ゲスト
(ka0000)
【幻兆】青に出逢いし白の巫女
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/12 19:00
- 完成日
- 2018/04/18 19:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――龍園『ヴリトラルカ』。
この地はかつてより青龍の加護篤く、西方との交流も久しく絶えていたが――
今日、そんな龍園で今までに無かった出来事が起きている。
『辺境巫女』――白龍を信仰の対象とし、白龍に仕える巫女の一人であるリムネラ(kz0018)が、青龍への謁見を求めてやってきたのだ。
しかも、幼き白龍『ヘレ』を連れて。
今は既にかつての白龍は亡く、ヘレは眠りについている真っ最中。しかしその眠りというのが、ヘレの成長の為のものとされているから、次代の白龍と目されているのも無理ならぬことだ。
そんな次代の白龍と、その巫女が、青龍のもとを訪問し、謁見する。
今までに無かった出来事である事は間違いなく、それがこれからのクリムゾンウェストにどう影響するか――それも注目すべき問題なのかも知れなかった。
――もっとも、その問題の大きさを踏まえて、大々的な騒ぎにならないように両者とも気をつけてはいたが。
●
「ようこそいらした、白龍の巫女殿、そしてハンター達」
神官長であるアズラエルは、リムネラの顔を見ながらそう言って出迎えた。ナディアの兄とは聞いているが、彼女とはまた違ったオーラを持っている。
ハンター達は、そんな彼女の護衛であり、同時に記録係であり、そして質問係であった。
「このたびは、突然の訪問、申し訳ありません」
リムネラもいつもより言葉遣いを気をつけながら、丁寧に挨拶をすると、背負い籠の中で眠っているヘレをそっと見せてやった。
「これが、件の龍ですか。なるほど」
「青龍さまとお話しする機会を、下さいまして、有難うございます」
ふむふむ、と頷くアズラエルに、リムネラはもう一度頭を下げる。
何しろ辺境巫女の誰よりも更に年長の、龍のかんなぎ。見た目はリムネラともそれほど変わらないように見えるが、ゆうに三百歳を超えているのだから、敬意を払ってしかるべき存在だ。
「さ、白龍の巫女殿、青龍様がお待ちです。参りましょう」
アズラエルも龍の幼生を見るのがやはり珍しいらしく、今回は彼自身も今後の参考にすべく同席するのだという。
青龍の持つ叡智を龍園側でも記録に残すべく――と言う事らしい。
「さ、こちらへ……お待ちかねです」
そしてリムネラと、ハンターたちは、青龍の前に出る。
『……ふむ。よく参られた、白き龍の巫女と、幼き龍の子』
何処か威厳を感じる声が頭に響く。
かくして、話し合いは、はじまった――。
――龍園『ヴリトラルカ』。
この地はかつてより青龍の加護篤く、西方との交流も久しく絶えていたが――
今日、そんな龍園で今までに無かった出来事が起きている。
『辺境巫女』――白龍を信仰の対象とし、白龍に仕える巫女の一人であるリムネラ(kz0018)が、青龍への謁見を求めてやってきたのだ。
しかも、幼き白龍『ヘレ』を連れて。
今は既にかつての白龍は亡く、ヘレは眠りについている真っ最中。しかしその眠りというのが、ヘレの成長の為のものとされているから、次代の白龍と目されているのも無理ならぬことだ。
そんな次代の白龍と、その巫女が、青龍のもとを訪問し、謁見する。
今までに無かった出来事である事は間違いなく、それがこれからのクリムゾンウェストにどう影響するか――それも注目すべき問題なのかも知れなかった。
――もっとも、その問題の大きさを踏まえて、大々的な騒ぎにならないように両者とも気をつけてはいたが。
●
「ようこそいらした、白龍の巫女殿、そしてハンター達」
神官長であるアズラエルは、リムネラの顔を見ながらそう言って出迎えた。ナディアの兄とは聞いているが、彼女とはまた違ったオーラを持っている。
ハンター達は、そんな彼女の護衛であり、同時に記録係であり、そして質問係であった。
「このたびは、突然の訪問、申し訳ありません」
リムネラもいつもより言葉遣いを気をつけながら、丁寧に挨拶をすると、背負い籠の中で眠っているヘレをそっと見せてやった。
「これが、件の龍ですか。なるほど」
「青龍さまとお話しする機会を、下さいまして、有難うございます」
ふむふむ、と頷くアズラエルに、リムネラはもう一度頭を下げる。
何しろ辺境巫女の誰よりも更に年長の、龍のかんなぎ。見た目はリムネラともそれほど変わらないように見えるが、ゆうに三百歳を超えているのだから、敬意を払ってしかるべき存在だ。
「さ、白龍の巫女殿、青龍様がお待ちです。参りましょう」
アズラエルも龍の幼生を見るのがやはり珍しいらしく、今回は彼自身も今後の参考にすべく同席するのだという。
青龍の持つ叡智を龍園側でも記録に残すべく――と言う事らしい。
「さ、こちらへ……お待ちかねです」
そしてリムネラと、ハンターたちは、青龍の前に出る。
『……ふむ。よく参られた、白き龍の巫女と、幼き龍の子』
何処か威厳を感じる声が頭に響く。
かくして、話し合いは、はじまった――。
リプレイ本文
●
それは確かに、歴史的な出来事であっただろう。
ハンターが青龍と話をする、という機会は確かに今までにも存在した。そして青龍がハンターという存在を認めていることも、多くのハンター達にとって周知の事実となっている。
……むしろその周囲、神官たちの方が頭が硬いくらいなのかも知れないくらいだ。
確かにリムネラ(kz0018)とて、一応はハンターとしての資格を有している。
けれども今回リムネラは、『ハンター』としてかの龍の前に立つのでは無かった。
リムネラはハンターである以前に辺境の聖地『リタ・ティト』所属の、白龍の巫女だ。今、リムネラは『白龍の巫女』として、青龍の前にいる。
巫女の正装たる白い装束を纏ったその姿は一見質素ではあるが巫女としての品位をしっかりと備えていた。
青龍――この北の地『リグ・サンガマ』において、最も偉大な存在。そして、このクリムゾンウェストという世界の守護者、六大龍のひと柱。
辺境の白龍、そして東方の黒龍なき今、『六大龍』と言う立場ではっきりとこの世界を見つめ、人間達と――龍園のものの多くは青龍を崇める、彼の眷属たるドラグーンであるが――ともにある、ほぼ唯一の存在。
偏屈ものの大幻獣ナーランギが実はもともと六大龍に数えられる存在であったと判明したのはつい最近であるし、赤龍と紫龍に関しては人類の敵と認識されている今、
『蛇の道は蛇。ならば、龍のことをよく知るのは――』
ナーランギの言葉がリムネラの頭をよぎる。そう、彼女は来たのだ、彼女の小さな相棒・ヘレの為に、この北の地まで。
