ゲスト
(ka0000)
彼女は言った。「ビールはお茶です」と。
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/28 09:00
- 完成日
- 2014/12/08 01:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
自称美少女新米受付嬢ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、同僚の仕事ぶりを眺めながら優雅に休憩中であった。
同僚というのは、書類の山を切り崩すイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)である。
同盟のハンターオフィスに務める彼女は、非常に有能な受付嬢兼事務員として知られていた。その外見が全くの無表情であることを除けば。
「やはりコンピューターは偉大ですね……書類はかさばって困ります」
などと呟きながら手作業で書類を整理し追記していく様は仕事の鬼と言って差し支えない。頬がぴくりとも動かないせいで、何を考えているのかもよく分からないのだが……。
ルミは八歳年上の同僚を眺めながらお菓子を口に運んだ。ちなみにお菓子とお茶もイルムが出した。
「イルムさん、なんだか燃えていますね」
「えっ」
モア・プリマグラッセ(kz0066)の言葉に、ルミは素っ頓狂な声を上げた。
「分かりますか?」
「分かるんですか!?」
二者様々に同音異句を放ち、モアはその両方に頷いて答えた。
「仮にも商人、相手の様子が分からないほど未熟ではありませんよ」
こわい。このモアという先輩も大概無表情である。もしかして世の無表情キャラはテレパシーで繋がっているんじゃ、とオカルトじみたことを考えながら、ルミは恐々とお菓子を口に運んだ。
「何か行事でもありますか。イルムさん好みの催し物といいますと……ファッションショーは終わりましたし……」
「えぇ、フマーレでお酒のパーティが催されるということで」
「あぁ……アレですか。参加なさるんですか」
モアは少々意外そうに尋ねた。言わずもがなバロテッリ商会も一枚噛んでいる。
「お恥ずかしながら、ええと、飲み比べがメインイベントと聞いたので……」
「優勝候補爆誕……!?」
ルミは参加者の肝臓を思うと涙が出る思いだった。イルムはザルというかワクである。真顔で言い放った「ワインはジュースですよ、子供でも飲めます」に始まる数々の迷言をルミは忘れていない。
と、そこまで考えてルミは一つ思い当たった。
「てか、お祭りなら村長祭のときにやるべきじゃ?」
ルミの問いかけに、モアがすらすら答える。彼女はこの手の経済的事情に敏い。
「入場料を払えば後はタダで飲める催事なので、お酒好きがこぞって集まります。どうしても治安が落ちますし、景観も悪いですから。村長祭と被らせないよう配慮されてるのです」
「へぇ……治安悪いって、大丈夫なんですか~?」
「犯罪が起きるほどではありませんよ」
喧嘩沙汰は頻発するのだが、それについてはモアは言わなかった。
「そうじゃなくて、痴漢とか。女性一人で行くようなお祭りじゃなさそうですけどぉ」
「その程度の自衛は出来ます。それに、ハンターの皆さんとも一緒に行きますから」
机の上を鬼気迫る速度で動き回る両手と、その完璧な無表情とは全く裏腹に、イルムは明るい声で答えた。
イルムは書類の山をすっと脇に退けて、そのスペースに別の書類を積み始める。
「あぁでも、ルミさん未成年ですし、連れていけないですね。モアさんは予定があるそうですし……」
「飲むよりは売る方が好みなので」
「そうですよね」
普段通り、無表情で書類と格闘を継続するイルム。
その横顔を暫く眺めた後、ルミは隣に立つモアの袖をちょいちょいと引っ張った。
「イルムさん、今どんな顔してるか分かります?」
モアはひとつ頷いて答えた。
「とても……しょんぼりしていますね」
そう言われてからルミはイルムの顔を見るが、全く見えない。冷徹な仕事の鬼が一人いるばかりに見えた。
「ちなみにモアさんは?」
「イルムさんと一緒にお酒は飲みたくないですね……」
イルムの手が一瞬止まった。
そういうことを聞きたかったわけじゃないのだが、流石のルミも、この時のイルムの心境はよく分かった。ちなみにルミも同意見だった。
●
さて当日。イルムは無表情でそわそわしながら、ビール片手に飲み比べ大会の開始を待っていた。そわそわしてるのは祭りの進行を手伝いたいのを我慢しているせいだ。
「ジェオルジの地酒は癖がなくて飲みやすいですね」
頬に朱すらささない。こわい。
周囲はラフな格好の傭兵や土木作業員やら、たまに女性の一団があったりと、中々混沌としている。つまみの露天や無料配布の地酒などがそこかしこで匂っていた。
積み上げられた樽の前で商魂たくましい商人たちが客を引き、どうやら酒場の主人らしい人々がそれを見聞きし品定めしている。
