• 天誓

【天誓】精霊たちに秘密の泉を

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/19 07:30
完成日
2017/12/02 00:11

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

帝国領内で保護された精霊達の仮住まいとなっているこの巨大構造物の裏では、自然が恋しい精霊たちの憩いの場となるささやかな自然公園の造成計画が進められている。
 先ごろこの計画に携わったハンター達は精霊と交流し、軍人達と没交渉になりがちな人間嫌いの精霊のカウンセリングに成功。彼らを奮起させ、精霊と人間が協力して交流の場を作るという大きな目標に向けて第一歩を踏み出した。

●変化した日常と想い

 花の精霊フィー・フローレはコロッセオに与えられた自室で目を覚ました。
 部屋の中には所狭しと野花を植えた鉢が並んでいる。彼女が自ら軍人達に依頼して手に入れたものだ。
(部屋ニオ花ト土ノ匂イガスルダケデコンナニ気分ガ楽ニナルナンテ。……此処ノ軍人達ハ嫌ナ顔ヒトツシナイデ鉢ト土ヲ運ンデクレタ。ヤッパリ「アイツラ」トハ違ウンダワ)
 もっと早く間違いに気づいていれば、とほろ苦い後悔を胸に秘めて、彼女は朝の日課となった花の植え込みに向かう。もちろん目的地はコロッセオの裏側だ。

 公園としての形を成しつつある訓練所跡地。そこは小さな丘や洞窟、いずれは小川となる溝などの地形が精霊達の手によってほぼ完成している。
 軍人達の奮闘もなかなかのもので、地下水を汲み上げる風車の土台づくりや交流スペースの道の舗装が着々と進んでいる。仮設の管理小屋も完成し、火の精霊は小屋の照明や薪ストーブの中に入り込んでのびのびと遊んでいるという。
 もっとも、植生が完成するのはまだまだ先のことだ。先日植えた木々の苗が実を結ぶまでは数年という時が必要だろうし、花々もようやく小さな双葉が姿を現したばかり。春になるまでは物寂しい景色が続く。

 フィーは精霊達のみが行き来できる区域に足を運ぶと日当たりの良い草地へ菫の花を植えた。――もしかしたら、いつかここに親友が来てくれるかもしれないから。
(此処ニハ私ノ友達、清水ノ精霊ノ好キナ菫ヲ植エルノ。菫ハ冬カラ春ノ終ワリマデオ花ヲ咲カセルカラ、私モアノ子モ寂シクナイノヨ。ダカラ……ドウカ、アノ子ガ無事デ此方二来テクレマスヨウニ……早ク会イタイナ……)
 想いが強くなり、手がぴたりと止まる。その時、帝国軍人のアダムが慌てて駆け込んできた。
 朝早くから造園に取り組む精霊達は自分達の縄張りに飛び込んできた彼に口を尖らせて抗議をしたが、アダムは「申し訳ない」と言いながら奥へ奥へと駆けていく。
 そして未完成の秘密の泉の前でちんまりとしゃがんでいるフィーを見つけると喜色を浮かべ、こう言った。
「フィーさん! ハンターオフィスから連絡がありました。清水の精霊が無事に保護され、こちらへ向かっているそうです!」

