雪蜥蜴印の迷子CAM

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/14 15:00
完成日
2018/02/18 17:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 その日、サルバトーレ・ロッソへ龍園からの連絡が届いた。
「CAMが迷い込んだ?」
 上級士官が困惑している。
 友好的かつ有力な勢力に応対するため駆り出されたのだが、渡された情報が予想外過ぎた。
「はい、ええ、確かにその機体は連合宙軍のものです」
 龍園の南西数十キロ地点で、龍園所属のドラグーンによりCAM複数体が目撃された。
 事前通告は無かったため警戒しつつ警告をしたところ、軽く頭を下げる以外の反応は無くそのまま立ち去られたという。
「直ちに調査を行い結果が判明次第龍園と情報を共有します。はい、情報提供に感謝します」
 通信機相手にきっかり30度頭を下げる様は、軍人というより敏腕の営業風だった。
「……どういうことだ」
 通信が切れる。
 人の良さそうな仮面を外し、出世競争に貪欲な酷薄顔に戻る。
 目撃されたのは初期型に近いデュミナスだ。
 ハンターズソサエティーや各国に提供しているのは魔導化改修済かさらなる改造を加えた機体ばかり。
 連合宙軍内で探せば初期型もいくつか出てくるだろうが、運用に必要な手間とマテリアルを考えると初期型を使う意味は無い。
「流出と違法改造の可能性は。物証がなくても構わん」
 諜報と防諜を担当する部下に問う。
「0に近いです。クリムゾンウェストは千年以上歪虚と戦っている世界ですからね。対VOID装備を無意味に私物化したら後ろ弾が飛んできますよ」
 例えばグラズヘイム王国なら、普段は外科治療を始めとするサービスを提供してくれる聖堂教会が全力で村八分をする。場合によっては闇討ちだ。
「0に近くても構わん」
「でしたら、俗に言うCAM奪還ゲームで紛失した機体くらいですね」
 上級士官が毒汁を煽ったような表情になる。
 リアルブルーと連絡がとれず、CAM稼働のためのマテリアルも少ない状況で、歪虚に貴重な戦力を奪われた悪夢の記憶が蘇る。
「歪虚に整備の能力はないはずだ」
「歪虚化された機体も報告されています。まあ、これまで確認された歪虚化CAMはハンターが破壊しているはずですが」
 上級士官のまぶたが不自然に動く。
「歪虚に……歪虚がCAMを新造したと言うのか」
 漏れた言葉は、悲鳴に近かった。

●黒蜥蜴の敗北
 精霊は尊く、そして儚い。
 歪虚と直接対抗するのは難しく、人類を呼び込み加護を与えて力を借りてようやく拮抗というのが現状だ。
 しかし常に儚く弱いわけでは断じてない。
『出遅れたか』
 王国僻地から北東に向け加速する影が1つある。
 災厄の十三魔。
 飛天真如ガルドブルム。
 己の欲に忠実な、絵に描いたような悪いドラゴンだ。
『活きのいィのが集まってやがる』
 古傷がご機嫌に疼く。
 全力を出してようやく活路を見出せるような、人間にとっての救世勇者たちとの戦いが待っているはずだった。
『あン?』
 鼻がむずむずする。
 視界に白が増えている。
 吹雪が、竜を待ち構えていた。
 黒い翼の上下速度が上がる。
 雪が濃くなり風の圧力が増す。
 上下速度がさらに上昇。
 吹雪に正マテリアルの気配が増し、黒竜の進路がゆっくりとずれる。
 ブレスの高速充填。
 しかし雪が視界を狭めてどこを焼けば良いのか分からなくする。
『やられたか』
 楽しげに笑い、極寒の烈風により吹き飛ばされた。
 それから12時間後。
 雪の中でガルドブルムが欠伸をした。
 よく寝た。力がみなぎっている。
 精霊の気配が薄れている。まず間違いなく力の使いすぎだ。
 食べ盛りの竜なら精霊を探して食いに行くのだろうが、ガルドブルムは案外どこにでもいる精霊より滅多にいないハンターと戦いたい。
『……重い』
 深く雪に埋まっている。
 ブレスを頑張ればまとめて吹き飛ばせる。
 しかし無駄に力を使えばハンターとの戦いを全力で楽しめない。
