ゲスト
(ka0000)
【不動】プロローグ


【不動】プロローグ


ヤクシー
しかし、今回の実験が大きな問題を引き起こす事となる。
災厄の十三魔の一人、クラーレ・クラーラの手により引き起こされたCAM強奪事件。
何機かのCAMが歪虚側の手に渡ってしまったものの、ハンターに尽力により奪い返す事ができた。
人類の多くが胸を撫で下ろしたが、問題はここで終わらない。
マギア砦南にて人類が対歪虚兵器の開発を行っていた事が歪虚に露見。辺境地域で侵攻を続ける怠惰側がついに重い腰を上げた。
「小さい連中がこそこそと……。面倒だから、一気に叩いちまいな!」
怠惰侵攻軍を指揮するのは、ヤクシー。辺境周辺で活動する十三魔の支援を受けて
南下を開始する。
その数は1000、一度の侵攻において動いた怠惰の軍は過去最大級である。
CAM実験場を目的地として侵攻する怠惰に対して、人類はケリド川の支流であるナナミ川にて防衛線を構築。
怠惰の軍を押し止めようとするが、防衛線構築の前に怠惰はCAM実験場へ到達してしまう。
そうなれば各国が力を結集した実験が水泡に帰するだろう。
この状況に対して、辺境部族会議側からある提案が行われる。
『敵の目をマギア砦へ引き付け、防衛線構築までの時間を稼ぐ』
だが、この作戦はマギア砦へ籠城する者達を『犠牲』にもしうる作戦であった。
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
【不動】オープニングノベル
【不動】作戦開始前の各国陣営の様子を公開!
下の各バナーをクリックすると、それぞれ各国の様子を描いたオープニングストーリーへジャンプします。
ヴィオラ・フルブライト(kz0007)はその光景を眺めながら、呟いた。
「――嫌な空気ですね」
「そうか?」
傍ら、木製の作業台に向かっていたアダム・マンスフィールドがそちらに目を向けずに応じる。
「ええ」
互いに、話題が豊富な方ではない。だから、ヴィオラの言葉は短かった。男の寡黙さと集中を尊重するように。
「……」
緩やかな静寂の中、一人黙考するのは――【CAM奪還ゲーム】のことだ。
CAMを奪われた人類にとっては業腹な事に、歪虚にすれば余興に過ぎなかったものが各国に深い爪痕を刻んでいる。
しかして。ヴィオラの懸念は、他にあった。
ヘクス・シャルシェレット(kz0015)は、王国からヴィオラと王国騎士団副団長のダンテ・バルカザールに声をかけた。刻令術の唯一の使い手であるアダムを護るために。
その上で、ヴィオラはこう思うのだ。
――何故、と。
その胸中を埋めるのは、かつての光景だった。この地とは風景も、その音も、香りも、何もかもが違う。それでも、ヴィオラの胸の裡で戦士の勘が叫んでいる。
つと。馬の嘶きが彼方から響いた。早馬だ。
ヴィオラは目を閉じる。これから伝えられるのは恐らく、吉報ではないだろう。
だが。
「せめて、歪虚であってほしい、ですね」
女はそう言って西方を見た。曇天の先に、彼の地を見るように。
●
報せに来たのは騎士団副団長のダンテであった。馬上にはファリフ・スコール(kz0009)の姿もある。どこか沈鬱を纏う少女の姿に、ヴィオラが怪訝そうに眉を潜める中、ダンテは朗々と危機を告げた。
曰く。辺境の要衝、マギア砦に歪虚が侵攻しているのだ、という。
この地で大規模な行動が出来る勢力として真っ先に想定されるのが『怠惰』――巨兵の軍勢。
「と、言うわけで、な」
馬上のダンテは、心底嬉しげに歯を剥いて笑う。
「行こうぜ。戦場だ」
「……私達は、アダムの護衛に来たはずですが」
「あァ? アダムを護る。その為に戦場に行く。素晴らしくロンリテキじゃねェか」
