ゲスト
(ka0000)
【幻兆】風よ、天命の風よ
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/22 09:00
- 完成日
- 2018/03/28 06:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
リムネラとヘレが龍園へと向かう旅の支援の一つとして、一部の巫女たちが彼女に代わりユニオンの運営を補佐すべく彼女が不在となるガーディナへと赴く事になった。
ズヴォー族出身の巫女、ミュウ=ズヴォーもその一人である。
そうしてミュウが聖地よりガーディナへ、護衛を伴って移動するその道行きに、ズヴォー族の集落に寄りたい、と言いだしたのは、さほどルート的に支障がなかったこと、その上で、久しぶりに聖地を離れる切欠を得て、故郷が懐かしくなった──というのは勿論、有るだろうが。
「お前様ら、あれをやるでさぁ! 準備するでさあ!」
巫女の帰還を出迎える人々に、彼女は挨拶もそこそこにそう宣言する。
あれとは何か。彼らは即座に理解したらしい。響く声に、あちこちのゲルから人が次々と顔を出す。
開けた場所に、数メートルの幅を開けて旗が二本立てられる。軽い布で細めに織られたそれは、風によくたなびいていた。
膝程度の高さの木台が設置され、その上に小さな拍子木。
何らかのステージなのだろう、そう思わせるそこを、人が輪となって囲んでいく。
始まろうとしているのは、ズヴォー族に伝わる、一種の祈りの儀式だ。
「さて、」
一通り準備が終わったらしい時点で、ミュウが集まった者たち、主に成人男子が固まるあたりから中心に視線を流す。誰からやるのか、と促すように。
「それじゃ、」
声が上がったのは、そうして集まった部族の者たちではなくハンターたちの近くからだった。
「手前どもが」
そう言って前に出たのは、部族の戦士としてと同時に、ハンターとして彼女の護衛依頼に参加していたチィ=ズヴォーだ。
彼が率先して名乗り出たことに、ミュウは少なからず驚きの顔を浮かべた。だがその顔つきが、彼女がかつて知るものと異なっていると理解すると、すっと扇を上げて旗の間を指し示す。
木台の前に、一人の中年女性が座る。試すように、手にした、畳んだ状態の扇で台をパチリパチリと叩き、あるいは扇を縦にして先端でトントンと音を立てる。時折、拍子木に持ち替える。
チィが旗の中央に立つと、中年女性が、唄のような朗読のような、独特の音とリズムを持った伸びのある音声を奏ではじめ、それと扇や拍子木がもたらすリズムに合わせ、チィが身体を動かし始めた。
腰には、彼が愛用する日本刀がそのまま佩かれているが、今彼が手にしているのは部族の戦士がよく使う鉄扇だ。重量のあるそれを広げた状態で横に、斜めに薙いでいく。
邪気を切り払い魔を追い払うといわれるズヴォー族の戦士の舞、『斬々舞』──であるが。
舞い、というにはどこか足回りに鈍重さがある。踏み出し、扇を振る一連の流れ、それが、そういうもの、なのかもしれないが、踊るというにはどこか動きが固い印象を覚える。
……と。
彼は途中で、これまで広げていた鉄扇を畳む。左手にそれを持ったまま、佩いたままの刀をすらりと抜いた。
本来、ズヴォー族が使う武器ではない──故に、舞に使われることなど、無い。
が、そもそも『斬々舞』に、ズヴォー族に、「決まった形」というものは厳密には存在しない。
こうした理念の元、という基底は有れど、人によって、そして時とともに変わっていくのを彼らは厭わない。
故に、これが彼による『斬々舞』なのだという事を、彼らは自然に受け入れる。
向きを変えながら、刀を振るい、斬る。そこに相手がいるかのように。続く独特のリズムに、その動きを合わせながら。
舞い、ではない、やはり。メリハリをもってしっかりと止められる所作は、踊りとは違う。しかし、先ほどよりは何か明確な、一つの型であることははっきりと伝わる。
というか、分かるものには分かるだろう、これは……殺陣、だ。舞踊ではなく、どちらかと言えば演劇技術。これもやはり、どこか拙さを感じさせるものではある、が。
それを挟んで──納刀し、再び鉄扇での動きに戻る。すると鈍く見えた鉄扇の動きも、先ほどまでとは印象が変わって見えた。
ただ儀式として斬り払うのではなく、戦いそのものを見せようとした動き。それが。それが、彼の。
……元々は。
覚醒者として目覚めるほどの戦士としての素養がありながら、チィはこの『斬々舞』は苦手としていた。戦いでなく武器を振るえと言われても、何となく動きのコツがつかめずに、周りからもはっきりと分かるほどわざとらしい動きしか出来なくて。
それでも、戦士としての才能を見せるたびにこの『斬々舞』も求められるそのため、次第に「苦手」から「嫌い」になりつつあるのも自覚していて。
その理念にも、反発していた。戦士は、武器は、敵を倒せればそれでいい。美しさを見せようとすることに土台無理があるのだ……と、言い聞かせていて。
そして──ある時、出会った。彼自身が美しいと心から思う、剣の閃きに。華麗に魅せながら、戦いの中にある剣の技に。
──……独特の声音が、終わった。同時に、チィも動きを止める。
