ゲスト
(ka0000)
【郷祭】楽市、のんびり開催中
マスター:龍河流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/28 19:00
- 完成日
- 2017/12/14 16:44
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
農業振興地域ジェオルジの村長会議こと郷祭は、間もなく終わりを迎えようとしていた。
昨今は同盟内で歪虚事件が多発しているから、人や物の出入りの確認を密にやるようにと指示は出たが、祭りそのものはこれまでと変わりなく行われている。
ご時世だろう、入り口で『歪虚対策小冊子』なるものが販売され、そこそこ売れているらしい。
それはさておき、今日も今日とて、祭りの一角、結構な広さを占めている『楽市』会場には人が集まっていた。
『楽市』とは何か。
誰でも参加可能な青空市場である。
売り手は事前申し込み制だが、商人である必要はない。この時だけ、各家で作った品物を持ち寄ったり、遠方の商人が商品を並べたり、珍しいところではハンターが店を構えたりしている。
普段は滅多に見られない、リアルブルー仕込みの諸々が見られたりもする、大型フリーマーケット。
魔導トラックや屋台のスペースも用意され、休憩場所もあちこちに配されて、のんびりそぞろ歩きも出来るようになっていた。
買い物三昧、食べ歩きし放題、お財布と時間が許す限り、楽しんでみてはいかがだろう。
売り手の皆さんは、今日も全力で素敵な商品を用意して、そんな皆さんを待っている。
●郷祭、楽市開催のお知らせ
・会場はジェオルジ中央部の広場です
・指定された区画にて、飲食品含む商品の売買を行うことが出来ます。
・出店期間は祭り中のおおよそ2週間、参加費用として一般1000G、魔導トラック利用者は1500Gが必要です
開催期間中の収益は出店者当人のものになりますが、赤字になっても主催者は関知しません
・出店区画は一般は5メートル四方と10メートル四方(どちらも平地)の二種類のうち、必要な広さを指定してください
・魔導トラックと屋台は、専用スペースに配置となります
・店舗は、期間終了後に平地に戻せるなら、仮店舗等の建設は自由です
必要な方には、天幕・机等の貸し出しがあります
・他の地域にある店舗の関係者が出店する場合、その支店として看板を掛けても構いません
・性風俗産業と公序良俗に反するものは参加不可
・CAMの持ち込み、幻獣の同伴も可能です
CAMは専用駐機スペースに、幻獣も専用の休憩スペースに置く、繋ぐようにしてください
楽市の店舗スペースで使用、同伴するには、事前に申請の上、審査を通る必要があります
審査に通った場合にも、CAMや幻獣から所有者、飼い主は離れないようにしてください
昨今は同盟内で歪虚事件が多発しているから、人や物の出入りの確認を密にやるようにと指示は出たが、祭りそのものはこれまでと変わりなく行われている。
ご時世だろう、入り口で『歪虚対策小冊子』なるものが販売され、そこそこ売れているらしい。
それはさておき、今日も今日とて、祭りの一角、結構な広さを占めている『楽市』会場には人が集まっていた。
『楽市』とは何か。
誰でも参加可能な青空市場である。
売り手は事前申し込み制だが、商人である必要はない。この時だけ、各家で作った品物を持ち寄ったり、遠方の商人が商品を並べたり、珍しいところではハンターが店を構えたりしている。
普段は滅多に見られない、リアルブルー仕込みの諸々が見られたりもする、大型フリーマーケット。
魔導トラックや屋台のスペースも用意され、休憩場所もあちこちに配されて、のんびりそぞろ歩きも出来るようになっていた。
買い物三昧、食べ歩きし放題、お財布と時間が許す限り、楽しんでみてはいかがだろう。
売り手の皆さんは、今日も全力で素敵な商品を用意して、そんな皆さんを待っている。
●郷祭、楽市開催のお知らせ
・会場はジェオルジ中央部の広場です
・指定された区画にて、飲食品含む商品の売買を行うことが出来ます。
・出店期間は祭り中のおおよそ2週間、参加費用として一般1000G、魔導トラック利用者は1500Gが必要です
開催期間中の収益は出店者当人のものになりますが、赤字になっても主催者は関知しません
・出店区画は一般は5メートル四方と10メートル四方(どちらも平地)の二種類のうち、必要な広さを指定してください
・魔導トラックと屋台は、専用スペースに配置となります
・店舗は、期間終了後に平地に戻せるなら、仮店舗等の建設は自由です
必要な方には、天幕・机等の貸し出しがあります
・他の地域にある店舗の関係者が出店する場合、その支店として看板を掛けても構いません
・性風俗産業と公序良俗に反するものは参加不可
・CAMの持ち込み、幻獣の同伴も可能です
CAMは専用駐機スペースに、幻獣も専用の休憩スペースに置く、繋ぐようにしてください
楽市の店舗スペースで使用、同伴するには、事前に申請の上、審査を通る必要があります
審査に通った場合にも、CAMや幻獣から所有者、飼い主は離れないようにしてください
リプレイ本文
郷祭と言えば、我が東方茶屋!
