Encounter~空中戦~

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/23 12:00
完成日
2017/12/06 18:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●似た者同士
『転移門』。
 言わずと知れた便利装置で、どんなに離れた場所であっても、門から門へ瞬く間に転移する事ができる。
 だが、それはあくまで覚醒者に限ったお話。非覚醒者には使うことができず、遠くに行こうと思えば自らの足や馬などを用いる他ないわけで……つまり。
 各地にあるハンターオフィスからソサエティ本部に届け物をする際などは、覚醒者の『お手伝い』がいると非常に重宝されるという、ただそれだけの話である。


 そういったわけで、辺境のオフィスで『お手伝い』をしている少年ハンター・香藤 玲(kz0220)は、オフィスで預かった本部宛の書類を抱え転移門を潜った。
 一瞬の後、目の前にあるのはリゼリオのソサエティ本部である。
 ……のだが。
「わ……」
 目に飛び込んで来たのは、自分よりわずかに早く転移してきたらしい男性の後ろ頭だった。

 彼の頭、つるっっつるなのである。
 不毛どころか無毛地帯なのである。

 燦然と輝く神々しいまでの後ろ頭に、玲は思わず釘付けになった。
 と、彼が玲の気配に気付き振り返る。慌てて目を逸らし、
「こんにちは」
「こんにちは」
 挨拶すると、返ってきた声は意外と若かった。眼鏡の奥の瞳は柔らかく真面目そうで、玲は自分の不躾をちょっぴり後悔しつつ、彼を追い抜きそそくさとカウンターへ向かった。
 が、何故か彼は無言で後をついて来る。
(ひえぇ、頭ガン見してたの気付かれたのかな!?)
 さっさと用を済ませて帰ろうと小走りになるが、長身の彼とでは足のコンパスの差が物を言い、彼は玲の後ろをぴたりとついてきた。
 玲、半泣き。
 やっと目当てのカウンターに辿り着くと、縋るように言った。
「辺境のハンターオフィスから書類を届けにきましたっ」
「帝国のハンターオフィスから荷物を届けに参りました」
 が、玲の声とぴたりと重なる、つるつる頭の彼の声。
 ふたり、思わず顔を見合わせる。
「え?」
「おや」


 数分後、ふたりは本部内の休憩スペースに座っていた。
 只埜 良人(kz0235)と名乗った彼は、玲と同じく聖導士であり、リアルブルーからの転移者だという。更に、普段は帝国のハンターオフィスで書類整理などの手伝いをしているというのだから、不思議な縁を感じずにはいられなかった。
 玲は良人に御馳走してもらったココアを啜り、彼の頭を……否、顔を見上げて言う。
「へぇ、良人おにいさんはおまわりさんだったんだねー」
「おにいさんと呼ばれる歳では……いえ、好きに呼んで下さい。香藤さんの方が転移者としても、ハンターとしても先輩ですから」
「『先輩』だなんてそんな、照れちゃうなぁ~。あ、玲でいいよ?」
「いえ、そういう訳には」
「僕が緊張しちゃうからっ。ね?」
「そうですか? では、玲さんで」
「『さん』も要らないんだけどなぁ」
 言いながらも、玲は『先輩』の言葉にすっかり舞い上がっていて。
 そんな玲を、弟妹を蒼界に残し転移してきてしまった良人は複雑な思いで見つめる。
(俺だって、突然訳も分からないまま転移してきて戸惑ったのに、こんな幼い子が……今までどれほど苦労したのか……ああ、皆は向こうで元気にしているだろうか)
 密かに苦労を偲んで目頭を熱くさせたり、弟妹に想い馳せたり。良人、その名の通り大層良い人なのだった。