充実した顔だった。
ミュウはそれにほぅ、と呟いてから、ハンターたちへと向き直る。
「……手前どもには、言い伝えがありやす。誰にでも一度は、『天命の風』が吹く、と。実際の風じゃねえ、己の心に強烈に吹き付けて、洗い流して変えちまうような、運命の風が」
言って彼女は、手にした、畳んだままの扇を一撫でする。独特の文様があしらわれたそれは、儀式に用いるための特別なものであると感じさせた。
「必要としてる奴にその風を呼び、あるいはその『天命の風』が良くねえ風向きのもんなら良きものに変わるよう、祖霊に祈りをささげるのが、手前どもがこれから行う、ズヴォー族の巫女の踊り『天転呼舞』でさあ。
……此度のリムネラ殿の件、同じ巫女として手前どもも他人事と思っちゃあいねえ。これが彼女たちの『天命の風』だってんならぁ、その風が良いもんであるように、良いもんに変わるように、祈り、舞わせていただきやす。
どうかハンターの皆様方も、輪に混ざり、その祈りを加えちゃくれねえですか。何、彼女の為だけじゃなくてもいいんでさあ。ご自身の願う風、かつて感じた風がありゃあ、そのことを想ってくださっても。色んな人のいろんな思いが、皆の力になるんでさあ」
ズヴォー族出身の巫女、ミュウ=ズヴォーもその一人である。
そうしてミュウが聖地よりガーディナへ、護衛を伴って移動するその道行きに、ズヴォー族の集落に寄りたい、と言いだしたのは、さほどルート的に支障がなかったこと、その上で、久しぶりに聖地を離れる切欠を得て、故郷が懐かしくなった──というのは勿論、有るだろうが。
「お前様ら、あれをやるでさぁ! 準備するでさあ!」
巫女の帰還を出迎える人々に、彼女は挨拶もそこそこにそう宣言する。
あれとは何か。彼らは即座に理解したらしい。響く声に、あちこちのゲルから人が次々と顔を出す。
開けた場所に、数メートルの幅を開けて旗が二本立てられる。軽い布で細めに織られたそれは、風によくたなびいていた。
膝程度の高さの木台が設置され、その上に小さな拍子木。
何らかのステージなのだろう、そう思わせるそこを、人が輪となって囲んでいく。
始まろうとしているのは、ズヴォー族に伝わる、一種の祈りの儀式だ。
「さて、」
一通り準備が終わったらしい時点で、ミュウが集まった者たち、主に成人男子が固まるあたりから中心に視線を流す。誰からやるのか、と促すように。
「それじゃ、」
声が上がったのは、そうして集まった部族の者たちではなくハンターたちの近くからだった。
「手前どもが」
そう言って前に出たのは、部族の戦士としてと同時に、ハンターとして彼女の護衛依頼に参加していたチィ=ズヴォーだ。
彼が率先して名乗り出たことに、ミュウは少なからず驚きの顔を浮かべた。だがその顔つきが、彼女がかつて知るものと異なっていると理解すると、すっと扇を上げて旗の間を指し示す。
木台の前に、一人の中年女性が座る。試すように、手にした、畳んだ状態の扇で台をパチリパチリと叩き、あるいは扇を縦にして先端でトントンと音を立てる。時折、拍子木に持ち替える。
チィが旗の中央に立つと、中年女性が、唄のような朗読のような、独特の音とリズムを持った伸びのある音声を奏ではじめ、それと扇や拍子木がもたらすリズムに合わせ、チィが身体を動かし始めた。
腰には、彼が愛用する日本刀がそのまま佩かれているが、今彼が手にしているのは部族の戦士がよく使う鉄扇だ。重量のあるそれを広げた状態で横に、斜めに薙いでいく。
邪気を切り払い魔を追い払うといわれるズヴォー族の戦士の舞、『斬々舞』──であるが。
舞い、というにはどこか足回りに鈍重さがある。踏み出し、扇を振る一連の流れ、それが、そういうもの、なのかもしれないが、踊るというにはどこか動きが固い印象を覚える。
……と。
彼は途中で、これまで広げていた鉄扇を畳む。左手にそれを持ったまま、佩いたままの刀をすらりと抜いた。
本来、ズヴォー族が使う武器ではない──故に、舞に使われることなど、無い。
が、そもそも『斬々舞』に、ズヴォー族に、「決まった形」というものは厳密には存在しない。
こうした理念の元、という基底は有れど、人によって、そして時とともに変わっていくのを彼らは厭わない。
故に、これが彼による『斬々舞』なのだという事を、彼らは自然に受け入れる。
向きを変えながら、刀を振るい、斬る。そこに相手がいるかのように。続く独特のリズムに、その動きを合わせながら。
舞い、ではない、やはり。メリハリをもってしっかりと止められる所作は、踊りとは違う。しかし、先ほどよりは何か明確な、一つの型であることははっきりと伝わる。
というか、分かるものには分かるだろう、これは……殺陣、だ。舞踊ではなく、どちらかと言えば演劇技術。これもやはり、どこか拙さを感じさせるものではある、が。
それを挟んで──納刀し、再び鉄扇での動きに戻る。すると鈍く見えた鉄扇の動きも、先ほどまでとは印象が変わって見えた。
ただ儀式として斬り払うのではなく、戦いそのものを見せようとした動き。それが。それが、彼の。
……元々は。
覚醒者として目覚めるほどの戦士としての素養がありながら、チィはこの『斬々舞』は苦手としていた。戦いでなく武器を振るえと言われても、何となく動きのコツがつかめずに、周りからもはっきりと分かるほどわざとらしい動きしか出来なくて。