そんな意気込みで出店中の星野 ハナ(ka5852)の店は、東方風、正確にはリアルブルー日本の古き良き茶屋を再現したものだ。
厨房は魔導トラックだが、その周りもよしずで囲って、雰囲気を壊さないように工夫している。
並んで座る長椅子はカップルに人気だが、そこはじっと我慢。お祭りできゃっきゃうふふしている男女のことは、
「売り上げがどうしたのです?」
「はうっ」
売り上げだと思えばいいじゃない!
厨房で他人の幸せをうらやんでいたハナは、ここ数日で聞き慣れてしまった楽市の有名人の問いに、変な声を上げてしまった。
振り返れば、そこにいるのはにこにこと満面笑顔のディーナ・フェルミ(ka5843)と、さっきまでとは違う髪飾りを挿した夢路 まよい(ka1328)の二人連れだった。
「なんでもないのですぅ。いいお買い物、出来たみたいですねぇ」
「これ、すごく安くてびっくりしちゃったわ。三種類あったけど、選ぶのに迷っちゃった」
造りが似ていたから一つに絞り込むのが大変で……と、ローティーンの見た目にそぐわぬしっかり者振りをうかがわせるまよいの手には、他にも小さな袋が二つほど。
見た感じからして、持ち帰りの菓子だろうなぁと察しを付けたハナは、風呂敷を一枚差し出した。
「包んでぇ、置いておくといいですよぉ」
預かり賃はなしと気前のいい申し出を、まよいはありがたく受けていたが……
「えぇと、これは干し果物だから、この箱なのぉ。あ、これはハナさんにお土産です」
あと美味しいお茶をください。
何の遠慮もないと言うか、これでも一応お客だと言うべきか。
厨房の奥に荷物を箱四つも積み上げたディーナの注文に、ハナは溜息を一つ。
「まよいちゃんもぉ、何か飲みますぅ?」
「……まだ、おなかが一杯で」
そうだよねと、まよいの返事に頷いたハナだが、もちろんディーナの緑茶は湯の冷まし加減も絶妙で淹れる。
そんなお茶を嬉しそうに喫するディーナは、今回楽市での有名人なのである。おかげで、たまたま親し気に声を掛けられて、うっかり同行しているまよいもだんだん顔を知られている。
なぜかと言えば……
今では作る者も自分だけの故郷の料理を人に食べてもらおうと、ふと思い立ったのがAnbar(ka4037)の出店の切っ掛けだった。
幸いなことに、流石は同盟でも知られた農業地域だけあり、材料は大抵の物が安価で手に入る。一部の香辛料だけは地元産がなくて高価な買い物についたが、それでも手に入るのだから有り難い。
周りの飲食店に比べると香辛料の利かせ方が強めとなるので、味をまろやかにするソースと、塩味のヨーグルト飲料を多めに用意して開いた店は、その場で肉を焼く匂いのおかげで、なかなかの盛況だった。ピリリと香ばしいラム肉を野菜と一緒にパンにはさんで食べるから、特に若い男性が多い。
「飲むヨーグルトは、甘いのしか知らなかったが、飯にはこれも悪くないな」
「さっき寄ってくれた女の子にも、甘いのなら飲んだことがあると言われたが、俺の部族では甘いと言えば茶か珈琲だったな」
土地によって違うものだと話し込んでいる内に、相手のアルト・ハーニー(ka0113)がリアルブルーの出身だと分かった。
それでと納得したのは、彼が腕に妙な人形を巻きつけていたからだ。茶色い円筒形に目鼻が付いて、細い腕の伸びた人形らしきものが、二の腕に引っかかるように絡んでいる。
きっとあちらの魔除けだろうと、Anbarが一人合点していると、アルトは彼の視線に気付いたらしい。
「これは埴輪と言ってだな」
リアルブルーのどこそこの、と始まって、色々語りそうな割に簡潔な埴輪の説明は、所々Anbarには理解が難しいところもあった。
だが、好きなものを人にも知ってほしくて、わざわざ楽市に店を出したという点に共感したので、分からないところは訊いたりしている内に、アルトがあ、と声を上げた。
「そうだそうだ。俺、似たような細工物を売ってる店があるって聞いて探しに来たんだ。この辺らしいが、知らないか?」
辺りを一巡りしたが見付からず、Anbarが焼く肉の匂いに釣られてしまったと聞けば、彼もアルトの探し物に協力してやりたいところだが、こういう変わった代物は見ていない。
