ゲスト
(ka0000)
【AP】研修のかわりにお花見宴会?
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/08 12:00
- 完成日
- 2018/04/13 07:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「えーーーー!?」
モンド商事の新入社員、ダイヤは、その日上司に告げられた言葉に思わず、大きな声を出した。
「えー、じゃない!! ここは会社だぞ!!」
「す、すみません」
慌てて身を小さくするが、不満が消えたわけではない。なんせ、今、上司に命じられたのは、「お花見の場所取り」なのだから。
「これは毎年、新入社員の仕事なんだ。そう、研修みたいなものだ。いいか、大きな桜の目の前だぞ。しっかりやれよ」
上司はそれだけ言い置いて、さっさと立ち去ってしまった。
「サイッテー!!」
ダイヤはふくれた。それもそうだろう。お花見の場所取りなんて、もうそれだけで嫌な仕事だというのに、今年の新入社員はダイヤただひとりなのである。
「たったひとりで? 夜通し? お花見の場所取りを? 公園でしてろって? 鬼か!!!」
ダイヤが地団駄をふむのも無理はない、というところである。他の社員たちは、気の毒そうにダイヤを眺めつつも、巻き込まれないようにそそくさと去って行く。その、中に。
「クロス先輩ー!!!」
二年先輩のクロスをみつけ、ダイヤはスーツの袖に取りすがった。逃げ遅れたクロスは、不機嫌な顔を隠そうともしない。
「嫌です」
「まだ何も言ってませんけど!?」
「聞かなくてもわかります。嫌です」
「そう言わずにー! 場所取り、手伝ってくださいよお」
ダイヤは半泣きでクロスに懇願した。クロスはいかにも、面倒に巻き込まれたというふうにため息をつく。
「さっき言われていたでしょう、毎年、新入社員の仕事なんですよこれは。私だって二年前にやったんですから」
「でも、私、同期いないんですよ? ひとりですよ? ひとりじゃトイレにも行けないじゃないですか」
「……それはそうですが」
クロスも、ダイヤのことを気の毒に思わなくはないのだが、だからといって積極的に手伝おうと思える仕事内容ではない。
「じゃあ、お友だちにでも協力してもらったらどうですか」
「お友だち?」
「ひとりかふたりくらい、来てくれる人、いないんですか? 場所取りのついでに、その方たちとお花見でもしては?」
「なるほど!」
ダイヤの顔がぱあっと輝いた。
「そうですよね、場所を取っておけばいいんだから、その間に先にお花見しちゃっててもいいですよね」
「え、あ、いや、そういうわけでは」
「ありがとうございます、クロス先輩! 俄然、楽しみになってきました!」
ダイヤはぴょん、と跳ねると、クロスの腕を離して駆けて行った。
「……余計に、面倒なことにしてしまったかもしれませんね……」
クロスは、皺になった袖を伸ばしつつ、そっとため息をつくのだった……。
モンド商事の新入社員、ダイヤは、その日上司に告げられた言葉に思わず、大きな声を出した。
「えー、じゃない!! ここは会社だぞ!!」
「す、すみません」
慌てて身を小さくするが、不満が消えたわけではない。なんせ、今、上司に命じられたのは、「お花見の場所取り」なのだから。
「これは毎年、新入社員の仕事なんだ。そう、研修みたいなものだ。いいか、大きな桜の目の前だぞ。しっかりやれよ」
上司はそれだけ言い置いて、さっさと立ち去ってしまった。
「サイッテー!!」
ダイヤはふくれた。それもそうだろう。お花見の場所取りなんて、もうそれだけで嫌な仕事だというのに、今年の新入社員はダイヤただひとりなのである。
「たったひとりで? 夜通し? お花見の場所取りを? 公園でしてろって? 鬼か!!!」
ダイヤが地団駄をふむのも無理はない、というところである。他の社員たちは、気の毒そうにダイヤを眺めつつも、巻き込まれないようにそそくさと去って行く。その、中に。
「クロス先輩ー!!!」
二年先輩のクロスをみつけ、ダイヤはスーツの袖に取りすがった。逃げ遅れたクロスは、不機嫌な顔を隠そうともしない。
