ゲスト
(ka0000)
【CF】集え、正義のサンタレンジャー!
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/17 12:00
- 完成日
- 2017/12/26 19:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今年も聖輝祭の季節がやって来た。という事はあの厄介者達も出現する季節である。
「去年はいいように言いくるめられたが、今年こそは」
「見せつけなくともいいものを見せつけてくる奴らこそ悪だ!」
何処からともなく集まって群れを成し、巷に迷惑を撒き散らす。
彼らは言わずと知れた自由の鐘。彼等の嫌がらせは聖輝祭の日まで続くのが通例だ。
「今年は早々と飾り付けが始まっているようだぞ!」
俺は見たと一人の男が言う。
「リゼリオの本通りにツリー用の木の搬入が始まっていたわよ」
そう言うのは別の仲間の女。年齢層は様々であるが、彼らの目指すものはただ一つ。
打倒、聖輝祭――人の妬みとは恐ろしいもので去年注意されたとてそれでへこたれる彼等ではない。
何処から仕入れてくるのか、逸早く聖輝祭の情報をゲットし、共有するとすぐさま次の一手を考える。
「いいか。今年こそは我らが大義を全うし成功させてみせようぞ!」
古株らしい白髭の、衣装を着ればサンタクースになれそうな老紳士がワインの入ったグラスを掲げる。
それは彼らが用意したものだった。この組織に所属する者の中には金持ちも多く、不思議と資金は尽きないらしい。
「では、ブラックサンタ計画始動じゃ」
『おーーっ』
老紳士の声に合わせて皆が声を上げる。
そうして、ブラックサンタと言う名の一部の自由の鐘のメンバーが闇に紛れて作戦を開始する。
「ギャー―――! ちょっと、何アレー!?」
「マジ臭いんですけど―」
とある広場に用意されたツリーには一夜のうちにくさやが飾り付けられ、周囲一帯に異臭を撒き散らす。
それを歓迎するのは一部の鳥と野良猫だけであり、周辺の飲食店は店を閉めざる負えない。
一方ではこれまた難儀な悪戯発生。壁に張られた巨大な貼紙…普通のものならよいのだが、そのイラストが際どい衣装のミニスカサンタだったり、はたまたサンタ伝説のそれからは大きく外れて極悪サンタのおどろおどろしいものであったりするから頂けない。買い物に出た親子が慌てて引き返す事態となり、教育上よくないと撤去しようとするのだが二階建ての家にラッピングする様に張られたそれは吸着力も高く、そう簡単にはがせない。
その他にも、道端にプレゼントボックスがばら撒かれ、ブラックサンタの設置したものとは知らず開いた子供がその吃驚箱に驚き怪我をしたり、外に留めていた自転車や馬車がリボンによりぐるぐる巻きにされすぐ使えなくなり仕事の移動に支障をきたすなどの事件まで発生しているという。
「あぁ、もう。今年は更に質が悪いな」
一見すれば聖輝祭を盛り上げようとしている行為にも見える為、例年の様に取り締まるのは難しい。
わざわざサンタの衣装を来て事に及んでいるから、もし子供達が連行している場面を目撃しようものならサンタ伝説自体の印象を悪くしかねないからだ。ただ、唯一の救いはあった。それは自由の鐘の連中のサンタ衣装は全て黒なのだ。つまり大人が見れば、相手が自由の鐘か否かの判断はつく。
「まぁ、相手も仲間か否か判らなかったら困るから色を変えたんだろうが…」
それが命取り。だが、そんな事にも気付かず、彼らは今好き放題暴れ回っている。
「そっちがその気ならこっちも手段は選ばないさ」
自由の鐘鎮圧の為、毎年知恵を絞っているハンターオフィスの一人がにやりと笑う。
「そっちがサンタならこっちもサンタで行くまで」
そうして係の者は筆を走らせて、完成した依頼書に『サンタレンジャー』の文字があった。
「去年はいいように言いくるめられたが、今年こそは」
「見せつけなくともいいものを見せつけてくる奴らこそ悪だ!」
何処からともなく集まって群れを成し、巷に迷惑を撒き散らす。
彼らは言わずと知れた自由の鐘。彼等の嫌がらせは聖輝祭の日まで続くのが通例だ。
「今年は早々と飾り付けが始まっているようだぞ!」
俺は見たと一人の男が言う。
「リゼリオの本通りにツリー用の木の搬入が始まっていたわよ」
そう言うのは別の仲間の女。年齢層は様々であるが、彼らの目指すものはただ一つ。
打倒、聖輝祭――人の妬みとは恐ろしいもので去年注意されたとてそれでへこたれる彼等ではない。
何処から仕入れてくるのか、逸早く聖輝祭の情報をゲットし、共有するとすぐさま次の一手を考える。
「いいか。今年こそは我らが大義を全うし成功させてみせようぞ!」
古株らしい白髭の、衣装を着ればサンタクースになれそうな老紳士がワインの入ったグラスを掲げる。
それは彼らが用意したものだった。この組織に所属する者の中には金持ちも多く、不思議と資金は尽きないらしい。
「では、ブラックサンタ計画始動じゃ」
『おーーっ』
老紳士の声に合わせて皆が声を上げる。
そうして、ブラックサンタと言う名の一部の自由の鐘のメンバーが闇に紛れて作戦を開始する。
「ギャー―――! ちょっと、何アレー!?」
「マジ臭いんですけど―」
とある広場に用意されたツリーには一夜のうちにくさやが飾り付けられ、周囲一帯に異臭を撒き散らす。
それを歓迎するのは一部の鳥と野良猫だけであり、周辺の飲食店は店を閉めざる負えない。
一方ではこれまた難儀な悪戯発生。壁に張られた巨大な貼紙…普通のものならよいのだが、そのイラストが際どい衣装のミニスカサンタだったり、はたまたサンタ伝説のそれからは大きく外れて極悪サンタのおどろおどろしいものであったりするから頂けない。買い物に出た親子が慌てて引き返す事態となり、教育上よくないと撤去しようとするのだが二階建ての家にラッピングする様に張られたそれは吸着力も高く、そう簡単にはがせない。
