• 反影

【反影】DEADLOCK~異界調査~

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/22 22:00
完成日
2018/03/22 17:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●新たな『異界』へ
「おいマジか」
 黒く発光するドーム。その外膜を潜った途端一変した景色に、龍騎士ダルマ(kz0251)は目を瞠った。同行したハンター達も、あまりの変化に周囲を見回す。
 たった今まで、確かに荒涼とした大地に立っていた。
 けれど今現在目の前にあるのは、煉瓦作りの街並みと賑やかな人々。北側に見える高台には、見るからに堅牢な城塞が聳えていた。

 ここは『虚無』と呼ばれる邪神の支配域。その内側に広がる『異界』である。

 紅界にあって紅界でない場所、邪神によってすげ替えられた異空間。それが『虚無』。
 これまでの調査で、『虚無』の内側には必ず『異界』が広がっている事が分かっている。それは紅・蒼・緑のどこの世界にも属さない全くの異世界であったり、あるいはそれら三界のどこかであったりと様々だった。
 そしてその『異界』とは、邪神の記憶なのではないかと目されている。

 ダルマ、事前に聞いた『虚無』と『異界』の説明を思い出し、ぼりぼりと左頬の鱗を掻いた。見ると聞くとじゃ大違いというやつだ。彼の肩の上では、白隼が警戒心を剥き出して周囲を睨みつけている。それを宥め、同行したハンター達に向き直った。
「虚無を消滅させるには、この異界の中核みてぇな歪虚を倒す必要があるらしい。だがまず今回は、この異界がどんな世界なのかを探るのが目的だ。よろしく頼むぜェ」
 その時、通信機からシャンカラ(kz0226)の声が響いてきた。
『こちらA班、北西に城塞のような建物が見えています。そちらはどうです?』
「お、通信機は使えるようだな。B班からは城塞が北東に見えてるぜ」
 シャンカラとハンターで構成されたA班と、ここにいるダルマとハンター達B班とが別方向から同時に踏み込み、異界内を広く調査する手筈だ。
 ハンターのひとりが周囲の人々を見て呟く。
「邪神の支配域……邪神の記憶かもって話だけど、随分活気がある街だね。邪神の気配なんて少しも感じない」
 B班がやって来たのは居住区であるらしく、連なる四角い建物の軒には洗濯物がはためき、窓から煮炊きの香りが流れ、ごくありふれた人々の営みが感じられた。一行の横を、少年が母親の手を引きながら過ぎていく。
「早くぅ、凱旋パレード終わっちゃうよ!」
 路地を行く者達も、母子が向かうのと同じ方へ歩いて行く。この街の住人達は黒い髪に白い肌をした『人間』だった。服装や装飾品を見るに、西方と文化レベルはそう変わらないようだ。
「皆あの親子と同じ方に向かってンな。突っ立ってるだけで目立っちまいそうだ」
「凱旋パレードと言ってましたね。行ってみます?」
「だな」
 ダルマはA班へパレードが行われているらしい事と、それを見に向かう事を告げる。一行は人波に紛れ流されるよう、細い通りを東へ向かった。

 やって来た大通りの沿道には、この街の黒髪白肌の人々に加え、異国人らしい様々な髪と肌の色をした大勢の人々が集まっていた。厚い人垣ができていて、このままではパレードの様子を臨めそうにない。
 ダルマは先程の母子も人垣の後にいるのに気付いた。少年はパレードを一目見ようと飛び跳ねている。
「全然見えない、だから早く行こうって言ったのにぃ」
 グズりだす息子、謝る母親。ダルマは歩み寄ると少年を肩車してやった。
「わぁ、おじちゃんありがとう!」
「お兄さんだ」
 母親はダルマに頭を下げる。そして顔を上げた途端、彼の頬の鱗を認め息を飲んだ。けれど彼は気づかず、少年を肩車したまま人垣を掻き分けていく。
「悪ィ、子供に見せてやりてェんだ」
 幼子がいるとなれば、大人達は詰め合い道を作る。少年の希望を叶えつつ、子供をダシに割り込もうという魂胆だ。実にセコい。セコいがこれも調査の一環。ハンター達も彼が拓いた人混みの隙間に身体を滑り込ませた。

