ゲスト
(ka0000)
【陶曲】捻子の反乱、〆
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/22 19:00
- 完成日
- 2017/11/30 01:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
港を歩く。
荷揚げや荷下ろしで賑わい、ドックの方も忙しない。
過日の、あの一件。
この港を出た貨物船に紛れ込んでいた歪虚と、近海に出没した歪虚による襲撃により滞った移送も、先日までに再び船が出され、武器は何れも然るべき所へ渡ったという報せを受け取った。
水平線を眺めて思う。
あの辺りだっただろうか、と。
事件の収束に安堵しながらも、結局アレは何だったのだろうか、と。
春から続く捻子の歪虚による騒ぎ。
この辺りの工場で生産されている部品が盗まれたり散らかったり、商業区の方でも町中で民間人を巻き込んでの戦闘が起こったり。あの貨物船が沈んだり。
大きな被害が無かったとは言えないが、取り返しの付かないことにならなくて良かった。
刀が操られた事件の際にも報告を受けているが、廃棄物の集積所には僅かながら負のマテリアルが淀んでいた。捻子の歪虚化は、それが原因と見られるだろう。
通常ならば歪虚化してしまう前に片付けられるそれが、今回ばかりは事情が異なっていた。
「……距離は、十分有るように思うんですけれどね……」
街の方へを眺めながら呟いた。
当時、同盟の随所で歪虚の騒ぎが頻発し、フマーレにも災厄の十三魔が出没していた。
その影響により増幅した負のマテリアルが、廃品の捻子に絡まっていただけのそれを強化し、処分が間に合わずに事件に至った。
「……対策は、これでいいはずなんですよね」
集積所から処分する間隔を狭め、清掃と見張りを続ける。
貨物船の沈没以来、鎮まっていた捻子の歪虚による騒ぎは、それにより現在まで起こっていない。
問題があるとするならば。
●
歪虚が動き始めているという噂を聞く。
いつものことだから、真偽は不明。
元より、警戒は続けているのだから、その手の情報一つに踊らされるようなことは無い。
この町が落ち付いたとしても、全てが終わる訳では無いのだから。
「そうだとしても、このまま続けるには住民の負担が大きく、ハンターの人手にも響きます」
町に再び歪虚が手を伸ばさないように。
一度徹底的に見回って、捻子の歪虚はいなくなったと示した方が心穏やかに暮らせるだろう。
集積場を見張り続けるのも体力がいる。せめて日毎の見回り程度に抑えたい。
「疲れていても、良いこと無いですからね……」
受付嬢は地図を広げた。
そこには幾つもの印が打たれている。
その印を中心に町を囲むように書き込みを行う。
引かれた線は目のように交差して、町を3つに分割した。
遊戯盤に駒を進めるように、自陣を一つずつ保っていかなくては。
『町の見回りをお願いします。美味しいスープ付き』
港の方は問題ないですね、でも最後に目撃された場所でもありますから気を抜かずに。
工業区の方は、死角が多いので気を付けて、もしもの奇襲に備えて下さい。
商業区の方は、忙しそうにしているので、町の皆さんの生活を妨げないように。
それから、余裕が有ったら集積所の方のお手伝いもお願いします。
集まったハンター達にそう伝え、受付嬢はよろしくお願いしますと頭を下げた。
港を歩く。
荷揚げや荷下ろしで賑わい、ドックの方も忙しない。
過日の、あの一件。
この港を出た貨物船に紛れ込んでいた歪虚と、近海に出没した歪虚による襲撃により滞った移送も、先日までに再び船が出され、武器は何れも然るべき所へ渡ったという報せを受け取った。
水平線を眺めて思う。
あの辺りだっただろうか、と。
事件の収束に安堵しながらも、結局アレは何だったのだろうか、と。
春から続く捻子の歪虚による騒ぎ。
この辺りの工場で生産されている部品が盗まれたり散らかったり、商業区の方でも町中で民間人を巻き込んでの戦闘が起こったり。あの貨物船が沈んだり。
大きな被害が無かったとは言えないが、取り返しの付かないことにならなくて良かった。
刀が操られた事件の際にも報告を受けているが、廃棄物の集積所には僅かながら負のマテリアルが淀んでいた。捻子の歪虚化は、それが原因と見られるだろう。
