ゲスト
(ka0000)
ファンシィライダー
マスター:韮瀬隈則
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
●
ついに地球圏であなたも幻獣乗りに!
頼もしい相棒が新上陸!
あの憧れのハンター達の活躍を、アナタも自宅で再現しよう!
幻獣ライドマシーン、『ファンシィライダー』!
いままでの乗馬マシンが物足りなくなっていませんか?
屋内乗馬で気軽にダイエット。けれども、そんなんじゃマダマダなボクがワタシが欲しいのは、もっともっと健康的で引き締まったあのカ・ラ・ダ☆
そう!
すっかりおなじみ。ハンターの皆さんが騎乗する勇ましくも可愛い幻獣。すっきりしなやかにたくましいハンター達の、シェイプボディの秘密は当然……あの幻獣に跨って辺境の荒野を縦横無尽に駆けているからなんです!
それだけ? いえいえ、それじゃぁロデオマシーンだって同じことですよね?
彼らの魅惑のボディは戦闘機動によって作られているんです!
幻獣を駆り戦う彼らはまさに、ファンタジー世界のライダーなんです!
幻獣……この世界には姿をとどめることができない彼ら。
しかしご安心ください。
な・な・なんとーーーーーーーーっ!!
幻獣の動きを忠実に再現したライドマシーンがついに! 完成!
単純な上下運動だけじゃない、本当の幻獣の動きをAI搭載によって実現、戦闘機動もハンターのお墨付きです。
それはわかったけど、とてもハンターじゃないボクにはワタシには無理~~!!??
でも安心!
かわいい幻獣ちゃんの癒しモードもちゃんと再現、無理なくステップアップ可能なAIによるサポートモードが触れあいながらのファンタジーライドをお約束します。
モフモフ騎乗マシーン『ファンシィライダー』!
お電話はいますぐ!
●
「で、コレ何ですかね?」
辺境東部のしょぼくれた港町。辺境流通大手ゴルドゲイルの倉庫があるその一角で、鎮座する乗馬マシンと撮影機材を前に、『レイサイン』社員3名がゴルドゲイル東部倉庫のえらい人相手に微妙な笑顔と問いを投げかけていた。
『レイサイン』……ロッソ転移組の零細アパレル企画会社、実態はゴルドゲイル東部支社の調達下請けである。メンバーはプランナー氏、デザイナー女史、事務女史。いつか独立を夢見ているがそんな気配はない。
「ナニもアレも、お手元のパンフのとおりやで」
見てわからんか? とぼけた風体で東部倉庫のえらい人が返す。
「いえ、つまり私どもに何をお求めに、と」
デザイナー女史の具体的問いに、ここやで、と、えらい人がパンフの一点を指した。
ハンターのお墨付きです。
~~~~~~~~~~~~
くどくどしいフォントの乱舞するパンフレットに、ご丁寧な傍線つき。
早い話が、先行して作っちゃったこのパンフと実機にあわせ、実際にハンターのお墨付きを得て、しっかりCM動画を作成しろと。つまりはそういうこと、らしい。
零細の哀しさよ。クライアントの命令は絶対である。
──しかし。なぜゴルドゲイル経由で『レイサイン』に依頼が来たのか?
(畑違いじゃないの?)
デザイナー女史の顔にでたのだろう。
「幻獣向け嗜好品、ウチが手がけてまっしゃろ? 仲介とコンサルをウチに頼んできはりましてな……機能を弄る参考意見も聞きたいとかで。で、ウチの関連会社でリアルブルー事情に詳しい、となれば『レイサイン』やと。むこうはんも大きいトコの下請けやし」
要は上前撥ねて面倒なことは下請けに丸投げ、である。汚い、大人って汚い。
「ほれ。マッチョや半裸のオネェちゃんがいい汗かいて、爽やかな笑顔で商品アピールする、アレやで」
知ってる。が、なぜ全社員を呼ぶのか?
「ハンターだけやなく、素人の痩せた実績が必要なんや。で、おるやろ?」
えらい人の視線の先はプランナー氏である。
元新進気鋭のイケメン業界人。いまやただのデ……いやふくよかなおっさんだ。
「1週間で痩せる余地がある運動不足な中年で、制作費コミコミで使えるの君しかおらんのや。いい絵かけるでぇ」
……は? いま1週間と?
「なに大丈夫や。水太り程度、数日あればゲッソリやつれるのは簡単ってもんや。あ、マシンで痩せなきゃ、ハンターらに直接しごいて貰いィや」
やつれと痩せの区別つかんよう演出コミだ。汚い、大人って汚い。
「で、昼用5分CMと深夜用10分CM。都合1本。よろしく頼むわ」
はぁ!? 計算が合わないと違いますか?
『レイサイン』への発注内訳にはCM2本。しかし、金額は1本分……
「昼用はお茶の間用なんやがな、深夜用は通販番組仕様で多少くだけた雰囲気でええ、と。ま、NGになったシーンでも混ぜ込んどけばそれでバッチリなんやで」
わざわざ2本撮影することあらへん。どうせポロリだのチラリだのNGシーンには事欠かんのやろ。編集だけでOKや。
などと嘯くえらい人だが、もう1枚隠し持ったRBからの発注書にはしっかりCM2本分が計上されている。いわゆる中抜きというやつだ。汚い、大人って汚い。
かくして数分後──
「さっそくオフィスに募集だしといたさかい、ハンターとの打合せと撮影頼みますわ。ダイエットできてよろしゅうおましたな!」
にこやかに去ってゆく東部倉庫のえらい人に残された『レイサイン』の面々は、このしょうもない仕事を請けちゃったハンター達とともに、乗馬マシンと格闘することになるのである。
ついに地球圏であなたも幻獣乗りに!
頼もしい相棒が新上陸!
あの憧れのハンター達の活躍を、アナタも自宅で再現しよう!
幻獣ライドマシーン、『ファンシィライダー』!
いままでの乗馬マシンが物足りなくなっていませんか?
屋内乗馬で気軽にダイエット。けれども、そんなんじゃマダマダなボクがワタシが欲しいのは、もっともっと健康的で引き締まったあのカ・ラ・ダ☆
そう!
すっかりおなじみ。ハンターの皆さんが騎乗する勇ましくも可愛い幻獣。すっきりしなやかにたくましいハンター達の、シェイプボディの秘密は当然……あの幻獣に跨って辺境の荒野を縦横無尽に駆けているからなんです!
それだけ? いえいえ、それじゃぁロデオマシーンだって同じことですよね?
彼らの魅惑のボディは戦闘機動によって作られているんです!
幻獣を駆り戦う彼らはまさに、ファンタジー世界のライダーなんです!
幻獣……この世界には姿をとどめることができない彼ら。
しかしご安心ください。
な・な・なんとーーーーーーーーっ!!
幻獣の動きを忠実に再現したライドマシーンがついに! 完成!