●竜人《ドライダート》
 大通りを城塞に向かって行進しているのは、甲冑姿の騎士達だった。甲冑や得物の装飾は簡素――騎士の中でも下位の者達らしく、凱旋の列はもう終わりに近づいていた。
 一行は、下位騎士の小隊を率いている一段良い鎧を着た騎士達に注目した。彼らの背には、龍によく似た翼が生えていたのだ。おまけに鱗を纏った長い尾まで持っている。
「ありゃァ一体」
 自らも龍の鱗めく皮膚を持つドラグーンではあるが、これには流石にダルマも驚きを隠せなかった。少年が自慢げに胸を張る。
「知らないの? すっごい田舎から来たの? ドライダートの騎士様だよ」
「ドライダート?」
「この世界の救世主だよ! 見て、竜が来るよ!」
 促されて隊列の最後尾を見やり、また瞠目することになった。
 数十頭の馬に引かれやってくるのは、巨大な鋼鉄の檻。中には年老いた一頭の巨竜がおさまっていた。四肢に足枷をはめられ、静かに金色の双眸を伏せている。少年はそれを『竜』と言ったが、
「あれが『竜』?」
 一行にはそうは見えなかった。伏せた瞳に、確かに理知的な光が感じられるのだ。あれは悪しき『竜』ではなく『龍』ではないのか――そう思い至ると、龍を尊ぶダルマはその扱われ方に奥歯を噛んだ。
 周囲の大人達は竜を見上げ、
「竜族の王だそうだよ。怖ろしいねぇ」
「それを捕らえた騎士様達の何と勇ましい事!」
「これだけの巨竜だ、新たなドライダート様がどれだけ誕生なさるか。予言などもう恐れる事はない!」
 口々にそう言い合うと、誰からともなく皇子様万歳、ドライダート様万歳と、恍惚となって喝采を浴びせるのだった。そんな人々の姿に何とも言えない気味悪さを感じていると、通信機から切迫したハンターの声が響いてきた。
『大変だ! シャンカラが突然竜翼の騎士達に拘束され、連行された!』
「!?」
 ダルマは平静を装ったまま少年を降ろすと、人混みから離脱する。
「何があった?」
『それが、』
 A班のハンターが言うには、彼らは隊列の先頭、皇子と呼ばれる者や上位騎士達のいる側に行き当たったという。すると、皇子がシャンカラを見るや何故か激怒し、捕縛と連行を命じたのだと。
『これから救出に向かう』
「待て。アイツぁ龍騎士隊の隊長だぞ。それがあっさり捕縛されるなんざ、捕らえた奴らは只者じゃねェ。極力騒ぎは起こさねぇよう行動してくれ」
『了解』
「僕達も救出に向かう?」
 尋ねたハンターに、ダルマは頭を振る。
「いや、大人数じゃどうしても騒ぎになる。ここはA班に任すとしよう。隊長殿はああ見えて火力馬鹿だ、最悪自力で何とかするだろうぜ」
 口は悪いが、彼は彼なりにハンターと隊長を信頼しているのだ。
「俺達は予定通り、手分けしてこの異界の調査に当たる。が、初っ端からこれじゃあ何が起こるか分からねェ。用心して事にあたってくれ」
 言ってダルマは白隼を空へ飛ばした。視界を同調させ、この都市の構造を把握するために。そうして大まかな都市の情報を受け取ったハンター達は、思い思いに歩き出した。

