ゲスト
(ka0000)
お魚くわえたゴブリン
マスター:春秋冬夏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/25 19:00
- 完成日
- 2017/12/31 01:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「すっかり冷え込んだな……」
森の中に住む男性は自分の白い吐息を眺めて、改めて冷え込みを実感する。
「それでも、この辺りはまだマシか」
氷の張っていない湖に釣り糸を垂らし、食料を確保する男性は本日の献立を思い浮かべていた。
「取りあえず今日釣った分はまた干物にして、これからに備えないと……」
釣りから帰った男性が見たものは、作っている最中の干物をゴブリンが盗っていくところだった。
「あ、こら待て!」
止めたところでゴブリンが待つわけもなく、すたこらさっさと逃げていく……。
「というわけで、ゴブリンが俺の干物を持って行くようになっちまったんだ……」
困り果てた男性は事の次第を説明すると、長いため息をついた。
「このままだと、冬場の食料が足りるかどうか怪しくなってしまう。どうにかしてくれ……」
疲れ切った様子の男性は、一行に彼の家周辺の地図と、ゴブリンの今までの行動をまとめた紙を差し出してくる。これを照らし合わせて、罠を張る必要がありそうだ。
「それじゃ、頼んだぞ……」
森の中に住む男性は自分の白い吐息を眺めて、改めて冷え込みを実感する。
「それでも、この辺りはまだマシか」
氷の張っていない湖に釣り糸を垂らし、食料を確保する男性は本日の献立を思い浮かべていた。
「取りあえず今日釣った分はまた干物にして、これからに備えないと……」
釣りから帰った男性が見たものは、作っている最中の干物をゴブリンが盗っていくところだった。
「あ、こら待て!」
止めたところでゴブリンが待つわけもなく、すたこらさっさと逃げていく……。
「というわけで、ゴブリンが俺の干物を持って行くようになっちまったんだ……」
困り果てた男性は事の次第を説明すると、長いため息をついた。
「このままだと、冬場の食料が足りるかどうか怪しくなってしまう。どうにかしてくれ……」
疲れ切った様子の男性は、一行に彼の家周辺の地図と、ゴブリンの今までの行動をまとめた紙を差し出してくる。これを照らし合わせて、罠を張る必要がありそうだ。
「それじゃ、頼んだぞ……」
リプレイ本文
●殺意高くないですか?
冬場の冷え込む森の中、動く物のないそこは、まだ眠っているかのように……って、ゴブリン来てるし。三体のゴブリンは周りを警戒しながら、ゆっくりと吊るされた魚に近づいていく。しかし、いつもと何か違う事に気づいたのか、地面を爪先で軽くつついてから一歩一歩を、着実に踏み出している。
(罠に勘付いたか? いや、違うな。それならさっさと逃げた方が利口だ。となると、単に違和感を覚えているのか……)
状況を分析するカイン・マッコール(ka5336)は体に泥を塗り、植物を散らして草の茂みに身を潜めていた。彼の視線が、ゴブリン達よりも後方へと滑る。
(というか、報告と数が違う。やはりこいつらは斥候部隊か何かで、目的は偵察なのか? だとしたら、残りはどこに……)
その時、森の中から銃声が響く。突然の発砲音にゴブリン達が一斉に振り向き、一瞬苦々しい表情を見せたかと思えば、それまでの慎重さを捨てて干物に飛びついた。しかし、その瞬間地面に埋められていた縄が跳び上がり、ゴブリンの足を絡めとって宙吊りにしてしまう。
「考えるのは後だな……」
バッと身を起こしたカインは機械剣を振るい、光の刃を飛ばして戸惑うゴブリンの一体の足元を襲撃。飛び退いた瞬間に飛びかかる事で回避のタイミングを奪い、馬乗りになって湾曲した刀身を持つ剣を振りかざした。
