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【天誓】ニーベルンゲンの歌「暴食王ハヴァマール対応」リプレイ


▼【天誓】グランドシナリオ「ニーベルンゲンの歌」▼
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作戦2:暴食王ハヴァマール対応 リプレイ
- ハヴァマール
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- 仙堂 紫苑(ka5953)
- ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)
- ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
- イズン・コスロヴァ(kz0144)
- キヅカ・リク(ka0038)
- ミオレスカ(ka3496)
- スパチュラ(オファニム)(ka3496unit005)
- アリア・セリウス(ka6424)
- 夜桜 奏音(ka5754)
- 東條 奏多(ka6425)
- ロニ・カルディス(ka0551)
- ミリア・ラスティソード(ka1287)
- カナタ・ハテナ(ka2130)
- ボルディア・コンフラムス(ka0796)
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- 榊 兵庫(ka0010)
- アニス・テスタロッサ(ka0141)
- レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)
- 近衛 惣助(ka0510)
- 真改(魔導型ドミニオン)(ka0510unit002)
- ミグ・ロマイヤー(ka0665)
- ハリケーン・バウ・USC(魔導型ドミニオン)(ka0665unit002)
- 紫月・海斗(ka0788)
- 月海(R7エクスシア)(ka0788unit003)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
- レイオス・アクアウォーカー(ka1990)
- 羊谷 めい(ka0669)
- メイム(ka2290)
- ホフマン(刻令ゴーレム「Volcanius」)(ka2290unit003)
- ヴァイス(ka0364)
- グレン(イェジド)(ka0364unit001)
- アイビス・グラス(ka2477)
- アルマ・A・エインズワース(ka4901)
●
ハンター達の前に姿を現した暴食王ハヴァマール。
上半身だけで30mを越える巨体。
這うように移動するにもかかわらず、その一歩は大きく。
その巨体から振るわれる一撃は直撃すれば人をただの肉塊へと変える。
この超越体としての姿と対峙するのはこれで何度目だったか。
ただ1つ言えるのは、かつて行われた闇光作戦の中で彼の王により覚醒者としての命を奪われた者がいたこと。
その悲劇を繰り返してはならないと心に誓った者達がいること。
『ふむ……では、行くゾ』
彼の王は『始祖の七』『不死の剣王』『暴食王ハヴァマール』。
遠き古の時代から君臨する、全ての骸を全ての命を糧に君臨する『屍の王』である。
●開戦
牧場地からは木々の向こう、約1km離れた場所にいるはずのハヴァマールの頭部は良く見えた。
「アイツ隠す気ねェだろ」
仙堂 紫苑(ka5953)による連結通話を終えて牧場地へと戻ってきたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が呆れ声と共に紫煙を吐き出すと、ちびた吸い殻を厄除けのお守りの中へと押しつけた。
「……それ、携帯灰皿だったっけ……?」
ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)がやや引き気味に問うと、シガレットは「細けぇことは気にすんな」とニヤリと笑う。
恐らくハヴァマールは現在地点からコロッセオまでの最短距離を突き進んでくるだろうと予測された。
ただ、戦闘が激化すればその限りではない。闘いの中で進路がずれる可能性は低くない。
そもそもハヴァマールは割と“気分屋”なところがある。
――人間には理解出来ない理屈で動いて居るのかもしれないが。
「ニンニン?……ハッ!! 此処です! 大輪牡丹ちゃん!!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がハヴァマールとコロッセオとの間に立って刻令ゴーレム「Volcanius」のニンタンク『大輪牡丹』に円匙棍を手渡すと穴を掘り始める。
「おー? それじゃ日が暮れても穴空かねェだろ?」
シガレットが自分の刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心に大輪牡丹が穴を開け始めた傍でCモード「hole」を命じる。
「さァて……幾つ穴が掘れるかねェ」
基本的に通信系は全員とチャンネルを合わせてある。魔導短伝話なら1kmをカバーできる為、場所によってはハヴァマールと近接戦を行う者達とは通話が出来ない可能性があるが、よっぽど自分達が後退しなければ砲撃班の誰かとは繋がる算段だ。
イズン・コスロヴァ(kz0144)が率いる第六師団による砲撃が始まった。
最初はB班がハヴァマールと対峙する。
「英雄じゃない人間でも英雄じゃないなりの戦い方ってのがあるもんだ」
ロジャーが自分の刻令ゴーレム「Gnome」に命じて鉄心が掘り始めた穴から距離を置いて壁を立て始める。
一見地味な作業だが、障害物がないこの牧場地でどれだけの時間が稼げるか、それが肝だと3人は信じて黙々と罠の設置に励んだ。
イズン達は砲撃を行うと直ぐ様その場から森の中へと姿を隠した。
ハヴァマールの巨大な剣が周囲をひと薙ぎする。
おおよそハヴァマールの前方30mの木々が一瞬にして薙ぎ倒され、その圧倒的な負のマテリアルによってか樹齢100年以上ある木々ですら剣圧に触れた一瞬で枯れ木へと変わっていく。
ただの空き地へと変わり果てた大地へハヴァマールは悠々とその一歩を踏み出そうとした、その時。一機の白いオファニムが立ち上がり連続射撃による弾幕を張った。
ミオレスカ(ka3496)によるスキルリンカーからの制圧射撃に合わせ、キヅカ・リク(ka0038)と共に4人と3体のイェジドと1体のグリフォンがハヴァマールの前に立ち塞がる。
「これ以上先へは行かせない!!」
弾幕の下、見覚えのあるヒトの子の姿を認め、動き出そうとしたハヴァマールの動きが止まった。
凛とした祈りの詩がアリア・セリウス(ka6424)から紡がれる。
「想いと刃で、貴方の救済を否定するわ。死の安寧を救いと唱える、死に囚われた歪虚の王よ」
初魄の刃が玲瓏たる音を奏でハヴァマールの左腕を貫く。
「被害が大きくなるスキルなんて使わせませんよ」
夜桜 奏音(ka5754)が黒曜封印符を放つ。10枚の符が風に舞い、ハヴァマールの左腕に張り付くと、封印を刻んだ。
『……ほう』
ハヴァマールは符の張り付いた左腕を不思議そうに握ったり開いたりしている。
(英雄なんてものに興味はないし、正義が何かとか語るつもりはない)
そんなハヴァマールへ向けて東條 奏多(ka6425)が逆袈裟のように双龍剣を振るった。手首から肩口へと青龍翔咬波が駆け上がっていく。
(ただ、やるべきことをやるだけさ。なあ、あんたもそうなんだろう、暴食の王よ)
空からはロニ・カルディス(ka0551)のワイバーンのラヴェンドラが無数の光線をその背に突き立てると同時にマテリアル花火が上がった。
「ふぁいとぉーーーーーいっぱぁーーーーつ!!!」
ワイバーンのサイファーによるサイドワインダーで奇襲を仕掛け、ミリア・ラスティソード(ka1287)が蜻蛉切の穂先を淡く光らせ薙ぎ払うが、空中からの薙ぎ払いを当てる事はかなり困難を伴う。結果、その巨体ゆえにもともと殆どの攻撃を回避出来ないハヴァマールの背にすらその穂先を当てることができず、思わずミリアは舌打ちをする。
さらに、林の中からカナタ・ハテナ(ka2130)のR7エクスシアがガトリングガンで同じく左腕を狙い撃つ。
硬い物がぶつかり合う音、銃撃音、そして花火の音が静かな林の中に響く。
「……始まったか」
キヅカ達とは班を別としたボルディア・コンフラムス(ka0796)を始め7人が固唾を呑んで各々通信器へと耳を澄ませていた。
ハヴァマールの直接攻撃が届かないだろうと予測される範囲、距離としておおよそ100m離れた位置で待機している。
ここからでは樹木が隠れ蓑となり、直接ハヴァマールを目視することはない。
樹木の高さはおおよそ4?5mであり、全高7?8mを越えるCAMからならば立てば見えるが、オウカ・レンヴォルト(ka0301)はオファニムである夜天二式「王牙」を今は木々の間に隠遁させるようしゃがみ込ませていた。
砲撃班のCAM乗り達も全員がその木々の間に身を低く保持させて待機していた。
戦闘が始まると同時にハヴァマールから100m地点にいるミグ・ロマイヤー(ka0665)がアニス・テスタロッサ(ka0141)、近衛 惣助(ka0510)、榊 兵庫(ka0010)、紫月・海斗(ka0788)の機体へと多重性強化を施し、機を待つ。
本当はあと1体支援したかったのだが、こればかりは個々の戦法や遠方に位置取りたい者に強要は出来ない。
ロニのワイバーンから花火が放たれたのを合図にアニスが吼えた。
「その腕撃ち落としてやるぜ!」
約100m地点、愛機であるオファニムのレラージュ・ベナンディから右肩口を狙って冷気を纏った弾丸を撃ち放つ。
アニスの声に合わせCAMが一斉に立ち上がり銃撃が開始される。
「暴食王ハヴァマール、相手にとって不足無しだ」
ミグ機であるハリケーン・バウ・USCの真横にいる魔導型ドミニオンは惣助の真改だ。
「……どこまでやれるか分からないが、最善を尽くさせて貰おう、烈風!」
約120m地点には兵庫が200mm4連カノン砲を構えていた。
マテリアル兵器の扱いを得意とするR7エクスシアであるため、射撃補正は無い。それもあっての控えめな発言ではあるが、“最善を尽くす”事に嘘は無い。
烈風のメインモニターにハヴァマールを捕らえると、不気味な発射音と共に弾丸がハヴァマールへと吸い込まれていった。
「まぁ、オジサン達のお仕事は奴さんに嫌がらせってな」
約82m地点からは海斗が軽口を叩きながらR7エクスシア、月海のタッチパネルを操る。
ラワーユリッヒNG5はその高威力と合わせて命中率も良い。人の身で使うには重すぎるが、CAMに持たせるにはむしろ軽い部類でもある。
「良質なカルシウム足りてますかぁー!?」
剣に向けて放たれたその銃声は戦場に大きく響き渡った。
「この機体の初使用がこんな依頼とは……。ですが、やるしかないですね……。頼みましたよ、オファニム……」
アークスレイの最大射程距離である242m付近からサクラ・エルフリード(ka2598)がハヴァマールを狙う。
「射撃が得意な機体なのです……。狙い、外すわけにはいきません……」
モニター越しに見る超越体は肉眼で見るよりも現実感が薄らぐ気がした。