村長祭の温かな賑やかさとはまた違う、酒と男臭さの渦巻く大人の領域である。
ハンターたちも三々五々開始を待っている所で、ふと、遠方で悲鳴や怒声があがった。
「なんでしょうか……」
イルム含む数人が腰を浮かせたものの、特に怒声は先程から度々聞こえてくるので、またそういった類の暴動だろうとハンターたちは思った。
が、次いで逃げ出してきた人数の多さに全員が顔を見合わせた。
「――ゴブリンが! ゴブリンが貯蔵庫を!」
という言葉を聞く前に、ハンターたちは現場へと駆け出していた。
人垣をかき分けながら、逃げる一般人に逆走する形で駆けつけた彼らが見たものは、酒の貯蔵庫らしい施設目掛けて殺到する赤ら顔のゴブリンたちの群れだった。
応戦する傭兵たちにも引かず、果敢に突撃を繰り返している。
『酒奪え! 飲むぞ!』
『酒! 酒をよこせ!』
『飲み足りねぇ!』
悪質な飲兵衛ゴブリンの暴動である。見て分かるレベルで酔っ払っていた。
「酔っ払いの騒動……でやり過ごせる規模ではありませんね」
イルムはぽつりと呟いた。
ハンターの思惑は様々だが、とにかく、あれを放置するという選択肢がないことだけは確かだった。
「祭事の円滑な進行のため、私たちの飲むお酒のため……狼藉者を叩き出し、皆様のお酒を守らなければなりません」
イルムは仕事用の事務的な口調を作り、やや早口にそう述べた。
傭兵たちは押されている。彼らも特に戦う準備をしてきたわけではないし、覚醒者でもない。このままでは突破されるのも時間の問題だろう。
「ゴブリンを排除し、貯蔵庫を守りましょう」
ハンターたちが一様に頷くのを見て、イルムはふと口調を緩めた。
「報酬は然程に出ませんが……大会の優勝賞品でどうでしょう?」
その不敵な発言も、無表情でなければ様になったものを。
自称美少女新米受付嬢ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、同僚の仕事ぶりを眺めながら優雅に休憩中であった。
同僚というのは、書類の山を切り崩すイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)である。
同盟のハンターオフィスに務める彼女は、非常に有能な受付嬢兼事務員として知られていた。その外見が全くの無表情であることを除けば。
「やはりコンピューターは偉大ですね……書類はかさばって困ります」
などと呟きながら手作業で書類を整理し追記していく様は仕事の鬼と言って差し支えない。頬がぴくりとも動かないせいで、何を考えているのかもよく分からないのだが……。
ルミは八歳年上の同僚を眺めながらお菓子を口に運んだ。ちなみにお菓子とお茶もイルムが出した。
「イルムさん、なんだか燃えていますね」
「えっ」
モア・プリマグラッセ(kz0066)の言葉に、ルミは素っ頓狂な声を上げた。
「分かりますか?」
「分かるんですか!?」
二者様々に同音異句を放ち、モアはその両方に頷いて答えた。
「仮にも商人、相手の様子が分からないほど未熟ではありませんよ」
こわい。このモアという先輩も大概無表情である。もしかして世の無表情キャラはテレパシーで繋がっているんじゃ、とオカルトじみたことを考えながら、ルミは恐々とお菓子を口に運んだ。
「何か行事でもありますか。イルムさん好みの催し物といいますと……ファッションショーは終わりましたし……」
「えぇ、フマーレでお酒のパーティが催されるということで」
「あぁ……アレですか。参加なさるんですか」
モアは少々意外そうに尋ねた。言わずもがなバロテッリ商会も一枚噛んでいる。
「お恥ずかしながら、ええと、飲み比べがメインイベントと聞いたので……」
「優勝候補爆誕……!?」
ルミは参加者の肝臓を思うと涙が出る思いだった。イルムはザルというかワクである。真顔で言い放った「ワインはジュースですよ、子供でも飲めます」に始まる数々の迷言をルミは忘れていない。
と、そこまで考えてルミは一つ思い当たった。
「てか、お祭りなら村長祭のときにやるべきじゃ?」
ルミの問いかけに、モアがすらすら答える。彼女はこの手の経済的事情に敏い。
「入場料を払えば後はタダで飲める催事なので、お酒好きがこぞって集まります。どうしても治安が落ちますし、景観も悪いですから。村長祭と被らせないよう配慮されてるのです」
「へぇ……治安悪いって、大丈夫なんですか~?」
「犯罪が起きるほどではありませんよ」
喧嘩沙汰は頻発するのだが、それについてはモアは言わなかった。
「そうじゃなくて、痴漢とか。女性一人で行くようなお祭りじゃなさそうですけどぉ」
「その程度の自衛は出来ます。それに、ハンターの皆さんとも一緒に行きますから」
机の上を鬼気迫る速度で動き回る両手と、その完璧な無表情とは全く裏腹に、イルムは明るい声で答えた。