「緊張するかも知れないけれど、ここが正念場です! がんばりましょうね!」
リムネラと同じく白い巫女装束を着たUisca Amhran(ka0754)が、そっとリムネラの手をとって頷いてみせる。巫女としての立場はリムネラのほうが上位ではあるが、Uiscaにはこれまで培ってきたハンターとしての知識や能力がある。
それらも存分に活用して、彼女はリムネラとともにこの対談を円滑に進めようと思っていた。
ハンターとして、或いは個人としての知識を最大限に利用したい――それは天央 観智(ka0896)も似たようなことを考えていた。
Uiscaと観智は偶然、ヘレの変調の瞬間をまのあたりにした面々であり、彼らがともに居てくれるのはリムネラとしても心強い。
「ああ見えて、青龍さんは、割とフランクなところもある方です、から……きっと大丈夫だとは、思いますけれど……。もっとも、今回の対話はそう言うわけにも行かない部分もある、かも知れませんが……それでも、手伝えることがあれば、言ってくださいね」
普段から被っている帽子をあえてはずし、そう言って微笑んでみせる。彼なりの礼儀を示しているのだ。
「そうね。せっかくナディアからも紹介を取り付けたわけだし、私も会わせて貰えるのは嬉しいな。ね、リムネラ?」
夢路 まよい(ka1328)も、普段つけている帽子を脱いで、そして笑ってみせる。今回の事態、気になることは山のようにある。それでもあまり長々と話をするのは、相手のことを考えればあまり良いことではないだろう。それぞれ聞きたいことは数多いが、今回はその質問を先に絞ってきていた。
「でも、それでも……やはり、緊張シマス……」
リムネラは僅かにうわずった声で、そう言いながらぎこちなく微笑んだ。
「さあ、つきました……皆さん、青龍様に礼を」
青龍の御前、同伴してくれているアズラエルは頭を下げた。
それを見たリムネラも、慌てて頭を下げ、礼をする。むろん他の巫女も、ハンター達も。
「青龍様、西方よりの使者をお連れ致しました。白龍の幼生ヘレと、その巫女リムネラ殿、そしてそのお仲間の方々です」
アズラエルがそう述べると、頭に声が響いてくる。
『西方からの使者よ、よくこのヴリトラルカまで参った』
朗々と冴え渡る、威厳ある声。青龍の声に間違いなかった。そっと青龍を見上げると、立派な体躯をしたひとよりもある意味優れた存在――龍の頂点にある六大龍の一がそこに居て、リムネラやハンターを見下ろしている。
『その籠に眠っているのが幼き白龍、だな?』
ヘレのことを問われ、弾かれたようにリムネラは頭を上げた。そして、いつもよりも更に穏やかなゆっくりとした声で、
「はい。……ヘレという名前を持つ、次代の白龍です」
もっともそれは確定ではないかもしれませんが――と言う言葉を添えながら、言葉を紡ぐ。
なにしろ相手が相手だけに、リムネラも緊張が隠せない。それでも言葉をださなければ、話は進まないのだ。
『リムネラと言ったか。ここまでの道のり、決して平坦では無かったろうが、どうであったか』
青龍がそんなことを聞く。リムネラはその言葉に、
「……ハンターの皆さんも、助けてくれました、から」
そういって微笑んでみせる。それは真実、そう思っているからこその言葉だった。
『なるほど。ハンターは慕われているのだな』
青龍がそう言うと、リムネラも頷いてみせる。
「私たちは、基本的にリムネラの護衛だ。……しかし、青龍殿。もし私たちにも口出しが許されているのならば、少々余計なお節介もさせてもらおう」
そう言ってきりりと顔を引き締めるのはレイア・アローネ(ka4082)。アズラエルは一瞬悩んだような顔をした。が、
『なかなか威勢の良い娘だな。無論、この場にいるということは発言する権利はお前達も持っている。聞きたいことがあれば、発言は歓迎するぞ』
その言葉にこっくり頷いたのはフューリト・クローバー(ka7146)。普段はマイペースきわまりなくどこででも眠ってしまうような少女だが、流石に今回は緊張からか眠ることも忘れて記録係になっている。
今回の対話が特殊な条件下にあるのは巫女でなくとも理解できる――龍園側もアズラエルが記録を取ろうとしているし、ハンターズソサエティにその情報を残しても確かにおかしい話ではないだろう。
「青龍さま、今回は時間を本当にありがとうございます」
そう言って小さくはにかむように笑んでみせる。
『いや、今まで人の子にこういった知識が渡ることも無かったわけだしな。後の世も考えれば、これもまた六大龍としての勤めでもあろう』
青龍はもともとこういう場面でも自分の立場を忘れず、同時に自分たちの護るべき相手として人間を見つめてくれているのがわかる。
「……それでは改めて、僭越ながら俺から、これまでの経緯を再度説明させてもらうっす」
そう言葉を切り出したのは、三下オーラを放ちつつもこういう場所ではそれゆえに、持ち得る知識と礼儀を尽くして説明しようとする神楽(ka2032)、年齢からしても小柄で文字通り三下な彼は、それだからこそ処世の術として相手を見て話すことを知っている。
「話の発端はリムネラさんがヘレといっしょにリアルブルーに向かったことからはじまるっす……」
神楽はゆっくり、これまでの経緯を話し始めた。
●
『なるほど、改めての説明、判りやすくまとめてくれて有難かった……ふむ、ナディアやナーランギ、イクタサ……彼らもこの幼き龍を心配しているのだな』
ひととおり確認も兼ねた説明を受けると、青龍はゆっくりと首を動かして頷いて見せた。
「はい。そして、目覚めを促す手段を青龍さまならご存じではないかと、それを知りたくてここまで来た次第なのです」
リムネラもそう言って、ぺこりと頭をそっと下げる。
『ふむ……ゆえ、我の元を訪れることを選んだのか。如何に辛い道のりであろうと、ヘレを信じて』
ヘレを信じて。
そう、ヘレの為を思うからこそ、リムネラも動いたし、ハンター達も手伝ってくれた。
それにしても、まだまだ確認したいことは多い。青龍はヘレの異変を恐らく一番把握していて、その回答を明確に出してくれるであろう存在だ。――そしてその問いかけをする機会は、いまこの瞬間なのだ。
「それでは、いくつか質問をさせてもらってもよろしいですか」
フューリトがペンを持ちながら小首を傾げて言う。
『無論だ。そもそもここまで来たのは我と話がしたいがゆえだろう?』
青龍も、ゆるりと頷いて見せた。
「では……」
そう言葉を切り出したのは、リムネラ。
「ヘレが、目を覚ますための、手段を……教えていただけないで、しょうか」
そう、それが第一に聞きたいことだ。と、観智がそれを僅かに遮る。
「青龍さん、今回はご助力感謝します。しかしその前に……ヘレの状況を知りたい、ですよね。ナーランギさんの話では、成長前のよい兆候……とのことでしたけれど、事態が起こったのはリアルブルーの神社、宗教施設での出来事でしたし……異質なマテリアルの話も……聞いていますから」
