ゲスト
(ka0000)
【初夢】クリムゾンウェスト殺人事件Ⅱ!
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2018/01/13 19:00
- 完成日
- 2018/05/15 00:21
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●序章
久々の休暇は、私にとって大きな気分転換になった。旦那様が一等を取ってくれたことにも感謝しなければならない。暇な間、食堂車で紅茶を飲んでいると、昔からの知り合い同士のように語り合う人々が居て、感心する。私もあれほど心を開いてみたいものだと思っていると、恰幅の良い、50代ほどの男が話しかけてきた。
「いいかね?」
男はゴドゥノフと言って、仕事でこの先に行くのだという。私は彼の戦地での話を聞いた。彼は話がうまく、その話はとても面白かった。
ノスタルジア・エクスプレスから見る景色は、美しい星空から一転、吹雪になった。突然、列車が大きく揺れたことに、私は驚いて立ち上がる。慌てて他の人に事情を聞くと、雪でやられたという。この様子だと復旧には時間がかかるそうだ。速くても明日の昼頃だという。あの雪だったから仕方がないが……残念だ。
休暇を長くとっておいてよかった。私は胸を撫で下ろした。他の客もそろそろ寝ると聞いた気がする。私も眠ろう。早く復旧することを祈りながら、私は目を閉じた。
●翌朝
早朝、私は騒がしさに目が覚めた。乗客たちの動きを追っていくと、ゴドゥノフの部屋に辿り着いた。皆、彼の部屋に集まり騒いでいる。
なんだろうと思って隙間から覗き込むと、そこには彼が血だまりの中倒れているではないか。医者が脈拍を測り、首を振る。亡くなっているということだろうか。
「状況から見て他殺ですね」
医者が言う。場は混乱し、私は部屋に戻るしかなかった。
あの人は、どうして殺されてしまったのだろうか。わからない。
ただ一つわかるのは、この列車の中に恐るべき殺人者がいるかもしれないということだけだった。
久々の休暇は、私にとって大きな気分転換になった。旦那様が一等を取ってくれたことにも感謝しなければならない。暇な間、食堂車で紅茶を飲んでいると、昔からの知り合い同士のように語り合う人々が居て、感心する。私もあれほど心を開いてみたいものだと思っていると、恰幅の良い、50代ほどの男が話しかけてきた。
「いいかね?」
男はゴドゥノフと言って、仕事でこの先に行くのだという。私は彼の戦地での話を聞いた。彼は話がうまく、その話はとても面白かった。
ノスタルジア・エクスプレスから見る景色は、美しい星空から一転、吹雪になった。突然、列車が大きく揺れたことに、私は驚いて立ち上がる。慌てて他の人に事情を聞くと、雪でやられたという。この様子だと復旧には時間がかかるそうだ。速くても明日の昼頃だという。あの雪だったから仕方がないが……残念だ。
休暇を長くとっておいてよかった。私は胸を撫で下ろした。他の客もそろそろ寝ると聞いた気がする。私も眠ろう。早く復旧することを祈りながら、私は目を閉じた。
●翌朝
早朝、私は騒がしさに目が覚めた。乗客たちの動きを追っていくと、ゴドゥノフの部屋に辿り着いた。皆、彼の部屋に集まり騒いでいる。
なんだろうと思って隙間から覗き込むと、そこには彼が血だまりの中倒れているではないか。医者が脈拍を測り、首を振る。亡くなっているということだろうか。
「状況から見て他殺ですね」
医者が言う。場は混乱し、私は部屋に戻るしかなかった。
あの人は、どうして殺されてしまったのだろうか。わからない。
ただ一つわかるのは、この列車の中に恐るべき殺人者がいるかもしれないということだけだった。
リプレイ本文
●食堂車の夜
ノスタルジア・エクスプレスは雪景色の中を悠々と進んでいた。
食堂車には乗客の多くが集い、それぞれの時間を過ごしている。
大学講師のエアルドフリス(ka1856)は珈琲を飲みながら、先程からずっと続いている、大きくて嫌でも耳に入るかのようなゴドゥノフ大佐の声を聞いていた。大佐は恰幅が良い五十代の男であり、前には家庭教師風の若い女性と大佐に年齢が近く、面やつれした女性に世間話から自慢話をしている。
(なんというか、戦地の話をしているとき、視線がぶれて飛んでいる。彼が住んでいるのは高級住宅地だ。たたき上げの軍人がそんなに儲かるもんかね?)
エアルドフリスはふと思った。上の地位になればそれなりに高給にはなるだろう。コツコツと貯めるタイプならば住むことは可能だろう。しかし、彼の話し方、様子からそれだけではないと感じ取った。
「師匠! 今回は温泉街らしいっスよ! 楽しみっスね!」
その隣のテーブルで、大佐に負けない大きな声の役犬原 昶(ka0268)が窓の外を見てはコランダム(ka0240)を振り返る。
「……確かにその通りです。慰労も兼ねてですが、勉強の一環と何度言えば――」
キラキラした視線を受けながら、師匠と呼ばれるコランダムは溜息を吐いた。そろそろ自室にでも戻ろうかと考え立ち上がった。
コランダムは建築家で、自分の事務所も持っており、昶は押し掛け弟子でもある。
それに続くため、昶は元気よく立ち上がる。揺れる車内はやや勝手が違う。
「――お話楽しかったですわ」
大佐の話を聞いて目はキラキラしているが、どこか疲れていた様子を見せる家庭教師のローザが立ち上がる。ふらつき、昶と接触した。
「きゃ」
「っと、お姉さん、大丈夫っスか!?」
「すみません、うちの弟子が」
「い、いえいえ……」
コランダムは彼女を見ると、否応なく大佐の顔が見えた。大佐は二人を視界に収めていなかった。コランダムはどこかやるせないような怒りのような表情とともに、「デッキから外を見るぜー」と走って行こうとする昶に静かに怒った。
技師のグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は喧噪をBGMに読書をしていた。
「そこの君。君は旅行かね」
大佐は離れたテーブルにいるグリムバルドに笑いかけた。
グリムバルドは話しかけられたことに気付くと、手元の本を閉じて口を開く。
「姉のところに向かうんだ。その……甥が受験に合格した、お祝いで」
「おお、それはめでたい。私からもささやかだがお祝いをさせてもらおうか。どうだね、こっちへ」
「ありがとうございます」
旅の出会いは大切にするグリムバルドは、大佐のテーブルへ移動した。戦地の話や昨今の政治の話や幅は広く進む。
(軍人って儲かるっけ? ……んー、景気が上向いているから関係ないか)
グリムバルドは大佐との会話の内容は、違う世界のもので面白かった。
大佐は追加の注文をするため、給仕を呼ぶ。大きな声での呼びかけは、唐突で人を驚かせるものでもあった。
大佐の前のテーブルにいるパトリシア=K=ポラリス(ka5996)の横で、カランとナイフの落ちる音がした。ナイフを落としたのはここの料理人兼給仕の空蝉(ka6951)。空蝉はトラブルにも表情が変わらず微笑みを浮かべている。
「あっ!」
パトリシアが小さく声を出した直後、大佐は空蝉を怒鳴りつける。
「貴様!」
「申し訳ありません」
空蝉はすらりと手を伸ばしてナイフを取り、座へ頭を下げた。
大佐はパトリシアに申し訳なさそうな顔を向ける。
「失礼、お嬢さん。知人なんですがねえ、こいつは昔から何を考えているやら……おい、お前、いい加減その――」
「パティは大丈夫! ダカラ、そんな怒らないでほしいナー」
パトリシアは立ち上がって大佐に言う。殴りそうなくらい怒るのが不思議であった。
いさめられた大佐はこれ以上怒鳴りつける気にならなかったのか、空蝉を解放した。
ほっと息を吐くとパトリシアは席に着き、視界の隅に映ったディーナ・フェルミ(ka5843)に手招きする。
