ゲスト
(ka0000)
大きな少女と飛竜討伐
マスター:春野紅葉

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/19 22:00
- 完成日
- 2017/11/29 22:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「こんにちは、ユリアちゃん。よく来てくれたわね」
ユリアは、町長に呼ばれて町長室に訪れていた。
飛竜との交戦を終えた者たちが帰還してからほぼ一ヶ月近く。あの後、町長は忙しく動いてくれていたらしい。
町長の横にはよくユリアと一緒に村の廃墟に訪れてくれていた軍人が立っている。
「こんにちは、町長さん。あの、私を呼んだということは……」
「ええ、もうそろそろ、あの飛竜を討伐しないと、あいつを休ませる時間にしかならないだろうし、そろそろ決めなくてはならないわ」
「……あの飛竜はやっぱり殺さないとだめなのでしょうか」
「ええ。恐らくは、そうでしょうね。ユリアちゃんには彼をつけるわ。現役のハンターさんに比べれば、全然力不足になってしまうでしょうけど、あなたの護衛くらいはできるんじゃないかしら」
「よろしくお願いします! 軍人さん!」
上官の前だからか、軍人はビシッと敬礼をしたまま黙している。
「それじゃあ、ユリアちゃん。とりあえず、お願いできるかしら」
いつもの柔和な表情からは思いもしない疲れ果てた表情を浮かべる町長に返事をして、ユリアは退出した。
「やはり、あの飛竜は殺すしかないのでしょうか」
「……ええ、恐らくは」
ハンターオフィスに討伐依頼を出してきた後、ユリアは思わずそう声に漏らしていた。
「彼か彼女かはわかりませんが、あの飛竜は人類を呪っているはずです。人ほどの知能がなかったとしても、怒り狂ってはいるでしょう。殺さなくては気が済まぬほどに」
文献や麓の町に住んでいたという噂の人から聞いた話に曰く、彼らが使っていた町は――もっというならば、そこのすぐ近くにあった鉱山は、そもそもがあの飛竜の家だった。
「家を、縄張りを荒らされ、物は盗まれ、虐げられ、怒り狂い反撃した。それで逃げていったと思ったら、また帰ってきている。あの飛竜からすれば、来る者みな敵なのでしょう」
軍人が淡々と告げていく。ユリアはそれを聞きながら、分かっていても納得はできなかった。
「二度、来られたのです。彼があのままあの場所にいるとは限りません」
どこか別の町、別の鉱山に移ってそこで同じように暴れる前に、ここで沈める。それが軍人達の結論だったらしい。
「……そう、ですか。ただ生きていたいだけなのに、生きていけないのは人もそれ以外も同じなんですね」
「辛ければ、私がやりますのでユリアさんは休まれても大丈夫ですよ? 元々、少女にやらせるにはあまりにもひどい話です」
「いえ……私がやらないと。あのゴブリンの皆さんにも生きる場所を作ってあげないとだめですし」
「そうですか……あぁ、どうやらおうちについたみたいですよ」
うつむきつつあった顔を上げると、ユリアの家が目の前にあった。軍人がユリアの頭に手をのせて優しくなでる。
「では、おやすみなさいませ」
そう言って、彼はその場から立ち去って行った。
●
討伐当日、ユリアは参加するハンターたちの前で情報を整理する。
「今回の飛竜には、外に針のある栗みたいに外側に皮膚があります」
ユリアは机の上、地図に置かれた栗を指示して言う。
「その皮膚にさえぎられて、基本的に近接攻撃や射撃攻撃が通用しないということが判明しました。ただし、これらに属性を付与すれば通るということです。また、魔法による攻撃も問題なく通るようです」
「おそらくは、近接攻撃や射撃攻撃も、その皮膚をはぎ取れば通るでしょうけど、とんでもなく生命力がありますので、素直に属性を付与したほうが楽になると思います」
ユリアに続くように、軍人が告げる。
「よろしくお願いします。あの飛竜を……止めるために」
ユリアは深々と頭を下げた。
「こんにちは、ユリアちゃん。よく来てくれたわね」
ユリアは、町長に呼ばれて町長室に訪れていた。
飛竜との交戦を終えた者たちが帰還してからほぼ一ヶ月近く。あの後、町長は忙しく動いてくれていたらしい。
町長の横にはよくユリアと一緒に村の廃墟に訪れてくれていた軍人が立っている。
「こんにちは、町長さん。あの、私を呼んだということは……」
「ええ、もうそろそろ、あの飛竜を討伐しないと、あいつを休ませる時間にしかならないだろうし、そろそろ決めなくてはならないわ」
「……あの飛竜はやっぱり殺さないとだめなのでしょうか」
「ええ。恐らくは、そうでしょうね。ユリアちゃんには彼をつけるわ。現役のハンターさんに比べれば、全然力不足になってしまうでしょうけど、あなたの護衛くらいはできるんじゃないかしら」
「よろしくお願いします! 軍人さん!」
上官の前だからか、軍人はビシッと敬礼をしたまま黙している。
「それじゃあ、ユリアちゃん。とりあえず、お願いできるかしら」