それでも、戦士としての才能を見せるたびにこの『斬々舞』も求められるそのため、次第に「苦手」から「嫌い」になりつつあるのも自覚していて。
その理念にも、反発していた。戦士は、武器は、敵を倒せればそれでいい。美しさを見せようとすることに土台無理があるのだ……と、言い聞かせていて。
そして──ある時、出会った。彼自身が美しいと心から思う、剣の閃きに。華麗に魅せながら、戦いの中にある剣の技に。
──……独特の声音が、終わった。同時に、チィも動きを止める。
充実した顔だった。
ミュウはそれにほぅ、と呟いてから、ハンターたちへと向き直る。
「……手前どもには、言い伝えがありやす。誰にでも一度は、『天命の風』が吹く、と。実際の風じゃねえ、己の心に強烈に吹き付けて、洗い流して変えちまうような、運命の風が」
言って彼女は、手にした、畳んだままの扇を一撫でする。独特の文様があしらわれたそれは、儀式に用いるための特別なものであると感じさせた。
「必要としてる奴にその風を呼び、あるいはその『天命の風』が良くねえ風向きのもんなら良きものに変わるよう、祖霊に祈りをささげるのが、手前どもがこれから行う、ズヴォー族の巫女の踊り『天転呼舞』でさあ。
……此度のリムネラ殿の件、同じ巫女として手前どもも他人事と思っちゃあいねえ。これが彼女たちの『天命の風』だってんならぁ、その風が良いもんであるように、良いもんに変わるように、祈り、舞わせていただきやす。
どうかハンターの皆様方も、輪に混ざり、その祈りを加えちゃくれねえですか。何、彼女の為だけじゃなくてもいいんでさあ。ご自身の願う風、かつて感じた風がありゃあ、そのことを想ってくださっても。色んな人のいろんな思いが、皆の力になるんでさあ」
リプレイ本文
風になびく旗の間にミュウ=ズヴォーが立つ。
また独特の音が奏で、吟じられる。
開かれた扇子ははためく布、すなわち風向きに沿って。
流れに乗せるように扇子が動き、腕が伸び切ったところで自然な動きでまた、風の動きとは異なる方へ流されていく。
さながら、うまく風に乗りながら、しかし流れを変えるように。
独特のリズムに合わせ、常に足元は跳ねさせながら、しかし常に風向きを意識していなければならない。
優美な巫女の舞と見せかけて、実はかなり忙しなく、集中を要するのが『天転呼舞』である。
その様を、一通り把握して。
(なるほどねー)
フューリト・クローバー(ka7146)は、祈りに参加しながら、うんうんと頷いていた。
風の流れに無理に逆らおうとするのではなく、しかし新たな流れを導くような舞。
(天命の風、運命、かぁ)
運命、という言葉に、色々と思うところはある。
正直なところ、自分で出来ることなら、自分で手繰り寄せる方がいい、けれど。
それでも、自分ではどうにもならないこともあるだろうと認めていて、そのために運命という言葉があるのだろう、とか。
それから。
(まー、でも、運命だから仕方ないとか、つまんなーい)
きっとそれが、彼女がこの儀式に参加し、祈る理由だろう。
(風が良くない方向に吹くなら、色々やって風向き変えてやるーって思うのがいいと思うのー)
それはズルだと、天命の風も思わないから、こういう儀式があるのだろうと。
だから彼女は、祈りの輪に加わっている。
(助け合う大事ー恥ずかしくないことーそう思えるのも運命でしょー)
例えば、誰かのために祈りたい人がいて。
そんな場に、自分が居合わせたこと、それだって。
(ポジティブに考えて良いものを呼ぼー形だけじゃ駄目だよねー)
それが、彼女の祈り。
儀式の輪に加えられた、彼女の想いだ。
やがて新たな旋律が、祈りの輪に混ざっていった。
ミオレスカ(ka3496)の奏でる竪琴だ。
気まぐれな風を捉えようとする『天転呼舞』のリズムはかなり特殊なもので、合わせるまでにそれなりに手間取ったが、ようやくうまく乗ることが出来た。
彼女が知っている辺境由来のエキゾチックな楽曲と、似ている気も、したから。
その音色を『乱入』と咎めるものはここには居ない。
それは……──
(……リムネラ様は、ご無事でしょうか。旅の安全とご帰還をお祈りします)
その指先から、横顔から伺える想いが、何よりも真摯であることが伝わるから、でもあるだろう。
(ヘレ様にも、白龍の力などは後回しでいいので、元気に目覚めてもらいたいです)
先ずは、それだけを。正直な、心からのミオレスカの願い。
舞はまだ続いている。音に乗るために集中する中、想いは巡いっていく。
祈るならば。何を望むだろうか。
(皆さんの旅先や、帰ってきた後もみんなで、美味しいご飯が食べられる事を)
彼女自身も、美味しいご飯を作ったり、皆さんと一緒に楽しく美味しく食べられると、嬉しい、とか。
徒然の思いを、彼女は指先に、竪琴の旋律に乗せていく。
変化の風を呼ぶ、儀式へと向けて。
「『天命の風』か……」
儀式が進む中、ヴァイス(ka0364)は思わず声に出して呟いていた。
ズヴォー族の言う天命の風の意味とはおそらく異なるだろう。だが、自然、浮かんでくるものはある。
