ゲスト
(ka0000)
【陶曲】開園!同盟ヒズミーランド
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/28 22:00
- 完成日
- 2017/12/07 01:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「わあっ! すごーい」
見上げ見回す子供たちの瞳はいずれも輝いていた。
「すごいだろう? スリル満点のジェットコースターに心ときめくメリーゴーランド。タコ足回転座椅子にティーカップもあるぞ」
派手な色の出で立ちをした太った男が子供たちに両手を広げて笑顔を振りまいた。
その背後には空高く行き交うコースターの軌道、色とりどりに飾られたメリーゴーランドの天蓋、足の回転する巨大なタコの赤い頭部などがあった。もちろん、大型遊具の他にスタッフの控える管理棟や機材整備をする整備棟、準備中のお化け屋敷、園外に宿泊施設などがある。
「バルコーネさん。お招き、本当にありがとうございいます」
「いえいえ、子供は笑顔が第一。じゃ、子供たち。この回数券を大切に使って同盟ヒズミーランドの一泊二日を楽しんでくれ」
孤児院施設長の感謝の言葉を受けた富豪のバルコーネ、子供に回数券の綴りを配る。受け取った子供たちは歓声とともに駆け出した。
ここが、新たに同盟領は極彩色の都「ヴァリオス」から離れた荒野に開園した「同盟ヒズミーランド」。夢と冒険いっぱいの不思議の国。マスコットキャラのウサギの着ぐるみ「ヒズミー」と「ヒズミン」も手を振り来園を歓迎している。
時計塔の針は午後二時すぎ。専用の駅馬車隊の定期到着時刻でもある。
「で、どうじゃ?」
「いや、いきなりどうじゃって言われても……」
数日後、南那初華(kz0135)は魔術師協会に呼び出しを食らっていた。
「先日の郷祭で遊園地遊具を出展していたらしいが」
「直接間接問わず、ヒズミーランドとの関係を確認せねばのう」
協会のお偉方に問い詰められている。びびった初華に配慮して口調は柔らかくなったが。
「あれはフマーレの職人さんに独自に造ってもらいました。だからちっちゃいし、職人さんも手探り仕事でしたぁ……」
「ん。それが確認できればいいんだよ」
涙目の初華。協会の偉い人たちは態度も柔らかくした。
「ま、そちらはそんなもんじゃろう。ヒズミーランドの方は隠しきれんマイナスマテリアルが漂っておる」
「しかし、同盟評議会の許可を得た建設なのか?」
「荒野の有効活用という事でむしろ歓迎したらしい。もっとも、申請より大規模なんで問題視はした様子」
「問題視はしたが、それだけ。当初目的は荒野の有効活用じゃったしの」
「もちろん裏金も動いたようで、最終的にはお咎めなし」
はーやれやれ、な雰囲気が一瞬漂う。
「とはいえ、宿泊施設を園外に併設して一般利用できることにしたのが大きいのぅ」
「でも荒野だろ? 水源もなしによくできたな」
「あそこには小さなオアシスがあったろう?」
「ああ、精霊でもいるんじゃないかってうわさの」
「独占利用された、ともいうがな」
「とはいえ、新たな雇用を生み出したし孤児の招待など公益に配慮しとるようじゃ」
「誰がやってんだ?」
「表向きは悪名高いバルコーネ氏。支配人は別にいるな。無名の人物だ」
「あのけちんぼが? どういう風の吹き回しだ?」
「いい手だよ。何も生まない地域に流通と賑わいを生んだ。あのルートがこのまま伸びて発展すれば儲けはほぼ独占だ」
「しかしあの規模。よく資金が……」
「黒い噂のある富豪が束になってる。この動きに噛んでおこうとそうでもない資産家もこっそり小口で参加してるな」
「しかし、マイナスマテリアルは看過できん」
「背後で……いや、できてしまえば見るからに歪虚の関与が表面化したというところか」
「しかし、あれだけの施設がいつの間に……」
「資材も書類を追えば一目瞭然で動きが分かったはずなんだが、評議会も度肝を抜かれたようだった」
「あ!」
ここで初華の声。視線が集まる。
「そういえばフマーレの最終処分場が掘り返されて産廃の鉄くずを持ち去られたって聞いたよ? フマーレの大火でゴミが増えて予定より早く埋め立てたらしいの」
いま調査中だって、と初華。
「それだな」
「ああ。歪虚がかんでるなら、な」
「いい機会だ。君を呼んだもう一つの理由も話しておこう」
「ほへ?」
一斉に皆に向き直られて尻込みする。
「君、確かクレープ屋台の店長もできるんだったよね?」
「フマーレの大火の後、火付けのYという堕落者を追い詰めたときも出してもらったはず」
「許可をとっておくから先に乗り込んでおいてくれ。追って、客を装ったハンターの大部隊を偵察に出す。歪虚の関与とその目的を探ってくれ」
「どひーっ!」
「心配するな。君は念のための先行部隊だ。クレープ販売に集中して問題は起こさないように。調査もしなくていい。事を起こすな。定期的に伝令をやるから大きな動きがあれば知らせてくれ」
というわけで初華、しばらくヒズミーランドに通うことになる。
ともかく、ヒズミーランドに客として遊びに行きたっぷり遊びつつ歪虚の関与とその目的を探る偵察員、求ム。
見上げ見回す子供たちの瞳はいずれも輝いていた。
「すごいだろう? スリル満点のジェットコースターに心ときめくメリーゴーランド。タコ足回転座椅子にティーカップもあるぞ」
派手な色の出で立ちをした太った男が子供たちに両手を広げて笑顔を振りまいた。
その背後には空高く行き交うコースターの軌道、色とりどりに飾られたメリーゴーランドの天蓋、足の回転する巨大なタコの赤い頭部などがあった。もちろん、大型遊具の他にスタッフの控える管理棟や機材整備をする整備棟、準備中のお化け屋敷、園外に宿泊施設などがある。
「バルコーネさん。お招き、本当にありがとうございいます」
「いえいえ、子供は笑顔が第一。じゃ、子供たち。この回数券を大切に使って同盟ヒズミーランドの一泊二日を楽しんでくれ」
孤児院施設長の感謝の言葉を受けた富豪のバルコーネ、子供に回数券の綴りを配る。受け取った子供たちは歓声とともに駆け出した。
ここが、新たに同盟領は極彩色の都「ヴァリオス」から離れた荒野に開園した「同盟ヒズミーランド」。夢と冒険いっぱいの不思議の国。マスコットキャラのウサギの着ぐるみ「ヒズミー」と「ヒズミン」も手を振り来園を歓迎している。
時計塔の針は午後二時すぎ。専用の駅馬車隊の定期到着時刻でもある。
「で、どうじゃ?」
「いや、いきなりどうじゃって言われても……」
数日後、南那初華(kz0135)は魔術師協会に呼び出しを食らっていた。
「先日の郷祭で遊園地遊具を出展していたらしいが」
「直接間接問わず、ヒズミーランドとの関係を確認せねばのう」
協会のお偉方に問い詰められている。びびった初華に配慮して口調は柔らかくなったが。
「あれはフマーレの職人さんに独自に造ってもらいました。だからちっちゃいし、職人さんも手探り仕事でしたぁ……」
「ん。それが確認できればいいんだよ」
涙目の初華。協会の偉い人たちは態度も柔らかくした。
「ま、そちらはそんなもんじゃろう。ヒズミーランドの方は隠しきれんマイナスマテリアルが漂っておる」
「しかし、同盟評議会の許可を得た建設なのか?」
「荒野の有効活用という事でむしろ歓迎したらしい。もっとも、申請より大規模なんで問題視はした様子」
「問題視はしたが、それだけ。当初目的は荒野の有効活用じゃったしの」
「もちろん裏金も動いたようで、最終的にはお咎めなし」
はーやれやれ、な雰囲気が一瞬漂う。
「とはいえ、宿泊施設を園外に併設して一般利用できることにしたのが大きいのぅ」
「でも荒野だろ? 水源もなしによくできたな」
「あそこには小さなオアシスがあったろう?」
「ああ、精霊でもいるんじゃないかってうわさの」
「独占利用された、ともいうがな」
「とはいえ、新たな雇用を生み出したし孤児の招待など公益に配慮しとるようじゃ」
「誰がやってんだ?」
「表向きは悪名高いバルコーネ氏。支配人は別にいるな。無名の人物だ」
「あのけちんぼが? どういう風の吹き回しだ?」
「いい手だよ。何も生まない地域に流通と賑わいを生んだ。あのルートがこのまま伸びて発展すれば儲けはほぼ独占だ」
「しかしあの規模。よく資金が……」
「黒い噂のある富豪が束になってる。この動きに噛んでおこうとそうでもない資産家もこっそり小口で参加してるな」
「しかし、マイナスマテリアルは看過できん」
「背後で……いや、できてしまえば見るからに歪虚の関与が表面化したというところか」
「しかし、あれだけの施設がいつの間に……」
「資材も書類を追えば一目瞭然で動きが分かったはずなんだが、評議会も度肝を抜かれたようだった」
「あ!」
ここで初華の声。視線が集まる。
「そういえばフマーレの最終処分場が掘り返されて産廃の鉄くずを持ち去られたって聞いたよ? フマーレの大火でゴミが増えて予定より早く埋め立てたらしいの」
いま調査中だって、と初華。
「それだな」
「ああ。歪虚がかんでるなら、な」
「いい機会だ。君を呼んだもう一つの理由も話しておこう」
「ほへ?」
一斉に皆に向き直られて尻込みする。
「君、確かクレープ屋台の店長もできるんだったよね?」
「フマーレの大火の後、火付けのYという堕落者を追い詰めたときも出してもらったはず」
「許可をとっておくから先に乗り込んでおいてくれ。追って、客を装ったハンターの大部隊を偵察に出す。歪虚の関与とその目的を探ってくれ」
「どひーっ!」
「心配するな。君は念のための先行部隊だ。クレープ販売に集中して問題は起こさないように。調査もしなくていい。事を起こすな。定期的に伝令をやるから大きな動きがあれば知らせてくれ」
というわけで初華、しばらくヒズミーランドに通うことになる。
ともかく、ヒズミーランドに客として遊びに行きたっぷり遊びつつ歪虚の関与とその目的を探る偵察員、求ム。
リプレイ本文
●
「それでは同盟ヒズミーランド、本日の開園でーす!」
正面ゲートが開かれ、待っていた人たちが続々となだれ込む。
そんな中、立ちすくみ園内の大型遊具を見やる白衣姿が。
「……これはまた……いきなり限りなく黒に近いグレーですね」
天央 観智(ka0896)、眼鏡の位置を整えため息をつく。
「まあ、ヒズミーって名前からしてアウトだと思ったしねー」
七夜・真夕(ka3977)も呆れ気味。
「そう……なの?」
真夕に寄り添う雪継・紅葉(ka5188)はかくりと首を傾げるのみ。
一体、入る前から何が問題だったのか?