「ゴブリンは殺す、それ以上でもそれ以下でもない」
氷のように冷たい瞳が亜人を見下ろして、逆光の影が何度も、何度も、何度でも、手にした刃をゴブリンの体に突き立てては引き抜き、その度に肉が千切れる音を立てながら血で尾を引いて、さっきまで生きていたモノをただの肉塊へと変えていく……あまりにも高い殺意を前に、自由な一体が逃げ出そうとするが、その逃げ出そうとした方向から二体のゴブリンが逃げてくる。
「こいつらは軽い練習代わりだ……実にちょうどいい、人員を二手に分け、後方を警戒する者と実際に行動をとる者に別れるとは。少々人間らしい思考を持っているんじゃないか?」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は空薬莢を弾倉から吐かせて、弾を込めながら不敵に笑う。
「此方も部隊を分けていなかったら、二体ほど取り逃がしていたかもしれん」
カインとコーネリア、二人に挟まれゴブリン達は両者から距離を取れるルートへ逃げ出そうとするのだが、そちらを向いた瞬間、足元に弾丸をばら撒かれて一歩目を踏み出す事さえ許されなかった。
「一体だって、逃がしません」
姿を見せるミオレスカ(ka3496)が空薬莢をばら撒いて、弾を込め直す様子を警戒していたゴブリンだが、一先ず仲間を助ける事を優先したのだろう。吊るされたままの仲間を降ろし、改めてハンターたちを睨みつけるのだが、すぐ側にふわりと踏み込む影が一つ。
「亜人風情が我が拳を受けられる事、名誉に思うがいい……」
血管が浮き出たかのように、体に赤い線を走らせる冷泉 緋百合(ka6936)が蒸気の尾を引いて、ゴブリンとの零距離、彼女の間合いを掠め取る。踏み込んだ瞬間に大地を踏みつけて、重心を前方に持って行きながら反動で亜人の体を浮かし、回避を許さぬ状態で体を捻るようにして掌底を叩きこんだ。
恐るべきはその一撃の威力もさることながら、『続く』速度。亜人の体が掌底による衝撃でくの字に折れ、打ち込まれた一撃により吹き飛ばされるまでの刹那、既に緋百合は撃ち抜いた腕を固定。狙い澄ますように亜人に添えて、逆の腕を腰だめに構えている。
「二度と覚めぬ眠りに落ちるがいい……!」
ただ同じ場所を突けば吹き飛ぶ方向に力を加える事になり、拳の威力が死ぬ。故に、一発振り抜いてややずれた重心を利用し、自身の体に角度をつけて、放つ掌底をやや上方に逸らして、ゴブリンの顎を捉えて空高く打ち上げんとした。が、既に亜人には後方へと吹き飛ばさんとする一撃目の力が加わっており、そこに撃ち上げようとする二撃目が叩き込まれて、ゴギン。骨がへし折れる鈍い音を残して吹き飛ばされ、木に叩き付けられる。
突然全身を襲う激痛に、ゴブリンが訳も分からず前を見ようとした時だ。体に赤い線を描き、発熱しているのか蒸気を纏う女が目の前に踏み込んできていて……。
●ゴブリンに言わせれば絶望もいい所
「……トドメを刺しました」
淡々と、事実を述べて振り返る緋百合。彼女の前には切り株になってしまった木と、上半身を失い臓物の器と化したゴブリンが転がっている。
「そう、トドメが大切です。こいつらは生かしておくと何をしでかすか分かりません」
などと頷くカインだが、彼は既に死んでいるゴブリンを今なお刃で穿ち、微塵に刻もうとしている。ゴブリンという種族そのものへ、並々ならぬ殺意を持っているのかもしれない。
そのおぞましい姿に恐怖したのか、ゴブリンが後ずさった時だ。茂みから物音がしたのは。
「悪いがここで仕留めさせてもらう……!」
