ゲスト
(ka0000)
或る少女と歯車の思い出―組立―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/16 12:00
- 完成日
- 2018/03/24 23:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ジェポッテ家には倉庫があった。いる物もいらない物も詰め込まれていた。
しかしここ数日、それらの品は全て他所に移されている。
代わりに大きな机が運び込まれ、その上に人形のパーツと歯車が並べられていた。
人形のイメージを描いた三枚の絵、可愛らしい少年の笑顔と、跪礼、捧げ剣が飾られ、その横にはその人形の設計図が張られている。
ジャン・ジェポッテとその友人達が若い頃に作ろうとして途絶えてしまった人形作り。
頭と胴、左右の腕と脚をそれぞれ保管して数十年。先日再びほぼ全てが揃い、人形作りを再開させた。
4人の老人達が入れ替わり立ち替わり、集まった部位の形状と図面、動きを確認し、不足している歯車を集めていた。作業は少しずつ進み、最近ではそれぞれの子供や孫も覗きに来て、ちょっとしたワークショップの様相を呈している。
年月の内に歪んだり掛けて仕舞った歯車もある、本体にも傷や退色が所々に覗える。
同じ歯車を探し回ったり、厚い眼鏡を掛けて筆先を睨みながら色を塗り直したり。
老人達は少しずつ、青春の続きを歩み始めていた。
●
手伝いはいつでも募集中だそうです。
報酬は少ないですが、お昼ご飯が付いてきますよ。
そんな言葉に誘われて、そしてどこかにいるらしい緑の精霊にせっつかれるように背中を叩かれて、メグ、ことマーガレット・ミケーリはジェポッテ家を尋ねた。
先日見た亡き友人の手によるという絵の少年が、まだ目に焼き付いている。
メグ自身、何としても彼を完成させたいと思っていた。
他にも集まっていたハンター達とジャンの所在を尋ねると、今は倉庫にいるという。
倉庫には、4人の老人達の他に、彼等の孫達が集まっていた。
「剣はでけぇのがいいんだ!」
「赤にしようぜ、赤、あーかー」
「可愛い方がいいもんっ」
「剣が可愛いかよばーか」
「可愛い剣が良いの、ねー、おねーちゃーん」
「喧嘩しないでよ、面倒くさいなあ」
「うわーん、おねえちゃーん」
「泣かないでよー、一緒に腕作ろう?」
「やーだー、可愛い剣なのー」
「どっちも仮でしょ? その辺の棒でもくっつけておけば?」
「なー、腕も赤にしようぜー」
「えーと、腕は赤くないと思うよ?」
「………………ふあ、……寝てた」
倉庫の中はとても姦しい。
ハンター達の来訪に気付いた老人が一人声を掛けてくる。
どうやら今回も頼み事は1つでは無いようだ。
そうこうしているうちに家の方から娘の声も聞こえてきた。
子ども達が集まった今日の昼食作りの手が足りないらしい。
ハンター達は一先ず相談をすることにした。
ジェポッテ家には倉庫があった。いる物もいらない物も詰め込まれていた。
しかしここ数日、それらの品は全て他所に移されている。
代わりに大きな机が運び込まれ、その上に人形のパーツと歯車が並べられていた。
人形のイメージを描いた三枚の絵、可愛らしい少年の笑顔と、跪礼、捧げ剣が飾られ、その横にはその人形の設計図が張られている。
ジャン・ジェポッテとその友人達が若い頃に作ろうとして途絶えてしまった人形作り。
頭と胴、左右の腕と脚をそれぞれ保管して数十年。先日再びほぼ全てが揃い、人形作りを再開させた。
4人の老人達が入れ替わり立ち替わり、集まった部位の形状と図面、動きを確認し、不足している歯車を集めていた。作業は少しずつ進み、最近ではそれぞれの子供や孫も覗きに来て、ちょっとしたワークショップの様相を呈している。
年月の内に歪んだり掛けて仕舞った歯車もある、本体にも傷や退色が所々に覗える。
同じ歯車を探し回ったり、厚い眼鏡を掛けて筆先を睨みながら色を塗り直したり。
老人達は少しずつ、青春の続きを歩み始めていた。
●
手伝いはいつでも募集中だそうです。
報酬は少ないですが、お昼ご飯が付いてきますよ。
