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【天誓】ニーベルンゲンの歌「不破の剣豪討伐」リプレイ


▼【天誓】グランドシナリオ「ニーベルンゲンの歌」▼
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作戦1:不破の剣豪討伐 リプレイ
- エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
- ナイトハルト
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- イスト(ユグディラ)(ka0502unit002)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- 紫電の刀鬼(kz0136)
- マッシュ・アクラシス(ka0771)
- 小宮・千秋(ka6272)
- セバスニャン(ユグディラ)(ka6272unit001)
- フォークス(ka0570)
- リリティア・オルベール(ka3054)
- 倶利伽羅(ワイバーン)(ka3054unit001)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- オルテンシア(ユグディラ)(ka2531unit002)
- 保・はじめ(ka5800)
- 星野 ハナ(ka5852)
- グデちゃん(ユグディラ)(ka5852unit004)
- 狭霧 雷(ka5296)
- ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
- カイン・マッコール(ka5336)
- ジャック・エルギン(ka1522)
- ヴァルナ=エリゴス(ka2651)
- リュー・グランフェスト(ka2419)
- 紅薔薇(ka4766)
- 神楽(ka2032)
- ミィリア(ka2689)
- 叢雲(イェジド)(ka2689unit001)
- ソフィア =リリィホルム(ka2383)
- ウィンス・デイランダール(ka0039)
- ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- 春日 啓一(ka1621)
- フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- シェリル・マイヤーズ(ka0509)
- 八島 陽(ka1442)
- ルイトガルト・レーデル(ka6356)
精霊たちを保護したコロッセオ・シングスピラを臨む平原で、二体の歪虚はハンターらと対峙する。
遠方から響く銃声や爆音は、他のエリアでも戦端が開かれたことを知らせる。
ここが一つの分水嶺。この戦いの後、この国がどのように変わるのか。あるいは変わらないのか……それを決める戦場だ。
「約束通り、次に会えたのは戦場だったな……ナイトハルト」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が背にした大剣を抜き、それを両手で腰溜めに構える。
「この前のチェス勝負は勝ちをゆずっちまったからよ。代わりに今日はその負け分をたっぷり叩き返してやるぜ」
『此度の戦場は死地。今この時、人類に真価を問おう』
長短一対の黒塗りの剣を正面に交え、亡霊はその炎を滾らせる。
『行くぞ、英雄……! 我が疾走に喰らいついて見せよ!』
ナイトハルトの最初の行動は、自身に名乗りを上げる戦士への対応ではなかった。
正義とは勝者のみが口に出来る言葉。“勝たなければ生き残れない”世界を生きてきた騎士の本気とは、例外なく卑劣なもの。
ナイトハルトを待ち構えるハンターたちは、既にいくつかのチームに分かれている。であれば、そこから小単位に分かれて行動を起こすのは自明。
故に彼の最初の選択は、敵の呼吸を乱す事。一気に距離を詰め、そして長剣を空に掲げる。
『一切抹殺の伝承を此処に。汝は薙ぎ払い、復讐する者!』
ナイトハルトの纏う炎が色を変え、頭上に無数の火球が浮かび上がる。
『メテオスウォーム!』
次々に火球が大地へ着弾し、爆風を巻き上げる。
超強力な魔法の嵐に巻き込まれ、ハンターの姿は見えなくなった。だが――。
その中を突き抜け、リューリ・ハルマ(ka0502)は歯を見せ笑う。
「いきなりどっかんかんだね! でも、このくらいへっちゃらだよっ!」
リューリはファントムハンドを放ち、ナイトハルトの身体を拘束する。そして思い切り自らに向かって引き寄せた。
「アルトちゃん!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は先の爆風を回避し、後押しされるように加速。既にナイトハルトを追い抜き背面についていた。
両手に握りしめた剛刀をナイトハルトに叩きつけると、マテリアルの光が強く瞬いた。
『我が剣でも勢いを殺しきれぬか……いい得物だ』
「BOSS! 勝手に突っ走ると危険デース!」
抜刀した紫電の刀鬼(kz0136)が駆け寄ると、その間に主に遅れてやってきたイェジドのイレーネが割り込み、飛び掛かる。
「やれやれ……初手から派手な不意打ちですね。英雄的ではありませんが、実戦的ではあります」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は焦げた服を叩きながら星剣を掲げる。すると、ヒールの光が仲間を癒していく。
「いきなりでびっくりしましたねー。セバスニャンさん、早速回復ですよー」
小宮・千秋(ka6272)は相棒のユグディラ、セバスチャンと共にヒールを発動する。
今回の作戦ではユグディラが複数、癒し手として動員されていた。
「奴らをpairにさせとくのは拙い。切り離すヨ!」
フォークス(ka0570)が制圧射撃を仕掛けたのは紫電の刀鬼。
銃撃で行動を阻害する間に戦場を駆ける光がひとつ。リリティア・オルベール(ka3054)は刀鬼の側面に滑り込むと斬撃を放った。
刀鬼はすぐに回避モーションに入る。だが次の瞬間、リリティアの刃は無数に“分裂”した。
「Watt!?!?」
刀鬼の刀とリリティアの“神斬”が衝突し、続けて雷光が次々に瞬いた。
「あれ? もしかして見えました? 私もまだまだですね」
雷の嵐の中、身体を翻し踊るリリティア。刀鬼は肩を竦め。
「見えないから剣で防いだんデース! わけのわからん攻撃は止めて欲しいデース!」
『刀鬼、仕掛けるぞ!』
再び身体に纏った炎の色を変えたナイトハルトが左右の刃を構える。
刀鬼との距離は離れ、間にはハンターがいる。だが、その二体を完全には分断できていない。
つまり、2体の刃はちょうどこの戦域に広く響き渡る位置にあった。
『「縦横無尽!」』
「Fusion Specialデース!」
数え切れぬ程の剣撃の瞬く中、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は聖盾コギトを大地に叩きつける。
「顕現せよ、我が最期の領地! 誰も泣かない世界をここに!」
眩い光がアウレールを中心に膨れがっていく。
それはやがて暖かい風となって、少年の髪を揺らす。
「守護結界――情景、まほろば遥か(ゼーンズフト・ナーハ・アスガート)ッ!」
多数のハンターを切り裂くはずだった斬撃は湾曲し、吸い込まれ、アウレールただ一人を狙う。
ダメージに背後へ吹き飛び蹈鞴を踏むも、アウレールは健在であった。
「今がチャンスですぅ! いっきますよぉ?!」
「三家丸の晴れ舞台、僕にとっては勝ってからが本番です」
星野 ハナ(ka5852)と保・はじめ(ka5800)が符を掲げ、魔法を発動する。
「「黒曜封印符!」」
すると、紫電の刀鬼の足元に魔法陣が浮かび上がり、光の呪縛がその身体を覆った。
「ムムッ!? これは、東方の巫女術デース!?」
「貴方には、こちらの相手をしていただきますよ!」
狭霧 雷(ka5296)は刀鬼をファントムハンドで更に拘束し、引き寄せる。
刀鬼は雷化でこれを離脱しようとするが、スキルを封印されて雷を出せない事に気づく。
「雷出せないミーとか、火がつかないマッチみたいなんデースけど!?」
次の瞬間、死角から繰り出されたヒース・R・ウォーカー(ka0145)の魔導槍が刀鬼を貫いた。
ナイトカーテン。意識されなければ、自身の存在を隠匿できるスキル。
それはこのせわしなく変動する戦況において刀鬼の不意を突くことに成功する。だが……。
刀鬼はすぐさまヒースへ反撃を放つ。回避し着地したヒースは、槍の感触に眉を顰める。
「やはり亡霊型……闇雲に攻撃してもダメージは与えられないかぁ」
防具の内側にあるのは霊体であって肉の身体ではないのだ。
刀鬼が目を向けたのは自分に術をかけている三名のハンター。
紫電の刀鬼の機動力はナイトハルトをも超える。故に、その妨害さえされなければあっという間にナイトハルトと合流する事が可能だ。
当然だが二体の相性はよく、チームプレイとなれば先ほどのような強力な技を連発され、ハンター側は不利になるだろう。
この戦いにおいて、二体の歪虚を分断し続ける事はとても重要であり、しかし同時にとても難しい。
「あの引っ張ってくる術、霊体でも関係なく捕まえてくるので面倒デースね。しかし、あそこまで突破するには雷化の封印が邪魔デース」
黒曜封印符やファントムハンドは、刀鬼であれば数ターンで問題なく抵抗完了するだろう。
だが、いいところで逐一邪魔されるのは面白くない。
結果として刀鬼はこの三名を先に倒すという判断に至ったのだ。
●
「行くぞ、Wild Hunt。封印が効いている内に仕掛けるんだ」
カイン・マッコール(ka5336)が同行させたイェジドが機銃で攻撃を仕掛けると、それと同時にカインも斬魔刀を繰り出す。
雷化というスキルが封印されていても、刀鬼は圧倒的な回避力を持つ。故に攻撃をかわし、振り切らんと走り出した。
「ナイトハルトの最後の舞台が終わるまで、ボクと踊ってもらうよ、刀鬼」
その背後に構えるヒースは魔導槍にマテリアルを収束。そして光線を放った。
魔法攻撃は霊体にもダメージを与えられる。だがこれも刀鬼は素早く回避する。
「Damn it……自由にさせたら奴のペースだ!」
フォークスは制圧射撃で光を追うが、捕らえきれない。
紫電の刀鬼は高位亡霊型であり、そして超スピードを誇る歪虚だ。実は射撃系攻撃は効き目が薄い。
舌打ちし、遠ざかる光を追う為に全力移動に切り替える。
「このくらいじゃどうってことないデース! からの、既に封印はResistしたデース!」