身を潜めていた榊 兵庫(ka0010)は身の丈を越えるほどの大槍を携えて、ゴブリンとの距離を詰めながら得物を突き出し、穿つも穂先が鋭すぎたのか、ヌルリと貫通した大槍の先、ゴブリンがまだ生きている。
「そのまま、逃がすんじゃないぞ!」
「おうとも!」
兵庫の振るう槍、人間無骨の穂先は十字状になっており、得物を突き立てれば貫かれたゴブリンが刃の交差部分で引っ掛かり、高々と掲げられてしまう。逃れようと足掻くたびに血をまき散らす様に、コーネリアが銃口を向ければ彼女の周囲に粉雪が降り始めた。
「せめて最後は美しく散るがいい」
それは雪などではなかった。舞い散る白い光は銃へと吸い込まれて、込められた弾の魔力と化す。
「では、さらばだ」
引き金を引けば、銃弾の底の火薬が爆ぜて弾丸を空中へ送り出す。回転しながら空間を駆けのぼる白く染まった弾はゴブリンの眉間を撃ち抜き、同時に霧状の冷気に姿を変えた。瞬く間に凍てつき、氷像になってしまった亜人が突き刺さった槍を、トン。兵庫が柄で軽く地面を叩けば衝撃が伝わり、掲げられたゴブリンは極小の氷片に……粉雪に姿を変えて、地上へと帰る。
これはマジでヤバい。ゴブリン側もそう察して、誰もいない方向へと逃げ出すのだが、一体目が茂みに飛び込んだ瞬間、何かを踏み抜いたように足が沈み、その両サイドから釘の貫通した板が跳ね起きた。無数の釘に足を噛まれ、そのせいで転んでしまった事で自らの脚の肉をズタズタに引き千切ってしまったゴブリン。一体目が先にかかった事で、罠にかからなかった二体目が少し逃げて振り返るが、動けなくなった一体目にけしかけられるようにして逃げていく……残された一体が振り返った時、小さな声がする。
「今、介錯してやるからな」
せめて苦しまぬように。ただそう祈ってアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は刀の柄に手をかけた。身を隠したままだった故に、未だ彼女に気づいてすらいない亜人に向けて、鞘の一部が解放。周囲に赤い花弁が舞い散る。それは実際の花ではないのだろう。地面に触れれば消えてしまう。淡い輝きの残滓に亜人が見惚れている隙に、抜刀したアルトは長大な業物を下段に構え、一足。ただそれだけでゴブリンの隣を抜けて、仲間達の下へと通り抜けたアルトは刃を鞘にゆっくりと納めていく。ここまで来て、ようやく彼女を視認したゴブリンが、何者かとアルトを見やった時、刃の全てを飲み込んだ鞘が、その開かれた口を閉ざす。
「……すまない。今回は他の手段を思いつかなかった」
小さな謝罪の言葉の後、ゴブリンは花開くように鮮血を散らし、動かなくなった。
「アルトさん、追跡をお願いします」
「あぁ」
もう遠くまで逃げている最後の一体をミオレスカが示し、アルトは小さく応えて地面を蹴る。
●まさかここまでくるとは
逃走するゴブリンをアルトが追い、そのアルトの後に続くことでハンター達は森の中にひっそりと作られた、ゴブリンの小さな巣に辿り着いた。
「やっぱり他にも仲間がいたか……」
今にも飛び出しそうなカインだが、見た目が小さいとはいえ、中に何体のゴブリンがいるかも分からない状態で仕掛けるほど頭に血は登っていなかったらしい。
「さて、いつ仕掛ける? ここでいつまでも待ってても、中が見えないなら意味ないだろう。むしろ、待っていた分あっちが準備を整えてしまう可能性だってある。もし中に数がいるのなら、今奇襲をかけて、入り口で戦えば一度に相手にするゴブリンは少なくて済むんじゃないか?」
兵庫の提案に、コーネリアが頷いて残弾を確認、弾倉に弾を込めて。
「どうせ一体残らず仕留めるつもりだったんだ。今仕掛けない理由はないだろう」
チラと目をやれば、ミオレスカも使った弾丸の補填が終わった所であり、コーネリアの意図をくんだ彼女はコクン、小さく頷いた。