そこで一度言葉を切る。
「つまり具体的に言うと……今回のヘレの『成長の兆し』というのは……外部からの干渉によるものか、内部からの発露によるものか、とか……そう言うところです。よいものであるのなら……無理矢理目覚めさせるような手段は歪みを作る原因にもなり得ますし……」
観智はそのことが気になっていたようだ。すると青龍ももっともだ、と言わんばかりに瞬きして見せた。
『疑問に思うのも確かに理解の行く話だ。そうだな……まずは、ヘレと言ったか、その幼生を見せてくれぬか』
青龍に言われて、リムネラは背負い籠をおろし、中で眠るヘレをそっと見せる。ヘレはすやすやとその中で眠りについていた。……目覚める気配は、いまだにない。
『ふむ……確かにマテリアルの変質を感じるな。これは、ナーランギやナディアの見立ては正しいと言えるだろう』
青龍はのぞき込むように眺め、そしてそう言う。いや、言葉を発しているわけではないから、厳密には違う表現なのだろうが――。
『しかし、今回の成長は先ほどの外因性か内因性かと言えば、両方と言うべきだな。リアルブルーのマテリアルが刺激したとは言え、元もとこの幼生、ヘレの中には成長をする為のマテリアルが少しずつ蓄えられていたのだろう。それが、普段とは違うマテリアル、それもそれなりの濃度のものに触れて一気に促進された……そういう認識をするのが一番適当かも知れないな』
つまり、冬の寒さを堪えていた花のつぼみが春一番の風を受けて一気にほころぶが如く、成長期に突入したのだと、青龍は言いたいらしい。正常な成長だと言うことで、皆も安堵の息をつく。
青龍はそれからリムネラに視線を向けて、そして言った。
『この北方に、『龍のへそ』と呼ばれる、聖地として扱われる場所がある。マテリアルが潤沢な場所だ。……と言っても、『星の傷跡』のような場所ではない。龍やドラグーンと言った者達が身体を休めたり、或いは未成熟な龍の成長を促す為の場所だ。そこでしばらく純度の高いマテリアルに触れさせれば、六大龍の幼生だとしても成長の促進にはなるだろう』
――『龍のへそ』。それはハンター達は初めて聞く場所だった。不思議そうな顔をするハンター達に対し、アズラエルは納得がいった、と言う顔をする。この龍園では、それなりに知られた場所なのかも知れない。使い方を聞くに、マテリアルが湧き出す温泉のようなものなのだろうか? しかし、龍の為の湯治場――少し違うような気もするが、そんな感じの場所――が、存在するとは……。
「あ、ありがとうございますっす!」
神楽が土下座をして深く感謝の礼を言った。
●
「……いくつか、確認しておきたいことがあります」
今回最大の疑問に対する答えをもらってから、Uiscaが、そう言って礼をする。
「まず、六大龍さまたちの姿について。常から龍の姿をして現れると言うことを聞いているのですが、ヘレちゃんは白龍さまとは異なる個体として生まれ、新たな白龍さまへ生まれ変わろうとしている……過去にも事例はあるのですか?」
『なるほど。その点は安心するがいい、森の娘。六大龍は本来、その役目を全うする前から転生の準備を始めている。そう、たとえばこのヘレのように、あらかじめ転生する先をさだめ、次代に繋げるようなこともあるだろう』
ヘレが特殊な例ではない、と言うことを言いたいらしい。なるほど、生育を促す仕組みも存在するのなら、それはおかしな話ではないだろう。
『ただ、白龍にせよ黒龍にせよ、本人達の予想よりも消滅が早かったかも知れないのは、可能性として理解して欲しい。……歪虚の影響も、多大にあるからな』
白龍も黒龍も、歪虚から民を、土地を、護る為に消滅した。……予想よりも早い、と言うのも、確かにあるかも知れない。
Uiscaも、リムネラも、その言葉に僅かに沈黙する。歪虚の攻撃がなければ、このようなことはまだ無かったのだろうか? その答えは、永遠に解けぬままだが。
「はいっ、青龍様」
続いて手を上げたのはまよいだ。
「ヘレは成長の為に眠っているてことだけど、目覚めたら白龍様になるってことで間違いないのかな? それで、もしそうなら、同じようにハンターに貸せるだけの力を持つようになるの? 成長した白龍様の力って……どんなのだろ?」
確かに、今までの話の流れだとそう受け取られるのもわからなくはないが――青龍は、肯定とも否定ともつかぬように瞬きをする。
『いや、そうだな……逆に聞くが、人の子は成人するまでにだいたいどれ程かかる?』
逆に質問されて、まよいはあたふたと答える。
「え、ええと……国や地域、世界によっても違うけれど、だいたい十五から二十くらい……かな?」
その答えに青龍は軽く頷き、言葉を続けた。
『そうだな。そして人間の寿命はおおよそ八十年ほどだろう。龍はもっともっと長く生きる。つまり、大人になるまでには人間のそれよりももっと時間がかかる……六大龍とて、同じこと。まだ言葉を話すこともできぬこの幼生が、六大龍として我と同じくらいの体格や知恵、そう言うものを全て備えるにはまだまだ時間がかかる。白龍として目覚めると言うより、白龍としての自覚を持つことはあるだろうが、その能力を育むのは恐らくその傍にいる巫女や、お前達のような協力者だろう』
つまり、いきなり大人になるというよりも、これから更なる成長の為に勉強をする、そういうことのようだ。
言われて見ればペットだってしつけることは必要だ。六大龍とは言えまだ幼いヘレをそのように育てていく……なんだかそれはとても重大な役目だと、改めて気付かされる。
「なるほどね。つまり、これからはもっと勉強して、立派な白龍様になる修業、みたいな感じなんだ」
『その認識でおおむね間違っていない。納得がいったか?』
青龍は悪戯っぽく目を光らせる。
「はい。ありがとう、青龍様! ……でもそうなると、たとえまだまだちびっこでも白龍様の力を得たヘレに、ハンター達が戦いに向けて力を借りようとするかも知れないね……リムネラはそうなったとき、どう思う? それでも、へーき?」
まよいはリムネラに尋ねかける。リムネラもそのことは密かに案じていた。ヘレが白龍の大いなる力を得れば、その先の戦いから目を逸らしていくのは難しいだろう、と。
しかし――
「先ほどの、青龍サマの言葉……裏を返せば、ハンターの皆サンにも、ヘレの健やかな成長を手助けしてモラウことにナルと思いマス。デスから、それはギブアンドテイク、と言うことにナルかも知れマセンネ」
なるほど。言われて見ればその通りだ。ヘレの教育を、リムネラ一人で行うのは色んな意味で無理がある。大霊堂の巫女仲間やハンターに手伝ってもらうのが、確かにいいだろう。
『ふむ……白き巫女は、そう考えているか』
「……はい」
