聖人に似た迷子~乾杯のかわりに銃声?~

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/23 15:00
完成日
2017/12/30 19:41

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


●寒空の下で
 冷たい北風が、ぴゅうぴゅうと吹いていた。
「楽しみね、パーティ!」
 しっかり巻きつけたマフラーをなびかせ、ダイヤは寒さに負けず元気にスキップした。
「お嬢さま、袋を振り回さないでくださいよ、破れます」
 使用人のクロスがたしなめる。
 クロスもダイヤも、中身のしっかり詰まった買い物袋をさげていた。ダイヤの父・宝石商モンド氏は「聖輝節は家族で過ごすもの」という考えを持っているため、お屋敷の従業員はこの時期、たっぷりのボーナスと休暇をもらって里帰りする。クロスには実家というものがないため、お屋敷に残るのだが。聖輝節の当日はダイヤも両親とのんびりする予定だが、それよりも前に、友人たちを招いてささやかなパーティをしようとしているのだ。買い出しは、そのためのものだった。
(今年はちょっと仕掛けを用意してるんだから!)
 ダイヤはうきうきしていた。去年の聖輝節、ダイヤは悩み事を抱えていたために、パーティではもてなされるばかりだったのである。今年は、楽しませる側に回りたいと思っていた。
 何を計画しているのかは、クロスにも教えていない。バレることを恐れて、メイドたちにも相談しなかった。ただ飲んで食べるだけのシンプルなパーティを楽しみにしているふりを、続けてきたのだ。
「シェフがシチューを仕込んでいってくれたし、ケーキもあるし、それから……、あら?」
「なんですか。まさか買い忘れを思い出したんですか?」
「違うわ。ねえクロス、あそこ、誰か倒れてるんじゃない?」
 ダイヤが指さしたのは、大きな街路樹の根元。枯れ葉が降り積もる中、幹に寄りかかるような格好でぐったりしている人影があった。ふたりは慌ててその人影に駆け寄った。
「大丈夫ですかー?」
 人影は年若い青年だった。ダイヤが声をかけて肩を揺さぶっても、返事がない。
「ま、まさか死んでる?」
「死んでませんよ、息をしてるでしょう」
 クロスが呆れる。確かに、青年はしっかり呼吸をしていた。それも、すうすうと健やかに。どうやらぐっすり眠っているらしい。
「どうしてこんなところで? それにしてもこの人、綺麗な顔ねえ」
「ええ。役者のように整ったお顔ですね」
 ダイヤが感心すると、滅多に人のことを褒めないクロスも頷く。それほど青年は美しかった。
「こんなところで眠っていたら死んでしまうわ。ひとまず、お屋敷へ運びましょうよ」
「そうですね……」
 ダイヤの提案にクロスは頷きつつも、眠っている青年を一通り調べた。どう考えても、こんなところで眠っているなんて不審すぎる。しかし、身なりはきちんとしているし、持ち物の中にも武器らしいものはなかった。フロックコートの内ポケットに、しっかりした革張りのノートが入っていただけである。ノートの裏表紙に、小さく小さく、名前らしきものが書かれていた。
「セブンス・ユング……、というのが、彼の名前のようですね」
 クロスが名前を読み上げた。ひとまず危険な人物ではなさそうだと判断し、クロスは買い物袋を木の根元に置くと、彼を担ぎ上げようとした。かなり長身であるらしい青年は、ひとりではとても運べそうにない。ダイヤも買い物袋を置き、クロスを助けて青年の体を支えた。
「買い物袋はあとで取りに来ましょ」
 青年を担ぎ上げながらダイヤは、この驚くほど綺麗なこの青年は、もしかしたら聖輝節のために遣わされた「聖人」なんじゃないだろうか、などと思って、こっそりわくわくしていたのだった。


●これは夢
 楽しげな音楽が流れていた。広間だろうか。白いテーブルクロスがかけられた大きなテーブルの上に、美味しそうな料理やスイーツ。笑い声や、キラキラしたオーナメント。
(パーティ?)
 ぼんやりと、青年はそれを見ていた。あたたかな光景の真ん中には、栗色の長い髪をツインテールにした少女がいた。弾けるような笑顔を見せている。その少女に、誰かが手を差し出していた。その人物の顔はわからない。ただ、袖口には洒落たデザインのカフスがつけられていたのが見えた。
 少女が、戸惑ったように、けれどもとてもとても嬉しそうに笑って、差し出された手に自分の手を預けようとした、そのときに。
 青年は、目覚めた。