「まずは私とミオレスカで中のゴブリンを炙り出す。後は兵庫の言った通り、入り口で敵が展開する前に仕留める、いいな?」
簡易的なミーティングを終えて、二人が飛び出した。その瞬間にゴブリン側にも襲撃が伝わったのだろう。中から飛び出してきた亜人に向けて、二人の展開する弾幕が迫り、瞬く間に蜂の巣となり屍を晒したゴブリンに、ミオレスカがポカンとしてしまった。
「一体だけ……ですか?」
「こいつは捨て駒かもしれん、油断するなよ」
「はい……!」
すぐさま弾丸を込め直した二人が身構えるのだが、次の襲撃がない。慎重に中を覗いた二人は、身構えている仲間を呼び寄せる。
「なんだ? まさか中で他の奴が寝てるのか?」
もしそうなら、これ以上の好機はない。奇襲を仕掛ければ、瞬く間に制圧できるだろう。兵庫は槍を短く持ち直し、近距離戦闘に備えるのだが……。
「まさか」
アルトの胸に、嫌な予感が過る。そして、その予感はすぐに的中することになる。
「ゴブリンの子ども……!?」
中には二人で抱き合い、ジッとハンターたちへ怯えた眼差しを向ける小さなゴブリンがいた。
「さっき逃がしたゴブリンは、この二体を逃がす為に出てきたんだと思います」
ミオレスカは先ほど撃ち殺した個体を見下ろし、再び中を警戒する。
「でも、もしかしたら他にも外に出てるゴブリンがいたら……」
「それはないですよ」
中にずかずかと踏み込んだカインは巣を見回して、幼いゴブリンへと光刃を飛ばしてその脚を斬りおとし、逃げられなくしてから説明を始めた。
「巣の規模からして、そもそもあまり大所帯ではなかったのでしょう。単に小さい巣を大きくしてないって可能性もありますが、周りに転がってるゴミの量からして、恐らく成体はさっきの五体で全てです」
語りながら、痛みに泣くゴブリンの喉を貫き、黙らせてからその体を幾度となく剣で貫いた。二、三度も突けば小さな亜人はビクビクと体を痙攣させて、もう動くことはないただの肉塊となり果てる。その様を見届けてしまった、最後の一体へ切先を向ければもう声すらあげない。
「ねぇ、子どもならこの辺りから追い出すだけでも……」
「駄目です」
アルトの打診に、カインは首を振った。
「一体でも逃がせば、そいつが人間に対して憎悪を持ち、他のゴブリンと結託して報復に来るかもしれません。危険性の芽があるなら潰す。それが最善でしょう?」
ギロリ、アルトへ振り返るカインの目は実に濁っていて、彼が殺戮を楽しむ異常者なのではなく、ゴブリンに対して憎しみを抱く復讐者なのだと分かる、分かってしまう。
「……そうか」
それ以上、アルトは彼にかける言葉を持ち合わせておらず、全滅するゴブリンをただただ眺めて、冥福を祈るように両手を重ねるのだった。
●あいつらにも生活があるんです
「生きる為とは言え他人の物盗むのはよくありませんね、うん」
帰り道、緋百合は今回の事件を振り返って一人頷く。
「例え子どもの為だとしても、許されない事です」
「……依頼人にとっては死活問題だしな。ゴブリンといえど、力なき依頼人達にとっては脅威になる。撃退に留めずに二度とこんな悪さをしないように殲滅しておくべきだったろうな」
緋百合の意図を察した兵庫が便乗して、二人がチラとアルトを見るが、彼女の目はどことなく上の空のまま。
「殺すしか、なかったのかな……」
「当たり前だ」
アルトの呟きに、コーネリアは冷え切った視線を向ける。
「人里でおイタを働いた当然の報いだ、何故そんなことで悩む必要がある?」
「ボクは前にも似たような依頼にいった事があるんだ。その時は殺さずに済んだんだけれど……やっぱり、中々そうはいかないね」
困ったように笑う彼女を、コーネリアは鼻で笑う。
「当たり前だ」
