ゲスト
(ka0000)
純白に似た絶望
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/09 12:00
- 完成日
- 2018/02/16 18:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●これは夢
ぐるりと首を巡らせ、視界に入れることのできる範囲はおおよそすべて、白かった。とにかく、真っ白だった。一瞬、目がおかしくなったのかと思って慌てたほどだ。
しかし次第にその白は、かすかではあるが陰影を持っていることに気がついた。圧倒的な白さに気おされている両目を、ゆっくり瞬きすることで落ち着かせると、白い景色の全体像が見えてきた。そこは随分と広い平原だった。そこを、真っ白な雪が満遍なく覆いつくしている。白さの原因は雪だったのだ。そして、それと同時に気がついた。これは、その平原を「上から」見ているのだということに。
一本だけ木が立っているのが、かすかに見える。たぶん大木であるのだろうけれど、見慣れぬ俯瞰での姿とこの白さで、どんな種類の木なのか判然としなかった。
その白い光景の中に、不意に、鮮やかな赤が写りこんだ。赤いコートを着た何者かが、白い平原を歩いているのだ。顔はよく見えなかったが、背格好から、まだうら若い女性であるらしいと想像がついた。雪に足を取られ、歩きにくそうにしつつ、そのひとは大きな木を目指しているようだった。と。
しゅん、と。
一瞬ののちに、赤い姿が掻き消えた。
掻き消えたと思ったら、彼女が立っていた足元に、真っ黒な穴があいていた。
赤いコートの女性は、雪によって覆い隠されていたらしい地面の穴へ、落ちてしまったのだった。
●これは現実
青年は、目を覚ましたベッドの上で、身震いをした。ひどく寒い気がした。実際は、寒いわけがないのだ。青年が今横たわっているベッドはずいぶんと上質なものなのだから。
「はー……」
大きく、ため息をつく。寒々しい夢だった。そして、後味の悪い夢だった。あの雪原の穴へ落ちてしまった女性は、無事に穴から出られたのだろうか。それとも、出られるのだろうか。
青年は、必ず現実を夢にみる。しかし、それがすでに起こってしまった過去のことなのか、これから起こる未来のことなのかはわからない。十年も前のことかもしれないし、百年後のことかもしれない。
(もしかしたら、昨日のことかもしれない)
そう、わからない以上、その可能性だってある。
青年は身を起こすと、みた夢を書き記しておくべく、ノートを開いた。
朝食のあと、あたたかな紅茶を飲みながら、青年は恰幅の良い紳士と話をしていた。
紳士は、王国内で手広く宝石を商うモンド氏である。昨年末、モンド邸の近くで倒れていた青年は、このモンド氏の一人娘・ダイヤに助けられた。数日介抱されている間に「夢を追って旅をしている」ことを話したところ、「それなら是非この屋敷を拠点にして旅をしたらいい」と言われ、引き止められた。ダイヤや奥方は単純に親切心からであるようだが、モンド氏は青年に何か深い悩みがあるのではと察しているらしかった。
「なるほど。では、セブンスくんはその緑色の宝石に、何か意味があるのではないかと思っているんだね」
「はい」
青年──セブンス・ユングは頷いた。
親身になってくれるモンド氏を、信頼しても良いと思い始め、もっと立ち入った内容まで話すようになったのだ。このところ、夢を追った先で、夢にかかわっていた人が「緑色の宝石」を持っていることが多々あること、その宝石の出どころが「玉虫色の瞳の男」に関係するらしいことなど、である。
「ふーむ。その、玉虫色の瞳の男について、心当たりはないんですね?」
「ありません。でも、向こうは俺のことを知っているようでした。一度だけ、遭遇したことがあります」
遭遇、というよりはかなり意図的なものだったろうと思っているが。
「ただ、俺は夢以外のことはすぐ忘れてしまいますから、もしかしたら昔、どこかで会っていたのかもしれませんが」
セブンスがそう言って俯く。モンド氏はなるほど、と頷いて、彼を安心させるような笑顔を浮かべた。
「私の方でも少し調べてみましょう。その男のことはともかく、宝石については専門家ですからね。その緑色の宝石がどういうものなのか、調べておきますよ」
「ありがとうございます」
セブンスは深々と頭を下げた。この話が一区切りついて、次に、そろそろ旅へ出るつもりだ、という話に入ると、モンド氏は寂しそうな顔をした。
「どうしても、気になる夢がひとつあるものですから」
セブンスは、真っ白な平原の夢の話をした。すると、モンド氏はその平原に心当たりがあると言う。
「大きな樹が一本だけ立っている平原でしょう? 冬には毎年雪で真っ白になるんですよ。ここからそう遠くはありませんよ。地図を書いてあげましょう」
そうして、渡された地図は、二枚。
「平原への行き方と……、この屋敷への帰り方です。書いておかないと忘れてしまうでしょう? ちゃんと、帰って来るんですよ」