「……」
ヴィオラの呆れ顔にダンテも怪訝げな顔をして言うものだから、ヴィオラの落胆ぶりは凄まじかった。
「そ、の……ボクも、君たちがアダムを護りに来たのは、知ってるよ。でも……」
ファリフの気遣わしげな声に、ヴィオラは首を振る。
「気にしないでください。虚無を祓うのは私達の使命です」
ヴィオラの言葉に、ダンテは親指を突き上げてファリフの背を叩いた。
「な? ヴィオラならこう言うって言ったろ?」
「う、うん」
ファリフが気後れしている理由に、ダンテは気づかない。絶対零度の視線を無視して、ダンテは続ける。
「お前はアダムの手助けをしてくれた。アダムは王国の代表。つまり――王国はお前に借りがある、ってことだ」
「……その節はどうも」
「カカッ」
アダムの声を背に、ダンテは一つ笑うと、腰に下げた長剣を掲げる。
――騎士の誓いだ。
「この戦争、俺達にも背負わせろよ」
このロクでもない誓いに盛大に溜息をついたのが誰かは、言うまでもないだろう。
だが。
「……ありがとう」
深い吐息を払うように、ファリフは笑った。遠慮混じりの笑みではあったが、確かに。剣を鞘に収めると、ダンテは一つ高笑いをすると、こう結んだ。
「幸い、滅茶苦茶に攻められた直後だしな。防戦なら任せとけ」
「それは……笑えないかな……」
「……確かに、事実ではありますけどね」
ヴィオラはもう一度溜息をこぼすと、ファリフに向き直る。
「貴女達の力になりましょう。私以外にも、戦士団の司祭がこの地に来ていますから……と」
「どうかしたの?」
言葉を切って懸念するヴィオラに、ファリフが問う、と。
「いえ……一人、無茶をしそうな子を思い出しまして」
――イコニア・カーナボン(kz0040)。
エクラ教の司祭であり、聖導士の少女。
そういえば彼女は最前線を熱望していたのだ、と。
辺境の空を大翼が羽撃く。連なるようにして飛ぶグリフォンの一団は、その逞しい足で揺り籠を支えている。
二騎のグリフォンを左右につけた長方形の籠には数人の人間が搭乗している。長いようで短かった空の旅も終わりを迎えようとしていた。
「降下作戦は初めてか? 何、臆する事はない。きちんとグリフォンが送り届けてくれるさ」
籠に取り付けられた無数のワイヤーが解かれ地上へ垂らされる。黄金の鎧に身を包んだ女は優しい声で呟き、取っ手に手をかけた。
マギア砦の城壁の内側、開けたスペースを目指してグリフォンは降りていく。徐々にその速度を落としながら、しかし止まる事はなく。
「各員、降下準備! カウント開始!」
女の声で帝国兵に混じり、ハンター達もワイヤーへ手を伸ばし立ち上がる。
「5……4……3……2……1…………降下!」
合図と同時、一際大きく羽ばたいたグリフォンが空中で一瞬停止する。同時に地上へ垂らされたワイヤーを伝い、戦士達はマギア砦へと降り立った。
パラシュートもへったくれもあったものではない。無茶な降下だが、全ての戦士が無事に着地に成功する。女は赤いマントをはためかせ、大地を軽く滑りながら空を仰いだ。
「うむ。降下漏れはなさそうだな。怪我人もいないようで何より」
騒ぎを聞きつけたマギア砦の兵士達が集まる中、女は重苦しい兜に手をかけ、ゆっくりと真紅の髪を解き放った。
「――ゾンネンシュトラール帝国軍、“騎士皇”ヴィルヘルミナ・ウランゲル。同盟軍に先行し推参した。状況の説明を願う」
マギア砦へと誘導された大量の歪虚の軍勢。その緊急事態に帝国が投入した戦力こそ、皇帝であり最高戦力でもあるヴィルヘルミナであった。
同盟海軍に先行し甲板より離陸したグリフォン隊はハンターを含む戦力を降下させ、次のピストン輸送の為に引き返していく。 直に各国の軍も駆けつけるだろうが、事は急を要する。大軍を用意する時間がないというのなら、結局は少数精鋭で対処するしかない。