そんな言葉に誘われて、そしてどこかにいるらしい緑の精霊にせっつかれるように背中を叩かれて、メグ、ことマーガレット・ミケーリはジェポッテ家を尋ねた。
先日見た亡き友人の手によるという絵の少年が、まだ目に焼き付いている。
メグ自身、何としても彼を完成させたいと思っていた。
他にも集まっていたハンター達とジャンの所在を尋ねると、今は倉庫にいるという。
倉庫には、4人の老人達の他に、彼等の孫達が集まっていた。
「剣はでけぇのがいいんだ!」
「赤にしようぜ、赤、あーかー」
「可愛い方がいいもんっ」
「剣が可愛いかよばーか」
「可愛い剣が良いの、ねー、おねーちゃーん」
「喧嘩しないでよ、面倒くさいなあ」
「うわーん、おねえちゃーん」
「泣かないでよー、一緒に腕作ろう?」
「やーだー、可愛い剣なのー」
「どっちも仮でしょ? その辺の棒でもくっつけておけば?」
「なー、腕も赤にしようぜー」
「えーと、腕は赤くないと思うよ?」
「………………ふあ、……寝てた」
倉庫の中はとても姦しい。
ハンター達の来訪に気付いた老人が一人声を掛けてくる。
どうやら今回も頼み事は1つでは無いようだ。
そうこうしているうちに家の方から娘の声も聞こえてきた。
子ども達が集まった今日の昼食作りの手が足りないらしい。
ハンター達は一先ず相談をすることにした。
リプレイ本文
●
では、ご主人様、私はお嬢様を手伝って参ります。
フィロ(ka6966)がジャンに一礼して娘に続く。
「後で手伝おう――それまではお前達だな」
「よろしくね、もゆ、って、呼んでね。……皆さんのお名前を教えて貰えますか?」
レイア・アローネ(ka4082)と玲瓏(ka7114)が子ども達と目線を合わせながら声を掛ける。
「じゃじゃーん、皆はどんな剣を作りたいかな?」
鳳凰院瑠美(ka4534)が持参した剣を構えながら。
「初めまして。みんな、今回はよろしくね。一緒に頑張ろう」
カリアナ・ノート(ka3733)は腕を任された子供を探しながら。
子ども達が元気な声で答えて、ハンター達を見詰め、見上げ。囲むように集まってくる。
お姉さん達、ありがとう、今日はよろしく。みんな、言うこと聞いてね。ほら、いつまで寝ているの。
騒がしい声は次第に纏まって、剣を作りたい子供、腕を作りたい子供と分かれてテーブルへ、ハンター達の手を引いていく。
「ん? お前は?」
1人残った子どもにレイアが声を掛けると、赤が良いと手を上げて答えた。
「赤が好きか。うん、私も好きだぞ、赤」
赤は格好いいよな、と、レイアの同意に跳ねて喜び、はしゃぐ子どもを見守りながら、甘く見ていたようだと肩を竦めた。
「おねむですか?」
最後尾で目を閉じてふらふらと歩いている子ども。
玲瓏の声にはっと顔を上げて見回す。
こちらですよと呼び掛けると、大きな欠伸をしながら、着いて歩いて行く。
どうやら、参加はしたいらしい。微笑むと玲瓏はその子どもが転ばないように隣を歩いてテーブルへ。
老人達の囲むテーブルには既に図面が広げられている。
図面に合わせて歯車が並べられ、人形の本体にも一部取り付けられている。
ルーペを睨む様に覗き込む老人の指がそれを動かすと、人形の脚は膝を曲げて蹴り出す動きを繰り返した。
その動きをヴァイス(ka0364)はきらきらと輝く瞳で見詰める。
「やっぱこういうのは年齢関係なくワクワクしてくるな」
「はい……なんだか……」
言葉にはならない。胸の奥が温かくて、つきんと仄かに痛むような。しかし、じんわりと染みていくその温もりの心地よさは。
「……懐かしい、気がします」
良ければ作業中に。そう言って持参した手作りの軽食をチェストの上へ。愛用のツールボックスを開け、工具を広げてマキナ・バベッジ(ka4302)は作業の準備を始めた。
図面を辿って一通りの確認を、部品の不足を洗い出して、組み立てられる物はヴァイスが老人達と、不足の買い出しにマキナが出掛けることになった。
行って参ります。書き付けた歯車の径と個数をポケットに仕舞い込んでマキナは魔導バイクに跨がる。
ヴァイスと老人達はマキナを待つ間に傷んだ部品を外したり、手許に有る物を組み立てたり。
剣を掲げ、収めて、一礼して下がる。
未だ数歩を歩く事しか出来ない隻腕の少年は、少しずつその動きをしなやかに。
