ゲスト
(ka0000)
凍える森の食料事情
マスター:小林 左右也

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/27 15:00
- 完成日
- 2018/03/10 17:47
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●続く襲撃
雪に閉ざされる村で事件は続いていた。
「お父さん、大変! 家畜小屋が!」
幼い娘に腕を引かれ、家畜小屋に足を踏み入れた途端、むっと強い血の匂いと、目の前の惨状に口元を押さえた。
「こりゃ、ひどい……」
羊と山羊が血だまりの中、横たわっていた。中には食い荒らされたものもいれ、もう原型をとどめていないものもいる。
先週、子山羊が3頭生まれたばかりだったというのに……。
血に塗れた藁に膝まずき、血塗れた子山羊を抱いて娘が泣いている。
犯人はわかっている。コボルドの仕業だ。
冬に入って、被害を受けたのはこれが最初ではない。昨年は三件、今年に入って二件目だ。これまで夜に襲撃されていたから、村人で交代で寝ずの番をしていたというのに、今回は警備の手が薄くなる早朝にやられた。朝の支度で忙しくなるほんのわずかな時間だった。
村の家畜の半分がやられてしまった。家畜が減って、コボルドたちは新たな狩り場を見つけに行くだろうか。もしくは、この村で新たな獲物を狙うのか。
もし後者なら、一番危ないのは子供たちだ。常に大人の目が届くところにいるわけではない。子供たちを家畜たちと同じような目に遭わせるわけにはいかない。
もう自分たちだけで対処するのは難しい状況に陥っていた。
●ハンターオフィスにて
新たな依頼先は、もう何回もコボルドの被害を受けている村だった。
現在は畜産業が盛んな村であるが、かつては狩猟の民だったらしく、害獣やコボルドの被害も自分たちで対処してきたという話だ。
「村に降りてくるコボルドは、群の一部に過ぎません。やつらは私らに気付かれないように、必要最低限の数で襲撃するのです。だから村を襲う奴らを倒したところで、どうにもならないのです」
大元を絶たないと、被害は収束しない。
村を代表して依頼に訪れた、ヘイネス・アルマン氏は力強く訴える。
村を襲うコボルドの数は2~3頭程度。すばしっこい彼らは巧く死角に潜み、わずかな隙を見て襲ってくるのだという。
話を受けたハンターオフィスの受付嬢コウ・リィ(kz0249)は、心得たとしっかりとに頷いた。
「わかりました。必ずや皆様が安心して日々を送れるよう尽力いたします」
雪に閉ざされる村で事件は続いていた。
「お父さん、大変! 家畜小屋が!」
幼い娘に腕を引かれ、家畜小屋に足を踏み入れた途端、むっと強い血の匂いと、目の前の惨状に口元を押さえた。
「こりゃ、ひどい……」
羊と山羊が血だまりの中、横たわっていた。中には食い荒らされたものもいれ、もう原型をとどめていないものもいる。
先週、子山羊が3頭生まれたばかりだったというのに……。
血に塗れた藁に膝まずき、血塗れた子山羊を抱いて娘が泣いている。
犯人はわかっている。コボルドの仕業だ。
冬に入って、被害を受けたのはこれが最初ではない。昨年は三件、今年に入って二件目だ。これまで夜に襲撃されていたから、村人で交代で寝ずの番をしていたというのに、今回は警備の手が薄くなる早朝にやられた。朝の支度で忙しくなるほんのわずかな時間だった。
村の家畜の半分がやられてしまった。家畜が減って、コボルドたちは新たな狩り場を見つけに行くだろうか。もしくは、この村で新たな獲物を狙うのか。
もし後者なら、一番危ないのは子供たちだ。常に大人の目が届くところにいるわけではない。子供たちを家畜たちと同じような目に遭わせるわけにはいかない。
もう自分たちだけで対処するのは難しい状況に陥っていた。
●ハンターオフィスにて
新たな依頼先は、もう何回もコボルドの被害を受けている村だった。
現在は畜産業が盛んな村であるが、かつては狩猟の民だったらしく、害獣やコボルドの被害も自分たちで対処してきたという話だ。
