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(ka0000)
【天誓】ニーベルンゲンの歌「人亜精霊共同戦線A」リプレイ


▼【天誓】グランドシナリオ「ニーベルンゲンの歌」▼
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作戦3:人亜精霊共同戦線A リプレイ
- 岩井崎 メル(ka0520)
- トゥーナ・リアーヌ(ka6426)
- シルヴィア・オーウェン(ka6372)
- デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)
- ジェールトヴァ(ka3098)
- イェルバート(ka1772)
- リアリュール(ka2003)
- セルゲン(ka6612)
- ハーティ(ka6928)
- Serge・Dior(ka3569)
- 白山 菊理(ka4305)
- ルナ・レンフィールド(ka1565)
- ウルミラ(ka6896)
- Holmes(ka3813)
- ユリアン(ka1664)
- エアルドフリス(ka1856)
- エリオ・アスコリ(ka5928)
- 天竜寺 舞(ka0377)
- 南條 真水(ka2377)
- シュネー・シュヴァルツ(ka0352)
- 鞍馬 真(ka5819)
- 神代 誠一(ka2086)
- 不動シオン(ka5395)
- ジーナ(ka1643)
●
平原の彼方。砂塵を巻上げて、歪虚の軍隊が進軍してくる。
それらは、暴食の眷属たち。動く白骨、死神の亡霊、自立する戦士の鎧など、常人にあれば卒倒しそうな冥府の輩が帝都を目指しているのだ。
その光景が帝都の大画面に映し出される。
しかし、そこにひょいっと写り込んだ人物がいた。岩井崎 メル(ka0520)である。彼女は錬魔院の用意したカメラを借りてきていたのだ。
「えーと、初めまして、でいいのかな。私は岩井崎メル。この度はこの戦場を駆け抜けて、みんなの戦いぶりを取材したいと思います!」
画面の中でにっこりメルが笑う。
カメラは回る。
時代も流転する。
いま、新時代への階となる戦いが、帝都に中継されて行く……。
●
「みんなの力が合わさる時代……この放送で、帝国中に届けるんだっ」
メルはガッツポーズを決めて気合をいれる。
「この辺りの敵はスケルトンが多いね。ちょっと歩くのに邪魔かな?」
メルは、デルタレイなどを放ちつつ、戦場の只中を進んで行く。
「お、ハンター発見! さっそく話を聞いてみよう!」
カメラは、赤髪の少女を捉えていた。
「ちょっといいかな?」
「ひゃ、なんなの!?」
「新時代体当たり取材!」
メルは自信満々に答える。
赤髪の少女、トゥーナ・リアーヌ(ka6426)はそれで察したらしく、驚きをしずめた。
「私に、何か……」
「意気込みとかないかな?」
「意気込み!? 急に言われても……」
「ほら、敵はアンデッドばっかりでしょ? 怖かったりしないかな?」
「あー、そういうことね」
トゥーナはちょっと俯いて、再びカメラに向き直った時にはきりりと引き締まった表情だった。
「ハンター始めてから変なのと戦ってばかりだからね! 今更骨や幽霊が雁首揃えてやってきたところでビビるとおもわないで! 乙女を舐めんじゃないわよ!」
その言葉に、帝都でも乙女たちがトゥーナに声援を送ったのだった。
「素敵な意気込みありがとう! ところで、この辺りにはほかにどんな人たちがいるのかな?」
「私は英霊の皆さんと行動しているから……」
「それはカメラですね!」
戦場の彼方から、一際高いヒールの鎧を着込んだ女騎士が敵を蹴散らしながらやってきた。
「ほら、妾を写しなさい! ほらほら!」
「君は、絶火の騎士、鉄靴令嬢アラベラ・クララさんだね?」
「いかにも!」
アラベラは中継がよほど嬉しいのであろう、さまざまなポーズをとってご満悦の様子。
「アラベラ君、英霊になって調子はどうかな?」
「他ならぬ、押しも押されもせぬ妾ですよ? 調子がいいに決まっているでしょう!」
ふふん、とアラベラは胸を張った。
「それは良かった。この戦については、どう思う?」
「――最期の戦いを思い出しますね」
絶火の騎士アラベラの最期は、夥しい敵を前に、ひとりで立ち向かったために訪れた。味方は助けなかった。どう考えても負け戦だったからだ。アラベラは最期まで、『目立つ』という自身の呪縛のような性質に殉じたのである。
「あの時、妾は独りでした。ですが、今は違うのですね」
「……ええ、そうです。今度の戦では、誰かひとりに英雄を背負わせない。みんなで勝利するんです」
澄んだ声が聞こえてきた。アラベラの隣にはシルヴィア・オーウェン(ka6372)がいた。
シルヴィアは皇帝ヴィルヘルミナと同じデザインの、しかし赤の意匠が青に変更された鎧を着込んでいた。その拵えから、シルヴィアが高貴な身分であることは一目瞭然だった。
「今、この国は戦っています」
シルヴィアが国民に語りかける。
「私達だけではありません……皆さんの祈りが、想いが! この戦を支えているのです! どうか、新しい英雄達に祈りを! それこそが、真の救国の力となるのです!」
青い瞳で真摯に訴えるシルヴィア。切実な願いが紡がれていた。
それを国民は静かに聞いていた。彼女の誠意は燃立つような熱いものではなく、氷のように、銀のように静かで凛としたものだったからだ。
そう、この戦いは国を救いもすれば滅ぼしもする。そして、それを決めるのは、この中継を見ている、画面の前の国民たちだ。
その静寂を切り裂くように、龍の唸り声の如きエンジン音が聞こえていた。
「そうさ! この戦い伝説にしようぜぇ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)である。デスドクロはバイクで戦場を駆け回っていたのだ。
「君はどんな戦いをしてるのー!?」
メルがエンジン音に負けじと声を張る。
「俺様は、指揮系統が存在しねぇ英霊部隊の連中との超絶連携をしていたのさ!」
カメラの前まで来て、器用にとまるデスドクロ。
「英霊も人間も関係ねえ。ただこの瞬間、確かに全ての意志は一つの方向を向いていた、という姿を見せてぇからよ! カメラ持ってんなら、そのあたり、よろしく頼むぜ!」
デスドクロはそういって走り去って言った。
エンジン音が消えた頃、それとは対照的な穏やかな声が、帝都に響き渡る。
「もちろん、エルフも、ですよ」
「君は?」
メルがそちらにカメラをむける。そこには微笑みをたたえた老人、ジェールトヴァ(ka3098)がいた。
「私はジェールドヴァ。エルフハイム元執行者ニコニコ平和ボランティア部隊withGです」
「Gとは?」
「爺さんのGですよ……。帝国の皆さん。この戦では誰か一人が英霊になってもダメ、というものです。つまり、人種も年齢も性別も関係なく、お互いに助け合う姿を見せればいい。一人では弱くても、力を合わせれば、誰もが英雄になれる。心が折れそうでも、みんなが応援してくれれば勇気が出る。戦い方は1つじゃない。だから力を貸して、一緒に戦おう」
そう言って、ジェールドヴァはカメラに向かって手を差し出す。
その背後では、団結を示すようにエルフたちや人間や精霊、コボルドが協力して戦っていたのだった。
「自分で言っておいてなんだけどよ、前々状況的に平和でもニコニコでもないんですけど!?」
「気持ちの問題だからね。さて、私たちもきちんと戦っている所を見せなければね」
カメラは回る。
次の英雄を見るために。
なにかを誰か一人に背負わせないために。
●
「やあ、ホロン!」
と、呼びかける声がした。メルもそちらにカメラを向け、画面に少年が映し出される。
イェルバート(ka1772)だった。
「また一緒に戦えて嬉しいよ。ホロン達の力、頼りにしてるからね!」
『ヒトノ友ヨ……コウシテ再ビ戦場ヲ共ニスル日ガ来ヨウトハ。マハ族ノ誇リニ賭ケ、戦イ抜クト誓オウ!』
イェルバードは手を振って、友人にエールを送っているらしい。その方角を画面が写すと、コボルドの部隊がスケルトンと戦っていた。
「さて、僕達もがんばらないとね!」
再び画面はイェルバードと周囲の仲間たちを写し出した……
「やっぱり、スケルトンの数だけは多いね……」
イェルバードが言う。