●海での騒動
 そうして一頻り語り終え、腰を上げた時だった。
 血相変えた船乗り風の男が、慌ただしくオフィスへ転がり込んできた。
「た、大変だ! すぐに港へハンターを寄越してくれ!」
「どうしました?」
 ただならぬ様子に素早く良人が男の許へ寄る。緊急時の行動の速さは、さすが元警察官だ。男は良人の誠実そうな顔にいくらか緊張を解いて言う。
「見たんだよ、海の方からバケモンどもが港へ向かって来ンのを!」
 男は漁師で、リゼリオの近海に舟を出し漁をしていたところ、沖の方に異形の集団を見たのだと言う。
「ありゃセイレーンっつーのか……恐ろし気な女とその取り巻き、空には不気味な黒い海鳥が飛んでてよ。最初は獲物になりそうな船が通りかかるのを待ってる風だったが、船が来ねぇから気が変わったのか、港の方へゆっくり進み出してよぉ」
「それで急ぎ報せに戻って来られた、と……よくご無事でしたね」
「たまたま岩礁の陰にいたお陰さ」
 言って、男はエクラの神に祈りを捧げた。
 玲は嫌な予感がしてそぉっと後退りしようとした。が、良人の真っ直ぐな目が玲を捉える。
「そいつらを港に入れてしまったら大変な事になります。玲さん、行きましょう」
「はひ!?」
「船は借りれば良いとして、厄介なのは鳥ですね……生憎俺は飛行ユニットを持ち合わせていません。玲さんは?」
「はひ……こないだ龍騎士隊長さんのおすすめでワイバーンを、」
「それは結構。では俺は船から海中の敵を、玲さんは空中の敵をお願いします」
「はひ!? で、でもまだ実戦に出したことなくて、」
 たじろぐ玲をよそに、良人は本来の担当者であるここのオフィス職員に次第を話し、たちまち船の手配を取り付けたかと思うと、居合わせたハンター達へ声を張る。
「緊急の依頼です、どなたか手を貸していただけませんか!?」
(やだもう僕帰りたい……)
 玲はこっそり頭を抱えたのだった。

リプレイ本文


 海より歪虚の一群が近づいているとの一報がもたらされ、港には早くも総勢14名のハンター達が集まっていた。
 半数は船に乗りセイレーンを始めとした海中の歪虚を。半数はワイバーン・グリフォンを駆り、飛行する敵を討つ2班体制だ。
 海戦担当のハンター達が接岸した船へ乗り込んでいく一方、空中戦担当のハンター達は、各々の相棒に鮮やかな色のスカーフを巻きつけていた。
 只埜 良人(kz0235)との打ち合わせを終えた香藤 玲(kz0220)は、その光景に首を捻り、スカーフを配るミィナ・アレグトーリア(ka0317)に声をかける。
「ミィナおねえさん、それなぁに?」
「巻き込み防止の目印なんよー。玲さんも良かったらどうぞなのん!」
 使用する範囲攻撃手段によって3段階に分け、それに応じた色のスカーフをつける事で、味方同士の巻き込みを防ごうというのだ。
「なるほどねー」
 受け取り、これから初めて戦闘を共にするワイバーン・ワーさんの前に立つと、玲は密かに溜息を零す。と、傍らから楽し気な声がした。
「かっわいーい♪ 良く似合ってるよリリー!」
 おしゃれなシエル・ユークレース(ka6648)は、スカーフの結び方にもこだわっていた。首の前でリボン風に可愛く結わき、ワイバーンのリリーことリリーフロラもどことなく嬉しそうだ。シエルは玲の視線に気付くと、にこっと笑い駆け寄った。
「やっほー玲くん♪ ボク、空で戦うのってはじめて! はじめてって、どきどきしちゃうよね♪」
 初めての空中戦にやや緊張気味の玲に対し、シエルには全くそんな気配がない。頼もしい半面、前向きなシエルを羨ましく感じていると、
「あ、玲さんも初めてだったっけ。うっかり落っこちないように気をつけないとね」
 何かにつけよく玲を気にかけてくれる氷雨 柊羽(ka6767)が言った。その隣には、どこかのんびりとハンター達を眺めているグリフォン・エレウテリアがいる。彼女達も今回が初の空中戦だ。弓での範囲攻撃を予定している柊羽のエレウテリア――エルは、前足の付け根に黄色のスカーフ。柊羽がエルの様子を見ながら、邪魔にならぬ場所を選んでいた。邪魔じゃないと感じる場所には個体差があるようだ。
 柊羽は玲の緊張を解そうと、やや眦を下げて言う。
「ポケットのお菓子落としたからって、追いかけちゃダメだよ?」
「落とさないもんっ!」
 常備菓子をポケットの奥に押し込む玲を見、レム・フィバート(ka6552)が朗らかな笑い声をあげた。
「相変わらずですなー玲くんはっ! でも、なんだかいつもどーりで安心した!」
「レムおねえさん!」
 いつも通りという言葉から、レムが先日の件を知り案じていてくれたのかもしれないと気付き、玲は目を瞬く。何だか面映ゆくて、ぺこりと頭を下げた。レムはそれ以上触れずに頷いて見せると、新たな相棒・ワイバーンのグレイアの首をぽんぽん。
「くーちゅー戦かぁ……初めて乗せて貰ってから気に入って借りてきちゃってるけどー、レムさんもはじめましてだからなー。でも玲くんが不安なら、レムさんがきっちり先を行ってみようではないですか!」
 しっかり先導しますぞっ! と拳を握って見せるレム。3人に励まされ、玲もようやくヤル気を出すと、ワーさんにスカーフを巻いた。