教えてくれた相手にもう一度確かめた方が間違いないと、非常に真っ当な助言をしたAnbarは、アルトにこう頼まれた。
「あぁ、じゃあ、その子に伝言頼まれてくれよ。あの、初日から食べ歩きしてるほっそい女の子と一緒の、ちっさい女の子の方なんだ」
「なんだ、あの子達か」
前回以前の楽市でも、食べ歩きに邁進する若い女性が目立っていたらしい。その彼女が、今回は満を持して『お財布の準備も万端』と初日から乗り込んできたとの噂は、Anbarも、もちろんアルトも早いうちから耳にしていたのだ。
飲食店のAnbarは、二日目にその女の子ことディーナの来襲を受けている。アルトは昨日から合流したもう一人、まよいが埴輪に目を留めてくれたので、先程初めて噂の女の子も見掛けたところだ。
この二人、楽市会場をくまなく歩き回っているらしく、誰にでも『あの食べ歩きの女の子の二人連れ』で大抵通じる。まよいにしたら不本意かもしれないが。
おかげで、アルトとAnbarも大変に気持よく意思疎通を行い、じゃあまたと分かれたのだった。アルトの手には、さっき食べたのとは別の部位の肉の包みが、少なめだが抱えられている。
「それじゃ、夕方にまたねーっ!」
お昼は一緒に五種類も惣菜を買い込んで、分けて食べたが、まよいが口にしたのはせいぜい三割。いずれも大変美味しかったが、立て続いて食べ歩きは難しい。
それに、彼女は確かに甘いお菓子が好きだけれど、他にも小物や服も見てみたい。
という訳で、そちらを見に行きたいとディーナに告げたところ、別行動が決定した。
「手袋と、やっぱり部屋に置く小物も一つくらいは……」
装飾品もまだまだ見たいし、これは忙しいと歩き出す。夕食は、ハナも交えて三人で食べようと誘われたので、時間はあるようできっと足りない。
なにしろ女の子のお買い物には時間が掛かるのだから、まよいが慌てるのも仕方のない事だった。
「あ、こちらにもクリスマスオーナメントがあるのね」
まずは手袋を見に行こうと、記憶を辿って歩き出したはずのまよいは、角を曲がろうとしたところで、木工と布細工のオーナメントを見付けて止まっている。
一つは欲しい。でも一つだけでは、飾った時に寂しいし……そもそも家のどこに飾るか、いっそ諦めるかと、ここでの買い物もしばらく掛かることだろう。
その頃、ディーナは楽市の地図を広げて、次なる行き先を悩みつつ、口を忙しく動かしていた。
彼女の頭の中を占めているのは、期間中の飲食店全店制覇だけではない。そこから更に、美味しかった店への再挑戦までが計画だ。
「むふふ、今私は着実に楽市を制覇しているの~」
生活費二か月分の軍資金を用意して、持ち帰り出来る品物はすでにほぼ買い込んだディーナは、茹で立て腸詰を口に詰めながらもにんまりしている。
昼過ぎとおやつ時の隙間、少しお客が途切れた時間に、ハナは厨房の奥でよいしょと背伸びした。接客は前屈みになることが多いので、たまに背筋や腰を伸ばさないと凝ってくる。
「グデちゃんを、水汲みだけでもぉ……やっぱ無理ぃ」
東方茶屋のメニューは緑茶に白茶、うす茶霰と甘酒の飲み物の他、汁粉と栗ぜんざい、三色団子に焼き酒粕の甘味を揃えてある。食べ物は持ち込みも可能にしているが、お茶を淹れたり、甘味を暖めたりと水は幾らでも使う。ここは相棒の幻獣を連れてきたらよかったと頭をよぎったのだが……
「前回も、全然役に立ちませんでしたしぃ」
雰囲気を出すのに楽器を演奏しなさいと連れてきたら、気が向いた時だけ仕事をするスタンスで通された。働けと目を光らせる方が大変と置いて来たので、人手は見事に足りていない。
しかし、今日は予想以上のお客の入りで、近くの水汲み場までは行かねばと思っていたハナを助けてくれたのは、隣に店を構える軽食どころの青年だった。
「うわぁ、助かりますぅ。代わりに、何かぁ召し上がってくださいねぇ」
親切な彼にお礼をしようと、目をランランと輝かせたハナが、相手の左薬指に指輪を見付けるのは十分後だ。
埴輪の魅力を広げんと、自作の複製品にぬいぐるみ、版画作りのポストカードに埴輪の歴史説明の同人誌まで持ち込んでいたアルトは、おおむね暇を持て余していた。
