ゲスト
(ka0000)
【初夢】あなたがいない世界
マスター:音無奏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/05 22:00
- 完成日
- 2018/01/15 23:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
……手の中が軽い。
歩みはふわふわとしていて、現実感がないかの如く、足取りはおぼつかない。
体は軽いのに胸は重くて、思わず蹲ってしまいそうな程に苦しかった。
当たり前だ、自分は大切なものを失ってしまった。
こんなもの、質の悪い夢に違いない。
…………。
なんでそうなったのか、どうして止められなかったのか、それについて、語れる言葉は何もなかった。
後悔が先に立つ訳もない、ただ大切にしていたはずの何かが、手の中から零れ落ちたという事実だけが残る。
最後の瞬間だけは何よりも強く覚えているかも知れない。
或いは、目を背けて、変わってしまった世界を認められず、彷徨い続けているかもしれない。
自らを支える信念も、背中を押す情熱も、最早存在しなかった。
ただ喉を焼くような痛みだけが残る、そのために涙を流せるかどうかすら、見失った自分にはわからなかった。
手の中には何が残っただろう、自分はこれからどうすればいいのだろう。
どうしよう。
あなたのいない世界なんて、息をするだけでも苦しい。
歩みはふわふわとしていて、現実感がないかの如く、足取りはおぼつかない。
体は軽いのに胸は重くて、思わず蹲ってしまいそうな程に苦しかった。
当たり前だ、自分は大切なものを失ってしまった。
こんなもの、質の悪い夢に違いない。
…………。
なんでそうなったのか、どうして止められなかったのか、それについて、語れる言葉は何もなかった。
後悔が先に立つ訳もない、ただ大切にしていたはずの何かが、手の中から零れ落ちたという事実だけが残る。
最後の瞬間だけは何よりも強く覚えているかも知れない。
或いは、目を背けて、変わってしまった世界を認められず、彷徨い続けているかもしれない。
自らを支える信念も、背中を押す情熱も、最早存在しなかった。
ただ喉を焼くような痛みだけが残る、そのために涙を流せるかどうかすら、見失った自分にはわからなかった。
手の中には何が残っただろう、自分はこれからどうすればいいのだろう。
どうしよう。
あなたのいない世界なんて、息をするだけでも苦しい。
リプレイ本文
かつて、目を向ける先にはいつだってあなたがいた。
大地に雫を落とし、水たまりに漣を立て、大気中に潤いを溢れさせるあなた。
私の名前は外待雨 時雨(ka0227)、雨天の……大切なお友達。
「そのはず、でしょう……?」
…………。
本当の事を言えば、自分だって、自分について回る雨を疎ましく思う時期があった。
自分を一言で罵倒するなら「雨女」……遊び盛りの幼年時代、子どもたちがそれを良しとするはずもない。
愛情と繋がりを求める幼年時代なのに、時雨の傍らには誰もいなくて、雨だけは変わらず窓の外で降り続いていた。
孤独で心が死ぬ寸前だった、何もかもどうでも良くなって、嫌っていた雨の中へと出ていった。
思えば、顔に絶えず降り続ける水滴こそが、久方ぶりの触れ合いだったか。
冷え切った自分の心より、雨は遥かに温かい。
そして悟った――他人がどう自分から距離を取ろうと、雨だけはずっと自分の傍にいてくれるのだと。
……なのに。
なんで、今は雨が降っていないんだろう。
どうしてもう降らないと、確信してしまえるのだろう。
静かだ。
傘を携えて外に出れば、乾いた風が肌を撫でる。
手を伸ばしても指を濡らす感触はなく、傘を打つ滴の音がなく、肌を満たすはずの水の気配が失われている。
「どうして……?」
雨の打つ穏やかな音色が好きだった。
滴が持つ優しい温もりが嬉しかった。。
雨が包んでいるから、涙を拭うように心を洗い流してくれたから、たとえ一人でも自分は悲しみに沈まずに済んだ。
あなたがいるから絶望せずに済んで、それは雨が空と大地をつなぎとめるようにと……恋しさと美しさを知った。
雨が覆わない世界は広く、乾いてて、絶望が心に滲んで行くのを感じていた。