●知らないお屋敷
 目覚めたとき、肌触りの良い上等なシーツの上にいた。身を起こすと、立派な部屋にいることがわかり、青年は少なからず戸惑った。ここはどこだろう。どうしてこんなところにいるのだろう。
(少しも思い出せない……)
 これだから自分は、と青年は己の記憶力と性格を恨む。覚えているのは、先ほどまでみていた夢の内容だけだった。
(ああそうだ、忘れてしまう前に、それだけは書き留めておかなければ)
 青年は懐を探り、いつものノートを取り出すと、夢の内容を丁寧に書き記す。これが過去の光景なのか未来の光景なのかはわからないが、現実の出来事であることは間違いない。青年のみる夢は必ず、現実となるのだ。彼は、そのみた夢と現実を照らし合わせるために旅をしているのだ。
 青年の名前は、セブンス・ユング。しかし彼は、その名前を名乗ることはない。名前すらも「忘れてしまった」と言っているのだが、それには何か理由がありそうだった。
 夢の内容を、ノートに書き終えたとき。

パァン!!!

 爆発音に似た大きな音が、聞こえた。
「これは……、銃声?」
 青年は、ベッドから出て、部屋の外を覗いた。



 その音は、パーティが始まっていた広間にも聞こえてきた。
「ええっ!? 何!?」
 パーティに招かれていたハンターたちがざわつく。ダイヤも慌てて驚いた声を出した。
「様子を見てきます」
 目元を厳しくして行動に出たのはクロスだった。素早く広間を出て、音のした方へ駆け出す。どこにも異常は見られず、不思議に思いながらも、そういえばあの眠っている客人はどうしているだろうかと部屋を覗いた。
「!? いない……」
 ベッドも部屋ももぬけの殻だった。もしかしたら、あの銃声に驚いて出て行ってしまったのかもしれない、とクロスは思う。ひとまず広間に戻り、そのことを伝えると。
「ええっ」
 顔を青くしたのは、ダイヤだった。
(困ったことになっちゃったわ……)
 実はあの銃声は、ダイヤが仕掛けたいたずらだった。レコーダーにタイマーをセットし、時間になったら流れるようにしていた。自分がその部屋に先導し、死体に見せかけた人形を発見させて、ちょっとした謎解きゲームをするつもりだったのだ。しかし。
「と、とにかくその人を探しましょう。お屋敷は広いからきっと迷っちゃったんだわ」
 ダイヤは、自分の仕業だとは言い出せないままに、最優先事項を提案した。

リプレイ本文

 乾杯も終わっていたし、料理はまさに今、食べ出したところだった。つまり、パーティは今から盛り上がってくる、というタイミングだったのである。そこに、あの音。
「あわわわ。じゅ、銃声が聞こえましたよ……」
 アシェ-ル(ka2983)が、唐揚げを突き刺したフォークを握りしめて震える。
「銃声とは、穏やかではないね」
 鞍馬 真(ka5819)が、持っていたグラスをテーブルに置いて護身用の剣に手をかける。その隣で、大伴 鈴太郎(ka6016)が拳をかためていた。
「年の瀬の押込み強盗か!? チッ! 折角のパーティだってのにヤベーコトになりやがった!」
 加えて、客人の失踪である。もちろん、パーティどころではない。とにかく探そう、というダイヤの言葉に、全員が同意して頷いた。
「ミイラ取りがミイラになってはいけないし、屋敷のことをわかっているふたりに案内を頼んで、ダイヤ班とクロス班のふたつに分かれてはどうだろうか」
「そうだな。オレ達が迷子ンなったら洒落になンねぇし、覚醒者じゃねぇ二人の傍を離れンのは心配だかンな。オレ達はダイヤと捜すからよ。そっちはクロスと一緒に頼む」
 真と鈴太郎がこのように相談して、ダイヤ班は鈴太郎とアシェール、クロス班は真と央崎 遥華(ka5644)という班分けで捜索することとなった。
「早くパーティ再開できるように頑張ろうぜ!」
 鈴太郎が気合を入れる隣で、ダイヤは依然として顔色が悪かった。



