかのように半魚人の群れに突っ込み囮になり、半魚人はそれを最大の隙を見せて数で圧殺しようと待ち受ける。
「燃え」
CAMと比べれば小さなナシャートが業火を思わせる光を帯びる。
その光に半魚人が気づいたときには、既に逃げるも防ぐも不可能だった。
「なさい!」
リアルブルーで鍛えた技術でCAMを走らせ、クリムゾンウェストで磨いた術をCAMを介して解き放つ。
溢れた破壊の力が、ユーレン達に手傷を負わされていた半魚人達に止めを刺した。
●海の魔性
血で血を洗うと表現するには、CAMサイズの半魚人達は浮き足立ちすぎていた。
「半魚、なんですかねあれは。名状し難い訳でもないですが、はてさて」
マッシュ・アクラシス(ka0771)のワイバーンが光の豪雨を降らせて巨大半魚人を串刺しにした。
巨体の敵にはこの種の攻撃がよく効く。
無傷の半魚人が瞬く間に負傷者に変わり、捕食では無く逃げることを目的に岸へ上がって丘を目指す。
大技は連発できないので己の弓で以て追撃を行う。
かなりの距離で的中はしたものの、魔法を集中訓練させたワイバーンによる大技ほどの威力は無い。
「まあ、いいでしょう」
ユーレン機が戦場に復帰し大型半魚人に仕掛けている。
一撃浴びせては逃げる大型を追いまた一撃。
あの調子なら丘にたどり着く前に何体か倒せるだろう。
ソレル・ユークレース(ka1693)は次の大型の処理に移ろうとして、水平線よりずっと近くの気配に気づく。
「以前の大規模作戦級か」
蜥蜴頭だけが小さく見える現状でも本能が警鐘を鳴らしている。
ソレルは操縦桿についたボタンを押して対VOIDミサイルを発射。
ハンターを避けて隠密裏に上陸しようとした半魚人複数を爆発に巻き込んだ。
「弾数が足りないかね」
弾切れの量産型対VOIDミサイルを切り離す。
移動力が増えるような変化はないが、荷物にしかならないパーツを持ち運ぶよりはいい。
CAM基準では小ぶりなハンマーサイズの装備を手にとって、魔導型デュミナスを駆り大型歪虚の迎撃に向かう。
速度に3倍の差があるのですぐに追いつく。
踏み込みからの上段の振り下ろしでメイスを肩にめり込ませる。
なかなかの手応えだ。
骨を2、3本砕いた手応えはあるが、状態異常が全て弾かれた感触もある。
機体ごと振り返る。
水流発射の予備動作中半魚人にメイスをぶつけ、長距離高圧水流を中断させさらなる追撃を行う。
「海からやって来る奴さんの歓迎にもスキルは残しておかんとな」
踏込も渾身撃も温存だ。
とにかく時間優先、効率優先で逃げる大型にメイスを当て続ける。
そこへ魔力の矢が突き刺さる。
鱗が分厚い肩から背中に抜ける壮絶な威力であるのに、それを為した黒の夢(ka0187)はとても不満げな表情を浮かべていた。
「あのお魚水属性なのね」
土属性の魔術書があればあっという間に殲滅出来る気もするが、今スキルを使い過ぎると接近中の竜種歪虚相手に戦う力が足りなくなる。
だからワイバーンに任せることにする。
「ペインー、我輩ミディアムがいいのなー」
ワイバーンの背で優雅に寝そべり、一見いい加減な、実際は一欠片の容赦もない指示で大型半魚人にけしかける。
反撃の槍や水流が繰り出されても軽々と躱し、苛立たせるためにわざと効き目の薄い炎属性のブレスを使い、爪で切り裂き半魚人を削る。
「竜種? む、あの子会った事あるような無いような」
半魚人に対する興味が0になる。