「だからって自分が来なくてもいいだろうにな。あれ、一番偉い奴なんだろ? ヴィ……ヴィルナ……ヴィルなんとかってのはよ」
眉間を揉みながら呟いたのは帝国軍第二師団長のシュターク・シュタークスンだ。
第二師団は先の歪虚CAMとの戦いでも辺境に派遣された、帝国領北の守りと辺境への対処に特化した戦闘部隊である。
その精鋭が前線に送り込まれるのは道理だろうが、そこに皇帝が混ざっているというのは如何な物なのだろうか。
「ま、ケチつける気はねぇさ。なにせ一番偉いんだからな」
皇帝はこんな状況でも恐怖を感じさせない。ただ冷静に、凛々しく指示を出している。
「せいぜい死なないよう、お互い気をつけようや」
シュタークの強すぎる力で肩を叩かれたハンターがよろける。彼女も恐怖を感じていないのか……それどころか状況を楽しんでいるようにさえ見える。
あの国の責任者達はどこかおかしい。これを頼もしいと感じるべきなのかどうか……ハンターは小さく溜息を零した。
しかし、そうゆっくりもしてられない。CAM実験場は幾度となく、歪虚の危険に晒されている。十分な食糧と追加の人員を率い、また辺境へと取って返さねばならないのだ。
そう考えると、自然と早足になる。出迎えた部下も素早く敬礼し、同行する船団の構成などを伝えた。 「よし、それで構わん。辺境から帰った兵を半分入れ替えるから、任務の引継をしっかりとさせろ」
「わかりました。食糧を積んだ輸送船ですが、一部はヴァリオスからの合流となります」
モデストは「またヴァリオス経由か」と呟きつつ、歩きながら書類にサインしていく。
「出発は明日だ。荷物と人員の用意を怠るな」
そう指示を出し、駐屯所の中へ入ろうとした時だ。情報士官が息を切らせて飛び出してくる。そしてモデストを見るや、「た、大変です!」と大声を張り上げた。
「お前もわかっとるだろうが、もう十分に大変なんだ。この上、何があった?」
士官はズレた眼鏡の位置を直し、敬礼しながら叫ぶ。
「辺境のマギア砦周辺で不穏な動きがあるとの報告がありました! 敵は怠惰の軍と推定されます!」
「なんだとーーーーー!!」
モデストは慌てて執務室へと駆け上がり、ヴァリオスにいるブルーノ・ジェンマ元帥に連絡を入れた。
「ブルーノ! マギア砦で異変があったと聞いた! 詳細はどうなっている?!」
『現段階ではCAM実験場の指揮権を預かる、陸軍のダニエル・コレッティ中佐から救援要請があったのみだ。詳細は随時届けられるだろう』
マギア砦はCAM実験場の北に位置するため、展開によってはどちらも攻め落とされる危険があるのだ。
とはいえ、情報を待って悠長に準備する余裕もないだろう。今から全速力で飛ばして戻れるかどうか……まさに時間との勝負になる。
「ううむ……仕方あるまい。ポルトワールからは準備できた分だけ持って、今すぐ出る。部下に不足分を計算させるんで、ヴァリオス寄港の際に船団を合流させてほしいんだが、そっちは大丈夫か?」
『大丈夫だ、手配しよう。輸送船だけでなく、追加人員と戦艦も準備する』
ブルーノの返事を聞き、モデストは胸を撫で下ろした。
『あと、もうひとつ。ポルトワールの指揮官が留守とわかれば、海賊どもが黙っているまい。そこで手を打っておいた』
その言葉に首を傾げるモデストだが、それと同時に隣の応接室から豪快な笑いが聞こえてきた。
「はっはっは! ワシが臨時の指揮官、イザイア・バッシだ!」
装飾の施された扉を開かれると、黒の制服に身を包んだ老人が杖をついて登場。モデストを大いに驚かせる。