「おや、そこのお嬢さんッ」
ディーナはメニューとにらめっこをやめ、パトリシアを訝しげに見た。
「……私?」
「ソーソー。折角のノスタルジア! 楽しまなきゃソンソン、なんダヨー」
パトリシアは今にも歌い出しそうなくらいの上機嫌で、ディーナに笑顔を向ける。
ディーナはきょとんとする。一張羅の服も、ここのきらびやかな内装や金持ちの服装からするとみすぼらしく見え悲しかったところへのパトリシアの誘い。
「でもね……その、高いなって」
「ここ二人前なんダヨー! ダカラ、気ニしないで、こっちデ一緒に楽しもうー」
ディーナは招かれるままパトリシアのテーブルにつき、彼女の勧めるまま豪華な食事を楽しんだ。
「なんでおごってくれるの?」
おずおずと言うと「これからパティのフトコロはぽかぽかなんだヨ!」そのお祝いだという。
ディーナは緊張しつつも食事を楽しんだ。
食堂車にいない客もいる。例えば、グリムバルドの同室の者たちや、一等車以外の者。食事の高さは誰もが知っている。それと同時に、それ相応のおいしさもあるのだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は自分の部屋にいた。移動の手段として使っているに過ぎないこの列車で、食堂車で優雅に食事という気分にならなかった。
その代わり、乗り込む際にしっかりと食料や酒は持ち込んでいた。
警察官としては凶悪事件にかかわることが多く、このような時間は物足りないが嬉しい。
「時期がずれたおかげで、四人部屋を一人で使うのは贅沢だ。こっそり相棒のヴァンも連れて来てもばれなかったかもな」
警察犬のヴァンを思い出して、酒を飲みほした。
●深夜の廊下
夕食も終えまだ夜はこれからという時間、食堂車に居た人々は自分の客室へと戻る者もいる。
エアルドフリスも戻る人の一人。窓の外は吹雪で真っ白だ。彼が通路を歩いていると、俄かに車両が激しく揺れた。
「うおっと」
立っていられない程の揺れに、思わず近くの手すりにしがみつく。揺れがおさまると車内はざわめきだし、車掌や給仕があっちへこっちへと説明に回っていた。
「どうした」
「線路が雪に埋まってしまいました。退かすまでしばらく立ち往生です。お客様、大変申し訳ございません」
「そういう事情なら仕方がないさ。脱線はしなかったんだろう?」
エアルドフリスは平身低頭している相手を軽く流してから、今度こそはと自分の部屋へと向かう。その途中、何者かとすれ違った。顔を見ると、先程食堂車で見かけたゴドゥノフ大佐であることがわかる。
エアルドフリスが彼の横を通った時に落ちたのか、足元には革の財布があった。
「落とされましたよ」
「おお、すまないね」
拾って差し出すと、ひったくるように大佐は取り、中を確認した。
その背中を見送った後、エアルドフリスは自室に戻る。どれだけ大事なものが入っていたのだろうか。
「読書をするなら明日の朝からな。もう、寝てしまおう」
エアルドフリスは明かりを消し、寝ることにした。いつ、動くのかわからないのだから。
食堂車に併設のキッチンカーにおいて、空蝉は片付けと明日の準備を行っていた。そこに、大佐がルームサービスを頼んだと告げられる。
外の雪かきに駆り出され、人員が減っているため、空蝉が行かざるを得なかった。
軍隊にいたときのかつての上官である大佐。なぜか目の敵のように対応されるのが常だ。除隊後会いたくないのに、遭遇するのは不運だ。空蝉は仕事だけ考え、頼まれたものを持って向かう。
「あー、ん? 遅いぞ!」
大佐は空蝉だと分かった瞬間、横柄な態度に変えた。
「不好真意、申し訳ありません」
「なぜ、笑ったままだ! 大体、そういう時には済まなそうな顔をするもんだろう!」
大佐は頼んだ酒類とつまみがテーブルに並ぶのと同時に、ワインをグラスに注いだ。
「それでは、ごゆっくりと――」
「待て、話は終わっていないぞ」
空蝉は扉の前で直立不動で待機する。その時、空蝉は室内に高級な酒の瓶が何本かあるのに気づいた。大佐が頼んだ酒類よりアルコール度数は低く、体に優しいとされている物だ。誰かに贈るものだろうと認識した。
大佐はワインを少し飲んだ後、残りを空蝉にかけた。それでも笑顔のままの空蝉に、大佐は唾を吐きかける。
「お前はいつもいつもそのままだな! 敵を狙うときは相手への恐怖となり良いかもしれない。しかし、訓練の時も、給仕をするときもなぜ、その表情だ!」
「我不知道……申し訳ありません」
「大体! 貴様は殴られてもその顔のまま! 訳が分からない!」
「大変申し訳ありません」
それを繰り返すしかない。相手の機嫌が良くなるのを待つしかない。大佐が機嫌よくなることなどないのはこれまでの経験上知っているが。
「出ていけ! それと掃除だ! おまえでない奴をよこせ」
「承りました。失礼いたします」
空蝉は廊下に出た。
廊下をうろうろとしていたディーナは散歩をしていたというパトリシアと出会う。その結果、二人で探検していた。探検と言っても線路上で停車して、動かない列車はただ静かだ。
薄暗い廊下で空蝉と鉢合わせた。慇懃無礼にお辞儀をして立ち去る彼の料理人服に、赤黒いシミが見られた。
「……パティちゃん」
なんとなく不穏な空気を嗅ぎ取りディーナが眉を顰め、パトリシアの腕にしがみつく。
「あの人の服……」
赤いのは何だろうか?
「ンー……ワイン零しちゃったんだネ!」
「そうかなぁ」
「パティのオハナがそう言っているヨっ!」
「あ、そっか」
冷静に考えればわかることで、酒の匂いが感じ取れた。
ロマノヴナ夫人は食堂車で話が合った婦人たちと話しこんで、部屋に戻るのが遅くなった。戻る最中に大佐にあった。
「おや、ご婦人たちの夜会は御開きになりましたか」
「廊下でどうかしたのですか?」
「ワインをこぼしてしまいまして、その掃除を頼んでいるのですよ」
お恥ずかしいと大佐は笑う。
「ああ、そうでした。ロマノヴナ夫人が寝酒にたしなまれるというものを、複数頂いてしまったのです。私には物足りないものでして。とはいえ、捨てるのももったいない。ぜひ、お納めいただけますか?」
ロマノヴナ夫人は驚く。酒に関して大佐に話したことはないが、人と話すことはある。あの酒は体を温める効果があるため、女性の間で話題にもなっているのだ。
「でも……」
「助けると思って」
「分かりました」
大佐は部屋に戻ると三本持ってくる。
それを受け取り夫人は困ったわというように首をかしげる。瓶自体は大ききはないし、持てなくはない。
そのあと、世間話をして二人は別れた。
グリムバルドは同室の者とは打ち解け、話しながら夜から深夜にかけてカードゲームをした。盛り上がって声が大きくなるが、時計を見てさすがにまずいということになり、寝ることにした。列車が動かなければ旅程は伸びる。慌てるくらいなら、同室の者とカードゲームしたり話をする方がいいと全員が意見一致したのだ。
「寝る前に行っておかないとな……寒そうだ」
グリムバルドは廊下に出てトイレに向かう。
途中でパトリシアとディーナとすれ違う。探検の終了で、パトリシアがディーナを送っている最中だという。
「お嬢さんたち、明日も探検日和だな。気を付けるんだぞ、寒いし」
「ありがとー」
「うん、なの」
言葉を交わし別れた。
コランダムと昶は部屋に戻り、それぞれの時間を過ごす。
「師匠、寝ちゃったッスか? ……あー、こんな寝方じゃ風邪ひくっスよ?」
コランダムがうたたねをする状況をみて、布団に運ぶ。
「俺も寝るぜ。……あ、列車が動くように助けに行けばいいか? 俺にはこの筋肉がある!」
パーンと筋肉を手で叩く。
「とはいえ……寝よう」
大切な師匠コランダムを置いて出かけるなどありえない。守りを意識しているとはいえ、朝までぐっすり眠る。
