【初夢】死の夢

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/01/09 07:30
完成日
2018/04/28 20:33

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 si si ciao! ようこそuccellinoの夢芝居屋へ!

 あちしが夢の案内人の小鳥さんでちよー。

 安心ちてね? いきなり大声で叫んで安眠を妨害ちたり、大軍で襲ったりちまちぇんから。

 ここではあにゃたのみたい夢を見せてあげまちゅ。

 どんな夢がお望みでちゅか?

 明るい夢? 楽しい夢? まだ見ぬ夢?

 何だっていいんでちゅよー、あにゃたのお望みの夢を叶えてあげまちゅ!

 ……

 …………

 ……………………

 あぁ、うっかりうっかり。一つだけ条件があるのを忘れてまちた。

 ■■■この夢では“死”がキーワードです■■■

 あにゃたが見るのは自分が死んじゃう夢?

 それとも、沢山の屍に囲まれる夢?

 それとも……大切な人との永久の別れの想い出……?

 チチー! チチチチーッ!

 さぁ、あちしに見せてくだちゃい!

 あにゃたが見る『死の夢』を。

 チチーチ、チ、チ、チー!



 ……あっと。ただち、夢を見て、現実に帰ったときに

「嗚呼!! もっと夢の中にいたかった!! 夢の中に帰りたい!!」

 ……にゃんて、現実に絶望することににゃっても、あちしはにゃぁんの責任も取れまちぇんからね!

 チチチ、チッチッチッチチー。

 チチチチーッ。

 チチーッ、チチチチチーッ。



 ――あぁ、これは夢だ。

 あなたはふとした瞬間にそれに気付づくだろう。

 それは最初から? それとも起きたときに初めて気付く?

 それは遠い記憶、不確かな思い出。

 それは繰り返し見る同じ夢。

 現実とは違う、無限ループの挟間の一部。

 それなのに起きると同時に、夢の内容を忘れるかもしれない。

 クラクラと定まらぬ空間で、あなたは手を伸ばす。

 ――あぁ、これは夢だ。


リプレイ本文


 自分は、ただ。
 普通に死ねれば良いと思った。
 床の上で安らかに。
 普通に死にたかった。
 人間らしく、死んでいきたかった。

 自分は見果てぬ暗闇の中にいた。
(何だろう、ここは。見覚えがある)
 視界を遮る陰影。夜の帳に覆われたかのような漆黒。
 懐かしささえ感じるこの空間。
(そうだ。ここは“自分”だ)
 かつて神と蔑まれていた頃、この場所こそが、この洞窟こそが自分だと自覚する。
 黄泉へと繋がる黄泉平坂。旅人はヘルヘイムと例えた根国。そんなはずは無いのに、恐れる人間はここをそう語った。
 怯える彼等は供物を捧げた。見たことも無い、煌びやかな食べ物。
 けれど、それを手にできぬ自分にとって。口にできず、味わえぬ自分にとって、どれだけ美しくとも、泥の団子と何が違う。
 空を行く鳥が。地に生きる動物たちが頬張る果実のほうが、余程美味しそうだと思えた。

 洞窟の外では幾度も幾度も暁に染まり、光りに満ち、夕焼けに染まり、静寂の夜が訪れる。
 暗き洞窟に縛られ続けた自分にとって。
 空へ座し人々に崇められる太陽の、何と眩いことか。何と妬ましいことか。
 幾度焦がれたことか。
 雨が降り、風が吹き、時折訪れる動物達の息遣いの何と暖かなことか。
 どれほど求めても、生命の輝きはこの洞窟の奥までは届かないまま只管に年月は過ぎていく。

 何時の頃だったか。
 声が聞こえた。
 絡繰の骸に宿るなら、「人になれる」という声が。
 自分は喜びと共にそこへ宿った。
 記憶などかなぐり捨てて。

 なのに。
 なのに、どうして。
 怖い。不意によぎる過去が。それを真実だと認めることが。
 全てを思い出した時、自分は。
 この骸、これではまるで、黄泉戸喫ではないか。人の身という甘味を口にし、二度と安寧へと帰れぬこれは。

 ああ。
 私は、全てを思い出してしまった。

 私は、ただ。
 安らかに、在りたかっただけなのに……!