「嫌です」
「まだ何も言ってませんけど!?」
「聞かなくてもわかります。嫌です」
「そう言わずにー! 場所取り、手伝ってくださいよお」
ダイヤは半泣きでクロスに懇願した。クロスはいかにも、面倒に巻き込まれたというふうにため息をつく。
「さっき言われていたでしょう、毎年、新入社員の仕事なんですよこれは。私だって二年前にやったんですから」
「でも、私、同期いないんですよ? ひとりですよ? ひとりじゃトイレにも行けないじゃないですか」
「……それはそうですが」
クロスも、ダイヤのことを気の毒に思わなくはないのだが、だからといって積極的に手伝おうと思える仕事内容ではない。
「じゃあ、お友だちにでも協力してもらったらどうですか」
「お友だち?」
「ひとりかふたりくらい、来てくれる人、いないんですか? 場所取りのついでに、その方たちとお花見でもしては?」
「なるほど!」
ダイヤの顔がぱあっと輝いた。
「そうですよね、場所を取っておけばいいんだから、その間に先にお花見しちゃっててもいいですよね」
「え、あ、いや、そういうわけでは」
「ありがとうございます、クロス先輩! 俄然、楽しみになってきました!」
ダイヤはぴょん、と跳ねると、クロスの腕を離して駆けて行った。
「……余計に、面倒なことにしてしまったかもしれませんね……」
クロスは、皺になった袖を伸ばしつつ、そっとため息をつくのだった……。
リプレイ本文
その日いちにちの業務を終え、ダイヤはうきうきとモンド商事のビルを出た。空はまだほんのりと明るい。後ろからは、しぶしぶといった様子のクロスがついてくる。場所取りにつき合せられることはなんとか回避したのだが「ブルーシートや食べ物を運ぶのだけ手伝ってください」という頼みまでをはねつけることはできなかったのである。
「運ぶだけですからね」
「わかってますって」
目的の公園に着くころには日もだいぶ落ちてきたが、にもかかわらず公園は賑わっていた。皆、満開の桜を見に来ているのだ。
「綺麗ねえ!」
歓声を上げるダイヤに、クロスも表情を明るくして頷く。
「おーい、ダイヤー!」
ひときわ大きな桜の木の下で、いかにも悪羅ギャルといったいでたちの大伴 鈴太郎(ka6016)が手を振っている。彼女はダイヤの友人だ。看護学校を卒業し、現在は国試浪人中のフリーターだ。
「鈴さん! 来てくれてありがとう!」
ダイヤが嬉しそうに鈴太郎に近寄る。クロスは抱えていた荷物を樹の下におろすと、ではこれで、と立ち去ろうとした。すかさず、鈴太郎が呼び止める。
「おいおい、女子ふたり置いて帰ろうってのか? なンだよ、もっと会社のヒト来るンかと思ってたのに、ダイヤだけ? ひでえなあ」
大きな声でそんなことを言われてしまうと帰りづらい。クロスはため息をつきながら、仕方がない、シートを敷き終えるまでは、とその場に残った。ほどなくしてやってきたリュー・グランフェスト(ka2419)にも手伝ってもらい、四人でブルーシートを広げた。
「ごめんね、リューくん。受験生なのに」
ダイヤが申し訳なさそうに首をすくめる。リューはダイヤの家の近所に住む高校生だ。場所取りの手伝いを頼まれ、なんで俺が、とは思いつつも、女の子が夜通しひとりってのも危ないし、と来てくれたのである。
「うん、まあ、いいんだけど……。新入社員が花見の場所取りとか、都市伝説じゃなかったんだなあ……」
「ホントにね! 私も都市伝説だと思ってたわ!」
ダイヤが大きく頷き、当人もかよ、とリューが苦笑した。準備を進めていくにつれて、ダイヤが声をかけていたらしい友人たちが次々と顔を出す。
「今日はハメを外していくぜー!」
姫之宮 アテナ(ka7145)がすでに花見に浮かれた様子でやってくると、その後ろから、アテナの会社の先輩である鞍馬 真(ka5819)がのんびり歩いてくる。
「もうこんなに桜が咲いていたんだなあ……」
自他ともにみとめるワーカーホリックである真は、今が花見の季節であることも忘れかけていたのである。
「真先輩、来てくれてありがとうございます。あ、これ、そっちに置いてください」