コランダムはしばらくベッドの上で暗闇に目を慣らしていた。
ボルディアも夜の列車探検をしていた。いや、探検よりも動かない列車も気になり、酒を再度飲むには少し休みたかっただけだった。
端から端まで歩くとなると相当な距離。体力に自信はあるため良い運動だ。
一等車の大佐の部屋の前を動く影を見た。何かの理由で部屋の行き来はありうるため、特に気を留めなかった。
●痕跡
ゴドゥノフ大佐は待っていた。その人物が来た時、願いをかなえてやってもいいと答える。
しかし、相手の願いは、鋼の刃で大佐の首を裂くことだった。
翌朝、雪は止んでいた。
大佐を起こしに来た乗務員は反応がないことに驚いた。いや、寝ている可能性が高いため、そのままにしたかったが、きちんと起こせと命令されていた。
合鍵を持ってこさせ開けると、そこには血の海に倒れるゴドゥノフ大佐があった。名簿には医師を名乗る人物もいた為すぐに呼びに行かせた。
「ドウカシタノ?」
隣の部屋のパトリシアは否応なく騒ぎに気付いた。何でもないと職員は言うが、明らかに血のような臭いが漂ってくる。
「……これハ」
医師が来て、他の乗員も来る。その中に空蝉の姿もある。騒ぎは広まるし、外の作業に追われている人もいる為、料理人も駆り出された。
ローザが何事かと出てきた。空蝉が「後で説明はあります」と告げるが、彼女には事件があったと分かった。見えるからだ。
「おい、何があったんだ」
ボルディアはやってきた。近づくことを止められるが、自分の身分を明らかにする。
「警察の者だ。これは……手伝うべきことだと思う」
遺体に手を合わせた後、医師の作業が終わるのを待った。
エアルドフリスは部屋の中を覗く。医師の作業が終わるまで待つことにした。ボルディアの視線が痛いが。
「こいつは事件の匂いがするぜ! ここは俺の出番だぜ!」
昶が被害者の部屋に入り込む。
「おい、何をやっているんだ」
ボルディアは押しのけて入っていった昶に怒った。
昶は気にせず、豪奢なツインを見渡す。備え付けの机にメモ帳とインクがあるのを見て、早速手にする。
「何って? 決まっているじゃないか、調査だよ、調査! 事件解決暴走特急『メイ探偵昶』とは俺のことだ!」
「何やっているんだ! 一般人は出ろ! 警察の仕事を邪魔するな」
ボルディアは知らなかった。
「おや……あの迷探偵の昶さんですか」
エアルドフリスは知っていた。本業とは別に、過去に事件を解決したことがある。そのためか警察の要請を受け関わることがある。その中で、昶の話聞いたことがあった。昶の場合は居合わせて、捜査の現場を混乱の渦に陥れた挙句、解決に導くという恐怖の力を持っているのだ。
「そんなモン知ったことはない! こら、それは離せ」
ボルディアは昶からメモ帳を取り上げようとしたが、もみ合いになり破いてしまう。そのあと、昶はテーブルの上にある財布を見た。中にはお金など金券は入っている。メモの破片のような物を手にした。
コランダムは大きく息を吐いた。そして、普段から愛用しているハリセンを手に昶をぶん殴った。
「役犬原! 様子を見に行っただけと思ったら! 余計なことをしないように!」
コランダムはボルディアに頭を下げ、昶の首根っこを掴んでひとまず離れた。
グリムバルドは食堂車で騒ぎを聞き、情報を求めて顔を出した。
「騒がしいということであちらでも気になっているんですが……」
「どうヤラ、大佐ガ殺されたんダヨ」
パトリシアが答える。
「あの、戦争成金おじさんが」
ディーナはパトリシアと一緒に朝食という約束もあったため、やってきたのだ。
エアルドフリスは集まる人々を観察していた。
「疑われるのを承知で現場を見させてもらいましょうか。列車の見取り図もほしいですね」
「待て! 何の権限があってそうするんだ」
ボルディアが一喝する。エアルドフリスは気にせず、手袋もして中に入る。
「先生の話もぜひお伺いしたいですね」
エアルドフリスはマイペースで情報を得ようとする。
探偵もどきは立ち去ったが、もう一人の探偵にボルディアは頭を抱えた。
●証言
昨日、食堂車に来た人たちが集められていた。それ以外はできるだけ部屋から出ないように言い渡されている。
ボルディアは一同と聞き取った証言からある女性を見つめる。
正直言って死体を見て動じもしないエアルドフリスも怪しかった。しかし、状況からすればロマノヴナ夫人が一番怪しい。エアルドフリスの怪しさはそこではなく、もっと違うところで何かやっているのではといううさん臭さだ。
「さて、皆さんにお聞きしたいことがあるのです」
エアルドフリスは穏やかに問いかける。
「ダイイングメッセージはあったにも関わらず消されている……財布に入っていた? でも……師匠! 俺の推理だと、犯人はこの列車にいるっスよ!」
沈黙が食堂車を駆け巡る。パスーンという盛大なハリセンの音がそれを切り裂いた。
「そういうことなのですよ……外に逃げるとなっても、足跡が残ります。昨晩の吹雪は死の危険すらある」
エアルドフリスは言う。
「ロマノヴナ夫人、彼と何があったんだ?」
ボルディアの言葉に夫人は驚く。
「旦那にあったことは聞いている。それに大佐が絡んでいたとか?」
夫人が震えるのを見て、ボルディアは自分の考えが正しいと判断した。夫人の夫は強盗殺人にあっている。大佐の関係者が関わっているという噂はあるが、犯人はただのごろつきで金目当てだったと動機を話している。
「チョットと待って」
パトリシアが制止をかける。
「言い争う音は聞いたヨ? 男同士だったみたいだったヨ?」
「確かに卿の話は聞いているけど、夫人がナイフで刺して殺すなんて難しいんじゃないか?」
パトリシアは隣の部屋で聞いた音について証言し、グリムバルドは現実を指す。
「あの人の話はすごく面白かったけれど、あれが実際にあったなら、動機がある人は多そうだぞ」
グリムバルドは昨晩の話を思い出して告げる。
「怪しいなら、あの人も怪しいとなってしまうの」
ディーナがローザを見る。
「長々と自慢話を聞かされて、お金くれるかなと思っても何もなくて、むかっとなってということもあるの」
「私がなぜ?」
ディーナはローザをじっと見つめた後、小首をかしげた。
「そうなると、私も動機があるという分析をされてしまいますね」
空蝉が告げる。
「いや、動機を聞くと目が曇るからね」
「物理的に殺すなら、酒類を届けたときにやるだろう」
空蝉と大佐の関係はエアルドフリスもボルディアも聞いていた。
「そうかわかったぞ!」
昶が突然立ち上がる。
「犯人は女」
コランダムが目を見開く。彼女以外も驚く。
「ローザさん、あなたですね」
コランダムは無言でハリセンをぶちかまし、周囲に頭を下げた。
「いい加減にしなさい。あなたが考えることは素晴らしいです。しかし、本気で事件を解決したいと思っている方々の迷惑になります」
「師匠にゆっくり眠ってほしいっスよ」
「私思いなことはよいとして、ぬれぎぬをかぶせられた人の思いはどうなるのですか!」
「うっ、俺の推理は……」
反論は許されなかった。
「……そろそろ、食事にしませんか? ブランチという風情になりますが」
空蝉が厨房からの指示を見て告げた。
全員が食べそびれていた。
生きているのだから食べるのだ。おなかが空いていない者がいても、なんとなくここで簡単な食事をとる。
「おいしいの」
ディーナは微笑んだ。その笑顔を見てパトリシアは作った本人の様に嬉しくなった。
昼になり、列車は動き始める。
平原のど真ん中では警察も来られない。結局、死体を運んだまま駅に向かうしかなかった。
●独り言
もし、父さんが騙されなかったら、私だってこの列車に乗れていたの。きれいな紳士と淑女に混ざって。
だから、今回乗れたのは偶然。その中にあの人を見つけてしまったの。
財布落として困ればいいの! でも、あの人は私を覚えてもいないのかな?
