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(ka0000)
【天誓】




変革とは、ある日突然訪れるものではない。それは積み重ね、到達するものだ。
君たちハンターがこれまでの戦いで見て、感じてきた事。世界と触れ合った事。
過程には悲劇もあった。だが、そのすべては決して無駄ではないのだ。
帝国皇帝:ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)
更新情報(12月18日更新)
▼【天誓】グランドシナリオ「ニーベルンゲンの歌」▼
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【天誓】ストーリーノベル「空を見上げる君がいるから」(12月18日公開)
天誓作戦により、不破の剣豪ナイトハルトはついに討伐された。それがこの物語の結論だ。
しかし、精霊や亜人、帝国軍はハンターと共に立派に戦い抜き、歪虚の脅威からこの太陽の国を守り抜いたのだ。
……本当にそうだろうか?
実際のところ、この共闘にどれだけの意味があったのかなんて、誰にもわからない。
例えば明日からも路地裏では貧しい子供たちが死んでいくだろうし、人間がエルフを殺し、エルフが人間を殺すだろう。
コボルドのマハ族が帝国軍の監視体制下から真の意味で自由になることはないだろうし、辺境移民らが故郷に帰れるわけでも、この帝国内に領地を持てるわけでもない。
そうだ。結局のところ、何も変わりはしない。
明日もまた太陽は昇るだろう。そしてそれは、必ず沈むのだ。
「それでも私は、何かを変える事が出来たのだと信じます」
カッテ・ウランゲル(kz0033)は窓辺に立ち、バルトアンデルス城から帝都を見下ろす。
決戦の日は勝利の日に変わり、そしてそれは宴の日に変わった。
帝都中をひっくり返したような騒ぎの中、帝国政府は後先考えない程の予算を投入し、帝都に集まったすべての種族の者たちを宴に招いた。
傷ついた兵士たちが、コボルドやドワーフと共に酒を飲み、精霊と共にエルフが躍った。
最大の汚点、始祖帝と同じ名を持つ四霊剣は討伐された。この国はまた一つ、望むべき未来に近づいたのだ。
「憎しみも憧れも、妄信は全てナイトハルトの力となっていた。ならば今は、その双方が解けたと考えてよいのでしょうか」
『少なくとも、この国の正義は一度崩れ、そして新たな形にまとまろうとしている。そこには取りこぼしもあり、万全には程遠いが』
小さく、マスコットのような大きさになったサンデルマンが机の上にちょこんと座り、カッテの問いに答えた。
天誓作戦を実施するにあたり、帝国はかなりのリスクを飲んだ。
絶対的な正義を掲げる独裁軍事国家が、自らの“独裁”に異を唱えたのだ。
帝国はこれから、自分たちのしてきたことのツケを支払わされることになるだろう。それは、新たな戦いの始まりをも意味している。
「でも、これは陛下が望んだシナリオです。彼女はずっと、誰か一人の英雄ではなく、多くの民の意志で国を作りたいと考えていました」
『そのようだな……。だが、この国には知識が不足している』
「何かを決めるという事、何かを判断するという事は、知識から答えを導き出すという事ですからね」
軍事国家として戦争という巨大産業に依存してきたこの国は、戦争に関与しない部分の技術は他国にも遅れている。
特に女性や子供に対する教育などは、ほとんどを国外の組織である錬金術師組合に頼っているような体たらくだ。
正しい歴史を後世に伝える事もせず、都合のいいプロパガンダの中で育てられた国が歪んでしまったのは、至極当然だったのかもしれない。
「革命王ヒルデブラントは、モンドシャッテ最後の皇帝を処刑しようなどとは考えませんでした。追放した貴族主義者から巻き上げた資産は、それまで虐げられた者たちの幸せの為に使おうとしたんです。でも、そうはできませんでした」
何かを良くしようと、何かを変えようとして革命戦争が起きた。
なのにその後に獅子王が見たのは、掌を返し、自分たちを苦しめていた貴族を抹殺しようという民意であった。
人間の総意は、くるくると簡単にその色と形を変え、時に想像もできないほど醜く、残酷に世界を塗り潰す。
強者が弱者を踏みにじる構図は、何も変わらなかった。
「きっと同じように、この出来事がきっかけとなって、また新しい争いが起こるのでしょう。それでも私達は、ただ一歩一歩進んでいくしかない」
『それが……お前たちの首に縄をかける事になろうとも、か……?』
「その時はその時です。それに、私も帝国の子ですからね」
少年はにっこりと笑い、自らの首を指先で撫でる。