通常ならば歪虚化してしまう前に片付けられるそれが、今回ばかりは事情が異なっていた。
「……距離は、十分有るように思うんですけれどね……」
街の方へを眺めながら呟いた。
当時、同盟の随所で歪虚の騒ぎが頻発し、フマーレにも災厄の十三魔が出没していた。
その影響により増幅した負のマテリアルが、廃品の捻子に絡まっていただけのそれを強化し、処分が間に合わずに事件に至った。
「……対策は、これでいいはずなんですよね」
集積所から処分する間隔を狭め、清掃と見張りを続ける。
貨物船の沈没以来、鎮まっていた捻子の歪虚による騒ぎは、それにより現在まで起こっていない。
問題があるとするならば。
●
歪虚が動き始めているという噂を聞く。
いつものことだから、真偽は不明。
元より、警戒は続けているのだから、その手の情報一つに踊らされるようなことは無い。
この町が落ち付いたとしても、全てが終わる訳では無いのだから。
「そうだとしても、このまま続けるには住民の負担が大きく、ハンターの人手にも響きます」
町に再び歪虚が手を伸ばさないように。
一度徹底的に見回って、捻子の歪虚はいなくなったと示した方が心穏やかに暮らせるだろう。
集積場を見張り続けるのも体力がいる。せめて日毎の見回り程度に抑えたい。
「疲れていても、良いこと無いですからね……」
受付嬢は地図を広げた。
そこには幾つもの印が打たれている。
その印を中心に町を囲むように書き込みを行う。
引かれた線は目のように交差して、町を3つに分割した。
遊戯盤に駒を進めるように、自陣を一つずつ保っていかなくては。
『町の見回りをお願いします。美味しいスープ付き』
港の方は問題ないですね、でも最後に目撃された場所でもありますから気を抜かずに。
工業区の方は、死角が多いので気を付けて、もしもの奇襲に備えて下さい。
商業区の方は、忙しそうにしているので、町の皆さんの生活を妨げないように。
それから、余裕が有ったら集積所の方のお手伝いもお願いします。
集まったハンター達にそう伝え、受付嬢はよろしくお願いしますと頭を下げた。
リプレイ本文
●
集まったハンター達を見回し、ジャック・エルギン(ka1522)は、よし、と1つ声を上げる。
「町の連中が不安なく過ごせるよう、見回ってくるさ。港は野郎ばっかの職場だからな」
指を地図に置き、船着き場や堤防に並んで走る道を辿る。
「美人がウロついてちゃ目立って仕事にならねえや」
女性が多く集まった仲間に目を細めて、どちらかの同行を求め、ルエルと椎木に明るい青の目を向けた。
「フマーレから、船が無事出られるようになったのですね、良かったです……商業区方面、受け持ちます」
ミオレスカ(ka3496)も地図を見る。
港に活気が戻ったと聞けば安堵し、それからの状況に頷いて。
ミオレスカにするりと身体を寄せた黒の夢(ka0187)が同じく商業区へと名乗る。
「隙がある方が、寄ってくる、のな――ある意味好都合、かもよ?」
ぱらりと報告を捲り。ハンターへの不意打ちや複数の民間人を狙った報告を辿る。
何か有れば、と、ミオレスカは通信手段を示し、黒の夢もすっと背筋を伸ばす佇まいで、その長身を生かして見張ると微笑んで見せた。
「……ずっと関わっているけれど、本当に嫌な歪虚」
アリア・セリウス(ka6424)はじっと集積所に着けられた印を睨み、カティス・フィルム(ka2486)も同じく集積所へと手を上げた。
穂積 智里(ka6819)がルエルと椎木に視線を向けた。
「よく工業区の方に出かけられる方がいらっしゃったら、一緒に探索をお願いしたいのですが?」
2人が同じくらいだと答えると、穂積は小さく首を揺らした。
「知っている場所の探索は、縁がある方の方が有利に働く気がします。知っている人が頑張っていたら、ちょっと手伝ってあげようかなって思うのが人情だと思います」
記憶は、思い出そうとすることで活性化する部分もある。
そう告げた穂積に、そういうことならと頷いて、椎木がルエルに一瞥を。
港の飯屋や裏道に詳しいのがこっちだ、と。
決まったなと、ジャックがルエルを連れて出発する。
分かれての行動は久しぶりだとルエルを見送った椎木が、穂積に宜しくと会釈を一つ、工業区へと歩き出す。
行きましょう、とミオレスカと黒の夢もその場を離れる。