『奴らにやらせるか』
 鱗の隙間から装甲の欠片を取り出す。
 竜爪で肌を裂いて血を確保。
 装甲にたっぷり塗りつけてから爪で真上へ弾く。
 黒竜が再び眠りについた後、さらに細かく砕けた装甲が周囲の雪を取り込み始めた。

●雪製デュミナス
 スコップで穴を掘る。
 CAM用シールドを板として使って雪を他へ移動させる。
 唯一強い気配を放つ30ミリアサルトライフルは、一度も火を噴くこと無く腰に収まっている。
「あれは確か……。昨日の吹雪で遭難したのか?」
「元気そうに見えます」
「ああ、しかし不用意な。あんな目立つ行動をしていると歪虚を引き寄せるぞ」
「我々も斥候の帰りで余裕がないです。合図を一度送ってから戻りましょう」
 ドラグーンが龍園に向かい去った後、雪で出来たCAMであり歪虚ではある彼等は、雪の取り扱いを間違え雪崩に巻き込まれていた。

●依頼
 龍園の南西数十キロ地点に向かい、現地で活動中のCAMとその乗り手を調査して欲しい。
 乗り手を助ける義務はない。 現地は軽度の歪虚汚染が存在するので注意されたし。
 追記。人が乗っているならおそらく真っ当な人間ではないので気を付けて。地元民によるとそろそろ吹雪くそうです。職員より

リプレイ本文

●雪デュミナスペアとの邂逅
 全身を使ってスコップを振るう。
 大きな雪の固まりが崩れ、小さな白が装甲に触れる。
 雪製CAMはさらに力を込めて、雪の塊を6、7メートル向こうまで投げ飛ばした。
「怪しいを通り越して明らかに敵じゃろあれ」
 淡い皺が浮かびそうになった眉間を自分の指でほぐす。
「こんな時期に所属不明のしかも初期型デュミナスじゃぞ。弛みすぎじゃ」
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)の血圧が上がるが機体を操る手は冷静だ。
 雪上用ギリースーツとかんじきで身を固めた重装CAMを、油断無く目立たぬ動きで前進させる。
 スコップが途惑うように動きを鈍らせる。
 ミグは敢えて前進を続けることでそれ以上の違和感を相手に感じさせない。
 凝った関節をほぐすように白いデュミナスが腕を上下させ、緊張感のない動きでカメラについて雪を取り始めた。
「おそらくは歪虚に汚染されたCAMだと思うが」
 アバルト・ジンツァー(ka0895)は断言しない。
 魔導型デュミナスの肩部に装備したプラズマキャノンの位置を調節し、いつでも当てられる体勢を整えた上で言葉を続ける。
「だとすれば、一刻も早く消し去らなければならないな。RBの武器でこれ以上の災厄をこの世界に撒き散らす訳にもいかない。自分も尽力させて貰おう」
 それきり口を閉じる。
 発言を促されたような気がして、星野 ハナ(ka5852)はエクスシアの中で軽く肩をすくめた。
「んじゃ始めちゃいますねー」
 雪製CAMの動きはCAM黎明期の新兵程度。
 装備はスコップとシールドしかなく、仮に歪虚でも食い応えはない。
「そこのデュミナスさん歪虚ですか? 否定しないんですね? ならこれをどうぞ」
 雪CAMが現状に気づく前にロングレンジライフルの引き金を引く。
 大気が揺れ、細かな雪が舞い、シールドをハナに向けてもいない雪CAMの胸部が大きく凹む。
 鮮烈な光が2束伸びる。
 手前の雪CAMの腰と、奥の雪CAMの左肩が焼け一部が溶け落ちる。
 負の気配を明確に発し始めたデュミナス型歪虚は、CAMらしいしぶとさで倒れもせず戦意を露わにする。
「歪虚と確定した。軽度の通信障害を確認。ハンドサインでの伝達を完了」
 初期型から実質1世代以上進化したデュミナスが、滑らかな合図を2方向に向け送る。
 再度の銃撃。
 身軽に跳ぶ雪CAMの足下数十センチにプラズマキャノンによる穴が開く。
「4割といったところか」
 敵の回避能力を一目で見抜く。
 機体の機能では無くアバルトの技術で以て再装填を高速完了。
 武器と機体に壊れる数歩手前の負荷を強いた上で連続で引き金を引いた。
 2体の歪虚が同時に揺れる。
 小さく砕けた装甲が落ちていき、被弾箇所から無機物とも有機物ともつかない白いものが覗く。