……彼にとってのそれは、自身を救ってくれた師であると、蒼い石の欠片のペンダントを握りしめながら想いを馳せた。
その想いをそのまま、祈りとして捧げる。
師がいなければ生きてはいなかったし、師に育てられなければ憎しみの心を昇華できなかっただろう。
もし己に吹いた風が異なるものであったならば。仮に生き延びたとしてその先、己は「歪虚を滅ぼす」ただそれだけに生涯を尽くしていたはずだ──今の己のように、「誰かを助ける」為ではなく。
こういう場があって、改めて意識する、師への感謝。
きっと儀式というものは、こういうためにあるし、その気持ちこそが祈りとなる。
そんな一行を、部族の者たちを見渡しながら、エメラルド・シルフィユ(ka4678)もまた、ごく自然に共に祈る気持ちが芽生えていた。
彼らの作法とは違うかもしれないが、聖導士として我等の神に旅の無事と彼女らへの御加護を……と。
異教の者達でも神は等しく平等だ。
生真面目に、彼女は信じている。
皆が安らかに暮らせる世界の為に我が主と彼らの神の両方に祈りを捧げよう、と。揺るがぬ信仰で。
……が。
やはり信じる神を明確に持つ彼女がこの儀式に臨む立ち位置はやはり、どこか一歩引いたものであることもまた事実だった。
だからこそ。
この舞が始まるより前、チィ=ズヴォーによる『斬々舞』が終わったあたりで輪から離れていった星野 ハナ(ka5852)のことが若干気がかりではあった。
その、ハナはと言えば。
初めから、自覚はしていたのだった。自分が碌なことは考えないという事は。
だからこそ、儀式が始まった時から、あえて輪には加わらず遠巻きに見るだけにしていたのだが。
(これ……透さんの殺陣の型じゃないですぅ?!)
天転呼舞が始まるより前。チィの斬々舞を見た瞬間、もう、駄目だった。
「ヤバいですぅ、こんなところでリアルファンタジー爆誕ですぅ……チィさんが、神ッ……まさに神ッ……尊すぎて生きるのがつらいですぅ」
感涙の涙に咽び止まらなくなると、彼女は慌ててその場から逃げ出し、蹲り彼女は呟くのだった。
まあそんな、こもごもの想いが混ざったり混ざらなかったりしつつ。
時に激しく、時に優雅に、舞は続けられる。
辺境を渡る風を感じながら、やがて音は止まり、刻まれていたステップが終わる。
部族の皆が、ハンターが見守る中、滞りなく儀式は終了したようだった。
●
「んー……、中々にいい風を感じやしたよ、ハンターの皆様方ぁ」
そんなこんなで、やがて儀式も終わり。
部族から離れ一行は再び、ガーディナを目指す道行きへと戻るのだった。
その道中、ふと、ミュウが満足げにハンターたちへと語らいかける。
のどかな旅とはいかない。ヴァイスは双眼鏡で定期的に遠方の偵察を怠らなかったし、フューリトは逆に視界が固定されるからと肉眼を中心に警戒を強めていた。
「見つけたらタンバリン叩くよー」
フューリトは事前にそう一行に説明していた。敵を見つけた方角により叩く回数を変えると宣言されたそれは、今のところ沈黙。
すると、ずっと押し黙って歩くのも気づまりという感じで、ミュウが話しかけたのだ。
「儀式、上手くいったんでしょうか。少しでも力になれたらうれしいです」
ミオレスカが答える。
「リムネラさんのためにという想いもありましたが、改めて、自分の気持ちも整理できた、気がします」
彼女の言葉に、ヴァイスも思うところがあったのか、しんみりと頷く。
「天命の風は、まだなのかそうなのか分かりませんけど、たくさんの変化の風はあったと思います。ハンターになって、みんながご飯を美味しく食べられるように活動したいと思っていることが、そのひとつなのかもしれませんって、そう思いました」
そこまで言って、彼女はクスリと笑う。
「醤油との出会いは、また、違うような気がするのですが」
場を和ませようかという風に、冗談めかして言ったミオレスカの言葉に。
「醤油ですかい。あれは確かに旨ぇですなあ」
意外というか。チィが思った以上に反応した。
「チィさんも、醤油、ご存知でしたか?」
「へえ。手前ども、リアルブルーの料理も時折作ってもらってますんで」
「はぐぁ」
「素晴らしいですよね、お醤油。味もですけど、香りも。……ともあれ、また、そんな出会いがあると良いですね」
そう言って、ミオレスカがいったん、言葉を切る。
「運命ねー。僕は、自分が歩いてきた道がどうしてそういう道なったのか、っていうのに、一番いい感じの説明かなーって思ったよー」
後を継ぐように、そこでフューリトが口を開く。
「困難があったとして、それを自分で乗り越えようと思える自分とー、その思いに見合う色々があって、巡り合わせがあるかも運命だよねー」
「巡り合わせ……巡り合わせか。まさに、そうだな……」
彼女の言葉に、ヴァイスがしみじみと頷く。
いつの間にかすっかり、自然に言葉を交わし合い雑談という空気になっていた。
勿論、護衛中という事を念頭から外すものは居なかったが。
そんな中、ハナは一行のやや後ろを進んでいた。
チィを見ては顔を真っ赤にして、彼がその視線に気づき時折振り返るとそっぽを向く。
それだけ見ると、まるで恋する乙女の如き挙動にも思えるのだが。
(……何故だろう、何か不気味なオーラを感じるのだが!?)