真はダイヤの学生時代の先輩でもあった。菓子の袋を受け取りながら、ダイヤも本当に社会人になったんだなあ、などと真は感慨深くなる。
「邪魔するぜ」
そう言いながらやってきたのはソレル・ユークレース(ka1693)だ。
「お招きありがとう。俺も花見はしようと思っていたところだ。おまけもいるが、問題ないかね?」
「はーい、おまけでーす。お兄ちゃんと一緒に来たよ♪」
おまけ扱いされたのはシエル・ユークレース(ka6648)。ソレルの弟である。服装といい髪型といい、弟というよりは妹に見える出で立ちだったが、そんなことを気にするダイヤではない。
「きゃーっ、可愛い弟さん! 大歓迎よ!」
ダイヤは上機嫌でシエルの手を取り、ブルーシートの上に招き入れた。着々と整っていく花見宴席と、集まってくる人々の間で、クロスはどんどん帰りづらくなっていくのであった。
ブルーシートの上に食べ物や飲み物が並べられ、それを囲むように皆が座る。そのタイミングで、しっとりと姿を現したのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
「すみません、遅くなったようで。私が最後?」
「ううん、もうひとり……、どうしたのかしら、迷ってるのかな」
ダイヤが学生時代バイトしていたお店の後輩、星空の幻(ka6980)がまだ来ていないのである。ダイヤはカバンをさぐって携帯電話を見ると、何件も着信が入っていた。すべて、グラムからだ。ダイヤは慌ててかけなおす。
「先輩……どこにいるの……探しても分からないよぉ……」
若干泣きべそをかいた声で、グラムが電話に出る。ダイヤは立ち上がって大きく手を振った。
「大きな樹の下にいるわよ! 見えるー?」
飛び跳ね、手を振るダイヤを見つけることができたらしく、グラムはとてとてとダイヤに向かって駆けてきた。
「見つけた……せんぱ〜い……」
正面からむぎゅー、と抱きつくグラムをダイヤは、はいはい、といなす。いつものことなので慣れっこなのだ。小柄、というよりはちっちゃいグラムは、ダイヤの腰に手をまわして幼子のように抱きつく。とても、高校三年生には見えない。
「おかしいなぁ……。三十分前にここら辺に着いたはずなんだけど……」
「ともかく、合流できてよかったわ。これで全員ね。まずは乾杯しましょ」
クロスは、この飲み物を配る間に、そっと抜け出そうとした。が。
「どーこ行くンだよ? 一杯くらい付き合えって」
鈴太郎にとっ捕まってしまった。
「俺もビールで乾杯……も、もちろん冗談だよ、うん」
ビールを受け取ろうとしたリューは、ダイヤにぎろりと睨まれてすごすごとウーロン茶のカップに手を伸ばした。お前未成年だろ、という無言の圧力を感じたのである。
全員に飲み物がゆきわたり、ダイヤが満面の笑みで音頭を取った。
「では! この綺麗な桜に、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!!」」」
花の下で、明るい声が弾けた。皆、紙コップや缶の中身をぐびぐびと飲んだ。
「ふー。満開の桜に冷えたビール、これが醍醐味ってな」
「お酒っておいしいの?」
満足そうにビールを飲むソレルの隣で、シエルが首をかしげる。
「お兄ちゃんにおねだりしちゃお♪ ひとくちちょーだい?」
「シエルにはまだ酒ははやい。大人になってからな? ったく、「おねだり」なんてどこで覚えたんだか」
「むむ」
軽くあしらわれ、シエルは頬を膨らませた。やはり兄には上目使いも演技も効かないようだ。ソレルはソレルで、贔屓目を除いても可愛い弟のおねだりではあるが、あまり甘やかすのもな、と思いつつ苦笑している。
「とにかく飯だ飯ー!ほれ、先輩もたんまり食べろー!」
酒よりも飯、という者もいた。アテナとグラムだ。グラムは持参したこだわりのコーヒーを楽しみながら、これまた持参した二段の重箱の中のごちそうを楽しんでいる。アテナは自分も頬張りつつ、真に山盛りの皿を突きだした。
「えぇ? こんなに? ちゃんと食べてるから大丈夫だよ」
ダイヤに話しかけていた真は、後輩の食欲に苦笑する。