「村に降りてくるコボルドは、群の一部に過ぎません。やつらは私らに気付かれないように、必要最低限の数で襲撃するのです。だから村を襲う奴らを倒したところで、どうにもならないのです」
大元を絶たないと、被害は収束しない。
村を代表して依頼に訪れた、ヘイネス・アルマン氏は力強く訴える。
村を襲うコボルドの数は2~3頭程度。すばしっこい彼らは巧く死角に潜み、わずかな隙を見て襲ってくるのだという。
話を受けたハンターオフィスの受付嬢コウ・リィ(kz0249)は、心得たとしっかりとに頷いた。
「わかりました。必ずや皆様が安心して日々を送れるよう尽力いたします」
リプレイ本文
●村人の歓迎
「こんな辺鄙な村に、ようこそお越しくださいました」
到着したハンターたちの下へ、ヘイネス・アルマンが歩み寄る。彼の背後には、人だかりが。村人の半数が揃っているのではなかろうか。それほど彼らはハンターたちの到着を待ちわびていたのだろう。疲れた彼らの表情に安堵の色が宿る。
このままだと歓迎の宴でも始まりそうな勢いだが、今はそれどころではない。
「餌がなくて凶暴化、ねえ。本来であれば冬に備えてため込むはずじゃあねえのかな」
「コボルドは冬眠し損ねた熊じゃないんとはいっても、春になってこれ以上増えられても対処ができなくなるのでここでしっかり討伐したいですね」
コボルドの情報を聴き出していたクオン・サガラ(ka0018)と龍崎・カズマ(ka0178)は苦い溜息を吐く。
村人が用意した簡易的な地図を手に、それぞれ入手したコボルドの動向を確認する。雪に残された足跡や狩猟に出た者の話から、巣がある方向ほぼ洗い出し出来そうだ。しかし村への侵入経路はまちまちで、警備する者たちを悩ませているという。やはり撒き餌で誘き出す方法を取るのが有効のようである。
さっそくおびき出しのために使う撒き餌の交渉に入ろうとするが、すでに村側で鶏を6羽用意しているという。ハンターたちは村の負担を減らそうと買い取りを申し出るが、アルマン氏は首を振る。
「お心遣いありがとうございます。ですが、私たちも危険な任務を受けてくださったハンターの方々に、これ以上の負担はお掛けしたくないのです」
なかなかヘルマン氏は頑固のようだ。鶏は村人がそれぞれ持ち寄ったもので、村人たちも同じ気持ちであると力説する。
ハンターたちは顔を見合わせる。ただえさえ家畜が減っているのだからと説得しようとするが、ヘルマン氏をはじめとする村人はなかなか頑固である。
説得するのは困難だと判断したハンターたちは、彼らの申し出を好意として受け取ることにするしかなかった。
「……これ以上被害が広がる前になんとしても退治しないとだね」
コボルドにも事情があるのだろうが被害をここで食い止めなければ、村は壊滅してしまう。ユウ(ka6891)はひっそりと隣りの冷泉 緋百合(ka6936)に囁いた。
居住地から離れた場所に家畜の解体小屋がある。普段から使用しているせいもあり生臭い匂いが残っていた。
「裏事情とか政治的な都合とか細かな折衝とか考えないでいい仕事は久々な気がするが……相変わらず世界には厄介事が絶えないな」
解体作業を終えたルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は、うーんと伸びをする。
解体した鶏がぶら下がった小屋からは濃い血の匂いが漂う。前回コボルドが出現したのは警備が交代する夜明け。だからといってまた夜明けとは限らない。
「風は……今は北西よりだな」
無道(ka7139)が手をかざして風向きを伺う。だが風は常に同じ方向とは限らない。常に風向きに注意しながら待機する必要がある。
「うーむ…雪駄とかスノーシューとかあれば良かったんだが……」
ルナリリルが小さく唸る。クオンのフライングスレッドは雪上を移動するには最適のアイテムだ。あってもいいかもしれないと考える彼女の傍らで、クオンは適切な待機場所を目視で確認する。彼の視線は、白い雪に覆われた小高い丘へと向けられていた。
「この距離なら反応される前に絶命しているでしょうから……問題はないですね」
お互いの武運を祈ると、それぞれの配置へと向かう。クオンは颯爽と白い丘へ向かい、無道は撒き餌の側で待機の準備を始める。村人に譲り受けた家畜の敷き藁で、敢えて家畜の臭いをまとうことにする。