そう感じるのはハナの傍を歩くエメラルドである。儀式のときから様子のおかしかったハナを彼女は、生来の気真面目さから気にかけて、こうしてそれとなくそばに居ることにしたわけだが。
ミオレスカとチィの会話の最中、ハナは突如奇声のようなものを上げては咄嗟に口元を覆う。ぽたりと、指の隙間から赤いものが零れた。
「だ、大丈夫か!?」
慌ててエメラルドが声をかける。
「はぅぅ……こんな身近に推しカプが居ると思うと動悸がぁ……運営(?)が私を殺しに来てますぅ、尊すぎてつらいですぅ」
「こ、殺し……? 敵襲か? 私にはまだ何の気配も感じないが……」
「あー違いますぅこれはただの鼻血ですぅ……私はリバも下剋上も純愛も何でもイケるクチなのでぇ……想像力天元突破と申しますか破壊力抜群すぎてマジ死にそうと言いますかぁ……」
「何を言っているのか何一つ分からないのだが!?」
この時点で、何かまずいものにかかわった予感はしていた。
していたが、ツッコミ役がこの場にはエメラルド一人しかいないという状況は、すでにこの時如何ともしがたいものとなっていたのだった……──
「……ああ。俺は、儀式のとき、師匠のことを思い出していてな」
そんなわけで、後方の様子などつゆ知らずといった調子で、フューリトとヴァイスの会話は続いていた。
「確かに俺は、自分で今の俺になったわけじゃない。師匠と出会えたからだと、思っていたよ。正に巡り合わせ──運命としか、言いようがないな」
「ふーん。あー、師匠と言えばー。チィさんの剣舞はあれ、誰かおししょーさんとか、居るのー?」
「ああ、へえ。師匠って言ったらあの人は否定するんでしょうが。手前どもが『斬々舞』への悩みをぶちまけたら、少しだけと言いつつ見てくれやして。あとは、手前どもがたまたま見たもんを見よう見まねですが……」
そこでチィは、過去に想いを馳せるように視線を上げて、遠い目をしてぽつりと言った。
「──……綺麗でしたなぁ。あれは」
べしゃり、と後方で音がした。
前を行く一行が振り返る。
「ハナさん、転んだんですか? 大丈夫でしょうか」
「いや今のは人間が倒れる音だったか!?」
崩れ落ちる、という表現がこの上なくしっくりくる倒れ方も無かった気がする。見ていたのはエメラルドだけだが。
「今のは……今のはヤバすぎますよぅ……」
「どこか怪我したー? それなら治すよー? 護衛に問題出るなら大変ー」
「ああいえ。それは大丈夫です。真面目にやるます」
フューリトの言葉に、ハナは機敏にしゅたっと立ち上がってみせた。本当に問題ないと態度で示すように、周囲に意識を張る。実際これで、護衛依頼についてはいたって真剣に考えている彼女なのである。
「切り替え早!?」
「確かに、問題はなさそうだな」
「無いのか!? 今ここに異常を感じるのは私だけなのか!?」
相も変わらず、突っ込むのはエメラルドばかりなのであった。
●
そんな風に交友を深めつつも進む一行だったが、流石に平和な道行きでは終わってくれなかったようだ。
「敵確認、バラバラになって四方八方から仕掛けてくるぞ。皆、注意しろ!」
双眼鏡から手を放しつつ、ヴァイスが叫ぶ。
ミュウが僅かに視線を強張らせると、エメラルドが微笑みかける。
「安心してくれ、こんな時の為に私達はいる」
言い放つと、彼女はミュウを背にするように立ち、その位置から向かい来る獣に向けて意志を放つ。意思は圧力となり、踏み込むことを躊躇わせるような不可視の障壁を成す。
「チィさんガウスジェイル使えますぅ? ミュウさんの直掩お願いしますぅ」
ハナがエメラルドとは別方向に前進しながら声をかける。彼女からは炎の如く揺らめく魂の輝きが顕れ、近づく獣の視線を奪う。
「俺が!」
ハナの声に応えたのはヴァイスだった。要請の通り、ガウスジェイルの範囲を意識して位置取りをし、覚悟を示す。その位置から、彼はまずライトニングボルトを向かい来る一体へと放つ。
「僕はこの通り駆け出しでミュウくんと大差ないけど、オミソなりに索敵頑張るよー」
フューリトもそう言って、鉾先舞鈴を手に向かい来る一体と立ち向かう。穂先と、獣の牙がぶつかり合い、火花を上げる。避け損ねた爪が彼女の肌を裂き、血を滲ませる。だが同時に、獣の胴を打ちのめす一撃が、敵の前進を留めさせた。確かに駆け出しだが、臆せず立ち向かえば、雑魔の一体、きちんと引き受けられる。
ミオレスカが、援護するように射撃を加え、更に遠方からくる敵を狙い打つ。
ハナがそこで、更にミュウに近寄る敵を足止めしようと地縛符を放った。なるべくミュウの周囲を地縛符で囲いたかったが、タイミング的に厳しいか。だが、エメラルドの障壁とヴァイスのガウスジェイルがあるなら一先ずは安心のはず!