 根国・H・夜見(ka7051)は文字通り飛び起きた。
 心の蔵が早鐘のように打ち、荒く浅い呼吸を繰り返す。
 嫌な夢を見た。
 怖い夢だった。
 内容は断片的で朧気だが、眠れぬ夜に見るいつもの夢だ。
 手元の灯りを点け、そのやわらかな灯火を見てようやく深く息を吸うことが出来た。
 横目で時計を見ればまだ深夜。
「……勘弁して欲しいっスよ……」
 朝は早朝から出掛けなければならないのにもう今夜は眠れないだろう。
 根国は布団の上、両膝を抱えてじっと朝を待ち続けた。




「あぁ、見つけた。マリィア!」
「階級を付けて呼んで下さい」
 ワザと片眉をはね上げて睨め付けると、私より頭2つほど大きな上司は大らかに笑いながら食堂を指差した。
「そんな事より、明日のイチハチマルマルからトッドの誕生日前祝いだ。1人一品以上持ち込み必須、遅刻は厳禁。遅れて来て、ダークチェリーパイが残って無くても暴れるなよ?」
「……了解」

 このラテン系の上司のお陰か、私、マリィア・バルデス(ka5848)の配属された部隊はお祭り騒ぎが大好きで、宙軍の部隊対抗演習では必ず上位に入る名物部隊の1つでもあった。
 何かにつけパーティが開かれ、私の調理技術や製菓技術も随分磨かれた。
 お祭り騒ぎ好き、そして料理に一家言ある者ばかりが集まった部隊の中で、一際目立っていたのがメイスン伍長だった。
 2m越えの隊員が何人もいる中で、それでも彼が部隊で1番の大男だった。
「おぉ……このビーフシチュー何これ……うんまぁい」
 私達が持ち寄る料理は数品でしかも趣味の範囲を大きく超えなかったけれど、彼の作る料理は全てにおいて別格だった。
「おい、メイスン! この冷製スープは何だ?」
「ピスタチオです、サー」
 上司の問いに静かに答える彼を見ながら、私たちはひそひそと耳打ちする。
「すげぇ、初めて飲んだけど……旨いな」
「この前の海老のスープも旨かったよな……」
「……伍長、絶対前職は三つ星レストランのシェフじゃね?」
「総料理長でもおかしくない」
 繊細な味に全員が舌鼓を打ち、彼の料理は瞬く間に胃の中へと収められていく。
 私は何度か一緒にキッチンを使ったこともあったが、調理する手際の良さ、あの大きくて太い指先が驚くほど細やかに動いて丁寧に美しく盛り付けていく様に思わず見とれてしまって、危うく鍋を焦げ付かせるところだったのを覚えている。
 宴もたけなわ。お待ちかねの“メインディッシュ”が置かれた。
「待ってました! メイスン伍長の特製ダークチェリーパイ!!」
「イーヤッフーイ!!」
「あぁ!? 二きれも取っていくなよ、トッドーっ!!」
「えぇ!? 今日俺主役なんだから許されるっしょ!?」
 特にパーティで必ず供されるこのダークチェリーパイは絶品で、私達は欠食児童の様に彼のパイを奪い合った。
 そしてみんな口から生まれたのではないかと言われるほど大騒ぎする部隊の中で、彼だけが一際寡黙だった。
 寡黙ながら上司のオーダーを的確に遂行する彼は、隊員みんなから信頼され、部隊の精神的な支柱でもあった。

 でも彼はLH044の戦闘でMIAになった。
 MIAとは『Missing In Action』の略。軍隊用語で「作戦行動中行方不明」「戦闘中行方不明」を指す……つまり、そういうことだ。
 他の部隊に助けられ一緒に転移しなかっただけだと……思いたかった。


 エンドレスの中、VOIDが人間の遺体を引き摺って行く。
 多分これから記憶を抜かれるのだろう。
 その中の1人を、私はよく知っていた。

「嘘だ……」

 思わずよろめいて壁につこうとした手が壁の中にめり込む。
 鳥瞰したまま運び出される遺体を眺め続ける。

「エンドレスは滅びたハズだ……こんなのは、夢だ……!」

 夢に違いないけれど……脳に突き刺さった氷片のように妙に冷えた一部では、これが事実だったのだと思った。
 エースパイロットは生体兵器にされたが、一般兵士は経験を積むために利用されたと聞いている。