青龍の突然の声かけに、一瞬リムネラはひるんだ。青龍は青龍で、何かを考えているようだ……何をかは、まだ判らないが。
●
「――私からもよろしいだろうか」
レイアも大きな蒼い双眸で青龍を見つめる。
「一つ、ヘレが目覚めることでヘレ自身がどう変わるのか。力ではなく、内面的な意味で。そしてもう一つは――リムネラの役割だ。今後彼女はどういう形でヘレと関わっていくことになるのか。いずれも、わかる範囲で教えて欲しい……どちらも、リムネラ当人は既に覚悟を決めていることではあるから、余計な口出しになるかも知れないが」
Uiscaも、
「白龍さまとして目覚めたら、ヘレちゃんの人格……龍格? や、記憶と言ったものはどうなってしまうんでしょう?」
そう、心配してくれている。
すると青龍はむう、と唸った。
『ヘレの内面的には、……そうだな、先ほども言ったが、おそらく六大龍としての自覚が芽生えるだろう。それと、成長の具合にも寄るが、先代の記憶の一部も引き継ぐかもしれんな。いずれにしろ、ヘレという個体はそのままに、白龍としての情報の引き出しがべつにできる、と言うのが近いかもしれん。個を失うと言うことは、ないだろう』
とはいえ、と青龍は言う。
『まだヘレは幼い。白龍としての本来の力を全て発揮できるほどの自我や能力を兼ね備えていない。そう言うものは、引き出しに鍵をかけている状態……と言えばいいだろうか』
「つまり、ある程度自覚はあっても、白龍としての能力は発揮されない……?」
『端的に言えばそういうことだ。あと、リムネラ……白き巫女の役割だが。それもまた、当事者たるリムネラとヘレが決めることでもある。龍の契約者として同じ時を生きるようになるか、それとも天寿を全うするか……巫女は覚悟が出来ていると言ったが、ヘレのほうでそれを望まなければ、それはどうなるか判らない、というのが今言えることだ』
龍というのは確かに人知を超越した存在だ。人間よりも龍の意見を優先させる、と言うのもわからなくはないが……
(なるほどね)
フューリトはあえて筆記での記録を取りながら、しみじみと頷いてみせる。
(今は精霊になる準備で眠ってるかもって事だけど、白龍になるとなればやっぱり先代の記憶を受け取って、次代に継承してるんだな)
口には出さないが、自分の予想とあながち外れていなかったことで少し安堵感が出たようだ。
(と言っても、転生と一言で言ってもいろいろあるみたいだけれど、継承された力や記録って、きちんと分けてしまわれている、そんな感じなんだ……)
彼女が抱いていた疑問の多くは、他の仲間たちが問いかけ、そして回答を得ている。
(でも、精霊に変わるってどんな感じなんだろう……それに、今までの子を尊重しているような気はするけれど、そう言う大きな力や記録を受け取るときは、ヘレさま本人はその時ってわかるのかな……?)
あえて口に出しはしない。精霊という存在は、人間やエルフ、ドワーフなどの種族、世間で大きく『人』とくくられる存在よりも上位存在で、くわえて六大龍は更にそのなかでも上位に位置する――このクリムゾンウェストにおける守護龍たる存在。
ヘレがそれに昇華されるというのはフューリトにとってまったく予想が付かない。
「……そういえば」
口をついて出たのは素朴で、しかし納得のいく質問。
「六大龍の皆様は、ほかの六大龍の皆様が悲しくも個としておかくれになられた時、とか、新しい六大龍さまがおいでの時、とか……そう言う時は、おんみで感じてしまわれるのでしょうか?」
もしそうなら、ヘレの存在から何かを感じるだろう――と思っての質問だ。
『そうだな……完全に、と言うわけではないが、兆しは無論わかるし、ゆえにこのヘレからも白龍の気配のようなものは感じられる。人の子にはまだ気付きにくい、ほんの少しの変化ではあるが……ここまで近くならば、我にはわかる。白龍や黒龍が消えた時は……マテリアルの気配が変わるから、彼らの消滅は認識できた』
青龍は質問の意図を汲んで、ゆっくり、しっかりと返事をする。
「……参考になりました、ありがとうございます。青龍さま」
少女は丁寧に、頭を下げた。
●
「あ、あの!」
他の者がひととおり質問を終えてから声を上げたのは、神楽だった。一歩前に進み出て、そして言う。
「最後に、もう一つ質問をお許しくださいっす。……実は龍園にくる途中、元龍騎士という面々に襲撃を受けましたっす。龍騎士の方から、彼らは青龍様を強く信奉するあまり過激思想を持ったので、龍園を追放された、と聞いたっす」
アズラエルもその報告は受けていたのだろう。
「あなたが言いたいのは、槍使いの元龍騎士達のことですよね? 龍園側でも、その話は聞いていますが」
「それっす! その彼らに、直接、危険思想を捨てて龍園に帰順するように呼びかけて頂くことは可能っすか? 青龍さま以外が言っても多分駄目っすけど、追放されてもなお強く信奉する青龍様のお言葉なら……或いは、耳を傾けてくれるんじゃないかな、と思いますっす」
「……」
アズラエルは、無言だ。
「彼らは、確かに罪を犯したっす。けれど、既に追放という形の罰を受けてるっす。そして邪神という共通の敵が居るせいもあるっすけど、西方や龍園や東方……そんな区別どころか、種族や世界の壁も越えて協力できてる今なら、以前とは違う答えを出せるんじゃないか、そう思ったっす。なので、ご考慮くださいっす……!」
神楽はずっと彼らのことが忘れられなかったのだろう。普段から自他共に認める三下である彼だが、だからこそ痛みも分かる一面がある。根はしっかりと真面目なのだ。
しかし。
『しかし、それは難しい話だ、人の子』
青龍はそう、きぱりと言い放った。
『お前の気持ちが分からないわけでは無いのだ。けれど、マテリアルの変質を感じる……少なくとも、あのリーダーは、最早還ってこれまい』
「……ええ。リーダーの男――アルフォンソという名前なのですが、彼は既に歪虚化が進んでいると先日交戦した龍騎士からも報告を受けています」
青龍とアズラエルの言葉に、ハンター達の顔は一瞬険しくなる。
歪虚化――しかもかなり進んでいるとなれば、確かに恩赦を授けるのは難しいだろう。身のうちに毒を置くようなものだ。
「と言うことは、歪虚がヘレちゃんのことを知るのも、下手をすれば時間の問題かも知れない……?」
Uiscaが僅かに身震いした。
「今からそれを言ってもはじまらない。ヘレが目覚めることを、まずは最優先に考えよう」
レイアが小さくそう言うが、
「しかし、逆にその質問でここに来るまでの襲撃に歪虚が関わっている可能性も示唆された。神楽、礼を言う」
そう言って神楽の機転を褒める。とはいえ神楽としては複雑だ。救済したかった存在が、排除すべき存在になっているというのは――。
「……部外者の口出し、ご無礼ご容赦くださいっす。何も知らないからこその正論もある……っす。それでも、その人は難しくても、他の人でまだ間に合う人がいたら――どうか。それと……これはあくまで俺の個人的な質問っす。不敬の罰は俺一人に」