護衛対象に対する死角はない。地縛符と五色光符陣で近づくタイミングをずらし、遠距離攻撃も交え順番に処理していけば、今回のハンターの実力であれば問題のない程度の敵ではあった。
ミュウの無事は勿論、ハンター自身の負傷も、エメラルドやフューリトの回復があれば十分な程度で収まったのだった。
●
その後は、問題もなくガーディナへとたどり着く。
儀式に護衛内容、それから道行きの会話と、ミュウは非常に満足のいく旅だったと一行を労う。
「手前どもに出来ることは限られていやすが……リムネラ殿のことも、きっと何とかなるって信じてまさあ」
最後にミュウが、一行の成果に確信を深めるようにそう言うと、一行もまた、己の気持ちを改めるように深く頷く。
そう、きっと大丈夫……──
「チィさん、私これからも全力で応援させていただきますぅ」
そんな別れ際、ハナが涙ボロボロ全力笑顔でチィの手を握りぶんぶんと振り回すように握手していた。
「? へえ、手前どもも頑張るでさあ」
と、チィはよく分かっていない感じで応じていたが……。
「いや、大丈夫……なんだよな?」
最後まで、突っ込まずにいられないエメラルドであった。
また独特の音が奏で、吟じられる。
開かれた扇子ははためく布、すなわち風向きに沿って。
流れに乗せるように扇子が動き、腕が伸び切ったところで自然な動きでまた、風の動きとは異なる方へ流されていく。
さながら、うまく風に乗りながら、しかし流れを変えるように。
独特のリズムに合わせ、常に足元は跳ねさせながら、しかし常に風向きを意識していなければならない。
優美な巫女の舞と見せかけて、実はかなり忙しなく、集中を要するのが『天転呼舞』である。
その様を、一通り把握して。
(なるほどねー)
フューリト・クローバー(ka7146)は、祈りに参加しながら、うんうんと頷いていた。
風の流れに無理に逆らおうとするのではなく、しかし新たな流れを導くような舞。
(天命の風、運命、かぁ)
運命、という言葉に、色々と思うところはある。
正直なところ、自分で出来ることなら、自分で手繰り寄せる方がいい、けれど。
それでも、自分ではどうにもならないこともあるだろうと認めていて、そのために運命という言葉があるのだろう、とか。
それから。
(まー、でも、運命だから仕方ないとか、つまんなーい)
きっとそれが、彼女がこの儀式に参加し、祈る理由だろう。
(風が良くない方向に吹くなら、色々やって風向き変えてやるーって思うのがいいと思うのー)
それはズルだと、天命の風も思わないから、こういう儀式があるのだろうと。
だから彼女は、祈りの輪に加わっている。
(助け合う大事ー恥ずかしくないことーそう思えるのも運命でしょー)
例えば、誰かのために祈りたい人がいて。
そんな場に、自分が居合わせたこと、それだって。
(ポジティブに考えて良いものを呼ぼー形だけじゃ駄目だよねー)
それが、彼女の祈り。
儀式の輪に加えられた、彼女の想いだ。
やがて新たな旋律が、祈りの輪に混ざっていった。
ミオレスカ(ka3496)の奏でる竪琴だ。
気まぐれな風を捉えようとする『天転呼舞』のリズムはかなり特殊なもので、合わせるまでにそれなりに手間取ったが、ようやくうまく乗ることが出来た。
彼女が知っている辺境由来のエキゾチックな楽曲と、似ている気も、したから。
その音色を『乱入』と咎めるものはここには居ない。
それは……──
(……リムネラ様は、ご無事でしょうか。旅の安全とご帰還をお祈りします)
その指先から、横顔から伺える想いが、何よりも真摯であることが伝わるから、でもあるだろう。
(ヘレ様にも、白龍の力などは後回しでいいので、元気に目覚めてもらいたいです)
先ずは、それだけを。正直な、心からのミオレスカの願い。
舞はまだ続いている。音に乗るために集中する中、想いは巡いっていく。
祈るならば。何を望むだろうか。
(皆さんの旅先や、帰ってきた後もみんなで、美味しいご飯が食べられる事を)
彼女自身も、美味しいご飯を作ったり、皆さんと一緒に楽しく美味しく食べられると、嬉しい、とか。
徒然の思いを、彼女は指先に、竪琴の旋律に乗せていく。
変化の風を呼ぶ、儀式へと向けて。
「『天命の風』か……」
儀式が進む中、ヴァイス(ka0364)は思わず声に出して呟いていた。
ズヴォー族の言う天命の風の意味とはおそらく異なるだろう。だが、自然、浮かんでくるものはある。
……彼にとってのそれは、自身を救ってくれた師であると、蒼い石の欠片のペンダントを握りしめながら想いを馳せた。
その想いをそのまま、祈りとして捧げる。
師がいなければ生きてはいなかったし、師に育てられなければ憎しみの心を昇華できなかっただろう。
もし己に吹いた風が異なるものであったならば。仮に生き延びたとしてその先、己は「歪虚を滅ぼす」ただそれだけに生涯を尽くしていたはずだ──今の己のように、「誰かを助ける」為ではなく。
こういう場があって、改めて意識する、師への感謝。
きっと儀式というものは、こういうためにあるし、その気持ちこそが祈りとなる。
そんな一行を、部族の者たちを見渡しながら、エメラルド・シルフィユ(ka4678)もまた、ごく自然に共に祈る気持ちが芽生えていた。
彼らの作法とは違うかもしれないが、聖導士として我等の神に旅の無事と彼女らへの御加護を……と。
異教の者達でも神は等しく平等だ。
生真面目に、彼女は信じている。
皆が安らかに暮らせる世界の為に我が主と彼らの神の両方に祈りを捧げよう、と。揺るがぬ信仰で。
……が。
やはり信じる神を明確に持つ彼女がこの儀式に臨む立ち位置はやはり、どこか一歩引いたものであることもまた事実だった。
だからこそ。
この舞が始まるより前、チィ=ズヴォーによる『斬々舞』が終わったあたりで輪から離れていった星野 ハナ(ka5852)のことが若干気がかりではあった。
その、ハナはと言えば。
初めから、自覚はしていたのだった。自分が碌なことは考えないという事は。
だからこそ、儀式が始まった時から、あえて輪には加わらず遠巻きに見るだけにしていたのだが。
(これ……透さんの殺陣の型じゃないですぅ?!)