イルムは書類の山をすっと脇に退けて、そのスペースに別の書類を積み始める。
「あぁでも、ルミさん未成年ですし、連れていけないですね。モアさんは予定があるそうですし……」
「飲むよりは売る方が好みなので」
「そうですよね」
普段通り、無表情で書類と格闘を継続するイルム。
その横顔を暫く眺めた後、ルミは隣に立つモアの袖をちょいちょいと引っ張った。
「イルムさん、今どんな顔してるか分かります?」
モアはひとつ頷いて答えた。
「とても……しょんぼりしていますね」
そう言われてからルミはイルムの顔を見るが、全く見えない。冷徹な仕事の鬼が一人いるばかりに見えた。
「ちなみにモアさんは?」
「イルムさんと一緒にお酒は飲みたくないですね……」
イルムの手が一瞬止まった。
そういうことを聞きたかったわけじゃないのだが、流石のルミも、この時のイルムの心境はよく分かった。ちなみにルミも同意見だった。
●
さて当日。イルムは無表情でそわそわしながら、ビール片手に飲み比べ大会の開始を待っていた。そわそわしてるのは祭りの進行を手伝いたいのを我慢しているせいだ。
「ジェオルジの地酒は癖がなくて飲みやすいですね」
頬に朱すらささない。こわい。
周囲はラフな格好の傭兵や土木作業員やら、たまに女性の一団があったりと、中々混沌としている。つまみの露天や無料配布の地酒などがそこかしこで匂っていた。
積み上げられた樽の前で商魂たくましい商人たちが客を引き、どうやら酒場の主人らしい人々がそれを見聞きし品定めしている。
村長祭の温かな賑やかさとはまた違う、酒と男臭さの渦巻く大人の領域である。
ハンターたちも三々五々開始を待っている所で、ふと、遠方で悲鳴や怒声があがった。
「なんでしょうか……」
イルム含む数人が腰を浮かせたものの、特に怒声は先程から度々聞こえてくるので、またそういった類の暴動だろうとハンターたちは思った。
が、次いで逃げ出してきた人数の多さに全員が顔を見合わせた。
「――ゴブリンが! ゴブリンが貯蔵庫を!」
という言葉を聞く前に、ハンターたちは現場へと駆け出していた。
人垣をかき分けながら、逃げる一般人に逆走する形で駆けつけた彼らが見たものは、酒の貯蔵庫らしい施設目掛けて殺到する赤ら顔のゴブリンたちの群れだった。
応戦する傭兵たちにも引かず、果敢に突撃を繰り返している。
『酒奪え! 飲むぞ!』
『酒! 酒をよこせ!』
『飲み足りねぇ!』
悪質な飲兵衛ゴブリンの暴動である。見て分かるレベルで酔っ払っていた。
「酔っ払いの騒動……でやり過ごせる規模ではありませんね」
イルムはぽつりと呟いた。
ハンターの思惑は様々だが、とにかく、あれを放置するという選択肢がないことだけは確かだった。
「祭事の円滑な進行のため、私たちの飲むお酒のため……狼藉者を叩き出し、皆様のお酒を守らなければなりません」
イルムは仕事用の事務的な口調を作り、やや早口にそう述べた。
傭兵たちは押されている。彼らも特に戦う準備をしてきたわけではないし、覚醒者でもない。このままでは突破されるのも時間の問題だろう。
「ゴブリンを排除し、貯蔵庫を守りましょう」
ハンターたちが一様に頷くのを見て、イルムはふと口調を緩めた。
「報酬は然程に出ませんが……大会の優勝賞品でどうでしょう?」
その不敵な発言も、無表情でなければ様になったものを。
リプレイ本文
●
「それは困る。優勝賞品は私が貰う予定だからな」
イルムの言葉に、ジーナ(ka1643)は真顔で言い返した。
「どちらが勝つかは、後で決着をつけるとしましょう。今は……」
「もちろん。祭りが中止になっては意味が無い」
ジーナはレイピアを抜いた。
「人騒がせなゴブリン君達だ、彼らも酒を嗜むんだね」
星見 香澄(ka0866)は機械の剣を担いだ。
「行儀よく飲むなら酌み交わしてもいいが、そうもいかないようだ……イルムさん、人払いを頼めるかな」
鈴胆 奈月(ka2802)も頷く。
「今の状況だと、他の人がいればいるだけ戦いにくくなる気がするかもな」
「傭兵方もですね。了解しました」
「何、護衛と言っても、そちらにゴブリンは行かせないさ」
香澄は素早くその場を離れるイルムに声をかけた。
それを見送って、デルフィーノ(ka1548)は肩を回す。
「折角のオイシイ会場にゴブリン共め……俺様が成敗してくれる」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)も大太刀を手に吠える。
「てめぇらは……手を出しちゃいけねぇもんを目標にしちまったんだよぉ!」
そこにある酒は皆のもの――そしてこれから自分たちが飲み干すものだ。易々と奪わせる訳にはいかない。
ハンターの戦意は高かった。それはもう異常に。
「これ以上中に入って荒らされるのは……お酒を持って行かれるのは、捨て置けないからね。特にビールとかビールとかビールとか!!」
鈴木悠司(ka0176)もバスタードソードを手に構えを取る。