いつもの柔和な表情からは思いもしない疲れ果てた表情を浮かべる町長に返事をして、ユリアは退出した。
「やはり、あの飛竜は殺すしかないのでしょうか」
「……ええ、恐らくは」
ハンターオフィスに討伐依頼を出してきた後、ユリアは思わずそう声に漏らしていた。
「彼か彼女かはわかりませんが、あの飛竜は人類を呪っているはずです。人ほどの知能がなかったとしても、怒り狂ってはいるでしょう。殺さなくては気が済まぬほどに」
文献や麓の町に住んでいたという噂の人から聞いた話に曰く、彼らが使っていた町は――もっというならば、そこのすぐ近くにあった鉱山は、そもそもがあの飛竜の家だった。
「家を、縄張りを荒らされ、物は盗まれ、虐げられ、怒り狂い反撃した。それで逃げていったと思ったら、また帰ってきている。あの飛竜からすれば、来る者みな敵なのでしょう」
軍人が淡々と告げていく。ユリアはそれを聞きながら、分かっていても納得はできなかった。
「二度、来られたのです。彼があのままあの場所にいるとは限りません」
どこか別の町、別の鉱山に移ってそこで同じように暴れる前に、ここで沈める。それが軍人達の結論だったらしい。
「……そう、ですか。ただ生きていたいだけなのに、生きていけないのは人もそれ以外も同じなんですね」
「辛ければ、私がやりますのでユリアさんは休まれても大丈夫ですよ? 元々、少女にやらせるにはあまりにもひどい話です」
「いえ……私がやらないと。あのゴブリンの皆さんにも生きる場所を作ってあげないとだめですし」
「そうですか……あぁ、どうやらおうちについたみたいですよ」
うつむきつつあった顔を上げると、ユリアの家が目の前にあった。軍人がユリアの頭に手をのせて優しくなでる。
「では、おやすみなさいませ」
そう言って、彼はその場から立ち去って行った。
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討伐当日、ユリアは参加するハンターたちの前で情報を整理する。
「今回の飛竜には、外に針のある栗みたいに外側に皮膚があります」
ユリアは机の上、地図に置かれた栗を指示して言う。
「その皮膚にさえぎられて、基本的に近接攻撃や射撃攻撃が通用しないということが判明しました。ただし、これらに属性を付与すれば通るということです。また、魔法による攻撃も問題なく通るようです」
「おそらくは、近接攻撃や射撃攻撃も、その皮膚をはぎ取れば通るでしょうけど、とんでもなく生命力がありますので、素直に属性を付与したほうが楽になると思います」
ユリアに続くように、軍人が告げる。
「よろしくお願いします。あの飛竜を……止めるために」
ユリアは深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●
からりとしたどこか肌寒いその日。
ハンター達は飛竜討伐のために廃墟と化した村へと訪れていた。
「ユリアちゃん、本当に来るの?」
目的の町へ向かう前に、ディーナ・フェルミ(ka5843)はそう赤毛の少女へ問いかける。
「ユリアちゃんが怪我をしたら私達も安心して戦えないの。来るのなら絶対怪我をしない場所で隠れていてほしいの」
「そう……ですよね……。いえ、ここで待ってます。皆さんの邪魔にはなりたくありませんから」
少しの間考え、ユリアがそう声に出す。ディーナは少しほおを緩めて、頷く。
「はい、ユリア嬢は我々が守りましょう。文献が正しければ、ここまで飛竜がくることはないでしょうし」
護衛らしき、姿勢を正した軍人が言う。
「それじゃあ、行ってくるの」
ディーナは心のうちに秘めた意思を確認すると、ユリアに背を向けた。
「……さて、前回は敵の情報が足りてなかったが、今回は収集した情報があるからな」
榊 兵庫(ka0010)は深く頷く。集った者達は手練れが多い。これならばいけるのではないかと、半ば確信に近い推測を立てる。
「あの飛竜による被害が拡大する前にきちんと討伐してしまう事としよう」
普段の愛槍とは違う黒樫の握り心地を確かめるようにしながらも、その眼はまっすぐ、廃墟に座すであろう飛竜の方を見つめている。
戦うべき相手に対する思いは、人それぞれである。
鞍馬 真(ka5819)は複雑な面持ちだった。
「納得できなくても、やらなければならない時もある。仕方ないさ」
口に出しながらも、その実、いつから自分は仕方ないなどという言い訳で奪えるほど傲慢になったのだろうか。
相棒であるワイバーンのことを思い、少し落ち着こうと意識的に呼吸する。各々が己の思いを胸にハンター達は戦場となる廃墟へと動き出した。
●
廃墟は静まり返っていた。かすかに聞こえるのは、冷たい風が崩れかけた建物の間を通る音だけ。
それぞれがそれぞれの獲物を抜き、構えながら進んで行く。
ふと、壁がパラパラと落ちるような音が聞こえた。
飛竜を除いて、誰もいないであろう廃墟で、そんな音が鳴るのは風に打たれた外壁が崩れるか、あるいは確かにそこにいるかの二つ。
そして、この場面で前者だと考える者はいなかった。視線を巡らせると、そいつは静かにそこいた。