その他にも、道端にプレゼントボックスがばら撒かれ、ブラックサンタの設置したものとは知らず開いた子供がその吃驚箱に驚き怪我をしたり、外に留めていた自転車や馬車がリボンによりぐるぐる巻きにされすぐ使えなくなり仕事の移動に支障をきたすなどの事件まで発生しているという。
「あぁ、もう。今年は更に質が悪いな」
一見すれば聖輝祭を盛り上げようとしている行為にも見える為、例年の様に取り締まるのは難しい。
わざわざサンタの衣装を来て事に及んでいるから、もし子供達が連行している場面を目撃しようものならサンタ伝説自体の印象を悪くしかねないからだ。ただ、唯一の救いはあった。それは自由の鐘の連中のサンタ衣装は全て黒なのだ。つまり大人が見れば、相手が自由の鐘か否かの判断はつく。
「まぁ、相手も仲間か否か判らなかったら困るから色を変えたんだろうが…」
それが命取り。だが、そんな事にも気付かず、彼らは今好き放題暴れ回っている。
「そっちがその気ならこっちも手段は選ばないさ」
自由の鐘鎮圧の為、毎年知恵を絞っているハンターオフィスの一人がにやりと笑う。
「そっちがサンタならこっちもサンタで行くまで」
そうして係の者は筆を走らせて、完成した依頼書に『サンタレンジャー』の文字があった。
リプレイ本文
●朝
サンタカラーと言えば赤と白。ボンボンのついた三角帽に皮手袋と革靴がお馴染みだろうか。
だが、ここはリゼリオだ。ハンターが圧倒的に多く、その結果少し変わった趣向のサンタも見受けられる。
「ママー、まっかなCAMだよ~。何だかサンタみたい」
オフィスのすぐ近くに直立している機体を見て、通りかかった少年が言う。
「あら、本当に…何かの催しでもあるのかしら?」
戦場では見かける事が多くなったCAMであるが、町中にあるのは珍しい。
しかも深紅に塗装され、要所要所に白のクッションやファーがあしらわれているではないか。
「サンタ・ギガって言います。宜しくお願いしますね」
そんな家族の会話を聞いて、装飾の手を止めて声をかけるのはクオン・サガラ(ka0018)。
この魔導型デュミナス、Phobos(ka0018unit001)の所有者である。
「そっか。サンタ・キガっていうんだー。かっこいいねー」
コックピットを見上げて少年が笑顔で言う。
男の子というのはどの世界でもかっこいいものにあこがれを持つらしい。キラキラ瞳を輝やかせて、サンタ・ギガの傍ではしゃぎ始める。その声は瞬く間に広がって、ロボット好きの少年達は彼の機体に集まり、興味津々。仲間の準備が終わるまでは好きにさせてもいいだろう。
「お、早いな」
とそこへやってきたのは榊 兵庫(ka0010)だった。
事前に着替えてきたのだろう赤のサンタ衣装に身を包んで、跨るのはグリフォンの背中――。
クリムゾンウエストでは見慣れた姿であるが、それでもやはり子供の興味を引く事に違いない。
「今度は鳥だー」
「すごいすごーい」
人の少ないスペースを見つけて軽々と舞い降りる幻獣に瞳の輝きが止まらない。
「ふぉふぉふぉっ、元気な子供達じゃのう」
その子供達に合わせて、兵庫は早速サンタを演じる。
「ねえねえ、この子なんて言うのー?」
鋭い嘴と猛禽類独特の鋭い眼差しに怯える事無く、一人の少女が尋ねる。
「おお、名前かのう。名前は月影(ka0010unit005)と」
「つき、かげ…」
「そう、月影じゃ。良い名じゃろう」
そう問うと少女は頷いて、グリフォンの腹をなでなで。
一見気性が荒そうに見えるグリフォンであるが、餌さえちゃんとやっていればおとなしいもの。空腹時と外敵が現れない限りはそこまで嫌がったりもせず、実際のところは無関心である事が多い。
「ねぇ、幻獣もいいけどトナカイは? サンタの相棒はトナカイだよねー」
伝説にあるサンタ像を思い出して別の子が尋ねる。
「ああ、それはのう。わしはプレゼントを配る方ではないからじゃよ」
兵庫は胸まで伸びる付け髭に触れながら微笑む。
そう、彼らは特別に集められた正義のサンタクース…サンタレンジャーなのだから。
(はぁ~、ボクもついにダークヒーローデビューかぁ。楽しみだなぁ)
終始緩んだ笑みを見せながら荷物を抱えて、水流崎トミヲ(ka4852)が待ち合わせ場所のオフィスへと向かう。
クリスマスとは残念ながら縁のない彼であるが、今年は違う。相方がいる訳ではないのだが、それでもサンタをやれるとなれば話は別だ。一人寂しい夜を迎えずにすむだけでもこの仕事を受けた甲斐がある。
「はぅぅ、ちょっとこれはヒドイです…」
そんな彼の耳に女性の嘆きの声が届いて、早速ヒーローよろしく駆け出す彼。
しかし、行く方向にはハンターオフィスがあって、どうやら悲鳴の主もハンターのようだ。
(まだ初心者のハンターの子かな? だったらボクが…ってあ)
そう思いつつ駆け込んで、中の様子に彼の眼鏡の奥の目が点になる。
「あっ、いや…これは、ですね…もう、妹ったら」
あわあわしつつ顔を真っ赤にしてスカートの裾を引っ張る美人エルフ。
その美しさに彼のピュアハートが刺激されて、俺は三十近いというのに、と若い反応。
銀のしなやかな髪に緑の瞳がトミヲの脳裏に焼き付いて、そして――。
「その容姿で、ミニスカサンタ、だと…!?」
言葉が漏れると共に鼻からは赤い筋…至近距離の生足に悩殺され鼻血が出てしまったらしい。
「きゃああ、大丈夫ですか! えと、私どうしたら?」
突然現れ鼻血を流し始めた彼にミニスカサンタのラース・フュラー(ka6332)も大慌て。
倒れそうになるトミヲを支える彼女だが、それに比例してトミヲからは更なる鼻血が噴き出す始末。
「えっえっ…」