そのままさっさと先へ行ってしまうコーネリアをミオレスカが慌てて追いかけるが、途中で戻ってきて。
「あの……コーネリアさんは悪い人ではありませんから……きっと、何か意味があるんだと思います」
アルトに一礼して、再びコーネリアを追いかけていく。
「何を迷っているのか分かりませんが」
走りゆくミオレスカを見送るアルトの隣に、威圧的なオーラを纏うカインが並ぶ。
「ゴブリンは抹殺すべき敵。それこそが僕の正義であり、僕の知るゴブリンです」
チラと、アルトを見て、再び前を向いた。
「でも、それは僕の持論であって、世界の常識ではないのかもしれません。まぁ、僕はゴブリン殺しをやめるつもりはありませんが」
それだけ言って、彼もさっさと行ってしまう。
「つまりはあれだろう」
兵庫が目も合わせずとっととアルトを追い抜いて。
「もう今回の事は過ぎてしまった。だから悩むだけ無駄、ということですね」
とてとて、緋百合も速足で歩いていく。部隊の仲間達の背中を眺めて、アルトは一つため息をつくと困ったように笑いながら、置いて行かれないように、帰路を急ぐのだった。
冬場の冷え込む森の中、動く物のないそこは、まだ眠っているかのように……って、ゴブリン来てるし。三体のゴブリンは周りを警戒しながら、ゆっくりと吊るされた魚に近づいていく。しかし、いつもと何か違う事に気づいたのか、地面を爪先で軽くつついてから一歩一歩を、着実に踏み出している。
(罠に勘付いたか? いや、違うな。それならさっさと逃げた方が利口だ。となると、単に違和感を覚えているのか……)
状況を分析するカイン・マッコール(ka5336)は体に泥を塗り、植物を散らして草の茂みに身を潜めていた。彼の視線が、ゴブリン達よりも後方へと滑る。
(というか、報告と数が違う。やはりこいつらは斥候部隊か何かで、目的は偵察なのか? だとしたら、残りはどこに……)
その時、森の中から銃声が響く。突然の発砲音にゴブリン達が一斉に振り向き、一瞬苦々しい表情を見せたかと思えば、それまでの慎重さを捨てて干物に飛びついた。しかし、その瞬間地面に埋められていた縄が跳び上がり、ゴブリンの足を絡めとって宙吊りにしてしまう。
「考えるのは後だな……」
バッと身を起こしたカインは機械剣を振るい、光の刃を飛ばして戸惑うゴブリンの一体の足元を襲撃。飛び退いた瞬間に飛びかかる事で回避のタイミングを奪い、馬乗りになって湾曲した刀身を持つ剣を振りかざした。
「ゴブリンは殺す、それ以上でもそれ以下でもない」
氷のように冷たい瞳が亜人を見下ろして、逆光の影が何度も、何度も、何度でも、手にした刃をゴブリンの体に突き立てては引き抜き、その度に肉が千切れる音を立てながら血で尾を引いて、さっきまで生きていたモノをただの肉塊へと変えていく……あまりにも高い殺意を前に、自由な一体が逃げ出そうとするが、その逃げ出そうとした方向から二体のゴブリンが逃げてくる。
「こいつらは軽い練習代わりだ……実にちょうどいい、人員を二手に分け、後方を警戒する者と実際に行動をとる者に別れるとは。少々人間らしい思考を持っているんじゃないか?」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は空薬莢を弾倉から吐かせて、弾を込めながら不敵に笑う。
「此方も部隊を分けていなかったら、二体ほど取り逃がしていたかもしれん」
カインとコーネリア、二人に挟まれゴブリン達は両者から距離を取れるルートへ逃げ出そうとするのだが、そちらを向いた瞬間、足元に弾丸をばら撒かれて一歩目を踏み出す事さえ許されなかった。
「一体だって、逃がしません」
