• 東幕

【東幕】暁の洞門

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/17 19:00
完成日
2018/05/04 14:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●五芒星に煌く
 恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
 本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
 紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
 警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
 その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
 同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
 武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
 口々に武士達が疑問の声を発した。
 憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
 明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
 戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
 明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
 それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
 紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
 憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
 武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
 それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
 その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
 ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。


●暁の洞門
 歪虚が五芒星の頂点を目指し出現した、という情報は幕府へと速やかにもたらされたが、最南に位置する頂点の正確な場所が把握出来ず、幕府は後手の後手に回っていた。
「この当たりだというのは分かっているのですが……」
「周囲は深い森と険しい山々、切り立った崖と谷で、何処を指しているのか見当もつかず」
「どうやらこの頂点には祠か鳥居……何かが祀られていたり、歪虚に縁のある遺跡が残っていたりするようです。この地域にも必ずそういうものがあるはずです。縁者を探して情報をかき集めなさい」
 珍しく紫草の顔から笑みが消えた。
 流石の紫草もエトファリカ連邦諸国の民話レベルの伝承や地理の全てを把握出来ている訳では無い。
 特にこの辺りは地形的にも歪虚の進軍を間逃れていたが、人が生きて行くにも酷すぎた為に未統治となっていた地域でもあったため、とにかく情報が乏しかったのが災いしていた。

 それからさらに3日が過ぎた頃、ある鬼の娘を街道警備に就いていた牢人が保護した。
 牢人に縋り、安堵と不安に泣き崩れる娘はとても貧相な身なりだった。
 冬だというのにほとんど綿の入っていないゴワゴワの褞袍に、汚れた素足はもうずっと草履すら履いていないかのように皮膚は硬く厚く、爪は真っ黒に染まっていた。
「助けて下さい! 沢山の歪虚が、里を……皆を……!!」
 涙ながらに語る娘に、状況が逼迫していると感じた牢人は、すぐに幕府へ報告。
 ようやく最南の頂点の位置が判明したのだった。


 そこは鬼神助(おにしんじょ)と鬼達の間では呼ばれていた。
 今も点在する鬼の隠れ里の1つで、大昔、この地には鬼神がいたという。
 鬼神はとても強く、人々を虐げ、作物や家畜を奪い、生贄を求めては気が済むまで暴れ回ったという。
 人々は怯え苦しみながらも鬼神の要望に応え、供物を捧げ、生贄を捧げてきた。
 何故なら、この里は険しい山々と渓谷に囲まれており、逃げ出すことも助けを求めることも容易ではなかったからだ。
 しかし、人々の憂いの声を聞いた神仏が1人の修験者を向かわせたという。
 修験者はノミと槌だけで断崖絶壁に穴を開け、鬼神の寝床に通じる隧道を作り上げた。
 そして、鬼神が寝入ったところを急襲し、討伐した。
 泣いて喜ぶ人々に、修験者は静かに頭を振って告げた。
 『元はこの鬼神は土地神であったが、人々が信仰を忘れた為に祟ったのだ』――と。
 鬼神の骸は修験者の助言によって人々により手厚く葬られ、祠と鳥居を作って祀られた。
 以降、里の間ではこの祠を『首掻(くびかき)』、『首掻様』と呼ぶようになったと伝えられている。
 『鬼神の魂が鎮まるよう、これからは良くこの地を守り、祈りを捧げるように』
 そう告げると修験者は再び隧道を通り旅立っていった。
 せめてお礼をと追いかけた人々が見たのは、まるで後光が射すように光る修験者の後ろ姿。
 その輝きが暁のようであったことから、この隧道は『暁の洞門』と呼ばれるようになったという。


