ゲスト
(ka0000)
【陶曲】灰色の一夜城~フマーレ
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/09 07:30
- 完成日
- 2018/03/23 23:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●あんたら闇が好きねェ
深淵の闇……。
「嫉妬王よ。魔術師協会が、そのような企みを?」
白い仮面を付けた男…カッツォ・ヴォイ(kz0224)は、『我が君』と従う嫉妬王ラルヴァの御前にて、右膝をつき、頭を下げた。
「アメンスィが、わしの『腕』を破壊したのは魔術師協会の内部……我々、嫉妬の眷属を見下しているのだよ」
ラルヴァが、淡々と告げた。
我が君の言葉に、カッツォは激しい憎しみを顕にした。
「アメンスィめ、どこまで、我々を侮辱すれば気がすむのだ……許せぬ。いや、アメンスィだけではない。魔術師協会も、この大地と共に消し去り、『無』へと回帰させてやろうではないか」
「……カッツォ、君は本当によくやってくれているな」
凍てつく瞳でラルヴァが言うが、カッツォは恍惚に満ちた声で応えた。
「お褒めの言葉、それだけで十分でございます。次の策では、私が自ら……」
「ふむ、そうかい。君が、そうしたいなら、そうすれば良い」
ラルヴァはそう言った後、闇の中へと消えていった。
●誰かさんも夜の闇が好きねェ
同盟領の蒸気工業都市「フマーレ」の朝は早い。
物作りと生産性を求め工場など機能整備した街だ。工場の始動自体はそこまで早くはないが、朝一番からの効率を求めた場合、効果的な準備は当然その前にということになる。
もちろんそれをするのは一部の人かもしれないが、そういった人たちの観察力は鋭い。これから働く皆のために、一緒に取り組む仲間のために、工場に異常がないかなど点検する習慣も身に着いているから。
もっとも、「それ」に気付いたのは流通を支える人たちだったが。
「あれ……。おい、なんだありゃ?」
白みがかった早朝の空の下、商用馬車の御者が右手をひさしに遠くを見る。
「え? 昨晩まであんなものなかったのに」
別の場所。鶏の産んだばかりの卵を集める籠を肘に掛けた婦人が不思議がる。
「吟遊詩人のおとぎ話じゃねぇかよ、こりゃあ」
さらに別の場所。あくびをして眠そうだった男の目が完全に覚めた。
それほど――。
そう。
それはそれほど人々の関心を引くものだった。
「まさか、石造りの城が一晩でこんなに近くにできるなんて……」
誰かの言葉だが、皆の言葉といっていい。
フマーレの郊外に、灰色の城壁に囲まれた城がそびえていたのである。
●その日のフラ・キャンディ
「ふぁ~あ……おはよう、シエラさん」
三角帽子に大きなTシャツみたいな寝巻を着たフラ・キャンディ(kz0121)が階段から下りて来た。
ここは、フマーレの一角にあるチョコレート専門店「チョコレート・ハウス」。
店舗機能だけではなく、居住空間もあったようで。オーナーのシエラ・エバンスがダイニングキッチンでフラを迎え入れる。
「おはよう、フラちゃん。ミルクと紅茶、どっちがいい?」
「ミルク~……あれ? ジルさんは?」
眠い目を指でこしこしやりながら聞いてくる。もう一方の手には猫のぬいぐるみが。
「おじいさんの朝は早いものでしょ? もう起きて散歩に出掛けてるわ」
くすくす微笑してミルクとクロワッサンを用意するシエラ。
どうやらフラ、先日フマーレの旧最終処分場でハンター仕事をしたこともあってチョコレート・ハウスに泊まっていたようで。後見人のジルもついて来ていた。
「ワシだけではなくシエラも早いではないか」
ここで散歩に出ていたジルが戻ってきた。
「早起きおじいさんがお腹を空かせて店の商品に手を出さないとも限りませんからね」
「そんなことするわけないじゃろ……それより聞いてくれ。事件じゃ」
ジル、からかわれて不満そうだったがすぐに真面目な口調になった。
「フマーレ郊外に一晩のうちに灰色の城が現れたらしい。役人が改めに行ったが誰も出ず中から矢を放たれたそうじゃ。不気味な雰囲気でもあるし歪虚の仕業と断定し、ハンターに対応を求めるらしいが……」
「お城? 一晩のうちに?!」
フラ、完全に目覚めた。
興味を引かれたようで前のめりで目を輝かせている。
「誰が住んでるの?」
「いや。じゃからそれが分からんからハンターに確認を依頼するんじゃ。……といっても明らかに不自然じゃからまず間違いなく歪虚が絡んでおろう。であるなら、早急に街の防御も固めたいらしいが派手に動くと向こうも急いで対応する恐れがあるというので、まずはサーカス団に偽装してもらって……」
「サーカス?」
フラ、さらに前のめりでキラキラ。
「上空からの偵察も必要じゃろ? ただ、城の正門とは違う城壁から兵士のものらしい足跡が伸びている、フマーレ付近の岩場に折れた矢が散乱している、などの異常も確認されておる。……もしもフマーレ侵攻のための準備ならばこちらも防備を固める必要がある。偽装サーカス団として空を飛べる幻獣を集め強硬偵察し、街の端に監視用の櫓を組んでその骨組みの内側に機械ユニットを忍ばせ布で覆い緊急出動に備えるなど案が挙がっておる」
「うわー、面白そ。ボク、行ってくるよ!」
というわけで、一夜城の強硬偵察と各種ミステリーの確認、決戦用CAM待機櫓の設置、サーカスの上演をしてもらえる人、求ム。
深淵の闇……。
「嫉妬王よ。魔術師協会が、そのような企みを?」
白い仮面を付けた男…カッツォ・ヴォイ(kz0224)は、『我が君』と従う嫉妬王ラルヴァの御前にて、右膝をつき、頭を下げた。
「アメンスィが、わしの『腕』を破壊したのは魔術師協会の内部……我々、嫉妬の眷属を見下しているのだよ」
ラルヴァが、淡々と告げた。
我が君の言葉に、カッツォは激しい憎しみを顕にした。
「アメンスィめ、どこまで、我々を侮辱すれば気がすむのだ……許せぬ。いや、アメンスィだけではない。魔術師協会も、この大地と共に消し去り、『無』へと回帰させてやろうではないか」
「……カッツォ、君は本当によくやってくれているな」
凍てつく瞳でラルヴァが言うが、カッツォは恍惚に満ちた声で応えた。
「お褒めの言葉、それだけで十分でございます。次の策では、私が自ら……」
「ふむ、そうかい。君が、そうしたいなら、そうすれば良い」
ラルヴァはそう言った後、闇の中へと消えていった。
●誰かさんも夜の闇が好きねェ
同盟領の蒸気工業都市「フマーレ」の朝は早い。
物作りと生産性を求め工場など機能整備した街だ。工場の始動自体はそこまで早くはないが、朝一番からの効率を求めた場合、効果的な準備は当然その前にということになる。
もちろんそれをするのは一部の人かもしれないが、そういった人たちの観察力は鋭い。これから働く皆のために、一緒に取り組む仲間のために、工場に異常がないかなど点検する習慣も身に着いているから。
もっとも、「それ」に気付いたのは流通を支える人たちだったが。
「あれ……。おい、なんだありゃ?」
白みがかった早朝の空の下、商用馬車の御者が右手をひさしに遠くを見る。
「え? 昨晩まであんなものなかったのに」
別の場所。鶏の産んだばかりの卵を集める籠を肘に掛けた婦人が不思議がる。
「吟遊詩人のおとぎ話じゃねぇかよ、こりゃあ」
さらに別の場所。あくびをして眠そうだった男の目が完全に覚めた。
それほど――。
そう。
それはそれほど人々の関心を引くものだった。
「まさか、石造りの城が一晩でこんなに近くにできるなんて……」