そのくらい強大なのだ、という事実に気付かないまま、サクラは操縦桿を握り締め、発射スイッチを押した。
そんな中、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は戦場である『林』という立地に臍を噛んでいた。
相棒の刻令ゴーレム「Volcanius」、ドラングレーヴェは牧場地に先に配置して来ているため、バイクで樹木の間をすり抜けるように移動していたが、射線が通らない。
スキルのほとんどが『敵を視認出来なければ発動出来ない』という特徴を持つ。
森よりは確かに木と木の間隔がさほど狭くはないが、樹木の幹は太く射線を遮り、ヒトの身長では枝葉に遮られ頭部すら見えない。
「思ったより近付かなきゃ駄目か……!」
レイオスは落ち葉でタイヤがスリップしないよう慎重に、ハヴァマールの気配を追って近付いていった。
『その小さな躯デ余ヲ止めると?』
弾幕が晴れた視界でハヴァマールはキヅカを見て、奏多を見て、アリアを見て、奏音を見て、カナタのR7をミオレスカのスパチュラを見て、ロニとミリアを見て、砲撃をして来たCAM達を見た。
『笑止』
ハヴァマールの右手に握られた剣を無造作に横薙ぎに払う。
しかし、その一撃はキヅカの構えた盾から発せられた光りの障壁に全て飲み込まれていく。
『……ほぅ……?』
全身を打つ凄まじい衝撃に踏みしめた両足が大地に沈む。それでもキヅカは倒れず踏み止まった。
静電気が弾け、キヅカが纏った障壁が崩れていく。
『面白い』
悪寒を催す程の負のマテリアルが溢れ、空気を揺らす。
それは凄絶な笑みだった。死神が笑うとこんなだろうかという底冷えするような凄みにその場にいた全員の全身が震えたのだった。
●暴悪
「そんな……黒耀は確かに効いているハズなのに……!」
キヅカが1人耐えているその一撃の威力を前に、符の効果を留めるためにほぼ無防備になっている奏音はゼフィールの背に揺られながら困惑を隠せない。
振り返って見てもハヴァマールの左腕には今も10枚の符が張り付き黒耀の印が刻まれている。
「……剣王どんのアレは“通常攻撃”ということじゃろう」
カナタが変わらずガトリングで腕を狙いつつ奏音の問いに答える。
“すべての攻撃が範囲攻撃”というのは伊達でもハッタリでも無い。逆に言えばその巨体ゆえに範囲攻撃にならざるを得ないのだ。 そのため、ラストテリトリーの効果は抜群だった。
キヅカがハヴァマールの前にいて注意を引いている限り、ハヴァマールの攻撃はキヅカ1人に集約する。
銀河のやまてゃんがキヅカの命令に従い機関銃で攻撃をし続け、ロニがキヅカへ回復を施すためにラヴェンドラを向かせる。
ミリアは有効な一撃を当てることが出来ないまま、さいふぁーのファイアブレスがその背に命中するが、ハヴァマールは背面を気にする様子を見せない。
「っ、この!!」
注意を引き、前進するのを妨げたいというミリアの想いは空回る。
たとえばこれが全体の方針としてもっと大勢で協力して出来たなら、流石のハヴァマールとて見逃せなかったかもしれない。
遊撃として何処にも属さないままのミリア1人ワイバーン一騎と、眼前の6人、ミオレスカを含む砲撃班のCAM6体ではどちらに注視すべきか明白だ。
ミオレスカの制圧射撃がハヴァマールの背部に降り注ぐ。
アリアが歌い、コーディが駆ける。清き月の光のような輝線を描きながら2本の剣で左腕を斬り付けていく。
(命を懸けてでもあんたを止める。誰の邪魔になろうと、俺の役割を果たさせてもらうよ)
鋼夜の脚力を使ったヒットアンドウェイで奏多が想いを乗せた翔咬波を放つ。
左腕を地上から、右腕を砲撃班が狙い撃つ。
リーリーのマイルに騎乗した紫苑がギリギリオイリアンテMk3の射線が通るところまで近付いて銃撃を開始する。
「的はデカイが足が無いだけ狙いは絞れる……好都合だ。派手に砕けろよカルシウム!」
紫苑からやや正面寄りの位置に辿り着いたレイオスも通信器で砲撃班とタイミングを合わせて魔力を乗せた貫徹の矢を射った。
その腕に。時に頭部に、肩に、背中に、銃弾と矢が降り注ぐ。
黒耀の縛りを解いた後も、ハヴァマールの剣戟は止まらない。
一度、右腕が吹き飛んだがすぐにその腕は再生され、次いで左腕も吹き飛んだがすぐに再生された。
腕を失えば転倒するのでは無いかというハンター達の希望は残念ながら叶わなかった。
破壊された腕の再生を待つ間、その肋骨が支えとなっていたからだ。
奏音はマーキス・ソングを歌いながらゼフィールによる幻獣砲でキヅカの後方からハヴァマールを穿つ。
ロニのホーリーヴェールが、キヅカの攻性防壁がそのダメージを軽減するが、力任せに振り下ろされる一撃はロニがフルリカバリーで回復した傍からキヅカの全身を強打する。
「……ボルちゃん、ヤバイかも……!」
誤算があったとすれば、攻性防壁でハヴァマールを押し返すことは出来たが、それはハヴァマールの一撃を避けきれる距離では無かったこと。
後方で待機しているA班の面々に誰がどのタイミングで交代を告げるのかを決めていなかったこと。
さらに加えれば、ハヴァマールを相手に力の“出し惜しみ”をしたことか。
「皆、逃げて!!」
8度、全ての攻撃を一手に引き付け、立ち続けていたキヅカだが、これ以上は防ぎきれない。
負のマテリアルが土煙と共に渦を巻き、その向こうに蒼白い炎が揺れるようにハヴァマールの瞳が光った。
周囲を薙ぎ払う一撃は、キヅカ、奏音、アリア、奏多を幻獣ごと叩き斬り、キヅカのカバーのために低空飛行をしていたロニとラヴェンドラもそれに巻きこまれた。
「いかん!」
カナタが全力移動で木々の間を縫って仲間の元へと急ぐ。
しかし、無情な凶刃が再び4人とカナタのR7を巻きこむ方が早かった。
「っ! 行くぞ!!!」
キヅカの声にボルディアは即時反応すると飛び出して行く。
その背に「はい!」と険しい表情で羊谷 めい(ka0669)が応え、直ぐ様ボルディアのイェジドであるヴァーミリオンの後に己のイェジドであるネーヴェを追わせた。
イェジドとリーリー、そしてオウカのオファニムからなるA班の機動力は高い。
ほぼ足並みも揃えてあり、交代時には全力移動すればすぐに辿り着ける距離のハズだった。
まさか、キヅカ達B班が押し返しこそすれ、本当にハヴァマールを一歩も前へは動かさなかったのは誤算としか言いようが無い。
砲撃班による銃弾は絶え間なく続いている。
「まさか全然こっちに来ないなんてアリ?」
作戦が上手く行っている、というのは良いことだ。とメイム(ka2290)は刻令ゴーレム「Volcanius」のホフマンと共にキヅカ達の初期位置から220m離れた地点から戦況を見守っていた。
とはいえ、戦闘が始まってからまだ3分も経っていない。
ハヴァマールはその一歩を踏み出せば多少左右にぶれたとしても確実にホフマンの射程内に入る。
だが一方で、キヅカの攻性防壁のお陰でハヴァマールが後方に押されてしまっている状態ため、このままでは前線の班が交代するタイミングに砲が届かない可能性が浮上している。
悩んでいたところにキヅカの『ヤバイかも』という発言が飛び込んで来た。
「コストかけたんだもん、働いてもらわなきゃ、ね。ホフマン」
メイムはCAMよりも巨体を持つホフマンを見上げ最大射程まで前進するよう命じたのだった。
『皆、逃げて!!』
キヅカの叫び声の直後、衝撃音が通信器越しに響き、誰のものか判らない呻き声が漏れた。
『いかん!』
カナタの声。オウカが前方を見れば、傷を負いつつも高く空へと逃げたラヴェンドラの姿。
『……やべぇな……砲撃準備! 野郎に圧力かけて立て直しの時間を稼ぐ!』
『射線クリア、マテリアルビームを使う!』
『あいよ』
『合わせるのじゃ』
アニスの指示が飛び、少しずつハヴァマールと距離を詰めていた近衛 惣助(ka0510)の宣言と共にカウントダウンが始まり、『FIRE』の声と同時に惣助と月海から放たれた2本の光線が走る。
それを追うようにしてミグの放ったプラズマバーストがハヴァマールの顔面を巻きこみ大爆発を起こす。
『ホフマン、連続装填指示。炸裂弾×2撃て―♪』
メイムの声と同時にハヴァマールの頭上で爆音が轟いた。
その煙の向こう。
蒼白い瞳が光り、振り上げられた剣は無造作とも言える動きで前を薙ぎ払った。
「キヅカァッ!!」
ボルディアの声がこだまする。
全身を雷光で包むように弾けさせながら、キヅカはまだ立っていた。
「夢を魅せてくれたルミナちゃんが語ってた。僕を好きだと言ってくれた人が願ってた。誰もが笑って生きれる明日であるように、と」
旗槍を杖代わりにして。
「今度は僕が……明日を照らして見せる。諦めたりなんかしない、あの日の思い出が、生きてきた想いがあるから!」
イェジドに騎乗したヴァイス(ka0364)が、アイビス・グラス(ka2477)がキヅカの前に飛び出てその背に庇う。
「キヅカ!」
ボルディアがキヅカの肩を掴むと、その眉を撥ね上げた。
「……立ったまま気絶してんじゃねぇよ!」
「キヅカどん!」
キヅカに頼まれ、気を失っているアリアと奏多を森の奥へと運んできたカナタが駆け寄り、キヅカをR7の両手で大事そうに包むと、直ぐ様踵を返した。
奏音は間一髪のところをラヴェンドラが運んで行くのをオウカが見届けていた。
「今はよぉ、帝国が生まれ変わろうって大事な時なんだ。茶々は入れねぇで貰おうか、ハヴァマール!」
ボルディアがと同時に、6名による猛攻が始まった。
●蹂躙
「うにゃーーっ! じいじは大人しく寝てるんだよっ★」
射程ギリギリからユノ(ka0806)が放ったブリザードは左上腕を見事凍り付かせ、追従するようにアルマ・A・エインズワース(ka4901)のデルタレイが炸裂した。
射程ギリギリからの攻撃は仲間からの支援を受けられないが、代わりに2人はリーリーに騎乗しているため、素早く林の中へと身を隠し、万が一にもあの薙ぎ払いが届かない位置へと逃げ込む。
一方、ハヴァマールの正面に立ったボルディアはザイフリートを高々と掲げ、己の正義を力へ変え周囲の仲間を鼓舞する。
アイビスは騎乗したまま戦うつもりだったが、そうするとラージェスと同時に攻撃を仕掛けることが出来ない為、一度降りるとラージェスには連携を重視するよう命じる。
「グレン、今回も厳しい戦いになるが宜しく頼むぜ」
ヴァイスの声に応えるようにグレンの深紅の尾が揺れ、地を蹴った。
身捧の腕輪が蒼い炎のようなオーラを放ち、七支槍の穂先に灯り、その勢いのままハヴァマールの左腕を刺し貫いた。
めいは戦う事は嫌いだ。それでもそれ以上に誰かを守り癒やしたかった。だから、圧倒的な存在を前に震える手で錬金杖を握り締めると、精霊に祈りを捧げ、盾として立つボルディアのマテリアルを活性化させる。
砲撃班の砲撃を受けつつもその威力に衰えは無いまま……むしろ勢いを増して巨大な剣が振り上げられ、重いうなり声を上げながら振り下ろされた。
『……またソレか』
ハヴァマールのひと薙ぎを吸い込むように1人受け止めたボルディアはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「無駄だぜ。俺はもう、俺の目の前じゃ誰も死なせねぇって誓ったんだ」
肌を流れる血液が燃える様に立ち上ると再び体内へと還り傷を癒やす。
『そうか』
ハヴァマールの口から負のマテリアルが溢れ出た。
『ならば、耐えてミヨ』
惣助は闇光作戦の終盤、フレーベルニンゲン平原でのハヴァマールとの戦いに参加したときのことを思い出していた。
