ゲスト
(ka0000)
【初夢】華麗なりや七変化
マスター:紺堂 カヤ
オープニング
誰でも、多かれ少なかれ「こうなってみたい」という変身願望がある。ただそれは、本人の努力によってかなうものと、かなわないものがある。
「と、いうわけですから、夢の中でその願望をかなえていただこうというわけです」
怪しげに、薄暗く、何か「人ならざるモノ」の気配を感じるような、そんな風景を背景に。それに似つかわしくなくにっこりと愛らしい微笑みで、すべての視線をうっとりとくぎ付けにさせる美貌の少年の名は、史郎(kz0242)。
夢の中? と首を傾げる者たちに向かって、優美な所作で順に視線をおくる。
「皆さんは今、夢の中にいるのです。つまり私はすでに夢の中の登場人物だということになります。まあ、そんなことはどうでもよいでしょう。大切なのは、皆さんはこれから、『自分の望む姿』に変身できるということです」
望む姿、という言葉に、場がざわつく。
「美女になってちやほやされたい? イケメンになってモテモテになりたい? あのひととラブラブになりたい? 無敵の勇者になって世界を救いたい? ……きっと、様々な変身願望が、皆さまにはあることでしょう」
史郎は、芝居がかった仕草で両手を広げて見せた。その姿は、そのあたりの役者よりもよほど、さまになっていた。
「そんな変身願望、すべてかなえてさしあげましょう。なんせここは、夢ですから」
それでもまだ不安げな顔をする者たちに、すらりと流し目をくれて、史郎は微笑む。
「お代? 心配はご無用です。夢の中へと落ちる前の皆さまから、すでに頂戴しておりますからね」
さあ、華麗なる七変化を、あなたも。
「と、いうわけですから、夢の中でその願望をかなえていただこうというわけです」
怪しげに、薄暗く、何か「人ならざるモノ」の気配を感じるような、そんな風景を背景に。それに似つかわしくなくにっこりと愛らしい微笑みで、すべての視線をうっとりとくぎ付けにさせる美貌の少年の名は、史郎(kz0242)。
夢の中? と首を傾げる者たちに向かって、優美な所作で順に視線をおくる。
「皆さんは今、夢の中にいるのです。つまり私はすでに夢の中の登場人物だということになります。まあ、そんなことはどうでもよいでしょう。大切なのは、皆さんはこれから、『自分の望む姿』に変身できるということです」
望む姿、という言葉に、場がざわつく。
「美女になってちやほやされたい? イケメンになってモテモテになりたい? あのひととラブラブになりたい? 無敵の勇者になって世界を救いたい? ……きっと、様々な変身願望が、皆さまにはあることでしょう」
史郎は、芝居がかった仕草で両手を広げて見せた。その姿は、そのあたりの役者よりもよほど、さまになっていた。
「そんな変身願望、すべてかなえてさしあげましょう。なんせここは、夢ですから」
それでもまだ不安げな顔をする者たちに、すらりと流し目をくれて、史郎は微笑む。
「お代? 心配はご無用です。夢の中へと落ちる前の皆さまから、すでに頂戴しておりますからね」
さあ、華麗なる七変化を、あなたも。
リプレイ本文
「さあ、夢の世界へ。華麗なる変化を、見せてください」
芝居がかったお辞儀を史郎 (kz0242)がした。それを合図に、ハンターたちはそれぞれの夢へ向き合うべく史郎に背を向け、不思議な霞のむこうへと消えて行った……はずだったのだが。
「おや?」
史郎の前に残ったハンターが一名、いた。星野 ハナ(ka5852)である。
「つまりぃ、夢なので何でもできるし整合性がなくても問題ないってことですねぇ?」
そう呟いたかと思うと、ハナはガバッと史郎に抱きついた。
「おおっと」
「史郎さん、私彼氏が欲しいんですぅ! 史郎さんの彼女にして下さいぃ! それと殿方にモテる方法を教えて下さいぃ~~」
ハナは史郎の肩口に顔を埋め、自分の主張と質問を浴びせる。
「私本当はハグ大好きなんですよぅ。でも、こんなこと彼氏以外に出来ないじゃないですかぁ」
「だから俺に彼氏になって欲しい、と? でも、モテたいとも言ってたね」
まさしく整合性のない主張に史郎が苦笑する。