興味を示す人はいる。リアルブルーのものだと聞けば、話も聞いてくれるが、事細かに説明を聞いてくれる暇人は限られるのだ。
なにしろ物見遊山ならあちこち回りたいし、楽市に店を出していると買い物に割ける時間が限られる。そんなわけで、簡単な説明しか出来ず、暇と共に欲求不満でもあったアルトだが、現在はご満悦だ。
「へえ、馬の形もあるのか。これが持っているのは、剣?」
「剣士埴輪というものだな。こちらは神官や舞手の姿だと言われていてな」
製本まで自作の埴輪入門書に興味を示した男性が、腰を据えてアルトの話を聞く体勢に入っている。すでに複製埴輪を各種一揃い買い込んで、聖輝祭の飾りに使ってくれるそうだ。
「ところで、このハニワというのは、どうやって火入れをするんだ? あ、俺も地元では食器を焼いているんだがな」
「なんと、俺も元々は陶工だったんだ」
実は同業者だと分かり、更には男性が食器ではなく、可愛らしい人形の類を作ろうと考えているのを聞かされて、アルトは俄然燃え上がった。埴輪の話も大事だが、元の道から自らの求めるものを作る道に入ろうという同志との会話は得難いものだ。
たまにそれをなかなか理解してくれない家族やら同業者やらの愚痴も交えつつ、アルトと男性とは延々と盛り上がったのだが……
おかげでアルトの店には、その後近付く者がいなかった。
仕入れてあった羊肉の塊を切り分けて、部位ごとに香辛料を少しずつ分量を変えて擂りこんでいく。しばらく味を馴染ませる間に、卵と酢と油とハーブを使ったソースを作る。
そんなAnbarを、顔立ちが似ているから兄妹だろう二人連れが、隣の店の影から眺めていた。
「なんだかよく分からんが、用があるならこちらに来い。隣に迷惑を掛けられるのは、俺が困る」
昼過ぎに肉だけ欲しいと買っていった客達が、また通りかかったと思ったら、じーっと観察され通しではAnbarも気になって仕方がない。悪意はなさそうだからもしやと思って、
「もしかして、二人は」
この料理に興味があるのかと尋ねると、ものすごい警戒した表情を向けられた。Anbarにすれば、廃れる寸前の故郷の味が気に入ったのなら嬉しいと思ったが、違ったらしい。
その割に、並べてある香辛料や肉をしげしげと観察しているので、これはどういう相手なのかとAnbarが考えていると、答えは人の形でやって来た。
「他所の邪魔するなって言ったでしょ!!」
ついでに、ごつんごつんと拳骨の音付き。
兄妹が口々に悲鳴と抗議を上げるのを、更なる拳骨で黙らせたのはAnbarと大差ない年頃の女性だった。兄妹の更に姉だろう。
そして、こちらは非常に分かりやすかった。
「このお肉、初めて食べた味付けなんだけど、うちの店に教えてもらえない?」
弟妹の『いっつも断られるじゃん』の声は気にせず、ぜひ教えてと言い募る姉の勢いに負けたわけではない。
「ちゃんとした店で出す味かは分からないぞ」
廃れるよりは、多くの人に食べてもらいたいと、Anbarはそう思っただけだ。
クリスマスオーナメントに、ジンジャークッキー。
お揃いの手袋とマフラーと、パルム達にも可愛い毛糸の帽子。
途中の店で、自分を探している人がいると聞かされて、まよいが訪ねた先は埴輪談義に花開いていたアルトの店だった。まだ夕方には少し早い時間にすでに仕舞支度をして、もう売り切れたのかと思いきや、
「おぉ、行き違いにならなくて良かった。わざわざ来てくれた礼に、これを進呈しよう」
まよいに教えてもらった店を探しに行こうとしていたアルトと新しい埴輪仲間とは、もたらされた情報に喜んで、彼女に埴輪ぬいぐるみをくれた。
それでなくても買い物三昧の後で、ぬいぐるみは抱えて歩ける荷物の限界値に近かったが……マニア談義の最中で、すたこら出掛けたアルト達は気付かない。まよいも突っ返すのはぬいぐるみが可哀想だと、荷物を抱え直してとことこと歩き出した。
まあ、一人で歩いていたのは僅かのことだ。
「あ、先程はどうも。今、行ってみました」
「そのようだな。ところで、その荷物でどこまで行くつもりだ?」
アルトがまよいを探していると教えてくれたAnbarは、荷物が増えた彼女の姿に苦笑している。こちらは順調に売り切れた様子だ。