「折角のお祭りで流血沙汰ではお祭りも台無しです。迅速に対処しましょう」
セレス・カルム・プルウィア(ka3145)も頷きながら、そう語った。
「行こうか。上手い酒のために」
扼城(ka2836)はそう呟き、剣を手に駆け出す。
●
八人を二班に分けて対応することになった。
貯蔵庫の入口を守るチームと、前に出て数を減らすチームだ。
血気盛んなエヴァンス、デルフィーノは当然前である。
「酒のためなら何でもするぜっ!」
デルフィーノの機導剣がゴブリンの胸を貫く。
「消えろゴブリン共、てめぇに呑ませる酒は一滴たりともねぇ!」
エヴァンスも大太刀を振るってゴブリンの足を切り裂いた。ゴブリンは精一杯の反撃を繰り出すが、それは惜しくも鎧に阻まれる。
「その程度じゃあなぁ!」
前傾姿勢を取るエヴァンスの横で、扼城は釘バットにワインをぶちまけると、見せびらかすようにかざした。
酒の匂いに釣られて、ゴブリンたちの動きが変わる。
「釣れ過ぎだな……そら!」
バットがゴブリンの頭を叩き割った。
「やはり、酒で判断力が鈍っているか?」
「愚かだ。だが、都合がいい」
バットを振り払い、血の上からワインをかけ直す扼城。
「もったいねえ、もったいねえが……くれてやる!」
エヴァンスも、涙を呑んで酒瓶をぶん投げる。ゴブリンの幾らかが、それに釣られて走っていった。
「酒ならここにもあるぞ」
飛びかかるようにしてジーナのシードルに手を伸ばしたゴブリンの頭蓋を、勢い良く突き出されたレイピアが貫く。
「指一本触れさせる気はないがな」
振り払われたレイピアからゴブリンが抜け落ち、大地に転がる。
しかしゴブリンたちは同胞の死よりも、目の前の酒に夢中だ。
「相当酔ってやがるようだな……」
デルフィーノはそれを見て一歩踏み込む。多少酔っ払っている相手なら命中率も悪かろうという判断だ。
「それなら、こいつでどうだ!」
彼の手元で鞭がしなると、先頭を走っていたゴブリンの足を絡めとった。そのまま引っ転がす。
玉突き状に三体ほどが転がって、だるまを作った。
「今だ!」
「任せろ」
「ナイスだ、デルフィーノ!」
すかさず踏み込んだ扼城とエヴァンス。扼城の合体剣がゴブリンの胴を切り上げ、エヴァンスの渾身の一撃が首をはねた。
「まずいな」
だが、それを盾にすり抜けるようにして、多くのゴブリン達は貯蔵庫を目指して走り出す。
「止めきれないか……だが」
銃声が轟き、太腿を撃ち抜かれたゴブリンがすっ転んだ。
ジーナは抜き打ったリボルバーを下ろす。銃火器は己の流儀に反するが、そうも言っていられない。
「そう何人も行かせるかっての」
デルフィーノの放った電撃が他にもう一体を拘束するが、大部分は貯蔵庫へとなだれ込んでいく。
「どうする」
「先にこっちを始末した方がいいだろうよ」
扼城の問いにエヴァンスが答え、颯爽と大太刀を担ぎ直す。その意見にジーナも同意した。
「後ろは任せよう。ここで下手に後逸を許して、さらに裏に回られる事は避けたい」
「そういうこった。増援に行くのはこっちの数が減ったらだっ!」
前傾姿勢から力強い踏み込み。エヴァンスが次のゴブリンへと躍りかかるのに合わせて、四人は食い止めた残りへと殴りかかった。
●
「はぁ……、色々と酷いな……」
奈月は呟いて、LEDライトを手の内でくるりと回した。
酒に狂ったゴブリンたちが雪崩を打って突撃を仕掛けてくる。
「さて、飛び道具使うセレスさんは射線に気をつけてね。後ろへ酒や人がいないか十分注意するんだ」
「もちろん。流れ弾など出しません」
香澄の言葉にセレスは頷き、ワンドを構えた。
「来るね……」
悠司はゆっくりと前に出て構えをとった。
遅れて、ゴブリンが飛び出した。
「では、まずは私から」
セレスの放った風の刃が敵集団の先頭の相手に着弾する。腹部を抑えて唸るゴブリンに何体かの足が取られたようだ。まずまずの結果にセレスは頷く。
「はっ!」
悠司は、行動阻害を兼ねてバスタードソードを横薙ぎに振るう。狙いはゴブリンの足だ。自分と貯蔵庫の間に敵が立つことがないように、彼は注意して立ちまわった。
別のゴブリンに対しては、香澄が立ち塞がる。突破を試みる連中めがけて香澄は容赦なく電撃を浴びせかけると、痙攣するゴブリンの頭を機導剣でぶち抜いた。
「あの世ででも酒を飲み給え」
奈月は、遠目に扼城たちの様子を見た。酒で敵を釣る作戦は上手く言ったらしい。
「そら、君たちがほしいのはこれか?」
奈月は大仰に持参したウィスキーを見せびらかす。それにゴブリンたちの目が釣られている一瞬の隙を突き、機導剣で一匹の喉笛を貫いた。
「迷惑なお客様はご退場だ」
優勢だが、ゴブリンもただやられっぱなしというわけではない。
前に出た悠司を、ゴブリンたちが殴りつける。そのほとんどは彼の剣に阻まれていたが、幾らかは彼へ抜けていた。
「うわっ」
「おっと」
だが、その一撃の威力の大部分を奈月の防御障壁が受け止めた。
