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【天誓】ニーベルンゲンの歌「人亜精霊共同戦線B」リプレイ

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作戦4:人亜精霊共同戦線B リプレイ

テンシ・アガート
テンシ・アガート(ka0589
観那
観那(ka4583
カイン・シュミート
カイン・シュミート(ka6967
メアリ・ロイド
メアリ・ロイド(ka6633
Uisca Amhran
Uisca Amhran(ka0754
瀬織 怜皇
瀬織 怜皇(ka0684
エラ・“dJehuty”・ベル
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
濡羽 香墨
濡羽 香墨(ka6760
澪
澪(ka6002
アシェ?ル
アシェ?ル(ka2983
夢路 まよい
夢路 まよい(ka1328
エーミ・エーテルクラフト
エーミ・エーテルクラフト(ka2225
グリムバルド・グリーンウッド
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
セレン・コウヅキ
セレン・コウヅキ(ka0153
金目
金目(ka6190
ダリア
ダリア(ka7016
アルヴィン = オールドリッチ
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
チョココ
チョココ(ka2449
氷雨 柊
氷雨 柊(ka6302
クラン・クィールス
クラン・クィールス(ka6605
レオナルド・テイナー
レオナルド・テイナー(ka4157
高瀬 未悠
高瀬 未悠(ka3199
ミモザ
ミモザ(kz0227
●仰ぎ見れば懐かしき
 空は高く、眩しいばかりの青色を湛えていた。
 思えば職業柄か、見上げていたのは夜空ばかりだった気がする。
 青空を背景に、頭上に掲げる天球儀は莫大なマテリアルと意思の力の結節点として機能し、周囲に設置されたスペルアンカーへとその力を注ぎ込んでいた。
 あたりを舞うように飛び回るのは数多の精霊たち。
 陣を組むのは亜人達のを含めた大規模混成軍。
 集中が乱れてしまえば天球儀の核ごと吹き飛んでしまいそうな、そんな濃密なマテリアルの奔流が生まれていた。
 最後まで保てば、それで良いとも思っている……。
 そんな術の中核を担っているエフェメリスの周囲に、テンシ・アガート(ka0589)はイクシードプライムを並べていた。
 目的は一つ、彼女に無茶をさせて死なせないためだ。
 もとより精霊の力の結晶でもあるイクシードプライムは精霊の力と親和性が高い。
 案としては一考する価値のあるものだった。
 心なしかではあるが、術が先程よりも安定しているふうではあった。
 プライムを並べ終えたアガートは、そして自信満々にエフェメリスへと言い放つ。
「いきなりだけどエフェメリス! この戦いの間、俺の相棒になって!」
 どういう意味じゃろうか、と首を傾げるエフェメリスだったが、アガートの続けた言葉に困ったような表情になる。
 彼の提案と言うのは、エフェメリスと合体して負荷を分散するというものだった。
 祖霊を憑依させる霊闘士ならではの発想ではあるが、それに彼女は首を横に振る。
「お主はすでに精霊と契約しておろう。多重契約になってしまうゆえに、それはできん」
 気持ちだけ受け取っておこう、と彼女は笑う。
 彼女の無事を祈るものは、アガートだけではない。
 術の行使が始まり、莫大なマテリアルが餌となり、暴食王ハヴァマールの軍勢が迫らんとする状況だが、まだいくらかの時間は遺されている。
 そんな状況でカイン・シュミート(ka6967)とメアリ・ロイド(ka6633)、観那(ka4583)はそれぞれ思う所あって、エフェメリスの側へと集まっていた。
「先日振り、善き導き手エフェメリス」
「カインではないか、それにメアリに観那も、久しいのう」
「ええ、お久しぶりです」
「あの日語ったことを示しに来ました」
 見回せばエフェメリスの見知った顔は他にもいる。
 顕現してそう日は経っていないというのに、自分には――過去の残滓にはもったいないぐらいの幸運だろう。
 今日、この日に立ち会うために顕現したのだと思えば、今日、この日に力尽きても悔いはない。
「俺達はあなたを護り戦うが、あなたも戦い、俺達を護って欲しい」
「うむ。全力を尽くそう……良き未来をつかめることを祈っておるぞ」
 そんなエフェメリスの首に、カインはキリングドールを掛ける。
 オートマトンを模したそれが、首から胸元へと下がった。
「む?」
「お守りだ。預かっていて欲しい」
「それならばお主が持っているべきではないか?」
 私に持たせるなど、と言いかけた言葉は、観那によって遮られる。
「皆の勝利と無事、この国の未来はもちろんですが、貴方の無事を祈る者もまた居るのです」
 汲んであげてください、と。
「あの日語ったことに嘘偽りはありません。私達の運命……人と精霊の望む未来を勝ち取りに行きましょう」
「人と精霊の、望む未来……」
「星の数だけ運命もある……それは私たちハンターだけでなく、エフィさん、貴女もですし、共にこの星の一員ですっ。一緒に運命を切り開き未来という名の輝きを掴みましょうっ!」
 そう、エフェメリスの手を取りを鼓舞するUisca Amhran(ka0754)、その手は確かな暖かさを帯びていて、何か忘れていたものを呼び起こさせるのだ。
「俺たちも全力を尽くします、共に運命を切り開きましょう!」
 かつて自分が掲げた言葉を、瀬織 怜皇(ka0684)から聞かされて、何か、自分は思い違いをしているのではないかという疑問が鎌首をもたげた。
 人は未来を望む。
 では、精霊はどうだろうか?
 もともと人として生まれ、なまじその記憶が残っていた故に、自分はすでに終わった人間だという考えに囚われていたのかもしれない。
 そんなエフェメリスに、メアリがオルゴールを差し出した。
「特に回復効果は無いんですが「草喰み野駆けよ黒羊」の曲が入ったオルゴールです。少しでも貴女の心の支えとなりますように。消えさせはしません。また、お茶会をしましょう?」
「また……か」
 その言葉は、今日の先を望むもの。
 まだ見ぬ明日を願うものだ。
「……うむ、そうじゃな。わしは今日の結果を見届け、その先を……お主たちが紡ぐ未来を精霊として見届けよう!」
 人としての終わり――精霊としての始まり。
 確かな、火が宿る瞬間。
 あるいは、この瞬間が本当の、"精霊"エフェメリスの誕生だったのかもしれない。
「ネジ、巻きますか?」
 術の行使で手の塞がりがちなエフェメリスにメアリが聞くと、彼女は首を横に振って笑って答えた。
「いや、終わってから、ゆっくりと聞かせてもらおう。今はそのままにしておいてくれ」
 終わってから。
 それは、この戦いを生き延びるという、彼女からの確かな意思表明だった。
 術式が目に見えて安定し出したのはこの頃からである。