●妖遊戯
「あら……思ったより来るの早かったわねぇ」
 隧道を抜けた先、鬼神の寝床と呼ばれる山の中腹。
 “赤い番傘”の歪虚、叡身(えいしん)は隧道に仕掛けておいた“網”でハンター達の接近を敏感に察知すると、懐から黒い飴玉のような球体を取り出して、それをガリリと噛み砕いた。
「……ふーん、困ったわ、まだ本調子じゃないのよねぇ……」
 そう呟いて酸與(さんよ)と呼ばれる翼のある蛇に飛び乗ると、1番大柄な雍和(ようわ)を呼び寄せた。
「後のことはお前に任せるわ。もしも“儀式”を無事完成させたら、この一帯、お前の好きにして良いわよ」
 そう告げられた雍和は瞳を輝かせ、歓びにドラミングをしてみせる。
 その奥の祠の周囲にはこの里の住人であった鬼の生首が並び、飛頭蛮達が口だけを器用に使いながらバラバラに散った人体を、祭壇を頭として巨大な人の形になるように並べている。
「いい感じに素材も集められたし……ホント、あの女狐こういう変なところを利用するのは巧いのよね……」
 うんざりするように両肩を竦めると、叡身は酸與に命じて空へと舞い上がり、そして何処かへと飛び去ったのだった。


リプレイ本文


 小さな祠の周囲は20を越える鬼の生首が犇めき、夥しい血の海に沈んでいた。
 フクロウの目を通して俯瞰すれば、切断された人体の部位が大きな人の形を取るような形で、比較的均等に並べられているのが分かる。
 その胴にあたる中央部分では解体が行われており、周囲に飛び散った肉片は数知れず、その上を大きな黄色い猿のような歪虚達――雍和(ようわ)というらしい――が意に介した様子も無く飛沫を飛び散らしながら歩く。足の裏で血糊が糸を引く。大きな血の塊が踏みつけられていくつかの血の塊に分かれた。
 飛頭蛮、と言う名前らしい、人体がバラバラになったような歪虚は、それぞれの部位に思考があるかのように周囲を漂いながら、頭部と胴体は周囲の警戒を、手は切断された部位を運び、足は切断する部位を踏み押さえている。
 その隅に目線を向ければ、逃げられぬよう、あらぬ方向に足を折られたまま放置されている鬼達が、圧倒的暴力と絶望を前に涙も涸れ果て、逆らう気力も失い、ただただ地面に身を横たえている。
 一体の雍和がその人々の群れに近寄っていく。
 頭部を掴まれた女が恐怖に叫び、足の痛みも忘れて身を捩るが雍和はそれに取り合わず中央へと女を引き摺っていく。

「……っ!!」
 岩井崎 メル(ka0520)はあまりの凄惨な現場を目にしたことで思わず両目を閉じ、口元を両手で覆った。
 悲惨な光景はハンターとして少々見慣れているとは言え……やはり辛い。
「メル?」
 気遣わしげにパトリシア=K=ポラリス(ka5996)がそっと声を掛けると、メルは険しい表情のまま頷いて見せた。
(年下のパティ君も居るし。しっかりしてなきゃ!)
「何か見えましたか?」
 鹿東 悠(ka0725)が静かに問う。
 メルは見えた状況、その事実だけを端的に報告する。
「ッ!」
「香墨」
 全身を緊張させ、今にも飛び出して行きそうな濡羽 香墨(ka6760)を澪(ka6002)が宥める。
「――よし、殺そう」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がフロックスに装填されている符の数を確認しながら、殺気を感じさせない淡々とした口調で呟く。
「……いいかい?」
 テノール(ka5676)が真後ろにいるフィルメリア・クリスティア(ka3380)、そしてその後ろにいるグリムバルドを見る。
 2人はその視線を受け止め、頷く。さらにその後ろに続く5人も息を潜め、戦意だけをその瞳に宿す。
「行くよ」
 テノールは大地を強く踏みしめ岩陰から飛び出すと、メルの報告通り正面よりやや祠寄りのところに1番大きな雍和を視認。足元の血肉を蹴散らしながら一気に距離を詰めつつ、青龍翔咬波をその巨体に叩き込んだ。
「凄惨な光景っていうのは何度か見てきたけれど……今回は特に酷いわね」
 フィルメリアは飛び出すと同時に襲われた咽せる返る血の臭いに思わず眉を顰めつつも、腕を運んでいた飛頭蛮達をデルタレイで貫き、グリムバルド、悠はそれぞれに祠を、雍和を目指す。
 パトリシアと澪、香墨は囚われた鬼達の救出へ向けて飛び出し、メルが報告してくれた内容が“最低限の事実”だった事を知る。
(――歪虚はきらい。鬼もきらい。けど。これは)
「こんな事……許されない」
 凄惨な光景を目の当たりにした香墨が怒りと憎悪を覚える横で、澪もまた憤りを抑えた声で香墨の心を代弁するように呟いた。
 血肉の放つ独特の生臭さの中、パトリシアもまた全身の肌がざわつくのを感じていた。
(でもパティももう、覚えたのヨ。デモデモっどんなにニ悲しい景色デモ、マダできる事があるからネっ)
 3人は走る。全速力で囚われた鬼達の方へ。
 それを1人隧道に残り、ファミリアズアイでの偵察を続けるメルは祈るような気持ちで見守っていた。