「モテたいとは言いましたけどぉ、みんなに好きになって貰うんじゃなくてぇ、たった一人好きになって貰えればいいんですぅ……、今はその一人が全くいないだけでぇ。そりゃ私は面食いですよぅ。だって眺めてるだけで幸せになれるって凄い事じゃないですかぁ。でも好きになって貰えるなら本当は顔なんて十人並みでいいんですぅ」
「なるほど」
「どぉしたら好きになって貰えるんでしょぉ。胃袋掴もうと一生懸命料理の練習しましたしぃ、ちょっとでも可愛く見せようとぶりっ子仕草だって研究しましたしぃ、すぐ剥げるけど特大の猫だって飼ってるのにぃ。史郎さぁん、どうしたら良いと思いますぅ」
「うーん」
史郎はハナの背中を宥めるようにぽんぽん、と軽く叩きつつ、少し考えた。
「俺は商売柄、遊女と呼ばれる種類の女性とも付き合いがある。彼女たちは仕事だから、切実に殿方に『好かれたい』と思ってる。でも、人気のある遊女ほど、飼ってる猫は小さいね」
ハナは、史郎の肩に埋めていた顔を上げた。史郎が、美しいかんばせで微笑む。
「ハナさんはハンターだから、それについての自分の意見もお持ちだろう?」
「はいぃ。ハンターなら歪虚ブッコロは基本だと思いますしぃ、正義と悪って主張以外やってることは同じだと思いますしぃ……偏りすぎですぅ?」
「いいや? だから、そのしっかりした考えを示していけばいいんじゃないかな。ま、これは俺の意見だけどね」
史郎は肩をすくめ、ハナのハグをやんわりとほどかせて、手を差し伸べた。
「とりあえず、この夢をみている間は俺が彼氏だもんな。甘味でも食べに行きましょうか、お嬢さん?」
史郎の優しく甘い微笑みに、ハナも笑顔になった。
「行きますぅ!」
ヴァイオリンの音が、聞こえている。奏でているのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
(これは夢で対価を支払っているのなら、それはもしも……、途絶えてしまった、もしかしたらの、あったかもしれない可能性)
弓をなめらかに動かしつつ、アリアは「夢」を自覚する。今のアリアは、一族が……、家族が殺される事件など起きなかった「もしも」の世界に立っている。そのまま貴族のお嬢様となっていた場合の自分だ。今更、気にしたりはしないし、振り返って取戻したいとも思わないけれど。
(それくらい、今が優しいけれど。……夢ならば、見るのはいいわよね?)
アリアは演奏を終え、優雅に礼をした。演奏会は終わったのだ。あとは、審査を待つだけ。有名オーケストラの楽団審査だ。自分よりもそわそわと落ち着きなく結果を待ちかねている友人たちに、アリアは柔らかく微笑む。
「そう、これは夢で御座いますから。……言葉使いも、仕草も、静かに、綺麗に」
誰にも聞こえぬようひっそりとアリアは呟いた。今のアリアは戦場の熱や鋼など無縁の、雪のように繊細で丁寧なお嬢様なのだ。
ほどなくして、天鵞絨の箱を持った紳士がやってきた。箱から箔押しのされた紙を取り出し、結果を読み上げる。アリアは……、見事合格だ。
「おめでとうございます!」
「なんて素晴らしいんでしょう!」
口々にアリアを祝い、喜び、褒める、知り合いや友人たち。アリアは嬉しくて、自然に笑みがこぼれた。祝ってくれる人々すべてにお辞儀をし、しっとりと礼を述べる。
「有難う御座いますね。けれど、そうやって応援して頂ける声が、私の音色と胸に残って、きっと、弦の音色に乗るのでしょうね」
その言葉は、歪虚も、家族を目の前で殺されたことによる灼けるような憎悪も、殺意も、知ることのなかったお嬢さまには実に似つかわしいものだった。万象も想念も瞬きのうちに消えるということを知らず、無垢なまま美しく育った「もしものアリア」にぴったりだ。
そんなアリアを、誰かは誇らしそうに、誰かは眩しそうに、見ていた。そのうちのひとつの視線と、目を合わせたくて、アリアは澄んだ瞳をそちらへ向けた。
「お兄様」
けれど、視線を向けた先には朧しかなく。確かにいたはずの、憧れの兄は、アリアと目を合わせてはくれなかった。
「お兄様は──私の音色……、如何でした?」
その朧に、アリアはそっと問いかけた。音色は「思い」だ。ゆるゆると、夢の霞が、溶けてゆく。