単純な上下運動だけじゃない、本当の幻獣の動きをAI搭載によって実現、戦闘機動もハンターのお墨付きです。
それはわかったけど、とてもハンターじゃないボクにはワタシには無理~~!!??
でも安心!
かわいい幻獣ちゃんの癒しモードもちゃんと再現、無理なくステップアップ可能なAIによるサポートモードが触れあいながらのファンタジーライドをお約束します。
モフモフ騎乗マシーン『ファンシィライダー』!
お電話はいますぐ!
●
「で、コレ何ですかね?」
辺境東部のしょぼくれた港町。辺境流通大手ゴルドゲイルの倉庫があるその一角で、鎮座する乗馬マシンと撮影機材を前に、『レイサイン』社員3名がゴルドゲイル東部倉庫のえらい人相手に微妙な笑顔と問いを投げかけていた。
『レイサイン』……ロッソ転移組の零細アパレル企画会社、実態はゴルドゲイル東部支社の調達下請けである。メンバーはプランナー氏、デザイナー女史、事務女史。いつか独立を夢見ているがそんな気配はない。
「ナニもアレも、お手元のパンフのとおりやで」
見てわからんか? とぼけた風体で東部倉庫のえらい人が返す。
「いえ、つまり私どもに何をお求めに、と」
デザイナー女史の具体的問いに、ここやで、と、えらい人がパンフの一点を指した。
ハンターのお墨付きです。
~~~~~~~~~~~~
くどくどしいフォントの乱舞するパンフレットに、ご丁寧な傍線つき。
早い話が、先行して作っちゃったこのパンフと実機にあわせ、実際にハンターのお墨付きを得て、しっかりCM動画を作成しろと。つまりはそういうこと、らしい。
零細の哀しさよ。クライアントの命令は絶対である。
──しかし。なぜゴルドゲイル経由で『レイサイン』に依頼が来たのか?
(畑違いじゃないの?)
デザイナー女史の顔にでたのだろう。
「幻獣向け嗜好品、ウチが手がけてまっしゃろ? 仲介とコンサルをウチに頼んできはりましてな……機能を弄る参考意見も聞きたいとかで。で、ウチの関連会社でリアルブルー事情に詳しい、となれば『レイサイン』やと。むこうはんも大きいトコの下請けやし」
要は上前撥ねて面倒なことは下請けに丸投げ、である。汚い、大人って汚い。
「ほれ。マッチョや半裸のオネェちゃんがいい汗かいて、爽やかな笑顔で商品アピールする、アレやで」
知ってる。が、なぜ全社員を呼ぶのか?
「ハンターだけやなく、素人の痩せた実績が必要なんや。で、おるやろ?」
えらい人の視線の先はプランナー氏である。
元新進気鋭のイケメン業界人。いまやただのデ……いやふくよかなおっさんだ。
「1週間で痩せる余地がある運動不足な中年で、制作費コミコミで使えるの君しかおらんのや。いい絵かけるでぇ」
……は? いま1週間と?
「なに大丈夫や。水太り程度、数日あればゲッソリやつれるのは簡単ってもんや。あ、マシンで痩せなきゃ、ハンターらに直接しごいて貰いィや」
やつれと痩せの区別つかんよう演出コミだ。汚い、大人って汚い。
「で、昼用5分CMと深夜用10分CM。都合1本。よろしく頼むわ」
はぁ!? 計算が合わないと違いますか?
『レイサイン』への発注内訳にはCM2本。しかし、金額は1本分……
「昼用はお茶の間用なんやがな、深夜用は通販番組仕様で多少くだけた雰囲気でええ、と。ま、NGになったシーンでも混ぜ込んどけばそれでバッチリなんやで」
わざわざ2本撮影することあらへん。どうせポロリだのチラリだのNGシーンには事欠かんのやろ。編集だけでOKや。
などと嘯くえらい人だが、もう1枚隠し持ったRBからの発注書にはしっかりCM2本分が計上されている。いわゆる中抜きというやつだ。汚い、大人って汚い。
かくして数分後──
「さっそくオフィスに募集だしといたさかい、ハンターとの打合せと撮影頼みますわ。ダイエットできてよろしゅうおましたな!」
にこやかに去ってゆく東部倉庫のえらい人に残された『レイサイン』の面々は、このしょうもない仕事を請けちゃったハンター達とともに、乗馬マシンと格闘することになるのである。
リプレイ本文
●
もしゃっ! もしゃっ! もしゃっ! もしゃっ!
盛大な咀嚼音とともに大きなダンボールが歩いて倉庫に入ってきた。
……もとい。咀嚼音を響かせながら、ネフィリア・レインフォード(ka0444)が抱えたお菓子満載の巨大ダンボールを、『ファンシィライダー』の置かれた倉庫片隅までやってきた。
「ふぅ……あ! いつかのおじちゃんだ! またお菓子をくれるなんて優しいのだぁ! ありがとー!」
ぶんぶんぶんっ!
足元においたダンボールから取り出した菓子を握り締め、プランナー氏にむかって振り回す。
「ああ、キミは以前……って、そっそれは僕の買い置きっ! どうしてこれ、なんで……!?」
「んーとね、倉庫のおっちゃんがね、「ハンターの皆で分けてねっておじちゃんが言ってたよ」って、くれたのだ。こんなにいっぱいすごいのだー」
唖然とするプランナー氏にあくまで明るく、罪のない笑顔でネフィリアが答える。募集のとき、お菓子くれた人だって上司っていう倉庫のえらい人に言ったら、何故だかカロリー計算の話になったのだ。そしたらロッカーにあった分、全部もらえたのだ。
ネフィが続けるがプランナー氏はろくに聞けてはいなかった。
「あんたは! またジャンクばかり食べて!」
「冬でも事務所に蟻が集るのは残業中の間食のせいだったんですね? サイテーです」
デザイナー女史と事務女史がプランナー氏をボッコボコにしている。
「「では皆さん。遠慮なく絞ってやってくださいね!」」
一礼して退出する両女史を見送って、ネフィリアはやっと背後にいっしょに依頼を引き受けた仲間がいるのに気が付いた。
「このおっさんにダイエットさせるのかー。アレだな、幻獣に乗ればそりゃ痩せる。それはボクと相方のざんぎえふが保証する。でもなー。健康的にって条件でこの間食デブからだとその前段階から考えないとなー」
あちゃー。
ミリア・ラスティソード(ka1287)がダンボールの中身を覗き込み、転がってるプランナー氏のあちこちをつつき、一週間かぁ……と指を折る。
「できる? ざくろも撮影のほかになにか手伝おうか?」
心配そうに時音 ざくろ(ka1250)がミリアの後ろから覗き込む。
大丈夫だ、問題ない。イイ笑顔でミリアが返す。問題があるとすれば……猛特訓になるから癒しモードは先に撮っちゃったほうがいいかな、って?
