ゲスト
(ka0000)
【虚動】裏メニューの爆発オチ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/01 19:00
- 完成日
- 2014/12/08 03:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「フヒッ……これはビンビンくるの」
薄暗い室内で、一人の男が奇妙な笑い声を上げていた。
目の前には、よくわからない文字や数字を無数に綴った黒板があった。ドア一枚分の黒板は、白く塗りつぶされていると思えるほど、びっしりと書き込まれている。
「必要なのは、アレとアレじゃな」
虚空をじっと見つめ、男はうんうんと頷く。
部屋を出て、足早に建物の外に出た。
彼がいたのは、半壊した建物を無理やり修繕したような、つぎはぎの屋敷だった。
男の名は、コイツ・アカン博士。
自称天才の機導師である。数多くの魔導機械を開発したといいはり、修理で生計を立てていると述べる変わり者である。
油っけのないぱさついた髪をぐしぐしとかき乱しながら、硬い黒パンを食いちぎり咀嚼する。歩きながら食べるのは行儀が悪いと親に叱られた思い出など、彼にはない。
辿り着いたのは一件の店。
地図や古書を取り扱っている、知識の求道者には御用達の店だった。
埃っぽい店内を、さらに埃っぽくする博士はずんずんと進んでいく。
「フヒッヒ、しばらく」
特徴的な笑い声と一度見たら忘れがたい風貌に、店主はしばし言葉を失った。
初対面ではないからこそ、店主は渋い顔を見せた。
「今度は、どうした」
「ナンカアル山の地図をくれ」
「……はぁ」と主人は溜息を吐き、読みかけの古書をたたんで立ち上がる。
傍らで寝ていた猫が、その動きで目を覚ますと、博士に対して唸り声を上げた。
猫の警戒を気にすることなく、博士は薄汚れた白衣のポケットからくすんだ硬貨を取り出す。
「足りるかの」
「……ギリギリ」
何度も数え直し、主人はそう答えた。
また、例の笑い声で猫を荒ぶらせると、博士は地図を受け取った。すぐさま食い入るように地図を確認する。楽しげに眠たげな印象を与える目が、ぐりぐりと動く。
「今度は何をやらかす気だ」
嘆くような諦めたような、そんな響きを込めて、主人は呼びかける。
「フヒッ。何やら面白そうな機械を動かせそうなのでな、実験だの」
帝国方面で行われるというCAMとやらの稼働実験。博士も風のうわさで聞いていたのである。天才である私に動かせないものなどないと、はた迷惑な決意で博士はアレコレと考えたのだ。
「ナンカアル山にある赤い水を使えば、きっとうまくいくの」
「気をつけろよ。最近、山にゃゴブリンがいるって話だぞ」
「大丈夫、大丈夫。護衛をつけるからの」
●
コイツ・アカン博士が、また、何かをしようとしている。
ハンターオフィスに依頼が舞い込んだことで、情報は一気に駆け巡った。どこかからとは声を大にして言わないが、とある方面から博士はどうせ爆発して失敗させる。だが、彼を実験場に向かわせる訳にはいかないという依頼も入ってきた。
この依頼にひっそりと、そのことは付託された。
どうせ、爆発して失敗させる……この言葉の不吉さが、博士の性格を表しているようだった。
「フヒッ……これはビンビンくるの」
薄暗い室内で、一人の男が奇妙な笑い声を上げていた。
目の前には、よくわからない文字や数字を無数に綴った黒板があった。ドア一枚分の黒板は、白く塗りつぶされていると思えるほど、びっしりと書き込まれている。
「必要なのは、アレとアレじゃな」
虚空をじっと見つめ、男はうんうんと頷く。
部屋を出て、足早に建物の外に出た。
彼がいたのは、半壊した建物を無理やり修繕したような、つぎはぎの屋敷だった。
男の名は、コイツ・アカン博士。
自称天才の機導師である。数多くの魔導機械を開発したといいはり、修理で生計を立てていると述べる変わり者である。
油っけのないぱさついた髪をぐしぐしとかき乱しながら、硬い黒パンを食いちぎり咀嚼する。歩きながら食べるのは行儀が悪いと親に叱られた思い出など、彼にはない。
辿り着いたのは一件の店。
地図や古書を取り扱っている、知識の求道者には御用達の店だった。
埃っぽい店内を、さらに埃っぽくする博士はずんずんと進んでいく。
「フヒッヒ、しばらく」
特徴的な笑い声と一度見たら忘れがたい風貌に、店主はしばし言葉を失った。
初対面ではないからこそ、店主は渋い顔を見せた。
