ゲスト
(ka0000)

  • マイページ
  • SC購入
  • キャラクター選択


  • キャラクター登録


グランドシナリオ【不動】マギア砦籠城戦

イベント:トップ画像

作戦1:怠惰誘引 リプレイ

キヅカ・リク
キヅカ・リク
ka0038
メル・アイザックス
メル・アイザックス
ka0520
バタルトゥ・オイマト
バタルトゥ・オイマト
kz0023
フラメディア・イリジア
フラメディア・イリジア
ka2604
火々弥
火々弥
ka3260
エルバッハ・リオン
エルバッハ・リオン
ka2434
天竜寺 舞
天竜寺 舞
ka0377
影護 絶
影護 絶
ka1077
星垂
星垂
ka1344
リサ=メテオール
リサ=メテオール
ka3520
カグラ・シュヴァルツ
カグラ・シュヴァルツ
ka0105
シュネー・シュヴァルツ
シュネー・シュヴァルツ
ka3359
ジャック・エルギン
ジャック・エルギン
ka1522
岩井崎 旭
岩井崎 旭
ka0234
ヒースクリフ
ヒースクリフ
ka1686
シルヴィア=ライゼンシュタイン
シルヴィア=ライゼンシュタイン
ka0338
八城雪
八城雪
ka0146
ボルディア・コンフラムス
ボルディア・コンフラムス
ka0796
米本 剛
米本 剛
ka0320
シルフェ・アルタイル
シルフェ・アルタイル
ka0143
結城 藤乃
結城 藤乃
ka1904
キー=フェイス
キー=フェイス
ka0791
フワ ハヤテ
フワ ハヤテ
ka0004
シエル=アマト
シエル=アマト
ka0424
ラスティ
ラスティ
ka1400
アルテア・A・コートフィールド
アルテア・A・コートフィールド
ka2553
イブリス・アリア(ka3359)
イブリス・アリア
ka3359
●決戦の火蓋
 時刻は19時ごろ。日は落ち、静まり返る辺境の山道に低い地響きが連続する。
 ぽつりぽつりと松明の炎がゆらめき、暗闇に落ちる山道に巨大な影が映し出される。
 ジグウ連山を降りてきた怠惰の軍勢。オーガやトロルといった巨人群で構成された、おおよそ1000を越える規模の大部隊は、その巨大な足で大地を踏み締めながら、ゆっくりとCAM実験場へと進軍してゆく。

「死線といってもいいかもしれませんね。死ぬつもりはありませんが」
 どこからともなく漏れた呟きは、巨人たちの耳には届かない。
 ふわりと広がる青白い雲。ふわふわと漂うガスが最前列を歩く巨人を包み込む。夜の闇に溶け込むようなガスは眠気を誘い、巨人の瞼を重くする。数体の巨人がの動きが、ふらりふらりと蛇行するような足取りとなってゆく。進軍が目に見えて緩慢なものへとなっていった。
「最前列、昏睡……仕掛けよう!」
 その様子を山道に群青する木の陰から確認した人影、キヅカ・リク(ka0038)が、トランシーバーを用いて仲間に伝達する。その号令と同時に山道へと飛び出す人影。
「少しキツい目覚まし時計のプレゼントさ!」
 メル・アイザックス(ka0520)が前を歩く巨人達の顔あたりに、ばらばらと玉を投擲する。放り投げられた玉は巨人の顔に当たると、パンパンパンパン!! と大きな音を立てて弾け、微睡んでいた巨人が音に驚いて飛び起きる。突如の奇襲に巨人たちは驚き、隊列が乱れる。それを好機とし、部族の戦士が敵の眼前に躍り出た。