黒の夢の挙措を覗う様に緑の目を瞬かせ、見上げる様に顔を覗き込んで、黒の夢よりもずっと小柄なミオレスカは忙しない歩で隣を歩く。
静かに表情を切り替えて真っ直ぐに見据え、アリアは得物を握って身を翻す。
出発の間際、肩越しに振り返った受付嬢に、好物は馬鈴薯だと微笑むと、冷たい風の中を颯爽と。
●at港
港町の鍛冶屋で育ったと話しながらジャックはルエルと港へ向かう。
近道だと連れられた細い道を擦り抜けるように進み、冬の波が高く打ち付ける堤防へ出た。
「オウ、すげえ荷物だな。最近の景気はどうだい?」
堤防沿いに船着き場へ、荷を積み込んでいる男に声を掛けた。
悪くないと答えながら、男はジャックに不躾な目を寄越し、靴先からじろりと見詰めた。
「仕事の邪魔してすまねえ。ハンターだ。ちょっくら聞きたいんだが」
貨物船の話しを始めれば、男は2人の武装を一瞥し、ああ、と短く頷いて冷えて赤らむ鼻を擦った。
「悪かねぇな、頭はあっち」
摘まれた荷へ手を掛けながら話す男に、ジャックは手伝うと言って木箱を一つ担いだ。
済まないな、と笑って男は当時の乗組員の所在を指す。粗方の荷を片付けて、ジャックは男の示した方へと足を向けた。
聞き漏らしがあっても困るだろうと、ルエルはその反対側へ向かった。
調子を取り戻し、別の船の仕事を勤しむ水夫に声を掛ける。
仕事を残した彼を待ちながら、碇を下ろした船に近寄れば、その側面の塗料の下には釘が等間隔に打たれており、船縁の手摺りの辺りには十字のネジ山が覗えた。
ジャックが船を眺めていると手を空けた水夫が戻ってくる。
この船は何とも無さそうだとジャックが尋ねると、水夫も頷いて問題ないと答える。
何か見付けたら、船に紛れる金属部品を眺め、コンテナから抜かれて拉げて転がる釘を摘まんで言う。
「見慣れない物を見付けたら知らせてくれ」
ジャックの言葉に怯んだ水夫に念の為だと言えば、水夫も安堵して頷いた。
「今日は水平線まで良く見えるぜ。皆、忙しそうに働いてる」
口笛を吹いて。
港を見回し、海の先へ目を細める。昇れるか、と灯台を指して尋ねれば案内すると彼が応じた。
灯台へ向かいながら、あの頃から広がった噂話を聞いた。
貨物船の準備中に奇妙な老紳士が現れ、大工に話し掛けたと思ったら忽然と姿を消したらしい。
灯台でルエルと合流すれば、彼もその噂を聞いていたという。この辺りの水夫や大工の間で広がっているらしい。
「……こういう景色を、壊させねえために俺も頑張らねえとな」
煌めく波は美しく、ここまで声を届かせるような港の活気は心地良く、船は向かうのも帰るのも、何れも力強く波を割って進んでいく。
ここで生活する人々の安全を守ろうと、遠い水平線を見詰めながらジャックは静かに拳を握り締めた。
●at工業区
金属の打ち付ける音、蒸気の音。騒がしい中を歩きながら、穂積は交差点で足を止めた。
左右のどちらの道も小さな工場が軒を連ねている。
椎木が二手に分かれるかと尋ねると、穂積はそれに否と答えた。
「1人だともし操られた時に一般の方に被害が出たら怖いので……今日はよろしくお願いします」
椎木が頷くと、左右をそれぞれ警戒するような形で、職人の行き交う道を進む。
道ばたに転がった金属片や、束ねられた木材の影に足を止めながら進み、穂積は小さな捻子を拾って息を吐いた。
赤く錆びた古い捻子、元は銀色だったのだろうそれは、劣化が進み中程から折れて先が無い。
「なぜ歪虚が捩子なのか気になります」
シナプスを連想させる。
そう告げて、捻子を握った。
実際に戦ったもの、報告を聞いたもの。捻子は増えて力を増す、別の力を得る、そして、勝手に増える事もある。そんな特徴から、単体での歪虚化は考えにくいと、穂積は考え込んだ。
思考を整えて定めるように、静かな言葉を重ねながら、椎木に向き直った。
「歪虚にされた本体が存在し、その構成部品まで歪虚化して拡散している。そんな印象があるんです」
それを確かめる術がここには無いけれど、今回の調査で何か分かることが有れば良いと先へ進む。
閉店の張り紙を見て足を止める。二軒空けて同じく閉店した工房を覗く。
片方は釘の鍛造、もう片方は鋼線を作っているらしく大掛かりな機械が並んでいる。
通りすがりの職人に聞けば、大分前から、初めて騒ぎが起こってから閉まりっぱなしで、無人だと言う。
