ゲスト
(ka0000)
愛とは自由なものである
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/04/20 19:00
- 完成日
- 2018/04/25 23:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ユニゾン島。
地下にある市民生産機関の会議室。
白い花かごを傍らにしたマゴイは、異界から持ち帰ったデータを、機関情報集積回路に移していた。
断片的な記録の切れ端から知ることが出来たのは、自分が消失した後α・ステーツマンが不調に陥り、頻繁に自主調整を受けていたということだった。
それでも彼は、きちんと仕事をしていた。会議へ出席した記録が残っている――あの最後の日まで。
そこだけでも知れてよかったとマゴイは思った。歪虚になってしまったαの姿を、それにまつわる悲しみを、記憶から拭い去ってしまうことは出来ないのだとしても。
『……データの確認作業、並びに転送作業終了……これにて旧ユニオンの記録は新しいユニオンへ……正式に引き継がれることになります……』
●
バシリア刑務所。面会室。
スペットはぴょこが持ってきた異界ユニオンの写真を眺めた――なんでも潜入したハンターの1人が撮影してきたそうだ。
判で押したような建物が並ぶ町並みと、判で押したように同じ顔をした人々。その中に以前の自分と同じ顔が多数含まれている。
これで元に戻る取っ掛かりが出来た、と彼は喜ぶ。
しかしぴょこは、意外とそうでもなさそう。
『わし、βの今の顔も好きなのじゃ。それがなくなってしまうのは、なんだかちょっと寂しいような気がしてのう』
そういうことを言われると、スペットとしては困ってしまう。
「でもこの顔やとなあ、困ることも多いねんで――まあ、人間の顔に戻れるちゅうても今日明日いうことやないからな。とりあえず復元装置があるのかないのかはっきりせえへんし」
『もしなかったらどうなるのじゃ?』
「……1から作るちゅうことになるやろな。マゴイがそれをやるかどうかあやしいけど」
『心配せんでよいぞβ。その場合はちゃんと作ってくれるぞよ。マゴイの、前よりずっと人の言うこと聞いてくれるようになったのじゃ。とても話しやすくなったのじゃ。おぬしはそう思わんか?』
「……せやな、ちっとは思うかもな」
『じゃろ。じゃからの、わし、今年の郷祭には正式に誘ってみようかと思うのじゃ。前はコボルドだけが来て、マゴイは送り迎えしかしてなかったでのう』
●
昼下がりのハンターオフィス・ジェオルジ支局。
アレックスが恋人である職員ジュアンを訪ねてきている。
「アレックス。グラズヘイムに行ってたんだって?」
「おお。あそこも王女が結婚するのしないので、ごたごたしててな。貴族連中があれこれ浮足立っ……あれ? マリー、ナルシス連れてきてんの?」
「いえ、連れて来たってわけじゃないんだけど、ナルシスくんが来たいって言うから」
「へー。なんか働く気にでもなったのかニート少年」
「全然」
など取り留めのない日常会話が繰り広げられていた所に、扉が開いた。
カチャだ。
「アレックスさん、ここにいましたか」
「おー、カチャ。何だ」
「いえ――ちょっと」
カチャは何故だか口ごもる。
そこにコボルドコボちゃんが入ってきて、餌入れを手に自己主張。
「うー、わし、めし!」
「ああ、ご飯の時間だったね」
ジュアンがドッグフードを取ってくるため、席を立つ。その間にカチャは素早くアレックスに駆け寄った。オフィスの隅に連れて行き、小声かつ早口に言う。
「アレックスさんがいない間に、アパートへお客さんが訪ねてきましたよ」
「へー。どんな奴?」
「ルーカス・ルーズベルトっていう男の人です。『アレックスいる?』ってすごく親しげな感じで言ってきました。今は出掛けてますってお答えしたら、残念そうにしてました。久しぶりに会いたかったんだけどって――心当たりあります?」
アレックスの目が微妙に泳いだ。
「あ――うん、まあ」
「どういう関係で?」
「ああうん。その――3年前までの知り合い」
「……向こうもそういうこと言ってました」
「あ、そ、そう。で、何、何の用事だって?」
「いえ、新しく知り合った人と近々結婚するそうで。それをお伝えしたかったのだということでした」
「へえ、そりゃよかった」
何やらほっとした調子で息を吐くアレックス。
その肩にポンと手が置かれた。
振り向けばジュアンだった。いつも穏やかな目が完全に据わっている。
「……アレックス、3年前にはすでに僕たち付き合い始めてたよね?」
手には黒光りする銃を持っている。
「待て落ち着けジュアン落ち着」
「君を殺して僕も死ぬ」
コボルドコボちゃんは隠れていた机の下から、そっと顔を覗かせた。そしてくしゃんとくしゃみした。
床に伏せていたカチャは恐る恐る起き上がる。
辺りを漂うのは硝煙の匂い。壁や天井に無数の弾痕。机も椅子も引っ繰り返り、オフィスの扉は開けっ放し。
給湯室からマリーが顔を出してきた。
「ナルシスくん、もう出てきても大丈夫よ」