●再会

 清水の精霊がコロッセオにやってきたのはその日の昼のことだった。
 長年の付き合いになるにも関わらず実は初顔合わせとなる彼女とフィーは互いの姿に驚いたものの、会話をするうちにあっという間に打ち解けて公園でのんびりと過ごし始める。
『花よ、汝が妾の危機を救うようハンターに依頼してくれたそうじゃな。礼を言うぞ』
「ウウン、私ハオ願イシタダケ。アナタガ助カッタノハ頑張ッテクレタハンターノオカゲ」
『いや、きっかけを作ったのは汝じゃ。感謝している。……ところで汝は今はフィー・フローレと名乗っておるそうじゃな?』
「ウン。助ケテクレタハンターガツケテクレタノ。私ニトッテハ人間ト一緒ニ生キテイクッテイウ大切ナ約束ノ名前」
『そうか。ならば妾も汝のことをフィーと呼んで良いだろうか』
「ウン、イイヨ。ア、ソウダ。アナタノ名前ハドウ呼ベバイイノカシラ」
『む……そうさな、妾も先日ヒトに名を受けたのよ。葵、メイシュイ……いや、亜人たちから呼ばれた名も含めばもっとあるのだが……どれも大事なものゆえに選べぬのじゃ』
「……ンー、ンー。……ムズカシイノネ」
『まあ、好きに呼べ。水は氷から放埓な熱気まであらゆる姿に変わるもの。ただ、名がいくらあったとて本質は変わらぬ。妾は妾、そういうことじゃ』
 地面に届く銀青の髪を揺らし、清水の精霊が笑う。太陽の光に照らされてきらきらと光るそれを見て、フィーは青空の下で輝く花を思った。

●秘密の泉を造れ

 清水の精霊が保護されて以来、精霊たちの間では「秘密の泉」のことが大きな話題となった。
 秘密の泉とは公園造成計画の初日に訪れたハンターが提案したもので、精霊達のみが入れる区画の奥に彼らのランドマークとなる癒しの場を作ってみてはという案だ。
 今まで地下から水を引き出す力を持つ精霊が少なかったため、彼らは泉が風車の完成を待ってからでなければできないものと思っていた。しかし地下水を操る彼女が来たからには、もしかしたらその完成が早まるかもしれないと。
 ――その一方で、彼らにとって不穏な噂も同時に流れ始めた。
『アダムが言ってたよ。近いうちに風車を作るから少しうるさくなるかもしれないって』
『やだなあ、軍人たちがいっぱい来るの? 風車ができるまでコロッセオでじっとしてなくちゃいけないかなあ』
『軍人じゃなくて、街の大工とか商人とか色んな人だって聞いたけど……』
『でも人間がいっぱい来るんだろ? ハンターなら俺たちのことちょっとわかってくれてるけど、他の連中はどーだかわかんねーよ』
『僕らを見て怖がったり、いじめようって気になんなきゃいいんだけどねえ』
 ハンター達に親しみ、軍人達にも若干の慣れが出てきた精霊達といえど、やはり全くの初対面の人間となると不安があるらしい。
 それを後ろでじいっと見守っていた砂の精霊グラン・ヴェルがぼそりと呟いた。
『……ならば、秘密の泉を作るか。コロッセオ側から見えぬ、精霊のための泉を』
 すると精霊の1体が瞳を輝かせたものの、すぐに小さく首をかしげた。
『本当!? でも泉ってどうやって作るんだろ。水がたくさんあればできるものじゃないんだろ? すぐに水が地面にしみちゃったらただの大きな水溜りと変わらないしー』
『それは我も知らぬところだが……それなら我らを理解し、人間の知恵に通ずる者の力を借りれば良いのではないか?』
 グランの返答にたちまち精霊達が高い声をあげた。
『ハンター! ハンターを呼べばいいんだね!』
『そっかー、これでまた遊んでもらえるかも!』
 精霊の子供達が目をキラキラさせてグランの周りに光の粒子をまき散らす。グランは眩しそうに目を細めると、こう言った。
『それでは我がアダムに話をつけるとしよう。お前達も今回はいい子にして、きちんと手伝うのだぞ』と。

リプレイ本文

●「初めまして」と「久しぶり」

「はじめまして。オレ、ニーロートパラといいます。お気軽に『ニーロ』と呼んでもらえると嬉しいです」
 初めてコロッセオ裏の公園造成地を訪れたニーロートパラ(ka6990)。彼は帝国兵と精霊たちの前で穏やかな笑みを浮かべると丁寧に一礼した。その真摯な姿に精霊の子供たちが嬉しそうに舞い踊る。精霊といえど子供たちの屈託のなさは人間とあまり変わらないようだ。