 そんな彼らの一部始終は、カメラに収められて国民へと絶賛中継中であった。
「今を生きる英雄たちの姿……いい絵だなぁ、おい?」
 集音用の指向性のマイクを向けて、紙巻たばこを噛み潰し、姐さんという表現が的確そうな女性は隣でカメラを構える男性へと声をかける。
「そっすね、これは見逃せないっすよ!」
 身の丈ほどのカメラを構え、戦場を、混成軍を、次代の英雄ハンター達を余すこと無く画面に収める。
 真実の伝達者を自称する報道組の取材班二名が、人亜精霊共同戦線の中に紛れ込んでいた。

●星が燃え、空が墜ちた日
 莫大なマテリアルの結節点は、暴食にとっては美味しい餌に等しい。
 ハヴァマールの放った軍勢がここまで到達するに障害らしきものは無く、程なくして負のマテリアルを吹き荒れさせる軍勢が姿を表した。
 その通り道に草木は残らず、通った道の一切合財を暗く汚染するほど。
 それぞれが武器を構え、魔法の準備をし、大砲が火を噴く瞬間を待つ。
 集った精霊たちが力を集めることで高まったマテリアルが大気を震わせた。
 まず動いたのはメアリとエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)、高まるマテリアルを存分に集め、それを仲間の強化へと転換する。
 エラからは早回しのように枝が伸び、周囲の仲間たちの周りに七竈の花が開く。
「開け。祝福の華」
(これが高位スキルってやつか……めちゃくちゃキツいな)
 二人の行使する術は仲間の能力を飛躍的に高める、だがその分要するマテリアルは莫大で、覚醒者として扱えるだけの消費では済まず、生命維持に必要なマテリアルすらも術が吸い上げてしまう。
 それでも、術の行使は止まらない。
 命までもを引き金にして、皆に託すのだ。
 そんな皆の前に出て、古びた旗を括り付けた槍を抱える、禍々しい鎧の姿。
 そんな濡羽 香墨(ka6760)姿の隣には、自身の身を超える大太刀を構えた澪(ka6002)の姿がある。
 寄り添うもの同士並び立ち、来る宣言の時を待っている。
「……あいつをやっつけて」
 先頭に立つ見るからに強靭な敵二体を指し、掲げる正義の言葉は言葉としてやや弱く、けれど確たる意思を宿していた。
 それは打倒するべき敵の宣言、打ち倒すべき存在を明確にする意思の道標だ。
 後を引き継ぐのは――
 凛とした詠唱。
 それは戦場の雄叫びの中においてなお一際高く響き、聞くものを泡立たせる。
 溢れていたマテリアルが一気に空へと流れ、凝縮されていくさまはマテリアルに親和性の高い精霊たちが特に大きくざわつくほどである。
 アシェ?ル(ka2983)と夢路 まよい(ka1328)の詠唱にあわせて織り成された術は、やがて空で結実する。
「――大地に砕き降れ!メテオスウォーム!」
「まとめて派手に吹っ飛んじゃえ!」