あなたがいないなんて考えられない、だって世界は雨を必要としている、世界のどこかで、必ず降り続けているはずだった。
なら、きっと我が友は行方が知れないだけ、自分が探し続ければ、きっといつかは――。
「どこにいるの……?」
傘をさし、外に出る。
見つめる先は曇りのような晴天。
雨は、降らない。
+
呼吸するようにあなたを想う。
あなたはもういないのに、カティス・フィルム(ka2486)は引き寄せられるかのように想いを馳せる。
馬鹿って言うだろうか、言ってくれたらどれだけ幸せだろうか。
……私は大丈夫、だから、心配しないで欲しい。
いつもの日常、いつもの世界、ただ、あなただけがいない。
ハンターオフィスで、顔見知りたちと挨拶を交わす、微笑んで別れて、一人になる。この時あなたが隣にいれば、手を繋げただろうか。
休憩所に座って、天を仰ぐ。あなたが傍にいたら、本を出して読み始めたのだろう。
きっと、私はそれをなんとなしに見つめる。
あなたが顔を上げて、私の名前を呼んでくれれば、って思ったら、それだけで切なくなった。
姉妹たちは優しくしてくれると思う、気遣われてる、とも感じるが、苦笑して、気づかない振りをした。
街で綺麗な栞を見かける。
きっと彼女に似合うと思ったから、手にとって、彼女が眠る場所へと足を向けた。
墓前にそれを置く、こみ上げる感情はあるのに涙は出なくて、それは訃報を聞いた時も同じだった。
悲しみは度を超えると出なくなる、本で読んだことがあるけど、それなのかもしれない。
あなたの傍に行きたいと思った事はある、でも、それを喜んでくれるとは思えないので、嫌われたくないし、悲しませたくないから、なしにした。
眠りについても、やっぱりあなたの夢を見る。
初めて会った時と同じ、線が細くて、儚いのに、凛とした綺麗なあなた。
本を読んでいる時の横顔が大好きでした。
ガラスの鈴のような、透き通った綺麗な声で呼んでくれるのが幸せでした。
たくさんの楽しい思い出があって、日々の度にそれを思い出しているけど、同じくらいに未完のまま終わってしまった願いが後悔となって胸を締め付ける。
もうあなたはいない。
ずっと一緒にいられるとは思ってなかったけれど――。
(せめて、最後の言葉くらいは……って、思ってたんですけどね……)
消える姿も、最後の言葉も知らない。彼女がいなくなった以上、夢も願いも一人では描けない。
暖かな日差しで目を覚ます。
覚えていないけれど、あなたの夢だと思った。
いつか、あなたのところに行くから少しだけ待ってて欲しい。
また、逢いたいと思っているから。
+
彼が死んだ時。
確かに何かが壊れるのを感じていたと、アイシュリング(ka2787)は思考の隅で思っていた。
はじめはまだ冷静だったと思う、長年育んで来た優等生の仮面はそうそう剥がれない。
自分の心がいかにショックを受けようと、思考だけは勝手に動いて、最適な判断を下してくれる。
長所? まさか。
慕っていた人が喪われたのに、いつも通りであろうとした自分に反吐がする!
……そう、慕っていた。
彼は人間で、世界の違う人で、まさか自分が、なんて思ったりもしたけど、そんな心ですら、徐々に感化されていくような、眩い人だった。
人間を愚かな生き物だと思っていた自分が、彼の力になって、彼が夢を叶えるのを見たいと願うようになっていた。
ひとは変わるし、惹かれるのにも理由は要らないのだと知った。
彼がいなくなって、思考に苛立ちが増えるようになった。
行動が自棄になり始め、些細な被害や犠牲を見過ごすようになってきた。
これではダメだと、思った事はあったのだ。
仲間に咎められればそれに従い、今まで通り人間を守ろうとした。
欺瞞で心を覆い、目を背けている内に、無念が募っていった。
彼に報いたいなら、するべき事、相応に踏むべき手段があるのはわかっていた。
間違っても復讐など望まれる事はないだろう、甚大な迷惑になる事もわかっている。
でも、彼がいない。心の道標となるべき彼がいなくて、頑張りを認めてくれる彼がいなくて、従うべき背中がいないから、ついに見失ってしまった。
――彼は人間に殺されたの。
信頼を踏みにじり、だまし討ちで、欲のために殺された!