バチバチと紫電を纏いながら加速するその姿がゆらりと光に溶け、大地を疾駆する。
狙いは狭霧、ハナ、保の三名。だが、その前にジャック・エルギン(ka1522)とヴァルナ=エリゴス(ka2651)が立ちはだかる。
二人は守りの構えを発動し、すれ違い様に刀鬼に攻撃を加え、そこで雷化による高速移動を解除させたのだ。
「俺の前を素通りしていくなって。寄ってけよ、お客さん」
「剣豪との闘いに水は差させませんよ。あなたにはここで止まってもらいます」
ヴァルナの瞳が輝き、テンプテーションの術が発動する。これを受けた刀鬼の視線がヴァルナに向くと、ジャックはバスタードソードにオーラを纏わせ、刀鬼へと繰り出す。
マテリアルを刃に纏わせるスキル、ソウルエッジ。物理攻撃を殆ど受け流してしまう亡霊型にも大ダメージが期待できる攻撃手段だ。
「今度はこっちから行くぜっ!」
「後ろ向けないデースが……!」
刀鬼は背後に刀を置くようにしてジャックの攻撃を受けると、目の前のヴァルナに向かって雷を纏った剣を振り下ろす。
しかし今度はジャックに吸い寄せられるようにその場で回転し、ジャックの腕のグローブで弾かれた。
「ヴァルナ、今だ!」
背後からオーラを纏った龍槍を繰り出すヴァルナ。が、刀鬼はこれを回避し、両手で構えた太刀で周囲を薙ぎ払った。
雷鳴と共に雷が迸り、防御した二人も弾き返す。その身体には強い痺れが残っていた。
「間合いを外されましたか……っ」
「モナ、回復頼む!」
地べたにペタンと張り付いていたジャックのユグディラ「モナ」が身を起こし、二人に回復を使用する頃。
既にその場を突破した刀鬼はまっすぐに狭霧へと迫る。
瞬く間に距離を詰めるとその勢いのままに斬撃を繰り出す。
盾で何とかこの一撃を防ぎ、狭霧は背後へ飛びながらファントムハンドを放った。
「同じ手は通じない? 残念、違う手です!」
狭霧は様々な射程に対応できるよう、複数のファントムハンドを持ち込んでいた。
何も手前に引き寄せる効果を適用する必要はない。その場で移動を封じるだけで、距離を維持できる。
「もう一度、スキルを封じさせてもらいましょう」
保が黒曜封印符を発動すると、同行させたユグディラ三毛丸がギターを唸らせる。
「三家丸、オンステージです!」
「今のうちに反撃ですよぅ! 皆さぁん、やっちゃってくださぁい!」
ハナが符を掲げると、眩い光が仲間のハンターへ降り注いでいく。
コール・ジャスティス。特定の対象と戦闘を行う瞬間のみ、味方を強化するスキルだ。
「では、お言葉に甘えさせてもらいましょう」
リリティアは全身からマテリアルを噴出させ、オーラを纏う。
そして手裏剣を手に、頭上を舞うワイバーンの倶利伽羅へ声を上げる。
「行きますよ、倶利伽羅!」
ワイバーンは滑空しながら翼に魔法陣を浮かべ、地上へ光線の雨を降り注がせる。
続いてチェイシングスローで接近したリリティアが、地面を擦る様に刃を加速させ、刀鬼を狙った。
その刀身は揺らぎを帯び、やがて達人の感覚においてのみ“分裂”する。
刹那の最中、空想の中で繰り返される応酬。刀鬼が選択する回避ルートと、それを潰すリリティアの剣の動き……。
結局、躱しきる事はできない。刀鬼はその刃を自らの刃で受ける事を選んだ。
雷がほとばしり、リリティアの身体が背後へ吹き飛ぶ。それを倶利伽羅が受け止め、その身体は空に舞い上がった。
「防御と同時にこちらに電撃を送り込む……厄介ですね」
「あいつ動きがキモすぎマース! ミーとの相性はイマイチっぽいですが!」
スキル封印は既に破っている。刀鬼はその左腕に雷を集め、そして前へ突き出す。
「接近するのが無理でも、ミーにはこういう技もあるデース」
放り投げるようなモーションで放たれた雷弾は空中でバーストし、更に加速。
「黒龍雷嵐波(ブラックドラゴンサンダーボルトハリケーン)!」
蛇行しながら突き進む雷の槍は、範囲貫通型魔法攻撃。これを阻止する手段を持つ者はいない。
雷に龍に噛みつかれた狭霧は盾で堪えようとするが、そのまま爆発に巻き込まれ大地に跳ねた。
よほど狭霧を邪魔に感じていたのか、十三魔の必殺の一撃である。狭霧は意識を失い、そのまま立ち上がる事はなかった。
「あの攻撃は拙いねぇ……リーチも威力もある。後衛を狙われると厳しそうだぁ」
「それ以前に、このままでは剣豪と合流されてしまいます」
ヒースがデルタレイを放つも、やはり命中には遠い。
刀鬼のスピードは常軌を逸している。文字通り、瞬間的とはいえ光に近い速度になっているのだから。
逃がさぬようにとヴァルナがテンプテーションを仕掛けると、ジャックが挟み討ちにかかる。
「花道に駆け付けるなんざ、歪虚にしちゃ律儀な野郎だ。正直嫌いじゃねぇが……活躍させてやるわけにはいかねぇな!」
ヴァルナ、ジャックによる入れ替わり立ち代わりの攻防が繰り広げられる。
それぞれが敵の注意をひいたり、攻撃を庇ったりと連携しつつ、守りの構えで雷化による突破を許さない。
フォークスはここで、刀鬼の武器や防具などを狙って妨害射撃を仕掛け、仲間の攻防を支援する。これならば制圧射撃より効果が得られる。
そこにカインとそのイェジドが加わり、体当たりで刀鬼をよろけさせた。
「やっぱり僕よりずっと強いか。でも一体だけで仲間がいるなら、ゴブリンよりは楽だ」
「犬がウザイデース!」
そこへ再びナイトカーテンで意識外へ隠れていたヒースが姿を見せ、途端に槍を繰り出す。
狙いは刀鬼の体内にある核。だが、そこだけをピンポイントで貫く事が出来ない。
「正義も英雄も関係ない。ボクは、お前を倒す。ただそれだけに全てを賭けると決めたんでねぇ」
「亡霊の核は丁度急所ってワケか。そこだけ撃ち抜くってのは、曲芸染みてるネェ……」
フォークスは懐に手を伸ばす。亡霊の身体の銃弾をいくら撃ち込んでも効果は薄い。ヒースのように、核を狙い撃つ……そのタイミングは慎重に見極めねばならない。
「何とか刀鬼の雷化を防いでください。そうしたら、私が暫く抑えられます!」
ワイバーンの足にぶら下がったリリティアの声にハナと保が顔を見合わせて頷く。
「もう一度、黒曜封印符ですぅっ!」
「三家丸は皆さんの回復を! 僕は修祓陣で援護します!」
ハナが黒曜封印符を発動すると、三家丸はギターで森の午睡の前奏曲を演奏。仲間の傷を癒していく。
倶利伽羅から飛び降りたリリティアは眼下に手裏剣を投げ、その軌跡を光となって追走する。
そうして再び刀鬼の眼前に出現すると、刀鬼の太刀目掛けて渾身の一撃を振り下ろす。
「はああああああっ!!」
「NOOOOOOOOO!? このっ、ゴリィーラッ!! ミーの身体は無事でも武器が折れるデース!!」
「失礼ですねー……でも、分かりやすいと思いませんか?」
衝撃に耐えきれず、余波で大地が砕け、土が空に舞い上がる。
「今この場はどちらが強いか……勝った方が正義という事で」
黒曜封印符への抵抗力も高まりはじめ、長時間のスキル封印は困難になりつつある。
だが、ことスキルさえ封印している間は、リリティアは単独で刀鬼と互角の戦いを繰り広げられていた。
常人の目では理解できない程の刃の応酬に、刀鬼も次第に研ぎ澄まされるよう加速していく。
「東方の術は本当に厄介デース……!」
封印を破り、雷を刃に纏う。そこから縦横無尽の斬撃が空間を八つ裂きにするに遅れ、雷鳴が轟いた。
大地が砕け、捲れ上がり、黒く焦げて吹き飛ぶ。光の中心に立つ刀鬼は、紛れもなく十三魔の風格である。
雷の嵐の中、素早く立ち上がったのはカインだった。
彼は鎧受けによりBSの強度を低下させ、抵抗に成功。背後から斬りかかるが、刀鬼は残像を残して姿を消す。
「消えた……?」
「ひえっ!?」
そして狙ったのはハナと保。雷を纏った衝撃波で二人を薙ぎ払うと、続けて掌に光弾を作り出す。
「これでウザい封印とおさらばデース」
「……刀鬼め、移動力が高すぎるねぇ……!」
ヒースは援護に入りたいが、刀鬼のスピードに振り回される。
だが、リーチの長いデルタレイでの攻撃で横槍を入れる事はできた。
その微妙な隙に、イェジドに跨って猛スピードで接近するカインが間に合い、イェジドごと飛び掛かる。
これにより、雷魔法の方向が微妙に逸れ、ハナと保への直撃は避けられた。しかし、爆発に巻き込まれ二人とも地面を転がる事になる。
「ぐっ……、くぅ……!?」
「いっ、痛いですぅぅぅ……でもぉ……こっちだっていろいろこの戦いに張り込んでるんですぅ! 簡単に落ちるわけにはいきませんよぅ!」
ハナは肩で息をしながら符をドローする。それと同時、同行させたユグディラのグデちゃんがリュートを奏でる。
「音楽はみんなに効いちゃうから痛し痒しですけどぉ……猫たちの挽歌ですぅ!」
周囲の“全員”の攻撃を無効にするユグディラのスキル、猫たちの挽歌。
つまり刀鬼だけではなく自分たちも攻撃が出来なくなってしまうが、追撃を受ければ戦闘不能待ったなしのこの状況では致し方ない。
それに、範囲外にいる仲間は問題なく攻撃が可能。つまり、フォークスの射撃やヒースの魔法、カインのイェジドの機銃などは影響を受けない。
また、保のユグディラが“回復”を使う分には問題ないのだ。
そうして攻撃で足止めをしつつ、挽歌の範囲から逃れるために自らの意思で刀鬼が背後へ飛んだところへ、追いついたヴァルナとジャックが魔力を帯びた武器を繰り出した。
「やらせねぇって言ってんだろ!」
フォークスは仲間の対応が間に合った事を確認し、魔導銃の銃口を持ち上げる。
銃を背負うと、代わりに懐から取り出した黄金拳銃を両手で構えた。
この銃には元々特殊弾「スヴァローグ」を装填してある。
ヴァルナのテンプテーションで視線がそちらを向いた時、フォークスは素早く引き金を二回引いた。
一発目の銃弾は、背を向けたままの刀鬼に回避される。
だが二発目の銃弾は魔力を帯び、弾道を捻じ曲げその胸を貫いた。
「――文字通りの隠し球って奴サ」
トリガーエンド。使えばその銃は負荷の結果リロードできなくなってしまうが、必中の効果を持つスキルだ。
いかに相手の回避が高かろうと、必中の二文字は揺るがない。
「ぬおぉ……!?」
ぐらりと刀鬼がよろけたその瞬間、リリティアの刀が繰り出される。
狙いは刀鬼ではなく、刀鬼が握る刃。最初から狙いはそこにあった。
不可避の斬撃から繰り出す一撃がキンと甲高い音を立てる。
そして次の瞬間、刀鬼の構えた刀は亀裂を走らせ、爆ぜるように砕け散ったのだった。
● ナイトハルトの鎧は人型をとってはいるが、人型に固執する理由はない。
あくまでも霊体を覆う外殻であり、それをつなぐのも霊体の持つ浮遊する能力である。
故に――繋ぎ目を引き延ばし、腕を鞭のように振るうなど、造作もない事である。
『ラウンドスウィング』