「事前に双眼鏡で観察した限りでは、スケルトンの背後にナズグルやレヴァナントが控えていた。いま、戦線を崩すわけにはいかない」
「敵は、英霊を狙っているようよ!」
リアリュール(ka2003)が敵の流れを読んで言う。虹色に輝く髪が風に揺れていた。
「雑魚とはいえ、集まったら厄介ね……今のうちに可能な限り倒してしまいましょう! みんな頑張って!」
リアリュールは声を張り上げて、仲間に声援を送る。
「守りなら任せろ!」
セルゲン(ka6612)がアラベラを守るように白骨の中に飛び込んだ。
「……あなた、亜人ですね」
セルゲンを横目にアラベラが言う。
「そうさ。だが、それがどうした!? 英霊のあんたもなかなかやるじゃねえの!」
「赤鬼さん、回復、とばしますれす!」
ハーティ(ka6928)が傷ついたセルゲンへ、癒しの魔法を施した。
ハーティがセルゲンを赤鬼と呼ぶように、セルゲンの種族は鬼である。そして、ハーティの種族もドラグーン、同じく亜人であった。
「……亜人って言い方、好きじゃないのれす」
ハーティが舌ったらずではあるが、確固たる意志を持って言う。
「……だからこの『共同』戦に参加できて嬉しいれす。種族の壁ぶち壊しましょ♪」
その宣言にいっそう鬨の声が大きくなる。
「君たちは、人間も、鬼も、ドラグーンも分け隔てなく戦うことを選んだんだね」
と、メル。
「そうれす! 僕たちは『共闘』、共に戦うことを決めたのれす!」
ハーティが高らかに宣言した。
続いて、それに負けず劣らず精悍な声が戦場に響いた。
「そうだ、英雄は一人にあらず!」
Serge・Dior(ka3569)である。彼はスケルトンを打ち据え、打ち据え、剣を高々と掲げる。
「表の英雄は一人かもしれない。だが、それを支え、共に戦い、大業の道を作り出す者もまた英雄である!」
「ここにいるみんなも、帝都のみんなも、敵を恐れないで、立ち向かって!」
リアリュールが声援を送る。
「何者にも恐れず、立ち向かうことこそ、英霊のあり方だ!」
白山 菊理(ka4305)も太刀をひらめかせて言うのだった。
その時、菊理の頬が陰惨な光に照らされた。頬をかすめて、魔法の矢が飛んで行ったのだ。
「きやがったな!」
セルゲンが魔法の発生源を睨みつける。
そこには――
「あれはナズグル!」
メルのカメラがナズグルを捉える。
死神の如き姿をした歪虚、ナズグルが貪婪な輝きをたたえる鎌を提げていた。
その虚な視線は、英霊を見据えている。そちらへ飛びかかろうとした刹那、どこからともなく、歌が聞こえて来た。
●
帝都のモニターから、音が降り注ぐ。
画面にはついに、奏者の姿が映し出された。黒髪の乙女。ちらりと微笑み、そして表情を引き締めて、凛と謳い始めた。躍る様に魅せる様に……
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利。希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん……」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は歌う。どこまでも、どこまでも。弦を爪弾く右手の軌跡には淡い光の音符が零れて行く。
「あれは、マーキス・ソング! 響く歌声と、踊るステップは敵を威圧するよ!」
メルが解説するように、ナズグルの防御が崩れ始めた。
ルナの奏でる旋律は、赤い光となり溢れ出し、周囲の敵を包むように広がった。
「見ているか、帝国の民」
ウルミラ(ka6896)がカメラの向こうへ呼びかける。
メルもウルミラを写す。
ウルミラの周囲には覚醒によって現れた炎の幻影が揺らめいていた。ウルミラは武器をカメラに向け、
「心して見ておけ。そしてそれぞれに新たな英雄の姿を見つけるといい」
一度、不敵な笑みをうかべた。
「この闘い、魅せてやる」
怨嗟の声をあげて、ナズグルはルナを睨みつける。
そこへ、桃色の髪をなびかせて、Holmes(ka3813)が進み出た。
「紳士淑女の皆々様、エスコートはこの老婆に任せてくれるかな?」
Holmesが泰然と言った。
「戦だ戦、大戦だ。こうも大きな戦いとなると、年甲斐もなく心が躍るというものさ」
Holmesは祖霊を憑依させて、身の丈以上の大鎌を構えた。尻尾が楽しそうに左右に揺れている。
そのHolmesに向かってナズグルは飛びかかろうとするが、なぜか動けない。見ると、足に影が絡みついていた。
「さぁ、素晴らしき舞踏会を楽しもうか。死神」
しかし、ナズグルの攻撃手段は近接ばかりではない。ナズグルの手に陰惨な魔法の光が紡がれる。
「させません! タチェット!」
そのルナの呼び声とともに、陰惨な光は霧散した。カウンターマジックが魔法を打ち消したのである。
ナズグルはルナを恨めしそうに睨みつける。だが、その視線にユリアン(ka1664)が割り込んだ。
「後衛には手出しさせなよ」
すらりと刀を構えてユリアンが言った。
「死神、ねえ……」
エアルドフリス(ka1856)が顎を撫でながら、敵を吟味する。
「個人的な正義の在処は常に“生きる事”だ。最期まで足掻くのが生ある者の義務……故に俺は歪虚を憎む」
エアルドフリスの武器に光が灯る。
「その死、穿たせてもらう」
ライトニングボルトが一直線、ナズグル目掛けて飛んで行った。
「まずはその邪魔な霊体と踊るとしようか」
エリオ・アスコリ(ka5928)が素早く懐に飛び込み、華麗なステップで敵の視線を惑わす。その軌跡には光の帯が残った。
「あんまり深い追いするなよ!」
エアルドフリスがエリオに注意する。
「何言ってるのさ、一人で戦っているわけじゃないし、それに……エアルドさんに何かあったら大泣きする人がいるからね。だから……背中は任せたよ、義兄さん」
と、エリオはエアルドフリスへの信頼をあらわした。
「……まったく、そこまで言われちゃあ、全力でやるしかないよな?」
エアルドフリスが再度魔法を紡ぐ。
「ルナ、ウルミラ、一気に霊体を剥がすぞ!」
「わかったよ!」
「了解した!」
歌唱は続く。そして、ルナのライトニングボルトが炸裂し、急所を貫いた。霊体がごっそりこそげ落ちる。
続いてウルミラの霊魔撃が放たれるも、ナズグルはかろうじて躱す。
しかし、退路の先には、
「そこは、死への一本道だ」
エアルドフリスのライトニングボルトが一直線に飛んでいき、ついに霊体を完全に剥がした。ついで、エアルドフリスはカメラに向かってぱちりとウィンクを決めるのだった。
オーブ状の核が露出する。
「今のうちだ! 畳み掛けろ!」
「了解!」
ひらりひらりと、エリオは舞うように敵に接近する。そして、体を捻り穿つ突きを放った。
「さっきは仕留めそこなからな……次こそ、刈り取る!」
ウルミラが飛び出した。体の横に鎌を引きつけて走って行く。そしてウルミラの鎌が風をきって、核を強襲する。
その切っ先は、過たず急所を穿ち、オーブ状の核は砕けて、消えた。
「いま、ナズグルの退治したのは『輪舞』の皆さんでした!」
カメラは回る。
まだまだ回る。
●
「あれは……?」
メルの声がスピーカーから流れる。
帝都のモニターは、巨大な、6メートルはあろうスケルトンを映し出していた。
同時に、その巨大なスケルトンに切っ先を向ける一人の女戦士の姿があった……
天竜寺 舞(ka0377)である。彼女は覚醒により真紅に染まった双眸で敵をきりりと睨みつける。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名は天竜寺舞。いまよりこの骸骨共を打倒す!」
舞は全力で駆け抜けながらすり違いざま敵を斬り伏せていく。そして、その終点でばしりとポーズをとる。
「おーっと、あれはリアルブルーの伝統芸能、歌舞伎の大見得をきっているね! これはお届けしなくては!」
戦場を縦横無尽に駆け抜けてカメラを回すメルが解説を入れて、わかりやくす中継する。
「あーあー、マイクチェック・ワンツー」
そこへ、機械を通した声が戦場に流れ出した。
「左翼後方に巨大スケルトン発生中、巨大スケルトン発生中。やる気のある方がいらっしゃいましたら、ご登場くださーい」
戦場の後方からである。
メルはカメラをズームにしてその音の出ところを探っていた。
「もうちょっとでレヴァナントと会敵だ。我こそはという英雄はどうぞー!」