誰かの言葉だが、皆の言葉といっていい。
フマーレの郊外に、灰色の城壁に囲まれた城がそびえていたのである。
●その日のフラ・キャンディ
「ふぁ~あ……おはよう、シエラさん」
三角帽子に大きなTシャツみたいな寝巻を着たフラ・キャンディ(kz0121)が階段から下りて来た。
ここは、フマーレの一角にあるチョコレート専門店「チョコレート・ハウス」。
店舗機能だけではなく、居住空間もあったようで。オーナーのシエラ・エバンスがダイニングキッチンでフラを迎え入れる。
「おはよう、フラちゃん。ミルクと紅茶、どっちがいい?」
「ミルク~……あれ? ジルさんは?」
眠い目を指でこしこしやりながら聞いてくる。もう一方の手には猫のぬいぐるみが。
「おじいさんの朝は早いものでしょ? もう起きて散歩に出掛けてるわ」
くすくす微笑してミルクとクロワッサンを用意するシエラ。
どうやらフラ、先日フマーレの旧最終処分場でハンター仕事をしたこともあってチョコレート・ハウスに泊まっていたようで。後見人のジルもついて来ていた。
「ワシだけではなくシエラも早いではないか」
ここで散歩に出ていたジルが戻ってきた。
「早起きおじいさんがお腹を空かせて店の商品に手を出さないとも限りませんからね」
「そんなことするわけないじゃろ……それより聞いてくれ。事件じゃ」
ジル、からかわれて不満そうだったがすぐに真面目な口調になった。
「フマーレ郊外に一晩のうちに灰色の城が現れたらしい。役人が改めに行ったが誰も出ず中から矢を放たれたそうじゃ。不気味な雰囲気でもあるし歪虚の仕業と断定し、ハンターに対応を求めるらしいが……」
「お城? 一晩のうちに?!」
フラ、完全に目覚めた。
興味を引かれたようで前のめりで目を輝かせている。
「誰が住んでるの?」
「いや。じゃからそれが分からんからハンターに確認を依頼するんじゃ。……といっても明らかに不自然じゃからまず間違いなく歪虚が絡んでおろう。であるなら、早急に街の防御も固めたいらしいが派手に動くと向こうも急いで対応する恐れがあるというので、まずはサーカス団に偽装してもらって……」
「サーカス?」
フラ、さらに前のめりでキラキラ。
「上空からの偵察も必要じゃろ? ただ、城の正門とは違う城壁から兵士のものらしい足跡が伸びている、フマーレ付近の岩場に折れた矢が散乱している、などの異常も確認されておる。……もしもフマーレ侵攻のための準備ならばこちらも防備を固める必要がある。偽装サーカス団として空を飛べる幻獣を集め強硬偵察し、街の端に監視用の櫓を組んでその骨組みの内側に機械ユニットを忍ばせ布で覆い緊急出動に備えるなど案が挙がっておる」
「うわー、面白そ。ボク、行ってくるよ!」
というわけで、一夜城の強硬偵察と各種ミステリーの確認、決戦用CAM待機櫓の設置、サーカスの上演をしてもらえる人、求ム。
リプレイ本文
●
「よぉし。支柱、上げろぉ!」
「ロープ引っ張れぇ!」
フマーレの広場に威勢のいい男たちの声が響く。
「うわあ。ワクワクするね、小太さん」
「はいフラっち、突撃しちゃだめよ~」
ふらふらっと作業場の方に行こうとするフラ・キャンディ(kz0121)の首根っこをキーリ(ka4642)が掴んで止めた。
「まー、気持ちは分からんでもないがな……なにせサーカスだ。血沸き肉躍るってもんだ」
隣ではトリプルJ(ka6653)が筋肉質の腕を組んで頷いている。
ちなみに弓月・小太(ka4679)がフラを止められなかったのは……。
「僕たちはビラ配りですよぉ、フラさん……あ、雪は持たなくていいですぅ」
ビラの束を両手で抱えていたからだ。なお、足元では雪(ユキウサギ)(ka4679unit001) がぴょんぴょんとビラ目掛けて跳ねている。どうやらビラを持ちたいようで。
「あ。雪ちゃん、小太さんの言うこと聞いてね♪」
フラ、小太のユキウサギを抱っこした。雪、これはこれで気分が良いようでむふー、と大人しくなった。
「それにしてもここって、つい最近うまいもの市と寄せ書きイベントやったばかりなのよねー」
気が休まらないわねー、とメルクーア(ka4005)。
「そして今度はサーカスでしょ、メルクーアさん。楽しいことばっかりだね!」
「あー、フラっちは目の前のことしか見えてないわね」
フラ、やっぱり小太に抱っこされたい雪を下ろして小太からチラシを受け取りつつ話に交ざるとまたしてもキーリからため息が。
「平和的なイベントの後にすぐ平和的じゃないことが起こってるってことだと思いますよぉ」
「よぉ、本当に城だったぜ」
雪を抱いた小太がフラに言ったところで、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がやって来た。なお、雪はむふー。
「城壁で囲まれていましたし、城と呼ぶにふさわしいでしょうね」
エルバッハ・リオン(ka2434)も一緒だ。グリムバルドとまずは遠くから見て来たのだ。
「たぶん敵なんだろうが、一夜で建てちまうとは凄ぇな。どれ、見せてくれ」
グリムバルド、こっちの様子も知るためにフラからチラシをもらいつつこぼす。
「あれだろ? 確かヒズミ―ランドは遊具自体が大型歪虚だったよなぁ……もしかして一日で出来た城ってこたぁ、あの城も歪虚か?」
「普通に考えれば歪虚の拠点なのでしょうね。しかし、私たちの注意を引く囮、もしくはこちらの戦力をおびき寄せて爆破すると いった罠の可能性もありますか」
Jが昨年末にヴァリオス郊外に歪虚が進出した手口を思い出す。エルバッハもそれが敵の戦力集積拠点であり複数の目的があったことに注意を促した。
「まったく……一夜城なんて格好いい事してくれるじゃない。バーンと驚かしてお客さんの視線を釘付け! を私より先にやるなんて」
「謎の一夜城か。うん……すっごい心当たりあるよね、ああいうの作りたがるやつ」
キーリは不満そうに口を尖らし、霧雨 悠月(ka4130)は指先でぽりと耳の前あたりをかいている。
悠月の言葉には小太もフラも汗たら~しながら「ありますねぇ、心当たり」とか、「だよね~」とか。
「新たな情報よ、フラちゃん」
そこに興行師のシェイクが。
「ヴァリオス近くで歪虚の大掛かりな侵攻が確認されたんですって。陸軍はそちらにくぎ付けになった増援はなし。駐屯の陸軍は数が少ないこともあるからフマーレの防衛に専念して、ハンター中心でこの事態に対応してくれって」
「まずは複数攻撃、ですか」
やはり何かありますね、と静かに思案顔をするエルバッハ。
「ふむ、なかなかきな臭い話ですね」
遅れてやって来た多由羅(ka6167)が話に加わる。
「また楽しそうだわね、この人は……」
「ちょっと気持ちは分かるかな?」
「キーリさんはともかく悠月さんも好戦的なの?」
「体を動かすのが好きとかぁ……そういうことだと思いますよぉ?」
「ちょっとフラっち、何か言った?」
「ああん、好戦的~」
「ほら、血が滾るっていうかさ」
「ゆ、雪? 滾って暴れちゃだめですよぉ」
キーリ、悠月、フラ、小太の順でお送りしました。雪は雰囲気から興奮したようで、小太に抱かれたまま意味もなく足をけっけっとしていたり。
「お? 滾るか。なかなか分かってるじゃねぇか」
J、悠月の肩に腕を回す。嬉しそうだ。
一方、賑やかにした張本人たる多由羅は。
「大まかな作戦が指示されています」
「今回はあくまで偵察のみという事ですか。承知しました」
エルバッハと冷静に打ち合わせしていたり。
「えらくにぎやかだな。……まあ、備える時間をくれるっていうならありがてぇ事だ」
