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【CF】龍園 de クリスマス~祭後編~

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/06 22:00
完成日
2018/03/10 18:31

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ハンターを招いての龍園初のクリスマス会は無事終了した。
 準備からハンターに手伝ってもらい、最終的な飾り付けは龍園の希望者達によって成され、氷原にはアイスドームをいくつも準備し、飛龍達の協力を得て往復の交通手段を確立させるなど、出来る限りのことは出来ただろうとサヴィトゥール(kz0228)は自負していた。

「サヴィーくーん。ツリー引っこ抜き終わったよー」
 シャンカラ(kz0226)の声にサヴィトゥールは石版を刻む特殊な筆(ナイフ)を置くと外へと出た。
 龍騎士達によってツリーが倒れないよう支えながら、もみの木を横倒しにする作業が終わったらしい。
 先ほどまであった深い緑と色とりどりの飾りに彩られた大樹がなくなっているというのは、何やら妙に寂しく感じる。
「……元の風景に戻っただけなのにな」
「どうかした?」
 駆け寄ってきたシャンカラが首を傾げるので、「なんでもない」と答えつつ、ツリーが立っていたところまで近付いて……地面に空いた大穴に気付く。
「……随分と大きな穴になったな」
「うん、凍ってくっついちゃってて、凄い大変だった。来年はもうちょっと考えないと」
 1人の龍人とリザードマン達がスコップと台車に雪を乗せてやって来るのが見え、シャンカラが手を振って招く。
「あ、オン殿! ここです、お願いします」
「こりゃまた思い切り開けましたな」
 彼らは主に神殿の補修などを手がける一族だが、今回はこの直径3m、深さに至っては底が見えないこの穴を埋める作業をしてくれるらしい。
「あのもみの木を支えようと思ったら結構大穴になっちゃって……掘り出すにも一苦労で」
 済みません、と頭を下げるシャンカラにオンはカラカラと笑ってみせる。
「良いんですよ、あんなに楽しそうな孫の顔を見るのも久しぶりでしたわ」
「サヴィ様、シャン様ー!」
 龍園の子ども達がわぁっと駆け寄ってくる。
「もうツリー壊しちゃうの?」
「ずっと飾っていようよ」
 その一人一人と向き合うように、シャンカラは腰を落として申し訳なさそうに柳眉を下げた。
「ごめんね、このもみの木はこのままにしておくと枯れて倒れてしまうんだ。だから、もうお片付けするんだよ」
 えー!? という非難の声が上がり、シャンカラはさらに申し訳なさそうに目尻を下げた。
「それに、もうすぐ年が明けるからね。新年の準備に入らなきゃ。青龍様に新年のご挨拶をするのに、いつまでもお祭り気分でいたんじゃ失礼だろう?」
 そう言われて、子ども達は顔を見合わせると神妙な顔つきになってこくりと頷いた。

 龍園では新年の到来は家族でささやかにお祝いした後、青龍様のところへお参りに行くのが慣例となっていた。
 それも真面目な国民性もあり、新年のお祝いと言うよりは、昨年一年の守護に感謝し、また今年も皆で“生きられますように”という切実な祈りの儀式だ。
 ゆえに新年にハンターを招くよりは龍園では知らないお祭り――クリスマス――で呼んだ方が、真面目な年長者組や生真面目な神官達からの反発も少なかろう、という思惑が働かなかったといえば嘘になる。

「ちゃんと真っ新な心で青龍様にご挨拶出来るように、ちゃんとお片付けしようね」
「……はぁい」
 シャンカラの説明に渋々といった表情で子ども達が折れた。
「ねぇ、サヴィ様、お片付け手伝うから、あの飾り、貰ってもいい?」
 一人の子がサヴィトゥールの服の裾を掴んで乞う。
 その真剣な表情に、サヴィトゥールは静かに頷いて返す。
「1番気に入ったものだけを持って行きなさい。良く吟味するように」
「はい!」
 サヴィトゥールの言葉に瞳を輝かせて、子ども達はもみの木を寝かせた場所へと走って行く。
 そんな子ども達の背を見送ってシャンカラが笑う。
「実は僕も1つだけもう貰っちゃったんだ」
 そう言って取りだしたのは青い折り紙。
「凄く“がに股”の飛龍だけど、可愛いよね」
 指先で大切そうに頭を撫でるシャンカラを見て、何とも言えない表情になったサヴィトゥールは、珍しく非常に言いづらそうに言い淀んでから口を開いた。
「……それ、実はツルという鳥らしいぞ」
「……ツル? トリ?」
 見た事の無い鳥だと知ったシャンカラはキョトンと目を丸くして、まじまじと青い折り紙で折られた“足のある鶴”を見つめたのだった。