「いい腕だ。なに、武器の選択も腕のうちよ」
 アバルト機のFCSと演算能力ではなく、それらを有効に扱うアバルトの技術を評価するミグ。
 なお、アバルトは口にしなくても察するミグの年の功を評価している。そして、それを迂闊に口にしないため口を閉じる賢さがあった。
「これを躱すか」
 一方的な攻撃を行うミグだが敵も回避するので命中率は6割程度。
 雪製CAMは1機も倒れてはいないがかなり削られている。
 彼等が逃げるなら今しかない。
「そうだ。勝つつもりなら攻めるしかないよなぁ」
 雪CAMの背中が不気味に光る。
 非常に雑な造りの小型ブースターが火を噴き、ミグ達に向け驚くほどの速度で跳ぶのではなく飛ぶ。
「見え見え過ぎて欠伸が出るわ」
 人型ユニット基準でも大きなバズーカ砲を抱き上げるように構え、スコップを刀の如く構え突進してくる雪CAMに向ける。
 発砲。
 手前の雪CAM胸部へ直撃。
 頑丈に作られた操縦席部分を押しつぶしながら背後に抜ける。
「無人か」
 コクピット圧壊の瞬間、座席に誰もいないのがちらりと見えた。
 無人で動けるのなら操縦席は意味の無い空間だ。
 歪虚がCAMを有効活用できていないことに微かな安堵を覚えながら、ミグはもう1機の動きを数値として表現して同行機に送り付ける。
 アバルトは接近する雪CAMに30ミリ弾を浴びせる。
 プラズマキャノンによる攻撃と比べると弱いが普段よりよく効いている。
「大したものだ」
 ミグの操るハリケーン・バウ・USCは指揮官型だ。しかも装甲は分厚く必要十分な移動力もある。
 少数なら生産されていてもおかしくない機体なのだが、人類にはそこまで余裕が無い。
「しかし、な」
 雪CAMは弱い。
 だが歪虚が新規にCAMを作り出すのは、かなり深刻な状況かもしれない。
 ふと気づく。
 繋がっている回線から凄まじく陽気な気配が伝わってくる。
「あらあら、これはこれは」
 エクスシアがふわりと高度を上げライフルを下に向ける。
 雪CAMは逃げる場所もなく一方的に打たれ、再度飛翔を行おうとしてもマテリアルが残っていない。
 可憐に、そして華やかに笑うハナの目が輝きを増す。
 南西方向数キロから北数百メートルにかけ、雪がうっすら跡が残っているのを目で確かめる。
 おそらく小さな、同時に桁外れの力を持つ何かが不時着したのだ。
 その技と力を正確に推測して、笑いから微笑みに変えたハナが一言つぶやく。
「楽しみですね」
 分厚い雪の下で、黒い竜が寝返りを打った。

●雪中防衛戦
 30ミリ弾。
 ハンターは普通に躱すし防ぐので忘れられがちだが、装甲車両や戦闘機を打ち落とせるほとんど砲弾である。
 それが一度に10以上飛んでくる雪原を、黒く艷やかな毛並みのイェジドが足取りも軽く駆けていた。
「前も思ったけど、このテのCAMって機体自体が寄生されてるのだろうか……?」
 鞍上、真剣な顔で黒の夢(ka0187)が考え込んでいる。
 危機感はないが不注意もない。
 イェジド【スカー】の動きにあわせて体重を移動し、スカーの速度と動きの切れを決して邪魔しない。
 大量の雪と極少量の血で構成されたCAMが、一瞬にも満たない間逡巡する。
 1体が30ミリアサルトライフルを捨て、我が身を捨て石にするつもりでスコップ片手に突撃してきた。
「ちょっと届かないのな」
 広範囲術で複数攻撃することは諦め火球を投擲。
 一見何の変哲もない火球が雪CAMの頭上3メートルで弾け、初期型程度の能力はあるはずの機体1つを文字通り一瞬で蒸発させた。
「ダーリン!」
 黒の夢が破顔する。
 焼けた空気に混じる血の臭いは、長い間追い求めた男のものだ。
 一度気づけば後は早い。
 戦場の西、ハンターに気づかず穴を掘る雪CAMの下に、巨大な負の気配があるのを感じ取る。
 浮かれていてもまずは仕事をしようと次の術を編み始める。
 雪CAM3機の足が止まる。
 先程以上の攻撃が3機全てに降り注ぐ。そう確信して我が身を焼く勢いでブースターに火を付けた。
「むー」
 黒の夢が術を途中で止める。
 雪CAMが左右に飛んでいく。