グリムバルドはこの構図にやれやれと言った感じ。
と、静かに作業している人物に気付いた。
「そういうことかしらね~♪」
メルクーアである。視線に気付き見上げてにこぱ。
「何やってんだ?」
「いろいろやりたいことがあるのよね~」
どうやら横断幕を用意しているようで。
「おおい、設営手伝ってくれる人はこっちに来てくれないか~」
「行きますか」
「ああ」
フマーレ職人が遠くから呼ぶ声に、エルバッハとグリムが振り返った。
●
そこでは待機櫓用の丸太の加工が進んでいた。
「来たな。とりあえず現場に運んじまうんで魔導トラックと馬車の荷台にこれらを積んでくれないか?」
「お待ちを」
手始めの作業の手はずを聞いたエルバッハが待ったをかけた。
「ここが一番広いのですよね? ここで大まかな作業をして現地でははめ込んだり組み立てるだけにする方が効果的だと思います」
「んなこと言ってもばらばらにしてからじゃどれがどれだか分からなくなるぞ?」
「相手は一夜城だろ?」
ここでグリムバルドが頭をかきつつ口を挟んだ。
「一つずつやっていくより一斉にばっと櫓が上がった方が面白くねぇか?」
「ばらばらに関してはパーツを組み合せる箇所に同一の番号を書き込めば。……設置場所で時間を掛けて、城側の注意を引きたくないですから」
グリムの問い掛けとエルバッハの指摘。
「そりゃ分かるが、大型資材は移動が大変でなぁ」
「確かにここでやればサーカスの準備の一環って感じではあるが……」
「ばらして持ってくとなると、荷造りがなぁ」
職人たちの意見は、理解するが方法がな、な感じ。
「まあ待ってくれ」
ここでグリムの声。
言うと同時にすっとその場を離れた。
自らの魔導アーマー「プラヴァー」、アド・アストラ(ka4409unit003)に向かったのだ。
搭乗用の持ち手をぐっとつかみひらりとコクピットまで登って収まる。
「そのために俺たちを呼んだんだろ?」
グリム、アド・アストラの胴体部分に収まると両腕を動かした。右腕のクレーン「サルキナエ」の先端についた鉤状の先端が揺れ、左腕のアーマーペンチ「オリゾン」がガチンガチンと開閉した。
「おお……あれなら荷造りと荷捌き、手間掛からんぞ」
「ならよし! あの白い姉ェちゃんの案に乗って手早くやっちまうぞ、野郎ども!」
ストークカスタムされたアド・アストラの姿に見惚れていた職人たちはすぐに利便性を理解。作業に掛かった。支柱にする木材を切断し、組み込む穴をえぐったりし始めた。
「白い姉ェちゃん……ですか」
エルバッハの方は絶句したが、すぐにR7エクスシア「ウィザード」(ka2434unit003) に搭乗。
「わあっ。すごーい」
巨体に気付いた子どもたちからも歓声が上がる。
「ほう。魔法陣が描かれてるな」
「あれを櫓に隠しておくんだろ?」
「かなりやれそうだな」
職人たちは来るべき決戦に期待の視線を注いでいる。
一方、グリム。
「切った資材はこっちの魔導トラックに載せるのか?」
「いや、まずはこっちの馬車だ。いま玉掛けするから待ってくれ」
ういぃぃん、と伸ばしたクレーンの元に集まる職人たち。いくつかの角材を束にして結束し、クレーンの鉤に引っ掛ける。
「ようし、いいぞ。やってくれ」
「残ったのは数本ならこっちのペンチでも行けるぜ? よし、離れてくれ」
いくぜ、と操作し束になった資材を釣り上げる。見ていた子供たちはやんやの歓声だ。
「……すっかり現場の作業員ですね」
モニター越しに見ていたエルバッハもグリムのあまりの馴染みっぷりに感心していたり。
「さて、私も」
エルバッハ、ウィザードに片膝を付かせて長い木材を拾うのだった。
「あー。ついでに案があるんだがな」
おや。
グリムが何か職人に話し掛けているぞ?
「ああ。用意しておこう」
職人の返答。
一体何をするつもりなのか。
●
こちら、J。
「んじゃ俺様、せっかく調教師になったことだし相棒と絆を深めてくるぜ」
がしりと悠月の肩に回した腕を話しながら顎をしゃくる。
その先ではイェジド(ka6653unit002)が前肢を前に出して前傾姿勢をとり、伸びをしていた。
「城の周辺偵察だね。僕も行こう」
悠月もこちらだ。
イェジド「シグレ」(ka4130unit001)の幻獣鞍にひらりと乗った。
Jもそれに習う。
で、まずは首筋を撫でて聞く。
「ところで相棒、やっぱ上に乗る相手が調教師持ってた方がお前も動きやすかったりするのか?」
もちろんイェジドから返事はない。ただ、歩みはしっかりしている。
「きっと戦闘の苦しい場面とかで変わってくるんじゃないかな? でもイェジド二頭で行進も楽しいね」
隣を歩く悠月、ノッてきた。
そしてついに歌い出したり。
♪
軽業、神業、離れ業
さぁさ今夜は特別だ
ハラハラ、ドキドキ、魅惑の舞台
サーカス公演ご覧あれ
♪
シグレのステップとともに軽やかに歌う。
街行く人たちの視線を集め、何事かという疑問も歌でしっかりこたえて伝える。
「そういやサーカスもするんだったな……さて、どうするか」
Jは隣で少し思案してたり。
で、街を抜けた。
「弓矢を射かけてきた人型が中に居ることは分かってるんだ。飲食の搬入がなくて平気ってこたぁ、地下に別の搬入口があるか、中の人型も歪虚ってこったろうなぁ……」
「それについては心当たりがあるかな?」
双眼鏡で城を見たJのぼやきに悠月が返した。
「何だ?」
「足跡があるみたいだから、それをちょっと近寄って調べてみるつもり」
「じゃ、物資搬入の痕跡があるかも調べてくれ。俺はちょっと気になることがある」
悠月が城の近く、Jが一定距離を置いた場所を調べることになった。
その後、草原を自由に掛ける一頭のイェジドがいた。
鞍上は黒髪の中性的な男性。
ふと止まって、目の前にそびえ立つ灰色の一夜城城壁を見上げた。
に、と口元が緩む。
「まあ、予想通りかな」
悠月である。
「この兵士の足跡も何もない壁に続いてる……不思議だけど、壁が動けば可能だよね」
くす、と微笑。
そんなことがあるのか?
悠月が先ほど見上げていたのは、城の城壁隅にある塔の一部。
よく見ると、「R」の文字を装飾したマークがある。
「ルモーレのマーク。……あの時もルークが城壁に変形していたから」
動く城壁なら問題ないよね、とつぶやく。
念のために反対側に回ると草が広範囲に乱れていた。
「……チェスピースゴーレムが歩いた足跡を、枝のついた気を引きずって消した、みたいな感じだね」
正面以外に城門はなし、と呟き撤収する。
一方のJは念入りだ。
「城で目を引き付けて逆から侵攻とか、あいつらならやりそうだからな……また精霊が殺されるなんざさせねぇぜ」
広範囲に伏兵がいないか、ほかに城の目的となるものがないか調べている。
時にはイェジドから下りて膝を付き大地を確認する。
「……モグラか何かの穴か。よし、次に行くぞ」
立ち上がる振り返るJ。
待っていたイェジドは少しフマーレ側を気にしていた。結構遠出をしている。
「何だ、もう疲れたのか? 心配するな、相棒。夕暮れには戻るつもりさ」
イェジド、不満そうにすることもなくJを乗せて走る。
かなり遅くまで探したが、特に目立つ結果は得られなかった。
●
時は戻って出発直後、フマーレの街。
「じゃ、小太さん。ボクたちも行こう」
フラが皆を見送り振り返った時だった。
「よし、この板起こすぞ。落とすなよ、広いから割れるぞ!」
「任せとけって、せーの!」
「うわっ!」
「おい、何やってんだ!」
「すまねぇ、足をひねっちまった!」
「何だと? おい、不味いぞ!」
作業現場でトラブル発生!