立派な髭をたくわえた岩井崎 旭(ka0234)はスーツを着ていた。スーツを着て……、槍を持ち、馬に跨っている。これが、通勤姿である。
旭には、大人というものがまだよくわからなかった。自分で稼ぐようになって結婚もして、歳だってもうすぐ二十歳なのに。
(父さんも母さんも大人だったけど、どっから違うんだろ)
そう思いつつ、旭は夢の中で「大人」になった。妻がいて、子供がいて、ビシっとスーツにネクタイで仕事へ出かける。
(父さんもそんなだったけど……なんかこう、単純にそうじゃないんだよなー)
旭は、山師を自称していた父のことを思い出す。村おこしだとか、起業を助けるだとかと言って日本中を回っていたのだ。胡散臭さもあったが、夢や浪漫に全力を傾けていた。世の中の「大人」としては変なことだったのかもしれないが。大人になっても夢を追いかけ、夢を叶える行動力と、実現するための知恵を持つ。旭がなりたいのは、多分、そういう大人だ。
「やっぱ爽快だぜ!」
旭は笑顔でそう言いながら、街道をスーツ姿で駆け抜けてゆく。と、先の方で荷馬車が一台立ち往生しているのが見えてきた。どうやら、窪みに車輪が嵌ってしまったらしい。
「こりゃ大変だ! 手伝うぜ!」
旭は颯爽とやってきて馬をおりると、その馬を荷台の前に繋ぎ、自分は後ろから荷台を押しにかかった。荷馬車の持ち主は若い夫婦で、顔を真っ赤にして頑張っている。
「いいか? 俺の合図に合わせて押すんだ。せーの!」
「「「よいしょー!!!」」」
力を合わせ、荷馬車は無事、窪みから脱出することができた。
「どうもありがとうございます!」
夫婦は揃って頭をさげた。聞けば、この先の村で食堂を営んでいるという。
「是非、私たちの食堂へお立ち寄りください! お礼に、うんとサービスしますから!」
「早速、今日の昼にでも行かせてもらうよ」
その村はまさしく、旭がこれから仕事の為に向かっていた村だった。
「これも何かの縁だ。仲良くしようぜ」
旭は自分の馬に跨ると、夫婦よりも一足先に街道を駆け抜けた。こうやって、あっちこっちの困っている人を助けたり、仲良くなったりする生き方は、今後どんなに年を取ろうと変わることはないだろう。
(今の俺きっと、父さんと同じ、少年のような輝いた目でいるんだろうな)
旭はくすくすと笑った。広い空に向かって、叫ぶように言う。
「天下御免の鳥人間は今日も変わらず絶好調! ってな!」
大人になる、という夢の中にいる人物が、ここにも。大伴 鈴太郎(ka6016)だ。看護師になって三年。まだ新人の域だが、おたおたすることは少なくなってきた。
「よぉ、ダイヤ! 待たせてゴメンな!」
鈴太郎はダイニングバーのカウンターに座る栗色の髪の女性に手を振った。
「お疲れさま、鈴さん。職場から直行してきたの?」
スーツ姿に薄化粧の鈴太郎に、ダイヤも手を振る。
酒を注文し、乾杯する。お互いに忙しい身であり、会って話すのは久しぶりだ。さっそくお喋りに花が咲く。一般人でも自由に世界間を行き来することが可能となって、こうしてリアルブルーでも会えるのは有難い。
「くーっ、仕事終わりに飲む酒はいいよなあ、やっぱり」
「親父臭いわよ、鈴さんってば。でもホントに疲れてるみたいね」
「まあ、な。覚悟はしてたけどキツイ仕事だな。ハンターやってた頃に勉強教わったヒト達の凄さを実感する毎日だよ。ンでも、退院してく患者サンを見送る時はやっぱ嬉しいよ」
「そうよね」
ダイヤは大きく頷いた。が、そののち、ニヤニヤ笑いながら鈴太郎の左手薬指に嵌っている指輪をつつく。
「でも、カレが退院するときは嬉しい、よりも寂しい、だったんじゃない?」
「なっ! 何言ってんだよ!」
鈴太郎はたちまち顔を赤くした。鈴太郎の婚約者は、元入院患者の男性なのだ。
「ふふふ。順調なんでしょ?」
「ま、まあな。アタシのこと、大事にしてくれるよ……。のんびりしててイラつく時もあるけどさ。細かいトコに気がついてくれるつーか……すごく優しンだアイツ」
「そう」
ダイヤはにこにこして、鈴太郎の穏やかな笑顔を見守った。彼女の一人称が「アタシ」に変わったのはいつのことだったかと考えて、「大人」になったんだな、としみじみ感じてしまった。
ダイヤが黙ってにこにこしているのが、ニヤニヤに見えたのだろう、惚気ていた鈴太郎が再び顔を赤くして話をダイヤに振った。