それに応えるように、ナルシスも顔を出す。
「あー、びっくりした」
追いつ追われつ飛び出して行ったジュアンとアレックスは、しばらく戻ってきそうにない。
と、そこにナルシスの姉、ニケがやってきた。
いつものような引っ詰め頭のスーツ姿ではない。髪を下ろし、ドレスを着ている。
「マリーさんの家にいないと思ったら、やっぱりここにいたのねナルシス」
「……姉さん、どしたのめかしこんじゃって」
「これから披露宴に出席するのよ。取引相手のご子息がこの近くの式場で結婚されるの。そのこと、手紙に書いていたと思うけど」
「そうだった?」
「そうよ。ついでに言うとあんたも出席するように書いてたはずよ。早く正装に着替えてきなさい」
「ええー、いいよ。姉さんだけで行ってきてよ。面倒くさいし」
「……二度は言わないわよ? 着替えて来なさい」
カチャはなんとなく気になったので、言葉を挟んでみる。
「すいませんニケさん、その結婚される方のお名前、何て言いますか?」
「ルーカス・ルーズベルトです」
「……お相手のお名前は?」
「ジョン・L」
「男性ですか?」
「ええ。とはいえ、厳密に男性かと言うとそうでもないですね」
「どういうことです?」
「オートマトンなんですよ。そのジョンさん」
「オートマトンと人間って結婚出来るんですか?」
「出来るんでしょうね。現にしちゃってますし。家族間で大分激論が交わされたらしいですけど」
●
男女どちらともとれる中性的な顔つきの、スーツを着たオートマトン。それが同じくスーツに身を包んだ人間に話しかけている。
「ルーカス、何故わざわざ縁もゆかりもない田舎で式を挙げようと?」
「うん、小さなことなんだけど――まあ、あいつにちょっとした意趣返しって感じ?」
「あいつとは」
「昔の知り合い」
ユニゾン島。
地下にある市民生産機関の会議室。
白い花かごを傍らにしたマゴイは、異界から持ち帰ったデータを、機関情報集積回路に移していた。
断片的な記録の切れ端から知ることが出来たのは、自分が消失した後α・ステーツマンが不調に陥り、頻繁に自主調整を受けていたということだった。
それでも彼は、きちんと仕事をしていた。会議へ出席した記録が残っている――あの最後の日まで。
そこだけでも知れてよかったとマゴイは思った。歪虚になってしまったαの姿を、それにまつわる悲しみを、記憶から拭い去ってしまうことは出来ないのだとしても。
『……データの確認作業、並びに転送作業終了……これにて旧ユニオンの記録は新しいユニオンへ……正式に引き継がれることになります……』
●
バシリア刑務所。面会室。
スペットはぴょこが持ってきた異界ユニオンの写真を眺めた――なんでも潜入したハンターの1人が撮影してきたそうだ。
判で押したような建物が並ぶ町並みと、判で押したように同じ顔をした人々。その中に以前の自分と同じ顔が多数含まれている。
これで元に戻る取っ掛かりが出来た、と彼は喜ぶ。
しかしぴょこは、意外とそうでもなさそう。
『わし、βの今の顔も好きなのじゃ。それがなくなってしまうのは、なんだかちょっと寂しいような気がしてのう』
そういうことを言われると、スペットとしては困ってしまう。
「でもこの顔やとなあ、困ることも多いねんで――まあ、人間の顔に戻れるちゅうても今日明日いうことやないからな。とりあえず復元装置があるのかないのかはっきりせえへんし」
『もしなかったらどうなるのじゃ?』
「……1から作るちゅうことになるやろな。マゴイがそれをやるかどうかあやしいけど」
『心配せんでよいぞβ。その場合はちゃんと作ってくれるぞよ。マゴイの、前よりずっと人の言うこと聞いてくれるようになったのじゃ。とても話しやすくなったのじゃ。おぬしはそう思わんか?』
「……せやな、ちっとは思うかもな」
『じゃろ。じゃからの、わし、今年の郷祭には正式に誘ってみようかと思うのじゃ。前はコボルドだけが来て、マゴイは送り迎えしかしてなかったでのう』
●
昼下がりのハンターオフィス・ジェオルジ支局。
アレックスが恋人である職員ジュアンを訪ねてきている。
「アレックス。グラズヘイムに行ってたんだって?」
「おお。あそこも王女が結婚するのしないので、ごたごたしててな。貴族連中があれこれ浮足立っ……あれ? マリー、ナルシス連れてきてんの?」
「いえ、連れて来たってわけじゃないんだけど、ナルシスくんが来たいって言うから」
「へー。なんか働く気にでもなったのかニート少年」
「全然」
など取り留めのない日常会話が繰り広げられていた所に、扉が開いた。
カチャだ。
「アレックスさん、ここにいましたか」
「おー、カチャ。何だ」
「いえ――ちょっと」
カチャは何故だか口ごもる。
そこにコボルドコボちゃんが入ってきて、餌入れを手に自己主張。
「うー、わし、めし!」
「ああ、ご飯の時間だったね」
ジュアンがドッグフードを取ってくるため、席を立つ。その間にカチャは素早くアレックスに駆け寄った。オフィスの隅に連れて行き、小声かつ早口に言う。
「アレックスさんがいない間に、アパートへお客さんが訪ねてきましたよ」