夕方にはハナの店で合流と、ディーナとの約束がある。まよいの行き先が甘味処と知ったAnbarは、荷物持ちを買って出た。味を教えてと言ってきた店は辛めの味付けが主体で、あれこれ味見させてもらったせいか、少し甘いものが欲しい。
そんなわけで、まよいとAnbarがハナの東方茶屋にのんびりとやってきた時。
「あ、まよいちゃ~ん。見てぇ、美味しいものいーっぱい!」
「あぁもぅ、うちは茶屋で食堂じゃないのですぅ」
そりゃあ飲み物を頼めば持ち込み自由だけれど……と、ハナが嘆息しているのも当然。
どこから借りてきたものか。台車に山盛りの様々な料理や菓子を載せて、ディーナが東方茶屋の前で大満足の笑顔を振りまいていたのである。
「食べてってください」
「いきなり俺が加わって」
「あ、お仲間は歓迎なの。たくさんいたら、皆で分けて、種類がたくさん選べるの! それに、もっと買ってこられるの!!」
「ちょっとぉ! まだ買うならぁ、食べる人もつれてきやがれですぅ!」
まよいが、Anbarの服の裾を掴んで、ディーナの宴会仲間に入れと強せ……お願いした。
Anbarは一度は遠慮してみたが、ディーナに両手を取っての大歓迎を示されて、来る者拒まずの宴会かと納得した。
ディーナは人数僅か一人の増員で、更なる料理を買いに走り出し、ハナに怒られている。
「私、今日で楽市全店制覇したの! 我が人生に一片の悔いなしなの~!」
その後の、ディーナ曰く『食の修行』宴会に突入した茶屋での主催(?)の歓喜の宣言に拍手した中には、アルト達埴輪談義コンビも、Anbarの店の味を盗みに来た兄妹も、茶屋の隣の店の若夫婦も混じっていた。
もはや何が理由の宴会か分かっていない人も大半だが、多くは楽しそうだ。
唯一。
「これじゃちっとも儲からないですぅ」
店主のハナは、愚痴と仕事の手が止まらなかったらしい。
そんな意気込みで出店中の星野 ハナ(ka5852)の店は、東方風、正確にはリアルブルー日本の古き良き茶屋を再現したものだ。
厨房は魔導トラックだが、その周りもよしずで囲って、雰囲気を壊さないように工夫している。
並んで座る長椅子はカップルに人気だが、そこはじっと我慢。お祭りできゃっきゃうふふしている男女のことは、
「売り上げがどうしたのです?」
「はうっ」
売り上げだと思えばいいじゃない!
厨房で他人の幸せをうらやんでいたハナは、ここ数日で聞き慣れてしまった楽市の有名人の問いに、変な声を上げてしまった。
振り返れば、そこにいるのはにこにこと満面笑顔のディーナ・フェルミ(ka5843)と、さっきまでとは違う髪飾りを挿した夢路 まよい(ka1328)の二人連れだった。
「なんでもないのですぅ。いいお買い物、出来たみたいですねぇ」
「これ、すごく安くてびっくりしちゃったわ。三種類あったけど、選ぶのに迷っちゃった」
造りが似ていたから一つに絞り込むのが大変で……と、ローティーンの見た目にそぐわぬしっかり者振りをうかがわせるまよいの手には、他にも小さな袋が二つほど。
見た感じからして、持ち帰りの菓子だろうなぁと察しを付けたハナは、風呂敷を一枚差し出した。
「包んでぇ、置いておくといいですよぉ」
預かり賃はなしと気前のいい申し出を、まよいはありがたく受けていたが……
「えぇと、これは干し果物だから、この箱なのぉ。あ、これはハナさんにお土産です」
あと美味しいお茶をください。
何の遠慮もないと言うか、これでも一応お客だと言うべきか。
厨房の奥に荷物を箱四つも積み上げたディーナの注文に、ハナは溜息を一つ。
「まよいちゃんもぉ、何か飲みますぅ?」
「……まだ、おなかが一杯で」
そうだよねと、まよいの返事に頷いたハナだが、もちろんディーナの緑茶は湯の冷まし加減も絶妙で淹れる。
そんなお茶を嬉しそうに喫するディーナは、今回楽市での有名人なのである。おかげで、たまたま親し気に声を掛けられて、うっかり同行しているまよいもだんだん顔を知られている。
なぜかと言えば……
今では作る者も自分だけの故郷の料理を人に食べてもらおうと、ふと思い立ったのがAnbar(ka4037)の出店の切っ掛けだった。
