ゲスト
(ka0000)
【幻兆】雪消の行路
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/22 12:00
- 完成日
- 2018/03/28 21:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
厳寒と雪に見舞われた辺境の地にも緩やかな春の訪れを感じる頃、巫女リムネラはヘレの為、未だ冬に閉ざされる北方は龍園へと旅立つ。
リムネラの不在を補うため、巫女達はユニオンへ向かう。
それに伴い、物資運搬も行われる。
「歪虚の動きがあるのか……」
ため息交じりで呟くのは巫女のラスアル。
「他の巫女達はもう動き始めている。私達がするべき事は物資運搬の先導だ」
今回、ユニオンへ行く道は巡礼路を使用することになっている。
物資を運ぶのは商人。道案内……先導役はその時々にて違ってくるが、今回は巫女が行う。
先導役を上位の巫女より頼まれたのがラスアルだった。
「サルトス・ルーナであるお前さんなら、道も分かっているだろうからな。護衛はハンターに頼んである。白龍の導きがあらんことを」
ラスアルが所属しているサルトス・ルーナは月齢の満ち欠けによって巫女としての勤めと辺境の様子を見て回る歩き巫女の部署。
普段より外部に出ている彼女でも大丈夫だろうということだ。
定められた日数後、ラスアルは商人とハンター達と合流する。
「来てくれた事に感謝する。今回の道のりは巡礼道を通る形となっている」
ラスアルが地図を人数分を配っていく。
「ここのところ、歪虚の動きが活発となっている。各々、気を引き締めて運搬、警備に当たってほしい」
気合の入った返事を受けたラスアルは笑む。
「さぁ、出発をしよう」
ラスアルの号令に皆が動き出した。
リムネラの不在を補うため、巫女達はユニオンへ向かう。
それに伴い、物資運搬も行われる。
「歪虚の動きがあるのか……」
ため息交じりで呟くのは巫女のラスアル。
「他の巫女達はもう動き始めている。私達がするべき事は物資運搬の先導だ」
今回、ユニオンへ行く道は巡礼路を使用することになっている。
物資を運ぶのは商人。道案内……先導役はその時々にて違ってくるが、今回は巫女が行う。
先導役を上位の巫女より頼まれたのがラスアルだった。
「サルトス・ルーナであるお前さんなら、道も分かっているだろうからな。護衛はハンターに頼んである。白龍の導きがあらんことを」
ラスアルが所属しているサルトス・ルーナは月齢の満ち欠けによって巫女としての勤めと辺境の様子を見て回る歩き巫女の部署。
普段より外部に出ている彼女でも大丈夫だろうということだ。
定められた日数後、ラスアルは商人とハンター達と合流する。
「来てくれた事に感謝する。今回の道のりは巡礼道を通る形となっている」
ラスアルが地図を人数分を配っていく。
「ここのところ、歪虚の動きが活発となっている。各々、気を引き締めて運搬、警備に当たってほしい」
気合の入った返事を受けたラスアルは笑む。
「さぁ、出発をしよう」
ラスアルの号令に皆が動き出した。
リプレイ本文
出発しようとするハンター達の中に様子が良くない者がいた。
「ロニ……だったな」
ラスアルが声をかけると、ロニ・カルディス ( ka0551 ) は俯いていた顔を上げる。
「すまない、負傷をしてしまった」
「終わった話だ。今は出来ることを考えてくれ」
かなりの痛手を負ったロニにラスアルは労わる言葉をかけた。
「そうそう! お大事にだよ!」
こくこくと頷くメイム ( ka2290 ) にロニは「ああ」と返す。
「でも、ラスアルが道中に明るくて助かったよ」
ひょっこり話に加わったのは岩井崎 旭 ( ka0234 )だ。
「巡礼路はいつも使っている道だからな。時折、きつい道もあるが、なんとかなると思う」
地図を広げたラスアルはある一点を指さす。
「この坂道で馬が往生しなければスムーズに行けるだろう」