左の手首にヴァイスが歯車を1つ置く。水平に打ち込んだ軸からぶれないように、そっと手を離して次の歯車に動きを伝えた。
くるり、手首が回る。
「良いか?」
「おう、兄ちゃん器用だな」
あの爺さんほどじゃない。この作業を任せた老人を見る。
瓶底の眼鏡の奥で研ぎ澄ませた目。僅かの狂いも無く小さな歯車を組み合わせて。
終わった途端、背もたれに凭れきって、天井を仰ぎながら目頭を揉む。
「少しでも、負担が軽くなれば良いんだがな」
●
子ども達は賑やかにテーブルを囲む。
腕と剣に分かれてそれぞれ板やワイヤーを手にして作業を始めようとしている。
眠たげに目を擦っていた子も、板をじっと見詰めて何かを考えているらしい。
剣のデザインで言い合う2人を鳳凰院が間に、それぞれにどんな剣がいいかな、と、実物を広げながら。
「あ、触るのは危ないからだめだよ。――ここを、こうして……あれ?」
日頃は使わない刀身の切り替えが可能な刀を危なっかしい手が弄り、兄から託されたマニュアルを捲りながら首を捻る。
パズルのようなその装置を弄って、剣を伸ばしたり、縮めたり。すらりとした刀の形に変えて見せた。
かち、かちと切り替わるそのフォルムに子ども達が歓声を上げ目を輝かせた。
2人のことを気に掛けているやや年長の少女にカリアナは頬を緩めた。
腕の芯になりそうな角材を選ぶ手は止まっているが、彼女は問題ないだろう。
もう1人、彼女の友人らしく見える少女は、鳳凰院の剣もちらりと見たきり短く切った角材を弄んでぼうっとしている。
「……ね、動かすためにはどうしたら良いか知らないかしら?」
丁度右手に使えそうな角材をカリアナに渡し、少女はその断面を示す。蝶番か紐を使えば良いと言う。
カリアナ達の話し声に、もう1人の少女も加わって、上腕と前腕に使える角材を天板に揃えて並べた。
子ども達が作業に掛かり始める様子を小さな少年が頬を膨らませて眺めている。
「どうした? やっぱり――」
レイアが声を掛けると小さな手が伸びてきて、肩掛けをぎゅっと握った。
赤が好きなのか、と笑いかけると少年の膨れっ面は僅かに和らいだ。
そうだな、これみたいなマントを作ろうか。
レイアの提案に少年は肩掛けを握ったままで飛び跳ねた。
他の子ども達の様子を見てまた欠伸を。
騒がしかった様子に喧嘩や老人達の邪魔になったりと、気掛かりにしていた玲瓏が、子ども達が彼等に任された作業に掛かり始める様子に、傍の1人に目を向ける。
「今日は、仮制作だから……」
眠っていても大丈夫。
しかし、子どもは玲瓏の服を掴んで憤る様に顰めた顔で首を横に揺らした。
じいじい、いっしょに、にんぎょう。
幼さと眠気の混ざる声は聞き取りづらい。耳を傾けて、一言ずつ頷いて。
きっと、祖父との人形作りが楽しみだったのだろう。寝不足もその為かも知れない。
それなら、怪我をしないように、しっかり見ていますね。ぽんぽん、と柔らかに頭を撫でて、玲瓏はその小さな手に板を握らせた。
●
ロールキャベツを2種類。幸い、キャベツと挽肉は揃っている。
玉葱も十分な数が揃っていて、茸も何種類か合わせれば足りるだろう。
しかし、味付けに使う味噌と味醂は無く、ヨーグルトも足りないらしく、メグが買い物籠を借りて出て行った。
「食べやすく味も変えられます。……1人3個で20人前として……」
材料を並べ、収まりそうな鍋を選び、フィロと娘はキャベツを茹でる。
茹だったキャベツを剥がす娘の隣で他の材料を手際よく刻んで捏ね、重ねたキャベツで包んで並べる。
こんなに沢山作るのは初めてだと娘が笑った。くしゃりと眦に寄る皺がジャンによく似ていた。
東方の品を扱う店、或いはリアルブルーから伝わった物を扱う店。
フマーレで味噌を置いているとしたらその辺りだろうか、メグがそれらしい暖簾を探しながら歩く。
擦れ違ったバイクに乗った横顔に、マキナさん、と思わず振り返った。
マキナは日用品や食料品を扱う商店街を抜けて、先の工業区の製品を並べる店の連なる通りでバイクを止めた。
数軒回って、幸いにも探していた部品は全て揃い、彼等のことを知っているという店主から励ましを言付かり帰途に就く。
帰りを待っている老人達の闊達とした笑顔が思い浮かぶ。