「……少なくともリアルブルーの遊園地で一般的に見られる遊具構造ではないですね」
日紫喜 嘉雅都(ka4222)のこっそり指摘する声。
その横で、ハヒヤ・ベリモル(ka6620)が前のめりになってお目めキラキラさせている。
「にゃー! ひずみーらんど! 見たことにゃいものでいっぱいにゃ! ……あのおっきなゲジゲジは何にゃ? いっぱいつながってるみたいにゃ!」
ジェットコースターの軌道を指差し無邪気に振り向いてくる。
「リアルブルーでは少なくとも、支柱はまっすぐでこんなに横に開いてないですが……とりあえずそのゲジゲジみたい、は園内では口にしないようにしてくださいね」
嘉雅都、ハヒヤに軽く釘を差しておく。
彼が言う通り、ジェットコースターの軌道は一番高いところではリアルブルー製と同じくまっすぐ支えているが、低いところでは真下ではなくまず横に伸ばしてから支えている。波打つ軌道に合わせている姿は体長の長い昆虫類が対になる足を縦に伸ばしたり横に広げたりして調整している姿に似ている。
クリムゾンウエスト民は当然、リアルブルー製を知らない。
ハヒヤや紅葉がいきなり違和感を抱かなかった理由である。
「ま、後はしっかり調べりゃいいだけだな」
トリプルJ(ka6653)、何もなかったかのように入っていく。
「そうですね。調べることは他にもあります」
観智も白衣をなびかせ続く。
「南那さんのクレープ屋台のあたりに陣取っておきます。何かあったら知らせてください」
続々入園するハンターたちに声を掛ける嘉雅都だった。
●
でもって、南那初華(kz0135)の屋台「Pクレープ」にて。
「南那さん、そういうわけですからここを拠点に使わせてもらいます」
嘉雅都、初華に断って屋台の裏で持参した機材を下ろし始めた。
「ち、ちょっと。ここって不味いよぅ。いつもと違う感じで怪しまれちゃう」
「といっても、ほかに安心できる適当な場所もないですし」
たちまちひそひそ声でそんなやり取り。慌てる初華だが嘉雅都の言い分も分かる。
「あら? クレープ屋さん、今日は手伝いの人がいるんですね」
この様子に少し離れたポップコーン屋台の女性店員さんがにこやかに話し掛けて来た。
「う、うんっ。ほ、ほら、今日はお客さん多そうだなって……はい、とりあえず小麦粉を溶いてくださいね」
ボウルと混ぜ具を渡される嘉雅都。
「まさかこんなところで料理のスキルを問われることになるとは……」
口裏を合わせる必要もあるので不本意ながら小麦粉を溶く。ここは平常心である。
ここで店頭にお客さんが。
「今日は遊園地に出店か、南那殿も大変だな」
「あっ。ゲンさんお久し振り~」
セルゲン(ka6612)である。
「……ゲンさん?」
「わー、ハーティさんも一緒なんだ。あれから元気してる?」
「元気してましたれす。初華さん、クレープお願いするのれす」
ハーティ(ka6928)も一緒である。なお、いきなり初耳な愛称で呼ばれ戸惑うセルゲンは話においてけぼりだったり。
で、くるっと焼いてマーマレードをまるっと包んで、はい完成。
「やっと食べられましたー、おいしいれすー♪」
ハーティ、ぱくっとやってご満悦。
「じゃ、さっそく行くのれす」
「おい、こっちはまだ会計終わってないんだぞ……おい!」
遊びに繰り出すハーティーに引きずられつつも、何とか会計を済ませクレープを受け取るセルゲンだった。
Pクレープの近くにて。
「遊園地、よくわかりませんが、遊ぶところですね、聞いた事はあります……あっ!」
ミオレスカ(ka3496)が目を輝かせたのは、射的屋台を見つけたから。
早速、お代を払ってコルク銃を手にした。
ぱん、と一発撃つがこういう銃は威力が弱くしかも癖がある。外れた。
ミオレスカ、哀れみのある視線で銃を見た。多くの人から「ダメ銃」といわれたことだろう。
「猟撃士として、この銃に自信を持ってもらいたいのです」
変な使命感に燃えたようで、ぐうんと身を乗り出す。机に腹ばいになる体勢だが、狙撃者としてはいつもの格好に近い。
――ぱん!
今度は見事に命中。ぬいぐるみをゲットした。
「わあっ、上手だね」
ここに時音 ざくろ(ka1250)が通りかかった。白山 菊理(ka4305)の手を引いて遊園地デートを満喫中のようで。
「ありがとう。ミオレスカっていいます」
「ざくろは時音ざくろ。……さっきのように撃てばいいんだね?」
「一発目で銃の癖を見抜いて二発目に仕留めるといいです」
ミオレスカの助言に従い、二発目で仕留めるざくろ。
「もう一つも……よし!」
ざくろ、欲しかったものをペアでゲットした。
「ミオレスカ、ありがとう。おかげで取れたよ……はい、菊理」
「これを被るのか……? 少々恥ずかしいな」
とかなんとか言いつつ被ったのは、遊園地の着ぐるみウサギキャラ「ヒズミー」と「ヒズミン」のウサ耳帽子。リアルブルーで例えるなら丸いネズおっとこれ以上は以下略。
戸惑う菊理だが、ざくろはにこりと魅力的に言い放った。
「折角だし、溶け込んで楽しもうよ。ほら、お揃いだよ……菊理可愛い」
「う……うん」
今日の菊理はいつもと違い、縦セタにデニムのパンツ、フラットシューズと暖かく動きやすい格好。
戸惑いもあったが、だからこそ思いきることができた。
「こういった施設は経験がないからな……」
ざくろの横に立ち、セーターの腕を絡める。
「うん。行こう」
肘に伝わる温もりと柔らかさにどきっとしつつもエスコートするざくろだった。
●
そんな二人とすれ違ったのは、宵待 サクラ(ka5561)。背後にざくろと菊理の姿が遠ざかる。
ふと立ち止まるサクラ。
「元が資材なんだから、怪しいのは整備棟と途中のお化け屋敷かなぁ。お化け屋敷で行方不明ってリアルブルーじゃ定番ネタだけど、クリムゾンウェストだとどうなのかな?」
きょろ、と周りを見回し元気よくそんなことをつぶやいたり。
「奇遇だね」
その後ろを影のように横切った鞍馬 真(ka5819)がぽそり。
「どっち?」
「かくれんぼするなら……」
確認したサクラに、自分の行動を楽しそうに謎めかす真。
もっとも、行こうとしている方向で分かる。
「それじゃ」
「ああ」
サクラが管理棟を目指し、真が幽霊屋敷に行く。
一方、遠くからざくろたちを見ていたメルクーア(ka4005)。
「あんな帽子があるんだ~」
「お待たせ、メル」
そこへぽふりと何かをかぶせられた。
振り返るとイレーヌ(ka1372)がいた。
「こういう場所だ。少しは雰囲気を楽しんでみるのも悪くない」
イレーヌ、ヒズミーのうさ耳帽子をかぶっていた。もちろんメルクーアが頭に手をやると、自分がかぶせられたものも同じだった。
「お姉ちゃん!」
反射的に腕に抱き着く。
普段ならいなされたり邪険に扱われもするが……。
「迷子になっては目も当てられないからな。……変な男にでも捕まったら大変だ」
「うんうん。大変だよねぇー」
表情の一つも変えないイレーヌに、にっこにこのメルクーアだったり。
そこに通り掛かるハヒヤ。
「あの早く動くじぇっとこーすたーという遊具が怪しいにゃ! まずはあれに乗ってみるにゃ!」
「心配でついて来ましたが……怪しい、はNGワードでお願いしますよ?」
行きがかり上、観智がハヒヤのお目付け役となり追跡している。
「ほう?」
「行ってみよー!」
立ち止まるイレーヌをぐいぐい連れて行くメルクーア。
で、ジェットコースター乗り場到着した時に。
「これは……もしかして!」
それまで無表情気味だったイレーヌが「とある発見」に愕然としたッ!