「狼煙は、上がった……皆、行くぞ……!」

 その音を開戦の合図とし、バタルトゥ・オイマト(kz0023)が号令をかける。部族の部下を引き連れ、騎馬に跨って敵陣へと切り込んでゆく。
「さあ、怠惰の巨人ども! 我が相手じゃ! まさか、我ら人間に畏れを成す臆病者ではあるまいな!」
「さて、せいぜい派手に暴れてやるとするかの、倒しきってしまうのも面白そうじゃがな!」
 バタルトゥと同時に、大声で鬨をあげるながら敵陣に切り込むのはフラメディア・イリジア(ka2604)と火々弥(ka3260)だ。それぞれが戦槍と太刀を構え、巨人へと迫る。
 前列を歩いていた巨人―オーガの足元へと入った火々弥は素早く太刀を振るい、オーガの脚の関節を切り裂く。不意の一撃でバランスを崩したオーガが膝を折ると、倒れこむ動きに合わせて正面に立ったフラメディアが槍を構える。
「貰ったぞ!」
 地面を踏みしめ、その顔面に槍の一撃を叩き込む。マテリアルを込めた一撃にオーガの頭部が破壊され、一体目の巨人が地に伏せる。  突然の奇襲に狼狽していた巨人達が、漸く人間達から襲撃を受けたと察知する。人間を見かけた巨人達は降りかかる火の粉を払うべく、ハンター達に敵意を持って襲いかかってきた。
「させませんよ、味方に手出しは許しません!」
 火々弥へと棍棒を振るうオーガの脚へとウィンドスラッシュを直撃させ、ふらつかせる。支援攻撃を行ったのはエルバッハ・リオン(ka2434)。開戦のスリープクラウドによる撹乱も彼女の放ったものだ。
「ほれ、足元がお留守じゃぞ!」
 その隙を見逃さずに火々弥は太刀を振るい、足首を切り裂いてゆく。関節に鋭い痛みを感じたオーガは苦悶の悲鳴を上げて地面へと倒れこむ。
 そこへ舞うように躍り出たのは天竜寺 舞(ka0377)。その顔には歌舞伎の隈取が塗られていた。
「えらくゆっくりな兵隊さんだぁねぇ! そのお命、頂戴奉る!」
 飛び出た動きから流れるような動作で鋭い斬撃を放ち、倒れこんだオーガにトドメを刺す舞。グラディウスを一振りし、並み居る巨人の軍勢達の前で 「怠惰の兵隊、あ、討ち取ったぁ?りぃ?!」
 と、派手な大見得を切る。その派手な動きに思わず視線を奪われる巨人たち。必然的にその注意は舞へと集まり、手にした武器が振るわれる。舞は日本舞踊の動きを取り入れた華麗なステップでその攻撃を回避していく。
(大見得切ったはいいけど、やっぱ怖いね!)
 敵の注意を引きつけたはいいものの、内心では巨大な軍勢に慄く心を抑えつけるので一杯一杯のだ。心臓が早鐘を打つのが解る。
 そこへまた、かんしゃく玉が放り込まれる。パンパン! と大きな音が眼前で炸裂し、巨人が怯む。
「援護していくよ、皆! 気をつけて!」
 かんしゃく玉を投げつつ、防性強化を味方に施してゆくメル。その動きにあわせて後衛から発砲音が響き、銃弾が巨人の肩を抉る。
「敵は自分たちよりも強く、数も多い。……だが、悪くない気分だ」
 カービンのリロードを行いつつ、敵陣を見据えるのは影護 絶(ka1077)だ。彼はその強大な軍勢に恐れ慄くどころか、逆に闘志を燃やしている。
 彼の放つ銃弾は主に巨人達の、ダメージを認識しやすい部位……関節や頭部を狙って放たれる。自身の急所を庇おうと動く巨人たちは防御態勢を意識せざるを得ない。この射撃によって、少しずつ巨人たちの進行は遅れてゆく。
「巨人があれだけの数そろうと、壮観だねぇ……はは、ここにきたの、ちょっと後悔……」
 木の上で腰を据え、眼前に広がる敵の大軍勢に乾いた笑みを零すのは星垂(ka1344)。敵の数は総勢で1000を越すと聞く。眼前で繰り広げられる戦いで確かに尖兵を撃破していくが、明らかにペースが追いついていない。前衛のフラメディアや火々弥、舞が敵陣に飛び込んで前列を掻き回していくものの、後から迫る敵が押し寄せてくる。
「だけど、やるしかないよね。ここで踏ん張らないと」
 木の枝から跳ね、星垂は木々を飛び移ってゆく。そしてこちらに気付いていないトロルに狙いを定め、敵の頭部に矢を放つ。飛来する矢はトロルのこめかみを直撃し、大きくふらつかせる。
「よしっ、次……っ!」
 次の矢を番えようとしたところで、ふらついたトロルが星垂の乗っていた木を殴り倒す。すぐさま次の木へと飛び移るが、完全に補足されてしまった。
 気づけば、前列の敵の層も厚くなっていく。前衛は耐えず敵を撹乱してゆくが、それも長くは続かない。
 ガインッ!! という嫌な音がする。響いた音の先を確認するより先に、人の体が宙を飛び、激突して木をへし折った。
「舞!」
 フラメディアが叫ぶ。派手な動きで最も多くの巨人たちの動きを引き受けていた舞がついに敵の攻撃に被弾してしまう。
「う……ぐっ……」
 まともに攻撃を受けた舞は立ち上がろうにも上手く体に力が入らないようだ。そこへ別の巨人がゆっくりと迫ってゆく。
「まずい……カバーに入るよ、リサ!」
「了解だよ!」
 作戦域を俯瞰し、全体を指揮していたリクが舞の方へ駆け寄り、そのサポートに徹していたリサ=メテオール(ka3520)もそれに追従する。彼女はヒールを使い、舞の傷を治療。リクはアサルトライフルの掃射で敵巨人を牽制する。
 だが、迫る巨人―トロルは先ほどまでのオーガ達と違い、少しずつ傷を自己回復する再生能力を持っている。銃弾の掃射でも完全に脚を止める事は出来ず、接近を許してしまう。
「させないっ……!」
 別の木に飛び移っていた星垂がダガーを携えてトロルに飛びかかる。トロルの視界の完全に死角からの不意打ちが、トロルの首筋を深く穿った。トロルは苦しみ藻掻くが、ダガーで食らいつく星垂は振り落とせない。
 崩れ落ちるトロルと、木に飛び移る星垂。窮地は終わったかに見えた。
 そんな一瞬の平穏を引き裂くかのように、別の巨人……オーガの振るった棍棒が、空中に居る星垂をまともに捉えた。
「あぐっ!?」
 巨大な棍棒の一撃で地に叩き付けられる星垂。すぐさま駆けつけたメルの機導砲でオーガが怯んだ隙に、絶が弾丸を叩き込んで沈黙させる。
「……っ、あたしは大丈夫、星垂をっ……」
 リサの治療を終え、肩で息をする舞。地面に叩き付けられたまま動かない星垂にリサは駆け寄る。
 前衛が奮闘する中、巨人の軍勢達はその数に任せてハンター達を無視し、南下を続けようとする。そこへ、また別の部隊が側面からの攻撃を開始しようとしていた。