少し急いた心地で魔導バイクを走らせながら、頬を掠める春先の風に優しく穏やかな懐かしさを感じた。
「お待たせしました……、揃っていると、思いますが……」
マキナが包みを開いて図面に照らす。脚と胴の組み立てに一段落付いたヴァイスと他の老人達がそれに加わった頃、レイアが壁の時計を見上げてキッチンを覗きに向かう。
フィロがロールキャベツの出来映えを確認し、トマトと煮込む傍ら、娘とメグが味噌のたれを混ぜていた。
料理は不得手だが手伝うぞ、何でも言ってくれ。レイアが少しばかり強がった顔でそう言うと、フィロはゆっくりと瞬いて、それなら、と倉庫の方へと視線を向けた。
「――お前達、そろそろ昼だぞ」
倉庫に戻ったレイアは、子ども達とハンター達に声を掛ける。
「みんな、手を洗いに行こうね、もうすぐ、お昼ご飯ですよ」
玲瓏が支えていた子どもを起こし、他の子ども達も手を止めるように促して、作りかけのマントを掲げる子どもを脇から掬うように捉え、レイラに托す。
隙が無いなとその子どもの手を引きながら、カリアナと鳳凰院も2人ずつ手を引いて倉庫を出る。
順番に手を洗わせて美味しそうな匂いに導かれる様に食卓へ。
配膳を手伝いながらジュースの置かれた席に座らせ、ハンター達も着席した時、ばたばたと慌ただしく老人達が駆け込んできた。
余り広くないダイニングは隣の部屋まで使って全員を収め、それぞれの前にロールキャベツとパンが置かれている。
高らかな乾杯。おかわり有りますよ、とフィロが言うと、大きなロールキャベツに齧り付いていた子ども達も、珍しい風味を味わっていた老人達も一斉にそちらを向いた。
鳳凰院の両隣で少年と少女は剣の形で言い合っており、その手にはそれぞれが気に入った剣の写真が、食卓でも手放せずに握られている。
カリアナと友人に挟まれた少女はロールキャベツにぱくついて笑っている。動いた後のご飯は美味しい。そう言った少女の言葉にカリアナと彼女の友人はくすりと笑って頷いた。
お姉ちゃんの剣が上手なの。腕、動いて良かったわね。やっぱり赤は格好いいぜ。
子ども達の声の弾む食卓、ハンターと老人達も午後の計画を立てる。
「力が有り余っている子がいるんじゃないか」
食後は少し遊ばないかとヴァイスが誘うと、半分ほどの子ども達が手を上げる。
「片付けは手伝えるぞ」
レイアの言葉にフィロが橙の瞳でじっと見詰める。
ぐっと言葉を詰まらせる。無理しなくていいですよ、と娘の声がからからと陽気に。
そして、遊ぶぞ、とレイアの赤い肩掛けが引っ張られた。
「すっごく美味しかったよ、お手伝いできなくてごめんなさい」
お代わりしたロールキャベツも平らげ、鳳凰院は満足そうに満面の笑み。
両隣の子ども達と、ごちそうさま、と挨拶をして皿を下げる。
カリアナと少女達も皿を片付け、お喋りに興じながら倉庫へ戻っていく。腕作りはもう少し掛かるようだ。
ヴァイス、鳳凰院とレイアそれから2人が見ていた3人の子ども達は庭へ走り出す。
玲瓏に手を引かれて倉庫に戻った子どもは、少しだけしゃんとした様子で剣を作りたいと言った。
「好きな形の剣を作っているみたいだよ」
庭の声を聞きながら倉庫の作業が静かに始まった。
●
先ずは確認を終えたパーツの取り付けを行う。それから、腕と剣が出来たら立たせてみよう。
ヴァイスが子ども達と離れている間、マキナは彼に代わって人形を支える手を貸した。
皺だらけの手が器用に歯車を固定し、噛み合わせて動きを合わせていく。真剣な眼差しで見詰め、一定のリズムと軽い音を奏でて表面を削り、人形に動きを作っていく老人達。
「……よろしければ、人形を作ることにした昔のお話をお聞きしてもよいですか?」
1つ終えて手を止めた時、マキナが抑えた声で尋ねた。
この子に、と、まだ歯車の到っていない手を撫でた。
どんな思いが込められているのだろう。
亡き祖父の言葉を思い出す。
想いの紡ぎ手。それが技師であるマキナの役目だから。
老人は友人達を見回して、それからマキナに笑みを向けた。
しわくちゃにしたその顔は、ひどく懐かしそうで、嬉しそうだった。
始まりは作りたいという気持ちだった。
絡繰りの人形が、リアルブルーの技術の目新しさに夢中で、それを作りたかった。