「えええっ、まさか!」
メルクーアもその発見に愕然としている。
一体何が……。
「なんで? なんで乗れないのー! あたしはハンターだから平気だよお!」
「まあまあ、メル」
いきなり騒ぎを起こす。
「どうしました?」
「いや、本当に身長低いと乗れないのか?」
やって来た係員に事情を話すイレーヌ。ここで少し目配せを。
(よし……)
反応したのは観智。係員のいなくなった制御室らしき小部屋に入る。
「……動力を制御しているわけではないようですね」
改めて止まっているジェットコースターを見ると運転手などいない。
「ここで制御してないとすると……」
車両本体を観察する。が、外装板が手厚く下にあるであろう車輪すら見えない。
「では、発射しま~す」
その間にイレーヌたちは説得されたらしい。素早く乗り込む。
「楽しみにゃー、楽しみにゃー」
派手にはしゃぐハヒヤに、この時ばかりは感謝する観智。
「行きましょう」
「はい」
瀬織 怜皇(ka0684)とUisca Amhran(ka0754)も滑り込みで乗車完了!
で、出発進行。
ごとん、ごとんと車輪がレールの隙間を通過する音がしてまずは位置エネルギーを得るため高く昇っていく。
ただ、車輪が転がってスムーズに進んでいる風はない。
「……カシャカシャいうこの音は何でしょう?」
観智の疑問。
そしててっぺんまで登ると……一気に下った!
「さすが、速いです!」
ごーーーーーーっとまずは一直線。怜皇の歓声。
そして急激に右カーブ。横G、激しい!
「わぁっ、早いよ~」
イスカの喜ぶ声。まだ余裕だ。
今度は立て続けに左、右、左と小刻みに曲がって……ばしゃーん、と地面の池にスプラッシュ!
「にゃーっ!? とっても楽しいにゃー!」
飛び散る水しぶきと衝撃にハヒヤ、感激!
ただ、その横では観智が物思いにふけっていた。
(下りは車輪だけのようでした。上りの時は……)
再び上るコースター。カシャカシャというレールを連続で固定する音が響く。
「まさか……巨大ムカデ?」
ムカデの足が連続して動いていると想像した。
一方、乗らなかったイレーヌは外からこの様子を眺めているとメルクーアに袖を引かれた。
「ん? どうした、メル」
「お姉ちゃん……あそこにいるフードを深くかぶってる子……」
メルクーア、真面目な顔つきで園内ベンチにいる女の子を指差していた。
「ああ、猫を抱いているな」
「あれ、『壁掛け猫』っていう陶器人形だよ」
忘れもしない。
メルクーアたちが堕落者「火付けのY」に出し抜かれて広めさせてしまった誘拐用の人形だ。
「また誘拐するのか?」
「ううん。しっかり見ると女の子の顔、骸骨みたい……」
被害者かもね、とメルクーア。瞳がかげる。
火付けのYの関与を確信した瞬間だった。
●
こちら、メリーゴーランド付近では。
「リアルブルー風ね……どう、紅葉?」
真夕が腕を組んで歩いている恋人に問うた。紅葉はコートにマフラー、それに手袋と洋風でしっかり防寒。いつもと違う印象で嬉しく思う。寄り添ってくるのも二人で暖まろうという思いやりだと分かる。
「あれ……面白そう」
思いを断ち切り指差した先を見る。
馬が上下しながら回る、メリーゴーランドがあった。
「くるくる綺麗で、見てて不思議……」
「分かったわ。行ってみましょ?」
できれば二人乗りで……。
「あ、無理?」
人形のように肌のつるつるした受付係に首を振られた。
「仕方ない。でも二頭並んでるタイプだから……」
真夕、外側の馬を紅葉に譲った。
――ぶんたった、ぶんたった♪
やがて動き出すメリーゴーランド。
上下に揺れ、景色が回り始める。
「乗ってみるともっと不思議♪」
「でしょー♪ こっちのは足とか関節が動きそうだったけど、さすがに何もないか」
紅葉は満足そうで、真夕はリアルブルーとの違いにふむふむ。
「かぼちゃの馬車に乗るの~」
「馬も良い感じですよ?」
おっと。
イスカと怜皇、こちらも楽しんでいたようで。
「せっかくだし色々と遊んで回らないとね♪ 実はこういう所初めてだし♪」
狐中・小鳥(ka5484)もメリーゴーランドに揺られて楽しんでいる。
「……か、カップルじゃなくても寂しくないもん」
お一人様の寂しさ……こほん、楽しさを満喫しているアピールに、馬に乗ったまますらっとした足を上げてみてはしゃいでみたり。
そんなメリーゴーランドの傍で。
「人を楽しませる場所が人を傷付ける場所になるのは絶対に許せないな」
「さ、私達の歌で、その陰謀の曲奏を暴きましょう」
東條 奏多(ka6425)とアリア・セリウス(ka6424)がきょろ、と周りを確認していた。
「あっちにスタッフルームがあるようだ」
「嘉雅都と打ち合わせた園内地図には担当者の記入はないわね」
「行く。連絡しておいてくれ」
「じゃ、事務所の中を空にしないとね」
離れた奏多に微笑するアリア。
おもむろにリュートを奏で始めたぞ。
♪
不毛の荒野がありました
そこに小さなオアシスもありました……
♪
歌う。
同盟の地で長く続く、嫉妬の眷属たちの惨劇と悲劇の禍詩を憂いながら。
♪
木々は緑で水美しく、動物たちは身を寄せ合って
旅人が休み、商人が憩い、軍人すらも武器を手放しくつろいで……
♪
ここの風はもっと澄んでいて欲しいから、誰もが心安らぐようにと――。
ふと、歌をやめた。
周りを見ると足を止める人が。
「お代はこちら」
足元に小さな器を置いて促した。ちゃりん、と早速小銭が投げ入れられる。
微笑して続きを歌う。
「従業員、あれは無許可営業じゃないか?」
奏多はスタッフルームの扉をノックし中の人に呼び掛ける。
出て来たスタッフは慌ててアリアの方へ行った。
残された奏多、すっと中に潜入した。
「……」
屋内を見渡すと事務机が並んでいた。
「書類なんかの量は少ない……控室といったところか」
手早く引き出しや日誌など確認して呟く。念のために鍵付きの引き出しもピッキングでこじ開けたが、特にめぼしい物はない。
ハズレの場所だった様子。ただそれも重要な調査。マップのこの場所に×の字を記入しておく。
●
準備中の幽霊屋敷では、真が潜入に成功していた。
「……本当に準備中なのか?」
そう呟いたのも無理はない。
内部は暗く、西洋の城の内部のような通路が続いていたのだが……。
――ばさばさばさ……。
びくっ、と片膝を付き身構えた。その上をコウモリが飛んでいく。
「はっ!」
――がこん! もわぁ。
通路横に立てかけてあった棺の蓋がズレて落ちた。中からは埃しか出てこなかったが。
ただこの音で奥からがしゃんがしゃんという金属音が聞こえて来た。
全身の西洋鎧二体である。
真の細い面に緊張が走る。
「……歪虚、か」
スマホで後姿を撮影。
「いざとなれば瞬脚や踏込で……バレるギリギリ位までは粘りたいところだ」
さらに奥へと侵入する。
そして整備棟。サクラがピッキングなど隠密系スキルを駆使して踏み込んでいた。
「火付けのY絡みなんだから、へんな陶器のお土産とか捩子や釘の産廃、松明とかが怪しいのかなって思ったけど……2番煎じ過ぎるかなぁ」
火付けの仕掛けを気にしている。
ただ、内部は広いがもぬけの殻といっていい。あるいは、オープンしたてで整備する遊具などがないからかもしれないが。
――かん、かん……。
「あれ?」
どこか遠くで地下工事をしているような音がする。
――ぎゅん、ぎゅぎゅん……。
続けて重い回転音。
「地下室かな……あ、あった!」
地下への入り口を発見。
こっそり下りて壁に隠れてみた物は、なんとッ!