「命を張らない賭け事なんて、退屈なだけですよ?」
「探したぞ。感心せんな、怪我人がうろつくのは」
「へ、陛下……!?」
「ああ、いい。そのまま座っていなさい」
バルトアンデルス城の中庭。夜明けを待つ暗がりの中、ベンチから腰を上げたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)をヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は片手で制止、その隣に腰かけた。
「城の中も宴で大騒ぎでな。私も結局一晩中飲まされたところだ」
蓋の空いた酒瓶を手にしたヴィルヘルミナの横顔は、しかし酔っぱらっているようには見えない。
「して、どうだった。今回の戦いは」
「は……。戦闘そのものは、そう複雑な物ではありませんでした。恒常の歪虚との戦闘……特別にお聞かせする程の事はございません」
「そういった事は、報告書を読めばわかる。私が知りたいのは、それ以上の事だ」
無論、アウレールも意図には気づいていた。即答しなかったのは、やや複雑な胸中を言葉にする自信がなかったからだ。
「私は先の戦いで、一つの答えを見ました。それはひどく個人的なものではありましたが」
「ほう。何を見たのかね?」
「改めて語る程の事ではありません。単に、英雄とは誰かが作り出したものに過ぎない、という事です」
あの日、ナイトハルトは言った。自分はただ、己の思うがままにその生を全うした、と。
「それは、貴女に対しても同じ事が言えるのではないかと」
「そうだな。私は皇帝であるという事実から逃げるつもりはない。だがそれは責任の問題ではなく、これが自分の選んだ道だからだ」
「騎士は……御伽噺に登場する勇者は、高潔な物だと信じていました。戦いとは、誇りあるものなのだと」
そう思えばこそどんな戦場でも戦えた。そう思えばこそ、自分たちの正しさを信じられた。
そう思わなければ……この国は何だと言うのだ。
闘って闘って、何度も何度も闘って、一体どれだけの戦士の血を大地に沁み込ませた?
どれだけの数の涙が……どれだけの痛みが……嘆きが人々の心を引き裂いたのだ?
「ああ――そうです。だからこそ、高潔でなければならなかった。そうであって欲しいと。けれど、現実はいつも血に塗れ、理想とは程遠い」
この世界には、救えるモノよりも救えないモノの方が圧倒的に多い。
生きる事も、死ぬ事も、瞬く間に切り替わる。
運命なんて生易しいモノじゃない。ただの運。偶然。そんなものが隣人を殺し、明日は自分の頭蓋をも砕くかもしれない。
「貴女もそうだったのですか? 貴女も……同じ道を進み、同じモノを見たのですか?」
「わからん。私は“ヴィルヘルミナ・ウランゲル”ではないからね」
闇光作戦で、彼女は一度そのすべての記憶を失った。
今の彼女は積み重ねのない虚像だ。“恐らくそうであっただろう、そう望まれるであろう姿”を模倣しているに過ぎない。
「それでも、私の中に変わらないモノがあった。ただ、この世界を変えたかった。誰かがそうしなければならないと思った。でもね、それは誰かに強制されたわけじゃないんだ」
そうしたいと思った。だからそうした。
それは……それは、正しいコトだ。それ以外に一体どんな理由で、ヒトが罪を背負えると言うのか。
「私達は皆、理想という夢の中に生きている。その中を精一杯、一生懸命に走るしかない。それが人間に与えられた、たった一つの権利じゃないかな」
「精一杯、一生懸命に……ですか」
陳腐な言い回しを笑ったわけではない。
あのナイトハルトもきっと同じ事を想ったのだと、確信できたからだ。
アウレールはすっと立ち上がり、冷え込んだ朝霧の中に差し込む光を見た。
ゆっくりと白い雲に影を作り、陽光がイルリ河にきらめきを弾く。
「ちょっとばかりね、私は思ったのさ。あいつの事が羨ましいってね。精一杯やって、一生懸命に走って、どこかに辿り着いた。それは多分、すごく気持ちのいい事だと思うんだ」
「――ええ。そうですね。貴女の仰る通りです」
少年は忘れぬよう、その背中を思い起こす。
想い出の中で振り返った父が、黒い騎士の姿に重なって、そして遠くへ――とてもとても遠い。手の届かない所へ、消えていくのを見た。
「……その疾走、確かに見届けた。満足な夢は見られたか? 騎士の王よ」
物語は続いていく。それを語る者がいる限り、終わる事はない。
黄昏の空に手を伸ばし、今こそ真実届かないと知って、それでも少年は笑った。
寂しげに。そして或いは――満足そうに。
しかし、精霊や亜人、帝国軍はハンターと共に立派に戦い抜き、歪虚の脅威からこの太陽の国を守り抜いたのだ。
……本当にそうだろうか?