「それだけだ。……ったんだがなあ」
刈った白髪の頭を掻いて呵呵と笑う。
初めて足が動いた時、こいつに歩かせてやりたいと思った。
それは、もう。
「親心って奴だなぁ」
さあ、続きだ。そう言って老人達はマキナの肩をぽんと叩く。
的確な指示、温かな声。乾いた手がマキナの手を導いていく。
その感触、高い音、工具の動き、空気の匂い。
お祖父ちゃんと一緒に、修理している時に似ているんだ。
そう、理解する瞬間に溢れる懐かしさに、きつく目を瞑った。
倉庫の中で騒いで遊ばない程度に走り回ってきた子ども達と、その相手をしていたハンター達が倉庫へ戻る。
次は何を、とヴァイスが尋ねると、押さえておけと頭が胴体に乗せられて関節を繋ぐ紐の端が後ろ頭の穴から垂れている。
ヴァイスが頭を押さえ、マキナは両足に手を添える。
声を掛け合って紐を引く。四肢と頭を繋いだ人形に歯車を補って自立させると、老人達が手をたたき合う。
丁度、別れた日の状態だ。右腕を欠いているのは残念だが。
そう言い掛けた時、カリアナと少女達が、できた、と声を上げた。
「3人で協力して作ったわ!」
角材を繋いだだけに見えるが、肩の関節部分が胴体に合わせて丸く削られ、腕や手に当たる木も削って、左腕と同じ大きさに作られている。
肩を据えた右腕をやや不格好だが吊るように固定する。
老人達の見守る中、自立を保った人形に少女達も嬉しそうだ。やったわ、と一番の笑顔でカリアナが2人の手を取りはしゃいでいる。
継ぎ目を隠すように右肩を覆うと、少年は得意気に笑った。
最後の仕上げに夢中になる子ども達と鳳凰院を見詰め、玲瓏はもうちょっと待ってねと人形に微笑んだ。
フィロと娘とメグも片付けを終えて倉庫へ。
ご飯を頑張った甲斐があったわねと娘が2人を見て言う。
「ご主人様に、美味しく召し上がって頂けたのでしたら」
良かったこと、なのでしょう。フィロは人形の目を覗き込むようにその洞を見詰めた。
メグの頭上で緑の光が楽しそうに飛び跳ねて、メグの首を揺らしていた。
マントを羽織り佇む人形の前。
差し出された4本の剣。
出来た、そして、これからだという希望と期待。
がらんどうの眼窩に可愛い緑の瞳を輝かせて、柔らかな金髪の少年がこの中の剣を1つ選び取り、本当の子どもの様に動く日が。いつか。
願いながら、お疲れさまと声を掛け合い倉庫を閉めた。
では、ご主人様、私はお嬢様を手伝って参ります。
フィロ(ka6966)がジャンに一礼して娘に続く。
「後で手伝おう――それまではお前達だな」
「よろしくね、もゆ、って、呼んでね。……皆さんのお名前を教えて貰えますか?」
レイア・アローネ(ka4082)と玲瓏(ka7114)が子ども達と目線を合わせながら声を掛ける。
「じゃじゃーん、皆はどんな剣を作りたいかな?」
鳳凰院瑠美(ka4534)が持参した剣を構えながら。
「初めまして。みんな、今回はよろしくね。一緒に頑張ろう」
カリアナ・ノート(ka3733)は腕を任された子供を探しながら。
子ども達が元気な声で答えて、ハンター達を見詰め、見上げ。囲むように集まってくる。
お姉さん達、ありがとう、今日はよろしく。みんな、言うこと聞いてね。ほら、いつまで寝ているの。
騒がしい声は次第に纏まって、剣を作りたい子供、腕を作りたい子供と分かれてテーブルへ、ハンター達の手を引いていく。
「ん? お前は?」
1人残った子どもにレイアが声を掛けると、赤が良いと手を上げて答えた。
「赤が好きか。うん、私も好きだぞ、赤」
赤は格好いいよな、と、レイアの同意に跳ねて喜び、はしゃぐ子どもを見守りながら、甘く見ていたようだと肩を竦めた。
「おねむですか?」
最後尾で目を閉じてふらふらと歩いている子ども。
玲瓏の声にはっと顔を上げて見回す。
こちらですよと呼び掛けると、大きな欠伸をしながら、着いて歩いて行く。
どうやら、参加はしたいらしい。微笑むと玲瓏はその子どもが転ばないように隣を歩いてテーブルへ。
老人達の囲むテーブルには既に図面が広げられている。
図面に合わせて歯車が並べられ、人形の本体にも一部取り付けられている。
ルーペを睨む様に覗き込む老人の指がそれを動かすと、人形の脚は膝を曲げて蹴り出す動きを繰り返した。