皆で大きな板を立ち上がらせている最中、一人の男がうずくまってしまったのだ。少ない人数だったようで、とたんにふらふらと倒れそうになる。
「こ、、これはいけませんよぅ」
「え?」
これを見た小太、抱いていた雪を放り駆け出しうずくまった男の位置に入って板を支えた。びっくりするフラ。
「し、小太さん?」
「力仕事、手が足りてないならお手伝いするのですよぉ。こ、これでも一応男の子ですしぃ。…男の子ですしぃ」
いまにも倒れそうだった板の衝撃に耐え、ぐぎぎぎと歯を食いしばって全身を伸ばし、うずくまった男の代わりを務める。それはそれとして、二度言った!
「よぅし、ありがとな。いまだ、支柱をかましてくれ!」
「おお!」
無事に作業は完了し、小太とフラはビラ配りに。
「サーカス公演がありますのでよろしくですよぉ……あの、フラさん?」
手渡しに専念していた小太、フラの視線に気付いた。
フラ、ぽわわんとしてが見詰めていた小太に呼ばれたはっとした。
でもって赤くなる。
「あ、ううん。さっきの一生懸命なの、カッコよかったし今の横顔も優しいなあっ、て……」
「……はぅ」
小太も真っ赤になって固まってしまう。
「お兄ちゃん。私にもサーカスチラシ、ちょうだい」
「はわわっ……はい、どうぞですぅ」
二人して何やってんだか、欲しがる女の子にねだられてやっと元通りに戻ったり。
●
この頃、多由羅。
フマーレから城方面とは別の離れた岩場にて。
「さて、矢のようなものが散乱しているということですが」
リーリー「瑞那月」(ka6167unit001)に揺られて現場まで来ている。
減速してひらっと下りると、すぐに問題の物を発見した。
「……これは」
目を細めて片膝を付く。
岩場に落ちていたのは矢ではなかった。
「かなり細い木の棒と言ったところでしょうか」
拾い上げたのは細い角材といっていい。
「これで丸ければ槍にでもなりましょうか?」
ひゅん、となびかせて、ぴたり。力強く堂々とした構えだ。
が、その力強さに負けてぽきりと中折れした。
「軟弱な……木をしっかり乾かしてないとこうなりますね」
稽古にもなりません、と折れた棒を捨てた。
そして現場を一回りして気付いた。
散乱した棒のほとんどが折れている。
さらに大きな岩を発見。
「……ここに当たった痕跡がありますね」
やや欠けた表面を手で撫でて、反対側を向く。
その向こう――かなり離れた距離になるが――には、灰色の城。
「まさか、あそこからここを狙いましたか」
はっとしてフマーレの方を見る。
位置と距離関係は、城を中心とした二等辺三角形ではない。こちらの方がやや短いか。
つまりこれが城から放たれた矢であれば、現在の位置でフマーレを射程距離に捉えていない、ということ。
「少し前進すれば射程距離、ともいいますか……それに」
改めて、命中してから折れたと思しき棒を取り上げる。
間違いなく形状は通常の矢ではない。しかも槍にしていいほど長い。
「弓のように引くには向いていませんね」
ここではっと身構える多由羅。
「……誰ですか?」
気配を感じ斬魔刀「祢々切丸」 に手を掛ける。
が、岩陰からやって来たのは瑞那月。
ふうっ、と息をつき緊張を解く多由羅だった。
●
そして上空。
「さあ、いくわよスティンガー!」
メルクーアがワイバーン「スティンガー」(ka4005unit003)に乗って飛んでいる。
スティンガーには「サーカス団、来たる!」の懸垂幕をつけてたなびかせていたり。
「んふふ、こういうのワクワクするわねー」
そんなメルクーアの横に付いたのは、グリフォン「アースィファ」(ka4642unit003)を駆るキーリ。
なおキーリ、白い「ホーリーマスク」で顔を隠している。
「ほら、偵察で身バレするのも嫌だし。こういう仮面って強キャラっぽくない?」
「……えーと、服装でバレバレかしらね~」
「う、うっさいわよ。アヤしいマジシャンの如く飛ぶんだから」
「うん、怪しさは倍増かな?」
すいーっ、と先行するキーリ。こちらもサーカス公演の懸垂幕をなびかせている。
なお、文面は「サーカスなんだから来なさいよ!」。
ツンデレサーカスと勘違いされないか?
メルクーアが怪しがるのも無理はない。
「何よ、メルク―ちゃん。怪しいのはあっちじゃない」
言い返したキーリ。
指差したのはもちろん、灰色の一夜城だ。
「まあそうだけどねー」
双眼鏡で覗くメルクーアの返事。すでにやや呆れ気味。
というわけで、空から接近。
「やっぱりねー」
「あのならず者の城決定。……これほど分かりやすいってのもどうかと思うわ」
メルクーアとキーリ、呆れた。
城の一部に、「R」の文字を装飾したマークがある。
それだけではない。城壁の中にはビショップやルークの巨大なチェスの駒があるではないか。
これまで戦ったことのある、ルモーレのチェスピースゴーレムそのものである。
「ということは、前に灰を持ち逃げしてたのって……」
「そのまさか。白い駒が倒されたからって、黒にするためだけに灰を持ち逃げしたみたいね」
汗たら~のメルクーアに、ジト目のキーリ。
「でも、あの神殿みたいなのはこれまでなかったよね?」
「それよりあのならず者、いるのかしら?」
通信で話し合っていた二人、ぎゅんと左右から城内中心にあるパルテノン神殿みたいな建物に近寄ってみる。
その時だった。
――がしゃん、ガタン。どらららら……。
「わっ!」
「ちょっと、なにこれ?」
何と、神殿風建物が変形し二足歩行形態となり、大きな胴体の左右からミサイルランチャーのような円筒が出てきた。その中心に丸太があり、まるでダイコンの桂剥きのように回転しながら表面を削り、即座に刺身の「剣」のように細切り。それが飛んで来た。
その連射性能、侮りがたし!
「ちょっとこれ、手ごわいわよ!」
「あ!」
メルクーアがバレルロールしつつキーリに近付き多重性強化する間に、キーリはしっかりと敵の二階部分を注視していた。
そのテラスに、白い顔をした細マッチョの男が「おー」と言わんばかりに手をひさしにしてこっちを見ているではないか!
堕落者、ルモーレであるッ。
「まさか、わざわざ見に出てきたのかしら?」
「とにかく邪魔な懸垂幕は外して逃げるわよ~っ!」
呆れるキーリ。メルクーアは目標達成とばかりに離脱用意。
一方、ルモーレ。
「へええ、サーカスか」
打ち方を止めさせ、城内に落ちた懸垂幕を見詰めていた。
●
そしてフマーレの外縁地帯。
「あちらから連絡がありました。組み立てましょう」
魔導スマホを持ったエルバッハが職人に伝える。
「よし。じゃ、姉ェちゃんの掘った穴に支柱入れるぜ!」
「……その表現はよしてもらいたいですね」
確かにウィザードの魔導ドリルで空けた穴ではあるが。エルバッハとしては女性なので力仕事が得意と勘違いされたくない。
そこから離れた場所でも櫓が立っていた。
「……さて、作業を始めるとするか。決戦の日に皆が戦いやすくなるよう頑張らないとな」
おや。
グリムが新たにアーマーペンチで結束紐を切り丸太の荷を解いたぞ?