地上では変わらず、一般客の家族やちびっ子が楽しんでいた。
「場所が場所だけに怪しいったらありゃしないけど、さてどうしたもんかねぇ?」
龍宮 アキノ(ka6831)は他のハンターのように遊具では遊ばず一人でそぞろ歩きをしていた。
その前を子供たちの集団がきゃいきゃい言いながら通過した。
「子供を無料で招待しているのも何だか引っかかるねぇ」
ぽり、と頭をかく。
(遊びに来た客から生気だとかマテルアルなんかを吸収するつもりか?)
Pクレープに寄って初華から購入したクレープをかじりながら思いを巡らせる。
(マイナスマテルアルの薄い散布、子供たち、そしてリアルブルーとは少し違う構造の遊具……)
すべて、これ見よがし。
「隠す気はないのか、真の目的から注意を背けているのか」
とにかく一歩引いた位置からとにかく確認しよう、と歩く。潜入は仲間がやっているのだから。
「ん?」
観察法で園内地図と実際の配置を確認しながら大回りして、気付いた。
大型遊具はヴァリオスに近い南側に集中しているのだ。北にあるオアシス方面には宿泊施設や飲食施設などがまとめられている。
都会の方に見せるように配置しているのかとも思ったが、誰も行くこともない端を歩いてみて地図にないものを発見した。
「南側だけ土塁で盛り上がって外は堀になっているじゃないか」
土塁まで上がって遠くにヴァリオスの街並みを確認し、馴染みの感覚に――戦場の高ぶりを感じた。
●
やがて園内各地の時計塔が一斉に正午を差した。
「何かお客として来ると新鮮な気分っ。甘いクレープお願いするんだよ♪」
「あ、小鳥さんいらっしゃい~」
小鳥の来店と初華の呼び声。屋台広場もにぎやかになって来た。
「どうでした?」
集まる情報をまとめている嘉雅都に呼ばれ、クレープをかじりながら屋台裏に移動する小鳥だが。
「クレープ屋さん、今日は本当に賑やかねぇ」
「あ、あのっ……えへへ。本当は魔導トラックの整備を一日かけてお願いしてるの」
隣のポップコーン屋からの声に言葉を濁す初華。はい、とレンチを渡される嘉雅都。
「……なにしてるの、かな?」
「人生修行、ですかね」
小鳥に聞かれつつ、仕方なくレンチでタイヤナットのゆるみなど確認する嘉雅都だったり。
「ええと……他にも屋台あるみたいだしそっちも食べにいってみようかな?」
これは自分も巻き込まれるかもと身の危険を感じた小鳥、そそくさといってしまう。
そんな小鳥とすれ違うのは、星野 ハナ(ka5852)。
何やらバスケットを可愛らしく両手持ちしてルンルンとスキップスキップ。
「……ハナさん、何か怪しいなぁ」
彼女のあのノリで何かある、と感じた初華が注目していると。
「やっぱり遊園地はこれですよねぇ、うふふ♪」
Pクレープ近くの芝生にシートを広げバスケットからバケットやサラダなどお弁当を広げる。
行儀よく足をそろえて横にくの字に折り曲げあむあむと食事をしていたのだが。
「うーん……日当たりいいのでお昼寝したくなっちゃいました」
ころん、と横になってしまった。
可愛らしい寝顔で、両手をそろえて顔の傍に添えた無防備な姿である。
「わ、わざとらしいなぁ……」
初華、起こしにはいかない。
すると予想通り、転がったハナの服の下から小さな紙製の人型がてくてく歩いて出て来て、きょろきょろ周りを見回したかと思うと近くの管理棟に窓の隙間というか、紙の薄さを利用して合わせ目から入っていった。
●
お昼時間でも遊具は動いている。
回転オクトパスは、タコの頭はそのままに八本足の先に付けた二人乗りベンチが上下しながらぐるぐる回るのだという。
「う、動いた。……上がりつつ回り始めたな」
「うん。あっあそこ……ほら、もっとざくろの方に」
ベンチに座った菊理がびくっとしたところ、ぴったり寄り添って座り園内を眺めつつ肩を抱き寄せた。
「な、何だ?」
「ええと、一周してから……あ、あそこ」
「だ、だから何だ?」
なんか抱き寄せ耳打ちしたいだけなざくろだったり。
「くるくる回る~」
「目が廻ります、ね」
イスカと怜皇、こちらも以下略。
「一緒に乗ってくれてありがとだけど……」
「くるくる回りますね」
小鳥、ミオレスカと一緒に乗ってたり。うひーだよ、とか言いつつ足を投げ出すように伸ばしたり楽しそう。
「なんかこうするのも楽しいですね」
ミオレスカもこれを見て足を上げてマネをする。
そしてこちらでは。
「あ! ヒズミーくんれすー♪」
カメラを持ったハーティーが子供たちに愛嬌を振りまいている着ぐるみに猛ダッシュ。
「……もうどうにでもしてくれ」
引きずられる形でセルゲンもヒズミーの元へ。人生投げちゃダメですよ、セルゲンさん?
でもっておのぼりさんのようにパシャパシャやってるところへ、今度はうろうろおろおろあわあわしているなんとも定まらない少女の姿が。
ルカ(ka0962)である。
「ヒズミー……ですか」
ハーティたちとは対照的に、ちょっと離れたところで遠慮がちにパシャリ。
が、すぐに別のものに注意を向けた。
カップルが歩いてきたのだ。
「あの……ハンスさん?」
遠慮がちに言うのは穂積 智里(ka6819)。
「何です、私のマウジー?」
そして彼女に寄り添い手を繋ぎ歩いているのがハンス・ラインフェルト(ka6750)。
っていうかハンス、べったりと密着している。そりゃもう智里がビビるくらいに。
「ちょっと近いような……」
智里、あまりの密着ぶりに赤面しドキドキと胸が苦しそうだが何とかそれだけ口にした。
が、これが逆効果。
「これは探索依頼で私達は目くらましです…それを、お忘れなく」
耳を甘噛みする風に見せかけながら小声で言うのは、潜入調査がばれてしまわないように。何とも役得ではある。
「ドイツの……人?」
ルカ、思わぬ同郷の人に気付いて見送るのだったり。
この隙にハーティはセルゲンをさらに連れまわし回転ティーカップへ。
「西方ってすごいれすー!」
「よくこの回ってる中写真を取れるな」
ハーティ、ティーカップの端に膝を乗せて固定しパシャパシャ。
なお、子どもたちやほかのハンターもいる。
「これなら子供もはしゃげるな」
「子供達可愛いね……いつか、その」
同じカップに並んで座った菊理がきゃっきゃ楽しそうな隣のカップに目をやる。ざくろは下を向いて膝の上で拳を固めながら赤面してそんなことを呟いていたり。
「もっと、回しましょう!」
「くるくる回すよ~」
怜皇とイスカも以下りゃ……いや、きゃっきゃはしゃいでる。
●
場所はPクレープ前。
「はい、お待たせ様です。こっちがツナサラダでこっちがチーズラムレーズンジャムです」
初華、クレープ二つを手渡した。
「うん、美味しいです。初華さん」
「そちらも食べてみたいですね。分け合いましょう」
受け取ったのは智里とハンス。ラブラブである。
「で、その……」
ボンネットを開けていた嘉雅都がそれとなく話を振る。
「幽霊屋敷のオープンはまだ先で残念です」
「恋人が悲鳴を上げて密着してくる…1番楽しみにしていたのですが」
係員に聞いた話を伝える智里だが、ハンスの一言にまた赤くなる。
で、ハンスが追加して呟く。
「後は旅館を下見しておきましょうかね。幽霊屋敷ができた時にお泊りするために」
「確かに私達は全力で遊ぶ方ですけど……お泊りっ!?」
智里、ががん!
「遊び疲れてお泊りデートは基本ですよ? 勿論一部屋です」
「依頼でもなく宿泊するのは…カップルなら不自然じゃありませんけど……一部屋!?」
「ええ。ダブルでは貴方が本気で泣くかと思いましたので……ベッドはツインですかね」
「ツイン……」
ほっ、と脱力する智里。それを横から支えるのはハンスだからこれはこれで。
ともかく、旅館偵察に出掛けて行った。
入れ替わりにずいとJがカウンターに肘を立てる。
「初華、お前ここの遊具全然楽しんでないんだろ?」
「Jさん? そ、そりゃそうだけど……」
「初華が乗ってくる分にはどれも可愛いと思うがな? 俺様がこの格好でメリーゴーランドやティーカップに乗れるかぁ? なんなら暫く俺様がクレープ焼いててやるから、初華が乗って来いよ」
「それって自分が乗りたいから私について来いってこと?」
初華、そう誤解した。仕方ないな―、と「休憩中」の看板を出す。
「そういう意味じゃねぇ! ここに居続けるにしたって不自然じゃない理由がいるだろうが…察しろよ」
「あ、小鳥さん。一緒に行こうっ! 楽しいのが一番だよねっ」
「はわっ? い、いいけど……」
ここでやって来た仲良しの小鳥も巻き込み、彼女とJの腕を引っ張って遊びに行く。
でもって。
「ごーかーとで競走もできそうだにゃ! 我の本気を見せてやるのにゃ!」
「私だって負けないもん!」
「初華さん、店員のメイド服のままでいいのかな、かな?」
ハヒヤも交えてゴーカートでレース。小鳥が汗たら~しているが。
「確かに俺もこれはしたかったがよ……」
「決められた遊びより楽しいからいいのよっ!」
J、気を遣った意味がないな感じだが、初華の方はもしかしたらストレスたまってたのかもしれない。
とりあえず、レディ・ゴー!