「ダ、ダイヤこそ最近クロスとはどうなンだよ!?」
「クロスぅ? もういいのよあんな冷血男!!」
ダイヤがぷうっと頬を膨らませて、鈴太郎は笑った。ダイヤは、いくつになってもダイヤだ。お喋りは尽きることがなかったが、夜は更けていた。
「っと、もうこんな時間か」
ふたりは慌てて立ち上がる。
「いつかまたさ……、昔みてーにバカやろうぜ! 『オレ達』ずっとダチだかンな!」
そう笑う鈴太郎もまた、いくつになっても鈴太郎なのだった。
ゆうに百メートルは超えていると思われた。その全身は頑強な赤い鱗に覆われている。口からは、爆発する火球を放つことができ、さらに、背びれや尾の先から無数の熱線を撃つ。極め付けには、再生能力も持っている。
この怪獣の正体は、エルバッハ・リオン(ka2434)。彼女がこの姿を望んだ理由は、ずばり。
「ストレスを発散したいのですわ。盛大に」
と、いうわけでとにかく暴れるための場所を求め、エルはとりあえず、歪虚に占領された北方に攻め込んだ。ここを選んだ理由が、特にあったわけではない。
「夢ということですし、行ける所まで行ってみましょうか」
と動き出して辿り着いただけだ。口から火球をばんばん放ち、大きな尾を振り回し、はびこる歪虚を屠っていく。殲滅、といえるところまで暴れきると、エルはふと呟いた。
「怪獣が暴れるだけというのも面白味がないですね。ここはマスコット的な何かが必要でしょうか」
その思いつきをかなえるため、怪獣姿のエルはダイヤのもとへと向かった。進路上に町があることなどお構いなしにがんがん直進し、モンド邸の近くで驚いて突っ立っているダイヤを発見すると、ひょい、と持ち上げる。
「ダイヤさん、協力をお願いしますね」
「えええええ!? 嫌だおろしてぇええ!!」
当然のごとく叫ぶダイヤ。当然のごとく、無視するエル。さらには。
「そういえば、以前読んだリアルブルーの小説に……」
と呟いたかと思うと、ダイヤの下半身を頭頂部に取り込んだのである。ダイヤの上半身がエル怪獣の頭の上に生えているような状態だ。ダイヤが怪獣になったエルを操っているように見えるが、主導権はエルにある。
「え、夢だからメタなこと言っちゃうけど、私さっきまで大人っぽくお酒飲んでたのよ!? 何この落差!! どうしてこうなるの!?」
どうしてってダイヤ自身も言っているように「夢だから」である。
騒ぐダイヤを少しも気にせず、エル怪獣は再び北上を開始。今度も進路に配慮しなかったためいくつもの罪なき建物が灰塵と化したのだが、プラスマイナスゼロ、とばかりに罪ある歪虚と戦う……、いや、一方的に捻り潰していくエルなのであった。
なお、あんなに嫌がっていたダイヤは次第に楽しくなってきたらしく、エルの後頭部で拳を振り上げつつ叫んでいた。
「それそれ、やっちゃえ~! 右よ! 次は左!!」
そして火球が左右に炸裂した……。
しゃん、と鈴が鳴った。リズムに合わせてストールがひらりと翻る。くるりと回れば、ぱっと広がる艶やかな髪。スカートから伸びる足にはハイヒール。明らかに女性の足ではないのだが、それだけに女性には出せない種類の美しさを持つしなやかな動きでステップを踏む。
「よーし、いっちゃうよ~!」
ポップな歌と華麗なダンス。アイドルのライブ会場だろうか。……いや。
「えーい!」
可憐なウインクとともに繰り出されたのは、二刀流での鋭い剣戟。まともに喰らったスライム型の雑魔がかき消える。そう。ここは戦場だ。歌って踊って戦える奏唱士、鞍馬 真(ka5819)の独壇場。
真は最近、奏唱士として戦っていて思うのだ。
「私、地味じゃない?」
と。だからもっとアイドルらしく、華麗に! 格好良く! 舞うように! ……戦ってみているというわけだった。女装に関してはもう開き直っている。それゆえに堂々とした振る舞いとなり、真の魅力を倍増させているとも言えた。
「さあ、どんどんいっちゃうよ!」
ぼよんぼよんとやってくるスライムに、真はびしりと言い放つ。
一見、円舞にしか見えない動きで繰り出される二刀流。そして刺突一閃。敵を鮮やかに斬り倒す。マルチステップでの攻撃回避も華麗に。衣装や髪が輝きを放って揺れる。戦闘という名のパフォーマンスに、周囲の注目を集める。