 カメラに収められ中継された光景に、誰もが息を呑む。
 空が燃え、星が落ちてきた。
 そう表現する以外になんともいい難いものが映っているのが。
 星が落ちる度にカメラが激しく揺れる、それだけの衝撃があるということだ。
 カメラが揺れる度、歪虚の軍勢が派手に吹き飛んでいく。
 響いてくる音声は轟音ばかり、姉御肌の女性が何かしら叫んでいるようだがほとんどかき消されるばかりである。
 やがて術が終わった頃、土煙の向こうから姿を表したのは、大地は幾つものクレーターが形成され、暴食王の軍勢、その前線の大半が壊滅した光景だった。
 残った歪虚も、精霊たちの術、人と亜人の部隊による砲撃を前に見る間に数を減らしてゆく。
 あまりにも圧倒的な初撃。
 呆然と見ていた国民達だが、歓声が上がり始めるとそれは津波のように広がっていった。

 そろそろ弓の射程に入る頃合いを見計らって、エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は土壁を生み出す。
 見計らったかのように飛んできた矢はそれに遮られて地に落ちた。
 エフェメリスのためにと集められたポーションなどを一括管理しつつ、周囲の状況を常に見回して頭を回すことに余念がない。
 すでに疲労の色の濃いエフェメリスは、カインによって幾度となく回復を施されている。
(まるで割れた器に水を注いでいるみたいな気分だが……いや、ここが踏ん張りどころだ)
 そう言って何度めかわからないマテリアルを編み、活力として注ぎ込んでを繰り返す。
 こんな所で終わらせるわけにはいかないのだから!
 その様子と状況を確認しつつ、エーミは頭のなかに作り出した状況リストを更新する。
(ポーションの出番は、まだもう少し後ね。なら今のうちか)
 そう決断すれば行動は速く、持ち込んでいたスープを銅製のマグカップへと移し差し出した。
「なんじゃ、スープか? 良い香りじゃのう」
 疲労の色こそ濃いものの術式自体は安定しているためか、いくらか余裕のできたエフェメリスがエーミの差し出したものに反応する。
 莫大なマテリアルによって実体化している今だからこそ出来る反応だ。
「帝国軍の方って味に頓着しない人が多いけど」
 そう言って差し出されたスープを受け取り口をつけたエフェメリスは、その味に舌鼓をうつ。
「なんじゃ、今はうまいもんがあるんじゃのう。わしが生きとった頃は具も少なかったしもっとスープも薄かったし、こんな美味いもんなかったぞ」
「あなた達が護った平和、その先に生まれたものです。どうしても伝えておきたかったので」
「そうか……落ち着いたら食べ歩きもしたいもんじゃな」
 そう言って笑うエフェメリスにこんな軽口を叩けるのならばまだ大丈夫だろう、そう思った矢先、エーミの思考に触るものがあった。
 入ってきた情報の中の空白は、確かな違和感を呼ぶ。
「エラさん南です!」
 その声に巨大な盾を構えたエラが飛び出す。
 エーミの思考に基づいた推理は、結果として後の先を捉えたといえるだろう。
 一斉に降り注ぐ矢の嵐、吐き出される無数の負のマテリアルによる弾幕は、けれどエラの盾に吸い込まれるようにその曲線を変え、その全てが盾によって弾かれることとなる。
 重ねられた増強スキル、そしてグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の施していた術も相まって、衝撃に大きく後ろへ吹き飛ばされたものの、盾も彼女も健在だ。
「南方向、弓・遠隔兵多数! 距離推定五十から、対応を!」
 敵の確認、仲間への連絡は即時。
 尖兵としてやってくる剣持ちのスケルトンめがけて三条の閃光が迸りその頭蓋を立て続けに粉砕する。
 巨大な赤いガントレットを携えて、グリムバルドはエラよりも前へ。
「やれやれ、数ばっかり揃えやがって……だがまぁ、兵力の数が戦力の決定的な差じゃないことを教えてやるか」
「そうですね。雑兵など物の数ではないということを教えて差し上げます」
 巨大な斧を構えた観那もまた前へ、そんな彼らの間をすり抜けて無数の銃撃が舞う。
 周囲に漂うマテリアルを巻き込んで激しく炸裂したそれは、弾雨となって歪虚達の一角を食い破った。
 弾けた幾多の薬莢が地面で跳ねて高い音を立てる。
 セレン・コウヅキ(ka0153)の持つアサルトライフルから吐き出された弾丸である。
「援護は任せてください。こちらへ近づけさせはしません」
 初動の大魔法への追撃も含めて空になったカートリッジが解き放たれて地面に落ちる、彼女の手には新たなカートリッジが取り出されていた。
 敵の続く第二射に備え、エラが巨大な盾を構え直す。
 あとは、仲間の対応が早いか、手札が切れるかの勝負だ。