崩れかけた、三階建てほどであろう建築物。その屋根だったであろう場所に器用に足をのせている。
『ゴォォォアァァァ!!!!』
たしかな殺意をのせて、雄叫びが廃墟を吹く風に乗ってハンター達に届いた。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそれを目にとめると同時、風を裂き、紅を引きながら疾走する。大輪一文字はまよいのファイアエンチャントを貰い受けたことで炎のように輝いていた。
「今回は様子見ではなく、全力で狩りに行かせてもらおうか」
高い行動力をもつが彼女ならではの速攻策。けれど、流石に距離がありすぎた。飛竜はアルトの接近よりも前に建物を足場に舞い上がる。高く、悠々と。己にとって、有利である大空を舞いながら、旋回していく。
「ブランクがあるのに何でまたこんな強そうなのが出て来るお仕事選んじゃったのか、君子危うきに近寄らずが俺のモットーなんだが……まぁ、確り仕事はやりますよ」
リカルド=フェアバーン(ka0356)は久々の竜を確かに目の前にして言う。それでも言葉の裏に、どこか余裕を感じさせる。
クオン・サガラ(ka0018)はバイクに跨ると、ファナーリクL37を構え、飛竜の射程圏内に入ると同時に弾幕を張った。あくまでも自然体に、落ち着いて放った弾丸は、飛竜の身体を幾つか掠めていく。
夢路 まよい(ka1328))は天空で猛り喚く飛竜をまっすぐに見つめていた。髪、服を靡いて舞い踊らせるその瞳には強い輝きが見て取れる。
何があってこうなったのだろうか、そう思いながらも、手を抜くつもりはなかった。集中射撃を受けて呻きながら徐々に高度を下げている飛竜を見つめ、集中する。
「全てを無に帰せ…ブラックホールカノン!」
ヴァイザースタッフを掲げ唱えた。杖のやや上辺りに生じた紫色の球体は、飛竜へと飛び、炸裂するようにして強力な重力波を広域にばらまいた。
『ォォォォ!!!!』
アメリア・フォーサイス(ka4111)とクオン、二人の弾幕を浴びて踊る飛竜は一溜りもなさそうに吠え、震えながら重力に従って落ちていく。激しい音を立てながら、廃墟へとぶつかって猛り、首を振るう。
『ギャァァァァオォォォォ!!!!!!!!』
その声からは、明確な怒りが伝わってきた。
「さあ楽しいキルタイムの始まりってなあ! どっちが先にくたばるか競争だぜ、ハッハー」
飛竜の怒りを笑い飛ばし、トリプルJ(ka6653)は幻影の腕を伸ばして壁に張り付いた飛竜の動きを抑え込む。
連携と敵の範囲攻撃に諸共に薙ぎ払われないぎりぎりの配置についた前衛からやや後ろ。そこでロニ・カルディス(ka0551)は、ホーリーセイバーを前衛にかけ終えていた。
「……観念しろとも言わないし、存分に恨んでくれて構わない。だが、こちらにも譲れない事情がある以上、ここで仕留めさせてもらう」
ヴァイザースタッフとディスターブに持ちかえ、カッと光の波動が飛竜を呑みこんでいく。飛竜が再び、雄叫びをあげた。
それによって産まれた大きな隙へと、前衛が殺到する。
「悪いな、今日は逃がすわけにはいかない。その翼、切り落とさせてもらおう!」
まず飛竜と接敵したのはアルトだ。地面を強く踏みつけ、一気に加速。それは、影を置き去りに、剣を振りぬいて。狙うは翼。再び舞い上がることなどできぬように、爆発的な推進力で駆け抜ける。
音もなく、刃は肉を断ちながら翼をえぐっていく。走り抜け、背後へと回ったところで、切られた翼から華のように血が噴出した。
『ゴォォォ!!!!』
雄叫び一つ。飛竜の尾がしなりを見せ、次の瞬間には身体を軸にするように降りぬかれた。巻き込む者はいない。それを瞬時に判断し、後ろへと跳んで交わす。
飛竜は身体を一回転させると、口を開いてそのまま走り出す。視線の先、兵庫は槍の握りを確かめ、己が生命力を力に変えて、構えを取る。
まっすぐに走り出した飛竜は、その途中、横にいた真を目にするとともに、動きを止めた。
『ォォォォオオオオ!!』
視線を合わせ、バランスを崩して突っ伏する。土小堀を挙げながら顔から落ちるそれは以前にもあった。テンプテーションの効果である。
真を見据え、動かなくなった飛竜を見て、じっと構えていた兵庫が動く。手短にあった建築物の壁を足場に駆け上がり、落ちた頭部へと黒樫を振り下ろす。
勢いよく振り下ろされた大身槍に呻きながら、飛竜は真と視線を合わせている。
「注意を引くくらいなら私もお力添えできますから……」
火艶 静 (ka5731)は疾風剣を利用して移動しながら、敵の死角、それも神経の集まった急所とも呼ぶべき場所へと摩擦熱の生じた宗三左文字を奔らせる。
更に続くようにしてリカルドが反対側の側面、後ろ脚の関節部分を、竜の尾を模して異形なる大剣、アンサラーで斬りつける。
それは、注意を引くための攻撃。喚く飛竜へと走り込んだのは、先程まで飛竜と視線を合わせていた真だ。
殺さねばならないのなら、せめて早急に。そう意思を込めて握りしめた血色の剣には、溢れんばかりの生命力が込められていた。