「今度は、どうした」
「ナンカアル山の地図をくれ」
「……はぁ」と主人は溜息を吐き、読みかけの古書をたたんで立ち上がる。
傍らで寝ていた猫が、その動きで目を覚ますと、博士に対して唸り声を上げた。
猫の警戒を気にすることなく、博士は薄汚れた白衣のポケットからくすんだ硬貨を取り出す。
「足りるかの」
「……ギリギリ」
何度も数え直し、主人はそう答えた。
また、例の笑い声で猫を荒ぶらせると、博士は地図を受け取った。すぐさま食い入るように地図を確認する。楽しげに眠たげな印象を与える目が、ぐりぐりと動く。
「今度は何をやらかす気だ」
嘆くような諦めたような、そんな響きを込めて、主人は呼びかける。
「フヒッ。何やら面白そうな機械を動かせそうなのでな、実験だの」
帝国方面で行われるというCAMとやらの稼働実験。博士も風のうわさで聞いていたのである。天才である私に動かせないものなどないと、はた迷惑な決意で博士はアレコレと考えたのだ。
「ナンカアル山にある赤い水を使えば、きっとうまくいくの」
「気をつけろよ。最近、山にゃゴブリンがいるって話だぞ」
「大丈夫、大丈夫。護衛をつけるからの」
●
コイツ・アカン博士が、また、何かをしようとしている。
ハンターオフィスに依頼が舞い込んだことで、情報は一気に駆け巡った。どこかからとは声を大にして言わないが、とある方面から博士はどうせ爆発して失敗させる。だが、彼を実験場に向かわせる訳にはいかないという依頼も入ってきた。
この依頼にひっそりと、そのことは付託された。
どうせ、爆発して失敗させる……この言葉の不吉さが、博士の性格を表しているようだった。
リプレイ本文
●
「フーヒッヒヒ」
調子っ外れの笑い声がナンカアル山に響く。
コイツ博士が、旅支度を整えた姿で麓に立っているからだ。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
リュー・グランフェスト(ka2419)を始め、自己紹介がてら挨拶を交わしていく。リューを始めとする数人は、先行して斥候を努める。
残る人数で、博士を囲って護衛……もとい保護……もとい突出しないように抑止するよう隊列を組む。
ハンターの自己紹介を聞いているのかいないのか、よろしくとうわ言のように博士は告げていた。
挨拶もそこそこに出発となるわけだが、笑い声やひとりごとが絶えない博士に、不安を感じざるを得ない。
「なんというか……狙撃したくなるウザさだね」
博士の後方、少し距離をとってネイハム・乾風(ka2961)がぼそっと呟く。
スッと振り 向いた博士に、
「なんでもありませんよ」と告げるが、その心中は地獄耳なのかと穏やかでない。
「そんなことより博士、早速お話を伺いたいのですが」
周囲を警護するように、藤田 武(ka3286)が博士に近づく。
「先生? 随分仰々しい機械ですが、それはどういった代物で?」
ずずいっと追随するように、メリエ・フリョーシカ(ka1991)が問いかける。
調子よくアレヤコレヤと話すのだが、理論が飛躍しすぎてついていけない。
「どういった発想でそこに至ったのだい?」
ヴィジェア=ダンディルディエン(ka3316)が重ねて質問をすれば、調子よく答えてくれる。支離滅裂な部分もあるが、天才とバカはなんとやらというやつだろう。
「成程、成功を期待します」
メリエが結び、早速出発と相成った。
「やれやれ、これだから学者は……」
始まる前からすでに疲れた声をあげるのは、ロニ・カルディス(ka0551)だ。
先行組のロニは、山の入口から罠などを警戒していた。
どこで何があるかわからないのだから、当たり前だ。
「なんにも起きなきゃいいけどよ……」と不安を口にするのは、ルリ・エンフィールド(ka1680)だ。
だが、その不安は山登りの道中についてではない。
むしろ、出処の分からないような水を、よくわからない機械に使って大丈夫なのかという不安だ。つまるところ、博士に対する不安である。
もちろん、そこに辿り着くまでの危険もある。目を凝らし、鋭敏な視覚をフル活用してゴブリンの影形を追う。
「異世界に来ても山登りとは、何とも暢気な話だな」
静かにそんな感想を漏らしていたのは、山田 勇三(ka3604)である。
「しかし……」と後ろをちらっと振り返れば、山を隈なく見渡す博士の姿。そして、ゴブリンが出るという噂が勇三の頭をよぎる。
気を引き締めるには十分すぎる要素だった。