 追って仕留めるのには時間がかかりそうだ。
「待ち合わせているのだろう? 後は私達に任せて急ぎたまえ」
 異様に押し出しが強いのに傲慢さは薄い、要するにひたすら存在感がある声が黒の夢の背を押した。
 凄い勢いで西へ向かい、それを見た雪CAM3機がこれ以上に我が身を燃やして逃げずに済むと安堵する。
「安心しているようだね?」
 白銀装甲の機体が見得を切る。
 背後に無数の赤薔薇が見えたのは幻だったのだろうか。
「なにものかは知らないが、CAMを用いて我らと相対など愚の骨頂と言わせてもらおうか」
 回避行動を行いつつ火縄銃モチーフの波動銃に充填開始。
 眩い光が2度ひらめき、1機の雪CAM左半身から黒煙があがる。
「2発中1発命中。ふむ、盾無しならせめて8割躱さねばCAM戦で前衛はつとまらぬよ」
 30ミリ弾が複数方向から飛来。
 何の遮蔽物もないのに久我・御言(ka4137)は呼吸を読み切り銃弾と銃弾の間の安全地帯を歩く。
「あの穴には一体何ブルムが埋まっているんでしょう? 寒い時期ですし、冬眠でしょうか」
 呆れ半分、闘志半分でつぶやきヴァルナ=エリゴス(ka2651)が操縦桿を倒した。
 アサルトライフルにスコップという、ハンター機と比べると控えめな装備しか持たない雪CAMが今度はヴァルナのR7を狙う。
 ヴァルナの対処は単純だった。
 前進しながらポレモスSGSを剣型に変形させ、その刃部分ではたき落とす。
 30ミリの弾丸が雪の上にころりと落ちて、何も壊せず汚せず雪の中に消える。
「所属不明のCAMが複数、不自然な場所で奇妙な行動を取っている。いつぞや何処かで覚えがある状況ですね」
 目の前の雪製歪虚に注意を向けながら戦場全体も意識している。
 ヴァルナにとり、この程度は出来て当然の行動だ。
 が、雪CAMには難易度が高すぎた。
「知性がある型の歪虚かね。私の名前は久我・御言。諸君、よろしくしてくれたまえ」
 ヴァルナに気を取られて無防備な雪CAMの背を打つ。
 見た目より硬い。
 黒の夢の術を比べると、黒の夢の魔力を考慮に入れても頑丈すぎる。
「火に弱いのかね。随分単純……いやあの竜らしいというべきか」
 雪CAMが怒りと共に振り返る。
 不意打ちに近い形で30ミリ弾が迫るが、魔導型デュミナス【月光】は準備していた防御用武器を使うこともなく横移動だけで回避する。
 雪CAMからブースターの火が横に伸びた。
 月光が追いつけない角度と距離から銃口を向ける。30ミリ弾が奇跡的なタイミングで久我機の脇腹に迫る。
 が、不自然に動いたポレモスSGSにより実にあっさり防がれた。
「この程度ならね」
 波動銃を構え直す。
 焦った雪CAMはブースターを連続して使おうとした。
 乗用車ほどに加速したところで己の負マテリアルを消費し尽くし、パーツ間の接着力を無くして地面にばらばらにこぼれ落ちる。
「そういうことですか」
 ヴァルナが敵の能力を見切る。
 フライトシステムを動作させ、わざと回避能力も受け能力も落ちた状態で雪CAMの射程内に入ってみせる。
 30ミリ弾が当たる。
 盾役の兵器を打ち抜けず機体の関節に衝撃を吸収される。
 30ミリ弾が外れて外れてようやく当たる。
 幸運にも盾役を躱すが厚みのある胸部装甲を貫けず少しの傷を与えただけで終わる。
 ヴァルナはとても大きな、つまりCAMの巨体を効率よく叩ききれるMハルバードを見せつけながら残存2機の片方に接近。
 歪虚はブースターを吹かして逃げ、着地し、その段階で御言機から銃弾を浴びてその場に倒れ伏す。
 負のマテリアルが切れた機体は、立ち上がることもできずにパーツ毎に分かれてそれぞれ崩れていった。
「吹雪かね」
 リロードを行う瞬間、戦場の南西端に生じた異変に気づく。
「面倒な事になりそうではあるが、そうであればこそ、私達が出る意味が出てくるというものか」
 じっとしていられるほどお行儀のよい竜でもないとつぶやいて、御言はヴァルナと共に残る1機を仕留めにかかった。

●雪だるまの精
「綺堂・沙織。エーデルワイス・ツー。出ます!」
「リチェルカ・ディーオ。プラヴァーで行くよー、むきだしの顔がさむいよー」