「馬は繊細だからな、下手なところでヘソを曲げなければいいが」
神代 誠一 ( ka2086 )の心配にクィーロ・ヴェリル ( ka4122 )は坂道の手前辺りを指さした。
「この辺りで一度休憩を取ってもいいかもね」
「日程に余裕はある。ここまでなら一晩休んでも問題はないだろう」
同じく地図を覗くコーネリア・ミラ・スペンサー ( ka4561 )に全員が頷く。
出発を始めると、日が上がりつつある。
「晴れてるな」
手のひらを翻し、旭は空を見上げた。
少し雲が霞がかった春特有の空色が広がり、太陽の輝きに旭が目を細める。
超聴覚を定期的に発動し、不自然な音を拾おうとしていたが、今は遠くで甲高い音で鳴く鳥の声が心地よく旭の耳を楽しませている。
「気温が上がれば雪も融けていくね」
メイムが土埃を被った雪を避けて歩く。
「泥で滑る可能性がある」
前を歩くコーネリアが商隊の様子を確認するため後ろを振り向いた。
護衛対象である商隊達は調子よさそうであり、馬も問題ないとコーネリアは判断する。
「日が傾いたら一度休憩をしよう」
ロニの提案に皆が同意した。
道中は穏やかであり、今のところ、獣や歪虚の足音は聞こえていなかった。
休憩中もハンター達は警戒を怠らず、商隊達への気遣いを忘れていない。
「ブラッシング?」
「今は冬毛から夏毛に変わる頃でね」
商隊のおじさんから話を聞いていた旭は「やってみるかい?」とブラシを差し出される。
旭も馬がいるので、この時期のブラッシングは妙に嬉しそうだと思い出す。
「気持ちいいか」
声をかけられた馬は短く鳴く。その音はとても心地よい。
一方、誠一達はラスアルと商隊のリーダーと今日の目標について地図を広げ、ミーティングをしていた。
「思ったより好調だったが、坂道は明日の昼前に越えた方がいいな」
コーネリアの意見に皆が同意する。
「坂道の前に水辺がありそうなところはあるのかい?」
地図を見下ろしていたクィーロが問う。
「この辺りにある。このままいけば、日が沈む前にはテントの設営も終わる」
「じゃぁ、調理も出来るな」
ラスアルの解説に目を輝かせるのは誠一だ。
勿論、お目当てはクィーロの料理。
「とりあえずは無事に向かう事だよね」
メイムの言葉で締めくくり、再び動き出す。
平坦な道が続くのはありがたいが、トラブルはやってくる。
荷車の一つが大きく傾きかけた。
すぐ横を歩いていた誠一がとっさに支える。
「大丈夫かい?」
反対側を歩いていたクィーロが誠一に声をかけると、荷車の向こうから「大丈夫だ」と返ってきた。
「すみません、超聴覚で警戒を」
誠一は速やかに他のハンター達へ警戒を促す。
「了解したぜ」
快諾した旭はすぐに超聴覚を発動させ、音を探る。
「泥か」
眉根を潜めるロニに誠一は頷く。
「とりあえず、警戒を頼みます」
泥にはまった荷車から馬を外し、ロープで固定させて引っ張り上げることにしたようだ。
「はいはーい、ちょっと待ってねー」
砂袋の口を開いたメイムは商隊より借りたスコップで袋の中の砂を撒いていく。泥を砂で覆い、ぬかるみを軽減させるのだ。
「お嬢ちゃん、袋を車輪のすぐそばに置くといい」
「わかった」
近くにいた商隊のおじさんの指示に従い、メイムは袋を敷く。
「よし、手伝う」
ラスアルも荷車の背を押して、泥にはまった車輪を砂袋の上に乗せて荷車を泥から脱出させた。
馬を荷車に固定し、再び動き出す。
泥にはまったおかげで少々手間取ったが、そこからは特に問題なく予定した野営地には無事ついた。
「向こうに水辺がある。泥を流すといい」
足元が汚れてしまった誠一にラスアルが助言をする。
「そうさせてもらいます」
素直に助言を受け取った誠一は周囲の確認も含め、ラスアルが教えてくれた方へと向かう。
「ついでに水を汲んでこよう」
クィーロが商隊から借り受けたバケツを二つそれぞれの手で持って、一つを誠一に渡す。
「気を付けていけ。雪も解けて、水位も上がっているだろう」