にっこり笑うモンド氏に、セブンスは再び頭を下げた。
平原の白は、夢でみたよりも薄かった。夢にみた光景は、随分と雪の多い年のことだったらしい。
(つまり、あの光景は「今」ではなかったということか)
セブンスは注意深く地面を眺めながら歩き、夢でみた穴を探した。大きな穴ははたして、その大きさを不思議なほど感じさせない自然さで地面に溶け込んでいた。あやうく自分も転げ落ちそうになりながら、セブンスがその穴を覗き込むと。
「……ああ」
目の前に広がるモノに、セブンスは顔を手で覆った。
「……ああ。過去、だったんだ。あの夢は」
穴の中には、赤いコート。そして、白骨と化したひとつの、体。
ぐるりと首を巡らせ、視界に入れることのできる範囲はおおよそすべて、白かった。とにかく、真っ白だった。一瞬、目がおかしくなったのかと思って慌てたほどだ。
しかし次第にその白は、かすかではあるが陰影を持っていることに気がついた。圧倒的な白さに気おされている両目を、ゆっくり瞬きすることで落ち着かせると、白い景色の全体像が見えてきた。そこは随分と広い平原だった。そこを、真っ白な雪が満遍なく覆いつくしている。白さの原因は雪だったのだ。そして、それと同時に気がついた。これは、その平原を「上から」見ているのだということに。
一本だけ木が立っているのが、かすかに見える。たぶん大木であるのだろうけれど、見慣れぬ俯瞰での姿とこの白さで、どんな種類の木なのか判然としなかった。
その白い光景の中に、不意に、鮮やかな赤が写りこんだ。赤いコートを着た何者かが、白い平原を歩いているのだ。顔はよく見えなかったが、背格好から、まだうら若い女性であるらしいと想像がついた。雪に足を取られ、歩きにくそうにしつつ、そのひとは大きな木を目指しているようだった。と。
しゅん、と。
一瞬ののちに、赤い姿が掻き消えた。
掻き消えたと思ったら、彼女が立っていた足元に、真っ黒な穴があいていた。
赤いコートの女性は、雪によって覆い隠されていたらしい地面の穴へ、落ちてしまったのだった。
●これは現実
青年は、目を覚ましたベッドの上で、身震いをした。ひどく寒い気がした。実際は、寒いわけがないのだ。青年が今横たわっているベッドはずいぶんと上質なものなのだから。
「はー……」
大きく、ため息をつく。寒々しい夢だった。そして、後味の悪い夢だった。あの雪原の穴へ落ちてしまった女性は、無事に穴から出られたのだろうか。それとも、出られるのだろうか。
青年は、必ず現実を夢にみる。しかし、それがすでに起こってしまった過去のことなのか、これから起こる未来のことなのかはわからない。十年も前のことかもしれないし、百年後のことかもしれない。
(もしかしたら、昨日のことかもしれない)
そう、わからない以上、その可能性だってある。
青年は身を起こすと、みた夢を書き記しておくべく、ノートを開いた。
朝食のあと、あたたかな紅茶を飲みながら、青年は恰幅の良い紳士と話をしていた。
紳士は、王国内で手広く宝石を商うモンド氏である。昨年末、モンド邸の近くで倒れていた青年は、このモンド氏の一人娘・ダイヤに助けられた。数日介抱されている間に「夢を追って旅をしている」ことを話したところ、「それなら是非この屋敷を拠点にして旅をしたらいい」と言われ、引き止められた。ダイヤや奥方は単純に親切心からであるようだが、モンド氏は青年に何か深い悩みがあるのではと察しているらしかった。
「なるほど。では、セブンスくんはその緑色の宝石に、何か意味があるのではないかと思っているんだね」
「はい」
青年──セブンス・ユングは頷いた。
親身になってくれるモンド氏を、信頼しても良いと思い始め、もっと立ち入った内容まで話すようになったのだ。このところ、夢を追った先で、夢にかかわっていた人が「緑色の宝石」を持っていることが多々あること、その宝石の出どころが「玉虫色の瞳の男」に関係するらしいことなど、である。
「ふーむ。その、玉虫色の瞳の男について、心当たりはないんですね?」
「ありません。でも、向こうは俺のことを知っているようでした。一度だけ、遭遇したことがあります」
遭遇、というよりはかなり意図的なものだったろうと思っているが。
「ただ、俺は夢以外のことはすぐ忘れてしまいますから、もしかしたら昔、どこかで会っていたのかもしれませんが」
セブンスがそう言って俯く。モンド氏はなるほど、と頷いて、彼を安心させるような笑顔を浮かべた。
「私の方でも少し調べてみましょう。その男のことはともかく、宝石については専門家ですからね。その緑色の宝石がどういうものなのか、調べておきますよ」
「ありがとうございます」
セブンスは深々と頭を下げた。この話が一区切りついて、次に、そろそろ旅へ出るつもりだ、という話に入ると、モンド氏は寂しそうな顔をした。
「どうしても、気になる夢がひとつあるものですから」
セブンスは、真っ白な平原の夢の話をした。すると、モンド氏はその平原に心当たりがあると言う。