人間は愚かな生き物、知ってたでしょ?
戦いで命を落としたのなら、きっとこんな無念は感じなかった。
まさかこんな形でと、最期の驚愕に染まった顔が忘れられない。
気づけば武器を手に取っていた、破滅に突き進もうとしているのはわかっていたが、自分を止めるほどの気力が残っていなかった。
彼はきっと人間を信じていた、その人間は彼に何をした?
彼の遺体を……人間の手元に留めておく訳にはいかない。
取り戻そう、そして彼に相応しい、清らかな場所に連れて行こう。
そのためにはあいつらが邪魔だ。
輝く彼を疎んで、命を奪った穢らわしい人間。
殺そう、それが個人的な復讐なのかどうかは、最早どうでもよかった。
+
彼女が血を噴いて倒れるのを、呆然としながら見ていた。
一瞬で血の気が引く、冷静な自分が、あの出血量はダメだと告げる。
それを信じたくなくて叫んだ、武器を投げ捨てた手で、彼女の命を留めようと必死に抑えた。
彼女の唇が動く、自分を気にかけてくれた時と同じ笑顔で、血に濡れた手で自分の顔を優しく撫でて……。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の口から、絶望が迸った。
…………。
気づけばまた、自分は武器を手に取っていた。
あの歪虚はどうなっただろうか、彼女の命が失われた後に、自分が殺した気もする。
でも、彼女は戻らない。頬をなでた感触が徐々に消えていくのを感じながら、アルトの心は冷えていった。
大好きな人だった。
たまたま入ったお店だったのに、駆け出しの自分にご飯をくれて、お金がない時は恥ずかしかったけどウェイトレスとして雇ってくれて……。
大切な時間を支えて貰っていた、彼女も覚醒者だったから、幾つもの戦場で背中を預けた、家族以外で素で甘えられる唯一の人だった。
何がダメだったんだろう。
歪虚がこの世に存在する事? 彼女が助けようとした、人質に取られた弱い覚醒者? それとも……力の足りない自分? 或いは……全部か。
最初に独り立ちで依頼を受けた時、助けた老女の笑顔を見て、力を振るうなら、力のない人の代わりに人を助けるのがいいと思った。
でも、力がなくて、悔しい想いをした事もあった、理想を叶えるには必要なんだと思い知った。
だから最強を求めたのだ、嘲笑もされたけど、しなかったことで後悔はしたくなかった。
ああ、そうか、弱い人間には価値がないんだ。
気がついたら、血しぶきが舞っていた。
多分どこかの戦場に乱入したんだと思う、歪虚を近くにいた人間もろとも砕いていた。
恐慌と共に自分から逃げ惑う人間、少しの哀れみと侮蔑を覚えながら、茨の鞭でまとめて薙ぎ払う。
弱いから価値がない。
こいつらは生きてるだけで、いつか他人を犠牲に食いつぶす。
悔しくて憤りがする、人間はこんなに簡単に命を散らす、弱い人間の数だけ、またあの悲劇が起きるかもしれない。
「お前が……お前が弱いのが悪いんだッ……!」
叫びは自身に突き刺さる、自分を責めながら、それしか信じられるものはないと思っていた。
信じ続けなければ、悔しさでどうにかなってしまいそうだった。
かつて、自分が名を奪い取った亜人の王がいた。
その名を簒奪者、茨の王。
……ああ、今度は私がその名を体現しよう、弱い命は全て私の糧になれ。
もしも私が死んだらそれは私が弱かっただけの事。
……彼女を守れなかったくらいだ、弱くて死ぬのも仕方がない。