 クロス班はまずは、とにかく客間のある二階を中心に捜索することにした。真を先頭にして、階段をのぼる。
「申し訳ありません。皆さまはお客様ですのに」
 クロスが深々と頭を下げる。パーティに招待されていたのだから、当然、こんなことになるとは思っていなかった。遥華は黒いドレス姿だし、真も髪を降ろして伊達メガネをかけ、私服で来ている。
「気にしないでください。むしろ、ハンターである私たちが居合わせて良かったです」
 遥華がにっこり微笑む。真も頷きつつ、こっそりある予想をしていた。
(あの銃声……、もしかしてダイヤ嬢の仕業では……)
 ダイヤの今までの実績から考えると、ありえなくはないことだ。実績、とはつまり、悪戯的な意味で、だ。
「さて。どこから探そうか」
 階段をのぼりきり、真は左右を交互に眺める。見える範囲に人影はなく、廊下をうろうろしている客人をあっさり見つけられる、という幸運には巡り合えなかったことがわかる。
「衣装倉庫や、図書室が怪しいのではと、思うのですが」
「なるほど。では図書室から参りましょう。鞍馬さん、左手へお願いします」
 遥華の申し出にクロスが頷いて、案内する。モンド邸の図書室には、およそ個人で所有しているとは思えない冊数の書籍が収められている。
「すごぉい!」
 天井まで届く高い本棚がいくつも並ぶ図書室の壮観さに、遥華が目を輝かせた。しかし、目的は図書室を楽しむことではない。棚と棚の間を丁寧に確認してまわる。閲覧用の机の下や、書籍を運ぶカートの中まで徹底的に探したが、人の姿もなければ不審物なども見当たらなかった。
「ここじゃないみたいだね」
 真の言葉に頷き合って、図書室を出たとき。ダイヤ班で行動をしているアシェールから遥華に通信が入った。
『聞こえますか……聞こえますか……アシェールです。今……あなたの……心に……直接…… 呼びかけています……』
「これは……、頭の中に直接……!」
 アシェールの無駄な通信に、遥華は目を見開いて驚き、表情まで作って悪ノリする。
『あはは、聞こえていることがわかって良かったです。ええと、私たちは今、一階を一通り見て回りました。特に異状はなかったので、二階へ向かいます』
「了解。図書室は確認してあって、私たちは今から衣装倉庫へ向かうところだよ」
『わかりました、ではそれ以外を探しますね』
 通信を終えた遥華からの話を聞いたクロスは。
「一階を、すべて見て回った?」
 少し眉をひそめ、首を傾げたのだった。