姿を見せるミオレスカ(ka3496)が空薬莢をばら撒いて、弾を込め直す様子を警戒していたゴブリンだが、一先ず仲間を助ける事を優先したのだろう。吊るされたままの仲間を降ろし、改めてハンターたちを睨みつけるのだが、すぐ側にふわりと踏み込む影が一つ。
「亜人風情が我が拳を受けられる事、名誉に思うがいい……」
血管が浮き出たかのように、体に赤い線を走らせる冷泉 緋百合(ka6936)が蒸気の尾を引いて、ゴブリンとの零距離、彼女の間合いを掠め取る。踏み込んだ瞬間に大地を踏みつけて、重心を前方に持って行きながら反動で亜人の体を浮かし、回避を許さぬ状態で体を捻るようにして掌底を叩きこんだ。
恐るべきはその一撃の威力もさることながら、『続く』速度。亜人の体が掌底による衝撃でくの字に折れ、打ち込まれた一撃により吹き飛ばされるまでの刹那、既に緋百合は撃ち抜いた腕を固定。狙い澄ますように亜人に添えて、逆の腕を腰だめに構えている。
「二度と覚めぬ眠りに落ちるがいい……!」
ただ同じ場所を突けば吹き飛ぶ方向に力を加える事になり、拳の威力が死ぬ。故に、一発振り抜いてややずれた重心を利用し、自身の体に角度をつけて、放つ掌底をやや上方に逸らして、ゴブリンの顎を捉えて空高く打ち上げんとした。が、既に亜人には後方へと吹き飛ばさんとする一撃目の力が加わっており、そこに撃ち上げようとする二撃目が叩き込まれて、ゴギン。骨がへし折れる鈍い音を残して吹き飛ばされ、木に叩き付けられる。
突然全身を襲う激痛に、ゴブリンが訳も分からず前を見ようとした時だ。体に赤い線を描き、発熱しているのか蒸気を纏う女が目の前に踏み込んできていて……。
●ゴブリンに言わせれば絶望もいい所
「……トドメを刺しました」
淡々と、事実を述べて振り返る緋百合。彼女の前には切り株になってしまった木と、上半身を失い臓物の器と化したゴブリンが転がっている。
「そう、トドメが大切です。こいつらは生かしておくと何をしでかすか分かりません」
などと頷くカインだが、彼は既に死んでいるゴブリンを今なお刃で穿ち、微塵に刻もうとしている。ゴブリンという種族そのものへ、並々ならぬ殺意を持っているのかもしれない。
そのおぞましい姿に恐怖したのか、ゴブリンが後ずさった時だ。茂みから物音がしたのは。
「悪いがここで仕留めさせてもらう……!」
身を潜めていた榊 兵庫(ka0010)は身の丈を越えるほどの大槍を携えて、ゴブリンとの距離を詰めながら得物を突き出し、穿つも穂先が鋭すぎたのか、ヌルリと貫通した大槍の先、ゴブリンがまだ生きている。
「そのまま、逃がすんじゃないぞ!」
「おうとも!」
兵庫の振るう槍、人間無骨の穂先は十字状になっており、得物を突き立てれば貫かれたゴブリンが刃の交差部分で引っ掛かり、高々と掲げられてしまう。逃れようと足掻くたびに血をまき散らす様に、コーネリアが銃口を向ければ彼女の周囲に粉雪が降り始めた。
「せめて最後は美しく散るがいい」
それは雪などではなかった。舞い散る白い光は銃へと吸い込まれて、込められた弾の魔力と化す。
「では、さらばだ」
引き金を引けば、銃弾の底の火薬が爆ぜて弾丸を空中へ送り出す。回転しながら空間を駆けのぼる白く染まった弾はゴブリンの眉間を撃ち抜き、同時に霧状の冷気に姿を変えた。瞬く間に凍てつき、氷像になってしまった亜人が突き刺さった槍を、トン。兵庫が柄で軽く地面を叩けば衝撃が伝わり、掲げられたゴブリンは極小の氷片に……粉雪に姿を変えて、地上へと帰る。
これはマジでヤバい。ゴブリン側もそう察して、誰もいない方向へと逃げ出すのだが、一体目が茂みに飛び込んだ瞬間、何かを踏み抜いたように足が沈み、その両サイドから釘の貫通した板が跳ね起きた。無数の釘に足を噛まれ、そのせいで転んでしまった事で自らの脚の肉をズタズタに引き千切ってしまったゴブリン。一体目が先にかかった事で、罠にかからなかった二体目が少し逃げて振り返るが、動けなくなった一体目にけしかけられるようにして逃げていく……残された一体が振り返った時、小さな声がする。