「……ということで、本当はクリスマスの片付けの手伝いをしてもらうつもりで来てもらったのだが、子ども達が張り切ってくれて、することが無くなってしまったのだ」
 申し訳無い、とサヴィトゥールがあなた達へと頭を下げた。
 片付け要因として呼ばれたあなた達は予想外の展開に戸惑いつつ顔を見合わせる。
「掃除もお前達が綺麗に扱ってくれたお陰で殆ど必要がないことがわかった」
 もみの木はというと、担当の職人達が加工を行っているところで、現在乾燥させるために皮を剥いでいるらしい。
「……なので、もし良ければ海を見に行かないか?」
 唐突な申し出に今度はキョトンとサヴィトゥールを見る。
「今日は天候的に恐らく波の華が綺麗に見えるだろう」
「波の華?」
 一人が問えば、サヴィトゥールは「あぁ」と頷いた。
「海岸に打ち寄せる波が白い泡状になって凍る現象を言う。風が強い日の方が花弁が舞っているように見えて美しい」
 打ち上げられた波は外気に触れ、一瞬にして凍る。
 それは大きな雪の結晶のようでもあり、これが積み重なった海岸沿いはまるでもこもこの雲の上のように見えるらしい。
「ただし、風が強くとても寒い。暖かくして行った方がいいだろうな。飛龍がいない者にはこちらから貸し出すので往復に困ることもないだろう。のんびりした時間を過ごして貰えたら良いと思う」
 「海で遊べるか」という声にサヴィトゥールは眉間のしわを深め、一寸思案した後首を振った。
「風があり波が高いので、ウォーターウォークではひっくり返る可能性があり推奨は出来ないが……そうだな。運が良ければ鯨と会えるかも知れない。鯨がいれば、目の前で吹き上げられた潮が華へ変わる瞬間を見られるだろう」
 飛龍と共にいれば鯨を間近で見る事も可能だろうとサヴィトゥールは告げる。
「今回は完全にこちらの見立てが甘かったのが原因だ。オフィスからの支払は変わらず全額先に支払うので、帰りたい者は帰ってくれて構わない。時間があって、付き合っても良いという者は来てくれ」
 サヴィトゥールはそう言うと席を立った。
「……では、出掛けよう」