「兄ィちゃん、それは確かに余りだが何すんだ?」
「こうやって二つの櫓の間に木を渡して連結すりゃ、さらに機体を隠す空間ができるだろ?」
このアイデアで重装備の機体も収納しやすくなった。
「後はこいつだ」
櫓の外回りを覆う布には、サーカスの公演告知の派手な絵を描いてもらっていた。
「これなら布で覆ってても不審がられねぇだろ」
グリム、策士である。
●
そんなこんなで日が暮れて。
「小太さん!」
「は、はいですよぉ」
サーカスの開幕である。
大入りのテント広場の中心の舞台で、フラと小太がまずは踊っている。
といっても、身軽なフラがへそ出しひらひら衣装で小太を柱に見立てて絡みついたり逆立ちしたりして軽業を披露している。纏いつかれている小太もフラに合わせへそ出しのひらひら衣装。とにかく肌が密着する。
「昼間の力仕事見て、小太さんなら大丈夫って思ったんだ」
「そ、そうですかぁ?」
最後にお姫様抱っこしてポーズ。小太、真っ赤である。
そんな舞台袖では。
「また新しいゴーレムかぁ」
むー、と悠月が難しい顔をしていた。
「あれ、キングね、きっと。ルモーレいたし」
「今まで弱かった対空攻撃が強烈だったわね~」
説明するキーリとメルクーア。なお、城内にはチェスピースのほか泥人形などもいたようで。
「広域に調べたが、敵の目的が分からねぇ」
Jも首をひねっていた。
「街道封鎖がいつでもできるような移動をしてる足跡だけど、そういう感じでもないし」
城壁近くを調べた悠月の見解。
「フマーレへの侵攻でしょうか」
多由羅がそう言うのは、キーリとメルクーアが、というか二人のグリフォンが食らった攻撃に心当たりがあったから。
「その対空攻撃、もうちょっと前に出るとフマーレまで届くようです」
「じゃあどうしてあの位置に……」
多由羅の報告に考え込む悠月。
そこにエルバッハとグリムが戻ってきた。
「待機櫓は完成しました」
「いつでもあの中に配置できるぜ」
静かに話すエルバッハと楽しそうに言うグリム。
これでメルクーアがピンときた。
「まさか双方の駒が盤上に並ぶのを待ってたのかしらね~」
「やりそうだわね」
聞いたキーリは呆れ顔で同意する。
「じゃ、次お願いね」
ここでシェイクから出番の呼び出しが。
♪
おお、愛しのあの娘よ
我が恋がかなうか占って
♪
舞台で悠月が歌いながらグリムに問うていた。
「隠すのは得意だぜ?」
グリム、手品は心得がある。袖に隠した符を取り出しタロットのように占って見せる。
が、それは普通のタロットではなかった。
何と、テーブルにスプレッドした符が人形になって立ち上がったのだ。式符である。
♪
あの子を誘っていいものか?
♪
歌いながら聞いた悠月に、式符は肩を落として顔の前で「いやいや、ダメダメ」と手を振る。愕然としてコミカルによよよと崩れる悠月。観客から笑い声とやんやの拍手。
♪
とんだ答えにあの子も……
♪
「そう、飛べるのよ私。飛べるの!」
悠月のそばを通り過ぎたキーリ、気持ちよさそうに叫んで、空に浮いた!
いや、綱渡りだ!
ステージに渡した綱に足を掛け、まるで空を飛ぶように歩く。
実はキーリの手にした魔杖「スキールニル」が手品の種。
この杖に「マジックフライト」を掛けているのだ。これを持っているので宙に浮くことができる。
「インチキ? 違うわよ、夢を与える為のちょっとしたトッピングよ」
誰もそんなこと言ってません。
とにかく端まで歩くとグリフォン「アースフィア」登場。空を飛んでキーリの元へ行くと……。
「はっ!」
空中で一回転し、騎乗。
万雷の拍手の中、サービスで客席の上を飛んで手を振りつつ退場する。
その後もステージは続く。
「ほら。頼むぜ、相棒」
クラウンに扮したJ、口から火を噴き火の輪を作った。イェジドにこれをくぐらせようとするが、不満そうにそっぽを向いている。
そこに、道化化粧の悠月登場。
「シグレ!」
軽やかに指示すると、同時に出て来たイェジドは軽やかにジャンプし火の輪をくぐった。さらに悠月はシグレの背に乗って走り回る。
で、これを見たJのイェジドも腰を上げ、ジャンプ。
「よし、よくやったよくやった」
火の輪をくぐった後、Jが抱き着いてやると少し機嫌が直ったようで。
観客は温かい拍手を送る。
この時、入り口付近。
「おや?」
「あっ!」
多由羅の不審がる声に反応したフラ、大きな声をあげる。
「サーカス見に来ただけだ。金も払う。ここで騒ぎは起こしたくないだろ?」
何と、ルモーレがやって来たのだ。
「手を出せば客が危ないぜ? ま、後日相手してやるから」
「くっ!」
フラ、我慢するしかない。
舞台では露出度の高いハイレグ衣装を着たエルバッハが凛々しくステッキを回している。
そして小太が雪の周りに投げナイフ。
でもって、メルクーアは酒瓶のジャグリングからカクテルを作った。
自分が飲むのかと思いきや、グリフォンのスティンガーに飲ます。
メルクーアの仕込みだろう。スティンガーは酒を飲むと千鳥足に。
「わっはっは。面白れぇじゃねぇか!」
ルモーレ、客席で大うけしていた。
公演が大盛況で幕を閉じるころには、ルモーレの姿は消えていたという。
「よぉし。支柱、上げろぉ!」
「ロープ引っ張れぇ!」
フマーレの広場に威勢のいい男たちの声が響く。
「うわあ。ワクワクするね、小太さん」
「はいフラっち、突撃しちゃだめよ~」
ふらふらっと作業場の方に行こうとするフラ・キャンディ(kz0121)の首根っこをキーリ(ka4642)が掴んで止めた。
「まー、気持ちは分からんでもないがな……なにせサーカスだ。血沸き肉躍るってもんだ」
隣ではトリプルJ(ka6653)が筋肉質の腕を組んで頷いている。
ちなみに弓月・小太(ka4679)がフラを止められなかったのは……。
「僕たちはビラ配りですよぉ、フラさん……あ、雪は持たなくていいですぅ」
ビラの束を両手で抱えていたからだ。なお、足元では雪(ユキウサギ)(ka4679unit001) がぴょんぴょんとビラ目掛けて跳ねている。どうやらビラを持ちたいようで。
「あ。雪ちゃん、小太さんの言うこと聞いてね♪」
フラ、小太のユキウサギを抱っこした。雪、これはこれで気分が良いようでむふー、と大人しくなった。
「それにしてもここって、つい最近うまいもの市と寄せ書きイベントやったばかりなのよねー」
気が休まらないわねー、とメルクーア(ka4005)。
「そして今度はサーカスでしょ、メルクーアさん。楽しいことばっかりだね!」
「あー、フラっちは目の前のことしか見えてないわね」
フラ、やっぱり小太に抱っこされたい雪を下ろして小太からチラシを受け取りつつ話に交ざるとまたしてもキーリからため息が。
「平和的なイベントの後にすぐ平和的じゃないことが起こってるってことだと思いますよぉ」
「よぉ、本当に城だったぜ」
雪を抱いた小太がフラに言ったところで、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がやって来た。なお、雪はむふー。
「城壁で囲まれていましたし、城と呼ぶにふさわしいでしょうね」
エルバッハ・リオン(ka2434)も一緒だ。グリムバルドとまずは遠くから見て来たのだ。
「たぶん敵なんだろうが、一夜で建てちまうとは凄ぇな。どれ、見せてくれ」
グリムバルド、こっちの様子も知るためにフラからチラシをもらいつつこぼす。
「あれだろ? 確かヒズミ―ランドは遊具自体が大型歪虚だったよなぁ……もしかして一日で出来た城ってこたぁ、あの城も歪虚か?」
「普通に考えれば歪虚の拠点なのでしょうね。しかし、私たちの注意を引く囮、もしくはこちらの戦力をおびき寄せて爆破すると いった罠の可能性もありますか」
Jが昨年末にヴァリオス郊外に歪虚が進出した手口を思い出す。エルバッハもそれが敵の戦力集積拠点であり複数の目的があったことに注意を促した。