でも、その前に多くの弱さを道連れにしよう、二度と、ああいった事が起きませんように。
+
紅い空の下にいる。
轟音が響き、鉄が火花を散らし、命が簡単に消える戦場、またの名を地獄。
玉兎 小夜(ka6009)は大剣を両手に一つずつ提げて空の下で踊る。
目に光はなく、表情も抜け落ちている。口だけは笑みの形を作るが、呼吸の度に漏れ出るのは笑いではなく怨嗟の声。
「■■■■■■■ーーーッ!!」
男を斬った、女を斬った。子供も老人も見かけたが分け隔てなく斬り捨てた。
歪虚も獣もまとめて剣の錆にしてやった。
いっぱいいて、いっぱい斬れる。
嬉しくて、悲しい。
いっぱいいっぱい殺せるけど、殺す度にこの世界がどうしようもない事を思い知らされる。
私を好んでくれた人がいた。
愛を囁いてくれた人がいた。
私を受け入れてくれた人がいて、互いに放さないと誓い合った人がいた。
戦場のイメージを忘れた訳ではなかったけど、もう手離す事はできなかったから、絶対に守ると誓って進んでしまった。
戦場がどういう場所かは知っていたはず。
殺した分だけ、殺される可能性がある、大切なものを抱えて踏み入っていい場所じゃない。
血濡れた世界を作ったのは私、この業を、誰よりも知っていたはずだった。
その結末がこれだ、大切な人を、二度に渡って喪った!
「■■■■■■■■■■ーーーーーーッ!!」
仇を斬った、少しでも関係してそうな奴らは、真っ先に斬り捨てた。
なのに満たされない、首を刈っても血を浴びても愉しくない、そんな事はわかっていたけれど、世界が憎くて自分を止められない。
貴女を奪った、君を奪った、二人も奪われた。
世界はいつだって私の大切なものばかり奪う、それが憎くて、殺したくて仕方がない!
躯の片方が軽くなった、どうやら腕が外れてちぎれたらしい。
関係ない、続いて殺そう、素手でもいい、私が死ぬまで殺せるだけ殺す。
見上げるのは一面の紅、空に浮かぶはずの月はなく、星も視えなくなっている。
少しだけ、迷子の気持ちを味わった。それも直に、憎悪へと沈んでいく。
+
何もかも、抜け落ちた気持ちでユリア・クレプト(ka6255)は目の前の紅を見つめていた。
全身にまとわりつく『ソレ』、舐めてみれば生温かく、生臭くて、仄かに甘い。
どうして、こうなったんだっけ……?
…………。
事の始まりは、40年ほど遡る事になる。
当時正真正銘の幼い少女だったユリアには、好きな少年がいた。
それを引き裂いたのは、かつての養父。ユリアの純潔は彼の目の前で踏みにじられ、恋破れ、その心に絶望の種が根付いた。
養父は夫となり、自分と彼の間に息子が生まれた。
自分譲りの容姿をした美しい息子で、その息子も結婚し、今度は孫が生まれた。
傍目から見ると幸せな家庭に視えたかもしれない、事実、悍ましい過去から目を背ければ、幸福な半生だと自分でも思う。
……でも。
くすぶり続けるものは確かにあった、それがどうして爆発したのかは、覚えていなかった。
気づいた時には彼の胸を穿っていた。
骨が砕け、血が噴き出す。引き抜いた拍子に彼の血が全身に吹きかかった。
幾ら成人男性だろうが所詮一般人、覚醒者であるユリアにしてみれば復讐を遂げる事なんて造作もない。
あれから40年、彼は何を思っただろう。
そもそも、彼の思いを聞いたことがあったかどうか。
あたしをどう思っていた? 綺麗で可愛いだけのお人形? それに刃向かわれて驚いたかしら?