リプレイ本文

●貴族宅の女中
 フィロ(ka6966)は人波に紛れて歩く内、商店街へやって来た。
 店はどこも大きく間口が開かれ、ひさしを通りへ張り出して、その下まで商品を並べている。お陰で中へ入らずとも何の店かが一目瞭然。パン屋か古着屋でもあればと思い歩いていると、偶然にもそのふたつが隣り合う場所に出た。
「まあ」
 フィロは目当ての店が隣同士だった幸運よりも、それぞれの店の品に付けられた値札に目を瞠る。
 古着屋の軒先に掛かった新品同様の外套、これには3千の値がついている。装飾は凝っているがやや陽に焼けたブラウスは2千。ここまでは良い。
 けれど、パン屋のケースに並んだ菓子パンには4千、食パン一斤には何と8千の値がついていた。知識欲の塊であるフィロは、考察すべく頭をフル回転させる。
(値札があるのは貨幣制度が整っている証ですね。それにしても食糧難なのでしょうか? ……そう言えば、南に“ささやかな”農耕地があるとの事。食糧の多くを輸入に頼っているのかもしれません。ですが運搬費を加味してもこれは……)
 すると気付いたパン屋の女将が声をかけてきた。
「何かお探しかい?」
 我に返ったフィロは礼儀作法に則り、優雅にお辞儀する。それから頬に手を当て物憂げに息をついた。
「凱旋パレードを見に来たのですけれど、お坊っちゃまが悪戯してその上風邪まで引いてしまわれて。旦那さまにパレード見物に出かけるのを禁止されてしまったのです。ベッドでしくしく泣いていらっしゃるお坊っちゃまがあまりに可哀想で」
 言いつつ北に目をやる。ダルマ(kz0251)が『身分の高い人間が住んでいるらしい』と言っていた方角だ。柔らかで上品な物腰と、見るからに上等なジャケット。そして相手を引き込む話術。女将はフィロの思惑通り、彼女がどこぞの貴族の邸宅に仕えるお女中なのだと思い込んだ。咳払いし口調を改める。
「あら、それはお可哀そうに」
 そんな女将の様子もつぶさに観察。態度を変えたという事は、この国にははっきりとした身分制度があるという事。そしてそれを遵守できる程度に、庶民の心にゆとりがあるのだと推測する。
(食糧の価格を除けば、活気もあって、本当に普通の街のようなのですけれど)
 フィロは値札に目を落としながら柳眉を寄せ、蜂蜜瓶を取り出した。
「今は手持ちがありませんの。これは以前私が大旦那さまと旦那さまにいただいた私のものです。これを交換か換金していただけませんか? お坊っちゃまをお慰めできるおみやげを持って戻りたいのです」
 女将は蜂蜜を見て飛び上がる。
「まぁ! ここ数年、蜂蜜はめっきり入って来なくなってしまいましたもの、嬉しいわぁ! こんな貴重な物よろしいの?」
 “ここ数年“という言葉にフィロは引っかかりを覚えたが、
「お坊ちゃまのためですから」
 にっこり微笑む。するとはしゃぐ女将の声を聞きつけ、古着屋の亭主が顔を出した。
「うちで半分買わせてくれんかね、孫の大好物でね」
 女将は空き瓶に蜂蜜を半分入れてやる。フィロは持参したヴェールを、これも換金して欲しいと亭主に差し出した。
「舶来品ですかな? 良い値をつけさせていただきますよ」
 そうして、パン屋の女将から菓子パン4つと銀貨を4枚、古着屋の亭主からは金貨と銀貨を2枚ずつ受け取った。
(やはり衣類より食糧の方が随分高価です。ここで一見宝石のような星石を出すのは……)
 換金用に星石も持ってきていたが、相場を見るに、子供への土産を買うのに充分すぎる金銭は得ている。なおも換金を求めるのは警戒されかねないと踏んだ。代わりに世間話を装い更に踏み込む。
「蜂蜜が入ってこないのは本当に困ってしまいますね。お坊ちゃまにお菓子を作ってさしあげるのに、今の蓄えが尽きたらどうして良いか」
 亭主は諦めたように肩を落とす。
「しょうがない事ですよ。予言に絶望しきり、荒廃してしまった国がほとんどですからな。今もまともな暮らしをしているのは我が国と、ドライダート様のお力を知る近隣諸国くらいなもので」
「皇子様や騎士様がいてくださるからこそ、あたし達は希望を持っていられるんですわ」
 女将はうっとり首肯した。フィロも怪しまれぬよう同意しつつ、亭主の言葉を反芻する。
(食糧の価格高騰の原因は、輸入先の国々の荒廃……南側にいるという難民らしい方々は、それが原因で国を捨て逃れてきた来た方々なのでしょう。それほどまでに人心を打ちのめす予言とは……?)
 知りたい欲求が疼いたが、予言については金鹿が調査する手筈になっている。堪えてふたりへ向き直った。
「お坊っちゃまが喜びそうなお菓子や今回のパレード絡みの食べ物、子供向けの絵本等を売っている店があったら教えていただけないでしょうか」

   *

 女将が教えてくれた先は本屋だった。店番の青年に経緯を話すと、青年はお坊ちゃまの年齢を尋ねた上で1冊の絵本を見繕ってくれる。
「生憎、当代の皇子様や騎士様を題材にしたものは人気で、品切れなんです。こちらは人類初のドライダートとなった、初代皇帝様を描いた絵本ですよ」
(人類初のドライダートと“なった”?)
 フィロは先程得た銀貨で手早く支払いを済ませると、足早に店を後にした。本を押し抱いた胸が高鳴る。この絵本に重要な秘密が隠されている気がして、秘密そのものを抱えている気がして。
 それからひと気のない路地に入ると、深呼吸してからそうっと本を開く。

 ――むかしむかし、ある国に7人の王子がいました。王子たちは、自分こそ次の王様だと、毎日いがみ合ってばかりいました。心優しい末の王子は、兄弟で争うことが悲しくてたまらず、ひっそりと国を去ることにしたのです――

 出奔した王子はやがて砂漠に迷い込む。食糧も尽き、水もあとわずか。死を覚悟したその時、今にも息を引き取ろうとしている竜と出会う。慈悲深い王子が最後の水を竜の口に含ませてやると、竜はこう言った。
『私の血をお飲みください、きっと砂漠を出られましょう』と。
 言われた通り血を飲むと、王子の身体にはたちまち力が戻った。そして龍の翼と尾を持つ竜人となり、その翼で砂漠を越え海を渡り、無人島へ降り立った。王子は争いのない国を作ろうと島を開拓し、彼を慕った人々が集まってできたのがこの国だと、物語は締めくくられていた。
「『竜』の血を飲みドライダートとなった王子……初代皇帝。では、今いるドライダートとは……」
 フィロの脳裏に、先程見た老龍の姿が浮かんだ。


●流浪の占者
(世界の中核となる歪虚、邪神の記憶……この後何か強く記憶に残るような出来事でも起こるのでしょうか。栄光から一転……というのはさまざまな感情を呼び起こしそうですわよね。それこそ歪虚でいうところの七眷属の分類のような)
 金鹿(ka5959)は大通りを東へ辿る。先程群衆の誰かが発したある一言が、強く気にかかっていた。