「あー、楽しかったにゃ!」
「結局ぶつけ合いかよ」
満足そうなハヒヤと呆れるJ。
ここで小鳥が気付いた。
「初華さん、あれ!」
「……火付けのY、だね」
時は少し遡る。
「もっとこーすたー乗るれすー! この程度でギブなんてだらしないれす!」
「勘弁しろ、こっちはカップでぶん回されて吐く寸前なんだよ!」
ジェットコースター乗り場でハーティとセルゲンがもめていた。
「係員、救護室はあるか? 案内頼むマジ吐くもう無理……!」
「仕方ありません」
セルゲン、係員に連れていかれた。
実はここでのトラブルはメルクーアとイレーヌに続き、本日二件目だったり。
スタッフルームに移動する途中で恰幅の良い背広姿の男性と細くて陶器のような肌の細身の男性とすれ違った。後に判明するが、出資者のバルコーネと支配人たる「火付けのY」だった。二件のトラブルのあったジェットコースターを見に来たのだ。
ここへうろうろおろおろあわあわしながらルカがやって来た。
「あ、あのっ。リアルブルーの遊園地に負けないような素晴らしい施設ですね……見えない部分……安全面とかも工夫してるんでしょうか?」
服装からえらい人だと見抜き持ち上げながら話を振った。子どもではないが穏やかな様子からバルコーネが対応した。
「これは聡明なお嬢さんですね。よろしい……」
午後二時に大型遊具は一斉停止して簡易点検をするのだという。その間を利用して無料招待で招いた子供たちを入れ替えているとも説明した。
「トイレや屋台なんかの配置も素晴らしいです」
「……そうそう、安全面といいましたね?」
ここで火付けのYが割り込んだ。
「消火器をまんべんなくおいていますから、火事が起きても安心です」
Y、にまりとする。
●
そしてバルコーネたちは無料招待の子供たちのお別れと、新たにヴァリオスから来る無料招待の子供を乗せた馬車隊の出迎えに向かっていった。
ルカを交えジェットコースターやティーカップを楽しんで初華たちもPクレープに戻る。
その近くで。
「はい、あーん……」
「うん。あーん」
付近では紅葉と真夕がランチ中。
あーんしながら真夕が考える。
(歪虚が絡んでいるならその目的は何なのかしら?)
その思いはそれとして、そっと紅葉が体を寄せる。
「もうすっかり寒いもの。だから、ね?」
きゅっと抱きしめ、温もりを分ける。
(金儲けなら放っておけばいいんだけど……人を集めてマテリアルを吸収したり?)
抱きしめられてそんなことも思うが、思いを断ち切った。
紅葉とのひと時を大切にする。
「マテルアル集めではないようだ」
そんな二人を背景に、アキノが地図を片手に説明する。
「管理棟にはイケメンの生着替え……ではなく人のいる場所と歪虚のいる場所が別にありましたぁ」
ハナの報告。何を見て来たのか。
「幽霊屋敷でも歪虚はいたが、人を取って食うなどではなさそうだったな」
真も報告。
「客の中には幻影か何かで人に見せかけてスケルトンも混じってたわね」
こちらはメルクーア。横でイレーヌが静かにうなずいている。
「宿泊施設『ユノーチカ』には四人が行ったが、あちらにマイナスマテリアルはなかったようです」
電話連絡での手ごたえを話す嘉雅都。ハンス&智里、怜皇&イスカの手厚い配置なので間違いない。
「犬を侵入させたが、あの扉の向こうには何があったんだ?」
ティーカップには乗らずファミリアズアイで調べていたJがサクラに聞いた。犬では地下への扉を開くことができなかったところ、サクラが戻ってきたのだ。
「整備棟にドリルタンクの地下基地があったんだよ! ヴァリオスの方向いてたよ!」
「これで決まったな」
ここで改めてアキノがぽん、と丸めた地図を掌に打ち付ける。
「ここは大型歪虚集積地。狙いはヴァリオスだ」
「そして支配人は火付けのYで、出資者の頭から見えにくい糸が伸びて途中で消えてたんだよ。いつかの騒ぎのように」
続けて小鳥。
この情報でアキノの説の信ぴょう性が高まった。
今年同盟で発生している一連の事件との関連性が深いと判断した瞬間である。
それはそれとして、隣のポップコーン屋の女性店員が寄って来た。
「あの……クレープ屋さん。この人たち、何しに来たの?」
「あ、あははっ。……その、屋台増やしたいね~っていうお話♪」
必死にごまかす初華だった。
「それでは同盟ヒズミーランド、本日の開園でーす!」
正面ゲートが開かれ、待っていた人たちが続々となだれ込む。
そんな中、立ちすくみ園内の大型遊具を見やる白衣姿が。
「……これはまた……いきなり限りなく黒に近いグレーですね」
天央 観智(ka0896)、眼鏡の位置を整えため息をつく。
「まあ、ヒズミーって名前からしてアウトだと思ったしねー」
七夜・真夕(ka3977)も呆れ気味。
「そう……なの?」
真夕に寄り添う雪継・紅葉(ka5188)はかくりと首を傾げるのみ。
一体、入る前から何が問題だったのか?
「……少なくともリアルブルーの遊園地で一般的に見られる遊具構造ではないですね」
日紫喜 嘉雅都(ka4222)のこっそり指摘する声。
その横で、ハヒヤ・ベリモル(ka6620)が前のめりになってお目めキラキラさせている。
「にゃー! ひずみーらんど! 見たことにゃいものでいっぱいにゃ! ……あのおっきなゲジゲジは何にゃ? いっぱいつながってるみたいにゃ!」
ジェットコースターの軌道を指差し無邪気に振り向いてくる。
「リアルブルーでは少なくとも、支柱はまっすぐでこんなに横に開いてないですが……とりあえずそのゲジゲジみたい、は園内では口にしないようにしてくださいね」
嘉雅都、ハヒヤに軽く釘を差しておく。
彼が言う通り、ジェットコースターの軌道は一番高いところではリアルブルー製と同じくまっすぐ支えているが、低いところでは真下ではなくまず横に伸ばしてから支えている。波打つ軌道に合わせている姿は体長の長い昆虫類が対になる足を縦に伸ばしたり横に広げたりして調整している姿に似ている。
クリムゾンウエスト民は当然、リアルブルー製を知らない。
ハヒヤや紅葉がいきなり違和感を抱かなかった理由である。
「ま、後はしっかり調べりゃいいだけだな」
トリプルJ(ka6653)、何もなかったかのように入っていく。
「そうですね。調べることは他にもあります」
観智も白衣をなびかせ続く。
「南那さんのクレープ屋台のあたりに陣取っておきます。何かあったら知らせてください」
続々入園するハンターたちに声を掛ける嘉雅都だった。
●
でもって、南那初華(kz0135)の屋台「Pクレープ」にて。
「南那さん、そういうわけですからここを拠点に使わせてもらいます」
嘉雅都、初華に断って屋台の裏で持参した機材を下ろし始めた。
「ち、ちょっと。ここって不味いよぅ。いつもと違う感じで怪しまれちゃう」
「といっても、ほかに安心できる適当な場所もないですし」
たちまちひそひそ声でそんなやり取り。慌てる初華だが嘉雅都の言い分も分かる。
「あら? クレープ屋さん、今日は手伝いの人がいるんですね」
この様子に少し離れたポップコーン屋台の女性店員さんがにこやかに話し掛けて来た。
「う、うんっ。ほ、ほら、今日はお客さん多そうだなって……はい、とりあえず小麦粉を溶いてくださいね」
ボウルと混ぜ具を渡される嘉雅都。
「まさかこんなところで料理のスキルを問われることになるとは……」
口裏を合わせる必要もあるので不本意ながら小麦粉を溶く。ここは平常心である。
ここで店頭にお客さんが。
「今日は遊園地に出店か、南那殿も大変だな」
「あっ。ゲンさんお久し振り~」
セルゲン(ka6612)である。
「……ゲンさん?」
「わー、ハーティさんも一緒なんだ。あれから元気してる?」
「元気してましたれす。初華さん、クレープお願いするのれす」
ハーティ(ka6928)も一緒である。なお、いきなり初耳な愛称で呼ばれ戸惑うセルゲンは話においてけぼりだったり。
で、くるっと焼いてマーマレードをまるっと包んで、はい完成。
「やっと食べられましたー、おいしいれすー♪」
ハーティ、ぱくっとやってご満悦。
「じゃ、さっそく行くのれす」
「おい、こっちはまだ会計終わってないんだぞ……おい!」
遊びに繰り出すハーティーに引きずられつつも、何とか会計を済ませクレープを受け取るセルゲンだった。
Pクレープの近くにて。
「遊園地、よくわかりませんが、遊ぶところですね、聞いた事はあります……あっ!」
ミオレスカ(ka3496)が目を輝かせたのは、射的屋台を見つけたから。
早速、お代を払ってコルク銃を手にした。
ぱん、と一発撃つがこういう銃は威力が弱くしかも癖がある。外れた。
ミオレスカ、哀れみのある視線で銃を見た。多くの人から「ダメ銃」といわれたことだろう。
「猟撃士として、この銃に自信を持ってもらいたいのです」
変な使命感に燃えたようで、ぐうんと身を乗り出す。机に腹ばいになる体勢だが、狙撃者としてはいつもの格好に近い。
――ぱん!