天転呼舞が始まるより前。チィの斬々舞を見た瞬間、もう、駄目だった。
「ヤバいですぅ、こんなところでリアルファンタジー爆誕ですぅ……チィさんが、神ッ……まさに神ッ……尊すぎて生きるのがつらいですぅ」
感涙の涙に咽び止まらなくなると、彼女は慌ててその場から逃げ出し、蹲り彼女は呟くのだった。
まあそんな、こもごもの想いが混ざったり混ざらなかったりしつつ。
時に激しく、時に優雅に、舞は続けられる。
辺境を渡る風を感じながら、やがて音は止まり、刻まれていたステップが終わる。
部族の皆が、ハンターが見守る中、滞りなく儀式は終了したようだった。
●
「んー……、中々にいい風を感じやしたよ、ハンターの皆様方ぁ」
そんなこんなで、やがて儀式も終わり。
部族から離れ一行は再び、ガーディナを目指す道行きへと戻るのだった。
その道中、ふと、ミュウが満足げにハンターたちへと語らいかける。
のどかな旅とはいかない。ヴァイスは双眼鏡で定期的に遠方の偵察を怠らなかったし、フューリトは逆に視界が固定されるからと肉眼を中心に警戒を強めていた。
「見つけたらタンバリン叩くよー」
フューリトは事前にそう一行に説明していた。敵を見つけた方角により叩く回数を変えると宣言されたそれは、今のところ沈黙。
すると、ずっと押し黙って歩くのも気づまりという感じで、ミュウが話しかけたのだ。
「儀式、上手くいったんでしょうか。少しでも力になれたらうれしいです」
ミオレスカが答える。
「リムネラさんのためにという想いもありましたが、改めて、自分の気持ちも整理できた、気がします」
彼女の言葉に、ヴァイスも思うところがあったのか、しんみりと頷く。
「天命の風は、まだなのかそうなのか分かりませんけど、たくさんの変化の風はあったと思います。ハンターになって、みんながご飯を美味しく食べられるように活動したいと思っていることが、そのひとつなのかもしれませんって、そう思いました」
そこまで言って、彼女はクスリと笑う。
「醤油との出会いは、また、違うような気がするのですが」
場を和ませようかという風に、冗談めかして言ったミオレスカの言葉に。
「醤油ですかい。あれは確かに旨ぇですなあ」
意外というか。チィが思った以上に反応した。
「チィさんも、醤油、ご存知でしたか?」
「へえ。手前ども、リアルブルーの料理も時折作ってもらってますんで」
「はぐぁ」
「素晴らしいですよね、お醤油。味もですけど、香りも。……ともあれ、また、そんな出会いがあると良いですね」
そう言って、ミオレスカがいったん、言葉を切る。
「運命ねー。僕は、自分が歩いてきた道がどうしてそういう道なったのか、っていうのに、一番いい感じの説明かなーって思ったよー」
後を継ぐように、そこでフューリトが口を開く。
「困難があったとして、それを自分で乗り越えようと思える自分とー、その思いに見合う色々があって、巡り合わせがあるかも運命だよねー」
「巡り合わせ……巡り合わせか。まさに、そうだな……」
彼女の言葉に、ヴァイスがしみじみと頷く。
いつの間にかすっかり、自然に言葉を交わし合い雑談という空気になっていた。
勿論、護衛中という事を念頭から外すものは居なかったが。
そんな中、ハナは一行のやや後ろを進んでいた。
チィを見ては顔を真っ赤にして、彼がその視線に気づき時折振り返るとそっぽを向く。
それだけ見ると、まるで恋する乙女の如き挙動にも思えるのだが。
(……何故だろう、何か不気味なオーラを感じるのだが!?)