『これだけの巨竜だ、新たなドライダート様がどれだけ誕生なさるか。予言などもう恐れる事はない!』

(世界の救世主であるドライダートと、それさえいれば予言は怖くない。なれば不穏な予言が下されていると考えるのが妥当ですわよね。異国から大勢が集っているのも国力増強と考えられますし)
 やがて行く手に円形闘技場が見えてきた。想像よりずっと大きく、万に近い観客を収容できそうだ。
(この島の人口は分かりませんが、小島にある施設にしては随分と大きな……)
 違和感を覚えつつ、闘技場周辺の宿屋街へ差し掛かる。情報通り、様々な髪や肌の色をした異国人、それも武器を携えた者が多く見られた。金鹿は大きな辻の手前で、禹歩で吉方を占ってみる。ここから北上し、上流階級の居住区を目指そうとしていたのだが。
「これは……」
 しかし吉方と出たのは南だった。思わず周囲を見渡す。宿屋街の中でも北側には品の良い大宿があり、出入りする客も異国の騎士を思わす立派ないでたち。片や南側には小さな古宿が並ぶ。客層もお察しで、戦士風ではあるもののゴロツキか野盗といった風情の者も見受けられた。念のため凶方に重きを置いて占い直すと、今度ははっきりと北を示す。
 予言を気にかける余裕のある富裕層を対象に調査しようと考えていた金鹿は、この結果に思案する。
(あの野盗風情や、彼らを相手にする方々の中に、予言や占いに興味を持つ方がいるのでしょうか?)
 しばらく悩んだが、やがて金鹿は占いの結果を信じ、辻を南へ折れた。
 と、すぐに声がかかる。
「姉ちゃん、暇なら一杯奢ってやんよ!」
 一階が酒場になっている宿の窓から顔を出し、傭兵風の男達が手招く。躊躇う素振りで誤魔化し、念のためこっそり再度禹歩を使ってみる――と、吉方としてその酒場の方を示した。
(戦士たちの世話役、最悪色方面の何かだと勘違いしてもらえればと思っていたのですから。望むところですわ)
 金鹿は嫣然と手を振り返し、酒場の扉を潜った。

 中は大した荒れようだった。奥で殴り合いをしている男どもがいる。給仕の女性に手を出し、頬を叩かれている男もいる。かと思うと、同じ人種で集まり大声で談笑している卓もある。彼女を呼んだのはそういう卓のひとつに座る男達だった。
 華やかな金炎蝶のローブを翻し、勧められた席へしゃなりと座れば、酔っぱらいどもはそれだけで大層盛り上がる。こっそり呆れつつ喧嘩する男どもを目で示した。
「随分賑やかですのね」
「明日はいよいよ試合だろ? 皆気が立ってんのさ」
 小首を傾げる金鹿に、
「ドライダート志願者を篩にかける選考試合だよ、姉ちゃんのコレもそのために来たんだろ? 今までドライダートになれるのはこの国の騎士に限られてたから、俺らにとっちゃこれが最初で最後のチャンスだ。熱くもなるさ」
 男はコレと言いつつ下品な仕草で親指を立てる。金鹿は内心辟易しながら曖昧に微笑んだ。
(ドライダート志願者の選考試合……木綿花さんがドライダートを調査したいと仰ってましたね。隙を見て連絡しましょう)
 男達は金鹿の美貌を肴に酌み交わしていたが、女将が追加の酒を運んできた所で話が途切れた。そこで金鹿が切り出す。
「実は私、占いに興味があり嗜んでもいるのですが、なにぶん田舎出身の旅続きなもので、耳に入るのは尾ひれはひれの酷いものばかり。真相を確かめ、自身でも占を行うときの参考にしたいのですが、どなたか詳しくご存知ないでしょうか?」
 途端、男達は青ざめ金鹿を凝視する。思わぬ反応にたじろいでいると、この国の人間である女将が小声で捲したてた。
「滅多な事お言いでないよ、ここをどこの国だとお思いだい! ちゃんとした予言は知らなくたって、それを告げた大巫女様達が、みぃんなうちの皇子様に誅殺されちまったのくらい知ってるだろう?」
「何ですって?」
 女将の言葉に息を飲んだその時。扉が開かれ、龍翼の騎士がひとり入って来る。女将はさり気なく前へ出、騎士から金鹿を隠した。騎士は異国人達を見回すと、
「選考試合の参加受付は日暮れまでだ。まだの者は速やかに北東の迎賓館まで」
 それだけ告げ、さっさと出て行った。
「庇ってくださり感謝いたしますわ。……なれど大巫女様方が誅殺されたとは、一体何の咎で」
 女将の背に問いかけると、女将は渋い顔で頭を振る。
「人心をいたずらに惑わせたからだとさ。実際あの予言が広まってから、もう終わりだーってみぃんな捨て鉢になっちまったからね。以来この国じゃ占いだの先読みだのはタブーなんだ。アンタうちが安宿で本当に良かったよ! 占い師だ易者だなんてお偉いさんの耳に入ってご覧、今頃大変な目に遇ってたさ!」
 凶方の意味を知り金鹿は肌を粟立たせた。当初の予定通り、上流階級の者達が住まう北の区域で口にしていたら――念の為に禹歩を使用して良かったと胸を撫で下ろす。
 人々にそれだけ深く信じられている大巫女達と、その予言。これまでにも幾度も予言を的中させてきたのだろう事は――国を越え人々から信奉されていた者達だったろう事は想像に難くない。そんな彼女達を葬った、ドライダートの皇子。
(“救世主”に思わぬ一面があったものですわ……予言など恐るるに足らずと、世界中に知らしめるために? 何故そこまでして……いえ、そこまでして予言を否定し、抗う姿勢を示したからこそ、この国の人々は自棄にならずにいられるのでしょうか)
 金鹿の脳裏に、皇子を賞賛する群衆の様子が蘇った。女将は同卓の男達に促す。
「アンタ達、大巫女様のひとりがいた国の出だろ? 予言、教えておやりよ。この嬢ちゃん危なっかしくて仕方ないから」
 そう言って女将は喧嘩の仲裁に向かった。男達は躊躇していたが、やがて重い口を開く。
「10年前だ、この予言が出されたのは。――『太星暦989年8の月7の夜。空より滅びの神来たりて、全ての生を刈り取り去りぬ』」
「それだけですの?」
「ああ、大元の予言はいつもこんなもんだったさ。だがそうならねぇよう、ここの皇子が騎士達と蜂起したんだ。軍勢を整え、滅びの神とやらを迎え撃とうとな」
「うちンとこの王なんか予言聞いて真っ先に発狂しちまったってのに、大したモンだぜ」
 いつしか周りの男達も賛同し、皇子万歳、滅びの神討つべしと血気盛んな咆哮を上げた。そんな中、金鹿は暦表がないかと視線を彷徨わせる。壁にかけられていた日めくりには『989'8/1』の文字。
(滅びの神……おそらく邪神の訪れは、6日後の夜――!)
 仲間に連絡すべく席を立とうとした金鹿の荷物から、一枚の占いカードが落ちた。拾おうとして目を瞠る。それは、破滅や崩壊を暗示するカードだった。