「入社直後にこれとは、ダイヤ君も中々大変だね」
「そうねえ。ちょっとびっくりしたわ。さっきリューも言ってたけど、都市伝説じゃなかったんだ! って」
「ふふ。こうやって後輩が立派に働いていると、ああ、もう大人になったんだなって思うよ。……ちょっとじじくさいかな」
肩をすくめる真に、ダイヤはけらけらと笑った。アテナはその間に割って入るようにしてまた真に料理をすすめる。
「こっちの後輩だって頑張ってるぞ、先輩!」
「はいはい、そうだね、わかってるよ。あ、その卵焼き美味しそうだね、もらおうかな」
酒に、食べ物に、と早速盛り上がる面々を前に、ゆったりと桜の幹に背をあずけているのは、アリアだ。和風なスイーツを口にしながら、相変わらずの、いつものアリアだった。美しいものにみとれるものも、それを歌うものも、拍子囃子と騒ぐひとも、それぞれに楽しんでいる。花の前での楽しみ方は、自由だ。
「さて、俳句や古歌は無理だけれど、私なりに即興で歌でも詠いましょうか」
アリアは呟くと、開いていた季語の本を閉じた。日本は、アリアにとって憧れの場所だ。こうした本で歌の作法を学ぶことができるのも喜ばしいことだった。
「咲き揺れて 花曇りには 散り舞うを
八重に霞に 桜の音……なんて、ね」
物静かに歌ったアリアの声が、聞こえていたのかどうかはわからないが、その歌に、ソレルのハーモニカの音色が重なった。その偶然がいかにも風雅で、アリアはそっと微笑む。と、ハーモニカの音がふつりと切れた。
「わっ、なんだよシエル!」
ソレルの膝の上に、シエルが腰を下ろしたのだ。
「お兄ちゃんに断られたから、他の人のところにお酒もらいに行ったんだけど、ダメだったの! 代わりにお兄ちゃんのお膝をボクの椅子にもらうからねっ」
「そういうことか。はいはい、俺の膝でも何でも貸してやるよ」
ソレルは苦笑した。ちなみに、シエルが酒をもらいに行った相手は鈴太郎である。未成年飲酒に一番甘そうだとでも思われたのかもしれないが、鈴太郎はこういうところは、意外としっかりしていた。
「鈴太郎さんだって飲んでるじゃないー!」
「ばっか、オレはこう見えて成人してンだよ! ちょっと、まだ、社会人にはなれてないってだけで!」
というようなやりとりがあったらしい。その後鈴太郎は酒をあおりながらダイヤにべったりと絡みに行き、シエルは兄の元へ帰ってきたのだった。
「王様ゲームを、しましょう」
唐突に、グラムが立ち上がった。お弁当をお腹いっぱい食べて、食事の面では満足したので、次は娯楽を、ということのようだ。
「お、いーね、やろうやろう!」
同じく、たらふく食べてごきげんなアテナが同意する。誰もがノリノリ、というわけではなかったが、反対の声もあがらなかったので、グラムは割りばしでできたくじを皆に引かせてまわった。
「いつの間にこんなもの用意してたんだ?」
リューが苦笑しながら引く。今度こそ巻き込まれないように退散しようとしたクロスは。
「はい、クロス君が引く番だよ」
真に、くじを笑顔で差し出され、がっくりとうなだれながら弱々しく引くのだった。
「全員引いたわねー? じゃ、いくわよー、王様だーれだ!」
ダイヤの合図で、皆一斉にくじを見た。王様の、印があったのは。
「おっ、オレだ!」
鈴太郎であった。
「よ、よし、命令しちゃうぜ! だ、大胆な命令をしちゃうからな!」
腕まくりをせんばかりの鈴太郎は、酒の所為か、いつもにもましてテンションが高かった。
「三番と五番が……ててて手を繋ぐ!!」
そう言ったあと、鈴太郎はひとり顔を赤くして、わー言っちまったー、などと大騒ぎしている。
「三番は、私ね」
「五番は、俺だ」
と、挙手したのは、ダイヤとリュー。ふたりは顔を見合わせた。
「手を、繋げばいいのね?」
「みたいだな」
そしてあっさりと手を繋ぐ。近所で、兄弟同然に育ったふたりにとって、こんなことはなんでもないことだった。
「わー! わー! ご、ごめんな、すぐ離していいんだぜ、恥ずかしいだろ……、って、アレ? なンだよ、ふたりとも冷静じゃねえか!」
「手を繋ぐくらい、いまどき小学生だって照れないわよ……。鈴さんは本当にウブなんだから」
