●　辺境――それは人類と歪虚との最前線。
　冬を迎えつつある辺境の荒野に幌馬車の６両の車列が往く。
　日用品や食料を満載させた幌馬車は辺境の各部族との交易のために進む。
　
　何もない、平和だと思われたその時。
　
　最後方の幌馬車。
「……おい、あれを見ろよ」
　馬車の後部で警戒していたハンターが近づいていくる『何か』を見つける。
　目のいいもう一人が意識を集中してみれば――。
「クソッ！　リトルラプターに騎乗したゴブリン共だ！　敵襲！　敵襲！」
　リトルラプターと呼ばれる全長約2.5メートル、腰高約1.5メートルの小型の恐竜のような生物に騎乗したゴブリン達が近づいてくる。
　その数は少なくとも3体一組で4組の12体以上。
　革鎧を着たゴブリンに一体だけ馬上槍に金属鎧でリトルラプターに帷子を纏わせたリーダらしきゴブリン。
　武器も様々だ――弓に、杖、投擲槍、馬上槍と遠距離からの攻撃を狙っている。
　リーダーの組を除いたゴブリン達が前線を押し上げていく――リーダはあくまでも後方で指揮をする様だ。
　金物を鳴らし、大声で奇襲を知らせるたハンター達によって迫り来るゴブリン達への迎撃戦が始まる。
　各々の武器で迎撃を試みる各車の護衛のハンター達。
「来るんじゃねぇ！」
　騎乗しているゴブリンを撃ち落とされ、離脱するリトルラプター。
　足元に攻撃が命中してリトルラプターから落馬するゴブリン。
　魔法や矢が互いに飛び交い合う。
　激しさを増す戦闘――ゴブリンライダーメイジの放った魔法の矢がある一両の右後部車輪を砕いた！
「きゃあああ！」
　急な擱座に馬車に乗車していた人々の絶叫が響き渡る。
　勢いで転倒した馬車の幌が次第に血に染まる様子も見て取れていた。
　擱座して止まる馬車――だが、それを一瞥するかのように他の馬車の攻撃に切り替えていくゴブリン達。
　互いに被害を出しながらも戦闘は続く。
　当初のゴブリン達は攻防によりリーダの組と１組――６体まで減っていたが……。
　リーダのゴブリンが笛のようなものを吹くと、リーダの後方からまた一騎二騎とゴブリン達がやってくる。
　どうやら――後方にいさせていた予備兵力の増援のようだ。
　当初より多い数のゴブリン達が襲いかかる――総勢１１組の３３体近く。
　総攻撃とばかりに逃走している馬車に襲いかかる。
　次第に――抵抗していたハンター達の攻撃も減りつつある。
　また、一両と車輪を壊され、馬を襲われて擱座してしていく。
　先頭から二両の馬車は馬を襲われ、停止する。
　残る車両は――運良く戦闘を回避できていた先頭の車両のみ。
　そして、敵はこれまでの攻防でリーダーを含めで４組１２体まで減っていた。
　後方を目にやればリーダを追っているゴブリンが３組ほど――増援かも知れない。
　余裕があるのか警戒しているのか付かず離れずに先頭の馬車をゴブリン達は様子をうかがっているようだ。
　
　残された馬車はどうなるのか？
　
　そう――残された馬車はあなた達が護衛の依頼で乗り込んでいた馬車だ。

　●　残された一両
　襲撃を受け、６両中５両が撃破されてしまった交易中の車列。
　幸いにも残っていたのは先頭車両の１両のみ。
　すぐに攻撃をせず、余裕を見てか様子見をしているゴブリン達。
　
　襲撃直後――先頭車両の中でのハンター達の様子。
「拙いわね、どうにかしなきゃ」
　焦る気持ちの中、解決方法を模索しているエリシャ・カンナヴィ(ka0140)。
「こんな所では死ねないわ」
　自宅で帰りを待つ末の妹の為にもここで死ぬ訳にはいかないと決意を秘めるフローレンス・レインフォード(ka0443)。
「みんなで一緒に帰るのだっ」
　ネフィリア・レインフォード(ka0444)も、この状況に屈せず希望を持って脱しようと考えていた。
「あー！　畜生！　お気楽、極楽な依頼だと思ったのに！」
　紫月・海斗(ka0788)は少し悪態をつきつつ、すべきことを考える。
「移動ルートが漏れていた？」
　ラルス・コルネリウス(ka1111)はこのあまりにも計画的な襲撃に違和感を感じていた。
「随分と絶望的な状況だが、一人じゃねえ、それだけで違う」
　春日　啓一(ka1621)は他のハンターたちを見渡してどう動くべきかを考えていた。
「まさか、こんな大規模な襲撃に会うなんて……」
　フェイ(ka2533)は呟きながらラススを見て姉の為にも生き延びさせようと決意していた。