神楽はそう言って頭を下げるが、
「いや、これは教えておくべき情報に違いなかった。指摘してくれたことに感謝をするよ」
アズラエルも小さく頷いてくれた。
●
「そうそう。『龍のへそ』には、小さな石舞台があってね。辺境巫女の祈りの舞を、そこで執り行えば……恐らくマテリアルの活性化の一助となるだろう。もっとも、先ほども言ったとおり、神官や龍騎士も知った場所だ。――アルフォンソが今回の目的に気付けば、白龍を排除しようと動く可能性は高い」
アズラエルがそう言うと、リムネラも、ハンター達も、顔を引き締める。
「念には念を入れ、対策を打つ必要もあるだろう。無論、こちらからも手を貸すことができるのなら、多少なりとも助力はする」
その言葉は有難かった。龍園の地理に疎いハンターも多いので、そういう意味でも助けは必要だったからだ。
と、青龍がつい、と言葉を発した。
『……リムネラと言ったか。白き巫女、これは我からの提案なのだが……ヘレを、龍園で迎え入れ、預かるわけには行かないだろうか』
その言葉に、リムネラは驚きの表情を見せる。
『ずっと閉じ込めておくという意味ではない。しかし、龍種は今や貴重な存在なのは知っての通りだ。……まだこのヘレという幼生は色んな意味で不安定な部分を多く備えている。そして歪虚が力を伸ばしている今、龍にとって龍園より安全なところは恐らく存在すまい。万が一のことがあってからでは遅い。……これはあくまで、ヘレの健やかな成長を願っての提案だ』
確かに今、龍という種そのものが稀少となっている。そしてもしここで育つことが出来れば、青龍から様々な叡智を授かることも可能だろう。
しかし――どうしたらいいのだろう。
リムネラはしばらく考え込んだ。そしてゆっくりと言葉をだす。
「わたしは……それがヘレのためなら、そしてヘレも望むのなら……かまいません」
そう、告げた。
「……!」
「リムネラさん……!」
ハンター達も、驚きの表情を隠せない。
「ヘレが、望むことを最優先にしたい、デスから……」
リムネラは少しばかり寂しそうな笑みを浮かべる。
たとえ辛い別れが待っているかも知れなくとも――リムネラは自分よりも、ヘレを最優先に考えて。そして、決意をしたのだった。
――龍の目覚めも、きっと、もうすぐに違いない。
それは確かに、歴史的な出来事であっただろう。
ハンターが青龍と話をする、という機会は確かに今までにも存在した。そして青龍がハンターという存在を認めていることも、多くのハンター達にとって周知の事実となっている。
……むしろその周囲、神官たちの方が頭が硬いくらいなのかも知れないくらいだ。
確かにリムネラ(kz0018)とて、一応はハンターとしての資格を有している。
けれども今回リムネラは、『ハンター』としてかの龍の前に立つのでは無かった。
リムネラはハンターである以前に辺境の聖地『リタ・ティト』所属の、白龍の巫女だ。今、リムネラは『白龍の巫女』として、青龍の前にいる。
巫女の正装たる白い装束を纏ったその姿は一見質素ではあるが巫女としての品位をしっかりと備えていた。
青龍――この北の地『リグ・サンガマ』において、最も偉大な存在。そして、このクリムゾンウェストという世界の守護者、六大龍のひと柱。
辺境の白龍、そして東方の黒龍なき今、『六大龍』と言う立場ではっきりとこの世界を見つめ、人間達と――龍園のものの多くは青龍を崇める、彼の眷属たるドラグーンであるが――ともにある、ほぼ唯一の存在。
偏屈ものの大幻獣ナーランギが実はもともと六大龍に数えられる存在であったと判明したのはつい最近であるし、赤龍と紫龍に関しては人類の敵と認識されている今、
『蛇の道は蛇。ならば、龍のことをよく知るのは――』
ナーランギの言葉がリムネラの頭をよぎる。そう、彼女は来たのだ、彼女の小さな相棒・ヘレの為に、この北の地まで。
「緊張するかも知れないけれど、ここが正念場です! がんばりましょうね!」
リムネラと同じく白い巫女装束を着たUisca Amhran(ka0754)が、そっとリムネラの手をとって頷いてみせる。巫女としての立場はリムネラのほうが上位ではあるが、Uiscaにはこれまで培ってきたハンターとしての知識や能力がある。
それらも存分に活用して、彼女はリムネラとともにこの対談を円滑に進めようと思っていた。
ハンターとして、或いは個人としての知識を最大限に利用したい――それは天央 観智(ka0896)も似たようなことを考えていた。
Uiscaと観智は偶然、ヘレの変調の瞬間をまのあたりにした面々であり、彼らがともに居てくれるのはリムネラとしても心強い。
「ああ見えて、青龍さんは、割とフランクなところもある方です、から……きっと大丈夫だとは、思いますけれど……。もっとも、今回の対話はそう言うわけにも行かない部分もある、かも知れませんが……それでも、手伝えることがあれば、言ってくださいね」
普段から被っている帽子をあえてはずし、そう言って微笑んでみせる。彼なりの礼儀を示しているのだ。
「そうね。せっかくナディアからも紹介を取り付けたわけだし、私も会わせて貰えるのは嬉しいな。ね、リムネラ?」
夢路 まよい(ka1328)も、普段つけている帽子を脱いで、そして笑ってみせる。今回の事態、気になることは山のようにある。それでもあまり長々と話をするのは、相手のことを考えればあまり良いことではないだろう。それぞれ聞きたいことは数多いが、今回はその質問を先に絞ってきていた。
「でも、それでも……やはり、緊張シマス……」
リムネラは僅かにうわずった声で、そう言いながらぎこちなく微笑んだ。
「さあ、つきました……皆さん、青龍様に礼を」
青龍の御前、同伴してくれているアズラエルは頭を下げた。
それを見たリムネラも、慌てて頭を下げ、礼をする。むろん他の巫女も、ハンター達も。
「青龍様、西方よりの使者をお連れ致しました。白龍の幼生ヘレと、その巫女リムネラ殿、そしてそのお仲間の方々です」
アズラエルがそう述べると、頭に声が響いてくる。
『西方からの使者よ、よくこのヴリトラルカまで参った』
朗々と冴え渡る、威厳ある声。青龍の声に間違いなかった。そっと青龍を見上げると、立派な体躯をしたひとよりもある意味優れた存在――龍の頂点にある六大龍の一がそこに居て、リムネラやハンターを見下ろしている。
『その籠に眠っているのが幼き白龍、だな?』
ヘレのことを問われ、弾かれたようにリムネラは頭を上げた。そして、いつもよりも更に穏やかなゆっくりとした声で、
「はい。……ヘレという名前を持つ、次代の白龍です」
もっともそれは確定ではないかもしれませんが――と言う言葉を添えながら、言葉を紡ぐ。