銃の確認をしつつ、コーネリアが二人に声をかけると、誠一が「気を付けます」と返した。
「超聴覚で気にしているから、何かあったら声をかけてくれよ」
旭の厚意を受け、二人は水辺へと向かう。
「とりあえず、歪虚が出てこなくてよかったね」
飲料水を一口飲んだメイムがふーっ、と息をついて口を開く。
「そうだな、これから煮炊きをするので、火や匂いにおびき寄せられるやもしれない」
ロニが意見を述べると、コーネリアも同意のようだ。
「歪虚に昼や夜があるかわからないが、人の様子につられる可能性があるだろう」
煙は目印となってしまうが、夜となれば身体を冷やしてしまうため、火は焚かねばならない。
「すまんな。やはり、熱源は必要だからな」
「私達も温かい方がいいから気にしないで」
ラスアルが言えば、メイムが茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。
「あ、戻ってきたぞ」
バケツに水を入れて運ぶ誠一とクィーロが戻ってきた。食事や水分補給の飲み水は別に確保してあるが、身の回りに水は不可欠だ。
「お疲れ様、大丈夫だった?」
メイムが誠一のバケツを取り、水場の事を尋ねる。
「ありがとうございます。やはり、雪解けで水位が上がってますね」
「でも、近くまで行かない限りは大丈夫かな」
クィーロはそう言うと、調理番の商隊さん達の方へ行き、夕食の手伝いに入っていった。
テントの設営、荷物の確認を終えると、スープが煮える湯気が辺りを包み込む。
クィーロが保存食の肉も炙っており、ぴくり……と、誠一が反応している。燻された肉の香りが食欲をそそる。
「いい匂いするなぁ……飯まだ?」
芳しい香りに誘われた誠一は調理中のクィーロの背にのしかかる。
「どうした」
ふと、隣に座っている旭の様子に気づいたのはロニだ。
「足音が聞こえる」
静かに呟かれる旭の言葉に緊張が辺りを包む。
「行くぞ」
「ああ」
コーネリアが促すと、真っ先に反応したのは誠一だ。
あともう少しで相棒の旨い料理が食べることが出来たのに邪魔をされ、不機嫌な表情となっている。
肉を火から遠くの網に置いたクィーロは仲間たちが歩く方向へと歩き出す。彼の金色の瞳は緋色へ変わっていた。
「……ったく、飯飯ってそんな食い物の事ばっかだと太るぞ? 誠一!」
不敵な笑みへ表情を変えたクィーロは駆け出しており、相棒の隣へと向かう。
「食った分以上動けば問題ない。香しいよき肉を食べるタイミングを逃そうとする歪虚は許せん」
どうやら、クィーロの肉に反応したのはラスアルも同じだったようだ。
「商隊の人達もお腹空かしているだろうしね!」
メイムの言葉の後、狼の遠吠えがその場にいた全員の耳に入る。
「我々が守る。落ち着いてくれ」
一か所に集まる商隊達にロニが冷静に告げる。ロニの前にはラスアルもおり、二人体制で商隊を守る方向だ。
後衛より前に立ったのはコーネリアだ。
狼の遠吠えが聞こえた方向へとライフルを構え、姿が見えるまで様子を伺う。
遠吠えが聞こえた方向は岩場となっており、泥は少ないが、溶けかけの雪が岩にこびりついている。
駆ける音は複数であり、確実にこちらへ向かってきていた。
魔導ライトを点灯したロニは辺りを照らす。岩場は積み重なっている場所もあり、人の目には見えづらいところがある。
影の隙間から見慣れない影をロニが見い出す。
「こっちだ!」
商人の方へ着いていたロニが叫ぶ。
積み重なった岩の影を走り抜けた狼型歪虚が横から商隊の馬目がけて走ってきていた。
ロニの声に反応したコーネリアがライフル「ルインズタワー」で威嚇射撃を行う。
威嚇射撃に怯んだ歪虚だが、そのまま突進していく。
目を眇めたコーネリアの激情をオーラが反応し、水飛沫のようにオーラが跳ねた。すぐさま彼女は威嚇射撃をやめ、マテリアルを次に撃ちだされる弾丸へ収束させる。
マテリアルの流れを感じつつ、コーネリアはトリガーを引く。
射出された弾丸は狼の右前足に着弾した瞬間、冷気が飛散して狼の足から腹を凍らせていった。