「今、介錯してやるからな」
せめて苦しまぬように。ただそう祈ってアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は刀の柄に手をかけた。身を隠したままだった故に、未だ彼女に気づいてすらいない亜人に向けて、鞘の一部が解放。周囲に赤い花弁が舞い散る。それは実際の花ではないのだろう。地面に触れれば消えてしまう。淡い輝きの残滓に亜人が見惚れている隙に、抜刀したアルトは長大な業物を下段に構え、一足。ただそれだけでゴブリンの隣を抜けて、仲間達の下へと通り抜けたアルトは刃を鞘にゆっくりと納めていく。ここまで来て、ようやく彼女を視認したゴブリンが、何者かとアルトを見やった時、刃の全てを飲み込んだ鞘が、その開かれた口を閉ざす。
「……すまない。今回は他の手段を思いつかなかった」
小さな謝罪の言葉の後、ゴブリンは花開くように鮮血を散らし、動かなくなった。
「アルトさん、追跡をお願いします」
「あぁ」
もう遠くまで逃げている最後の一体をミオレスカが示し、アルトは小さく応えて地面を蹴る。
●まさかここまでくるとは
逃走するゴブリンをアルトが追い、そのアルトの後に続くことでハンター達は森の中にひっそりと作られた、ゴブリンの小さな巣に辿り着いた。
「やっぱり他にも仲間がいたか……」
今にも飛び出しそうなカインだが、見た目が小さいとはいえ、中に何体のゴブリンがいるかも分からない状態で仕掛けるほど頭に血は登っていなかったらしい。
「さて、いつ仕掛ける? ここでいつまでも待ってても、中が見えないなら意味ないだろう。むしろ、待っていた分あっちが準備を整えてしまう可能性だってある。もし中に数がいるのなら、今奇襲をかけて、入り口で戦えば一度に相手にするゴブリンは少なくて済むんじゃないか?」
兵庫の提案に、コーネリアが頷いて残弾を確認、弾倉に弾を込めて。
「どうせ一体残らず仕留めるつもりだったんだ。今仕掛けない理由はないだろう」
チラと目をやれば、ミオレスカも使った弾丸の補填が終わった所であり、コーネリアの意図をくんだ彼女はコクン、小さく頷いた。
「まずは私とミオレスカで中のゴブリンを炙り出す。後は兵庫の言った通り、入り口で敵が展開する前に仕留める、いいな?」
簡易的なミーティングを終えて、二人が飛び出した。その瞬間にゴブリン側にも襲撃が伝わったのだろう。中から飛び出してきた亜人に向けて、二人の展開する弾幕が迫り、瞬く間に蜂の巣となり屍を晒したゴブリンに、ミオレスカがポカンとしてしまった。
「一体だけ……ですか?」
「こいつは捨て駒かもしれん、油断するなよ」
「はい……!」
すぐさま弾丸を込め直した二人が身構えるのだが、次の襲撃がない。慎重に中を覗いた二人は、身構えている仲間を呼び寄せる。
「なんだ? まさか中で他の奴が寝てるのか?」
もしそうなら、これ以上の好機はない。奇襲を仕掛ければ、瞬く間に制圧できるだろう。兵庫は槍を短く持ち直し、近距離戦闘に備えるのだが……。
「まさか」
アルトの胸に、嫌な予感が過る。そして、その予感はすぐに的中することになる。
「ゴブリンの子ども……!?」
中には二人で抱き合い、ジッとハンターたちへ怯えた眼差しを向ける小さなゴブリンがいた。
「さっき逃がしたゴブリンは、この二体を逃がす為に出てきたんだと思います」
ミオレスカは先ほど撃ち殺した個体を見下ろし、再び中を警戒する。
「でも、もしかしたら他にも外に出てるゴブリンがいたら……」
「それはないですよ」