●大軍勢を強襲せよ
「では、私達の仕事を始めましょう」
「行きます……」  前面部隊を迂回しようとする怠惰の軍勢を横から強襲する部隊、一番槍を務めたのはカグラ・シュヴァルツ(ka0105)とシュネー・シュヴァルツ(ka0352)。飛び込んだシュネーが身の軽さを活かして敵の背後から斬撃を放ち、カグラが気の逸れた敵に大して猟銃による銃弾を叩き込む。
「敵部隊、前面部隊と交戦中の模様です。我々はこのまま横に逸れようとする敵を押し留めますよ」
「解りました……カグラ兄さん」
 カグラが的確に状況を判断しつつ、前衛を務めるシュネーが機動力を活かしたステップで敵陣に飛び込んでゆく。
 それを追うように飛来する複数の弓矢。気付いたオーガは思わず防御態勢を取る。頭部を狙って放たれた矢は分厚い腕に阻まれる、が。
「足元がお留守だぜ、でくの棒!」
 剣による渾身の一撃が脚部に叩きこまれ、大きな傷を負ったオーガは膝を折る。
「この作戦の先陣を切るのは俺たちだ、暴れてやるぜ!」
 弓で気を逸らした隙に足元に飛び込んだのはジャック・エルギン(ka1522)。堅実に護るのは性に合わない。敵が来たならば仕掛けるのみ。そう考えるジャックは敵陣へと飛び込み、攻撃を加えていく。
 そこへ新たに、馬に騎乗した3人の影が飛び込む。
「めんどくせータイミングで来やがって、名前どーり家帰ってぐーたらしてろよ、怠惰!」
「仲間を守る盾に成ろう! 行くぞ、愛馬ブケファノスよ!」
 岩井崎 旭(ka0234)とヒースクリフ(ka1686)が声を上げて己を鼓舞し、その一歩後ろからヒースクリフ(ka1686) シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が後を追う。
「このサイズです……一撃も非常に強力でしょう。お二人共、留意して下さい」
 アルケミックヘルムで覆われ、くぐもった声でありつつも、仲間の二人に忠告を伝えるシルヴィアはそのまま馬上でアサルトライフルを構え、シュネーに気を取られてる敵を背後から掃射する。
「今だ、旭!」
「おらぁっ!」
 掃射のダメージで仰け反り、体制を崩したオーガに大して、ヒースクリフの攻性強化を受けた旭が祖霊の力を込めた戦槍を振りぬく。強烈な一撃を受けたオーガは痛みに暴れ回る。
「暴れんじゃねー、です。死に損ないは大人しくくたばっとけ、です」
 そこへ八城雪(ka0146)がルーサーンハンマーを叩き込んで沈黙させる。
「しぶてぇ、です。図体通りのタフさって事、ですね」
 一体と戦っているうちに、また次の巨人が押し寄せてくる。次はトロル達が、雪を狙って襲いかかってきた。
「なめてんじゃねぇぞ、おらっ!」
 その振り下ろされる腕を横から殴るように豪快な斬撃で弾き飛ばしたのはボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。携える巨大な戦斧には白い光が取り巻いている。
 そしてトロルを挟むように逆側から、日本刀を携えて迫る人影が。米本 剛(ka0320)だ。その刀もボルディアの斧と同じく白い光を帯びている。彼のホーリーセイバーの力だ。
「我等の刃の冴え……刻ませて頂くっ!」
 剛の急所を狙う一閃。迸る閃光がトロルの肉体を鋭く、深く切り込む。ボルディアの斬撃のダメージと重なり、トロルの巨大な腕が斬り飛ばされる。
「そこ……」
 駆けつけたシュネーが機動力を乗せた斬撃を叩き込む。ダメージの蓄積されたトロルはその巨大な体を地に伏した。
