ゲスト
(ka0000)
魅惑の鳴き声
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/14 22:00
- 完成日
- 2014/12/16 02:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●セイレーンの奏でる旋律は高らかに
それは厳密にいえば声ではなかった。鳴き声、というのが正しいのかもしれない。だがとても美しい響きを持っていた。
冬のさなか海へ漁へ向かう男たちはそんな旋律に心奪われ舵を誤り、または旋律を紡ぐ女性の美しさに惹かれて極寒の海へ飛び込んで船を座礁させ、あるいは海水の冷たさに心臓がショック死を起こす。
セイレーンと呼ばれる海の魔物によく似た行動をとる雑魔は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに今日も高らかに鳴き声をあげては人々の心を魅了するのだった。
ハンターオフィスにそんな雑魔の討伐依頼が出たのは暗礁に乗り上げたもののなんとか生還した船乗りたちからの要望からだった。
このままでは漁ができずに漁師たちの生活が成り立たない、働き手をなくした遺族たちのためにも何とかしてほしい、と。
「どうも沖にいるらしいんだよねぇ、この雑魔。セイレーンみたいな姿と行動をとるんだけど沖にいるから歌声……雑魔は喋らないから鳴き声、かな。とにかく歌らしきものを聞かないように気を付けないと倒しに行った結果が沈没、で終わっちゃうかも。
耳栓はかなり強力なのなら効くだろうけど多分それ使うと仲間の声も聞こえないだろうね。
岩部に座ってるみたいだから船が座礁する前に乗り移っちゃうのがいいのかな。
攻撃方法は海水を操っての水柱をぶつける、鳴き声で魅了して自分の味方につけて同士討ちさせる。物凄く近づかれたら爪で引っかいたり尻尾で叩いたり。
後者はそんなにダメージ食らわないだろうけど前者二つは寒いし仲間同士で戦うとか厄介だよね。
でもまぁ、倒さないと漁に困るわけで。寒い中風邪ひくような依頼が続いて申し訳ないんだけどちょっと退治にいってきてくれないかな」
仲間の声も聞こえなくなる耳栓でよければ提供するけどその場合仲間との意思疎通方法をしっかり確立させていってね。
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は微妙に厄介な敵の討伐依頼をそんな言葉で締めくくった。
それは厳密にいえば声ではなかった。鳴き声、というのが正しいのかもしれない。だがとても美しい響きを持っていた。
冬のさなか海へ漁へ向かう男たちはそんな旋律に心奪われ舵を誤り、または旋律を紡ぐ女性の美しさに惹かれて極寒の海へ飛び込んで船を座礁させ、あるいは海水の冷たさに心臓がショック死を起こす。
セイレーンと呼ばれる海の魔物によく似た行動をとる雑魔は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに今日も高らかに鳴き声をあげては人々の心を魅了するのだった。
ハンターオフィスにそんな雑魔の討伐依頼が出たのは暗礁に乗り上げたもののなんとか生還した船乗りたちからの要望からだった。
このままでは漁ができずに漁師たちの生活が成り立たない、働き手をなくした遺族たちのためにも何とかしてほしい、と。
「どうも沖にいるらしいんだよねぇ、この雑魔。セイレーンみたいな姿と行動をとるんだけど沖にいるから歌声……雑魔は喋らないから鳴き声、かな。とにかく歌らしきものを聞かないように気を付けないと倒しに行った結果が沈没、で終わっちゃうかも。
耳栓はかなり強力なのなら効くだろうけど多分それ使うと仲間の声も聞こえないだろうね。
岩部に座ってるみたいだから船が座礁する前に乗り移っちゃうのがいいのかな。