「へー。どんな奴?」
「ルーカス・ルーズベルトっていう男の人です。『アレックスいる?』ってすごく親しげな感じで言ってきました。今は出掛けてますってお答えしたら、残念そうにしてました。久しぶりに会いたかったんだけどって――心当たりあります?」
アレックスの目が微妙に泳いだ。
「あ――うん、まあ」
「どういう関係で?」
「ああうん。その――3年前までの知り合い」
「……向こうもそういうこと言ってました」
「あ、そ、そう。で、何、何の用事だって?」
「いえ、新しく知り合った人と近々結婚するそうで。それをお伝えしたかったのだということでした」
「へえ、そりゃよかった」
何やらほっとした調子で息を吐くアレックス。
その肩にポンと手が置かれた。
振り向けばジュアンだった。いつも穏やかな目が完全に据わっている。
「……アレックス、3年前にはすでに僕たち付き合い始めてたよね?」
手には黒光りする銃を持っている。
「待て落ち着けジュアン落ち着」
「君を殺して僕も死ぬ」
コボルドコボちゃんは隠れていた机の下から、そっと顔を覗かせた。そしてくしゃんとくしゃみした。
床に伏せていたカチャは恐る恐る起き上がる。
辺りを漂うのは硝煙の匂い。壁や天井に無数の弾痕。机も椅子も引っ繰り返り、オフィスの扉は開けっ放し。
給湯室からマリーが顔を出してきた。
「ナルシスくん、もう出てきても大丈夫よ」
それに応えるように、ナルシスも顔を出す。
「あー、びっくりした」
追いつ追われつ飛び出して行ったジュアンとアレックスは、しばらく戻ってきそうにない。
と、そこにナルシスの姉、ニケがやってきた。
いつものような引っ詰め頭のスーツ姿ではない。髪を下ろし、ドレスを着ている。
「マリーさんの家にいないと思ったら、やっぱりここにいたのねナルシス」
「……姉さん、どしたのめかしこんじゃって」
「これから披露宴に出席するのよ。取引相手のご子息がこの近くの式場で結婚されるの。そのこと、手紙に書いていたと思うけど」
「そうだった?」
「そうよ。ついでに言うとあんたも出席するように書いてたはずよ。早く正装に着替えてきなさい」
「ええー、いいよ。姉さんだけで行ってきてよ。面倒くさいし」
「……二度は言わないわよ? 着替えて来なさい」
カチャはなんとなく気になったので、言葉を挟んでみる。
「すいませんニケさん、その結婚される方のお名前、何て言いますか?」
「ルーカス・ルーズベルトです」
「……お相手のお名前は?」
「ジョン・L」
「男性ですか?」
「ええ。とはいえ、厳密に男性かと言うとそうでもないですね」
「どういうことです?」
「オートマトンなんですよ。そのジョンさん」
「オートマトンと人間って結婚出来るんですか?」
「出来るんでしょうね。現にしちゃってますし。家族間で大分激論が交わされたらしいですけど」
●
男女どちらともとれる中性的な顔つきの、スーツを着たオートマトン。それが同じくスーツに身を包んだ人間に話しかけている。
「ルーカス、何故わざわざ縁もゆかりもない田舎で式を挙げようと?」
「うん、小さなことなんだけど――まあ、あいつにちょっとした意趣返しって感じ?」
「あいつとは」
「昔の知り合い」
リプレイ本文
●リオンの自宅。
エルバッハ・リオン(ka2434)のもとに故郷の両親から手紙が届いた。
「何でしょうか、急に」
もしや何か起きたのではないかと気を揉みながら封を開ける。読み進むにつれ彼女の眉間は、段々狭まってきた。
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局。
(ある意味、進みすぎではあるけれど、それもいいのではないかしら。いろんなものが混じって、連なって、繋がって、今のクリムゾンウエストという世界はあるのだから)
風変わりな結婚話に好感を持ったアリア・セリウス(ka6424)は、ニケに尋ねる。
「披露宴の護衛は出来るかしら? 披露宴を叩き壊すという事はないでしょうけれど、何かあれば――」
リナリス・リーカノア(ka5126)はカチャに身を寄せた。
「カチャ、丁度ドレスが2着あるから、着替えて披露宴覗きにいこ♪ 同性同士の結婚式だし、後学の為にもよく見ておこうね♪」
マリィア・バルデス(ka5848)はコボちゃんを抱き上げる。
「まあ、素敵。それじゃコボちゃん、一緒にお風呂に入っておめかしして結婚式に行きましょうか。ドレスコードを守って出かけると、美味しい食事と三文芝居が漏れなくついてくるみたいだから」
物凄く平板な口調で言いながらオフィスを出て行く。
ソラス(ka6581)は考え込んでいる。
(このままだと禍根残りそうですよね……皆の平和のため、仲直りのため、このジェオルジ支局の場を借りて、披露宴の二次会みたいなものをしてみてはどうでしょうか)
考えがまとまったところで意見を聞こうと、首を回す。
「コボちゃん、どう思――あれ、いない?」
ならばと彼はマリーに自身の思いつきを述べる。
マリーは反対した。
「あのね、そんなことしたらますます収集つかなくなるわよ」