 私達が転移する前に、伍長の機体が爆散した記録は上がっていなかった。
 だから生きていると信じたかったのに。

 自分のR7に籠り泣く。
 私はもう2度と彼のパイを食べることができないのだ。




「あー……やっちゃいましたねぇ」
 辛うじて致命傷は避けたが、決して軽傷とは言い難い傷を負って、氷雨 柊(ka6302)は大樹の根元にずり落ちながら座り込んだ。
 本来なら何の難しい事も無い雑魔討伐依頼だった。
 ちょっと数が多く、その為、討伐範囲が広かった。ゆえに、はぐれた。これが最大のミスだった。
「帰れるでしょうかぁ……うーん、ちょっと無理でしょうかー」
 飛びそうになる意識を、独り言を紡ぐことで何とかつなぎ止めていると、柊はちょっと離れたところから不安げな瞳で自分を見つめる双眸に気付いた。
「……私は大丈夫ですからぁ……お家へお帰りなさい」
 白い兎の子どもだった。その白さに、面影を重ねなかったと言えば嘘になる。
 その動揺が、護らねばという意志が、雑魔の前に身を挺すという行動に繋がった。
 雑魔の渾身の一撃を受けつつも、何とか退治に成功したのは不幸中の幸いか。
 言葉が通じたのか、走り去って行く小さな白い背中を見つめて浮かんだ微笑みは、痛みにすぐに歪む。
 視線を己へと向ければ、右の脇腹をごっそりやられているのが分かって、思わず苦笑する。

「……このまま、死ぬんでしょうかー…」

 無意識に唇から零れた言葉に、その意味に柊は目を見張り……そしてほっと肩の力を抜いた。
 エルフの寿命は長い。
 生きている限り、大切な者を見送る側……そう思っていた。
 思ってはいたけれど、怖いのも、寂しいのも、もう既に限界だった。
(私はもう……誰かの死を見送ることも、失う痛みに苦しむことも…それを怖がることも。もうしなくて済む)

 ……なのに、何故頬を涙が伝うのだろう。

「……寒い」
 血を流しすぎたのか、柊は己の身体から熱が消えていくのを感じた。
「……眠い、です」
 瞼が重く、瞬く度に涙が散った。
「……あの人に……あっためて、ほしぃ、なぁ……」
 隣にある温もりを探して、血に濡れた手を力なく動かす。
(寒いのは……嫌、ですね……貴方がいないのは……)


「……にゃぁ……? さむ……」
 目覚めたのは自分のベッドの上で。
 いつもと違うのは掛け布団も毛布も全てが床に落ちてしまっていた事。
「……にゃぁ……寒いぃ……」
 腕を伸ばして引き上げると、蓑虫のようにくるまった。
 夢を見ていた。それは覚えているのに、内容を思い出せない。
「素敵な夢を見たような……そんな気がしますねぇ」
 柊は小さく呟いて、時間までもう一度眠ることにしたのだった。




 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は連戦に肩で荒く息をしながらも使い慣れた槍の柄を握り直すと顔を上げた。
 『家』から持ち出してきたこの槍は、『誓約』を意味する銘を持つ。この槍に恥じないよう、何より自分の心に恥じないよう、ヴァルナは襲いかかってきた『敵』を塵へと還した。

 ――どれほどの時間が経っただろうか。

「……流石に、キリがありませんね」
 石突きを大地に突き立て、頬を引きつらせながら零れた言葉は、乾いた喉によって掠れた不明瞭な音となって誰に届くこともなく消えた。
 全身は自分の血か『敵』の体液か分からない物で汚れ、法術装甲や浄装はボロボロになっている。
 それでも『敵』が湧くように現れてはヴァルナの横をすり抜けようとするので、行かせまいと槍を突き出し――足を縺れさせて倒れた。
 ハッとして顔を上げれば、視界の見渡す限りのところに、もう人影は無い。
 その事実に安堵しつつ、帰らなくては、と上体を起こそうとしたところで右脚に激痛が走った。
「……簡単には帰してくれませんよね」
 悲鳴を噛み殺しながら右脚を引き寄せ剣を引き抜くと、渾身の力で『敵』の頭部目がけて投げつけた。
 『敵』が仰向けに倒れていく様には目も向けず、槍に縋るようにして立ち上がった。
 その背に、肩に刃が突き刺さり、ヴァルナの脳裏に『死』の一文字が浮かぶ。