 優美な白色装甲のエクスシアと、白いもこもこギリースーツの小型魔導アーマーが進撃を開始した。
 離れた戦場ではハンター対歪虚の激戦が2箇所で起こっている。
 だがこの場は本格的な吹雪が始まり他の戦闘どころか目の前もほとんど見えない。
「私、見たことあるなー。このじょーきょー」
 地上をうろつく歪虚らしさが足り無いCAM型歪虚。
 神経を研ぎ澄ませれば微かに地下から負の気配。
「またガルドさんが埋まってるんだろーなー。歪虚CAMも変な感じに進歩してるし」
 雪CAMは正直弱い。
 今のリチェルカ・ディーオ(ka1760)なら生身で1小隊に対抗可能だ。
 ただ、この雪CAM達は生産性が上がっている気がする。微量の血と雪だけで出来ている気がするのだ。
「リチェルカさん!」
 エーデルワイス弐型がバックステップで30ミリ弾を危なげ無く回避。
 お返しに機関銃の弾幕を向けるがCAMシールドの前面で火花が散るだけで敵本体にダメージはない。
「近距離の反応は1つだけだよ」
 プラヴァーには人命救助用と歪虚監視用を兼ねたマテリアルレーダーを装備させている。
 スキルも悪天候での活動を重視したものを揃えている。
 故に今回のメンバーの中で最も情報収集に長け、それ故本来なら忘れられ消えて去るはずの存在に気がついた。
「嘘っ、精霊っ!?」
 最下級の雑魔にも劣る、ただし正負逆の気配がプラヴァーから14メートル横に存在した。
 吹雪が弱くなる。
 雪CAMが猛然と加速。
 察した沙織(ka5977)がエーデルワイス弐型で迎撃。
 ぶつかる寸前の距離でファイアスローワーを発動させた。
「歪虚に効果有り……効いています!」
 分厚いCAMシールドは扇状の破壊エネルギーを受けても変化がない。
 が、わずかに漏れた破壊の力が、雪色の装甲が存在しないかのように雪CAM本体を痛めつける。
「帝国で見つけたらお手柄かもだけどー」
 リチェルカは正の気配を踏みつぶさないよう注意しながら、プラヴァーを屈ませ身を乗り出す。
「いきてるー? てだすけいる? うん、あー、なるほど」
 限界まで手を広げて雪を掻き集める。
 固めて、また掻き集めて、今度は小さな雪玉を作って最初の玉の上に乗せる。
 雪だるまだ。
 力尽き拡散しかけていた正マテリアルが雪だるまへ猛烈な勢いで集まり。
 儚くも神々しい光が放つ依り代が出来上がる。
「リチェルカさん!」
 沙織の声に危機感が濃くなる。
 力だけで狙いの甘いスコップや、強化されているとはいえただのアサルトライフル程度脅威ではない。
 しかし推定精霊に流れ弾がいかないようする場合は難易度が激増する。
 ファイアスローワーで牽制。
 雪CAMは強く警戒して距離をとるが、逃げるためではなく助走で加速して沙織機を突破するつもりに見える。
 沙織はマテリアルで感覚を拡張すると同時にフライトシステムを発動。
 命を燃やして急上昇から急降下して来た雪CAMを、雪だるま精霊の至近距離で迎え撃つ。
「精霊さんだめ。そこ触ったらだめだって」
 雪だるまがリチェルカの影に隠れようとしてプラヴァーの邪魔になり身動きの邪魔をする。
 リチェルカも精霊を放り出すわけにもいかず、本来の回避技術を発揮出来ない。
 ファイアスローワーで燃やされながら、雪製CAMが何度も何度もスコップを振るう。
 その度に沙織がシールドを割り込ませる。怯える雪だるまに邪魔されながらリチェルカがじりじり距離を離そうとする。
 雪CAMが防御を捨てた。
 盾も銃も邪魔と投げ捨て両腕でスコップを構え、ブースターを前回にして精霊を追う。
 沙織が真正面から迎撃。
 射程は短くても強烈な炎をぶつけ、スコップはシールドで見事に受ける。
 スコップが砕けた。
 破片がくるくると舞い、進路上の雪だるまが恐怖で硬直。
 前面装甲が融け落ち剥き出しになった操縦席から、ベルトが触手のように精霊へと伸びた。
 マテリアルの幕が雪だるまの表面を覆う。
 所詮は切れ端でしかない破片は全て速度を失い、小さな音を立てて雪の上に落ちベルトも弾かれる。
「こういう形で使うことになるとは、思っていませんでした」