「えーっと。これが『ファンシィライダー』……? 胴体だけなんて想像と違ってて残念な感じで……え? プロトタイプで外見も完成じゃない? ですよね! モフモフ分が足りないですもんねっ! 外見パーツですけど、リーリーで9割、残る1割で他の幻獣用意するくらいでどうでしょう?」
お昼の放映もですけど深夜番組、女の子って良く観てるんです。あの異世界刑事モノ。イケメン以上にリーリー部隊が人気で、ソフト予約特典がリーリーぬいぐるみですよ? リアルフィギュア人気じゃワイバーンとグリフォン、二次創作だとイェジド主流ですけど、いっしょに居たいってやっぱりリーリーなんですよ! 猛禽さんや爬虫類さん、夜中にトイレ起きた時に目があうと怖いじゃないですか。リーリーの魅力ですか? まず抱きつきたくなる首筋と埋まりたくなる羽毛。なによりお尻ですよお尻!
ロッソ経由で派遣されたメーカー担当者とカメラマンに穂積 智里(ka6819)が大熱弁をふるっている。放っておくと一週間まるまる語りとおす勢いだが、そこに便乗する熱弁者が現れた。
「不躾ですが、万一撮影を降りる際の違約金はいかほどになりますか?」
いきなりの不穏発言である。
目を剥いて発言者へ振り返るメーカー担当の後ろにエルバッハ・リオン(ka2434)。
一礼の後──。
「その深夜番組にレギュラー出演をしている者です。二次創作云々はわかりませんが、私のガルム……歪虚の使い魔役のイェジド宛にくるファンレターでは、動きに拘る方が多いのです。番組スポンサーからの紹介で言うのもなんですが、使い物になるのですか?」
アレ……エルバッハの指差すさきに、誰がスイッチを入れたのだろう。うぃんうぃんとモーター音をたててうねる『ファンシィライダー』。
「ふむ。AIスピーカ内蔵……よくわかりませんが呼びかけで動きだして機動も変わり、しかも学習すると。それはガルムと私の関係もある程度は再現できるとして、あの動き……あれは何モードですか? ガルムはあんな挙動しませんし、ロデオという言葉にも違和感が……」
慌ててメーカー担当が別モードの動きに切り替える。
「……。……こちらは似せてますね、かなり。開発者が? 私のファン? ……仕方ありませんね。改善提案も呑んでいただけるということでしたら喜んで」
(ガルムの方で機械にあわせた動きに寄せる手もある、か)
ファンという言葉に気を良くしたエルバッハが乗り気になる。
うぃんうぃんうぃんうぃん。
『ファンシィライダー』もゴキゲンで蠢いている。
──その時。
「フロー姉、良かったのだ! オプションでいろいろ付くみたいだから、フロー姉が騎乗するときに絶対必要な棒状のも生やせるみたいなのだ」
良かったね! お姉ちゃん!
無邪気な笑みでネフィリアはダンボールを覗き込んでいた姉、フローレンス・レインフォード(ka0443)の手を引っ張り担当者と『ファンシィライダー』の前まで連れてゆく。
「ちょっ。ネフィったら、ダイエットのコーチのお仕事じゃなかったの? なにこれ、この蠢いているの……」
あ、いえ、すみません。妹に誘われて保護者としてですね。と、慌てて愛想笑いで取り繕うフローレンスだが、お構い無しにネフィーリアが続ける。
「フロー姉は騎乗スタイルで揺振られるとき、胴からなにか生えてないと物足りない身体なのだ。とくに激しい勢いだと強く締め付けたくなるって。胸も大きいから、よく挟んじゃってるのだ」
ふんふん、とネフィーリアへ頷いていた担当とカメラマンが、どんどん複雑な表情になり、フローレンスをチラチラしながら曖昧な微笑をかえす。
「やんちゃな妹で、フフ……え? ええ? !!!??? っっっ!! ちょっ! 違っ! ネフィ何言ってるの? やだ、そんなんじゃ……」
担当とフローレンスが焦りまくってる横で、暢気にネフィリアがメモ帳に、こんな感じだよーと絵も描き始める。
「お人形みたいな顔付きもいいけど、リアルに凹凸が再現されててもいいよねー」
うぃんうぃんうぃんうぃん。
『ファンシィライダー』も大ハッスル中、じゃーん! とネフィリアが広げたスケッチには、普通に可愛らしい幻獣の首が生えた乗馬マシンが描かれていた。
しがみつく物がなくって胴に鞍を模した取っ手をつけただけだと、フロー姉きっと転げ落ちちゃうのだ。はい。とスケッチを手渡す。想像力過剰で汚い大人にくらべて、尊い、幼女って尊い。
「やぁね私ったら。ウフフ……ネフィを宜しくお願いしますね」
にこやかにフェードアウトを狙うフローレンスだったが、そうは問屋がおろさなかった。
「フロー姉、お正月に4kg太ったから、おじちゃんとの比較対象にちょうど良いのだ」
これが今のサイズなのだー!
じゃーん! カメラマンの前に身体測定表が曝される。「きゃぁぁぁ!」という悲鳴と共に、バッチリ撮影されていたのはいうまでもない。
●
「『ファンシィライダー』が出るぞー」
「VOIDどもには内緒だぞー」
「よし、全体ときめけ! おっさん! いやプランナー! 一週間も半ば過ぎ、今日もばっちり一人前のライダーにしてやるから安心しろ!」
大丈夫、ボクが付いている!
ランニングを終え、ミリアが倉庫群の壁で指たて伏せ真っ最中だ。正確には、プランナー氏が壁指たてをする背中に密着して補助という名の負荷要員をやっている。
「あの、当たって……」
「当ててるんだよ。ダイエット理論はまず筋力。筋肉による脂肪分の適切な燃焼、そのためには柔軟でほぐし筋肉をつける水分補給に食事。そして重要なのが体幹能力の向上と休養だ。ネフィ達は自習練済んだら食事準備。で、智里さんまでなぜダイエット?」
同じく壁に並ぶのは、当のプランナー氏のほかに、フローレンス&ネフィリア姉妹、智里、ハンディカメラを構えたざくろだ。ミリーブートキャンプ絶賛開催中だが、デブには微笑む余裕はない。お約束のようにドーナツも没収済みだ。
「アッはい。カロリー計算をネフィちゃんと相談した手前、ですね。やっぱ私も付き合わないとって思いまして。健康的メニューもコンサルしちゃってよ、って倉庫のえらい人にも言われてますし、太って無くても美味しい食事と簡単な運動が無理なく楽しめるって実証すべきだと思い……」
えーと、あのその。プランナー氏から離れたミリアが近い。どぎまぎして抱きつかれて、智里は白状した。
「ううっ。普段ゴーレム操作にコントローラ持って走ってるんですけど、脚以外のお腹周りと二の腕に振袖がああぁあ」
ぷよぷよーん。薄手のざっくりとしたタンクトップとミニスカでは隠しようもない。
ざくろにも弛みをばっちり撮影され、智里は同じく情けない顔をしたプランナー氏と互いの両手を握り合う。お肉の質は同じです。RB人同士頑張りましょうねぇ! と寄り添う智里にプランナー氏の泣き言がはいる。
「ジャンクが、いや贅沢は言わない、RB食品が食べたい……」
「……ありますよ。おやつ。RB製チョコバーが」
なにぃ! プランナー氏が色めき立つ。内緒ですよ、と渡されたバーに齧り付き感涙にむせび泣く。智里もうんうん頷いて貪るのをざくろがスクープ!