「ごめん、助かったよ」
「気にしないで。っと……!」
今度は奈月へ攻撃が飛ぶ。防御障壁越しにダメージを貰う奈月。
「いたた、やっちゃったよ」
香澄も、ゴブリンの攻撃を防御障壁を合わせて受け止めている。
「ひとまずこれをしのげば……」
ゴブリンラッシュをどうにか防ぎきった四人は、また反撃を開始する。
電撃で敵が転び、大剣で足を傷つけ、機導剣で敵を貫き、風の刃で切り裂く。地味ながらも着実に数を減らしていく、その途中で。
「待たせたな!」
先行班が戻ってきた。
「貯蔵庫は無事だよ!」
「そいつぁ僥倖、あとはこれで終わりだな……!」
八人揃って挟撃の形だ。ゴブリン程度、物の数ではない。
残るゴブリンも瞬く間に殲滅され、依頼は達成された。
●
「先ずはビール! 何はともあれビール!」
悠司は高級なビールに口をつけて、滑らかな泡に舌鼓を打った。
「くぅー……美味しい」
奈月もせっかくの機会を生かして、様々な種類の酒に手を伸ばしている。転移者の彼はクリムゾンウェストの酒の種類に興味津々だった。
その隣では、香澄もハイペースにぐびぐびと酒を煽っている。
「結構飲むね。大会、出なくて良かったの?」
という奈月の問いかけに、香澄は首を横に振った。
「負ける気はしないが……酒は争って飲むよりも、楽しんで飲みたいからね」
「なるほど」
「というか、観ながら飲む方が美味しそうだしね」
悠司の言葉に、香澄は苦笑した。
「否定はしないが……」
ちらりとステージ上を見ると、そこには壮絶な光景が広がっていた。
「っしゃあ、飲みまくるぜ!」
ビールや芋酒をがんがん飲み干していくエヴァンス。
「私にとって酒は大事な楽しみだが、同時に水と大差ない」
「酒は水みてーなモンだし、片っ端から飲みまくるぜ」
ジーナとデルフィーノは似たようなことを口走った。ジーナは普段セーブしている大酒飲みの本性を遺憾なく発揮し、デルフィーノも鉄の肝臓と嘯きながらジョッキを傾ける。
「飲む量で勝ったとしても、何より、酒を味わい楽しむ事が、俺にとっては価値のある時間だと思うのだ」
「そうですね。私も、普段はあまり量を求めはしません。周りに合わせるのも楽しみですから」
と語りながらも相当量をすでに飲み干している扼城と、それに相槌を打つイルム。
「ですが、この場でしたら我慢する必要もありませんよね。我慢と言えば、悪酔いした時には酸っぱいものが効くと読んだのですが……」
喋り上戸のセレスは、酒を傾けながらも普段溜め込んだ知識をどんどん吐き出す。
周囲では一般客たちが目を回す中、総勢六名の化け物たちが、まだ前座すら終わっていないかのような心持ちで酒を傾けていた。
「これは……他の参加者様はお気の毒に、だな」
遠巻きにそれを眺めて、奈月は呟いた。恐らくこのままでは機を逸することを察して、彼はイルムに近寄った。
「や、イルムさん」
「奈月さん、どうかしましたか? あ、飲みますか? ジェオルジの地ビールですよ。飲みやすくてお勧めです」
「本当? じゃあ一口……じゃなくて」
早く本題に入らないと酒に飲まれるような気がして、奈月は少々強引に話題を修正した。
「この前の依頼、事後報告ありがとう。上手く行ったようで安心したよ」
イルムは小さく一礼した。
「仕事をしたまでですから」
という一幕に食いついたのはセレスだった。
「依頼というのは、どのような?」
「ええと……そうですね、商家のご令嬢と銀細工職人の、身分違いの恋に始まるお話です」
と、イルムはことのあらましを語りながらも、合間合間に手元の酒を空にしていく。無表情に大ジョッキを空にする姿はいっそシュールなものがあった。
「それにしても……イルムは良く飲むねぇ。こっちが見惚れる位ぇの飲みっぷり」
デルフィーノの賞賛に、イルムは声色だけは面映そうに口にした。
「デルフィーノさんも相当イケる口ではありませんか」
「当然。お前らにゃ負けねーからな」
とシニカルに笑う彼の横で、ジーナが不適に微笑んだ。
「悪いが、誰であろうと負けるつもりはない」
そして、彼女の目の前に酒樽が置かれた。
「ロマンだよな。いいね、負けてらんねぇ」
「待てよ、お前らだけに面白そうなことはさせねぇぜ?」
デルフィーノもにやりと笑って同じものを注文すると、エヴァンスもそれに乗っかった。そして、三人がイルムを見る。
「……こうも期待されてしまっては、しょうがありませんね」
などと言うイルムの口元は明らかに緩んでいた。
マイペースに飲む扼城とセレスはやらなかったが、四人の目の前に葡萄酒入り樽が設置される。それを見て、香澄はくつくつと笑った。
「主催者側の顔が青いな」
と呟く彼女に、一人の職人が声をかけた。
「ん、リアルブルーの酒を知りたい?」
「はい」
どうやら一度日本酒を口にしたことがあるようで、彼はそれが忘れられないのだとか。
「ボクはこっちが長いからね、ただ清酒という米で作った酒は美味しいとだけ」
「米で……」