「後ろが出るみたいですし、行きましょう」
「腰を据えて挑もうじゃないか」
ロニの呼びかけに、勇三らが応える。こちらも出発を決めるのだった。
●
斥候組からやや離れ、リューが大太刀を片手に持って続く。
その後ろで博士が、メリエ、武、ヴィジェアに囲まれていた。
殿をネイハムが銃を構えて努める。
「先生。先生は依頼者ではありますが、護衛対象者でもあります。山内では、私達の指示に従って頂きたく思います」
山に入って早々、メリエは博士にそう約束させた。
「亜人や獣が出ると。雑魔程ではないにしても。くれぐれも、傍を離れませんよう」
返事を待たず矢継ぎ早に注意を促す。
例の笑い声をあげながら、頷いたので約束してくれた……はずであった。
少なくともメリエはそう思っていた。
後ろから様子を眺めていた、ネイハムなどは訝しんでいた。ロニがいればもっと強く念を押したかもしれない。
約束は一応したわけで、ヴィジェアを中心に博士と会話が進む。
「博士は普段、どういった考えでこうした研究を?」
「考え?」
ヴィジェアの問に対して、疑問符を付けて博士は返す。
発想法でも、思想でもいい。何か聞ければ、説得の材料になるだろう。
「えぇ、そういったものがあれば、教授していただきたい」
「そんなものは、ないね」
目をぐるぐると動かしながら、博士は応える。
発明に思想などなく、ただ降りてくるのだと高らかに叫ぶ。
何事かとリューや、先を行く勇三らも振り返った。
「なるほど、わかります」と武は何か感じるところがあったのか、強く頷いていた。
ただの発作(?)だとわかり、斥候組が再び動く。
「博士、あまり叫ばないほうが……」
メリエがそっと指摘するが、聞いているのかいないのか。
目が動き続ける博士を叱責するわけにも行かず、注意に留める。
「ところで赤い水とはどのような代物で?」
「さぁ?」
「……」
山に入ったからか、いささか気温が下がってきたように感じた。
あきらめず、「わかることでも」と食い下がるヴィジェアに首をかしげる始末である。
「すべてはいんすぴれーしょんじゃ、フヒッヒ」
「天啓ですか」
思うところがあるのか、武が出した声は博士の笑い声に溶け込んでいった。
「あー……」
何かしでかしそうだと、博士を注意深く観察するリューがため息混じりに声を漏らす。
「後方は賑やかですね」
苦笑交じりに勇三が告げる。
やはり、ああいう手合の人物は苦手だなと改めて思った。読めない相手だからこそ、余計に気を使うという意味で疲れそうなのだ。
「得意なやつなんているのか?」
ルリがバッサリといってのける。
ロニも複雑な顔で後ろをちらりと見やる。そうこうしていると、ルリが「あっ」と声を出して二人を制止した。
目を凝らし、静かに指し示す。
「ゴブリンのお出ましだよ」
二人も合わせて望み見れば、確かに3体のゴブリンがそこにいた。
幸いこちらには気づいていないようだが、何かをしているように見えた。ルリが罠がないかを調べている間に、ロニが後方へ合図を送る。
勇三も短剣を抜き、いつでも駆け出す構えをとった。
「どうです?」
「今のところ、罠はないみたいだ」
身長以上ある剣を13フィート棒代わりに、罠を探っていたルリが応える。
その言葉を信じ、勇三が一気に詰め寄った。
思った以上に体が動く。接近と同時に一閃すれば、ゴブリンは弓を構えることなく逃げだした。
「追いますか?」
「逃げるのなら、追わなくていいかな」
短剣を手に尋ねる勇三に、ルリが答える。
ロニも追撃しないことには同意した。
「また向かって来るのであれば、対処しよう」
その先に罠を仕掛けている可能性がある。
「それに……」と振り返った先から銃声が聞こえてきた。
「……いや、足元に何かあった気がしてさ……」
前へ出ようと両腕を掲げた博士に対し、ネイハムが威嚇射撃を行った音であった。
歩みは止めたが、動じることなく博士はネイハムにいう。
「誰もが正しいのだ。気に病み必要はないのう」
「次からはおとなしくしてくださいませんか?」
前に出ようとしたことを悪びれない博士に、メリエが忠告する。
ヒッヒと声を出したが、それが同意かどうか聞く気にはなれなかった。
●
「博士、あれはなんでしょうか? 博識な博士であれば、わかるかと思うのですが」
不意を打つように、武が指をさす。
博士の視線がそちらに移る。指された先にあったのは、何の変哲もない植物なのだが、学名を含めてすらりと語る。
だが、武は別にそれが知りたかったのではない。