●吟遊詩人
 どこからか流れ来る耳慣れない曲に、人々は誰もが一瞬足を止める。時間に余裕がある幼子連れの母親や老人達は、興味をひかれ音の来る方へ足を向けた。
 広場で弦楽器を奏でていたのはひとりの女性だった。肩に零れる金の髪と、眼鏡の奥で細められた水宝玉の瞳。唇から零れるのは不思議な子守歌。旅人らしい質素なローブ姿に、傍らには布で保護された杖が立てかけてある。流離いの吟遊詩人らしい彼女の周りには、徐々に人だかりができていった。

 正体はメアリ・ロイド(ka6633)である。

(いい感じに集まってきたじゃねぇの)
 心の中で呟き、演奏の腕が鈍っていなかった事に安堵する。
 彼女と木綿花(ka6927)は、ダルマの鱗を隠す細工をしていたために、フィロと金鹿よりも遅れて調査を開始した。その分を取り戻すべく、楽器演奏に歌唱の技術、更には美声で知られる魔物の名を冠したサークレットの力を用い、聴衆を引き寄せようと調べを紡ぐ。
 木綿花達と分かれる前、吟遊詩人のフリして来ますと告げたメアリに、ダルマはぎょっとしていた。ほとんど表情を動かさないメアリが客商売なんてと心配されたが、結果は見ての通り。
 選曲も良かったのだろう。英国出身のメアリにとっては馴染みの歌だが、その歌詞は子守歌でありながら聴く者をハラハラさせる内容で、思わず足を止めた者も少なからずいた。集まったのは黒髪白肌の、この国の人間ばかりだった。