蒼い炎を纏った斬撃が円形に周囲を薙ぎ払い、吹き飛ばす。
その一撃すらアウレールは盾で受け止め、一つに収束させる。
ラスト・テリトリーは広範囲を薙ぎ払う攻撃から、自分一人を対象にすることで仲間を護るスキルである。
こうして連続で繰り出される攻撃にアウレールが耐えられたのは、仲間の支援あってのもの。
紅薔薇(ka4766)やリュー・グランフェスト(ka2419)のユグディラによる回復や、マッシュのアンチボディによる防御力の上昇にポーションを合わせ、既に四度の強力な範囲攻撃を堰き止めていた。
「お前等まだ解らないんすか! もう英雄に祈るだけじゃ助からないっす! だから俺達の正義を信じて勝利を願うっす!」
神楽(ka2032)は帝都へ中継される映像をゴーレムの上から撮影していた。
この映像を見た者たちが、ハンターを英雄として……正義として認め、その勝利を信じなければ、ナイトハルトを倒す事は出来ない。
「俺達は弱いけど皆が信じてくれれば世界だって変えられる。だから俺達と共に戦ってくれっす!」
『フン……だが、それも貴様を屠れば済む話であろう』
地を蹴り、滑る様に加速する。その動きから重力は感じられないが、加速に関してはかなりのものだ。
アウレールを目指すその進路を塞ぐように、マッシュとリューが守りの構えで立ちはだかる。
「ナイトハルトに成り代わって、皆を導く希望になる篝火となる!」
二人の繰り出す剣をナイトハルトは躱し、左右の剣で打ち払う。
『その程度で希望を名乗るつもりか?』
「まだまだぁ! うおおおおおっ!」
リューは太刀にソウルエッジを施し、鋭い突きを放つ。
だがこれを背後に倒れこむように回避したナイトハルトは、そのままリューの手元を蹴り上げ、空中で回転し刃を振り下ろした。
これを防いだのはミィリア(ka2689)だ。刃を差し込む様にしてガウスジェイルで自分に引き寄せると、アブソリュート・ポーズで全身から光を放つ。
「むんっ! これが女子力の光でござるーっ!」
発光と同時に謎の衝撃で背後へ吹き飛ぶナイトハルト。ここへ二体のイェジド、ミィリアの「叢雲」とソフィア =リリィホルム(ka2383) のズィルヴィントが飛び掛かる。
守りの構えと同じように移動を阻害しつつ、体当たりやウォークライで隙を作るとソフィアはヴァイザースタッフを振るう。
「わたしは英雄になんざならねぇ! 創る者として、人と世界の明日を創る!」
デルタレイの閃光を剣で打ち払うが、同時に接近してきた紅薔薇が二連撃を放つ。
これを次々に躱し、同時に左右の刃ですれ違い様イェジドごと切り裂くと、そのまま短剣を投げつけ、チェイシングスローでアウレールの眼前に移動する。
「相変わらず出鱈目な動きをしてくれる……アウレール殿!」
振り返りながら叫ぶ紅薔薇。剣豪は次々に斬撃を繰り出し、アウレールはそれを盾で防ぐのがやっとの様相だ。
だが、それでもまだ倒れず食らいついている。ナイトハルトの剣はどれも必殺。堪えられているだけで称賛に値する。
「私は貴方の在り様を見誤っていた。あの時気づかされた……王もまた“人”なのだと」
それはアウレールが辿り着いた一つの答えだった。
この世界に、当たり前の英雄など存在しない。その存在はいつも、誰かに望まれてそこにあるのだと。
「王なら、英雄なら人々の想いを背負って当然……そんな考えが、貴方を堕としてしまったのだな」
オーラを帯びた刺突一閃の衝撃で吹っ飛び、よろけるアウレール。その側面から、アウレールの姿を遮るようにウィンス・デイランダール(ka0039)の凍槍「大氷河」が繰り出された。
続けてイェジドと共にミィリアが駆け付け、アブソリュート・ポーズで注意を引き付ける。
「昔はなかった、新しい技! 剣豪さんも知らない力でござるっ!」
イェジドと共に連携し、行動阻害を入れつつ交互に攻撃を繰り出すミィリア。そこへソフィアを乗せたイェジドが追いつくと、デルタレイの光が繰り出される。
「移動が速すぎて追いつくだけでも一苦労だぜ」
ミィリアが妨害に入る間、ユグディラによるヒールがアウレールへ施される。
これをナイトハルトは黙って見てはいなかった。左右の剣で、次々に衝撃波を繰り出していく。
移動や単発の射線はミィリアがイェジドと共に作った壁で防がれるが、すべてを止める事は出来ない。
衝撃波の威力は本来の攻撃よりも威力が大幅に低下しているが、それでも戦闘能力に優れないユグディラを黙らせるには十分である。
「ニャー子を前に出しすぎるのは危険じゃな……」
「小技を全部止められるほど余裕もないしな……下がってろ、ミケ!」
範囲攻撃を防いだとしても、ナイトハルトは通常の三倍の手数を持っている。
それに加え、様々なクラスのスキルを打ち分けられるのだ。牽制の手段には困らない。
結論としては、この戦域でユグディラの回復を頼りにするのは危険であった。
「ユグディラの回復が頼れないようでは、立て直しが苦しくなりますね……」
そんな中、マッシュは自身も十分な戦闘力で生存を維持しつつ味方を回復できる癒し手として活躍する。
しかしだからこそ、ナイトハルトが次の攻撃目標に定めるに値するのだ。
衝撃波を放ちながら接近するナイトハルト。マッシュが攻撃に耐えていると、側面からファントムハンドが伸び、ナイトハルトを捕らえた。
「よっし、もう一回キャッチだよ!」
リューリが腕を引くような動きを見せると、ナイトハルトは側面に引き寄せられる。
そこに合わせてアルトのイェジド「イレーネ」が待ち伏せし、飛び掛かって更に移動を阻害する。
続けてアルト本人も飛び掛かり、素早く連続攻撃を繰り出す。
その刃はフェイントも交え、更に自在に軌跡を変える。回避を諦めた剣豪はこれに刃を合わせ防御。
続けて反撃で繰り出すのは、刺突一閃――その三連撃。
伸縮する腕そのものが長大な槍となり、大地を抉り飛ばしながら20m以上を吹き飛ばす破壊の嵐を躱し、アルトの剣が剣豪の腕を捕らえた。
蒼い炎が瞬き、刃が腕に滑り込む。そして力いっぱい振り抜くと、剣を握り閉めたまま、腕が大きく空に舞った。
『見事――だが』
剣豪の姿がアルトの視界から消える。空を舞う腕、そこに吸い寄せられるように剣豪は舞い上がっていた。
『グラビティフォール』
紫色の光が瞬き、次の瞬間大地が陥没し、土が舞い上がる。
続けて二発、ファイアーボールが大地を爆散させる。アルトはその炎に焼かれながら、しかし無事に背後に着地する。
「リューリちゃん、下がって! 一度射程外に出る!」
「ひえーっ、むちゃくちゃだよーっ!?」
ゆっくりと空中から落下しながら再びマッシュを索敵するナイトハルトへと、地上から無数の氷の刃が食らいつく。
剣でこれを叩き割り、しかし落下地点をずらされながら着地。そこへユーリ・ヴァレンティヌス(ka3380)が二刀を携え襲い掛かる。
「ナイトハルト!」
『フン、来たか……!』
切断された腕を鎧に接続すれば、傷は溶けて消えていく。
雄たけびと共に突進するユーリは雷のオーラを纏った刀を左右に構え、同じく左右の刃を奔らせるナイトハルトと打ち合う。
そこへ再びフィルメリア・クリスティア(ka3380)が氷刃【Is Schwert】を放つ。氷の刃に自らの剣を合わせて刈り取るが、その陰から迫る春日 啓一(ka1621)のオーラを纏った拳を打ち込んだ。
「やるぞ、ユーリ……!」
二刀流のユーリの攻撃に合わせ、啓一が拳を繰り出す。
そしてナイトハルトの反撃には身を乗り出し、ユーリを庇い拳で打ち払う。そこからユーリが躍り出て、続けて刺突を放った。
『いい連携だ……だが、一つ所に重なるのであれば、薙ぎ払うのみ』
回転し、繰り出すラウンドスウィング。それで二人を纏めて攻撃すると、続けてライトニングボルトを放った。
「二人とも、しっかりして!」
ダメージに膝を着く二人にエナジーショットでの回復を図るフィルメリア。そこへナイトハルトの切っ先が向けられる。
しかし次の瞬間、空中から無数の閃光が降り注ぎナイトハルトの姿を爆炎に飲み込んだ。
「今の内に一旦下がるんだな! うおおおおおらぁっ!」
爆撃を行ったのはエヴァンスのワイバーン「エボルグ」。その主であるエヴァンスも、生存剣「リヴァティ・マーセ」にマテリアルのオーラを纏わせながら駆け寄る。
「一方から攻撃するとまとめてやられる! 気をつけろと言ったところで無理だろうが、仲間との位置には気をくばれよ!」
叫びながら刃を振り下ろすが、剣豪は背後に跳んで回避。だがその移動先にチェイシングスローで回り込み、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が振動刀を振るう。
これを短刀で弾き、剣豪が放った回し蹴りをシェリルは回避。背後へバックステップで距離をとる。
「人の願い、想いが歪めた英霊……。終わらせよう……ここで、必ず……」
「シェリルさんの言う通り。その正義の呪縛を解き放つ、それが今のオレの正義!」
イェジドの「ヴァッサー」に騎乗した八島 陽(ka1442)はデルタレイで攻撃しつつ、一定の距離を保って剣豪の周囲を走る。
先ほどから観察しつつ何か良い情報がないものかと考えていたが、ナイトハルトは見れば見るほど隙がない。特殊能力もあるが、単純に戦士として強いのだ。
全身に纏う炎の色を変え、剣豪が刃を振るう。すると、次元斬となって陽とイェジドを襲う。
スティールステップで回避していると、ルイトガルト・レーデル(ka6356)がその隙をついて剣を鞘から抜き放ち、居合斬りを放つ。
鶺鴒の構えで気配を消しつつの攻撃だが、ナイトハルトはしっかりと剣で防御している。だが、ルイトガルドの剣は剣豪の炎を切り裂き、鎧にも傷をつけた。
コンクエスターのスキル、ダンピールは暴食の防御力を大きく削ぎ取る。この奇襲と防御低下の二つのスキルでルイトガルドは剣豪にダメージを与えていく心算だった。
「私は自らが英霊に比肩すると自惚れはせんが、蟷螂の斧だと卑下もせん。ただ為すべきを成す……それだけだ」
続けてゴーレムから降りてきた神楽がファミリアアタックを放つが、剣豪は飛んできたパルムを蹴り返す。
『次から次へと攻撃を仕掛けたところで、焼け石に水よ』
まず衝撃波を連続で放ち、近づいてきたハンターそれぞれに攻撃を仕掛ける。
そして薙ぎ払う一撃でルイトガルドと神楽を同時に吹き飛ばした。
「千秋、回復頼む!」
「ほいほーい、了解ですよ御主人様ー」
千秋はユグディラと共にルイトガルドと神楽の回復を開始。それを見咎めたナイトハルトへ、エヴァンスは雄叫びと共に突っ込んでいく。
「お前の相手は俺だあああああ!」
狙いを変えたナイトハルトは、直線状を貫く刺突一閃の迎撃に出る。
エヴァンスはこれを正面から鎧受けで突破し、駆け寄る勢いを乗せ、生存剣を振り上げた。