幸いなことに、流石は同盟でも知られた農業地域だけあり、材料は大抵の物が安価で手に入る。一部の香辛料だけは地元産がなくて高価な買い物についたが、それでも手に入るのだから有り難い。
周りの飲食店に比べると香辛料の利かせ方が強めとなるので、味をまろやかにするソースと、塩味のヨーグルト飲料を多めに用意して開いた店は、その場で肉を焼く匂いのおかげで、なかなかの盛況だった。ピリリと香ばしいラム肉を野菜と一緒にパンにはさんで食べるから、特に若い男性が多い。
「飲むヨーグルトは、甘いのしか知らなかったが、飯にはこれも悪くないな」
「さっき寄ってくれた女の子にも、甘いのなら飲んだことがあると言われたが、俺の部族では甘いと言えば茶か珈琲だったな」
土地によって違うものだと話し込んでいる内に、相手のアルト・ハーニー(ka0113)がリアルブルーの出身だと分かった。
それでと納得したのは、彼が腕に妙な人形を巻きつけていたからだ。茶色い円筒形に目鼻が付いて、細い腕の伸びた人形らしきものが、二の腕に引っかかるように絡んでいる。
きっとあちらの魔除けだろうと、Anbarが一人合点していると、アルトは彼の視線に気付いたらしい。
「これは埴輪と言ってだな」
リアルブルーのどこそこの、と始まって、色々語りそうな割に簡潔な埴輪の説明は、所々Anbarには理解が難しいところもあった。
だが、好きなものを人にも知ってほしくて、わざわざ楽市に店を出したという点に共感したので、分からないところは訊いたりしている内に、アルトがあ、と声を上げた。
「そうだそうだ。俺、似たような細工物を売ってる店があるって聞いて探しに来たんだ。この辺らしいが、知らないか?」
辺りを一巡りしたが見付からず、Anbarが焼く肉の匂いに釣られてしまったと聞けば、彼もアルトの探し物に協力してやりたいところだが、こういう変わった代物は見ていない。
教えてくれた相手にもう一度確かめた方が間違いないと、非常に真っ当な助言をしたAnbarは、アルトにこう頼まれた。
「あぁ、じゃあ、その子に伝言頼まれてくれよ。あの、初日から食べ歩きしてるほっそい女の子と一緒の、ちっさい女の子の方なんだ」
「なんだ、あの子達か」
前回以前の楽市でも、食べ歩きに邁進する若い女性が目立っていたらしい。その彼女が、今回は満を持して『お財布の準備も万端』と初日から乗り込んできたとの噂は、Anbarも、もちろんアルトも早いうちから耳にしていたのだ。
飲食店のAnbarは、二日目にその女の子ことディーナの来襲を受けている。アルトは昨日から合流したもう一人、まよいが埴輪に目を留めてくれたので、先程初めて噂の女の子も見掛けたところだ。
この二人、楽市会場をくまなく歩き回っているらしく、誰にでも『あの食べ歩きの女の子の二人連れ』で大抵通じる。まよいにしたら不本意かもしれないが。
おかげで、アルトとAnbarも大変に気持よく意思疎通を行い、じゃあまたと分かれたのだった。アルトの手には、さっき食べたのとは別の部位の肉の包みが、少なめだが抱えられている。
「それじゃ、夕方にまたねーっ!」
お昼は一緒に五種類も惣菜を買い込んで、分けて食べたが、まよいが口にしたのはせいぜい三割。いずれも大変美味しかったが、立て続いて食べ歩きは難しい。
それに、彼女は確かに甘いお菓子が好きだけれど、他にも小物や服も見てみたい。
という訳で、そちらを見に行きたいとディーナに告げたところ、別行動が決定した。
「手袋と、やっぱり部屋に置く小物も一つくらいは……」
装飾品もまだまだ見たいし、これは忙しいと歩き出す。夕食は、ハナも交えて三人で食べようと誘われたので、時間はあるようできっと足りない。
なにしろ女の子のお買い物には時間が掛かるのだから、まよいが慌てるのも仕方のない事だった。
「あ、こちらにもクリスマスオーナメントがあるのね」
まずは手袋を見に行こうと、記憶を辿って歩き出したはずのまよいは、角を曲がろうとしたところで、木工と布細工のオーナメントを見付けて止まっている。
一つは欲しい。でも一つだけでは、飾った時に寂しいし……そもそも家のどこに飾るか、いっそ諦めるかと、ここでの買い物もしばらく掛かることだろう。
