ゲスト
(ka0000)
【天誓】アイドルをはじめましょう
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/05 15:00
- 完成日
- 2018/01/12 20:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
さて、【天誓】作戦も終わった。
帝国には平穏がおとずれていた。
あるいは、次の嵐までの束の間の休息。
この時を心ゆくまで堪能するのもよし。次の戦に備えて準備するもよし。
なんにせよ、また何か、新しいことへ踏み出せとばかりに時間は人生を後押ししてくる。
いや、人だけではないのかもしれない。
英霊、アラベラ・クララは、自身のこれからについて考えていた。
場所はコロッセオ・シングスピラの一室。現在、暫定的にコロッセオ・シングスピラとその周辺が精霊エリアなっており、アラベラもここでいまのところ生活しているのだった。
アラベラは英霊、それも帝国に英雄譚としてのこる絶火の騎士のひとりだった。
英雄譚においてはとても高いヒールの鎧を着込み華やかなる戦いをしたと伝わり、『鉄靴令嬢』の渾名も持つが、実際は目立つことが好きなだけの困ったちゃんである。
賞賛も、悪罵も、憐憫も、嫉妬も、自身に向けられたものなら嬉々としてそれを受け入れた女騎士。それがアラベラ・クララだった。
最後は大勢の敵を前に、たったひとり怯むことなく戦って死んだ。友軍はそれを止めた。しかし、アラベラはそんな心配すら自身に向けられたものなら喜んで受け入れ、より心配させるために敵へ挑んでいったのだ。
そして死後、彼女は、英霊として平野に顕現し、そこをスケルトンに襲われた。しかし、駆けつけたハンターと共闘し説得され、帝国に、ハンターたちに力を貸すことに決めたのだ。
そう。
その時の説得の言葉は、
「目立つことが好きなら、アイドルを目指してみたらどうか」
というものだった。
話を聞く限り、アラベラはこれほど自分の性質にあった職業はないと思った。であるから、アイドルを目指すことにした。
しかし、問題があった。
「アイドルとは、具体的にはなにをするものなのでしょう?」
アラベラは考える。
でも、考えてもわからなかった。
だから……
「よし、わからないなら、ハンターに聞けばいいですね!」
アイドルを教えたのはハンターだ。であるなら、ハンターにその内実を聞けばいいのである。
こうして、アラベラのアイドルへの一歩が踏み出される、らしい。
帝国には平穏がおとずれていた。
あるいは、次の嵐までの束の間の休息。
この時を心ゆくまで堪能するのもよし。次の戦に備えて準備するもよし。
なんにせよ、また何か、新しいことへ踏み出せとばかりに時間は人生を後押ししてくる。
いや、人だけではないのかもしれない。
英霊、アラベラ・クララは、自身のこれからについて考えていた。
場所はコロッセオ・シングスピラの一室。現在、暫定的にコロッセオ・シングスピラとその周辺が精霊エリアなっており、アラベラもここでいまのところ生活しているのだった。
アラベラは英霊、それも帝国に英雄譚としてのこる絶火の騎士のひとりだった。
英雄譚においてはとても高いヒールの鎧を着込み華やかなる戦いをしたと伝わり、『鉄靴令嬢』の渾名も持つが、実際は目立つことが好きなだけの困ったちゃんである。
賞賛も、悪罵も、憐憫も、嫉妬も、自身に向けられたものなら嬉々としてそれを受け入れた女騎士。それがアラベラ・クララだった。
最後は大勢の敵を前に、たったひとり怯むことなく戦って死んだ。友軍はそれを止めた。しかし、アラベラはそんな心配すら自身に向けられたものなら喜んで受け入れ、より心配させるために敵へ挑んでいったのだ。
そして死後、彼女は、英霊として平野に顕現し、そこをスケルトンに襲われた。しかし、駆けつけたハンターと共闘し説得され、帝国に、ハンターたちに力を貸すことに決めたのだ。
そう。
その時の説得の言葉は、
「目立つことが好きなら、アイドルを目指してみたらどうか」
というものだった。
話を聞く限り、アラベラはこれほど自分の性質にあった職業はないと思った。であるから、アイドルを目指すことにした。
しかし、問題があった。