なら後日落ち着いてから開催したらいいか――ユニゾン島の面々も呼んで。
(マゴイさんに、連絡しておきましょうかね)
●ユニゾン島。波止場。
グリーク商会の貨物船から降りたルベーノ・バルバライン(ka6752)は、港で待っていたマゴイに白い花束、コボルドたちにドッグフードの大入り袋を渡した。
『……ありがとう……白いのがとてもいい……』
「かりかり」「うまうま」
どちらの土産も好評なようだ。
単身赴任から一時帰宅した父親みたいだなという感想を、脇から見ているエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は抱く。
そこに花束を抱えた(本当は浮かせているのだが)マゴイが話しかけてきた。
『……あなたは……観光を申し込んできた人ね……』
「はい、そうです」
『……港湾地区と農業地区と工業地区の視察について歓迎する……それ以外は……結界を張っているから外部者は見られないし入れない……』
公的機関を巡ろうと考えていたエラはマゴイの言葉に、ちょっと面食らった。だがすぐこう考え直した。
(つまり、入れないところに重要施設があるということか。なら、位置関係だけは分かるかな)
「分かりました。ところでこの島にハンターオフィスはありますか?」
『……いいえ……ないわ……』
●バシリア刑務所。
「ごめんね。写真は撮れたんだけど、結局復元装置がクリムゾンウェストに転送されたのかされなかったのかステーツマンに確認出来なかったんだよ」
謝る天竜寺 詩(ka0396)にスペットは、ええがなと手を振った。
「写真があるだけでも十分や」
「……復元装置、二人が言うようにマゴイが作ってくれるといいんだけどね――それでね、ちょ~っとぴょこを借りたいんだけど」
「なんやの」
「うん、手伝ってほしいことがあるんだ。ぴょこ、いいかな?」
『うむ、くるしゅうなくてよいぞよ』
十数分後。詩とぴょこは刑務所の調理場にいた。
目の前にあるのは小麦粉、生クリーム、苺、卵、バター等。
「さぁぴょこ、今からケーキを作るから手伝って! もう当日は少し過ぎちゃったけど、四月はスペットの誕生月でしょ、だから、プレゼントして喜ばせてあげよ!」
『おー、それはよい考えなのじゃ!』
●披露宴会場。
会場を流れるのは、アリアのバイオリンが奏でるしっとりしたスローバラード。
普段比1・5倍でモコついているコボちゃんはしかめ面。レースのボンネットにエプロンドレスという格好をさせられているのもさることながら、香りつきシャンプーで洗われたことによる匂いダメージが気に入らないのだ。
洗った当人であるマリィアは彼の隣席で子牛肉のファオワグラ添えを堪能し、独り言を呟く。
「男癖の悪い男って……(最悪)」
()の部分は無音である。念のため。
お揃いのドレスを着たリナリスとカチャはワイングラスを傾けつつ、ひそひそ話。
「お二方、タキシード決まってますよねー」
「ねね、カチャ、後で許可貰って写真撮らせてもらおうよ♪」
その時外から銃声が聞こえてきた。声も。
「止めろジュアン町中で危ねー!」
「安心してよ、君しか狙ってないから!」
ジュアンとアレックスだ。近くで追いつ追われつしているらしい。
花婿のルーカスが席を立ち窓を開ける。手を振る。
「アレックス久しぶりー。なんか大変そうだけど俺助けないよ。だってお前、俺よりそいつを選んだんだからね」
で、窓を閉める。
席に戻ってきたルーカスにジョンが聞いた。
「昔のお知り合いは大丈夫なのですか?」
「大丈夫。あいつハンターだから多少のことじゃ死なないよ」
で、キス。
微妙にやさぐれながらマリィアは、周囲と一緒に拍手した。
「まあね、最後は普通にめでたしめでたしで終わるだろうと思ってたもの。だから来たのよ。やっぱりハッピーエンドにならない結末は好きになれないもの」
彼女から抱き締められているコボちゃんに、ソラスが声をかける。
「そういえば、コボちゃんはこれからどうしたいですか? お友達はユニゾン島で働いていますが」
「こぼ、ほんだしたい」
「本?」
「にんげん、こぼるどことばわからない、ふべん。こぼるどことば、わかるほん、だしたい」
「それはとてもいいですね。お友達にもそのことは言っているんですか?」
「まだ」
「気軽に行き来出来るようになるといいですよね。船に乗らないでも行けたらいいのに。遠いですものね、ユニゾン島は」
●ユニゾン島。水源地。
エラは視察の許された場所を巡って、島の大体の雰囲気を掴んだ。とりあえず移住者であるコボルドたちと先住者である人魚たちの間に諍いはないようだ。
農業地区の歩道を延々歩いて行くと、山頂の水源地に出た。
角柱が滔々と水を吐き出している傍らで、マゴイとルベーノが話をしている。
「必要なものは、グリーク商会やオフィスを通じて依頼を出そう。取ってくるものが分かっているなら、俺が採集に行ってもいい」
『……必要なものは、そうね……マテリアル鉱石かしら……何はともあれ新しいエネルギー炉を作って供給エネルギーを増やさないと……ウテルスは動かせない……』