あの時はフレーベルニンゲン平原に不時着したサルヴァトーレ・ロッソを目指し爆走するハヴァマールを足止めしろという作戦だった。
あの時はスキルを吸収するという特徴があるゆえに、物理的に止めようと仲間と共に工夫を重ね、3体のCAMと魔導トラックから4本の魔導鈎を発射し絡ませ、その手のひらにCAM刀を突き刺し、物理的に大地に張り付けた。
「大規模作戦では楽に振り払われたが、今回はそうはさせん」
その直後、簡単に身を起こされたのは苦い思い出だが、あの時から自分達は明らかに強くなった。
CAMも新型が作られ、新しい能力の開発も進み、装備もより質の良いものが生産されるようになった。
……なのに、今なおどうしてもハヴァマールとの力差が縮んだようには思えない。
脳裏を掠めた厭な予感を振り払うように操縦桿を握り直すと、仲間と合図を送り、凍結弾をハヴァマールの右肩へと撃ち込んだ。
ハヴァマールの口が開いたと思うと、ハヴァマールの眼前に巨大な火の玉が形成され、落ちた。
「なっ!?」
恐ろしい轟音と爆風。オウカの目の前、直径50mの範囲が一瞬で焦土と化した。
『コレは当たる』
「いったぁ」
「……無茶苦茶だな」
「今癒やします!」
オウカ以外の6人と紫苑、その幻獣達、それからレイオスが一撃で深い傷を負ったのが見える。
『何が起こった!?』
シガレットからの声にオウカは見たままを伝えた。
「はぁ?! 特大ファイアーボール!?」
オウカの言葉をシガレットはオウム返ししながら工作班の2人と目を合わせた。
『あぁ。そうとしか言いようが無い。直径50mが範囲だ』
「え? そんなの飛んできたら俺とか一撃で死ぬんじゃ無い?」
ロジャーが全身を震わせ、ルンルンは神妙な顔で頷く。
「ロジャーさんの丸焼きはあまり美味しそうじゃなさそうです」
「そこ!?」
やいのやいのと騒ぐ2人を置いて、シガレットは兜の下の頭を掻いた。
「とりあえずこっちは最短ルートに穴と壁は用意した。また戦況が変わるようなら教えてくれ」
聖導士として駆けつけるべきかと確認したが、まだめいが健在であり、ロニとカナタも駆けつけているというのでシガレットは牧場での待機を続ける事にする。
思わずスーツの胸元に入れた煙草に手を伸ばしかけ、手のひらを握り込む。
戦況に応じてと言うのは容易い。だが、この待つ時間が3人にはとても長く感じたのだった。
ボルディアは強く奥歯を噛み締めた。
ラストテリトリーは自分が敵の攻撃の直接の対象となった時にのみ発動する。
つまり、空間を対象とするような技には通じない。
「こんな大技隠してやがったのか」
ボルディアの傷はすぐに再生を始め、さほど深くは無い。が。
「ヴァン、行けるか?」
問われたイェジドは“問題ない”と言わんばかりにその場で土を掻く。
だが、仲間は。
『ロニとカナタがすぐに駆けつけると連絡をくれた』
通信器を持たないボルディアの為に、オウカが拡声器から報告を入れ、前へと躍り出る。
「そりゃ、助かる」
あんなのは避けようがない。それでも通すわけに行かないのだから、立ち続けるしか無い。
腹はとっくに決めてきた。
『ほう、まだ立つか』
「ったりめぇだ! 死が救いとか言うテメェ如きに、俺の覚悟が破れるワケねぇだろうが!」
「根比べと洒落込みましょうか……!」
ボルディアが叫び、めいから傷を癒やして貰ったアイビスが立つ。
その横でヴァイスは冷静にハヴァマールの損傷度や回復速度、回復方法の観測、攻撃を行う際の癖が無いか観察し続けていた。
(もしも推測が正しければ)
ヴァイスは1つの推察に行き当たるが、まだ口にするには早いと静かに槍を構えた。
砲撃が右腕を打ち砕く。
それを見て4人もまた左腕を破壊すべく反撃へと乗り出す。
「シオン、大丈夫ですーっ!?」
木々が無くなったお陰で露見した紫苑とマイルを見つけたアルマが駆け寄ると、全身を煤だらけにした紫苑が首を横に振った。
「正直かなり痛い」
マイルもかなり酷い怪我を負っているのが見え、ミーティアが心配そうにきゅるると鳴いた。
「アルマ、あの計画だが……」
「はい。無謀でしたね」
ロープで固定出来ないかな大作戦を考えていた2人だが、流石のハヴァマールがロープ如きで止まるわけも無いとここに来て気付く事が出来た。
「大人しく戦いましょう。さぁシオン、いっしょにやるですーっ」
「了解」
2人は同時に己の武器にマテリアルを集束し始めると、真っ直ぐにハヴァマールを睨み付けたのだった。
『ちょっとぉ、回復が早いんじゃないですかねぇ!?』
右腕大破に喜んでいた海斗がゲェッと呻き声を上げる。
あの大技の後だ。少しぐらい疲労の色が見えても良い物だが、その辺りはやはり“生物”でない以上、期待するのが間違いか。
撃ち砕いた右腕がみるみるうちに再生し、取り落としていた剣を掴んだ。
『では、コレはどうカナ?』
ハヴァマールの蒼白い双眸が一瞬深紅に瞬いた、次の瞬間、ボルディアの躯が衝撃に揺れた。
「ボルディアさん!」
『ふむ』
双眸から発せられた光線は恐らく視線の先を一直線に貫くものだったのだろう。
ボルディア1人に集約したのを見て、ハヴァマールは納得したように頷いた。
「大丈夫だ。俺より自分やイェジドを優先してやれ」
悲鳴混じりに名を呼ぶめいへと声を掛けつつ、ボルディアは再度旗を掲げた。
「俺の正義はこんなところで折れたりしねぇ!」
「立て直しが終わるまでフォローするぞ! 制圧射撃準備!!」
アニスの声に惣助とミオレスカの機体が銃を構えマテリアルを注ぎ弾幕を放つ。
「こっちもいくよー!」
メイムの声と共にホフマンから再び二重の炸裂弾が飛び、ハヴァマールの周辺は視認出来ないほどの弾幕と爆発に包まれた。
カナタによって回復して貰ったレイオスは直ぐ様攻撃へと身を転じる。
焦土となった大地は逆にバイクで進みやすかった。
まだ貫徹の矢は数回分残っている。大きくレピスパオを引き絞り放つ。矢はハヴァマールの右肩を貫いた。
ミリアもまた諦めてはいなかった。
特殊訓練を受けたことによりさいふぁーの攻撃命中は安定している。
ならばミリア自身は操縦に専念し、さいふぁーに攻撃させればいいのだ。
たとえ強力な一撃を放てなくとも、視界を横切るような遊撃としての務めならばそれで果たせる。
練り上げたマテリアルをアルマと紫苑は同時にデルタレイへと変換し放った。
2つの三角形が重なり合い、6つ頂点からまばゆい光りが真っ直ぐにハヴァマールの頭部と右腕や肩を貫いていく。
アイビスが錬気と鎧徹しを合わせた一撃で指先を狙うと、合わせてラージェスもそこへ目がけて狼牙で食らい付き、噛み千切った。
オウカはハヴァマールがやや上体を浮かせたところで胸骨の向こうにいる中枢体目がけてプラズマクラッカーを放った。
衝撃に空気が揺れるが、煙が晴れた時に見えたのは先ほどと寸分違わぬ外骨格。
「……鎧と同じなんだ」
渾身の一撃を左腕に叩き込んだ後、バックステップで距離を空けるグレンの上、ヴァイスが呟いた。
「いや、いっそCAMに近いのかもしれない」
そしてその鎧は骨から出来ている。その骨は遥か古の時代より集められてきた物なのだろう。
昨日今日の死者ではない。北方王国があった頃にはすでにハヴァマールは存在していたのだから。
もちろん、マテリアルが枯渇すればハンター達を直接捕らえ吸収するかも知れない。
だが、今回は最初からサンデルマンを捕らえるという目的を持って来た。
しかもここに来る前にはどこぞの温泉地でリフレッシュまでして来ているという話しもあった。
……いや、それが本当にハヴァマールのリフレッシュになったかはわからないが、ハヴァマールにも相応に準備する時間はあったという事だろう。
吹き飛んだ指先は骨と骨のぶつかる軽やかな音を立てながら直ぐ様再生される。
起こされた上体、透けて見える中枢体が不気味に笑ったようにミオレスカには見えたが、ハヴァマールは動かない。
「……制圧射撃が、効いています!」
ミオレスカがすかさずフォールシュートを仕掛け、それに続いて砲撃班の追撃が行われる。
重体者を第六師団へと預け終えたロニにより、リーリーも回復して貰ったユノが戦線に復帰すると、リーリーの脚力で一気にハヴァマールへと肉薄しハヴァマールの背部に紫色の光を伴う重力波を発生させる。
アルマと紫苑は再びマテリアルを練り始め、オウカはプラズマクラッカーを再度炸裂させた。
ラージェスが幻獣としての力を解放し、左手首の一部を噛み砕く。そこを狙ってアイビスもまたディスターブを叩き込み、ヴァイスも引き続き渾身の一撃を左腕に沈めた。
めいは自分か、ヴァイスか迷い、ヴァイスの回復を優先することにした。
「俺より自分を……!」
首を横に振り、精一杯の笑顔でめいは告げる。
「自分が傷つくより、何も守れないほうが、ずっとずっと嫌なんです」
その時、ハヴァマールを覆っていた弾幕が、晴れた。
ハヴァマールを見上げていた一同は、その巨体が重力に従って……自分達へと振ってくるのを見た。
否。ハヴァマールを遠方から見ていた者達は、起こされていた上体が加速して大地へと倒れ込むのを見た。
派手な音を立て、地面が揺れる。負のマテリアルをはらんだ爆風が大地を駆け、その突風によりハヴァマールの周囲20m以内にいた者達は吹き飛ばされ、大地へと転がった。
そして、間髪入れずに凶刃が前方周囲30mを薙ぎ払った。
『コレは通るか』
起き上がったハヴァマールの前胸部は骨が殆ど砕け落ちている。
「今だ! 前胸部を狙って撃て!!」
アニスの声に、砲撃班は一斉に胸部を狙って攻撃を開始する。
銃弾による雨が再びハヴァマールを覆うが、ハヴァマールは意に介さず、ただ一点を見ている。
そこには、ヴァーミリオンから転落しつつも身を起こし、槍を構えるボルディアの姿があった。
『ふむ……大体判ッタ』
ハヴァマールは満足そうに告げると、剣を振り上げた。
『では、アト何回耐えられるか、試スとしよう』
そこからは、ハヴァマールの連撃が降り注いだ。
●絶望の足音
「……ヤバイ。ちっと俺も行ってくるぜェ」
鉄心のコントローラーをロジャーに投げ渡すと、シガレットは愛馬の腹を蹴って林の中へと飛び込んだ。
敵が殆ど動いて居ない。ある意味成功だろう。しかし、引き付けすぎたのだ。
加えてハヴァマールは元々“その者が何を得ようとしているのか”を見届けたがる性質があった。
それは対象が歪虚であっても、ヒトであっても変わらない。
興味を引かれれば、それを“貪り尽くすまで”止まらない。
サンデルマンの元へ行かせてはならないが、その地形を利用した戦いを望むのであれば、自分達が有利に運べるよう誘導する必要もあったのだ。
このままでは死者が出る。それだけは避けたい。
それはこの作戦に参加する多くの者が胸に宿す願いだった。
「前衛含めて全員無事に帰すかんなー!」
海斗が月海を走らせ、いつでも接近戦闘に移れるよう徐々に距離を詰めていた兵庫は、ついにマシンガンへと持ち替えた。
アニスと近衛とミオレスカが冷弾を撃ち込みその腕を止めようと試みるが、一瞬凍り付いたように見えてもすぐに溶けてしまう。
「止まってください……!!」
サクラのプラズマキャノンは確かにハヴァマールに命中しているのに、その手応えを実感出来ない事にサクラは柳眉を寄せる。それでも砲撃の手は止めず、ハヴァマールから目を逸らさない。
ホフマンは炸裂弾を撃ち込み続けさせていたが、メイムとしては煙幕弾が届かない距離のままな事に内心焦燥を抱えていた。