攻撃方法は海水を操っての水柱をぶつける、鳴き声で魅了して自分の味方につけて同士討ちさせる。物凄く近づかれたら爪で引っかいたり尻尾で叩いたり。
後者はそんなにダメージ食らわないだろうけど前者二つは寒いし仲間同士で戦うとか厄介だよね。
でもまぁ、倒さないと漁に困るわけで。寒い中風邪ひくような依頼が続いて申し訳ないんだけどちょっと退治にいってきてくれないかな」
仲間の声も聞こえなくなる耳栓でよければ提供するけどその場合仲間との意思疎通方法をしっかり確立させていってね。
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は微妙に厄介な敵の討伐依頼をそんな言葉で締めくくった。
リプレイ本文
●海上にて
歌声により船乗りたちを惑わせ船を座礁させるといわれる伝承上の海の魔物、セイレーン。
そのセイレーンに習性が酷似した雑魔が沖合に出るということで覚醒者たちは二艘の船に分かれて乗り込み、沖合を目指していた。
岸には帰ってきた時濡れていた場合に暖を取れるように焚き木や温めて飲める飲み物、タオルや着替えなどを用意している。
全員がハンターオフィスが手配した特別性で防音効果の高い耳栓を付けることになっており、事前に確認したところ間近に人がいても物音は一切聞こえないため戦闘時などにはライトを使ってのライトシグナル、或いはハンドサインによる意思表示が必要になる。
「セイレーンにまつわるリアルブルーの伝承は、父から聞いたことがあるわ。
リアルブルーの英雄は船の柱に自らを縛り付けてセイレーンの歌声を聞いたと言うけれど、今回は海域を通り過ぎるだけでは済まないのだから、折角の歌声も聞く機会はなさそうね。
紛い物とは言え、少し残念だけれど仕様が無い……ま、せめてその麗しきお姿を拝見といきましょうか」
歌声ではなく雑魔だから鳴き声らしいけれど、とアルバート・P・グリーヴ(ka1310)が茶化すように付け加える。
彼は事前にレンガを焼き温石を同行人数分の倍の数を作り、発火や火傷に注意を払った上で半分は往路に使用、残りは複数の温石を複数の毛布でくるむことにより保温・持続性を確保したうえで帰路用に毛布ごと使う準備も行っていた。
船上で火を焚くわけにはいかないが冬の海は冷える。指先がかじかんで武器を取り落したり寒さで体が強張って戦闘の時に思うように動けないなどという事態にならないように、という配慮と帰路は水を使うセイレーンのような雑魔との戦いで濡れた場合より一層の寒さが予想するに難くないということからだった。
「あ~あ~、テストテスト~。鳴き声は厄介だししっかり対策取っておかないとね」
弓月 幸子(ka1749)がもう一度耳栓のチェックを行ったあと耳栓を外した。
「本物のセイレーンさんなら見てみたかったんだけど、雑魔じゃあね」
ほんの少し残念そうに人に危害を加えるんじゃ、退治するしかないよねぇ、と付け加えて空を仰ぐ。
あいにくの曇天で星明りも月明かりも見えないが冬の空としてはよくある景色だ。
「セイレーン伝説の正体見たり……という訳でも無いか。ともあれ、雑魔が相手ならやるべき事は一つだ」
レシュ・フィラー(ka3600)が決意を固めるように拳を握る。やるべきこと、すなわち雑魔の討伐だ。
「沖合にいるのに水柱で攻撃されるのは厄介ですね。船が転覆しかねませんし鳴き声で座礁する危険もあります。鳴き声の方は耳栓で何とかなりそうですが……。
注意するべきは水柱でしょうか。ずぶ濡れになったら凍えて上手く身動きが取れなくなりそうです」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が真剣な表情で水柱への対策を講じようとするが実際の最大規模がどれだけなのか分からない以上明確な方針は打ち出しにくいようだった。