「……厄介なことになったわね。ま、悲観的よりも前向きのほうがいいわよね」
　ナル(ka3448)は手元のコインをみながらこの状況でどうすべきかを考えていた。
　
　激しく揺れ動く馬車の中でこの事態に対して話し合われていた。
「敵の撤退を狙って、リーダーらしき個体の撃破を進言するわ」
　ナルは一体、装いが違うリーダーらしき敵を撃破することで撤退するのではと意見を出した。
「でも、敵は後方の方にいるわ。どうするの？」
「リーダーを倒すにしろ、撤退するにしろ、先ずは出来る限り敵の数を減らさないと……ね」
　フェイはどういう状況であっても敵の漸減を意見する。
　ハンター達は意見を元に倒すべき敵の優先順位を決めた。
「とにかく、使えるものは使いましょう。積荷を的に投棄して、混乱と転倒を狙えれば……」
　エリシャは奥にある積荷を見て利用することを提案する。
「それじゃあ、私が商人と交渉するわ」
　フローレンスが商人との交渉に当るようだ。
「荷が減れりゃ、少しでも早く逃げれそうだな。ついでに幌も外しちまおう」
　海斗は幌を外すことを提案――幌を外せば横への視界の確保もできるだろう。
「短期決戦の為にも、ある程度敵を減らしたら停車して、敵リーダーに突撃よ」
　長距離戦では埒が明かない――決死隊を組んで敵リーダーへの吶喊をナルは意見する。
「オジサンは悪いがちと後ろから射撃援護だ――戦況が広く見えねぇとやばいしな」
「俺は商人を護る為に馬車に残る。突撃の支援はする」
「スキルと攻撃で支援する」
「私も馬車を盾に後方から援護するわ」
　海斗・春日・ラルス・フェイの４名は後方からの突撃の支援をする様だ。
「回復役も必要でしょ」
「僕も行くのだっ」
「リーダーを倒すことで撤退させれれば、スマートよね」
　フローレンス・ネフィリア・エリシャ・ナルの４名が停車後に吶喊するようだ。
　こうして、大体の相談は終わった――それを見越したように牽制ではあるが敵の攻撃が始まる。
　
　●　襲撃者との死闘
　
　ハンター達はすぐに動き始めた。
「生きてこその商売。そうでしょう？」
「命あっての種籾というし、物資も有効活用するのだー♪」
　フローレンスとネフィリアが商人を説得する。
　流石に商人も自身の命と積荷を天秤にかけるまでもなかった。
　こうして、積荷を投棄しての抵抗をすることができた。
「これは……使えるかしら」
　敵に向かって物資の投棄をする品物を見定めていたエリシャ。
「おい、商人さんよ！　全力で走らせろ！　とりあえず応戦すんぞ！」
「射撃できる奴はとにかくラプターを狙え！　近接組は積荷をバンバン投げつけてやれ！」
　海斗の叫びに近い言葉により第一段階である馬車での攻防戦が始まる。
「狩りとは時として、狩られる側に回ることもあると教えてあげないと」
　フローレンスは『鋭敏視覚』を駆使して敵、ラプターに騎乗したゴブリンに向けて投擲を開始した。
「食らうのだっ！」
　同じように妹のネフィリアも足元や顔に向けての投擲を行なっている。
「護らせてもらうぜ」
　春日は御者をつとめる商人の護衛にあたる。
　商人がやられてしまえば元も子もないのだから。
「纏めて転倒してくれると有難いんだけどね」
　木箱をこじ開けて中身を投擲するエリシャ。
　投擲された物々は敵のラプターの足元と落下したりした。
　それらの物資の投擲は直接的なダメージを与えるわけではなかったが、敵に混乱と転倒を引き起こすには十分であった。
　投擲している横では海斗が幌を外している。
　さて、そんな中、敵もこちらに対して攻撃を開始し始めた。
　まず、攻撃してきたのが矢を番えたゴブリンだった。
　放たれた矢は遮蔽物として積まれた空いた木箱へと刺さるにとどまった。
　投棄やハンター達の攻撃により敵の攻撃は安定しない。
「チッ、厄介な状況になったもんだ……！」
　攻撃してきたゴブリンに対してラスルは『魔導銃』で攻撃をする。
　魔導銃のエネルギーが騎乗していたラプターの上半身に命中。
　ラプターは仰け反って乗っていたゴブリンを振り落としながら倒れた。
　残念ながら後続を巻き込むことは出来なかったが１体撃退することができた。
　すかさず、杖を持ったゴブリンが馬車へと接近してくる。
「車軸と車輪をやられると厄介ね」
　接近してきたゴブリンに対してフェイは『ウィンドスラッシュ』を放つ。
　杖をかざして魔法を放とうとした腕を切り落とし、絶叫した敵はそのままラプターより落下した。