今度は見事に命中。ぬいぐるみをゲットした。
「わあっ、上手だね」
ここに時音 ざくろ(ka1250)が通りかかった。白山 菊理(ka4305)の手を引いて遊園地デートを満喫中のようで。
「ありがとう。ミオレスカっていいます」
「ざくろは時音ざくろ。……さっきのように撃てばいいんだね?」
「一発目で銃の癖を見抜いて二発目に仕留めるといいです」
ミオレスカの助言に従い、二発目で仕留めるざくろ。
「もう一つも……よし!」
ざくろ、欲しかったものをペアでゲットした。
「ミオレスカ、ありがとう。おかげで取れたよ……はい、菊理」
「これを被るのか……? 少々恥ずかしいな」
とかなんとか言いつつ被ったのは、遊園地の着ぐるみウサギキャラ「ヒズミー」と「ヒズミン」のウサ耳帽子。リアルブルーで例えるなら丸いネズおっとこれ以上は以下略。
戸惑う菊理だが、ざくろはにこりと魅力的に言い放った。
「折角だし、溶け込んで楽しもうよ。ほら、お揃いだよ……菊理可愛い」
「う……うん」
今日の菊理はいつもと違い、縦セタにデニムのパンツ、フラットシューズと暖かく動きやすい格好。
戸惑いもあったが、だからこそ思いきることができた。
「こういった施設は経験がないからな……」
ざくろの横に立ち、セーターの腕を絡める。
「うん。行こう」
肘に伝わる温もりと柔らかさにどきっとしつつもエスコートするざくろだった。
●
そんな二人とすれ違ったのは、宵待 サクラ(ka5561)。背後にざくろと菊理の姿が遠ざかる。
ふと立ち止まるサクラ。
「元が資材なんだから、怪しいのは整備棟と途中のお化け屋敷かなぁ。お化け屋敷で行方不明ってリアルブルーじゃ定番ネタだけど、クリムゾンウェストだとどうなのかな?」
きょろ、と周りを見回し元気よくそんなことをつぶやいたり。
「奇遇だね」
その後ろを影のように横切った鞍馬 真(ka5819)がぽそり。
「どっち?」
「かくれんぼするなら……」
確認したサクラに、自分の行動を楽しそうに謎めかす真。
もっとも、行こうとしている方向で分かる。
「それじゃ」
「ああ」
サクラが管理棟を目指し、真が幽霊屋敷に行く。
一方、遠くからざくろたちを見ていたメルクーア(ka4005)。
「あんな帽子があるんだ~」
「お待たせ、メル」
そこへぽふりと何かをかぶせられた。
振り返るとイレーヌ(ka1372)がいた。
「こういう場所だ。少しは雰囲気を楽しんでみるのも悪くない」
イレーヌ、ヒズミーのうさ耳帽子をかぶっていた。もちろんメルクーアが頭に手をやると、自分がかぶせられたものも同じだった。
「お姉ちゃん!」
反射的に腕に抱き着く。
普段ならいなされたり邪険に扱われもするが……。
「迷子になっては目も当てられないからな。……変な男にでも捕まったら大変だ」
「うんうん。大変だよねぇー」
表情の一つも変えないイレーヌに、にっこにこのメルクーアだったり。
そこに通り掛かるハヒヤ。
「あの早く動くじぇっとこーすたーという遊具が怪しいにゃ! まずはあれに乗ってみるにゃ!」
「心配でついて来ましたが……怪しい、はNGワードでお願いしますよ?」
行きがかり上、観智がハヒヤのお目付け役となり追跡している。
「ほう?」
「行ってみよー!」
立ち止まるイレーヌをぐいぐい連れて行くメルクーア。
で、ジェットコースター乗り場到着した時に。
「これは……もしかして!」
それまで無表情気味だったイレーヌが「とある発見」に愕然としたッ!
「えええっ、まさか!」
メルクーアもその発見に愕然としている。
一体何が……。
「なんで? なんで乗れないのー! あたしはハンターだから平気だよお!」
「まあまあ、メル」
いきなり騒ぎを起こす。
「どうしました?」
「いや、本当に身長低いと乗れないのか?」
やって来た係員に事情を話すイレーヌ。ここで少し目配せを。
(よし……)
反応したのは観智。係員のいなくなった制御室らしき小部屋に入る。
「……動力を制御しているわけではないようですね」
改めて止まっているジェットコースターを見ると運転手などいない。
「ここで制御してないとすると……」
車両本体を観察する。が、外装板が手厚く下にあるであろう車輪すら見えない。
「では、発射しま~す」
その間にイレーヌたちは説得されたらしい。素早く乗り込む。
「楽しみにゃー、楽しみにゃー」
派手にはしゃぐハヒヤに、この時ばかりは感謝する観智。
「行きましょう」
「はい」
瀬織 怜皇(ka0684)とUisca Amhran(ka0754)も滑り込みで乗車完了!
で、出発進行。
ごとん、ごとんと車輪がレールの隙間を通過する音がしてまずは位置エネルギーを得るため高く昇っていく。
ただ、車輪が転がってスムーズに進んでいる風はない。
「……カシャカシャいうこの音は何でしょう?」
観智の疑問。
そしててっぺんまで登ると……一気に下った!
「さすが、速いです!」
ごーーーーーーっとまずは一直線。怜皇の歓声。
そして急激に右カーブ。横G、激しい!
「わぁっ、早いよ~」
イスカの喜ぶ声。まだ余裕だ。
今度は立て続けに左、右、左と小刻みに曲がって……ばしゃーん、と地面の池にスプラッシュ!
「にゃーっ!? とっても楽しいにゃー!」
飛び散る水しぶきと衝撃にハヒヤ、感激!