リプレイ本文


「あ、おねーさん達だ!」
 外に出ると、前回クリスマスの飾り付けに参加していた羊谷 めい(ka0669)と愛梨(ka5827)の姿を見つけたネハとタラが駆け寄ってきた。
「……お前達、飛龍達の世話は終わったのか?」
 ジト目でサヴィトゥール(kz0228)が問えば、二人は顔を見合わせて罰が悪そうにはにかんだ。
「今から餌取りに行ってきます」
 見れば確かに釣り道具のような長い竿を二人とも持っている。
「メーガ様や子ども達はお元気ですか?」
 以前、飛龍の子ども達の世話に来たことがあるファリン(ka6844)と浅黄 小夜(ka3062)が興味津々といった様子でサヴィトゥールと二人の龍園の子に訊ねる。
「うん、すっごい元気」
「角刈りの時に来て下さった方ですね……? あれから一回りくらい飛龍達も大きくなりましたよ」
 タラがニカリと笑うと言葉を継いでネハが補足を入れる。
「久しぶりね! どう、初めてのクリスマスは楽しめた?」
 愛梨が問うと、二人は満面の笑顔で頷いた。
「ツリー、凄い喜んで貰えた!」
「人がいっぱいで楽しかったです。片付けも楽しかったし」
 その言葉にマリィア・バルデス(ka5848)が目を見開いた。
「え、もうツリーを片付けちゃったの? そんな、クリスマスツリーを片付けるのは1月13日なのに……」
「そうなのか? そんな話しは初めて聞いたが」
 クリスマスも聖輝節も24日と25日が本番で、その後は新年に向けて片付けるものだと聞いていた、とサヴィトゥールが言えば、マリィアは額に手を当てて嘆いた。
「えぇそうね。冬至の時期は大体どこの宗教でもお祭りがあるわ。日本でも無病息災を願って小豆粥やかぼちゃの煮物を食べるそうよ。私たちの国には元々ユールがあって、それがクリスマスと一緒になった。だから国ごとに色々違うわ、それは確かよ」
 しかしながらクリスマスの本場とも言うべき北欧出身のマリィアにとって、この“新年までに片付ける”という説がまかり通ってしまうのはちょっといただけなかった。
「今でも私達はサンタクロースをユール・トムテと言うし三つ又の蝋燭を準備するしユールボックを飾る。地獄の釜が開いて悪いものや祖霊も帰ってくるからユールボードの準備もする。クリスマスポリッジを食べて残ったらリス アラ マルタを作る。お茶の時間にはたくさんジンジャークッキーを食べる」
 知らない言葉を次々に並べ立てられ、徐々に眉間のしわを深くしていくサヴィトゥール。
「知らないのなら教えてあげるから、ちょっと時間と場所を頂戴。出来れば料理が出来る場所がいいわ。聖輝節は五感で楽しむもの。取捨選択は龍園の人がすればいい。提示はたくさんあった方が楽しいでしょう?」
「……先日、クリスマスの準備会をした時に使った部屋がある。そこを自由に使えばいい」
 サヴィトゥールは深い溜息の後、オフィスの横の建物を提示する。
 転移門は覚醒者とは言え、一日に何度も往復すれば心身に負担がかかるが、あと1往復ぐらいなら出来るだろう。そう判断するとマリィアは「有り難う」と笑顔を返し、クリスマスの締め括りの準備に走って行った。
「……なんだか凄いですね」
 マリィアの勢いに圧倒されていた一同は、イェルバート(ka1772)の呟きに一様に頷いた。
「……さて、ここに残った者は波の華を見に行く、ということでいいか?」
 サヴィトゥールの言葉に「はい」と5人は返事を返す。
 小夜が竜胆に「ええかな?」と問うと、竜胆は楽しげに小夜を背へと乗せる。
「いってらっしゃい、お気を付けて」
「寒いし、風強いだろうから、気ぃ付けてな!」
 ネハとタラに見送られて、6人はようやく飛龍に乗って旅立ったのだった。