父さんにあんなことをして……私を独りぼっちにしたのに。
――ディーナは窓に写る自分を見つめた。
オタカラゲットの準備はしたネ! 怪盗のリューギ、予告状も届けテおいたノヨー!
デモ! ディーナちゃんと歩き回った後、予告状は出したのニ! 気づかれていないのかナ?
それハそれダヨ! 気づいても事件ガあったから、話題にならないのカモー?
――仮面を取り出しパトリシアはウインクした。
女性だと思うんだよな。
師匠の筆跡に似ているんだけど……師匠は同じ部屋にいたし。そもそも……ああ、さっき食べたオムライス。
――昶は手にしたメモ帳にオムライスの絵を描いた。
まずいことになりましたね。
メモ帳は処分した上、あの二人が粉砕してくれたのは良かったのです。……うかがうと書いたメモが残っていた……財布から取ったけれどまさか欠けていたとは。
筆跡でばれるのも時間の問題? まだ凶器というのがありますね……捨てれば雪が……。
――犯人である彼女は唇を噛んだ。
探偵からすれば私が大変疑わしいのは事実です。だからといって殺すということはいたしません。なぜなら、そうする理由がないからです。
同僚に感謝しないとなりません。明日には列車は着くでしょう。今回の騒ぎで首になるのでしょうか。
でも、私に落ち度はありませんでした。むしろ、この仕事ではこの表情が良いと言われました。
明日の朝には列車は着きます。最後の食事はより丁寧に作りましょう。
――空蝉は幸運というものを知った。
無事、着いてほしいとグリムバルドは願う。
大佐の件で違和感があったことはすでに人に話してある。あとは、同室の者と時を忘れるように話をしたりカードゲームをしたりするだけだった。
あのお嬢さんについては保留しておきましょう。
それにしても空蝉さんが見た酒瓶の行方は? 銘柄としては夫人が寝酒としてもらったと考えるのが妥当。しかし、何か含まれているから誰かが持ち去ったということもある。
迷探偵昶の名は伊達ではないな。あのメモ、確かに女性ぽい筆跡だった。つまり……油断させないと殺せないだろう。
――エアルドフリスは大きく息を吐いた。
探偵っていうのはなんでいるんだか!
ボルディアは頭を掻いた。夫人が「変な手紙があった」と手渡してきたのもある。
「だいたい、なんだよ、お宝頂戴って!」
遊びに付き合う気はなかった。
●再び夜が
グリムバルドは食堂で小さい酒瓶を持っているロマノヴナ夫人と出会う。
「どうかしたんですか?」
「それが……頂き物のお酒……荷物になるので誰かもらっていただけないでしょうか」
その酒瓶を見ると寝酒にもよいとされる高級な酒だった。
「しかし、そのようなお高いものを……」
「頂いてしまったのだけど、これから用事があるし」
「そういうことなら。部屋にいる人たちも喜びますよ」
「そう? ありがとう」
「いえ、こちらがお礼を述べる立場です」
利害は一致して受け取った。しかし、その酒を開けることはなかった。
ディーナは今でないと話す機会はないとローザの元を訪れた。門前払いされるかと思ったが意外と招き入れられた。
「お姉ちゃん、すごくきれいな服を着ているの」
「ありがとうございます」
「昼も思ったけど、ひょっとして……覚えていないの?」
「え?」
ディーナは苛立つ。
「家庭教師していた家のことは忘れるの? 父さんからお金もらったのに?」
ディーナが説明するが、彼女は首をかしげるばかりだ。
ディーナは驚く。小さかったディーナを覚えていないことも考えたが、ここまで忘却されていると不思議だった。
「ああ、ディーナちゃん? 大きくなって、気づかなかったです」
「あれだけのお金があったら、親戚一同の誰かは助かったの?」
ローザはハグをしたが、心底驚いた顔をした。
「そのような話あったかしら? 旦那様からお金は頂いたけれど、今後の勉強のためといっていただいたのよ?」
ローザの言葉を聞いていると、ディーナは自分の信じていたことが嘘だったと思えた。父がお人よし過ぎて、ローザ以外にもむしり取られているのだが。
「なんで! こんな女に騙されたの!」
ディーナは思わず、ローザを大きく突き飛ばした。
ガターン。
大きな音が響き、彼女が倒れる。頭が固い部分にあたり、真っ赤な血が飛び散る。
「……え? ちょっと、お姉ちゃん」
ディーナは恐る恐る確認をする。ローザは全く動かない。悲鳴をあげそうになるが、口をふさぐ。
ディーナはお財布を取るとポケットに入れて外に出た。
廊下に出たときロマノヴナ夫人と鉢合わせた。
「どうかしたの?」
「う、うう」
「あらあら……落ち着きましょう?」
夫人はディーナを部屋に招き入れた。鍵はかけないでおく。
「これは頂き物だけど、持っていくのもなんだか……あら? 残り一本だったかしら? でもいいわ……」
開けるとグラスにそれぞれ注ぐ。
「軽いお酒なの、体も温まるわ」
ディーナはうなずくとちびちび舐めるように飲む。
夫人は飲んで首を傾げた、こんな味だったかと。
「おいしかっ……う、うぐっ」
「そう……え、あ、ぐっ……」
二人はグラスを落とした。
パトリシアは危うく夫人の部屋から出るとき鉢合わせる所だった。
(オタカラは頂いたのネ。このお酒ハ、師匠とお祝いでのむのネ)
やることはやったのだから、パトリシアはとんずらする支度をするために部屋に戻った。
(ディーナちゃん、どうしたんだろう? やっぱり、気になるヨー)
いつでも出ていける状態にしてから確認しに行く。ロマノヴナ夫人の部屋に行くとガラスが割れるような音がした。
パトリシアは扉を開けると、倒れている二人の姿があった。
「ディーナちゃん、おばさん、大丈夫?」
人を呼びに行かないとならない。
「きゃあ、役犬原! 誰か、助けてください!」
別の部屋からも悲鳴が上がる。
パトリシアはコランダムの部屋だと確認後、ボルディアのところに向かう。
「警察官サン! 大変だヨ!」
大声をあげるパトリシア。エアルドフリスがいち早く駆け付けた。
「役犬原が息をしていないのです!」
コランダムはおろおろしている。
昶もディーナ達も医師が来て対処するが、既に遅かった。
●犯人は
事件の続発により列車内の人々は疲弊していた。早く駅に着き解放されることを願う。
部屋にいられないコランダムは食堂でうなだれている、ように見える。
「朝食はいかがしましょう?」
「いらないです! あんな、まさか……」
空蝉に言葉をたたき返す。
「さて……コランダムさん、本当に何も知らないのですか?」
エアルドフリスが彼女の前に座った。
ボルディアがエアルドフリスをにらみつけ文句を言いたげだが、口をつぐんだ。
「気付いたら、弟子が冷たくなっていた……ポケットにはナイフ」
絞殺のようだが、抵抗の際ナイフを使わなかった疑問がある。
「コランダムさんの部屋、確認してもよいですね」
「なんでですか」
「見落としがあるかもしれません……手紙とか?」
「え?」
コランダムは反応してしまった。
「思い出したことがあるのです。大佐は、幅広く事業を展開している、と言えば聞こえはいい。自分に利益がある人を生かすタイプだ」
「それがどうしたんだというんだ。まあ、恨みを買うから殺される。あの女性三人はどうする」
ボルディアは指摘する。
「一つは簡単です。事情は分かりませんが、ディーナさんともめた際にローザさんは倒れて頭を打って即死。殺すつもりがなかったディーナさんが動揺し、たまたま通りすがった夫人が声をかけた。酒を飲んだのは落ち着かせるため。空蝉さんに確認をしてもらいますが、あの酒は大佐の物だったはずです。夫を殺した犯人につながるかもしれないと夫人は強く思っていなかったのでしょう。そうでないと飲みませんでしょう」
どこに毒があったかはわからないが、瓶の中と考えるのが妥当。