だが、たらればを言っても仕方が無い。ナイトハルトとの戦いに決着が付くまでは、どう戦況が変わるかも判らないのだと自身に言い聞かせ、万が一炸裂弾が尽きても戦況が動かないときにはこちらが動こうと決めた。
「まるでじゃんけんじゃな。」
ミグは自身のマテリアルを活性化させることで多重性強化の副作用として内腑に負った傷を癒やしつつ、砲撃を重ねながらつらつらと考えていた。
(相性が悪ければ強力な力を持つ大精霊ですら歪虚王に太刀打ちできんとは、力関係と言う物は矮小なる人が考えるほど複雑な物ではないのやもしれぬな)
口の端から流れた血を無造作に拭った結果、頬にまで赤が伸びて固まっているが、それを気にしている余裕は無い。
(まあ、そんな力ある者に頼りにされるとは誇らしくもあり、面映ゆくもある。長生きはしてみるもんじゃな)
壮絶な笑みを浮かべつつ、正確無比な射撃で仲間をフォローしていく。
アルマは深手を負った紫苑を連れてルート外へと一度引き下がった。
リーリー達は紫苑よりもさらに深手で動けないため、これ以上は危険だと判断したのだ。
「まだ、行ける」
「だめです。シガレットさんがくるまでシオンはここでガマンですー」
ぴしゃりと突っぱねて、アルマは立ち上がる。
「シオンの分まで僕がんばってきますね!」
「アルマ!」
紫苑の呼止めを無視して、アルマは戦線へと走り出した。
ロニは上空からレクイエムを歌い続けていたが、ハヴァマールにその歌声が届くことはなかった。
もう回復スキルは使い果たし、あとは足止め用のプルガトリオが7回。だが、ボルディアが引き付けている今の状態であれば使う時では無い。
ラヴェンドラのレイン・オブ・ライトは1回とファイアブレスが3回。
ロニは慎重に機を待っていた。
カナタもまたフルリカバリーの残りはあと1回のみだった。そもそもこれは愛機用として準備して来ていたため、まさかハッチを開けて対応することになろうとは思っても無かったが。
ハヴァマールを見る。中枢体を攻撃すれば他の再生も鈍るだろうと思っていたが、そもそも中枢体は上体を起こせばここからでも見える。のに、攻撃は届かない。
ヴァイスの『CAMに近いのかも知れない』という言葉には半分同意で半分は否定的だった。
何故ならこの超越体は超越体だけでも動く事が可能なのだ。
それを知っているゆえに、カナタは超越体を囮に、中枢体だけがサンデルマンの元へと向かうのでは無いかと警戒している。
「“邪神こそが救い”」
ハヴァマールが言った言葉をカナタは考え続けている。
再び見える時までに考えておくと告げはしたが、まだ、答えは見つからないまま。
ただ今はその足を止めるためだけにガトリングガンを回し続けた。
『モウ仕舞いか?』
あれから3度腕をもがれ、剣を取り落とし、その度に再生しては攻撃をして来ていたハヴァマールが、肩で息をするボルティアを見て問う。
ボルディアが守り続けたおかげで、倒れためい、ユノをオウカと海斗が運び、第六師団へと預けることが出来ていた。
「いや、まだまだ!」
全身から流れる血が炎のように揺らめく。
ラストテリトリーはもう使い切った。
「ふむ……そろそろ飽いた」
いままで殆ど動かなかった左腕が動き、ボルディアを掴んだ。
主を守り切れなかった事に衝撃を受けたヴァーミリオンが低く唸り、その手首へと噛みつく。
「させぬ!!」
これを恐れていたカナタは、ゆえに即時反応することが出来た。
猫七刀にストライクブロウを乗せて飛ばしハヴァマールの左上腕を打つ。
それを見たヴァイスとアイビスも左前腕へと攻撃を繰り出すと、オウカが意識を引き付けようと中枢体へ向かってマテリアルビームを放ち、駆けつけたアルマのデルタレイが左前腕と左肩口、顔面にヒットする。
砲撃班が誤射を恐れ攻撃を躊躇う中、1つの影がハヴァマールの頭上を過ぎた。
「っせーーーーーーい!!」
頭上からミリアが文字通り“降ってきた”。
渾身の力を込め、重力を味方にし、衝撃力を上乗せしたミリアの一撃が、ハヴァマールの左肘から叩き斬ったのだ。
切られた前腕ごと地面に叩き付けられたボルディアはマテリアルを吸われた事も重なり意識を失っているが、呼吸は正常なのを確認してアイビスがホッと胸を撫で下ろした。
その次の瞬間、ハヴァマールの双眸が赤く光った。
蒼白い光りが双眸から発せられるとそれはアイビス達を巻きこみ真っ直ぐにアルマまで伸び、貫いた。
そして、大きな足音が、響いた。
●驀進
ハヴァマールの左腕が再生されると、ついにハヴァマールは前進を始めた。
「っ! 撃て!!」
兵庫の叫びに砲撃班は衝撃から我に返ると各々銃を構え引き金を引く。
ロニが精神を集中させ闇の刃を生み出すとハヴァマールを串刺しにする。
動けなくなった事に気付いたハヴァマールは周囲を見回し、そして再び火の玉を吐き出した。
「いかん……!」
ラジェンドラのお陰で間一髪避けたロニだが、地上はそういうわけにはいかなかった。
機体の損傷はそれほどでも無かったが、直撃を喰らったミグは元々のダメージもあって気を失っていた。
「出来るだけ向こうの移動を抑えたい所ですが……く、止まってください……!」
サクラが懇願しつつプラズマキャノンで攻撃し、接近戦の出来る兵庫、海斗、オウカが再度腕へと刃を突き立てる。
惣助とアニスが引き撃ちしながら工作班側へと誘導を開始する。
側面からはミオレスカもスラスターライフルで撃ち続ける。
「やっと来たー♪」
ハヴァマールが射程に入った瞬間、頭部を狙うようメイムは指示を出す。
煙幕弾は狙い通りにハヴァマールの頭部に炸裂し、その視界を奪う。
……が、ハヴァマールは意に介さずその煙幕を抜けて歩みを止めない。煙幕弾はその場に留まり効果を発揮する性質があり、ハヴァマールの一歩はその煙幕を抜けるだけの距離を持っていた。
周囲の木々を薙ぎ倒し踏みつけ押し倒しながらズンズンと進んでいく。
もう一発、とメイムは再び煙幕弾を発射させると、ハヴァマールの歩みが止まった。
「……よし!」
あとは全力でコロッセオに向かって移動し、先回りをしようとメイムがホフマンに命じようとしたその時。
「あらやだわ」
メイムの頭上に火の玉が出現し、落ちた。
『メイムさん!』
ミオレスカの悲鳴が上がる。
「……はーい、何とか生きてるわよー」
メイムはパルムの力を借りて自分を癒やすと、巻きこまれて死んでしまった愛馬に黙祷を捧げた。
再び歩き出したハヴァマールへサクラは少しずつ交代しながらも銃撃を繰り返していた。
「ダメです! 止まって……!!」
サクラが放った弾丸が、ハヴァマールの右肩を貫くと、ハヴァマールは立ち止まった。
次の瞬間、ハヴァマールと目が合った。
「っ!」
距離はいつの間にか100m近くまで縮んでいた。
そしてハヴァマールの瞳が赤く輝いたのを見たのが、サクラがオファニムから見た最後の光景となった。
レイオスは必死にバイクでドラングレーヴェの元へ帰ろうと走っていた。
しかし、木々を避けなければならないレイオスと違い、薙ぎ倒して突き進んでいくハヴァマールは圧倒的に早い。
「やばい、やばい、やばい」
レイオスはドラングに通信器を持たせていなかった。
基本、Volcaniusは主の声が届けば命令を実行できる。だが、何分も前の命令を保持して実行する能力はないのだ。
そして、今、ハヴァマールが一直線に進んでいるその先に、ドラングはいる。
正面は避けて置いたのに、ハヴァマールの進行方向がずれたのだ。
せめて工作班に万が一の時には代理で動かして欲しいと伝えていれば今頃こんなにも焦らなくて済んだだろう。
レイオスは巧みなドライビングテクニックで木々の間を爆走し続けた。
「あれれー? なんか微妙にずれているっぽいです」
「マジで? こんだけ待たされて役に立たなかったら、皆に顔向け出来ねぇぞ」
徐々に近付いて来るハヴァマールを見て、ロジャーとルンルンはコロシアムの位置と自分達の位置を見比べる。
「……もうちょい向こうっぽいな……手前の罠は無理でもあの中央に作ったヤツに招き寄せれば何とかなるか?」
「ナイスです! その案で行きましょう」
徐々に大きくなる地響きに、ルンルンはハヴァマールをおびき寄せる為に牧場の中央付近へと躍り出る。
ハヴァマールは道中、右に、左にと目から光線を出したり、周囲を薙ぎ払ったりしながら、着実に牧場地へと歩みを進め、ついに木々を薙ぎ倒し、牧場地へと姿を現した。
その、弾き飛ばされた木々に混ざって、レイオスのドラングレーヴェが木々に押し倒され、あげくにハヴァマールの腕に蹴り飛ばされ横転していく。
「ニンタンクちゃん、出番です!」
大輪牡丹が炸裂弾を放つ。
ハヴァマールが大輪牡丹を見て、ルンルンを視認した。
「正義のニンジャとしては、巨大な悪を放っておくなんて出来ないんだからっ!」
3体のゴーレムに囲まれたルンルンはビシィッと指を指してポーズを決める。
ハヴァマールの後方からは銃声が響く。まだ動ける砲撃班の仲間達が背後からハヴァマールを撃っているのだ。
そこにはアニスたちと合流し、彼女達砲撃班を癒やしながら後を追ってきたシガレットもいた。
ハヴァマールは両手で這うように移動している為、後方への対応手段が少ない。
背後からの攻撃は大きな的に当てるような物で、正面から相手にするより余程安全だった。
ここからまた本格的にCAMによる砲撃が始まる。シガレットは邪魔にならないよう再び林の中へと潜りながらルンルンのいる場所を目指すことにした。
シガレットと交代するように砲撃班と合流したのはロジャーだ。
ロジャーはイチイバルに剛力矢をつがえると、マテリアルを集束しながら引き絞る。
ハヴァマールは牧場地を見、ルンルンを始めとするゴーレム達を見、背後から撃ってくる砲撃班を見る。
牧場地には何故か、不規則に高さ3m、幅2mの土の壁が立っている。
ハヴァマールからすればこのような物は気にするほどでは無い。何しろここまで樹木を薙ぎ倒してくる程だ。高々数枚の土壁がハヴァマールの行く手を遮ることはまずない。
ハヴァマールはルンルンを無視して直進しようとする。
「えぇ!?」
驚いたのはルンルンで、そのまま林へ直進されれば折角のトラップがほぼ回避されてしまうことになる。
その上、黒耀封印符は12m以内に近付かなければ発動出来ない。
ハヴァマールの一歩は恐ろしく大きく、これ以上離れてしまっては騎乗していないルンルンにはとても追いつけない。
「こ、来ないともっと撃っちゃうんだからー!」
大輪牡丹が再び火を吹く。ハヴァマールの右腕が崩れて落ちた。さらに背後からも砲撃が続く。
ハヴァマールが縦に剣を振った。
生み出された剣圧は間にある物全てを切り裂く真空の刃となって鉄心を貫いた。
『……ずれたか』
「あわわわわ……!」
その威力にルンルンは青くなるが、この広い牧場地に逃げ場も隠れる場所もない。
「こ、こうなったら最後まで諦めません! 勝つまでは!!」
ルンルンの気丈な宣言は無情にも頭上に現れた火の玉により沈黙を選ばざるを得なくなった。
『サテ』
ハヴァマールはゆっくりと振り返ると、砲撃班、そしてロジャーを見た。
「来いよ暴食王! そんなハリボテなんて捨てて掛かってこい!!」
その言葉が聞こえたのか。
ハヴァマールは空を仰ぐように顔を上に上げた。
空が暗くなった様に感じた時には、業火の塊がロジャーの頭上に降ってきた。
そしてロジャーは一命を取り留めたものの愛馬を失うことになったのだった。
●あっけない終わり
『動けるか?』