 テノールが最も大柄な歪虚を1人で抑え、悠がもう二体のうちの一体を相手取り立ち回る。
 残る一体の雍和は飛頭蛮ごとフィルメリアのデルタレイとグリムバルドの風雷陣で巻きこむようにして牽制。
 鬼の保護に回った3人も飛頭蛮を蹴散らしながら接近し、香墨が癒やしながら生存者を一箇所にまとめるとディヴァインウィルで保護し、その周囲をパトリシアと澪が守る。
 香墨の生成した境界は黒く粘調性を伴った霧状という、お世辞にも心安らげる見た目ではなかったが、それは間違いなく人々を敵から断絶する。
 奇襲が成功したのもあり、序盤はハンター優位にダメージを重ねたが、飛頭蛮の頭部が火を吹き、一斉にけたたましく笑い声を上げてから状況が変わった。
「鹿東さん!?」
「ミオ!?」
 悠が明らかに焦点の合っていない瞳で誰もいない空間へ向かってハルバードを振り廻し始め、澪はチャガタイで自らを斬り付け始める。
「しっかりしろ!」
「澪……っ!」
 2人はテノールと香墨の呼びかけにもなんの反応も返さない。
 しかし悠にはフィルメリアの機導浄化術・浄癒が施されていたために、すぐに我を取り戻す事に成功する。
「こわいこわい頭の声にハ負けないんダヨっ」
 パトリシアのアイディアル・ソングが響き渡り、澪はその歌声を受けたことで我を取り戻すきっかけを得た。
「ごめん、有り難う」
 頭を振り、直ぐ様、仲間のいない方向へ次元斬を放ち、飛頭蛮の足を切り刻んだ。

 両手、両足、そして胴。5つの部位が一斉にテノールに襲いかかる。
 テノールはそれを巧みにかわしていたが、雍和の両腕をばたつかせ発生させた突風に吹き飛ばされ、祠の祭壇に激突する。
「テノールさん!?」
 最も近い場所に居たグリムバルドがフォローに入ろうとするが、その足を飛頭蛮の手が押さえ、進路を雍和が塞ぐ。
 一方フィルメリアは悠のフォローに入っており、テノールを助けに行く事は難しい。
 隧道内で偵察を続けていたメルだが、テノールが飛ばされた事、また敵の数が多く状況的に不利である事からついに偵察を中止し隧道から出た。

 ――その時、場に漂っていた負のマテリアルが軽くなったのをハンターの誰もが感じたのだった。



 人々の間に飛頭蛮の一部が紛れているのではないか。
 そう警戒していた澪だが、幸いにして境界の中に一緒に閉じ込めてしまうなどという事にはならずに済んでいた。
 飛頭蛮の笑い声に時々ぐらつきそうになるも、パトリシアののびのびとした歌声に掻き消されることで引き摺られることもなくなり、澪は自分達に向かって襲いかかってくる飛頭蛮達を相手取ることに集中出来た。
(周りを良く見て、ししょーみたいに考える。誇り高いお友だち鬼さんみたいに、ココロをツヨク)
 パトリシアは歌を歌いながらも冷静に五色光符陣と風雷陣を使い分けながら、思考することを止めない。
(囚われ鬼さんガどうして生きているのか気になったのネ?)
 儀式に、生きているうちの負のマテリアルが必要なのか。
 新鮮な血や心臓などのパーツが必要だったのか。
 それともハンターが来ることを見越しての人質だったのか。
 しかし、今こうして戦っていると、どうやら人質の意味はあまり感じていなさそうだった。
 雍和も飛頭蛮も“邪魔者を排除する”という動きはあっても、“人質を使って動きを制限しよう”という動きはなかったからだ。
 香墨は境界を維持しながら人々の様子をそっと窺う。
 回復は施したが、彼らの傷は塞がらない。体内マテリアルが枯渇しているのだ。
 いくら鬼は頑丈とは言え一刻も早く医者にかからせ適切な処置をしなければ命が危うい。
(……私のように絶望を植え付けられた後に生贄にするつもりだった……?)
 何のために? 分からない。歪虚の考える事など、知る由も無い。
「……鬼はきらい。けど。“約束”だから」
 不気味なマスクの下、嫌悪と憎悪に深く眉間にしわを寄せながら香墨は境界の維持に努めた。