エラは早速、彼らの会話に加わった。
「ウテルスとはどういうものなのですか?」
マゴイは得々と説明を始める。
『……精子と卵子を適正に受精させ一律に安全な胎児期を経て均等で安定した新しい市民を生み出してあげる大事な大事な機関……』
その途中で彼女は、ふと地面に目をやった。
目玉が入った黒い箱が浮き上がってくる。
『……ウォッチャー……何か起きたの……?』
《書簡送信機に新しい書簡が届きました。送信元は【魔術師協会】送信者は【ソラス】です。内容を報告いたします。》
●披露宴会場。
アリアは出席者たちにそれとなく聞いて回る。オートマトンについてどう思うかを。
その結果分かったのだが、皆かなり認識がバラバラだった。
「異世界のゴーレムよね?」
「精霊の一種だと聞いたが」
「エバーグリーンから来た異世界人」
オートマトンについての知識はまだまだ世間に浸透していないのだ、と実感するアリア。
弟のように思うオートマトンの姿を思い浮かべ、一人ごちる。
「でも、昔、エルフ達ともそうだったのかもしれない」
彼らは受け入れられて行くだろう、と思う。次の一点に関しては、誰の認識も共通していたのだから。
「とにかく、人間の味方ですよね」
●ユニゾン島。水源地。
ソラス書簡の内容を一通り聞いたマゴイは、嘆かわしげに言った。
『……非常によろしくない……』
エラは首を傾げた。
「マゴイさん、今のは『人間とオートマトンが結婚するのでお祝いに来ませんか』という趣旨の話だったと思われるのですが」
『……そう……』
「……確かに少し常識外れな出来事かもしれませんが、そこまで言うほどのことではないのでは?」
ルベーノは緑こもれる島の景色を眺めながら、マゴイに言った。
「なぁ、μ。俺は、お前が生まれ育った頃から刷り込まれた価値観が、この世界の常識と違いすぎることを知っている。俺達との常識の食い違いが、お前にとって世界への不信や理解への拒絶といったストレス源になっていることもな。それでも俺達は、まだ歩み寄れる余地があると思うのだ。少なくともここにユニゾンが出来て、コボルドと人魚は幸せになった」
彼はマゴイと出会った当初のことを思い出していた。
(あの時俺にはマゴイが、傲慢の歪虚と大差ない存在に見えていたものだがな)
まったく変われば変わるものだと、己自身に苦笑したくなる。
「俺はな、ステーツマンが歪虚になったのは、ユニオンがステーツマンに頼りすぎたからではないかと思うのだ。個に重い判断を負わせ続け、ステーツマンを使い潰してしまった」
『……そんなことは……』
多分続かせようとしていた言葉は『ない』だったろう。だがマゴイは不意に口をつぐむ。悲哀を瞳に浮かべて。
『……ユニオンはα・ステーツマンを……幸福に出来ていなかったということ……?』
●披露宴会場。
宴は終わり。マリィア、ソラス、コボちゃん、アリアは帰り支度。
カチャも、リナリスも。
「写真、きれいに撮れてるといいですね」
リナリスは魔道カメラをいじるカチャの袖を、ためらいがちに引く。
「あのね、浮気という訳じゃないけど……あたし、カチャと会う前は結構、幅広くお付き合いをしてて……」
カチャはカメラをテーブルに置いた。拗ねた調子で言った。
「知ってますよ、そんなことは」
「いや勿論、今はそういう事はしてないし、その時の関係はすっぱり切ってあるよっ。今はカチャ一筋だから! でも、そういう生き方してきたから……もし、カチャを悲しませるようなことしちゃったら……遠慮なく叱ってね? お、おしおきしてもいいよ?」
直後、ぱしんと小気味いい音が響いた。
カチャが彼女の尻を叩いたのである。
「それはもちろん」
と言って、笑顔を見せるカチャ。
リナリスの中でスイッチが入った。
「そうだ! 折角ドレス着たんだし写真撮ろ! 2人きりで♪ 2人を交互に♪ 2人並んで自撮りして――」
●ユニゾン島。水源地。
「そこまでは言わない。ステーツマンが多数いるときは適切に職務を分担出来ていただろうしな。だが奴は最終的に1人となってしまっていた。そうなるとユニオンのシステム上、他の階級に仕事を手伝ってもらうことは出来ない」
『……』
「最後の最後で不幸になる者を出さないように……少しずつでいい、変えていかないか、世界を」
詳しい事情は知らないが、マゴイに考えを改めてほしいという点に関しては、エラも同感である。特にウテルスについて。
人の【生産】が倫理的に引っ掛かるような気がするのだ。いや、ユニオンではそれが普通だったのだろうけども。
「マゴイさん、先天的に均等な人を作るのではなく、それぞれ足りないところを補って均等な人にしていくということは出来ないのですか? そのための技術はリアルブルーにもクリムゾンにもたくさんあると思うのですが」
『……均等な出生がなければ……均等な教育が出来ないのだけれど……』
●バシリア刑務所。
つぶれたスポンジケーキに突き刺さったイチゴ。その上にクリームてんこもり。
ぴょこが精一杯頑張った結果、最終的にこうなった。
(これは勢いで誤魔化すしかない!)