なにしろ相手が相手だけに、リムネラも緊張が隠せない。それでも言葉をださなければ、話は進まないのだ。
『リムネラと言ったか。ここまでの道のり、決して平坦では無かったろうが、どうであったか』
青龍がそんなことを聞く。リムネラはその言葉に、
「……ハンターの皆さんも、助けてくれました、から」
そういって微笑んでみせる。それは真実、そう思っているからこその言葉だった。
『なるほど。ハンターは慕われているのだな』
青龍がそう言うと、リムネラも頷いてみせる。
「私たちは、基本的にリムネラの護衛だ。……しかし、青龍殿。もし私たちにも口出しが許されているのならば、少々余計なお節介もさせてもらおう」
そう言ってきりりと顔を引き締めるのはレイア・アローネ(ka4082)。アズラエルは一瞬悩んだような顔をした。が、
『なかなか威勢の良い娘だな。無論、この場にいるということは発言する権利はお前達も持っている。聞きたいことがあれば、発言は歓迎するぞ』
その言葉にこっくり頷いたのはフューリト・クローバー(ka7146)。普段はマイペースきわまりなくどこででも眠ってしまうような少女だが、流石に今回は緊張からか眠ることも忘れて記録係になっている。
今回の対話が特殊な条件下にあるのは巫女でなくとも理解できる――龍園側もアズラエルが記録を取ろうとしているし、ハンターズソサエティにその情報を残しても確かにおかしい話ではないだろう。
「青龍さま、今回は時間を本当にありがとうございます」
そう言って小さくはにかむように笑んでみせる。
『いや、今まで人の子にこういった知識が渡ることも無かったわけだしな。後の世も考えれば、これもまた六大龍としての勤めでもあろう』
青龍はもともとこういう場面でも自分の立場を忘れず、同時に自分たちの護るべき相手として人間を見つめてくれているのがわかる。
「……それでは改めて、僭越ながら俺から、これまでの経緯を再度説明させてもらうっす」
そう言葉を切り出したのは、三下オーラを放ちつつもこういう場所ではそれゆえに、持ち得る知識と礼儀を尽くして説明しようとする神楽(ka2032)、年齢からしても小柄で文字通り三下な彼は、それだからこそ処世の術として相手を見て話すことを知っている。
「話の発端はリムネラさんがヘレといっしょにリアルブルーに向かったことからはじまるっす……」
神楽はゆっくり、これまでの経緯を話し始めた。
●
『なるほど、改めての説明、判りやすくまとめてくれて有難かった……ふむ、ナディアやナーランギ、イクタサ……彼らもこの幼き龍を心配しているのだな』
ひととおり確認も兼ねた説明を受けると、青龍はゆっくりと首を動かして頷いて見せた。
「はい。そして、目覚めを促す手段を青龍さまならご存じではないかと、それを知りたくてここまで来た次第なのです」
リムネラもそう言って、ぺこりと頭をそっと下げる。
『ふむ……ゆえ、我の元を訪れることを選んだのか。如何に辛い道のりであろうと、ヘレを信じて』
ヘレを信じて。
そう、ヘレの為を思うからこそ、リムネラも動いたし、ハンター達も手伝ってくれた。
それにしても、まだまだ確認したいことは多い。青龍はヘレの異変を恐らく一番把握していて、その回答を明確に出してくれるであろう存在だ。――そしてその問いかけをする機会は、いまこの瞬間なのだ。
「それでは、いくつか質問をさせてもらってもよろしいですか」
フューリトがペンを持ちながら小首を傾げて言う。
『無論だ。そもそもここまで来たのは我と話がしたいがゆえだろう?』
青龍も、ゆるりと頷いて見せた。
「では……」
そう言葉を切り出したのは、リムネラ。
「ヘレが、目を覚ますための、手段を……教えていただけないで、しょうか」
そう、それが第一に聞きたいことだ。と、観智がそれを僅かに遮る。
「青龍さん、今回はご助力感謝します。しかしその前に……ヘレの状況を知りたい、ですよね。ナーランギさんの話では、成長前のよい兆候……とのことでしたけれど、事態が起こったのはリアルブルーの神社、宗教施設での出来事でしたし……異質なマテリアルの話も……聞いていますから」
そこで一度言葉を切る。
「つまり具体的に言うと……今回のヘレの『成長の兆し』というのは……外部からの干渉によるものか、内部からの発露によるものか、とか……そう言うところです。よいものであるのなら……無理矢理目覚めさせるような手段は歪みを作る原因にもなり得ますし……」
観智はそのことが気になっていたようだ。すると青龍ももっともだ、と言わんばかりに瞬きして見せた。
『疑問に思うのも確かに理解の行く話だ。そうだな……まずは、ヘレと言ったか、その幼生を見せてくれぬか』
青龍に言われて、リムネラは背負い籠をおろし、中で眠るヘレをそっと見せる。ヘレはすやすやとその中で眠りについていた。……目覚める気配は、いまだにない。
『ふむ……確かにマテリアルの変質を感じるな。これは、ナーランギやナディアの見立ては正しいと言えるだろう』
青龍はのぞき込むように眺め、そしてそう言う。いや、言葉を発しているわけではないから、厳密には違う表現なのだろうが――。
『しかし、今回の成長は先ほどの外因性か内因性かと言えば、両方と言うべきだな。リアルブルーのマテリアルが刺激したとは言え、元もとこの幼生、ヘレの中には成長をする為のマテリアルが少しずつ蓄えられていたのだろう。それが、普段とは違うマテリアル、それもそれなりの濃度のものに触れて一気に促進された……そういう認識をするのが一番適当かも知れないな』
つまり、冬の寒さを堪えていた花のつぼみが春一番の風を受けて一気にほころぶが如く、成長期に突入したのだと、青龍は言いたいらしい。正常な成長だと言うことで、皆も安堵の息をつく。
青龍はそれからリムネラに視線を向けて、そして言った。
『この北方に、『龍のへそ』と呼ばれる、聖地として扱われる場所がある。マテリアルが潤沢な場所だ。……と言っても、『星の傷跡』のような場所ではない。龍やドラグーンと言った者達が身体を休めたり、或いは未成熟な龍の成長を促す為の場所だ。そこでしばらく純度の高いマテリアルに触れさせれば、六大龍の幼生だとしても成長の促進にはなるだろう』
――『龍のへそ』。それはハンター達は初めて聞く場所だった。不思議そうな顔をするハンター達に対し、アズラエルは納得がいった、と言う顔をする。この龍園では、それなりに知られた場所なのかも知れない。使い方を聞くに、マテリアルが湧き出す温泉のようなものなのだろうか? しかし、龍の為の湯治場――少し違うような気もするが、そんな感じの場所――が、存在するとは……。
「あ、ありがとうございますっす!」
神楽が土下座をして深く感謝の礼を言った。
●
「……いくつか、確認しておきたいことがあります」
今回最大の疑問に対する答えをもらってから、Uiscaが、そう言って礼をする。