「ほらほら、見てるばっかりじゃなくて一緒に戦って!」
そして歌う、アイデアル・ソング。自分と仲間を、鼓舞するために。戦っている姿で味方を鼓舞できるような、そんな存在になってみたくて。
「どれだけ強敵でも、多勢に無勢でも諦めず、アイドルらしく前向きに!」
バシバシ雑魔を斬り伏せた、そのあとに。真は決めセリフらしくリズミカルにそう言って、このまま写真撮影でもできそうなポーズをぱしっと取った。周囲から沸き起こる拍手の中に立つ真は……、ライブ会場でアンコールを求められているアイドルにしか見えなかった。
霞の中に、ひとり光を纏って佇む美しい人影。ひっそりと微笑んで、史郎はゆっくりお辞儀をした。
「なりたい自分に、なれましたか? 夢の続きは、また、どこかで……」
芝居がかったお辞儀を史郎 (kz0242)がした。それを合図に、ハンターたちはそれぞれの夢へ向き合うべく史郎に背を向け、不思議な霞のむこうへと消えて行った……はずだったのだが。
「おや?」
史郎の前に残ったハンターが一名、いた。星野 ハナ(ka5852)である。
「つまりぃ、夢なので何でもできるし整合性がなくても問題ないってことですねぇ?」
そう呟いたかと思うと、ハナはガバッと史郎に抱きついた。
「おおっと」
「史郎さん、私彼氏が欲しいんですぅ! 史郎さんの彼女にして下さいぃ! それと殿方にモテる方法を教えて下さいぃ~~」
ハナは史郎の肩口に顔を埋め、自分の主張と質問を浴びせる。
「私本当はハグ大好きなんですよぅ。でも、こんなこと彼氏以外に出来ないじゃないですかぁ」
「だから俺に彼氏になって欲しい、と? でも、モテたいとも言ってたね」
まさしく整合性のない主張に史郎が苦笑する。
「モテたいとは言いましたけどぉ、みんなに好きになって貰うんじゃなくてぇ、たった一人好きになって貰えればいいんですぅ……、今はその一人が全くいないだけでぇ。そりゃ私は面食いですよぅ。だって眺めてるだけで幸せになれるって凄い事じゃないですかぁ。でも好きになって貰えるなら本当は顔なんて十人並みでいいんですぅ」
「なるほど」
「どぉしたら好きになって貰えるんでしょぉ。胃袋掴もうと一生懸命料理の練習しましたしぃ、ちょっとでも可愛く見せようとぶりっ子仕草だって研究しましたしぃ、すぐ剥げるけど特大の猫だって飼ってるのにぃ。史郎さぁん、どうしたら良いと思いますぅ」
「うーん」
史郎はハナの背中を宥めるようにぽんぽん、と軽く叩きつつ、少し考えた。
「俺は商売柄、遊女と呼ばれる種類の女性とも付き合いがある。彼女たちは仕事だから、切実に殿方に『好かれたい』と思ってる。でも、人気のある遊女ほど、飼ってる猫は小さいね」
ハナは、史郎の肩に埋めていた顔を上げた。史郎が、美しいかんばせで微笑む。
「ハナさんはハンターだから、それについての自分の意見もお持ちだろう?」
「はいぃ。ハンターなら歪虚ブッコロは基本だと思いますしぃ、正義と悪って主張以外やってることは同じだと思いますしぃ……偏りすぎですぅ?」
「いいや? だから、そのしっかりした考えを示していけばいいんじゃないかな。ま、これは俺の意見だけどね」
史郎は肩をすくめ、ハナのハグをやんわりとほどかせて、手を差し伸べた。
「とりあえず、この夢をみている間は俺が彼氏だもんな。甘味でも食べに行きましょうか、お嬢さん?」
史郎の優しく甘い微笑みに、ハナも笑顔になった。
「行きますぅ!」
ヴァイオリンの音が、聞こえている。奏でているのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
(これは夢で対価を支払っているのなら、それはもしも……、途絶えてしまった、もしかしたらの、あったかもしれない可能性)
弓をなめらかに動かしつつ、アリアは「夢」を自覚する。今のアリアは、一族が……、家族が殺される事件など起きなかった「もしも」の世界に立っている。そのまま貴族のお嬢様となっていた場合の自分だ。今更、気にしたりはしないし、振り返って取戻したいとも思わないけれど。
(それくらい、今が優しいけれど。……夢ならば、見るのはいいわよね?)