「その臭いなら、コボルドの鼻を誤魔化せそうだな」
「だろう?」
必要とはいえ、この臭いは少々強烈だ。任務のためだと、無道は勢いよく藁の中に身を潜ませた。
●コボルド襲撃
コボルドが現れたのは夜明け直後だった。数は3頭。多少痩せてはいるが身体は大きい。西から吹く風の中、迎撃班、追撃班ともに日の出を背に彼らを待ち構えていた。
「……来た」
迎撃班であるレイア・アローネ(ka4082)は慎重に忍び込んで来たコボルドの姿を静かに見守ってた。風向きに注意を傾けながら、彼らの進行に合わせて移動を開始する。
ユウから連絡を受けたルナリリルは、撒き餌にほど近い木の上で待機していた。村はずれだから建物はないものの、木はいくらでもある。藁の中で待機する無道に合図を送ると、コボルドの登場を待ち構える。
解体小屋を見下ろす位置で待機するクオンの場所から、まだコボルドの姿を確認できない。カズマからの連絡を受け、雪穴に潜り込むと毛布の隙間から様子を伺う。
玉兎 小夜(ka6009)は村で村人と共に待機していた。コボルドに異変を勘付かれないよう、夜の見張りも普段通りに行っていた……が寒い。寒すぎる。火も焚けないのは辛すぎる。
こうなったら、コボルド襲撃に備えて待機の準備だ。
「……保護色!! 」
雪の上につっぷし、髪を散らした姿はまさに白うさぎである。しかし、やはり寒い。
「あのお、風邪を引きますよ?」
見かねた村人が、こそっと声を掛ける。大丈夫! と答えようとするが、代わりに出たのは小さなくしゃみであった。
木々に身を潜ませたカズマは、コボルドの姿を双眼鏡で追う。幸いこちらには気づいていないようだが、いつ風向きが変わるかわからないので油断はできない。
雪原をコボルドが疾走する。血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。血走った目と牙が覗く口からは止めどなく滴る涎が糸を引いている。まさに獰猛そのものである。
彼らが解体小屋へ辿り着くまでに、そう時間は掛からなかった。
撒き餌から近い無道、ルナリリルは生々しいコボルドの気配に息を潜ませる。
真っ先に肉に食らいつくと思っていたが、意外なことにコボルドたちの動きは慎重であった。まさか罠だと気付いたのだろうか。ハンターたちは息を呑んで彼らの行動を見守るしかない。
慎重に小屋に吊るされた肉の匂いを嗅ぐと、いとも簡単に引きずり落とす。2羽分の肉を離れたところに放り投げ、残った肉に喰らい付く。
すべて喰らい尽くすまでに、そう時間は掛からなかった。舌なめずりをしながら2頭のコボルドたちは周囲の匂いを探り始める。残った1頭は残った肉を咥えると、元来た道を辿るように駆け出した。
住処へ戻るのでろうか。さっそくコボルドが二手に分かれるとは意外だったが、彼らの中にも役割分担があるのかもしれない。カズマとユウは疾走するコボルドの背を見送ると、追跡を始めた。万が一のために、ルナリリルは残った2頭の様子を息を潜めて見守ることにする。緋百合は一瞬迷うが、追撃班とは別ルートから住処へ戻るコボルドを追うために走り出す。
残された2頭のコボルドたちが、突如低い唸り声を上げ始めた。彼らが警戒を始めたのは、無道が潜む藁であった。一定距離を置いて、藁の周囲をぐるぐると歩き出す。
予想以上にコボルドの鼻は利くらしい。藁の中から無道はのそりと身を起こした。途端、コボルドたちは牙を剥いて低い唸り声を上げた。
●飢えたコボルド
「コボルドも食糧事情が大変と言えば大変だろうが、人間の方も大変なんでな!」
2頭のコボルドが飛び掛かってくる。しかし同時に迎え撃つのは難しい。その時、どこからともなく弓矢が飛んできた。クオンが放った弓矢は、コボルド横腹を掠める、コボルドはキャン、と子犬のような声を上げて雪に転がる。
残る1頭を構えた細身の刃で一閃するが、身を翻して逃れたのは一瞬、再び雪を蹴り、鋭い牙を剥きだして無道へ飛び掛かる。村雨丸で切り裂くよりもコボルドの動きが早かった。刀を握る拳にコボルドの牙が食い込んだ。
「……!」
あまりの痛みに声にならない。咄嗟にコボルドの横っ面を殴打するが離れない。そうしている間にもう1頭が、無道に牙を剥く姿が目に入る。解体小屋の近くに潜むルナリリルが、助太刀に向かおうとした時だった。