状況悪化に意味が判らない彼女であったが、通りがかった星野 ハナ(ka5852)には判ったよう…。
「胸、当たってるですよね。だからじゃないですかねぇ~」
と冷たく一言。顔は笑顔であるが心は笑っていないご様子。
それはつまり二人のやり取りがアクシデントとは言えイチャつきに見えてしまったからに他ならない。
(私だって、私だって、お相手さえ見つかればッ…)
決して見た目は悪くない彼女なのだが、どういう訳か長続きしない。いや、始まりもしないロマンスに毎年苦虫を噛んでいる。
「ハッ、あわわぁ~ゴメンナサイ! 私、気が付かなくて…」
そんな事とはつゆ知らずラースは助言を受け、慌てて上体を起こす。だが、介抱されている事に変わりはなくてトミヲは人生で貴重な体験の真っ只中。
(ああ、膝枕…これが念願の)
と既に昇天寸前。
そんな彼をいつになく冷ややかな目で彼のユキウサギ・オルランドゥ(ka4852unit002)が見つめていた。
●昼
さて、今回ハンター達にかせられたお仕事はブラックサンタの取り締まりだ。
自由の鐘による迷惑行為を取り締まるべく、彼らは手分けしてブラックサンタを探す。
街の壁に張られたハレンチな貼紙の撤去にはクオンのサンタ・ギガが向かう。
というのもどういうのりを使っているのか知らないが、CAMを使っても綺麗に剥がすのは時間を要する。壁を壊さぬよう、しかし紙は残さぬ様繊細な作業をしいられる。けれど、彼もプロだ。元宇宙飛行士であるが特殊部隊所属であったし、搭乗運用技術者でもあるからこの手の作業はお手のものだ。
「全くどうして…いい大人なのに、こういう事をしてしまうんだか…」
自由の鐘に呆れながらもさっきの子供達の為、己がCAMを動かす。
「あー…もし、ブラックサンタを見かけたら近付かないでくださいねー」
その合間にそう外部スピーカーから注意を促して、しかし流石に昼の日中にはブラックサンタらも鳴りを潜めているらしい。一向にそれらしい人物を見つけられない。
「せめて、アジトの手掛かりでもあればいいんですが」
ブラックサンタの拠点――それがどこにあるのか。広い街で特定するには策が必要だろう。
がこちらも無策ではない。ハナは今回誰よりも自由の鐘のアジト探索に力を注いでいる。
ユグディラのグデちゃん(ka5852unit004)を連れて、朝からくさやを回収しつつ町中を歩き回っている。
(確か去年は大層な大豪邸に拠点を構えていたようですが…あそこはもう摘発しましたし、うーん今度は一体何処に私の八つ当たりの的があるのやら)
さっきのフラストレーションを抱えたままだし、彼女自身も自由の鐘の言いたい事はよく判る。
どちらかと言えば構成員の一人になっていてもおかしくはない程だ。しかし、彼女は彼等とは決定的に違う部分があった。それは自由の鐘は何もせず僻んだり妬んだりするのに対して、彼女の場合はお相手を作ろうと日夜行動をし、しかしその結果うまくいかないだけだという事。しかも、彼女は新たな出会いを諦めてはいない。
「こうなったら奥の手ですよぉ。グデちゃん、例のものを」
聞き込みでいい成果が得られずにいるハナはグデちゃんに持たせた袋からタロットカードを取り出させる。
そうして出すと同時に始まったのは彼女お得意の占いだ。この占い、たかが占いと侮るなかれ。彼女はこれまでもこの占いによって数々の功績を上げてきている。
クデちゃんが見守る中、カードを切る手に意識を集中してブラックサンタの居場所を洗い出す。
まずは北から…しかし、北にそれっぽい結果は得られない。
そしてしばらく占いを続けて、彼女の結果では南東にある広場付近があやしいとでたようだ。
「さぁ、行きますよ。グデちゃん…っておいぃ…」
ふと振り返ってグデちゃんの様子を見てみれば、退屈だったのか心地のいい日差しを求めて移動し大きな欠伸を一つ。流石に猫の幻獣さん。温かい場所はよく存じている様子だ。
「あぁ、もうグデちゃん…これからなのですから、もっとシャキッとして下さいよぉ」
鼻息荒くハナが諭す。けれど、グデちゃんは何処吹く風だ。その場を離れようとはしない。
「……もう、わりましたよぅ。あそこに売ってるツナパンを御馳走しますからよろしくですよぉ」
そこでハナが折れると、グデちゃんは満足げに動き出す。
そして、行った先にはビンゴォ! 黒い衣装を着たマッチョサンタ…。
(見つけた。見つけたのですよ…)
ハナの目が光る。だが、即座に彼に近付く者がいて、ひとまず様子を見る事にする。
(うふふっ、待ってるですよぉ~男共)
ハナが黒笑みを漏らす。その表情を気にする事なく、背後ではグデちゃんがツナパンをかじっていた。
(はぁ~さっきは吃驚したなぁ。まさかあんな幸運が…って駄目だ駄目だ。お仕事お仕事)
サンタの衣装に着替えて街に出たトミヲは自分に向けられる視線を感じながら、ウォルランドゥと散らばったプレゼントを回収中。どれが仕掛けられたプレゼントか見分けがつないのではとお思いだろうが、ブラックサンタが仕掛けた箱には箱の裏に黒いシールが貼られている事が判ったので判断は容易い。だが、問題なのは数が多い事で拾っても拾ってもキリがないという事。
「ウォルランドゥ、こっちもよろしく」
あっという間に袋が一杯になってしまって、見た目に反して力持ちなウォルランドゥに袋を手渡す。
すると彼は歴戦古豪の様な佇まいを見せつつも文句ひとつ言わず、それを乗ってきたバイクに積んでゆく。
「あっ、ドロップイヤーの兎さんだぁ」
そこへ一人の少年が駆け寄ってきて、この辺では垂れ耳の兎は珍しいのかもしれない。
黒毛に差し色の赤が入っているのもポイントとなって、「握手して~」だの「もふもふさせて~」だのとなかなかの人気具合。トミヲよりカナリ目立っている。
(ぐぬぬ、なんでここまでしてるのにボクよりあいつなんだよぉ…)