アニスの言葉に、兵庫と惣助、そして海斗が『まぁなんとか』と答えを返す。
『あたしも生きてるよー』
メイムが答え、ミオレスカも『行けます』と返事をした。
『今回復に行く』
シガレットが告げ、カナタが『最後の回復使ってしもうたのぅ』と嘆く。
ハヴァマールは空を仰ぐように見上げたまま、止まっていた。
そして、地面に吸い込まれるようにその姿を小さくすると、超越体から中枢体の身体へと変貌した。
カナタは此処からハヴァマールが一気にコロッセオに向かってしまうことを危惧したが、どうにも様子がおかしい。
『そうか……』
一言。静かにそう呟くと、ハヴァマールは再び変形し始める。
「いかん! 馬になって一足飛びに……」
しかし、馬の姿を取ったハヴァマールはコロッセオに背を向けていた。
そして、そのまま何処かへと走り去ってしまった。
「……終わった、のか?」
アニスがモニター上の何処にもハヴァマールの気配がない事を確認し、柳眉を寄せる。
その時、大きな花火がコロッセオの方から鳴り響いた。
そして全員の通信器から、一斉に吉報が飛び出した。
――ナイトハルト、撃破。
ハンター達は甚大な被害を出しながらも、ハヴァマールの侵攻を阻止したことを知り、誰もが深い溜息と共に身体を弛緩させたのだった。
ハンター達の前に姿を現した暴食王ハヴァマール。
上半身だけで30mを越える巨体。
這うように移動するにもかかわらず、その一歩は大きく。
その巨体から振るわれる一撃は直撃すれば人をただの肉塊へと変える。
この超越体としての姿と対峙するのはこれで何度目だったか。
ただ1つ言えるのは、かつて行われた闇光作戦の中で彼の王により覚醒者としての命を奪われた者がいたこと。
その悲劇を繰り返してはならないと心に誓った者達がいること。
『ふむ……では、行くゾ』
彼の王は『始祖の七』『不死の剣王』『暴食王ハヴァマール』。
遠き古の時代から君臨する、全ての骸を全ての命を糧に君臨する『屍の王』である。
●開戦
牧場地からは木々の向こう、約1km離れた場所にいるはずのハヴァマールの頭部は良く見えた。
「アイツ隠す気ねェだろ」
仙堂 紫苑(ka5953)による連結通話を終えて牧場地へと戻ってきたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が呆れ声と共に紫煙を吐き出すと、ちびた吸い殻を厄除けのお守りの中へと押しつけた。
「……それ、携帯灰皿だったっけ……?」
ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)がやや引き気味に問うと、シガレットは「細けぇことは気にすんな」とニヤリと笑う。
恐らくハヴァマールは現在地点からコロッセオまでの最短距離を突き進んでくるだろうと予測された。
ただ、戦闘が激化すればその限りではない。闘いの中で進路がずれる可能性は低くない。
そもそもハヴァマールは割と“気分屋”なところがある。
――人間には理解出来ない理屈で動いて居るのかもしれないが。
「ニンニン?……ハッ!! 此処です! 大輪牡丹ちゃん!!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がハヴァマールとコロッセオとの間に立って刻令ゴーレム「Volcanius」のニンタンク『大輪牡丹』に円匙棍を手渡すと穴を掘り始める。
「おー? それじゃ日が暮れても穴空かねェだろ?」
シガレットが自分の刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心に大輪牡丹が穴を開け始めた傍でCモード「hole」を命じる。
「さァて……幾つ穴が掘れるかねェ」
基本的に通信系は全員とチャンネルを合わせてある。魔導短伝話なら1kmをカバーできる為、場所によってはハヴァマールと近接戦を行う者達とは通話が出来ない可能性があるが、よっぽど自分達が後退しなければ砲撃班の誰かとは繋がる算段だ。
イズン・コスロヴァ(kz0144)が率いる第六師団による砲撃が始まった。
最初はB班がハヴァマールと対峙する。
「英雄じゃない人間でも英雄じゃないなりの戦い方ってのがあるもんだ」
ロジャーが自分の刻令ゴーレム「Gnome」に命じて鉄心が掘り始めた穴から距離を置いて壁を立て始める。
一見地味な作業だが、障害物がないこの牧場地でどれだけの時間が稼げるか、それが肝だと3人は信じて黙々と罠の設置に励んだ。
イズン達は砲撃を行うと直ぐ様その場から森の中へと姿を隠した。
ハヴァマールの巨大な剣が周囲をひと薙ぎする。
おおよそハヴァマールの前方30mの木々が一瞬にして薙ぎ倒され、その圧倒的な負のマテリアルによってか樹齢100年以上ある木々ですら剣圧に触れた一瞬で枯れ木へと変わっていく。
ただの空き地へと変わり果てた大地へハヴァマールは悠々とその一歩を踏み出そうとした、その時。一機の白いオファニムが立ち上がり連続射撃による弾幕を張った。
ミオレスカ(ka3496)によるスキルリンカーからの制圧射撃に合わせ、キヅカ・リク(ka0038)と共に4人と3体のイェジドと1体のグリフォンがハヴァマールの前に立ち塞がる。
「これ以上先へは行かせない!!」
弾幕の下、見覚えのあるヒトの子の姿を認め、動き出そうとしたハヴァマールの動きが止まった。
凛とした祈りの詩がアリア・セリウス(ka6424)から紡がれる。
「想いと刃で、貴方の救済を否定するわ。死の安寧を救いと唱える、死に囚われた歪虚の王よ」
初魄の刃が玲瓏たる音を奏でハヴァマールの左腕を貫く。
「被害が大きくなるスキルなんて使わせませんよ」
夜桜 奏音(ka5754)が黒曜封印符を放つ。10枚の符が風に舞い、ハヴァマールの左腕に張り付くと、封印を刻んだ。
『……ほう』
ハヴァマールは符の張り付いた左腕を不思議そうに握ったり開いたりしている。
(英雄なんてものに興味はないし、正義が何かとか語るつもりはない)
そんなハヴァマールへ向けて東條 奏多(ka6425)が逆袈裟のように双龍剣を振るった。手首から肩口へと青龍翔咬波が駆け上がっていく。
(ただ、やるべきことをやるだけさ。なあ、あんたもそうなんだろう、暴食の王よ)
空からはロニ・カルディス(ka0551)のワイバーンのラヴェンドラが無数の光線をその背に突き立てると同時にマテリアル花火が上がった。
「ふぁいとぉーーーーーいっぱぁーーーーつ!!!」
ワイバーンのサイファーによるサイドワインダーで奇襲を仕掛け、ミリア・ラスティソード(ka1287)が蜻蛉切の穂先を淡く光らせ薙ぎ払うが、空中からの薙ぎ払いを当てる事はかなり困難を伴う。結果、その巨体ゆえにもともと殆どの攻撃を回避出来ないハヴァマールの背にすらその穂先を当てることができず、思わずミリアは舌打ちをする。
さらに、林の中からカナタ・ハテナ(ka2130)のR7エクスシアがガトリングガンで同じく左腕を狙い撃つ。
硬い物がぶつかり合う音、銃撃音、そして花火の音が静かな林の中に響く。
「……始まったか」
キヅカ達とは班を別としたボルディア・コンフラムス(ka0796)を始め7人が固唾を呑んで各々通信器へと耳を澄ませていた。
ハヴァマールの直接攻撃が届かないだろうと予測される範囲、距離としておおよそ100m離れた位置で待機している。
ここからでは樹木が隠れ蓑となり、直接ハヴァマールを目視することはない。
樹木の高さはおおよそ4?5mであり、全高7?8mを越えるCAMからならば立てば見えるが、オウカ・レンヴォルト(ka0301)はオファニムである夜天二式「王牙」を今は木々の間に隠遁させるようしゃがみ込ませていた。
砲撃班のCAM乗り達も全員がその木々の間に身を低く保持させて待機していた。
戦闘が始まると同時にハヴァマールから100m地点にいるミグ・ロマイヤー(ka0665)がアニス・テスタロッサ(ka0141)、近衛 惣助(ka0510)、榊 兵庫(ka0010)、紫月・海斗(ka0788)の機体へと多重性強化を施し、機を待つ。
本当はあと1体支援したかったのだが、こればかりは個々の戦法や遠方に位置取りたい者に強要は出来ない。
ロニのワイバーンから花火が放たれたのを合図にアニスが吼えた。
「その腕撃ち落としてやるぜ!」
約100m地点、愛機であるオファニムのレラージュ・ベナンディから右肩口を狙って冷気を纏った弾丸を撃ち放つ。
アニスの声に合わせCAMが一斉に立ち上がり銃撃が開始される。
「暴食王ハヴァマール、相手にとって不足無しだ」
ミグ機であるハリケーン・バウ・USCの真横にいる魔導型ドミニオンは惣助の真改だ。
「……どこまでやれるか分からないが、最善を尽くさせて貰おう、烈風!」
約120m地点には兵庫が200mm4連カノン砲を構えていた。
マテリアル兵器の扱いを得意とするR7エクスシアであるため、射撃補正は無い。それもあっての控えめな発言ではあるが、“最善を尽くす”事に嘘は無い。
烈風のメインモニターにハヴァマールを捕らえると、不気味な発射音と共に弾丸がハヴァマールへと吸い込まれていった。
「まぁ、オジサン達のお仕事は奴さんに嫌がらせってな」
約82m地点からは海斗が軽口を叩きながらR7エクスシア、月海のタッチパネルを操る。
ラワーユリッヒNG5はその高威力と合わせて命中率も良い。人の身で使うには重すぎるが、CAMに持たせるにはむしろ軽い部類でもある。
「良質なカルシウム足りてますかぁー!?」
剣に向けて放たれたその銃声は戦場に大きく響き渡った。
「この機体の初使用がこんな依頼とは……。ですが、やるしかないですね……。頼みましたよ、オファニム……」
アークスレイの最大射程距離である242m付近からサクラ・エルフリード(ka2598)がハヴァマールを狙う。
「射撃が得意な機体なのです……。狙い、外すわけにはいきません……」
モニター越しに見る超越体は肉眼で見るよりも現実感が薄らぐ気がした。
そのくらい強大なのだ、という事実に気付かないまま、サクラは操縦桿を握り締め、発射スイッチを押した。
そんな中、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は戦場である『林』という立地に臍を噛んでいた。
相棒の刻令ゴーレム「Volcanius」、ドラングレーヴェは牧場地に先に配置して来ているため、バイクで樹木の間をすり抜けるように移動していたが、射線が通らない。
スキルのほとんどが『敵を視認出来なければ発動出来ない』という特徴を持つ。
森よりは確かに木と木の間隔がさほど狭くはないが、樹木の幹は太く射線を遮り、ヒトの身長では枝葉に遮られ頭部すら見えない。
「思ったより近付かなきゃ駄目か……!」
レイオスは落ち葉でタイヤがスリップしないよう慎重に、ハヴァマールの気配を追って近付いていった。
『その小さな躯デ余ヲ止めると?』
弾幕が晴れた視界でハヴァマールはキヅカを見て、奏多を見て、アリアを見て、奏音を見て、カナタのR7をミオレスカのスパチュラを見て、ロニとミリアを見て、砲撃をして来たCAM達を見た。
『笑止』
ハヴァマールの右手に握られた剣を無造作に横薙ぎに払う。
しかし、その一撃はキヅカの構えた盾から発せられた光りの障壁に全て飲み込まれていく。
『……ほぅ……?』
全身を打つ凄まじい衝撃に踏みしめた両足が大地に沈む。それでもキヅカは倒れず踏み止まった。