一歩の踏み込みと同時、血色の剣が飛竜の脚部に突き立つ。痛みからか震える飛竜から、一気に跳びさって後退しつつ、注意は怠らない。
『ォォォォォォォォ』
身体全体を震わせるように、飛竜が起き上がる。アルトの攻撃を受けた翼に兵庫の攻撃を受けた頭部、真の攻撃を受けた脚部。そのどこも多少は動きづらそうにしているものの、まだ健常であることには変わりない。
憎悪と、生への執着が見え隠れする飛竜の瞳が、眼下のハンター達を睥睨する。
●
アメリアは建物の陰に隠れながら、飛竜から大きく間合いを開けた状態でMr.Lawrenceの照準を合わせていた。明確に傷を負わされ、酷く疲れている様子さえ見受けられるにもかかわらず、それでもなお、牙をむいてくる。
前衛が傷を負わせた翼に向け、既に二発の弾丸を打ち込んでいる。冷気を浴びた飛竜は、前衛で戦っている面々の活躍により、遠距離のアメリアには反撃の意思を見せていない。
多少、動きづらそうにしながらも攻撃を受けている翼を、トリプルJに対して叩きつけようとしていた。
「やっぱり凍結を狙うとなると……動かす支点が効率的?」
物は試しだと、新たな一撃のために引き金を引いた。銃声が鳴り、やがて飛竜が弾かれたように翼を跳ね上げる。
『グロォォォ!!』
まるで天に吠えるように、飛竜が叫ぶ。そして、何となくアメリアはその視線がついにこちらを見たような気がした。
飛竜は身体をその巨体に見合わず、飛び掛かる前の猫のように縮めたかと思うと、地面を踏み鳴らしながらこちらに向けて突進を開始した。
しかし、突進を始めたさなか、飛竜に向けてまよいが撃ちだした氷塊がぶつかっていく。速度がついていたせいか、その衝撃で飛竜は盛大にこけた。土埃をあげながら、飛竜はそのままの勢いで建物の壁へと突っ込んでいく。盛大に硬いものがひびわれる音がして、廃墟が飛竜へと落ちていった。
盛大に倒壊した建築物と、土埃によって飛竜の姿が見えなくなり、ハンター達はじっと飛竜が突っ込んでいった方向に眼を向ける。
「……今のうちに」
そう言って、ディーナは傷ついた仲間をファーストエイドとフルリカバリーで癒しながら、ホーリーヴェールをかけなおす。
「着ます……!」
『グギャォォアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!』
静がそう呟くと同時、土埃の向こうから影が見えて――大口を開けた飛竜がすさまじい勢いで前衛へと突っ込んでいく。
前衛三人のうち、かわしきれない場所に偶然いたリカルドは相手の攻撃を鍛え上げた肉体と鎧を使って受け流し、アルトは背後にクオンがいることを見届けて真っ向から剣を向け、真は軽やかに飛び去った。
「おーこれ、まともに当たったら肉持ってかれるだけじゃ済みそうにないな……そしたら痛いどころの話じゃねえな」
えぐり取られるかのような痛みだろう。覚醒中ゆえの神経の鈍化のおかげで、悠々と言っているが、解除されたら泣き叫ぶであろうこと請負の激痛に、リカルドは少し笑う。
「だが、以前ほどではないな……」
そういったのは、受け止め切ったアルトだ。受けた傷をすかさず後衛が癒し、効果時間の切れたファイアエンチャントが再びかけられ、大輪一文字に赤い輝きをのせる。
「以前より、あの飛竜に攻撃が言っているからでしょうか……」
「あの傷でもああも動けるのですね……」
静の言葉に続くように、喉元へと攻撃を加えるために前まで出ていたクオンが言葉を紡ぐ。
「だがあの様子なら、もうすぐ倒れるだろう」
体のあちこちは凍り付き、鎧とすら思える皮膚はぼろぼろと零れ、先程の突撃を最後に、翼の一本は完全に地面に引きずっている。誰が見ても、瀕死と判断する痛ましいまでの姿だった。
『ガアアアァァァァァアアァ!!!!!!!!!』
それでも――いや、だからこそか、飛竜はその声と瞳に怒りの闘志を燃やして声を発する。
「静かに眠らせてやろう」
最初に口を開いたのは真だった。幾度かの生命力を行使してでの攻撃で、やや疲れが見えつつあるが、それでもまだ、剣を握る手には力がこもっている。そして、再び走り出す。それに続くように、前衛のアルトと兵庫が駆けだした。
飛竜はたいして、再び猛り、身体を軸に薙ぎ払おうと動き出し――傷ついた足を崩して膝をつく。そこへ、血色の刃が走り、痛撃となる緋色の旋風が駆け、樹木のような重厚な一撃が脳天をかち割った。
『ガフゥゴ……』
大地へと叩きつけられた口から、声が漏れ、それを終焉として、飛竜は完全に動きを止めた。
「……死んでしまったか」
ロニの口から言葉が漏れる。
「このワイバーンはどうしてこうなっちゃったんだろうね」
まるで鉱石か何かのような外皮を見つめながら、まよいが続く。
「せめて弔ってやろう。できるだけ空に近い場所がいいだろうか? それとも縄張りと思われる場所か」
戦いの場では勝者は生き残り、敗者は死ぬ。割り切っているとはいえ、後味の悪さはアルトも感じるところだ。
「それなら一度、ユリアちゃんを呼んでくるの!」
傷を負ったものを癒して回っていたディーナがそう告げる。
ハンター達は頷きあうと、ユリアと共に飛竜を弔うのだった。