 Gacrux(ka2726)は兵士と精霊へ淡々と挨拶をした。一見冷たいようにも感じられるが、本質は仕事に真摯なだけなのだろう。余計なことを語らず、兵士に現在の作業状況を確認し、精霊たちの要望もさり気なく聞き出していく。

 エステル・クレティエ(ka3783)は前回の作業で顔馴染みとなった軍人アダムのもとへ歩み寄った。
「アダムさん。これから工事で敷地に大勢の人が立ち入るという話は本当なのですか?」
「ええ。我々は大型の風車を作る技術を持ち合わせておりません。ですので近々技術者を招く予定を組んだのです」
 エステルは彼らしい生真面目な答えに一抹の不安を感じ、逡巡する。
(工事には人が必要……なかなか全てが丸く収まるようにはならないですね。でも、工夫することで少しでも……あ、そうだわ!)
 エステルは聡明な瞳を輝かせるとアダムに向き直った。
「これからの工事は出来る限り敷地外で作業をして、公園内は最低限の人や工数で部品を持ち込んで組み立てることはできませんか? ハンターのCAMや幻獣の力は運び込みの力になれると思います。下準備も少ない人数で始めて、少しずつ精霊さん達に慣れていただいて……如何ですか?」
「あ、ああ! そうですね。ここは一般人の立ち入りを禁止していますから、加工済の資材の搬入は容易のはずです。ただ、ハンターの皆様はお忙しいのでしょう?」
 アダムの尻すぼみな答えにエステルがふんわりと微笑んだ。
「精霊さんと友達になりたいハンターは少なくありませんから。依頼という形であればきっと様々なハンターがいらっしゃるはずですよ」

「……ひさしぶり」
「香墨、澪! マタ会エテ嬉シイノ!」
 花の精霊フィー・フローレは濡羽 香墨(ka6760)と澪(ka6002)の姿を確認した途端、何度も大きくジャンプした。その隣で清水の精霊が口元を細い指先で隠し、微笑む。
『香墨、先日は世話になったな。ところでそちらは汝の輩かえ?』
 香墨は軍人達が周囲にいないのを確認すると兜を外して微かに微笑んだ。
「ん。ともだちの澪。……ふたりとも、元気そうでよかった」
「はじめまして。私は澪。よろしく。あなたのこと、友達になりたいから葵って呼ばせてね」
 はにかむように頬を赤らめて澪が言う。清水の精霊はたちまち破顔した。
「愛らしき娘よ。妾も汝と知己になりたく思う。今日が良き日となるよう互いに励もうぞ」
 思いのほかあどけない笑みを浮かべる精霊に澪は嬉しくなり、大きく頷いた。

 セイ(ka6982)はアダムに資材の目録と精霊の名簿を借り、情報確認と多めに必要となるであろう建材の追加を手際よく行った。
 精霊たちは大きさも性質もまちまちで、これほど多種多様な存在が一様に喜ぶ施設を作るのは大変そうだ。だがそこは前向きな彼のこと。むしろやる気が湧いてくるというものだ。
(今回は麗しのメイシュイに泉を贈るんだから、多少の苦労は織り込み済みだ……うおぉ、燃えてきたぁ!)
 書類仕事を終えた彼は早速次の作業をと言わんばかりに歩き出した。