 エーデルワイス弐型がプラヴァーから手を離す。
 先程使ったマテリアルカーテンをこの戦いでもう一度使うつもりはない。絶対にここで仕留める。
「CAMを悪用されているというのは」
 半壊雪CAMに自機をぶつけるようにして前進。
 シールドや機体に細かな傷がついても歩みは緩めない。
「黙ってはいられませんから!」
 淡い雪の如き光が沙織の飛行服を照らす。
 イニシャライズフィールドを重ねて負の気配をはね飛ばし、容赦も油断もなく雪製CAMを溶かして焼いて追い詰める。
 腹から上を失った歪虚が仰向けに倒れた直後、魔銃の光が中枢部を打ち抜き雪製CAMを完全に消滅させた。
 ばんざーい、と雪だるまというか冬の一部を司る精霊が飛び跳ねる。
 プラヴァーへの着地に失敗したところをリチェルカにキャッチされ、まとわりつこうとして頭をぺしり叩かれる。
「精霊さん精霊さん。少し援護してくれない? あれ、ヤバイの掘り出してるっぽいからさー」
 指を北に向ける。
 雪だるまは恩と生存本能と大精霊の指示の間で迷う気配を見せる。
 数秒後。活火山を思わせる炎が雪掘りCAMと大量の雪を吹き飛ばす。
 精霊が雪だるまのふりをすることで現実逃避する。
 さらに1分と数秒後。
 今度は地下から気合いの入ったブレスが噴き上がり、見覚えのある黒い影が姿を現した。

●デートは炎の中で
 いかなる抵抗も無意味であった。
 ブースターに火が入る前に業火に襲われ、4機の雪CAMが無残に燃えて融け落ちる。
 残ったのは浅いクレーター。
 その端で、黒の夢がそわそわとした様子で何かを取り出した。
 肉だ。
 500グラムの、値段も質もかなりお高い肉。
 借り物のライターでさっと炙ってかぷりとかじる。
 一瞬見えた白い歯と脂で濡れた唇が、とんでもなく色っぽかった。
「うにゅ。落ち着いたのな」
 胸を張る。
 燃えさかる気合いに体力が追いついてなんとか安定する。
 クレーターの底、薄い雪の下で蠢く負の気配を見つめ口元をほころばせる。
 殺意と愛着が渾然一体となった気配が黒の夢から噴き出す。
 凶悪な威力を秘めた火球がクレーターの底へと飛んだ。
 荒々しい炎が噴き出し火球と雪の層を吹き飛ばす。
 せいぜいCAMと同サイズでしかない黒色の歪虚が、1対の翼を広げて悠然と浮き上がった。
「また埋まってたのダーリン……! 今日こそはちょびっとそのお肉もぐもぐしちゃうのな!」
 乙女とも童女ともとれる表情と所作なのに、まき散らす気配は魔女あるいは魔物そのものだ。
 黒竜は目を細め、しかし黒の竜がワイバーンもイェジドも連れていないのに気づいて落胆する。
『食いたいなら追って来るんだな』
 負のマテリアルを翼に集めて北東への加速を準備する。
 急がないと人間対歪虚のお祭りに間に合わない。
 そんな状況で、ハルバードを構えた人型が跳んだ。
 加速、刺突という1つ1つの動作はあくまで基本に忠実。総合すると素晴らしく速くて巧い。
 マテリアルで出来た刃が黒竜の翼から背中にかけて深い傷を刻みつけ、ヴァルナのエクスシアがクレーターの端に着地する。
「いずれ攫うと言った相手に睦言の一つも無く去るのは、紳士としてどうかと」
『欲しいなら奪うもんだ。獲物も番いも立場もな』
 悪いドラゴンが笑う。
 どこかで雪だるまが震え出す。
「甲斐性のないこと」
 恐るべき殺意に晒されているのに、ヴァルナは心底呆れてため息をついて見せた。
 竜が哄笑する。
 殺意がますます濃く重くなる。
 竜と魔女と視線が一瞬混じり合い、完全に同期してブレスと破壊の炎を激突させた。
 炎が雪を消し枯れた大地を剥き出しにさせる。
 黒の夢はスカーに回収され、黒竜は剣も弓も届かぬ高度へ上昇する。
「久しぶりではないかね、ガルドブルムくん!」
 返事は高収束ブレス。
 月光は軽くスラスターを吹かせてかすらせもしない。
『俺を仕留めつもりなら数が足りねェぞ?』
「はっはっは、ハンター8人では無くハンター1チームできているのだよ。君こそ我々を倒せると思っているのかい?」
 竜が牙を剥き出しにして、かき消える。