「水柱対策に全員が岩の部分に乗り込む場合船の損傷を防ぐために遠距離射程の範囲で船を岩場から離したらどうかしら。もやい綱をこっそり結んでおけば帰りにも使えるわ」
アルバートが案を出すと全員が一致しもやい綱の用意を済ませておくのだった。
一方アルバートたちの乗っている船が背後から雑魔に奇襲をしかける準備をする間囮役としてセイレーンをひきつける役割りを請け負ったA班のメンバーはと言えば。
「深海に誘う魔性か……人々の日常を侵すというならば、排除するだけだ」
レイス(ka1541)が静かに告げ、船に積んだ身を隠せる程度の箱や板を設置して遮蔽物として利用し、防水性の箱の中にタオルや着替えを入れて水にぬれた時に備えていた。
帰還する凡その予定時刻を村人に告げ、着替えや温かい食べ物を用意してくれるようにも頼んである。
その村人たちは焚き木のそばで八人の帰りを待っているはずだ。
内田 真奈美(ka1711)は船で近づく海上戦闘であり、着衣泳法を覚えていないため泳ぐ羽目になった時を優先してビキニの水着に着替えていたが季節は冬。しかも海上。すなわち普通の服でも十分すぎるほど寒いのに水着とあってはその寒さは段違い。
「さ、寒い! ひどい! 最悪! 水に落ちたら泳げても凍死するんじゃない!?」
水中眼鏡も一応準備して浮き輪は船に置いてあるがそれ以前の問題だったかもしれない。
唇を真っ青に染めながらガチガチと歯を鳴らし、震える真奈美。足踏みをしているのはせめて体が強張らないようにするためか寒すぎて体を動かさずにはいられないのか震えの延長か。
三つの内どれが一番大きな理由なのかはもはや本人にもわからない。
そんな真奈美に大丈夫? と声をかけながらステラ・ブルマーレ(ka3014)が憂うのは漁村に今まで出た被害についてだ。
「漁ができないって、漁村の人や魚を扱う人たちはすごく困っちゃうよね。
ボクは漁村出身だから、苦しみはすごく分かるつもり。
それに相手は水を操るみたいだし、水と風の魔術を研究してるボクにとっては、いい勉強になるかも。
人助けと研究、両立できるならやるべきだよね♪」
このまま漁ができない日々が続けば魚を獲って生活を成り立たせている漁村は飢餓に襲われるだろう。
それを避けるためにもできるだけ早くセイレーンを退治して、退治後も波や風で危険とはいえ例年通り冬の漁をできるように村人たちを安心させる必要があった。
「詠う雑魔、か。正確には鳴き声で彼らに言葉はないそうだけど、これも適者生存の結果かな。いずれにしても俺がすべきことは二つだけ。騎士として、護り、生かす。
誰も殺させないし、傷ついたままになんてしない」
十司 志狼(ka3284)が誓うように呟くと同時に風に乗って微かに歌声に酷似した雑魔の鳴き声が聞こえだした。
それを合図に二艘の船に分かれた八人が耳栓を装着する。
鳴き声に近づきながら前後の判断をつけ蒼い髪が波打つ側を背後と見定めたB班が静かにそちら側へと回る。
A班は奇襲をより効果的なものにするため前方から雑魔に向かって船をこぎ寄せた。
船に気づいたセイレーンが鳴き声のボリュームを上げるが特別性の耳栓をつけている覚醒者たちには鳴き声による魅了の効果はない。
志狼が放った光が味方の全身を覆い、防御力を強化すると同時に前衛が岩場に乗り上げた。
鳴き声が通用しないことに苛立ったのか、不審に思ったのか。尚もボリュームを上げながら海水を操って波濤の矛を作り出すセイレーン。
「守り、癒し、全員で無事に帰還する。それが、俺の戦いです!」
志狼の叫びはセイレーンに理解できただろうか。
波濤の矛を体力に欠ける後衛が食らわないように我が身を挺して庇ったあとショートソードを両手持ちにして斬りかかる。
「優しき流れに揺蕩う水よ……、穿て!」
ステラが言葉を紡ぎ、それに呼応するように魔力によって集められた水が球状になって雑魔に向かって飛ぶ。腹部に命中した水球は跡形もなく掻き消えたがダメージはあったようで鳴き声が途切れ、発動途中だった波濤の矛がただの海水に戻っていった。