赤よりも黒の方がスマートに見えるかと思って、黒い衣装をチョイスした。
しかし、ブラックサンタと区別できるようにダークヒーローらしく衣装の下に布の肌襦袢を用意し、見た目だけでもマッチョメンなスーパーボディになるように工夫したのだ。なのに、人気はイマイチ。残念な事この上ない。
「くそぉ…でもいいさ。ダークヒーローとは闇に生きるものだからなぁ!」
ぐっと拳を作って、必死に流れそうになる涙を堪え彼が言う。
そんな彼の元に近付く人影、服装は普通であるがどこか周囲を気にしている挙動が気にかかる。
「なぁ、あんた。何で今こんな事してるんだ」
そうして、トミヲに近付くや否や耳打ちでそんな事を尋ねてくるではないか。
「あ、いや…ボクはサンタブラックで」
「そりゃ判ってるよ。だけど、決行はいつも深夜って決めてただろう? 抜け駆けは許されないぞ」
男の言葉に首を傾げそうになる彼。如何やらこの男、ブラックサンタの一人のようだ。トミヲの姿をみて、仲間が勝手な行動をしていると勘違いし、確認と忠告に現れたとみえる。今ここで眠らせたい所だが、相手は今普通服の一般人。そこで慌てて、ポケットに入れていたトランシーバーのスイッチをオンして会話を続けてみる。
「あ、はは…それはゴメンナサイ。だけど、どうしても今晩用事が入っちゃって」
申し訳なさそうに頭を掻いて彼が言う。
「今晩用事だと?」
その言葉に疑いの眼差し。トミヲはそれに内心びくつきながら耐える。
「……そうか。まあ、用事じゃ仕方ないよな。しかし、今は駄目だ。街の警備の目が光っている」
が彼の緊張とは裏腹に、全くと言っていい程男は気付いている様子はない。
「とにかく一度本部に報告しろ。いいな」
「は、はい」
トミヲはそう言うと背筋を正して、更には敬礼。男が去ってゆくのを待つ。
が、男が見た先にいたハナと目が合って…この男、去年も彼女に懲らしめられたのだろう。
一目で彼女の事を思い出し、
「やべっ、あいつハンターだ! 行くぞ、同士よッ!!」
と言うが早いか兎に角一目散。男はトミヲの腕を掴むと全力で駆け出す。
「そこのブラックサンタ覚悟するんですよぉ~~」
それにつられてハナも姿を現し全力追跡。
「えっ、ええーーーーーーっ!!?」
こうなると、トミヲも走らざる負えない。
「あわ、あわわ…至急応援頼みます~~、場所はえっと、場所は~」
思いの外速く走る男に、半ば引き摺られ気味のトミヲがトランシーバーで連絡を入れる。
「逃がさないのですよぉぉ~~」
その後ろでは目の色を変えて、獲物を狩る肉食獣が如き形相のハナの姿があった。
●そして夜へ
一方、ユニットなしで街をぶらついていたラ―スはトミヲの通信を受けて現場に走る。
結局、ミニスカサンタは可愛いからと言う事でブラックサンタの目を引き付ける事も出来る筈とそのまま採用。但し、流石にそのままではポスターの女性と同じ身なりになってしまう為、ミニスカの下にサンタズボンをはいて、男性の目からすれば邪道だとは思うが、こればかりは仕方がない。スカートの裾の長さを気にして動きが取れなくなっては意味がないからだ。
(待っていて下さい、トミヲさん。さっきの汚名を返上しますから)
汚名と言うには少し違う気がするが、鼻血事件を気にしているのだろう。腕にはブラックサンタ捕縛用の頑丈なリボンを巻き付けて、彼女が走る。何事かと道行く人が振り返るも気にしてはいられない。その甲斐あってか暫くするとバタバタと激しい足音が耳に届き、その先にはハナの背中を捉える事に成功。
「ハナさん、敵は?」
「すぐ先です…おおっ!」
とそこへ遅れてやってきたのは兵庫だ。
狭い路地に入ったのを見取り、グリフォンの背から飛び降り、男の前に立ちはだかる。
「もう逃げ場はないぞ。悪さをするブラックサンタは…ってあれ」
黒いサンタはトミヲ一人で、トミヲを引き摺る男にどうしたものかと躊躇する。だが、ハナにそんな慈悲はない。
「いざ参るのですよぉ」
どべしっ
兵庫の口上もそこそこに男が動きを止めたのを見取って、渾身の突撃エルボー。
だがそれを食らったのはトミヲの方。実は彼女、トミヲがブラック衣装だ言う事を完全に失念している。
「あうちぃ!?」
それをまともに喰らって、彼は悲痛な叫びと共に派手に吹っ飛ぶ。
「えっ、トミヲさん!」
その声に聞き覚えがあって、ラークが思わずを声をかけた時だった。
「ハァ? てめぇ、こいつらの知り合いかッ!」
仲間ではない。その事にやっと気付いた男であるがその時には時既に遅し。
兵庫が槍を扱う要領で素早く刺又を操って男を壁際に追い込んでいる。
「ねぇ、サンタって取り締まりもするのぉ?」
その様子に通りがかりの子供が不思議そうに尋ねる。確かに今はサンタが一般人を捕らえた形だ。
これは非常に不味い場面であるが、機転を利かす兵庫。
「この人はのう、あっちの黒いサンタの仲間なのじゃ。だから二度と悪さをせんように、ワシらサンタのお巡りさんが出動しておるのじゃよ」
振り返りつつ、兵庫がラースに視線を送る。
「じゃあ、あっちは?」
そう言い指差す先にはサンタブラック・トミヲの姿。筋肉肌襦袢のおかげで大事には至っていないが、ダメージがないと言えばウソになる。けれど、ここは子供の面前――話の流れ的に合わせるしかない。ラースは慌てて近くにあった袋を手に彼を詰め込み口を閉じる。
「わ、ちょっと待って…この袋、異様に臭い…ってこれ、中にくさやがァァァ~~」
そんな声が聞こえたが、ここは貫き通すしかなく、
「これで悪者は捕らえましたよ。だから大丈夫です」
もごもご動く袋をそっと後ろににやってラースが言う。
なぜ中にそんなものが入っていたのか。その答えは実に簡単…その袋はハナが持っていたものだから。
トミヲの悲痛な叫び虚しく、彼は解放されるまで袋の中で悶絶し続けるのだった。