「こいつはわたしに任せろ!」
同じく迎撃班であるレイアが長い髪をなびかせ、黄金の長剣を抜き放つ。ほぼ同時にクオンの加速した弓矢が放たれる。無道の拳に喰らい付くコボルドの脳天を貫く。その体は大きく痙攣して動きを止めた。呆気ない終わりに拍子抜けするが、拳の傷はかなりのダメージだ。マテリアルヒーリングで傷を癒すと、ようやく脂汗を拭った。
レイアという新たな敵の出現に、不利だとコボルドなりに感じたのか、仲間が殺されて思うことがあったのか。コボルドは彼女の剣を逃れると、一目散に村の方角へと疾走した。
「行かせない!」
レイアは全力疾走で逃れるコボルドを追う。積雪にはわずかだが血の雫が散っていた。
小夜は待っていた。いつまで雪の上で待っていればいいのだろうと、いい加減雪の冷たさに辟易していた頃だった。疾走する獣の気配に、待ってましたと飛び起きた。
「こんばんは!ヴォーパルバニーです!バックスタブ失礼します!」
コボルドは突然行く手を阻まれ、動揺するようにたたらを踏む。同じく後を追ってきたレイアも目を剥くが、驚きの声は辛うじて飲み込んだようだ。
何度かの襲撃で慣れているのか、コボルドにとっては村へ逃げ込んだ方が有利なのかもしれない。しかしそんなこと許すはずがない。
「お前を村へ行かせるわけにはいかない」
魔剣を突きつけ、レイアは逃れるコボルドとの距離を一気に詰める。渾身の一撃を叩き込む。しかしコボルドも必死だ。満身創痍になりつつも、さらに逃れようとする。
逃がすまいと、小夜は苦無を構える。疾風剣で止めを刺そうと思っていたというのに、意外とすばしっこい。
「この兎の間合いに入らないとは!本能的に長寿タイプだが、すでに遅い!」
次元斬の餌食となっては、もうコボルドは逃げる余地がない。どうっとコボルドが倒れると、白い雪は瞬く間に真っ赤に染まっていった。
●住処
コボルドを追い、気づけばずいぶんと森の奥へと足を踏み入れていた。最初は木々もまばらでナイトカーテンやアクセルオーバーを駆使して移動していたが、次第に使う必要がないほど木々が密集する場所まで入り込んでいた。
カズマは時折雪玉を作っては、下に落として目印を作る。
ユウの下へ、ルナリリルから無線で連絡が入った。残った2頭は退治したということだ。迎撃班も今からこちらへ向かうとのことだ。さっそくどこかで潜んでいるカズマへ連絡を入れる。
「住処を辿る手掛かりは、こいつが頼りというわけか」
「そうですね」
一定の距離を保ちつつ、2人は慎重にコボルドを追う。雪が次第に深くなり、雪の中に沈んで進むコボルドの姿を何度も見落としそうになる。そうしてまた姿が見えなくなったのは、朽ち果てた大樹の根元だった。
双眼鏡から目を離したカズマは最後の雪玉を落とした。
「緋百合、聞こえる? 巣を発見したよ」
ユウはさっそく緋百合に無線連絡をする。迎撃班はカズマとユウを追う班、別ルートからコボルドを追っていた緋百合を追う班と二手に分かれていた。合流は間もなくだ。その間に、住処から数頭のコボルドの姿を確認した。幸い出入り口は一カ所のようだ。ここに15頭ものコボルドが住んでいるとなると、かなり奥は深いのだろう。
そうしてひっそりと、雪深い森の中で無事全員が集まった。
●コボルドを殲滅せよ
ここからは短期決戦だ。近距離攻撃と遠距離攻撃の二手に分かれて確実に仕留める。
それぞれの役割を決めると、ハンターたちは行動を開始した。
巣への潜入は、緋百合、ユウ、小夜が向かう。
先陣を切った緋百合を迎えたのは、無数に感じるほどのコボルドたちの目だった。白い炎を纏った彼女は獰猛そうな笑みを浮かべる。
「まぁどんな理由であれ今回は運がなかったと思って諦めてくれ。一匹残らず殲滅する」
炎を恐れるコボルドたちは、揺らめく彼女の姿に恐れおののく。集炎瞬華によって出現した白炎の槍で襲い掛かるコボルドを貫き、緋百合の攻撃を逃れたコボルドからの攻撃は小夜が疾風剣で封じ込めるといった連携を取る。
「くらえ!」
1頭1頭仕留めていくが、やはりこちらも数が多いとさばき切れない。妹2人をサポートするようにユウは壁歩きで注意を引き付け、ナイトカーテンで奇襲を掛ける。しかし必殺の一撃とはならない。