「ぶちかませ、エボルグ!」
同時に上空からワイバーンの爆撃が降り注ぐ。
「竜が如く……万象一掃!」
二刀を重ねてこれを受け止めるナイトハルト。エヴァンスは全力を込め、大地を踏みしめる。
「なぁ、お前と打ち合える機会はもうないんだろ!? なら、最後くらいお前の本音を剣に乗せてみろよ!」
『貴様の方こそ、この程度か? その剣で何が出来る? 仲間を護れるか!?』
エヴァンスの剣撃の勢いで背後へふわりと跳び、そこから再び衝撃波を放つ。
その射程には回復中の千秋とそのユグディラも入っている。
「千秋、逃げろ!」
だが千秋もそのユグディラも、陽もシェリルも次々に放たれる攻撃に傷ついていく。
『どうした。どうしたのだ、人間。貴様らの力はこの程度か? 知恵を絞れ。蓄積したすべての経験を放出しろ! 何故我を倒せない!? 何故……何故だ!!』
「気の短ぇ奴だな……まだ決着はついちゃいねぇだろが」
凍気を纏った槍を携え、ウィンスがナイトハルトの前に立ちはだかる。
「手を休まず攻撃しすぎなんだよてめぇは。もう少しで持ち直すんだ……少しくらい待て」
そして槍を掲げ、青い光の柱を立ち昇らせる。
「稽古を……つけてやる」
『その言葉、重さは如何程か』
睨みあう二人。ウィンスの誘いに乗る様に、ナイトハルトも身構える。
「別に何でもねぇよ。こいつはただの槍。愚直に鍛えた――ただの突きだ!」
双方が同時に繰り出す突きの一撃。衝撃はナイトハルトに届き、しかし同時にウィンスの腹を貫いた。
『それで、貴様に何が出来たというのだ』
「上等……だぜ……」
膝を着き、前のめりに倒れる。
「ブラオラント……」
その背後から、傷を癒したアウレールが姿を見せた。
「ふん……負けず嫌いめ。まあ、格好つけて勿体ぶったおかげで持ち直してきたが」
「結局、奴の核を破壊しない限り見る見る内に再生してしまう。こっちは癒し手をやられてる……このままだとジリ貧だぞ」
回復を受けたアルトが、確かに切断したはずの左腕を睨みながら呟く。
「核は確か、胸の辺りにあった気がするでござる。そこを何とか切り開ければ……!」
剣豪は強い。その上で様々なスキルを使いこなし、状況に応じた戦闘を繰り広げてくる。
その上、亡霊型の特製として“核”を破壊しない限り、鎧にダメージを与えても回復してしまう。
逆に言えば、その核さえ破壊できれば倒すことが出来る道理だが、この場に駆け付けた一流のハンターたちでさえ、まともに接敵し続ける事すら難しい。
「結局は捨て身で挑むしかねぇってわけか」
エヴァンスの言葉に頷く紅薔薇。しかし、その瞳には希望が溢れている。
「うむ。その上で妾に考えがあるのじゃ。まずは。妾を剣豪の傍まで連れて行って欲しい!」
「ではその道案内、任されましょう。果てようと、などとは言いますまい。立って帰ってこそ、ですな」
既に回復魔法は切れている。マッシュは紅薔薇の前に立ち、彼女を送り届ける覚悟を決めた。
先頭を走るのはアウレールだ。この人数が同時に仕掛ければ、範囲攻撃で薙ぎ払われるのは自明の理。
だが、アウレールはまだ数回、範囲攻撃を無効にする事が出来る。
仲間の盾となって血路を開こうとするアウレールを、やはり剣豪の範囲攻撃が迎撃する。
超射程の刺突一閃を憧憬「まほろば遥か」で受け止めながら走るアウレールを追い抜き、機動力の高い幻獣を伴ったチームが強襲を仕掛ける。
エヴァンスのワイバーンが空中から攻撃を仕掛ける中、陽を乗せてヴァッサーが走る。
「行くぞ、フェンリルライズだ!」
オーラを纏って一気に加速したヴァッサーと同時に剣豪へ襲い掛かる陽。
続けてミィリアとソフィアのイェジドが左右から飛び掛かり、ナイトハルトの移動をブロックする。
そこへチェイシングスローで飛び込んだシェリルとイェジドに騎乗したアルトが斬りかかる。
ナイトハルトはこれを縦横無尽やアサルトディスタンスで薙ぎ払うが、リューリがファントムハンドで動きを止めると、すかさずワイルドラッシュを叩きこむ。
「移動を封じてる今のうちに、アルトちゃん!」
「ああ……!」
アルトは鎧を破壊しつつ、他の者に比べて長い間ナイトハルトに肉薄した状態で生存できる。
オーラを纏い、剣豪と高速で刃を交える。飛び散る火花と見る見る増えていく全身の傷の中、アルトの刃が剣豪の身体を袈裟に切り裂いた。
核の破壊に至らない。だが、それでいい。そうしている間に、味方が近づいてきている。
ナイトハルトは衝撃波を次々に繰り出し、近づくハンターへ打ち付ける。刺突一閃をアウレールが打ち消すが、これが最後のスキルとなった。
ルイトガルトがダンピール発動状態で斬りかかり、続けてリューがソウルエッジを帯びた剛刀で刺突一閃を放つ。
「あんたを倒し、俺達が伝説となる!」
剣豪がこの一撃から身を躱すと、そのままリューを突破して奥のハンターを攻撃しようと試みる。
だが、リューとマッシュが守りの構えでこれを阻止。二人は同時にその場でナイトハルトに近接攻撃を打ち込む。
「今だ、紅薔薇!」
「やるぞ! 刀気、解放ッ!」
ソフィアが紅薔薇の刀にマテリアル送り込むと、そこから一気に噴出するようにマテリアルが高まっていく。
解放錬成。自分や仲間の力を劇的に高め、スキルさえも強化する力を持つ機導師の技である。
「もう一度肉薄するのなんざ不可能だ。頼むぜ……こいつで決まってくれ!」
ソフィアは他にも作戦を考えていたが、近接戦闘のプロフェッショナルではなくあくまでサポーターであるソフィアは、これ以上ナイトハルトに肉薄する事は出来ないと判断し、何よりもこの一手を優先した。
即ち――紅薔薇の支援。
「斬魔剣、終の型」
二人は一つの刃を握り、刃を振るう。
それは誰かを傷つけるための技ではない。よって、このスキルで剣豪にダメージを与える事は出来ない。
だが――この剣は、対象に付与されている状態の変化を打ち消す事が出来る。
「……剣豪よ妾達がお主の“物語”に終焉を与えよう」
ナイトハルトが纏う、無数の強化スキル。そしてその身体に降り注ぐ、“正義”の力。
「「いっけええええええええーーーー!!」」
光は、目には見えない物を確かに切り裂いたのだ。
『………………!? これは……ぐおおっ!?』
「おおおおおおらあああああっ!!」
エヴァンスの振り下ろした剣がナイトハルトを弾き飛ばす。
先ほどまでとは異なる手ごたえ。幾重にもかけられていた強化スキルが、一気に消滅しているのだ。
「見よ剣豪、これぞ私達の夢! 私達の明日!」
ここが最後の好機。そう睨み、アウレールは最後の力を振り絞りスキルを発動する。
掲げたシャイターンが旗のごとく光をたなびかせ、溢れんばかりの熱を仲間に降り注がせる。
「…………御伽噺「御旗のもとに」」
「チェックメイトだ! ナイトハルトォォォーーーーッ!!」
『まだだ……まだ、我はここにいる!』
エヴァンスを払いのけ、紅薔薇とソフィアを狙うナイトハルト。その攻撃をマッシュが受け止め、その身体を刃が貫く。
「マッシュ殿……!」
紅薔薇はすぐさま二連撃を放ち、ナイトハルトの鎧を切り裂いた。
「行ける……攻撃が当たるのじゃ!」
「私の事は構わず……あなたは、ナイトハルトの“呪い”を……消し続けて、ください……」
「逃がさない……このまま霊体まで凍結させるわ!」
フィルメリアが放つ氷の刃がナイトハルトの身体を埋める。その魔法から逃れようとする身体へ、神楽の触手がまとわりつく。
「逃がさねーっすよ!」
啓一が握りしめた拳でナイトハルトの顔面を打ち抜く。その反撃に繰り出された刃で身体を引き裂かれながらも、その腕を掴んでカウンターで肘を粉砕する、
「こいつは俺が止める! やれっ、ユーリ!!」
雷を纏った二刀を交互に繰り出しながら、ユーリはナイトハルトが見せた剣筋を思い起こし、辿っていく。
(この三連撃は……貴方が私に教えてくれたもの……)
鎧は、破壊しても直ぐに再生してしまう。
だからその再生を超えて破壊を進めるには、一瞬で無数の攻撃を放つ必要があった。
「貴方が生きた証、秘剣はこの身に刻み受け取った、だから今度は私が見せるよ。これが私の祈りと想い乗せた剣技と貴方から受け取った秘剣だっ」
三連撃がナイトハルトの身体を切り裂き、鎧を破壊していく。
飛び散る鎧の破片、溢れ出す蒼い炎。揺らめく蜃気楼の中に、ユーリは輝く欠片を見つけた。
「見えたっ! 前にも見た、剣豪さんの核!」
鞘に納めた斬魔刀を構え、やや後方からミィリアは瞳を見開く。
狙うは小さな光。核にも耐久力があり、直撃させなければ粉砕は難しい。
「もとより二度目は見切られて当然。チャンスはこの1回っきり。限界を越えて、未来へ穿つ第一閃!」
鞘から解き放たれた刃は、蓄積された膨大なマテリアルを纏い、刀身は桜色に光を放つ。
「全身全霊! 刺突「散花一閃」――――!」
[SA]効果により増幅された刺突一閃は、文字通り駆け抜ける一筋の光となった。
それは仲間の合間を縫って進み――そして、ナイトハルトの胸を貫いたのだった。
●
とても広い……とても青い空が、視界を埋め尽くしていた。
仰向けに倒れた亡霊騎士の鎧が再生する事はない。その胸に秘めていた核――折れた剣はついに、新たな英雄たちの手で砕かれたのだから。
『そうか。私は負けたのか』
「ああ、お主の負けじゃ」
紅薔薇の告げる言葉にナイトハルトは何も答えず、ただ胸にポッカリと空いた穴に手を伸ばした。
「安らかに眠るがよい。人々はお主の最期を知り、今ここに呪いは終結する」
「帝国は過去を過ちと認め覚悟を示した。あんたが倒れれば、また一つ何かが終わるんだ」
リューは風の音に耳を澄ませる。戦闘はまだ遠くで続いているようだが、それも直に終わるだろう。
「ひとつの正義は成った。私は私の正義に戻るとしよう」
ルイトガルトは頬についた血を拭いながら踵を返す。傷ついたハンター達を救出するため、続々と帝国軍が駆けつけようとしていた。
暴食王ハヴァマールは撤退を開始した。この戦いは、人類に軍配が上がったのだ。
「これが最期なら……祈ってもいいかな? 英霊とか、皇帝と……歪虚とか、そんなんじゃなくて。ただの、アナタ……名も無きアナタに……」
シェリルが膝をつき、倒れた鎧の腕をとる。その姿にナイトハルトは首を擡げた。
『ただの私に……か。祈りなど、なんの価値もないと、そう思っていた……。だが同時に……私たちは祈っていたのかもしれないな』
歴史に名を残せなかった、道半ばで倒れていった戦士たち。
彼らはただ、ただ自分が生きて、生き続けて、走り抜いたその先に、何かの答えを見つけたかったのだ。
「俺の“生き抜く”正義の切れ味は効いたろ? あんたはいい意味で真面目すぎたのさ」
エヴァンスの言葉に応えることなく、ナイトハルトは塵となり、風に乗って飛んでいく。