「っと、油断ならないな」
リューが博士を抑えようとした手をおさめ、大太刀で傍らの草むらを切り開く。
そこには素朴な罠が仕掛けられていた。そこへわざわざ飛び込もうとした博士の気を、武は逸らしたのだった。
ヴィジェアは、博士から聞いたアレコレを頭のなかで咀嚼し、説得の方法を再考していた。
そこへ先行していたルリが、伝令に走ってきた。
「この先、切り立った感じだよ。落石含めて注意だな」
「博士、わかっているとは思いますが……」
メリエが半ば諦めたように、告げる。
返ってきたのは、いつも通りの笑い声だけだった。
●
「フーヒッヒ」と声を上げて博士が目覚めたのは、崖を越えた先だった。
一体何が起こったのか、「はて?」と記憶を巡らす。
そう、あれは崖に差し掛かったときのことだ。いつも通り、この博士は独断専行ぶっちぎろうとしたのである。
ルリが楔やロープで安全策をねっていたのだが、それをぶち壊しにしかねなかった。
「あ、先生! あんなとこに赤い水が!」
メリエの声が聞こえ、博士の気が取られた瞬間、
「……せぇぇぇいっ!」という気合が耳にこだました。
遠くなる意識の中で、
「先生っ!? くっ、亜人です! おのれ亜人! 亜人の攻撃です先生!」
という声が聞こえた気がした。
「誰しもが正しいのだのう。フヒッヒ」
「亜人の仕業です。大丈夫ですか」
念を押すメリエに、博士は軽く頷いてみせた。
たまにはまともな反応を返すのだなという感想すら覚える。
「先に進みましょう」
博士がおとなしかったおかげで、何事も無く崖を超えることが出来た。途中、落石があったがネイハムが撃ち抜き、リューが砕いたので事なきを得た。
「再来したね」
苦い顔でルリが告げた先には、ゴブリンが一体。
他に敵影なし、罠がないか再び探りつつ、間合いを詰める。射程に収めたならば、先手をうつ。
勇三が一気に駆け寄って、短剣を振るうも、盾で防がれた。だが、続いて詰め寄ったルリが大剣を大きく振り下ろし、盾をぶち壊す。
「これで終わりだ」
向かって来るならば容赦なし、ロニの槍がゴブリンを貫いた。
同時に、後方で戦闘音。
どうやら裏周りを突かれたらしい。とはいえ、後ろは後ろで人員が揃っているのだ。
「不意をついたつもりだろうが、甘いね」
風刃を放ち、ヴィジェアが呟く。
メリエは怯んだゴブリンへ迷うことなく、斬馬刀を振り下ろしていた。
笑い声を上げながら突貫しかねない博士は、武が抑え、リューがゴブリンとの間に割って入る。
「しかし、少しは落ち着かないのかな、あの博士は……」
ネイハムはため息混じりにつぶやきつつ、マテリアルを込めた強力な一撃を放つ。
哀れ、奇襲という手段で打って出たゴブリンであったが、返す刀で倒されるのであった。
●
気がつけば、赤い水が出るという場所まで辿り着いていた。
ゴブリン以上に、博士の相手で疲れた面々であったが最後の仕上げが残っている。
「安全が確認されるまで、待ってくれ。妨害が入っていいなら、止めはしないが」
早速実験に入ろうとした博士を、ロニが強くいいとめる。
妨害はさすがに嫌なのか、これについては大人しく従うのであった。
野生動物も追い散らし、周囲の安全を確認したところで赤い水を投入し始めた。
「嫌な予感がする……厄介なことにこういう時ばっか勘がいいんだよなあ」
ルリは額に出た汗を拭いつつ、距離を取る。ロニも博士の同行を中止しつつ、いつでも伏せられるよう構える。
「……本当に機械に入れるんだ」とネイハムも木々の後ろへ退避を始めた。勇三らもそれぞれの位置で待ち受ける。
逆にリューやメリエは博士を爆発から守るべく、近づいていた。
いや、爆発しないのが一番なのだと思いつつ、するようにしか思えない。案の定、機械が異音と光を放ち始めた。
「あー」と声を出すのが精一杯だった。
爆風と目がチカチカするような光が、一気に破裂する。
威力としてはそれほどでもないが、木々が揺らされ、ところどころ枝が折れていた。
「大丈夫ですか、博士」とメリエが問いかければ、いつものフヒッヒという笑い声。
「失敗……かのう」
微妙なニュアンスなのはどういうわけなのだろうか。
メリエとリューに庇われたこともあって、博士は多少焦げ付いた程度だった。
「爆発していいのは、戦時下の爆弾くらいのものですよ」
ヴィジェアとともに博士を起こしに来た勇三が、説得の口火を切った。
「先生、爆発を成功とするのは兵器だけです。……いえ、一般論です先生」