 そんな彼らの姿を映し出すカメラが大きく動かされた。
 距離のある遠隔攻撃に対し、武器となるのは機動力。
 それに優れたものは場に数えるほどしか居ない。
 モーター音を響かせて、金目(ka6190)はそこへと突撃を仕掛ける。
 一人ではない。
 並走するのは蹄の音。
「ダリア様のお通りだー! 散れ散れっ!!」
 振り下ろされるダリア(ka7016) の巨大なハンマーにスケルトンが次々瓦礫へと還ってゆく。
 無論すべてを相手にしているわけではない。弓を筆頭にした遠隔攻撃を打たせぬための撹乱が主ではある。
 激しくタイヤがスリップする音、姿勢の制御に失敗したわけではなく、激しく車体を回転させるのに合わせて振り回される斧が敵を薙ぐように減らしていく。
 攻撃タイミングは合わせるように、連絡が入っている。
 撹乱に敵が崩れた瞬間を見計らったかのように、砲火が吹き荒れ精霊の繰る魔法が襲いかかった。

●戦果の中にて
(ハヴァマールもナイトハルトも、長い付き合いだったケレド、サテ……今日が最期のお別れにナルのカナ?)
 そんなことを考えながら、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は戦場の流れを見守っていた。
 戦線に合わせて立ち位置を調節し、特にエフェメリスを護っているエラへの回復を手厚くしている。
 興味があるのは戦いの行く末、そのためか、彼の立ち位置は観察者に近い。
「この戦いも中継されているんだろうケレド、彼らの目に映ル英雄というのは、どんな姿なんだろうネ」
 果たして自分はどんなふうに見られているのか、それすらも興味深い。
 そんな風に戦場を支えて回るアルヴィンをみすみすと見逃すこともなく、ナズグルの指示によってか飛び出してきたスケルトンの集団は、側面から飛来した火球によってまとめて吹き飛ばされた。
「精霊さんを守るですのー」
 さらにチョココ(ka2449)によって生み出された火球は、指示を出していたと思われるナズグルへと襲いかかる。
 そんな彼女の姿を見て、フムとアルヴィンは観察する。
「なんですの?」
 その視線に気づいたのか首を傾げるチョココに、なんでもないヨー、と返す。
(どんなふうに見られているノカ、気になるところだネー)
 小柄な小柄なエルフの少女、覚醒者であるとはいえ、彼女を果たして帝国の民はどう受け止めるのか。
 逞しい青年もいれば、幼いとすら言ってもいいような見目の少女も居る、そんな英雄の群像はどんなものなのか。
 興味は尽きない。