 これが初めての空中戦なのはミィナも同じだ。赤いスカーフをつけたグリフォンのぐり(仮)の首に抱きつき、
「宜しくなんよー、頑張ろうなぁ」
 柔らかな毛並みに頬を摺り寄せる。何故(仮)かと言えば、まだちゃんとした名前を決めかねているからだ。一方、先日飛行訓練に参加したイェルバート(ka1772)は落ち着いた様子で、静かに出立の時を待つワイバーン・ピウスに語りかける。
「頼りにしてるからね、ピウス。海上で戦う人達の為にも、僕らは僕らで空で頑張ろう!」
「素敵なお名前なのん」
「『ピウス』は優しい、穏やかっていう意味の単語からとったんだよ」
 フードの奥でイェルが目を細めると、ミィナも微笑んで頷いた。
「ぐり(仮)にも早くお名前つけんと~……はれ? 研司さんは~?」
 ミィナは辺りを見回した。すると船の傍にいるたおやかな肢体のワイバーン・竜葵がまず目に留まり、次いでその陰に藤堂研司(ka0569)の姿を見つけた。
 研司は船に乗り込もうとする只埜を追っている所だった。
「只埜さん! もしもの時のために、良かったら周波数を合わせておきたいんだけど」
 掲げた研司の手には魔導短伝話。只埜は勿論と首肯し、ふたりは手慣れた所作で操作を終えると、互いの健闘を祈り合って別れた。駆け足で戻ってくる研司の後を、竜葵も離れずついてきた。
「ごめんごめんっ! さて、龍葵もスカーフを巻いてっと……これで準備万端! 行こう!」
 出港準備を終えた船のもやい綱が外される。7人も各々の愛騎の移動力の差を考慮し、順に桟橋の突端から飛び立って行く。勇壮なワイバーンとグリフォン達は力強く地を蹴ると、海と空の境へ羽ばたいた。