 そんな中だった。
 ふ、と唐突に場に漂っていた負のマテリアルの濃度が下がった。
 見れば、メルが隧道から飛び出してきており、前方、祠の周囲では巨躯の雍和がこちらに背を向けている。
(何か、起こった?)
「ミオ、かすみん!」
「……あぁ、ここは澪達に任せて!」
 香墨も静かに頷いて見せ、パトリシアは祠へ向かって走り出した。
(鬼神さまハ、西方でゆー精霊のようにパティは感じテテ……ダカラ、なるべく祠ハ壊したくないナ)

「ってぇな!」
 祠の中に頭を突っ込む形になったテノールは、そこにまだ微かに正のマテリアルの気配を感じ――次の瞬間に全身の毛が逆立つのを感じた。
 立ち上がり振り返ると、もうあの微かなマテリアルは感じられず、壊れた祭壇には積み上げられていた鬼の頭部が雪崩れ込むように崩れ落ちていく。
(何だ……何が起きた……!?)
 本当はじっくり観察したいところだが、目の前に自分を吹っ飛ばした敵がいてはそれもままならない。
「しつこいんだよ……!」
 その胴体へと連撃を撃ち込むが、1番の巨躯だけあってやはり耐久も並みではない。だが、引くわけにはいかない。テノールは静かに構え、敵の攻撃に備え呼吸を整えた。
 時を同じくして、フィルメリアのファイアスローワーが大地を舐めるように広がった。
「浮気とは随分と余裕だな……!
 炎の跡を駆け抜けた悠が雍和へと向かってハルバードを突き出す。そして、フィルメリアに問いかけた。
「この様子からすると伝承の鬼神の復活を狙ってだろうが……件の五芒星の話も含めるとここを負のマテリアルで満たして巨大な術式の一角にするのがメインじゃねぇかと思うんだが、お前はどう考える?」
「そうですね……私も概ねそのように考えました。もしソレが可能だとしたら、制御の可否はさて置き厄介な事になるのは確かでしょうね」
(この儀式の全容を把握しきれなくとも、出来る限り早く止めないと)
 フィルメリアは雍和の蹴りを受け止めつつその美しい顔を歪めた。
 グリムバルドは全速力で走ってきたメルと合流したところで、ざっと周囲を見回し、敵の数を確認する。
(雍和3体が健在。飛頭蛮は……あっちに1体分、こっちに2体分と頭が2、胴が1、足が3)
「パティ君、向こうは大丈夫なの!?」
 駆け寄ってくるパティに気付いて、メルが声を上げる。
「ミオが~任せて~と~言って~くれ~まし、たぁ~♪」
 パトリシアは器用なことに歌いながら会話を成立させている。
 そんなパトリシアが到着するのを待って、メル、それからテノールを巻きこむようにして、グリムバルドは修祓陣を展開した。

「しっかり落とし前付けていけ! 内臓を……ぶちまけなっ!!」
「お前達がこの地の人達にした様に、その首を頂くわ」
 悠の一撃が雍和の腹部を裂き、たたらを踏んだところをフィルメリアの処刑刀のような鋭利な蒼煌が一閃し、雍和の首を刎ねる。
 パトリシアの最後の光陣符が飛頭蛮ともう一体の雍和を巻き込み、そこをメルのマテリアルを練り上げたデルタレイで襲い、グリムバルドが風雷陣で止めを刺した。
「……やれやれ。お前もそろそろ落ちろ!」
 テノールの連撃を受け、巨躯の雍和もついに膝を折って大地に沈んだ。
 あと残るは飛頭蛮のいくつかの部位だけだ。6人は粛々とこれを塵へと還す。
「向こうは……!?」
 6人が澪と香墨の方を見ると、あちらも丁度澪の疾風剣で最後の片脚が撃ち落とされたところだった。
 香墨が張り続けていた黒い境界もどろりと大地に流れるように消えていった。