「ご、御老体が指揮官だと! ブ、ブルーノ、お前は誰に何を頼んだのかわかってるのか?!」
『別に俺からは頼んでない。ご自分で志願されたのだ……ポルトワールの留守は任せろとな』
イザイア・バッシ……現在は同盟軍の名誉大将だが、以前は元帥として活躍した男だ。ブルーノもモデストも、元は彼の部下にあたる。
数年前に右脚の負傷し、それが原因で退役。ブルーノに元帥の座を譲ったものの、まったく第一線を退く気がなく、現在は陸軍のてこ入れに尽力している。なお、特機隊設立の立役者のひとりにも数えられる。老いてますます盛んとは、まさに彼を象徴する言葉といえよう。
「ほら、さっさと救援に行かんか、ベアー! ここは任せろ!」
「わかってます! ブルーノ、打ち合わせの続きは白熊号からの通信で頼む!」
モデストは自分の椅子にどっかりと座り込んだ師の姿を見て安堵を覚えながらも、遠き地の異変に心を乱していた。
ドワーフ王ヨアキム(kz0011)の中では怠惰へ突撃して大暴れする予定だった。
しかし、現実は帝国兵の指示を受けてナナミ川流域で木材をせっせと運んでいるのだ。
――おかしい!
さすがにヨアキムの頭でもその事は理解できたようだ。
「うぉぉぉ! 怠惰は何処だ! ワシが相手してやる!
隠れてないでワシの前に出てきやがれ!」
「無駄口は、いけませんねぇ」
丸太を担いで大騒ぎする背後から、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が苦言を呈する。
ヴェルナーを目にしたヨアキムは、早々に怒鳴り込む。
「おい! ワシはこんなところで木材を運んでいる場合じゃねぇ! 早く戦いに行かねぇと!」
「耳元で大きな声を出さなくても聞こえますよ。
私は、ヨアキムさんにナナミ川で防衛線の構築をお願いしています」
「だから、そんな事するよりも……」
「聞き捨てなりませんね。防衛線構築を『そんな事』と仰るとは。
マギア砦へ向かった方々は、この防衛線構築の時間を稼ぐ為に命を賭けているのです。ヨアキムさんが早期に防衛線を構築できれば、彼らが帰還できる確率は一気に向上します」
ヴェルナーは、ヨアキムにも分かるよう敢えてゆっくりとした口調で語りかける。
その口調の裏に、怒りという感情を忍ばせながら。
「あなたの知り合いが、あの砦で亡くなるのは嫌でしょう?」
「…………ああ、分かった。さっさと防衛線ってぇ奴を作ってやる。それから怠惰の奴をぶっ飛ばせばいいんだろう?」
「ええ、その意気です」
ヨアキムは再び丸太を担ぎ、指定の場所へ運び始めた。
おそらくマギア砦籠城で稼げる時間は、48時間。
それ以降はマギア砦へ籠城する者達が帰還できなくなる恐れがある。
「ヴェルナー様!」
ヨアキムと入れ替わる形で部下が駆け込んできた。
「なんでしょう?」
「斥候より連絡。西方の上空からマギア砦方向へ飛来した者がいます」
「飛来した者? ……報告は明確に、かつ端的にお願いします」
ヴェルナーの一言に、部下は一呼吸を置いてから答える。
「飛来した者は災厄の十三魔の一人『ガルドブルム』と思われます。
現在、マギア砦上空付近を飛び回っている模様です」
下の各バナーをクリックすると、それぞれ各国の様子を描いたオープニングストーリーへジャンプします。

グラズヘイム王国

ヴィオラ・フルブライト

ヘクス・シャルシェレット
●
灰色の厚い雲が、実験場を覆っていた。色濃い影が落ちる中、岩肌を風が撫で、土煙が上がる。ヴィオラ・フルブライト(kz0007)はその光景を眺めながら、呟いた。
「――嫌な空気ですね」
「そうか?」
傍ら、木製の作業台に向かっていたアダム・マンスフィールドがそちらに目を向けずに応じる。