実際のところ、この共闘にどれだけの意味があったのかなんて、誰にもわからない。
例えば明日からも路地裏では貧しい子供たちが死んでいくだろうし、人間がエルフを殺し、エルフが人間を殺すだろう。
コボルドのマハ族が帝国軍の監視体制下から真の意味で自由になることはないだろうし、辺境移民らが故郷に帰れるわけでも、この帝国内に領地を持てるわけでもない。
そうだ。結局のところ、何も変わりはしない。
明日もまた太陽は昇るだろう。そしてそれは、必ず沈むのだ。

カッテ・ウランゲル

サンデルマン
カッテ・ウランゲル(kz0033)は窓辺に立ち、バルトアンデルス城から帝都を見下ろす。
決戦の日は勝利の日に変わり、そしてそれは宴の日に変わった。
帝都中をひっくり返したような騒ぎの中、帝国政府は後先考えない程の予算を投入し、帝都に集まったすべての種族の者たちを宴に招いた。
傷ついた兵士たちが、コボルドやドワーフと共に酒を飲み、精霊と共にエルフが躍った。
最大の汚点、始祖帝と同じ名を持つ四霊剣は討伐された。この国はまた一つ、望むべき未来に近づいたのだ。
「憎しみも憧れも、妄信は全てナイトハルトの力となっていた。ならば今は、その双方が解けたと考えてよいのでしょうか」
『少なくとも、この国の正義は一度崩れ、そして新たな形にまとまろうとしている。そこには取りこぼしもあり、万全には程遠いが』
小さく、マスコットのような大きさになったサンデルマンが机の上にちょこんと座り、カッテの問いに答えた。
天誓作戦を実施するにあたり、帝国はかなりのリスクを飲んだ。
絶対的な正義を掲げる独裁軍事国家が、自らの“独裁”に異を唱えたのだ。
帝国はこれから、自分たちのしてきたことのツケを支払わされることになるだろう。それは、新たな戦いの始まりをも意味している。
「でも、これは陛下が望んだシナリオです。彼女はずっと、誰か一人の英雄ではなく、多くの民の意志で国を作りたいと考えていました」
『そのようだな……。だが、この国には知識が不足している』
「何かを決めるという事、何かを判断するという事は、知識から答えを導き出すという事ですからね」
軍事国家として戦争という巨大産業に依存してきたこの国は、戦争に関与しない部分の技術は他国にも遅れている。
特に女性や子供に対する教育などは、ほとんどを国外の組織である錬金術師組合に頼っているような体たらくだ。
正しい歴史を後世に伝える事もせず、都合のいいプロパガンダの中で育てられた国が歪んでしまったのは、至極当然だったのかもしれない。
「革命王ヒルデブラントは、モンドシャッテ最後の皇帝を処刑しようなどとは考えませんでした。追放した貴族主義者から巻き上げた資産は、それまで虐げられた者たちの幸せの為に使おうとしたんです。でも、そうはできませんでした」
何かを良くしようと、何かを変えようとして革命戦争が起きた。
なのにその後に獅子王が見たのは、掌を返し、自分たちを苦しめていた貴族を抹殺しようという民意であった。
人間の総意は、くるくると簡単にその色と形を変え、時に想像もできないほど醜く、残酷に世界を塗り潰す。
強者が弱者を踏みにじる構図は、何も変わらなかった。
「きっと同じように、この出来事がきっかけとなって、また新しい争いが起こるのでしょう。それでも私達は、ただ一歩一歩進んでいくしかない」
『それが……お前たちの首に縄をかける事になろうとも、か……?』
「その時はその時です。それに、私も帝国の子ですからね」
少年はにっこりと笑い、自らの首を指先で撫でる。
「命を張らない賭け事なんて、退屈なだけですよ?」

アウレール・V・ブラオラント

ヴィルヘルミナ・ウランゲル
「へ、陛下……!?」
「ああ、いい。そのまま座っていなさい」
バルトアンデルス城の中庭。夜明けを待つ暗がりの中、ベンチから腰を上げたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)をヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は片手で制止、その隣に腰かけた。