動かない足が縺れ、狼は前方へ転がった。
「意外と知恵が回るのね」
コーネリアが始末した狼の方を向いて呟くのはメイムだ。
二方面が来るところだったのか、歪虚の立ち位置がバラバラだったことにクィーロは気づく。
「バラけられたら厄介だな。俺が盛り上げ役になってやる」
そう言ったクィーロは体内のマテリアルを燃やし、ソウルトーチを発動させた。
「釘付けにしてやるぜ。気張れよ? 誠一」
太刀「宗三左文字」を抜き、切っ先を歪虚達へと向ける。
「最速で終わらせる!」
時間が過ぎれば美味しかろうとも焼き物料理は食感が変わることもある。誠一が何より優先すべきことは安心して食事をとれるようにすること。
彼らの目の前にいるのは彼らより上背のある熊一体。
まず、誠一がアクセルオーバーを発動させて駆け出した。残像を伴う素早い動きで敵の翻弄する。
自身の間合いに入った誠一は棒手裏剣で横に振ってくる熊の腕を弾き、連撃で胸をかき抉った。
熊が唸るように空いた手で誠一を叩き落そうとするが、ギリギリまで引き付けて棒手裏剣を投げて熊の腕に差していく。
誠一が先に仕掛けている間、クィーロは攻めの構えで相棒の戦況を見極めていた。
熊に投げつけられた棒手裏剣にはマテリアルが紐づけられており、誠一が地を蹴ると、一気にマテリアルが収束し、あわや熊とぶつかりそうになる。
彼は身を屈めて熊の身体を蹴って再び跳躍する。熊の肩を越え着地をするが、マテリアルはまだ紐づけられていた。
「悪くないタイミングだ! 燻製玉子つけてやる!」
誠一の飛蝗で身動きが取れなくなった熊へクィーロの一撃が入る。
自らの生命力から抽出したマテリアルを刀に纏わせ、チャージングで更にその威力は強くなっている。厚い熊の身体を袈裟懸けに斬り倒した。
反動で上体を揺らしたクィーロを誠一が支える。
覚醒状態となっている旭は背にミミズクの翼を幻影に纏い、緩やかに羽ばたく。青空の如く、青の瞳は狼を捕えている。
大きな岩の面を滑らせて降りてくる狼は動かない旭を好機とみた狼は更に速度を上げて旭へ狙いを定めた。
狼は旭の喉笛へ噛みつくために大きく跳躍する。
中空から現れる無数の手が伸ばされ、狼へ向けられていく。跳躍の中、逃れることも叶わず、歪虚はファントムハンドに捕らわれた。
地に叩きつけられた歪虚は逃げようとしているが、それよりも先に旭の魔斧「モレク」が歪虚と捉える。
遠吠えで援軍を呼ぼうとしたのか、喉を仰け反る前に歪虚は倒された。
短く息を吐いた旭は周囲を見回し、続く敵へと向かう。
一方、メイムは熊と対峙していた。
振り下ろされる腕の風圧を感じつつ、軽やかにメイムが交わしていき、熊の後ろをとった。
「伸びろドローミ!」
無数に浮かぶ鈍色の鎖が術者の声に呼応するように熊へと伸びていき、熊の歪虚へ絡められた鎖は外れることなく、もがくほどに食い込んでいった。
熊の動きを止めたメイムがワンドを振り上げた時、後方から声が飛んできた。
「横に飛べ!」
コーネリアの注意に反応したメイムは彼女の指示通りに横へ飛ぶ。着地の瞬間、自分がいた場所にフローズンパニッシャーの効果で後ろ足が凍っていく狼の姿があった。
「危なかったぁ」
礼は後にしたメイムは、まだ鉄鎖ドローミの戒めから抜け出せてない熊へと意識を向ける。
「大丈夫か」
旭が駆けつけると、メイムが頷く。
「よし、いくぜ」
先に駆け出す旭が動けなくするように胴から足の付け根にかけて斧を振り下ろす。
がくり、と膝をつく歪虚にメイムはワンドを振り上げ、渾身の一撃を加えた。
残った歪虚も問題なく倒せたハンター達へ商隊達から歓声が上がる。
場が落ち着いてくると、それぞれの役割へ戻って行く。
食事の用意をしている真っ最中の襲撃であったが、埃避けに蓋をしたりと料理は無事であった。
「美味い」
相棒の料理を誉める誠一にクィーロが商隊たちにもお裾分けをするように指示をする。
「さっきはありがとう」