ステラのウォーターシュートでの攻撃はまだ続く。雑魔にダメージを与えることも狙いの一つだが最大の狙いは水柱を作り出すことができないよう、水の魔力をかく乱することだ。
「水の魔術操作勝負なら受けて立つよ!」
美しい顔を怒りで歪めたセイレーンが鬼女のような形相で水柱と歌声が通用しないならば、と長く伸びた爪で露出した部分を切り裂こうと腕を振り上げる。
「寒いからさっさと蹴りつけて帰る! 水柱とか食らったらダメージうんぬんより凍え死ぬ自信があるし海に落ちたらショック死する自信もある!」
いささか微妙な宣言を堂々と行ったあと真奈美はマテリアルにより全身を活性化させ、メイスでの戦闘能力を上昇させた後、そのままメイスを的確にセイレーンに叩き込み打撃ダメージを与える。
ちなみに狙ったのは重点的に顔。
「美しい女の顔、砕けるべし。慈悲はない」
これだけ聞くと真奈美の方が悪役じみているが仲間には耳栓効果で聞こえないし美女を八人でフルボッコにするよりは顔面が砕けている相手を八人でフルボッコにする方が……いや、どうだろう。絵面の悪人さ加減ではどっちもどっちかもしれないが相手が雑魔である以上倒す必要性はあるわけで。
とにかく真奈美は寒い場所に駆り出された恨みを晴らすがごとくセイレーンの顔面をメイスで殴りまくったのだった。
「正しく清い歌声ならば聞いてみたくもあるが、雑魔の業ではな。――ここで潰させてもらう」
水の動きに注意して真奈美が息継ぎのために離れた隙を狙って再び波濤の矛を繰り出そうとした雑魔の動きを見極めたレイスがマルチステップも用いての回避行動から瞬脚を使用して一気に距離を詰めて辺境の部族、オイマト族に古くから伝わる戦闘用の槍を振りかざす。
槍としてはやや短いが足場の悪い岩場だったことからこのくらいの長さの方がむしろ扱いやすいという点で今回の場合は向いていたようだ。
A班が派手に囮として動いている間に船を遠ざけたB班も岩場に乗り込み、背後から奇襲をかける。
「うまく裏を取れたんだよ。囮役をやってくれたA班の人に感謝しなくちゃね」
ライトシグナルで連絡を取りつつ攻撃開始前に幸子が味方の周りに緑に輝く風を発生させ、敵の攻撃の軌道をわずかにそらす形で回避能力を上昇させた後、石つぶてを出現させてセイレーンに向かって飛ばす。セイレーンの背中に直撃したアースバレットの石つぶてはウォーターシュートの水同様当たると同時に消失した。
背後からの奇襲にセイレーンが抵抗しようとするが完全に挟み撃ちにされているためどちらを向いても一方に背後を見せることとなり上手くいかない。
アルバートが精神を集中し、マテリアルを感じることで魔法攻撃の威力を高めてから幸子同様アースバレットでの攻撃を船上から仕掛ける。
彼が残っている以上もやい綱は厳密には必要ではなかったが手早く撤収するためには離れた場所からこぐだけでなく岩場から手繰り寄せた方が早いだろうという判断で打ち合わせ通りもやい綱を岩場のとっかかりに結び付けていた。
ユキヤがホーリーメイスに光の精霊力を付与し強化する。白い光がメイスを取り巻き輝くのを確認してセイレーンが防御を捨てて放った水柱を盾で防ぎながら前進し、メイスで殴りかかる。
そんなユキヤの乗り移りを援護するのはレシュ。
黄色く塗られた銃身を持つデリンジャーで色は派手目で可愛らしく見える外見ながらも手に隠せるサイズのため奇襲性が高い銃器で牽制を行う。
乗り移りが完了した後もA・B両班の遠距離攻撃にも注意しその射線を塞がない位置に陣取って体勢を崩させる目的と狙いやすさを重視して胴体をめがけて放たれた機械を媒介にしてマテリアルを変換したエネルギーが一条の光となってセイレーンを貫く。