入口で構える無道を無視してコボルドたちは外へと逃れようと必死だ。また噛みつかれてたまるかと、やられる前に踏込と強打で撃退する。それでも仲間を盾にしてすり抜けるコボルドもいる。
食い止めきれなかったものをレイアとルナリリルがさらに食い止める。魔剣を振るうたびに、白い雪に鮮血が散る。ルナリリルは彼女の剣を逃れて逃げ出そうとする者、背後から襲い掛かろうとする者を十二偽光でまとめて叩く。白い雪はますます赤く染まる。もちろん、コボルドの流したものだけではなかった。
木の上で待機するカズマとクオンは、連携を取って逃げ出し住処から離れたコボルドを確実に仕留める。カズマが双眼鏡で確認をしながら指示を出し、クオンが弓を引いて息の根を止めていった。
巣の中ではまだ戦いは続いていた。数は減ったが、同時にハンター4人も同じく疲弊していた。
「【朔】+【月華】でまとめて貫くよ!」
残りは5頭もいないはずだ。一気に叩くと小夜の宣言に、ユウ、緋百合は頷いた。一体何が始まるんだと、無道はきょとんとしている。仲間を背に、敵を正面に。形が整った時、小夜は叫んだ。
「くらっとけぇ!!」
強烈なマテリアル光が暗い巣の中で爆発するかのように炸裂した。
●任務完了
「緋百合、怪我はない?」
「お姉ちゃん……」
妹を気遣うユウの方が傷は多いくらいだ。緋百合は痛ましそうに眉を潜める。
巣の中をレイアと無道が調査する。外へ逃げ出し倒したコボルドはカズマが調査を行う。村の解体場で倒したものを合わせると、全部で15頭であった。
ユウ、緋百合、無道たちの手によって、すべてのコボルドの埋葬が行われた。コボルドたちも生きるために必死だった。また彼らの血の匂いが新たな脅威を招かないために。ハンターたちは黙祷を捧げる。
「村人達に安心してもらえるよう報告ができるな」
レイアは疲れたように呟きを漏らすと、思い出したように無道が自分の匂いを嗅ぐと顔を顰める。
「戻ったら、体を洗いたい……」
無道の情けない声に、一同に笑いが起こった。高く上がった朝の陽射しが、雪原に眩い光を落としていた。
「こんな辺鄙な村に、ようこそお越しくださいました」
到着したハンターたちの下へ、ヘイネス・アルマンが歩み寄る。彼の背後には、人だかりが。村人の半数が揃っているのではなかろうか。それほど彼らはハンターたちの到着を待ちわびていたのだろう。疲れた彼らの表情に安堵の色が宿る。
このままだと歓迎の宴でも始まりそうな勢いだが、今はそれどころではない。
「餌がなくて凶暴化、ねえ。本来であれば冬に備えてため込むはずじゃあねえのかな」
「コボルドは冬眠し損ねた熊じゃないんとはいっても、春になってこれ以上増えられても対処ができなくなるのでここでしっかり討伐したいですね」
コボルドの情報を聴き出していたクオン・サガラ(ka0018)と龍崎・カズマ(ka0178)は苦い溜息を吐く。
村人が用意した簡易的な地図を手に、それぞれ入手したコボルドの動向を確認する。雪に残された足跡や狩猟に出た者の話から、巣がある方向ほぼ洗い出し出来そうだ。しかし村への侵入経路はまちまちで、警備する者たちを悩ませているという。やはり撒き餌で誘き出す方法を取るのが有効のようである。
さっそくおびき出しのために使う撒き餌の交渉に入ろうとするが、すでに村側で鶏を6羽用意しているという。ハンターたちは村の負担を減らそうと買い取りを申し出るが、アルマン氏は首を振る。
「お心遣いありがとうございます。ですが、私たちも危険な任務を受けてくださったハンターの方々に、これ以上の負担はお掛けしたくないのです」
なかなかヘルマン氏は頑固のようだ。鶏は村人がそれぞれ持ち寄ったもので、村人たちも同じ気持ちであると力説する。
ハンターたちは顔を見合わせる。ただえさえ家畜が減っているのだからと説得しようとするが、ヘルマン氏をはじめとする村人はなかなか頑固である。
説得するのは困難だと判断したハンターたちは、彼らの申し出を好意として受け取ることにするしかなかった。
「……これ以上被害が広がる前になんとしても退治しないとだね」