メイムがコーネリアに礼を言うと、彼女は「仕事だからな」と返す。
「無事に殲滅出来てたが、今夜は交代で見張りになるな」
「狼の遠吠えは他の獣も呼ぶからな」
燻製肉を出汁にし、乾かした根菜が入ったスープを啜りつつ、旭が呟く。
「人員は手筈通りに行おう」
ロニが言えば、ハンター達は同意する。
賑やかな夕食であったが、皆疲れており、それぞれのテントへと休んで行く。
夜の警備はとても静かで、時折、夜行性の鳥が鳴き声を上げる程度だった。
冷えるので、警備中は毛布に包んで待機していた。
空を見上げると、雲はなく、明るい月が地上を照らしている。月は満月へ向かっておりあと数日で満月を迎えるだろう。
「明日も晴れそう」
そう呟いたメイムの息は白かった。
翌朝、朝食を終えてから支度をして坂道へと入っていく。登り道よりくだり道が危険なため、滑らないように道に砂を撒く。馬をなだめ、急かさないように進んでいった。
ハンター達も慎重に周囲の警戒にあたり、様子を見守る。
平坦な道へと入っていくと、皆が安堵の息を吐いて、休憩をとった。
休憩後も歩いていき、目的の場所が見えてくる。
「もう少しだ」
旭は旅の終わりが近づき、明るく皆に声をかけた。
到着したが、護衛依頼は荷物が無事かどうか確認するまでだが、荷物には傷もない。
「ありがとう」
商隊の隊長が代表してハンター達に礼を告げ、護衛が無事に終わった。
「ロニ……だったな」
ラスアルが声をかけると、ロニ・カルディス ( ka0551 ) は俯いていた顔を上げる。
「すまない、負傷をしてしまった」
「終わった話だ。今は出来ることを考えてくれ」
かなりの痛手を負ったロニにラスアルは労わる言葉をかけた。
「そうそう! お大事にだよ!」
こくこくと頷くメイム ( ka2290 ) にロニは「ああ」と返す。
「でも、ラスアルが道中に明るくて助かったよ」
ひょっこり話に加わったのは岩井崎 旭 ( ka0234 )だ。
「巡礼路はいつも使っている道だからな。時折、きつい道もあるが、なんとかなると思う」
地図を広げたラスアルはある一点を指さす。
「この坂道で馬が往生しなければスムーズに行けるだろう」
「馬は繊細だからな、下手なところでヘソを曲げなければいいが」
神代 誠一 ( ka2086 )の心配にクィーロ・ヴェリル ( ka4122 )は坂道の手前辺りを指さした。
「この辺りで一度休憩を取ってもいいかもね」
「日程に余裕はある。ここまでなら一晩休んでも問題はないだろう」
同じく地図を覗くコーネリア・ミラ・スペンサー ( ka4561 )に全員が頷く。
出発を始めると、日が上がりつつある。
「晴れてるな」
手のひらを翻し、旭は空を見上げた。
少し雲が霞がかった春特有の空色が広がり、太陽の輝きに旭が目を細める。
超聴覚を定期的に発動し、不自然な音を拾おうとしていたが、今は遠くで甲高い音で鳴く鳥の声が心地よく旭の耳を楽しませている。
「気温が上がれば雪も融けていくね」
メイムが土埃を被った雪を避けて歩く。
「泥で滑る可能性がある」
前を歩くコーネリアが商隊の様子を確認するため後ろを振り向いた。
護衛対象である商隊達は調子よさそうであり、馬も問題ないとコーネリアは判断する。
「日が傾いたら一度休憩をしよう」
ロニの提案に皆が同意した。
道中は穏やかであり、今のところ、獣や歪虚の足音は聞こえていなかった。
休憩中もハンター達は警戒を怠らず、商隊達への気遣いを忘れていない。
「ブラッシング?」
「今は冬毛から夏毛に変わる頃でね」
商隊のおじさんから話を聞いていた旭は「やってみるかい?」とブラシを差し出される。
旭も馬がいるので、この時期のブラッシングは妙に嬉しそうだと思い出す。
「気持ちいいか」
声をかけられた馬は短く鳴く。その音はとても心地よい。
一方、誠一達はラスアルと商隊のリーダーと今日の目標について地図を広げ、ミーティングをしていた。
「思ったより好調だったが、坂道は明日の昼前に越えた方がいいな」