香澄のアドバイスに何か得心が言ったらしく、職人は礼を言って、高級酒を奢ると去っていった。
「随分手が止まってるじゃねぇか、イルムぅ!」
「会話も楽しむのがお酒ですからね。お酒は逃げませんから。……あ、すみません、このおつまみもう一つお願いします」
「エヴァンスも顔が赤くなっているぞ」
「うるせぇ扼城、お前も飲め!」
「っぷはぁ! どうだジーノ、樽一気飲みしてやったぜ!」
「ふん、その程度で誇られては困るな、デルフィーノ」
「イルムさんは恋などはしないのですか?」
「あまり殿方に好かれる性格ではありませんからね……。そういうセレスさんはどうなんでしょう?」
「と流暢に喋りながら樽二つ目開けるイルム、流石だぜ!」
「エヴァンスさんもどうです? ここの地ビール、故郷を思い出して好きなんですよ」
遠巻きに眺めながら、悠司と奈月は地ビールを口にした。
「混沌としてるな。混ざらなくてよかった」
「……あ、なんか主催者さんが震えてるよ。何だろう、在庫が危ういとか?」
その言葉に、香澄は肩を竦めた。
「ボクらの分まで飲まれたらたまらないね」
――このすぐ後、主催者の手によって在庫切れが宣言された。勝敗を決することが出来なくなったので、報酬は分配だそうだ。
酒飲み連中はどこかやり遂げたような顔で、清々しく酒を飲み続ける。
もちろん、一般客用の酒や高額な販売酒を買い漁り、延長戦が開かれたのは言うまでもない。
「それは困る。優勝賞品は私が貰う予定だからな」
イルムの言葉に、ジーナ(ka1643)は真顔で言い返した。
「どちらが勝つかは、後で決着をつけるとしましょう。今は……」
「もちろん。祭りが中止になっては意味が無い」
ジーナはレイピアを抜いた。
「人騒がせなゴブリン君達だ、彼らも酒を嗜むんだね」
星見 香澄(ka0866)は機械の剣を担いだ。
「行儀よく飲むなら酌み交わしてもいいが、そうもいかないようだ……イルムさん、人払いを頼めるかな」
鈴胆 奈月(ka2802)も頷く。
「今の状況だと、他の人がいればいるだけ戦いにくくなる気がするかもな」
「傭兵方もですね。了解しました」
「何、護衛と言っても、そちらにゴブリンは行かせないさ」
香澄は素早くその場を離れるイルムに声をかけた。
それを見送って、デルフィーノ(ka1548)は肩を回す。
「折角のオイシイ会場にゴブリン共め……俺様が成敗してくれる」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)も大太刀を手に吠える。
「てめぇらは……手を出しちゃいけねぇもんを目標にしちまったんだよぉ!」
そこにある酒は皆のもの――そしてこれから自分たちが飲み干すものだ。易々と奪わせる訳にはいかない。
ハンターの戦意は高かった。それはもう異常に。
「これ以上中に入って荒らされるのは……お酒を持って行かれるのは、捨て置けないからね。特にビールとかビールとかビールとか!!」
鈴木悠司(ka0176)もバスタードソードを手に構えを取る。
「折角のお祭りで流血沙汰ではお祭りも台無しです。迅速に対処しましょう」
セレス・カルム・プルウィア(ka3145)も頷きながら、そう語った。
「行こうか。上手い酒のために」
扼城(ka2836)はそう呟き、剣を手に駆け出す。
●
八人を二班に分けて対応することになった。
貯蔵庫の入口を守るチームと、前に出て数を減らすチームだ。
血気盛んなエヴァンス、デルフィーノは当然前である。
「酒のためなら何でもするぜっ!」
デルフィーノの機導剣がゴブリンの胸を貫く。
「消えろゴブリン共、てめぇに呑ませる酒は一滴たりともねぇ!」
エヴァンスも大太刀を振るってゴブリンの足を切り裂いた。ゴブリンは精一杯の反撃を繰り出すが、それは惜しくも鎧に阻まれる。
「その程度じゃあなぁ!」
前傾姿勢を取るエヴァンスの横で、扼城は釘バットにワインをぶちまけると、見せびらかすようにかざした。
酒の匂いに釣られて、ゴブリンたちの動きが変わる。
「釣れ過ぎだな……そら!」
バットがゴブリンの頭を叩き割った。
「やはり、酒で判断力が鈍っているか?」
「愚かだ。だが、都合がいい」
バットを振り払い、血の上からワインをかけ直す扼城。
「もったいねえ、もったいねえが……くれてやる!」
エヴァンスも、涙を呑んで酒瓶をぶん投げる。ゴブリンの幾らかが、それに釣られて走っていった。
「酒ならここにもあるぞ」
飛びかかるようにしてジーナのシードルに手を伸ばしたゴブリンの頭蓋を、勢い良く突き出されたレイピアが貫く。
「指一本触れさせる気はないがな」
振り払われたレイピアからゴブリンが抜け落ち、大地に転がる。
しかしゴブリンたちは同胞の死よりも、目の前の酒に夢中だ。
「相当酔ってやがるようだな……」
デルフィーノはそれを見て一歩踏み込む。多少酔っ払っている相手なら命中率も悪かろうという判断だ。
「それなら、こいつでどうだ!」