「間食とかいけないんだー」
ニコッと笑うざくろにニコッと返す智里。
「大丈夫ですっ! これは軍納入実績もあるプロティンバー。食べて美味しく運動効率大幅アップ! CWではゴルドゲイルが特製青赤緑汁とセットでOEM生産を請け負うハンター御用達食品なんです」
「おいしそうなのだー。むしろ3食とおやつを適切に食べるほうが筋肉つくのだ」
わざとらしいと言うなかれ。スポンサーは絶対である。幼女って尊い。大人って汚い。
「エルバッハさんの撮影はどうなのさ?」
ざくろ、昨日からこっちの撮影かかりきりじゃない?
ミリアの顔がカメラを構えるざくろに近い。後ろでプランナー氏とフローレンスが体重計と『ファンシィライダー』を往復している。
「ミリアさん、あの、二人乗りってどうしても私とプランナーさんじゃなきゃだめ? ネフィととか、特訓時みたいにミリアさんとのほうが躍動感が出ると思うのだけど?」
はふぅ。冬だというのに汗が肌を伝い胸の谷間に流れ込む。フローレンス、谷間の汗を拭うか服をスケスケのままにするかの二択。
「ダメダメ、特訓時のざんぎえふ二人乗りを『ファンシィライダー』でも実現するのに、数字でわかりやすい目標なのが彼以外にフローレンスだけなんだから。はい、二人合わせて荷重制限まであと3kg。がんばって!」
ちなみに現在の体重でーす。とフリップをかざすざくろが、相談です、とミリアと更に顔を近づけた。
「エルバッハさん、さすが役者経験ありで順調すぎてざくろの出番がないくらい。ざくろのJ9で飛んで上空からのマル秘映像まで撮れちゃったまではいいんだけど……」
言いよどむなよ。ミリアがわしっとざくろを抱き寄せる。
「飛行視点の映像が気に入られて、次世代Ver搭載予定の飛行機動モードと地対空戦闘モード、VR出力用の映像をざくろが撮ることになっちゃって……ねぇ。ミリア、助けてくれる?」
どすーん! と衝突音。
「ごっごめ……あの、見てないから。触っちゃったけど……って、あああぁぁ! なんでカメラそんなトコに挟まってるの!?」
はわわわ。そうじゃない、まず怪我なかったか聞くべきだよね。大丈夫って、ミリア……ミリア? え? 嘘? 死ん……って、脅かさないでよ。
昼食のおよそ2時間後、倉庫群を見下ろす港町の丘の上で、ざくろの悲鳴が絶え間なく響く。重なるのはミリアの笑い声。
「いい戦闘機動が撮れたじゃない、ざくろ。こっちの対空戦闘視点も迫力満点。なぁ、プランナー? 太腿と膝での締め付けも習得したし、次はJ9のほうで二人乗り空中機動してみるかー?」
ぽふぽふ。ざくろすごいよ、インメルマンターンにハイヨーヨーなんてマニューバ、幻獣でこなすんだから。ミリアは転がったまま胸に突っ伏したままのざくろの頭を撫ぜる。泣くなって、男の子じゃないか。優しい目で笑う。面と向かっては照れくさいからうんと近づくんだ、ボクは。胸に伝う暖かい液体。
「違っ、いやごめん」
がば、と跳ね起きたざくろの顔をぬらすのは、涙ではなく盛大な鼻血。
えーと、あの、よこしまな鼻血じゃなくて純粋な衝撃なんだけど、うん、とにかくごめん。
(そういうことにしておくよ、ざくろ)
ミリアがぎゅっとざくろを抱きしめてハンカチで顔を拭う。
「うん。じゃぁプランナーの騎乗シーン撮って帰ろう。ボクが抱えててもわかる体つきになったからさ、最初にざくろがダイエット前の姿を撮った時より格段に格好いいのが撮れるはずだよ」
●
──RB深夜、CAMと幻獣を駆使する刑事ドラマのクレジットが終わる。
うって変わって陽気なロゴとBGM。掛け声とともに司会者が小走りでフェードイン。
「『ファンシィライダー』が出るぞー」
「乗り込め」「乗り込め!」
「はーい、皆さんお待ちかねの新商品はコチラ! 幻獣ライドマシーン、『ファンシィライダー』! 夜の乗馬シーンはこれからだ!」
うぃんうぃんうぃんうぃん。
リーリーの首パーツをつけた機体とイェジドの首の機体。2機の『ファンシィライダー』が並んで、CWの草原写真を背景に元気に蠢いている。
大袈裟に驚く司会者。ハンターお墨付き! の効果音とロゴが入り録画再生が始まった。
「おー! ダイエットマシンなんて信じられないのだ! 崑崙の遊園地で乗ったヤツみたいなのだー!」
ネフィだよー! わぁい、とだぶだぶのスポーツブラとホットパンツ姿の少女が飛び乗る。「キュイ☆」と可愛い動作音が音声識別完了を告げ、楽しげなステップを踏む機動に変わる。AIスピーカによるネフィリアにあわせた成長プログラムだ。
「きゃっきゃっ☆ 大きくじゃーんぷ! たーん!」
ひらっ! ちらっ! ぽろっ!
翻る服から覗くのはあくまでも健康的な少女の肢体である。平らなせいで。
「フロー姉、併走しよっ」
「ちょっ。ネフィ、この服きついわよ」
いつの間にか隣の機体にフローレンスが揺られている。着ている服はネフィと御揃いだが、恐ろしいことにサイズまで御揃いであった。破れないのが不思議である。
ばばん!
フローレンスの身長体重3サイズがド派手な演出で表示される。ご丁寧に正月前と後の比較画像もだ。
「仲良し姉妹は服も共有。でも……お姉さんはちょっとピンチ!」
ナレーションが入るが共有のくだりはもちろん大嘘だ。
「ハンターですらデヴる、なんて諦めてないか? そんな不安は捨ててもらおう! 彼はロッソと共に転移した一般人、元有名アパレルを経て独立したプランナー君だ」
ばばん!