他に、と尋ねれば職人は荷物を抱え直して通りの先数軒を指して去っていった。
何れも何等かの部品の工場らしいが、共通性は無い。強いて言うなら金属だろうかと推考を続けながら、あの日の被害が最も大きかったと聞く紡績工場へ向かった。
出迎えたのは綿の塊を抱えたエンリコという青年だった。
中をご覧になりますかと朗らかに尋ね、工場の扉を開けた。
背後の見張りを椎木に任せ、穂積は機械が姦しく糸を紡ぐ工場内へ踏み込んだ。
工場の主である阪井が時折針を交換し、糸が切れぬように手を掛けながら幾つもの紡績機を動かしている。
マテリアルを巡らせて観察しても、その動きに違和感は見られない。
騒音の中声を掛けた穂積に耳を澄ませる。
「この辺では機械部品はどこから購入します? それから、廃棄転売はどちらに?」
音の中では答えられないからと、一旦庭へ。購入元は少し離れた専門の店だと手書きの地図を渡された。
「古くなった板は直したり、最後は薪にするが、釘なんかはこの辺じゃ纏めて捨てるからなあ」
阪井が告げた集積所にはアリアとカティスが向かっている。
「上から見ても構いませんか?」
足にマテリアルを込めて、周囲と街並みを、序でに地図と照らして戻ればエンリコが肩を竦めて迎えた。
「行くなら急いだ方が良いっすよ。あれから店も工場も、閉まるの早いんすよ」
●at商業区
しなやかに身をくねらせ、ゆったりと歩む様は優雅な猫を連想させる。
「ねえねえ、以前この当たりで何かあったって聞いたのなー」
人懐っこい素振りで商店を覗き、黒の夢は店員や客に話し掛ける。
並べられた赤い林檎を手にその様子や仕草を不思議そうに眺めるミオレスカも、店の様子に目を配る。
商品の棚を見ながら、その下や柱の陰も気に掛けるが、掃除の行き届いた店内に荒れた様子は無い。
「ここ最近はどう?」
商品を手に世間話のように話し掛ける黒の夢に、店員は少し考えてから無さそうだと答えた。
先に店を出たミオレスカは、しかし、少し早く書き換えられた閉店時間に目を留めた。
「やっぱり、不安は感じていらっしゃるのでしょうか……」
黒の夢に答える店員も、困ったように笑って2人の目的を尋ねた。
「みんな、心配なのなー。今日は買い物ー」
これ下さい、と林檎をもう1つ。
黒の夢の言葉にほっとした様子を見て、通りを眺めるミオレスカに合流する。
心配そうにされてますよね、と向かいの店でも書き換えられた閉店時間を指して、ミオレスカは黒の夢を見上げた。
「……あとは、オレンジなんかも買っていきましょう。パンも有ればスープと一緒に頂けます」
通りを行き交う人に最近の様子を尋ね、短縮していた営業時間を元に戻した店を覗く。
忙しそうに接客する店員には笑顔も見え、来客も多い。
話を聞けば、先週までは2時間も短かったという。
「ずっと怯えてもいられないわ、ハンターさん達だって気に掛けてくれているみたいだし?」
2人を交互に見詰めて口角を上げ歯を覗かせる。
隣のパン屋の小さな喫茶スペースに腰を落ち着け、2人は見てきた街の様子を話す。
「ここだけ楽しそうで申し訳ないですね、活気も戻っていますし……安全そうですし」
覗いた店で調達した果物を手にミオレスカが肩を竦めた。
それらしい捻子も見かけなかったし、隣の店のように日常を取り戻した店も多い。
「何も起きてないらしいのな。……我輩達が不安を煽るよりも、いいよ」
使わないに越したことはないと、短杖をくるりと弄ぶ。
店員が視界に入った黒の夢が、パンを食んで美味しいと頬を緩めた。
小さなパンを一つ食べ、コーヒーを飲み終えた頃、混み始めた店を出て、並んだ店の外れまで向かう。
聞いた話によると、いいオレンジと蜂蜜を置いている店はまだ閉店を早めているままらしい。
●at集積所
カティスは道の左右を、警戒しながら集積所へ。アリアも言葉に出来ない胸騒ぎに、得物を握り締めて表情を固くする。
嫉妬の眷属は嫌い。人を操り、傷付け合わせ、その悲鳴さえ喜ぶように遊んでいたそれ。
「このまま終わりならいいけれど」
途次の民家や商店の穏やかな日常を感じさせる様子に呟いて、目的地へ急いだ。
冬の北風は頬が嬲られればひりつくように冷たい。その風に煽られた枯れ葉は舞って、吹き溜まりを作っている。
警戒を解かず、けれど、住人にそれと悟らせない程度に周囲を眺め、カティスもアリアに続いて足を急かした。