ワイバーンを180度反転させ、未だ岸より離れていた竜種へ一足足飛びで近づいた。
竜は顔も上げない。
鮮やかな身のこなしで水をかき分け丘に近づいていく。
ただ、腹の一部が奇妙に膨れているため、見た目の程速度は出ていなかった。
「お腹が重いの? なら半分こする?」
巨大かつ壮絶な癖に、酷く無邪気な殺気が竜種の鱗を撫でる。
竜種が残像すら見える速度で身を捻る。
水の属性を帯びた重力波がその巨体を覆い、しかし強靱な鱗と分厚い筋で受け流しかすり傷程度に抑える。
『この臭い、奴の……』
巨大な瞳が黒の夢を見て、細められ、何度も瞬きする。
『お前、本当にハンターか?』
負の気配が濃い。
超高位の覚醒者なら膨大な正しいマテリアルと同時に負のマテリアルも持っていることがある。
が、この黒いエルフは負の側に偏りすぎている気がする。
契約者と間違うほどではないし気を付けなければ気づかない程度ではあるが……。
「ダーリン以外の竜も喋ったり出来るのかな。それもと例外?」
小首を傾げる様は愛らしく同時に妖艶でもある。
竜種はそれに答えようとはせず、脅威であり、そして成長の糧でもあるマテリアルの塊に向け高熱の息を吐き出した。
ワイバーンが鬼気を放つ。
殺気を感知し熱が迫るより速く斜め移動を開始。
ほぼ水平なブレスを余波込みで躱して竜種の死角に滑り込んだ。
「よう」
最も大きかった半魚人が縦に割れた。
異臭を放つ臓腑と体液が飛ぶ空間を平然と通り、返り血だけを浴びたボルディア・コンフラムス(ka0796)が大股で現れる。
「テメェがボスか」
竜種の動きが一瞬に満たない間止まる。
そして、蜥蜴頭からでも分かるほどはっきりと、食欲と見分けのつかない歓喜を露わにした。
大気が揺れる。
竜種の足が海底に届き、水面から首から肩まで出て翼を広げられる。
「上等!」
巨大な熱が吐き出される。
砂浜が数十メートルに渡って灼熱の地獄へ変わる。
「あの黒蜥蜴なら耐えるぞ。テメェはどうだ!」
恐るべき装備力に相応しい防御力で耐え、覚醒者としての格に相応しい速度で以て巨大斧を一閃。
ドラゴンの喉に触れる寸前、ただひたすら巨大な爪が迎え撃ち双方退かずに巨大な火花を散らす。
『奴ガ夢中ニナルノモ当然ダナァッ!』
発音が対人間用のそれから離れていく。
負のマテリアルが巨体を高速で巡り、より鋭くより獰猛に巨体が変わる。
ボルディアも負けてはいない。
祖霊をほとんど力尽くで呼び込んで一時的に巨大化。
龍を一撃で肉片に変えかねない超巨大斧を真横に薙ぐ。
竜爪が迎撃する。
爪が凹み、竜種が横に数メール押され、各所から鮮血が噴き出し両者を汚す。
ドラゴンの反撃。
ひたすら熱い膨大なエネルギーを狙いも付けずにまき散らし、砂の数割をどろりと溶かして膨大な水蒸気を発生させる。
熱は下がらず水蒸気も止まらない。
ボルディアは大重量装備のまま身軽に跳んで、熱と炎を避け、避け、分厚い斧で受けて耐え、その度に巨大斧を振るって火花を散らす。
『オォ!』
熱量を変えずにブレスを絞る。
色の無いブレスがボルディアを巻き込んで振るわれた直後、熱に耐えきれずに大量の砂と鉄が爆発する。
「痒いなぁ!」
両手で斧を持ち振り上げる。
竜の胸から喉にかけて凹んで大きく仰け反って、しかし倒れも気絶もせず体を捻って砂浜に着地する。
大気がみしりと軋み、海岸の小さな生き物が死滅した。
「ひでぇな」
ソレルがつぶやく。
数時間前までの平和は消え去り、今ここにあるのは歪虚の暴虐のみ。