「で、役犬原さんは的外れなことを言っていましたが、あなたに行きつく可能性があった。大佐を手にかけた理由は、あの一件……大聖堂の建築のことですね」
コランダムは目を見開いた。
「……知っているんですか」
「ちょうど私が住んでいる町の出来事です」
「……そうです。二人は私が手をかけました」
コランダムは虚脱した目を見せた。
●消えたモノ
駅に着くと警察の者が列車に入っていく。生き延びた乗客たちはほっと息を吐いた。
たとえ、刑事にあれこれ聞かれたとしても素直に話すだけだ。それに、探偵がすべて片付け、犯人も捕まえたというのだから。
空蝉の証言から大佐から夫人に渡った酒瓶の可能性が強くなる。
「うわああ、大変だ」
鑑識などの警察官が入った直後、悲鳴が上がる。
「怪盗が出て盗んだというカードが」
エアルドフリスはああやはりという顔をしている。
「気づいていたの……って、あれ、いたずらじゃなかったのか!」
ボルディアはポケットからカードを取り出した。
「まだ遠くには行っていないはずだ」
ただし、怪盗が駅で下車したという保証が一つもない。
「へくち。でもフトコロにオタカラがあれば、ぽかぽかネ」
パトリシアは街に入る直前で減速したとき逃げていた。
グリムドバルドはほっと息を吐いた。無事、姉夫婦のところに行けそうだ。
分けてもらった酒は高級品。旅で飲み損ねたのだから、甥っ子の祝杯として使えばいいのだ。
これが、くれた人への供養にもなるだろう。
この後、この酒を警察が探しているという情報が入った。その時――。
(代筆:狐野径)
ノスタルジア・エクスプレスは雪景色の中を悠々と進んでいた。
食堂車には乗客の多くが集い、それぞれの時間を過ごしている。
大学講師のエアルドフリス(ka1856)は珈琲を飲みながら、先程からずっと続いている、大きくて嫌でも耳に入るかのようなゴドゥノフ大佐の声を聞いていた。大佐は恰幅が良い五十代の男であり、前には家庭教師風の若い女性と大佐に年齢が近く、面やつれした女性に世間話から自慢話をしている。
(なんというか、戦地の話をしているとき、視線がぶれて飛んでいる。彼が住んでいるのは高級住宅地だ。たたき上げの軍人がそんなに儲かるもんかね?)
エアルドフリスはふと思った。上の地位になればそれなりに高給にはなるだろう。コツコツと貯めるタイプならば住むことは可能だろう。しかし、彼の話し方、様子からそれだけではないと感じ取った。
「師匠! 今回は温泉街らしいっスよ! 楽しみっスね!」
その隣のテーブルで、大佐に負けない大きな声の役犬原 昶(ka0268)が窓の外を見てはコランダム(ka0240)を振り返る。
「……確かにその通りです。慰労も兼ねてですが、勉強の一環と何度言えば――」
キラキラした視線を受けながら、師匠と呼ばれるコランダムは溜息を吐いた。そろそろ自室にでも戻ろうかと考え立ち上がった。
コランダムは建築家で、自分の事務所も持っており、昶は押し掛け弟子でもある。
それに続くため、昶は元気よく立ち上がる。揺れる車内はやや勝手が違う。
「――お話楽しかったですわ」
大佐の話を聞いて目はキラキラしているが、どこか疲れていた様子を見せる家庭教師のローザが立ち上がる。ふらつき、昶と接触した。
「きゃ」
「っと、お姉さん、大丈夫っスか!?」
「すみません、うちの弟子が」
「い、いえいえ……」
コランダムは彼女を見ると、否応なく大佐の顔が見えた。大佐は二人を視界に収めていなかった。コランダムはどこかやるせないような怒りのような表情とともに、「デッキから外を見るぜー」と走って行こうとする昶に静かに怒った。
技師のグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は喧噪をBGMに読書をしていた。
「そこの君。君は旅行かね」
大佐は離れたテーブルにいるグリムバルドに笑いかけた。
グリムバルドは話しかけられたことに気付くと、手元の本を閉じて口を開く。
「姉のところに向かうんだ。その……甥が受験に合格した、お祝いで」
「おお、それはめでたい。私からもささやかだがお祝いをさせてもらおうか。どうだね、こっちへ」
「ありがとうございます」
旅の出会いは大切にするグリムバルドは、大佐のテーブルへ移動した。戦地の話や昨今の政治の話や幅は広く進む。
(軍人って儲かるっけ? ……んー、景気が上向いているから関係ないか)
グリムバルドは大佐との会話の内容は、違う世界のもので面白かった。
大佐は追加の注文をするため、給仕を呼ぶ。大きな声での呼びかけは、唐突で人を驚かせるものでもあった。
大佐の前のテーブルにいるパトリシア=K=ポラリス(ka5996)の横で、カランとナイフの落ちる音がした。ナイフを落としたのはここの料理人兼給仕の空蝉(ka6951)。空蝉はトラブルにも表情が変わらず微笑みを浮かべている。
「あっ!」
パトリシアが小さく声を出した直後、大佐は空蝉を怒鳴りつける。
「貴様!」
「申し訳ありません」
空蝉はすらりと手を伸ばしてナイフを取り、座へ頭を下げた。
大佐はパトリシアに申し訳なさそうな顔を向ける。
「失礼、お嬢さん。知人なんですがねえ、こいつは昔から何を考えているやら……おい、お前、いい加減その――」
「パティは大丈夫! ダカラ、そんな怒らないでほしいナー」
パトリシアは立ち上がって大佐に言う。殴りそうなくらい怒るのが不思議であった。
いさめられた大佐はこれ以上怒鳴りつける気にならなかったのか、空蝉を解放した。
ほっと息を吐くとパトリシアは席に着き、視界の隅に映ったディーナ・フェルミ(ka5843)に手招きする。
「おや、そこのお嬢さんッ」
ディーナはメニューとにらめっこをやめ、パトリシアを訝しげに見た。
「……私?」
「ソーソー。折角のノスタルジア! 楽しまなきゃソンソン、なんダヨー」
パトリシアは今にも歌い出しそうなくらいの上機嫌で、ディーナに笑顔を向ける。
ディーナはきょとんとする。一張羅の服も、ここのきらびやかな内装や金持ちの服装からするとみすぼらしく見え悲しかったところへのパトリシアの誘い。
「でもね……その、高いなって」
「ここ二人前なんダヨー! ダカラ、気ニしないで、こっちデ一緒に楽しもうー」
ディーナは招かれるままパトリシアのテーブルにつき、彼女の勧めるまま豪華な食事を楽しんだ。
「なんでおごってくれるの?」
おずおずと言うと「これからパティのフトコロはぽかぽかなんだヨ!」そのお祝いだという。
ディーナは緊張しつつも食事を楽しんだ。
食堂車にいない客もいる。例えば、グリムバルドの同室の者たちや、一等車以外の者。食事の高さは誰もが知っている。それと同時に、それ相応のおいしさもあるのだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は自分の部屋にいた。移動の手段として使っているに過ぎないこの列車で、食堂車で優雅に食事という気分にならなかった。
その代わり、乗り込む際にしっかりと食料や酒は持ち込んでいた。
警察官としては凶悪事件にかかわることが多く、このような時間は物足りないが嬉しい。
「時期がずれたおかげで、四人部屋を一人で使うのは贅沢だ。こっそり相棒のヴァンも連れて来てもばれなかったかもな」
警察犬のヴァンを思い出して、酒を飲みほした。
●深夜の廊下
夕食も終えまだ夜はこれからという時間、食堂車に居た人々は自分の客室へと戻る者もいる。
エアルドフリスも戻る人の一人。窓の外は吹雪で真っ白だ。彼が通路を歩いていると、俄かに車両が激しく揺れた。
「うおっと」
立っていられない程の揺れに、思わず近くの手すりにしがみつく。揺れがおさまると車内はざわめきだし、車掌や給仕があっちへこっちへと説明に回っていた。
「どうした」