「間髪入れずに来るのね」
　投槍を持ったゴブリンが続いて接近してくるが、ナルがこれに対処にあたる。
　ナルの持つ『魔導拳銃「エア・スティーラー」』でゴブリンに対して攻撃。
　敵もそれに対して槍を放つものの、距離が足りないために馬車へ命中しなかった。
　結果、ナルが撃ったのはリトルラプターの足へと命中して騎乗していたゴブリンごと転倒させる事に成功した。
　こうして、お互いの攻防が一巡した。
　馬車やハンター達には被害はなし、敵は３体を撃破することが出来た。
　転倒での全滅を警戒して単体での攻撃をしてきてた敵だが、容易に迎撃されると判断したのか、三体一組纏めて馬車へと向かって来た。
　そうなると、投擲組も残量を気にしつつ投棄する物資を増やして対抗する。
　お陰で、ゴブリン達は狙いが不安になって馬車に対して致命的なダメージを与えることが出来なかった。
　長距離攻撃できるメンバーもフル回転で敵への迎撃を行うことになった。
　特に、魔導銃やアサルトライフルと言った手数の多い武器を持ったナル・ラスル・海斗の三人だ。
「だー！　次から次と！　とっとと逃してくれよ！　オイ！」
　陸上用の弾倉に換装した『水中用アサルトライフルP5』で近づきつつある三体に弾幕を張る海斗。
「減らさないことには……な！」
　弾幕を浴びている敵に対してラルスは杖を持ったゴブリンへ攻撃。
　ゴブリン本体へ当たり、ラプターより落ちていく。
「纏めて、同時に攻撃されると拙いわね」
　ナルは弓を持ったゴブリンへと魔導拳銃を使い攻撃をする。
　『幸運』のスキルのお陰か、揺れる馬車においてラプターにヘッドショットを当てることに成功した。
　崩れ落ちるラプターと巻き込まれてゴブリンも落ちる。
　海斗の放った弾丸が更に接近しようとする投槍を持ったゴブリンに命中し絶命させた。
　主の失ったラプターは在らぬ方向へと走っていった。
　続けての戦闘で一組三体の撃退に成功した。
　２組の部隊を失い、リーダーの組と１組となったためにゴブリンはやや後退して再編を始めた。
　後方からの増援とが合流を果たした本隊はリーダーの組を除いて敵は後、４組１２体だ。
「むぅ、僕達を簡単には逃してはくれないみたいだねー。当たり前のことなんだろうけどっ」
　物資の投擲を続けているネフィリアは残念そうに言う。
「突撃にはまだきつそうね」
　合流した様子を見たナルは再編する敵の動きを見て言う。
「贅沢を言えば同数。少なくても後、３組はどうにかしたいわね」
　短期決戦といえども吶喊組の３倍以上の相手の中を吶喊してリーダーを攻撃するのは難しい。
　各個撃破の上に包囲殲滅されかねないからだ。
　編成を終えた三組のゴブリン達がこちらへと向かってくる。
「気軽な幌馬車旅になるかと思っていたが、世の中やっぱあまくねえな」
　商人を守っていた春日も『魔導銃「フリューゲル」』を持ちだして迎撃にあたる。
　春日・ナル・ラスル・海斗と、そして。
「出し惜しみしてる暇はない……わね」
　フェイも出来るだけ、転倒による玉突きを狙う形で攻撃を狙う。
　９：５という彼我戦力比が不利な状況での三度目の戦闘が始まった。
　ただ、当初の１８：８と言う彼我戦力比を考えるとだいぶましになった方ではあったが。
　
　３組同時攻撃となれば中央を除く両右翼は迂回しての攻撃を行う行動を取るのだが……。
「おっしゃ！　取れた！」
　攻撃しながら幌を外していた海斗が敵に向けて投棄する。
　広がった幌は３組に向けて投げ出され、隊列を乱す。
　それと同時に幌が無くなたことで左右の視界を確保する事が出来て左右の両サイドから攻撃しようとするゴブリンへの対処が可能となった。
　だが、幌がなくなったことで攻撃にも晒されることにもつながる。
　ただ、ここで活躍したのは春日だった。
「させるかっ！」
　『守りの構え』を使い敵への攻撃の盾となり味方を守り、『堅守』を使い商人を守っていた。
　ナル・ラスル・海斗・フェイの四人は春日に護られながら敵へと対処を始めていた。
　ナルは右サイドをラルスは左サイドをフェイと海斗は後方からくる敵を迎撃していた。
　フローレンスは右サイド、エリシャは左サイド、ネフィリアは後方と投擲して妨害を続けている。
　敵に狙わせないように妨害しつつ攻撃を繰り出すハンター達。