「まったく……一夜城なんて格好いい事してくれるじゃない。バーンと驚かしてお客さんの視線を釘付け! を私より先にやるなんて」
「謎の一夜城か。うん……すっごい心当たりあるよね、ああいうの作りたがるやつ」
キーリは不満そうに口を尖らし、霧雨 悠月(ka4130)は指先でぽりと耳の前あたりをかいている。
悠月の言葉には小太もフラも汗たら~しながら「ありますねぇ、心当たり」とか、「だよね~」とか。
「新たな情報よ、フラちゃん」
そこに興行師のシェイクが。
「ヴァリオス近くで歪虚の大掛かりな侵攻が確認されたんですって。陸軍はそちらにくぎ付けになった増援はなし。駐屯の陸軍は数が少ないこともあるからフマーレの防衛に専念して、ハンター中心でこの事態に対応してくれって」
「まずは複数攻撃、ですか」
やはり何かありますね、と静かに思案顔をするエルバッハ。
「ふむ、なかなかきな臭い話ですね」
遅れてやって来た多由羅(ka6167)が話に加わる。
「また楽しそうだわね、この人は……」
「ちょっと気持ちは分かるかな?」
「キーリさんはともかく悠月さんも好戦的なの?」
「体を動かすのが好きとかぁ……そういうことだと思いますよぉ?」
「ちょっとフラっち、何か言った?」
「ああん、好戦的~」
「ほら、血が滾るっていうかさ」
「ゆ、雪? 滾って暴れちゃだめですよぉ」
キーリ、悠月、フラ、小太の順でお送りしました。雪は雰囲気から興奮したようで、小太に抱かれたまま意味もなく足をけっけっとしていたり。
「お? 滾るか。なかなか分かってるじゃねぇか」
J、悠月の肩に腕を回す。嬉しそうだ。
一方、賑やかにした張本人たる多由羅は。
「大まかな作戦が指示されています」
「今回はあくまで偵察のみという事ですか。承知しました」
エルバッハと冷静に打ち合わせしていたり。
「えらくにぎやかだな。……まあ、備える時間をくれるっていうならありがてぇ事だ」
グリムバルドはこの構図にやれやれと言った感じ。
と、静かに作業している人物に気付いた。
「そういうことかしらね~♪」
メルクーアである。視線に気付き見上げてにこぱ。
「何やってんだ?」
「いろいろやりたいことがあるのよね~」
どうやら横断幕を用意しているようで。
「おおい、設営手伝ってくれる人はこっちに来てくれないか~」
「行きますか」
「ああ」
フマーレ職人が遠くから呼ぶ声に、エルバッハとグリムが振り返った。
●
そこでは待機櫓用の丸太の加工が進んでいた。
「来たな。とりあえず現場に運んじまうんで魔導トラックと馬車の荷台にこれらを積んでくれないか?」
「お待ちを」
手始めの作業の手はずを聞いたエルバッハが待ったをかけた。
「ここが一番広いのですよね? ここで大まかな作業をして現地でははめ込んだり組み立てるだけにする方が効果的だと思います」
「んなこと言ってもばらばらにしてからじゃどれがどれだか分からなくなるぞ?」
「相手は一夜城だろ?」
ここでグリムバルドが頭をかきつつ口を挟んだ。
「一つずつやっていくより一斉にばっと櫓が上がった方が面白くねぇか?」
「ばらばらに関してはパーツを組み合せる箇所に同一の番号を書き込めば。……設置場所で時間を掛けて、城側の注意を引きたくないですから」
グリムの問い掛けとエルバッハの指摘。
「そりゃ分かるが、大型資材は移動が大変でなぁ」
「確かにここでやればサーカスの準備の一環って感じではあるが……」
「ばらして持ってくとなると、荷造りがなぁ」
職人たちの意見は、理解するが方法がな、な感じ。
「まあ待ってくれ」
ここでグリムの声。
言うと同時にすっとその場を離れた。
自らの魔導アーマー「プラヴァー」、アド・アストラ(ka4409unit003)に向かったのだ。
搭乗用の持ち手をぐっとつかみひらりとコクピットまで登って収まる。
「そのために俺たちを呼んだんだろ?」
グリム、アド・アストラの胴体部分に収まると両腕を動かした。右腕のクレーン「サルキナエ」の先端についた鉤状の先端が揺れ、左腕のアーマーペンチ「オリゾン」がガチンガチンと開閉した。
「おお……あれなら荷造りと荷捌き、手間掛からんぞ」
「ならよし! あの白い姉ェちゃんの案に乗って手早くやっちまうぞ、野郎ども!」
ストークカスタムされたアド・アストラの姿に見惚れていた職人たちはすぐに利便性を理解。作業に掛かった。支柱にする木材を切断し、組み込む穴をえぐったりし始めた。
「白い姉ェちゃん……ですか」
エルバッハの方は絶句したが、すぐにR7エクスシア「ウィザード」(ka2434unit003) に搭乗。
「わあっ。すごーい」
巨体に気付いた子どもたちからも歓声が上がる。
「ほう。魔法陣が描かれてるな」
「あれを櫓に隠しておくんだろ?」
「かなりやれそうだな」
職人たちは来るべき決戦に期待の視線を注いでいる。
一方、グリム。
「切った資材はこっちの魔導トラックに載せるのか?」
「いや、まずはこっちの馬車だ。いま玉掛けするから待ってくれ」
ういぃぃん、と伸ばしたクレーンの元に集まる職人たち。いくつかの角材を束にして結束し、クレーンの鉤に引っ掛ける。
「ようし、いいぞ。やってくれ」
「残ったのは数本ならこっちのペンチでも行けるぜ? よし、離れてくれ」
いくぜ、と操作し束になった資材を釣り上げる。見ていた子供たちはやんやの歓声だ。
「……すっかり現場の作業員ですね」
モニター越しに見ていたエルバッハもグリムのあまりの馴染みっぷりに感心していたり。
「さて、私も」
エルバッハ、ウィザードに片膝を付かせて長い木材を拾うのだった。
「あー。ついでに案があるんだがな」
おや。
グリムが何か職人に話し掛けているぞ?
「ああ。用意しておこう」
職人の返答。
一体何をするつもりなのか。
●
こちら、J。
「んじゃ俺様、せっかく調教師になったことだし相棒と絆を深めてくるぜ」
がしりと悠月の肩に回した腕を話しながら顎をしゃくる。
その先ではイェジド(ka6653unit002)が前肢を前に出して前傾姿勢をとり、伸びをしていた。
「城の周辺偵察だね。僕も行こう」
悠月もこちらだ。
イェジド「シグレ」(ka4130unit001)の幻獣鞍にひらりと乗った。
Jもそれに習う。
で、まずは首筋を撫でて聞く。
「ところで相棒、やっぱ上に乗る相手が調教師持ってた方がお前も動きやすかったりするのか?」
もちろんイェジドから返事はない。ただ、歩みはしっかりしている。
「きっと戦闘の苦しい場面とかで変わってくるんじゃないかな? でもイェジド二頭で行進も楽しいね」
隣を歩く悠月、ノッてきた。
そしてついに歌い出したり。
♪
軽業、神業、離れ業
さぁさ今夜は特別だ
ハラハラ、ドキドキ、魅惑の舞台
サーカス公演ご覧あれ
♪
シグレのステップとともに軽やかに歌う。
街行く人たちの視線を集め、何事かという疑問も歌でしっかりこたえて伝える。
「そういやサーカスもするんだったな……さて、どうするか」
Jは隣で少し思案してたり。
で、街を抜けた。
「弓矢を射かけてきた人型が中に居ることは分かってるんだ。飲食の搬入がなくて平気ってこたぁ、地下に別の搬入口があるか、中の人型も歪虚ってこったろうなぁ……」
「それについては心当たりがあるかな?」
双眼鏡で城を見たJのぼやきに悠月が返した。
「何だ?」
「足跡があるみたいだから、それをちょっと近寄って調べてみるつもり」
「じゃ、物資搬入の痕跡があるかも調べてくれ。俺はちょっと気になることがある」
悠月が城の近く、Jが一定距離を置いた場所を調べることになった。
その後、草原を自由に掛ける一頭のイェジドがいた。
鞍上は黒髪の中性的な男性。
ふと止まって、目の前にそびえ立つ灰色の一夜城城壁を見上げた。
に、と口元が緩む。
「まあ、予想通りかな」
悠月である。
「この兵士の足跡も何もない壁に続いてる……不思議だけど、壁が動けば可能だよね」
くす、と微笑。
そんなことがあるのか?