ブラックサンタの一人を捕縛して、一行は敵のアジトの場所の聞き出しに成功する。
ハナの去年の所業を知っている手前、男もすんなりはいたようでハナ自身は複雑な表情をしていたが、苦労しないことに越した事はない。彼等の活動時間は午前零時を回った辺りだと言うので、その時間前にアジトを囲むように張り込み、一網打尽にする作戦を取る事にする。
「わたしはここで正面玄関を塞いでおきます。中の方宜しくお願いします」
クオンが豪邸の門の前にサンタ・ギガを直立させる。
万一、外に逃げ出して来た時の為に、彼自身はサンタ・ギガの肩から弓を構える。
「ついにこの時がきましたよぅ。今年も一発ドカンとやるのです」
血走った眼でハナが言う。
「えと…かなり深い闇を感じますけども、これも聖輝祭を楽しみにする方々の為頑張りましょう」
ラースもやる気だ。鉄扇を懐に忍ばせてはいるが、使う機会がない事を密かに祈りリボンを構える。
「まっ、相手は言っても一般人だ。程々にな」
「程々? 馬鹿を言っちゃ駄目だよ…夜は最もダークヒーローが輝く時。そう言う事で今までの分、百倍返ししてもいいよね?」
よく見ればラメ入りだったトミヲの衣装。かなり拘っていたようだ。
「では、いざっ」
ばんっと正面玄関を開放する。するとロビーに集まっていたブラックサンタ軍団が一斉にこちらを向く。
「はて、あんたらは一体…」
この場には似つかわしくない老紳士。しかし、彼が今回の首謀者と聞いている。
「ハーハッハッハッハ。もうお終いだよ、自由の鐘、いやブラックサンタ団! ボク達は恋人達のサイレンナイを取り戻す正義の」
「ブラッティサンタクースですよぅ」
うふふと笑ってやはり一番に駆け出したのはハナだった。
もう屋敷内であるから色がどうとか言っても意味をなさないが、彼女曰く今日の赤チョイスにはそういう意味もあったらしい。
「さぁ、愛の狩人のハンティングタイムですぅ。ハグされたい方からどうぞこちらへ~」
いつものポニーテールを揺らして彼女が男性のブラックサンタ目掛けて駆け回る。
そうして、全身全霊かけた熱烈ハグで次々と落としてゆく。
「う、うわぁ~助けてぇ~~」
その激し過ぎる愛に恐れをなして逃げる男達。
どうせ捕まるならとラースの元に集まる不届きものまで出てくる。
「えっと、それではそこに並んで下さい…」
その異様な光景に戸惑いながらもリボンをぐるぐる。縄代わりに彼らを拘束、捕縛していく。
「おいおい、全くなんだこりゃあ…」
その様子に呆れる兵庫だが、ブラックサンタは何も男ばかりではないようで。
「あらやだっ、イケメンじゃない。ねえどう、一緒にお酒でも飲まない?」
とブラックサンタの飢えた女性陣が兵庫とトキヲを誘惑にかかる。
だが、まぁハッキリ言って着飾っていてもあまり性格はよくないようで…いつか見た光景の再現か。
「ちょっと私が先に声かけたんだから邪魔しないでくれる?」
「何よ、私の方が先だったわ」
といつの間にか内輪揉め。その隙に網をかければ何の事はない。
「はぁ~…やる事も幼稚なら統率レベルもこれ程とは」
すっかり戦意を失くしつつも兵庫が一人ひとりにお縄をかける。
こうして、今年のブラックサンタ作戦はハンターらの活躍により無事収拾され、散らばった残りの吃驚箱や貼紙、リボンについても数日のうちに住民達も協力して取り除かれるのであった。
サンタカラーと言えば赤と白。ボンボンのついた三角帽に皮手袋と革靴がお馴染みだろうか。
だが、ここはリゼリオだ。ハンターが圧倒的に多く、その結果少し変わった趣向のサンタも見受けられる。
「ママー、まっかなCAMだよ~。何だかサンタみたい」
オフィスのすぐ近くに直立している機体を見て、通りかかった少年が言う。
「あら、本当に…何かの催しでもあるのかしら?」
戦場では見かける事が多くなったCAMであるが、町中にあるのは珍しい。
しかも深紅に塗装され、要所要所に白のクッションやファーがあしらわれているではないか。
「サンタ・ギガって言います。宜しくお願いしますね」
そんな家族の会話を聞いて、装飾の手を止めて声をかけるのはクオン・サガラ(ka0018)。
この魔導型デュミナス、Phobos(ka0018unit001)の所有者である。
「そっか。サンタ・キガっていうんだー。かっこいいねー」
コックピットを見上げて少年が笑顔で言う。
男の子というのはどの世界でもかっこいいものにあこがれを持つらしい。キラキラ瞳を輝やかせて、サンタ・ギガの傍ではしゃぎ始める。その声は瞬く間に広がって、ロボット好きの少年達は彼の機体に集まり、興味津々。仲間の準備が終わるまでは好きにさせてもいいだろう。
「お、早いな」
とそこへやってきたのは榊 兵庫(ka0010)だった。
事前に着替えてきたのだろう赤のサンタ衣装に身を包んで、跨るのはグリフォンの背中――。
クリムゾンウエストでは見慣れた姿であるが、それでもやはり子供の興味を引く事に違いない。
「今度は鳥だー」
「すごいすごーい」
人の少ないスペースを見つけて軽々と舞い降りる幻獣に瞳の輝きが止まらない。
「ふぉふぉふぉっ、元気な子供達じゃのう」
その子供達に合わせて、兵庫は早速サンタを演じる。
「ねえねえ、この子なんて言うのー?」
鋭い嘴と猛禽類独特の鋭い眼差しに怯える事無く、一人の少女が尋ねる。
「おお、名前かのう。名前は月影(ka0010unit005)と」
「つき、かげ…」
「そう、月影じゃ。良い名じゃろう」
そう問うと少女は頷いて、グリフォンの腹をなでなで。
一見気性が荒そうに見えるグリフォンであるが、餌さえちゃんとやっていればおとなしいもの。空腹時と外敵が現れない限りはそこまで嫌がったりもせず、実際のところは無関心である事が多い。
「ねぇ、幻獣もいいけどトナカイは? サンタの相棒はトナカイだよねー」