だってあんなに酷い事をされた、幾ら愛を囁かれても、その事を思い出すと、間違っても好かれているとは思えなかった。
彼の躯が崩れ落ちる、瞳が光をなくし、命が消えていく。
さぞ絶望しただろう、さぞあたしが憎いだろう。
ざまぁ見ろ――そう思って覗き込んだ夫の顔は、優しく、穏やかな微笑みをしていた。
「なん、で――」
思いを聞いたことなんてなかった、聞く事も出来なかった、だから想像するしかなくて、自分の一方的な思いで決めつけていた。
悍ましい始まりでも、家族だった、暖かった、それの全部が嘘な訳はなかった。
聞きたい、そう今更ながら思った、でも彼の口は自分が封じてしまった。
足に力が入らなくてへたり込む。
恐ろしいほどの後悔と寂しさ、温もりも幸せも、何もかもなかったことにしてしまった。
心は一色ではない、憎しみを上回るほど、彼への愛情は、気づかない内に大きくなっていたのだ。
「あたしは――」
なんて事をしてしまったのか。
今更ながらに失ったものの大きさに気づく。
彼の声を聞きたい、彼に触れたい、でも、彼はいない。
刃を手に取る、それをためらいなく、自分の喉へと突き刺した。
待ってて、あなた。
あたしも、今すぐそちらに――。
大地に雫を落とし、水たまりに漣を立て、大気中に潤いを溢れさせるあなた。
私の名前は外待雨 時雨(ka0227)、雨天の……大切なお友達。
「そのはず、でしょう……?」
…………。
本当の事を言えば、自分だって、自分について回る雨を疎ましく思う時期があった。
自分を一言で罵倒するなら「雨女」……遊び盛りの幼年時代、子どもたちがそれを良しとするはずもない。
愛情と繋がりを求める幼年時代なのに、時雨の傍らには誰もいなくて、雨だけは変わらず窓の外で降り続いていた。
孤独で心が死ぬ寸前だった、何もかもどうでも良くなって、嫌っていた雨の中へと出ていった。
思えば、顔に絶えず降り続ける水滴こそが、久方ぶりの触れ合いだったか。
冷え切った自分の心より、雨は遥かに温かい。
そして悟った――他人がどう自分から距離を取ろうと、雨だけはずっと自分の傍にいてくれるのだと。
……なのに。
なんで、今は雨が降っていないんだろう。
どうしてもう降らないと、確信してしまえるのだろう。
静かだ。
傘を携えて外に出れば、乾いた風が肌を撫でる。
手を伸ばしても指を濡らす感触はなく、傘を打つ滴の音がなく、肌を満たすはずの水の気配が失われている。
「どうして……?」
雨の打つ穏やかな音色が好きだった。
滴が持つ優しい温もりが嬉しかった。。
雨が包んでいるから、涙を拭うように心を洗い流してくれたから、たとえ一人でも自分は悲しみに沈まずに済んだ。
あなたがいるから絶望せずに済んで、それは雨が空と大地をつなぎとめるようにと……恋しさと美しさを知った。
雨が覆わない世界は広く、乾いてて、絶望が心に滲んで行くのを感じていた。
あなたがいないなんて考えられない、だって世界は雨を必要としている、世界のどこかで、必ず降り続けているはずだった。
なら、きっと我が友は行方が知れないだけ、自分が探し続ければ、きっといつかは――。
「どこにいるの……?」
傘をさし、外に出る。
見つめる先は曇りのような晴天。
雨は、降らない。
+
呼吸するようにあなたを想う。
あなたはもういないのに、カティス・フィルム(ka2486)は引き寄せられるかのように想いを馳せる。
馬鹿って言うだろうか、言ってくれたらどれだけ幸せだろうか。
……私は大丈夫、だから、心配しないで欲しい。
いつもの日常、いつもの世界、ただ、あなただけがいない。
ハンターオフィスで、顔見知りたちと挨拶を交わす、微笑んで別れて、一人になる。この時あなたが隣にいれば、手を繋げただろうか。
休憩所に座って、天を仰ぐ。あなたが傍にいたら、本を出して読み始めたのだろう。