 それでも尚、敵はCAM実験場を目指す為、別ルートを迂回しようと列を出ようとする。それをさせるまいとカグラは敵の足元に牽制射撃を放つ。足の指に着弾し、巨人は苦悶の声と共に蹲る。そこへ、鎧の隙間に渾身の力を込めて槍撃を放つ旭。
「どうやら防具つけてんのは雑兵以上の奴らだけみてーだな。それでも全身カバーしてる奴はいなさそうだ!」
 馬によって駆け回りつつ、敵の武装をチェックしていた旭は、味方に集めた情報を伝える。オーガやトロルが大多数を占める巨人たちは、どうやら全員が完全武装している訳ではないようだ。剣や斧などの洗練された武器を持ってる敵もいれば、木にちょっと手を加えた程度の棍棒を振り回す敵も居るようだ。
「って、やべっ……」
「危ねえ!」
 味方に情報を伝えるのに気を取られていた旭の頭上から棍棒が振り下ろされる。その棍棒に向かって銃弾が何発か突き刺さって動きが遅くなり、割り込むようにヒースクリフがその間に飛び込む。その体にマテリアルを纏いつつ、防護壁を形成。衝撃で防護壁がガラスのような音を立てて砕け散り、ヒースクリフが地面に叩き付けられる。
「ヒースクリフ!」
「……ッ、大丈夫だ」
 シルヴィアの援護と自身の防護壁によって上手く衝撃を吸収できたか、受け身をとって立ち上がるヒースクリフ。
「ふっ飛びやがれ、です」
 それと入れ替わるように雪が躍り出る。振り下ろされたばかりの棍棒を走って登り、トロルの顔面を戦鎚で殴り飛ばす。
「おっと、踏ん張りそうなとこ悪いが、こっちも刃がお待ちかねだぜ」
 大きく体制を崩したトロルは倒れまいと軸足を踏ん張ろうとする。が、雪が飛び込むのを察知したジャックが足元に待ち構えていた。ジャックが足首に渾身の一撃を叩き込むと、踏ん張ろうとしていた軸足を崩されたトロルが地響きを上げて倒れこむ。大の字に転がった頭に、無慈悲にボルディアの光を纏う斧が振り下ろされた。
 少数でありながらも、連携によって確実に強大な相手である巨人を沈めてゆくハンター達。敵の巨人たちがハンター達を無視出来なくなってきたのを見計らって、ボルディアがすぅ、と息を吸い込んで叫ぶ。
「俺の名はボルディア! テメェ等を滅ぼす人間の名だ。忘れねえようその腐った頭に直接叩き込んでやるよ!」
 夜の闇を引き裂かんばかりに響き渡る大声が、耳にした敵を威嚇する。巨人たちにとっては遥かに小さな人間に隊列をかき回された上にここまで言われて、巨人の大多数は既に立ち塞がる人間達に確かな敵意を向け始めている。
 そしてついに、一つ目と一本角を持ち、他の巨人よりも一回り程大きい巨人。サイクロプスが他の巨人たちに指示を投げかける。
 明確に感じる殺意。CAM実験場を目指していた巨人たちが、ハンター達を本格的に排除しようと動き始めたのだった。
「……明らかな敵性を察知、どうやら私達を敵と認めたようですね」
 巨人たちから殺気にも怯まず、カグラが戦況を分析する。
「時間稼ぎは、このあたりってーとこ、ですね。……前面班、聞こえる、ですか?撤退する、です」
『こちら前面班、了解した。撤退する』
 雪がトランシーバーによって前面部隊のリクに連絡を取ると、側面部隊は一様に踵を返す。予め打合せていた動きだ。撤退の合図と共にハンター達は一目散に引き上げていく。
「ヒャッハー! 悔しかったら追ってきなー!」
 ジャックが馬上で尻を叩きながら巨人達を挑発する。自分たちよりも遥かに小さな人間達に隊列をかき乱され、兵士を倒され、更にコケにまでされたとあっては、いくら普段動くのを億劫としている怠惰の巨人たちですら憤慨の極地に達する。激しい怒りは咆哮に変わり、撤退するハンター達を追撃せんと動き出した。