中にずかずかと踏み込んだカインは巣を見回して、幼いゴブリンへと光刃を飛ばしてその脚を斬りおとし、逃げられなくしてから説明を始めた。
「巣の規模からして、そもそもあまり大所帯ではなかったのでしょう。単に小さい巣を大きくしてないって可能性もありますが、周りに転がってるゴミの量からして、恐らく成体はさっきの五体で全てです」
語りながら、痛みに泣くゴブリンの喉を貫き、黙らせてからその体を幾度となく剣で貫いた。二、三度も突けば小さな亜人はビクビクと体を痙攣させて、もう動くことはないただの肉塊となり果てる。その様を見届けてしまった、最後の一体へ切先を向ければもう声すらあげない。
「ねぇ、子どもならこの辺りから追い出すだけでも……」
「駄目です」
アルトの打診に、カインは首を振った。
「一体でも逃がせば、そいつが人間に対して憎悪を持ち、他のゴブリンと結託して報復に来るかもしれません。危険性の芽があるなら潰す。それが最善でしょう?」
ギロリ、アルトへ振り返るカインの目は実に濁っていて、彼が殺戮を楽しむ異常者なのではなく、ゴブリンに対して憎しみを抱く復讐者なのだと分かる、分かってしまう。
「……そうか」
それ以上、アルトは彼にかける言葉を持ち合わせておらず、全滅するゴブリンをただただ眺めて、冥福を祈るように両手を重ねるのだった。
●あいつらにも生活があるんです
「生きる為とは言え他人の物盗むのはよくありませんね、うん」
帰り道、緋百合は今回の事件を振り返って一人頷く。
「例え子どもの為だとしても、許されない事です」
「……依頼人にとっては死活問題だしな。ゴブリンといえど、力なき依頼人達にとっては脅威になる。撃退に留めずに二度とこんな悪さをしないように殲滅しておくべきだったろうな」
緋百合の意図を察した兵庫が便乗して、二人がチラとアルトを見るが、彼女の目はどことなく上の空のまま。
「殺すしか、なかったのかな……」
「当たり前だ」
アルトの呟きに、コーネリアは冷え切った視線を向ける。
「人里でおイタを働いた当然の報いだ、何故そんなことで悩む必要がある?」
「ボクは前にも似たような依頼にいった事があるんだ。その時は殺さずに済んだんだけれど……やっぱり、中々そうはいかないね」
困ったように笑う彼女を、コーネリアは鼻で笑う。
「当たり前だ」
そのままさっさと先へ行ってしまうコーネリアをミオレスカが慌てて追いかけるが、途中で戻ってきて。
「あの……コーネリアさんは悪い人ではありませんから……きっと、何か意味があるんだと思います」
アルトに一礼して、再びコーネリアを追いかけていく。
「何を迷っているのか分かりませんが」
走りゆくミオレスカを見送るアルトの隣に、威圧的なオーラを纏うカインが並ぶ。
「ゴブリンは抹殺すべき敵。それこそが僕の正義であり、僕の知るゴブリンです」
チラと、アルトを見て、再び前を向いた。
「でも、それは僕の持論であって、世界の常識ではないのかもしれません。まぁ、僕はゴブリン殺しをやめるつもりはありませんが」
それだけ言って、彼もさっさと行ってしまう。
「つまりはあれだろう」
兵庫が目も合わせずとっととアルトを追い抜いて。
「もう今回の事は過ぎてしまった。だから悩むだけ無駄、ということですね」
とてとて、緋百合も速足で歩いていく。部隊の仲間達の背中を眺めて、アルトは一つため息をつくと困ったように笑いながら、置いて行かれないように、帰路を急ぐのだった。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/25 09:52:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/22 22:41:04 |