コーネリアの意見に皆が同意する。
「坂道の前に水辺がありそうなところはあるのかい?」
地図を見下ろしていたクィーロが問う。
「この辺りにある。このままいけば、日が沈む前にはテントの設営も終わる」
「じゃぁ、調理も出来るな」
ラスアルの解説に目を輝かせるのは誠一だ。
勿論、お目当てはクィーロの料理。
「とりあえずは無事に向かう事だよね」
メイムの言葉で締めくくり、再び動き出す。
平坦な道が続くのはありがたいが、トラブルはやってくる。
荷車の一つが大きく傾きかけた。
すぐ横を歩いていた誠一がとっさに支える。
「大丈夫かい?」
反対側を歩いていたクィーロが誠一に声をかけると、荷車の向こうから「大丈夫だ」と返ってきた。
「すみません、超聴覚で警戒を」
誠一は速やかに他のハンター達へ警戒を促す。
「了解したぜ」
快諾した旭はすぐに超聴覚を発動させ、音を探る。
「泥か」
眉根を潜めるロニに誠一は頷く。
「とりあえず、警戒を頼みます」
泥にはまった荷車から馬を外し、ロープで固定させて引っ張り上げることにしたようだ。
「はいはーい、ちょっと待ってねー」
砂袋の口を開いたメイムは商隊より借りたスコップで袋の中の砂を撒いていく。泥を砂で覆い、ぬかるみを軽減させるのだ。
「お嬢ちゃん、袋を車輪のすぐそばに置くといい」
「わかった」
近くにいた商隊のおじさんの指示に従い、メイムは袋を敷く。
「よし、手伝う」
ラスアルも荷車の背を押して、泥にはまった車輪を砂袋の上に乗せて荷車を泥から脱出させた。
馬を荷車に固定し、再び動き出す。
泥にはまったおかげで少々手間取ったが、そこからは特に問題なく予定した野営地には無事ついた。
「向こうに水辺がある。泥を流すといい」
足元が汚れてしまった誠一にラスアルが助言をする。
「そうさせてもらいます」
素直に助言を受け取った誠一は周囲の確認も含め、ラスアルが教えてくれた方へと向かう。
「ついでに水を汲んでこよう」
クィーロが商隊から借り受けたバケツを二つそれぞれの手で持って、一つを誠一に渡す。
「気を付けていけ。雪も解けて、水位も上がっているだろう」
銃の確認をしつつ、コーネリアが二人に声をかけると、誠一が「気を付けます」と返した。
「超聴覚で気にしているから、何かあったら声をかけてくれよ」
旭の厚意を受け、二人は水辺へと向かう。
「とりあえず、歪虚が出てこなくてよかったね」
飲料水を一口飲んだメイムがふーっ、と息をついて口を開く。
「そうだな、これから煮炊きをするので、火や匂いにおびき寄せられるやもしれない」
ロニが意見を述べると、コーネリアも同意のようだ。
「歪虚に昼や夜があるかわからないが、人の様子につられる可能性があるだろう」
煙は目印となってしまうが、夜となれば身体を冷やしてしまうため、火は焚かねばならない。
「すまんな。やはり、熱源は必要だからな」
「私達も温かい方がいいから気にしないで」
ラスアルが言えば、メイムが茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。
「あ、戻ってきたぞ」
バケツに水を入れて運ぶ誠一とクィーロが戻ってきた。食事や水分補給の飲み水は別に確保してあるが、身の回りに水は不可欠だ。
「お疲れ様、大丈夫だった?」
メイムが誠一のバケツを取り、水場の事を尋ねる。
「ありがとうございます。やはり、雪解けで水位が上がってますね」
「でも、近くまで行かない限りは大丈夫かな」
クィーロはそう言うと、調理番の商隊さん達の方へ行き、夕食の手伝いに入っていった。
テントの設営、荷物の確認を終えると、スープが煮える湯気が辺りを包み込む。
クィーロが保存食の肉も炙っており、ぴくり……と、誠一が反応している。燻された肉の香りが食欲をそそる。
「いい匂いするなぁ……飯まだ?」
芳しい香りに誘われた誠一は調理中のクィーロの背にのしかかる。
「どうした」
ふと、隣に座っている旭の様子に気づいたのはロニだ。