「アイドルとは、具体的にはなにをするものなのでしょう?」
アラベラは考える。
でも、考えてもわからなかった。
だから……
「よし、わからないなら、ハンターに聞けばいいですね!」
アイドルを教えたのはハンターだ。であるなら、ハンターにその内実を聞けばいいのである。
こうして、アラベラのアイドルへの一歩が踏み出される、らしい。
リプレイ本文
目立つことが好きだった。
そのために戦場へ行き、騎士となった。
ああ、けれど、妾は……
「ようこそ、おいでくださいました」
「アラベラさん、今日はよろしくお願いしますね」
Uisca Amhran(ka0754)がぺこりとお辞儀する。その所作に衣服を飾る天使のような羽がふわりと舞うのだった。
「綺麗な衣服ですね」
「ええ、これはあいどる衣装なんです」
Uiscaはくるりと一回転して衣服の全貌をアラベラ・クララに示した。
アラベラは鎧ともドレスとも違う趣がある服だな、と思った。
「アラベラさんにもきっと、似合いと思いますよ? だってアイドルの衣装には女の子の夢が詰まっているんですから」
央崎 遥華(ka5644)が言った。
「夢、ですか」
アラベラはぽつりと呟いた。
「オーケーオーケー、アイドルについて、だな」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は椅子にすでに腰掛けており、泰然と足を組んでいる様はさながら大物プロデューサーのようだった。
「ンなら過去に10万人のトップアイドルをプロデュースしてきたこのデスドクロ様が! 特別に……そう特別にだ、講義してやろうじゃねぇの」
デスドクロは、どこか秘密の取引をするように声を潜めていうのだった。
「私も、アイドルについて、自分になりに話させてもらうよ」鞍馬 真(ka5819)がやんわりと言った。「それじゃあ、はじめようか、アラベラさん」
「ええ」
アラベラは今一度姿勢を正した。
「さあ――アイドルをはじめましょう」
●序
子供の頃から、容姿についてはよく褒められた。同時に、嫉妬と羨望に晒された。でも、妾にはそんなものが心地よかった。だって、相手が妾のことを考えてくれている。この何が確かかわからない世界で、思われている、ということは、自分が幽霊でない証に思えた。
ああ、けれど、妾は……
「皆さんも話される『あいどる』は大きく2つあるのです」
Uiscaが説明する。
「1つ目は職業のあいどる」
人差し指を立てて続ける。
「これは元々リアルブルーで生まれた職業で主に歌や踊りで観客を魅了し楽しませる職業なのです。でもその歌や踊りに物理的な効果はないので。観客を自らのパファーマンスだけで魅了する真の実力が必要となる職業です」
さらに、Uiscaは中指を立てる。
「もうひとつはそのあいどるの力を覚醒者の研究に取り入れリアルブルーで開発された特殊クラスの奏唱士(アイドル)です。特定のリズムに乗せた歌やダンスを通じ【歌術】と呼ばれる魔法を使う能力を持ちます。これはあくまで戦う為の能力なのです。例えばテンプテーションの様に強制的に此方に向かせる能力などがあるのです。失礼ですが、実演して見せますね?」
Uiscaは、アラベラに向けてテンプテーションをした。Uiscaとアラベラが視線でしばし結ばれた。
「あるいは、こんなこともできるんだ」
さらに真が立ち上がり、腰に差していた剣を抜きはなった。そして、朗々と歌を歌い、ゆるりと剣舞を舞ってみせる。
「天誓作戦で、同じ戦場に奏唱士もいたからイメージは掴みやすいんじゃないかな」
真は舞を終え、納刀し再び着席した。
「広義のアイドルとは少し違うけど、クラスとして奏唱士は戦場で戦いながら歌と踊りで周囲を鼓舞するんだ」
アラベラは先の大戦での奏唱士の活躍を思い出していた。
「アラベラさんには、この2つどちらかもしくは両方を目指せます」
と、Uiscaが告げる。
「でも2つは似て非なるもの……。あいどるで最も『目立ち』たいならどちらかに絞って活動する事を勧めるのです。……私は奏唱士ですが憧れるのは職業のあいどるなのです! アラベラさんは、どうされますか?」
アラベラは顎に指を当ててしばし考えた。
「妾は、職業としてのアイドルを目指したいと思います」
「ということは、俺様のテリトリーだな?」