魔導型デュミナスがあってもソレルが立ち向かうには強すぎる相手だ。
己が自然と笑っているのに気づく。
彼我の戦力差はかつてあの時以上。
だが、あのときとは違って側にはいなくても相棒がいる。
気合いの入った同僚が7人もいるのだ。
「やる気は充分。さて、やろうじゃねえか」
目標大型ドラゴン。
長距離巡行用ブースター、発動。
一瞬遅れて砂浜が左右に分かれ、魔導型デュミナスがドラゴンの行く手を遮る形で着地する。
「行け。ここでくたばるほど殊勝じゃないだろう」
「へっ、この程度で」
初撃と変わらぬ速度で斧を振り下ろす。
斧と竜爪が噛み合い、両者の腕から同時に血が噴き出す。
血が足りずボルディアの目が一瞬虚ろになる。
そのタイミングで竜爪が繰り出され、ソレルのデュミナスがぎりぎりハンマーで受けボルディアは自らのイェジドに回収された。
止めようとしてもヴァーミリオンは反応せずドラゴンの射程外まで急ぐ。
ボルディアが肩をすくめて力を抜くと、うっかり悲鳴を上げたくレベルの痛みが体奥から伝わってきた。
●竜と踊る
『ドケ。雑魚ニ興味ハナイ』
傲然と見下ろす竜の前で、ソレルは穏やかに微笑んだ。
「その図体で自信がないのか」
竜の目が一気に血走る。
挑発している間もソレルは高速で思考を続けている。
先程までのような広範囲ブレスが来ると、CAMのサイズが不利に働き短時間で大破してしまう。ボルディアの攻撃中に近づかなかったのはそのためだ。
竜の巨体がぶれる。
皆無に近い予備動作で力を溜めて、岩盤すら抜ける突きが魔導型デュミナスを襲う。
大きすぎる音は音として認識出来ない。
胸から腰にかけての装甲が砕かれ、複数のパーツが機能を失い予備の回路が稼働を始める。
「雑魚も潰せないのか。竜ではなく蜥蜴か?」
落ち着き払った態度で、心底不思議そうにたずねてみせる。
巨大な竜はブレスを吐くことを忘れ、ソレルの機体を潰そうと両方の手を振り上げた。
「半魚人に比べれば、此方のが可愛らしく見えるものですなあ……」
マッシュが矢を放す。
限界まで引き絞られていた大弓が力を解放し、たった1本の矢に膨大なエネルギーを持たせて加速させる。
いくつもの竜鱗が砕けて破片が宙に舞う。
衝撃でシャフトしか残っていない矢が細かく震えて残った力を歪虚に渡す。
『コレハッ』
デュミナスがメイスを振り上げる。
強靱さと柔軟さを兼ね備えているはずの竜の表面が、ただのメイスの一撃でひび割れ窪んで大きな凹みが出来る。
一瞬とはいえマッシュ機に全神経を集中したのが、大型竜種最大の隙になった。
「思い出した。ダーリンのお仲間なのな」
ぽん、と手を打つ音と共に水の力を帯びた重力波が吹き荒れる。
竜種の巨体に非常によく効く。
特に防御が弱まった胴体部分への効きは壮絶なほどで、骨と内臓まで深く傷つき鮮やかな鮮血が喉を遡る。
「ねぇねぇ、汝も空から海底にでも刺さって埋まったの? 岩を食べたの?」
『ヤ、野郎ノ女ノ趣味ダケは理解デキン』
ブレスを真下に叩き付ける。
集束の甘い炎が半球状に広がり、足止め担当のCAMだけでなく黒の夢のワイバーンまで巻き込まれた。
「後退する」
『逃ガスカ!』
ソレル機がブースターを使い斜め後ろ、つまり民間人はいない囮には絶好の位置へ飛ぶ。
彼を脅威と認めた竜が高精度高出力の鋭く絞ったブレスを吐こうとして、脇腹に鮮烈な激痛を感じてブレスの発射に失敗する。
「守りは俺に任せろ。お前は飛ぶのに専念だ」