「大きな樹が一本だけ立っている平原でしょう? 冬には毎年雪で真っ白になるんですよ。ここからそう遠くはありませんよ。地図を書いてあげましょう」
そうして、渡された地図は、二枚。
「平原への行き方と……、この屋敷への帰り方です。書いておかないと忘れてしまうでしょう? ちゃんと、帰って来るんですよ」
にっこり笑うモンド氏に、セブンスは再び頭を下げた。
平原の白は、夢でみたよりも薄かった。夢にみた光景は、随分と雪の多い年のことだったらしい。
(つまり、あの光景は「今」ではなかったということか)
セブンスは注意深く地面を眺めながら歩き、夢でみた穴を探した。大きな穴ははたして、その大きさを不思議なほど感じさせない自然さで地面に溶け込んでいた。あやうく自分も転げ落ちそうになりながら、セブンスがその穴を覗き込むと。
「……ああ」
目の前に広がるモノに、セブンスは顔を手で覆った。
「……ああ。過去、だったんだ。あの夢は」
穴の中には、赤いコート。そして、白骨と化したひとつの、体。
リプレイ本文
雪原を、冷たい風が撫でるように吹いて行った。ハンターたちがそこへ到着したとき、青年──セブンス・ユング(kz0232)は真っ白な中にがくりを膝をついてうなだれていた。その尋常ならざる様子にハンターたちは目を見張り、顔を見合わせて駆け寄った。
「大丈夫です、か……」
セブンスの隣に膝をつき、肩に手を置いた巳蔓(ka7122)は、彼の視線の先のものを見て、絶句した。深い穴の中に、赤いコートに包まれた、白骨。虚構じみたしゃれこうべが、現実のものとして空虚な眼窩を見せている。
後ろから追いかけてきた他のハンターたちも、穴の中の光景を見てハッと息を飲む。
「痛ましいことです……」
ロキ(ka6872)が呟いた。人の盾となり敵の命を奪うハンターの身ではあるが、人知れず暗い穴の底で朽ちた姿を見て胸が痛まないはずはないのである。エーミ・エーテルクラフト(ka2225)も睫毛を伏せてそっとため息をつく。
「可哀想に……、見つけてあげられただけでも救いかしら」
「あなたたちは……?」
セブンスが昏い瞳を持ち上げて問う。モンド氏に雇われたハンターであることを皆で説明すると、少しホッとしたようだった。ルベーノ・バルバライン(ka6752)が、そんな彼の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「良くやったな、セブンス。お前の力のおかげで、この娘は家に帰ることができるかもしれんのだ。お前が見つけなければ、骨が砕けて砂になるまで、ずっとここで過ごさねばならなかったのだ。これで彼女を光指す地上へ連れ帰ってやれる。胸を張れ、そしてお前も彼女が家に帰るのを手伝ってやれ」
「……ええ」
セブンスはうっすらと涙を浮かべているように見えた。しかし、同じくらいうっすらと、安堵の微笑みを浮かべていた。
「できれば、俺のことは、セブ、と呼んでください。……本当は、ジョンとかタロウとかの方がいいくらいですが、そういうわけにもいかないでしょうから」
セブンスは気まずそうに目を逸らしてそう願い出た。どうやら、自分の名によくない思いがあるようだ。皆が了承して頷く。
「さて……、まずは引き上げて差し上げなければなりませんよね」
アユイ(ka7133)が穴の中を覗いて言うと、鳳凰院ひりょ(ka3744)がLEDライトで照らしながら頷いた。
「モンド氏から依頼を受けた時、救助者がどんな状況かわからないから、寝袋を持ってきたのだが……、役立てられそうだな」
ひりょが寝袋を取り出している間に、巳蔓のLRDライトのサポートを受けながらエーミが穴の周辺や中の様子を観察し、調べた。
「降りて問題なさそうだわ。崩れやすい土ではないみたい」
その言葉に頷き合って、ルベーノと巳蔓が穴の中へと入った。
「すまんなお嬢さん。武骨な男達ばかりで悪いが、少し我慢してくれ」
穴の中から、ルベーノのそんな声が聞こえてくる。エーミは穴の周囲の調査を続け、アユイとひりょは、セブンスに話を聞きにかかった。
「夢の謎を追いに来たのですよね? 僕達にもそれを解明するお手伝いをさせてください。……この方へのせめてもの手向けにも」
アユイは、セブンスを真っ直ぐに見つめた。アユイにとって、この依頼は初めての仕事である。いつの日か成人したら、兄達と同じ様に下界へ降りて己の力を世のために役立てるのだと当たり前のように思ってきた。
(今日が、その日だ)
静かな、しかし熱い決意を持ってアユイはセブンスに向き合う。そのただならぬ思いがセブンスにも伝わったのだろう。彼の顔は未だ蒼白だったが、しっかりと意志を持ったまなざしでアユイに頷き返した。
「容貌の特徴などはわかるだろうか。髪色とか……」
ひりょが具体的に質問をすると、セブンスはコートのポケットからノートを取り出して確認しながら答えた。