ダイヤは呆れた。リューも呆れ顔になりつつ、これのどこが面白いのだろう、とこっそり思っていた。自分も、大人になって酒を飲むようになれば、こういうことの楽しさもわかるのだろうか、と未来に思いを馳せる。
「なンだよ、オレがスベったみたいになってるじゃねえか! おい、もう一戦だ、もう一戦!」
鈴太郎が拳をあげ、くじが回収された。王様ゲームって、数え方「一戦」でいいのかしら、とアリアがぼそりと呟いている。
もう一度くじを引き、ダイヤが王様誰だ、と問いかけると。
「やりまちた……噛みました……、やりました……」
嬉しそうに、グラムが手を挙げた。命令することはもう決めてあったらしく、持ってきた大きなカバンにごそごそと手をつっこんで何かを探している。
「じゃあ……、四番の人はこれ……、で、六番の人はこれ……今、着てほしいの……」
引っ張り出したのは、カラフルで奇抜なデザインのコスチューム。グラムが日々プレイしているゲームのキャラクターの衣装だという。そして、着せられることになったのは。
「ん、私か」
「えっ、先輩もか!」
真とアテナであった。しかも、女性用の衣装を渡されたのが真、男性用がアテナ、という逆転が起きている。しかし、そこを気にするふたりではない。アテナは気の影に隠れて、真は堂々と着替えを済ませた。と。
「ふ、ふたりとも、似合う……」
誰かが呟き、全員でこっくりと頷いた。
「そうかい? なんなら、このままアニソンでも歌おうか」
「おっ、やっちゃうか、先輩!」
ふたりとも、かなりノリノリである。命令した当人であるグラムも大満足で、パシャパシャと写真を撮りまくっている。
「……これは……いい……」
ぐっと親指まで立てて見せ、ご満悦だった。リューは、これに当たらなくて良かった、とそっと胸を撫で下ろす。かと思えば、シエルなんかは羨ましそうだった。
「えー、着てみたかったな! 女装コンテストとかするんなら、絶対優勝できるのに!」
「あっははははは、最高だぜ、ふたりともー!!!」
笑い転げているのは鈴太郎で、これは相当酔っぱらってきている証拠だった。いつの間にか、夜もとっぷりと更け、随分と冷え込んできている。鈴太郎は、自分で持ってきた毛布の上に、ぱたん、と倒れ込んだ。
クロスはやれやれ、と思いつつ、鈴太郎にもう一枚、毛布をかけてやる。ふと見れば、ダイヤも手を叩いて笑いつつ眠そうな目をしていて、これは明日が思いやられるな、とため息をついた。
そう。誰もが忘れ去っているが、これは花見の為の場所取りなのである。
翌日、花見として絶好の場所は取れているものの、騒ぎすぎて疲れ切ったダイヤが、本番である会社の花見でどんな地獄を見たか。それは、とても一言では、そして涙なしでは語れぬ事実なのであった。
「運ぶだけですからね」
「わかってますって」
目的の公園に着くころには日もだいぶ落ちてきたが、にもかかわらず公園は賑わっていた。皆、満開の桜を見に来ているのだ。
「綺麗ねえ!」
歓声を上げるダイヤに、クロスも表情を明るくして頷く。
「おーい、ダイヤー!」
ひときわ大きな桜の木の下で、いかにも悪羅ギャルといったいでたちの大伴 鈴太郎(ka6016)が手を振っている。彼女はダイヤの友人だ。看護学校を卒業し、現在は国試浪人中のフリーターだ。
「鈴さん! 来てくれてありがとう!」
ダイヤが嬉しそうに鈴太郎に近寄る。クロスは抱えていた荷物を樹の下におろすと、ではこれで、と立ち去ろうとした。すかさず、鈴太郎が呼び止める。
「おいおい、女子ふたり置いて帰ろうってのか? なンだよ、もっと会社のヒト来るンかと思ってたのに、ダイヤだけ? ひでえなあ」
大きな声でそんなことを言われてしまうと帰りづらい。クロスはため息をつきながら、仕方がない、シートを敷き終えるまでは、とその場に残った。ほどなくしてやってきたリュー・グランフェスト(ka2419)にも手伝ってもらい、四人でブルーシートを広げた。
「ごめんね、リューくん。受験生なのに」