「お疲れさまなのです!……何か変わったこと、ありました?」
集積所の近くに設けられた簡素な櫓とその脇には荷車が置かれている。
カティスが櫓を見上げ、笑顔で声を掛けると、見張りの男が下りてきた。
変わったことは何も無いと答えて、2人の装備にハンターかと尋ねた。
「ええ……これ以上、何か、起きないように」
見張りの手伝いに来たと言えば、男は快く櫓へ案内する。
片付ける間隔を早めたというのは本当らしく、金属と木材、硝子に陶器にと細かく分別された工業品の廃棄物は整然と並べられている。
男が順に説明を終え、カティスとアリアは櫓を下りた。
「アリアさんはどこから取り掛かります?」
そうね、とアリアは上からの様子を思い浮かべて改めて集積所を見回し、ほっと白い息を吐く。
「暖を取れる準備から始めましょう? あなたも精神が張り詰め過ぎないよう」
火を焚いて、持参した饅頭を温めて。
見回るのは倒れて仕舞った木材置き場の片付けから。
廃材を運び出しに来た業者に用途や行き先を尋ねると、燃やせる物は燃やして、金属は全て鋳熔かすと言う。
運び出した跡を掃き清めれば空気の淀みさえ晴れたように感じた。
長く、これを保っていたのだろう。発端となった歪虚の騒動で淀みが酷くなるまでは。
「自然発生ではなく、人為的な細工があるなら……こんな便利なもの、見逃しはしないでしょうしね」
転がっていた捻子を拾う。錆びているが歪虚化している物では無い。
マテリアルの汚染が有った物の処遇を尋ねれば、あれ以来出ていないがと首を捻り、オフィスに依頼をするだろうと困ったように眉を下げた。
休憩に、と火に手を翳して饅頭を食む。
疲れを浮かべていた男達の顔色も良くなり、もうひと頑張りですね、とカティスはロープを取って作業に取りかかった。
●情報交換
潮風が冷たかったと、ジャックとルエルがオフィスに駆け込んでくる。
先に戻っていたミオレスカと黒の夢が出迎えて、テーブルには切った果物とパンと蜂蜜が置かれている。
装われた馬鈴薯のスープで温まりながら、老紳士の噂を話した。
「――消えちまった爺さんの話が気になったくらいだな」
そこに穂積と椎木も戻ってきた。
地図を辿り、閉店していた工場に印を付けて席に着く。
「どうして、これを選んだんでしょうね……」
なんと無しに持ち帰った錆びた捻子、処分しておくという受付嬢に渡しながら呟いて、不可解というように溜息を吐く。
帰り際に見付かったコボルトの巣を埋めていたと、日の落ちた頃にアリアとカティスが戻ってきた。
巣は浅く空だった。
「どこにも繋がらず、マテリアルへの反応も無かったわ」
「コボルトもいませんでした」
街中に出ないと良いけれど、と、不安を増やして、集積所の様子、集められた物処分について。聞いたことを伝える。
地図にそれを書き留めていると、湯気の立つカップを運んできた受付嬢が声を掛ける。
馬鈴薯、柔らかく煮えてます。温まりますよ。
差し出されたスープを受け取って、2人もほっと息を吐いた。
集まったハンター達を見回し、ジャック・エルギン(ka1522)は、よし、と1つ声を上げる。
「町の連中が不安なく過ごせるよう、見回ってくるさ。港は野郎ばっかの職場だからな」
指を地図に置き、船着き場や堤防に並んで走る道を辿る。
「美人がウロついてちゃ目立って仕事にならねえや」
女性が多く集まった仲間に目を細めて、どちらかの同行を求め、ルエルと椎木に明るい青の目を向けた。
「フマーレから、船が無事出られるようになったのですね、良かったです……商業区方面、受け持ちます」
ミオレスカ(ka3496)も地図を見る。
港に活気が戻ったと聞けば安堵し、それからの状況に頷いて。
ミオレスカにするりと身体を寄せた黒の夢(ka0187)が同じく商業区へと名乗る。
「隙がある方が、寄ってくる、のな――ある意味好都合、かもよ?」
ぱらりと報告を捲り。ハンターへの不意打ちや複数の民間人を狙った報告を辿る。
何か有れば、と、ミオレスカは通信手段を示し、黒の夢もすっと背筋を伸ばす佇まいで、その長身を生かして見張ると微笑んで見せた。
「……ずっと関わっているけれど、本当に嫌な歪虚」
アリア・セリウス(ka6424)はじっと集積所に着けられた印を睨み、カティス・フィルム(ka2486)も同じく集積所へと手を上げた。