アリアは演奏を終え、優雅に礼をした。演奏会は終わったのだ。あとは、審査を待つだけ。有名オーケストラの楽団審査だ。自分よりもそわそわと落ち着きなく結果を待ちかねている友人たちに、アリアは柔らかく微笑む。
「そう、これは夢で御座いますから。……言葉使いも、仕草も、静かに、綺麗に」
誰にも聞こえぬようひっそりとアリアは呟いた。今のアリアは戦場の熱や鋼など無縁の、雪のように繊細で丁寧なお嬢様なのだ。
ほどなくして、天鵞絨の箱を持った紳士がやってきた。箱から箔押しのされた紙を取り出し、結果を読み上げる。アリアは……、見事合格だ。
「おめでとうございます!」
「なんて素晴らしいんでしょう!」
口々にアリアを祝い、喜び、褒める、知り合いや友人たち。アリアは嬉しくて、自然に笑みがこぼれた。祝ってくれる人々すべてにお辞儀をし、しっとりと礼を述べる。
「有難う御座いますね。けれど、そうやって応援して頂ける声が、私の音色と胸に残って、きっと、弦の音色に乗るのでしょうね」
その言葉は、歪虚も、家族を目の前で殺されたことによる灼けるような憎悪も、殺意も、知ることのなかったお嬢さまには実に似つかわしいものだった。万象も想念も瞬きのうちに消えるということを知らず、無垢なまま美しく育った「もしものアリア」にぴったりだ。
そんなアリアを、誰かは誇らしそうに、誰かは眩しそうに、見ていた。そのうちのひとつの視線と、目を合わせたくて、アリアは澄んだ瞳をそちらへ向けた。
「お兄様」
けれど、視線を向けた先には朧しかなく。確かにいたはずの、憧れの兄は、アリアと目を合わせてはくれなかった。
「お兄様は──私の音色……、如何でした?」
その朧に、アリアはそっと問いかけた。音色は「思い」だ。ゆるゆると、夢の霞が、溶けてゆく。
立派な髭をたくわえた岩井崎 旭(ka0234)はスーツを着ていた。スーツを着て……、槍を持ち、馬に跨っている。これが、通勤姿である。
旭には、大人というものがまだよくわからなかった。自分で稼ぐようになって結婚もして、歳だってもうすぐ二十歳なのに。
(父さんも母さんも大人だったけど、どっから違うんだろ)
そう思いつつ、旭は夢の中で「大人」になった。妻がいて、子供がいて、ビシっとスーツにネクタイで仕事へ出かける。
(父さんもそんなだったけど……なんかこう、単純にそうじゃないんだよなー)
旭は、山師を自称していた父のことを思い出す。村おこしだとか、起業を助けるだとかと言って日本中を回っていたのだ。胡散臭さもあったが、夢や浪漫に全力を傾けていた。世の中の「大人」としては変なことだったのかもしれないが。大人になっても夢を追いかけ、夢を叶える行動力と、実現するための知恵を持つ。旭がなりたいのは、多分、そういう大人だ。
「やっぱ爽快だぜ!」
旭は笑顔でそう言いながら、街道をスーツ姿で駆け抜けてゆく。と、先の方で荷馬車が一台立ち往生しているのが見えてきた。どうやら、窪みに車輪が嵌ってしまったらしい。
「こりゃ大変だ! 手伝うぜ!」
旭は颯爽とやってきて馬をおりると、その馬を荷台の前に繋ぎ、自分は後ろから荷台を押しにかかった。荷馬車の持ち主は若い夫婦で、顔を真っ赤にして頑張っている。
「いいか? 俺の合図に合わせて押すんだ。せーの!」
「「「よいしょー!!!」」」
力を合わせ、荷馬車は無事、窪みから脱出することができた。
「どうもありがとうございます!」
夫婦は揃って頭をさげた。聞けば、この先の村で食堂を営んでいるという。
「是非、私たちの食堂へお立ち寄りください! お礼に、うんとサービスしますから!」
「早速、今日の昼にでも行かせてもらうよ」
その村はまさしく、旭がこれから仕事の為に向かっていた村だった。
「これも何かの縁だ。仲良くしようぜ」