魔導拡声器をもった南條 真水(ka2377)である。
「右翼、弾幕薄いぞー。援護いける方はいってくださーい」
その様を、メルはじーっと撮っていた。
「な、南條さん、南條さん」
真水の隣でスケルトンを薙ぎ払っていたシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が真水の袖口をくいくい引っ張る。
「なんだいシュネーさん」
「南條さん、映ってます……しゃきっとして私の分までどうぞ……」
「なんと」
真水は拡声器を構えたまま、カメラの方向に向き直った。
そして、真意の見えない笑みを貼り付けて、堂々と言うのだった。
「夜と夢に生きる南條さんだぞ。目立つとかお断りだ!」
「なに言ってるんですか!?」
「そういうわけで、シュネーさん、どうぞっ」
「ええー……」
真水は、シュネーをカメラの前に置き去りにして走り去った。
「英雄ってのはさ、なりたい人がなればいいのさ。というわけで、南條さんは右翼に弾幕はりに行ってくるよー」
「えっと……」
置き去りにされたシュネーははにかんで立っている。
「英雄……なんて柄じゃない、けど……今、少しでも必要とされるのなら走るだけ……です。それじゃっ」
シュネーはそれだけ言って、真水の後を追いかけた。
メルはその姿を映しながら、
「ハンターにもいろいろいるんだよねー」
と言うのだった。
その時、背後で歓声が起こった。
何事とメルが振り返ると、例の巨大なスケルトンに大勢の戦士が群がり、その体勢を崩しているのだ。
そこで、再び舞の登場である。舞は剣を構え直し、走り出す。もはや、群がってくる雑魚はこの際無視だ。
しかし、突進してくる舞に、スケルトンも巨大な拳を振り下ろす。
それを、残像をつくりながら躱した舞はひらりと飛び上がった。
「日本の英霊の八艘飛びを見せてやる!」
1体のスケルトンを踏みつけ、さらに飛び、もう1体のスケルトンを踏みつける。ついに舞は巨大なスケルトンの目の前だ。
「これで終わりだ!」
そのまま、剣で一刀両断、頭蓋骨を断ち割った。
その刀創からスケルトンはがらがら崩れて塵になっていく。
音もなく、舞が着地し、再度見得をきった。
「あたしはあたしの戦いをするだけさ」
それでもどこか自然体で、舞は言うのだった。
カメラは回る。
戦況は流転する。
●
カメラは戦場を駆け抜け、その映像は逐一帝都に放映される。
冥府の底より蘇った者共を、共同戦線は次々と塵へ還元して行く。
その画面の隅に、一際おぞましい影が映った。
レヴァナントである。鎧の外殻をもつ歪虚。
メルは、早速そちらへ接近する。
そこには、レヴァナントと対峙しているハンターの姿があった……
鞍馬 真(ka5819)の縦横無尽によって、邪魔なスケルトンどもは消えて無くなった。
しかし、その程度でレヴァナントは倒れない。
「やはり、レヴァナントは際立って強いな」
真のとなりにいた神代 誠一(ka2086)が言う。
レヴァナントは英霊の方へ向かいたいようだが、真と誠一が進路に立ちはだかっていた。
レヴァナントが動いた。流れるような動作で真に斬りかかる。
横薙ぎの斬撃を真は姿勢を低くして避け、迅雷の構えから反撃を浴びせかける。
レヴァナントはよろめいたが、未だ鎧には罅ひとつ入らない。
「まだまだ!」
真はソウルエッジを展開して、武器に魔法の力をまとわせ、威力を底上げし、2刀を構え、敵に迫った。
レヴァナントが避ける暇もなく、真は大きく袈裟斬りに、そして、もう1刀は胸を深々と貫いた。
「誠一さん!」
「オーケイ……さあ、砕け散れ!」
誠一の広角射撃がレヴァントに迫る。
レヴァナントは無理やり刺さった刀を抜いて、かろうじてその射撃を避け切った。
しかし、息をつく暇を誠一は与えない。
「悪いな、まだ動けるんだ」
即座にリロードを完了した誠一の一投が、敵の腕を貫いた。
だが、まだ、鎧は砕けない。
レヴァナントが、無音の叫びをあげながら強襲しようとした刹那、黒髪が舞った。
「加勢します……!」
シュネーである。
「やあ、南條さんたちも仲間にいれておくれよ」
真水もいた。
「これでようやくいい感じに絵がとれるよ! あ、さっきまでの戦いもぶれちゃったけどバッチリ中継してたから安心して!」
カメラをもったメルもやってきた。
「さて、敵は、レヴァナント。鎧と霊体の中にある核を破壊しないと倒せない敵だよ」
メルのカメラが真正面からレヴァナントを捉える。
「その戦い、私も加勢させてもらおうか。英雄など柄ではないが、天下を戴くに相応しいのは誰か、この私が試してやろう」
レヴァナントへ進み出るものがもう1人。
不動シオン(ka5395)である。
「シオン!」
真が呼びかける。
「真。しばしの間、共に戦うとしよう」
レヴァナントに向かうハンターは5人、カメラを持っているメルも含めれば6人だ。十分な戦力だった。
「1人ではなく全員で英雄になる。大丈夫、皆で進めば何も怖くは無いさ」
真が全員に呼びかける。
「点と点も繋げば面と成るってな」
誠一もこたえる。
「南條さん、そういうの柄じゃないんだけど、うん、今言うのは野暮だよねえ」
真水は、言いつつ魔法を展開し始めた。
「じゃ、前衛諸君は英雄らしく、気張ってくれ給え!」
「あれは多重強化! 味方の能力を強化する術だね」
「行きます……!」
シュネーの攻撃がレヴァナントの腕を弾き飛ばした。
すかさず、シオンが極端に低い姿勢で敵へ接近し、太ももから胸まで斬り上げる。
レヴァナントの鎧に罅が入った。
しかし、敵も負けていない、剣でシオンを切りつけるが、シオンは突進した勢いのまま前転し、攻撃を避ける。
「あれ、当たったら、まずいんじゃない? ってことで防御陣張っておくよ」
足元から光が立ち上る。真水のヒカリが味方の防御力を底上げする。
そして、叩き込まれた真の攻撃で、ついに鎧が砕け散った。
中には、黒い泥のような霊体が詰まっていた。
ソウルエッジで魔法攻撃が可能となった真の刃が、真水のクライアが、メルのデルタレイが、霊体へと集中する。
霊体が霧散して、オーブ状の核が見えた。
シオンの刀が風を切って、核を叩き切った。戦場こそ楽園と豪語するシオンの本領発揮であった。
返す刀でもう一太刀浴びせるシオンの刀をレヴァナントは盾で押し返す。
その懐に、輝く誠一の棒手裏剣が飛び込むも、レヴァナントは体をひねって回避した、つもりだった。
「逃げれると思うなよ、っと!」
追撃の棒手裏剣が放たれた。それは核へはっしと突き刺さる
「真! 今だ!」
輝く誠一の武器の光る軌跡を頼りに、真の二刀流が振るわれ、核は両断された。
核は砕けて、レヴァナントの構成要素の全ては塵になって消えていったのだった。
カメラは回る。
終点に向かって、運命の車輪と共に。
●
「あっちが騒がしそうだな」
真が言う。
メルが、真の指す方を画面に映す。
確かにそこには白骨の渦ができ、その中でハンターたちが戦っているようだ。
「ナイトハルトの討伐はどうなっている事やら……」
誠一がここではない戦場を思っていう。
「信じるしかあるまい。私たちは私たちにできることをするだけさ。後ろは任せた、戦友!」
「わかっているさ。それじゃ、行こうか」
『閃光』の2人が走り去る様を画面は写していた。画面は次なる戦場を映し出す……
「ちょっと、このあたり、敵多くない!?」
トゥーナが敵を退けつつ言う。
「仕方ありません。妾の魅力に惹かれているのでしょう」
アラベラは敵の渦中にいて、微笑んでいた。
「とはいっても、これでナズグル4体目なんですけど!」
「敵が多いのはいいことです」
「ええい、こうなったら乙女の底力、見せつけるしかないわね……!」
トゥーナのデルタレイが核を霧散させた。
「アラベラさん、楽しむのは大変結構ですが、あまり無茶はなさらぬように!」
シルヴィアがアラベラの傾注によって惹き寄せられた敵をなぎ払った。
「あなたたちがいるから、きっと大丈夫ですよ」
アラベラは彼女なりにハンターに信頼を置いているらしかった。
「言ってくれるわね……上等。敵にも国民にも見せつけてあげる!」
ダンピールによって不死狩りの効果を受けたトゥーナは次々と敵を屠っていく。
「……ついにきたわね!」
トゥーナが前方を見上げる。
そこには斧を持ったレヴァナントがいたのだ。
斧を担ぐようにして力を籠めるレヴァナント。そうして振り回された斧はアラベラの盾と激突し、甲高い音をたてる。