 ひとしきり奏で終わると拍手が巻き起こる。メアリは一礼し、足許に開いたまま置いておいたヴァイオリンケースを横目でちらり。中には投げ銭の銅貨が。メアリは紅界・蒼界で見た様々な硬貨の記憶を引っぱり出す。
(覚えがねぇな……でもレリーフは細けぇし、縁盛って強度もつけてある。これが庶民の間でも当たり前に流通してんのか、結構な技術レベルじゃねぇの)
 機導師らしい視点で観察する。金属加工技術がこれだけ発達しているのであれば、騎士達の鎧や得物もそれなりに頑強な物だろう。できるなら引っ剥がして見てみたい……そんな思いを隠し顔を上げた。目を細め、精一杯口角を上げ、(やべぇ頬痙りそ)なんて密かに悶えながら、作った微笑を人々へ向ける。
「ねぇ、どっから来たの?」
 無邪気に尋ねてきた子供へも、
「田舎から、風の噂で聞いたドライダード様の武勇を知るためにここまできました」
 極力ふんわり答える。随分遠くから来たらしいメアリの口からドライダートの言葉が出ると、人々は大層嬉しそうにした。龍翼の騎士達がこの国の誇りなのは間違いない。ならばとメアリは一層声を和らげて言う。
「他の土地歌にして語り継ぎたいので、ドライダート様の武勇伝などあればお聞きしたいのですが」
「まあ素敵!」
「すげーつよいんだよ、空だってとべるんだ!」
 彼らの自国愛をうまくくすぐった、見事な話の引き出し方だった。
 人々は我勝ちに話そうとしたが、それを制して語りだしたのは好々爺然とした老父だった。
「ではまず、我らが皇子様の話をしなければなりますまい。世界を守る為立ち上がった、敬愛すべき皇子様の話を」
 メアリは話を促すようぽろぽろ弦を鳴らす。
「件の予言以降、人々は荒れ、街には暴徒が溢れ、崩壊する国が次々に出ましたな? お告げの日を待たずして世界は滅びるのではと思えるほどに」
 実はメアリ、演奏開始直前に金鹿からの連絡を受けていた。選考試合の事や、占いの類を口にするのは危険な事、そして予言の詳細を。
(この世界じゃ、予言っつーのは曖昧な占いじゃなく、絶対の運命みてぇなものなんだろうな)
 蒼界でも世紀末に終末が云々といった予言はあったが、それに絶望し自棄になったり、発狂する者はいなかったように思う。けれど本当にお告げの日に皆死ぬ運命だと知ってしまえば、それまでの生活や労働を粛々と続けられる者の方が稀だろう。そんな風にメアリは思った。
「ここは島国ですから予言が伝わるのは遅かったんですが、やはり荒れてしまいましてね。そこで皇子が立ち上がられたのですよ。もう7年前になりますか」
「それは邪神……いえ、滅びの神を討つために立ち上がられたと?」
 金鹿からの情報を交え、怪しまれぬよう尋ねると、人々は誇らしげに顔を輝かせ頷く。
「そうです! 初代皇帝様の伝説を紐解き、我が国の騎士達を人の力を超越した存在・ドライダートへ作り変えるべく、御自ら竜狩りに乗り出されたのですよ!」
「『竜狩り』……」
 メアリの心臓がどくんと跳ねる。パレードで見た老龍の姿が脳裏を過った。瞳に湛えていた思慮深い光、知性を感じさせる佇まい。強欲竜などの悪しき『竜』ではなく、精霊や幻獣に属す『龍』なのではと一行には感じられた。
 ドライダートの騎士団を結成するため竜を狩る――嫌な予感に早まる鼓動を押さえつけ、メアリは微笑んだまま首を傾げる。
「自ら竜に立ち向かうなんて、勇敢な皇子様ですね。『ドライダートへ作り変える』とは、どのようにして?」

「たべるんだよ!」

 子供が元気よく答える。
「まだ竜が生きてるうちに血をのんだり、お肉をたべたり! 生きてる間じゃないとだめなんだよ!」
「は……、」
 無邪気に告げられた生々しい言葉に言葉を失う。気付かない老父はなおも自慢げに続ける。
「なので最初の頃は、竜を求めて遠征し、討伐した騎士達がその場で血肉を得るに留まっていたのです。ですがそれを繰り返す内にドライダート様も増え、今日のように生け捕りにして連れ帰る事が可能になり、より多くの騎士達がその恩恵を受けられるようになったというわけですな」
 メアリはどこか冷え切った頭で思考を巡らせる。人間の騎士だけでは討伐するのがやっとだったのに、ドライダートが増えるにつれ生け捕りできるようになった事実。強大な敵を討伐するより、適度に痛めつけ連れ帰る方が当然困難だ。であればドライダートは、人間どころか龍をも凌ぐ力を持っているのでは。
 その力の程を知っているからこそ、彼らなら滅びの神に抗えると信じているからこそ、この国の人々は希望持ち続けていられるのではないか。
「……とすると、先程パレードの最後尾にいた竜も」
 メアリが呟くと、子供の母親が笑顔で手を叩く。
「明後日もまだこの国に居られるなら、闘技場へ行ってみてはいかが? 実際にドライダート様達があの竜を退治する所が観られますよ」
「“観る”?」
「異国の人もたくさん来るよ!」
「かっこいいよー!」
(龍を殺す様を見世物にしてんのかよ、この国は!)
 彼らの強大な力を広く知らしめる事は、この世界の人々に希望をもたらす事であり、絶望から救う事に繋がるのかもしれない。けれどそれはあまりにも――
 血生臭い光景を想像し口を噤んだメアリだったが、ある事を思い出しハッとなる。
(待てよ……ドライダートの調査に行くっつってたあのふたり、青龍を信仰するドラグーンだったよな。前情報もなしにこれを知らされちまったら――!)
 メアリは喉が乾いたからと水場の場所を尋ね、一旦その場を辞す。そして水飲み場がある生け垣の陰に入ると、手遅れでない事を祈りながらトランシーバーを取り出した。
「どうか落ち着いて聞いて頂きたいのですが――」