きっと、私はそれをなんとなしに見つめる。
あなたが顔を上げて、私の名前を呼んでくれれば、って思ったら、それだけで切なくなった。
姉妹たちは優しくしてくれると思う、気遣われてる、とも感じるが、苦笑して、気づかない振りをした。
街で綺麗な栞を見かける。
きっと彼女に似合うと思ったから、手にとって、彼女が眠る場所へと足を向けた。
墓前にそれを置く、こみ上げる感情はあるのに涙は出なくて、それは訃報を聞いた時も同じだった。
悲しみは度を超えると出なくなる、本で読んだことがあるけど、それなのかもしれない。
あなたの傍に行きたいと思った事はある、でも、それを喜んでくれるとは思えないので、嫌われたくないし、悲しませたくないから、なしにした。
眠りについても、やっぱりあなたの夢を見る。
初めて会った時と同じ、線が細くて、儚いのに、凛とした綺麗なあなた。
本を読んでいる時の横顔が大好きでした。
ガラスの鈴のような、透き通った綺麗な声で呼んでくれるのが幸せでした。
たくさんの楽しい思い出があって、日々の度にそれを思い出しているけど、同じくらいに未完のまま終わってしまった願いが後悔となって胸を締め付ける。
もうあなたはいない。
ずっと一緒にいられるとは思ってなかったけれど――。
(せめて、最後の言葉くらいは……って、思ってたんですけどね……)
消える姿も、最後の言葉も知らない。彼女がいなくなった以上、夢も願いも一人では描けない。
暖かな日差しで目を覚ます。
覚えていないけれど、あなたの夢だと思った。
いつか、あなたのところに行くから少しだけ待ってて欲しい。
また、逢いたいと思っているから。
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彼が死んだ時。
確かに何かが壊れるのを感じていたと、アイシュリング(ka2787)は思考の隅で思っていた。
はじめはまだ冷静だったと思う、長年育んで来た優等生の仮面はそうそう剥がれない。
自分の心がいかにショックを受けようと、思考だけは勝手に動いて、最適な判断を下してくれる。
長所? まさか。
慕っていた人が喪われたのに、いつも通りであろうとした自分に反吐がする!
……そう、慕っていた。
彼は人間で、世界の違う人で、まさか自分が、なんて思ったりもしたけど、そんな心ですら、徐々に感化されていくような、眩い人だった。
人間を愚かな生き物だと思っていた自分が、彼の力になって、彼が夢を叶えるのを見たいと願うようになっていた。
ひとは変わるし、惹かれるのにも理由は要らないのだと知った。
彼がいなくなって、思考に苛立ちが増えるようになった。
行動が自棄になり始め、些細な被害や犠牲を見過ごすようになってきた。
これではダメだと、思った事はあったのだ。
仲間に咎められればそれに従い、今まで通り人間を守ろうとした。
欺瞞で心を覆い、目を背けている内に、無念が募っていった。
彼に報いたいなら、するべき事、相応に踏むべき手段があるのはわかっていた。
間違っても復讐など望まれる事はないだろう、甚大な迷惑になる事もわかっている。
でも、彼がいない。心の道標となるべき彼がいなくて、頑張りを認めてくれる彼がいなくて、従うべき背中がいないから、ついに見失ってしまった。
――彼は人間に殺されたの。
信頼を踏みにじり、だまし討ちで、欲のために殺された!
人間は愚かな生き物、知ってたでしょ?
戦いで命を落としたのなら、きっとこんな無念は感じなかった。
まさかこんな形でと、最期の驚愕に染まった顔が忘れられない。
気づけば武器を手に取っていた、破滅に突き進もうとしているのはわかっていたが、自分を止めるほどの気力が残っていなかった。
彼はきっと人間を信じていた、その人間は彼に何をした?