「なかなかやりますね。ですが、この程度……」
「っ……! アラベラさん、後ろ!」
シルヴィアの声が飛ぶ。
アラベラの背後には槍を持ったレヴァナントがいたのだ。
槍がアラベラの急所を貫かんとする。しかし、それは、アラベラへ当たる直前、軌道を変えたのだ。
「レディ、背中がガラ空きですよ」
エリオである。槍をはたき落として、アラベラの窮地を救ったのだ。
「……エリオ、と言いましたか。」
「また会えてうれしいよ、アラベラさん」
「混戦して来たね……敵は主に英霊を狙っているみたい。特にアラベラ君は敵の注目を集められるスキルがあるから、余計に狙われてるようだね」
メルが戦場を満遍なく撮りながら言う。
そのメルの後ろで激突音がした。
振り返るメル。こそには、ナズグルの鎌を受け止めるエアルドフリスの姿があった。
「お嬢さん、怪我はないかな?」
「おかげさまで無事だよ」
メルがカメラはそのまま、軽く頭を下げて礼をする。
「確かに、ここが正念場って感じだ」
エアルドフリスは鎌を押し返し、カメラに向かって微笑む。
「どうか我々に声を。声援を頂きたい。画面の前の貴方もまた英雄だ」
その微笑みは、優しく、どこまでも柔らかだった。
「じゃあ、このナズグルは俺たち『共闘』が引き受けたぜ」
セルゲンの声がした。『共闘』の面々がナズグルを囲んでいるのだった。
「さっきのお返しさ、気にすんな」
「そうか……ここはよろしく頼んだ」
と、エアルドフリス。
「メルも、引き続き解説よろしくな」
「もちろん!」
「さて、とは言っても悪いが俺には魔法攻撃手段がない。頼めるか?」
セルゲンが武器を華麗に回してから、構えをとる。セルゲンは敵の壁役になるつもりだ。
「レクイエム使います! 狙える方はお願いしますっ」
ハーティがすかさず、レクイエムを奏でる。
ナズグルの動きが鈍った。
「魔法なら、僕に任せて!」
イェルバードのデルタレイが、霊体をそぎ落として行く。
「その霊体、はたき落としてくれる!」
Sergeも、ソウルエッジで強化した剣で、霊体を斬りつける。
「あとちょっと……!」
誰ともなく言う。霊体はほとんどこそげている。あと一撃あれば。
「――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
どこからともなく、レセプションアークが飛んできた。
ナズグルの霊体が焼け焦げ、ついに核が露出する。
「君は!?」
メルがカメラをそちらに向ける。
そこにいるのは、
「少々手を貸しただけだ。とどめは任せたぞ」
という、ジーナ(ka1643)だった。
弦のはる、音がした。リアリュールだ。彼女は矢を天に向けて構える。
「一気に、打ち砕くよ!」
リアリュールが矢を離した刹那、矢は光の雨となって、ナズグルの核に、周囲のスケルトンに降り注ぐ。
そして、菊理が姿勢を低くして、突進の構えをとる。
「この一刺しで、決める」
菊理が呼吸を整える。
「ふっ――!」
呼吸を止めた刹那にジェットブーツで駆け出した。菊理は全力でナズグルとすれ違い、その核を突き刺した。
菊理の背後で、ナズグルは裂帛の叫びを響かせて塵へと変わっていくのだった。
「さっきはサンキューな」
と、セルゲンが振り返った時にはジーナはもういなかった。
「さあ、一気に殲滅するぞ! グーハハハ! このデスドクロ様に合わせられるか、英霊連中!」
デスドクロが戦場をバイクで駆け回りながら言う。
「ええ、このGめも、道を開きましょう」
ジェールドヴァもそれに続く。
「そっちのレヴァナントは任せた! いくよ、誠一さん!」
「了解だ、真」
真と誠一も駆けつけ、斧のレヴァナントの退治に当たる。
「じゃ、あっちの方にいる大きいスケルトンはあたしがもらうよ! もう1回、八艘飛びを見せてやる!」
英霊がいる方へ群がるスケルトンへ向かって舞が飛び出した。
「未だに迷い足掻き続ける、無惨に失われる命がひとつでも減る様に、俺は戦おう」
ユリアンが静かに刀を構え、槍のレヴァナントを見据える。
「しかし、迷える者は、俺たちか、それともあなたか?」
死してなお鎧を動かす戦士の魂を思って、ユリアンは問いかける。
レヴァナンの答えはない。ただ、鎧の軋む音が空気を揺らすばかりだ。
ルナが楽器をかき鳴らす。再び敵の防御を崩す音が紡がれ始める。
「では、レディ、一曲お付き合いいただけますか?」
エリオが手を差し出して、アラベラを誘う。
「いいでしょう。妾のステップについて来れますか?」
「エスコートは紳士の務めですから」
「言いますね――では、行きますよ!」
たんっ、と鉄靴でアラベラが踏み出す。振るわれる槍をレヴァナントは姿勢を低くして避けた。
そして軽やかな風が呼び込まれ、ユリアンの一刀がレヴァナントの右腕を斬りつける。
反撃とばかりにレヴァナントが槍を振るうがユリアンは後ろへ飛んで避ける。
槍を振り切ったがら空きの胴体めがけて、エリオの白帝が炸裂する。
鎧がひしゃげ、ばらばらと破片になって霊体が溢れ出す。
さらに、ウルミラの霊魔撃にルナとエアルドフリスのライトニングボルトが霊体を狙って飛んでいく。
さて、霊体は完全に剥がれ落ちた。オーブ状の核が浮遊している。
レヴァナントはそれでも踏みとどまり、槍を振るい、一人でも多く敵を殺そうとする。
槍が、Holmesの脇腹を刺し貫いた。
しかしHolmesは相変わらず、慌てるそぶりもない。どころか、みるみる傷が癒えていくではないか。
「そう簡単に倒れるわけにはいかないのさ」
相手の攻撃に反応して傷を癒すスキル、リジェネーションで回復したHolmesは身体中にマテリアルを満たす。
「では、踊ってもらおうか」
力を込めた一撃で、レヴァナントの体が浮き上がる。
レヴァナントはなんとか槍を支柱に、体勢を立て直そうとするが、その両脇に飛び込んでくる者たちがあった。
「いくよ、アラベラさん!」
「ええ、もちんです!」
エリオの拳と、アラベラの槍がはさみ打つように核を強襲した。
オーブの輝きが鈍る。
「その魂、せめて安らかに眠れ」
ユリアンが刀を閃かせ、核を両断し、ついに核は砕け散った。
ばらばらと、鎧の腕当てが、草摺りが、兜が、地面に落ちて、塵となって大気に霧散していった。
恨み言ひとつ言わない幕引き。
その最期にユリアンは、黙礼をするのだった。
ジーナはレヴァナントの戦闘に加勢しようとするスケルトンたちをレセプションアークで掃討していた。
ジーナは徹底的に、援護に徹していた。今もまた、レセプションアークに巻き込まれたナズグルが核を晒したが、とどめは他の部隊に譲っていた。
「さっきもそうだったけど、君は、援護に徹するんだね」
メルがカメラを向ける。
「その方が効率がいいし、私もドワーフだ。種族を超えた団結を示すにはいい機会だろう」
「なるほどね。取材協力ありがとう!」
メルは、再び駆け出した。
ハンターたちの体力はまだまだ尽きない。
シオンが刀を払う。今もまた、大型のスケルトンを退治したところだった。
「君も、ひとりで戦っているハンターだね」
メルが取材する。
「ああ、基本的にひとりの方が気楽なのでな」
ハンター同士連携を組むものもあれば、そうでないものもいた。
「だが、だからと言って私の心意気が劣っているわけではない」
シオンはニヒルな笑みを浮かべていた。
「まずは、この戦場を制するまでだ。何、結局のところは戦場だ。血が滾るじゃないか。さて、おまえは、次はどうする」
「そうだね……次は……」
その時である。ある伝令が戦場に響き渡った。
「ナイトハルトの撃破に成功! ナイトハルトの撃破に成功!」
「ハヴァマールの撤退を確認! 撤退を確認!」
時代は巡る。
そして、新しい時代を迎える。
●
「見て!」
帝都のモニターにも敵が撤退していく場面が映し出される。
それはまさに潰走というべきものだった。
「敵が撤退していくよ!」
敵も、大きな負のマテリアルが消えたのを受けて、ナイトハルトの消滅を悟ったのであろう。
次々平原の彼方へ姿を消していった。
「私たちは、勝ったんだよ!」
メルの声が高らかに響く。
「では、戦った皆さんの、共同戦線の様子を見てみましょう!」
画面がぐるりと後ろを映し出す。
そこには、種族が違うというだけでそれぞれ傷を負い、それでも今、協力して敵を退けた者たちがいた。