旭は自分の馬に跨ると、夫婦よりも一足先に街道を駆け抜けた。こうやって、あっちこっちの困っている人を助けたり、仲良くなったりする生き方は、今後どんなに年を取ろうと変わることはないだろう。
(今の俺きっと、父さんと同じ、少年のような輝いた目でいるんだろうな)
旭はくすくすと笑った。広い空に向かって、叫ぶように言う。
「天下御免の鳥人間は今日も変わらず絶好調! ってな!」
大人になる、という夢の中にいる人物が、ここにも。大伴 鈴太郎(ka6016)だ。看護師になって三年。まだ新人の域だが、おたおたすることは少なくなってきた。
「よぉ、ダイヤ! 待たせてゴメンな!」
鈴太郎はダイニングバーのカウンターに座る栗色の髪の女性に手を振った。
「お疲れさま、鈴さん。職場から直行してきたの?」
スーツ姿に薄化粧の鈴太郎に、ダイヤも手を振る。
酒を注文し、乾杯する。お互いに忙しい身であり、会って話すのは久しぶりだ。さっそくお喋りに花が咲く。一般人でも自由に世界間を行き来することが可能となって、こうしてリアルブルーでも会えるのは有難い。
「くーっ、仕事終わりに飲む酒はいいよなあ、やっぱり」
「親父臭いわよ、鈴さんってば。でもホントに疲れてるみたいね」
「まあ、な。覚悟はしてたけどキツイ仕事だな。ハンターやってた頃に勉強教わったヒト達の凄さを実感する毎日だよ。ンでも、退院してく患者サンを見送る時はやっぱ嬉しいよ」
「そうよね」
ダイヤは大きく頷いた。が、そののち、ニヤニヤ笑いながら鈴太郎の左手薬指に嵌っている指輪をつつく。
「でも、カレが退院するときは嬉しい、よりも寂しい、だったんじゃない?」
「なっ! 何言ってんだよ!」
鈴太郎はたちまち顔を赤くした。鈴太郎の婚約者は、元入院患者の男性なのだ。
「ふふふ。順調なんでしょ?」
「ま、まあな。アタシのこと、大事にしてくれるよ……。のんびりしててイラつく時もあるけどさ。細かいトコに気がついてくれるつーか……すごく優しンだアイツ」
「そう」
ダイヤはにこにこして、鈴太郎の穏やかな笑顔を見守った。彼女の一人称が「アタシ」に変わったのはいつのことだったかと考えて、「大人」になったんだな、としみじみ感じてしまった。
ダイヤが黙ってにこにこしているのが、ニヤニヤに見えたのだろう、惚気ていた鈴太郎が再び顔を赤くして話をダイヤに振った。
「ダ、ダイヤこそ最近クロスとはどうなンだよ!?」
「クロスぅ? もういいのよあんな冷血男!!」
ダイヤがぷうっと頬を膨らませて、鈴太郎は笑った。ダイヤは、いくつになってもダイヤだ。お喋りは尽きることがなかったが、夜は更けていた。
「っと、もうこんな時間か」
ふたりは慌てて立ち上がる。
「いつかまたさ……、昔みてーにバカやろうぜ! 『オレ達』ずっとダチだかンな!」
そう笑う鈴太郎もまた、いくつになっても鈴太郎なのだった。
ゆうに百メートルは超えていると思われた。その全身は頑強な赤い鱗に覆われている。口からは、爆発する火球を放つことができ、さらに、背びれや尾の先から無数の熱線を撃つ。極め付けには、再生能力も持っている。
この怪獣の正体は、エルバッハ・リオン(ka2434)。彼女がこの姿を望んだ理由は、ずばり。
「ストレスを発散したいのですわ。盛大に」
と、いうわけでとにかく暴れるための場所を求め、エルはとりあえず、歪虚に占領された北方に攻め込んだ。ここを選んだ理由が、特にあったわけではない。
「夢ということですし、行ける所まで行ってみましょうか」
と動き出して辿り着いただけだ。口から火球をばんばん放ち、大きな尾を振り回し、はびこる歪虚を屠っていく。殲滅、といえるところまで暴れきると、エルはふと呟いた。
「怪獣が暴れるだけというのも面白味がないですね。ここはマスコット的な何かが必要でしょうか」