「線路が雪に埋まってしまいました。退かすまでしばらく立ち往生です。お客様、大変申し訳ございません」
「そういう事情なら仕方がないさ。脱線はしなかったんだろう?」
エアルドフリスは平身低頭している相手を軽く流してから、今度こそはと自分の部屋へと向かう。その途中、何者かとすれ違った。顔を見ると、先程食堂車で見かけたゴドゥノフ大佐であることがわかる。
エアルドフリスが彼の横を通った時に落ちたのか、足元には革の財布があった。
「落とされましたよ」
「おお、すまないね」
拾って差し出すと、ひったくるように大佐は取り、中を確認した。
その背中を見送った後、エアルドフリスは自室に戻る。どれだけ大事なものが入っていたのだろうか。
「読書をするなら明日の朝からな。もう、寝てしまおう」
エアルドフリスは明かりを消し、寝ることにした。いつ、動くのかわからないのだから。
食堂車に併設のキッチンカーにおいて、空蝉は片付けと明日の準備を行っていた。そこに、大佐がルームサービスを頼んだと告げられる。
外の雪かきに駆り出され、人員が減っているため、空蝉が行かざるを得なかった。
軍隊にいたときのかつての上官である大佐。なぜか目の敵のように対応されるのが常だ。除隊後会いたくないのに、遭遇するのは不運だ。空蝉は仕事だけ考え、頼まれたものを持って向かう。
「あー、ん? 遅いぞ!」
大佐は空蝉だと分かった瞬間、横柄な態度に変えた。
「不好真意、申し訳ありません」
「なぜ、笑ったままだ! 大体、そういう時には済まなそうな顔をするもんだろう!」
大佐は頼んだ酒類とつまみがテーブルに並ぶのと同時に、ワインをグラスに注いだ。
「それでは、ごゆっくりと――」
「待て、話は終わっていないぞ」
空蝉は扉の前で直立不動で待機する。その時、空蝉は室内に高級な酒の瓶が何本かあるのに気づいた。大佐が頼んだ酒類よりアルコール度数は低く、体に優しいとされている物だ。誰かに贈るものだろうと認識した。
大佐はワインを少し飲んだ後、残りを空蝉にかけた。それでも笑顔のままの空蝉に、大佐は唾を吐きかける。
「お前はいつもいつもそのままだな! 敵を狙うときは相手への恐怖となり良いかもしれない。しかし、訓練の時も、給仕をするときもなぜ、その表情だ!」
「我不知道……申し訳ありません」
「大体! 貴様は殴られてもその顔のまま! 訳が分からない!」
「大変申し訳ありません」
それを繰り返すしかない。相手の機嫌が良くなるのを待つしかない。大佐が機嫌よくなることなどないのはこれまでの経験上知っているが。
「出ていけ! それと掃除だ! おまえでない奴をよこせ」
「承りました。失礼いたします」
空蝉は廊下に出た。
廊下をうろうろとしていたディーナは散歩をしていたというパトリシアと出会う。その結果、二人で探検していた。探検と言っても線路上で停車して、動かない列車はただ静かだ。
薄暗い廊下で空蝉と鉢合わせた。慇懃無礼にお辞儀をして立ち去る彼の料理人服に、赤黒いシミが見られた。
「……パティちゃん」
なんとなく不穏な空気を嗅ぎ取りディーナが眉を顰め、パトリシアの腕にしがみつく。
「あの人の服……」
赤いのは何だろうか?
「ンー……ワイン零しちゃったんだネ!」
「そうかなぁ」
「パティのオハナがそう言っているヨっ!」
「あ、そっか」
冷静に考えればわかることで、酒の匂いが感じ取れた。
ロマノヴナ夫人は食堂車で話が合った婦人たちと話しこんで、部屋に戻るのが遅くなった。戻る最中に大佐にあった。
「おや、ご婦人たちの夜会は御開きになりましたか」
「廊下でどうかしたのですか?」
「ワインをこぼしてしまいまして、その掃除を頼んでいるのですよ」
お恥ずかしいと大佐は笑う。
「ああ、そうでした。ロマノヴナ夫人が寝酒にたしなまれるというものを、複数頂いてしまったのです。私には物足りないものでして。とはいえ、捨てるのももったいない。ぜひ、お納めいただけますか?」
ロマノヴナ夫人は驚く。酒に関して大佐に話したことはないが、人と話すことはある。あの酒は体を温める効果があるため、女性の間で話題にもなっているのだ。
「でも……」
「助けると思って」
「分かりました」
大佐は部屋に戻ると三本持ってくる。
それを受け取り夫人は困ったわというように首をかしげる。瓶自体は大ききはないし、持てなくはない。
そのあと、世間話をして二人は別れた。
グリムバルドは同室の者とは打ち解け、話しながら夜から深夜にかけてカードゲームをした。盛り上がって声が大きくなるが、時計を見てさすがにまずいということになり、寝ることにした。列車が動かなければ旅程は伸びる。慌てるくらいなら、同室の者とカードゲームしたり話をする方がいいと全員が意見一致したのだ。
「寝る前に行っておかないとな……寒そうだ」
グリムバルドは廊下に出てトイレに向かう。
途中でパトリシアとディーナとすれ違う。探検の終了で、パトリシアがディーナを送っている最中だという。
「お嬢さんたち、明日も探検日和だな。気を付けるんだぞ、寒いし」
「ありがとー」
「うん、なの」
言葉を交わし別れた。
コランダムと昶は部屋に戻り、それぞれの時間を過ごす。
「師匠、寝ちゃったッスか? ……あー、こんな寝方じゃ風邪ひくっスよ?」
コランダムがうたたねをする状況をみて、布団に運ぶ。
「俺も寝るぜ。……あ、列車が動くように助けに行けばいいか? 俺にはこの筋肉がある!」
パーンと筋肉を手で叩く。
「とはいえ……寝よう」
大切な師匠コランダムを置いて出かけるなどありえない。守りを意識しているとはいえ、朝までぐっすり眠る。
コランダムはしばらくベッドの上で暗闇に目を慣らしていた。
ボルディアも夜の列車探検をしていた。いや、探検よりも動かない列車も気になり、酒を再度飲むには少し休みたかっただけだった。
端から端まで歩くとなると相当な距離。体力に自信はあるため良い運動だ。
一等車の大佐の部屋の前を動く影を見た。何かの理由で部屋の行き来はありうるため、特に気を留めなかった。
●痕跡
ゴドゥノフ大佐は待っていた。その人物が来た時、願いをかなえてやってもいいと答える。
しかし、相手の願いは、鋼の刃で大佐の首を裂くことだった。
翌朝、雪は止んでいた。
大佐を起こしに来た乗務員は反応がないことに驚いた。いや、寝ている可能性が高いため、そのままにしたかったが、きちんと起こせと命令されていた。
合鍵を持ってこさせ開けると、そこには血の海に倒れるゴドゥノフ大佐があった。名簿には医師を名乗る人物もいた為すぐに呼びに行かせた。
「ドウカシタノ?」
隣の部屋のパトリシアは否応なく騒ぎに気付いた。何でもないと職員は言うが、明らかに血のような臭いが漂ってくる。
「……これハ」
医師が来て、他の乗員も来る。その中に空蝉の姿もある。騒ぎは広まるし、外の作業に追われている人もいる為、料理人も駆り出された。
ローザが何事かと出てきた。空蝉が「後で説明はあります」と告げるが、彼女には事件があったと分かった。見えるからだ。
「おい、何があったんだ」
ボルディアはやってきた。近づくことを止められるが、自分の身分を明らかにする。
「警察の者だ。これは……手伝うべきことだと思う」
遺体に手を合わせた後、医師の作業が終わるのを待った。
エアルドフリスは部屋の中を覗く。医師の作業が終わるまで待つことにした。ボルディアの視線が痛いが。
「こいつは事件の匂いがするぜ! ここは俺の出番だぜ!」
昶が被害者の部屋に入り込む。
「おい、何をやっているんだ」
ボルディアは押しのけて入っていった昶に怒った。
昶は気にせず、豪奢なツインを見渡す。備え付けの机にメモ帳とインクがあるのを見て、早速手にする。
「何って? 決まっているじゃないか、調査だよ、調査! 事件解決暴走特急『メイ探偵昶』とは俺のことだ!」