●会議

 ハンター一行と精霊たちは早速「秘密の泉」の打ち合わせに入った。
 セイは精霊達から泉の候補地を確認すると清水の精霊に尋ねる。
「メイシュイ、どうだ? このあたりなら水を汲みやすいか?」
『地中は自然に近い状態じゃな。特に支障なく力を使うことができよう』
「なら今度は大きさや形、具体的な構造だな。俺はここを精霊が遊んだり寝転がったり花を見たり、のびのびできる場所にしたいんだ。皆の意見を聞かせてほしい」
 セイが清水の精霊をはじめ、集まった精霊たちの顔をぐるりと見回した。
「ああ、そういえば葵さまは洞窟に住んでいらしたのですよね。洞窟は無理でも、こう隠れ家のような……泉を覆うように東屋を作ってみたらどうかしら」
 エステルは頷くと泉の造成地の上で手を滑らせるようにして翳した。清水の精霊は真剣な表情で彼女の提案に応じる。
『それはありがたい。今も人の目を避けたいという者はおるからのう』
「となりますと、欠かせないのは揺るがない土台と柱……グランさま、お力を貸していただけますか?」
 エステルの問いに、精霊達の後方から見守っていた砂の精霊グラン・ヴェルが嬉しそうに答えた。
『ここのところ力を振るう場面に飢えていたところだ』
 その時Gacruxが息を吐くと、地面を靴の爪先で軽く突いた。
「泉といえば水が湧き続けるものですから、水をはける水路が必要ですね。周囲が水浸しとなれば造園もままなりません。泉の水は中央に流れる小川に流すのが順当でしょうか」
 彼の提案に香墨が頷く。
「水は泉の周りの花に必要な分だけまわして、余りは小川に逃がすようにしたい。……居心地のいいとこって。きっとお花も必要。あと。隠れることが目的なら……泉は人目につきにくいようにしないと」
 香墨は路地裏生活で学んだ知識を惜しみなく精霊たちに伝授していった。
 次々と案が出る中、澪はスケッチブックにアイデアを纏める。概ね意見が出揃ったところで彼女は鉛筆を下ろし、皆の前で理想の泉の完成図を披露した。
 絵の中では藁や木の枝が乗ったささやかな東屋がのどかな風景を作り出している。その傍には小さな水路が備えられ、四季折々の花や木々が彩りを添えていた。
 内部のスケッチはどんな精霊が訪れても安心できるように泉を中心にしたシンプルな構造になっている。
「建物は目立たないようにあまり大きくないけど、空間を最大限に使えるように考えたの。隠れ場所は後付けになっちゃうけど」
 エステルが続いて発言した。
「そうですね……泉の床部分にはタイルで模様を描いたら素敵だと思います。でも人が良いと思ったものが精霊の皆さんにとってそうとは限らないんですよね。皆さんのご希望、聞かせてください」
 精霊たちがその提案にすぐさま反応する。そして結果的に導き出されたものは――青空と花畑のタイル絵だった。自由を象徴する無限の空は精霊にとって特別なのだろう。
 タイルの絵が描きこまれたところでニーロが澪のスケッチを拝借すると後方に控える精霊たちに見せていく。
「どうですか? こんな感じで。もっとこうしてほしいという意見がありましたらぜひ聞かせてください。ここは精霊さんのための場所なのですからね」
 柔和な笑顔の彼に精霊たちから『大丈夫』『これでお願い!』と明るい返事が返ってきた。ニーロは笑顔でスケッチブックを掲げた。

●秘密の泉を作ろう

『泉の形は作ったが、これからどうするのだ?』
 グランをはじめとした土の精霊たちは庭園の一角にほどよい大きさの穴を穿つと首を傾げた。
 そこでセイがグランの顔を見上げる。
「泉に棒を立てて、粘土質の土を敷く。そして粘土質の層の上にはタイルや石を置いたら木の棒を抜く。棒の抜けたところは水の通り道にするんだ。地下水の層に達するまで膠を塗ったパイプを通すことができればメイシュイが楽に水を汲めるはずだ」
 彼の説明に納得した土の精霊達が粘土質の土を力強く穴の内側に打ち込んでいく。セイはグランや清水の精霊に確認をとり、足を汚しながらも給水口を穿った。
「よし、あとはパイプを完全に通すだけだな」
 足元の真っ暗な穴を見てセイが満足そうに言う。ただし今日はここまでが限界だ。残りは精霊達がパイプを打ち込んでいくという。
 そこでセイがコロッセオの水道で泥だらけの足甲を洗っていると、清水の精霊が悪戯めいた顔でついてきた。
『セイよ、顔も泥だらけじゃぞ?』
 精霊の冷たい手がセイの額や頬を拭う。力仕事で火照った体には心地よいが、同時に恥ずかしい。
「あの、もし水脈への道が完成したらメイシュイの力だけで水を引くより楽だろ? 命を育てる美しい水に心から感謝を……って、ああ」
『どうしたのじゃ?』
「いや、なんでもない。大丈夫」
 実はセイは精霊にクリスタルの指輪をと考えていたのだが、帝国は娯楽色の薄い土地柄。今回は彼の願うものが手に入らなかったのだ。
 現地調達の難しさを感じながらも清水の精霊に笑顔をつくり、足早に現場に戻るセイだった。