彼の手元で鞭がしなると、先頭を走っていたゴブリンの足を絡めとった。そのまま引っ転がす。
玉突き状に三体ほどが転がって、だるまを作った。
「今だ!」
「任せろ」
「ナイスだ、デルフィーノ!」
すかさず踏み込んだ扼城とエヴァンス。扼城の合体剣がゴブリンの胴を切り上げ、エヴァンスの渾身の一撃が首をはねた。
「まずいな」
だが、それを盾にすり抜けるようにして、多くのゴブリン達は貯蔵庫を目指して走り出す。
「止めきれないか……だが」
銃声が轟き、太腿を撃ち抜かれたゴブリンがすっ転んだ。
ジーナは抜き打ったリボルバーを下ろす。銃火器は己の流儀に反するが、そうも言っていられない。
「そう何人も行かせるかっての」
デルフィーノの放った電撃が他にもう一体を拘束するが、大部分は貯蔵庫へとなだれ込んでいく。
「どうする」
「先にこっちを始末した方がいいだろうよ」
扼城の問いにエヴァンスが答え、颯爽と大太刀を担ぎ直す。その意見にジーナも同意した。
「後ろは任せよう。ここで下手に後逸を許して、さらに裏に回られる事は避けたい」
「そういうこった。増援に行くのはこっちの数が減ったらだっ!」
前傾姿勢から力強い踏み込み。エヴァンスが次のゴブリンへと躍りかかるのに合わせて、四人は食い止めた残りへと殴りかかった。
●
「はぁ……、色々と酷いな……」
奈月は呟いて、LEDライトを手の内でくるりと回した。
酒に狂ったゴブリンたちが雪崩を打って突撃を仕掛けてくる。
「さて、飛び道具使うセレスさんは射線に気をつけてね。後ろへ酒や人がいないか十分注意するんだ」
「もちろん。流れ弾など出しません」
香澄の言葉にセレスは頷き、ワンドを構えた。
「来るね……」
悠司はゆっくりと前に出て構えをとった。
遅れて、ゴブリンが飛び出した。
「では、まずは私から」
セレスの放った風の刃が敵集団の先頭の相手に着弾する。腹部を抑えて唸るゴブリンに何体かの足が取られたようだ。まずまずの結果にセレスは頷く。
「はっ!」
悠司は、行動阻害を兼ねてバスタードソードを横薙ぎに振るう。狙いはゴブリンの足だ。自分と貯蔵庫の間に敵が立つことがないように、彼は注意して立ちまわった。
別のゴブリンに対しては、香澄が立ち塞がる。突破を試みる連中めがけて香澄は容赦なく電撃を浴びせかけると、痙攣するゴブリンの頭を機導剣でぶち抜いた。
「あの世ででも酒を飲み給え」
奈月は、遠目に扼城たちの様子を見た。酒で敵を釣る作戦は上手く言ったらしい。
「そら、君たちがほしいのはこれか?」
奈月は大仰に持参したウィスキーを見せびらかす。それにゴブリンたちの目が釣られている一瞬の隙を突き、機導剣で一匹の喉笛を貫いた。
「迷惑なお客様はご退場だ」
優勢だが、ゴブリンもただやられっぱなしというわけではない。
前に出た悠司を、ゴブリンたちが殴りつける。そのほとんどは彼の剣に阻まれていたが、幾らかは彼へ抜けていた。
「うわっ」
「おっと」
だが、その一撃の威力の大部分を奈月の防御障壁が受け止めた。
「ごめん、助かったよ」
「気にしないで。っと……!」
今度は奈月へ攻撃が飛ぶ。防御障壁越しにダメージを貰う奈月。
「いたた、やっちゃったよ」
香澄も、ゴブリンの攻撃を防御障壁を合わせて受け止めている。
「ひとまずこれをしのげば……」
ゴブリンラッシュをどうにか防ぎきった四人は、また反撃を開始する。
電撃で敵が転び、大剣で足を傷つけ、機導剣で敵を貫き、風の刃で切り裂く。地味ながらも着実に数を減らしていく、その途中で。
「待たせたな!」
先行班が戻ってきた。
「貯蔵庫は無事だよ!」
「そいつぁ僥倖、あとはこれで終わりだな……!」
八人揃って挟撃の形だ。ゴブリン程度、物の数ではない。
残るゴブリンも瞬く間に殲滅され、依頼は達成された。
●
「先ずはビール! 何はともあれビール!」
悠司は高級なビールに口をつけて、滑らかな泡に舌鼓を打った。
「くぅー……美味しい」
奈月もせっかくの機会を生かして、様々な種類の酒に手を伸ばしている。転移者の彼はクリムゾンウェストの酒の種類に興味津々だった。
その隣では、香澄もハイペースにぐびぐびと酒を煽っている。
「結構飲むね。大会、出なくて良かったの?」
という奈月の問いかけに、香澄は首を横に振った。
「負ける気はしないが……酒は争って飲むよりも、楽しんで飲みたいからね」
「なるほど」
「というか、観ながら飲む方が美味しそうだしね」
悠司の言葉に、香澄は苦笑した。
「否定はしないが……」
ちらりとステージ上を見ると、そこには壮絶な光景が広がっていた。
「っしゃあ、飲みまくるぜ!」
ビールや芋酒をがんがん飲み干していくエヴァンス。
「私にとって酒は大事な楽しみだが、同時に水と大差ない」
「酒は水みてーなモンだし、片っ端から飲みまくるぜ」
ジーナとデルフィーノは似たようなことを口走った。ジーナは普段セーブしている大酒飲みの本性を遺憾なく発揮し、デルフィーノも鉄の肝臓と嘯きながらジョッキを傾ける。