 眼下には煌めく海原、行く手の空は雲も少なく視界良好。だが冷たい潮風が正面から叩きつけてくる。シエルは風になぶられる金の髪を押さえながら、隣で飛ぶ玲に言う。
「うー、髪乱れちゃうっ。でも眺めはサイコーだねっ♪ こういうときでなかったら、空も風も景色も満喫できるのになあ」
 けれど前を向いていた玲は気付かなかった。強風と幻獣達の羽ばたく音で、隣にいても声が掻き消されてしまうのだ。シエルはトランシーバーを出そうとしてしょぼんと肩を落とした。
「あーもうっ。トランシーバー忘れちゃったんだったぁ」
 その様子に気付いた玲が呼びかける。
「シエ……し、の?」
 だがその声もまた風に阻まれて。
「聞こえるーっ?」
 視線を合わせた状態で大声で話し、ようやく玲に届いた。
 玲のトランシーバーが会話を拾い、各々の繋ぎっぱなしの端末がそれを届けるも、収音部分に当たる風が激しいノイズとなって混ざっていた。研司はトランシーバーを手で覆いながら、
「玲さん、何かあった?」
 尋ねるも、
『シエルが……って……、』
 だがまたしても喧しいノイズ。ミィナはふむーと小首を傾げる。
「これは思ってたより、連絡取り合うの大変かもしれないのん」
 そんなミィナのぐり(仮)にピウスを寄せ、イェルは直に声をかける。
「こんなに風強いなんてね。戦闘中にいちいち手で風を遮りながら話すとなると……」
 飛行中の姿勢を保ちつつ、携行品である通信機を都度手に取り風が当たらないようにするとなると、手間なのは否めない。けれど唯一アクセサリとして身に着けている者がいた。弓使いという事もあり、後方から広く視界を保っていた柊羽だ。
『敵の動きをよく見て、気付いたことがあればすぐ周知するようにするよ』
「助かる! スカーフの目印、大正解だったかもね」
 研司は苦い顔でくしゃりと前髪を掻き上げる。洋上を吹き渡る潮風の強さ、想像以上。幻獣達を彩る3色のスカーフは、彼らの身体の色に紛れることもなければ、海の青にも空の青にも交わる事無く、くっきりとその色を主張していた。ミィナの選色が功を奏したのだ。
 すると前を行くレムの碧眼が、海中の影を捉えた。
『あそこ! あれ、例のセイレーン達かなっ?』
 船足よりも幻獣達の飛行力が勝っていたため、船はまだ後方にある。
『あっ、こっちもいましたぞっ! ……でも、あれー?』
 雲間に視線を移したレム、1体の不気味な黒鳥を見つけた。前方遠く、ハンター達と同じ高度にいるそいつは、一同に視線を向けながらも悠然と旋回を繰り返している。そう、1体。ボスと思しき黒鳥しか見当たらないのだ。研司はすかさず声を上げる。
「気を付けて! あいつが目視できるようになった以上、いつ接敵してもおかしくない!」
「でも、空で隠れる場所もないのに」
 呟くイェルに、臨戦態勢に入ったピウスが警戒を促すよう低く唸る。その唸りに被せるように、黒鳥が甲高い声を発した。柊羽は鋭敏視覚を駆使し、四方を見渡す。
(どこだ? どこに……)
 その時、首筋の毛を逆立てたエルが、喉を反らし鋭く鳴いた。ハッとして上空を仰いだ柊羽の目に、頭上から真っ直ぐに急降下してくる海鳥達の姿が映る!
「真上――ッ!」
「なっ!?」
 迎撃態勢をとる間もあらばこそ。鋭い嘴を光らせた12体の海鳥達は、その身を弾丸と化しハンター達へ降り注ぐ! 接触手前、カッと口を開いたかと思うと……一斉に吐き出される吐瀉物!
「いやぁーっ!」
「ちょっ! それは、それだけは本当やめて?!」
「正直勘弁してよっ」
 7人は死にもの狂いで手綱を繰る。幻獣達も流石にこれは食らいたくないのだろう、必死になって身を躱す。幸いかかってしまう者はなかったが、そのまま突っ込んで来た海鳥達の体当たりまでは避けることができなかった。ぐり(仮)、リリー、エルがそれぞれ傷を負ってしまう。
「待ってて、今順番に回復していくね!」
 玲は高度を下げつつ回復術を編み始める。
 慌てふためいたハンター達を見、遠くで黒鳥が嗤うようにしゃがれた声を響かせた。研司の黒曜の瞳がキッと睨み据える。
「さっきのは海鳥達への合図か……あいつさえ抑えれば多少動きが鈍る可能性もある! 作戦通り、俺が抑えるよ!」
「頼みましたぞ! グレイアくんっ、さー翼をはためかせ行くのですっ!」
 レムも海鳥達を射程に収めるべくグレイアの首を巡らす。立体感覚に優れたシエル、自分達を通り越し下方にいる海鳥達が2、3体ずつに分かれ散開するのを見、
「黒鳥の指示がなくても、少しは自分達で連携とれるのかな……? でも好きにはさせないんだからっ。港には行かせないよ!」
 魔導ワイヤー『フェッセルン』を握りしめる。分隊した海鳥達を数えて、イェル。
「海上の船の方へもね。ピウス、お願いするよ!」
 それに合わせ海鳥対応の5人も散開。いよいよ空中戦の火蓋が切って落とされた。