そう心に決めた詩は面会室に戻って来ると同時に、ありったけのクラッカーを鳴らす。
「おめでとー!」
「うおお! なんやびっくりするわ!」
ケーキに目を移したスペットは、途端に不審そうな目をした。
彼が何か言い出す前に先手を打って、詩が説明する。
「これねー、お誕生日ケーキ! ぴょこ、じゃなくてθさんも手伝ったんだよ」
スペットの表情から不審さが消えた。
「θ……すごいやないか。昔は何いじらせても壊すだけやったのに……」
『わーい、βからほめられたのじゃ。ほめられたのじゃ』
うまくまとまってよかった、と胸を撫で下ろす詩。
さあ、後は残りの材料で(主にぴょこが)作った岩石のごときクッキーを所員囚人一同が喜んでくれるかどうかである。
●市井のラーメン屋。
「へえ、昨日結婚式に行かれたんですか」
「はい。いいお式でしたよ」
という世間話から初まって数分後。リオンはカチャに、故郷から届いた手紙の内容について打ち明ける。
「この前、故郷に帰る途中で歪虚に襲われているところを助けた、近隣部落の有力者の末子が私に惚れたらしく、結婚を前提で交際してほしいと話があったと書かれていました」
「どんな方ですか?」
「自分の知る限りでは容姿も良く性格も素直です。年は私より少し上。末子だから相手の家に嫁ぐ必要もなく、結婚してもハンターを続けられそう。ただし、その末子の性別が、女性なんですよね」
最後のはある意味致命的な一条件だが、自分自身のことを鑑みてカチャはそのまま流した。
「部落は同性婚に寛容であるようです。手紙の最後には、跡継ぎのことは心配しなくてもいいから幸せに、と軽い感じで書いていますけど、そもそも長子に初代の名前である『エルバッハ』を名付けるのは、性別に関わらず長子を後継ぎにしてきたからではないのですか。だから、あまり気に入っていない名前にも我慢してきたのに」
「エルさん、エルさん、そんなに力込めたらコップが割れます」
「あ、すみません。つい興奮してしまって。で、ですね、この件穏便に断りたいんですが……どうしたらいいでしょうね?」
「なぜ私にそんな難しい相談を……」
「この手の問題には慣れていると思いましたので」
カチャは頭をかいた。うーん、とうなった後、言う。
「断るならエルさんが直接会って直接言うのが絶対いいと思います。でも、エルさん本当に断りたいって思ってます?」
「え?」
「聞いてると、エルさんその人自身には好感持っているように思えるんですけど。見当違いだったら申し訳ありませんが」
「……」
「あのね、それと私、エルさんの名前すごくいいと思いますよ。よく似合ってて。エルさんの名前好きですよ?」
一拍置いて、今度はリオンが頭をかいた。
「……ありがとうございます」
エルバッハ・リオン(ka2434)のもとに故郷の両親から手紙が届いた。
「何でしょうか、急に」
もしや何か起きたのではないかと気を揉みながら封を開ける。読み進むにつれ彼女の眉間は、段々狭まってきた。
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局。
(ある意味、進みすぎではあるけれど、それもいいのではないかしら。いろんなものが混じって、連なって、繋がって、今のクリムゾンウエストという世界はあるのだから)
風変わりな結婚話に好感を持ったアリア・セリウス(ka6424)は、ニケに尋ねる。
「披露宴の護衛は出来るかしら? 披露宴を叩き壊すという事はないでしょうけれど、何かあれば――」
リナリス・リーカノア(ka5126)はカチャに身を寄せた。
「カチャ、丁度ドレスが2着あるから、着替えて披露宴覗きにいこ♪ 同性同士の結婚式だし、後学の為にもよく見ておこうね♪」
マリィア・バルデス(ka5848)はコボちゃんを抱き上げる。
「まあ、素敵。それじゃコボちゃん、一緒にお風呂に入っておめかしして結婚式に行きましょうか。ドレスコードを守って出かけると、美味しい食事と三文芝居が漏れなくついてくるみたいだから」
物凄く平板な口調で言いながらオフィスを出て行く。
ソラス(ka6581)は考え込んでいる。
(このままだと禍根残りそうですよね……皆の平和のため、仲直りのため、このジェオルジ支局の場を借りて、披露宴の二次会みたいなものをしてみてはどうでしょうか)
考えがまとまったところで意見を聞こうと、首を回す。
「コボちゃん、どう思――あれ、いない?」
ならばと彼はマリーに自身の思いつきを述べる。
マリーは反対した。
「あのね、そんなことしたらますます収集つかなくなるわよ」
なら後日落ち着いてから開催したらいいか――ユニゾン島の面々も呼んで。
(マゴイさんに、連絡しておきましょうかね)
●ユニゾン島。波止場。
グリーク商会の貨物船から降りたルベーノ・バルバライン(ka6752)は、港で待っていたマゴイに白い花束、コボルドたちにドッグフードの大入り袋を渡した。
『……ありがとう……白いのがとてもいい……』
「かりかり」「うまうま」
どちらの土産も好評なようだ。
単身赴任から一時帰宅した父親みたいだなという感想を、脇から見ているエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は抱く。
そこに花束を抱えた(本当は浮かせているのだが)マゴイが話しかけてきた。
『……あなたは……観光を申し込んできた人ね……』
「はい、そうです」
『……港湾地区と農業地区と工業地区の視察について歓迎する……それ以外は……結界を張っているから外部者は見られないし入れない……』
公的機関を巡ろうと考えていたエラはマゴイの言葉に、ちょっと面食らった。だがすぐこう考え直した。
(つまり、入れないところに重要施設があるということか。なら、位置関係だけは分かるかな)
「分かりました。ところでこの島にハンターオフィスはありますか?」
『……いいえ……ないわ……』