「まず、六大龍さまたちの姿について。常から龍の姿をして現れると言うことを聞いているのですが、ヘレちゃんは白龍さまとは異なる個体として生まれ、新たな白龍さまへ生まれ変わろうとしている……過去にも事例はあるのですか?」
『なるほど。その点は安心するがいい、森の娘。六大龍は本来、その役目を全うする前から転生の準備を始めている。そう、たとえばこのヘレのように、あらかじめ転生する先をさだめ、次代に繋げるようなこともあるだろう』
ヘレが特殊な例ではない、と言うことを言いたいらしい。なるほど、生育を促す仕組みも存在するのなら、それはおかしな話ではないだろう。
『ただ、白龍にせよ黒龍にせよ、本人達の予想よりも消滅が早かったかも知れないのは、可能性として理解して欲しい。……歪虚の影響も、多大にあるからな』
白龍も黒龍も、歪虚から民を、土地を、護る為に消滅した。……予想よりも早い、と言うのも、確かにあるかも知れない。
Uiscaも、リムネラも、その言葉に僅かに沈黙する。歪虚の攻撃がなければ、このようなことはまだ無かったのだろうか? その答えは、永遠に解けぬままだが。
「はいっ、青龍様」
続いて手を上げたのはまよいだ。
「ヘレは成長の為に眠っているてことだけど、目覚めたら白龍様になるってことで間違いないのかな? それで、もしそうなら、同じようにハンターに貸せるだけの力を持つようになるの? 成長した白龍様の力って……どんなのだろ?」
確かに、今までの話の流れだとそう受け取られるのもわからなくはないが――青龍は、肯定とも否定ともつかぬように瞬きをする。
『いや、そうだな……逆に聞くが、人の子は成人するまでにだいたいどれ程かかる?』
逆に質問されて、まよいはあたふたと答える。
「え、ええと……国や地域、世界によっても違うけれど、だいたい十五から二十くらい……かな?」
その答えに青龍は軽く頷き、言葉を続けた。
『そうだな。そして人間の寿命はおおよそ八十年ほどだろう。龍はもっともっと長く生きる。つまり、大人になるまでには人間のそれよりももっと時間がかかる……六大龍とて、同じこと。まだ言葉を話すこともできぬこの幼生が、六大龍として我と同じくらいの体格や知恵、そう言うものを全て備えるにはまだまだ時間がかかる。白龍として目覚めると言うより、白龍としての自覚を持つことはあるだろうが、その能力を育むのは恐らくその傍にいる巫女や、お前達のような協力者だろう』
つまり、いきなり大人になるというよりも、これから更なる成長の為に勉強をする、そういうことのようだ。
言われて見ればペットだってしつけることは必要だ。六大龍とは言えまだ幼いヘレをそのように育てていく……なんだかそれはとても重大な役目だと、改めて気付かされる。
「なるほどね。つまり、これからはもっと勉強して、立派な白龍様になる修業、みたいな感じなんだ」
『その認識でおおむね間違っていない。納得がいったか?』
青龍は悪戯っぽく目を光らせる。
「はい。ありがとう、青龍様! ……でもそうなると、たとえまだまだちびっこでも白龍様の力を得たヘレに、ハンター達が戦いに向けて力を借りようとするかも知れないね……リムネラはそうなったとき、どう思う? それでも、へーき?」
まよいはリムネラに尋ねかける。リムネラもそのことは密かに案じていた。ヘレが白龍の大いなる力を得れば、その先の戦いから目を逸らしていくのは難しいだろう、と。
しかし――
「先ほどの、青龍サマの言葉……裏を返せば、ハンターの皆サンにも、ヘレの健やかな成長を手助けしてモラウことにナルと思いマス。デスから、それはギブアンドテイク、と言うことにナルかも知れマセンネ」
なるほど。言われて見ればその通りだ。ヘレの教育を、リムネラ一人で行うのは色んな意味で無理がある。大霊堂の巫女仲間やハンターに手伝ってもらうのが、確かにいいだろう。
『ふむ……白き巫女は、そう考えているか』
「……はい」
青龍の突然の声かけに、一瞬リムネラはひるんだ。青龍は青龍で、何かを考えているようだ……何をかは、まだ判らないが。
●
「――私からもよろしいだろうか」
レイアも大きな蒼い双眸で青龍を見つめる。
「一つ、ヘレが目覚めることでヘレ自身がどう変わるのか。力ではなく、内面的な意味で。そしてもう一つは――リムネラの役割だ。今後彼女はどういう形でヘレと関わっていくことになるのか。いずれも、わかる範囲で教えて欲しい……どちらも、リムネラ当人は既に覚悟を決めていることではあるから、余計な口出しになるかも知れないが」
Uiscaも、
「白龍さまとして目覚めたら、ヘレちゃんの人格……龍格? や、記憶と言ったものはどうなってしまうんでしょう?」
そう、心配してくれている。
すると青龍はむう、と唸った。
『ヘレの内面的には、……そうだな、先ほども言ったが、おそらく六大龍としての自覚が芽生えるだろう。それと、成長の具合にも寄るが、先代の記憶の一部も引き継ぐかもしれんな。いずれにしろ、ヘレという個体はそのままに、白龍としての情報の引き出しがべつにできる、と言うのが近いかもしれん。個を失うと言うことは、ないだろう』
とはいえ、と青龍は言う。
『まだヘレは幼い。白龍としての本来の力を全て発揮できるほどの自我や能力を兼ね備えていない。そう言うものは、引き出しに鍵をかけている状態……と言えばいいだろうか』
「つまり、ある程度自覚はあっても、白龍としての能力は発揮されない……?」
『端的に言えばそういうことだ。あと、リムネラ……白き巫女の役割だが。それもまた、当事者たるリムネラとヘレが決めることでもある。龍の契約者として同じ時を生きるようになるか、それとも天寿を全うするか……巫女は覚悟が出来ていると言ったが、ヘレのほうでそれを望まなければ、それはどうなるか判らない、というのが今言えることだ』
龍というのは確かに人知を超越した存在だ。人間よりも龍の意見を優先させる、と言うのもわからなくはないが……
(なるほどね)
フューリトはあえて筆記での記録を取りながら、しみじみと頷いてみせる。
(今は精霊になる準備で眠ってるかもって事だけど、白龍になるとなればやっぱり先代の記憶を受け取って、次代に継承してるんだな)
口には出さないが、自分の予想とあながち外れていなかったことで少し安堵感が出たようだ。
(と言っても、転生と一言で言ってもいろいろあるみたいだけれど、継承された力や記録って、きちんと分けてしまわれている、そんな感じなんだ……)
彼女が抱いていた疑問の多くは、他の仲間たちが問いかけ、そして回答を得ている。
(でも、精霊に変わるってどんな感じなんだろう……それに、今までの子を尊重しているような気はするけれど、そう言う大きな力や記録を受け取るときは、ヘレさま本人はその時ってわかるのかな……?)