穂積 智里(ka6819)がルエルと椎木に視線を向けた。
「よく工業区の方に出かけられる方がいらっしゃったら、一緒に探索をお願いしたいのですが?」
2人が同じくらいだと答えると、穂積は小さく首を揺らした。
「知っている場所の探索は、縁がある方の方が有利に働く気がします。知っている人が頑張っていたら、ちょっと手伝ってあげようかなって思うのが人情だと思います」
記憶は、思い出そうとすることで活性化する部分もある。
そう告げた穂積に、そういうことならと頷いて、椎木がルエルに一瞥を。
港の飯屋や裏道に詳しいのがこっちだ、と。
決まったなと、ジャックがルエルを連れて出発する。
分かれての行動は久しぶりだとルエルを見送った椎木が、穂積に宜しくと会釈を一つ、工業区へと歩き出す。
行きましょう、とミオレスカと黒の夢もその場を離れる。
黒の夢の挙措を覗う様に緑の目を瞬かせ、見上げる様に顔を覗き込んで、黒の夢よりもずっと小柄なミオレスカは忙しない歩で隣を歩く。
静かに表情を切り替えて真っ直ぐに見据え、アリアは得物を握って身を翻す。
出発の間際、肩越しに振り返った受付嬢に、好物は馬鈴薯だと微笑むと、冷たい風の中を颯爽と。
●at港
港町の鍛冶屋で育ったと話しながらジャックはルエルと港へ向かう。
近道だと連れられた細い道を擦り抜けるように進み、冬の波が高く打ち付ける堤防へ出た。
「オウ、すげえ荷物だな。最近の景気はどうだい?」
堤防沿いに船着き場へ、荷を積み込んでいる男に声を掛けた。
悪くないと答えながら、男はジャックに不躾な目を寄越し、靴先からじろりと見詰めた。
「仕事の邪魔してすまねえ。ハンターだ。ちょっくら聞きたいんだが」
貨物船の話しを始めれば、男は2人の武装を一瞥し、ああ、と短く頷いて冷えて赤らむ鼻を擦った。
「悪かねぇな、頭はあっち」
摘まれた荷へ手を掛けながら話す男に、ジャックは手伝うと言って木箱を一つ担いだ。
済まないな、と笑って男は当時の乗組員の所在を指す。粗方の荷を片付けて、ジャックは男の示した方へと足を向けた。
聞き漏らしがあっても困るだろうと、ルエルはその反対側へ向かった。
調子を取り戻し、別の船の仕事を勤しむ水夫に声を掛ける。
仕事を残した彼を待ちながら、碇を下ろした船に近寄れば、その側面の塗料の下には釘が等間隔に打たれており、船縁の手摺りの辺りには十字のネジ山が覗えた。
ジャックが船を眺めていると手を空けた水夫が戻ってくる。
この船は何とも無さそうだとジャックが尋ねると、水夫も頷いて問題ないと答える。
何か見付けたら、船に紛れる金属部品を眺め、コンテナから抜かれて拉げて転がる釘を摘まんで言う。
「見慣れない物を見付けたら知らせてくれ」
ジャックの言葉に怯んだ水夫に念の為だと言えば、水夫も安堵して頷いた。
「今日は水平線まで良く見えるぜ。皆、忙しそうに働いてる」
口笛を吹いて。
港を見回し、海の先へ目を細める。昇れるか、と灯台を指して尋ねれば案内すると彼が応じた。
灯台へ向かいながら、あの頃から広がった噂話を聞いた。
貨物船の準備中に奇妙な老紳士が現れ、大工に話し掛けたと思ったら忽然と姿を消したらしい。
灯台でルエルと合流すれば、彼もその噂を聞いていたという。この辺りの水夫や大工の間で広がっているらしい。
「……こういう景色を、壊させねえために俺も頑張らねえとな」
煌めく波は美しく、ここまで声を届かせるような港の活気は心地良く、船は向かうのも帰るのも、何れも力強く波を割って進んでいく。
ここで生活する人々の安全を守ろうと、遠い水平線を見詰めながらジャックは静かに拳を握り締めた。
●at工業区
金属の打ち付ける音、蒸気の音。騒がしい中を歩きながら、穂積は交差点で足を止めた。
左右のどちらの道も小さな工場が軒を連ねている。
椎木が二手に分かれるかと尋ねると、穂積はそれに否と答えた。
「1人だともし操られた時に一般の方に被害が出たら怖いので……今日はよろしくお願いします」
椎木が頷くと、左右をそれぞれ警戒するような形で、職人の行き交う道を進む。
道ばたに転がった金属片や、束ねられた木材の影に足を止めながら進み、穂積は小さな捻子を拾って息を吐いた。
赤く錆びた古い捻子、元は銀色だったのだろうそれは、劣化が進み中程から折れて先が無い。
「なぜ歪虚が捩子なのか気になります」
シナプスを連想させる。