その頃、ディーナは楽市の地図を広げて、次なる行き先を悩みつつ、口を忙しく動かしていた。
彼女の頭の中を占めているのは、期間中の飲食店全店制覇だけではない。そこから更に、美味しかった店への再挑戦までが計画だ。
「むふふ、今私は着実に楽市を制覇しているの~」
生活費二か月分の軍資金を用意して、持ち帰り出来る品物はすでにほぼ買い込んだディーナは、茹で立て腸詰を口に詰めながらもにんまりしている。
昼過ぎとおやつ時の隙間、少しお客が途切れた時間に、ハナは厨房の奥でよいしょと背伸びした。接客は前屈みになることが多いので、たまに背筋や腰を伸ばさないと凝ってくる。
「グデちゃんを、水汲みだけでもぉ……やっぱ無理ぃ」
東方茶屋のメニューは緑茶に白茶、うす茶霰と甘酒の飲み物の他、汁粉と栗ぜんざい、三色団子に焼き酒粕の甘味を揃えてある。食べ物は持ち込みも可能にしているが、お茶を淹れたり、甘味を暖めたりと水は幾らでも使う。ここは相棒の幻獣を連れてきたらよかったと頭をよぎったのだが……
「前回も、全然役に立ちませんでしたしぃ」
雰囲気を出すのに楽器を演奏しなさいと連れてきたら、気が向いた時だけ仕事をするスタンスで通された。働けと目を光らせる方が大変と置いて来たので、人手は見事に足りていない。
しかし、今日は予想以上のお客の入りで、近くの水汲み場までは行かねばと思っていたハナを助けてくれたのは、隣に店を構える軽食どころの青年だった。
「うわぁ、助かりますぅ。代わりに、何かぁ召し上がってくださいねぇ」
親切な彼にお礼をしようと、目をランランと輝かせたハナが、相手の左薬指に指輪を見付けるのは十分後だ。
埴輪の魅力を広げんと、自作の複製品にぬいぐるみ、版画作りのポストカードに埴輪の歴史説明の同人誌まで持ち込んでいたアルトは、おおむね暇を持て余していた。
興味を示す人はいる。リアルブルーのものだと聞けば、話も聞いてくれるが、事細かに説明を聞いてくれる暇人は限られるのだ。
なにしろ物見遊山ならあちこち回りたいし、楽市に店を出していると買い物に割ける時間が限られる。そんなわけで、簡単な説明しか出来ず、暇と共に欲求不満でもあったアルトだが、現在はご満悦だ。
「へえ、馬の形もあるのか。これが持っているのは、剣?」
「剣士埴輪というものだな。こちらは神官や舞手の姿だと言われていてな」
製本まで自作の埴輪入門書に興味を示した男性が、腰を据えてアルトの話を聞く体勢に入っている。すでに複製埴輪を各種一揃い買い込んで、聖輝祭の飾りに使ってくれるそうだ。
「ところで、このハニワというのは、どうやって火入れをするんだ? あ、俺も地元では食器を焼いているんだがな」
「なんと、俺も元々は陶工だったんだ」
実は同業者だと分かり、更には男性が食器ではなく、可愛らしい人形の類を作ろうと考えているのを聞かされて、アルトは俄然燃え上がった。埴輪の話も大事だが、元の道から自らの求めるものを作る道に入ろうという同志との会話は得難いものだ。
たまにそれをなかなか理解してくれない家族やら同業者やらの愚痴も交えつつ、アルトと男性とは延々と盛り上がったのだが……
おかげでアルトの店には、その後近付く者がいなかった。
仕入れてあった羊肉の塊を切り分けて、部位ごとに香辛料を少しずつ分量を変えて擂りこんでいく。しばらく味を馴染ませる間に、卵と酢と油とハーブを使ったソースを作る。
そんなAnbarを、顔立ちが似ているから兄妹だろう二人連れが、隣の店の影から眺めていた。
「なんだかよく分からんが、用があるならこちらに来い。隣に迷惑を掛けられるのは、俺が困る」
昼過ぎに肉だけ欲しいと買っていった客達が、また通りかかったと思ったら、じーっと観察され通しではAnbarも気になって仕方がない。悪意はなさそうだからもしやと思って、
「もしかして、二人は」
この料理に興味があるのかと尋ねると、ものすごい警戒した表情を向けられた。Anbarにすれば、廃れる寸前の故郷の味が気に入ったのなら嬉しいと思ったが、違ったらしい。
その割に、並べてある香辛料や肉をしげしげと観察しているので、これはどういう相手なのかとAnbarが考えていると、答えは人の形でやって来た。