あえて口に出しはしない。精霊という存在は、人間やエルフ、ドワーフなどの種族、世間で大きく『人』とくくられる存在よりも上位存在で、くわえて六大龍は更にそのなかでも上位に位置する――このクリムゾンウェストにおける守護龍たる存在。
ヘレがそれに昇華されるというのはフューリトにとってまったく予想が付かない。
「……そういえば」
口をついて出たのは素朴で、しかし納得のいく質問。
「六大龍の皆様は、ほかの六大龍の皆様が悲しくも個としておかくれになられた時、とか、新しい六大龍さまがおいでの時、とか……そう言う時は、おんみで感じてしまわれるのでしょうか?」
もしそうなら、ヘレの存在から何かを感じるだろう――と思っての質問だ。
『そうだな……完全に、と言うわけではないが、兆しは無論わかるし、ゆえにこのヘレからも白龍の気配のようなものは感じられる。人の子にはまだ気付きにくい、ほんの少しの変化ではあるが……ここまで近くならば、我にはわかる。白龍や黒龍が消えた時は……マテリアルの気配が変わるから、彼らの消滅は認識できた』
青龍は質問の意図を汲んで、ゆっくり、しっかりと返事をする。
「……参考になりました、ありがとうございます。青龍さま」
少女は丁寧に、頭を下げた。
●
「あ、あの!」
他の者がひととおり質問を終えてから声を上げたのは、神楽だった。一歩前に進み出て、そして言う。
「最後に、もう一つ質問をお許しくださいっす。……実は龍園にくる途中、元龍騎士という面々に襲撃を受けましたっす。龍騎士の方から、彼らは青龍様を強く信奉するあまり過激思想を持ったので、龍園を追放された、と聞いたっす」
アズラエルもその報告は受けていたのだろう。
「あなたが言いたいのは、槍使いの元龍騎士達のことですよね? 龍園側でも、その話は聞いていますが」
「それっす! その彼らに、直接、危険思想を捨てて龍園に帰順するように呼びかけて頂くことは可能っすか? 青龍さま以外が言っても多分駄目っすけど、追放されてもなお強く信奉する青龍様のお言葉なら……或いは、耳を傾けてくれるんじゃないかな、と思いますっす」
「……」
アズラエルは、無言だ。
「彼らは、確かに罪を犯したっす。けれど、既に追放という形の罰を受けてるっす。そして邪神という共通の敵が居るせいもあるっすけど、西方や龍園や東方……そんな区別どころか、種族や世界の壁も越えて協力できてる今なら、以前とは違う答えを出せるんじゃないか、そう思ったっす。なので、ご考慮くださいっす……!」
神楽はずっと彼らのことが忘れられなかったのだろう。普段から自他共に認める三下である彼だが、だからこそ痛みも分かる一面がある。根はしっかりと真面目なのだ。
しかし。
『しかし、それは難しい話だ、人の子』
青龍はそう、きぱりと言い放った。
『お前の気持ちが分からないわけでは無いのだ。けれど、マテリアルの変質を感じる……少なくとも、あのリーダーは、最早還ってこれまい』
「……ええ。リーダーの男――アルフォンソという名前なのですが、彼は既に歪虚化が進んでいると先日交戦した龍騎士からも報告を受けています」
青龍とアズラエルの言葉に、ハンター達の顔は一瞬険しくなる。
歪虚化――しかもかなり進んでいるとなれば、確かに恩赦を授けるのは難しいだろう。身のうちに毒を置くようなものだ。
「と言うことは、歪虚がヘレちゃんのことを知るのも、下手をすれば時間の問題かも知れない……?」
Uiscaが僅かに身震いした。
「今からそれを言ってもはじまらない。ヘレが目覚めることを、まずは最優先に考えよう」
レイアが小さくそう言うが、
「しかし、逆にその質問でここに来るまでの襲撃に歪虚が関わっている可能性も示唆された。神楽、礼を言う」
そう言って神楽の機転を褒める。とはいえ神楽としては複雑だ。救済したかった存在が、排除すべき存在になっているというのは――。
「……部外者の口出し、ご無礼ご容赦くださいっす。何も知らないからこその正論もある……っす。それでも、その人は難しくても、他の人でまだ間に合う人がいたら――どうか。それと……これはあくまで俺の個人的な質問っす。不敬の罰は俺一人に」
神楽はそう言って頭を下げるが、
「いや、これは教えておくべき情報に違いなかった。指摘してくれたことに感謝をするよ」
アズラエルも小さく頷いてくれた。
●
「そうそう。『龍のへそ』には、小さな石舞台があってね。辺境巫女の祈りの舞を、そこで執り行えば……恐らくマテリアルの活性化の一助となるだろう。もっとも、先ほども言ったとおり、神官や龍騎士も知った場所だ。――アルフォンソが今回の目的に気付けば、白龍を排除しようと動く可能性は高い」
アズラエルがそう言うと、リムネラも、ハンター達も、顔を引き締める。
「念には念を入れ、対策を打つ必要もあるだろう。無論、こちらからも手を貸すことができるのなら、多少なりとも助力はする」
その言葉は有難かった。龍園の地理に疎いハンターも多いので、そういう意味でも助けは必要だったからだ。
と、青龍がつい、と言葉を発した。
『……リムネラと言ったか。白き巫女、これは我からの提案なのだが……ヘレを、龍園で迎え入れ、預かるわけには行かないだろうか』
その言葉に、リムネラは驚きの表情を見せる。
『ずっと閉じ込めておくという意味ではない。しかし、龍種は今や貴重な存在なのは知っての通りだ。……まだこのヘレという幼生は色んな意味で不安定な部分を多く備えている。そして歪虚が力を伸ばしている今、龍にとって龍園より安全なところは恐らく存在すまい。万が一のことがあってからでは遅い。……これはあくまで、ヘレの健やかな成長を願っての提案だ』
確かに今、龍という種そのものが稀少となっている。そしてもしここで育つことが出来れば、青龍から様々な叡智を授かることも可能だろう。
しかし――どうしたらいいのだろう。
リムネラはしばらく考え込んだ。そしてゆっくりと言葉をだす。
「わたしは……それがヘレのためなら、そしてヘレも望むのなら……かまいません」
そう、告げた。
「……!」
「リムネラさん……!」
ハンター達も、驚きの表情を隠せない。
「ヘレが、望むことを最優先にしたい、デスから……」
リムネラは少しばかり寂しそうな笑みを浮かべる。
たとえ辛い別れが待っているかも知れなくとも――リムネラは自分よりも、ヘレを最優先に考えて。そして、決意をしたのだった。
――龍の目覚めも、きっと、もうすぐに違いない。
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】教えて青竜様! 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/04/12 02:23:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/10 17:25:21 |