そう告げて、捻子を握った。
実際に戦ったもの、報告を聞いたもの。捻子は増えて力を増す、別の力を得る、そして、勝手に増える事もある。そんな特徴から、単体での歪虚化は考えにくいと、穂積は考え込んだ。
思考を整えて定めるように、静かな言葉を重ねながら、椎木に向き直った。
「歪虚にされた本体が存在し、その構成部品まで歪虚化して拡散している。そんな印象があるんです」
それを確かめる術がここには無いけれど、今回の調査で何か分かることが有れば良いと先へ進む。
閉店の張り紙を見て足を止める。二軒空けて同じく閉店した工房を覗く。
片方は釘の鍛造、もう片方は鋼線を作っているらしく大掛かりな機械が並んでいる。
通りすがりの職人に聞けば、大分前から、初めて騒ぎが起こってから閉まりっぱなしで、無人だと言う。
他に、と尋ねれば職人は荷物を抱え直して通りの先数軒を指して去っていった。
何れも何等かの部品の工場らしいが、共通性は無い。強いて言うなら金属だろうかと推考を続けながら、あの日の被害が最も大きかったと聞く紡績工場へ向かった。
出迎えたのは綿の塊を抱えたエンリコという青年だった。
中をご覧になりますかと朗らかに尋ね、工場の扉を開けた。
背後の見張りを椎木に任せ、穂積は機械が姦しく糸を紡ぐ工場内へ踏み込んだ。
工場の主である阪井が時折針を交換し、糸が切れぬように手を掛けながら幾つもの紡績機を動かしている。
マテリアルを巡らせて観察しても、その動きに違和感は見られない。
騒音の中声を掛けた穂積に耳を澄ませる。
「この辺では機械部品はどこから購入します? それから、廃棄転売はどちらに?」
音の中では答えられないからと、一旦庭へ。購入元は少し離れた専門の店だと手書きの地図を渡された。
「古くなった板は直したり、最後は薪にするが、釘なんかはこの辺じゃ纏めて捨てるからなあ」
阪井が告げた集積所にはアリアとカティスが向かっている。
「上から見ても構いませんか?」
足にマテリアルを込めて、周囲と街並みを、序でに地図と照らして戻ればエンリコが肩を竦めて迎えた。
「行くなら急いだ方が良いっすよ。あれから店も工場も、閉まるの早いんすよ」
●at商業区
しなやかに身をくねらせ、ゆったりと歩む様は優雅な猫を連想させる。
「ねえねえ、以前この当たりで何かあったって聞いたのなー」
人懐っこい素振りで商店を覗き、黒の夢は店員や客に話し掛ける。
並べられた赤い林檎を手にその様子や仕草を不思議そうに眺めるミオレスカも、店の様子に目を配る。
商品の棚を見ながら、その下や柱の陰も気に掛けるが、掃除の行き届いた店内に荒れた様子は無い。
「ここ最近はどう?」
商品を手に世間話のように話し掛ける黒の夢に、店員は少し考えてから無さそうだと答えた。
先に店を出たミオレスカは、しかし、少し早く書き換えられた閉店時間に目を留めた。
「やっぱり、不安は感じていらっしゃるのでしょうか……」
黒の夢に答える店員も、困ったように笑って2人の目的を尋ねた。
「みんな、心配なのなー。今日は買い物ー」
これ下さい、と林檎をもう1つ。
黒の夢の言葉にほっとした様子を見て、通りを眺めるミオレスカに合流する。
心配そうにされてますよね、と向かいの店でも書き換えられた閉店時間を指して、ミオレスカは黒の夢を見上げた。
「……あとは、オレンジなんかも買っていきましょう。パンも有ればスープと一緒に頂けます」
通りを行き交う人に最近の様子を尋ね、短縮していた営業時間を元に戻した店を覗く。
忙しそうに接客する店員には笑顔も見え、来客も多い。
話を聞けば、先週までは2時間も短かったという。
「ずっと怯えてもいられないわ、ハンターさん達だって気に掛けてくれているみたいだし?」
2人を交互に見詰めて口角を上げ歯を覗かせる。
隣のパン屋の小さな喫茶スペースに腰を落ち着け、2人は見てきた街の様子を話す。
「ここだけ楽しそうで申し訳ないですね、活気も戻っていますし……安全そうですし」
覗いた店で調達した果物を手にミオレスカが肩を竦めた。
それらしい捻子も見かけなかったし、隣の店のように日常を取り戻した店も多い。
「何も起きてないらしいのな。……我輩達が不安を煽るよりも、いいよ」
使わないに越したことはないと、短杖をくるりと弄ぶ。
店員が視界に入った黒の夢が、パンを食んで美味しいと頬を緩めた。