●撤退戦
 「撤退開始、了解だよ! シガレット、聞こえた? 撤退を始めるから、篭城組は戦闘準備をしていて!」
 トランシーバーを通じて前面部隊・側面部隊、それにマギア砦と連絡を取るのはシルフェ・アルタイル(ka0143)。その横で地図を広げていた地図をシルフェに渡し、馬に乗り込むのは結城 藤乃(ka1904)だ。
「逃走ルートは予め用意してあるのを使うわ。トラップは手はず通りに。頼んだわよ」
 藤乃はシルフェにそう伝え、シルフェは申し合わせたように頷く。短いやりとりの後に藤乃は馬を走らせ、行動を開始した。

「間違いなく、ナンパでもしてた方が建設的だったぜ……」
 遠くから少しずつ近づいてくる、木々の倒れる音や地響きを聞きつつ、キー=フェイス(ka0791)は肩を竦める。
「見えてきた……っと、あれで美人でスタイル良くてスカートだったら、覗き放題だったんだが……どいつもこいつも野郎ばっかって感じだぜ」
 やがて音が大きくなり、巨人が視認できる距離まで近づいてきた。
 キーの狙うは、交戦部隊と戦い、負傷した敵。体力の減る敵を撃破し、少しでも数を減らすのが彼の役目だ。動物霊の力を借り、視力を強化した彼は魔導銃の引き金を引き絞る。
 放たれた弾丸は交戦部隊を追う、先頭のオーガの脛を抉る。森に足をとられて上手く進めないでいる所に突如飛来した足を穿つ弾丸に、オーガが派手に転倒する。
「粗雑(クルード)な連中にゃ繊細な射撃は効くだろ……っと、気づかれちまったか」
 倒れたオーガがキーの方を睨み、それに気付いたキーは銃の標準を合わせつつ後退していく。

(敵の群れを捕捉。やっぱり大きいね)
 森をかき分けて突き進んでくる巨人たち、それらをフワ ハヤテ(ka0004)は見据え、マテリアルを循環させる。
「だけど、頭が高いなら付け入る隙はあるってことだよ」
 木の陰から敵巨人が射程に入った事を確認したハヤテはスリープクラウドを詠唱する。青白い雲場のガスが空間に充満する。
 本来この魔法は範囲を巻き込むものであり、撤退中の味方と混戦気味になっている現状では放てない。だが、敵の頭部が地面より遥か高い場所にあるなら話は別だ。
 ハヤテが狙うのは巨人の頭部。5mほどの高さのある巨人であるが故に、高い位置を狙う事で味方への誤射を最大限回避することが出来る。
 スリープクラウドの効力が現れてくると、巨人の追撃が少しずつ遅くなっていく。
(よし、効いてる。……損傷が激しいのは、あそこかな)
 ハヤテが撤退してくる味方の方に視線を送る。そこには、負傷者を運びつつ逃走をしてくる前面部隊がいた。ハヤテはそちらを狙う巨人を優先して対処していくのだった。