「さ、寒い……」
 飛龍に乗っておおよそ30分。時折粉雪が混じる寒風吹きすさぶ中を飛び続けるというのは中々に堪えた。
「大丈夫? ラファール」
 ワイバーン達はドラゴンスケルと呼ばれる環境適応力があるため、この寒さは殆ど苦では無いらしいが、グリフォンは冬毛になっているとはいえ心配になってめいが確認をすると、『大丈夫』と言わんばかりにラファールがひと鳴きしてみせる。
「ピウス、寒くない? 龍園育ちだし、鱗のお陰で大丈夫かな」
 相棒の頬から顎下をイェルバートは撫でて確かめつつ、「寒い中を飛んでお疲れさま」と干し肉を与えた。
「凄い……一面雲の上みたいにふわふわしてる……寒いけど」
「すごい……ふわふわです。舞った泡が花びらみたい……」
 ファリンが目を丸くしている横で、めいが頷きながら自然と笑みを浮かべる。
「でも、踏むと氷だからシャリシャリしてる……冷たっ」
「なるほど……波の華、かぁ……。岩に波がぶつかって、それが凍って風に飛ばされて来るんだ……そりゃ寒いわ」
 寒さにフードを目深に被ったイェルバートが積み重なった華を踏み、愛梨がその成り立ちを知って、飛んできた真新しい華をそっと手のひらで受けた。
(竜胆は……波の華は、見たことあるんかな……?)
 一方で寒く無いようにとコートにマフラー、手袋と重装備で来た小夜だが、既に歯の根が合わない程に寒さに震え始めていた。
「うーん、この寒さ! 故郷の冬よりキツイかも……寒さに甘えないで雪かきしろ、って爺ちゃんに雪の中に投げ込まれたことを思い出すよ」
「……あぁそうか。もしかしてお前達、イニシャライザー無しで外に出るのは初めてか?」
 カストゥスの毛で作ったコートに身を包んではいるが、この中で一番薄着のサヴィトゥールはそういえば北伐の時も、血盟作戦の時も大概において連合軍が用意した携帯型のイニシャライザーにより環境に左右されない配慮がされていたことを思い出す。
「火の傍にいれば凍え死ぬことはない……とはいえ、次の機会には配慮しよう」
 そう言ってサヴィトゥールは大きな岩陰に移動すると、波の華を足で払って岩肌を露出させ、周囲の岩を使って簡単に囲いを作ると中に燃料となる鉱石を投げ入れ火を熾し始める。
 小夜がリトルファイアで、ファリンが着火の指輪で火付けを手伝い、すぐに6人が囲んでも熱が十分に行き渡るようなたき火が完成した。
 それぞれが連れてきたワイバーンやグリフォン達には遠くに行きすぎない程度に自由にさせ、ひとまず暖を取ることに集中する。
「私、飲み物を用意して来ました」
「僕もカフェオレ作れるよ」
「私も……ホットチョコレートを作ろうかな、と……」
 めいが鞄を引き寄せると、イェルバートと小夜も同様に鞄を漁り始めた。
「あと、お餅も……焼けます」
「お餅!?」
 小夜が出したモチパックを見てめいが懐かしさに目を瞬かせた。
「えっと、お正月やし……七輪で、お餅を焼いてみるんも、ええかなぁと……」
「本格的だね……!」
 そう言って、七輪まで出てきたものだから、イェルバートの目が大きく丸くなった。
「何だ、それは?」
「えっと……これは、七輪と言いまして……」
 七輪を見た事が無いサヴィトゥールへ、『正体不明の謎の加護によって、いつでもどこでもこんがり焼き立てのサンマが食べられるという代物だが、別にさんましか焼けないわけでは無い(はず)なのでお餅と共に持って来た』と説明をする。
「モチとは?」
「えーと……」
「一口は百聞にしかず! 焼いちゃおう、焼いちゃおう」
 言い淀む小夜から愛梨がモチパックを受け取った瞬間だった。
 サヴィトゥールのワイバーンが大きな声で鳴き始めたのだ。
「運が良いな」
 そう言ってサヴィトゥールが岩陰から出て行くのに合わせ、5人もまた岩陰を出て水平線を望む。
 サヴィトゥールが指し示す先にはそこには黒い岩……いや、鯨が悠々と泳いでいた。
「行ってくると良い。あまり近寄りすぎないようにな」
「はい!」
 言葉にならない歓声を上げ、それぞれの相棒と共に再度空へと飛び立った。