「視点が完全なる俯瞰だったから、顔立ちはよくわからない。髪は、こげ茶……、ビターチョコレートのような色だ。カバンなどは持っていなかったようだが、胸元に何か抱えているようには見えた……。寒いからそうして体を縮めていただけなのかもしれないが」
すらすらと話すセブンスに、ひりょとアユイは目を見張った。夢のことについては本当によく覚えており、また、分析力にも優れているようだ。ふたりの反応に気がついたセブンスが少し、苦笑する。
「こればかりをして、生きてきているから」
「おーい、ロープ引っ張ってくれー!」
穴の中から、ルベーノが呼ぶ。寝袋にくくりつけられたロープを、皆で協力して引き上げた。引き上げられた遺体は、ルベーノの配慮によって服と髪だけを見える位置に据えていた。髪は、ごく少量ではあったが、セブンスが言った通りのビターチョコレート色をしていた。
セブンスが、遺体の傍に跪き、頭を下げる。皆、それにならって頭を下げてから、遺体を引き上げたあとの穴の中や、赤いコートなどを調べにかかる。それと同時にルベーノは写真撮影を始めた。木の上などあらゆるところに式を放ち、調査を続けていたエーミは、表情をだんだんと厳しいものにしていた。
(この大きさの穴が、雪で覆われていた……? ええ、やはりそうよね、細工がされていたのだわ……)
そして。そのエーミの双眸は、巳蔓のこの発見によっていっそう鋭くなったのだった。
「コートのポケットから、これが……」
そう言って、取り出されたのは、緑色の宝石。
「!」
セブンスの顔が引きつる。エーミは、このタイミングで、自分の調査結果について報告をすることにした。
「ちょっと聞いて欲しいのだけれど……、この被害者は、たぶん、この穴にわざと落とされたのだと思うわ」
エーミは、穴の底を調査し、発見したものを皆に見せる。それは。
「布、ですか?」
ロキが問うのに頷いて、エーミは自身の推理を話し始めた。
「凍らせた布を差し渡せば、自重も軽いし、容易に踏み抜ける蓋ができるわ? 問題は、その蓋の上にどうやって真っ直ぐ歩かせたか、だけど……。やっぱり、宝石が怪しいかしらね? あなたに夢を見せる宝石だもの。これが、人に夢の暗示にかける触媒だとしても、私は驚かないわ」
巳蔓の掌の上の宝石に視線をやって、エーミが言うと、セブンスも宝石を凝視して強張った表情を見せた。
「……誰がこんなことをしたのか、それも考えなければならないが、優先すべきなのは、彼女の身元を確認することと、彼女をきちんと弔うことだ。……協力をお願いします」
胸中に渦巻く憤りを抑え込んで、セブンスはハンターたちに頭を下げた。ロキが微笑み返す。
「もとより、そのつもりです」
ルベーノもセブンスの肩をぽんぽん、と叩いて立ち上がった。撮影した写真を皆に配りながら、切り替えるためのセリフを口にする。
「さて、では動き出すとするか。迎えが来るまで彼女をこのまま、というわけにもいかんだろう。モンド氏に話して仮埋葬の手続きが出来るか交渉してこよう」
「では、その間に私たちは彼女の身元を調査しましょう」
巳蔓がルベーノに頷き返して、一同は次の行動に移った。
「穴の状態を調査したけど、あの穴が作られたのは少なくとも三年以上前だと思う。十年は経ってない、かな。身元調査の助けになるといいけど」
ひりょが現場の調査でわかったことを皆に共有し、ハンターたちは手分けをして雪原の周辺の調査へ向かった。
巳蔓が西の牧場へと向かい、残りの面々は村へと足を向けた。村へ近付きつつ、ひりょがそっと、半ば独り言のように呟く。
「亡くなった女性は何を想い何をしようとしていたのだろうな。……セブの事がなければこのままずっと見つけられる事のないままだったかもしれない……それは凄く寂しくて悲しい事だ」
心が締め付けられるような気持ちでいるひりょに、セブンスも痛そうな表情で応えた。
「俺は、事実を夢にみる。でも、出てくる人の思いまではみることができない。だけど、こうやって思いやってくれる人もいるのだということは、死んだ人にも、俺にも、救いだと、思う……。すみません、上手く言えない」
恥じたように目を伏せるセブンスに、ひりょは、いや、と少し笑って首を横に振った。
村に入ってから、ハンターたちはさらに手分けをして調査にあたることにした。アユイは村役場を中心に、エーミは宿屋を、ロキは衣料品を扱う店を、ひりょとセブンスはその他の、皆が調査に向かわないような場所をまわることにした。集めた情報はのちほど共有することにして、賑わう村の中へ散っていく。
同じころ。ひとり牧場へ向かった巳蔓は、管理人の男性に事情を話し、まずは写真を見せた。しかし、赤いコートの女性には見覚えがないという。
「三年前、っていわれても、ということはあるが……、このあたりは滅多に人が通らないから、そんな派手なコートを着ている人を見かけたら、覚えていたと思うよ」
「そうですか……。では、平原にある穴についてはどうでしょう。何か、ご存じありませんか。ここ数年間に、何か事件は」
「事件、なんてものはなかったねえ。平原の穴も、ねえ……。そんなものあったのかなあ。あまりあの平原には行かないから……。あ、でも、そういえば」