メリエも追従しようとしたが、そもそも兵器に関わる話なのだ。
「今がそのときだがの」といわれるのも当然。
「ロボットを爆発させては、二度と触らせてもらえませんよ」
つないだ言葉には、そうだのうと一考してもらえたようだ。
ぶつくさと理論の組み立てでも行っているらしい間に、
「たいへんだー」というルリの声が聞こえた。
武の回復を受けながら、血まみれに見えるネイハムが運び込まれてきた。
負傷者が出るのだから、実験場に行くのはやめた方がいいという意見が次なる手だが。
「この赤い水がどういったものか具体的に分かっているのか」
その前に理論部分をロニが攻める。
実は博士は、鉱石がしみだしたためにこの色になったという仮説を立てていたりするのだが。仮説でしかない。
「よくわからないものを使っているのなら、実験場に送っても博士の知性と品格を疑われるだけ」
続けて攻め立て、「自分だけではなく、第三者にも明確にわかる理論を仕上げてこそ超一流」と自尊心をくすぐろうとした。
「先生、大衆を味方につけてこその発明でありましょう。何れかの部分での改善が必要だと思いますが……」とメリエも続くが。
「他者などどうでもよいの」とバッサリ切り捨てられた。
犠牲者ネイハムは、もっとも、赤い水を血糊に見立ててフリをしているだけである。
それがばれないよう、介抱を続けつつ説得に絡める。
「天才が不完全なまま事を成すいうのは危険なものだな博士。更なる改良が必要ではないかね」
「研究に犠牲はつきもの?
いえ、貴方の実力ならばそんなことはありません。犠牲なく成功する力がある筈ですよ」
これもどこまで響いているのか……。微妙な表情であったが。
「それに爆発させるのであれば、その爆発を制御されてはいかがでしょうか」
そう武がいった瞬間に眼の色が変わった。
「私の世界にエンジンと言うものがあり、爆発と収縮を繰り返しそれを機構に組み込むことで、様々な役に立たせることが出来ます」
「ほぅ」
「無論、制御された爆発が前提ですので、犠牲者が出るなんて論外ですけどね」
ふむふむと興味深げに考え始めたところを見ると、気をそらせたようだ。
ここぞとばかりに、説得の文言を叩き込む。
「博士でなければ、この世界では出来ないと思いますし、そちらに役立てていただけませんか?」
何か思いつきそうだという顔立ちへ、ヴィジェアが重ねる。
「今のが天啓になるのなら、そっちを完成させたほうがいいんじゃないかい?」
「これは、これは。なるほどのう」
何がなるほどなのかわからないが、
「実験場に行く時間が惜しくなったわ」との一言を引き出すことは出来た。
強く約束させ、周囲の片付けをさっさと済ます。
だが、帰り道のことを考えると早くも頭が痛くもなるのだった。
ナンカアル山に不気味な笑い声をする妖怪がいるという噂が流れたりするのだが、それはまた別のお話。
「フーヒッヒヒ」
調子っ外れの笑い声がナンカアル山に響く。
コイツ博士が、旅支度を整えた姿で麓に立っているからだ。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
リュー・グランフェスト(ka2419)を始め、自己紹介がてら挨拶を交わしていく。リューを始めとする数人は、先行して斥候を努める。
残る人数で、博士を囲って護衛……もとい保護……もとい突出しないように抑止するよう隊列を組む。
ハンターの自己紹介を聞いているのかいないのか、よろしくとうわ言のように博士は告げていた。
挨拶もそこそこに出発となるわけだが、笑い声やひとりごとが絶えない博士に、不安を感じざるを得ない。
「なんというか……狙撃したくなるウザさだね」
博士の後方、少し距離をとってネイハム・乾風(ka2961)がぼそっと呟く。
スッと振り 向いた博士に、
「なんでもありませんよ」と告げるが、その心中は地獄耳なのかと穏やかでない。
「そんなことより博士、早速お話を伺いたいのですが」
周囲を警護するように、藤田 武(ka3286)が博士に近づく。
「先生? 随分仰々しい機械ですが、それはどういった代物で?」
ずずいっと追随するように、メリエ・フリョーシカ(ka1991)が問いかける。
調子よくアレヤコレヤと話すのだが、理論が飛躍しすぎてついていけない。
「どういった発想でそこに至ったのだい?」
ヴィジェア=ダンディルディエン(ka3316)が重ねて質問をすれば、調子よく答えてくれる。支離滅裂な部分もあるが、天才とバカはなんとやらというやつだろう。