 猛加速で月光に迫り、ギリースーツを脱ぎ捨て仕掛けたミグ機に迎撃される。
 翼と尻尾と右脚がさらに加速。
 躱しようのない3連撃がハリケーン・バウ・USCを襲う。
 電磁装甲が吹き飛び塗装が剥げて装甲が剥き出しに。
 だがミグ機は蒼い燐光を纏い平然として、猛回転するドリルで反撃してみせる。
「まだ生きてたのか、存外しぶといトカゲじゃのう」
 夏に飛ぶ害虫に向ける目でミグが見上げる。
 災厄の十三魔と呼ばれた黒竜は、怒りも屈辱も闘志に変えてドリルを躱して大きく距離をとる。
『応、しぶといとも!』
 未だ残った雪が揺れ、完全武装の雪CAMが2集団姿を現した。
「精霊さんお願いー。できる範囲でいいからさー」
 30ミリ弾を軽々躱しつつ、平然とした顔でリチェルカが要請する。
 言葉では無くリチェルカの表情に安心して、小さな精霊が消滅しない範囲で気合いを入れた。
『オォ!』
 黒竜の感嘆。
 雪が目に集まって視界が0だ。
「CAMは自分が始末する」
 不用意に雪から出たデュミナスの首をバルディッシュで狩る。
 これで3体目。
 4体目の体当たりをすり足でいなし、アバルトはもう1集団の端を連続射撃で削る。
「竜に妖精に人型兵器か」
 わざと非効率に移動することで雪CAM2集団に包囲させる。
 その上で緻密な回避と防御で時間を稼ぎ、狙い澄ませた一撃を空の一角へ。
 背中に被弾した竜が、地表との距離を測り間違え不時着する。
「きゃー、念願のガルドブルムですよぅ!」
 シールドにナイフ……人間用の大太刀を装備したエクスシアが襲いかかる。
 体勢を崩していても黒竜の動きは速く、力強い竜爪によるストレートを囮に死角から尻尾がハナ機に迫る。
「私も刻ませて下さいぃ!」
 普段は茶系の瞳が蒼く輝き、よく手入れされた髪が海中にあるかのように揺れる。
「翼を下さい♪」
 上半身を揺らし尻尾を回避。
 竜翼の傷口をナイフが抉る。
 鳥でも飛行機でも無理な軌道で竜が高度を上げるがハナ機も飛んで距離を保つ。
「爪を下さい♪ 牙を下さい♪」
 ナイフを竜爪で受ける動きが反撃の連撃に繋がる。
 ハナは己の生命を燃やして意識も体も加速させ、躱して躱してシールドで受ける。
「肉を下さい♪」
 切っ先が脇を抉って数枚の竜鱗ごと肉を抉る。
 ガルドブルムは防御より移動と雪の除去を優先して高速回避。
 そしてハナの口角が悪魔じみてつり上がる。
「命を下さい♪」
 ルギートゥスD5が咆哮する。
 両腕を交差して防ぎはしても、衝撃を全て受け流すことは出来ず黒竜の内臓に痛みが走った。
「強い歪虚は大好きですよぅ、あはははは」
 雪CAMを狩るアバルトと精霊を守るリチェルカ以外も攻撃に参加する。
 目を塞がれた黒竜は普段より動きが鈍く、ダメージはまだ深刻でないが有効な反撃ができていない。
 アバルトは通信機越しにイェジドの声を聞いた。
 30ミリ弾を躱すのでは無く躱すのではなくバルディッシュで防いでその場で発砲。
 そろりと最後に現れようとしていた雪CAMを斜め上から打ち抜き沈黙させる。
「片羽潰せば北で邪魔をするのは防げるだろうが」
 それは非常に困難だ。成功してもこの場の8人は全滅するかもしれない。
 竜の片目から雪が剥がれる。
 これまで当たっていた銃撃が外れるようになり、黒竜の口奥に炎が見えた。
「潮時か」
 撤退戦に移るつもりで雪CAMをさらに1機仕留めたとき、風もないのに舞う雪に気づく。
 不自然な疲れを感じる。
 黒竜は再度の不時着を嫌がり高度をとる。
 雪の濃度がさらに増し、体格以上の存在感を持つ黒い歪虚が見えなくなった。
『精霊に出し抜かれるとはなァ』
 一言だけ残してガルドブルムは北東に向け加速を始める。
 雪だるまにひびが入る。
 舞っていた雪がすおとんと落ちて、黒竜の視界を遮るものがなくなった。
『先に行くぞ』
 フンと鼻を鳴らした後、小さな衝撃波を残して黒竜が北東の空へ消えた。
「生き延びたか」
 バルディッシュを頭にめり込ませた雪CAMが崩れ去る。
 アバルトは自分で30ミリ弾による弾幕を張り残る3機を追い立てる。