 ダイヤ班は大広間を出てすぐ、一階を捜索にあたった。銃声がした現場を見つけるためだ。
「こういう時、防御力が低いドレスだと、不安です」
 アシェールが、人形替わりに持ってきた猫杖をしっかりと抱きしめている。しっかりと抱きしめすぎて、関節があらぬ方向に捻じ曲がっているが、気にしているふうはない。いつもなら、そういうシーンを面白がるのがダイヤなのだが、しかし、そのダイヤは妙にそわそわしていて、捜索にも身が入っていない。
「大丈夫だぜ、ダイヤ。オレがついてっからよ」
 怯えているのだろう、と思ったらしい鈴太郎が笑顔で励ます。しかし励まされたのはダイヤではなく、銃声に戦々恐々としていたアシェールだった。
「怖い人が出てきてもリンさんが居るなら大丈夫ですね!」
「お、おう! 任せとけよ!」
 怖い人、と懸念点を具体的に言葉にされ、途端に、少しだけ怯んでしまった鈴太郎であった。
 まずは応接室を覗き、広い広いキッチンへと向かう。と、ダイヤがハンターふたりに声をかけた。
「ね、ねえ、鈴さん、アシェールさん。あの銃声、間違いなく二階からしたものだと思うの。二階を探すべきじゃないかしら」
「でも、二階はクロスさんたちが捜索していますよ?」
「そ、そうだけど! でも、二階も広いし! 銃声は二階からしてたし! 絶対!」
 前のめりになってダイヤが言う。鈴太郎は、へえ、と笑顔になった。
「すげえじゃねぇか、ダイヤ! 銃声がどこからしてきたか聞き取れたのか! よし、じゃ、一階は一通りさっと見るだけにして、二階へ上がろうぜ!」
 鈴太郎があっさり同意してくれたのにホッとして、ダイヤは少し顔色を回復させた。それから三人は、キッチンやワインセラーをとりあえず覗くだけ覗いて、クロス班に連絡をし、二階へ上がった。
「クロスさんたちは、図書室を調べたそうですよ。これから、衣装倉庫だとのことです」
 アシェールの報告に、ダイヤは再びホッと胸を撫で下ろす。まるで駆けるような早足で階段をのぼると、迷わず右手に曲がった。
「ちょ、ちょっと待てよダイヤ」
「こっちだと思うの。たぶん、音楽室だわ」
 ダイヤはすたすた進んでいく。鈴太郎とアシェールが慌てて追いかけた。
「ダイヤ、危ねえぞ。扉は、オレが開けるから下がってろよ」
 鈴太郎が前へ出ると、ダイヤは、それには素直に頷いて従った。鈴太郎はノブをつかむと、そうっと扉を開く。扉は、少しもきしむことなくスムーズに動いた。その扉の、むこうには。
 人が、倒れていた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
 アシェールがお決まりの悲鳴を上げる。鈴太郎は人が倒れていることよりもその悲鳴に驚いたようにビクリと身をすくませた。
「銃声はやっぱりこの部屋からだったんだな! おい、大丈夫か!?」
「そ、そうですよね、まだ死んでるとは限らない……って、なんだ、人形さんじゃないですか」
 アシェールが室内へ入り、倒れている人の顔を覗き込む。つんつん、と肩をつつくが、指に返ってくる感触は硬く、どう考えても人間のものではなかった。マネキン人形だ。
「人形ぉ? ホントだ。よくできてるなぁ。……よぉ、ダイヤ……、一体こりゃ誰の仕業だ? これでもオメェとの付き合いは長えンだぜ?」
 誰の仕業だ、と問いかけた鈴太郎だが、その答えはもう出ているに等しかった。鈴太郎とアシェールの視線を受け、ダイヤは肩を縮めて首をすくめながら、そろそろと、黙って、小さく挙手をするのであった。



 図書室を出たクロス班の三人は、次に衣装倉庫を入念に確認した。クローゼットや大きな箱までもをすべてチェックしたが、迷い人もおらず、何者かが隠れている様子もない。
「銃声のことはともかく、あの眠っていた青年はどこへ……」
 クロスが眉を寄せる。真は苦笑し、遥華は首を傾げた。
「銃声のことはともかく、なんですか?」
「ええ。そちらはたぶん、心配いらないと思います。あの銃声以降、こうもまったく物音がしないというのは不自然ですから。おそらく……、」
 クロスが言葉を続けようとしたとき。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴が聞こえてきた。
「今のは、アシェールさんの声では!?」
 慌てて、遥華が衣装倉庫から飛び出し、真とクロスもそれを追った。悲鳴のした方を向くと、三人と同じように悲鳴を聞いて飛び出してきたらしい、見知らぬ背中が目に入った。すらりとしたシルエットの美しい、長身の青年である。
「あ! 貴方は!」
 クロスが声を上げた。
「あの人が、迷い人か」
 一応警戒をして、真がふたりの前に出る。青年が振り返った。端正な顔は、ひどく驚いていたが、視線の先に人の姿を見つけたことに安心したのか、ホッとしたような表情に変わる。
「すみません、ここのお宅の方々でしょうか。銃声が聞こえたので部屋の外へ出てみたのですが、どうも、迷ってしまったようで」
 美しい顔をした青年──通称・夢追い人 ( kz0232 )は、丁寧に頭を下げて事情を説明した。
「そうでしたか。私たちは今、貴方を探していたんです」
 クロスが前に進み出て、青年に頷いた。ところで俺はなぜここに、外で眠っていたんですよ、などという会話が始まったとき、真の魔導スマートフォンに、鈴太郎から連絡が入った。
『よぉ、シン……。銃声の発生源を見つけたぜ。で、だ……。銃声は『誰かの悪戯』だったから安心してくれよ……。そっちのこた任せたぜ』
「なるほど」
 真は、鈴太郎の言葉を、やっぱり、と思いつつ聞いて苦笑した。
「了解だ、任された。例の迷い人はこちらで発見したから、それも安心してほしいな。……うん、じゃあ、大広間に集合ということで」
 通信を切った真は、まず遥華に耳打ちをしたのち、青年との話を終えたらしいクロスの方を向いた。
「ええと、銃声の方は解決したらしい。どうも、悪戯だったようだよ」
「悪戯、ですか」
 クロスの目がすっと細くなり、はあ、とため息がつかれた。誰の悪戯であったのか、すでにわかっているようだ。と、いうよりは、とっくに察しがついていたのだろう。真は「誰の」悪戯であったのか明言しないまま、クロスを宥める言葉をかけた。
「折角のパーティなんだし、あまり叱らないでやってくれ……」
「大目に見てあげてくださいね?」
 遥華も言い添えると、クロスはもう一度ため息をついて、頷いた。
「パーティに、戻りましょう」