悠月が先ほど見上げていたのは、城の城壁隅にある塔の一部。
よく見ると、「R」の文字を装飾したマークがある。
「ルモーレのマーク。……あの時もルークが城壁に変形していたから」
動く城壁なら問題ないよね、とつぶやく。
念のために反対側に回ると草が広範囲に乱れていた。
「……チェスピースゴーレムが歩いた足跡を、枝のついた気を引きずって消した、みたいな感じだね」
正面以外に城門はなし、と呟き撤収する。
一方のJは念入りだ。
「城で目を引き付けて逆から侵攻とか、あいつらならやりそうだからな……また精霊が殺されるなんざさせねぇぜ」
広範囲に伏兵がいないか、ほかに城の目的となるものがないか調べている。
時にはイェジドから下りて膝を付き大地を確認する。
「……モグラか何かの穴か。よし、次に行くぞ」
立ち上がる振り返るJ。
待っていたイェジドは少しフマーレ側を気にしていた。結構遠出をしている。
「何だ、もう疲れたのか? 心配するな、相棒。夕暮れには戻るつもりさ」
イェジド、不満そうにすることもなくJを乗せて走る。
かなり遅くまで探したが、特に目立つ結果は得られなかった。
●
時は戻って出発直後、フマーレの街。
「じゃ、小太さん。ボクたちも行こう」
フラが皆を見送り振り返った時だった。
「よし、この板起こすぞ。落とすなよ、広いから割れるぞ!」
「任せとけって、せーの!」
「うわっ!」
「おい、何やってんだ!」
「すまねぇ、足をひねっちまった!」
「何だと? おい、不味いぞ!」
作業現場でトラブル発生!
皆で大きな板を立ち上がらせている最中、一人の男がうずくまってしまったのだ。少ない人数だったようで、とたんにふらふらと倒れそうになる。
「こ、、これはいけませんよぅ」
「え?」
これを見た小太、抱いていた雪を放り駆け出しうずくまった男の位置に入って板を支えた。びっくりするフラ。
「し、小太さん?」
「力仕事、手が足りてないならお手伝いするのですよぉ。こ、これでも一応男の子ですしぃ。…男の子ですしぃ」
いまにも倒れそうだった板の衝撃に耐え、ぐぎぎぎと歯を食いしばって全身を伸ばし、うずくまった男の代わりを務める。それはそれとして、二度言った!
「よぅし、ありがとな。いまだ、支柱をかましてくれ!」
「おお!」
無事に作業は完了し、小太とフラはビラ配りに。
「サーカス公演がありますのでよろしくですよぉ……あの、フラさん?」
手渡しに専念していた小太、フラの視線に気付いた。
フラ、ぽわわんとしてが見詰めていた小太に呼ばれたはっとした。
でもって赤くなる。
「あ、ううん。さっきの一生懸命なの、カッコよかったし今の横顔も優しいなあっ、て……」
「……はぅ」
小太も真っ赤になって固まってしまう。
「お兄ちゃん。私にもサーカスチラシ、ちょうだい」
「はわわっ……はい、どうぞですぅ」
二人して何やってんだか、欲しがる女の子にねだられてやっと元通りに戻ったり。
●
この頃、多由羅。
フマーレから城方面とは別の離れた岩場にて。
「さて、矢のようなものが散乱しているということですが」
リーリー「瑞那月」(ka6167unit001)に揺られて現場まで来ている。
減速してひらっと下りると、すぐに問題の物を発見した。
「……これは」
目を細めて片膝を付く。
岩場に落ちていたのは矢ではなかった。
「かなり細い木の棒と言ったところでしょうか」
拾い上げたのは細い角材といっていい。
「これで丸ければ槍にでもなりましょうか?」
ひゅん、となびかせて、ぴたり。力強く堂々とした構えだ。
が、その力強さに負けてぽきりと中折れした。
「軟弱な……木をしっかり乾かしてないとこうなりますね」
稽古にもなりません、と折れた棒を捨てた。
そして現場を一回りして気付いた。
散乱した棒のほとんどが折れている。
さらに大きな岩を発見。
「……ここに当たった痕跡がありますね」
やや欠けた表面を手で撫でて、反対側を向く。
その向こう――かなり離れた距離になるが――には、灰色の城。
「まさか、あそこからここを狙いましたか」
はっとしてフマーレの方を見る。
位置と距離関係は、城を中心とした二等辺三角形ではない。こちらの方がやや短いか。
つまりこれが城から放たれた矢であれば、現在の位置でフマーレを射程距離に捉えていない、ということ。
「少し前進すれば射程距離、ともいいますか……それに」
改めて、命中してから折れたと思しき棒を取り上げる。
間違いなく形状は通常の矢ではない。しかも槍にしていいほど長い。
「弓のように引くには向いていませんね」
ここではっと身構える多由羅。
「……誰ですか?」
気配を感じ斬魔刀「祢々切丸」 に手を掛ける。
が、岩陰からやって来たのは瑞那月。
ふうっ、と息をつき緊張を解く多由羅だった。
●
そして上空。
「さあ、いくわよスティンガー!」
メルクーアがワイバーン「スティンガー」(ka4005unit003)に乗って飛んでいる。
スティンガーには「サーカス団、来たる!」の懸垂幕をつけてたなびかせていたり。
「んふふ、こういうのワクワクするわねー」
そんなメルクーアの横に付いたのは、グリフォン「アースィファ」(ka4642unit003)を駆るキーリ。
なおキーリ、白い「ホーリーマスク」で顔を隠している。
「ほら、偵察で身バレするのも嫌だし。こういう仮面って強キャラっぽくない?」
「……えーと、服装でバレバレかしらね~」
「う、うっさいわよ。アヤしいマジシャンの如く飛ぶんだから」
「うん、怪しさは倍増かな?」
すいーっ、と先行するキーリ。こちらもサーカス公演の懸垂幕をなびかせている。
なお、文面は「サーカスなんだから来なさいよ!」。
ツンデレサーカスと勘違いされないか?
メルクーアが怪しがるのも無理はない。
「何よ、メルク―ちゃん。怪しいのはあっちじゃない」
言い返したキーリ。
指差したのはもちろん、灰色の一夜城だ。
「まあそうだけどねー」
双眼鏡で覗くメルクーアの返事。すでにやや呆れ気味。
というわけで、空から接近。
「やっぱりねー」
「あのならず者の城決定。……これほど分かりやすいってのもどうかと思うわ」
メルクーアとキーリ、呆れた。
城の一部に、「R」の文字を装飾したマークがある。
それだけではない。城壁の中にはビショップやルークの巨大なチェスの駒があるではないか。
これまで戦ったことのある、ルモーレのチェスピースゴーレムそのものである。
「ということは、前に灰を持ち逃げしてたのって……」
「そのまさか。白い駒が倒されたからって、黒にするためだけに灰を持ち逃げしたみたいね」
汗たら~のメルクーアに、ジト目のキーリ。
「でも、あの神殿みたいなのはこれまでなかったよね?」
「それよりあのならず者、いるのかしら?」
通信で話し合っていた二人、ぎゅんと左右から城内中心にあるパルテノン神殿みたいな建物に近寄ってみる。
その時だった。
――がしゃん、ガタン。どらららら……。
「わっ!」
「ちょっと、なにこれ?」
何と、神殿風建物が変形し二足歩行形態となり、大きな胴体の左右からミサイルランチャーのような円筒が出てきた。その中心に丸太があり、まるでダイコンの桂剥きのように回転しながら表面を削り、即座に刺身の「剣」のように細切り。それが飛んで来た。
その連射性能、侮りがたし!