伝説にあるサンタ像を思い出して別の子が尋ねる。
「ああ、それはのう。わしはプレゼントを配る方ではないからじゃよ」
兵庫は胸まで伸びる付け髭に触れながら微笑む。
そう、彼らは特別に集められた正義のサンタクース…サンタレンジャーなのだから。
(はぁ~、ボクもついにダークヒーローデビューかぁ。楽しみだなぁ)
終始緩んだ笑みを見せながら荷物を抱えて、水流崎トミヲ(ka4852)が待ち合わせ場所のオフィスへと向かう。
クリスマスとは残念ながら縁のない彼であるが、今年は違う。相方がいる訳ではないのだが、それでもサンタをやれるとなれば話は別だ。一人寂しい夜を迎えずにすむだけでもこの仕事を受けた甲斐がある。
「はぅぅ、ちょっとこれはヒドイです…」
そんな彼の耳に女性の嘆きの声が届いて、早速ヒーローよろしく駆け出す彼。
しかし、行く方向にはハンターオフィスがあって、どうやら悲鳴の主もハンターのようだ。
(まだ初心者のハンターの子かな? だったらボクが…ってあ)
そう思いつつ駆け込んで、中の様子に彼の眼鏡の奥の目が点になる。
「あっ、いや…これは、ですね…もう、妹ったら」
あわあわしつつ顔を真っ赤にしてスカートの裾を引っ張る美人エルフ。
その美しさに彼のピュアハートが刺激されて、俺は三十近いというのに、と若い反応。
銀のしなやかな髪に緑の瞳がトミヲの脳裏に焼き付いて、そして――。
「その容姿で、ミニスカサンタ、だと…!?」
言葉が漏れると共に鼻からは赤い筋…至近距離の生足に悩殺され鼻血が出てしまったらしい。
「きゃああ、大丈夫ですか! えと、私どうしたら?」
突然現れ鼻血を流し始めた彼にミニスカサンタのラース・フュラー(ka6332)も大慌て。
倒れそうになるトミヲを支える彼女だが、それに比例してトミヲからは更なる鼻血が噴き出す始末。
「えっえっ…」
状況悪化に意味が判らない彼女であったが、通りがかった星野 ハナ(ka5852)には判ったよう…。
「胸、当たってるですよね。だからじゃないですかねぇ~」
と冷たく一言。顔は笑顔であるが心は笑っていないご様子。
それはつまり二人のやり取りがアクシデントとは言えイチャつきに見えてしまったからに他ならない。
(私だって、私だって、お相手さえ見つかればッ…)
決して見た目は悪くない彼女なのだが、どういう訳か長続きしない。いや、始まりもしないロマンスに毎年苦虫を噛んでいる。
「ハッ、あわわぁ~ゴメンナサイ! 私、気が付かなくて…」
そんな事とはつゆ知らずラースは助言を受け、慌てて上体を起こす。だが、介抱されている事に変わりはなくてトミヲは人生で貴重な体験の真っ只中。
(ああ、膝枕…これが念願の)
と既に昇天寸前。
そんな彼をいつになく冷ややかな目で彼のユキウサギ・オルランドゥ(ka4852unit002)が見つめていた。
●昼
さて、今回ハンター達にかせられたお仕事はブラックサンタの取り締まりだ。
自由の鐘による迷惑行為を取り締まるべく、彼らは手分けしてブラックサンタを探す。
街の壁に張られたハレンチな貼紙の撤去にはクオンのサンタ・ギガが向かう。
というのもどういうのりを使っているのか知らないが、CAMを使っても綺麗に剥がすのは時間を要する。壁を壊さぬよう、しかし紙は残さぬ様繊細な作業をしいられる。けれど、彼もプロだ。元宇宙飛行士であるが特殊部隊所属であったし、搭乗運用技術者でもあるからこの手の作業はお手のものだ。
「全くどうして…いい大人なのに、こういう事をしてしまうんだか…」
自由の鐘に呆れながらもさっきの子供達の為、己がCAMを動かす。
「あー…もし、ブラックサンタを見かけたら近付かないでくださいねー」
その合間にそう外部スピーカーから注意を促して、しかし流石に昼の日中にはブラックサンタらも鳴りを潜めているらしい。一向にそれらしい人物を見つけられない。
「せめて、アジトの手掛かりでもあればいいんですが」
ブラックサンタの拠点――それがどこにあるのか。広い街で特定するには策が必要だろう。
がこちらも無策ではない。ハナは今回誰よりも自由の鐘のアジト探索に力を注いでいる。
ユグディラのグデちゃん(ka5852unit004)を連れて、朝からくさやを回収しつつ町中を歩き回っている。
(確か去年は大層な大豪邸に拠点を構えていたようですが…あそこはもう摘発しましたし、うーん今度は一体何処に私の八つ当たりの的があるのやら)
さっきのフラストレーションを抱えたままだし、彼女自身も自由の鐘の言いたい事はよく判る。
どちらかと言えば構成員の一人になっていてもおかしくはない程だ。しかし、彼女は彼等とは決定的に違う部分があった。それは自由の鐘は何もせず僻んだり妬んだりするのに対して、彼女の場合はお相手を作ろうと日夜行動をし、しかしその結果うまくいかないだけだという事。しかも、彼女は新たな出会いを諦めてはいない。
「こうなったら奥の手ですよぉ。グデちゃん、例のものを」
聞き込みでいい成果が得られずにいるハナはグデちゃんに持たせた袋からタロットカードを取り出させる。
そうして出すと同時に始まったのは彼女お得意の占いだ。この占い、たかが占いと侮るなかれ。彼女はこれまでもこの占いによって数々の功績を上げてきている。
クデちゃんが見守る中、カードを切る手に意識を集中してブラックサンタの居場所を洗い出す。
まずは北から…しかし、北にそれっぽい結果は得られない。
そしてしばらく占いを続けて、彼女の結果では南東にある広場付近があやしいとでたようだ。
「さぁ、行きますよ。グデちゃん…っておいぃ…」
ふと振り返ってグデちゃんの様子を見てみれば、退屈だったのか心地のいい日差しを求めて移動し大きな欠伸を一つ。流石に猫の幻獣さん。温かい場所はよく存じている様子だ。