「わぁ……本当に大きいのですね!」
 アグネアに並走するようにお願いしつつ、ファリンは慌てて鞄の中を漁る。
 実物の鯨を見るのは初めてとなるイェルバードもその大きさにまず目を瞬かせた。
 おおよそ30mを越える母鯨と、その左右に10mを越える子鯨が寄り添うように泳いでいる。
「ピウスの鳴き声が鯨に似ているって聞いたけど……歌ってくれるといいなぁ」
 その声が聞こえたのか、突然、母鯨から空気を震わせるような低音が発され周囲に響き渡った。
 聞いた事のある音にたとえるなら、長く大きな角笛の音のような。だが、それはその30mの身体から出される音である為に、とてもスケールが大きい。
「え? これが、鯨の歌……!? 本当にピウスの声と一緒だね」
 それは確かにスケールの違いこそあれ、ピウスの声に似ていて、イェルバードは感動に声を震わせた。
「……大きなお歌やね……」
 小夜も竜胆に笑いかける。
(私の所に、来てくれるまでは……どうやって過ごしてたんかな……お話、聞けたらええのにね……)
 言葉が通じないことが少しもどかしい。
 子鯨の一頭が、大きく尾を振って水中深くへと潜っていく。
 水面を尾が強く打つと、その飛沫がまた瞬時に凍ってキラキラと風に舞う。
「凄い綺麗です」
 ファリンは取り出した魔導スマートフォンを構え、画面上のカメラマークを押す。
「むむ……中々難しいですね……!?」
 悴む指先と飛行中という慣れない環境の為か、手ぶれがおきてしまって美しい光景が収めきれない。
「連続で押せば一枚くらいは成功するはずです!」
 ファリンはくじけずカメラボタンを押しながら、雄大な光景に目を細めた。
 もう一頭の子鯨も水中へと潜って行ってしまうと、母鯨は歌うのを止めてしまった。
 そして、子鯨とは比べものにならない水しぶきを上げながら水中へと消えて行った。
「あぁ……行っちゃった」
 愛梨がガッカリして借りたワイバーンの首を撫でるが、ワイバーン達はそのまま鯨たちが消えた周囲に滞空するように旋回しながら飛んでいる。
「……もしかして、待ってるの?」
 イェルバードが問うと、ピウスが“その通りだよ”と言わんばかりに大きく翼をあおる。
 数分後、少し離れたところから子鯨達が顔を出した。
 そして、ブワァッと潮を噴き上げた。
「うわぁ……!」
 勢いよく吹き上げられた潮はそのまま凍り、風によって白い花弁のようにきらきらと輝きながら舞い上がる。
 そして、そこから少し離れたところに同じように母鯨も浮上してくると、同様に空高く潮を噴き上げた。
 『近付きすぎないようにな』
 そう、何度もサヴィトゥールが忠告した理由が分かった。
 その勢いもさることながら、吹き上げられた潮の量が凄い。
 小鯨の潮は量も少なく氷の破片が美しい程度だったが、母鯨の潮は周囲を真っ白に凍てつかせ、それが風に舞い、海へと還っていく。
「凄い……! 凄い!!」
 イェルバートもまた興奮気味に魔導カメラのシャッターを切る。
 一方で1人静かに感動を噛み締めているのは小夜だ。
(ハンターを始めた頃は……今よりも、もっと色々……解らない事が多くて……
 せやから……沢山……色んな事……見に行って……知っていかな、って……
 あちこち、お仕事に行ってたけど……ここ暫くは……そぉいうんもご無沙汰やったから……
 今日見たもの、また日記に書き留めて……家に帰る時の、お土産話の一つに出来るとええな……)
 波の華も、鯨の歌も、吹き上げられた潮の豪快さも、宙を舞うその残滓も。
 1つ残らず眼に焼き付け、心に刻んで持って帰りたいと、小夜はこの光景に見入っていた。
「舞が踊れたらいいのに」
 流石の愛梨でもワイバーンに乗りながらそんなことは出来なくて、歯がゆさを覚える。
 海を見たことが無いわけでは無い。
 だが、北方の海は自分が知っている景色よりも荒々しい。
 人の手が入っていない自然が見せる美、とはこのことを言うのだろうと愛梨は鯨の親子を見送りながら思う。
「父さんや母さんにも見せてあげたいな」
 ワイバーンの手綱を握り絞めながら思わず小さく零した。
 舞を教えてくれた母、狩を教えてくれた父の顔を心に思い浮かべながら故郷を思う。
(今度里帰りした時、この光景も話そう)
 鯨の歌、波のリズム、風の音、舞い上がって消えていく波の華。
 自分ならどう舞うだろう? 両親にどう伝えるか、愛梨は微笑を浮かべて考えていた。