「ええ」
互いに、話題が豊富な方ではない。だから、ヴィオラの言葉は短かった。男の寡黙さと集中を尊重するように。
「……」
緩やかな静寂の中、一人黙考するのは――【CAM奪還ゲーム】のことだ。
CAMを奪われた人類にとっては業腹な事に、歪虚にすれば余興に過ぎなかったものが各国に深い爪痕を刻んでいる。
しかして。ヴィオラの懸念は、他にあった。
ヘクス・シャルシェレット(kz0015)は、王国からヴィオラと王国騎士団副団長のダンテ・バルカザールに声をかけた。刻令術の唯一の使い手であるアダムを護るために。
その上で、ヴィオラはこう思うのだ。
――何故、と。
その胸中を埋めるのは、かつての光景だった。この地とは風景も、その音も、香りも、何もかもが違う。それでも、ヴィオラの胸の裡で戦士の勘が叫んでいる。
つと。馬の嘶きが彼方から響いた。早馬だ。
ヴィオラは目を閉じる。これから伝えられるのは恐らく、吉報ではないだろう。
だが。
「せめて、歪虚であってほしい、ですね」
女はそう言って西方を見た。曇天の先に、彼の地を見るように。
●

ファリフ・スコール
曰く。辺境の要衝、マギア砦に歪虚が侵攻しているのだ、という。
この地で大規模な行動が出来る勢力として真っ先に想定されるのが『怠惰』――巨兵の軍勢。
「と、言うわけで、な」
馬上のダンテは、心底嬉しげに歯を剥いて笑う。
「行こうぜ。戦場だ」
「……私達は、アダムの護衛に来たはずですが」
「あァ? アダムを護る。その為に戦場に行く。素晴らしくロンリテキじゃねェか」
「……」
ヴィオラの呆れ顔にダンテも怪訝げな顔をして言うものだから、ヴィオラの落胆ぶりは凄まじかった。
「そ、の……ボクも、君たちがアダムを護りに来たのは、知ってるよ。でも……」
ファリフの気遣わしげな声に、ヴィオラは首を振る。
「気にしないでください。虚無を祓うのは私達の使命です」
ヴィオラの言葉に、ダンテは親指を突き上げてファリフの背を叩いた。
「な? ヴィオラならこう言うって言ったろ?」
「う、うん」
ファリフが気後れしている理由に、ダンテは気づかない。絶対零度の視線を無視して、ダンテは続ける。
「お前はアダムの手助けをしてくれた。アダムは王国の代表。つまり――王国はお前に借りがある、ってことだ」
「……その節はどうも」
「カカッ」
アダムの声を背に、ダンテは一つ笑うと、腰に下げた長剣を掲げる。
――騎士の誓いだ。
「この戦争、俺達にも背負わせろよ」
このロクでもない誓いに盛大に溜息をついたのが誰かは、言うまでもないだろう。
だが。
「……ありがとう」
深い吐息を払うように、ファリフは笑った。遠慮混じりの笑みではあったが、確かに。剣を鞘に収めると、ダンテは一つ高笑いをすると、こう結んだ。
「幸い、滅茶苦茶に攻められた直後だしな。防戦なら任せとけ」
「それは……笑えないかな……」
「……確かに、事実ではありますけどね」

イコニア・カーナボン
「貴女達の力になりましょう。私以外にも、戦士団の司祭がこの地に来ていますから……と」
「どうかしたの?」
言葉を切って懸念するヴィオラに、ファリフが問う、と。
「いえ……一人、無茶をしそうな子を思い出しまして」
――イコニア・カーナボン(kz0040)。
エクラ教の司祭であり、聖導士の少女。
そういえば彼女は最前線を熱望していたのだ、と。
(執筆:ムジカ・トラス)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)

ゾンネンシュトラール帝国

ヴィルヘルミナ・ウランゲル
●最前線