 少し時間は遡る。
 向ける視線の先には若干顔色が悪くなってきたエフェメリスの姿があった。
「……あの時の精霊か」
 一度、運命とは何かを問いかけてきた彼女は、今まさにその答えが出るであろう瞬間を待っている、自身の存在を掛け金にして。
 答えを出すのは自分たち、そして遠くでこれを見ている帝国の民。
 傍らに立つ、共にありたいと願う人。
 氷雨 柊(ka6302)の姿を確かめて、刃なき柄を構える。
 瞬く間に構成された光の刀身を構えた。
 轟音とともに敵陣が吹き飛んだのはその後。
「アンタは俺達に信を置いてくれた。その目は裏切らんさ。……護衛は任せろ」
 つぶやくように紡ぐ言葉は当人には届かなくとも、確固たる誓いのよう。
「一度はお会いしたご縁。縁のある方を失いたくないですねぇ」
 クラン・クィールス(ka6605)の隣で寄り添うように槍を構え、彼の意思に呼応するかのように応える柊。
 共に在り、そして守りたいと思える人がそばにいるから、強く在れる。
 切り込むギリギリの瞬間を見計らって、自身とクランへと強化を施した。
 少しでも守りの力になるようにと祈りを込めて。
 土煙に追われるように崩壊した戦線から現れたナズグルとスケルトン達、あれだけの大破壊に巻き込まれてよく残ったものだと思う。
 出会い頭に攻撃態勢に切り替わり負のマテリアルを収束させるナズグル達を、不意打ちのように唐突に、雷光が突き抜けた。
 発生源ではレオナルド・テイナー(ka4157)が不敵な笑みを浮かべ不吉な杖を構えている。
「二時の方向手薄ですわよぉ」
 視野の外からの援護にも一瞬で判断を切り替えて即座に動いたのは流石というべきか、クランの光の刃と柊の槍が霊体を失ったナズグルの核を捉えて破壊する。
 だが、土煙の中からは次々と存命のナズグル、そして半壊してなお動くスケルトンが顔を出してくる。
 急激に下る気温に、二人がゾクリとしたものを感じて下がったのを確認して、レオナルドは術を解き放つ。
 急激な気温の低下に空気中の水蒸気が凍りつき吹き荒れる、それに巻き込まれてナズグル達の霊体が次々に吹き飛ばされてゆく。
「今だ、柊! 仕掛けるぞ」
「了解ですよぅ」
 的確な役割分担により次々と敵の数は削られていく、それを見ながらレオナルドはにやにやとした笑みを浮かべる。
「嗚呼、どっちが死神か分からないネ」

 互いに交錯するように矢が、魔法が、砲撃が飛び交う中、ハルバードを振るい上げまた一体のスケルトンを砕く。
「背中は任せたわ」
「任されましょう、紫水晶」
 かつて街中のフォーチュンショップで出会って以来の偶然の再会に、高瀬 未悠(ka3199)は驚きつつもシルヴァと背中を合わせて戦っていた。
 またその呼ばれ方をするとは思わなかったが。
 シルヴァは背中を任せて不足ではなかったが、術による攻撃能力を持たない・明確な攻撃をしないという妙な動きをする。
 武器を狙って弾いたり、位置や距離を調整したりとした搦め手ばかりだ。
 だが、それは未悠と相性の悪いものではなく、攻撃能力を奪われたスケルトンが未悠によってまとめて薙ぎ払われるという状況を作っていた。
 そんな二人の周囲にはいつしか精霊が集まりその戦いを支援する、特にナズグルの霊体の大半は未悠の周りに集まった精霊たちが散らしていた。
 そこを的確に狙い核を壊していく。

 自然、撮影班の注目を集めたのは未悠だった。
 何か言っている、そう、集音マイクを構えた女性が気づいたからだ。
「カメラ! あの娘収めて! 拾うわよ!」
 音と映像、先に入ってきたのは音の方だった。
「運命を受け入れながら自分らしく生きるか、運命に立ち向かい自分らしい生き方を掴みとるか」
 落ち着いた、けれど力強い声をマイクが拾う。
 強く振り抜かれたハルバードが、ナズグルの核を捉えまた一体、歪虚を塵へと返していく、そんな姿と共に、未悠の声は続く。
「決めるのは自分自身よ、貴方の人生の主役は貴方しかいないわ」
 それは帝国民への必死な訴えだった。
 今この場において、命をかけている者から、決断を求められる者たちへの訴え。
 霊体を残したナズグルが一体、大鎌を振り上げる。
 受けきれなかった一撃が彼女を引き裂き倒れようとも、あらん限りのマテリアルを組み上げて傷を癒やし、再び立ち上がる。
 再度鎌を持ち上げるナズグルを、横殴りの砲が襲った。
 手の空いたミモザ(kz0227)からの援護砲撃が霊体を霧散させる、その隙を彼女は見逃さない。
 その姿をももってして、伝えるのだ。
「貴方の命や心は誰にも支配されない。何度踏み躙られても諦めないで、絶望の先の希望を掴めずに終わるだなんて悔しいじゃない……!」
 噛みしめるような叫びは、果たして通じたか。