●
戦闘が終わり依頼が完遂された後、ディーナはユリアの暮らす町で、町長の元に訪れていた。
「今回の仕事も助かりました。ハンター殿。何か用でしょうか?」
礼儀を正した様子で、柔和な表情を張り付けて言う。
「貴方はユリアちゃんに選ばせたように見せて、実は選択肢のないものばかり提示していると思うの。次の町長候補として鍛える気かもしれないけれど、もう少し平民で子供だという点を加味してほしいの」
そこまで言って、少しだけ一度、息を吐く。
「それとも……和解の仲介が必要なの?」
少し、声に力を持たせていう。それを聞いた町長の表情が、やや強張って、優し気な、それでいてどこか厳とした物に変わった。
「……たしかに、選択肢がないものを提示しているかもしれませんね。ええ、でも、あの子にはこれからもそういう風に経験をつんでいって欲しいというのが私の思いなのよ」
朗らかに笑いながら、どこか突き放すように町長が答える。
「これ、あの子が言わないのに言っては駄目な気もするけれど、あの子、いつか自分の村を作りたいらしいの。なら、多少厳しく接しないと。でも、そうね、ハンターさん。貴方の忠告は参考にさせてもらうわ」
双方、どこか穏やかなままに、そのうちの強さを見せながら相対する。やがて、町長は話すことはないとばかりに、己の仕事へと没入していった。
トリプルJは帰還前にユリアへと声をかけていた。
「なあユリア…お前本当にこの街に居て大丈夫か? お前が笑って話せる友達は街に居るのか」
「どうしてそう思われるんでしょう?」
不思議そうにきょとんとする赤毛の少女に対して、男は真剣に視線を交わす。
「本来ならまだ守ってもらえるはずの年のお前に、この町は求めることが多すぎる。人はどこでも行けるっていうが、実際は柵があってどこにもいけねえ場合が多い。それでも、他の町で生活できるくらいの仕事の斡旋は俺でもしてやれるぞ」
「ありがとうございます。ええでも、私の故郷の村では、私なんてもう殆ど大人と同じ扱いでしたから……それに、またお母さんを他所に動かすのは申し訳ないですし。なにより、やりたいことがありますから……」
「やりたいことだって?」
「はい。やりたいこと、です。いつか――いつか、私は自分の、自分たちの村が欲しいんです。もう殆ど、誰もいなくなっちゃったんですけど」
やや切なそうに少女は言って、笑みを作る。その笑みは、何を言っても止まらないタイプの頑固者のそれだった。
「ユリアちゃん……」
静はトリプルJと別れて帰ろうとしていたユリアに声を掛けた。
「静さん、お疲れ様でした! 私はあまりよくわからないですけど……」
「ユリアちゃんが心配できたのですが……」
「静さんがご無事で、私もよかったと思います!」
嬉しそうに笑うユリアに静は頷きつつも、ユリアに問いかける。
「ユリアちゃんは、この町でお友達はできましたか?」
先ほど、トリプルJに応えていた質問のうち、ユリアはそこだけはぐらかしていた。
「それは……」
口ごもり、視線を逸らす。
「故郷では無理だったかもしれませんが、ここならお友達もできると思います……」
「お友達……お友達、ですか……私、お友達を作るなんて考えたこともありませんでした」
そもそも、この少女は恐らく、友人の作り方を知らないのではないか。なんとなく、静はそう思った。
故郷の村では自分より年下の子供が多く、この町に来るまでと来てからはそんな暇もなかっただろう。静の知る限りではあるが。静かは優しい声色で、ユリアに声をかけ続ける。
「お友達を作りましょう……きっと、ユリアちゃんのためにもなりますから……」
「はい……」
短い夕暮れの日差しが、ユリアと静を照らしていた。
からりとしたどこか肌寒いその日。
ハンター達は飛竜討伐のために廃墟と化した村へと訪れていた。
「ユリアちゃん、本当に来るの?」
目的の町へ向かう前に、ディーナ・フェルミ(ka5843)はそう赤毛の少女へ問いかける。
「ユリアちゃんが怪我をしたら私達も安心して戦えないの。来るのなら絶対怪我をしない場所で隠れていてほしいの」
「そう……ですよね……。いえ、ここで待ってます。皆さんの邪魔にはなりたくありませんから」
少しの間考え、ユリアがそう声に出す。ディーナは少しほおを緩めて、頷く。
「はい、ユリア嬢は我々が守りましょう。文献が正しければ、ここまで飛竜がくることはないでしょうし」
護衛らしき、姿勢を正した軍人が言う。
「それじゃあ、行ってくるの」
ディーナは心のうちに秘めた意思を確認すると、ユリアに背を向けた。
「……さて、前回は敵の情報が足りてなかったが、今回は収集した情報があるからな」
榊 兵庫(ka0010)は深く頷く。集った者達は手練れが多い。これならばいけるのではないかと、半ば確信に近い推測を立てる。
「あの飛竜による被害が拡大する前にきちんと討伐してしまう事としよう」
普段の愛槍とは違う黒樫の握り心地を確かめるようにしながらも、その眼はまっすぐ、廃墟に座すであろう飛竜の方を見つめている。
戦うべき相手に対する思いは、人それぞれである。