最後まで残されたのは、とても古い、古い剣の柄と、折れてしまった刃の欠片。
「さようなら……師匠」
ユーリの掌から、砂のように零れた剣が消えていく。
その様を見届け、戦士は青空を見上げる。
英雄が最期に見た、懐かしい故郷の青空を……。
●
「BOSSは満足したんデスかねぇ?」
ナイトハルトが撃破されたことを感じ、刀鬼も撤退を開始していた。
得物を破壊されてしまったのはショックだったが、ここまで見届けに来た価値はあったと感じている。
実は、刀鬼は――あの英霊が、あのナイトハルトと呼ばれた歪虚が何者なのか、なんとなく理解していた。
彼はナイトハルト・モンドシャッテなどではないし、ましてや絶火の騎士などでもない。
そういった物語に憧れて剣を抜いた、幼い子供が見た夢……。
北の地を目指し進み続けた、“誰か”の中の一人……。
それがたまたま、ナイトハルトという器に収まってしまっただけ。
もしその誰かに特別な才能があったとしたら。
同じような境遇の、彷徨える魂を受け入れられるだけの器が――王の資質があった、という点だろうか。
「Rest in peaceデスよ、BOSS!」
後腐れなく空に叫んで、刀鬼は雷になって飛んでいく。
その空には、まだ距離のあるこんな丘にまで届く、帝都からの割れんばかりの歓声が響いていた。
遠方から響く銃声や爆音は、他のエリアでも戦端が開かれたことを知らせる。
ここが一つの分水嶺。この戦いの後、この国がどのように変わるのか。あるいは変わらないのか……それを決める戦場だ。
「約束通り、次に会えたのは戦場だったな……ナイトハルト」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が背にした大剣を抜き、それを両手で腰溜めに構える。
「この前のチェス勝負は勝ちをゆずっちまったからよ。代わりに今日はその負け分をたっぷり叩き返してやるぜ」
『此度の戦場は死地。今この時、人類に真価を問おう』
長短一対の黒塗りの剣を正面に交え、亡霊はその炎を滾らせる。
『行くぞ、英雄……! 我が疾走に喰らいついて見せよ!』
ナイトハルトの最初の行動は、自身に名乗りを上げる戦士への対応ではなかった。
正義とは勝者のみが口に出来る言葉。“勝たなければ生き残れない”世界を生きてきた騎士の本気とは、例外なく卑劣なもの。
ナイトハルトを待ち構えるハンターたちは、既にいくつかのチームに分かれている。であれば、そこから小単位に分かれて行動を起こすのは自明。
故に彼の最初の選択は、敵の呼吸を乱す事。一気に距離を詰め、そして長剣を空に掲げる。
『一切抹殺の伝承を此処に。汝は薙ぎ払い、復讐する者!』
ナイトハルトの纏う炎が色を変え、頭上に無数の火球が浮かび上がる。
『メテオスウォーム!』
次々に火球が大地へ着弾し、爆風を巻き上げる。
超強力な魔法の嵐に巻き込まれ、ハンターの姿は見えなくなった。だが――。
その中を突き抜け、リューリ・ハルマ(ka0502)は歯を見せ笑う。
「いきなりどっかんかんだね! でも、このくらいへっちゃらだよっ!」
リューリはファントムハンドを放ち、ナイトハルトの身体を拘束する。そして思い切り自らに向かって引き寄せた。
「アルトちゃん!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は先の爆風を回避し、後押しされるように加速。既にナイトハルトを追い抜き背面についていた。
両手に握りしめた剛刀をナイトハルトに叩きつけると、マテリアルの光が強く瞬いた。
『我が剣でも勢いを殺しきれぬか……いい得物だ』
「BOSS! 勝手に突っ走ると危険デース!」
抜刀した紫電の刀鬼(kz0136)が駆け寄ると、その間に主に遅れてやってきたイェジドのイレーネが割り込み、飛び掛かる。
「やれやれ……初手から派手な不意打ちですね。英雄的ではありませんが、実戦的ではあります」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は焦げた服を叩きながら星剣を掲げる。すると、ヒールの光が仲間を癒していく。
「いきなりでびっくりしましたねー。セバスニャンさん、早速回復ですよー」
小宮・千秋(ka6272)は相棒のユグディラ、セバスチャンと共にヒールを発動する。
今回の作戦ではユグディラが複数、癒し手として動員されていた。
「奴らをpairにさせとくのは拙い。切り離すヨ!」
フォークス(ka0570)が制圧射撃を仕掛けたのは紫電の刀鬼。
銃撃で行動を阻害する間に戦場を駆ける光がひとつ。リリティア・オルベール(ka3054)は刀鬼の側面に滑り込むと斬撃を放った。
刀鬼はすぐに回避モーションに入る。だが次の瞬間、リリティアの刃は無数に“分裂”した。
「Watt!?!?」
刀鬼の刀とリリティアの“神斬”が衝突し、続けて雷光が次々に瞬いた。
「あれ? もしかして見えました? 私もまだまだですね」
雷の嵐の中、身体を翻し踊るリリティア。刀鬼は肩を竦め。
「見えないから剣で防いだんデース! わけのわからん攻撃は止めて欲しいデース!」
『刀鬼、仕掛けるぞ!』
再び身体に纏った炎の色を変えたナイトハルトが左右の刃を構える。
刀鬼との距離は離れ、間にはハンターがいる。だが、その二体を完全には分断できていない。
つまり、2体の刃はちょうどこの戦域に広く響き渡る位置にあった。
『「縦横無尽!」』
「Fusion Specialデース!」
数え切れぬ程の剣撃の瞬く中、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は聖盾コギトを大地に叩きつける。
「顕現せよ、我が最期の領地! 誰も泣かない世界をここに!」
眩い光がアウレールを中心に膨れがっていく。
それはやがて暖かい風となって、少年の髪を揺らす。
「守護結界――情景、まほろば遥か(ゼーンズフト・ナーハ・アスガート)ッ!」
多数のハンターを切り裂くはずだった斬撃は湾曲し、吸い込まれ、アウレールただ一人を狙う。
ダメージに背後へ吹き飛び蹈鞴を踏むも、アウレールは健在であった。
「今がチャンスですぅ! いっきますよぉ?!」
「三家丸の晴れ舞台、僕にとっては勝ってからが本番です」
星野 ハナ(ka5852)と保・はじめ(ka5800)が符を掲げ、魔法を発動する。
「「黒曜封印符!」」
すると、紫電の刀鬼の足元に魔法陣が浮かび上がり、光の呪縛がその身体を覆った。
「ムムッ!? これは、東方の巫女術デース!?」
「貴方には、こちらの相手をしていただきますよ!」
狭霧 雷(ka5296)は刀鬼をファントムハンドで更に拘束し、引き寄せる。
刀鬼は雷化でこれを離脱しようとするが、スキルを封印されて雷を出せない事に気づく。
「雷出せないミーとか、火がつかないマッチみたいなんデースけど!?」
次の瞬間、死角から繰り出されたヒース・R・ウォーカー(ka0145)の魔導槍が刀鬼を貫いた。
ナイトカーテン。意識されなければ、自身の存在を隠匿できるスキル。
それはこのせわしなく変動する戦況において刀鬼の不意を突くことに成功する。だが……。
刀鬼はすぐさまヒースへ反撃を放つ。回避し着地したヒースは、槍の感触に眉を顰める。
「やはり亡霊型……闇雲に攻撃してもダメージは与えられないかぁ」
防具の内側にあるのは霊体であって肉の身体ではないのだ。
刀鬼が目を向けたのは自分に術をかけている三名のハンター。
紫電の刀鬼の機動力はナイトハルトをも超える。故に、その妨害さえされなければあっという間にナイトハルトと合流する事が可能だ。
当然だが二体の相性はよく、チームプレイとなれば先ほどのような強力な技を連発され、ハンター側は不利になるだろう。
この戦いにおいて、二体の歪虚を分断し続ける事はとても重要であり、しかし同時にとても難しい。
「あの引っ張ってくる術、霊体でも関係なく捕まえてくるので面倒デースね。しかし、あそこまで突破するには雷化の封印が邪魔デース」
黒曜封印符やファントムハンドは、刀鬼であれば数ターンで問題なく抵抗完了するだろう。
だが、いいところで逐一邪魔されるのは面白くない。
結果として刀鬼はこの三名を先に倒すという判断に至ったのだ。
●
「行くぞ、Wild Hunt。封印が効いている内に仕掛けるんだ」
カイン・マッコール(ka5336)が同行させたイェジドが機銃で攻撃を仕掛けると、それと同時にカインも斬魔刀を繰り出す。
雷化というスキルが封印されていても、刀鬼は圧倒的な回避力を持つ。故に攻撃をかわし、振り切らんと走り出した。
「ナイトハルトの最後の舞台が終わるまで、ボクと踊ってもらうよ、刀鬼」
その背後に構えるヒースは魔導槍にマテリアルを収束。そして光線を放った。
魔法攻撃は霊体にもダメージを与えられる。だがこれも刀鬼は素早く回避する。
「Damn it……自由にさせたら奴のペースだ!」
フォークスは制圧射撃で光を追うが、捕らえきれない。
紫電の刀鬼は高位亡霊型であり、そして超スピードを誇る歪虚だ。実は射撃系攻撃は効き目が薄い。
舌打ちし、遠ざかる光を追う為に全力移動に切り替える。
「このくらいじゃどうってことないデース! からの、既に封印はResistしたデース!」
バチバチと紫電を纏いながら加速するその姿がゆらりと光に溶け、大地を疾駆する。
狙いは狭霧、ハナ、保の三名。だが、その前にジャック・エルギン(ka1522)とヴァルナ=エリゴス(ka2651)が立ちはだかる。
二人は守りの構えを発動し、すれ違い様に刀鬼に攻撃を加え、そこで雷化による高速移動を解除させたのだ。
「俺の前を素通りしていくなって。寄ってけよ、お客さん」
「剣豪との闘いに水は差させませんよ。あなたにはここで止まってもらいます」
ヴァルナの瞳が輝き、テンプテーションの術が発動する。これを受けた刀鬼の視線がヴァルナに向くと、ジャックはバスタードソードにオーラを纏わせ、刀鬼へと繰り出す。
マテリアルを刃に纏わせるスキル、ソウルエッジ。物理攻撃を殆ど受け流してしまう亡霊型にも大ダメージが期待できる攻撃手段だ。
「今度はこっちから行くぜっ!」
「後ろ向けないデースが……!」
刀鬼は背後に刀を置くようにしてジャックの攻撃を受けると、目の前のヴァルナに向かって雷を纏った剣を振り下ろす。
しかし今度はジャックに吸い寄せられるようにその場で回転し、ジャックの腕のグローブで弾かれた。
「ヴァルナ、今だ!」
背後からオーラを纏った龍槍を繰り出すヴァルナ。が、刀鬼はこれを回避し、両手で構えた太刀で周囲を薙ぎ払った。
雷鳴と共に雷が迸り、防御した二人も弾き返す。その身体には強い痺れが残っていた。
「間合いを外されましたか……っ」