(また一段と重くなったのう)
 術式を抱えつつ、エフェメリスはそんな彼女の思いがどれだけの力になったのかを感じていた。
 傍らには、次の回復の術を行使するためにマテリアルを、上がった息を整えつつ練り上げるカインの姿がある。
「なあ、なんでこんな無茶するんだ」
「ん? 不思議かの?」
 疲れた顔はお互い様で、けれど楽しそうに首を傾げるエフェメリス。
 彼女を中心に防戦をしているエーミやエラ、メアリやグリムバルドもその声を聞いていた。
「自分の存在までかけて、ってのは確かに気になるな」
 カインだけでは支えきれそうにない段階となっていて、グリムバルドもまた支えるのに回っていたために、その負荷が想像できたのだろう。
 同じく投げかけられる問いに、そんなことかと彼女は笑う。
「わしはな、好きなんじゃよ」
 精霊は謳う。
「過去の間違いを受け止め前を向ける者が」
 間違いを認めぬことは容易い、それ故に。
「倒れても立ち上がる強さを秘めた者が」
 今なお傷つきながらも戦い続ける者を見て。
「困難を前にしてそれでも諦めぬ者が」
 今だ減らぬ敵を前に、それでも奮って戦い続ける皆を見て。
「未来を信じてその手を伸ばす者が」
 今なお、コロッセオでは未来をつかむべく戦っている者たちがいる。
「愛しくてたまらんのじゃよ」
 にっと笑って彼女は言う。
「力添えぐらい、させろってんじゃ」
 呆れるような物言いは、けれど彼女が人間を愛していることをこの上なく伝えてくる。
 あまりにもまっすぐに、この精霊は言ってのけたのだ。
 愛故に、と。
「そりゃあ、応えてみせないとだな」
 ぐっ、と力を込め集められるだけのマテリアルを集めて術に回す、カインの口元に笑みが浮かぶ。
 グリムバルドは帽子をかぶり直すとガントレットを構え直す。
「手札が切れた、行ってくる」
「バルドおにーちゃん、きをつけてね!」
 おう、と空いた方の手を振って応え、最前線へ向けて駆け出した。

●群れとして強きもの
 戦線は序盤こそ良かったものの、次第に軍量に押され始める。
 暴食王の尖兵は無尽蔵なのではないか?
 そんな不安がにじみ出てくるかのように、じわじわと戦列が後退し始めていた。
 それは次第に、傷つき倒れるものが増えていくという意味でもある。
 ドワーフの戦列が崩れ、エルフ達の弓が途切れ、コボルトの看護兵が慌ただしく右往左往を始める。
 空を舞い魔法を振らせていた精霊たちが落ち始めた今となってなお、勝利の報はもたらされない。
 円を描くように舞い、澪が敵の戦列へと身を投じる、それに合わせるように香墨が槍を振り上げ続く。
 獲物を縦横無尽に振り回し敵の中へ、かと思えば踊るような足さばきでひらりと距離を取る。
 その間隙を狙う敵は香墨の槍によって砕かれた。
 だが、そこに魔法による火力は薄い。
 好機と見たのかナズグル二体の鎌が襲いかかるのを身を翻し、あるいは正面からうける。
「友達を狙う奴、許さない」
 ぎしぎしと澪の太刀と鎌がせめぎ合う。
 直接競り合えば分が悪いのはどちらか、それはやはり人側だろう。
 徐々に迫る刃は、横合いに迸る電光によってその力を大きく削がれる。
「まけてらんないですの! 援護しますわ!」
 何度か攻撃に巻き込まれたのだろう、土埃にまみれ片手だけで杖を構えながら魔法を放つチョココの姿があった。
 一度ではナズグルの霊体を引き剥がすには足りない。
 だが、二度、三度と走る電光がついにナズグルのそれを引き剥がす。
「香墨!」
「……うん、今だ」
 描くめがけて走る剣閃、貫く聖槍。
 勝利の叫びある時まで、なお前へ。