自信たっぷりのミリアが紹介するデヴはプランナー氏(初日)。
どこから探したのか、遠い過去のイケメン時代の写真までワイプされている。
「イケメンだったんだなぁ。……。……。ざくろも気をつけなきゃね!」
すらりとした美青年の絶妙な間と視線移動が、どんな演出より危機感を煽る。
そのざくろが、ミリアが、情け無用のサイクロンがごとく空と大地を幻獣で駆ける姿。
特にミリアの肢体が無駄に詳細にじっとりとねっとりと、その躍動までもをあまねく映す。
「こんなの無理ぃぃぃ!」
無理矢理ざんぎえふにミリアと二人乗りさせれたプランナー氏の泣きっ面が重なって、その時──
「でも大丈夫! 『ファンシィライダー』なら無理のない騎乗モードから始められます。初めてAIスピーカに話しかければ、まるで幻獣との契約のように……」
ざくろ撮影の嘗めるような視点のミリアとプランナー氏から、CM直前まで流れた刑事ドラマの1シーンが流れる。出演者であるエルバッハがRBカメラマンのインタビューに応えている。
「幻獣との契約、それは絆を深める大切な行いです。私とこのガルムのように」
漆黒と深紅のイェジドがエルバッハに頬ずりする。
「正直……最初はお断りしようと思いました。けれど一度だけと乗ってみたら、その素晴らしさにこれは是非、番組のファンの方々にオススメすべきと思いました」
ガルム宛のFLの山が映し出される。躍動し疾走するガルムのイラスト、ヘソ天で失われた野生のガルムの二次創作も見切れている。なお、ガルムに乗るエルバッハのイラストが全てパンチラどころかヘソチラ胸チラであり、CMスタッフがどこの同人誌即売会で調達してきたのか激しく問い詰めたい。
ドラマと同じく、座ったエルバッハの狼形の影がせり上がり、やがて幻獣となり地を駆ける。エルバッハは優雅に横座りのまま緑の光につつまれ襲い掛かる銃弾を弾いてゆく。アンティークドール風のドレスは激しく揺らめきはためき舞い上がり、球体間接タイツと拘束具じみたゴス調ビキニアーマーを臍上まで曝す。
「歪虚の印を見せる旗手と幻獣一体の演技なのですが……」
疾走するガルムは違和感を感じることなく『ファンシィライダー』に変化していた。
「こんなに自然。おすすめです」
ガルムと同様に機体を撫ぜるエルバッハに、またもゴス下着で騎乗する同人誌の数々が重なる。間違いなくエルバッハファンの開発者の私物だ。
──そして一週間……
キャプションが流れる。
「さて、元イケメンとフローお姉さんの成果は?」
思わせぶりなナレーション。
「ほら! 無理じゃなかった! 頑張った、おめでとう!」
壁に向かって指立てをこなすプランナー氏と、全体重をかけて背後から抱きつくミリアの姿。実際は壁指立てのおかげで握力と体幹UPし騎乗可能になったのだが、映像では『ファンシィライダー』のおかげにしかみえない。
「慣れない内は、肩を楽にして幻獣の首を羽交い絞め、太腿で胴を締め付けるように腰を深くおろそう」
こんなふうに。と透明なバランスボールを股で挟みつけ、ミリアがお手本を示す。プランナー氏を一瞬写し、強化ビニルに押し付けられた肢体をねっちり映されたのはフローレンスなのは当然の流れといえよう。
2機並んだ『ファンシィライダー』に揺られる二人の姿があらゆるアングルで映されてゆく。
うぃんうぃんうぃんうぃん。
「あンっ! やンっ! ちょっと激しいっ……けどっ……夜の戦闘っモードって、サイコーにっ……エキサイティングね!」
VRゴーグル着用のフローレンスがWピースサインで微笑む。
「(ダイエット成功を)信じて送り出したフロー姉が、『ファンシィライダー』にドハマリして激ヤセ画像を送ってくるなんて……」
すごいのだー。これにはネフィリアも大拍手やむなし。
う゛ぃぃぃぃぃぃぃん!!
更に機体は激しさを増し、ありとあらゆる肉が打ち震え悶えていく。フローレンスの。
「その甲斐あって! 観てください! プランナーさん98kgとフローレンスさん(規制音)kg。『ファンシィライダー』への二人乗りは不可能と思われた二人が今ではタンデムで戦闘モードを楽しむまでに!」
ここで二人が観てるVR映像をちょっとご紹介!
キャプションと共に現れた激しい地対空戦闘。──え? 地対空?
「驚かせちゃったかな? そう、急遽! グリフォン版も発売されることになったんです」
ナナメ上からざくろの笑顔。
「J9って知ってる? 空を粋に暴れまわってるっていうさ!」
全方位カメラでざくろの幻獣J9から撮影されたVR世界。映ってるぜ、どっちもどっちも!
イイ汗かいてサムズアップするざくろの鼻にティッシュが詰まっているが、それすら可愛いので問題は無かった。尊い、美青年も尊い。
「イイ汗かいたその後ですが……食事制限あるんじゃないの? って半信半疑ですよね?」
それが、3食おやつ付きOKなんです☆
ナレーション役だった智里が満を持して顔出しする。薄々レオタードがムレムレで、色々と透けていたり食い込んでいたりするが、視聴者の目にはもう何もかもが尊く映っているので問題ない。
「今から30分以内のお申し込みで、ハンターお墨付きレシピのチョコバーを1箱おつけします! ンん! 美味しいっ!」
うっとりと絶妙な大きさの黒い棒を咥え舐め上げる智里は、バレンタインより節分を思い起こさせる絵面だが、プロティンバーとは思えぬシズル感がすごい。
うぃんうぃんうぃんうぃん……
「こらーアクマ! じゃない、アクアー!」
そしてお約束のように、緩くなった服をつまむプランナー氏の映像がチラリと映り、ズリ落ちたホットパンツを幻獣に咥えて逃げられるフローレンスをバックに、電話番号が連呼されるのであった。
もしゃっ! もしゃっ! もしゃっ! もしゃっ!
盛大な咀嚼音とともに大きなダンボールが歩いて倉庫に入ってきた。
……もとい。咀嚼音を響かせながら、ネフィリア・レインフォード(ka0444)が抱えたお菓子満載の巨大ダンボールを、『ファンシィライダー』の置かれた倉庫片隅までやってきた。
「ふぅ……あ! いつかのおじちゃんだ! またお菓子をくれるなんて優しいのだぁ! ありがとー!」
ぶんぶんぶんっ!