小さなパンを一つ食べ、コーヒーを飲み終えた頃、混み始めた店を出て、並んだ店の外れまで向かう。
聞いた話によると、いいオレンジと蜂蜜を置いている店はまだ閉店を早めているままらしい。
●at集積所
カティスは道の左右を、警戒しながら集積所へ。アリアも言葉に出来ない胸騒ぎに、得物を握り締めて表情を固くする。
嫉妬の眷属は嫌い。人を操り、傷付け合わせ、その悲鳴さえ喜ぶように遊んでいたそれ。
「このまま終わりならいいけれど」
途次の民家や商店の穏やかな日常を感じさせる様子に呟いて、目的地へ急いだ。
冬の北風は頬が嬲られればひりつくように冷たい。その風に煽られた枯れ葉は舞って、吹き溜まりを作っている。
警戒を解かず、けれど、住人にそれと悟らせない程度に周囲を眺め、カティスもアリアに続いて足を急かした。
「お疲れさまなのです!……何か変わったこと、ありました?」
集積所の近くに設けられた簡素な櫓とその脇には荷車が置かれている。
カティスが櫓を見上げ、笑顔で声を掛けると、見張りの男が下りてきた。
変わったことは何も無いと答えて、2人の装備にハンターかと尋ねた。
「ええ……これ以上、何か、起きないように」
見張りの手伝いに来たと言えば、男は快く櫓へ案内する。
片付ける間隔を早めたというのは本当らしく、金属と木材、硝子に陶器にと細かく分別された工業品の廃棄物は整然と並べられている。
男が順に説明を終え、カティスとアリアは櫓を下りた。
「アリアさんはどこから取り掛かります?」
そうね、とアリアは上からの様子を思い浮かべて改めて集積所を見回し、ほっと白い息を吐く。
「暖を取れる準備から始めましょう? あなたも精神が張り詰め過ぎないよう」
火を焚いて、持参した饅頭を温めて。
見回るのは倒れて仕舞った木材置き場の片付けから。
廃材を運び出しに来た業者に用途や行き先を尋ねると、燃やせる物は燃やして、金属は全て鋳熔かすと言う。
運び出した跡を掃き清めれば空気の淀みさえ晴れたように感じた。
長く、これを保っていたのだろう。発端となった歪虚の騒動で淀みが酷くなるまでは。
「自然発生ではなく、人為的な細工があるなら……こんな便利なもの、見逃しはしないでしょうしね」
転がっていた捻子を拾う。錆びているが歪虚化している物では無い。
マテリアルの汚染が有った物の処遇を尋ねれば、あれ以来出ていないがと首を捻り、オフィスに依頼をするだろうと困ったように眉を下げた。
休憩に、と火に手を翳して饅頭を食む。
疲れを浮かべていた男達の顔色も良くなり、もうひと頑張りですね、とカティスはロープを取って作業に取りかかった。
●情報交換
潮風が冷たかったと、ジャックとルエルがオフィスに駆け込んでくる。
先に戻っていたミオレスカと黒の夢が出迎えて、テーブルには切った果物とパンと蜂蜜が置かれている。
装われた馬鈴薯のスープで温まりながら、老紳士の噂を話した。
「――消えちまった爺さんの話が気になったくらいだな」
そこに穂積と椎木も戻ってきた。
地図を辿り、閉店していた工場に印を付けて席に着く。
「どうして、これを選んだんでしょうね……」
なんと無しに持ち帰った錆びた捻子、処分しておくという受付嬢に渡しながら呟いて、不可解というように溜息を吐く。
帰り際に見付かったコボルトの巣を埋めていたと、日の落ちた頃にアリアとカティスが戻ってきた。
巣は浅く空だった。
「どこにも繋がらず、マテリアルへの反応も無かったわ」
「コボルトもいませんでした」
街中に出ないと良いけれど、と、不安を増やして、集積所の様子、集められた物処分について。聞いたことを伝える。
地図にそれを書き留めていると、湯気の立つカップを運んできた受付嬢が声を掛ける。
馬鈴薯、柔らかく煮えてます。温まりますよ。
差し出されたスープを受け取って、2人もほっと息を吐いた。
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相談卓 アリア・セリウス(ka6424) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/11/22 17:44:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/20 12:30:01 |