 頬を切り裂いた矢の飛来してきた方向に返す刀のごとく閃光を走らせて、ウインクを一つ。
「あたしに傷つけるなんていい度胸してんじゃない」
 手にした杖を振りかざし、にぃと笑ってレオナルドはマテリアルをかき集める。
 この戦場において、術を行使するに必要なマテリアルはいくらでも汲み上げられる。
 次の瞬間には吹雪が舞い散って一角を切り開く。
 だが、それはすぐに大量のスケルトン達によって埋め尽くされてしまう。
「まったく、次から次から、そんなに俺に蹴散らされたいの? 4時の方向手薄ですわよぉ!」
 手数が圧倒的に足りない、そうトランシーバーに向けて叫んだ次の瞬間だった。
 右手から魔導バイクが、左手から騎馬が飛び込んできた。
 バイクはその車体と速度を凶器としてスケルトンたちを砕きながら疾走して、レオナルドの隣に派手にドリフトして停車する。
「手薄と聞いて」
 そう言って挨拶をして再びアクセルをふかす。
 戦場のフォローに回っていた金目は、レオナルドの通信を聞き逃さなかった。
 そして、それは騎馬の上でハンマーを振り回すダリアも同じくだった。
「突っ込むぜえええぇっ!」
 手にしたハンマーをえぐるように突き出して、目につく敵を片っ端から破壊していくダリアの姿は、二人にとっては頼もしい前衛だった。
 そんなダリアが振るうハンマーを、中型のスケルトンが大ぶりの剣を使って受け止めた。
「はっ! 来やがったなぁ!」
「牽制するよ、ダリアさん下がって」
「あいよっ!」
 馬を巧みに操って距離をとったダリアを確認してから、金目が術式を解放する。
 前方に展開された巨大な陣から生み出される大量の氷柱が大型のスケルトンの身を容赦なく削り立てる。
 ぎし、とあまりの冷気に凍てついた身を軋ませるスケルトンは、すぐに距離を詰めてきたダリアによって容赦なく粉砕される。
「はっは! トドメいただき!」
 凍てついた身ごと粉砕されたスケルトンが、陽光に煌めきながら散っていく、その中を、更に前へ。

「撃っても撃ってもキリがないですね」
 空になった弾倉を新しいものと交換するセレンの足元には無数の薬莢が転がっていた。
 立ち込める硝煙の匂いは濃密で、薄らと景色が霞むほど。
 精霊の魔法で削られたナズグルを中心に、すでにかなりの数を屠っているはずだというのに、後から後からぞろぞろとやってくる、エフェメリスの側ということもあり、エラによって敵からの弾幕からかばってもらっているものの、それももう長くは持たないだろう。
「こちらの手札もそろそろ怪しいですね」
「……それは心配しなくてもいいかもしれません、そろそろ終盤戦のようです」
 ずん、と響く振動に、二人の視線が鋭くそちらを向く。
 見上げるほどの巨体は、暴食王の尖兵としてその異貌を晒していた。
 幾重にも骨が複雑に絡み合い巨大な骨格を作っているそれは、種別としてだけ見ればスケルトンに分類されるのだろう。
 左腕には据え付けられた巨大な弓、それが声もなく向けられた。
 ぎちぎちと引き絞られる弓に、否応なく危険を悟り盾を構えエラは自身の周囲に結界を張る。
 狙われているのはエフェメリスだ。
 大気を強引に引き裂くような音とともに放たれた杭のような矢は、不自然に軌道をそらしてエラめがけて奔る。
 盾ごと吹き飛ばされたエラが赤い飛沫とともに宙を舞い、そして抱きとめられた。
 自身にできること、必要なことを判断した結果背後に控えていたのはアルヴィンだ。
「流石に無茶が過ぎるんじゃナイ?」
 大砲の玉を受け止めようとするようなものダヨ?
 そう言いながらマテリアルを汲み上げる。
 膨大な治癒の力の奔流となったそれは、瞬く間に彼女の傷を癒やしていった。
「……助かりました」
「イヤイヤ、お仕事だからネー。こちらは任されたヨ」

 映し出されるのは巨大な影に立ち向かうハンター達の姿。
 その身を盾にしてあわや散ったかと思われた彼女は、仲間に助けられ立ち上がって見せる。
 流れた血が服を染めてこそいるけれど、その瞳に意思は失われていない。
 カメラ越しに映るその姿、そこに人は何を感じるのだろうか、何を思うのだろうか。
 ――何が伝わるのだろうか?
 戦う理由は人それぞれで、掲げる正義も皆違う。
 しかしそれらが力を合わせて立ち向かう姿は、古い時代への決別だ。
 一つの強い光が照らせば、それに呼応する影は濃さを増す。
 けれど、それが遍く輝く無数の光であればどうか?
 彼らの輝きは、そのようなものなのではないか?