メルのカメラは、画面は、それぞれのハンターたち、新時代の英雄たちの姿を順繰りに映し出す。
笑顔のもの、照れているもの、精悍な表情のもの、誰かの後ろに隠れているもの、それぞれが、それぞれの形で、英雄になったのだ。
「この戦場からは以上! カメラ及びインタビュアーは岩井崎メルでお送りしました。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました」
カメラは止まった。画面も止まった。
けれど、時間は止まらない。世界は静止を許さない。
生死を飲み込んで、時代は流転する。
ここが、新しい時代の幕開けだ。
平原の彼方。砂塵を巻上げて、歪虚の軍隊が進軍してくる。
それらは、暴食の眷属たち。動く白骨、死神の亡霊、自立する戦士の鎧など、常人にあれば卒倒しそうな冥府の輩が帝都を目指しているのだ。
その光景が帝都の大画面に映し出される。
しかし、そこにひょいっと写り込んだ人物がいた。岩井崎 メル(ka0520)である。彼女は錬魔院の用意したカメラを借りてきていたのだ。
「えーと、初めまして、でいいのかな。私は岩井崎メル。この度はこの戦場を駆け抜けて、みんなの戦いぶりを取材したいと思います!」
画面の中でにっこりメルが笑う。
カメラは回る。
時代も流転する。
いま、新時代への階となる戦いが、帝都に中継されて行く……。
●
「みんなの力が合わさる時代……この放送で、帝国中に届けるんだっ」
メルはガッツポーズを決めて気合をいれる。
「この辺りの敵はスケルトンが多いね。ちょっと歩くのに邪魔かな?」
メルは、デルタレイなどを放ちつつ、戦場の只中を進んで行く。
「お、ハンター発見! さっそく話を聞いてみよう!」
カメラは、赤髪の少女を捉えていた。
「ちょっといいかな?」
「ひゃ、なんなの!?」
「新時代体当たり取材!」
メルは自信満々に答える。
赤髪の少女、トゥーナ・リアーヌ(ka6426)はそれで察したらしく、驚きをしずめた。
「私に、何か……」
「意気込みとかないかな?」
「意気込み!? 急に言われても……」
「ほら、敵はアンデッドばっかりでしょ? 怖かったりしないかな?」
「あー、そういうことね」
トゥーナはちょっと俯いて、再びカメラに向き直った時にはきりりと引き締まった表情だった。
「ハンター始めてから変なのと戦ってばかりだからね! 今更骨や幽霊が雁首揃えてやってきたところでビビるとおもわないで! 乙女を舐めんじゃないわよ!」
その言葉に、帝都でも乙女たちがトゥーナに声援を送ったのだった。
「素敵な意気込みありがとう! ところで、この辺りにはほかにどんな人たちがいるのかな?」
「私は英霊の皆さんと行動しているから……」
「それはカメラですね!」
戦場の彼方から、一際高いヒールの鎧を着込んだ女騎士が敵を蹴散らしながらやってきた。
「ほら、妾を写しなさい! ほらほら!」
「君は、絶火の騎士、鉄靴令嬢アラベラ・クララさんだね?」
「いかにも!」
アラベラは中継がよほど嬉しいのであろう、さまざまなポーズをとってご満悦の様子。
「アラベラ君、英霊になって調子はどうかな?」
「他ならぬ、押しも押されもせぬ妾ですよ? 調子がいいに決まっているでしょう!」
ふふん、とアラベラは胸を張った。
「それは良かった。この戦については、どう思う?」
「――最期の戦いを思い出しますね」
絶火の騎士アラベラの最期は、夥しい敵を前に、ひとりで立ち向かったために訪れた。味方は助けなかった。どう考えても負け戦だったからだ。アラベラは最期まで、『目立つ』という自身の呪縛のような性質に殉じたのである。
「あの時、妾は独りでした。ですが、今は違うのですね」
「……ええ、そうです。今度の戦では、誰かひとりに英雄を背負わせない。みんなで勝利するんです」
澄んだ声が聞こえてきた。アラベラの隣にはシルヴィア・オーウェン(ka6372)がいた。
シルヴィアは皇帝ヴィルヘルミナと同じデザインの、しかし赤の意匠が青に変更された鎧を着込んでいた。その拵えから、シルヴィアが高貴な身分であることは一目瞭然だった。
「今、この国は戦っています」
シルヴィアが国民に語りかける。
「私達だけではありません……皆さんの祈りが、想いが! この戦を支えているのです! どうか、新しい英雄達に祈りを! それこそが、真の救国の力となるのです!」
青い瞳で真摯に訴えるシルヴィア。切実な願いが紡がれていた。
それを国民は静かに聞いていた。彼女の誠意は燃立つような熱いものではなく、氷のように、銀のように静かで凛としたものだったからだ。
そう、この戦いは国を救いもすれば滅ぼしもする。そして、それを決めるのは、この中継を見ている、画面の前の国民たちだ。
その静寂を切り裂くように、龍の唸り声の如きエンジン音が聞こえていた。
「そうさ! この戦い伝説にしようぜぇ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)である。デスドクロはバイクで戦場を駆け回っていたのだ。
「君はどんな戦いをしてるのー!?」
メルがエンジン音に負けじと声を張る。
「俺様は、指揮系統が存在しねぇ英霊部隊の連中との超絶連携をしていたのさ!」
カメラの前まで来て、器用にとまるデスドクロ。
「英霊も人間も関係ねえ。ただこの瞬間、確かに全ての意志は一つの方向を向いていた、という姿を見せてぇからよ! カメラ持ってんなら、そのあたり、よろしく頼むぜ!」
デスドクロはそういって走り去って言った。
エンジン音が消えた頃、それとは対照的な穏やかな声が、帝都に響き渡る。
「もちろん、エルフも、ですよ」
「君は?」
メルがそちらにカメラをむける。そこには微笑みをたたえた老人、ジェールトヴァ(ka3098)がいた。
「私はジェールドヴァ。エルフハイム元執行者ニコニコ平和ボランティア部隊withGです」
「Gとは?」
「爺さんのGですよ……。帝国の皆さん。この戦では誰か一人が英霊になってもダメ、というものです。つまり、人種も年齢も性別も関係なく、お互いに助け合う姿を見せればいい。一人では弱くても、力を合わせれば、誰もが英雄になれる。心が折れそうでも、みんなが応援してくれれば勇気が出る。戦い方は1つじゃない。だから力を貸して、一緒に戦おう」
そう言って、ジェールドヴァはカメラに向かって手を差し出す。
その背後では、団結を示すようにエルフたちや人間や精霊、コボルドが協力して戦っていたのだった。
「自分で言っておいてなんだけどよ、前々状況的に平和でもニコニコでもないんですけど!?」
「気持ちの問題だからね。さて、私たちもきちんと戦っている所を見せなければね」
カメラは回る。
次の英雄を見るために。
なにかを誰か一人に背負わせないために。
●
「やあ、ホロン!」
と、呼びかける声がした。メルもそちらにカメラを向け、画面に少年が映し出される。
イェルバート(ka1772)だった。
「また一緒に戦えて嬉しいよ。ホロン達の力、頼りにしてるからね!」
『ヒトノ友ヨ……コウシテ再ビ戦場ヲ共ニスル日ガ来ヨウトハ。マハ族ノ誇リニ賭ケ、戦イ抜クト誓オウ!』
イェルバードは手を振って、友人にエールを送っているらしい。その方角を画面が写すと、コボルドの部隊がスケルトンと戦っていた。
「さて、僕達もがんばらないとね!」
再び画面はイェルバードと周囲の仲間たちを写し出した……
「やっぱり、スケルトンの数だけは多いね……」
イェルバードが言う。
「事前に双眼鏡で観察した限りでは、スケルトンの背後にナズグルやレヴァナントが控えていた。いま、戦線を崩すわけにはいかない」
「敵は、英霊を狙っているようよ!」
リアリュール(ka2003)が敵の流れを読んで言う。虹色に輝く髪が風に揺れていた。
「雑魚とはいえ、集まったら厄介ね……今のうちに可能な限り倒してしまいましょう! みんな頑張って!」
リアリュールは声を張り上げて、仲間に声援を送る。
「守りなら任せろ!」
セルゲン(ka6612)がアラベラを守るように白骨の中に飛び込んだ。
「……あなた、亜人ですね」
セルゲンを横目にアラベラが言う。
「そうさ。だが、それがどうした!? 英霊のあんたもなかなかやるじゃねえの!」
「赤鬼さん、回復、とばしますれす!」
ハーティ(ka6928)が傷ついたセルゲンへ、癒しの魔法を施した。