足元においたダンボールから取り出した菓子を握り締め、プランナー氏にむかって振り回す。
「ああ、キミは以前……って、そっそれは僕の買い置きっ! どうしてこれ、なんで……!?」
「んーとね、倉庫のおっちゃんがね、「ハンターの皆で分けてねっておじちゃんが言ってたよ」って、くれたのだ。こんなにいっぱいすごいのだー」
唖然とするプランナー氏にあくまで明るく、罪のない笑顔でネフィリアが答える。募集のとき、お菓子くれた人だって上司っていう倉庫のえらい人に言ったら、何故だかカロリー計算の話になったのだ。そしたらロッカーにあった分、全部もらえたのだ。
ネフィが続けるがプランナー氏はろくに聞けてはいなかった。
「あんたは! またジャンクばかり食べて!」
「冬でも事務所に蟻が集るのは残業中の間食のせいだったんですね? サイテーです」
デザイナー女史と事務女史がプランナー氏をボッコボコにしている。
「「では皆さん。遠慮なく絞ってやってくださいね!」」
一礼して退出する両女史を見送って、ネフィリアはやっと背後にいっしょに依頼を引き受けた仲間がいるのに気が付いた。
「このおっさんにダイエットさせるのかー。アレだな、幻獣に乗ればそりゃ痩せる。それはボクと相方のざんぎえふが保証する。でもなー。健康的にって条件でこの間食デブからだとその前段階から考えないとなー」
あちゃー。
ミリア・ラスティソード(ka1287)がダンボールの中身を覗き込み、転がってるプランナー氏のあちこちをつつき、一週間かぁ……と指を折る。
「できる? ざくろも撮影のほかになにか手伝おうか?」
心配そうに時音 ざくろ(ka1250)がミリアの後ろから覗き込む。
大丈夫だ、問題ない。イイ笑顔でミリアが返す。問題があるとすれば……猛特訓になるから癒しモードは先に撮っちゃったほうがいいかな、って?
「えーっと。これが『ファンシィライダー』……? 胴体だけなんて想像と違ってて残念な感じで……え? プロトタイプで外見も完成じゃない? ですよね! モフモフ分が足りないですもんねっ! 外見パーツですけど、リーリーで9割、残る1割で他の幻獣用意するくらいでどうでしょう?」
お昼の放映もですけど深夜番組、女の子って良く観てるんです。あの異世界刑事モノ。イケメン以上にリーリー部隊が人気で、ソフト予約特典がリーリーぬいぐるみですよ? リアルフィギュア人気じゃワイバーンとグリフォン、二次創作だとイェジド主流ですけど、いっしょに居たいってやっぱりリーリーなんですよ! 猛禽さんや爬虫類さん、夜中にトイレ起きた時に目があうと怖いじゃないですか。リーリーの魅力ですか? まず抱きつきたくなる首筋と埋まりたくなる羽毛。なによりお尻ですよお尻!
ロッソ経由で派遣されたメーカー担当者とカメラマンに穂積 智里(ka6819)が大熱弁をふるっている。放っておくと一週間まるまる語りとおす勢いだが、そこに便乗する熱弁者が現れた。
「不躾ですが、万一撮影を降りる際の違約金はいかほどになりますか?」
いきなりの不穏発言である。
目を剥いて発言者へ振り返るメーカー担当の後ろにエルバッハ・リオン(ka2434)。
一礼の後──。
「その深夜番組にレギュラー出演をしている者です。二次創作云々はわかりませんが、私のガルム……歪虚の使い魔役のイェジド宛にくるファンレターでは、動きに拘る方が多いのです。番組スポンサーからの紹介で言うのもなんですが、使い物になるのですか?」
アレ……エルバッハの指差すさきに、誰がスイッチを入れたのだろう。うぃんうぃんとモーター音をたててうねる『ファンシィライダー』。
「ふむ。AIスピーカ内蔵……よくわかりませんが呼びかけで動きだして機動も変わり、しかも学習すると。それはガルムと私の関係もある程度は再現できるとして、あの動き……あれは何モードですか? ガルムはあんな挙動しませんし、ロデオという言葉にも違和感が……」
慌ててメーカー担当が別モードの動きに切り替える。
「……。……こちらは似せてますね、かなり。開発者が? 私のファン? ……仕方ありませんね。改善提案も呑んでいただけるということでしたら喜んで」
(ガルムの方で機械にあわせた動きに寄せる手もある、か)
ファンという言葉に気を良くしたエルバッハが乗り気になる。
うぃんうぃんうぃんうぃん。
『ファンシィライダー』もゴキゲンで蠢いている。
──その時。
「フロー姉、良かったのだ! オプションでいろいろ付くみたいだから、フロー姉が騎乗するときに絶対必要な棒状のも生やせるみたいなのだ」
良かったね! お姉ちゃん!
無邪気な笑みでネフィリアはダンボールを覗き込んでいた姉、フローレンス・レインフォード(ka0443)の手を引っ張り担当者と『ファンシィライダー』の前まで連れてゆく。
「ちょっ。ネフィったら、ダイエットのコーチのお仕事じゃなかったの? なにこれ、この蠢いているの……」
あ、いえ、すみません。妹に誘われて保護者としてですね。と、慌てて愛想笑いで取り繕うフローレンスだが、お構い無しにネフィーリアが続ける。
「フロー姉は騎乗スタイルで揺振られるとき、胴からなにか生えてないと物足りない身体なのだ。とくに激しい勢いだと強く締め付けたくなるって。胸も大きいから、よく挟んじゃってるのだ」
ふんふん、とネフィーリアへ頷いていた担当とカメラマンが、どんどん複雑な表情になり、フローレンスをチラチラしながら曖昧な微笑をかえす。
「やんちゃな妹で、フフ……え? ええ? !!!??? っっっ!! ちょっ! 違っ! ネフィ何言ってるの? やだ、そんなんじゃ……」
担当とフローレンスが焦りまくってる横で、暢気にネフィリアがメモ帳に、こんな感じだよーと絵も描き始める。
「お人形みたいな顔付きもいいけど、リアルに凹凸が再現されててもいいよねー」
うぃんうぃんうぃんうぃん。
『ファンシィライダー』も大ハッスル中、じゃーん! とネフィリアが広げたスケッチには、普通に可愛らしい幻獣の首が生えた乗馬マシンが描かれていた。
しがみつく物がなくって胴に鞍を模した取っ手をつけただけだと、フロー姉きっと転げ落ちちゃうのだ。はい。とスケッチを手渡す。想像力過剰で汚い大人にくらべて、尊い、幼女って尊い。
「やぁね私ったら。ウフフ……ネフィを宜しくお願いしますね」
にこやかにフェードアウトを狙うフローレンスだったが、そうは問屋がおろさなかった。
「フロー姉、お正月に4kg太ったから、おじちゃんとの比較対象にちょうど良いのだ」
これが今のサイズなのだー!
じゃーん! カメラマンの前に身体測定表が曝される。「きゃぁぁぁ!」という悲鳴と共に、バッチリ撮影されていたのはいうまでもない。
●
「『ファンシィライダー』が出るぞー」
「VOIDどもには内緒だぞー」
「よし、全体ときめけ! おっさん! いやプランナー! 一週間も半ば過ぎ、今日もばっちり一人前のライダーにしてやるから安心しろ!」
大丈夫、ボクが付いている!