風前の灯火となった自らの命を感じ取ったのかセイレーンが今までで最大規模の水柱を連続で繰り出し、何人かが岩場から滑り落ちるのをアルバートが助け上げ、ダメージは回復スキルを持ったメンバーが体力面で不安の残るものから手分けして回復を執り行う。
「仲間を傷つける存在は、許しません……!」
精霊に祈りを捧げることによりマテリアルの力を引き出し、怪我人の傷を癒す柔らかい光を仲間に投げかけた後志狼が毅然とした表情で水柱の中を駆け抜け、ショートソードをセイレーンの胸に突き立てる。
最後にか細い鳴き声を上げたがそれは開拓者たちの耳に届くことなく、海の魔物と酷似した雑魔はその姿を風に溶かすように消えていった。
鳴き声を発する雑魔が消滅したことにより全員がこれ以上は必要ないと耳栓を外して返却の際に無くさないようにと分かりやすく落としにくい場所へと各々しまう。
「討伐した証にもなりますし、珍しいことは珍しいですから消える前に魚拓を、と思ったのですが怒りに我を忘れて魚拓をとる前にとどめを刺してしまいましたね……」
すこしは漁村が活気づくためのきっかけになればいいのだけれど、と思っていたらしい志狼はいささか残念そうに雑魔が座っていた岩場を眺めた。
「はははは早く帰ろうよ! さむさむさむさむい!!」
ビキニ姿で水柱の直撃を受けた真奈美がガチガチと歯を鳴らしながら舌をかまないように注意しつつ全員に帰還を促す。
そんな彼女に温石と毛布、着替えを手渡して一行はまた二手に分かれて浜辺へと向かって船をこぎ始めた。
浜辺では雑魔討伐完了の知らせを待ちながら村人たちが温かい料理や飲み物を用意して首を長くしていることだろう。
「さて、依頼は終了だな。――風邪を引く前に帰るとしよう。温かい食べ物で祝勝会だ」
レイスの言葉に全員が頷く。水を浴びた者はもちろん水の被害を逃れた者もそれなりに寒いから今はとにかく温かい食べ物と飲み物、焚き火が恋しかった。
浜辺についてからは成人した物にはアルコール類、未成年者には温かいミルクなどがふるまわれ、開拓者たちは村人の協力に感謝しつつ寒さと別れを告げたのだった。
歌声により船乗りたちを惑わせ船を座礁させるといわれる伝承上の海の魔物、セイレーン。
そのセイレーンに習性が酷似した雑魔が沖合に出るということで覚醒者たちは二艘の船に分かれて乗り込み、沖合を目指していた。
岸には帰ってきた時濡れていた場合に暖を取れるように焚き木や温めて飲める飲み物、タオルや着替えなどを用意している。
全員がハンターオフィスが手配した特別性で防音効果の高い耳栓を付けることになっており、事前に確認したところ間近に人がいても物音は一切聞こえないため戦闘時などにはライトを使ってのライトシグナル、或いはハンドサインによる意思表示が必要になる。
「セイレーンにまつわるリアルブルーの伝承は、父から聞いたことがあるわ。
リアルブルーの英雄は船の柱に自らを縛り付けてセイレーンの歌声を聞いたと言うけれど、今回は海域を通り過ぎるだけでは済まないのだから、折角の歌声も聞く機会はなさそうね。
紛い物とは言え、少し残念だけれど仕様が無い……ま、せめてその麗しきお姿を拝見といきましょうか」
歌声ではなく雑魔だから鳴き声らしいけれど、とアルバート・P・グリーヴ(ka1310)が茶化すように付け加える。
彼は事前にレンガを焼き温石を同行人数分の倍の数を作り、発火や火傷に注意を払った上で半分は往路に使用、残りは複数の温石を複数の毛布でくるむことにより保温・持続性を確保したうえで帰路用に毛布ごと使う準備も行っていた。
船上で火を焚くわけにはいかないが冬の海は冷える。指先がかじかんで武器を取り落したり寒さで体が強張って戦闘の時に思うように動けないなどという事態にならないように、という配慮と帰路は水を使うセイレーンのような雑魔との戦いで濡れた場合より一層の寒さが予想するに難くないということからだった。