静電気が弾け、キヅカが纏った障壁が崩れていく。
『面白い』
悪寒を催す程の負のマテリアルが溢れ、空気を揺らす。
それは凄絶な笑みだった。死神が笑うとこんなだろうかという底冷えするような凄みにその場にいた全員の全身が震えたのだった。
●暴悪
「そんな……黒耀は確かに効いているハズなのに……!」
キヅカが1人耐えているその一撃の威力を前に、符の効果を留めるためにほぼ無防備になっている奏音はゼフィールの背に揺られながら困惑を隠せない。
振り返って見てもハヴァマールの左腕には今も10枚の符が張り付き黒耀の印が刻まれている。
「……剣王どんのアレは“通常攻撃”ということじゃろう」
カナタが変わらずガトリングで腕を狙いつつ奏音の問いに答える。
“すべての攻撃が範囲攻撃”というのは伊達でもハッタリでも無い。逆に言えばその巨体ゆえに範囲攻撃にならざるを得ないのだ。 そのため、ラストテリトリーの効果は抜群だった。
キヅカがハヴァマールの前にいて注意を引いている限り、ハヴァマールの攻撃はキヅカ1人に集約する。
銀河のやまてゃんがキヅカの命令に従い機関銃で攻撃をし続け、ロニがキヅカへ回復を施すためにラヴェンドラを向かせる。
ミリアは有効な一撃を当てることが出来ないまま、さいふぁーのファイアブレスがその背に命中するが、ハヴァマールは背面を気にする様子を見せない。
「っ、この!!」
注意を引き、前進するのを妨げたいというミリアの想いは空回る。
たとえばこれが全体の方針としてもっと大勢で協力して出来たなら、流石のハヴァマールとて見逃せなかったかもしれない。
遊撃として何処にも属さないままのミリア1人ワイバーン一騎と、眼前の6人、ミオレスカを含む砲撃班のCAM6体ではどちらに注視すべきか明白だ。
ミオレスカの制圧射撃がハヴァマールの背部に降り注ぐ。
アリアが歌い、コーディが駆ける。清き月の光のような輝線を描きながら2本の剣で左腕を斬り付けていく。
(命を懸けてでもあんたを止める。誰の邪魔になろうと、俺の役割を果たさせてもらうよ)
鋼夜の脚力を使ったヒットアンドウェイで奏多が想いを乗せた翔咬波を放つ。
左腕を地上から、右腕を砲撃班が狙い撃つ。
リーリーのマイルに騎乗した紫苑がギリギリオイリアンテMk3の射線が通るところまで近付いて銃撃を開始する。
「的はデカイが足が無いだけ狙いは絞れる……好都合だ。派手に砕けろよカルシウム!」
紫苑からやや正面寄りの位置に辿り着いたレイオスも通信器で砲撃班とタイミングを合わせて魔力を乗せた貫徹の矢を射った。
その腕に。時に頭部に、肩に、背中に、銃弾と矢が降り注ぐ。
黒耀の縛りを解いた後も、ハヴァマールの剣戟は止まらない。
一度、右腕が吹き飛んだがすぐにその腕は再生され、次いで左腕も吹き飛んだがすぐに再生された。
腕を失えば転倒するのでは無いかというハンター達の希望は残念ながら叶わなかった。
破壊された腕の再生を待つ間、その肋骨が支えとなっていたからだ。
奏音はマーキス・ソングを歌いながらゼフィールによる幻獣砲でキヅカの後方からハヴァマールを穿つ。
ロニのホーリーヴェールが、キヅカの攻性防壁がそのダメージを軽減するが、力任せに振り下ろされる一撃はロニがフルリカバリーで回復した傍からキヅカの全身を強打する。
「……ボルちゃん、ヤバイかも……!」
誤算があったとすれば、攻性防壁でハヴァマールを押し返すことは出来たが、それはハヴァマールの一撃を避けきれる距離では無かったこと。
後方で待機しているA班の面々に誰がどのタイミングで交代を告げるのかを決めていなかったこと。
さらに加えれば、ハヴァマールを相手に力の“出し惜しみ”をしたことか。
「皆、逃げて!!」
8度、全ての攻撃を一手に引き付け、立ち続けていたキヅカだが、これ以上は防ぎきれない。
負のマテリアルが土煙と共に渦を巻き、その向こうに蒼白い炎が揺れるようにハヴァマールの瞳が光った。
周囲を薙ぎ払う一撃は、キヅカ、奏音、アリア、奏多を幻獣ごと叩き斬り、キヅカのカバーのために低空飛行をしていたロニとラヴェンドラもそれに巻きこまれた。
「いかん!」
カナタが全力移動で木々の間を縫って仲間の元へと急ぐ。
しかし、無情な凶刃が再び4人とカナタのR7を巻きこむ方が早かった。
「っ! 行くぞ!!!」
キヅカの声にボルディアは即時反応すると飛び出して行く。
その背に「はい!」と険しい表情で羊谷 めい(ka0669)が応え、直ぐ様ボルディアのイェジドであるヴァーミリオンの後に己のイェジドであるネーヴェを追わせた。
イェジドとリーリー、そしてオウカのオファニムからなるA班の機動力は高い。
ほぼ足並みも揃えてあり、交代時には全力移動すればすぐに辿り着ける距離のハズだった。
まさか、キヅカ達B班が押し返しこそすれ、本当にハヴァマールを一歩も前へは動かさなかったのは誤算としか言いようが無い。
砲撃班による銃弾は絶え間なく続いている。
「まさか全然こっちに来ないなんてアリ?」
作戦が上手く行っている、というのは良いことだ。とメイム(ka2290)は刻令ゴーレム「Volcanius」のホフマンと共にキヅカ達の初期位置から220m離れた地点から戦況を見守っていた。
とはいえ、戦闘が始まってからまだ3分も経っていない。
ハヴァマールはその一歩を踏み出せば多少左右にぶれたとしても確実にホフマンの射程内に入る。
だが一方で、キヅカの攻性防壁のお陰でハヴァマールが後方に押されてしまっている状態ため、このままでは前線の班が交代するタイミングに砲が届かない可能性が浮上している。
悩んでいたところにキヅカの『ヤバイかも』という発言が飛び込んで来た。
「コストかけたんだもん、働いてもらわなきゃ、ね。ホフマン」
メイムはCAMよりも巨体を持つホフマンを見上げ最大射程まで前進するよう命じたのだった。
『皆、逃げて!!』
キヅカの叫び声の直後、衝撃音が通信器越しに響き、誰のものか判らない呻き声が漏れた。
『いかん!』
カナタの声。オウカが前方を見れば、傷を負いつつも高く空へと逃げたラヴェンドラの姿。
『……やべぇな……砲撃準備! 野郎に圧力かけて立て直しの時間を稼ぐ!』
『射線クリア、マテリアルビームを使う!』
『あいよ』
『合わせるのじゃ』
アニスの指示が飛び、少しずつハヴァマールと距離を詰めていた近衛 惣助(ka0510)の宣言と共にカウントダウンが始まり、『FIRE』の声と同時に惣助と月海から放たれた2本の光線が走る。
それを追うようにしてミグの放ったプラズマバーストがハヴァマールの顔面を巻きこみ大爆発を起こす。
『ホフマン、連続装填指示。炸裂弾×2撃て―♪』
メイムの声と同時にハヴァマールの頭上で爆音が轟いた。
その煙の向こう。
蒼白い瞳が光り、振り上げられた剣は無造作とも言える動きで前を薙ぎ払った。
「キヅカァッ!!」
ボルディアの声がこだまする。
全身を雷光で包むように弾けさせながら、キヅカはまだ立っていた。
「夢を魅せてくれたルミナちゃんが語ってた。僕を好きだと言ってくれた人が願ってた。誰もが笑って生きれる明日であるように、と」
旗槍を杖代わりにして。
「今度は僕が……明日を照らして見せる。諦めたりなんかしない、あの日の思い出が、生きてきた想いがあるから!」
イェジドに騎乗したヴァイス(ka0364)が、アイビス・グラス(ka2477)がキヅカの前に飛び出てその背に庇う。
「キヅカ!」
ボルディアがキヅカの肩を掴むと、その眉を撥ね上げた。
「……立ったまま気絶してんじゃねぇよ!」
「キヅカどん!」
キヅカに頼まれ、気を失っているアリアと奏多を森の奥へと運んできたカナタが駆け寄り、キヅカをR7の両手で大事そうに包むと、直ぐ様踵を返した。
奏音は間一髪のところをラヴェンドラが運んで行くのをオウカが見届けていた。
「今はよぉ、帝国が生まれ変わろうって大事な時なんだ。茶々は入れねぇで貰おうか、ハヴァマール!」
ボルディアがと同時に、6名による猛攻が始まった。
●蹂躙
「うにゃーーっ! じいじは大人しく寝てるんだよっ★」
射程ギリギリからユノ(ka0806)が放ったブリザードは左上腕を見事凍り付かせ、追従するようにアルマ・A・エインズワース(ka4901)のデルタレイが炸裂した。
射程ギリギリからの攻撃は仲間からの支援を受けられないが、代わりに2人はリーリーに騎乗しているため、素早く林の中へと身を隠し、万が一にもあの薙ぎ払いが届かない位置へと逃げ込む。
一方、ハヴァマールの正面に立ったボルディアはザイフリートを高々と掲げ、己の正義を力へ変え周囲の仲間を鼓舞する。
アイビスは騎乗したまま戦うつもりだったが、そうするとラージェスと同時に攻撃を仕掛けることが出来ない為、一度降りるとラージェスには連携を重視するよう命じる。
「グレン、今回も厳しい戦いになるが宜しく頼むぜ」
ヴァイスの声に応えるようにグレンの深紅の尾が揺れ、地を蹴った。
身捧の腕輪が蒼い炎のようなオーラを放ち、七支槍の穂先に灯り、その勢いのままハヴァマールの左腕を刺し貫いた。
めいは戦う事は嫌いだ。それでもそれ以上に誰かを守り癒やしたかった。だから、圧倒的な存在を前に震える手で錬金杖を握り締めると、精霊に祈りを捧げ、盾として立つボルディアのマテリアルを活性化させる。
砲撃班の砲撃を受けつつもその威力に衰えは無いまま……むしろ勢いを増して巨大な剣が振り上げられ、重いうなり声を上げながら振り下ろされた。
『……またソレか』
ハヴァマールのひと薙ぎを吸い込むように1人受け止めたボルディアはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「無駄だぜ。俺はもう、俺の目の前じゃ誰も死なせねぇって誓ったんだ」
肌を流れる血液が燃える様に立ち上ると再び体内へと還り傷を癒やす。
『そうか』
ハヴァマールの口から負のマテリアルが溢れ出た。
『ならば、耐えてミヨ』
惣助は闇光作戦の終盤、フレーベルニンゲン平原でのハヴァマールとの戦いに参加したときのことを思い出していた。
あの時はフレーベルニンゲン平原に不時着したサルヴァトーレ・ロッソを目指し爆走するハヴァマールを足止めしろという作戦だった。
あの時はスキルを吸収するという特徴があるゆえに、物理的に止めようと仲間と共に工夫を重ね、3体のCAMと魔導トラックから4本の魔導鈎を発射し絡ませ、その手のひらにCAM刀を突き刺し、物理的に大地に張り付けた。
「大規模作戦では楽に振り払われたが、今回はそうはさせん」
その直後、簡単に身を起こされたのは苦い思い出だが、あの時から自分達は明らかに強くなった。
CAMも新型が作られ、新しい能力の開発も進み、装備もより質の良いものが生産されるようになった。
……なのに、今なおどうしてもハヴァマールとの力差が縮んだようには思えない。
脳裏を掠めた厭な予感を振り払うように操縦桿を握り直すと、仲間と合図を送り、凍結弾をハヴァマールの右肩へと撃ち込んだ。
ハヴァマールの口が開いたと思うと、ハヴァマールの眼前に巨大な火の玉が形成され、落ちた。
「なっ!?」
恐ろしい轟音と爆風。オウカの目の前、直径50mの範囲が一瞬で焦土と化した。
『コレは当たる』
「いったぁ」
「……無茶苦茶だな」
「今癒やします!」
オウカ以外の6人と紫苑、その幻獣達、それからレイオスが一撃で深い傷を負ったのが見える。
『何が起こった!?』