「足音が聞こえる」
静かに呟かれる旭の言葉に緊張が辺りを包む。
「行くぞ」
「ああ」
コーネリアが促すと、真っ先に反応したのは誠一だ。
あともう少しで相棒の旨い料理が食べることが出来たのに邪魔をされ、不機嫌な表情となっている。
肉を火から遠くの網に置いたクィーロは仲間たちが歩く方向へと歩き出す。彼の金色の瞳は緋色へ変わっていた。
「……ったく、飯飯ってそんな食い物の事ばっかだと太るぞ? 誠一!」
不敵な笑みへ表情を変えたクィーロは駆け出しており、相棒の隣へと向かう。
「食った分以上動けば問題ない。香しいよき肉を食べるタイミングを逃そうとする歪虚は許せん」
どうやら、クィーロの肉に反応したのはラスアルも同じだったようだ。
「商隊の人達もお腹空かしているだろうしね!」
メイムの言葉の後、狼の遠吠えがその場にいた全員の耳に入る。
「我々が守る。落ち着いてくれ」
一か所に集まる商隊達にロニが冷静に告げる。ロニの前にはラスアルもおり、二人体制で商隊を守る方向だ。
後衛より前に立ったのはコーネリアだ。
狼の遠吠えが聞こえた方向へとライフルを構え、姿が見えるまで様子を伺う。
遠吠えが聞こえた方向は岩場となっており、泥は少ないが、溶けかけの雪が岩にこびりついている。
駆ける音は複数であり、確実にこちらへ向かってきていた。
魔導ライトを点灯したロニは辺りを照らす。岩場は積み重なっている場所もあり、人の目には見えづらいところがある。
影の隙間から見慣れない影をロニが見い出す。
「こっちだ!」
商人の方へ着いていたロニが叫ぶ。
積み重なった岩の影を走り抜けた狼型歪虚が横から商隊の馬目がけて走ってきていた。
ロニの声に反応したコーネリアがライフル「ルインズタワー」で威嚇射撃を行う。
威嚇射撃に怯んだ歪虚だが、そのまま突進していく。
目を眇めたコーネリアの激情をオーラが反応し、水飛沫のようにオーラが跳ねた。すぐさま彼女は威嚇射撃をやめ、マテリアルを次に撃ちだされる弾丸へ収束させる。
マテリアルの流れを感じつつ、コーネリアはトリガーを引く。
射出された弾丸は狼の右前足に着弾した瞬間、冷気が飛散して狼の足から腹を凍らせていった。
動かない足が縺れ、狼は前方へ転がった。
「意外と知恵が回るのね」
コーネリアが始末した狼の方を向いて呟くのはメイムだ。
二方面が来るところだったのか、歪虚の立ち位置がバラバラだったことにクィーロは気づく。
「バラけられたら厄介だな。俺が盛り上げ役になってやる」
そう言ったクィーロは体内のマテリアルを燃やし、ソウルトーチを発動させた。
「釘付けにしてやるぜ。気張れよ? 誠一」
太刀「宗三左文字」を抜き、切っ先を歪虚達へと向ける。
「最速で終わらせる!」
時間が過ぎれば美味しかろうとも焼き物料理は食感が変わることもある。誠一が何より優先すべきことは安心して食事をとれるようにすること。
彼らの目の前にいるのは彼らより上背のある熊一体。
まず、誠一がアクセルオーバーを発動させて駆け出した。残像を伴う素早い動きで敵の翻弄する。
自身の間合いに入った誠一は棒手裏剣で横に振ってくる熊の腕を弾き、連撃で胸をかき抉った。
熊が唸るように空いた手で誠一を叩き落そうとするが、ギリギリまで引き付けて棒手裏剣を投げて熊の腕に差していく。
誠一が先に仕掛けている間、クィーロは攻めの構えで相棒の戦況を見極めていた。
熊に投げつけられた棒手裏剣にはマテリアルが紐づけられており、誠一が地を蹴ると、一気にマテリアルが収束し、あわや熊とぶつかりそうになる。
彼は身を屈めて熊の身体を蹴って再び跳躍する。熊の肩を越え着地をするが、マテリアルはまだ紐づけられていた。
「悪くないタイミングだ! 燻製玉子つけてやる!」
誠一の飛蝗で身動きが取れなくなった熊へクィーロの一撃が入る。
自らの生命力から抽出したマテリアルを刀に纏わせ、チャージングで更にその威力は強くなっている。厚い熊の身体を袈裟懸けに斬り倒した。
反動で上体を揺らしたクィーロを誠一が支える。