コボルドにも事情があるのだろうが被害をここで食い止めなければ、村は壊滅してしまう。ユウ(ka6891)はひっそりと隣りの冷泉 緋百合(ka6936)に囁いた。
居住地から離れた場所に家畜の解体小屋がある。普段から使用しているせいもあり生臭い匂いが残っていた。
「裏事情とか政治的な都合とか細かな折衝とか考えないでいい仕事は久々な気がするが……相変わらず世界には厄介事が絶えないな」
解体作業を終えたルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は、うーんと伸びをする。
解体した鶏がぶら下がった小屋からは濃い血の匂いが漂う。前回コボルドが出現したのは警備が交代する夜明け。だからといってまた夜明けとは限らない。
「風は……今は北西よりだな」
無道(ka7139)が手をかざして風向きを伺う。だが風は常に同じ方向とは限らない。常に風向きに注意しながら待機する必要がある。
「うーむ…雪駄とかスノーシューとかあれば良かったんだが……」
ルナリリルが小さく唸る。クオンのフライングスレッドは雪上を移動するには最適のアイテムだ。あってもいいかもしれないと考える彼女の傍らで、クオンは適切な待機場所を目視で確認する。彼の視線は、白い雪に覆われた小高い丘へと向けられていた。
「この距離なら反応される前に絶命しているでしょうから……問題はないですね」
お互いの武運を祈ると、それぞれの配置へと向かう。クオンは颯爽と白い丘へ向かい、無道は撒き餌の側で待機の準備を始める。村人に譲り受けた家畜の敷き藁で、敢えて家畜の臭いをまとうことにする。
「その臭いなら、コボルドの鼻を誤魔化せそうだな」
「だろう?」
必要とはいえ、この臭いは少々強烈だ。任務のためだと、無道は勢いよく藁の中に身を潜ませた。
●コボルド襲撃
コボルドが現れたのは夜明け直後だった。数は3頭。多少痩せてはいるが身体は大きい。西から吹く風の中、迎撃班、追撃班ともに日の出を背に彼らを待ち構えていた。
「……来た」
迎撃班であるレイア・アローネ(ka4082)は慎重に忍び込んで来たコボルドの姿を静かに見守ってた。風向きに注意を傾けながら、彼らの進行に合わせて移動を開始する。
ユウから連絡を受けたルナリリルは、撒き餌にほど近い木の上で待機していた。村はずれだから建物はないものの、木はいくらでもある。藁の中で待機する無道に合図を送ると、コボルドの登場を待ち構える。
解体小屋を見下ろす位置で待機するクオンの場所から、まだコボルドの姿を確認できない。カズマからの連絡を受け、雪穴に潜り込むと毛布の隙間から様子を伺う。
玉兎 小夜(ka6009)は村で村人と共に待機していた。コボルドに異変を勘付かれないよう、夜の見張りも普段通りに行っていた……が寒い。寒すぎる。火も焚けないのは辛すぎる。
こうなったら、コボルド襲撃に備えて待機の準備だ。
「……保護色!! 」
雪の上につっぷし、髪を散らした姿はまさに白うさぎである。しかし、やはり寒い。
「あのお、風邪を引きますよ?」
見かねた村人が、こそっと声を掛ける。大丈夫! と答えようとするが、代わりに出たのは小さなくしゃみであった。
木々に身を潜ませたカズマは、コボルドの姿を双眼鏡で追う。幸いこちらには気づいていないようだが、いつ風向きが変わるかわからないので油断はできない。
雪原をコボルドが疾走する。血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。血走った目と牙が覗く口からは止めどなく滴る涎が糸を引いている。まさに獰猛そのものである。
彼らが解体小屋へ辿り着くまでに、そう時間は掛からなかった。
撒き餌から近い無道、ルナリリルは生々しいコボルドの気配に息を潜ませる。
真っ先に肉に食らいつくと思っていたが、意外なことにコボルドたちの動きは慎重であった。まさか罠だと気付いたのだろうか。ハンターたちは息を呑んで彼らの行動を見守るしかない。
慎重に小屋に吊るされた肉の匂いを嗅ぐと、いとも簡単に引きずり落とす。2羽分の肉を離れたところに放り投げ、残った肉に喰らい付く。