デスドクロが筋肉質の胸を張って、手を腰に当てて、尊大に言った。
「アイドルが何をするものなのか、ってのは中々に奥が深ぇ問題だが……」
デスドクロは指で顎を撫でながら、言葉を紡いだ。
「例えば、絶火騎士が何をするものなのかって問われたとすりゃ、そりゃー詰まるところ『戦う者』だろ。そういう意味じゃアイドルってのは『歌う者』だ」
「歌……吟遊詩人のような?」
「そうじゃねぇ。手前自身のあり方を、その想いを詩に紡ぎ、己を表現する、そいつがアイドルってもんだな。」
「妾自身のあり方、ですか。妾、目立つことが好きですわ」
「目立つのが好きっつーのはそれだけで十分な資質を備えちゃいるが……」デスドクロは生徒を諭す教師のように、静かに語り続けた。「戦うことが好きってだけで騎士になれるわけじゃねぇだろ?」
ふむ、とアラベラは考えた。
「なにで目立つのが一番好きなんだろう」真の言葉が、アラベラの思考に一石を投じた。「アラベラさんは目立つのが好きらしいけど、その、一番好きな何かで魅せるようなアイドルになるのが良いんじゃないかな」
「一番……何しろ、ほとんどを戦場で過ごしましたし、ですが、これは目立つための手段のひとつだったわけで……」
「じゃあ、そのなかで、なにか嬉しいことや、楽しいことはなかった?」
真が問いかける。
アラベラは、しばらくしてなにか思い出したように、真へと向き直った。
「思い出しました。とある激戦区に援軍で駆けつけて、なんとか勝利を収めたときの話です。そこを守っていた戦士たちにとても感謝されました。わざわざ妾の手を握ってまで感謝の言葉を述べたのです。あれは、なんといいますか、忘れられない思い出です」
アラベラは、無表情であったが懐かしそうにそのことを語った。
「つまり、人を喜ばせた記憶ってことか?」と、デスドクロ。「そりゃ、アイドルにとって、人を喜ばせるのは重要だからな」
「そうなんですか?」
アラベラははてな、と首をかしげた。
「私なりの考え方だと、アイドルとは、何かで目立って皆から愛され、場合によっては崇拝までされる存在、だと思うんだ」真が語る。「明確な定義はないから、人それぞれだけどね。それに、戦場の思い出か……。私の感覚を押し付ける訳じゃないけど、アラベラさんは戦場のアイドル、というのが似合うかなと思うね」
「そして、真にアイドルを目指すんなら、何よりもサポートしてくれる連中を探す必要があるな。万を超える聴衆を熱狂させる為にゃ、音も演出も相応に派手にする必要がある以上、一人じゃ限界がある」
デスドクロが言った。
サポートしてくれる連中……その言葉がアラベラの頭蓋でこだました。
「目立つことが好きなのは大きな武器だし、それだけで人前に立つ準備はできていると思うのですっ」
遥華が身を乗り出して言った。
なにか思いに沈んでいたアラベラが、はっと我に帰る。
「あとは存在感と立ち振舞いで、どれだけで魅了できるかだと思いますっ。そういうわけで……」
遥華が、瞳をきらきら輝かせて、さらに続けた。
「アイドルらしいポーズの練習をしましょう!」
●破
英霊として顕現した時、妾は広い平原にいた。ほかに誰もいない平原にいた。
妾は英雄譚として残っていたけれど、人々の間に顕現することはなかった。
きっと、妾は……
「はりきっていきましょう!」
遥華もまたアイドル衣装を着ていた。フリルが動くたびに可憐に揺れている。
「どうぞ、よろしくお願いします」
アラベラは遥華と向き合って立っていた。アラベラは鎧こそ来ていないが、靴は相変わらずの鉄靴である。
「堂々としている姿がアラベラさんらしいから、歌や踊りの最中は堂々とダイナミックにしたほうが、似合うと思うんですよね」
「そういうことなら妾、ちょっと得意ですよ?」
アラベラは早速、堂々とした立ち姿を見せる。
「うんうん、いい感じです。それ以外は時々程度でちょっと女の子らしさを混ぜたり、笑顔を見せるといいんじゃないかなーって」
「女の子らしさ?」
「大丈夫です、練習すれば、きっとできます。まずは……」
遥華はアラベラに寄り添うようにして立ち、その右手にポーズを作ってあげる。
「人差し指と中指のちょうどいい開き方、形。これは感覚でOKです。それを顔にできるだけ近い位置で……」