彼の遺体を……人間の手元に留めておく訳にはいかない。
取り戻そう、そして彼に相応しい、清らかな場所に連れて行こう。
そのためにはあいつらが邪魔だ。
輝く彼を疎んで、命を奪った穢らわしい人間。
殺そう、それが個人的な復讐なのかどうかは、最早どうでもよかった。
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彼女が血を噴いて倒れるのを、呆然としながら見ていた。
一瞬で血の気が引く、冷静な自分が、あの出血量はダメだと告げる。
それを信じたくなくて叫んだ、武器を投げ捨てた手で、彼女の命を留めようと必死に抑えた。
彼女の唇が動く、自分を気にかけてくれた時と同じ笑顔で、血に濡れた手で自分の顔を優しく撫でて……。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の口から、絶望が迸った。
…………。
気づけばまた、自分は武器を手に取っていた。
あの歪虚はどうなっただろうか、彼女の命が失われた後に、自分が殺した気もする。
でも、彼女は戻らない。頬をなでた感触が徐々に消えていくのを感じながら、アルトの心は冷えていった。
大好きな人だった。
たまたま入ったお店だったのに、駆け出しの自分にご飯をくれて、お金がない時は恥ずかしかったけどウェイトレスとして雇ってくれて……。
大切な時間を支えて貰っていた、彼女も覚醒者だったから、幾つもの戦場で背中を預けた、家族以外で素で甘えられる唯一の人だった。
何がダメだったんだろう。
歪虚がこの世に存在する事? 彼女が助けようとした、人質に取られた弱い覚醒者? それとも……力の足りない自分? 或いは……全部か。
最初に独り立ちで依頼を受けた時、助けた老女の笑顔を見て、力を振るうなら、力のない人の代わりに人を助けるのがいいと思った。
でも、力がなくて、悔しい想いをした事もあった、理想を叶えるには必要なんだと思い知った。
だから最強を求めたのだ、嘲笑もされたけど、しなかったことで後悔はしたくなかった。
ああ、そうか、弱い人間には価値がないんだ。
気がついたら、血しぶきが舞っていた。
多分どこかの戦場に乱入したんだと思う、歪虚を近くにいた人間もろとも砕いていた。
恐慌と共に自分から逃げ惑う人間、少しの哀れみと侮蔑を覚えながら、茨の鞭でまとめて薙ぎ払う。
弱いから価値がない。
こいつらは生きてるだけで、いつか他人を犠牲に食いつぶす。
悔しくて憤りがする、人間はこんなに簡単に命を散らす、弱い人間の数だけ、またあの悲劇が起きるかもしれない。
「お前が……お前が弱いのが悪いんだッ……!」
叫びは自身に突き刺さる、自分を責めながら、それしか信じられるものはないと思っていた。
信じ続けなければ、悔しさでどうにかなってしまいそうだった。
かつて、自分が名を奪い取った亜人の王がいた。
その名を簒奪者、茨の王。
……ああ、今度は私がその名を体現しよう、弱い命は全て私の糧になれ。
もしも私が死んだらそれは私が弱かっただけの事。
……彼女を守れなかったくらいだ、弱くて死ぬのも仕方がない。
でも、その前に多くの弱さを道連れにしよう、二度と、ああいった事が起きませんように。
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紅い空の下にいる。
轟音が響き、鉄が火花を散らし、命が簡単に消える戦場、またの名を地獄。
玉兎 小夜(ka6009)は大剣を両手に一つずつ提げて空の下で踊る。
目に光はなく、表情も抜け落ちている。口だけは笑みの形を作るが、呼吸の度に漏れ出るのは笑いではなく怨嗟の声。
「■■■■■■■ーーーッ!!」
男を斬った、女を斬った。子供も老人も見かけたが分け隔てなく斬り捨てた。
歪虚も獣もまとめて剣の錆にしてやった。
いっぱいいて、いっぱい斬れる。
嬉しくて、悲しい。
いっぱいいっぱい殺せるけど、殺す度にこの世界がどうしようもない事を思い知らされる。
私を好んでくれた人がいた。
愛を囁いてくれた人がいた。
私を受け入れてくれた人がいて、互いに放さないと誓い合った人がいた。
戦場のイメージを忘れた訳ではなかったけど、もう手離す事はできなかったから、絶対に守ると誓って進んでしまった。
戦場がどういう場所かは知っていたはず。
殺した分だけ、殺される可能性がある、大切なものを抱えて踏み入っていい場所じゃない。
血濡れた世界を作ったのは私、この業を、誰よりも知っていたはずだった。
その結末がこれだ、大切な人を、二度に渡って喪った!