「あぁ、もうグデちゃん…これからなのですから、もっとシャキッとして下さいよぉ」
鼻息荒くハナが諭す。けれど、グデちゃんは何処吹く風だ。その場を離れようとはしない。
「……もう、わりましたよぅ。あそこに売ってるツナパンを御馳走しますからよろしくですよぉ」
そこでハナが折れると、グデちゃんは満足げに動き出す。
そして、行った先にはビンゴォ! 黒い衣装を着たマッチョサンタ…。
(見つけた。見つけたのですよ…)
ハナの目が光る。だが、即座に彼に近付く者がいて、ひとまず様子を見る事にする。
(うふふっ、待ってるですよぉ~男共)
ハナが黒笑みを漏らす。その表情を気にする事なく、背後ではグデちゃんがツナパンをかじっていた。
(はぁ~さっきは吃驚したなぁ。まさかあんな幸運が…って駄目だ駄目だ。お仕事お仕事)
サンタの衣装に着替えて街に出たトミヲは自分に向けられる視線を感じながら、ウォルランドゥと散らばったプレゼントを回収中。どれが仕掛けられたプレゼントか見分けがつないのではとお思いだろうが、ブラックサンタが仕掛けた箱には箱の裏に黒いシールが貼られている事が判ったので判断は容易い。だが、問題なのは数が多い事で拾っても拾ってもキリがないという事。
「ウォルランドゥ、こっちもよろしく」
あっという間に袋が一杯になってしまって、見た目に反して力持ちなウォルランドゥに袋を手渡す。
すると彼は歴戦古豪の様な佇まいを見せつつも文句ひとつ言わず、それを乗ってきたバイクに積んでゆく。
「あっ、ドロップイヤーの兎さんだぁ」
そこへ一人の少年が駆け寄ってきて、この辺では垂れ耳の兎は珍しいのかもしれない。
黒毛に差し色の赤が入っているのもポイントとなって、「握手して~」だの「もふもふさせて~」だのとなかなかの人気具合。トミヲよりカナリ目立っている。
(ぐぬぬ、なんでここまでしてるのにボクよりあいつなんだよぉ…)
赤よりも黒の方がスマートに見えるかと思って、黒い衣装をチョイスした。
しかし、ブラックサンタと区別できるようにダークヒーローらしく衣装の下に布の肌襦袢を用意し、見た目だけでもマッチョメンなスーパーボディになるように工夫したのだ。なのに、人気はイマイチ。残念な事この上ない。
「くそぉ…でもいいさ。ダークヒーローとは闇に生きるものだからなぁ!」
ぐっと拳を作って、必死に流れそうになる涙を堪え彼が言う。
そんな彼の元に近付く人影、服装は普通であるがどこか周囲を気にしている挙動が気にかかる。
「なぁ、あんた。何で今こんな事してるんだ」
そうして、トミヲに近付くや否や耳打ちでそんな事を尋ねてくるではないか。
「あ、いや…ボクはサンタブラックで」
「そりゃ判ってるよ。だけど、決行はいつも深夜って決めてただろう? 抜け駆けは許されないぞ」
男の言葉に首を傾げそうになる彼。如何やらこの男、ブラックサンタの一人のようだ。トミヲの姿をみて、仲間が勝手な行動をしていると勘違いし、確認と忠告に現れたとみえる。今ここで眠らせたい所だが、相手は今普通服の一般人。そこで慌てて、ポケットに入れていたトランシーバーのスイッチをオンして会話を続けてみる。
「あ、はは…それはゴメンナサイ。だけど、どうしても今晩用事が入っちゃって」
申し訳なさそうに頭を掻いて彼が言う。
「今晩用事だと?」
その言葉に疑いの眼差し。トミヲはそれに内心びくつきながら耐える。
「……そうか。まあ、用事じゃ仕方ないよな。しかし、今は駄目だ。街の警備の目が光っている」
が彼の緊張とは裏腹に、全くと言っていい程男は気付いている様子はない。
「とにかく一度本部に報告しろ。いいな」
「は、はい」
トミヲはそう言うと背筋を正して、更には敬礼。男が去ってゆくのを待つ。
が、男が見た先にいたハナと目が合って…この男、去年も彼女に懲らしめられたのだろう。
一目で彼女の事を思い出し、
「やべっ、あいつハンターだ! 行くぞ、同士よッ!!」
と言うが早いか兎に角一目散。男はトミヲの腕を掴むと全力で駆け出す。
「そこのブラックサンタ覚悟するんですよぉ~~」
それにつられてハナも姿を現し全力追跡。
「えっ、ええーーーーーーっ!!?」
こうなると、トミヲも走らざる負えない。
「あわ、あわわ…至急応援頼みます~~、場所はえっと、場所は~」
思いの外速く走る男に、半ば引き摺られ気味のトミヲがトランシーバーで連絡を入れる。
「逃がさないのですよぉぉ~~」
その後ろでは目の色を変えて、獲物を狩る肉食獣が如き形相のハナの姿があった。
●そして夜へ
一方、ユニットなしで街をぶらついていたラ―スはトミヲの通信を受けて現場に走る。
結局、ミニスカサンタは可愛いからと言う事でブラックサンタの目を引き付ける事も出来る筈とそのまま採用。但し、流石にそのままではポスターの女性と同じ身なりになってしまう為、ミニスカの下にサンタズボンをはいて、男性の目からすれば邪道だとは思うが、こればかりは仕方がない。スカートの裾の長さを気にして動きが取れなくなっては意味がないからだ。
(待っていて下さい、トミヲさん。さっきの汚名を返上しますから)
汚名と言うには少し違う気がするが、鼻血事件を気にしているのだろう。腕にはブラックサンタ捕縛用の頑丈なリボンを巻き付けて、彼女が走る。何事かと道行く人が振り返るも気にしてはいられない。その甲斐あってか暫くするとバタバタと激しい足音が耳に届き、その先にはハナの背中を捉える事に成功。
「ハナさん、敵は?」
「すぐ先です…おおっ!」
とそこへ遅れてやってきたのは兵庫だ。
狭い路地に入ったのを見取り、グリフォンの背から飛び降り、男の前に立ちはだかる。
「もう逃げ場はないぞ。悪さをするブラックサンタは…ってあれ」
黒いサンタはトミヲ一人で、トミヲを引き摺る男にどうしたものかと躊躇する。だが、ハナにそんな慈悲はない。