そうして、一通り形がつくれると、遥華は、アラベラから離れて立ち、お手本を見せた。
いわゆるピースサインを片手に作り、それを横に倒し、人差し指と中指で片目を上下から挟むような位置に持ってくる。
「こんな感じっ☆」
遥華がぱちり、とお手本を決めた。それは目元から流星が飛び出すかのような、可憐でキュートなポーズだった。
「なるほど! さっそくやってみます!」
アラベラは、遥華を真似て、キラっ☆という効果音が聞こえそうなアイドルポーズをとった。
「いいかんじです! もうちょっと力を抜いてもいいかもしれないです!」
「つまり、こうっ☆」
「そうです!」
遥華とアラベラはお互い興奮のあまり、小鹿のようにぴょんぴょん跳ねながら喜び合っていた。
「アイドルといえば、ダンスと歌です!」
さらに遥華が続ける。
「いまのポーズと歌とダンスを合わせると、こんなかんじになるのです!」
遥華は、マーキス・ソングを発動し、キレのあるステップと甘い歌声を披露した。そして最後に決めポーズ☆
「こうしてアイドルは、観客を熱狂させながら一体感を得て、自分も楽しむのです。自分も、他人も巻き込んで、みんなで同じ時を楽しむ。それが、アイドルだと思うんです」
遥華は、運動のためか紅潮した顔に幸せそうな表情を浮かべていた。
「そういえば、Uiscaに遥華は、どうしてアイドルをしているのです?」
アラベラは、ここで疑問を口にした。
彼女たちには、アイドルであることに喜びがある。それは、アラベラが目立つことによって得る喜びとは内実を異にしているようだ。
「私は辺境の聖地で白龍さまを祀る巫女でもあります」
Uiscaは自身の出自を語り始めた。
「巫女な事は誇りだけどリアルブルーの『あいどる』という人に夢を与える素敵な人達の話を聞いて『あいどる』をしたいと思ったのです」
アイドルはただ華々しいだけではない。時には希望を、時には夢を、時には勇気を他人に与えることもある、つまり、歌や踊りで人々を鼓舞することができる人のことなのだろう。
「私は……2年前にバレンタインの依頼で観客の前で歌って踊って、あの時の気持ちは忘れられないんです」
遥華の青い瞳は過去を見つめている。その顔は自然ほころんだ。きっと鮮烈で、色彩豊かな幸せな思い出なのだろう。
2人に共通しているのは、楽しむこと、他人に夢を与えることなど、人間の正の感情を揺り動かすのがアイドルということだ。
●急
知っていた。妾は軍隊で孤立していることを。問題行動が多いとよく言われていたもの。
でも、目立つと孤立はちょっと、似ている。
彼らは妾を持て余していた。死後になって思い知った。きっと人間たちにとって妾という存在は、伝承に語られるくらいがちょうどいい距離感なのだろう、と。
だから、妾は帝都より離れた地で顕現してしまった。
だって、妾は……
「どうしたんだい、アラベラさん」
アラベラはコロッセオ・シングスピラの客席のひとつに腰掛けていた。
真は彼女の隣に座った。
アラベラは考えていた。彼女は最初、アイドルとは自分にうってつけの職業だと思った。しかし、今日、その内実を聞いてみれば、大衆とともに楽しみ、また彼らを鼓舞するのがアイドルだと聞かされた。
ただ、目立つだけではだめ。それは、デスドクロの言うように、戦うだけで絶火の騎士にはなれないのと同じだ。
「妾は、確かに騎士として戦果はあげました。しかし、妾はどこか、疎んじられていたのも事実です」
アラベラは自身の、自分に向けられていればあらゆる感情を是認する、という気質とアイドルはあまりにかけ離れているのではないか、と悩んでいたのだ。
一陣の風が真と、アラベラの髪を揺らしていく。
「でも、アラベラさんは、かつて戦場で助けた戦士にお礼を言われたことを大切そうに語っていたじゃないか」
そう、いつも自信満々な笑顔を浮かべているアラベラが唯一表情を変えたのがあの時だった。微笑みこそしなかったが、大切なものを壊さないようにそっと扱っているような表情だった。
「でも、それ以上に、自軍も犠牲にしました」
「だから、みんなで何かをするのが無理だと?」
「そう思えて仕方ありません」
沈黙が横たわろうとした刹那、どこからか高笑いが聞こえて来た。
「そんなことに悩んでいたのか、絶火騎士!」
デスドクロである。風をはらんで闇色のマントが舞い上がる。