「ちょっとこれ、手ごわいわよ!」
「あ!」
メルクーアがバレルロールしつつキーリに近付き多重性強化する間に、キーリはしっかりと敵の二階部分を注視していた。
そのテラスに、白い顔をした細マッチョの男が「おー」と言わんばかりに手をひさしにしてこっちを見ているではないか!
堕落者、ルモーレであるッ。
「まさか、わざわざ見に出てきたのかしら?」
「とにかく邪魔な懸垂幕は外して逃げるわよ~っ!」
呆れるキーリ。メルクーアは目標達成とばかりに離脱用意。
一方、ルモーレ。
「へええ、サーカスか」
打ち方を止めさせ、城内に落ちた懸垂幕を見詰めていた。
●
そしてフマーレの外縁地帯。
「あちらから連絡がありました。組み立てましょう」
魔導スマホを持ったエルバッハが職人に伝える。
「よし。じゃ、姉ェちゃんの掘った穴に支柱入れるぜ!」
「……その表現はよしてもらいたいですね」
確かにウィザードの魔導ドリルで空けた穴ではあるが。エルバッハとしては女性なので力仕事が得意と勘違いされたくない。
そこから離れた場所でも櫓が立っていた。
「……さて、作業を始めるとするか。決戦の日に皆が戦いやすくなるよう頑張らないとな」
おや。
グリムが新たにアーマーペンチで結束紐を切り丸太の荷を解いたぞ?
「兄ィちゃん、それは確かに余りだが何すんだ?」
「こうやって二つの櫓の間に木を渡して連結すりゃ、さらに機体を隠す空間ができるだろ?」
このアイデアで重装備の機体も収納しやすくなった。
「後はこいつだ」
櫓の外回りを覆う布には、サーカスの公演告知の派手な絵を描いてもらっていた。
「これなら布で覆ってても不審がられねぇだろ」
グリム、策士である。
●
そんなこんなで日が暮れて。
「小太さん!」
「は、はいですよぉ」
サーカスの開幕である。
大入りのテント広場の中心の舞台で、フラと小太がまずは踊っている。
といっても、身軽なフラがへそ出しひらひら衣装で小太を柱に見立てて絡みついたり逆立ちしたりして軽業を披露している。纏いつかれている小太もフラに合わせへそ出しのひらひら衣装。とにかく肌が密着する。
「昼間の力仕事見て、小太さんなら大丈夫って思ったんだ」
「そ、そうですかぁ?」
最後にお姫様抱っこしてポーズ。小太、真っ赤である。
そんな舞台袖では。
「また新しいゴーレムかぁ」
むー、と悠月が難しい顔をしていた。
「あれ、キングね、きっと。ルモーレいたし」
「今まで弱かった対空攻撃が強烈だったわね~」
説明するキーリとメルクーア。なお、城内にはチェスピースのほか泥人形などもいたようで。
「広域に調べたが、敵の目的が分からねぇ」
Jも首をひねっていた。
「街道封鎖がいつでもできるような移動をしてる足跡だけど、そういう感じでもないし」
城壁近くを調べた悠月の見解。
「フマーレへの侵攻でしょうか」
多由羅がそう言うのは、キーリとメルクーアが、というか二人のグリフォンが食らった攻撃に心当たりがあったから。
「その対空攻撃、もうちょっと前に出るとフマーレまで届くようです」
「じゃあどうしてあの位置に……」
多由羅の報告に考え込む悠月。
そこにエルバッハとグリムが戻ってきた。
「待機櫓は完成しました」
「いつでもあの中に配置できるぜ」
静かに話すエルバッハと楽しそうに言うグリム。
これでメルクーアがピンときた。
「まさか双方の駒が盤上に並ぶのを待ってたのかしらね~」
「やりそうだわね」
聞いたキーリは呆れ顔で同意する。
「じゃ、次お願いね」
ここでシェイクから出番の呼び出しが。
♪
おお、愛しのあの娘よ
我が恋がかなうか占って
♪
舞台で悠月が歌いながらグリムに問うていた。
「隠すのは得意だぜ?」
グリム、手品は心得がある。袖に隠した符を取り出しタロットのように占って見せる。
が、それは普通のタロットではなかった。
何と、テーブルにスプレッドした符が人形になって立ち上がったのだ。式符である。
♪
あの子を誘っていいものか?
♪
歌いながら聞いた悠月に、式符は肩を落として顔の前で「いやいや、ダメダメ」と手を振る。愕然としてコミカルによよよと崩れる悠月。観客から笑い声とやんやの拍手。
♪
とんだ答えにあの子も……
♪
「そう、飛べるのよ私。飛べるの!」
悠月のそばを通り過ぎたキーリ、気持ちよさそうに叫んで、空に浮いた!
いや、綱渡りだ!
ステージに渡した綱に足を掛け、まるで空を飛ぶように歩く。
実はキーリの手にした魔杖「スキールニル」が手品の種。
この杖に「マジックフライト」を掛けているのだ。これを持っているので宙に浮くことができる。
「インチキ? 違うわよ、夢を与える為のちょっとしたトッピングよ」
誰もそんなこと言ってません。
とにかく端まで歩くとグリフォン「アースフィア」登場。空を飛んでキーリの元へ行くと……。
「はっ!」
空中で一回転し、騎乗。
万雷の拍手の中、サービスで客席の上を飛んで手を振りつつ退場する。
その後もステージは続く。
「ほら。頼むぜ、相棒」
クラウンに扮したJ、口から火を噴き火の輪を作った。イェジドにこれをくぐらせようとするが、不満そうにそっぽを向いている。
そこに、道化化粧の悠月登場。
「シグレ!」
軽やかに指示すると、同時に出て来たイェジドは軽やかにジャンプし火の輪をくぐった。さらに悠月はシグレの背に乗って走り回る。
で、これを見たJのイェジドも腰を上げ、ジャンプ。
「よし、よくやったよくやった」
火の輪をくぐった後、Jが抱き着いてやると少し機嫌が直ったようで。
観客は温かい拍手を送る。
この時、入り口付近。
「おや?」
「あっ!」
多由羅の不審がる声に反応したフラ、大きな声をあげる。
「サーカス見に来ただけだ。金も払う。ここで騒ぎは起こしたくないだろ?」
何と、ルモーレがやって来たのだ。
「手を出せば客が危ないぜ? ま、後日相手してやるから」
「くっ!」
フラ、我慢するしかない。
舞台では露出度の高いハイレグ衣装を着たエルバッハが凛々しくステッキを回している。
そして小太が雪の周りに投げナイフ。
でもって、メルクーアは酒瓶のジャグリングからカクテルを作った。
自分が飲むのかと思いきや、グリフォンのスティンガーに飲ます。
メルクーアの仕込みだろう。スティンガーは酒を飲むと千鳥足に。
「わっはっは。面白れぇじゃねぇか!」
ルモーレ、客席で大うけしていた。
公演が大盛況で幕を閉じるころには、ルモーレの姿は消えていたという。
依頼結果
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相談ですぅ 弓月・小太(ka4679) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/03/08 21:52:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/05 00:33:55 |