「さて……どこだ?」
 全ての敵が出揃ったにもかかわらず、研司は感覚を研ぎ澄ませ辺りを探っていた。研司が探っているのは『距離』。前後左右に加え、上下も気にしなければならない空中戦だ。射程の長い龍弓、そしてとっておきの大口径魔導砲・『研司砲』の射程の差を考慮し、攻防双方に最適な位置を割り出す。そうして、上空の一点を仰いだ。
「……あそこ! よし……行くぜ竜葵!」
 自ら選んだコードネームで呼ばれ、竜葵はたおやかに首を巡らせ急上昇。サイドワインダーを用い加速したスピードに、凍てつく空気の層が研司を鞍から剥がさんばかりに打ちつける。けれどそんなものには構わない。重ねた縁を手繰り寄せ、やっと我が許に招くことができた彼女を信じ、空を駆ける。
 一瞬海に目をやれば、到着した船が前後から挟撃を受けているのが見えた。そして黒鳥に目を移せば、黒鳥は数匹ずつ散開した海鳥達に注意を向けている。また何か指示を出すつもりなのだろう。
「邪魔させて堪るか。制空権を取る! それが海の助けにもなる!」
 気を吐き取り出したるは、七色に輝く矢の一揃え。射撃命中と威力を高めるそれを番え、遠射・制圧射撃と流れるように繋げ、放つ! ファーストで竜葵による高速飛翔、そして重ねた術で精度を増した矢は過たず黒鳥を捉えたが、激しく抵抗され行動不能に追い込む事は叶わなかった。
「流石はボス格か……いいさ、行動不能になるまで撃ち続けてやる! 仮に動けても避けながら指揮はできまい!」
 吼える研司の手には既に矢が。クイックリロードで素早く番え直し、再び強烈な一矢を見舞った!