●バシリア刑務所。
「ごめんね。写真は撮れたんだけど、結局復元装置がクリムゾンウェストに転送されたのかされなかったのかステーツマンに確認出来なかったんだよ」
謝る天竜寺 詩(ka0396)にスペットは、ええがなと手を振った。
「写真があるだけでも十分や」
「……復元装置、二人が言うようにマゴイが作ってくれるといいんだけどね――それでね、ちょ~っとぴょこを借りたいんだけど」
「なんやの」
「うん、手伝ってほしいことがあるんだ。ぴょこ、いいかな?」
『うむ、くるしゅうなくてよいぞよ』
十数分後。詩とぴょこは刑務所の調理場にいた。
目の前にあるのは小麦粉、生クリーム、苺、卵、バター等。
「さぁぴょこ、今からケーキを作るから手伝って! もう当日は少し過ぎちゃったけど、四月はスペットの誕生月でしょ、だから、プレゼントして喜ばせてあげよ!」
『おー、それはよい考えなのじゃ!』
●披露宴会場。
会場を流れるのは、アリアのバイオリンが奏でるしっとりしたスローバラード。
普段比1・5倍でモコついているコボちゃんはしかめ面。レースのボンネットにエプロンドレスという格好をさせられているのもさることながら、香りつきシャンプーで洗われたことによる匂いダメージが気に入らないのだ。
洗った当人であるマリィアは彼の隣席で子牛肉のファオワグラ添えを堪能し、独り言を呟く。
「男癖の悪い男って……(最悪)」
()の部分は無音である。念のため。
お揃いのドレスを着たリナリスとカチャはワイングラスを傾けつつ、ひそひそ話。
「お二方、タキシード決まってますよねー」
「ねね、カチャ、後で許可貰って写真撮らせてもらおうよ♪」
その時外から銃声が聞こえてきた。声も。
「止めろジュアン町中で危ねー!」
「安心してよ、君しか狙ってないから!」
ジュアンとアレックスだ。近くで追いつ追われつしているらしい。
花婿のルーカスが席を立ち窓を開ける。手を振る。
「アレックス久しぶりー。なんか大変そうだけど俺助けないよ。だってお前、俺よりそいつを選んだんだからね」
で、窓を閉める。
席に戻ってきたルーカスにジョンが聞いた。
「昔のお知り合いは大丈夫なのですか?」
「大丈夫。あいつハンターだから多少のことじゃ死なないよ」
で、キス。
微妙にやさぐれながらマリィアは、周囲と一緒に拍手した。
「まあね、最後は普通にめでたしめでたしで終わるだろうと思ってたもの。だから来たのよ。やっぱりハッピーエンドにならない結末は好きになれないもの」
彼女から抱き締められているコボちゃんに、ソラスが声をかける。
「そういえば、コボちゃんはこれからどうしたいですか? お友達はユニゾン島で働いていますが」
「こぼ、ほんだしたい」
「本?」
「にんげん、こぼるどことばわからない、ふべん。こぼるどことば、わかるほん、だしたい」
「それはとてもいいですね。お友達にもそのことは言っているんですか?」
「まだ」
「気軽に行き来出来るようになるといいですよね。船に乗らないでも行けたらいいのに。遠いですものね、ユニゾン島は」
●ユニゾン島。水源地。
エラは視察の許された場所を巡って、島の大体の雰囲気を掴んだ。とりあえず移住者であるコボルドたちと先住者である人魚たちの間に諍いはないようだ。
農業地区の歩道を延々歩いて行くと、山頂の水源地に出た。
角柱が滔々と水を吐き出している傍らで、マゴイとルベーノが話をしている。
「必要なものは、グリーク商会やオフィスを通じて依頼を出そう。取ってくるものが分かっているなら、俺が採集に行ってもいい」
『……必要なものは、そうね……マテリアル鉱石かしら……何はともあれ新しいエネルギー炉を作って供給エネルギーを増やさないと……ウテルスは動かせない……』
エラは早速、彼らの会話に加わった。
「ウテルスとはどういうものなのですか?」
マゴイは得々と説明を始める。
『……精子と卵子を適正に受精させ一律に安全な胎児期を経て均等で安定した新しい市民を生み出してあげる大事な大事な機関……』
その途中で彼女は、ふと地面に目をやった。
目玉が入った黒い箱が浮き上がってくる。
『……ウォッチャー……何か起きたの……?』
《書簡送信機に新しい書簡が届きました。送信元は【魔術師協会】送信者は【ソラス】です。内容を報告いたします。》
●披露宴会場。
アリアは出席者たちにそれとなく聞いて回る。オートマトンについてどう思うかを。
その結果分かったのだが、皆かなり認識がバラバラだった。
「異世界のゴーレムよね?」
「精霊の一種だと聞いたが」
「エバーグリーンから来た異世界人」
オートマトンについての知識はまだまだ世間に浸透していないのだ、と実感するアリア。
弟のように思うオートマトンの姿を思い浮かべ、一人ごちる。
「でも、昔、エルフ達ともそうだったのかもしれない」
彼らは受け入れられて行くだろう、と思う。次の一点に関しては、誰の認識も共通していたのだから。
「とにかく、人間の味方ですよね」
●ユニゾン島。水源地。
ソラス書簡の内容を一通り聞いたマゴイは、嘆かわしげに言った。
『……非常によろしくない……』
エラは首を傾げた。
「マゴイさん、今のは『人間とオートマトンが結婚するのでお祝いに来ませんか』という趣旨の話だったと思われるのですが」
『……そう……』
「……確かに少し常識外れな出来事かもしれませんが、そこまで言うほどのことではないのでは?」
ルベーノは緑こもれる島の景色を眺めながら、マゴイに言った。
「なぁ、μ。俺は、お前が生まれ育った頃から刷り込まれた価値観が、この世界の常識と違いすぎることを知っている。俺達との常識の食い違いが、お前にとって世界への不信や理解への拒絶といったストレス源になっていることもな。それでも俺達は、まだ歩み寄れる余地があると思うのだ。少なくともここにユニゾンが出来て、コボルドと人魚は幸せになった」
彼はマゴイと出会った当初のことを思い出していた。