「■■■■■■■■■■ーーーーーーッ!!」
仇を斬った、少しでも関係してそうな奴らは、真っ先に斬り捨てた。
なのに満たされない、首を刈っても血を浴びても愉しくない、そんな事はわかっていたけれど、世界が憎くて自分を止められない。
貴女を奪った、君を奪った、二人も奪われた。
世界はいつだって私の大切なものばかり奪う、それが憎くて、殺したくて仕方がない!
躯の片方が軽くなった、どうやら腕が外れてちぎれたらしい。
関係ない、続いて殺そう、素手でもいい、私が死ぬまで殺せるだけ殺す。
見上げるのは一面の紅、空に浮かぶはずの月はなく、星も視えなくなっている。
少しだけ、迷子の気持ちを味わった。それも直に、憎悪へと沈んでいく。
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何もかも、抜け落ちた気持ちでユリア・クレプト(ka6255)は目の前の紅を見つめていた。
全身にまとわりつく『ソレ』、舐めてみれば生温かく、生臭くて、仄かに甘い。
どうして、こうなったんだっけ……?
…………。
事の始まりは、40年ほど遡る事になる。
当時正真正銘の幼い少女だったユリアには、好きな少年がいた。
それを引き裂いたのは、かつての養父。ユリアの純潔は彼の目の前で踏みにじられ、恋破れ、その心に絶望の種が根付いた。
養父は夫となり、自分と彼の間に息子が生まれた。
自分譲りの容姿をした美しい息子で、その息子も結婚し、今度は孫が生まれた。
傍目から見ると幸せな家庭に視えたかもしれない、事実、悍ましい過去から目を背ければ、幸福な半生だと自分でも思う。
……でも。
くすぶり続けるものは確かにあった、それがどうして爆発したのかは、覚えていなかった。
気づいた時には彼の胸を穿っていた。
骨が砕け、血が噴き出す。引き抜いた拍子に彼の血が全身に吹きかかった。
幾ら成人男性だろうが所詮一般人、覚醒者であるユリアにしてみれば復讐を遂げる事なんて造作もない。
あれから40年、彼は何を思っただろう。
そもそも、彼の思いを聞いたことがあったかどうか。
あたしをどう思っていた? 綺麗で可愛いだけのお人形? それに刃向かわれて驚いたかしら?
だってあんなに酷い事をされた、幾ら愛を囁かれても、その事を思い出すと、間違っても好かれているとは思えなかった。
彼の躯が崩れ落ちる、瞳が光をなくし、命が消えていく。
さぞ絶望しただろう、さぞあたしが憎いだろう。
ざまぁ見ろ――そう思って覗き込んだ夫の顔は、優しく、穏やかな微笑みをしていた。
「なん、で――」
思いを聞いたことなんてなかった、聞く事も出来なかった、だから想像するしかなくて、自分の一方的な思いで決めつけていた。
悍ましい始まりでも、家族だった、暖かった、それの全部が嘘な訳はなかった。
聞きたい、そう今更ながら思った、でも彼の口は自分が封じてしまった。
足に力が入らなくてへたり込む。
恐ろしいほどの後悔と寂しさ、温もりも幸せも、何もかもなかったことにしてしまった。
心は一色ではない、憎しみを上回るほど、彼への愛情は、気づかない内に大きくなっていたのだ。
「あたしは――」
なんて事をしてしまったのか。
今更ながらに失ったものの大きさに気づく。
彼の声を聞きたい、彼に触れたい、でも、彼はいない。
刃を手に取る、それをためらいなく、自分の喉へと突き刺した。
待ってて、あなた。
あたしも、今すぐそちらに――。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 14人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/01 11:39:13 |