「マギア砦を視認! これより高度を落とし減速! 降下態勢に移ります!」辺境の空を大翼が羽撃く。連なるようにして飛ぶグリフォンの一団は、その逞しい足で揺り籠を支えている。
二騎のグリフォンを左右につけた長方形の籠には数人の人間が搭乗している。長いようで短かった空の旅も終わりを迎えようとしていた。
「降下作戦は初めてか? 何、臆する事はない。きちんとグリフォンが送り届けてくれるさ」
籠に取り付けられた無数のワイヤーが解かれ地上へ垂らされる。黄金の鎧に身を包んだ女は優しい声で呟き、取っ手に手をかけた。
マギア砦の城壁の内側、開けたスペースを目指してグリフォンは降りていく。徐々にその速度を落としながら、しかし止まる事はなく。
「各員、降下準備! カウント開始!」
女の声で帝国兵に混じり、ハンター達もワイヤーへ手を伸ばし立ち上がる。
「5……4……3……2……1…………降下!」
合図と同時、一際大きく羽ばたいたグリフォンが空中で一瞬停止する。同時に地上へ垂らされたワイヤーを伝い、戦士達はマギア砦へと降り立った。
パラシュートもへったくれもあったものではない。無茶な降下だが、全ての戦士が無事に着地に成功する。女は赤いマントをはためかせ、大地を軽く滑りながら空を仰いだ。
「うむ。降下漏れはなさそうだな。怪我人もいないようで何より」
騒ぎを聞きつけたマギア砦の兵士達が集まる中、女は重苦しい兜に手をかけ、ゆっくりと真紅の髪を解き放った。
「――ゾンネンシュトラール帝国軍、“騎士皇”ヴィルヘルミナ・ウランゲル。同盟軍に先行し推参した。状況の説明を願う」
マギア砦へと誘導された大量の歪虚の軍勢。その緊急事態に帝国が投入した戦力こそ、皇帝であり最高戦力でもあるヴィルヘルミナであった。
同盟海軍に先行し甲板より離陸したグリフォン隊はハンターを含む戦力を降下させ、次のピストン輸送の為に引き返していく。 直に各国の軍も駆けつけるだろうが、事は急を要する。大軍を用意する時間がないというのなら、結局は少数精鋭で対処するしかない。
「だからって自分が来なくてもいいだろうにな。あれ、一番偉い奴なんだろ? ヴィ……ヴィルナ……ヴィルなんとかってのはよ」
眉間を揉みながら呟いたのは帝国軍第二師団長のシュターク・シュタークスンだ。
第二師団は先の歪虚CAMとの戦いでも辺境に派遣された、帝国領北の守りと辺境への対処に特化した戦闘部隊である。
その精鋭が前線に送り込まれるのは道理だろうが、そこに皇帝が混ざっているというのは如何な物なのだろうか。
「ま、ケチつける気はねぇさ。なにせ一番偉いんだからな」
皇帝はこんな状況でも恐怖を感じさせない。ただ冷静に、凛々しく指示を出している。
「せいぜい死なないよう、お互い気をつけようや」
シュタークの強すぎる力で肩を叩かれたハンターがよろける。彼女も恐怖を感じていないのか……それどころか状況を楽しんでいるようにさえ見える。
あの国の責任者達はどこかおかしい。これを頼もしいと感じるべきなのかどうか……ハンターは小さく溜息を零した。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)

自由都市同盟
●再び同盟から辺境へ
辺境へのCAM運搬に始まり、実験場の防衛をも担ったモデスト・サンテ海軍少将。ようやく彼は、ポルトワールの軍港へと戻った。しかし、そうゆっくりもしてられない。CAM実験場は幾度となく、歪虚の危険に晒されている。十分な食糧と追加の人員を率い、また辺境へと取って返さねばならないのだ。
そう考えると、自然と早足になる。出迎えた部下も素早く敬礼し、同行する船団の構成などを伝えた。 「よし、それで構わん。辺境から帰った兵を半分入れ替えるから、任務の引継をしっかりとさせろ」