 澪と香墨は引き続きスケッチブックを用いてフィーとともに造園のイメージを固めていた。
「フィーはどんなのがいい?」
 色鉛筆をフィーに差し出し、香墨が尋ねる。
「ンート、ズットオ花ガ咲クトイイナ。ダカラ春ノオ花ノ準備モシタイ」
「そうだね。次に咲いてくる花も育てよう。あと、泉も花に囲まれるように水路に梅花藻を植えて道を彩るのはどうかな」
 頷いた後、水路に緑の線と白い花を描く澪。フィーの目がキラキラと輝く。
「水路モオ花畑ニナルノ!?」
「でもこれは葵の協力が必要。後で葵に聞かなくちゃ。まずはできるところから、やろう」
 香墨が水路の周りを指差す。そこには澪が描いた可愛らしい花畑が描かれていた。

「さぁ、仕事です。頑張りましょう」
 Gacruxが持参した耕運機「ガンバルン」を起動させた。心地よい振動が彼の腕に伝わってくる。
「わあ、これが耕運機なんですね。話には聞いていたけど実物を見るのは初めてです。凄いなあ!」
 建材を運ぶ道すがら、ニーロが足を止めて無骨な機材に感嘆の声をあげた。Gacruxが苦く笑う。
「今まで使う機会がなかった代物です。今回が初運転でしてね」
 耕運機の傍ではフィーが棒切れを持って一生懸命地面に線を引いていた。どうやら彼女は澪のスケッチをもとに土地を分けているらしい。やがて地面に大きな長方形を書き終えた彼女は両手をあげた。
「デキタヨ!」
「はい、それでは参りますよ」
 ――ガンバルンは手押し車サイズの耕運機だが、実はそのパワーに定評がある。固い土壌も水を撒いて緩めておけば、さほどの手間もかからず柔らかな土が次々と顔を出した。
「スゴーイ、イッパイオ花ガ植エラレルネ!」
「ああ、文明の力ですねえ……。さあ、お嬢さん。次はどこを掘り返します? 土寄せも掘り起こしもフル活用して時間短縮といきましょう」
「ホント!? ソレジャアネ……」
 フィーは棒を再び握ると今度は地面に大きな円を描いた。

●精霊のお茶会

 今回も多くの精霊の協力があり、無事におおまかな仕事が完了した。
 もっとも地下水脈を繋ぐパイプや園内全体の緑化にはまだ時間を要する。しかしセイが根気強く精霊達に給水口の造りを教え、造園については澪のスケッチとフィーの花の知識がある以上そう遠くない日に完成することだろう。

 エステルは外から見れば小枝の山のように見えるものの中はしっかりと精霊たちの隠れ家となったこの東屋を見て嬉しそうに微笑んだ。
 続いて入室したニーロが早速持参した洋菓子を広げると精霊達が歓声をあげる。
『すごい、食べてもいいの!?』
「ええ、皆さんと喜びを分かち合いたくて持ってきたものですから。よければご一緒にどうぞ」
『わあ、ありがと!』
 精霊たちが菓子を堪能する様子を眺め、ニーロはぽつりと呟いた。
「精霊さん達も物を食べることができるんですねえ」
『うむ。動物のように「食べる」概念を持っている精霊は食事ができるのだ。そうでない者も供物として受け入れることはできるがな』
 グランが地面から顔を出し、さり気なく解説する。ニーロは興味深げに耳を傾けた。