「あ~あ~、テストテスト~。鳴き声は厄介だししっかり対策取っておかないとね」
弓月 幸子(ka1749)がもう一度耳栓のチェックを行ったあと耳栓を外した。
「本物のセイレーンさんなら見てみたかったんだけど、雑魔じゃあね」
ほんの少し残念そうに人に危害を加えるんじゃ、退治するしかないよねぇ、と付け加えて空を仰ぐ。
あいにくの曇天で星明りも月明かりも見えないが冬の空としてはよくある景色だ。
「セイレーン伝説の正体見たり……という訳でも無いか。ともあれ、雑魔が相手ならやるべき事は一つだ」
レシュ・フィラー(ka3600)が決意を固めるように拳を握る。やるべきこと、すなわち雑魔の討伐だ。
「沖合にいるのに水柱で攻撃されるのは厄介ですね。船が転覆しかねませんし鳴き声で座礁する危険もあります。鳴き声の方は耳栓で何とかなりそうですが……。
注意するべきは水柱でしょうか。ずぶ濡れになったら凍えて上手く身動きが取れなくなりそうです」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が真剣な表情で水柱への対策を講じようとするが実際の最大規模がどれだけなのか分からない以上明確な方針は打ち出しにくいようだった。
「水柱対策に全員が岩の部分に乗り込む場合船の損傷を防ぐために遠距離射程の範囲で船を岩場から離したらどうかしら。もやい綱をこっそり結んでおけば帰りにも使えるわ」
アルバートが案を出すと全員が一致しもやい綱の用意を済ませておくのだった。
一方アルバートたちの乗っている船が背後から雑魔に奇襲をしかける準備をする間囮役としてセイレーンをひきつける役割りを請け負ったA班のメンバーはと言えば。
「深海に誘う魔性か……人々の日常を侵すというならば、排除するだけだ」
レイス(ka1541)が静かに告げ、船に積んだ身を隠せる程度の箱や板を設置して遮蔽物として利用し、防水性の箱の中にタオルや着替えを入れて水にぬれた時に備えていた。
帰還する凡その予定時刻を村人に告げ、着替えや温かい食べ物を用意してくれるようにも頼んである。
その村人たちは焚き木のそばで八人の帰りを待っているはずだ。
内田 真奈美(ka1711)は船で近づく海上戦闘であり、着衣泳法を覚えていないため泳ぐ羽目になった時を優先してビキニの水着に着替えていたが季節は冬。しかも海上。すなわち普通の服でも十分すぎるほど寒いのに水着とあってはその寒さは段違い。
「さ、寒い! ひどい! 最悪! 水に落ちたら泳げても凍死するんじゃない!?」
水中眼鏡も一応準備して浮き輪は船に置いてあるがそれ以前の問題だったかもしれない。
唇を真っ青に染めながらガチガチと歯を鳴らし、震える真奈美。足踏みをしているのはせめて体が強張らないようにするためか寒すぎて体を動かさずにはいられないのか震えの延長か。
三つの内どれが一番大きな理由なのかはもはや本人にもわからない。
そんな真奈美に大丈夫? と声をかけながらステラ・ブルマーレ(ka3014)が憂うのは漁村に今まで出た被害についてだ。
「漁ができないって、漁村の人や魚を扱う人たちはすごく困っちゃうよね。
ボクは漁村出身だから、苦しみはすごく分かるつもり。
それに相手は水を操るみたいだし、水と風の魔術を研究してるボクにとっては、いい勉強になるかも。
人助けと研究、両立できるならやるべきだよね♪」
このまま漁ができない日々が続けば魚を獲って生活を成り立たせている漁村は飢餓に襲われるだろう。
それを避けるためにもできるだけ早くセイレーンを退治して、退治後も波や風で危険とはいえ例年通り冬の漁をできるように村人たちを安心させる必要があった。
「詠う雑魔、か。正確には鳴き声で彼らに言葉はないそうだけど、これも適者生存の結果かな。いずれにしても俺がすべきことは二つだけ。騎士として、護り、生かす。
誰も殺させないし、傷ついたままになんてしない」