「城の中も宴で大騒ぎでな。私も結局一晩中飲まされたところだ」
蓋の空いた酒瓶を手にしたヴィルヘルミナの横顔は、しかし酔っぱらっているようには見えない。
「して、どうだった。今回の戦いは」
「は……。戦闘そのものは、そう複雑な物ではありませんでした。恒常の歪虚との戦闘……特別にお聞かせする程の事はございません」
「そういった事は、報告書を読めばわかる。私が知りたいのは、それ以上の事だ」
無論、アウレールも意図には気づいていた。即答しなかったのは、やや複雑な胸中を言葉にする自信がなかったからだ。
「私は先の戦いで、一つの答えを見ました。それはひどく個人的なものではありましたが」
「ほう。何を見たのかね?」
「改めて語る程の事ではありません。単に、英雄とは誰かが作り出したものに過ぎない、という事です」
あの日、ナイトハルトは言った。自分はただ、己の思うがままにその生を全うした、と。
「それは、貴女に対しても同じ事が言えるのではないかと」
「そうだな。私は皇帝であるという事実から逃げるつもりはない。だがそれは責任の問題ではなく、これが自分の選んだ道だからだ」
「騎士は……御伽噺に登場する勇者は、高潔な物だと信じていました。戦いとは、誇りあるものなのだと」
そう思えばこそどんな戦場でも戦えた。そう思えばこそ、自分たちの正しさを信じられた。
そう思わなければ……この国は何だと言うのだ。
闘って闘って、何度も何度も闘って、一体どれだけの戦士の血を大地に沁み込ませた?
どれだけの数の涙が……どれだけの痛みが……嘆きが人々の心を引き裂いたのだ?
「ああ――そうです。だからこそ、高潔でなければならなかった。そうであって欲しいと。けれど、現実はいつも血に塗れ、理想とは程遠い」
この世界には、救えるモノよりも救えないモノの方が圧倒的に多い。
生きる事も、死ぬ事も、瞬く間に切り替わる。
運命なんて生易しいモノじゃない。ただの運。偶然。そんなものが隣人を殺し、明日は自分の頭蓋をも砕くかもしれない。
「貴女もそうだったのですか? 貴女も……同じ道を進み、同じモノを見たのですか?」
「わからん。私は“ヴィルヘルミナ・ウランゲル”ではないからね」
闇光作戦で、彼女は一度そのすべての記憶を失った。
今の彼女は積み重ねのない虚像だ。“恐らくそうであっただろう、そう望まれるであろう姿”を模倣しているに過ぎない。
「それでも、私の中に変わらないモノがあった。ただ、この世界を変えたかった。誰かがそうしなければならないと思った。でもね、それは誰かに強制されたわけじゃないんだ」
そうしたいと思った。だからそうした。
それは……それは、正しいコトだ。それ以外に一体どんな理由で、ヒトが罪を背負えると言うのか。
「私達は皆、理想という夢の中に生きている。その中を精一杯、一生懸命に走るしかない。それが人間に与えられた、たった一つの権利じゃないかな」
「精一杯、一生懸命に……ですか」
陳腐な言い回しを笑ったわけではない。
あのナイトハルトもきっと同じ事を想ったのだと、確信できたからだ。
アウレールはすっと立ち上がり、冷え込んだ朝霧の中に差し込む光を見た。
ゆっくりと白い雲に影を作り、陽光がイルリ河にきらめきを弾く。
「ちょっとばかりね、私は思ったのさ。あいつの事が羨ましいってね。精一杯やって、一生懸命に走って、どこかに辿り着いた。それは多分、すごく気持ちのいい事だと思うんだ」
「――ええ。そうですね。貴女の仰る通りです」
少年は忘れぬよう、その背中を思い起こす。
想い出の中で振り返った父が、黒い騎士の姿に重なって、そして遠くへ――とてもとても遠い。手の届かない所へ、消えていくのを見た。
「……その疾走、確かに見届けた。満足な夢は見られたか? 騎士の王よ」
物語は続いていく。それを語る者がいる限り、終わる事はない。
黄昏の空に手を伸ばし、今こそ真実届かないと知って、それでも少年は笑った。
寂しげに。そして或いは――満足そうに。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)