 火の精霊が枯れ枝に火を点し、水の入ったケトルを加熱する。
 一行は清水の精霊が汲み上げた水で紅茶を楽しむことになったのだが……Gacruxはただひとり複雑な表情でケトルを見つめていた。
(錬魔院や帝国下水道の汚染は本当に酷かった。帝都の地下水は如何程か……無色透明で異臭もありませんがね)
 彼の悩みとは裏腹に、早々に湯が沸くとエステルが手早く人数分の紅茶を淹れた。
「Gucruxさん、お疲れ様でした」
「……ありがとうございます」
 ティーカップを受け取ったものの、扱いに困る。そこで周囲を見回すとセイがカップを持って「メイシュイの紅茶か」と感慨深げに言って、飲んだ。――すると彼が叫んだ言葉とは。
「美味い! これは飲みやすい味だな」
 他の同行者も次々と紅茶を飲み、同様の感想を述べる。自分だけ飲まないのは失礼になると判断したGacruxも思い切ってカップを呷った。
「ん? 美味しい……」
 ――Gacruxも皆と同様の感想を思わず漏らした。清水の精霊が言う。
『この街の地下に張り巡らされておる水の道は穢れておるが、幸いここは町外れにあるせいかその道が通っておらぬ。ゆえに出来たのじゃ』
「水の道……下水道のことですか」
『もっともあの道があるからこそ、水が穢れぬのよ。文明は精霊の力を奪ったが、同時に守ってもいる。……奇妙なものよ』
 帝国にルーツのあるGacruxにとってこの事実は大きな衝撃だった。
(これは素晴らしい……帝国内で精霊の力が見直されるかもしれません)
 彼は荷物からミネラルウォーターのボトルを取り出すと清水の精霊に尋ねる。
「泉の水を汲んでよろしいですか」
 精霊は気前よく頷いた。

「フィー、葵。これ、よかったら」
 香墨は持参した紙箱を泉の縁で開いた。中にはなんと可愛らしいホールケーキ。2体の精霊が不思議そうにそれを見つめる。
「皆で食べたくて、買ってきた」
 鎧を脱いだ香墨は豊かな黒髪の下の瞳を少女らしく揺らし、僅かに頬を紅く染めていた。
「甘イ匂イ……キット食ベタラ幸セナ気持チニナルノ。コレ、私達モ食ベテイイノ?」
 興味津々といった様子でケーキに顔を近づけるフィー。香墨はその反応を嬉しく思う。
「うん。喜んでもらいたいから」
『妾はありがたく匂いと目で楽しませてもらうぞ』
「ん。どうぞ、葵」
 清水の精霊は供物としてケーキを愛で。フィーは澪と香墨に手伝ってもらいながらケーキを食べ、口の周りをクリームで真っ白にして微笑む。
 香墨の瞳から静かな怒りも憎しみも今の間は消えていることに澪は心から安堵した。

 Gacruxは解散後、作業を終えたアダムの下へ向かうと水の入ったボトルを差し出した。
「喉、乾いていませんか」
「ありがとうございます!」
 渡された水を何の疑いもなく口に含むアダム。すると彼は細い目を見開き、明るい声を放った。
「これ、美味しいです。どこの水なんですか?」
「ああ、どこにでもある水ですよ」
 地面に視線を送りながら。真実を今は語らないでおこうとGacruxは思う。
(心を許せば自ずと精霊達の方から彼に情報を開示するでしょうからね)

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MVP一覧

  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエka3783
  • 死を砕く双魂
    セイka6982

重体一覧

参加者一覧

  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • 死を砕く双魂
    セイ(ka6982
    ドラグーン|27才|男性|闘狩人
  • 碧蓮の狙撃手
    ニーロートパラ(ka6990
    ドラグーン|19才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ・「秘密の泉」造り・
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/11/18 23:07:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/17 23:48:15