●武芸者師弟
 その少し前。木綿花と、彼女に同行を求められたダルマは、金鹿の情報を元に迎賓館を目指していた。木綿花は文具店の壁に掛けられた世界地図に目を留め、足も止める。
「ご主人。あの地図、良ければ何かと交換してくださいませんか?」
 言いながらストールや扇子を出そうとした木綿花だったが、主人は首を横に振った。
「ありゃ15年前の古い地図でね、ただの飾りさ」
「では新しい地図は、」
「ないない。折角苦労して描いたって、次々国や街が潰れて無駄になっちまうモンだから、職人達が作るのを嫌がってね」
「まあ……」
 そこでようやく彼女が止まっていた事に気付き、ダルマが戻ってくる。
「急がねぇと受付け終わっちまうかもしれねェぜ?」
 そう言う彼の顔には鱗を隠すため、負傷を装い包帯が巻かれている。木綿花とメアリの手によるもので、包帯の下には念入りにガーゼまで当てられていた。一方、木綿花も同じドラグーンだが、彼女の鱗は服で隠れる部分にあるので特に細工はせずに済んだ。
 木綿花は店の主人へ丁寧に頭を下げてから、ダルマと並んで歩き出す。そんな木綿花を見下ろし、彼はニヤリと笑った。
「堂々と寄り道たァな。誰だったか、俺に『心細いので同行を』なんてしおらしく言ってたのは」
「寄り道だなんて、これも調査です。……心細かったのも嘘ではありませんよ?」
「ま、理由はどうでも良いさ。別嬪さんとご一緒できンなら役得ってモンだ」
「まあ」
 現役龍騎士の言い草に思わず目を瞬いた木綿花だったが、心配していたのが漏れていたかしら、とちょっと狼狽えたり。
 そうして歩いていくと、建物の向こうから円形競技場が頭を覗かせた。シャンカラはあの地下に囚われていて、A班が救出に向かったはずだった。もう侵入した頃だろうか。木綿花は闘技場を眺めるダルマの横顔に、「大丈夫ですよ」と声をかける。お見通しはお互い様らしい。
 北へ逸れる道に入ると、迎賓館が近いのか武装姿の異国人が目立つようになってきた。彼らに紛れて進み、有益な情報はないか会話に耳をそばだてながら、木綿花は束の間物思いに耽る。
(竜人……龍人とも呼ばれる、ドラグーンである鱗だけの私たちとは違う……龍を捕えるのも。まさか弑す……?)
 そこまで考えた時、またダルマが自分を見下ろしている事に気付く。
「ダルマ様は、竜人とは何だと思われますか? もしかしたら私たちのご先祖様でしょうか」
 深刻にならぬようわざと声を明るくした木綿花だったが、その時メアリから通信が入った。急ぎ脇道へ入り、ダルマと共に彼女の言葉に耳を傾ける。
 告げられた情報は、木綿花の最悪の想像を肯定するものだった。