「何やっているんだ! 一般人は出ろ! 警察の仕事を邪魔するな」
ボルディアは知らなかった。
「おや……あの迷探偵の昶さんですか」
エアルドフリスは知っていた。本業とは別に、過去に事件を解決したことがある。そのためか警察の要請を受け関わることがある。その中で、昶の話聞いたことがあった。昶の場合は居合わせて、捜査の現場を混乱の渦に陥れた挙句、解決に導くという恐怖の力を持っているのだ。
「そんなモン知ったことはない! こら、それは離せ」
ボルディアは昶からメモ帳を取り上げようとしたが、もみ合いになり破いてしまう。そのあと、昶はテーブルの上にある財布を見た。中にはお金など金券は入っている。メモの破片のような物を手にした。
コランダムは大きく息を吐いた。そして、普段から愛用しているハリセンを手に昶をぶん殴った。
「役犬原! 様子を見に行っただけと思ったら! 余計なことをしないように!」
コランダムはボルディアに頭を下げ、昶の首根っこを掴んでひとまず離れた。
グリムバルドは食堂車で騒ぎを聞き、情報を求めて顔を出した。
「騒がしいということであちらでも気になっているんですが……」
「どうヤラ、大佐ガ殺されたんダヨ」
パトリシアが答える。
「あの、戦争成金おじさんが」
ディーナはパトリシアと一緒に朝食という約束もあったため、やってきたのだ。
エアルドフリスは集まる人々を観察していた。
「疑われるのを承知で現場を見させてもらいましょうか。列車の見取り図もほしいですね」
「待て! 何の権限があってそうするんだ」
ボルディアが一喝する。エアルドフリスは気にせず、手袋もして中に入る。
「先生の話もぜひお伺いしたいですね」
エアルドフリスはマイペースで情報を得ようとする。
探偵もどきは立ち去ったが、もう一人の探偵にボルディアは頭を抱えた。
●証言
昨日、食堂車に来た人たちが集められていた。それ以外はできるだけ部屋から出ないように言い渡されている。
ボルディアは一同と聞き取った証言からある女性を見つめる。
正直言って死体を見て動じもしないエアルドフリスも怪しかった。しかし、状況からすればロマノヴナ夫人が一番怪しい。エアルドフリスの怪しさはそこではなく、もっと違うところで何かやっているのではといううさん臭さだ。
「さて、皆さんにお聞きしたいことがあるのです」
エアルドフリスは穏やかに問いかける。
「ダイイングメッセージはあったにも関わらず消されている……財布に入っていた? でも……師匠! 俺の推理だと、犯人はこの列車にいるっスよ!」
沈黙が食堂車を駆け巡る。パスーンという盛大なハリセンの音がそれを切り裂いた。
「そういうことなのですよ……外に逃げるとなっても、足跡が残ります。昨晩の吹雪は死の危険すらある」
エアルドフリスは言う。
「ロマノヴナ夫人、彼と何があったんだ?」
ボルディアの言葉に夫人は驚く。
「旦那にあったことは聞いている。それに大佐が絡んでいたとか?」
夫人が震えるのを見て、ボルディアは自分の考えが正しいと判断した。夫人の夫は強盗殺人にあっている。大佐の関係者が関わっているという噂はあるが、犯人はただのごろつきで金目当てだったと動機を話している。
「チョットと待って」
パトリシアが制止をかける。
「言い争う音は聞いたヨ? 男同士だったみたいだったヨ?」
「確かに卿の話は聞いているけど、夫人がナイフで刺して殺すなんて難しいんじゃないか?」
パトリシアは隣の部屋で聞いた音について証言し、グリムバルドは現実を指す。
「あの人の話はすごく面白かったけれど、あれが実際にあったなら、動機がある人は多そうだぞ」
グリムバルドは昨晩の話を思い出して告げる。
「怪しいなら、あの人も怪しいとなってしまうの」
ディーナがローザを見る。
「長々と自慢話を聞かされて、お金くれるかなと思っても何もなくて、むかっとなってということもあるの」
「私がなぜ?」
ディーナはローザをじっと見つめた後、小首をかしげた。
「そうなると、私も動機があるという分析をされてしまいますね」
空蝉が告げる。
「いや、動機を聞くと目が曇るからね」
「物理的に殺すなら、酒類を届けたときにやるだろう」
空蝉と大佐の関係はエアルドフリスもボルディアも聞いていた。
「そうかわかったぞ!」
昶が突然立ち上がる。
「犯人は女」
コランダムが目を見開く。彼女以外も驚く。
「ローザさん、あなたですね」
コランダムは無言でハリセンをぶちかまし、周囲に頭を下げた。
「いい加減にしなさい。あなたが考えることは素晴らしいです。しかし、本気で事件を解決したいと思っている方々の迷惑になります」
「師匠にゆっくり眠ってほしいっスよ」
「私思いなことはよいとして、ぬれぎぬをかぶせられた人の思いはどうなるのですか!」
「うっ、俺の推理は……」
反論は許されなかった。
「……そろそろ、食事にしませんか? ブランチという風情になりますが」
空蝉が厨房からの指示を見て告げた。
全員が食べそびれていた。
生きているのだから食べるのだ。おなかが空いていない者がいても、なんとなくここで簡単な食事をとる。
「おいしいの」
ディーナは微笑んだ。その笑顔を見てパトリシアは作った本人の様に嬉しくなった。
昼になり、列車は動き始める。
平原のど真ん中では警察も来られない。結局、死体を運んだまま駅に向かうしかなかった。
●独り言
もし、父さんが騙されなかったら、私だってこの列車に乗れていたの。きれいな紳士と淑女に混ざって。
だから、今回乗れたのは偶然。その中にあの人を見つけてしまったの。
財布落として困ればいいの! でも、あの人は私を覚えてもいないのかな?
父さんにあんなことをして……私を独りぼっちにしたのに。
――ディーナは窓に写る自分を見つめた。
オタカラゲットの準備はしたネ! 怪盗のリューギ、予告状も届けテおいたノヨー!
デモ! ディーナちゃんと歩き回った後、予告状は出したのニ! 気づかれていないのかナ?
それハそれダヨ! 気づいても事件ガあったから、話題にならないのカモー?
――仮面を取り出しパトリシアはウインクした。
女性だと思うんだよな。
師匠の筆跡に似ているんだけど……師匠は同じ部屋にいたし。そもそも……ああ、さっき食べたオムライス。
――昶は手にしたメモ帳にオムライスの絵を描いた。
まずいことになりましたね。
メモ帳は処分した上、あの二人が粉砕してくれたのは良かったのです。……うかがうと書いたメモが残っていた……財布から取ったけれどまさか欠けていたとは。
筆跡でばれるのも時間の問題? まだ凶器というのがありますね……捨てれば雪が……。
――犯人である彼女は唇を噛んだ。
探偵からすれば私が大変疑わしいのは事実です。だからといって殺すということはいたしません。なぜなら、そうする理由がないからです。
同僚に感謝しないとなりません。明日には列車は着くでしょう。今回の騒ぎで首になるのでしょうか。
でも、私に落ち度はありませんでした。むしろ、この仕事ではこの表情が良いと言われました。
明日の朝には列車は着きます。最後の食事はより丁寧に作りましょう。
――空蝉は幸運というものを知った。
無事、着いてほしいとグリムバルドは願う。
大佐の件で違和感があったことはすでに人に話してある。あとは、同室の者と時を忘れるように話をしたりカードゲームをしたりするだけだった。
あのお嬢さんについては保留しておきましょう。
それにしても空蝉さんが見た酒瓶の行方は? 銘柄としては夫人が寝酒としてもらったと考えるのが妥当。しかし、何か含まれているから誰かが持ち去ったということもある。
迷探偵昶の名は伊達ではないな。あのメモ、確かに女性ぽい筆跡だった。つまり……油断させないと殺せないだろう。
――エアルドフリスは大きく息を吐いた。
探偵っていうのはなんでいるんだか!