ハーティがセルゲンを赤鬼と呼ぶように、セルゲンの種族は鬼である。そして、ハーティの種族もドラグーン、同じく亜人であった。
「……亜人って言い方、好きじゃないのれす」
ハーティが舌ったらずではあるが、確固たる意志を持って言う。
「……だからこの『共同』戦に参加できて嬉しいれす。種族の壁ぶち壊しましょ♪」
その宣言にいっそう鬨の声が大きくなる。
「君たちは、人間も、鬼も、ドラグーンも分け隔てなく戦うことを選んだんだね」
と、メル。
「そうれす! 僕たちは『共闘』、共に戦うことを決めたのれす!」
ハーティが高らかに宣言した。
続いて、それに負けず劣らず精悍な声が戦場に響いた。
「そうだ、英雄は一人にあらず!」
Serge・Dior(ka3569)である。彼はスケルトンを打ち据え、打ち据え、剣を高々と掲げる。
「表の英雄は一人かもしれない。だが、それを支え、共に戦い、大業の道を作り出す者もまた英雄である!」
「ここにいるみんなも、帝都のみんなも、敵を恐れないで、立ち向かって!」
リアリュールが声援を送る。
「何者にも恐れず、立ち向かうことこそ、英霊のあり方だ!」
白山 菊理(ka4305)も太刀をひらめかせて言うのだった。
その時、菊理の頬が陰惨な光に照らされた。頬をかすめて、魔法の矢が飛んで行ったのだ。
「きやがったな!」
セルゲンが魔法の発生源を睨みつける。
そこには――
「あれはナズグル!」
メルのカメラがナズグルを捉える。
死神の如き姿をした歪虚、ナズグルが貪婪な輝きをたたえる鎌を提げていた。
その虚な視線は、英霊を見据えている。そちらへ飛びかかろうとした刹那、どこからともなく、歌が聞こえて来た。
●
帝都のモニターから、音が降り注ぐ。
画面にはついに、奏者の姿が映し出された。黒髪の乙女。ちらりと微笑み、そして表情を引き締めて、凛と謳い始めた。躍る様に魅せる様に……
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利。希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん……」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は歌う。どこまでも、どこまでも。弦を爪弾く右手の軌跡には淡い光の音符が零れて行く。
「あれは、マーキス・ソング! 響く歌声と、踊るステップは敵を威圧するよ!」
メルが解説するように、ナズグルの防御が崩れ始めた。
ルナの奏でる旋律は、赤い光となり溢れ出し、周囲の敵を包むように広がった。
「見ているか、帝国の民」
ウルミラ(ka6896)がカメラの向こうへ呼びかける。
メルもウルミラを写す。
ウルミラの周囲には覚醒によって現れた炎の幻影が揺らめいていた。ウルミラは武器をカメラに向け、
「心して見ておけ。そしてそれぞれに新たな英雄の姿を見つけるといい」
一度、不敵な笑みをうかべた。
「この闘い、魅せてやる」
怨嗟の声をあげて、ナズグルはルナを睨みつける。
そこへ、桃色の髪をなびかせて、Holmes(ka3813)が進み出た。
「紳士淑女の皆々様、エスコートはこの老婆に任せてくれるかな?」
Holmesが泰然と言った。
「戦だ戦、大戦だ。こうも大きな戦いとなると、年甲斐もなく心が躍るというものさ」
Holmesは祖霊を憑依させて、身の丈以上の大鎌を構えた。尻尾が楽しそうに左右に揺れている。
そのHolmesに向かってナズグルは飛びかかろうとするが、なぜか動けない。見ると、足に影が絡みついていた。
「さぁ、素晴らしき舞踏会を楽しもうか。死神」
しかし、ナズグルの攻撃手段は近接ばかりではない。ナズグルの手に陰惨な魔法の光が紡がれる。
「させません! タチェット!」
そのルナの呼び声とともに、陰惨な光は霧散した。カウンターマジックが魔法を打ち消したのである。
ナズグルはルナを恨めしそうに睨みつける。だが、その視線にユリアン(ka1664)が割り込んだ。
「後衛には手出しさせなよ」
すらりと刀を構えてユリアンが言った。
「死神、ねえ……」
エアルドフリス(ka1856)が顎を撫でながら、敵を吟味する。
「個人的な正義の在処は常に“生きる事”だ。最期まで足掻くのが生ある者の義務……故に俺は歪虚を憎む」
エアルドフリスの武器に光が灯る。
「その死、穿たせてもらう」
ライトニングボルトが一直線、ナズグル目掛けて飛んで行った。
「まずはその邪魔な霊体と踊るとしようか」
エリオ・アスコリ(ka5928)が素早く懐に飛び込み、華麗なステップで敵の視線を惑わす。その軌跡には光の帯が残った。
「あんまり深い追いするなよ!」
エアルドフリスがエリオに注意する。
「何言ってるのさ、一人で戦っているわけじゃないし、それに……エアルドさんに何かあったら大泣きする人がいるからね。だから……背中は任せたよ、義兄さん」
と、エリオはエアルドフリスへの信頼をあらわした。
「……まったく、そこまで言われちゃあ、全力でやるしかないよな?」
エアルドフリスが再度魔法を紡ぐ。
「ルナ、ウルミラ、一気に霊体を剥がすぞ!」
「わかったよ!」
「了解した!」
歌唱は続く。そして、ルナのライトニングボルトが炸裂し、急所を貫いた。霊体がごっそりこそげ落ちる。
続いてウルミラの霊魔撃が放たれるも、ナズグルはかろうじて躱す。
しかし、退路の先には、
「そこは、死への一本道だ」
エアルドフリスのライトニングボルトが一直線に飛んでいき、ついに霊体を完全に剥がした。ついで、エアルドフリスはカメラに向かってぱちりとウィンクを決めるのだった。
オーブ状の核が露出する。
「今のうちだ! 畳み掛けろ!」
「了解!」
ひらりひらりと、エリオは舞うように敵に接近する。そして、体を捻り穿つ突きを放った。
「さっきは仕留めそこなからな……次こそ、刈り取る!」
ウルミラが飛び出した。体の横に鎌を引きつけて走って行く。そしてウルミラの鎌が風をきって、核を強襲する。
その切っ先は、過たず急所を穿ち、オーブ状の核は砕けて、消えた。
「いま、ナズグルの退治したのは『輪舞』の皆さんでした!」
カメラは回る。
まだまだ回る。
●
「あれは……?」
メルの声がスピーカーから流れる。
帝都のモニターは、巨大な、6メートルはあろうスケルトンを映し出していた。
同時に、その巨大なスケルトンに切っ先を向ける一人の女戦士の姿があった……
天竜寺 舞(ka0377)である。彼女は覚醒により真紅に染まった双眸で敵をきりりと睨みつける。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名は天竜寺舞。いまよりこの骸骨共を打倒す!」
舞は全力で駆け抜けながらすり違いざま敵を斬り伏せていく。そして、その終点でばしりとポーズをとる。
「おーっと、あれはリアルブルーの伝統芸能、歌舞伎の大見得をきっているね! これはお届けしなくては!」
戦場を縦横無尽に駆け抜けてカメラを回すメルが解説を入れて、わかりやくす中継する。
「あーあー、マイクチェック・ワンツー」
そこへ、機械を通した声が戦場に流れ出した。
「左翼後方に巨大スケルトン発生中、巨大スケルトン発生中。やる気のある方がいらっしゃいましたら、ご登場くださーい」
戦場の後方からである。
メルはカメラをズームにしてその音の出ところを探っていた。
「もうちょっとでレヴァナントと会敵だ。我こそはという英雄はどうぞー!」
魔導拡声器をもった南條 真水(ka2377)である。
「右翼、弾幕薄いぞー。援護いける方はいってくださーい」
その様を、メルはじーっと撮っていた。
「な、南條さん、南條さん」
真水の隣でスケルトンを薙ぎ払っていたシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が真水の袖口をくいくい引っ張る。
「なんだいシュネーさん」
「南條さん、映ってます……しゃきっとして私の分までどうぞ……」
「なんと」
真水は拡声器を構えたまま、カメラの方向に向き直った。
そして、真意の見えない笑みを貼り付けて、堂々と言うのだった。
「夜と夢に生きる南條さんだぞ。目立つとかお断りだ!」
「なに言ってるんですか!?」
「そういうわけで、シュネーさん、どうぞっ」
「ええー……」
真水は、シュネーをカメラの前に置き去りにして走り去った。