(それはきっといつか来る終わりで、同時に誰かの中に残る永遠になる時……流石に夢を見過ぎですね。いざ目の前にしているというのに、まるで緊張感の無い)
 思わず浮かんだ言葉に、ヴァルナは今度こそ失笑して空を仰いだ。
 彼の騎士の瞳と同じ色をした空が広がっている。

(……あぁ、どうかご無事で)

 『死』を前にして、思い浮かぶのは敬愛する彼の騎士の事ばかり。
(どうしようもないですね。もう恋に恋する乙女という歳でもありませんのに)
 槍に縋りながらずり落ちるように地面に両膝をついた。
(私が死んでも彼は悲しむでしょうか? 少しぐらい、心に刻んで下さるでしょうか? もし、ほんの些細な傷でも彼の中に残れるのなら……こんな終わりも悪くはありませんね……)
 不思議な程に充足感を感じながらヴァルナは瞳を閉じて……――


 ――自分のベッドの中で目が覚めた。
「……私は、何て、夢を……!」
 夢の記憶は曖昧だったが、自分が何を想ったのかは鮮明に思い返せてしまって、ヴァルナは思わず両手で顔を覆ったのだった。




 いつもと変わらない午後。
 私、レム・フィバート(ka6552)は訪ねてきた友人をもてなしながら、とりとめもない会話に花を咲かせていた。
「そういえば、最近●●の顔見ないね」
「え? レム知らないの?」
 親切な友人は私が名前を挙げた人物の死を教えてくれた。

 ――その友人も、後日歪虚との戦いで死んでしまった。

 共に戦場を駆け、過ごしてきたワイバーンのグレイアもある戦いの時に負った傷が原因であっけなく死んでしまった。

 大切だった。
 大好きだった。
 でももういない。

 みんな、私を残して死んでいく。
 師匠と呼んだ人は喉に餅をつまらせて死んでしまうし、楽しい時間はじわじわと確実に奪われていく。

 ある人は言った。
 興味を、夢を……持てないと辛いって。
 ある敵にはそうだった。
 虚無であるが故に、この拳は届かなかった。

 自分の事ながら、私はきっと、恐ろしく人間みがないのだろう。
 「いえーい!」だとか、「やっほー♪」とか言って、ただ、明るくあろうと頑張ってるだけ。
 何時からだろう……楽しい事も、悲しい事も、その時は本当にそう思うのだけど……思い返そうすると記憶が翳る。

 ただひとつ確かなこと。
 みんな、私を残して死んで行く。
 それは例外なく、いつかは幼馴染みでさえ……

「……レムの元気がないと調子が狂うんだよ」
 と、幼馴染みは困ったように私に言った。
 ヒタヒタと歩み寄る死の影を全身に纏わせたまま、明らかに無理が見える微笑みを浮かべて。
 だから、私は笑ってみせた。
 彼の最期に見る私が、彼の望む私でいられるように、微笑ってみせた。
 いつからだろう。元々の私の性格は、私にも分からなくなっていた。
 ただ……元気に振る舞っていたら周りも明るいし、その時ばかりは惰性も虚無感も紛れた……それだけだったんだ。
 彼の死を前にその事実を思い知る。

 そうして、ただ一人の幼馴染みさえ失った。
 失って、心は腐れていく。
 孤独ですらない、そこに自分すらない絶対零度の死の旅路が始まった。

 ――どれほどの長い時間を独りで過ごしただろう。

 暗く冷たいものが這い寄ってくる。
 虚無そのもののような、これが死。
 みんながいなくなってもそれに絶望して、死にたいと思ったことは無かった。
 いや……正しくは、そんな感情にも興味が無かったんだ。
 当然だ。だって私には何もなかった。
 何にも関心が持てないまま過ごす空虚な日々は、それこそ、生きながらすでに死んでいたのだと知る。
 いつから? ししょーが死んでから?
 ……違う。
「……死んだら、逢えるかな……」
 瞳を閉じれば彼の顔が浮かんだ。