 既にブースターを使う余力も無い歪虚達は、高位の術者やCAMに包囲されあっさり全滅したのだった。

●笑顔の別れ
 雪だるまから抜け出した精霊は、人の形をしていても別の次元の存在にしか見えなかった。
 感謝と申し訳のなさの混じった表情で頭を下げた後、困惑の視線をハナと黒の夢に向ける。
「譲りませんよ? ひょっとしたら人類初竜肉ですし」
 50グラムに満たない肉を、迷った末に等分して黒の夢と分ける。
 悩み始めた冬の一部を司る精霊が、徐々に薄れ始めた。
「後で加護をくれるといわれてもー。200年寝たあとだと私死んでるし、回復に専念してね」
 雪色の唇がリチェルカの額に触れた。
 微笑みながら世界に融けていく。
「んっ」
 ハナが目を見張る。
 周囲には炙られた肉の香りが漂っている。
「体力を削ってくる負マテリアルに耐えるとなかなかの脂が……」
 腹がぐるると鳴って抗議を始める。
 決壊するほどではないがちょっと辛い。
「これはまさか……バラムツっぽい!?」
 幸いなことに、乙女の尊厳に関わる事態は発生しなかった。
 帰還後オフィス職員に味の聞き取り調査をされた黒の夢は、微笑むだけで何も答えなかったらしい。

依頼結果

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MVP一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢ka0187
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァーka0895
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオka1760

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スカー
    スカー(ka0187unit001
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハリケーンバウユーエスエフシー
    ハリケーン・バウ・USFC(ka0665unit002
    ユニット|CAM
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    フォルケ
    Falke(ka0895unit003
    ユニット|CAM
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオ(ka1760
    人間(紅)|17才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka1760unit004
    ユニット|魔導アーマー
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シュバリエ
    シュバリエ(ka2651unit003
    ユニット|CAM
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ゲッコウ
    月光(ka4137unit004
    ユニット|CAM
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka5852unit003
    ユニット|CAM
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    エーデルワイスツー
    エーデルワイス弐型(ka5977unit003
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】雪海大伏
黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/02/14 08:25:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/12 15:39:36