   *

「選考試合の申込みは、こちらでよろしいでしょうか?」
 宿屋街北、迎賓館。
 屈強な男どもに混じり現れた栗毛の少女に、カウンターに座っていた人間の青年騎士は、思わずペンを取り落とした。
「君が?! 後ろのおじさんじゃなく?」
「彼は私の武術の師、実際に申込ませて頂きたいのは私です」
「おじさんじゃなくお兄さんな」
 木綿花とダルマは交互に答える。可憐な木綿花の言葉に、周囲の男達はざわつき、小馬鹿にするように笑った。この世界では女性が戦う事はあまり一般的ではないらしい。ただでさえドライダートを生む為の残酷な方法を知り、衝撃を受けた所にこの反応。木綿花は背筋を伸ばし、挑むように声を張る。
「いけませんか? 女には資格がないとでも?」
 それでも内心、思っていた。受付が人間で良かったと。もしドライダートの騎士――生きた竜(それも彼女達にとっては善良な『龍』にしか見えない)の血肉を喰らった者――だったなら、冷静に振る舞えたかどうか。
 青年は木綿花の静かな気迫に圧倒され、椅子から腰を浮かせる。
「そんな事はなかった、はず、です。ただ前例がなくて、ちょっと上に確認だけ……」
 その時だ。カウンターの上に大きな影が落ちた。
「何事です?」
 いつの間にか青年の後ろに、ダルマと張る程長身のドライダートの騎士が、龍翼を広げ立っていた。
(いつの間に……)
 音もなく現れた騎士に、木綿花は思わず息を飲む。けれど自分が何かを思うより先に、背後のダルマから殺気が滲み出すのを感じ、慌てて振り返り目で訴える。
(ダルマ様、どうか落ち着いて下さい)
(…………)
 必死に宥めている間に、子細を聞いた騎士が木綿花に向き直る。
「部下が失礼を。世界の為に戦おうという貴女の志に感服しました。無事選考を突破され、共に戦える事を願っております」
「恐れ入ります」
 存外温和なドライダートの言葉。木綿花は少々驚いたものの、取り澄ましてお辞儀した。しかし次の瞬間、
「ですが貴女のようなお美しい女性には、こんな物騒な物より花や宝石がお似合いだと思うのですがねぇ」
 耳元で囁かれた声に顔をあげると、たった今目の前にいたはずの騎士が隣に佇み、彼女のダガーを弄んでいた。どうやって一瞬の内にカウンターを越えて来たというのか。
「……!」
 しかし木綿花の琥珀眼はしっかりと捉えていた。彼の背後からカウンター脇へ続く通路――彼が歩いて来たのなら通るはずのルート上――の床、僅かに埃が舞っているのを。
(空間転移でもなければ、翼でカウンターを飛び越えた訳でもない……目にも留まらぬ速さではありますが、“床の上を”移動しているんですね)
 龍翼の騎士は木綿花の肩へ手をかける。
「どうせなら明後日、竜と戦う僕の応援に来てくださいませんか」
「応援?」
「試合を突破した猛者であれ、人間ではそうそう竜には敵いません。“奴”の血肉を饗すため、剣を振るうのは我々ドライダートです。貴女に応援して頂けるなら……」
 そこで今度は騎士の肩へ、ダルマの無骨な手がかかる。
「『共に戦える事を願って』るんじゃァなかったのか?」
「おや、保護者同伴でしたか」
「そんな歳じゃねェっ」
 騎士とダルマが睨み合っている隙に、木綿花は青年の手から申込書を引ったくるようにして受け取ると、さらさらと自らの名を記した。そして無礼な騎士の鼻先に突きつける。
「では明後日またお目にかかりましょう。“ドライダート志願者”ではなく“権利者”として、貴方様の勇姿を間近で拝見させて頂きます」
 高らかに宣言した木綿花の度胸と胆力に、騎士ばかりかダルマまで目を丸くした。そうして木綿花は固まるダルマを引っ立てるようにして、迎賓館を後にしたのだった。
 半ば引きずられ歩くダルマの通信機からは、A班よりシャンカラ奪還の報が流れていた。



 A班B班とも無事虚無を脱出したあとの事。
 龍園ハンターオフィスの一室にて、それぞれ調査結果を報告し合う。シャンカラ奪還に動いたA班だったが、彼らも牢にいた囚人や、囚われていた老龍から幾つかの情報を得ていた。
「では、やはりあの老龍は良き龍であったと……あの世界でも、龍は世界をより良く維持する存在だったのですね」
 木綿花は唇を噛む。隣でメアリは眼鏡を押し上げた。
「シャンカラさんが捕まった理由は『半可者』……貴重な龍の血肉を得ておきながら、身体が作り変えられる激痛に耐えられず、力を放棄した人達の姿によく似ていたから、と……成程。確かに、そんな軟弱者が自らの騎士団から出たと人々に知れたら、邪神を撃退できるか不安視されかねませんよね」
(腐ってんな)
 心の中でぼそりとつけ加えたが、辛うじて声にはしなかった。代わりに金鹿が物憂げに頭を振る。
「なれど、人々の不安を拭い希望を与えるためとは言え、いささか強引に過ぎますわよね。予言をした大巫女達を害した事といい」
「街は本当に活気がありましたから、確かに効果はあるのでしょうが」
 フィロも言葉を濁す。そこでダルマが立ち上がった。
「ともあれ、あの異界を知るにゃ十分な情報が得られたな。両班とも感謝するぜェ。で、だ。あの虚無を破壊するためには、中核となる『管理者』を討伐しなきゃなんねェ。他の異界調査隊から挙がってきた報告を見るに、その管理者はその異界にとって重要な時と場所に、外からの侵入者……つまり俺らだな、が居合わせねェと出てこないらしい。
 問題は管理者が現れる“重要な時と場所”ってなァいつ・どこかって事だ」
 一同は顔を見合わせる。
「ストレートに考えるなら6日後、予言にある滅亡の日の夜でしょうか」
「だよなァ」
「なれど、強く記憶に残るような出来事となると、人間が最後の龍を手にかけ、おそらく観た人々が熱狂するであろう2日後の闘技場、という可能性も」
「あー」
 ダルマはわしわしと頭を掻いた。こればかりは行ってみなければ分からない。けれど闇雲に突っ込んで空振りするわけにもいかない。
「どう思うよ、隊長殿?」
 ダルマは傍らのシャンカラを見る。
 しかし彼は碧い瞳をじっと机の一点に据えたまま微動だにせず、口を噤んだままだった。無言の内に、秘めきれぬ怒気を湛えて。


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参加者一覧

  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

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アイコン 異界調査相談
メアリ・ロイド(ka6633
人間(リアルブルー)|24才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/02/22 21:51:45
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/19 15:14:03