 一方、レム。以前龍園で飛龍に乗った事のある彼女は、初めてと空中戦ながらなかなかの手綱さばきを披露していた。
「立体戦かー。あんまりししょーには教わってないけど応用おうよー」
 今は亡き師の教えを思い出しながら、前衛職ではない仲間に接近されぬよう、飛来する3体の海鳥に立ち向かう。金剛で我が身を強化した後、急接近。
「ふっふっふー背後ががら空きですなっ。さあ、グレイアくん!」
 グレイアの口腔に炎が渦巻き、レムの合図に合わせ強烈な火炎弾が飛ぶ!
「真っ直ぐ行ってー、ぶっとばしちゃえーっ!」
 レムの号令と共に放出された巨大な焔は、3体とも巻き込むだけの充分な大きさを持っており、回避は困難かに思われた。だが。
「むっ」
 逆巻く焔の渦を逃れ、回避した2体が左右に散る。残る1体は塵と化して海風に散った。
「なかなかすばしっこいなーっ」
『気をつけてフィバートさん。右手下から2体近付いてる! 援護するよ、動かないで』
 トランシーバーから響く柊羽の声。レムは視線を巡らす。柊羽が乗るエルのスカーフは緑。攻撃後の予備動作で少しでも遠ざかるようグレイアへ指示した。
「さて、と。……普段のような精度に、近づけられるといいんだけど」
 龍矢を番え柊羽が呟く。飛行中は姿勢を維持するのが困難なため、様々な動作に制約を受けてしまう。その上、地上と変わらず距離による命中ペナルティが発生するため、高い技術と集中力を要する。それを知っているからこそ、柊羽は瞳にマテリアルを集め、自らの命中力と上げると同時に敵の回避力を奪う――そして。
「行くよ!」
 短く吐く息と共に射かける! 放たれた矢は一度天を指すように上昇。弧を描き、2体の海鳥へ注いだ。それでも海鳥達はまだ息がある。そこへ、旋回して来たレムが仕掛ける!
「いっくぞーグレイアくんっ!」
 聖拳で武装した拳を腰だめに引き、練り上げたマテリアルを込め一気に繰り出す!
「今度はレムさんがぁー、ぶっとばーすっっ!」
 青龍翔咬波。空中を一直線に貫くマテリアルの奔流もまた、敵の回避を大きく損なわせる。ふたりの攻撃を立て続けに受けた二体は耐えきれず消えた。
「よーしっ、まず2匹!」
 ぐっと拳を握るレムに、柊羽は静かに頷いた。

 イェルは群れて飛ぶ別の3体を見下ろしていた。ピウスのサイドワインダーで、頭上を取る事に成功したのだ。
「よし、ピウス。このまま……」
 その時、斜め後ろから声がした。シエルだ。通信機を持っていないシエルは、身振り手振りで何かを訴えようとしている。
「……?」
 かくりと首を傾げるイェル。シエルはぶんぶんと手にした魔導ワイヤーを振り回して見せた。
「えっと……? あっ」
 イェル、気付いた。シエルは疾影士。回避力の高い敵を前に、疾影士のシエルがワイヤーで行いそうな事と言えば――
「なるほど。でも気を付けて、巻き込まれないように!」
 イェルはシエルに届けと、精一杯声を張り上げた。風でフードが飛ばされるが、そんな事にはもう構っていられない。シエルのワイヤーの射程は4、対してピウスのファイアブレスは直径3スクエア。着弾地点を少しでも誤ればシエルを巻き込んでしまう。実際にブレスを撃つのはピウスだが、着弾地点を指示するのはイェルだ。
 鞍越しにピウスのほのかな緊張が伝わってきた。それを撫でて宥めようとし、イェルは自らの指先が強張っていた事に気付く。ゆっくりと息を吐き、鋭敏視覚で冷静に見定める。
「大丈夫だよ。ピウスと僕ならできる……――あそこ!」
 ピウスは一瞬の遅れもなく火炎を吹き出す。見事、シエルを巻き込むことなく2体を焔で搦めとる! しかし1体が逃れようとした所を、
「逃がしてあげないんだからっ」
 シエルは振り上げたワイヤーを、手首のスナップを利かせ振り下ろす。宙で撓んだ所を一気に引かれたワイヤーは、伸び切った瞬間発砲音に似た鋭い音を響かせた! それに怯み、海鳥がほんの一瞬羽ばたきをやめた瞬間、炎は今度こそ海鳥を飲み込んだ。
 やったねとウィンクするシエルへ、ピウスを近づけたイェル。
「ありがとう。でも勘弁してよ……あんなに近い位置に火炎弾を打ち込むなんて、寿命が縮むよ」
 いつもは大人びたイェルが、ぼやきともツッコみともつかない少年らしい言葉を漏らすと、シエルは再びぱちんっと片目を瞑る。
「ホントふたり、息が合ってるねっ」
 思わずイェルとピウスは顔を見合わせた。何だって? と問いた気なピウスの頭へ、イェルは優しく手を置いた。
 その時。
 今度は別の3体が、何かに追われるようこちらへ向かって来るのに気付いた。目を凝らすと更にその後ろ、勇ましく翼を広げ滑空するグリフォンが。
「あれは……」
 目を凝らし、はためく真っ赤なスカーフに気付くと同時、
『こっ……行く、ん! あ……、……のん!』
 ノイズ混じりにトランシーバーから漏れてきたのは、ミィナの声だった。
「それは流石に避けないとっ」
 ふたりはすぐさまその場を離れる。