鞍馬 真(ka5819)は複雑な面持ちだった。
「納得できなくても、やらなければならない時もある。仕方ないさ」
口に出しながらも、その実、いつから自分は仕方ないなどという言い訳で奪えるほど傲慢になったのだろうか。
相棒であるワイバーンのことを思い、少し落ち着こうと意識的に呼吸する。各々が己の思いを胸にハンター達は戦場となる廃墟へと動き出した。
●
廃墟は静まり返っていた。かすかに聞こえるのは、冷たい風が崩れかけた建物の間を通る音だけ。
それぞれがそれぞれの獲物を抜き、構えながら進んで行く。
ふと、壁がパラパラと落ちるような音が聞こえた。
飛竜を除いて、誰もいないであろう廃墟で、そんな音が鳴るのは風に打たれた外壁が崩れるか、あるいは確かにそこにいるかの二つ。
そして、この場面で前者だと考える者はいなかった。視線を巡らせると、そいつは静かにそこいた。
崩れかけた、三階建てほどであろう建築物。その屋根だったであろう場所に器用に足をのせている。
『ゴォォォアァァァ!!!!』
たしかな殺意をのせて、雄叫びが廃墟を吹く風に乗ってハンター達に届いた。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそれを目にとめると同時、風を裂き、紅を引きながら疾走する。大輪一文字はまよいのファイアエンチャントを貰い受けたことで炎のように輝いていた。
「今回は様子見ではなく、全力で狩りに行かせてもらおうか」
高い行動力をもつが彼女ならではの速攻策。けれど、流石に距離がありすぎた。飛竜はアルトの接近よりも前に建物を足場に舞い上がる。高く、悠々と。己にとって、有利である大空を舞いながら、旋回していく。
「ブランクがあるのに何でまたこんな強そうなのが出て来るお仕事選んじゃったのか、君子危うきに近寄らずが俺のモットーなんだが……まぁ、確り仕事はやりますよ」
リカルド=フェアバーン(ka0356)は久々の竜を確かに目の前にして言う。それでも言葉の裏に、どこか余裕を感じさせる。
クオン・サガラ(ka0018)はバイクに跨ると、ファナーリクL37を構え、飛竜の射程圏内に入ると同時に弾幕を張った。あくまでも自然体に、落ち着いて放った弾丸は、飛竜の身体を幾つか掠めていく。
夢路 まよい(ka1328))は天空で猛り喚く飛竜をまっすぐに見つめていた。髪、服を靡いて舞い踊らせるその瞳には強い輝きが見て取れる。
何があってこうなったのだろうか、そう思いながらも、手を抜くつもりはなかった。集中射撃を受けて呻きながら徐々に高度を下げている飛竜を見つめ、集中する。
「全てを無に帰せ…ブラックホールカノン!」
ヴァイザースタッフを掲げ唱えた。杖のやや上辺りに生じた紫色の球体は、飛竜へと飛び、炸裂するようにして強力な重力波を広域にばらまいた。
『ォォォォ!!!!』
アメリア・フォーサイス(ka4111)とクオン、二人の弾幕を浴びて踊る飛竜は一溜りもなさそうに吠え、震えながら重力に従って落ちていく。激しい音を立てながら、廃墟へとぶつかって猛り、首を振るう。
『ギャァァァァオォォォォ!!!!!!!!』
その声からは、明確な怒りが伝わってきた。
「さあ楽しいキルタイムの始まりってなあ! どっちが先にくたばるか競争だぜ、ハッハー」
飛竜の怒りを笑い飛ばし、トリプルJ(ka6653)は幻影の腕を伸ばして壁に張り付いた飛竜の動きを抑え込む。
連携と敵の範囲攻撃に諸共に薙ぎ払われないぎりぎりの配置についた前衛からやや後ろ。そこでロニ・カルディス(ka0551)は、ホーリーセイバーを前衛にかけ終えていた。
「……観念しろとも言わないし、存分に恨んでくれて構わない。だが、こちらにも譲れない事情がある以上、ここで仕留めさせてもらう」
ヴァイザースタッフとディスターブに持ちかえ、カッと光の波動が飛竜を呑みこんでいく。飛竜が再び、雄叫びをあげた。
それによって産まれた大きな隙へと、前衛が殺到する。
「悪いな、今日は逃がすわけにはいかない。その翼、切り落とさせてもらおう!」
まず飛竜と接敵したのはアルトだ。地面を強く踏みつけ、一気に加速。それは、影を置き去りに、剣を振りぬいて。狙うは翼。再び舞い上がることなどできぬように、爆発的な推進力で駆け抜ける。
音もなく、刃は肉を断ちながら翼をえぐっていく。走り抜け、背後へと回ったところで、切られた翼から華のように血が噴出した。
『ゴォォォ!!!!』
雄叫び一つ。飛竜の尾がしなりを見せ、次の瞬間には身体を軸にするように降りぬかれた。巻き込む者はいない。それを瞬時に判断し、後ろへと跳んで交わす。
飛竜は身体を一回転させると、口を開いてそのまま走り出す。視線の先、兵庫は槍の握りを確かめ、己が生命力を力に変えて、構えを取る。
まっすぐに走り出した飛竜は、その途中、横にいた真を目にするとともに、動きを止めた。
『ォォォォオオオオ!!』
視線を合わせ、バランスを崩して突っ伏する。土小堀を挙げながら顔から落ちるそれは以前にもあった。テンプテーションの効果である。