管理人の男性は何かを思い出したようにハッとした。
「何年か前に、ここにスコップを借りに来たやつがいたなあ。ちょっと変わった目の色だったから、なんとなく覚えてたんだ」
「スコップ、ですか!?」
巳蔓は身を乗り出した。それは、穴を掘るのに使ったのではあるまいか、と思ったのである。
「うん、タイムカプセルを掘り起こすからとかなんとか言ってたけど、なんかおかしかったなあ、あいつ。ひとりで借りに来たのに、三本も借りてったし」
「有力な情報、ありがとうございます!」
巳蔓は急いで、魔導スマートフォンで連絡を取った。返ってきた声は、ルベーノのものだった。
『了解だ。俺は今、仮埋葬の手続きを終えて村に来たところだ。こっちで調査してるやつらも、何か手がかりを得たみたいだし、一度集まって情報交換といこう』
ハンターたちは、エーミが腰を落ち着けているという宿の食堂へ集まることとなった。滞在客や食堂のスタッフとすっかり打ち解けたらしいエーミは、出される料理に舌鼓を打ちながら歓談している。
「このレシピ、あとで教えてもらえないかしら?」
「いいとも!」
「ありがとう。あ、仲間が来たわ。こっち、こっち!」
全員がテーブルにつくと、まず巳蔓が牧場で聞き入れてきたことを話した。「変わった色の瞳の男」という言葉に、セブンスの目が鋭くなる。
「その男の話、私も聞いたわ、ここで。でもちょっと最後にさせて欲しいわ。他の方からどうぞ」
「では、役所で調べてきた話を……」
アユイが小さく挙手をした。
「その女性は、この村の住民ではないそうです。戸籍に、それらしき人物はいないそうです。ですので、おそらく旅人なのでしょう。天候については、ここ数年、雪は毎年降っているそうですが、特に深かったのは三年前だと言っていました」
「穴の掘られた時期に一致するね」
ひりょが頷きながら呟く。ロキがその隣で言葉を継いだ。
「赤いコートが売られていた時期にも一致します。衣料品店によると、その赤いコートは三年前に一着だけ売られていたそうで、若い女性が買って行ったのを、店の女将さんが覚えていました。その女性は……、こんな綺麗なコートを着れば、きっと幸せに死ねる、と言っていたらしく、びっくりしてしまって、よく覚えていたと……言っていました」
「何……?」
ルベーノが眉根を寄せる。誰もが、絶句した。エーミだけが冷静に頷き、最後にしておきたいと言った話を口にする。
「その子、自殺するつもりだったらしいわよ。あまりにうきうきした様子だったから、冗談だろう、って思っちゃったらしいんだけど。この宿屋のまさにこの食堂で、変わった色……玉虫色の瞳の男から宝石を受け取っていたらしいわ。これを持って雪原に行けば、幸せに死ねる、とか言われてた、って……」
エーミが、そう言い終わったとき。ばきり、と音がした。セブンスが、持っていた鉛筆をへし折った音だった。
「彼女の荷物が少ないのが気になってはいたんだ。探されなくても年単位で不審がられない状況は限られるからな。旅人で、しかも自殺……、納得できると言ってはいかんのかもしれんが」
ルベーノが渋面を作った。なんとも、やりきれない結末だ。
「三年前のことなのに、これだけ情報を得られたのは幸いと言うべきだけど……、ね」
そう言うエーミの表情も明るくはない。
村には、人の出入りが多い。つまり、顔を合わせるのはその場限りで、二度と会うことのない人物がたくさんいる、ということだ。その一瞬一瞬で気にはなっても、そのあと気にかけることはない。気にかけていては生活にならない。誰も、何も、責められない。
「……その人が死にたがっていたなら仕方がないとは、俺には思えない。幸せに死ねる、と宝石を差し出し、雪原に這い上がれない深さの穴を掘ったその男を、許せないと思ってしまう俺は、間違っているでしょうか」
雪原に戻ってきたハンターたちに、セブンスが問いかけた。それに対する明確な答えを、誰も持っていない。セブンスも、答えが欲しいと思っているわけではない。
「……今は、この人を弔ってあげよう」
ひりょに促されて、セブンスは頷く。遺体は、平原の、大木の根元に埋めることにした。
「……僕の一族では、人が死して肉体を失い、天に昇った魂の輝きが星であると伝えられています。彼女の最期に立合う事は誰にもできなかったけれど……、彼女が今は、数多の輝きと共に在る事を願いましょう」
アユイの静かな言葉に、全員で、祈りを捧げる。ロキはいつまでも目を閉じて深く祈りを捧げ、ルベーノはそっと、花を供えていた。
「セブ……さん、一つ訊きたい事が。貴方はその夢見の力を……呪った事は、ないのでしょうか? 出会って日の浅い僕がそれを訊くのも不躾かと思いますが……」
アユイが、遠慮がちに問う。消沈している彼に訊くべきことではなかったかもしれないが、それでも、問わずにはいられなかった。
「あるよ」
セブンスは、はっきり言った。
「今でも、ときどき呪わしく思うよ。でも、消せるわけじゃないから。向き合っていかなくてはいけないと思うよ」