地面にめり込むように着地したワイバーンの背中で、クランが全身を使ってソーブレードを引き抜く。
血と脂にまみれた竜鱗がぱらぱらと零れ、彼の鎧とワイバーンを赤黒く彩る。
『ヌ』
咄嗟に尻尾を振り回す。
かすっただけでもワイバーン諸共ミンチな威力がある。
ソレルは竜の腹を蹴ってわずかに位置をずらし、巨大な質量を紙一重で躱して再飛翔までの時間を稼ぐ。
「ヒット&アウェイと行きたい所だが、甘くは無いな」
追撃の炎を横に滑る飛行で回避。
再度剣を構えるものの竜に隙は見えなかった。
「敵も味方も満身創痍だね」
コマンダータイプの魔導型デュミナスが家の陰から姿を現し、何の変哲も無い銃での射撃を開始する。
腹に異物を抱え込んだ竜はろくに回避が出来ない。
1発ごとに受けるダメージは小さくても、範囲ブレスで焼けない距離から攻撃されるのは鬱陶しい。
「焦ってきたね」
高出力の絞ったブレス。
久我は悠々と躱し、絣かけたときもシールドを使って損害を抑える。
実戦で磨かれデュミナスは見たよりずっと頑丈だ。
目立つ場所から延々射撃するのが竜種のかんに障った。
巨大竜が砂浜を北上する。
銃弾を浴びても魔力の矢を受けても歩みを止めず、範囲ブレスで一気に仕留めようとデュミナスを目指す。
「後で請求されても困りますが」
マッシュが息を吐く。
漁村への村外が増えるばかりだが気にしている余裕はない。
通常の矢を打つ手を止め、全体に声をかけた上で貫徹の矢を放つ。
今度は後頭部に突き立った。
最後の重力波とスキル込みの銃弾が次々に命中し、膨大とはいえ限りのある竜の生命を削る。
「追いつかれてしまったか。はて、どうしよう」
巨大な脅威に迫られても久我の態度は変わらない。
村から離れた場所に誘導されているのにも気づかず、20メートル級の歪虚が鉄すら焼き尽くす炎を周囲にばらまいた。
HMDに無数のエラーが表示される。
だが現状とは少しだけ違う。久我が使った防御障壁の分被害が減り、甚大なダメージを受けても辛うじてデュミナスは動く。
「最期まで抵抗といこうか」
魔導鋸槍をひょいと振り上げ、不自然に出っ張った竜の腹をぽこんと叩く。
吐き気が襲う。
竜の胃腸が不規則に蠕動し、炎だか体液だか負マテリアルだか分からない物が竜の口から噴き出した。
久我は、逃げた。
ブーストパックの速度を活かしてブレスの追撃により大破するまでに射程外に逃れる。追撃に使われた3度のブレスが、久我の狙い通りに無駄になる。
歪虚が地団駄を踏んでも意味は無く、物理的な力すら伴う視線を左右に向ける。
10連のミサイル、大小の砲弾、単発の術などが全て別方向から向かって来る。
『コノ程度で勝テルト』
今は空を飛べない。
対単体のブレスではなかなか当たらず当たっても致命傷にならない。
ならば被弾覚悟で近づき範囲攻撃で仕留めようと決断したタイミングで、後ろ足の片方に鋭い痛みが走った。
「硬いな」
赤黒いオーラで覆われた腕で、クランがソーブレードを竜から引き抜く。
あらゆる面で全力を出さなければ分厚い竜の表面を抜けない。
全力を出せば空中で高度を保つことが出来ず、このように攻撃のたびに不時着することになる。
竜は無視をした。
雑魚など最後に潰せば問題ないと、あまりにも甘すぎる判断を下してしまった。
「正面切ってやり合うのはCAM連中に任せたかったが、な」
竜を追う。
無視されようが足を斬り、炎を撒かれようが腹を刺す。
『邪魔ヲ』
竜種が振り返る。