ボルディアは頭を掻いた。夫人が「変な手紙があった」と手渡してきたのもある。
「だいたい、なんだよ、お宝頂戴って!」
遊びに付き合う気はなかった。
●再び夜が
グリムバルドは食堂で小さい酒瓶を持っているロマノヴナ夫人と出会う。
「どうかしたんですか?」
「それが……頂き物のお酒……荷物になるので誰かもらっていただけないでしょうか」
その酒瓶を見ると寝酒にもよいとされる高級な酒だった。
「しかし、そのようなお高いものを……」
「頂いてしまったのだけど、これから用事があるし」
「そういうことなら。部屋にいる人たちも喜びますよ」
「そう? ありがとう」
「いえ、こちらがお礼を述べる立場です」
利害は一致して受け取った。しかし、その酒を開けることはなかった。
ディーナは今でないと話す機会はないとローザの元を訪れた。門前払いされるかと思ったが意外と招き入れられた。
「お姉ちゃん、すごくきれいな服を着ているの」
「ありがとうございます」
「昼も思ったけど、ひょっとして……覚えていないの?」
「え?」
ディーナは苛立つ。
「家庭教師していた家のことは忘れるの? 父さんからお金もらったのに?」
ディーナが説明するが、彼女は首をかしげるばかりだ。
ディーナは驚く。小さかったディーナを覚えていないことも考えたが、ここまで忘却されていると不思議だった。
「ああ、ディーナちゃん? 大きくなって、気づかなかったです」
「あれだけのお金があったら、親戚一同の誰かは助かったの?」
ローザはハグをしたが、心底驚いた顔をした。
「そのような話あったかしら? 旦那様からお金は頂いたけれど、今後の勉強のためといっていただいたのよ?」
ローザの言葉を聞いていると、ディーナは自分の信じていたことが嘘だったと思えた。父がお人よし過ぎて、ローザ以外にもむしり取られているのだが。
「なんで! こんな女に騙されたの!」
ディーナは思わず、ローザを大きく突き飛ばした。
ガターン。
大きな音が響き、彼女が倒れる。頭が固い部分にあたり、真っ赤な血が飛び散る。
「……え? ちょっと、お姉ちゃん」
ディーナは恐る恐る確認をする。ローザは全く動かない。悲鳴をあげそうになるが、口をふさぐ。
ディーナはお財布を取るとポケットに入れて外に出た。
廊下に出たときロマノヴナ夫人と鉢合わせた。
「どうかしたの?」
「う、うう」
「あらあら……落ち着きましょう?」
夫人はディーナを部屋に招き入れた。鍵はかけないでおく。
「これは頂き物だけど、持っていくのもなんだか……あら? 残り一本だったかしら? でもいいわ……」
開けるとグラスにそれぞれ注ぐ。
「軽いお酒なの、体も温まるわ」
ディーナはうなずくとちびちび舐めるように飲む。
夫人は飲んで首を傾げた、こんな味だったかと。
「おいしかっ……う、うぐっ」
「そう……え、あ、ぐっ……」
二人はグラスを落とした。
パトリシアは危うく夫人の部屋から出るとき鉢合わせる所だった。
(オタカラは頂いたのネ。このお酒ハ、師匠とお祝いでのむのネ)
やることはやったのだから、パトリシアはとんずらする支度をするために部屋に戻った。
(ディーナちゃん、どうしたんだろう? やっぱり、気になるヨー)
いつでも出ていける状態にしてから確認しに行く。ロマノヴナ夫人の部屋に行くとガラスが割れるような音がした。
パトリシアは扉を開けると、倒れている二人の姿があった。
「ディーナちゃん、おばさん、大丈夫?」
人を呼びに行かないとならない。
「きゃあ、役犬原! 誰か、助けてください!」
別の部屋からも悲鳴が上がる。
パトリシアはコランダムの部屋だと確認後、ボルディアのところに向かう。
「警察官サン! 大変だヨ!」
大声をあげるパトリシア。エアルドフリスがいち早く駆け付けた。
「役犬原が息をしていないのです!」
コランダムはおろおろしている。
昶もディーナ達も医師が来て対処するが、既に遅かった。
●犯人は
事件の続発により列車内の人々は疲弊していた。早く駅に着き解放されることを願う。
部屋にいられないコランダムは食堂でうなだれている、ように見える。
「朝食はいかがしましょう?」
「いらないです! あんな、まさか……」
空蝉に言葉をたたき返す。
「さて……コランダムさん、本当に何も知らないのですか?」
エアルドフリスが彼女の前に座った。
ボルディアがエアルドフリスをにらみつけ文句を言いたげだが、口をつぐんだ。
「気付いたら、弟子が冷たくなっていた……ポケットにはナイフ」
絞殺のようだが、抵抗の際ナイフを使わなかった疑問がある。
「コランダムさんの部屋、確認してもよいですね」
「なんでですか」
「見落としがあるかもしれません……手紙とか?」
「え?」
コランダムは反応してしまった。
「思い出したことがあるのです。大佐は、幅広く事業を展開している、と言えば聞こえはいい。自分に利益がある人を生かすタイプだ」
「それがどうしたんだというんだ。まあ、恨みを買うから殺される。あの女性三人はどうする」
ボルディアは指摘する。
「一つは簡単です。事情は分かりませんが、ディーナさんともめた際にローザさんは倒れて頭を打って即死。殺すつもりがなかったディーナさんが動揺し、たまたま通りすがった夫人が声をかけた。酒を飲んだのは落ち着かせるため。空蝉さんに確認をしてもらいますが、あの酒は大佐の物だったはずです。夫を殺した犯人につながるかもしれないと夫人は強く思っていなかったのでしょう。そうでないと飲みませんでしょう」
どこに毒があったかはわからないが、瓶の中と考えるのが妥当。
「で、役犬原さんは的外れなことを言っていましたが、あなたに行きつく可能性があった。大佐を手にかけた理由は、あの一件……大聖堂の建築のことですね」
コランダムは目を見開いた。
「……知っているんですか」
「ちょうど私が住んでいる町の出来事です」
「……そうです。二人は私が手をかけました」
コランダムは虚脱した目を見せた。
●消えたモノ
駅に着くと警察の者が列車に入っていく。生き延びた乗客たちはほっと息を吐いた。
たとえ、刑事にあれこれ聞かれたとしても素直に話すだけだ。それに、探偵がすべて片付け、犯人も捕まえたというのだから。
空蝉の証言から大佐から夫人に渡った酒瓶の可能性が強くなる。
「うわああ、大変だ」
鑑識などの警察官が入った直後、悲鳴が上がる。
「怪盗が出て盗んだというカードが」
エアルドフリスはああやはりという顔をしている。
「気づいていたの……って、あれ、いたずらじゃなかったのか!」
ボルディアはポケットからカードを取り出した。
「まだ遠くには行っていないはずだ」
ただし、怪盗が駅で下車したという保証が一つもない。
「へくち。でもフトコロにオタカラがあれば、ぽかぽかネ」
パトリシアは街に入る直前で減速したとき逃げていた。
グリムドバルドはほっと息を吐いた。無事、姉夫婦のところに行けそうだ。
分けてもらった酒は高級品。旅で飲み損ねたのだから、甥っ子の祝杯として使えばいいのだ。
これが、くれた人への供養にもなるだろう。
この後、この酒を警察が探しているという情報が入った。その時――。
(代筆:狐野径)
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RP卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/01/13 03:39:13 |
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役割表明とか ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/01/12 18:57:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/08 11:16:18 |