セブンスは、足元の白い雪を見つめて言った。そして、空を見上げた。強い光を抱いた双眸だった。
「気を落とすなよ、セブ」
ルベーノが、励ますと、思いのほかしっかりと、セブンスは頷いた。
「あなた方のように強くなるよ。俺は……、その玉虫色の瞳の男を、探し出して見せる」
夢のこと以外はすぐ忘れてしまう青年、セブンス・ユングは、今日、決して忘れることのない決意を得た。
「大丈夫です、か……」
セブンスの隣に膝をつき、肩に手を置いた巳蔓(ka7122)は、彼の視線の先のものを見て、絶句した。深い穴の中に、赤いコートに包まれた、白骨。虚構じみたしゃれこうべが、現実のものとして空虚な眼窩を見せている。
後ろから追いかけてきた他のハンターたちも、穴の中の光景を見てハッと息を飲む。
「痛ましいことです……」
ロキ(ka6872)が呟いた。人の盾となり敵の命を奪うハンターの身ではあるが、人知れず暗い穴の底で朽ちた姿を見て胸が痛まないはずはないのである。エーミ・エーテルクラフト(ka2225)も睫毛を伏せてそっとため息をつく。
「可哀想に……、見つけてあげられただけでも救いかしら」
「あなたたちは……?」
セブンスが昏い瞳を持ち上げて問う。モンド氏に雇われたハンターであることを皆で説明すると、少しホッとしたようだった。ルベーノ・バルバライン(ka6752)が、そんな彼の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「良くやったな、セブンス。お前の力のおかげで、この娘は家に帰ることができるかもしれんのだ。お前が見つけなければ、骨が砕けて砂になるまで、ずっとここで過ごさねばならなかったのだ。これで彼女を光指す地上へ連れ帰ってやれる。胸を張れ、そしてお前も彼女が家に帰るのを手伝ってやれ」
「……ええ」
セブンスはうっすらと涙を浮かべているように見えた。しかし、同じくらいうっすらと、安堵の微笑みを浮かべていた。
「できれば、俺のことは、セブ、と呼んでください。……本当は、ジョンとかタロウとかの方がいいくらいですが、そういうわけにもいかないでしょうから」
セブンスは気まずそうに目を逸らしてそう願い出た。どうやら、自分の名によくない思いがあるようだ。皆が了承して頷く。
「さて……、まずは引き上げて差し上げなければなりませんよね」
アユイ(ka7133)が穴の中を覗いて言うと、鳳凰院ひりょ(ka3744)がLEDライトで照らしながら頷いた。
「モンド氏から依頼を受けた時、救助者がどんな状況かわからないから、寝袋を持ってきたのだが……、役立てられそうだな」
ひりょが寝袋を取り出している間に、巳蔓のLRDライトのサポートを受けながらエーミが穴の周辺や中の様子を観察し、調べた。
「降りて問題なさそうだわ。崩れやすい土ではないみたい」
その言葉に頷き合って、ルベーノと巳蔓が穴の中へと入った。
「すまんなお嬢さん。武骨な男達ばかりで悪いが、少し我慢してくれ」
穴の中から、ルベーノのそんな声が聞こえてくる。エーミは穴の周囲の調査を続け、アユイとひりょは、セブンスに話を聞きにかかった。
「夢の謎を追いに来たのですよね? 僕達にもそれを解明するお手伝いをさせてください。……この方へのせめてもの手向けにも」
アユイは、セブンスを真っ直ぐに見つめた。アユイにとって、この依頼は初めての仕事である。いつの日か成人したら、兄達と同じ様に下界へ降りて己の力を世のために役立てるのだと当たり前のように思ってきた。
(今日が、その日だ)
静かな、しかし熱い決意を持ってアユイはセブンスに向き合う。そのただならぬ思いがセブンスにも伝わったのだろう。彼の顔は未だ蒼白だったが、しっかりと意志を持ったまなざしでアユイに頷き返した。
「容貌の特徴などはわかるだろうか。髪色とか……」
ひりょが具体的に質問をすると、セブンスはコートのポケットからノートを取り出して確認しながら答えた。
「視点が完全なる俯瞰だったから、顔立ちはよくわからない。髪は、こげ茶……、ビターチョコレートのような色だ。カバンなどは持っていなかったようだが、胸元に何か抱えているようには見えた……。寒いからそうして体を縮めていただけなのかもしれないが」
すらすらと話すセブンスに、ひりょとアユイは目を見張った。夢のことについては本当によく覚えており、また、分析力にも優れているようだ。ふたりの反応に気がついたセブンスが少し、苦笑する。
「こればかりをして、生きてきているから」
「おーい、ロープ引っ張ってくれー!」
穴の中から、ルベーノが呼ぶ。寝袋にくくりつけられたロープを、皆で協力して引き上げた。引き上げられた遺体は、ルベーノの配慮によって服と髪だけを見える位置に据えていた。髪は、ごく少量ではあったが、セブンスが言った通りのビターチョコレート色をしていた。