その動きをヴァイス(ka0364)はきらきらと輝く瞳で見詰める。
「やっぱこういうのは年齢関係なくワクワクしてくるな」
「はい……なんだか……」
言葉にはならない。胸の奥が温かくて、つきんと仄かに痛むような。しかし、じんわりと染みていくその温もりの心地よさは。
「……懐かしい、気がします」
良ければ作業中に。そう言って持参した手作りの軽食をチェストの上へ。愛用のツールボックスを開け、工具を広げてマキナ・バベッジ(ka4302)は作業の準備を始めた。
図面を辿って一通りの確認を、部品の不足を洗い出して、組み立てられる物はヴァイスが老人達と、不足の買い出しにマキナが出掛けることになった。
行って参ります。書き付けた歯車の径と個数をポケットに仕舞い込んでマキナは魔導バイクに跨がる。
ヴァイスと老人達はマキナを待つ間に傷んだ部品を外したり、手許に有る物を組み立てたり。
剣を掲げ、収めて、一礼して下がる。
未だ数歩を歩く事しか出来ない隻腕の少年は、少しずつその動きをしなやかに。
左の手首にヴァイスが歯車を1つ置く。水平に打ち込んだ軸からぶれないように、そっと手を離して次の歯車に動きを伝えた。
くるり、手首が回る。
「良いか?」
「おう、兄ちゃん器用だな」
あの爺さんほどじゃない。この作業を任せた老人を見る。
瓶底の眼鏡の奥で研ぎ澄ませた目。僅かの狂いも無く小さな歯車を組み合わせて。
終わった途端、背もたれに凭れきって、天井を仰ぎながら目頭を揉む。
「少しでも、負担が軽くなれば良いんだがな」
●
子ども達は賑やかにテーブルを囲む。
腕と剣に分かれてそれぞれ板やワイヤーを手にして作業を始めようとしている。
眠たげに目を擦っていた子も、板をじっと見詰めて何かを考えているらしい。
剣のデザインで言い合う2人を鳳凰院が間に、それぞれにどんな剣がいいかな、と、実物を広げながら。
「あ、触るのは危ないからだめだよ。――ここを、こうして……あれ?」
日頃は使わない刀身の切り替えが可能な刀を危なっかしい手が弄り、兄から託されたマニュアルを捲りながら首を捻る。
パズルのようなその装置を弄って、剣を伸ばしたり、縮めたり。すらりとした刀の形に変えて見せた。
かち、かちと切り替わるそのフォルムに子ども達が歓声を上げ目を輝かせた。
2人のことを気に掛けているやや年長の少女にカリアナは頬を緩めた。
腕の芯になりそうな角材を選ぶ手は止まっているが、彼女は問題ないだろう。
もう1人、彼女の友人らしく見える少女は、鳳凰院の剣もちらりと見たきり短く切った角材を弄んでぼうっとしている。
「……ね、動かすためにはどうしたら良いか知らないかしら?」
丁度右手に使えそうな角材をカリアナに渡し、少女はその断面を示す。蝶番か紐を使えば良いと言う。
カリアナ達の話し声に、もう1人の少女も加わって、上腕と前腕に使える角材を天板に揃えて並べた。
子ども達が作業に掛かり始める様子を小さな少年が頬を膨らませて眺めている。
「どうした? やっぱり――」
レイアが声を掛けると小さな手が伸びてきて、肩掛けをぎゅっと握った。
赤が好きなのか、と笑いかけると少年の膨れっ面は僅かに和らいだ。
そうだな、これみたいなマントを作ろうか。
レイアの提案に少年は肩掛けを握ったままで飛び跳ねた。
他の子ども達の様子を見てまた欠伸を。
騒がしかった様子に喧嘩や老人達の邪魔になったりと、気掛かりにしていた玲瓏が、子ども達が彼等に任された作業に掛かり始める様子に、傍の1人に目を向ける。
「今日は、仮制作だから……」
眠っていても大丈夫。
しかし、子どもは玲瓏の服を掴んで憤る様に顰めた顔で首を横に揺らした。
じいじい、いっしょに、にんぎょう。
幼さと眠気の混ざる声は聞き取りづらい。耳を傾けて、一言ずつ頷いて。
きっと、祖父との人形作りが楽しみだったのだろう。寝不足もその為かも知れない。
それなら、怪我をしないように、しっかり見ていますね。ぽんぽん、と柔らかに頭を撫でて、玲瓏はその小さな手に板を握らせた。
●
ロールキャベツを2種類。幸い、キャベツと挽肉は揃っている。
玉葱も十分な数が揃っていて、茸も何種類か合わせれば足りるだろう。