十司 志狼(ka3284)が誓うように呟くと同時に風に乗って微かに歌声に酷似した雑魔の鳴き声が聞こえだした。
それを合図に二艘の船に分かれた八人が耳栓を装着する。
鳴き声に近づきながら前後の判断をつけ蒼い髪が波打つ側を背後と見定めたB班が静かにそちら側へと回る。
A班は奇襲をより効果的なものにするため前方から雑魔に向かって船をこぎ寄せた。
船に気づいたセイレーンが鳴き声のボリュームを上げるが特別性の耳栓をつけている覚醒者たちには鳴き声による魅了の効果はない。
志狼が放った光が味方の全身を覆い、防御力を強化すると同時に前衛が岩場に乗り上げた。
鳴き声が通用しないことに苛立ったのか、不審に思ったのか。尚もボリュームを上げながら海水を操って波濤の矛を作り出すセイレーン。
「守り、癒し、全員で無事に帰還する。それが、俺の戦いです!」
志狼の叫びはセイレーンに理解できただろうか。
波濤の矛を体力に欠ける後衛が食らわないように我が身を挺して庇ったあとショートソードを両手持ちにして斬りかかる。
「優しき流れに揺蕩う水よ……、穿て!」
ステラが言葉を紡ぎ、それに呼応するように魔力によって集められた水が球状になって雑魔に向かって飛ぶ。腹部に命中した水球は跡形もなく掻き消えたがダメージはあったようで鳴き声が途切れ、発動途中だった波濤の矛がただの海水に戻っていった。
ステラのウォーターシュートでの攻撃はまだ続く。雑魔にダメージを与えることも狙いの一つだが最大の狙いは水柱を作り出すことができないよう、水の魔力をかく乱することだ。
「水の魔術操作勝負なら受けて立つよ!」
美しい顔を怒りで歪めたセイレーンが鬼女のような形相で水柱と歌声が通用しないならば、と長く伸びた爪で露出した部分を切り裂こうと腕を振り上げる。
「寒いからさっさと蹴りつけて帰る! 水柱とか食らったらダメージうんぬんより凍え死ぬ自信があるし海に落ちたらショック死する自信もある!」
いささか微妙な宣言を堂々と行ったあと真奈美はマテリアルにより全身を活性化させ、メイスでの戦闘能力を上昇させた後、そのままメイスを的確にセイレーンに叩き込み打撃ダメージを与える。
ちなみに狙ったのは重点的に顔。
「美しい女の顔、砕けるべし。慈悲はない」
これだけ聞くと真奈美の方が悪役じみているが仲間には耳栓効果で聞こえないし美女を八人でフルボッコにするよりは顔面が砕けている相手を八人でフルボッコにする方が……いや、どうだろう。絵面の悪人さ加減ではどっちもどっちかもしれないが相手が雑魔である以上倒す必要性はあるわけで。
とにかく真奈美は寒い場所に駆り出された恨みを晴らすがごとくセイレーンの顔面をメイスで殴りまくったのだった。
「正しく清い歌声ならば聞いてみたくもあるが、雑魔の業ではな。――ここで潰させてもらう」
水の動きに注意して真奈美が息継ぎのために離れた隙を狙って再び波濤の矛を繰り出そうとした雑魔の動きを見極めたレイスがマルチステップも用いての回避行動から瞬脚を使用して一気に距離を詰めて辺境の部族、オイマト族に古くから伝わる戦闘用の槍を振りかざす。
槍としてはやや短いが足場の悪い岩場だったことからこのくらいの長さの方がむしろ扱いやすいという点で今回の場合は向いていたようだ。
A班が派手に囮として動いている間に船を遠ざけたB班も岩場に乗り込み、背後から奇襲をかける。
「うまく裏を取れたんだよ。囮役をやってくれたA班の人に感謝しなくちゃね」
ライトシグナルで連絡を取りつつ攻撃開始前に幸子が味方の周りに緑に輝く風を発生させ、敵の攻撃の軌道をわずかにそらす形で回避能力を上昇させた後、石つぶてを出現させてセイレーンに向かって飛ばす。セイレーンの背中に直撃したアースバレットの石つぶてはウォーターシュートの水同様当たると同時に消失した。