「モナ、回復頼む!」
地べたにペタンと張り付いていたジャックのユグディラ「モナ」が身を起こし、二人に回復を使用する頃。
既にその場を突破した刀鬼はまっすぐに狭霧へと迫る。
瞬く間に距離を詰めるとその勢いのままに斬撃を繰り出す。
盾で何とかこの一撃を防ぎ、狭霧は背後へ飛びながらファントムハンドを放った。
「同じ手は通じない? 残念、違う手です!」
狭霧は様々な射程に対応できるよう、複数のファントムハンドを持ち込んでいた。
何も手前に引き寄せる効果を適用する必要はない。その場で移動を封じるだけで、距離を維持できる。
「もう一度、スキルを封じさせてもらいましょう」
保が黒曜封印符を発動すると、同行させたユグディラ三毛丸がギターを唸らせる。
「三家丸、オンステージです!」
「今のうちに反撃ですよぅ! 皆さぁん、やっちゃってくださぁい!」
ハナが符を掲げると、眩い光が仲間のハンターへ降り注いでいく。
コール・ジャスティス。特定の対象と戦闘を行う瞬間のみ、味方を強化するスキルだ。
「では、お言葉に甘えさせてもらいましょう」
リリティアは全身からマテリアルを噴出させ、オーラを纏う。
そして手裏剣を手に、頭上を舞うワイバーンの倶利伽羅へ声を上げる。
「行きますよ、倶利伽羅!」
ワイバーンは滑空しながら翼に魔法陣を浮かべ、地上へ光線の雨を降り注がせる。
続いてチェイシングスローで接近したリリティアが、地面を擦る様に刃を加速させ、刀鬼を狙った。
その刀身は揺らぎを帯び、やがて達人の感覚においてのみ“分裂”する。
刹那の最中、空想の中で繰り返される応酬。刀鬼が選択する回避ルートと、それを潰すリリティアの剣の動き……。
結局、躱しきる事はできない。刀鬼はその刃を自らの刃で受ける事を選んだ。
雷がほとばしり、リリティアの身体が背後へ吹き飛ぶ。それを倶利伽羅が受け止め、その身体は空に舞い上がった。
「防御と同時にこちらに電撃を送り込む……厄介ですね」
「あいつ動きがキモすぎマース! ミーとの相性はイマイチっぽいですが!」
スキル封印は既に破っている。刀鬼はその左腕に雷を集め、そして前へ突き出す。
「接近するのが無理でも、ミーにはこういう技もあるデース」
放り投げるようなモーションで放たれた雷弾は空中でバーストし、更に加速。
「黒龍雷嵐波(ブラックドラゴンサンダーボルトハリケーン)!」
蛇行しながら突き進む雷の槍は、範囲貫通型魔法攻撃。これを阻止する手段を持つ者はいない。
雷に龍に噛みつかれた狭霧は盾で堪えようとするが、そのまま爆発に巻き込まれ大地に跳ねた。
よほど狭霧を邪魔に感じていたのか、十三魔の必殺の一撃である。狭霧は意識を失い、そのまま立ち上がる事はなかった。
「あの攻撃は拙いねぇ……リーチも威力もある。後衛を狙われると厳しそうだぁ」
「それ以前に、このままでは剣豪と合流されてしまいます」
ヒースがデルタレイを放つも、やはり命中には遠い。
刀鬼のスピードは常軌を逸している。文字通り、瞬間的とはいえ光に近い速度になっているのだから。
逃がさぬようにとヴァルナがテンプテーションを仕掛けると、ジャックが挟み討ちにかかる。
「花道に駆け付けるなんざ、歪虚にしちゃ律儀な野郎だ。正直嫌いじゃねぇが……活躍させてやるわけにはいかねぇな!」
ヴァルナ、ジャックによる入れ替わり立ち代わりの攻防が繰り広げられる。
それぞれが敵の注意をひいたり、攻撃を庇ったりと連携しつつ、守りの構えで雷化による突破を許さない。
フォークスはここで、刀鬼の武器や防具などを狙って妨害射撃を仕掛け、仲間の攻防を支援する。これならば制圧射撃より効果が得られる。
そこにカインとそのイェジドが加わり、体当たりで刀鬼をよろけさせた。
「やっぱり僕よりずっと強いか。でも一体だけで仲間がいるなら、ゴブリンよりは楽だ」
「犬がウザイデース!」
そこへ再びナイトカーテンで意識外へ隠れていたヒースが姿を見せ、途端に槍を繰り出す。
狙いは刀鬼の体内にある核。だが、そこだけをピンポイントで貫く事が出来ない。
「正義も英雄も関係ない。ボクは、お前を倒す。ただそれだけに全てを賭けると決めたんでねぇ」
「亡霊の核は丁度急所ってワケか。そこだけ撃ち抜くってのは、曲芸染みてるネェ……」
フォークスは懐に手を伸ばす。亡霊の身体の銃弾をいくら撃ち込んでも効果は薄い。ヒースのように、核を狙い撃つ……そのタイミングは慎重に見極めねばならない。
「何とか刀鬼の雷化を防いでください。そうしたら、私が暫く抑えられます!」
ワイバーンの足にぶら下がったリリティアの声にハナと保が顔を見合わせて頷く。
「もう一度、黒曜封印符ですぅっ!」
「三家丸は皆さんの回復を! 僕は修祓陣で援護します!」
ハナが黒曜封印符を発動すると、三家丸はギターで森の午睡の前奏曲を演奏。仲間の傷を癒していく。
倶利伽羅から飛び降りたリリティアは眼下に手裏剣を投げ、その軌跡を光となって追走する。
そうして再び刀鬼の眼前に出現すると、刀鬼の太刀目掛けて渾身の一撃を振り下ろす。
「はああああああっ!!」
「NOOOOOOOOO!? このっ、ゴリィーラッ!! ミーの身体は無事でも武器が折れるデース!!」
「失礼ですねー……でも、分かりやすいと思いませんか?」
衝撃に耐えきれず、余波で大地が砕け、土が空に舞い上がる。
「今この場はどちらが強いか……勝った方が正義という事で」
黒曜封印符への抵抗力も高まりはじめ、長時間のスキル封印は困難になりつつある。
だが、ことスキルさえ封印している間は、リリティアは単独で刀鬼と互角の戦いを繰り広げられていた。
常人の目では理解できない程の刃の応酬に、刀鬼も次第に研ぎ澄まされるよう加速していく。
「東方の術は本当に厄介デース……!」
封印を破り、雷を刃に纏う。そこから縦横無尽の斬撃が空間を八つ裂きにするに遅れ、雷鳴が轟いた。
大地が砕け、捲れ上がり、黒く焦げて吹き飛ぶ。光の中心に立つ刀鬼は、紛れもなく十三魔の風格である。
雷の嵐の中、素早く立ち上がったのはカインだった。
彼は鎧受けによりBSの強度を低下させ、抵抗に成功。背後から斬りかかるが、刀鬼は残像を残して姿を消す。
「消えた……?」
「ひえっ!?」
そして狙ったのはハナと保。雷を纏った衝撃波で二人を薙ぎ払うと、続けて掌に光弾を作り出す。
「これでウザい封印とおさらばデース」
「……刀鬼め、移動力が高すぎるねぇ……!」
ヒースは援護に入りたいが、刀鬼のスピードに振り回される。
だが、リーチの長いデルタレイでの攻撃で横槍を入れる事はできた。
その微妙な隙に、イェジドに跨って猛スピードで接近するカインが間に合い、イェジドごと飛び掛かる。
これにより、雷魔法の方向が微妙に逸れ、ハナと保への直撃は避けられた。しかし、爆発に巻き込まれ二人とも地面を転がる事になる。
「ぐっ……、くぅ……!?」
「いっ、痛いですぅぅぅ……でもぉ……こっちだっていろいろこの戦いに張り込んでるんですぅ! 簡単に落ちるわけにはいきませんよぅ!」
ハナは肩で息をしながら符をドローする。それと同時、同行させたユグディラのグデちゃんがリュートを奏でる。
「音楽はみんなに効いちゃうから痛し痒しですけどぉ……猫たちの挽歌ですぅ!」
周囲の“全員”の攻撃を無効にするユグディラのスキル、猫たちの挽歌。
つまり刀鬼だけではなく自分たちも攻撃が出来なくなってしまうが、追撃を受ければ戦闘不能待ったなしのこの状況では致し方ない。
それに、範囲外にいる仲間は問題なく攻撃が可能。つまり、フォークスの射撃やヒースの魔法、カインのイェジドの機銃などは影響を受けない。
また、保のユグディラが“回復”を使う分には問題ないのだ。
そうして攻撃で足止めをしつつ、挽歌の範囲から逃れるために自らの意思で刀鬼が背後へ飛んだところへ、追いついたヴァルナとジャックが魔力を帯びた武器を繰り出した。
「やらせねぇって言ってんだろ!」
フォークスは仲間の対応が間に合った事を確認し、魔導銃の銃口を持ち上げる。
銃を背負うと、代わりに懐から取り出した黄金拳銃を両手で構えた。
この銃には元々特殊弾「スヴァローグ」を装填してある。
ヴァルナのテンプテーションで視線がそちらを向いた時、フォークスは素早く引き金を二回引いた。
一発目の銃弾は、背を向けたままの刀鬼に回避される。
だが二発目の銃弾は魔力を帯び、弾道を捻じ曲げその胸を貫いた。
「――文字通りの隠し球って奴サ」
トリガーエンド。使えばその銃は負荷の結果リロードできなくなってしまうが、必中の効果を持つスキルだ。
いかに相手の回避が高かろうと、必中の二文字は揺るがない。
「ぬおぉ……!?」
ぐらりと刀鬼がよろけたその瞬間、リリティアの刀が繰り出される。
狙いは刀鬼ではなく、刀鬼が握る刃。最初から狙いはそこにあった。
不可避の斬撃から繰り出す一撃がキンと甲高い音を立てる。
そして次の瞬間、刀鬼の構えた刀は亀裂を走らせ、爆ぜるように砕け散ったのだった。
● ナイトハルトの鎧は人型をとってはいるが、人型に固執する理由はない。
あくまでも霊体を覆う外殻であり、それをつなぐのも霊体の持つ浮遊する能力である。
故に――繋ぎ目を引き延ばし、腕を鞭のように振るうなど、造作もない事である。
『ラウンドスウィング』
蒼い炎を纏った斬撃が円形に周囲を薙ぎ払い、吹き飛ばす。
その一撃すらアウレールは盾で受け止め、一つに収束させる。
ラスト・テリトリーは広範囲を薙ぎ払う攻撃から、自分一人を対象にすることで仲間を護るスキルである。
こうして連続で繰り出される攻撃にアウレールが耐えられたのは、仲間の支援あってのもの。
紅薔薇(ka4766)やリュー・グランフェスト(ka2419)のユグディラによる回復や、マッシュのアンチボディによる防御力の上昇にポーションを合わせ、既に四度の強力な範囲攻撃を堰き止めていた。
「お前等まだ解らないんすか! もう英雄に祈るだけじゃ助からないっす! だから俺達の正義を信じて勝利を願うっす!」
神楽(ka2032)は帝都へ中継される映像をゴーレムの上から撮影していた。
この映像を見た者たちが、ハンターを英雄として……正義として認め、その勝利を信じなければ、ナイトハルトを倒す事は出来ない。
「俺達は弱いけど皆が信じてくれれば世界だって変えられる。だから俺達と共に戦ってくれっす!」
『フン……だが、それも貴様を屠れば済む話であろう』
地を蹴り、滑る様に加速する。その動きから重力は感じられないが、加速に関してはかなりのものだ。
アウレールを目指すその進路を塞ぐように、マッシュとリューが守りの構えで立ちはだかる。
「ナイトハルトに成り代わって、皆を導く希望になる篝火となる!」
二人の繰り出す剣をナイトハルトは躱し、左右の剣で打ち払う。