「わかりました。食糧を積んだ輸送船ですが、一部はヴァリオスからの合流となります」
モデストは「またヴァリオス経由か」と呟きつつ、歩きながら書類にサインしていく。
「出発は明日だ。荷物と人員の用意を怠るな」
そう指示を出し、駐屯所の中へ入ろうとした時だ。情報士官が息を切らせて飛び出してくる。そしてモデストを見るや、「た、大変です!」と大声を張り上げた。
「お前もわかっとるだろうが、もう十分に大変なんだ。この上、何があった?」
士官はズレた眼鏡の位置を直し、敬礼しながら叫ぶ。
「辺境のマギア砦周辺で不穏な動きがあるとの報告がありました! 敵は怠惰の軍と推定されます!」
「なんだとーーーーー!!」
モデストは慌てて執務室へと駆け上がり、ヴァリオスにいるブルーノ・ジェンマ元帥に連絡を入れた。
「ブルーノ! マギア砦で異変があったと聞いた! 詳細はどうなっている?!」
『現段階ではCAM実験場の指揮権を預かる、陸軍のダニエル・コレッティ中佐から救援要請があったのみだ。詳細は随時届けられるだろう』
マギア砦はCAM実験場の北に位置するため、展開によってはどちらも攻め落とされる危険があるのだ。
とはいえ、情報を待って悠長に準備する余裕もないだろう。今から全速力で飛ばして戻れるかどうか……まさに時間との勝負になる。
「ううむ……仕方あるまい。ポルトワールからは準備できた分だけ持って、今すぐ出る。部下に不足分を計算させるんで、ヴァリオス寄港の際に船団を合流させてほしいんだが、そっちは大丈夫か?」
『大丈夫だ、手配しよう。輸送船だけでなく、追加人員と戦艦も準備する』
ブルーノの返事を聞き、モデストは胸を撫で下ろした。
『あと、もうひとつ。ポルトワールの指揮官が留守とわかれば、海賊どもが黙っているまい。そこで手を打っておいた』
その言葉に首を傾げるモデストだが、それと同時に隣の応接室から豪快な笑いが聞こえてきた。
「はっはっは! ワシが臨時の指揮官、イザイア・バッシだ!」
装飾の施された扉を開かれると、黒の制服に身を包んだ老人が杖をついて登場。モデストを大いに驚かせる。
「ご、御老体が指揮官だと! ブ、ブルーノ、お前は誰に何を頼んだのかわかってるのか?!」
『別に俺からは頼んでない。ご自分で志願されたのだ……ポルトワールの留守は任せろとな』
イザイア・バッシ……現在は同盟軍の名誉大将だが、以前は元帥として活躍した男だ。ブルーノもモデストも、元は彼の部下にあたる。
数年前に右脚の負傷し、それが原因で退役。ブルーノに元帥の座を譲ったものの、まったく第一線を退く気がなく、現在は陸軍のてこ入れに尽力している。なお、特機隊設立の立役者のひとりにも数えられる。老いてますます盛んとは、まさに彼を象徴する言葉といえよう。
「ほら、さっさと救援に行かんか、ベアー! ここは任せろ!」
「わかってます! ブルーノ、打ち合わせの続きは白熊号からの通信で頼む!」
モデストは自分の椅子にどっかりと座り込んだ師の姿を見て安堵を覚えながらも、遠き地の異変に心を乱していた。
(執筆:村井朋晴)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)

辺境領域

ヨアキム

ヴェルナー・ブロスフェルト
●
「……って、なんでワシが木材を運んでいるだ!?」ドワーフ王ヨアキム(kz0011)の中では怠惰へ突撃して大暴れする予定だった。
しかし、現実は帝国兵の指示を受けてナナミ川流域で木材をせっせと運んでいるのだ。
――おかしい!
さすがにヨアキムの頭でもその事は理解できたようだ。
「うぉぉぉ! 怠惰は何処だ! ワシが相手してやる!