背後からの奇襲にセイレーンが抵抗しようとするが完全に挟み撃ちにされているためどちらを向いても一方に背後を見せることとなり上手くいかない。
アルバートが精神を集中し、マテリアルを感じることで魔法攻撃の威力を高めてから幸子同様アースバレットでの攻撃を船上から仕掛ける。
彼が残っている以上もやい綱は厳密には必要ではなかったが手早く撤収するためには離れた場所からこぐだけでなく岩場から手繰り寄せた方が早いだろうという判断で打ち合わせ通りもやい綱を岩場のとっかかりに結び付けていた。
ユキヤがホーリーメイスに光の精霊力を付与し強化する。白い光がメイスを取り巻き輝くのを確認してセイレーンが防御を捨てて放った水柱を盾で防ぎながら前進し、メイスで殴りかかる。
そんなユキヤの乗り移りを援護するのはレシュ。
黄色く塗られた銃身を持つデリンジャーで色は派手目で可愛らしく見える外見ながらも手に隠せるサイズのため奇襲性が高い銃器で牽制を行う。
乗り移りが完了した後もA・B両班の遠距離攻撃にも注意しその射線を塞がない位置に陣取って体勢を崩させる目的と狙いやすさを重視して胴体をめがけて放たれた機械を媒介にしてマテリアルを変換したエネルギーが一条の光となってセイレーンを貫く。
風前の灯火となった自らの命を感じ取ったのかセイレーンが今までで最大規模の水柱を連続で繰り出し、何人かが岩場から滑り落ちるのをアルバートが助け上げ、ダメージは回復スキルを持ったメンバーが体力面で不安の残るものから手分けして回復を執り行う。
「仲間を傷つける存在は、許しません……!」
精霊に祈りを捧げることによりマテリアルの力を引き出し、怪我人の傷を癒す柔らかい光を仲間に投げかけた後志狼が毅然とした表情で水柱の中を駆け抜け、ショートソードをセイレーンの胸に突き立てる。
最後にか細い鳴き声を上げたがそれは開拓者たちの耳に届くことなく、海の魔物と酷似した雑魔はその姿を風に溶かすように消えていった。
鳴き声を発する雑魔が消滅したことにより全員がこれ以上は必要ないと耳栓を外して返却の際に無くさないようにと分かりやすく落としにくい場所へと各々しまう。
「討伐した証にもなりますし、珍しいことは珍しいですから消える前に魚拓を、と思ったのですが怒りに我を忘れて魚拓をとる前にとどめを刺してしまいましたね……」
すこしは漁村が活気づくためのきっかけになればいいのだけれど、と思っていたらしい志狼はいささか残念そうに雑魔が座っていた岩場を眺めた。
「はははは早く帰ろうよ! さむさむさむさむい!!」
ビキニ姿で水柱の直撃を受けた真奈美がガチガチと歯を鳴らしながら舌をかまないように注意しつつ全員に帰還を促す。
そんな彼女に温石と毛布、着替えを手渡して一行はまた二手に分かれて浜辺へと向かって船をこぎ始めた。
浜辺では雑魔討伐完了の知らせを待ちながら村人たちが温かい料理や飲み物を用意して首を長くしていることだろう。
「さて、依頼は終了だな。――風邪を引く前に帰るとしよう。温かい食べ物で祝勝会だ」
レイスの言葉に全員が頷く。水を浴びた者はもちろん水の被害を逃れた者もそれなりに寒いから今はとにかく温かい食べ物と飲み物、焚き火が恋しかった。
浜辺についてからは成人した物にはアルコール類、未成年者には温かいミルクなどがふるまわれ、開拓者たちは村人の協力に感謝しつつ寒さと別れを告げたのだった。
依頼結果
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最終発言 2014/12/11 00:15:22 |
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作戦相談 レイス(ka1541) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/12/14 20:44:28 |