そう感じるのはハナの傍を歩くエメラルドである。儀式のときから様子のおかしかったハナを彼女は、生来の気真面目さから気にかけて、こうしてそれとなくそばに居ることにしたわけだが。
ミオレスカとチィの会話の最中、ハナは突如奇声のようなものを上げては咄嗟に口元を覆う。ぽたりと、指の隙間から赤いものが零れた。
「だ、大丈夫か!?」
慌ててエメラルドが声をかける。
「はぅぅ……こんな身近に推しカプが居ると思うと動悸がぁ……運営(?)が私を殺しに来てますぅ、尊すぎてつらいですぅ」
「こ、殺し……? 敵襲か? 私にはまだ何の気配も感じないが……」
「あー違いますぅこれはただの鼻血ですぅ……私はリバも下剋上も純愛も何でもイケるクチなのでぇ……想像力天元突破と申しますか破壊力抜群すぎてマジ死にそうと言いますかぁ……」
「何を言っているのか何一つ分からないのだが!?」
この時点で、何かまずいものにかかわった予感はしていた。
していたが、ツッコミ役がこの場にはエメラルド一人しかいないという状況は、すでにこの時如何ともしがたいものとなっていたのだった……──
「……ああ。俺は、儀式のとき、師匠のことを思い出していてな」
そんなわけで、後方の様子などつゆ知らずといった調子で、フューリトとヴァイスの会話は続いていた。
「確かに俺は、自分で今の俺になったわけじゃない。師匠と出会えたからだと、思っていたよ。正に巡り合わせ──運命としか、言いようがないな」
「ふーん。あー、師匠と言えばー。チィさんの剣舞はあれ、誰かおししょーさんとか、居るのー?」
「ああ、へえ。師匠って言ったらあの人は否定するんでしょうが。手前どもが『斬々舞』への悩みをぶちまけたら、少しだけと言いつつ見てくれやして。あとは、手前どもがたまたま見たもんを見よう見まねですが……」
そこでチィは、過去に想いを馳せるように視線を上げて、遠い目をしてぽつりと言った。
「──……綺麗でしたなぁ。あれは」
べしゃり、と後方で音がした。
前を行く一行が振り返る。
「ハナさん、転んだんですか? 大丈夫でしょうか」
「いや今のは人間が倒れる音だったか!?」
崩れ落ちる、という表現がこの上なくしっくりくる倒れ方も無かった気がする。見ていたのはエメラルドだけだが。
「今のは……今のはヤバすぎますよぅ……」
「どこか怪我したー? それなら治すよー? 護衛に問題出るなら大変ー」
「ああいえ。それは大丈夫です。真面目にやるます」
フューリトの言葉に、ハナは機敏にしゅたっと立ち上がってみせた。本当に問題ないと態度で示すように、周囲に意識を張る。実際これで、護衛依頼についてはいたって真剣に考えている彼女なのである。
「切り替え早!?」
「確かに、問題はなさそうだな」
「無いのか!? 今ここに異常を感じるのは私だけなのか!?」
相も変わらず、突っ込むのはエメラルドばかりなのであった。
●
そんな風に交友を深めつつも進む一行だったが、流石に平和な道行きでは終わってくれなかったようだ。
「敵確認、バラバラになって四方八方から仕掛けてくるぞ。皆、注意しろ!」
双眼鏡から手を放しつつ、ヴァイスが叫ぶ。
ミュウが僅かに視線を強張らせると、エメラルドが微笑みかける。
「安心してくれ、こんな時の為に私達はいる」
言い放つと、彼女はミュウを背にするように立ち、その位置から向かい来る獣に向けて意志を放つ。意思は圧力となり、踏み込むことを躊躇わせるような不可視の障壁を成す。
「チィさんガウスジェイル使えますぅ? ミュウさんの直掩お願いしますぅ」
ハナがエメラルドとは別方向に前進しながら声をかける。彼女からは炎の如く揺らめく魂の輝きが顕れ、近づく獣の視線を奪う。
「俺が!」
ハナの声に応えたのはヴァイスだった。要請の通り、ガウスジェイルの範囲を意識して位置取りをし、覚悟を示す。その位置から、彼はまずライトニングボルトを向かい来る一体へと放つ。
「僕はこの通り駆け出しでミュウくんと大差ないけど、オミソなりに索敵頑張るよー」
フューリトもそう言って、鉾先舞鈴を手に向かい来る一体と立ち向かう。穂先と、獣の牙がぶつかり合い、火花を上げる。避け損ねた爪が彼女の肌を裂き、血を滲ませる。だが同時に、獣の胴を打ちのめす一撃が、敵の前進を留めさせた。確かに駆け出しだが、臆せず立ち向かえば、雑魔の一体、きちんと引き受けられる。
ミオレスカが、援護するように射撃を加え、更に遠方からくる敵を狙い打つ。
ハナがそこで、更にミュウに近寄る敵を足止めしようと地縛符を放った。なるべくミュウの周囲を地縛符で囲いたかったが、タイミング的に厳しいか。だが、エメラルドの障壁とヴァイスのガウスジェイルがあるなら一先ずは安心のはず!
護衛対象に対する死角はない。地縛符と五色光符陣で近づくタイミングをずらし、遠距離攻撃も交え順番に処理していけば、今回のハンターの実力であれば問題のない程度の敵ではあった。
ミュウの無事は勿論、ハンター自身の負傷も、エメラルドやフューリトの回復があれば十分な程度で収まったのだった。
●
その後は、問題もなくガーディナへとたどり着く。
儀式に護衛内容、それから道行きの会話と、ミュウは非常に満足のいく旅だったと一行を労う。
「手前どもに出来ることは限られていやすが……リムネラ殿のことも、きっと何とかなるって信じてまさあ」
最後にミュウが、一行の成果に確信を深めるようにそう言うと、一行もまた、己の気持ちを改めるように深く頷く。
そう、きっと大丈夫……──
「チィさん、私これからも全力で応援させていただきますぅ」
そんな別れ際、ハナが涙ボロボロ全力笑顔でチィの手を握りぶんぶんと振り回すように握手していた。
「? へえ、手前どもも頑張るでさあ」
と、チィはよく分かっていない感じで応じていたが……。
「いや、大丈夫……なんだよな?」
最後まで、突っ込まずにいられないエメラルドであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/18 23:32:18 |
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腐の萌えは天の力に多分ならない 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/03/22 06:44:17 |