 森の各所に仕掛けられた剣山によって、巨人たちの多くは足を負傷し、動きを止められている。だが、千を越える軍勢全てを罠で止める事は出来ない。
「ちっくしょ! ワラワラと来やがって!」
「あれだけ大見得を切れば、当然ですね……!」
 逃走するボルディアと剛を、大勢の巨人が追走する。巨人にトドメを刺しつつ啖呵を切ったのだ。巨人達のヘイトを集めてもおかしくない。
「まあそのお陰で、他の方々は逃げやすくなってはいるでしょうが……っ!」
 剛は咄嗟に身を引くと、さっきまで居た場所に巨人の大剣が炸裂する。地面を砕くほどの一撃は木の根や石を巻き上げ、付けていた眼鏡が吹き飛ぶ。
「剛ッ!」
「問題ありません! しかし、敵がもうすぐそこに……!」
 気づけばすぐそこまで巨人が迫る。ボルディアは歯噛みすると、脚を止めて巨人に向き直る。
「上等だ、伊達に啖呵切った訳じゃねえってことを教えてやる!」
「ボルディアさん!」
 テメェ等を滅ぼす人間の名だと、そう宣言したボルディアだ。例えハッタリであったとしても、逃げ続けては名が廃る。元々自分は、戦う為にハンターになったのだから。
「だらぁぁぁぁぁぁッ!」
 闘争心を昂ぶらせ、跳躍しつつ斧を振り抜く。関節を捉えた一撃はオーガの体勢を大きく乱し、頭が落ちてくる。
「人間を……舐めんじゃねェッ!」
 祖霊の力を込めた一撃が顔面に振り下ろされる。遠心力を伴った巨大な斧はオーガの顔面に炸裂し、それを叩き潰した。怒涛の気迫を以って怠惰の巨人を単騎で撃破するボルディアだったが、巨人は一体だけではない。
 ガゴンッ!! という鈍い音と共に、ボルディアの身体がノーバウンドで大きく吹き飛ぶ。後続のトロルが振りぬいたハンマーに殴り飛ばされたのだった。
「ボルディアさんッ!」
 轟音を立てて木を貫通し、地面に激突するボルディア。誰が見ても、大ダメージを負ったのは明白だった。
「ち……っ、やっぱそう上手くはいかねぇよなぁ……」
「今すぐ、治療を……っ!」
 ボルディアにヒールで治療を施そうとした剛にも、振り抜かれる斧や棍が殺到する。武器や篭手で受け流そうとするも、圧倒的な質量を持つそれらを受けきる事は出来ない。剛もまた、速度を伴った棍の餌食になり、遥か上空へと打ち上げられる。
「剛……ッ!」
 呻くボルディアの声が彼に届く前に、剛の身体は地面に叩き付けられ、クレーターを作る。彼もまた、動けないでいた。
 しかし、彼もただではやられなかった。直撃の刹那に繰り出した抜刀が巨人の眼球を捉えていた。急所を抉られた巨人は呻きながら倒れ、他の巨人の動揺を誘った。
 そこへ馬の蹄の音が駆けつける。
「大丈夫!?」
「重体みたいです! 藤乃さん、救助を!」
 そこへ馬に乗り、駆けつけたのは藤乃とシエル=アマト(ka0424)だ。巨人が動揺している隙に、馬を走らせつつ、ボルディアと剛を回収する。
「くそ……悪い、情けねぇ……」
「いいえ、よくやってくれたわ」
 呻くように謝罪するボルディアに、藤乃は激励の言葉を述べる。そうこうしている内に動揺していた巨人が、こちらを追い掛けてくる。
「させませんよ!」
 シエルが機導術で盾を動かし、巨人の攻撃をいなす。剛も乗せている為、まともに交戦しては転倒してしまう。開いた手でシエルは拳銃を背後に向け、巨人の目に向けて牽制射撃をする。
「この先に僕の用意したトラップがあります、そこまで何とか逃げ切りましょう!」
「了解よ!」
 藤乃もまた開いた手で拳銃を取り出し、威嚇射撃で巨人の動きを牽制する。暫く馬を走らせていると、シエルの用意したトラップ地帯に到達する。
 木々に結びつけた頑丈なロープが、迫る巨人の脚を絡め取り、転倒させる。巨体が転倒した事により、後続の巨人たちも動きが緩慢になる。
「……こっちの撤退成功みたいね。全員が逃げ次第、火計に着手するわ。アマトさん」
「了解です」
 転倒する巨人たちを振り切るように、負傷者を乗せた2人は退却していった。