 ミィナはおっとりと、それでも少々憤慨していた。
「もう。あんなもの他人様に向けて出すなんて、お行儀悪いのん。初陣だから分かんないこと多いけど、うちの大事なぐり(仮)なんよ」
 まだ名前はなくとも、それでも大事な相棒である事に変わりはない。
 神秘的な白樫の杖へマテリアルを注げば、先端に紫色の光の粒子が集まってくる。それは瞬く間に膨れ上がると、ワイバーン達の火炎弾よりも大きな塊となった。
「攻めてきて逃げるなんて都合が良すぎるんよー!」
 ほのぼのとしたミィナにしては珍しく、大きな声をあげて巨大な紫弾を撃つ! 杖から離れたそれは、まるで生き物が餌を呑み込むように3体ともを体内に納めた。一気に収縮し、孕んだ空間ごと敵を圧縮! そうして縮みきった紫の光が弾けた時には、鳥達は移動阻害を科されるのを待たず消滅していた。
「……ふぅ。おいたはだめなのんっ」
 一瞬で3体を無に帰したミィナは、額を拭いほぅっと息をつく。それを見ていたイェルとシエル、顔を見合わせ思わず目をぱちくりした。



 海鳥達が数体ずつに分かれ散開したのは、標的と定めた者を四方八方から同時に襲うためだった。しかしそれが機能せず、分派したまま追い回される羽目になったのは、黒鳥の指示を待ち続けていたからだ。
 研司と竜葵のコンビは、目的通り海鳥達への指示を防ぎきっていた。行動不能にはできなかったが、黒鳥の意識を引きつける事には充分成功していたのだ。己の射程外から一方的に飛び来る矢。これが孤立した黒鳥にとってどれ程脅威であったか。
 研司はにっと歯を見せて笑う。
「作戦成功っ、あっちはもう残り2か。こっちも仕上げと行こう、竜葵!」
 研司が弓から研司砲に持ち替えたのを見、竜葵は一気に黒鳥との距離を詰める。それを見た黒鳥もまた、今度こそ己の射程に捉えるべく羽ばたく。真っ向切っての睨み合い。互いに鋭い視線を交わしたまま、ぐんぐん距離を縮めていく。
 先に仕掛けたのは黒鳥だった。これまでやられっぱなしだった恨みを込め、細い喉から渾身の咆哮を轟かす!
「っ……何て酷い声だ。大丈夫か竜葵!?」
 竜葵は何とか翼を動かし、姿勢制御で麻痺を打ち破る。その間にも黒鳥がますます迫って来ていた。
「回り込んで背後を取る! 竜葵、サイドワインダーだ!」
 碧い肢体が翻り、強烈なGが研司を襲う。けれど研司は笑っていた。
「空のドッグファイトはお手の物! ケツを捉えりゃ鳥の身体の構造で後ろは見えん!」
 然り。黒鳥は分が悪いと察し向きを変えた。その視線の先には、海鳥達を討伐し終え、研司の援護に駆けつける5人と5頭が。無数の風の刃が、先行していたレムとグレイア、柊羽とエルを襲う!
「グレイアくん、頼みますぞっ!」
 グレイアは寸でで回避。エルは避け損ねてしまったものの、
「危ないっ」
 瞬時に反応したイェルが光の障壁を展開したため、ごく軽微なダメージで済んだ。
「やってくれたな……だがもう逃がさん!」
 大口径の研司砲が轟き、恐るべき威力の銃弾が放たれる。背後からの攻撃で回避は困難――だが! 空に生きる鳥の本能か、気配を察した黒鳥が身を捩る。
「ダメっ!」
 途端、打ち鳴らされるワイヤー音。シエルだ! 驚いた黒鳥はつい気を逸らしてしまった。そうして、捩りそこねたその身に弾丸が吸い込まれ――漆黒の鳥は、破裂するように四散した。