『その程度で希望を名乗るつもりか?』
「まだまだぁ! うおおおおおっ!」
リューは太刀にソウルエッジを施し、鋭い突きを放つ。
だがこれを背後に倒れこむように回避したナイトハルトは、そのままリューの手元を蹴り上げ、空中で回転し刃を振り下ろした。
これを防いだのはミィリア(ka2689)だ。刃を差し込む様にしてガウスジェイルで自分に引き寄せると、アブソリュート・ポーズで全身から光を放つ。
「むんっ! これが女子力の光でござるーっ!」
発光と同時に謎の衝撃で背後へ吹き飛ぶナイトハルト。ここへ二体のイェジド、ミィリアの「叢雲」とソフィア =リリィホルム(ka2383) のズィルヴィントが飛び掛かる。
守りの構えと同じように移動を阻害しつつ、体当たりやウォークライで隙を作るとソフィアはヴァイザースタッフを振るう。
「わたしは英雄になんざならねぇ! 創る者として、人と世界の明日を創る!」
デルタレイの閃光を剣で打ち払うが、同時に接近してきた紅薔薇が二連撃を放つ。
これを次々に躱し、同時に左右の刃ですれ違い様イェジドごと切り裂くと、そのまま短剣を投げつけ、チェイシングスローでアウレールの眼前に移動する。
「相変わらず出鱈目な動きをしてくれる……アウレール殿!」
振り返りながら叫ぶ紅薔薇。剣豪は次々に斬撃を繰り出し、アウレールはそれを盾で防ぐのがやっとの様相だ。
だが、それでもまだ倒れず食らいついている。ナイトハルトの剣はどれも必殺。堪えられているだけで称賛に値する。
「私は貴方の在り様を見誤っていた。あの時気づかされた……王もまた“人”なのだと」
それはアウレールが辿り着いた一つの答えだった。
この世界に、当たり前の英雄など存在しない。その存在はいつも、誰かに望まれてそこにあるのだと。
「王なら、英雄なら人々の想いを背負って当然……そんな考えが、貴方を堕としてしまったのだな」
オーラを帯びた刺突一閃の衝撃で吹っ飛び、よろけるアウレール。その側面から、アウレールの姿を遮るようにウィンス・デイランダール(ka0039)の凍槍「大氷河」が繰り出された。
続けてイェジドと共にミィリアが駆け付け、アブソリュート・ポーズで注意を引き付ける。
「昔はなかった、新しい技! 剣豪さんも知らない力でござるっ!」
イェジドと共に連携し、行動阻害を入れつつ交互に攻撃を繰り出すミィリア。そこへソフィアを乗せたイェジドが追いつくと、デルタレイの光が繰り出される。
「移動が速すぎて追いつくだけでも一苦労だぜ」
ミィリアが妨害に入る間、ユグディラによるヒールがアウレールへ施される。
これをナイトハルトは黙って見てはいなかった。左右の剣で、次々に衝撃波を繰り出していく。
移動や単発の射線はミィリアがイェジドと共に作った壁で防がれるが、すべてを止める事は出来ない。
衝撃波の威力は本来の攻撃よりも威力が大幅に低下しているが、それでも戦闘能力に優れないユグディラを黙らせるには十分である。
「ニャー子を前に出しすぎるのは危険じゃな……」
「小技を全部止められるほど余裕もないしな……下がってろ、ミケ!」
範囲攻撃を防いだとしても、ナイトハルトは通常の三倍の手数を持っている。
それに加え、様々なクラスのスキルを打ち分けられるのだ。牽制の手段には困らない。
結論としては、この戦域でユグディラの回復を頼りにするのは危険であった。
「ユグディラの回復が頼れないようでは、立て直しが苦しくなりますね……」
そんな中、マッシュは自身も十分な戦闘力で生存を維持しつつ味方を回復できる癒し手として活躍する。
しかしだからこそ、ナイトハルトが次の攻撃目標に定めるに値するのだ。
衝撃波を放ちながら接近するナイトハルト。マッシュが攻撃に耐えていると、側面からファントムハンドが伸び、ナイトハルトを捕らえた。
「よっし、もう一回キャッチだよ!」
リューリが腕を引くような動きを見せると、ナイトハルトは側面に引き寄せられる。
そこに合わせてアルトのイェジド「イレーネ」が待ち伏せし、飛び掛かって更に移動を阻害する。
続けてアルト本人も飛び掛かり、素早く連続攻撃を繰り出す。
その刃はフェイントも交え、更に自在に軌跡を変える。回避を諦めた剣豪はこれに刃を合わせ防御。
続けて反撃で繰り出すのは、刺突一閃――その三連撃。
伸縮する腕そのものが長大な槍となり、大地を抉り飛ばしながら20m以上を吹き飛ばす破壊の嵐を躱し、アルトの剣が剣豪の腕を捕らえた。
蒼い炎が瞬き、刃が腕に滑り込む。そして力いっぱい振り抜くと、剣を握り閉めたまま、腕が大きく空に舞った。
『見事――だが』
剣豪の姿がアルトの視界から消える。空を舞う腕、そこに吸い寄せられるように剣豪は舞い上がっていた。
『グラビティフォール』
紫色の光が瞬き、次の瞬間大地が陥没し、土が舞い上がる。
続けて二発、ファイアーボールが大地を爆散させる。アルトはその炎に焼かれながら、しかし無事に背後に着地する。
「リューリちゃん、下がって! 一度射程外に出る!」
「ひえーっ、むちゃくちゃだよーっ!?」
ゆっくりと空中から落下しながら再びマッシュを索敵するナイトハルトへと、地上から無数の氷の刃が食らいつく。
剣でこれを叩き割り、しかし落下地点をずらされながら着地。そこへユーリ・ヴァレンティヌス(ka3380)が二刀を携え襲い掛かる。
「ナイトハルト!」
『フン、来たか……!』
切断された腕を鎧に接続すれば、傷は溶けて消えていく。
雄たけびと共に突進するユーリは雷のオーラを纏った刀を左右に構え、同じく左右の刃を奔らせるナイトハルトと打ち合う。
そこへ再びフィルメリア・クリスティア(ka3380)が氷刃【Is Schwert】を放つ。氷の刃に自らの剣を合わせて刈り取るが、その陰から迫る春日 啓一(ka1621)のオーラを纏った拳を打ち込んだ。
「やるぞ、ユーリ……!」
二刀流のユーリの攻撃に合わせ、啓一が拳を繰り出す。
そしてナイトハルトの反撃には身を乗り出し、ユーリを庇い拳で打ち払う。そこからユーリが躍り出て、続けて刺突を放った。
『いい連携だ……だが、一つ所に重なるのであれば、薙ぎ払うのみ』
回転し、繰り出すラウンドスウィング。それで二人を纏めて攻撃すると、続けてライトニングボルトを放った。
「二人とも、しっかりして!」
ダメージに膝を着く二人にエナジーショットでの回復を図るフィルメリア。そこへナイトハルトの切っ先が向けられる。
しかし次の瞬間、空中から無数の閃光が降り注ぎナイトハルトの姿を爆炎に飲み込んだ。
「今の内に一旦下がるんだな! うおおおおおらぁっ!」
爆撃を行ったのはエヴァンスのワイバーン「エボルグ」。その主であるエヴァンスも、生存剣「リヴァティ・マーセ」にマテリアルのオーラを纏わせながら駆け寄る。
「一方から攻撃するとまとめてやられる! 気をつけろと言ったところで無理だろうが、仲間との位置には気をくばれよ!」
叫びながら刃を振り下ろすが、剣豪は背後に跳んで回避。だがその移動先にチェイシングスローで回り込み、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が振動刀を振るう。
これを短刀で弾き、剣豪が放った回し蹴りをシェリルは回避。背後へバックステップで距離をとる。
「人の願い、想いが歪めた英霊……。終わらせよう……ここで、必ず……」
「シェリルさんの言う通り。その正義の呪縛を解き放つ、それが今のオレの正義!」
イェジドの「ヴァッサー」に騎乗した八島 陽(ka1442)はデルタレイで攻撃しつつ、一定の距離を保って剣豪の周囲を走る。
先ほどから観察しつつ何か良い情報がないものかと考えていたが、ナイトハルトは見れば見るほど隙がない。特殊能力もあるが、単純に戦士として強いのだ。
全身に纏う炎の色を変え、剣豪が刃を振るう。すると、次元斬となって陽とイェジドを襲う。
スティールステップで回避していると、ルイトガルト・レーデル(ka6356)がその隙をついて剣を鞘から抜き放ち、居合斬りを放つ。
鶺鴒の構えで気配を消しつつの攻撃だが、ナイトハルトはしっかりと剣で防御している。だが、ルイトガルドの剣は剣豪の炎を切り裂き、鎧にも傷をつけた。
コンクエスターのスキル、ダンピールは暴食の防御力を大きく削ぎ取る。この奇襲と防御低下の二つのスキルでルイトガルドは剣豪にダメージを与えていく心算だった。
「私は自らが英霊に比肩すると自惚れはせんが、蟷螂の斧だと卑下もせん。ただ為すべきを成す……それだけだ」
続けてゴーレムから降りてきた神楽がファミリアアタックを放つが、剣豪は飛んできたパルムを蹴り返す。
『次から次へと攻撃を仕掛けたところで、焼け石に水よ』
まず衝撃波を連続で放ち、近づいてきたハンターそれぞれに攻撃を仕掛ける。
そして薙ぎ払う一撃でルイトガルドと神楽を同時に吹き飛ばした。
「千秋、回復頼む!」
「ほいほーい、了解ですよ御主人様ー」
千秋はユグディラと共にルイトガルドと神楽の回復を開始。それを見咎めたナイトハルトへ、エヴァンスは雄叫びと共に突っ込んでいく。
「お前の相手は俺だあああああ!」
狙いを変えたナイトハルトは、直線状を貫く刺突一閃の迎撃に出る。
エヴァンスはこれを正面から鎧受けで突破し、駆け寄る勢いを乗せ、生存剣を振り上げた。
「ぶちかませ、エボルグ!」
同時に上空からワイバーンの爆撃が降り注ぐ。
「竜が如く……万象一掃!」
二刀を重ねてこれを受け止めるナイトハルト。エヴァンスは全力を込め、大地を踏みしめる。
「なぁ、お前と打ち合える機会はもうないんだろ!? なら、最後くらいお前の本音を剣に乗せてみろよ!」
『貴様の方こそ、この程度か? その剣で何が出来る? 仲間を護れるか!?』
エヴァンスの剣撃の勢いで背後へふわりと跳び、そこから再び衝撃波を放つ。
その射程には回復中の千秋とそのユグディラも入っている。
「千秋、逃げろ!」
だが千秋もそのユグディラも、陽もシェリルも次々に放たれる攻撃に傷ついていく。
『どうした。どうしたのだ、人間。貴様らの力はこの程度か? 知恵を絞れ。蓄積したすべての経験を放出しろ! 何故我を倒せない!? 何故……何故だ!!』
「気の短ぇ奴だな……まだ決着はついちゃいねぇだろが」
凍気を纏った槍を携え、ウィンスがナイトハルトの前に立ちはだかる。
「手を休まず攻撃しすぎなんだよてめぇは。もう少しで持ち直すんだ……少しくらい待て」
そして槍を掲げ、青い光の柱を立ち昇らせる。
「稽古を……つけてやる」
『その言葉、重さは如何程か』
睨みあう二人。ウィンスの誘いに乗る様に、ナイトハルトも身構える。
「別に何でもねぇよ。こいつはただの槍。愚直に鍛えた――ただの突きだ!」
双方が同時に繰り出す突きの一撃。衝撃はナイトハルトに届き、しかし同時にウィンスの腹を貫いた。