セブンスが、遺体の傍に跪き、頭を下げる。皆、それにならって頭を下げてから、遺体を引き上げたあとの穴の中や、赤いコートなどを調べにかかる。それと同時にルベーノは写真撮影を始めた。木の上などあらゆるところに式を放ち、調査を続けていたエーミは、表情をだんだんと厳しいものにしていた。
(この大きさの穴が、雪で覆われていた……? ええ、やはりそうよね、細工がされていたのだわ……)
そして。そのエーミの双眸は、巳蔓のこの発見によっていっそう鋭くなったのだった。
「コートのポケットから、これが……」
そう言って、取り出されたのは、緑色の宝石。
「!」
セブンスの顔が引きつる。エーミは、このタイミングで、自分の調査結果について報告をすることにした。
「ちょっと聞いて欲しいのだけれど……、この被害者は、たぶん、この穴にわざと落とされたのだと思うわ」
エーミは、穴の底を調査し、発見したものを皆に見せる。それは。
「布、ですか?」
ロキが問うのに頷いて、エーミは自身の推理を話し始めた。
「凍らせた布を差し渡せば、自重も軽いし、容易に踏み抜ける蓋ができるわ? 問題は、その蓋の上にどうやって真っ直ぐ歩かせたか、だけど……。やっぱり、宝石が怪しいかしらね? あなたに夢を見せる宝石だもの。これが、人に夢の暗示にかける触媒だとしても、私は驚かないわ」
巳蔓の掌の上の宝石に視線をやって、エーミが言うと、セブンスも宝石を凝視して強張った表情を見せた。
「……誰がこんなことをしたのか、それも考えなければならないが、優先すべきなのは、彼女の身元を確認することと、彼女をきちんと弔うことだ。……協力をお願いします」
胸中に渦巻く憤りを抑え込んで、セブンスはハンターたちに頭を下げた。ロキが微笑み返す。
「もとより、そのつもりです」
ルベーノもセブンスの肩をぽんぽん、と叩いて立ち上がった。撮影した写真を皆に配りながら、切り替えるためのセリフを口にする。
「さて、では動き出すとするか。迎えが来るまで彼女をこのまま、というわけにもいかんだろう。モンド氏に話して仮埋葬の手続きが出来るか交渉してこよう」
「では、その間に私たちは彼女の身元を調査しましょう」
巳蔓がルベーノに頷き返して、一同は次の行動に移った。
「穴の状態を調査したけど、あの穴が作られたのは少なくとも三年以上前だと思う。十年は経ってない、かな。身元調査の助けになるといいけど」
ひりょが現場の調査でわかったことを皆に共有し、ハンターたちは手分けをして雪原の周辺の調査へ向かった。
巳蔓が西の牧場へと向かい、残りの面々は村へと足を向けた。村へ近付きつつ、ひりょがそっと、半ば独り言のように呟く。
「亡くなった女性は何を想い何をしようとしていたのだろうな。……セブの事がなければこのままずっと見つけられる事のないままだったかもしれない……それは凄く寂しくて悲しい事だ」
心が締め付けられるような気持ちでいるひりょに、セブンスも痛そうな表情で応えた。
「俺は、事実を夢にみる。でも、出てくる人の思いまではみることができない。だけど、こうやって思いやってくれる人もいるのだということは、死んだ人にも、俺にも、救いだと、思う……。すみません、上手く言えない」
恥じたように目を伏せるセブンスに、ひりょは、いや、と少し笑って首を横に振った。
村に入ってから、ハンターたちはさらに手分けをして調査にあたることにした。アユイは村役場を中心に、エーミは宿屋を、ロキは衣料品を扱う店を、ひりょとセブンスはその他の、皆が調査に向かわないような場所をまわることにした。集めた情報はのちほど共有することにして、賑わう村の中へ散っていく。
同じころ。ひとり牧場へ向かった巳蔓は、管理人の男性に事情を話し、まずは写真を見せた。しかし、赤いコートの女性には見覚えがないという。
「三年前、っていわれても、ということはあるが……、このあたりは滅多に人が通らないから、そんな派手なコートを着ている人を見かけたら、覚えていたと思うよ」
「そうですか……。では、平原にある穴についてはどうでしょう。何か、ご存じありませんか。ここ数年間に、何か事件は」
「事件、なんてものはなかったねえ。平原の穴も、ねえ……。そんなものあったのかなあ。あまりあの平原には行かないから……。あ、でも、そういえば」
管理人の男性は何かを思い出したようにハッとした。
「何年か前に、ここにスコップを借りに来たやつがいたなあ。ちょっと変わった目の色だったから、なんとなく覚えてたんだ」
「スコップ、ですか!?」
巳蔓は身を乗り出した。それは、穴を掘るのに使ったのではあるまいか、と思ったのである。
「うん、タイムカプセルを掘り起こすからとかなんとか言ってたけど、なんかおかしかったなあ、あいつ。ひとりで借りに来たのに、三本も借りてったし」
「有力な情報、ありがとうございます!」
巳蔓は急いで、魔導スマートフォンで連絡を取った。返ってきた声は、ルベーノのものだった。
『了解だ。俺は今、仮埋葬の手続きを終えて村に来たところだ。こっちで調査してるやつらも、何か手がかりを得たみたいだし、一度集まって情報交換といこう』