ランニングを終え、ミリアが倉庫群の壁で指たて伏せ真っ最中だ。正確には、プランナー氏が壁指たてをする背中に密着して補助という名の負荷要員をやっている。
「あの、当たって……」
「当ててるんだよ。ダイエット理論はまず筋力。筋肉による脂肪分の適切な燃焼、そのためには柔軟でほぐし筋肉をつける水分補給に食事。そして重要なのが体幹能力の向上と休養だ。ネフィ達は自習練済んだら食事準備。で、智里さんまでなぜダイエット?」
同じく壁に並ぶのは、当のプランナー氏のほかに、フローレンス&ネフィリア姉妹、智里、ハンディカメラを構えたざくろだ。ミリーブートキャンプ絶賛開催中だが、デブには微笑む余裕はない。お約束のようにドーナツも没収済みだ。
「アッはい。カロリー計算をネフィちゃんと相談した手前、ですね。やっぱ私も付き合わないとって思いまして。健康的メニューもコンサルしちゃってよ、って倉庫のえらい人にも言われてますし、太って無くても美味しい食事と簡単な運動が無理なく楽しめるって実証すべきだと思い……」
えーと、あのその。プランナー氏から離れたミリアが近い。どぎまぎして抱きつかれて、智里は白状した。
「ううっ。普段ゴーレム操作にコントローラ持って走ってるんですけど、脚以外のお腹周りと二の腕に振袖がああぁあ」
ぷよぷよーん。薄手のざっくりとしたタンクトップとミニスカでは隠しようもない。
ざくろにも弛みをばっちり撮影され、智里は同じく情けない顔をしたプランナー氏と互いの両手を握り合う。お肉の質は同じです。RB人同士頑張りましょうねぇ! と寄り添う智里にプランナー氏の泣き言がはいる。
「ジャンクが、いや贅沢は言わない、RB食品が食べたい……」
「……ありますよ。おやつ。RB製チョコバーが」
なにぃ! プランナー氏が色めき立つ。内緒ですよ、と渡されたバーに齧り付き感涙にむせび泣く。智里もうんうん頷いて貪るのをざくろがスクープ!
「間食とかいけないんだー」
ニコッと笑うざくろにニコッと返す智里。
「大丈夫ですっ! これは軍納入実績もあるプロティンバー。食べて美味しく運動効率大幅アップ! CWではゴルドゲイルが特製青赤緑汁とセットでOEM生産を請け負うハンター御用達食品なんです」
「おいしそうなのだー。むしろ3食とおやつを適切に食べるほうが筋肉つくのだ」
わざとらしいと言うなかれ。スポンサーは絶対である。幼女って尊い。大人って汚い。
「エルバッハさんの撮影はどうなのさ?」
ざくろ、昨日からこっちの撮影かかりきりじゃない?
ミリアの顔がカメラを構えるざくろに近い。後ろでプランナー氏とフローレンスが体重計と『ファンシィライダー』を往復している。
「ミリアさん、あの、二人乗りってどうしても私とプランナーさんじゃなきゃだめ? ネフィととか、特訓時みたいにミリアさんとのほうが躍動感が出ると思うのだけど?」
はふぅ。冬だというのに汗が肌を伝い胸の谷間に流れ込む。フローレンス、谷間の汗を拭うか服をスケスケのままにするかの二択。
「ダメダメ、特訓時のざんぎえふ二人乗りを『ファンシィライダー』でも実現するのに、数字でわかりやすい目標なのが彼以外にフローレンスだけなんだから。はい、二人合わせて荷重制限まであと3kg。がんばって!」
ちなみに現在の体重でーす。とフリップをかざすざくろが、相談です、とミリアと更に顔を近づけた。
「エルバッハさん、さすが役者経験ありで順調すぎてざくろの出番がないくらい。ざくろのJ9で飛んで上空からのマル秘映像まで撮れちゃったまではいいんだけど……」
言いよどむなよ。ミリアがわしっとざくろを抱き寄せる。
「飛行視点の映像が気に入られて、次世代Ver搭載予定の飛行機動モードと地対空戦闘モード、VR出力用の映像をざくろが撮ることになっちゃって……ねぇ。ミリア、助けてくれる?」
どすーん! と衝突音。
「ごっごめ……あの、見てないから。触っちゃったけど……って、あああぁぁ! なんでカメラそんなトコに挟まってるの!?」
はわわわ。そうじゃない、まず怪我なかったか聞くべきだよね。大丈夫って、ミリア……ミリア? え? 嘘? 死ん……って、脅かさないでよ。
昼食のおよそ2時間後、倉庫群を見下ろす港町の丘の上で、ざくろの悲鳴が絶え間なく響く。重なるのはミリアの笑い声。
「いい戦闘機動が撮れたじゃない、ざくろ。こっちの対空戦闘視点も迫力満点。なぁ、プランナー? 太腿と膝での締め付けも習得したし、次はJ9のほうで二人乗り空中機動してみるかー?」
ぽふぽふ。ざくろすごいよ、インメルマンターンにハイヨーヨーなんてマニューバ、幻獣でこなすんだから。ミリアは転がったまま胸に突っ伏したままのざくろの頭を撫ぜる。泣くなって、男の子じゃないか。優しい目で笑う。面と向かっては照れくさいからうんと近づくんだ、ボクは。胸に伝う暖かい液体。
「違っ、いやごめん」
がば、と跳ね起きたざくろの顔をぬらすのは、涙ではなく盛大な鼻血。
えーと、あの、よこしまな鼻血じゃなくて純粋な衝撃なんだけど、うん、とにかくごめん。
(そういうことにしておくよ、ざくろ)
ミリアがぎゅっとざくろを抱きしめてハンカチで顔を拭う。
「うん。じゃぁプランナーの騎乗シーン撮って帰ろう。ボクが抱えててもわかる体つきになったからさ、最初にざくろがダイエット前の姿を撮った時より格段に格好いいのが撮れるはずだよ」
●
──RB深夜、CAMと幻獣を駆使する刑事ドラマのクレジットが終わる。
うって変わって陽気なロゴとBGM。掛け声とともに司会者が小走りでフェードイン。
「『ファンシィライダー』が出るぞー」
「乗り込め」「乗り込め!」
「はーい、皆さんお待ちかねの新商品はコチラ! 幻獣ライドマシーン、『ファンシィライダー』! 夜の乗馬シーンはこれからだ!」
うぃんうぃんうぃんうぃん。
リーリーの首パーツをつけた機体とイェジドの首の機体。2機の『ファンシィライダー』が並んで、CWの草原写真を背景に元気に蠢いている。
大袈裟に驚く司会者。ハンターお墨付き! の効果音とロゴが入り録画再生が始まった。
「おー! ダイエットマシンなんて信じられないのだ! 崑崙の遊園地で乗ったヤツみたいなのだー!」
ネフィだよー! わぁい、とだぶだぶのスポーツブラとホットパンツ姿の少女が飛び乗る。「キュイ☆」と可愛い動作音が音声識別完了を告げ、楽しげなステップを踏む機動に変わる。AIスピーカによるネフィリアにあわせた成長プログラムだ。
「きゃっきゃっ☆ 大きくじゃーんぷ! たーん!」
ひらっ! ちらっ! ぽろっ!