 巨人たちのヘイトを集めているのはこちらも同じだった。元前面部隊は一番始めに接敵した部隊だ。多くの巨人の注意がこちらに向いていた。
「藤乃さんからルートは伝わってる。皆、トラップ地帯まで何としても逃げ切るよ!」
 耐えず交信を続けるリクが走りながら皆を激励する。
 負傷した星垂と舞がそれぞれ星垂、リサが連れてきた馬に乗せられ、馬をメルと絶が駆る。リクとリサは最後尾で殿を務めている。それぞれが立体感覚と方向感覚に秀でている為、撤退の先頭を任されている。
「……そのあたり、木の影が深くなってる、そっちへ」
「おう、解った」
 星垂が絶の背に寄りかかりつつ、逃走ルートを指示していく。なんとか意識を取り戻した星垂が、自身の経験と知識を活かしてナビゲートしている。その甲斐あって予め仕掛けられてあった剣山のトラップでかなりの数の巨人を足止め出来ているが、それでも全ての進軍を振り切れた訳ではない。
「リク、敵が……!」
 オーガが追いついてくるのをリサが目撃する。オーガは携えた剣をもって、森ごとハンター達を薙ぎ払おうとする。
「させません!」
 エルバッハが振り上げられた腕に向かって真空の刃を放つ。鋭い痛みが肘に走ったオーガはたまらず剣を落としてしまう。
「助かった、ありがとう!」
「お礼は逃げ延びてからです!」
 リクは頷き、背後に注意しつつ森を駆け抜けてゆく。負傷者を乗せた馬は決して早くはない。誰かが敵の進行を止めなければ、追い着かれてしまう。
(周辺の地形は頭に入っている。この先は見通しも良くて逃げるのが難しい、なら……)
 リクはその場で反転。巨人に立ち塞がる。
「先に行って! 僕が時間を稼ぐ!」
「リク、一人じゃダメだよ、私もっ……!」
 リサもそれに付き従い、殿を務める。リクがマテリアルを利用した雷撃をオーガに向けて放ち、それに怯んだ隙にリサが足元にサーベルによる一撃を加える。
 だが、それでもまだ敵は倒れない。オーガが出鱈目に振り回した棍棒が、不運にもリサの胴体に当たる。
「あ……っ!」
 声を漏らすまでもなく吹き飛ばされるリサ。近くにあった岩に激突し、岩に亀裂が走る。
「リサーーーッ!」
 光を放ち、帯電するリクが雷撃による一撃を放つ。今度こそオーガは倒れて動かなくなる。だが、落ち着いてはいられない。巨人の軍勢は次々と追い掛けてくるのだから。
「リサ、捕まって……!」
 リクがリサを横抱きにして、走り始める。
「ご、めん……リク……あたし……」
「喋らないで、早く逃げるんだ……っ!」
 だが、人ひとり抱えたままでは速く走れる訳もなく、追いついてきたトロルが斧を振るう。トロルの振るう斧はリクの肩から腰までを深く斬り裂いた。
「あ……がっ!」
 鮮血を迸らせながら吹き飛ばされ、前へと倒れこむリク。転がりつつも、リサを庇うように抱えて離さずに。
「リク……っ!」
「ごめん、リサ……」
 何とか立ち上がろうにも、力が上手く入らないリク。背後に迫る巨人にリサは強く目を閉じる……。
 その時、1頭の馬が走り込んでくる。撤退支援のメンバーであるラスティ(ka1400)とアルテア・A・コートフィールド(ka2553)がそれに乗っていた。
 アルテアが青いオーラを纏い、機導砲を放つ。顔面で炸裂し、トロルがふらつく。その隙をラスティがライフルを放ちトドメを刺した。
「リク、リサ! 大丈夫!?」
「酷い怪我……! 治療しなきゃ!」
 馬から降り、治療を施してゆくアルテア。ラスティがライフルの火力を活かして巨人たちの足止めを行う。
「……ラスティ、アルテアさん……だめだ、敵の数が多い、まともに戦ったら……」
「解ってるよ。この先すぐにトラップ地帯があるんだ。そこに逃げ込めば足止めが出来る筈」
 応急処置を施したアルテアは、リクとリサを馬に乗せる。
「馬に乗れるくらいは治療したから、あとは逃げろ。僕達が殿を交代する」
 抗議しようとしたリクだが、アルテアの目は真っ直ぐ見つめてくる。察したリクは、痛む身体を無理矢理起こし、馬の手綱を握った。
「……死なないで」
「心配するな。多少怪我をしても、絶対皆で生きて帰る。僕達も、必ず」
 返答を聞いたリクは、リサを前に乗せて森を走る。
「アレク、解ってるよね?」
「勿論だよ。生きて帰る……必ず」
 ラスティの周囲に電子記号が浮かび上がる。迫る巨人に対し、ラスティとアルテアは二人揃って雷撃を放つ。強力な電流に、先頭を走る巨人たちの動きが麻痺した。
 二人は息のあったコンビプレーにより、巨人の侵攻を止めつつ、銃撃によるダメージを稼いでゆく。だが、やはり敵1体を倒すまでに次々と敵が押し寄せてくる。次第に攻撃に転じる隙が無くなっていき、やがてとうとう、背を向けて走り出す事を強いられる程に接近を許してしまう。
「時間は稼げた……アルテア、無事か!?」
「なんとか……っ! アレク、危ない!」
 走るラスティを、横へと突き飛ばすアルテア。その瞬間、背後から飛んできたハンマーによる一閃が、アルテアの小柄な身体を吹き飛ばした。
「アルテアッ!」
 ラスティは叫び、アルテアに駆け寄ろうとする。だが、続いて振るわれるハンマーに為す術もなく木に叩き付けられてしまう。
「ぐ……おォォォォォォォっ!」
 激痛に苛まれる身体の底から絞り出した咆哮と共に、掌から雷撃を放つ。背後から迫るトロルに直撃し、その身体を麻痺させる。這いずるようにラスティはアルテアに近づく。
「何、してんだよ……全員で帰るって、約束だろ……!」
「……ごめん、身体が勝手に動いた……」
 互いに絞り出すような声を掻き消すように、巨人の地響きが近づいてくる。目の前の巨人も麻痺が解け、そのハンマーを振り上げる。
 そこへ手裏剣が飛来。ハンマーを持つ指を的確に射止めると、痛みに落とした自らのハンマーで頭を強打するトロル。痛みに倒れたそこへ鋭いステップで切り込んだ人影が、赤き小太刀の一閃でトドメを刺した。
「間に、合った……っ!」
 二人がそちらを向くと、肩で息をしつつ手近な木に寄り掛かる人物。彼はイブリス・アリア(ka3359)。彼もこの作戦への参加を志願していたが、直前の戦いで大怪我を負い、馬も全滅していた為に、残念ながら、作戦の開始までに到着が出来なかった。
「お、い……二人共、無事か……?」
「無事……ってか、お前の方こそボロボロじゃないか……」
 イブリスは急ごしらえで応急処置を終えて向かってきたのだろう。包帯は血が染み込み、
身体は木に預けている。それでも仲間を助ける為に、負傷した身体に鞭打ってここまで来たのだろう。
「……ありがとう、助かった。速く撤退しよう、また次の巨人が押し寄せてくる」
 ラスティが呟く。だが、3人とも身体はボロボロで走る事すら出来ない。背後からは続く巨人の足音。また一体のトロルがすぐそこまで走ってきていた。絶体絶命と思われた、その時に。