真を見据え、動かなくなった飛竜を見て、じっと構えていた兵庫が動く。手短にあった建築物の壁を足場に駆け上がり、落ちた頭部へと黒樫を振り下ろす。
勢いよく振り下ろされた大身槍に呻きながら、飛竜は真と視線を合わせている。
「注意を引くくらいなら私もお力添えできますから……」
火艶 静 (ka5731)は疾風剣を利用して移動しながら、敵の死角、それも神経の集まった急所とも呼ぶべき場所へと摩擦熱の生じた宗三左文字を奔らせる。
更に続くようにしてリカルドが反対側の側面、後ろ脚の関節部分を、竜の尾を模して異形なる大剣、アンサラーで斬りつける。
それは、注意を引くための攻撃。喚く飛竜へと走り込んだのは、先程まで飛竜と視線を合わせていた真だ。
殺さねばならないのなら、せめて早急に。そう意思を込めて握りしめた血色の剣には、溢れんばかりの生命力が込められていた。
一歩の踏み込みと同時、血色の剣が飛竜の脚部に突き立つ。痛みからか震える飛竜から、一気に跳びさって後退しつつ、注意は怠らない。
『ォォォォォォォォ』
身体全体を震わせるように、飛竜が起き上がる。アルトの攻撃を受けた翼に兵庫の攻撃を受けた頭部、真の攻撃を受けた脚部。そのどこも多少は動きづらそうにしているものの、まだ健常であることには変わりない。
憎悪と、生への執着が見え隠れする飛竜の瞳が、眼下のハンター達を睥睨する。
●
アメリアは建物の陰に隠れながら、飛竜から大きく間合いを開けた状態でMr.Lawrenceの照準を合わせていた。明確に傷を負わされ、酷く疲れている様子さえ見受けられるにもかかわらず、それでもなお、牙をむいてくる。
前衛が傷を負わせた翼に向け、既に二発の弾丸を打ち込んでいる。冷気を浴びた飛竜は、前衛で戦っている面々の活躍により、遠距離のアメリアには反撃の意思を見せていない。
多少、動きづらそうにしながらも攻撃を受けている翼を、トリプルJに対して叩きつけようとしていた。
「やっぱり凍結を狙うとなると……動かす支点が効率的?」
物は試しだと、新たな一撃のために引き金を引いた。銃声が鳴り、やがて飛竜が弾かれたように翼を跳ね上げる。
『グロォォォ!!』
まるで天に吠えるように、飛竜が叫ぶ。そして、何となくアメリアはその視線がついにこちらを見たような気がした。
飛竜は身体をその巨体に見合わず、飛び掛かる前の猫のように縮めたかと思うと、地面を踏み鳴らしながらこちらに向けて突進を開始した。
しかし、突進を始めたさなか、飛竜に向けてまよいが撃ちだした氷塊がぶつかっていく。速度がついていたせいか、その衝撃で飛竜は盛大にこけた。土埃をあげながら、飛竜はそのままの勢いで建物の壁へと突っ込んでいく。盛大に硬いものがひびわれる音がして、廃墟が飛竜へと落ちていった。
盛大に倒壊した建築物と、土埃によって飛竜の姿が見えなくなり、ハンター達はじっと飛竜が突っ込んでいった方向に眼を向ける。
「……今のうちに」
そう言って、ディーナは傷ついた仲間をファーストエイドとフルリカバリーで癒しながら、ホーリーヴェールをかけなおす。
「着ます……!」
『グギャォォアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!』
静がそう呟くと同時、土埃の向こうから影が見えて――大口を開けた飛竜がすさまじい勢いで前衛へと突っ込んでいく。
前衛三人のうち、かわしきれない場所に偶然いたリカルドは相手の攻撃を鍛え上げた肉体と鎧を使って受け流し、アルトは背後にクオンがいることを見届けて真っ向から剣を向け、真は軽やかに飛び去った。
「おーこれ、まともに当たったら肉持ってかれるだけじゃ済みそうにないな……そしたら痛いどころの話じゃねえな」
えぐり取られるかのような痛みだろう。覚醒中ゆえの神経の鈍化のおかげで、悠々と言っているが、解除されたら泣き叫ぶであろうこと請負の激痛に、リカルドは少し笑う。
「だが、以前ほどではないな……」
そういったのは、受け止め切ったアルトだ。受けた傷をすかさず後衛が癒し、効果時間の切れたファイアエンチャントが再びかけられ、大輪一文字に赤い輝きをのせる。
「以前より、あの飛竜に攻撃が言っているからでしょうか……」
「あの傷でもああも動けるのですね……」
静の言葉に続くように、喉元へと攻撃を加えるために前まで出ていたクオンが言葉を紡ぐ。
「だがあの様子なら、もうすぐ倒れるだろう」
体のあちこちは凍り付き、鎧とすら思える皮膚はぼろぼろと零れ、先程の突撃を最後に、翼の一本は完全に地面に引きずっている。誰が見ても、瀕死と判断する痛ましいまでの姿だった。
『ガアアアァァァァァアアァ!!!!!!!!!』
それでも――いや、だからこそか、飛竜はその声と瞳に怒りの闘志を燃やして声を発する。
「静かに眠らせてやろう」
最初に口を開いたのは真だった。幾度かの生命力を行使してでの攻撃で、やや疲れが見えつつあるが、それでもまだ、剣を握る手には力がこもっている。そして、再び走り出す。それに続くように、前衛のアルトと兵庫が駆けだした。