覚醒状態となっている旭は背にミミズクの翼を幻影に纏い、緩やかに羽ばたく。青空の如く、青の瞳は狼を捕えている。
大きな岩の面を滑らせて降りてくる狼は動かない旭を好機とみた狼は更に速度を上げて旭へ狙いを定めた。
狼は旭の喉笛へ噛みつくために大きく跳躍する。
中空から現れる無数の手が伸ばされ、狼へ向けられていく。跳躍の中、逃れることも叶わず、歪虚はファントムハンドに捕らわれた。
地に叩きつけられた歪虚は逃げようとしているが、それよりも先に旭の魔斧「モレク」が歪虚と捉える。
遠吠えで援軍を呼ぼうとしたのか、喉を仰け反る前に歪虚は倒された。
短く息を吐いた旭は周囲を見回し、続く敵へと向かう。
一方、メイムは熊と対峙していた。
振り下ろされる腕の風圧を感じつつ、軽やかにメイムが交わしていき、熊の後ろをとった。
「伸びろドローミ!」
無数に浮かぶ鈍色の鎖が術者の声に呼応するように熊へと伸びていき、熊の歪虚へ絡められた鎖は外れることなく、もがくほどに食い込んでいった。
熊の動きを止めたメイムがワンドを振り上げた時、後方から声が飛んできた。
「横に飛べ!」
コーネリアの注意に反応したメイムは彼女の指示通りに横へ飛ぶ。着地の瞬間、自分がいた場所にフローズンパニッシャーの効果で後ろ足が凍っていく狼の姿があった。
「危なかったぁ」
礼は後にしたメイムは、まだ鉄鎖ドローミの戒めから抜け出せてない熊へと意識を向ける。
「大丈夫か」
旭が駆けつけると、メイムが頷く。
「よし、いくぜ」
先に駆け出す旭が動けなくするように胴から足の付け根にかけて斧を振り下ろす。
がくり、と膝をつく歪虚にメイムはワンドを振り上げ、渾身の一撃を加えた。
残った歪虚も問題なく倒せたハンター達へ商隊達から歓声が上がる。
場が落ち着いてくると、それぞれの役割へ戻って行く。
食事の用意をしている真っ最中の襲撃であったが、埃避けに蓋をしたりと料理は無事であった。
「美味い」
相棒の料理を誉める誠一にクィーロが商隊たちにもお裾分けをするように指示をする。
「さっきはありがとう」
メイムがコーネリアに礼を言うと、彼女は「仕事だからな」と返す。
「無事に殲滅出来てたが、今夜は交代で見張りになるな」
「狼の遠吠えは他の獣も呼ぶからな」
燻製肉を出汁にし、乾かした根菜が入ったスープを啜りつつ、旭が呟く。
「人員は手筈通りに行おう」
ロニが言えば、ハンター達は同意する。
賑やかな夕食であったが、皆疲れており、それぞれのテントへと休んで行く。
夜の警備はとても静かで、時折、夜行性の鳥が鳴き声を上げる程度だった。
冷えるので、警備中は毛布に包んで待機していた。
空を見上げると、雲はなく、明るい月が地上を照らしている。月は満月へ向かっておりあと数日で満月を迎えるだろう。
「明日も晴れそう」
そう呟いたメイムの息は白かった。
翌朝、朝食を終えてから支度をして坂道へと入っていく。登り道よりくだり道が危険なため、滑らないように道に砂を撒く。馬をなだめ、急かさないように進んでいった。
ハンター達も慎重に周囲の警戒にあたり、様子を見守る。
平坦な道へと入っていくと、皆が安堵の息を吐いて、休憩をとった。
休憩後も歩いていき、目的の場所が見えてくる。
「もう少しだ」
旭は旅の終わりが近づき、明るく皆に声をかけた。
到着したが、護衛依頼は荷物が無事かどうか確認するまでだが、荷物には傷もない。
「ありがとう」
商隊の隊長が代表してハンター達に礼を告げ、護衛が無事に終わった。
依頼結果
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【相談卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/03/22 10:40:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/20 00:54:02 |