翻る服から覗くのはあくまでも健康的な少女の肢体である。平らなせいで。
「フロー姉、併走しよっ」
「ちょっ。ネフィ、この服きついわよ」
いつの間にか隣の機体にフローレンスが揺られている。着ている服はネフィと御揃いだが、恐ろしいことにサイズまで御揃いであった。破れないのが不思議である。
ばばん!
フローレンスの身長体重3サイズがド派手な演出で表示される。ご丁寧に正月前と後の比較画像もだ。
「仲良し姉妹は服も共有。でも……お姉さんはちょっとピンチ!」
ナレーションが入るが共有のくだりはもちろん大嘘だ。
「ハンターですらデヴる、なんて諦めてないか? そんな不安は捨ててもらおう! 彼はロッソと共に転移した一般人、元有名アパレルを経て独立したプランナー君だ」
ばばん!
自信たっぷりのミリアが紹介するデヴはプランナー氏(初日)。
どこから探したのか、遠い過去のイケメン時代の写真までワイプされている。
「イケメンだったんだなぁ。……。……。ざくろも気をつけなきゃね!」
すらりとした美青年の絶妙な間と視線移動が、どんな演出より危機感を煽る。
そのざくろが、ミリアが、情け無用のサイクロンがごとく空と大地を幻獣で駆ける姿。
特にミリアの肢体が無駄に詳細にじっとりとねっとりと、その躍動までもをあまねく映す。
「こんなの無理ぃぃぃ!」
無理矢理ざんぎえふにミリアと二人乗りさせれたプランナー氏の泣きっ面が重なって、その時──
「でも大丈夫! 『ファンシィライダー』なら無理のない騎乗モードから始められます。初めてAIスピーカに話しかければ、まるで幻獣との契約のように……」
ざくろ撮影の嘗めるような視点のミリアとプランナー氏から、CM直前まで流れた刑事ドラマの1シーンが流れる。出演者であるエルバッハがRBカメラマンのインタビューに応えている。
「幻獣との契約、それは絆を深める大切な行いです。私とこのガルムのように」
漆黒と深紅のイェジドがエルバッハに頬ずりする。
「正直……最初はお断りしようと思いました。けれど一度だけと乗ってみたら、その素晴らしさにこれは是非、番組のファンの方々にオススメすべきと思いました」
ガルム宛のFLの山が映し出される。躍動し疾走するガルムのイラスト、ヘソ天で失われた野生のガルムの二次創作も見切れている。なお、ガルムに乗るエルバッハのイラストが全てパンチラどころかヘソチラ胸チラであり、CMスタッフがどこの同人誌即売会で調達してきたのか激しく問い詰めたい。
ドラマと同じく、座ったエルバッハの狼形の影がせり上がり、やがて幻獣となり地を駆ける。エルバッハは優雅に横座りのまま緑の光につつまれ襲い掛かる銃弾を弾いてゆく。アンティークドール風のドレスは激しく揺らめきはためき舞い上がり、球体間接タイツと拘束具じみたゴス調ビキニアーマーを臍上まで曝す。
「歪虚の印を見せる旗手と幻獣一体の演技なのですが……」
疾走するガルムは違和感を感じることなく『ファンシィライダー』に変化していた。
「こんなに自然。おすすめです」
ガルムと同様に機体を撫ぜるエルバッハに、またもゴス下着で騎乗する同人誌の数々が重なる。間違いなくエルバッハファンの開発者の私物だ。
──そして一週間……
キャプションが流れる。
「さて、元イケメンとフローお姉さんの成果は?」
思わせぶりなナレーション。
「ほら! 無理じゃなかった! 頑張った、おめでとう!」
壁に向かって指立てをこなすプランナー氏と、全体重をかけて背後から抱きつくミリアの姿。実際は壁指立てのおかげで握力と体幹UPし騎乗可能になったのだが、映像では『ファンシィライダー』のおかげにしかみえない。
「慣れない内は、肩を楽にして幻獣の首を羽交い絞め、太腿で胴を締め付けるように腰を深くおろそう」
こんなふうに。と透明なバランスボールを股で挟みつけ、ミリアがお手本を示す。プランナー氏を一瞬写し、強化ビニルに押し付けられた肢体をねっちり映されたのはフローレンスなのは当然の流れといえよう。
2機並んだ『ファンシィライダー』に揺られる二人の姿があらゆるアングルで映されてゆく。
うぃんうぃんうぃんうぃん。
「あンっ! やンっ! ちょっと激しいっ……けどっ……夜の戦闘っモードって、サイコーにっ……エキサイティングね!」
VRゴーグル着用のフローレンスがWピースサインで微笑む。
「(ダイエット成功を)信じて送り出したフロー姉が、『ファンシィライダー』にドハマリして激ヤセ画像を送ってくるなんて……」
すごいのだー。これにはネフィリアも大拍手やむなし。
う゛ぃぃぃぃぃぃぃん!!
更に機体は激しさを増し、ありとあらゆる肉が打ち震え悶えていく。フローレンスの。
「その甲斐あって! 観てください! プランナーさん98kgとフローレンスさん(規制音)kg。『ファンシィライダー』への二人乗りは不可能と思われた二人が今ではタンデムで戦闘モードを楽しむまでに!」
ここで二人が観てるVR映像をちょっとご紹介!
キャプションと共に現れた激しい地対空戦闘。──え? 地対空?
「驚かせちゃったかな? そう、急遽! グリフォン版も発売されることになったんです」
ナナメ上からざくろの笑顔。
「J9って知ってる? 空を粋に暴れまわってるっていうさ!」
全方位カメラでざくろの幻獣J9から撮影されたVR世界。映ってるぜ、どっちもどっちも!
イイ汗かいてサムズアップするざくろの鼻にティッシュが詰まっているが、それすら可愛いので問題は無かった。尊い、美青年も尊い。
「イイ汗かいたその後ですが……食事制限あるんじゃないの? って半信半疑ですよね?」
それが、3食おやつ付きOKなんです☆
ナレーション役だった智里が満を持して顔出しする。薄々レオタードがムレムレで、色々と透けていたり食い込んでいたりするが、視聴者の目にはもう何もかもが尊く映っているので問題ない。
「今から30分以内のお申し込みで、ハンターお墨付きレシピのチョコバーを1箱おつけします! ンん! 美味しいっ!」
うっとりと絶妙な大きさの黒い棒を咥え舐め上げる智里は、バレンタインより節分を思い起こさせる絵面だが、プロティンバーとは思えぬシズル感がすごい。
うぃんうぃんうぃんうぃん……
「こらーアクマ! じゃない、アクアー!」
そしてお約束のように、緩くなった服をつまむプランナー氏の映像がチラリと映り、ズリ落ちたホットパンツを幻獣に咥えて逃げられるフローレンスをバックに、電話番号が連呼されるのであった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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必要ないだろうけど相談卓 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/01/29 23:28:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/31 12:01:15 |