「他所の邪魔するなって言ったでしょ!!」
ついでに、ごつんごつんと拳骨の音付き。
兄妹が口々に悲鳴と抗議を上げるのを、更なる拳骨で黙らせたのはAnbarと大差ない年頃の女性だった。兄妹の更に姉だろう。
そして、こちらは非常に分かりやすかった。
「このお肉、初めて食べた味付けなんだけど、うちの店に教えてもらえない?」
弟妹の『いっつも断られるじゃん』の声は気にせず、ぜひ教えてと言い募る姉の勢いに負けたわけではない。
「ちゃんとした店で出す味かは分からないぞ」
廃れるよりは、多くの人に食べてもらいたいと、Anbarはそう思っただけだ。
クリスマスオーナメントに、ジンジャークッキー。
お揃いの手袋とマフラーと、パルム達にも可愛い毛糸の帽子。
途中の店で、自分を探している人がいると聞かされて、まよいが訪ねた先は埴輪談義に花開いていたアルトの店だった。まだ夕方には少し早い時間にすでに仕舞支度をして、もう売り切れたのかと思いきや、
「おぉ、行き違いにならなくて良かった。わざわざ来てくれた礼に、これを進呈しよう」
まよいに教えてもらった店を探しに行こうとしていたアルトと新しい埴輪仲間とは、もたらされた情報に喜んで、彼女に埴輪ぬいぐるみをくれた。
それでなくても買い物三昧の後で、ぬいぐるみは抱えて歩ける荷物の限界値に近かったが……マニア談義の最中で、すたこら出掛けたアルト達は気付かない。まよいも突っ返すのはぬいぐるみが可哀想だと、荷物を抱え直してとことこと歩き出した。
まあ、一人で歩いていたのは僅かのことだ。
「あ、先程はどうも。今、行ってみました」
「そのようだな。ところで、その荷物でどこまで行くつもりだ?」
アルトがまよいを探していると教えてくれたAnbarは、荷物が増えた彼女の姿に苦笑している。こちらは順調に売り切れた様子だ。
夕方にはハナの店で合流と、ディーナとの約束がある。まよいの行き先が甘味処と知ったAnbarは、荷物持ちを買って出た。味を教えてと言ってきた店は辛めの味付けが主体で、あれこれ味見させてもらったせいか、少し甘いものが欲しい。
そんなわけで、まよいとAnbarがハナの東方茶屋にのんびりとやってきた時。
「あ、まよいちゃ~ん。見てぇ、美味しいものいーっぱい!」
「あぁもぅ、うちは茶屋で食堂じゃないのですぅ」
そりゃあ飲み物を頼めば持ち込み自由だけれど……と、ハナが嘆息しているのも当然。
どこから借りてきたものか。台車に山盛りの様々な料理や菓子を載せて、ディーナが東方茶屋の前で大満足の笑顔を振りまいていたのである。
「食べてってください」
「いきなり俺が加わって」
「あ、お仲間は歓迎なの。たくさんいたら、皆で分けて、種類がたくさん選べるの! それに、もっと買ってこられるの!!」
「ちょっとぉ! まだ買うならぁ、食べる人もつれてきやがれですぅ!」
まよいが、Anbarの服の裾を掴んで、ディーナの宴会仲間に入れと強せ……お願いした。
Anbarは一度は遠慮してみたが、ディーナに両手を取っての大歓迎を示されて、来る者拒まずの宴会かと納得した。
ディーナは人数僅か一人の増員で、更なる料理を買いに走り出し、ハナに怒られている。
「私、今日で楽市全店制覇したの! 我が人生に一片の悔いなしなの~!」
その後の、ディーナ曰く『食の修行』宴会に突入した茶屋での主催(?)の歓喜の宣言に拍手した中には、アルト達埴輪談義コンビも、Anbarの店の味を盗みに来た兄妹も、茶屋の隣の店の若夫婦も混じっていた。
もはや何が理由の宴会か分かっていない人も大半だが、多くは楽しそうだ。
唯一。
「これじゃちっとも儲からないですぅ」
店主のハナは、愚痴と仕事の手が止まらなかったらしい。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/28 18:34:51 |
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お店やろうぜ・他 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/11/26 21:21:35 |