「天誓作戦で、ともに戦ったのを忘れたとは言わせねぇぜ!」
「アラベラさん、きみは自分が孤立していたと言うけれど、それでも伝承に歌われた英霊なんだ。どうあれ、人々がきみを忘れなかったのは事実。たしかに、いろいろあったようだけど、助けた人もいるし、それを覚えているきみ自身もいる。それで十分じゃないかな」
真は、アラベラに語りかけた。転移時に記憶に欠けができてしまった真だからこそ、アラベラの記憶を無下にできなかったのであろう。
「そうだぜ。俺様が付き合ってやってもいいが……いや、全米ヒットチャート10年連続1位を飾ったデスドクロ様が表立っちゃ誰の為にもならねぇな。作詞作曲程度で良けりゃ協力してやるぜ」
と、デスドクロも言う。
「絶火なら帝国には相当コネも効くだろ、最短ルートを進むんなら帝国第一師団の帝国歌舞音曲部隊。ココに行きゃノウハウ持った連中がそこそこいるんで力になってくれるハズだ」
「そうですよ、アラベラさん!」
遥華とUiscaもやってきた。
「そんな顔しないでください。さっきも言ったじゃないですか。堂々としている姿がアラベラさんらしいって」
「目指す、と決めたなら、がんばりましょう」
Uiscaが風になびく金髪を手のひらで抑えて言う。
「もう一度、英霊として生きられるんです。強く生きれば、きっと扉はひらけますよ」
アラベラは、孤立していたけれど、果たして、孤独だったのだろうか。それはアラベラにもわからなかった。
けれど、もしアイドルという職業を纏うことで、愛されるというのなら。助け合う、ということで他人を必要とすることができるのなら。彼女は本当に孤独では無くなるのだろう。
「……今までの生き方を否定はしません。こうして英霊として呼び出されたのが間違いであるはずがない。だからこそ、今度は妾を呼んでくれた人々のためになりたいと思います」
そうして、アラベラは、ハンターたちを見た。
「ここが、新しいスタート地点です。みなさま、お覚悟なさいませ」
その表情はいつも通り自信ありげな、それでいて出会った当初よりも柔らかい表情であった。
そのために戦場へ行き、騎士となった。
ああ、けれど、妾は……
「ようこそ、おいでくださいました」
「アラベラさん、今日はよろしくお願いしますね」
Uisca Amhran(ka0754)がぺこりとお辞儀する。その所作に衣服を飾る天使のような羽がふわりと舞うのだった。
「綺麗な衣服ですね」
「ええ、これはあいどる衣装なんです」
Uiscaはくるりと一回転して衣服の全貌をアラベラ・クララに示した。
アラベラは鎧ともドレスとも違う趣がある服だな、と思った。
「アラベラさんにもきっと、似合いと思いますよ? だってアイドルの衣装には女の子の夢が詰まっているんですから」
央崎 遥華(ka5644)が言った。
「夢、ですか」
アラベラはぽつりと呟いた。
「オーケーオーケー、アイドルについて、だな」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は椅子にすでに腰掛けており、泰然と足を組んでいる様はさながら大物プロデューサーのようだった。
「ンなら過去に10万人のトップアイドルをプロデュースしてきたこのデスドクロ様が! 特別に……そう特別にだ、講義してやろうじゃねぇの」
デスドクロは、どこか秘密の取引をするように声を潜めていうのだった。
「私も、アイドルについて、自分になりに話させてもらうよ」鞍馬 真(ka5819)がやんわりと言った。「それじゃあ、はじめようか、アラベラさん」
「ええ」
アラベラは今一度姿勢を正した。
「さあ――アイドルをはじめましょう」
●序
子供の頃から、容姿についてはよく褒められた。同時に、嫉妬と羨望に晒された。でも、妾にはそんなものが心地よかった。だって、相手が妾のことを考えてくれている。この何が確かかわからない世界で、思われている、ということは、自分が幽霊でない証に思えた。
ああ、けれど、妾は……
「皆さんも話される『あいどる』は大きく2つあるのです」
Uiscaが説明する。
「1つ目は職業のあいどる」
人差し指を立てて続ける。