すべて喰らい尽くすまでに、そう時間は掛からなかった。舌なめずりをしながら2頭のコボルドたちは周囲の匂いを探り始める。残った1頭は残った肉を咥えると、元来た道を辿るように駆け出した。
住処へ戻るのでろうか。さっそくコボルドが二手に分かれるとは意外だったが、彼らの中にも役割分担があるのかもしれない。カズマとユウは疾走するコボルドの背を見送ると、追跡を始めた。万が一のために、ルナリリルは残った2頭の様子を息を潜めて見守ることにする。緋百合は一瞬迷うが、追撃班とは別ルートから住処へ戻るコボルドを追うために走り出す。
残された2頭のコボルドたちが、突如低い唸り声を上げ始めた。彼らが警戒を始めたのは、無道が潜む藁であった。一定距離を置いて、藁の周囲をぐるぐると歩き出す。
予想以上にコボルドの鼻は利くらしい。藁の中から無道はのそりと身を起こした。途端、コボルドたちは牙を剥いて低い唸り声を上げた。
●飢えたコボルド
「コボルドも食糧事情が大変と言えば大変だろうが、人間の方も大変なんでな!」
2頭のコボルドが飛び掛かってくる。しかし同時に迎え撃つのは難しい。その時、どこからともなく弓矢が飛んできた。クオンが放った弓矢は、コボルド横腹を掠める、コボルドはキャン、と子犬のような声を上げて雪に転がる。
残る1頭を構えた細身の刃で一閃するが、身を翻して逃れたのは一瞬、再び雪を蹴り、鋭い牙を剥きだして無道へ飛び掛かる。村雨丸で切り裂くよりもコボルドの動きが早かった。刀を握る拳にコボルドの牙が食い込んだ。
「……!」
あまりの痛みに声にならない。咄嗟にコボルドの横っ面を殴打するが離れない。そうしている間にもう1頭が、無道に牙を剥く姿が目に入る。解体小屋の近くに潜むルナリリルが、助太刀に向かおうとした時だった。
「こいつはわたしに任せろ!」
同じく迎撃班であるレイアが長い髪をなびかせ、黄金の長剣を抜き放つ。ほぼ同時にクオンの加速した弓矢が放たれる。無道の拳に喰らい付くコボルドの脳天を貫く。その体は大きく痙攣して動きを止めた。呆気ない終わりに拍子抜けするが、拳の傷はかなりのダメージだ。マテリアルヒーリングで傷を癒すと、ようやく脂汗を拭った。
レイアという新たな敵の出現に、不利だとコボルドなりに感じたのか、仲間が殺されて思うことがあったのか。コボルドは彼女の剣を逃れると、一目散に村の方角へと疾走した。
「行かせない!」
レイアは全力疾走で逃れるコボルドを追う。積雪にはわずかだが血の雫が散っていた。
小夜は待っていた。いつまで雪の上で待っていればいいのだろうと、いい加減雪の冷たさに辟易していた頃だった。疾走する獣の気配に、待ってましたと飛び起きた。
「こんばんは!ヴォーパルバニーです!バックスタブ失礼します!」
コボルドは突然行く手を阻まれ、動揺するようにたたらを踏む。同じく後を追ってきたレイアも目を剥くが、驚きの声は辛うじて飲み込んだようだ。
何度かの襲撃で慣れているのか、コボルドにとっては村へ逃げ込んだ方が有利なのかもしれない。しかしそんなこと許すはずがない。
「お前を村へ行かせるわけにはいかない」
魔剣を突きつけ、レイアは逃れるコボルドとの距離を一気に詰める。渾身の一撃を叩き込む。しかしコボルドも必死だ。満身創痍になりつつも、さらに逃れようとする。
逃がすまいと、小夜は苦無を構える。疾風剣で止めを刺そうと思っていたというのに、意外とすばしっこい。
「この兎の間合いに入らないとは!本能的に長寿タイプだが、すでに遅い!」
次元斬の餌食となっては、もうコボルドは逃げる余地がない。どうっとコボルドが倒れると、白い雪は瞬く間に真っ赤に染まっていった。
●住処
コボルドを追い、気づけばずいぶんと森の奥へと足を踏み入れていた。最初は木々もまばらでナイトカーテンやアクセルオーバーを駆使して移動していたが、次第に使う必要がないほど木々が密集する場所まで入り込んでいた。
カズマは時折雪玉を作っては、下に落として目印を作る。
ユウの下へ、ルナリリルから無線で連絡が入った。残った2頭は退治したということだ。迎撃班も今からこちらへ向かうとのことだ。さっそくどこかで潜んでいるカズマへ連絡を入れる。
「住処を辿る手掛かりは、こいつが頼りというわけか」
「そうですね」