ダイヤが申し訳なさそうに首をすくめる。リューはダイヤの家の近所に住む高校生だ。場所取りの手伝いを頼まれ、なんで俺が、とは思いつつも、女の子が夜通しひとりってのも危ないし、と来てくれたのである。
「うん、まあ、いいんだけど……。新入社員が花見の場所取りとか、都市伝説じゃなかったんだなあ……」
「ホントにね! 私も都市伝説だと思ってたわ!」
ダイヤが大きく頷き、当人もかよ、とリューが苦笑した。準備を進めていくにつれて、ダイヤが声をかけていたらしい友人たちが次々と顔を出す。
「今日はハメを外していくぜー!」
姫之宮 アテナ(ka7145)がすでに花見に浮かれた様子でやってくると、その後ろから、アテナの会社の先輩である鞍馬 真(ka5819)がのんびり歩いてくる。
「もうこんなに桜が咲いていたんだなあ……」
自他ともにみとめるワーカーホリックである真は、今が花見の季節であることも忘れかけていたのである。
「真先輩、来てくれてありがとうございます。あ、これ、そっちに置いてください」
真はダイヤの学生時代の先輩でもあった。菓子の袋を受け取りながら、ダイヤも本当に社会人になったんだなあ、などと真は感慨深くなる。
「邪魔するぜ」
そう言いながらやってきたのはソレル・ユークレース(ka1693)だ。
「お招きありがとう。俺も花見はしようと思っていたところだ。おまけもいるが、問題ないかね?」
「はーい、おまけでーす。お兄ちゃんと一緒に来たよ♪」
おまけ扱いされたのはシエル・ユークレース(ka6648)。ソレルの弟である。服装といい髪型といい、弟というよりは妹に見える出で立ちだったが、そんなことを気にするダイヤではない。
「きゃーっ、可愛い弟さん! 大歓迎よ!」
ダイヤは上機嫌でシエルの手を取り、ブルーシートの上に招き入れた。着々と整っていく花見宴席と、集まってくる人々の間で、クロスはどんどん帰りづらくなっていくのであった。
ブルーシートの上に食べ物や飲み物が並べられ、それを囲むように皆が座る。そのタイミングで、しっとりと姿を現したのはアリア・セリウス(ka6424)だ。
「すみません、遅くなったようで。私が最後?」
「ううん、もうひとり……、どうしたのかしら、迷ってるのかな」
ダイヤが学生時代バイトしていたお店の後輩、星空の幻(ka6980)がまだ来ていないのである。ダイヤはカバンをさぐって携帯電話を見ると、何件も着信が入っていた。すべて、グラムからだ。ダイヤは慌ててかけなおす。
「先輩……どこにいるの……探しても分からないよぉ……」
若干泣きべそをかいた声で、グラムが電話に出る。ダイヤは立ち上がって大きく手を振った。
「大きな樹の下にいるわよ! 見えるー?」
飛び跳ね、手を振るダイヤを見つけることができたらしく、グラムはとてとてとダイヤに向かって駆けてきた。
「見つけた……せんぱ〜い……」
正面からむぎゅー、と抱きつくグラムをダイヤは、はいはい、といなす。いつものことなので慣れっこなのだ。小柄、というよりはちっちゃいグラムは、ダイヤの腰に手をまわして幼子のように抱きつく。とても、高校三年生には見えない。
「おかしいなぁ……。三十分前にここら辺に着いたはずなんだけど……」
「ともかく、合流できてよかったわ。これで全員ね。まずは乾杯しましょ」
クロスは、この飲み物を配る間に、そっと抜け出そうとした。が。
「どーこ行くンだよ? 一杯くらい付き合えって」
鈴太郎にとっ捕まってしまった。
「俺もビールで乾杯……も、もちろん冗談だよ、うん」
ビールを受け取ろうとしたリューは、ダイヤにぎろりと睨まれてすごすごとウーロン茶のカップに手を伸ばした。お前未成年だろ、という無言の圧力を感じたのである。
全員に飲み物がゆきわたり、ダイヤが満面の笑みで音頭を取った。
「では! この綺麗な桜に、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!!」」」
花の下で、明るい声が弾けた。皆、紙コップや缶の中身をぐびぐびと飲んだ。
「ふー。満開の桜に冷えたビール、これが醍醐味ってな」
「お酒っておいしいの?」
満足そうにビールを飲むソレルの隣で、シエルが首をかしげる。