「よく、持ち応えてくれた……ハンター達」

 静かな、しかし厳かな声が、地響きの隙間を塗って耳に届く。騎乗した男性が振るう剣がトロルの足を捉え、切り返した剣がそのままその首に深い傷を作る。
 流れるような剣筋でトロルを仕留めたのは、オイマト族の族長……バタルトゥ・オイマトだった。
「アンタは……オイマトの族長」
 イブリスがバタルトゥを見る。先の戦いで共に戦った為に彼らは面識があった。
「あの時のハンターか。尽きぬ闘志、見事なものだ……。だが、勇気と蛮勇は違う。傷を癒やすのもまた、戦士の努めだ……」
 バタルトゥはイブリスに視線を送る。口では叱責しているが、仲間の為に怪我を引き摺ってまで助けに来た彼を高く評価しているようだ。
「彼らを助けるぞ」
 バタルトゥの命により、後から続いてきた部族の戦士達が、負傷した3人を抱え、馬に乗せる。部族の戦士達の合流により、ハンター達の全撤退が完了したのだった。

「全員の撤退、了解!」

 トランシーバーによって全撤退の完了を聞き入れたシルフェは、予め用意していた剣山へとランタンを投げ込む。ガシャン、と音を立てて割れたランタンは、中の火が染み込ませてあったアルコールへと着火する。藤乃の用意していた毛布を伝い、一瞬のうちに燃え上がった炎は、森林を火の海へと変えた。
 燃え盛る炎は巨人たちの足を止める。シルフェは一先ず安心の息を漏らし、踵を返して背後にある砦へと走りこむのだった。

 こうして、ハンター達は負傷しつつも、なんとか砦の方にまで怠惰の軍勢をおびき寄せるのに成功する。千にも届かんとする軍勢はその数を減らしつつも、CAM実験場へ到達することは免れた。

 だが、戦いはこれから。
 人類にとって、いや、北方の部族にとって最後の砦たるマギア砦。
 強大な軍勢が押し寄せる大戦いは、まだ序曲が終わったに過ぎなかった。
担当:桐咲鈴華
監修:高石英務
文責:フロンティアワークス

リプレイ拍手

桐咲鈴華 2
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!


ページトップへ