「成程、成功を期待します」
メリエが結び、早速出発と相成った。
「やれやれ、これだから学者は……」
始まる前からすでに疲れた声をあげるのは、ロニ・カルディス(ka0551)だ。
先行組のロニは、山の入口から罠などを警戒していた。
どこで何があるかわからないのだから、当たり前だ。
「なんにも起きなきゃいいけどよ……」と不安を口にするのは、ルリ・エンフィールド(ka1680)だ。
だが、その不安は山登りの道中についてではない。
むしろ、出処の分からないような水を、よくわからない機械に使って大丈夫なのかという不安だ。つまるところ、博士に対する不安である。
もちろん、そこに辿り着くまでの危険もある。目を凝らし、鋭敏な視覚をフル活用してゴブリンの影形を追う。
「異世界に来ても山登りとは、何とも暢気な話だな」
静かにそんな感想を漏らしていたのは、山田 勇三(ka3604)である。
「しかし……」と後ろをちらっと振り返れば、山を隈なく見渡す博士の姿。そして、ゴブリンが出るという噂が勇三の頭をよぎる。
気を引き締めるには十分すぎる要素だった。
「後ろが出るみたいですし、行きましょう」
「腰を据えて挑もうじゃないか」
ロニの呼びかけに、勇三らが応える。こちらも出発を決めるのだった。
●
斥候組からやや離れ、リューが大太刀を片手に持って続く。
その後ろで博士が、メリエ、武、ヴィジェアに囲まれていた。
殿をネイハムが銃を構えて努める。
「先生。先生は依頼者ではありますが、護衛対象者でもあります。山内では、私達の指示に従って頂きたく思います」
山に入って早々、メリエは博士にそう約束させた。
「亜人や獣が出ると。雑魔程ではないにしても。くれぐれも、傍を離れませんよう」
返事を待たず矢継ぎ早に注意を促す。
例の笑い声をあげながら、頷いたので約束してくれた……はずであった。
少なくともメリエはそう思っていた。
後ろから様子を眺めていた、ネイハムなどは訝しんでいた。ロニがいればもっと強く念を押したかもしれない。
約束は一応したわけで、ヴィジェアを中心に博士と会話が進む。
「博士は普段、どういった考えでこうした研究を?」
「考え?」
ヴィジェアの問に対して、疑問符を付けて博士は返す。
発想法でも、思想でもいい。何か聞ければ、説得の材料になるだろう。
「えぇ、そういったものがあれば、教授していただきたい」
「そんなものは、ないね」
目をぐるぐると動かしながら、博士は応える。
発明に思想などなく、ただ降りてくるのだと高らかに叫ぶ。
何事かとリューや、先を行く勇三らも振り返った。
「なるほど、わかります」と武は何か感じるところがあったのか、強く頷いていた。
ただの発作(?)だとわかり、斥候組が再び動く。
「博士、あまり叫ばないほうが……」
メリエがそっと指摘するが、聞いているのかいないのか。
目が動き続ける博士を叱責するわけにも行かず、注意に留める。
「ところで赤い水とはどのような代物で?」
「さぁ?」
「……」
山に入ったからか、いささか気温が下がってきたように感じた。
あきらめず、「わかることでも」と食い下がるヴィジェアに首をかしげる始末である。
「すべてはいんすぴれーしょんじゃ、フヒッヒ」
「天啓ですか」
思うところがあるのか、武が出した声は博士の笑い声に溶け込んでいった。
「あー……」
何かしでかしそうだと、博士を注意深く観察するリューがため息混じりに声を漏らす。
「後方は賑やかですね」
苦笑交じりに勇三が告げる。
やはり、ああいう手合の人物は苦手だなと改めて思った。読めない相手だからこそ、余計に気を使うという意味で疲れそうなのだ。
「得意なやつなんているのか?」
ルリがバッサリといってのける。
ロニも複雑な顔で後ろをちらりと見やる。そうこうしていると、ルリが「あっ」と声を出して二人を制止した。
目を凝らし、静かに指し示す。
「ゴブリンのお出ましだよ」
二人も合わせて望み見れば、確かに3体のゴブリンがそこにいた。
幸いこちらには気づいていないようだが、何かをしているように見えた。ルリが罠がないかを調べている間に、ロニが後方へ合図を送る。
勇三も短剣を抜き、いつでも駆け出す構えをとった。
「どうです?」
「今のところ、罠はないみたいだ」
身長以上ある剣を13フィート棒代わりに、罠を探っていたルリが応える。
その言葉を信じ、勇三が一気に詰め寄った。