ハンターたちは、エーミが腰を落ち着けているという宿の食堂へ集まることとなった。滞在客や食堂のスタッフとすっかり打ち解けたらしいエーミは、出される料理に舌鼓を打ちながら歓談している。
「このレシピ、あとで教えてもらえないかしら?」
「いいとも!」
「ありがとう。あ、仲間が来たわ。こっち、こっち!」
全員がテーブルにつくと、まず巳蔓が牧場で聞き入れてきたことを話した。「変わった色の瞳の男」という言葉に、セブンスの目が鋭くなる。
「その男の話、私も聞いたわ、ここで。でもちょっと最後にさせて欲しいわ。他の方からどうぞ」
「では、役所で調べてきた話を……」
アユイが小さく挙手をした。
「その女性は、この村の住民ではないそうです。戸籍に、それらしき人物はいないそうです。ですので、おそらく旅人なのでしょう。天候については、ここ数年、雪は毎年降っているそうですが、特に深かったのは三年前だと言っていました」
「穴の掘られた時期に一致するね」
ひりょが頷きながら呟く。ロキがその隣で言葉を継いだ。
「赤いコートが売られていた時期にも一致します。衣料品店によると、その赤いコートは三年前に一着だけ売られていたそうで、若い女性が買って行ったのを、店の女将さんが覚えていました。その女性は……、こんな綺麗なコートを着れば、きっと幸せに死ねる、と言っていたらしく、びっくりしてしまって、よく覚えていたと……言っていました」
「何……?」
ルベーノが眉根を寄せる。誰もが、絶句した。エーミだけが冷静に頷き、最後にしておきたいと言った話を口にする。
「その子、自殺するつもりだったらしいわよ。あまりにうきうきした様子だったから、冗談だろう、って思っちゃったらしいんだけど。この宿屋のまさにこの食堂で、変わった色……玉虫色の瞳の男から宝石を受け取っていたらしいわ。これを持って雪原に行けば、幸せに死ねる、とか言われてた、って……」
エーミが、そう言い終わったとき。ばきり、と音がした。セブンスが、持っていた鉛筆をへし折った音だった。
「彼女の荷物が少ないのが気になってはいたんだ。探されなくても年単位で不審がられない状況は限られるからな。旅人で、しかも自殺……、納得できると言ってはいかんのかもしれんが」
ルベーノが渋面を作った。なんとも、やりきれない結末だ。
「三年前のことなのに、これだけ情報を得られたのは幸いと言うべきだけど……、ね」
そう言うエーミの表情も明るくはない。
村には、人の出入りが多い。つまり、顔を合わせるのはその場限りで、二度と会うことのない人物がたくさんいる、ということだ。その一瞬一瞬で気にはなっても、そのあと気にかけることはない。気にかけていては生活にならない。誰も、何も、責められない。
「……その人が死にたがっていたなら仕方がないとは、俺には思えない。幸せに死ねる、と宝石を差し出し、雪原に這い上がれない深さの穴を掘ったその男を、許せないと思ってしまう俺は、間違っているでしょうか」
雪原に戻ってきたハンターたちに、セブンスが問いかけた。それに対する明確な答えを、誰も持っていない。セブンスも、答えが欲しいと思っているわけではない。
「……今は、この人を弔ってあげよう」
ひりょに促されて、セブンスは頷く。遺体は、平原の、大木の根元に埋めることにした。
「……僕の一族では、人が死して肉体を失い、天に昇った魂の輝きが星であると伝えられています。彼女の最期に立合う事は誰にもできなかったけれど……、彼女が今は、数多の輝きと共に在る事を願いましょう」
アユイの静かな言葉に、全員で、祈りを捧げる。ロキはいつまでも目を閉じて深く祈りを捧げ、ルベーノはそっと、花を供えていた。
「セブ……さん、一つ訊きたい事が。貴方はその夢見の力を……呪った事は、ないのでしょうか? 出会って日の浅い僕がそれを訊くのも不躾かと思いますが……」
アユイが、遠慮がちに問う。消沈している彼に訊くべきことではなかったかもしれないが、それでも、問わずにはいられなかった。
「あるよ」
セブンスは、はっきり言った。
「今でも、ときどき呪わしく思うよ。でも、消せるわけじゃないから。向き合っていかなくてはいけないと思うよ」
セブンスは、足元の白い雪を見つめて言った。そして、空を見上げた。強い光を抱いた双眸だった。
「気を落とすなよ、セブ」
ルベーノが、励ますと、思いのほかしっかりと、セブンスは頷いた。
「あなた方のように強くなるよ。俺は……、その玉虫色の瞳の男を、探し出して見せる」
夢のこと以外はすぐ忘れてしまう青年、セブンス・ユングは、今日、決して忘れることのない決意を得た。
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身元調査相談卓 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/02/09 10:23:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/06 07:15:59 |