『それで、貴様に何が出来たというのだ』
「上等……だぜ……」
膝を着き、前のめりに倒れる。
「ブラオラント……」
その背後から、傷を癒したアウレールが姿を見せた。
「ふん……負けず嫌いめ。まあ、格好つけて勿体ぶったおかげで持ち直してきたが」
「結局、奴の核を破壊しない限り見る見る内に再生してしまう。こっちは癒し手をやられてる……このままだとジリ貧だぞ」
回復を受けたアルトが、確かに切断したはずの左腕を睨みながら呟く。
「核は確か、胸の辺りにあった気がするでござる。そこを何とか切り開ければ……!」
剣豪は強い。その上で様々なスキルを使いこなし、状況に応じた戦闘を繰り広げてくる。
その上、亡霊型の特製として“核”を破壊しない限り、鎧にダメージを与えても回復してしまう。
逆に言えば、その核さえ破壊できれば倒すことが出来る道理だが、この場に駆け付けた一流のハンターたちでさえ、まともに接敵し続ける事すら難しい。
「結局は捨て身で挑むしかねぇってわけか」
エヴァンスの言葉に頷く紅薔薇。しかし、その瞳には希望が溢れている。
「うむ。その上で妾に考えがあるのじゃ。まずは。妾を剣豪の傍まで連れて行って欲しい!」
「ではその道案内、任されましょう。果てようと、などとは言いますまい。立って帰ってこそ、ですな」
既に回復魔法は切れている。マッシュは紅薔薇の前に立ち、彼女を送り届ける覚悟を決めた。
先頭を走るのはアウレールだ。この人数が同時に仕掛ければ、範囲攻撃で薙ぎ払われるのは自明の理。
だが、アウレールはまだ数回、範囲攻撃を無効にする事が出来る。
仲間の盾となって血路を開こうとするアウレールを、やはり剣豪の範囲攻撃が迎撃する。
超射程の刺突一閃を憧憬「まほろば遥か」で受け止めながら走るアウレールを追い抜き、機動力の高い幻獣を伴ったチームが強襲を仕掛ける。
エヴァンスのワイバーンが空中から攻撃を仕掛ける中、陽を乗せてヴァッサーが走る。
「行くぞ、フェンリルライズだ!」
オーラを纏って一気に加速したヴァッサーと同時に剣豪へ襲い掛かる陽。
続けてミィリアとソフィアのイェジドが左右から飛び掛かり、ナイトハルトの移動をブロックする。
そこへチェイシングスローで飛び込んだシェリルとイェジドに騎乗したアルトが斬りかかる。
ナイトハルトはこれを縦横無尽やアサルトディスタンスで薙ぎ払うが、リューリがファントムハンドで動きを止めると、すかさずワイルドラッシュを叩きこむ。
「移動を封じてる今のうちに、アルトちゃん!」
「ああ……!」
アルトは鎧を破壊しつつ、他の者に比べて長い間ナイトハルトに肉薄した状態で生存できる。
オーラを纏い、剣豪と高速で刃を交える。飛び散る火花と見る見る増えていく全身の傷の中、アルトの刃が剣豪の身体を袈裟に切り裂いた。
核の破壊に至らない。だが、それでいい。そうしている間に、味方が近づいてきている。
ナイトハルトは衝撃波を次々に繰り出し、近づくハンターへ打ち付ける。刺突一閃をアウレールが打ち消すが、これが最後のスキルとなった。
ルイトガルトがダンピール発動状態で斬りかかり、続けてリューがソウルエッジを帯びた剛刀で刺突一閃を放つ。
「あんたを倒し、俺達が伝説となる!」
剣豪がこの一撃から身を躱すと、そのままリューを突破して奥のハンターを攻撃しようと試みる。
だが、リューとマッシュが守りの構えでこれを阻止。二人は同時にその場でナイトハルトに近接攻撃を打ち込む。
「今だ、紅薔薇!」
「やるぞ! 刀気、解放ッ!」
ソフィアが紅薔薇の刀にマテリアル送り込むと、そこから一気に噴出するようにマテリアルが高まっていく。
解放錬成。自分や仲間の力を劇的に高め、スキルさえも強化する力を持つ機導師の技である。
「もう一度肉薄するのなんざ不可能だ。頼むぜ……こいつで決まってくれ!」
ソフィアは他にも作戦を考えていたが、近接戦闘のプロフェッショナルではなくあくまでサポーターであるソフィアは、これ以上ナイトハルトに肉薄する事は出来ないと判断し、何よりもこの一手を優先した。
即ち――紅薔薇の支援。
「斬魔剣、終の型」
二人は一つの刃を握り、刃を振るう。
それは誰かを傷つけるための技ではない。よって、このスキルで剣豪にダメージを与える事は出来ない。
だが――この剣は、対象に付与されている状態の変化を打ち消す事が出来る。
「……剣豪よ妾達がお主の“物語”に終焉を与えよう」
ナイトハルトが纏う、無数の強化スキル。そしてその身体に降り注ぐ、“正義”の力。
「「いっけええええええええーーーー!!」」
光は、目には見えない物を確かに切り裂いたのだ。
『………………!? これは……ぐおおっ!?』
「おおおおおおらあああああっ!!」
エヴァンスの振り下ろした剣がナイトハルトを弾き飛ばす。
先ほどまでとは異なる手ごたえ。幾重にもかけられていた強化スキルが、一気に消滅しているのだ。
「見よ剣豪、これぞ私達の夢! 私達の明日!」
ここが最後の好機。そう睨み、アウレールは最後の力を振り絞りスキルを発動する。
掲げたシャイターンが旗のごとく光をたなびかせ、溢れんばかりの熱を仲間に降り注がせる。
「…………御伽噺「御旗のもとに」」
「チェックメイトだ! ナイトハルトォォォーーーーッ!!」
『まだだ……まだ、我はここにいる!』
エヴァンスを払いのけ、紅薔薇とソフィアを狙うナイトハルト。その攻撃をマッシュが受け止め、その身体を刃が貫く。
「マッシュ殿……!」
紅薔薇はすぐさま二連撃を放ち、ナイトハルトの鎧を切り裂いた。
「行ける……攻撃が当たるのじゃ!」
「私の事は構わず……あなたは、ナイトハルトの“呪い”を……消し続けて、ください……」
「逃がさない……このまま霊体まで凍結させるわ!」
フィルメリアが放つ氷の刃がナイトハルトの身体を埋める。その魔法から逃れようとする身体へ、神楽の触手がまとわりつく。
「逃がさねーっすよ!」
啓一が握りしめた拳でナイトハルトの顔面を打ち抜く。その反撃に繰り出された刃で身体を引き裂かれながらも、その腕を掴んでカウンターで肘を粉砕する、
「こいつは俺が止める! やれっ、ユーリ!!」
雷を纏った二刀を交互に繰り出しながら、ユーリはナイトハルトが見せた剣筋を思い起こし、辿っていく。
(この三連撃は……貴方が私に教えてくれたもの……)
鎧は、破壊しても直ぐに再生してしまう。
だからその再生を超えて破壊を進めるには、一瞬で無数の攻撃を放つ必要があった。
「貴方が生きた証、秘剣はこの身に刻み受け取った、だから今度は私が見せるよ。これが私の祈りと想い乗せた剣技と貴方から受け取った秘剣だっ」
三連撃がナイトハルトの身体を切り裂き、鎧を破壊していく。
飛び散る鎧の破片、溢れ出す蒼い炎。揺らめく蜃気楼の中に、ユーリは輝く欠片を見つけた。
「見えたっ! 前にも見た、剣豪さんの核!」
鞘に納めた斬魔刀を構え、やや後方からミィリアは瞳を見開く。
狙うは小さな光。核にも耐久力があり、直撃させなければ粉砕は難しい。
「もとより二度目は見切られて当然。チャンスはこの1回っきり。限界を越えて、未来へ穿つ第一閃!」
鞘から解き放たれた刃は、蓄積された膨大なマテリアルを纏い、刀身は桜色に光を放つ。
「全身全霊! 刺突「散花一閃」――――!」
[SA]効果により増幅された刺突一閃は、文字通り駆け抜ける一筋の光となった。
それは仲間の合間を縫って進み――そして、ナイトハルトの胸を貫いたのだった。
●
とても広い……とても青い空が、視界を埋め尽くしていた。
仰向けに倒れた亡霊騎士の鎧が再生する事はない。その胸に秘めていた核――折れた剣はついに、新たな英雄たちの手で砕かれたのだから。
『そうか。私は負けたのか』
「ああ、お主の負けじゃ」
紅薔薇の告げる言葉にナイトハルトは何も答えず、ただ胸にポッカリと空いた穴に手を伸ばした。
「安らかに眠るがよい。人々はお主の最期を知り、今ここに呪いは終結する」
「帝国は過去を過ちと認め覚悟を示した。あんたが倒れれば、また一つ何かが終わるんだ」
リューは風の音に耳を澄ませる。戦闘はまだ遠くで続いているようだが、それも直に終わるだろう。
「ひとつの正義は成った。私は私の正義に戻るとしよう」
ルイトガルトは頬についた血を拭いながら踵を返す。傷ついたハンター達を救出するため、続々と帝国軍が駆けつけようとしていた。
暴食王ハヴァマールは撤退を開始した。この戦いは、人類に軍配が上がったのだ。
「これが最期なら……祈ってもいいかな? 英霊とか、皇帝と……歪虚とか、そんなんじゃなくて。ただの、アナタ……名も無きアナタに……」
シェリルが膝をつき、倒れた鎧の腕をとる。その姿にナイトハルトは首を擡げた。
『ただの私に……か。祈りなど、なんの価値もないと、そう思っていた……。だが同時に……私たちは祈っていたのかもしれないな』
歴史に名を残せなかった、道半ばで倒れていった戦士たち。
彼らはただ、ただ自分が生きて、生き続けて、走り抜いたその先に、何かの答えを見つけたかったのだ。
「俺の“生き抜く”正義の切れ味は効いたろ? あんたはいい意味で真面目すぎたのさ」
エヴァンスの言葉に応えることなく、ナイトハルトは塵となり、風に乗って飛んでいく。
最後まで残されたのは、とても古い、古い剣の柄と、折れてしまった刃の欠片。
「さようなら……師匠」
ユーリの掌から、砂のように零れた剣が消えていく。
その様を見届け、戦士は青空を見上げる。
英雄が最期に見た、懐かしい故郷の青空を……。
●
「BOSSは満足したんデスかねぇ?」
ナイトハルトが撃破されたことを感じ、刀鬼も撤退を開始していた。
得物を破壊されてしまったのはショックだったが、ここまで見届けに来た価値はあったと感じている。
実は、刀鬼は――あの英霊が、あのナイトハルトと呼ばれた歪虚が何者なのか、なんとなく理解していた。
彼はナイトハルト・モンドシャッテなどではないし、ましてや絶火の騎士などでもない。
そういった物語に憧れて剣を抜いた、幼い子供が見た夢……。
北の地を目指し進み続けた、“誰か”の中の一人……。
それがたまたま、ナイトハルトという器に収まってしまっただけ。
もしその誰かに特別な才能があったとしたら。
同じような境遇の、彷徨える魂を受け入れられるだけの器が――王の資質があった、という点だろうか。
「Rest in peaceデスよ、BOSS!」
後腐れなく空に叫んで、刀鬼は雷になって飛んでいく。
その空には、まだ距離のあるこんな丘にまで届く、帝都からの割れんばかりの歓声が響いていた。
リプレイ拍手
神宮寺飛鳥 | 17人 |
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