「これは元々リアルブルーで生まれた職業で主に歌や踊りで観客を魅了し楽しませる職業なのです。でもその歌や踊りに物理的な効果はないので。観客を自らのパファーマンスだけで魅了する真の実力が必要となる職業です」
さらに、Uiscaは中指を立てる。
「もうひとつはそのあいどるの力を覚醒者の研究に取り入れリアルブルーで開発された特殊クラスの奏唱士(アイドル)です。特定のリズムに乗せた歌やダンスを通じ【歌術】と呼ばれる魔法を使う能力を持ちます。これはあくまで戦う為の能力なのです。例えばテンプテーションの様に強制的に此方に向かせる能力などがあるのです。失礼ですが、実演して見せますね?」
Uiscaは、アラベラに向けてテンプテーションをした。Uiscaとアラベラが視線でしばし結ばれた。
「あるいは、こんなこともできるんだ」
さらに真が立ち上がり、腰に差していた剣を抜きはなった。そして、朗々と歌を歌い、ゆるりと剣舞を舞ってみせる。
「天誓作戦で、同じ戦場に奏唱士もいたからイメージは掴みやすいんじゃないかな」
真は舞を終え、納刀し再び着席した。
「広義のアイドルとは少し違うけど、クラスとして奏唱士は戦場で戦いながら歌と踊りで周囲を鼓舞するんだ」
アラベラは先の大戦での奏唱士の活躍を思い出していた。
「アラベラさんには、この2つどちらかもしくは両方を目指せます」
と、Uiscaが告げる。
「でも2つは似て非なるもの……。あいどるで最も『目立ち』たいならどちらかに絞って活動する事を勧めるのです。……私は奏唱士ですが憧れるのは職業のあいどるなのです! アラベラさんは、どうされますか?」
アラベラは顎に指を当ててしばし考えた。
「妾は、職業としてのアイドルを目指したいと思います」
「ということは、俺様のテリトリーだな?」
デスドクロが筋肉質の胸を張って、手を腰に当てて、尊大に言った。
「アイドルが何をするものなのか、ってのは中々に奥が深ぇ問題だが……」
デスドクロは指で顎を撫でながら、言葉を紡いだ。
「例えば、絶火騎士が何をするものなのかって問われたとすりゃ、そりゃー詰まるところ『戦う者』だろ。そういう意味じゃアイドルってのは『歌う者』だ」
「歌……吟遊詩人のような?」
「そうじゃねぇ。手前自身のあり方を、その想いを詩に紡ぎ、己を表現する、そいつがアイドルってもんだな。」
「妾自身のあり方、ですか。妾、目立つことが好きですわ」
「目立つのが好きっつーのはそれだけで十分な資質を備えちゃいるが……」デスドクロは生徒を諭す教師のように、静かに語り続けた。「戦うことが好きってだけで騎士になれるわけじゃねぇだろ?」
ふむ、とアラベラは考えた。
「なにで目立つのが一番好きなんだろう」真の言葉が、アラベラの思考に一石を投じた。「アラベラさんは目立つのが好きらしいけど、その、一番好きな何かで魅せるようなアイドルになるのが良いんじゃないかな」
「一番……何しろ、ほとんどを戦場で過ごしましたし、ですが、これは目立つための手段のひとつだったわけで……」
「じゃあ、そのなかで、なにか嬉しいことや、楽しいことはなかった?」
真が問いかける。
アラベラは、しばらくしてなにか思い出したように、真へと向き直った。
「思い出しました。とある激戦区に援軍で駆けつけて、なんとか勝利を収めたときの話です。そこを守っていた戦士たちにとても感謝されました。わざわざ妾の手を握ってまで感謝の言葉を述べたのです。あれは、なんといいますか、忘れられない思い出です」
アラベラは、無表情であったが懐かしそうにそのことを語った。
「つまり、人を喜ばせた記憶ってことか?」と、デスドクロ。「そりゃ、アイドルにとって、人を喜ばせるのは重要だからな」
「そうなんですか?」
アラベラははてな、と首をかしげた。
「私なりの考え方だと、アイドルとは、何かで目立って皆から愛され、場合によっては崇拝までされる存在、だと思うんだ」真が語る。「明確な定義はないから、人それぞれだけどね。それに、戦場の思い出か……。私の感覚を押し付ける訳じゃないけど、アラベラさんは戦場のアイドル、というのが似合うかなと思うね」
「そして、真にアイドルを目指すんなら、何よりもサポートしてくれる連中を探す必要があるな。万を超える聴衆を熱狂させる為にゃ、音も演出も相応に派手にする必要がある以上、一人じゃ限界がある」
デスドクロが言った。