思った以上に体が動く。接近と同時に一閃すれば、ゴブリンは弓を構えることなく逃げだした。
「追いますか?」
「逃げるのなら、追わなくていいかな」
短剣を手に尋ねる勇三に、ルリが答える。
ロニも追撃しないことには同意した。
「また向かって来るのであれば、対処しよう」
その先に罠を仕掛けている可能性がある。
「それに……」と振り返った先から銃声が聞こえてきた。
「……いや、足元に何かあった気がしてさ……」
前へ出ようと両腕を掲げた博士に対し、ネイハムが威嚇射撃を行った音であった。
歩みは止めたが、動じることなく博士はネイハムにいう。
「誰もが正しいのだ。気に病み必要はないのう」
「次からはおとなしくしてくださいませんか?」
前に出ようとしたことを悪びれない博士に、メリエが忠告する。
ヒッヒと声を出したが、それが同意かどうか聞く気にはなれなかった。
●
「博士、あれはなんでしょうか? 博識な博士であれば、わかるかと思うのですが」
不意を打つように、武が指をさす。
博士の視線がそちらに移る。指された先にあったのは、何の変哲もない植物なのだが、学名を含めてすらりと語る。
だが、武は別にそれが知りたかったのではない。
「っと、油断ならないな」
リューが博士を抑えようとした手をおさめ、大太刀で傍らの草むらを切り開く。
そこには素朴な罠が仕掛けられていた。そこへわざわざ飛び込もうとした博士の気を、武は逸らしたのだった。
ヴィジェアは、博士から聞いたアレコレを頭のなかで咀嚼し、説得の方法を再考していた。
そこへ先行していたルリが、伝令に走ってきた。
「この先、切り立った感じだよ。落石含めて注意だな」
「博士、わかっているとは思いますが……」
メリエが半ば諦めたように、告げる。
返ってきたのは、いつも通りの笑い声だけだった。
●
「フーヒッヒ」と声を上げて博士が目覚めたのは、崖を越えた先だった。
一体何が起こったのか、「はて?」と記憶を巡らす。
そう、あれは崖に差し掛かったときのことだ。いつも通り、この博士は独断専行ぶっちぎろうとしたのである。
ルリが楔やロープで安全策をねっていたのだが、それをぶち壊しにしかねなかった。
「あ、先生! あんなとこに赤い水が!」
メリエの声が聞こえ、博士の気が取られた瞬間、
「……せぇぇぇいっ!」という気合が耳にこだました。
遠くなる意識の中で、
「先生っ!? くっ、亜人です! おのれ亜人! 亜人の攻撃です先生!」
という声が聞こえた気がした。
「誰しもが正しいのだのう。フヒッヒ」
「亜人の仕業です。大丈夫ですか」
念を押すメリエに、博士は軽く頷いてみせた。
たまにはまともな反応を返すのだなという感想すら覚える。
「先に進みましょう」
博士がおとなしかったおかげで、何事も無く崖を超えることが出来た。途中、落石があったがネイハムが撃ち抜き、リューが砕いたので事なきを得た。
「再来したね」
苦い顔でルリが告げた先には、ゴブリンが一体。
他に敵影なし、罠がないか再び探りつつ、間合いを詰める。射程に収めたならば、先手をうつ。
勇三が一気に駆け寄って、短剣を振るうも、盾で防がれた。だが、続いて詰め寄ったルリが大剣を大きく振り下ろし、盾をぶち壊す。
「これで終わりだ」
向かって来るならば容赦なし、ロニの槍がゴブリンを貫いた。
同時に、後方で戦闘音。
どうやら裏周りを突かれたらしい。とはいえ、後ろは後ろで人員が揃っているのだ。
「不意をついたつもりだろうが、甘いね」
風刃を放ち、ヴィジェアが呟く。
メリエは怯んだゴブリンへ迷うことなく、斬馬刀を振り下ろしていた。
笑い声を上げながら突貫しかねない博士は、武が抑え、リューがゴブリンとの間に割って入る。
「しかし、少しは落ち着かないのかな、あの博士は……」
ネイハムはため息混じりにつぶやきつつ、マテリアルを込めた強力な一撃を放つ。
哀れ、奇襲という手段で打って出たゴブリンであったが、返す刀で倒されるのであった。
●
気がつけば、赤い水が出るという場所まで辿り着いていた。
ゴブリン以上に、博士の相手で疲れた面々であったが最後の仕上げが残っている。
「安全が確認されるまで、待ってくれ。妨害が入っていいなら、止めはしないが」
早速実験に入ろうとした博士を、ロニが強くいいとめる。
妨害はさすがに嫌なのか、これについては大人しく従うのであった。
野生動物も追い散らし、周囲の安全を確認したところで赤い水を投入し始めた。
「嫌な予感がする……厄介なことにこういう時ばっか勘がいいんだよなあ」