飛竜はたいして、再び猛り、身体を軸に薙ぎ払おうと動き出し――傷ついた足を崩して膝をつく。そこへ、血色の刃が走り、痛撃となる緋色の旋風が駆け、樹木のような重厚な一撃が脳天をかち割った。
『ガフゥゴ……』
大地へと叩きつけられた口から、声が漏れ、それを終焉として、飛竜は完全に動きを止めた。
「……死んでしまったか」
ロニの口から言葉が漏れる。
「このワイバーンはどうしてこうなっちゃったんだろうね」
まるで鉱石か何かのような外皮を見つめながら、まよいが続く。
「せめて弔ってやろう。できるだけ空に近い場所がいいだろうか? それとも縄張りと思われる場所か」
戦いの場では勝者は生き残り、敗者は死ぬ。割り切っているとはいえ、後味の悪さはアルトも感じるところだ。
「それなら一度、ユリアちゃんを呼んでくるの!」
傷を負ったものを癒して回っていたディーナがそう告げる。
ハンター達は頷きあうと、ユリアと共に飛竜を弔うのだった。
●
戦闘が終わり依頼が完遂された後、ディーナはユリアの暮らす町で、町長の元に訪れていた。
「今回の仕事も助かりました。ハンター殿。何か用でしょうか?」
礼儀を正した様子で、柔和な表情を張り付けて言う。
「貴方はユリアちゃんに選ばせたように見せて、実は選択肢のないものばかり提示していると思うの。次の町長候補として鍛える気かもしれないけれど、もう少し平民で子供だという点を加味してほしいの」
そこまで言って、少しだけ一度、息を吐く。
「それとも……和解の仲介が必要なの?」
少し、声に力を持たせていう。それを聞いた町長の表情が、やや強張って、優し気な、それでいてどこか厳とした物に変わった。
「……たしかに、選択肢がないものを提示しているかもしれませんね。ええ、でも、あの子にはこれからもそういう風に経験をつんでいって欲しいというのが私の思いなのよ」
朗らかに笑いながら、どこか突き放すように町長が答える。
「これ、あの子が言わないのに言っては駄目な気もするけれど、あの子、いつか自分の村を作りたいらしいの。なら、多少厳しく接しないと。でも、そうね、ハンターさん。貴方の忠告は参考にさせてもらうわ」
双方、どこか穏やかなままに、そのうちの強さを見せながら相対する。やがて、町長は話すことはないとばかりに、己の仕事へと没入していった。
トリプルJは帰還前にユリアへと声をかけていた。
「なあユリア…お前本当にこの街に居て大丈夫か? お前が笑って話せる友達は街に居るのか」
「どうしてそう思われるんでしょう?」
不思議そうにきょとんとする赤毛の少女に対して、男は真剣に視線を交わす。
「本来ならまだ守ってもらえるはずの年のお前に、この町は求めることが多すぎる。人はどこでも行けるっていうが、実際は柵があってどこにもいけねえ場合が多い。それでも、他の町で生活できるくらいの仕事の斡旋は俺でもしてやれるぞ」
「ありがとうございます。ええでも、私の故郷の村では、私なんてもう殆ど大人と同じ扱いでしたから……それに、またお母さんを他所に動かすのは申し訳ないですし。なにより、やりたいことがありますから……」
「やりたいことだって?」
「はい。やりたいこと、です。いつか――いつか、私は自分の、自分たちの村が欲しいんです。もう殆ど、誰もいなくなっちゃったんですけど」
やや切なそうに少女は言って、笑みを作る。その笑みは、何を言っても止まらないタイプの頑固者のそれだった。
「ユリアちゃん……」
静はトリプルJと別れて帰ろうとしていたユリアに声を掛けた。
「静さん、お疲れ様でした! 私はあまりよくわからないですけど……」
「ユリアちゃんが心配できたのですが……」
「静さんがご無事で、私もよかったと思います!」
嬉しそうに笑うユリアに静は頷きつつも、ユリアに問いかける。
「ユリアちゃんは、この町でお友達はできましたか?」
先ほど、トリプルJに応えていた質問のうち、ユリアはそこだけはぐらかしていた。
「それは……」
口ごもり、視線を逸らす。
「故郷では無理だったかもしれませんが、ここならお友達もできると思います……」
「お友達……お友達、ですか……私、お友達を作るなんて考えたこともありませんでした」
そもそも、この少女は恐らく、友人の作り方を知らないのではないか。なんとなく、静はそう思った。
故郷の村では自分より年下の子供が多く、この町に来るまでと来てからはそんな暇もなかっただろう。静の知る限りではあるが。静かは優しい声色で、ユリアに声をかけ続ける。
「お友達を作りましょう……きっと、ユリアちゃんのためにもなりますから……」
「はい……」
短い夕暮れの日差しが、ユリアと静を照らしていた。
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相談卓 リカルド=フェアバーン(ka0356) 人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/11/19 09:57:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/18 23:10:00 |