「冷静に考えりゃ、何か引っ掛かってはいたンだよな。いつもなら真っ先に騒ぎそうなダイヤが妙に鈍かったしよ……。銃声聞いた時よか客人が消えた時のがビビってたしさ。そもそもダイヤがフツーのパーティで済ますなんて変だと思ったンだ」
 大広間に先に戻ってきていたダイヤ班は、鈴太郎を中心にそんな話をしていた。ダイヤは思わぬ方向に事態が転がってしまったこの悪戯を、ひとまず放棄することにしたらしい。今のダイヤのもっぱらの心配事は、クロスだ。叱られるに決まっている、と身をすくませている。
 と、そこへ。
「何事もなくてよかったですね」
 遥華が黒いドレスを翻しながらやってきた。クロス班も大広間へ帰ってきたのだ。ダイヤは鈴太郎とアシェールの後ろに隠れる。
「ほ、ほらダイヤ、一緒に謝ってやるからさ。クロス、ほら、ダイヤは皆を楽しませようと思ってやったことなんだ、だからさ……」
 鈴太郎が必死にクロスに弁明する。クロスは、またため息を吐くと、鈴太郎とアシェールの間からおそるおそる顔を覗かせるダイヤに向かって。
「怒ったりしませんよ、お嬢さま。折角お客様がおみえなんですから、パーティを再開しましょう」
そう言って、そっと、手を、差し出した。
「あ……」
 小さく声を上げ、目を見開いたのは、屋敷内をさまよっていた青年だった。クロスの差し出した、手首には、変わったデザインのカフス。手を差し出されている少女は、栗色の髪。彼女は、戸惑ったような表情から、笑顔に変わる。
「この光景だったのか……」
 青年は小さく呟いて、少し、微笑んだ。青年は、久しぶりに、自分の能力も悪くないものだと、思えた。
「よっし、パーティ再開だ! モンド家の聖輝節ソング、あれやろうぜ!」
 鈴太郎が元気よく言うと、ダイヤは驚いたように、しかし嬉しそうに歓声を上げた。
「えっ、覚えててくれたの!? 嬉しい!!」
 真のリュートと遥華のギターの演奏に合わせて、鈴太郎とダイヤが歌う。青年も巻き込んで、パーティはよい雰囲気で再開の幕を開けた。
「即席ですけど、ミスコンとかしませんか!? 美女も揃ってるしぃ、ほら、男性だって女装すれば!」
 アシェールがパッと思いついたように言い、真と青年の方を向く。端正な顔の青年はぎょっとたじろいだが、真は驚きつつも拒否することはなく微笑んだ。
「え、女装? ミスコン? ……ま、まあ、盛り上げるためなら吝かではない……」
 一番ノってきたのは、面白いことの大好きなダイヤだ。
「女装!? じゃ、私の衣装貸してあげるわ! 持ってくる!!」
「お嬢さま! 走らないでください!!」
 すっかりいつも通りになったダイヤとクロスに、皆、笑い合った。鈴太郎も、ホッと胸を撫で下ろしてけらけら笑う。と。
「って、ヤベ! ダイヤを驚かせるつもりでくまごろーにタダのぬいぐるみの振りしててくれつってそのままだ!」
 大広間の椅子の上に、疲れ切っているくまごろーの姿があった。
 聖輝節のパーティの、悪戯がもうひとつ、潰れてしまった瞬間であった。

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MVP一覧


  • 鞍馬 真ka5819
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎ka6016

重体一覧

参加者一覧

  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/21 22:40:21
アイコン 質問卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/12/20 07:17:51
アイコン 相談卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/12/23 12:59:00