隠れてないでワシの前に出てきやがれ!」
「無駄口は、いけませんねぇ」
丸太を担いで大騒ぎする背後から、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が苦言を呈する。
ヴェルナーを目にしたヨアキムは、早々に怒鳴り込む。
「おい! ワシはこんなところで木材を運んでいる場合じゃねぇ! 早く戦いに行かねぇと!」
「耳元で大きな声を出さなくても聞こえますよ。
私は、ヨアキムさんにナナミ川で防衛線の構築をお願いしています」
「だから、そんな事するよりも……」
「聞き捨てなりませんね。防衛線構築を『そんな事』と仰るとは。
マギア砦へ向かった方々は、この防衛線構築の時間を稼ぐ為に命を賭けているのです。ヨアキムさんが早期に防衛線を構築できれば、彼らが帰還できる確率は一気に向上します」
ヴェルナーは、ヨアキムにも分かるよう敢えてゆっくりとした口調で語りかける。
その口調の裏に、怒りという感情を忍ばせながら。
「あなたの知り合いが、あの砦で亡くなるのは嫌でしょう?」
「…………ああ、分かった。さっさと防衛線ってぇ奴を作ってやる。それから怠惰の奴をぶっ飛ばせばいいんだろう?」
「ええ、その意気です」
ヨアキムは再び丸太を担ぎ、指定の場所へ運び始めた。
おそらくマギア砦籠城で稼げる時間は、48時間。
それ以降はマギア砦へ籠城する者達が帰還できなくなる恐れがある。
「ヴェルナー様!」
ヨアキムと入れ替わる形で部下が駆け込んできた。
「なんでしょう?」
「斥候より連絡。西方の上空からマギア砦方向へ飛来した者がいます」
「飛来した者? ……報告は明確に、かつ端的にお願いします」
ヴェルナーの一言に、部下は一呼吸を置いてから答える。
「飛来した者は災厄の十三魔の一人『ガルドブルム』と思われます。
現在、マギア砦上空付近を飛び回っている模様です」
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
キャラクター情報
ファリフ・スコール(kz0009) | |
---|---|
![]() |
スコール族長の若き族長。 スコール族の言い伝えにある狼の印を持っていた事から、当時の族長からその座を明け渡された。赤い狼の祖霊の力を借りたベルセルクでもある。 巫女より宣託を受け、星の友というヴォイドを退ける為の仲間を探している。 |
|
イラスト:わたりとおる |
バタルトゥ・オイマト(kz0023) | |
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![]() |
辺境部族、オイマト族の若き族長。 部族の民を守るため、帝国と組んでヴォイドの殲滅に取り掛かると言う方針を取っており、それ故に一部の他部族から反発を受けている。 寡黙だが、確固とした信念を持ち、 帝国への恭順も部族を守るための一環である。 |
|
イラスト:mati. |
ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032) | |
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![]() |
帝国軍第一師団所属の兵長であり、辺境要塞防衛を担う辺境管理者。 辺境管理者の着任も功績を挙げて本国へ帰還する事が目的でないかと囁かれている。 |
|
イラスト:えぼるぶ |
ヘクス・シャルシェレット(kz0015) | |
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港街ガンナ・エントラータの領主。 フラっと旅に出たりもする放蕩貴族。狐のような性格で尻尾を掴ませず、知恵も腕っ節もそこそこ備える面倒な人間。 |
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イラスト:雀葵蘭 |
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021) | |
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ゾンネンシュトラール帝国皇帝。 革命を成し遂げた先代の娘であり、前皇帝の失踪により後継者として呼び戻されて以来、圧倒的なカリスマで国を牛耳る独裁者。人の持つ可能性を何よりも信じ、愛し、歪虚を滅ぼし人々を救う事を命題として掲げる。 |
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イラスト:綾部史子 |
ヴィオラ・フルブライト(kz0007) | |
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聖堂教会の保有する聖堂戦士団を率いる女団長。教会における位は司教。厚い信仰心、優れた判断力を持つ才女で、冷静さを失うことがない。 地位は高いが面倒見が良く、新人やハンターの調練など自ら行う姿がしばしば見られる。 五年前に起こった歪虚との戦闘にも聖堂戦士団長として参戦し、その奮戦ぶりから「戦乙女」と謳われた。 |
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イラスト:さとうさなえ |