 その頃。
「行かなくていいのか?」
 サヴィトゥールの声に、めいは「はい」と笑った。
「少し、サヴィトゥールさんとお話し、したいなって」
 たき火で沸かしていたお湯で紅茶を入れるとサヴィトゥールにコップを手渡した。
「有り難う。良い香りだな……味も好みだ」
「良かったです。グラズヘイム王国で作られている紅茶なんですよ」
 サヴィトゥールの言葉にめいはホッと胸を撫で下ろしながら、丁寧に吹き冷まして一口啜る。
 暖かな湯気が鼻先をくすぐり、冷えた唇が痺れるほどの熱の後、豊潤な香りと味が舌を撫で喉を通り過ぎて胃を温めた。
「で、話しとは?」
「えっと……」
(準備の時のこともありますけれど、今回のことで落ち込んでいらっしゃるというか……気にされていらっしゃるみたいなので……と、まさか本人に言うわけにも……)
 もう一口啜りつつ、めいは生真面目に自分を見るサヴィトゥールを見た時に、“あぁ”と1つ腑に落ちた。
「ただお話ししたいな、と」
「自分と?」
「はい。お話しして、相手のことを理解して、縁を繋いでいけたらとても嬉しいことだなって」
 穏やかに微笑むめいに、サヴィトゥールは怪訝そうに眉をしかめた後、視線を逸らした。
「……物好きなことだ」
(あら……? これはもしかして照れていらっしゃる……?)
 人嫌いだと。血の通わぬ鉄仮面だと。いつも眉間にしわを寄せた仏頂面だと、伝え聞いた彼の評判は中々に悪辣だった。
 でも、準備の時も、そして今も。ちゃんと向き合えば向き合ってくれる人なのだ。
 めいは1つサヴィトゥールを知れたことに、思わず頬を綻ばせた。

「ただいまー!」
 ファリンの明るい声がめいとサヴィトゥールに届いたのは、おおよそ30分後。
 空から帰ってきた4人は、飛龍から降りると飛びつくようにたき火に身を寄せた。
「普段見られないものをたくさん見られて、とても楽しかったです!」
 イェルバートが嬉しそうにサヴィトゥールへと礼を告げる。
「凄い光景だったけど、凄い寒かった……!!」
「愛梨さん、まつげ凍ってます……?」
 めいが驚きながら「紅茶で良ければすぐ出ますよ」と声を掛ける。
「あ、僕はコーヒーがいいからお湯だけ欲しいな」
「なら、こちらのポットのお湯を使って下さい」
「フライトスーツを着ていますがそれでも寒いのです……アグネアは大丈夫でしょうか」
「飛龍なら問題ない。極端な暑さにも寒さにも強い生き物だからな」
 サヴィトゥールが例として砂漠と火山があるという南方大陸でも飛龍達は生活をしていたし、太古の昔には南方と北方で飛龍の行き来があったらしいという話しを聞いて、一同は「へぇー」と声を上げる。
「グリフォンは大丈夫でしょうか……?」
 恐る恐るめいが問うと、サヴィトゥールは空を見上げながら「知らん」とばっさり斬った。
「グリフォンを見るのが初めてだから、何とも言えん。だが、寒がっている様子も無いから大丈夫なのではないか?」
 飛龍達と楽しそうにじゃれ合っているラファールを見て、めいは「そうですね」と少し安堵する。
「身体が温まったらそろそろ帰るぞ。雲が厚くなってきた。雪が降る」
「……雪が降ったら、駄目なんですか?」
 ミルクティの入ったコップを大事そうに抱えている小夜が問うと、サヴィトゥールは静かな瞳のままきっぱりと告げた。
「この風で雪が降れば吹雪になる。飛龍達は悪天候でも大丈夫だろうが、乗っている自分達まで大丈夫かどうかは責任が持てない」
 一同は音がしそうな勢いで二三度瞬きをして顔を見合わせた後、各々慌てて飲み物を飲み干すと荷物を片付け始めたのだった。



 マリィアは1人、大概の物が揃うと言われているリゼリオに飛んだ。
 ジンジャークッキーはすぐに見つかった。セムラ用のパンは見つけられなかったので、甘めのパンで代用。
 ユールボックはどこにも売っていなかったので自分で作るしか無い。
 だが、ここで1つの問題が発生する。
 藁が売っていないのだ。
 農村部に行けば手に入れられるかも知れないが、今から農村部まで行って帰ってくる時間が惜しい。
 ここは馬の餌となる切り藁で代用するしかなかった。
 ポマンダーも売っていないので作らなければならないが、これの材料は比較的手に入れやすい。
 残る食材を買い込むと、asa tiranoの背を借りて荷物を龍園へと運び入れ、早速調理に取りかかった。
 しかし、この時点で既に45分以上が経過していた。
 とにかく早く仕上げるしか無いが、焼き時間を短縮することは出来ないし、どんなに料理が得意であり、並行作業で調理を行うにしても初めて使うキッチンと調理道具では勝手が違う。
 それでも『最後まで聖輝節を楽しむ』その一念で、挑んでいた。