その思いつきをかなえるため、怪獣姿のエルはダイヤのもとへと向かった。進路上に町があることなどお構いなしにがんがん直進し、モンド邸の近くで驚いて突っ立っているダイヤを発見すると、ひょい、と持ち上げる。
「ダイヤさん、協力をお願いしますね」
「えええええ!? 嫌だおろしてぇええ!!」
当然のごとく叫ぶダイヤ。当然のごとく、無視するエル。さらには。
「そういえば、以前読んだリアルブルーの小説に……」
と呟いたかと思うと、ダイヤの下半身を頭頂部に取り込んだのである。ダイヤの上半身がエル怪獣の頭の上に生えているような状態だ。ダイヤが怪獣になったエルを操っているように見えるが、主導権はエルにある。
「え、夢だからメタなこと言っちゃうけど、私さっきまで大人っぽくお酒飲んでたのよ!? 何この落差!! どうしてこうなるの!?」
どうしてってダイヤ自身も言っているように「夢だから」である。
騒ぐダイヤを少しも気にせず、エル怪獣は再び北上を開始。今度も進路に配慮しなかったためいくつもの罪なき建物が灰塵と化したのだが、プラスマイナスゼロ、とばかりに罪ある歪虚と戦う……、いや、一方的に捻り潰していくエルなのであった。
なお、あんなに嫌がっていたダイヤは次第に楽しくなってきたらしく、エルの後頭部で拳を振り上げつつ叫んでいた。
「それそれ、やっちゃえ~! 右よ! 次は左!!」
そして火球が左右に炸裂した……。
しゃん、と鈴が鳴った。リズムに合わせてストールがひらりと翻る。くるりと回れば、ぱっと広がる艶やかな髪。スカートから伸びる足にはハイヒール。明らかに女性の足ではないのだが、それだけに女性には出せない種類の美しさを持つしなやかな動きでステップを踏む。
「よーし、いっちゃうよ~!」
ポップな歌と華麗なダンス。アイドルのライブ会場だろうか。……いや。
「えーい!」
可憐なウインクとともに繰り出されたのは、二刀流での鋭い剣戟。まともに喰らったスライム型の雑魔がかき消える。そう。ここは戦場だ。歌って踊って戦える奏唱士、鞍馬 真(ka5819)の独壇場。
真は最近、奏唱士として戦っていて思うのだ。
「私、地味じゃない?」
と。だからもっとアイドルらしく、華麗に! 格好良く! 舞うように! ……戦ってみているというわけだった。女装に関してはもう開き直っている。それゆえに堂々とした振る舞いとなり、真の魅力を倍増させているとも言えた。
「さあ、どんどんいっちゃうよ!」
ぼよんぼよんとやってくるスライムに、真はびしりと言い放つ。
一見、円舞にしか見えない動きで繰り出される二刀流。そして刺突一閃。敵を鮮やかに斬り倒す。マルチステップでの攻撃回避も華麗に。衣装や髪が輝きを放って揺れる。戦闘という名のパフォーマンスに、周囲の注目を集める。
「ほらほら、見てるばっかりじゃなくて一緒に戦って!」
そして歌う、アイデアル・ソング。自分と仲間を、鼓舞するために。戦っている姿で味方を鼓舞できるような、そんな存在になってみたくて。
「どれだけ強敵でも、多勢に無勢でも諦めず、アイドルらしく前向きに!」
バシバシ雑魔を斬り伏せた、そのあとに。真は決めセリフらしくリズミカルにそう言って、このまま写真撮影でもできそうなポーズをぱしっと取った。周囲から沸き起こる拍手の中に立つ真は……、ライブ会場でアンコールを求められているアイドルにしか見えなかった。
霞の中に、ひとり光を纏って佇む美しい人影。ひっそりと微笑んで、史郎はゆっくりお辞儀をした。
「なりたい自分に、なれましたか? 夢の続きは、また、どこかで……」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/04 22:23:28 |