「お兄ちゃんにおねだりしちゃお♪ ひとくちちょーだい?」
「シエルにはまだ酒ははやい。大人になってからな? ったく、「おねだり」なんてどこで覚えたんだか」
「むむ」
軽くあしらわれ、シエルは頬を膨らませた。やはり兄には上目使いも演技も効かないようだ。ソレルはソレルで、贔屓目を除いても可愛い弟のおねだりではあるが、あまり甘やかすのもな、と思いつつ苦笑している。
「とにかく飯だ飯ー!ほれ、先輩もたんまり食べろー!」
酒よりも飯、という者もいた。アテナとグラムだ。グラムは持参したこだわりのコーヒーを楽しみながら、これまた持参した二段の重箱の中のごちそうを楽しんでいる。アテナは自分も頬張りつつ、真に山盛りの皿を突きだした。
「えぇ? こんなに? ちゃんと食べてるから大丈夫だよ」
ダイヤに話しかけていた真は、後輩の食欲に苦笑する。
「入社直後にこれとは、ダイヤ君も中々大変だね」
「そうねえ。ちょっとびっくりしたわ。さっきリューも言ってたけど、都市伝説じゃなかったんだ! って」
「ふふ。こうやって後輩が立派に働いていると、ああ、もう大人になったんだなって思うよ。……ちょっとじじくさいかな」
肩をすくめる真に、ダイヤはけらけらと笑った。アテナはその間に割って入るようにしてまた真に料理をすすめる。
「こっちの後輩だって頑張ってるぞ、先輩!」
「はいはい、そうだね、わかってるよ。あ、その卵焼き美味しそうだね、もらおうかな」
酒に、食べ物に、と早速盛り上がる面々を前に、ゆったりと桜の幹に背をあずけているのは、アリアだ。和風なスイーツを口にしながら、相変わらずの、いつものアリアだった。美しいものにみとれるものも、それを歌うものも、拍子囃子と騒ぐひとも、それぞれに楽しんでいる。花の前での楽しみ方は、自由だ。
「さて、俳句や古歌は無理だけれど、私なりに即興で歌でも詠いましょうか」
アリアは呟くと、開いていた季語の本を閉じた。日本は、アリアにとって憧れの場所だ。こうした本で歌の作法を学ぶことができるのも喜ばしいことだった。
「咲き揺れて 花曇りには 散り舞うを
八重に霞に 桜の音……なんて、ね」
物静かに歌ったアリアの声が、聞こえていたのかどうかはわからないが、その歌に、ソレルのハーモニカの音色が重なった。その偶然がいかにも風雅で、アリアはそっと微笑む。と、ハーモニカの音がふつりと切れた。
「わっ、なんだよシエル!」
ソレルの膝の上に、シエルが腰を下ろしたのだ。
「お兄ちゃんに断られたから、他の人のところにお酒もらいに行ったんだけど、ダメだったの! 代わりにお兄ちゃんのお膝をボクの椅子にもらうからねっ」
「そういうことか。はいはい、俺の膝でも何でも貸してやるよ」
ソレルは苦笑した。ちなみに、シエルが酒をもらいに行った相手は鈴太郎である。未成年飲酒に一番甘そうだとでも思われたのかもしれないが、鈴太郎はこういうところは、意外としっかりしていた。
「鈴太郎さんだって飲んでるじゃないー!」
「ばっか、オレはこう見えて成人してンだよ! ちょっと、まだ、社会人にはなれてないってだけで!」
というようなやりとりがあったらしい。その後鈴太郎は酒をあおりながらダイヤにべったりと絡みに行き、シエルは兄の元へ帰ってきたのだった。
「王様ゲームを、しましょう」
唐突に、グラムが立ち上がった。お弁当をお腹いっぱい食べて、食事の面では満足したので、次は娯楽を、ということのようだ。
「お、いーね、やろうやろう!」
同じく、たらふく食べてごきげんなアテナが同意する。誰もがノリノリ、というわけではなかったが、反対の声もあがらなかったので、グラムは割りばしでできたくじを皆に引かせてまわった。
「いつの間にこんなもの用意してたんだ?」
リューが苦笑しながら引く。今度こそ巻き込まれないように退散しようとしたクロスは。
「はい、クロス君が引く番だよ」
真に、くじを笑顔で差し出され、がっくりとうなだれながら弱々しく引くのだった。
「全員引いたわねー? じゃ、いくわよー、王様だーれだ!」
ダイヤの合図で、皆一斉にくじを見た。王様の、印があったのは。
「おっ、オレだ!」
鈴太郎であった。