シガレットからの声にオウカは見たままを伝えた。
「はぁ?! 特大ファイアーボール!?」
オウカの言葉をシガレットはオウム返ししながら工作班の2人と目を合わせた。
『あぁ。そうとしか言いようが無い。直径50mが範囲だ』
「え? そんなの飛んできたら俺とか一撃で死ぬんじゃ無い?」
ロジャーが全身を震わせ、ルンルンは神妙な顔で頷く。
「ロジャーさんの丸焼きはあまり美味しそうじゃなさそうです」
「そこ!?」
やいのやいのと騒ぐ2人を置いて、シガレットは兜の下の頭を掻いた。
「とりあえずこっちは最短ルートに穴と壁は用意した。また戦況が変わるようなら教えてくれ」
聖導士として駆けつけるべきかと確認したが、まだめいが健在であり、ロニとカナタも駆けつけているというのでシガレットは牧場での待機を続ける事にする。
思わずスーツの胸元に入れた煙草に手を伸ばしかけ、手のひらを握り込む。
戦況に応じてと言うのは容易い。だが、この待つ時間が3人にはとても長く感じたのだった。
ボルディアは強く奥歯を噛み締めた。
ラストテリトリーは自分が敵の攻撃の直接の対象となった時にのみ発動する。
つまり、空間を対象とするような技には通じない。
「こんな大技隠してやがったのか」
ボルディアの傷はすぐに再生を始め、さほど深くは無い。が。
「ヴァン、行けるか?」
問われたイェジドは“問題ない”と言わんばかりにその場で土を掻く。
だが、仲間は。
『ロニとカナタがすぐに駆けつけると連絡をくれた』
通信器を持たないボルディアの為に、オウカが拡声器から報告を入れ、前へと躍り出る。
「そりゃ、助かる」
あんなのは避けようがない。それでも通すわけに行かないのだから、立ち続けるしか無い。
腹はとっくに決めてきた。
『ほう、まだ立つか』
「ったりめぇだ! 死が救いとか言うテメェ如きに、俺の覚悟が破れるワケねぇだろうが!」
「根比べと洒落込みましょうか……!」
ボルディアが叫び、めいから傷を癒やして貰ったアイビスが立つ。
その横でヴァイスは冷静にハヴァマールの損傷度や回復速度、回復方法の観測、攻撃を行う際の癖が無いか観察し続けていた。
(もしも推測が正しければ)
ヴァイスは1つの推察に行き当たるが、まだ口にするには早いと静かに槍を構えた。
砲撃が右腕を打ち砕く。
それを見て4人もまた左腕を破壊すべく反撃へと乗り出す。
「シオン、大丈夫ですーっ!?」
木々が無くなったお陰で露見した紫苑とマイルを見つけたアルマが駆け寄ると、全身を煤だらけにした紫苑が首を横に振った。
「正直かなり痛い」
マイルもかなり酷い怪我を負っているのが見え、ミーティアが心配そうにきゅるると鳴いた。
「アルマ、あの計画だが……」
「はい。無謀でしたね」
ロープで固定出来ないかな大作戦を考えていた2人だが、流石のハヴァマールがロープ如きで止まるわけも無いとここに来て気付く事が出来た。
「大人しく戦いましょう。さぁシオン、いっしょにやるですーっ」
「了解」
2人は同時に己の武器にマテリアルを集束し始めると、真っ直ぐにハヴァマールを睨み付けたのだった。
『ちょっとぉ、回復が早いんじゃないですかねぇ!?』
右腕大破に喜んでいた海斗がゲェッと呻き声を上げる。
あの大技の後だ。少しぐらい疲労の色が見えても良い物だが、その辺りはやはり“生物”でない以上、期待するのが間違いか。
撃ち砕いた右腕がみるみるうちに再生し、取り落としていた剣を掴んだ。
『では、コレはどうカナ?』
ハヴァマールの蒼白い双眸が一瞬深紅に瞬いた、次の瞬間、ボルディアの躯が衝撃に揺れた。
「ボルディアさん!」
『ふむ』
双眸から発せられた光線は恐らく視線の先を一直線に貫くものだったのだろう。
ボルディア1人に集約したのを見て、ハヴァマールは納得したように頷いた。
「大丈夫だ。俺より自分やイェジドを優先してやれ」
悲鳴混じりに名を呼ぶめいへと声を掛けつつ、ボルディアは再度旗を掲げた。
「俺の正義はこんなところで折れたりしねぇ!」
「立て直しが終わるまでフォローするぞ! 制圧射撃準備!!」
アニスの声に惣助とミオレスカの機体が銃を構えマテリアルを注ぎ弾幕を放つ。
「こっちもいくよー!」
メイムの声と共にホフマンから再び二重の炸裂弾が飛び、ハヴァマールの周辺は視認出来ないほどの弾幕と爆発に包まれた。
カナタによって回復して貰ったレイオスは直ぐ様攻撃へと身を転じる。
焦土となった大地は逆にバイクで進みやすかった。
まだ貫徹の矢は数回分残っている。大きくレピスパオを引き絞り放つ。矢はハヴァマールの右肩を貫いた。
ミリアもまた諦めてはいなかった。
特殊訓練を受けたことによりさいふぁーの攻撃命中は安定している。
ならばミリア自身は操縦に専念し、さいふぁーに攻撃させればいいのだ。
たとえ強力な一撃を放てなくとも、視界を横切るような遊撃としての務めならばそれで果たせる。
練り上げたマテリアルをアルマと紫苑は同時にデルタレイへと変換し放った。
2つの三角形が重なり合い、6つ頂点からまばゆい光りが真っ直ぐにハヴァマールの頭部と右腕や肩を貫いていく。
アイビスが錬気と鎧徹しを合わせた一撃で指先を狙うと、合わせてラージェスもそこへ目がけて狼牙で食らい付き、噛み千切った。
オウカはハヴァマールがやや上体を浮かせたところで胸骨の向こうにいる中枢体目がけてプラズマクラッカーを放った。
衝撃に空気が揺れるが、煙が晴れた時に見えたのは先ほどと寸分違わぬ外骨格。
「……鎧と同じなんだ」
渾身の一撃を左腕に叩き込んだ後、バックステップで距離を空けるグレンの上、ヴァイスが呟いた。
「いや、いっそCAMに近いのかもしれない」
そしてその鎧は骨から出来ている。その骨は遥か古の時代より集められてきた物なのだろう。
昨日今日の死者ではない。北方王国があった頃にはすでにハヴァマールは存在していたのだから。
もちろん、マテリアルが枯渇すればハンター達を直接捕らえ吸収するかも知れない。
だが、今回は最初からサンデルマンを捕らえるという目的を持って来た。
しかもここに来る前にはどこぞの温泉地でリフレッシュまでして来ているという話しもあった。
……いや、それが本当にハヴァマールのリフレッシュになったかはわからないが、ハヴァマールにも相応に準備する時間はあったという事だろう。
吹き飛んだ指先は骨と骨のぶつかる軽やかな音を立てながら直ぐ様再生される。
起こされた上体、透けて見える中枢体が不気味に笑ったようにミオレスカには見えたが、ハヴァマールは動かない。
「……制圧射撃が、効いています!」
ミオレスカがすかさずフォールシュートを仕掛け、それに続いて砲撃班の追撃が行われる。
重体者を第六師団へと預け終えたロニにより、リーリーも回復して貰ったユノが戦線に復帰すると、リーリーの脚力で一気にハヴァマールへと肉薄しハヴァマールの背部に紫色の光を伴う重力波を発生させる。
アルマと紫苑は再びマテリアルを練り始め、オウカはプラズマクラッカーを再度炸裂させた。
ラージェスが幻獣としての力を解放し、左手首の一部を噛み砕く。そこを狙ってアイビスもまたディスターブを叩き込み、ヴァイスも引き続き渾身の一撃を左腕に沈めた。
めいは自分か、ヴァイスか迷い、ヴァイスの回復を優先することにした。
「俺より自分を……!」
首を横に振り、精一杯の笑顔でめいは告げる。
「自分が傷つくより、何も守れないほうが、ずっとずっと嫌なんです」
その時、ハヴァマールを覆っていた弾幕が、晴れた。
ハヴァマールを見上げていた一同は、その巨体が重力に従って……自分達へと振ってくるのを見た。
否。ハヴァマールを遠方から見ていた者達は、起こされていた上体が加速して大地へと倒れ込むのを見た。
派手な音を立て、地面が揺れる。負のマテリアルをはらんだ爆風が大地を駆け、その突風によりハヴァマールの周囲20m以内にいた者達は吹き飛ばされ、大地へと転がった。
そして、間髪入れずに凶刃が前方周囲30mを薙ぎ払った。
『コレは通るか』
起き上がったハヴァマールの前胸部は骨が殆ど砕け落ちている。
「今だ! 前胸部を狙って撃て!!」
アニスの声に、砲撃班は一斉に胸部を狙って攻撃を開始する。
銃弾による雨が再びハヴァマールを覆うが、ハヴァマールは意に介さず、ただ一点を見ている。
そこには、ヴァーミリオンから転落しつつも身を起こし、槍を構えるボルディアの姿があった。
『ふむ……大体判ッタ』
ハヴァマールは満足そうに告げると、剣を振り上げた。
『では、アト何回耐えられるか、試スとしよう』
そこからは、ハヴァマールの連撃が降り注いだ。
●絶望の足音
「……ヤバイ。ちっと俺も行ってくるぜェ」
鉄心のコントローラーをロジャーに投げ渡すと、シガレットは愛馬の腹を蹴って林の中へと飛び込んだ。
敵が殆ど動いて居ない。ある意味成功だろう。しかし、引き付けすぎたのだ。
加えてハヴァマールは元々“その者が何を得ようとしているのか”を見届けたがる性質があった。
それは対象が歪虚であっても、ヒトであっても変わらない。
興味を引かれれば、それを“貪り尽くすまで”止まらない。
サンデルマンの元へ行かせてはならないが、その地形を利用した戦いを望むのであれば、自分達が有利に運べるよう誘導する必要もあったのだ。
このままでは死者が出る。それだけは避けたい。
それはこの作戦に参加する多くの者が胸に宿す願いだった。
「前衛含めて全員無事に帰すかんなー!」
海斗が月海を走らせ、いつでも接近戦闘に移れるよう徐々に距離を詰めていた兵庫は、ついにマシンガンへと持ち替えた。
アニスと近衛とミオレスカが冷弾を撃ち込みその腕を止めようと試みるが、一瞬凍り付いたように見えてもすぐに溶けてしまう。
「止まってください……!!」
サクラのプラズマキャノンは確かにハヴァマールに命中しているのに、その手応えを実感出来ない事にサクラは柳眉を寄せる。それでも砲撃の手は止めず、ハヴァマールから目を逸らさない。
ホフマンは炸裂弾を撃ち込み続けさせていたが、メイムとしては煙幕弾が届かない距離のままな事に内心焦燥を抱えていた。
だが、たらればを言っても仕方が無い。ナイトハルトとの戦いに決着が付くまでは、どう戦況が変わるかも判らないのだと自身に言い聞かせ、万が一炸裂弾が尽きても戦況が動かないときにはこちらが動こうと決めた。
「まるでじゃんけんじゃな。」
ミグは自身のマテリアルを活性化させることで多重性強化の副作用として内腑に負った傷を癒やしつつ、砲撃を重ねながらつらつらと考えていた。
(相性が悪ければ強力な力を持つ大精霊ですら歪虚王に太刀打ちできんとは、力関係と言う物は矮小なる人が考えるほど複雑な物ではないのやもしれぬな)
口の端から流れた血を無造作に拭った結果、頬にまで赤が伸びて固まっているが、それを気にしている余裕は無い。
(まあ、そんな力ある者に頼りにされるとは誇らしくもあり、面映ゆくもある。長生きはしてみるもんじゃな)
壮絶な笑みを浮かべつつ、正確無比な射撃で仲間をフォローしていく。
アルマは深手を負った紫苑を連れてルート外へと一度引き下がった。
リーリー達は紫苑よりもさらに深手で動けないため、これ以上は危険だと判断したのだ。
「まだ、行ける」
「だめです。シガレットさんがくるまでシオンはここでガマンですー」
ぴしゃりと突っぱねて、アルマは立ち上がる。
「シオンの分まで僕がんばってきますね!」
「アルマ!」
紫苑の呼止めを無視して、アルマは戦線へと走り出した。