ただ、その横では観智が物思いにふけっていた。
(下りは車輪だけのようでした。上りの時は……)
再び上るコースター。カシャカシャというレールを連続で固定する音が響く。
「まさか……巨大ムカデ?」
ムカデの足が連続して動いていると想像した。
一方、乗らなかったイレーヌは外からこの様子を眺めているとメルクーアに袖を引かれた。
「ん? どうした、メル」
「お姉ちゃん……あそこにいるフードを深くかぶってる子……」
メルクーア、真面目な顔つきで園内ベンチにいる女の子を指差していた。
「ああ、猫を抱いているな」
「あれ、『壁掛け猫』っていう陶器人形だよ」
忘れもしない。
メルクーアたちが堕落者「火付けのY」に出し抜かれて広めさせてしまった誘拐用の人形だ。
「また誘拐するのか?」
「ううん。しっかり見ると女の子の顔、骸骨みたい……」
被害者かもね、とメルクーア。瞳がかげる。
火付けのYの関与を確信した瞬間だった。
●
こちら、メリーゴーランド付近では。
「リアルブルー風ね……どう、紅葉?」
真夕が腕を組んで歩いている恋人に問うた。紅葉はコートにマフラー、それに手袋と洋風でしっかり防寒。いつもと違う印象で嬉しく思う。寄り添ってくるのも二人で暖まろうという思いやりだと分かる。
「あれ……面白そう」
思いを断ち切り指差した先を見る。
馬が上下しながら回る、メリーゴーランドがあった。
「くるくる綺麗で、見てて不思議……」
「分かったわ。行ってみましょ?」
できれば二人乗りで……。
「あ、無理?」
人形のように肌のつるつるした受付係に首を振られた。
「仕方ない。でも二頭並んでるタイプだから……」
真夕、外側の馬を紅葉に譲った。
――ぶんたった、ぶんたった♪
やがて動き出すメリーゴーランド。
上下に揺れ、景色が回り始める。
「乗ってみるともっと不思議♪」
「でしょー♪ こっちのは足とか関節が動きそうだったけど、さすがに何もないか」
紅葉は満足そうで、真夕はリアルブルーとの違いにふむふむ。
「かぼちゃの馬車に乗るの~」
「馬も良い感じですよ?」
おっと。
イスカと怜皇、こちらも楽しんでいたようで。
「せっかくだし色々と遊んで回らないとね♪ 実はこういう所初めてだし♪」
狐中・小鳥(ka5484)もメリーゴーランドに揺られて楽しんでいる。
「……か、カップルじゃなくても寂しくないもん」
お一人様の寂しさ……こほん、楽しさを満喫しているアピールに、馬に乗ったまますらっとした足を上げてみてはしゃいでみたり。
そんなメリーゴーランドの傍で。
「人を楽しませる場所が人を傷付ける場所になるのは絶対に許せないな」
「さ、私達の歌で、その陰謀の曲奏を暴きましょう」
東條 奏多(ka6425)とアリア・セリウス(ka6424)がきょろ、と周りを確認していた。
「あっちにスタッフルームがあるようだ」
「嘉雅都と打ち合わせた園内地図には担当者の記入はないわね」
「行く。連絡しておいてくれ」
「じゃ、事務所の中を空にしないとね」
離れた奏多に微笑するアリア。
おもむろにリュートを奏で始めたぞ。
♪
不毛の荒野がありました
そこに小さなオアシスもありました……
♪
歌う。
同盟の地で長く続く、嫉妬の眷属たちの惨劇と悲劇の禍詩を憂いながら。
♪
木々は緑で水美しく、動物たちは身を寄せ合って
旅人が休み、商人が憩い、軍人すらも武器を手放しくつろいで……
♪
ここの風はもっと澄んでいて欲しいから、誰もが心安らぐようにと――。
ふと、歌をやめた。
周りを見ると足を止める人が。
「お代はこちら」
足元に小さな器を置いて促した。ちゃりん、と早速小銭が投げ入れられる。
微笑して続きを歌う。
「従業員、あれは無許可営業じゃないか?」
奏多はスタッフルームの扉をノックし中の人に呼び掛ける。
出て来たスタッフは慌ててアリアの方へ行った。
残された奏多、すっと中に潜入した。
「……」
屋内を見渡すと事務机が並んでいた。
「書類なんかの量は少ない……控室といったところか」
手早く引き出しや日誌など確認して呟く。念のために鍵付きの引き出しもピッキングでこじ開けたが、特にめぼしい物はない。
ハズレの場所だった様子。ただそれも重要な調査。マップのこの場所に×の字を記入しておく。
●
準備中の幽霊屋敷では、真が潜入に成功していた。
「……本当に準備中なのか?」
そう呟いたのも無理はない。
内部は暗く、西洋の城の内部のような通路が続いていたのだが……。
――ばさばさばさ……。
びくっ、と片膝を付き身構えた。その上をコウモリが飛んでいく。
「はっ!」
――がこん! もわぁ。
通路横に立てかけてあった棺の蓋がズレて落ちた。中からは埃しか出てこなかったが。
ただこの音で奥からがしゃんがしゃんという金属音が聞こえて来た。
全身の西洋鎧二体である。
真の細い面に緊張が走る。
「……歪虚、か」
スマホで後姿を撮影。
「いざとなれば瞬脚や踏込で……バレるギリギリ位までは粘りたいところだ」
さらに奥へと侵入する。
そして整備棟。サクラがピッキングなど隠密系スキルを駆使して踏み込んでいた。
「火付けのY絡みなんだから、へんな陶器のお土産とか捩子や釘の産廃、松明とかが怪しいのかなって思ったけど……2番煎じ過ぎるかなぁ」
火付けの仕掛けを気にしている。
ただ、内部は広いがもぬけの殻といっていい。あるいは、オープンしたてで整備する遊具などがないからかもしれないが。
――かん、かん……。
「あれ?」
どこか遠くで地下工事をしているような音がする。
――ぎゅん、ぎゅぎゅん……。
続けて重い回転音。
「地下室かな……あ、あった!」
地下への入り口を発見。
こっそり下りて壁に隠れてみた物は、なんとッ!
地上では変わらず、一般客の家族やちびっ子が楽しんでいた。
「場所が場所だけに怪しいったらありゃしないけど、さてどうしたもんかねぇ?」
龍宮 アキノ(ka6831)は他のハンターのように遊具では遊ばず一人でそぞろ歩きをしていた。
その前を子供たちの集団がきゃいきゃい言いながら通過した。
「子供を無料で招待しているのも何だか引っかかるねぇ」
ぽり、と頭をかく。
(遊びに来た客から生気だとかマテルアルなんかを吸収するつもりか?)
Pクレープに寄って初華から購入したクレープをかじりながら思いを巡らせる。
(マイナスマテルアルの薄い散布、子供たち、そしてリアルブルーとは少し違う構造の遊具……)
すべて、これ見よがし。
「隠す気はないのか、真の目的から注意を背けているのか」
とにかく一歩引いた位置からとにかく確認しよう、と歩く。潜入は仲間がやっているのだから。
「ん?」
観察法で園内地図と実際の配置を確認しながら大回りして、気付いた。
大型遊具はヴァリオスに近い南側に集中しているのだ。北にあるオアシス方面には宿泊施設や飲食施設などがまとめられている。
都会の方に見せるように配置しているのかとも思ったが、誰も行くこともない端を歩いてみて地図にないものを発見した。
「南側だけ土塁で盛り上がって外は堀になっているじゃないか」
土塁まで上がって遠くにヴァリオスの街並みを確認し、馴染みの感覚に――戦場の高ぶりを感じた。
●
やがて園内各地の時計塔が一斉に正午を差した。
「何かお客として来ると新鮮な気分っ。甘いクレープお願いするんだよ♪」
「あ、小鳥さんいらっしゃい~」
小鳥の来店と初華の呼び声。屋台広場もにぎやかになって来た。
「どうでした?」
集まる情報をまとめている嘉雅都に呼ばれ、クレープをかじりながら屋台裏に移動する小鳥だが。
「クレープ屋さん、今日は本当に賑やかねぇ」
「あ、あのっ……えへへ。本当は魔導トラックの整備を一日かけてお願いしてるの」
隣のポップコーン屋からの声に言葉を濁す初華。はい、とレンチを渡される嘉雅都。
「……なにしてるの、かな?」
「人生修行、ですかね」
小鳥に聞かれつつ、仕方なくレンチでタイヤナットのゆるみなど確認する嘉雅都だったり。
「ええと……他にも屋台あるみたいだしそっちも食べにいってみようかな?」
これは自分も巻き込まれるかもと身の危険を感じた小鳥、そそくさといってしまう。
そんな小鳥とすれ違うのは、星野 ハナ(ka5852)。
何やらバスケットを可愛らしく両手持ちしてルンルンとスキップスキップ。
「……ハナさん、何か怪しいなぁ」
彼女のあのノリで何かある、と感じた初華が注目していると。
「やっぱり遊園地はこれですよねぇ、うふふ♪」
Pクレープ近くの芝生にシートを広げバスケットからバケットやサラダなどお弁当を広げる。
行儀よく足をそろえて横にくの字に折り曲げあむあむと食事をしていたのだが。
「うーん……日当たりいいのでお昼寝したくなっちゃいました」
ころん、と横になってしまった。
可愛らしい寝顔で、両手をそろえて顔の傍に添えた無防備な姿である。
「わ、わざとらしいなぁ……」
初華、起こしにはいかない。
すると予想通り、転がったハナの服の下から小さな紙製の人型がてくてく歩いて出て来て、きょろきょろ周りを見回したかと思うと近くの管理棟に窓の隙間というか、紙の薄さを利用して合わせ目から入っていった。
●
お昼時間でも遊具は動いている。
回転オクトパスは、タコの頭はそのままに八本足の先に付けた二人乗りベンチが上下しながらぐるぐる回るのだという。
「う、動いた。……上がりつつ回り始めたな」
「うん。あっあそこ……ほら、もっとざくろの方に」
ベンチに座った菊理がびくっとしたところ、ぴったり寄り添って座り園内を眺めつつ肩を抱き寄せた。
「な、何だ?」
「ええと、一周してから……あ、あそこ」
「だ、だから何だ?」
なんか抱き寄せ耳打ちしたいだけなざくろだったり。
「くるくる回る~」
「目が廻ります、ね」
イスカと怜皇、こちらも以下略。
「一緒に乗ってくれてありがとだけど……」
「くるくる回りますね」
小鳥、ミオレスカと一緒に乗ってたり。うひーだよ、とか言いつつ足を投げ出すように伸ばしたり楽しそう。
「なんかこうするのも楽しいですね」
ミオレスカもこれを見て足を上げてマネをする。
そしてこちらでは。
「あ! ヒズミーくんれすー♪」
カメラを持ったハーティーが子供たちに愛嬌を振りまいている着ぐるみに猛ダッシュ。
「……もうどうにでもしてくれ」
引きずられる形でセルゲンもヒズミーの元へ。人生投げちゃダメですよ、セルゲンさん?