 きっと彼らならば、影すらも照らし出せる。
 それはおそらく帝国が今までに積み上げてきた負の側面すらも照らし出すだろう。
 けれど彼らの姿は語るのだ。
 それでも前を見ろ、倒れても立ち上がれ、望みをつかめ、切り開け。
 カメラの前で、彼らの戦いが始まる。

●巨影の失墜
 最初に起きたのは紫の発光だ。
 まよいの展開した重力波に巨影がきしみを上げる。
 十分な影響力を発揮してくれたようで、にっと笑みを浮かべた。
「私の術はそう簡単には解けないわよ」
 自信満々のまよいの隣で、アシェールもまた魔法を組みあげる。
「攻撃は最大の防御です!」
 先のエラへの攻撃を見ていたからこそ、まずは左腕の弓を潰す。
 放たれた火球は巨大スケルトンの左腕全体を巻き込むように炸裂し爆炎を上げる。
 爆炎の影から現れた左腕はまだ無事であったが、そこに下から吹き上げる炎があった。
 いつの間にか死角に潜り込んでいたグリムバルド、そのガントレットから吹き出される炎が左腕を下から激しく焼き焦がしてゆく。
 立て続けの猛攻に、ついぞ弓にヒビが入る音がした。
「こいつでもう撃てねえだろ!」
 足回りを駆け抜けつつ器用に意識を削ぐ、その間隙にさらなる合いの手。
「イスカ! 確実に行きます、よ!」
「任せてください、レオ!」
 逸れた敵の意識の反対側、右足へと肉薄する二人、瀬織の手から電撃が迸る。
 弾けた骨の破片が瀬織の頬を裂いて散った。
 直後、Uiscaから立ち上った翡翠色の龍が走るように広がり更に巨大スケルトンの足を削いで、けれど不思議と龍はレオを、また回りにいる他の仲間達をすり抜けるように駆け抜けていく。  だが――
「まだ浅い、か!」
「ならば俺達も混ぜてくれ」
 ぐん、と影が走る。
 いつの間にか距離を詰めていたクランと柊が獲物を構えて標的を見定める。
 途中で左右に分かれた二人は、Uiscaと瀬織の二人の攻撃によって弱くなっていた部分を見定めて刃を奔らせる。
「おもったより硬いですねぇ!」
「そうやすやすと折れるとは思っていないがな……だが、フィニッシャーは俺たちじゃない」
 中ほどまで刺さった槍に力を込める柊に、クランが冷静に言葉を返す。
 二人の獲物は剣と槍、折るにはもっと適役がいる。
 響く蹄鉄の音、身の丈三倍ほどの大斧を構えた観那が走り込み、馬乗からその斧を振り下ろした。
 瞬く間に広がるヒビは、その自重によって次第に圧壊していく。

 崩れ落ちてしまえば跡はたやすく砕かれて、巨大スケルトンはあっという間に打ち砕かれた。
 そして続く戦いは、途中でふっとエフェメリスの術式が中断されたことに寄って途切れる。
 スペルアンカーに注ぎ込まれる莫大なマテリアルの奔流が唐突に途絶えたのである。
 エフェメリスはそっと天球儀を地面に下ろし戦場を見渡す。
 暴食王の尖兵たちはそれを皮切りに攻撃行動をやめ撤退を開始した。
「なんだ……どうなってんだ?」
「術が、途切れた?」
 メアリとエラの声に、エフェメリスはさて、と首を傾げる。
 自分が答えるべきではなかろうとばかりの様子に、戦場がしんと静まり返ったその時だった。
「つっ、通信が入りました!」
 他戦場との連絡を行っていた兵が大声を上げる。
「不破の剣豪ナイトハルト、討伐に成功したそうです!」
 ざわつきはさざなみのように広がり、次の瞬間には勝利の雄叫びへと変わる。
 この日、ゾンネンシュトラール帝国は新たな歴史を刻み始めた。

担当:紫月紫織
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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