ロニは上空からレクイエムを歌い続けていたが、ハヴァマールにその歌声が届くことはなかった。
もう回復スキルは使い果たし、あとは足止め用のプルガトリオが7回。だが、ボルディアが引き付けている今の状態であれば使う時では無い。
ラヴェンドラのレイン・オブ・ライトは1回とファイアブレスが3回。
ロニは慎重に機を待っていた。
カナタもまたフルリカバリーの残りはあと1回のみだった。そもそもこれは愛機用として準備して来ていたため、まさかハッチを開けて対応することになろうとは思っても無かったが。
ハヴァマールを見る。中枢体を攻撃すれば他の再生も鈍るだろうと思っていたが、そもそも中枢体は上体を起こせばここからでも見える。のに、攻撃は届かない。
ヴァイスの『CAMに近いのかも知れない』という言葉には半分同意で半分は否定的だった。
何故ならこの超越体は超越体だけでも動く事が可能なのだ。
それを知っているゆえに、カナタは超越体を囮に、中枢体だけがサンデルマンの元へと向かうのでは無いかと警戒している。
「“邪神こそが救い”」
ハヴァマールが言った言葉をカナタは考え続けている。
再び見える時までに考えておくと告げはしたが、まだ、答えは見つからないまま。
ただ今はその足を止めるためだけにガトリングガンを回し続けた。
『モウ仕舞いか?』
あれから3度腕をもがれ、剣を取り落とし、その度に再生しては攻撃をして来ていたハヴァマールが、肩で息をするボルティアを見て問う。
ボルディアが守り続けたおかげで、倒れためい、ユノをオウカと海斗が運び、第六師団へと預けることが出来ていた。
「いや、まだまだ!」
全身から流れる血が炎のように揺らめく。
ラストテリトリーはもう使い切った。
「ふむ……そろそろ飽いた」
いままで殆ど動かなかった左腕が動き、ボルディアを掴んだ。
主を守り切れなかった事に衝撃を受けたヴァーミリオンが低く唸り、その手首へと噛みつく。
「させぬ!!」
これを恐れていたカナタは、ゆえに即時反応することが出来た。
猫七刀にストライクブロウを乗せて飛ばしハヴァマールの左上腕を打つ。
それを見たヴァイスとアイビスも左前腕へと攻撃を繰り出すと、オウカが意識を引き付けようと中枢体へ向かってマテリアルビームを放ち、駆けつけたアルマのデルタレイが左前腕と左肩口、顔面にヒットする。
砲撃班が誤射を恐れ攻撃を躊躇う中、1つの影がハヴァマールの頭上を過ぎた。
「っせーーーーーーい!!」
頭上からミリアが文字通り“降ってきた”。
渾身の力を込め、重力を味方にし、衝撃力を上乗せしたミリアの一撃が、ハヴァマールの左肘から叩き斬ったのだ。
切られた前腕ごと地面に叩き付けられたボルディアはマテリアルを吸われた事も重なり意識を失っているが、呼吸は正常なのを確認してアイビスがホッと胸を撫で下ろした。
その次の瞬間、ハヴァマールの双眸が赤く光った。
蒼白い光りが双眸から発せられるとそれはアイビス達を巻きこみ真っ直ぐにアルマまで伸び、貫いた。
そして、大きな足音が、響いた。
●驀進
ハヴァマールの左腕が再生されると、ついにハヴァマールは前進を始めた。
「っ! 撃て!!」
兵庫の叫びに砲撃班は衝撃から我に返ると各々銃を構え引き金を引く。
ロニが精神を集中させ闇の刃を生み出すとハヴァマールを串刺しにする。
動けなくなった事に気付いたハヴァマールは周囲を見回し、そして再び火の玉を吐き出した。
「いかん……!」
ラジェンドラのお陰で間一髪避けたロニだが、地上はそういうわけにはいかなかった。
機体の損傷はそれほどでも無かったが、直撃を喰らったミグは元々のダメージもあって気を失っていた。
「出来るだけ向こうの移動を抑えたい所ですが……く、止まってください……!」
サクラが懇願しつつプラズマキャノンで攻撃し、接近戦の出来る兵庫、海斗、オウカが再度腕へと刃を突き立てる。
惣助とアニスが引き撃ちしながら工作班側へと誘導を開始する。
側面からはミオレスカもスラスターライフルで撃ち続ける。
「やっと来たー♪」
ハヴァマールが射程に入った瞬間、頭部を狙うようメイムは指示を出す。
煙幕弾は狙い通りにハヴァマールの頭部に炸裂し、その視界を奪う。
……が、ハヴァマールは意に介さずその煙幕を抜けて歩みを止めない。煙幕弾はその場に留まり効果を発揮する性質があり、ハヴァマールの一歩はその煙幕を抜けるだけの距離を持っていた。
周囲の木々を薙ぎ倒し踏みつけ押し倒しながらズンズンと進んでいく。
もう一発、とメイムは再び煙幕弾を発射させると、ハヴァマールの歩みが止まった。
「……よし!」
あとは全力でコロッセオに向かって移動し、先回りをしようとメイムがホフマンに命じようとしたその時。
「あらやだわ」
メイムの頭上に火の玉が出現し、落ちた。
『メイムさん!』
ミオレスカの悲鳴が上がる。
「……はーい、何とか生きてるわよー」
メイムはパルムの力を借りて自分を癒やすと、巻きこまれて死んでしまった愛馬に黙祷を捧げた。
再び歩き出したハヴァマールへサクラは少しずつ交代しながらも銃撃を繰り返していた。
「ダメです! 止まって……!!」
サクラが放った弾丸が、ハヴァマールの右肩を貫くと、ハヴァマールは立ち止まった。
次の瞬間、ハヴァマールと目が合った。
「っ!」
距離はいつの間にか100m近くまで縮んでいた。
そしてハヴァマールの瞳が赤く輝いたのを見たのが、サクラがオファニムから見た最後の光景となった。
レイオスは必死にバイクでドラングレーヴェの元へ帰ろうと走っていた。
しかし、木々を避けなければならないレイオスと違い、薙ぎ倒して突き進んでいくハヴァマールは圧倒的に早い。
「やばい、やばい、やばい」
レイオスはドラングに通信器を持たせていなかった。
基本、Volcaniusは主の声が届けば命令を実行できる。だが、何分も前の命令を保持して実行する能力はないのだ。
そして、今、ハヴァマールが一直線に進んでいるその先に、ドラングはいる。
正面は避けて置いたのに、ハヴァマールの進行方向がずれたのだ。
せめて工作班に万が一の時には代理で動かして欲しいと伝えていれば今頃こんなにも焦らなくて済んだだろう。
レイオスは巧みなドライビングテクニックで木々の間を爆走し続けた。
「あれれー? なんか微妙にずれているっぽいです」
「マジで? こんだけ待たされて役に立たなかったら、皆に顔向け出来ねぇぞ」
徐々に近付いて来るハヴァマールを見て、ロジャーとルンルンはコロシアムの位置と自分達の位置を見比べる。
「……もうちょい向こうっぽいな……手前の罠は無理でもあの中央に作ったヤツに招き寄せれば何とかなるか?」
「ナイスです! その案で行きましょう」
徐々に大きくなる地響きに、ルンルンはハヴァマールをおびき寄せる為に牧場の中央付近へと躍り出る。
ハヴァマールは道中、右に、左にと目から光線を出したり、周囲を薙ぎ払ったりしながら、着実に牧場地へと歩みを進め、ついに木々を薙ぎ倒し、牧場地へと姿を現した。
その、弾き飛ばされた木々に混ざって、レイオスのドラングレーヴェが木々に押し倒され、あげくにハヴァマールの腕に蹴り飛ばされ横転していく。
「ニンタンクちゃん、出番です!」
大輪牡丹が炸裂弾を放つ。
ハヴァマールが大輪牡丹を見て、ルンルンを視認した。
「正義のニンジャとしては、巨大な悪を放っておくなんて出来ないんだからっ!」
3体のゴーレムに囲まれたルンルンはビシィッと指を指してポーズを決める。
ハヴァマールの後方からは銃声が響く。まだ動ける砲撃班の仲間達が背後からハヴァマールを撃っているのだ。
そこにはアニスたちと合流し、彼女達砲撃班を癒やしながら後を追ってきたシガレットもいた。
ハヴァマールは両手で這うように移動している為、後方への対応手段が少ない。
背後からの攻撃は大きな的に当てるような物で、正面から相手にするより余程安全だった。
ここからまた本格的にCAMによる砲撃が始まる。シガレットは邪魔にならないよう再び林の中へと潜りながらルンルンのいる場所を目指すことにした。
シガレットと交代するように砲撃班と合流したのはロジャーだ。
ロジャーはイチイバルに剛力矢をつがえると、マテリアルを集束しながら引き絞る。
ハヴァマールは牧場地を見、ルンルンを始めとするゴーレム達を見、背後から撃ってくる砲撃班を見る。
牧場地には何故か、不規則に高さ3m、幅2mの土の壁が立っている。
ハヴァマールからすればこのような物は気にするほどでは無い。何しろここまで樹木を薙ぎ倒してくる程だ。高々数枚の土壁がハヴァマールの行く手を遮ることはまずない。
ハヴァマールはルンルンを無視して直進しようとする。
「えぇ!?」
驚いたのはルンルンで、そのまま林へ直進されれば折角のトラップがほぼ回避されてしまうことになる。
その上、黒耀封印符は12m以内に近付かなければ発動出来ない。
ハヴァマールの一歩は恐ろしく大きく、これ以上離れてしまっては騎乗していないルンルンにはとても追いつけない。
「こ、来ないともっと撃っちゃうんだからー!」
大輪牡丹が再び火を吹く。ハヴァマールの右腕が崩れて落ちた。さらに背後からも砲撃が続く。
ハヴァマールが縦に剣を振った。
生み出された剣圧は間にある物全てを切り裂く真空の刃となって鉄心を貫いた。
『……ずれたか』
「あわわわわ……!」
その威力にルンルンは青くなるが、この広い牧場地に逃げ場も隠れる場所もない。
「こ、こうなったら最後まで諦めません! 勝つまでは!!」
ルンルンの気丈な宣言は無情にも頭上に現れた火の玉により沈黙を選ばざるを得なくなった。
『サテ』
ハヴァマールはゆっくりと振り返ると、砲撃班、そしてロジャーを見た。
「来いよ暴食王! そんなハリボテなんて捨てて掛かってこい!!」
その言葉が聞こえたのか。
ハヴァマールは空を仰ぐように顔を上に上げた。
空が暗くなった様に感じた時には、業火の塊がロジャーの頭上に降ってきた。
そしてロジャーは一命を取り留めたものの愛馬を失うことになったのだった。
●あっけない終わり
『動けるか?』
アニスの言葉に、兵庫と惣助、そして海斗が『まぁなんとか』と答えを返す。
『あたしも生きてるよー』
メイムが答え、ミオレスカも『行けます』と返事をした。
『今回復に行く』
シガレットが告げ、カナタが『最後の回復使ってしもうたのぅ』と嘆く。
ハヴァマールは空を仰ぐように見上げたまま、止まっていた。
そして、地面に吸い込まれるようにその姿を小さくすると、超越体から中枢体の身体へと変貌した。
カナタは此処からハヴァマールが一気にコロッセオに向かってしまうことを危惧したが、どうにも様子がおかしい。
『そうか……』
一言。静かにそう呟くと、ハヴァマールは再び変形し始める。
「いかん! 馬になって一足飛びに……」
しかし、馬の姿を取ったハヴァマールはコロッセオに背を向けていた。
そして、そのまま何処かへと走り去ってしまった。
「……終わった、のか?」
アニスがモニター上の何処にもハヴァマールの気配がない事を確認し、柳眉を寄せる。
その時、大きな花火がコロッセオの方から鳴り響いた。
そして全員の通信器から、一斉に吉報が飛び出した。
――ナイトハルト、撃破。
ハンター達は甚大な被害を出しながらも、ハヴァマールの侵攻を阻止したことを知り、誰もが深い溜息と共に身体を弛緩させたのだった。
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