一定の距離を保ちつつ、2人は慎重にコボルドを追う。雪が次第に深くなり、雪の中に沈んで進むコボルドの姿を何度も見落としそうになる。そうしてまた姿が見えなくなったのは、朽ち果てた大樹の根元だった。
双眼鏡から目を離したカズマは最後の雪玉を落とした。
「緋百合、聞こえる? 巣を発見したよ」
ユウはさっそく緋百合に無線連絡をする。迎撃班はカズマとユウを追う班、別ルートからコボルドを追っていた緋百合を追う班と二手に分かれていた。合流は間もなくだ。その間に、住処から数頭のコボルドの姿を確認した。幸い出入り口は一カ所のようだ。ここに15頭ものコボルドが住んでいるとなると、かなり奥は深いのだろう。
そうしてひっそりと、雪深い森の中で無事全員が集まった。
●コボルドを殲滅せよ
ここからは短期決戦だ。近距離攻撃と遠距離攻撃の二手に分かれて確実に仕留める。
それぞれの役割を決めると、ハンターたちは行動を開始した。
巣への潜入は、緋百合、ユウ、小夜が向かう。
先陣を切った緋百合を迎えたのは、無数に感じるほどのコボルドたちの目だった。白い炎を纏った彼女は獰猛そうな笑みを浮かべる。
「まぁどんな理由であれ今回は運がなかったと思って諦めてくれ。一匹残らず殲滅する」
炎を恐れるコボルドたちは、揺らめく彼女の姿に恐れおののく。集炎瞬華によって出現した白炎の槍で襲い掛かるコボルドを貫き、緋百合の攻撃を逃れたコボルドからの攻撃は小夜が疾風剣で封じ込めるといった連携を取る。
「くらえ!」
1頭1頭仕留めていくが、やはりこちらも数が多いとさばき切れない。妹2人をサポートするようにユウは壁歩きで注意を引き付け、ナイトカーテンで奇襲を掛ける。しかし必殺の一撃とはならない。
入口で構える無道を無視してコボルドたちは外へと逃れようと必死だ。また噛みつかれてたまるかと、やられる前に踏込と強打で撃退する。それでも仲間を盾にしてすり抜けるコボルドもいる。
食い止めきれなかったものをレイアとルナリリルがさらに食い止める。魔剣を振るうたびに、白い雪に鮮血が散る。ルナリリルは彼女の剣を逃れて逃げ出そうとする者、背後から襲い掛かろうとする者を十二偽光でまとめて叩く。白い雪はますます赤く染まる。もちろん、コボルドの流したものだけではなかった。
木の上で待機するカズマとクオンは、連携を取って逃げ出し住処から離れたコボルドを確実に仕留める。カズマが双眼鏡で確認をしながら指示を出し、クオンが弓を引いて息の根を止めていった。
巣の中ではまだ戦いは続いていた。数は減ったが、同時にハンター4人も同じく疲弊していた。
「【朔】+【月華】でまとめて貫くよ!」
残りは5頭もいないはずだ。一気に叩くと小夜の宣言に、ユウ、緋百合は頷いた。一体何が始まるんだと、無道はきょとんとしている。仲間を背に、敵を正面に。形が整った時、小夜は叫んだ。
「くらっとけぇ!!」
強烈なマテリアル光が暗い巣の中で爆発するかのように炸裂した。
●任務完了
「緋百合、怪我はない?」
「お姉ちゃん……」
妹を気遣うユウの方が傷は多いくらいだ。緋百合は痛ましそうに眉を潜める。
巣の中をレイアと無道が調査する。外へ逃げ出し倒したコボルドはカズマが調査を行う。村の解体場で倒したものを合わせると、全部で15頭であった。
ユウ、緋百合、無道たちの手によって、すべてのコボルドの埋葬が行われた。コボルドたちも生きるために必死だった。また彼らの血の匂いが新たな脅威を招かないために。ハンターたちは黙祷を捧げる。
「村人達に安心してもらえるよう報告ができるな」
レイアは疲れたように呟きを漏らすと、思い出したように無道が自分の匂いを嗅ぐと顔を顰める。
「戻ったら、体を洗いたい……」
無道の情けない声に、一同に笑いが起こった。高く上がった朝の陽射しが、雪原に眩い光を落としていた。
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コボルト殲滅作戦 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/02/27 12:23:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/25 09:08:00 |