「ただいまー」
「うわぁ……あったかーい」
「良い匂いがしますね」
 マリィアが寝かせていたショットブッラのタネを冷蔵庫から取り出した時、施設の入口には5人のハンター達とサヴィトゥールの姿があった。
「お帰りなさい、早かったのね」
 マリィアが告げると、サヴィトゥールは頷きながら近寄った。
「間もなく昼食だろう? 雪が来そうだったのもあって早めに切り上げて来た」
 昼食、と言われてマリィアは思わず時計を見た。
 ポリッジは出来ているが、まだヤンソンはオーブンの中。
 ショットブッラは火すら通っていないし、セムラのクリームも手付かずだ。
「……もう少し時間をくれる? クリスマスのお菓子やいろんな料理を出すから、みんなで食べましょう」
「1つ聞きたいのだが」
 サヴィトゥールの冴え冴えとした紺青の瞳がひたとマリィアを捕らえた。
「お前の言う“聖輝節”は1人で準備して、1人が皆に振る舞うものなのか?」
「え?」
「……龍園には聖輝節もクリスマスも無かった。ただただ少ない実りを皆で分け合い、長い冬の間、青龍様の庇護の下、身を寄せ合って過ごす。新年が明ければ一年を生き延びられたことを皆で喜び合い、青龍様に感謝を捧げ、また次の一年も生き延びられますようにと希う。そういう冬をもう何百年と繰り返してきた」
 しん、と静まり返った室内に、淡々としたサヴィトゥールの声だけが響く。
「私は、急激な変化を好まない。だから、交流にも慎重であるべきだと思うし、多文化に触れる際には事前になるべく情報を取り入れてから、それが龍園に住まう民にとってどんな影響があるかを考慮してから触れるようにしている。……今回は、私の勉強不足だった。お前の言う内容の殆どを私は理解し得なかった。それについては謝罪をしよう。お前の知る文化を蔑ろにしたかった訳では無い」
 申し訳無い、とサヴィトゥールはマリィアへ頭を下げた。
「……だが、前回、クリスマスの準備に来てくれた者達は『家族で』『みんなで』クリスマスは作るのだと教えてくれた。料理を、飾り作りを、子ども達と一緒に、初めて触れるものばかりだから、上手く行かないものがあっても、笑って、焦らずやればいいと教えてくれた。だが、お前はどうして1人で全て行おうとしている?」
「それ、は……」
 言い淀むマリィアの前で、サヴィトゥールは大きなため息を吐いた。
「何をしたらいい? お前の言う事はさっぱり分からなかったが、何をすればいいのか教えてくれれば手伝う事ぐらいは出来るだろう」
 ここにいるハンター達は元々“クリスマスの片付け”の依頼で来ている。事前に一言相談すれば、手伝いを申し出てくれる者もいたかもしれないし、何かうまいやり方を見つけることが出来たかも知れない。
 だが、マリィアはそれをしなかった。
「……食事は、あと1時間もしないで整えられるわ。だから、少し待っていてくれる?」
「わかった」
「それから、食事が終わったら、ユールボック作りとポマンダー作りを一緒にしましょう?」
「……わかった」

 食後。
「これはアドベントの時飾る魔除けのポマンダー。プレゼントされると幸せになれると言われてるわ」
 手慣れた様子でオレンジにクローブを挿してシナモンを振りかけリボンで飾り付けていくと、完成したそれをサヴィトゥールへと手渡した。
「……変な臭いがする」
 顔をしかめるサヴィトゥールを見て、マリィアは声を上げて笑うとジンジャークッキーも手渡した。
「こうやって、私たちの国ではツリーを片付ける時、もう1度子供達にプレゼントを配るの」
 本当は子ども達一人一人に手渡したかったが、龍園の民は事前に声を掛けなければ基本的に仕事がある為、易々とは集まれないとサヴィトゥールに教えられた。
 まずは互いの文化を知る事から始め無ければならないことを痛感したマリィアだった。

 こうして、思わぬ形で北欧の文化を知ったハンター達は土産話が1つ増えたと笑いながら帰っていったのだった。

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2018/01/04 15:43:05