「もう終わっちゃったの?」
 あっという間の決着にきょとんとする玲の許へ、イェルがピウスを寄せてきた。
「玲、別動隊は無事かな?」
 その問いかけが通信機から零れると、皆も高度を下げ眼下の船を見つめた。あちらはまだ交戦中、どうやら状況は膠着しているらしい。玲は只埜に呼びかける。
「上空の歪虚はこっちで全部倒したからね、そっちに増援が行くことはないよ。安心して!」
 その声が届くと、空からの脅威が消えた安堵からか、別動隊の動きが活発になった。目を凝らしたミィナは船の損傷に気付き、
「船、大分傷ついてるのん……加勢に、」
 身を乗り出そうとしたが、玲がやんわり頭を振った。
「僕もそうしたいんだけど……あっちではまだ駆け出しのハンターさん達が、実戦経験を積むために頑張ってるから。いざとなれば只埜さんもいるし、信じて待とう?」
 言って玲も甲板に目を落とす。奮戦する彼らの中には、玲がサポーターとして同行した依頼の中で一緒に戦ったハンター達の姿もあった。シエルも見知った顔を見つけ、マストの先へ近づく。
「頑張ってー! もうちょっとだよっ」
 ミィナ同様、いざとなれば援護をと考えていた研司、にぃっと笑って短伝話を只埜に繋いだ。勿論、只埜の手が動いていない間を見計らって。
「こちら空戦部隊! 制空権はこちらにある、遠慮なくブチかましてやってくれ! 帰ったらとびきりの料理を用意する! 楽しみにしててくれ! オーバー!」
 船へ向けサムズアップすると、空を仰ぎ研司を認めた只埜は、警察仕込みの綺麗な敬礼で応えた。
「え、料理? ……待って、その服コックコートなの?」
 だが反応したのは只埜だけではなかった。大した仕事もしていなかった玲だ。
「港に帰ればいくらでも新鮮な魚がある、腕によりをかけて皆を労うよ!」
 にっかり笑って頷く研司に、頑張った幻獣達も嬉しそうに喉を鳴らす。
「僕にできる事があれば手伝うよ」
「レムさんもー!」
「それなら一足先に帰って準備しなくっちゃね♪」
 各々声を上げ、港へ向け飛び始めた。ミィナは船をちらり。
「……待ってるのん。みぃんな無事で帰ってくるんよ?」
 それから皆に追いつくと、並んで空を駆ける。6人と6頭の凱旋を、クジラの声に似た伸びやかなピウスの唄が彩っていた。


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MVP一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリアka0317
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司ka0569

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka0317unit002
    ユニット|幻獣
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    リュウキ
    竜葵(ka0569unit003
    ユニット|幻獣
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ピウス
    ピウス(ka1772unit001
    ユニット|幻獣
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
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    グレイア
    グレイア(ka6552unit004
    ユニット|幻獣
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
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    リリーフロラ
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    ユニット|幻獣
  • 白銀のスナイパー
    氷雨 柊羽(ka6767
    エルフ|17才|女性|猟撃士
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    エレウテリア
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    ユニット|幻獣

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氷雨 柊羽(ka6767
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/11/23 01:46:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/18 22:34:44
アイコン 質問卓
シエル・ユークレース(ka6648
人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/11/21 20:13:15