　お互いの攻撃が行き合う激しいものとなるが見た目に比べて投擲による進路・狙いの妨害が効いているのかダメージは受けるもののハンターと馬車共に致命的なダメージは受けていない。
　逆に敵は騎乗しているラプターやその足元を狙われたりして撃破されることが出てきた。
　それは、投擲するハンターと攻撃するハンターが互いに連携して行った結果でもあった。
　左右から迂回を試みていた２組はラプターをやられたり、騎乗していたゴブリンを倒されたりして全滅させることに成功していた。
　馬車後方から攻撃していた１組もフェイの『ウィンドスラッシュ』のスキル切れとともに全滅した。
　
　●　反撃
　
　残すはリーダーの組と１組の２組６体となった。
　これを好機と見たハンター達が攻勢に出ようとする。
「これなら……いけるわね。　敵が撤退する前に敵の頭を狙いましょう？」
　馬車の停止を指示するフェイ。
　敵、ゴブリンから馬が隠れるように角度を調整して停車するように商人に指示するエリシャ。
　停止する馬車、そして、吶喊組が吶喊へ移行する。
　ラルスは吶喊するメンバーに『運動強化』を使用して支援、銃撃で支援を行う。
「アレさえ仕留めればっ……！」
　『ランアウト』と『瞬脚』を駆使してリーダーの組へと突撃をするエリシャ。
「行くわよ！　狙うは敵の頭よ！」
　ナルも『ランアウト』と『瞬脚』を駆使し、一人突出しないように気をつけながら敵リーダーへ肉薄する。
「邪魔はさせないわ！」
　『ウォーターシュート』でリーダー周りのゴブリンを狙って突撃を支援するフェイ。
「何としても馬車を護る！」
　馬車へ近づきそうな敵へ攻撃を加える春日。
「血の気の多いお嬢ちゃん達だ。オジサン、苦労しちゃう」
　海斗は周囲を警戒しながら突撃をアサルトライフルで支援をする。
「ここからは接近戦かな？　かな？やっと出番が来たのだ♪　頑張っていくよー♪　突撃なのだー♪」
　元気よく飛び出し『地を駆けるもの』を使い接近するネフィリア。
「ネフィ。　あまり無茶をしないでちょうだいね」
　回復役のフローレンスが後についていく。
　
　現状、馬車を盾に攻撃する後衛と敵へと突撃する前衛。
　奇しくも後衛はエリシャの指示により、馬車を用いた簡易野戦陣地となり『フス派の戦車』の状態となった。
　そう、向かってくる騎兵とも言えるラプターに乗ったゴブリンに対して非常に効果的だった。
　この戦術が取られたのはクリムゾンウェストでは初めてだろう。
　効果的な支援を受けた吶喊組は残りの１組のゴブリンに妨害されること無く、肉薄することが出来た。
「その移動力もリトルラプターを倒してしまえばなくなっちゃうよね？　ふふん、貰ったのだ♪」
　リーダーを護るように展開したゴブリンを攻撃するネフィリア。
「あと僅かってところね」
　マルチステップを使って敵の攻撃を避けるエリシャ。
「早く倒さないとっ……」
　攻撃をさけ、反撃するナル――１体を撃破することが出来た。
「やらせるかよ！」
　ナルに対するゴブリンリーダの突撃を『防護障壁』で防ぐ。
「大丈夫か！？」
「おかげで大丈夫だわ」
　ガラスのように霧散する防護障壁――ナルへのダメージは軽傷で済んだ。
「向こうにいるのがリーダーさんかな？　あれをできれば狙いたい所だけど……いけるかな」
　すぐ側に見えるリーダーを見据えるネフィリア。
　ゴブリンリーダは防護障壁を使ったラルスへと向きを向けて突撃。
　相対するラルスとリーダー。
　リーダーは馬上槍をかざして突撃！
　その瞬間、ラルスは防護障壁を使用して『エレクトリックショック』を使用。
　防護障壁で軽減したと言えどもかなりダメージを受けたラルス。
　ラルスは力を振り絞って、エレクトリックショックで麻痺したリーダーへデリンジャーで至近距離から射撃した。
「賭けは、俺の勝ちだ！」
　こうして、リーダーは倒された。
　残った敵もネフィリアたちに撃破された。
　
　事実上――ここにいた敵は全て倒された。
　ラプターから落下した敵も致命的ダメージを受けて倒されている。
　
　最悪の状況から見事に敵の殲滅を成功させて切り抜けたハンター達。
　嬉しさも一入だが、新たな敵が来ないか警戒しつつ、後続の馬車へと向かっていった。
　凄惨を極めていた――一つ間違えば自分達もこうなったのかもしれないと思いながら、救護作業を続けていた。
　
　こうして、ハンター達は敵の殲滅という大戦果をあげながら無事に生還することが出来た。
　
　
　幌馬車襲撃　Fin