しかし、味付けに使う味噌と味醂は無く、ヨーグルトも足りないらしく、メグが買い物籠を借りて出て行った。
「食べやすく味も変えられます。……1人3個で20人前として……」
材料を並べ、収まりそうな鍋を選び、フィロと娘はキャベツを茹でる。
茹だったキャベツを剥がす娘の隣で他の材料を手際よく刻んで捏ね、重ねたキャベツで包んで並べる。
こんなに沢山作るのは初めてだと娘が笑った。くしゃりと眦に寄る皺がジャンによく似ていた。
東方の品を扱う店、或いはリアルブルーから伝わった物を扱う店。
フマーレで味噌を置いているとしたらその辺りだろうか、メグがそれらしい暖簾を探しながら歩く。
擦れ違ったバイクに乗った横顔に、マキナさん、と思わず振り返った。
マキナは日用品や食料品を扱う商店街を抜けて、先の工業区の製品を並べる店の連なる通りでバイクを止めた。
数軒回って、幸いにも探していた部品は全て揃い、彼等のことを知っているという店主から励ましを言付かり帰途に就く。
帰りを待っている老人達の闊達とした笑顔が思い浮かぶ。
少し急いた心地で魔導バイクを走らせながら、頬を掠める春先の風に優しく穏やかな懐かしさを感じた。
「お待たせしました……、揃っていると、思いますが……」
マキナが包みを開いて図面に照らす。脚と胴の組み立てに一段落付いたヴァイスと他の老人達がそれに加わった頃、レイアが壁の時計を見上げてキッチンを覗きに向かう。
フィロがロールキャベツの出来映えを確認し、トマトと煮込む傍ら、娘とメグが味噌のたれを混ぜていた。
料理は不得手だが手伝うぞ、何でも言ってくれ。レイアが少しばかり強がった顔でそう言うと、フィロはゆっくりと瞬いて、それなら、と倉庫の方へと視線を向けた。
「――お前達、そろそろ昼だぞ」
倉庫に戻ったレイアは、子ども達とハンター達に声を掛ける。
「みんな、手を洗いに行こうね、もうすぐ、お昼ご飯ですよ」
玲瓏が支えていた子どもを起こし、他の子ども達も手を止めるように促して、作りかけのマントを掲げる子どもを脇から掬うように捉え、レイラに托す。
隙が無いなとその子どもの手を引きながら、カリアナと鳳凰院も2人ずつ手を引いて倉庫を出る。
順番に手を洗わせて美味しそうな匂いに導かれる様に食卓へ。
配膳を手伝いながらジュースの置かれた席に座らせ、ハンター達も着席した時、ばたばたと慌ただしく老人達が駆け込んできた。
余り広くないダイニングは隣の部屋まで使って全員を収め、それぞれの前にロールキャベツとパンが置かれている。
高らかな乾杯。おかわり有りますよ、とフィロが言うと、大きなロールキャベツに齧り付いていた子ども達も、珍しい風味を味わっていた老人達も一斉にそちらを向いた。
鳳凰院の両隣で少年と少女は剣の形で言い合っており、その手にはそれぞれが気に入った剣の写真が、食卓でも手放せずに握られている。
カリアナと友人に挟まれた少女はロールキャベツにぱくついて笑っている。動いた後のご飯は美味しい。そう言った少女の言葉にカリアナと彼女の友人はくすりと笑って頷いた。
お姉ちゃんの剣が上手なの。腕、動いて良かったわね。やっぱり赤は格好いいぜ。
子ども達の声の弾む食卓、ハンターと老人達も午後の計画を立てる。
「力が有り余っている子がいるんじゃないか」
食後は少し遊ばないかとヴァイスが誘うと、半分ほどの子ども達が手を上げる。
「片付けは手伝えるぞ」
レイアの言葉にフィロが橙の瞳でじっと見詰める。
ぐっと言葉を詰まらせる。無理しなくていいですよ、と娘の声がからからと陽気に。
そして、遊ぶぞ、とレイアの赤い肩掛けが引っ張られた。
「すっごく美味しかったよ、お手伝いできなくてごめんなさい」
お代わりしたロールキャベツも平らげ、鳳凰院は満足そうに満面の笑み。
両隣の子ども達と、ごちそうさま、と挨拶をして皿を下げる。
カリアナと少女達も皿を片付け、お喋りに興じながら倉庫へ戻っていく。腕作りはもう少し掛かるようだ。
ヴァイス、鳳凰院とレイアそれから2人が見ていた3人の子ども達は庭へ走り出す。
玲瓏に手を引かれて倉庫に戻った子どもは、少しだけしゃんとした様子で剣を作りたいと言った。