 悠が呼んだ幕府軍により憔悴しきった鬼達が運ばれていく。
 彼らの両足は、今の東方の医術では癒やしきれないだろう、というのが軍医的な立ち位置にいる武士の見解だった。
「……それでも、勝手に死ぬのは。ゆるさない」
 これ以上効果がないと分かっていても、ギリギリまでヒーリングスフィアをかけ続けた香墨が絞り出すような声で呟く。
「……あの祠……僕がぶつかった時にはまだほんの少しだけど正のマテリアルを感じたんだ」
 今は崩れ、形も無くなってしまった祠を見てテノールが呟いた。
「崩れる直前、負のマテリアルが一気に薄まった気もした……あれは何だったんだろう」
「空に」
 澪が見上げるのは曇天。つられて香墨以外の6人も空を仰ぐ。
「負のマテリアルが上がっていくような……そんな感じがしました」
 最も祠から遠くにいた澪がそう告げると、香墨も頷いた。
「パトリシアは見えなかった?」
「うん。メルが飛び出してクルの、見てたカラ」
「……とりあえず、これ以上何かを呼び寄せる前に浄化をして……埋葬をしましょう」
 フィルメリアの言葉に一同は頷いて、浄化術が使える者は祠へ、それ以外の者は埋葬の為の準備へと取りかかった。

「怖かったヨネ。痛かったヨネ。助けてあげれなくテ、ゴメンネ」
 血と泥にまみれた腕を見て、思わずパトリシアは胸が張り裂けそうになった。
「大丈夫? パティ」
 立ち竦んだパトリシアにメルが寄り添い、そっと背中をさすると、パトリシアは乱暴に両目を擦って鼻を啜った。
「デモ今日ハ、かすみんやミオも居テ、パティはおねえさんダカラ」
「……うん」
 微笑んで、メルはパティの背中を優しく叩いた。

「……ヒトの形をした肉だから。どうでもいい。……よくないけど」
 香墨の呟きに澪は「うん」と頷いた。
 香墨が戦場に降りてから、誰ひとりとして死ななかったのはそれだけ作戦が上手く行った証拠だった。
 それだけは、香墨にとって救いだった。
 澪にとってもそれは喜ばしくて、2人は目を合わせて微笑み合ってから、埋葬の為の準備を始めた。

「術式……というよりは、ただただ並べた、という感じですね」
 周囲の探索を行いながら罠や術式の痕跡がないか確認していた悠だが、何も見つけられず首を傾げた。
 テノールは現場の状況をカメラなどで記録しようと思ったが、肝心の記録機械を持ち込むのを忘れてしまったため、なるべく正確な報告書になるように丁寧に周辺を見て回っていた。
 傷付いた仲間へエナジーショットを打ち終えたグリムバルドは、崩れた祭壇の前で目を伏せた。
「――どうか安らかに。優しい眠りでありますように」
 フィルメリアもその横で祈りを捧げた後、首を一つ一つ丁寧に回収すると、2人は崩れた祭壇を発掘した。
 それは本当に小さな……みすぼらしくも見えるほど古く傾いだ祭壇だった。

 あらかた浄化や掃除、そして埋葬を終え、再度一同は祠の前に集まっていた。
「……ぶつかった衝撃で祭壇が壊れて、負のマテリアルがどっかに行った……と考えるのが妥当か?」
 テノールが問うと、各々首を傾げて考え込んだ中、フィルメリアが口を開いた。
「……わかりませんね。ただここは問題なくとも、他の五芒星の頂点にも何かしら相互に影響を与えている可能性もあります。とりあえず私たちに出来る事はもうこれ以上ないかと」

 曇天の間から幾筋もの光りが降り注ぎ始める。
 美しいハズのその光景を前に、テノールは嫌な予感を拭い去れずにただ立ち竦んだのだった。

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MVP一覧

  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティアka3380
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリスka5996
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨ka6760

重体一覧

参加者一覧

  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/12 07:53:35
アイコン 【相談卓】
濡羽 香墨(ka6760
鬼|16才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/01/17 07:12:01