雑さの消えた炎がワイバーンとクランを取り巻き生命力を削る。
「邪魔はするさ」
最早何本目になるか分からない矢が鱗と鱗の間に突き刺さる。
矢が来た方向に向き直っても、飛べぬ竜では届かぬ距離を飛ぶ別のワイバーンが見えるだけだ。
龍は巨大だ。重傷者を入れても8人で倒そうとするのは無茶が過ぎる。
だがその程度の無茶を押し通せないようでは、歪虚という勢力に勝つどころか抵抗も出来ない。
「……この質と数ならいけるか。クランさんは一時後退。CAMは射程外に後退可能な位置から射撃を継続」
マッシュは淡々と戦場を誘導する。
回避に優れたものを比較的に近距離に置き、攻撃力の分回避能力に不安があるものは出来るだけ遠方に。
もちろん範囲攻撃で一気に落とされないよう距離は開けて、だ。
「そろそろ卑怯と泣き言を囀る頃ですか」
竜がフンと鼻を鳴らす。
血が流れ存在する力がすり減ろうが決して焦らず、なかなか当たらないのを承知で射程内のハンターにブレスを向ける。
「っ」
不運にもワイバーンが直撃を浴びる。
クランが庇って主従墜落死の展開はなかったものの、クランが気絶をして朦朧としたワイバーンがふらふら高度を下げていく。
竜の顎が開かれ白い牙が陽光に照らされる。
そのタイミングで、紅のイェジドがドラゴンの尻を張り飛ばしてたたらを踏ませた。
「聖堂へ向かなさい。ヒールで歓迎してくれるはずです」
ワイバーンが黙礼して北へ飛ぶ。
マッシュは口を閉じ淡々と矢を放っては回避という行動を繰り返す。
「銃への切り替えを検討したくなりますね」
矢をつがえるのに使う時間が惜しい。
飛ぶのに労力を裂かないと落ちてしまうので、リロードの分どうしても攻撃頻度が落ちるのだ。まあ、弓には射程という巨大メリットがあるわけだが。
空気に火薬と鉄の臭いが混じり出す。
今回使われたのはミサイルだけで200を超えている。
それでもなおブレスを吐ける竜を褒めるべきか、それだけ使ってもまだ弾薬に余裕がある人類を誇るべきか、平時なら少しは迷ったかもしれない。
竜種が回避でも防御でもない動きを見せる。
右の後ろ脚から力が抜け、体が傾き受けの精度が落ちる。
「攻撃はこのまま。削り切ります」
淡々と矢を当てる。
非常に地味だがこれでいい。
歪虚の余力が減る。ハンターの体力と矢玉には余裕がある。
歪虚の余力がさらに減る。ハンターの体力と矢玉には余裕がまだある。
『ヲオォッ!!』
ドラゴンの戦い方が焦りで乱れた。
CAMを数機覆える巨大な炎を遠くまで飛ばし、存在する力を使いすぎて目に見えて萎んでいく。
渾身のブレスは、火薬臭い空気をかき回しただけで空の向こうへ消えていった。
とすんと小さな音を立てて眉間に矢が突き立つ。
マッシュが腕を下ろすと、暴威を誇った竜が死して永い時を経た残骸に変わり果ていて、その死体すら見る間に薄れて消えていく。
「討伐完了。……腹のあった場所にあるのは、船ですか」
古びた漁船に見える何かが、砂浜に転がっていた。
依頼結果
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【相談卓】いあいあ天国 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/11/18 00:26:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/16 10:58:29 |