「英雄ってのはさ、なりたい人がなればいいのさ。というわけで、南條さんは右翼に弾幕はりに行ってくるよー」
「えっと……」
置き去りにされたシュネーははにかんで立っている。
「英雄……なんて柄じゃない、けど……今、少しでも必要とされるのなら走るだけ……です。それじゃっ」
シュネーはそれだけ言って、真水の後を追いかけた。
メルはその姿を映しながら、
「ハンターにもいろいろいるんだよねー」
と言うのだった。
その時、背後で歓声が起こった。
何事とメルが振り返ると、例の巨大なスケルトンに大勢の戦士が群がり、その体勢を崩しているのだ。
そこで、再び舞の登場である。舞は剣を構え直し、走り出す。もはや、群がってくる雑魚はこの際無視だ。
しかし、突進してくる舞に、スケルトンも巨大な拳を振り下ろす。
それを、残像をつくりながら躱した舞はひらりと飛び上がった。
「日本の英霊の八艘飛びを見せてやる!」
1体のスケルトンを踏みつけ、さらに飛び、もう1体のスケルトンを踏みつける。ついに舞は巨大なスケルトンの目の前だ。
「これで終わりだ!」
そのまま、剣で一刀両断、頭蓋骨を断ち割った。
その刀創からスケルトンはがらがら崩れて塵になっていく。
音もなく、舞が着地し、再度見得をきった。
「あたしはあたしの戦いをするだけさ」
それでもどこか自然体で、舞は言うのだった。
カメラは回る。
戦況は流転する。
●
カメラは戦場を駆け抜け、その映像は逐一帝都に放映される。
冥府の底より蘇った者共を、共同戦線は次々と塵へ還元して行く。
その画面の隅に、一際おぞましい影が映った。
レヴァナントである。鎧の外殻をもつ歪虚。
メルは、早速そちらへ接近する。
そこには、レヴァナントと対峙しているハンターの姿があった……
鞍馬 真(ka5819)の縦横無尽によって、邪魔なスケルトンどもは消えて無くなった。
しかし、その程度でレヴァナントは倒れない。
「やはり、レヴァナントは際立って強いな」
真のとなりにいた神代 誠一(ka2086)が言う。
レヴァナントは英霊の方へ向かいたいようだが、真と誠一が進路に立ちはだかっていた。
レヴァナントが動いた。流れるような動作で真に斬りかかる。
横薙ぎの斬撃を真は姿勢を低くして避け、迅雷の構えから反撃を浴びせかける。
レヴァナントはよろめいたが、未だ鎧には罅ひとつ入らない。
「まだまだ!」
真はソウルエッジを展開して、武器に魔法の力をまとわせ、威力を底上げし、2刀を構え、敵に迫った。
レヴァナントが避ける暇もなく、真は大きく袈裟斬りに、そして、もう1刀は胸を深々と貫いた。
「誠一さん!」
「オーケイ……さあ、砕け散れ!」
誠一の広角射撃がレヴァントに迫る。
レヴァナントは無理やり刺さった刀を抜いて、かろうじてその射撃を避け切った。
しかし、息をつく暇を誠一は与えない。
「悪いな、まだ動けるんだ」
即座にリロードを完了した誠一の一投が、敵の腕を貫いた。
だが、まだ、鎧は砕けない。
レヴァナントが、無音の叫びをあげながら強襲しようとした刹那、黒髪が舞った。
「加勢します……!」
シュネーである。
「やあ、南條さんたちも仲間にいれておくれよ」
真水もいた。
「これでようやくいい感じに絵がとれるよ! あ、さっきまでの戦いもぶれちゃったけどバッチリ中継してたから安心して!」
カメラをもったメルもやってきた。
「さて、敵は、レヴァナント。鎧と霊体の中にある核を破壊しないと倒せない敵だよ」
メルのカメラが真正面からレヴァナントを捉える。
「その戦い、私も加勢させてもらおうか。英雄など柄ではないが、天下を戴くに相応しいのは誰か、この私が試してやろう」
レヴァナントへ進み出るものがもう1人。
不動シオン(ka5395)である。
「シオン!」
真が呼びかける。
「真。しばしの間、共に戦うとしよう」
レヴァナントに向かうハンターは5人、カメラを持っているメルも含めれば6人だ。十分な戦力だった。
「1人ではなく全員で英雄になる。大丈夫、皆で進めば何も怖くは無いさ」
真が全員に呼びかける。
「点と点も繋げば面と成るってな」
誠一もこたえる。
「南條さん、そういうの柄じゃないんだけど、うん、今言うのは野暮だよねえ」
真水は、言いつつ魔法を展開し始めた。
「じゃ、前衛諸君は英雄らしく、気張ってくれ給え!」
「あれは多重強化! 味方の能力を強化する術だね」
「行きます……!」
シュネーの攻撃がレヴァナントの腕を弾き飛ばした。
すかさず、シオンが極端に低い姿勢で敵へ接近し、太ももから胸まで斬り上げる。
レヴァナントの鎧に罅が入った。
しかし、敵も負けていない、剣でシオンを切りつけるが、シオンは突進した勢いのまま前転し、攻撃を避ける。
「あれ、当たったら、まずいんじゃない? ってことで防御陣張っておくよ」
足元から光が立ち上る。真水のヒカリが味方の防御力を底上げする。
そして、叩き込まれた真の攻撃で、ついに鎧が砕け散った。
中には、黒い泥のような霊体が詰まっていた。
ソウルエッジで魔法攻撃が可能となった真の刃が、真水のクライアが、メルのデルタレイが、霊体へと集中する。
霊体が霧散して、オーブ状の核が見えた。
シオンの刀が風を切って、核を叩き切った。戦場こそ楽園と豪語するシオンの本領発揮であった。
返す刀でもう一太刀浴びせるシオンの刀をレヴァナントは盾で押し返す。
その懐に、輝く誠一の棒手裏剣が飛び込むも、レヴァナントは体をひねって回避した、つもりだった。
「逃げれると思うなよ、っと!」
追撃の棒手裏剣が放たれた。それは核へはっしと突き刺さる
「真! 今だ!」
輝く誠一の武器の光る軌跡を頼りに、真の二刀流が振るわれ、核は両断された。
核は砕けて、レヴァナントの構成要素の全ては塵になって消えていったのだった。
カメラは回る。
終点に向かって、運命の車輪と共に。
●
「あっちが騒がしそうだな」
真が言う。
メルが、真の指す方を画面に映す。
確かにそこには白骨の渦ができ、その中でハンターたちが戦っているようだ。
「ナイトハルトの討伐はどうなっている事やら……」
誠一がここではない戦場を思っていう。
「信じるしかあるまい。私たちは私たちにできることをするだけさ。後ろは任せた、戦友!」
「わかっているさ。それじゃ、行こうか」
『閃光』の2人が走り去る様を画面は写していた。画面は次なる戦場を映し出す……
「ちょっと、このあたり、敵多くない!?」
トゥーナが敵を退けつつ言う。
「仕方ありません。妾の魅力に惹かれているのでしょう」
アラベラは敵の渦中にいて、微笑んでいた。
「とはいっても、これでナズグル4体目なんですけど!」
「敵が多いのはいいことです」
「ええい、こうなったら乙女の底力、見せつけるしかないわね……!」
トゥーナのデルタレイが核を霧散させた。
「アラベラさん、楽しむのは大変結構ですが、あまり無茶はなさらぬように!」
シルヴィアがアラベラの傾注によって惹き寄せられた敵をなぎ払った。
「あなたたちがいるから、きっと大丈夫ですよ」
アラベラは彼女なりにハンターに信頼を置いているらしかった。
「言ってくれるわね……上等。敵にも国民にも見せつけてあげる!」
ダンピールによって不死狩りの効果を受けたトゥーナは次々と敵を屠っていく。
「……ついにきたわね!」
トゥーナが前方を見上げる。
そこには斧を持ったレヴァナントがいたのだ。
斧を担ぐようにして力を籠めるレヴァナント。そうして振り回された斧はアラベラの盾と激突し、甲高い音をたてる。
「なかなかやりますね。ですが、この程度……」
「っ……! アラベラさん、後ろ!」
シルヴィアの声が飛ぶ。
アラベラの背後には槍を持ったレヴァナントがいたのだ。
槍がアラベラの急所を貫かんとする。しかし、それは、アラベラへ当たる直前、軌道を変えたのだ。
「レディ、背中がガラ空きですよ」
エリオである。槍をはたき落として、アラベラの窮地を救ったのだ。
「……エリオ、と言いましたか。」
「また会えてうれしいよ、アラベラさん」
「混戦して来たね……敵は主に英霊を狙っているみたい。特にアラベラ君は敵の注目を集められるスキルがあるから、余計に狙われてるようだね」
メルが戦場を満遍なく撮りながら言う。
そのメルの後ろで激突音がした。
振り返るメル。こそには、ナズグルの鎌を受け止めるエアルドフリスの姿があった。
「お嬢さん、怪我はないかな?」