(あの時俺にはマゴイが、傲慢の歪虚と大差ない存在に見えていたものだがな)
まったく変われば変わるものだと、己自身に苦笑したくなる。
「俺はな、ステーツマンが歪虚になったのは、ユニオンがステーツマンに頼りすぎたからではないかと思うのだ。個に重い判断を負わせ続け、ステーツマンを使い潰してしまった」
『……そんなことは……』
多分続かせようとしていた言葉は『ない』だったろう。だがマゴイは不意に口をつぐむ。悲哀を瞳に浮かべて。
『……ユニオンはα・ステーツマンを……幸福に出来ていなかったということ……?』
●披露宴会場。
宴は終わり。マリィア、ソラス、コボちゃん、アリアは帰り支度。
カチャも、リナリスも。
「写真、きれいに撮れてるといいですね」
リナリスは魔道カメラをいじるカチャの袖を、ためらいがちに引く。
「あのね、浮気という訳じゃないけど……あたし、カチャと会う前は結構、幅広くお付き合いをしてて……」
カチャはカメラをテーブルに置いた。拗ねた調子で言った。
「知ってますよ、そんなことは」
「いや勿論、今はそういう事はしてないし、その時の関係はすっぱり切ってあるよっ。今はカチャ一筋だから! でも、そういう生き方してきたから……もし、カチャを悲しませるようなことしちゃったら……遠慮なく叱ってね? お、おしおきしてもいいよ?」
直後、ぱしんと小気味いい音が響いた。
カチャが彼女の尻を叩いたのである。
「それはもちろん」
と言って、笑顔を見せるカチャ。
リナリスの中でスイッチが入った。
「そうだ! 折角ドレス着たんだし写真撮ろ! 2人きりで♪ 2人を交互に♪ 2人並んで自撮りして――」
●ユニゾン島。水源地。
「そこまでは言わない。ステーツマンが多数いるときは適切に職務を分担出来ていただろうしな。だが奴は最終的に1人となってしまっていた。そうなるとユニオンのシステム上、他の階級に仕事を手伝ってもらうことは出来ない」
『……』
「最後の最後で不幸になる者を出さないように……少しずつでいい、変えていかないか、世界を」
詳しい事情は知らないが、マゴイに考えを改めてほしいという点に関しては、エラも同感である。特にウテルスについて。
人の【生産】が倫理的に引っ掛かるような気がするのだ。いや、ユニオンではそれが普通だったのだろうけども。
「マゴイさん、先天的に均等な人を作るのではなく、それぞれ足りないところを補って均等な人にしていくということは出来ないのですか? そのための技術はリアルブルーにもクリムゾンにもたくさんあると思うのですが」
『……均等な出生がなければ……均等な教育が出来ないのだけれど……』
●バシリア刑務所。
つぶれたスポンジケーキに突き刺さったイチゴ。その上にクリームてんこもり。
ぴょこが精一杯頑張った結果、最終的にこうなった。
(これは勢いで誤魔化すしかない!)
そう心に決めた詩は面会室に戻って来ると同時に、ありったけのクラッカーを鳴らす。
「おめでとー!」
「うおお! なんやびっくりするわ!」
ケーキに目を移したスペットは、途端に不審そうな目をした。
彼が何か言い出す前に先手を打って、詩が説明する。
「これねー、お誕生日ケーキ! ぴょこ、じゃなくてθさんも手伝ったんだよ」
スペットの表情から不審さが消えた。
「θ……すごいやないか。昔は何いじらせても壊すだけやったのに……」
『わーい、βからほめられたのじゃ。ほめられたのじゃ』
うまくまとまってよかった、と胸を撫で下ろす詩。
さあ、後は残りの材料で(主にぴょこが)作った岩石のごときクッキーを所員囚人一同が喜んでくれるかどうかである。
●市井のラーメン屋。
「へえ、昨日結婚式に行かれたんですか」
「はい。いいお式でしたよ」
という世間話から初まって数分後。リオンはカチャに、故郷から届いた手紙の内容について打ち明ける。
「この前、故郷に帰る途中で歪虚に襲われているところを助けた、近隣部落の有力者の末子が私に惚れたらしく、結婚を前提で交際してほしいと話があったと書かれていました」
「どんな方ですか?」
「自分の知る限りでは容姿も良く性格も素直です。年は私より少し上。末子だから相手の家に嫁ぐ必要もなく、結婚してもハンターを続けられそう。ただし、その末子の性別が、女性なんですよね」
最後のはある意味致命的な一条件だが、自分自身のことを鑑みてカチャはそのまま流した。
「部落は同性婚に寛容であるようです。手紙の最後には、跡継ぎのことは心配しなくてもいいから幸せに、と軽い感じで書いていますけど、そもそも長子に初代の名前である『エルバッハ』を名付けるのは、性別に関わらず長子を後継ぎにしてきたからではないのですか。だから、あまり気に入っていない名前にも我慢してきたのに」
「エルさん、エルさん、そんなに力込めたらコップが割れます」
「あ、すみません。つい興奮してしまって。で、ですね、この件穏便に断りたいんですが……どうしたらいいでしょうね?」
「なぜ私にそんな難しい相談を……」
「この手の問題には慣れていると思いましたので」
カチャは頭をかいた。うーん、とうなった後、言う。
「断るならエルさんが直接会って直接言うのが絶対いいと思います。でも、エルさん本当に断りたいって思ってます?」
「え?」
「聞いてると、エルさんその人自身には好感持っているように思えるんですけど。見当違いだったら申し訳ありませんが」
「……」
「あのね、それと私、エルさんの名前すごくいいと思いますよ。よく似合ってて。エルさんの名前好きですよ?」
一拍置いて、今度はリオンが頭をかいた。
「……ありがとうございます」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/19 20:24:33 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/04/19 21:19:37 |