 嗚呼、そうだ。
 ……幼馴染みを、彼だけは、追いかけないとって、そう思っていた。
 理由なんて分からない。幼馴染だからかな?
 気持ちはハッキリしないけど……

「レム」

 私の名前を呼ぶ声と同時に、凍てついた空間に暖かな一筋の光りが射したような気がした。
 前を見れば、光りを背にこちらを振り返る彼がいる。
 追いかけなきゃ。
 そしていつものように明るく元気な私を演じなければ。
 彼が困らないように。
 彼の調子が狂わないように。

 追いかけ追いつき、手を伸ばして彼の服の裾を掴もうとして――

「いったぁーーーっ!?」


 全身に衝撃が走って目が覚めた。
 寝ぼけ眼で周囲を見回して、どうやら自分がベッドから転がり落ちたらしい事に気付いた。
「どんだけ寝相悪いの私……」
 思い切り打ち付けた額をさすりながら窓を開ける。
 凛とした冬の空気に朝日が眩しい。
 夢を見ていた気もしたが衝撃に全てが吹き飛んでしまった。
「仕方ないね」
 両肩を竦めて、窓を閉めると、私は朝の仕度を始めたのだった。




 悲鳴が聞こえる。
 悲鳴だけじゃない。剣戟。銃声。怒号。あちこちから命の零れる音が響く。
 メアリ・ロイド(ka6633)は今まさに、腕の中で零れ落ちていく命を必死でつなぎ止めようと傷口を押さえている。
「やめてくださいよ……貴方に死なれたら、私どうすればいいのか分からなくなるじゃないですか」
 噛み締める唇、歪む視界。
 抱いていた感情は恋だった。一方通行ゆえに苦しくて切なくて。なのにひと目逢えるだけでも嬉しくて、でも寂しいから声を聞きたくて、傍にいるだけで幸せで。
 沢山の感情を取り戻させてくれた人だった。
「温度が失われていく、寒い、寒い寒い……嫌です、嫌、嫌だよ」
 甘やかな胸の痛みを押し潰すような圧倒的な恐怖にメアリは震え戦いていた。

 音が止んだ。
 耳が痛くなるほどの静寂に、メアリは泣きはらした顔を上げた。
 抱えていた彼はもういない。
 周囲を見回し、おびただしい血の量に失われた命の数を知る。
 彼だけじゃ無い。友人も、お世話になった女将さんも、みんなみんな死んでしまった。
 喪失感、やるせなさ、哀しみ……湧き上がる感情の波にメアリは呻いた。
 これじゃあ、感情なんて無くしたままの方が楽だった、と喘ぐように呼吸する。

 人が死んでも日常は過ぎていく……そんなことは知っているつもりだった。
 けれど、決定的に足りない。
「死んだ人の事って、忘れられないものなのですね」
 大切な人の喪失は何をしても埋まらない。
 気休め程度に歪虚を倒すために奮闘するも、倒したら倒したで、残るのは空虚。
「痛いのは嫌ですけど、いっそ私の事も一緒にあの時殺してくれよ……」
 塵へと還る敵を前に立ち尽くしていると、拳銃を握ったままの手の甲に雨粒がひとつ、ふたつと染みを作る。

 ――いっそこのまま消えてしまいたい。

 その場にしゃがみ込んだメアリを、土砂降りとなった凍雨が打った。


 窓を叩く横時雨の音にメアリは身体を起こした。
「夢……ですか」
 いつの間にかモニターの前に突っ伏して眠っていたらしい。
 ふと頬に違和感を覚えて触れた。
「マジかよ、子供みたいだな。……でもまあ、夢で良かったです」
 手のひらで乱暴に涙を拭い去ると、暖かな室内でふるりと身を震わせた。
「出掛けますか……酷い雨だけど」
 きっと、皆の様子を確認出来たら、この寒さも少しは収まるだろう。
 メアリは夢見の悪さを払拭すべく、コートを羽織って扉へと向かった。



依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    メルセナリオ
    mercenario(ka5848unit002
    ユニット|CAM
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    グレイア
    グレイア(ka6552unit004
    ユニット|幻獣
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
  • 最期の一矢を
    根国・H・夜見(ka7051
    オートマトン|15才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/06 21:43:28