「おかげさまで無事だよ」
メルがカメラはそのまま、軽く頭を下げて礼をする。
「確かに、ここが正念場って感じだ」
エアルドフリスは鎌を押し返し、カメラに向かって微笑む。
「どうか我々に声を。声援を頂きたい。画面の前の貴方もまた英雄だ」
その微笑みは、優しく、どこまでも柔らかだった。
「じゃあ、このナズグルは俺たち『共闘』が引き受けたぜ」
セルゲンの声がした。『共闘』の面々がナズグルを囲んでいるのだった。
「さっきのお返しさ、気にすんな」
「そうか……ここはよろしく頼んだ」
と、エアルドフリス。
「メルも、引き続き解説よろしくな」
「もちろん!」
「さて、とは言っても悪いが俺には魔法攻撃手段がない。頼めるか?」
セルゲンが武器を華麗に回してから、構えをとる。セルゲンは敵の壁役になるつもりだ。
「レクイエム使います! 狙える方はお願いしますっ」
ハーティがすかさず、レクイエムを奏でる。
ナズグルの動きが鈍った。
「魔法なら、僕に任せて!」
イェルバードのデルタレイが、霊体をそぎ落として行く。
「その霊体、はたき落としてくれる!」
Sergeも、ソウルエッジで強化した剣で、霊体を斬りつける。
「あとちょっと……!」
誰ともなく言う。霊体はほとんどこそげている。あと一撃あれば。
「――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
どこからともなく、レセプションアークが飛んできた。
ナズグルの霊体が焼け焦げ、ついに核が露出する。
「君は!?」
メルがカメラをそちらに向ける。
そこにいるのは、
「少々手を貸しただけだ。とどめは任せたぞ」
という、ジーナ(ka1643)だった。
弦のはる、音がした。リアリュールだ。彼女は矢を天に向けて構える。
「一気に、打ち砕くよ!」
リアリュールが矢を離した刹那、矢は光の雨となって、ナズグルの核に、周囲のスケルトンに降り注ぐ。
そして、菊理が姿勢を低くして、突進の構えをとる。
「この一刺しで、決める」
菊理が呼吸を整える。
「ふっ――!」
呼吸を止めた刹那にジェットブーツで駆け出した。菊理は全力でナズグルとすれ違い、その核を突き刺した。
菊理の背後で、ナズグルは裂帛の叫びを響かせて塵へと変わっていくのだった。
「さっきはサンキューな」
と、セルゲンが振り返った時にはジーナはもういなかった。
「さあ、一気に殲滅するぞ! グーハハハ! このデスドクロ様に合わせられるか、英霊連中!」
デスドクロが戦場をバイクで駆け回りながら言う。
「ええ、このGめも、道を開きましょう」
ジェールドヴァもそれに続く。
「そっちのレヴァナントは任せた! いくよ、誠一さん!」
「了解だ、真」
真と誠一も駆けつけ、斧のレヴァナントの退治に当たる。
「じゃ、あっちの方にいる大きいスケルトンはあたしがもらうよ! もう1回、八艘飛びを見せてやる!」
英霊がいる方へ群がるスケルトンへ向かって舞が飛び出した。
「未だに迷い足掻き続ける、無惨に失われる命がひとつでも減る様に、俺は戦おう」
ユリアンが静かに刀を構え、槍のレヴァナントを見据える。
「しかし、迷える者は、俺たちか、それともあなたか?」
死してなお鎧を動かす戦士の魂を思って、ユリアンは問いかける。
レヴァナンの答えはない。ただ、鎧の軋む音が空気を揺らすばかりだ。
ルナが楽器をかき鳴らす。再び敵の防御を崩す音が紡がれ始める。
「では、レディ、一曲お付き合いいただけますか?」
エリオが手を差し出して、アラベラを誘う。
「いいでしょう。妾のステップについて来れますか?」
「エスコートは紳士の務めですから」
「言いますね――では、行きますよ!」
たんっ、と鉄靴でアラベラが踏み出す。振るわれる槍をレヴァナントは姿勢を低くして避けた。
そして軽やかな風が呼び込まれ、ユリアンの一刀がレヴァナントの右腕を斬りつける。
反撃とばかりにレヴァナントが槍を振るうがユリアンは後ろへ飛んで避ける。
槍を振り切ったがら空きの胴体めがけて、エリオの白帝が炸裂する。
鎧がひしゃげ、ばらばらと破片になって霊体が溢れ出す。
さらに、ウルミラの霊魔撃にルナとエアルドフリスのライトニングボルトが霊体を狙って飛んでいく。
さて、霊体は完全に剥がれ落ちた。オーブ状の核が浮遊している。
レヴァナントはそれでも踏みとどまり、槍を振るい、一人でも多く敵を殺そうとする。
槍が、Holmesの脇腹を刺し貫いた。
しかしHolmesは相変わらず、慌てるそぶりもない。どころか、みるみる傷が癒えていくではないか。
「そう簡単に倒れるわけにはいかないのさ」
相手の攻撃に反応して傷を癒すスキル、リジェネーションで回復したHolmesは身体中にマテリアルを満たす。
「では、踊ってもらおうか」
力を込めた一撃で、レヴァナントの体が浮き上がる。
レヴァナントはなんとか槍を支柱に、体勢を立て直そうとするが、その両脇に飛び込んでくる者たちがあった。
「いくよ、アラベラさん!」
「ええ、もちんです!」
エリオの拳と、アラベラの槍がはさみ打つように核を強襲した。
オーブの輝きが鈍る。
「その魂、せめて安らかに眠れ」
ユリアンが刀を閃かせ、核を両断し、ついに核は砕け散った。
ばらばらと、鎧の腕当てが、草摺りが、兜が、地面に落ちて、塵となって大気に霧散していった。
恨み言ひとつ言わない幕引き。
その最期にユリアンは、黙礼をするのだった。
ジーナはレヴァナントの戦闘に加勢しようとするスケルトンたちをレセプションアークで掃討していた。
ジーナは徹底的に、援護に徹していた。今もまた、レセプションアークに巻き込まれたナズグルが核を晒したが、とどめは他の部隊に譲っていた。
「さっきもそうだったけど、君は、援護に徹するんだね」
メルがカメラを向ける。
「その方が効率がいいし、私もドワーフだ。種族を超えた団結を示すにはいい機会だろう」
「なるほどね。取材協力ありがとう!」
メルは、再び駆け出した。
ハンターたちの体力はまだまだ尽きない。
シオンが刀を払う。今もまた、大型のスケルトンを退治したところだった。
「君も、ひとりで戦っているハンターだね」
メルが取材する。
「ああ、基本的にひとりの方が気楽なのでな」
ハンター同士連携を組むものもあれば、そうでないものもいた。
「だが、だからと言って私の心意気が劣っているわけではない」
シオンはニヒルな笑みを浮かべていた。
「まずは、この戦場を制するまでだ。何、結局のところは戦場だ。血が滾るじゃないか。さて、おまえは、次はどうする」
「そうだね……次は……」
その時である。ある伝令が戦場に響き渡った。
「ナイトハルトの撃破に成功! ナイトハルトの撃破に成功!」
「ハヴァマールの撤退を確認! 撤退を確認!」
時代は巡る。
そして、新しい時代を迎える。
●
「見て!」
帝都のモニターにも敵が撤退していく場面が映し出される。
それはまさに潰走というべきものだった。
「敵が撤退していくよ!」
敵も、大きな負のマテリアルが消えたのを受けて、ナイトハルトの消滅を悟ったのであろう。
次々平原の彼方へ姿を消していった。
「私たちは、勝ったんだよ!」
メルの声が高らかに響く。
「では、戦った皆さんの、共同戦線の様子を見てみましょう!」
画面がぐるりと後ろを映し出す。
そこには、種族が違うというだけでそれぞれ傷を負い、それでも今、協力して敵を退けた者たちがいた。
メルのカメラは、画面は、それぞれのハンターたち、新時代の英雄たちの姿を順繰りに映し出す。
笑顔のもの、照れているもの、精悍な表情のもの、誰かの後ろに隠れているもの、それぞれが、それぞれの形で、英雄になったのだ。
「この戦場からは以上! カメラ及びインタビュアーは岩井崎メルでお送りしました。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました」
カメラは止まった。画面も止まった。
けれど、時間は止まらない。世界は静止を許さない。
生死を飲み込んで、時代は流転する。
ここが、新しい時代の幕開けだ。
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ゆくなが | 6人 |
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