「いざ参るのですよぉ」
どべしっ
兵庫の口上もそこそこに男が動きを止めたのを見取って、渾身の突撃エルボー。
だがそれを食らったのはトミヲの方。実は彼女、トミヲがブラック衣装だ言う事を完全に失念している。
「あうちぃ!?」
それをまともに喰らって、彼は悲痛な叫びと共に派手に吹っ飛ぶ。
「えっ、トミヲさん!」
その声に聞き覚えがあって、ラークが思わずを声をかけた時だった。
「ハァ? てめぇ、こいつらの知り合いかッ!」
仲間ではない。その事にやっと気付いた男であるがその時には時既に遅し。
兵庫が槍を扱う要領で素早く刺又を操って男を壁際に追い込んでいる。
「ねぇ、サンタって取り締まりもするのぉ?」
その様子に通りがかりの子供が不思議そうに尋ねる。確かに今はサンタが一般人を捕らえた形だ。
これは非常に不味い場面であるが、機転を利かす兵庫。
「この人はのう、あっちの黒いサンタの仲間なのじゃ。だから二度と悪さをせんように、ワシらサンタのお巡りさんが出動しておるのじゃよ」
振り返りつつ、兵庫がラースに視線を送る。
「じゃあ、あっちは?」
そう言い指差す先にはサンタブラック・トミヲの姿。筋肉肌襦袢のおかげで大事には至っていないが、ダメージがないと言えばウソになる。けれど、ここは子供の面前――話の流れ的に合わせるしかない。ラースは慌てて近くにあった袋を手に彼を詰め込み口を閉じる。
「わ、ちょっと待って…この袋、異様に臭い…ってこれ、中にくさやがァァァ~~」
そんな声が聞こえたが、ここは貫き通すしかなく、
「これで悪者は捕らえましたよ。だから大丈夫です」
もごもご動く袋をそっと後ろににやってラースが言う。
なぜ中にそんなものが入っていたのか。その答えは実に簡単…その袋はハナが持っていたものだから。
トミヲの悲痛な叫び虚しく、彼は解放されるまで袋の中で悶絶し続けるのだった。
ブラックサンタの一人を捕縛して、一行は敵のアジトの場所の聞き出しに成功する。
ハナの去年の所業を知っている手前、男もすんなりはいたようでハナ自身は複雑な表情をしていたが、苦労しないことに越した事はない。彼等の活動時間は午前零時を回った辺りだと言うので、その時間前にアジトを囲むように張り込み、一網打尽にする作戦を取る事にする。
「わたしはここで正面玄関を塞いでおきます。中の方宜しくお願いします」
クオンが豪邸の門の前にサンタ・ギガを直立させる。
万一、外に逃げ出して来た時の為に、彼自身はサンタ・ギガの肩から弓を構える。
「ついにこの時がきましたよぅ。今年も一発ドカンとやるのです」
血走った眼でハナが言う。
「えと…かなり深い闇を感じますけども、これも聖輝祭を楽しみにする方々の為頑張りましょう」
ラースもやる気だ。鉄扇を懐に忍ばせてはいるが、使う機会がない事を密かに祈りリボンを構える。
「まっ、相手は言っても一般人だ。程々にな」
「程々? 馬鹿を言っちゃ駄目だよ…夜は最もダークヒーローが輝く時。そう言う事で今までの分、百倍返ししてもいいよね?」
よく見ればラメ入りだったトミヲの衣装。かなり拘っていたようだ。
「では、いざっ」
ばんっと正面玄関を開放する。するとロビーに集まっていたブラックサンタ軍団が一斉にこちらを向く。
「はて、あんたらは一体…」
この場には似つかわしくない老紳士。しかし、彼が今回の首謀者と聞いている。
「ハーハッハッハッハ。もうお終いだよ、自由の鐘、いやブラックサンタ団! ボク達は恋人達のサイレンナイを取り戻す正義の」
「ブラッティサンタクースですよぅ」
うふふと笑ってやはり一番に駆け出したのはハナだった。
もう屋敷内であるから色がどうとか言っても意味をなさないが、彼女曰く今日の赤チョイスにはそういう意味もあったらしい。
「さぁ、愛の狩人のハンティングタイムですぅ。ハグされたい方からどうぞこちらへ~」
いつものポニーテールを揺らして彼女が男性のブラックサンタ目掛けて駆け回る。
そうして、全身全霊かけた熱烈ハグで次々と落としてゆく。
「う、うわぁ~助けてぇ~~」
その激し過ぎる愛に恐れをなして逃げる男達。
どうせ捕まるならとラースの元に集まる不届きものまで出てくる。
「えっと、それではそこに並んで下さい…」
その異様な光景に戸惑いながらもリボンをぐるぐる。縄代わりに彼らを拘束、捕縛していく。
「おいおい、全くなんだこりゃあ…」
その様子に呆れる兵庫だが、ブラックサンタは何も男ばかりではないようで。
「あらやだっ、イケメンじゃない。ねえどう、一緒にお酒でも飲まない?」
とブラックサンタの飢えた女性陣が兵庫とトキヲを誘惑にかかる。
だが、まぁハッキリ言って着飾っていてもあまり性格はよくないようで…いつか見た光景の再現か。
「ちょっと私が先に声かけたんだから邪魔しないでくれる?」
「何よ、私の方が先だったわ」
といつの間にか内輪揉め。その隙に網をかければ何の事はない。
「はぁ~…やる事も幼稚なら統率レベルもこれ程とは」
すっかり戦意を失くしつつも兵庫が一人ひとりにお縄をかける。
こうして、今年のブラックサンタ作戦はハンターらの活躍により無事収拾され、散らばった残りの吃驚箱や貼紙、リボンについても数日のうちに住民達も協力して取り除かれるのであった。
依頼結果
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相談卓 ラース・フュラー(ka6332) エルフ|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/16 16:18:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/15 19:06:25 |