ルリは額に出た汗を拭いつつ、距離を取る。ロニも博士の同行を中止しつつ、いつでも伏せられるよう構える。
「……本当に機械に入れるんだ」とネイハムも木々の後ろへ退避を始めた。勇三らもそれぞれの位置で待ち受ける。
逆にリューやメリエは博士を爆発から守るべく、近づいていた。
いや、爆発しないのが一番なのだと思いつつ、するようにしか思えない。案の定、機械が異音と光を放ち始めた。
「あー」と声を出すのが精一杯だった。
爆風と目がチカチカするような光が、一気に破裂する。
威力としてはそれほどでもないが、木々が揺らされ、ところどころ枝が折れていた。
「大丈夫ですか、博士」とメリエが問いかければ、いつものフヒッヒという笑い声。
「失敗……かのう」
微妙なニュアンスなのはどういうわけなのだろうか。
メリエとリューに庇われたこともあって、博士は多少焦げ付いた程度だった。
「爆発していいのは、戦時下の爆弾くらいのものですよ」
ヴィジェアとともに博士を起こしに来た勇三が、説得の口火を切った。
「先生、爆発を成功とするのは兵器だけです。……いえ、一般論です先生」
メリエも追従しようとしたが、そもそも兵器に関わる話なのだ。
「今がそのときだがの」といわれるのも当然。
「ロボットを爆発させては、二度と触らせてもらえませんよ」
つないだ言葉には、そうだのうと一考してもらえたようだ。
ぶつくさと理論の組み立てでも行っているらしい間に、
「たいへんだー」というルリの声が聞こえた。
武の回復を受けながら、血まみれに見えるネイハムが運び込まれてきた。
負傷者が出るのだから、実験場に行くのはやめた方がいいという意見が次なる手だが。
「この赤い水がどういったものか具体的に分かっているのか」
その前に理論部分をロニが攻める。
実は博士は、鉱石がしみだしたためにこの色になったという仮説を立てていたりするのだが。仮説でしかない。
「よくわからないものを使っているのなら、実験場に送っても博士の知性と品格を疑われるだけ」
続けて攻め立て、「自分だけではなく、第三者にも明確にわかる理論を仕上げてこそ超一流」と自尊心をくすぐろうとした。
「先生、大衆を味方につけてこその発明でありましょう。何れかの部分での改善が必要だと思いますが……」とメリエも続くが。
「他者などどうでもよいの」とバッサリ切り捨てられた。
犠牲者ネイハムは、もっとも、赤い水を血糊に見立ててフリをしているだけである。
それがばれないよう、介抱を続けつつ説得に絡める。
「天才が不完全なまま事を成すいうのは危険なものだな博士。更なる改良が必要ではないかね」
「研究に犠牲はつきもの?
いえ、貴方の実力ならばそんなことはありません。犠牲なく成功する力がある筈ですよ」
これもどこまで響いているのか……。微妙な表情であったが。
「それに爆発させるのであれば、その爆発を制御されてはいかがでしょうか」
そう武がいった瞬間に眼の色が変わった。
「私の世界にエンジンと言うものがあり、爆発と収縮を繰り返しそれを機構に組み込むことで、様々な役に立たせることが出来ます」
「ほぅ」
「無論、制御された爆発が前提ですので、犠牲者が出るなんて論外ですけどね」
ふむふむと興味深げに考え始めたところを見ると、気をそらせたようだ。
ここぞとばかりに、説得の文言を叩き込む。
「博士でなければ、この世界では出来ないと思いますし、そちらに役立てていただけませんか?」
何か思いつきそうだという顔立ちへ、ヴィジェアが重ねる。
「今のが天啓になるのなら、そっちを完成させたほうがいいんじゃないかい?」
「これは、これは。なるほどのう」
何がなるほどなのかわからないが、
「実験場に行く時間が惜しくなったわ」との一言を引き出すことは出来た。
強く約束させ、周囲の片付けをさっさと済ます。
だが、帰り道のことを考えると早くも頭が痛くもなるのだった。
ナンカアル山に不気味な笑い声をする妖怪がいるという噂が流れたりするのだが、それはまた別のお話。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/29 17:41:34 |
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相談卓 ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/01 06:58:34 |