「よ、よし、命令しちゃうぜ! だ、大胆な命令をしちゃうからな!」
腕まくりをせんばかりの鈴太郎は、酒の所為か、いつもにもましてテンションが高かった。
「三番と五番が……ててて手を繋ぐ!!」
そう言ったあと、鈴太郎はひとり顔を赤くして、わー言っちまったー、などと大騒ぎしている。
「三番は、私ね」
「五番は、俺だ」
と、挙手したのは、ダイヤとリュー。ふたりは顔を見合わせた。
「手を、繋げばいいのね?」
「みたいだな」
そしてあっさりと手を繋ぐ。近所で、兄弟同然に育ったふたりにとって、こんなことはなんでもないことだった。
「わー! わー! ご、ごめんな、すぐ離していいんだぜ、恥ずかしいだろ……、って、アレ? なンだよ、ふたりとも冷静じゃねえか!」
「手を繋ぐくらい、いまどき小学生だって照れないわよ……。鈴さんは本当にウブなんだから」
ダイヤは呆れた。リューも呆れ顔になりつつ、これのどこが面白いのだろう、とこっそり思っていた。自分も、大人になって酒を飲むようになれば、こういうことの楽しさもわかるのだろうか、と未来に思いを馳せる。
「なンだよ、オレがスベったみたいになってるじゃねえか! おい、もう一戦だ、もう一戦!」
鈴太郎が拳をあげ、くじが回収された。王様ゲームって、数え方「一戦」でいいのかしら、とアリアがぼそりと呟いている。
もう一度くじを引き、ダイヤが王様誰だ、と問いかけると。
「やりまちた……噛みました……、やりました……」
嬉しそうに、グラムが手を挙げた。命令することはもう決めてあったらしく、持ってきた大きなカバンにごそごそと手をつっこんで何かを探している。
「じゃあ……、四番の人はこれ……、で、六番の人はこれ……今、着てほしいの……」
引っ張り出したのは、カラフルで奇抜なデザインのコスチューム。グラムが日々プレイしているゲームのキャラクターの衣装だという。そして、着せられることになったのは。
「ん、私か」
「えっ、先輩もか!」
真とアテナであった。しかも、女性用の衣装を渡されたのが真、男性用がアテナ、という逆転が起きている。しかし、そこを気にするふたりではない。アテナは気の影に隠れて、真は堂々と着替えを済ませた。と。
「ふ、ふたりとも、似合う……」
誰かが呟き、全員でこっくりと頷いた。
「そうかい? なんなら、このままアニソンでも歌おうか」
「おっ、やっちゃうか、先輩!」
ふたりとも、かなりノリノリである。命令した当人であるグラムも大満足で、パシャパシャと写真を撮りまくっている。
「……これは……いい……」
ぐっと親指まで立てて見せ、ご満悦だった。リューは、これに当たらなくて良かった、とそっと胸を撫で下ろす。かと思えば、シエルなんかは羨ましそうだった。
「えー、着てみたかったな! 女装コンテストとかするんなら、絶対優勝できるのに!」
「あっははははは、最高だぜ、ふたりともー!!!」
笑い転げているのは鈴太郎で、これは相当酔っぱらってきている証拠だった。いつの間にか、夜もとっぷりと更け、随分と冷え込んできている。鈴太郎は、自分で持ってきた毛布の上に、ぱたん、と倒れ込んだ。
クロスはやれやれ、と思いつつ、鈴太郎にもう一枚、毛布をかけてやる。ふと見れば、ダイヤも手を叩いて笑いつつ眠そうな目をしていて、これは明日が思いやられるな、とため息をついた。
そう。誰もが忘れ去っているが、これは花見の為の場所取りなのである。
翌日、花見として絶好の場所は取れているものの、騒ぎすぎて疲れ切ったダイヤが、本番である会社の花見でどんな地獄を見たか。それは、とても一言では、そして涙なしでは語れぬ事実なのであった。
依頼結果
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面白かった! | 6人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/04 19:47:13 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/04/07 16:29:09 |