でもっておのぼりさんのようにパシャパシャやってるところへ、今度はうろうろおろおろあわあわしているなんとも定まらない少女の姿が。
ルカ(ka0962)である。
「ヒズミー……ですか」
ハーティたちとは対照的に、ちょっと離れたところで遠慮がちにパシャリ。
が、すぐに別のものに注意を向けた。
カップルが歩いてきたのだ。
「あの……ハンスさん?」
遠慮がちに言うのは穂積 智里(ka6819)。
「何です、私のマウジー?」
そして彼女に寄り添い手を繋ぎ歩いているのがハンス・ラインフェルト(ka6750)。
っていうかハンス、べったりと密着している。そりゃもう智里がビビるくらいに。
「ちょっと近いような……」
智里、あまりの密着ぶりに赤面しドキドキと胸が苦しそうだが何とかそれだけ口にした。
が、これが逆効果。
「これは探索依頼で私達は目くらましです…それを、お忘れなく」
耳を甘噛みする風に見せかけながら小声で言うのは、潜入調査がばれてしまわないように。何とも役得ではある。
「ドイツの……人?」
ルカ、思わぬ同郷の人に気付いて見送るのだったり。
この隙にハーティはセルゲンをさらに連れまわし回転ティーカップへ。
「西方ってすごいれすー!」
「よくこの回ってる中写真を取れるな」
ハーティ、ティーカップの端に膝を乗せて固定しパシャパシャ。
なお、子どもたちやほかのハンターもいる。
「これなら子供もはしゃげるな」
「子供達可愛いね……いつか、その」
同じカップに並んで座った菊理がきゃっきゃ楽しそうな隣のカップに目をやる。ざくろは下を向いて膝の上で拳を固めながら赤面してそんなことを呟いていたり。
「もっと、回しましょう!」
「くるくる回すよ~」
怜皇とイスカも以下りゃ……いや、きゃっきゃはしゃいでる。
●
場所はPクレープ前。
「はい、お待たせ様です。こっちがツナサラダでこっちがチーズラムレーズンジャムです」
初華、クレープ二つを手渡した。
「うん、美味しいです。初華さん」
「そちらも食べてみたいですね。分け合いましょう」
受け取ったのは智里とハンス。ラブラブである。
「で、その……」
ボンネットを開けていた嘉雅都がそれとなく話を振る。
「幽霊屋敷のオープンはまだ先で残念です」
「恋人が悲鳴を上げて密着してくる…1番楽しみにしていたのですが」
係員に聞いた話を伝える智里だが、ハンスの一言にまた赤くなる。
で、ハンスが追加して呟く。
「後は旅館を下見しておきましょうかね。幽霊屋敷ができた時にお泊りするために」
「確かに私達は全力で遊ぶ方ですけど……お泊りっ!?」
智里、ががん!
「遊び疲れてお泊りデートは基本ですよ? 勿論一部屋です」
「依頼でもなく宿泊するのは…カップルなら不自然じゃありませんけど……一部屋!?」
「ええ。ダブルでは貴方が本気で泣くかと思いましたので……ベッドはツインですかね」
「ツイン……」
ほっ、と脱力する智里。それを横から支えるのはハンスだからこれはこれで。
ともかく、旅館偵察に出掛けて行った。
入れ替わりにずいとJがカウンターに肘を立てる。
「初華、お前ここの遊具全然楽しんでないんだろ?」
「Jさん? そ、そりゃそうだけど……」
「初華が乗ってくる分にはどれも可愛いと思うがな? 俺様がこの格好でメリーゴーランドやティーカップに乗れるかぁ? なんなら暫く俺様がクレープ焼いててやるから、初華が乗って来いよ」
「それって自分が乗りたいから私について来いってこと?」
初華、そう誤解した。仕方ないな―、と「休憩中」の看板を出す。
「そういう意味じゃねぇ! ここに居続けるにしたって不自然じゃない理由がいるだろうが…察しろよ」
「あ、小鳥さん。一緒に行こうっ! 楽しいのが一番だよねっ」
「はわっ? い、いいけど……」
ここでやって来た仲良しの小鳥も巻き込み、彼女とJの腕を引っ張って遊びに行く。
でもって。
「ごーかーとで競走もできそうだにゃ! 我の本気を見せてやるのにゃ!」
「私だって負けないもん!」
「初華さん、店員のメイド服のままでいいのかな、かな?」
ハヒヤも交えてゴーカートでレース。小鳥が汗たら~しているが。
「確かに俺もこれはしたかったがよ……」
「決められた遊びより楽しいからいいのよっ!」
J、気を遣った意味がないな感じだが、初華の方はもしかしたらストレスたまってたのかもしれない。
とりあえず、レディ・ゴー!
「あー、楽しかったにゃ!」
「結局ぶつけ合いかよ」
満足そうなハヒヤと呆れるJ。
ここで小鳥が気付いた。
「初華さん、あれ!」
「……火付けのY、だね」
時は少し遡る。
「もっとこーすたー乗るれすー! この程度でギブなんてだらしないれす!」
「勘弁しろ、こっちはカップでぶん回されて吐く寸前なんだよ!」
ジェットコースター乗り場でハーティとセルゲンがもめていた。
「係員、救護室はあるか? 案内頼むマジ吐くもう無理……!」
「仕方ありません」
セルゲン、係員に連れていかれた。
実はここでのトラブルはメルクーアとイレーヌに続き、本日二件目だったり。
スタッフルームに移動する途中で恰幅の良い背広姿の男性と細くて陶器のような肌の細身の男性とすれ違った。後に判明するが、出資者のバルコーネと支配人たる「火付けのY」だった。二件のトラブルのあったジェットコースターを見に来たのだ。
ここへうろうろおろおろあわあわしながらルカがやって来た。
「あ、あのっ。リアルブルーの遊園地に負けないような素晴らしい施設ですね……見えない部分……安全面とかも工夫してるんでしょうか?」
服装からえらい人だと見抜き持ち上げながら話を振った。子どもではないが穏やかな様子からバルコーネが対応した。
「これは聡明なお嬢さんですね。よろしい……」
午後二時に大型遊具は一斉停止して簡易点検をするのだという。その間を利用して無料招待で招いた子供たちを入れ替えているとも説明した。
「トイレや屋台なんかの配置も素晴らしいです」
「……そうそう、安全面といいましたね?」
ここで火付けのYが割り込んだ。
「消火器をまんべんなくおいていますから、火事が起きても安心です」
Y、にまりとする。
●
そしてバルコーネたちは無料招待の子供たちのお別れと、新たにヴァリオスから来る無料招待の子供を乗せた馬車隊の出迎えに向かっていった。
ルカを交えジェットコースターやティーカップを楽しんで初華たちもPクレープに戻る。
その近くで。
「はい、あーん……」
「うん。あーん」
付近では紅葉と真夕がランチ中。
あーんしながら真夕が考える。
(歪虚が絡んでいるならその目的は何なのかしら?)
その思いはそれとして、そっと紅葉が体を寄せる。
「もうすっかり寒いもの。だから、ね?」
きゅっと抱きしめ、温もりを分ける。
(金儲けなら放っておけばいいんだけど……人を集めてマテリアルを吸収したり?)
抱きしめられてそんなことも思うが、思いを断ち切った。
紅葉とのひと時を大切にする。
「マテルアル集めではないようだ」
そんな二人を背景に、アキノが地図を片手に説明する。
「管理棟にはイケメンの生着替え……ではなく人のいる場所と歪虚のいる場所が別にありましたぁ」
ハナの報告。何を見て来たのか。
「幽霊屋敷でも歪虚はいたが、人を取って食うなどではなさそうだったな」
真も報告。
「客の中には幻影か何かで人に見せかけてスケルトンも混じってたわね」
こちらはメルクーア。横でイレーヌが静かにうなずいている。
「宿泊施設『ユノーチカ』には四人が行ったが、あちらにマイナスマテリアルはなかったようです」
電話連絡での手ごたえを話す嘉雅都。ハンス&智里、怜皇&イスカの手厚い配置なので間違いない。
「犬を侵入させたが、あの扉の向こうには何があったんだ?」
ティーカップには乗らずファミリアズアイで調べていたJがサクラに聞いた。犬では地下への扉を開くことができなかったところ、サクラが戻ってきたのだ。
「整備棟にドリルタンクの地下基地があったんだよ! ヴァリオスの方向いてたよ!」
「これで決まったな」
ここで改めてアキノがぽん、と丸めた地図を掌に打ち付ける。
「ここは大型歪虚集積地。狙いはヴァリオスだ」
「そして支配人は火付けのYで、出資者の頭から見えにくい糸が伸びて途中で消えてたんだよ。いつかの騒ぎのように」
続けて小鳥。
この情報でアキノの説の信ぴょう性が高まった。
今年同盟で発生している一連の事件との関連性が深いと判断した瞬間である。
それはそれとして、隣のポップコーン屋の女性店員が寄って来た。
「あの……クレープ屋さん。この人たち、何しに来たの?」
「あ、あははっ。……その、屋台増やしたいね~っていうお話♪」
必死にごまかす初華だった。
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夢の国にて(相談卓) 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/11/28 21:42:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/28 20:01:43 |