「好きな形の剣を作っているみたいだよ」
庭の声を聞きながら倉庫の作業が静かに始まった。
●
先ずは確認を終えたパーツの取り付けを行う。それから、腕と剣が出来たら立たせてみよう。
ヴァイスが子ども達と離れている間、マキナは彼に代わって人形を支える手を貸した。
皺だらけの手が器用に歯車を固定し、噛み合わせて動きを合わせていく。真剣な眼差しで見詰め、一定のリズムと軽い音を奏でて表面を削り、人形に動きを作っていく老人達。
「……よろしければ、人形を作ることにした昔のお話をお聞きしてもよいですか?」
1つ終えて手を止めた時、マキナが抑えた声で尋ねた。
この子に、と、まだ歯車の到っていない手を撫でた。
どんな思いが込められているのだろう。
亡き祖父の言葉を思い出す。
想いの紡ぎ手。それが技師であるマキナの役目だから。
老人は友人達を見回して、それからマキナに笑みを向けた。
しわくちゃにしたその顔は、ひどく懐かしそうで、嬉しそうだった。
始まりは作りたいという気持ちだった。
絡繰りの人形が、リアルブルーの技術の目新しさに夢中で、それを作りたかった。
「それだけだ。……ったんだがなあ」
刈った白髪の頭を掻いて呵呵と笑う。
初めて足が動いた時、こいつに歩かせてやりたいと思った。
それは、もう。
「親心って奴だなぁ」
さあ、続きだ。そう言って老人達はマキナの肩をぽんと叩く。
的確な指示、温かな声。乾いた手がマキナの手を導いていく。
その感触、高い音、工具の動き、空気の匂い。
お祖父ちゃんと一緒に、修理している時に似ているんだ。
そう、理解する瞬間に溢れる懐かしさに、きつく目を瞑った。
倉庫の中で騒いで遊ばない程度に走り回ってきた子ども達と、その相手をしていたハンター達が倉庫へ戻る。
次は何を、とヴァイスが尋ねると、押さえておけと頭が胴体に乗せられて関節を繋ぐ紐の端が後ろ頭の穴から垂れている。
ヴァイスが頭を押さえ、マキナは両足に手を添える。
声を掛け合って紐を引く。四肢と頭を繋いだ人形に歯車を補って自立させると、老人達が手をたたき合う。
丁度、別れた日の状態だ。右腕を欠いているのは残念だが。
そう言い掛けた時、カリアナと少女達が、できた、と声を上げた。
「3人で協力して作ったわ!」
角材を繋いだだけに見えるが、肩の関節部分が胴体に合わせて丸く削られ、腕や手に当たる木も削って、左腕と同じ大きさに作られている。
肩を据えた右腕をやや不格好だが吊るように固定する。
老人達の見守る中、自立を保った人形に少女達も嬉しそうだ。やったわ、と一番の笑顔でカリアナが2人の手を取りはしゃいでいる。
継ぎ目を隠すように右肩を覆うと、少年は得意気に笑った。
最後の仕上げに夢中になる子ども達と鳳凰院を見詰め、玲瓏はもうちょっと待ってねと人形に微笑んだ。
フィロと娘とメグも片付けを終えて倉庫へ。
ご飯を頑張った甲斐があったわねと娘が2人を見て言う。
「ご主人様に、美味しく召し上がって頂けたのでしたら」
良かったこと、なのでしょう。フィロは人形の目を覗き込むようにその洞を見詰めた。
メグの頭上で緑の光が楽しそうに飛び跳ねて、メグの首を揺らしていた。
マントを羽織り佇む人形の前。
差し出された4本の剣。
出来た、そして、これからだという希望と期待。
がらんどうの眼窩に可愛い緑の瞳を輝かせて、柔らかな金髪の少年がこの中の剣を1つ選び取り、本当の子どもの様に動く日が。いつか。
願いながら、お疲れさまと声を掛け合い倉庫を閉めた。
依頼結果
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- 風雅なる謡楽士
玲瓏(ka7114)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/13 17:23:28 |
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組み立て作業だよっ! 鳳凰院瑠美(ka4534) 人間(リアルブルー)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/03/16 08:49:54 |