サポートしてくれる連中……その言葉がアラベラの頭蓋でこだました。
「目立つことが好きなのは大きな武器だし、それだけで人前に立つ準備はできていると思うのですっ」
遥華が身を乗り出して言った。
なにか思いに沈んでいたアラベラが、はっと我に帰る。
「あとは存在感と立ち振舞いで、どれだけで魅了できるかだと思いますっ。そういうわけで……」
遥華が、瞳をきらきら輝かせて、さらに続けた。
「アイドルらしいポーズの練習をしましょう!」
●破
英霊として顕現した時、妾は広い平原にいた。ほかに誰もいない平原にいた。
妾は英雄譚として残っていたけれど、人々の間に顕現することはなかった。
きっと、妾は……
「はりきっていきましょう!」
遥華もまたアイドル衣装を着ていた。フリルが動くたびに可憐に揺れている。
「どうぞ、よろしくお願いします」
アラベラは遥華と向き合って立っていた。アラベラは鎧こそ来ていないが、靴は相変わらずの鉄靴である。
「堂々としている姿がアラベラさんらしいから、歌や踊りの最中は堂々とダイナミックにしたほうが、似合うと思うんですよね」
「そういうことなら妾、ちょっと得意ですよ?」
アラベラは早速、堂々とした立ち姿を見せる。
「うんうん、いい感じです。それ以外は時々程度でちょっと女の子らしさを混ぜたり、笑顔を見せるといいんじゃないかなーって」
「女の子らしさ?」
「大丈夫です、練習すれば、きっとできます。まずは……」
遥華はアラベラに寄り添うようにして立ち、その右手にポーズを作ってあげる。
「人差し指と中指のちょうどいい開き方、形。これは感覚でOKです。それを顔にできるだけ近い位置で……」
そうして、一通り形がつくれると、遥華は、アラベラから離れて立ち、お手本を見せた。
いわゆるピースサインを片手に作り、それを横に倒し、人差し指と中指で片目を上下から挟むような位置に持ってくる。
「こんな感じっ☆」
遥華がぱちり、とお手本を決めた。それは目元から流星が飛び出すかのような、可憐でキュートなポーズだった。
「なるほど! さっそくやってみます!」
アラベラは、遥華を真似て、キラっ☆という効果音が聞こえそうなアイドルポーズをとった。
「いいかんじです! もうちょっと力を抜いてもいいかもしれないです!」
「つまり、こうっ☆」
「そうです!」
遥華とアラベラはお互い興奮のあまり、小鹿のようにぴょんぴょん跳ねながら喜び合っていた。
「アイドルといえば、ダンスと歌です!」
さらに遥華が続ける。
「いまのポーズと歌とダンスを合わせると、こんなかんじになるのです!」
遥華は、マーキス・ソングを発動し、キレのあるステップと甘い歌声を披露した。そして最後に決めポーズ☆
「こうしてアイドルは、観客を熱狂させながら一体感を得て、自分も楽しむのです。自分も、他人も巻き込んで、みんなで同じ時を楽しむ。それが、アイドルだと思うんです」
遥華は、運動のためか紅潮した顔に幸せそうな表情を浮かべていた。
「そういえば、Uiscaに遥華は、どうしてアイドルをしているのです?」
アラベラは、ここで疑問を口にした。
彼女たちには、アイドルであることに喜びがある。それは、アラベラが目立つことによって得る喜びとは内実を異にしているようだ。
「私は辺境の聖地で白龍さまを祀る巫女でもあります」
Uiscaは自身の出自を語り始めた。
「巫女な事は誇りだけどリアルブルーの『あいどる』という人に夢を与える素敵な人達の話を聞いて『あいどる』をしたいと思ったのです」
アイドルはただ華々しいだけではない。時には希望を、時には夢を、時には勇気を他人に与えることもある、つまり、歌や踊りで人々を鼓舞することができる人のことなのだろう。
「私は……2年前にバレンタインの依頼で観客の前で歌って踊って、あの時の気持ちは忘れられないんです」
遥華の青い瞳は過去を見つめている。その顔は自然ほころんだ。きっと鮮烈で、色彩豊かな幸せな思い出なのだろう。
2人に共通しているのは、楽しむこと、他人に夢を与えることなど、人間の正の感情を揺り動かすのがアイドルということだ。
●急
知っていた。妾は軍隊で孤立していることを。問題行動が多いとよく言われていたもの。
でも、目立つと孤立はちょっと、似ている。