「飲む量で勝ったとしても、何より、酒を味わい楽しむ事が、俺にとっては価値のある時間だと思うのだ」
「そうですね。私も、普段はあまり量を求めはしません。周りに合わせるのも楽しみですから」
と語りながらも相当量をすでに飲み干している扼城と、それに相槌を打つイルム。
「ですが、この場でしたら我慢する必要もありませんよね。我慢と言えば、悪酔いした時には酸っぱいものが効くと読んだのですが……」
喋り上戸のセレスは、酒を傾けながらも普段溜め込んだ知識をどんどん吐き出す。
周囲では一般客たちが目を回す中、総勢六名の化け物たちが、まだ前座すら終わっていないかのような心持ちで酒を傾けていた。
「これは……他の参加者様はお気の毒に、だな」
遠巻きにそれを眺めて、奈月は呟いた。恐らくこのままでは機を逸することを察して、彼はイルムに近寄った。
「や、イルムさん」
「奈月さん、どうかしましたか? あ、飲みますか? ジェオルジの地ビールですよ。飲みやすくてお勧めです」
「本当? じゃあ一口……じゃなくて」
早く本題に入らないと酒に飲まれるような気がして、奈月は少々強引に話題を修正した。
「この前の依頼、事後報告ありがとう。上手く行ったようで安心したよ」
イルムは小さく一礼した。
「仕事をしたまでですから」
という一幕に食いついたのはセレスだった。
「依頼というのは、どのような?」
「ええと……そうですね、商家のご令嬢と銀細工職人の、身分違いの恋に始まるお話です」
と、イルムはことのあらましを語りながらも、合間合間に手元の酒を空にしていく。無表情に大ジョッキを空にする姿はいっそシュールなものがあった。
「それにしても……イルムは良く飲むねぇ。こっちが見惚れる位ぇの飲みっぷり」
デルフィーノの賞賛に、イルムは声色だけは面映そうに口にした。
「デルフィーノさんも相当イケる口ではありませんか」
「当然。お前らにゃ負けねーからな」
とシニカルに笑う彼の横で、ジーナが不適に微笑んだ。
「悪いが、誰であろうと負けるつもりはない」
そして、彼女の目の前に酒樽が置かれた。
「ロマンだよな。いいね、負けてらんねぇ」
「待てよ、お前らだけに面白そうなことはさせねぇぜ?」
デルフィーノもにやりと笑って同じものを注文すると、エヴァンスもそれに乗っかった。そして、三人がイルムを見る。
「……こうも期待されてしまっては、しょうがありませんね」
などと言うイルムの口元は明らかに緩んでいた。
マイペースに飲む扼城とセレスはやらなかったが、四人の目の前に葡萄酒入り樽が設置される。それを見て、香澄はくつくつと笑った。
「主催者側の顔が青いな」
と呟く彼女に、一人の職人が声をかけた。
「ん、リアルブルーの酒を知りたい?」
「はい」
どうやら一度日本酒を口にしたことがあるようで、彼はそれが忘れられないのだとか。
「ボクはこっちが長いからね、ただ清酒という米で作った酒は美味しいとだけ」
「米で……」
香澄のアドバイスに何か得心が言ったらしく、職人は礼を言って、高級酒を奢ると去っていった。
「随分手が止まってるじゃねぇか、イルムぅ!」
「会話も楽しむのがお酒ですからね。お酒は逃げませんから。……あ、すみません、このおつまみもう一つお願いします」
「エヴァンスも顔が赤くなっているぞ」
「うるせぇ扼城、お前も飲め!」
「っぷはぁ! どうだジーノ、樽一気飲みしてやったぜ!」
「ふん、その程度で誇られては困るな、デルフィーノ」
「イルムさんは恋などはしないのですか?」
「あまり殿方に好かれる性格ではありませんからね……。そういうセレスさんはどうなんでしょう?」
「と流暢に喋りながら樽二つ目開けるイルム、流石だぜ!」
「エヴァンスさんもどうです? ここの地ビール、故郷を思い出して好きなんですよ」
遠巻きに眺めながら、悠司と奈月は地ビールを口にした。
「混沌としてるな。混ざらなくてよかった」
「……あ、なんか主催者さんが震えてるよ。何だろう、在庫が危ういとか?」
その言葉に、香澄は肩を竦めた。
「ボクらの分まで飲まれたらたまらないね」
――このすぐ後、主催者の手によって在庫切れが宣言された。勝敗を決することが出来なくなったので、報酬は分配だそうだ。
酒飲み連中はどこかやり遂げたような顔で、清々しく酒を飲み続ける。
もちろん、一般客用の酒や高額な販売酒を買い漁り、延長戦が開かれたのは言うまでもない。
依頼結果
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作戦を立てて酒を死守せよ! エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/11/28 09:01:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/23 23:54:37 |