彼らは妾を持て余していた。死後になって思い知った。きっと人間たちにとって妾という存在は、伝承に語られるくらいがちょうどいい距離感なのだろう、と。
だから、妾は帝都より離れた地で顕現してしまった。
だって、妾は……
「どうしたんだい、アラベラさん」
アラベラはコロッセオ・シングスピラの客席のひとつに腰掛けていた。
真は彼女の隣に座った。
アラベラは考えていた。彼女は最初、アイドルとは自分にうってつけの職業だと思った。しかし、今日、その内実を聞いてみれば、大衆とともに楽しみ、また彼らを鼓舞するのがアイドルだと聞かされた。
ただ、目立つだけではだめ。それは、デスドクロの言うように、戦うだけで絶火の騎士にはなれないのと同じだ。
「妾は、確かに騎士として戦果はあげました。しかし、妾はどこか、疎んじられていたのも事実です」
アラベラは自身の、自分に向けられていればあらゆる感情を是認する、という気質とアイドルはあまりにかけ離れているのではないか、と悩んでいたのだ。
一陣の風が真と、アラベラの髪を揺らしていく。
「でも、アラベラさんは、かつて戦場で助けた戦士にお礼を言われたことを大切そうに語っていたじゃないか」
そう、いつも自信満々な笑顔を浮かべているアラベラが唯一表情を変えたのがあの時だった。微笑みこそしなかったが、大切なものを壊さないようにそっと扱っているような表情だった。
「でも、それ以上に、自軍も犠牲にしました」
「だから、みんなで何かをするのが無理だと?」
「そう思えて仕方ありません」
沈黙が横たわろうとした刹那、どこからか高笑いが聞こえて来た。
「そんなことに悩んでいたのか、絶火騎士!」
デスドクロである。風をはらんで闇色のマントが舞い上がる。
「天誓作戦で、ともに戦ったのを忘れたとは言わせねぇぜ!」
「アラベラさん、きみは自分が孤立していたと言うけれど、それでも伝承に歌われた英霊なんだ。どうあれ、人々がきみを忘れなかったのは事実。たしかに、いろいろあったようだけど、助けた人もいるし、それを覚えているきみ自身もいる。それで十分じゃないかな」
真は、アラベラに語りかけた。転移時に記憶に欠けができてしまった真だからこそ、アラベラの記憶を無下にできなかったのであろう。
「そうだぜ。俺様が付き合ってやってもいいが……いや、全米ヒットチャート10年連続1位を飾ったデスドクロ様が表立っちゃ誰の為にもならねぇな。作詞作曲程度で良けりゃ協力してやるぜ」
と、デスドクロも言う。
「絶火なら帝国には相当コネも効くだろ、最短ルートを進むんなら帝国第一師団の帝国歌舞音曲部隊。ココに行きゃノウハウ持った連中がそこそこいるんで力になってくれるハズだ」
「そうですよ、アラベラさん!」
遥華とUiscaもやってきた。
「そんな顔しないでください。さっきも言ったじゃないですか。堂々としている姿がアラベラさんらしいって」
「目指す、と決めたなら、がんばりましょう」
Uiscaが風になびく金髪を手のひらで抑えて言う。
「もう一度、英霊として生きられるんです。強く生きれば、きっと扉はひらけますよ」
アラベラは、孤立していたけれど、果たして、孤独だったのだろうか。それはアラベラにもわからなかった。
けれど、もしアイドルという職業を纏うことで、愛されるというのなら。助け合う、ということで他人を必要とすることができるのなら。彼女は本当に孤独では無くなるのだろう。
「……今までの生き方を否定はしません。こうして英霊として呼び出されたのが間違いであるはずがない。だからこそ、今度は妾を呼んでくれた人々のためになりたいと思います」
そうして、アラベラは、ハンターたちを見た。
「ここが、新しいスタート地点です。みなさま、お覚悟なさいませ」
その表情はいつも通り自信ありげな、それでいて出会った当初よりも柔らかい表情であった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/04 10:14:01 |
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【相談卓】アイドルレッスン Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/01/04 10:19:02 |