※このシナリオは難易度が高く設定されています。所持金の大幅な減少や装備アイテムの損失、場合によっては、再起不能、死亡判定が下される可能性があります。
再起不能、死亡判定の下されたキャラクターはログイン、及びコンテンツへのアクセスが制限されます。

　喜ぶべきことのはずだった。目的を同じとする強力無比な戦士の合流、それだけであれば。何年ぶりかに会った婚約者の妹は見違えるほど成長していた。女性として美しくなった。覚醒者として強くなった。自分よりも遥かに場慣れしている。そして、リルエナの思いも変わっていなかった。
「１５年間引き籠り続け、何もしなかった貴方に、なにができる！」
　彼女がそう詰め寄る理由も良く理解していた。アランと彼女の父は騒動を収める事が出来ず、何一つ結果を出せていないからだ。業を煮やしたリルエナは、１人姉の姿を求めてハンターとなった。リルエナが『北の戦乙女』と渾名されるほどに活躍していることはこの村にも届いていたが、アランもジェイクも意固地になって彼女を助けることはなかった。リルエナが故郷の村で怒りを露にするのは当然といえた。
「村を出た人間が、村の事に口出しするな」
　アランは結局、純粋なままの彼女を突き放すことしかできなかった。エリカによく似た顔は村を出た当時と同じく怒りに歪んでいた。それがアランには何より辛かった。

■
　
　途上遭遇した『業火の禍』ダバデリを名乗る異質なゴブリンをリルエナに任せ、アラン一行は亡霊を追った。連絡に戻った猟師の言ったとおりの場所に亡霊は佇んでいたが、接触となれば容易ではなかった。動きの無い亡霊だが接触を試みるとふっと掻き消えて移動を繰り返す。追走は徒労すら感じる手ごたえの無さだったが、アランには予感があった。亡霊の姿は一瞬消えても、必ず視界からは出ていかない。アランにはそれが無言の誘導に思えた。終着点は森の中の丘の中腹、過去の調査で記録に無い洞窟だった。明かりの無いはずの洞窟の中は淡い青の光に満たされていた。陽の光が差さず、水も十分に無いはずの洞窟内部は、壁と天井が一面に茨が伝っており、不自然なまでに瑞々しく青々とした幹がどこまでも続いて行く。不思議なことに茨は花も実もつけていない。それがまともな生育を経ていないことは誰の目にも明らかだった。
「……ここは」
　先頭を歩いていたアランが声をあげる。洞窟の長い通路は終わり、そこは開けた空洞となっていた。水路の終点は地下で湖となり、どことも知れない闇へと流れていく。広間の中ほど、湖の側で亡霊は佇んでいた。近づいて眺める横顔の面影は見間違いようもない。昔のままの聖女エリカだった。
「エリカ！」
　アランはたまらず、呼びかけながら近寄っていった。亡霊が逃げる気配はないが、アランに気を留める素振りもない。変わらず流れていく水に視線を向けている。
「エリカ、俺だ。君に会いに……」
　エリカの手を取ろうとしたアランだが、亡霊の体に触れることはできなかった。つんのめるようにしてアランは動きを止める。何度呼びかけても反応は無い。その姿を再び見ることが出来ただけでも奇跡だったのだ。ここが終着点。あとは魔術師が時間をかけて調査する。アランの出来ることは終わった。アランの心が諦めと折り合いをつけた頃、それは現れた。
「なんだ……？」
　ずしり、ずしり。重い足音がハンター達の通った通路と反対側の入り口から響いてくる。そいつが通路の向こうより姿を現したとき、洞窟が縮んでいるのかと錯覚した。ゴブリンだった。人よりも二周り以上巨大なゴブリンが通路を抜けて現れた。足下にいる取り巻き達がまるで大人にまとわりつく子供のようにすら見えた。周囲のゴブリン達はリーダーらしきその個体を守るように側に控えているが、壁となるように前を塞ぐことはなかった。ゴブリンはハンター達を眺めると、濁った赤い目をすっと細めた。
「ググ…。我が贄ニ触れるでないわ」
「なんだと…？」
　その意味を問いただす前に、ゴブリンは手元の茨を強引に引きちぎった。ぶちぶちと、まるで肉を割くような音が洞窟に響く。同時に、聖女の亡霊は苦痛に満ちた絶叫をあげた。
「イヤアアアアアアアアアア！！！！」
「エリカ！！」
　アランは近寄るが手を差し伸ばしても同じ。うずくまり痛みに震える彼女に触れることができなかった。ハンター達はアランと亡霊を庇うように展開する。ゴブリンに引きちぎられた大量の茨は脈動するように蠢くと、ゴブリンの巨躯に相応しい金属質の大刀となった。それは魔剣だった。ハンター達の驚きを余所に軽く振るわれた大刀は強烈な風を発生させた。ハンター達は一瞬の強風に煽られ、体重の軽い者は数歩以上も後方に押しやられた。牽制の意図らしく被害はなかったが、本気を出したらどうなっていたか。ハンター達が驚くのを見て、巨躯のゴブリンは暗くくぐもった笑い声を上げた。
「俺は簒奪者。傲慢で強欲なニンゲンに、裁きを下すものよ……」
　何を馬鹿な、と言葉にできる者は居なかった。巨躯のゴブリンは言葉に相応しいだけの力と知性を備えている。
「アラン、ここは退くぞ」
「しかしエリカが……」
「分が悪すぎる。諦めろ」
　取り巻きのゴブリンが囲むように展開しつつある。数でも不利となればここは退くべきだ。亡霊が何らかのマテリアルの異常なら後でも調査は出来る。生きて帰ってこの異常を仲間に伝えなければならない。何より亡霊に触れることができないのでは……。
「…………」
　亡霊はアランの側でうずくまり、恐怖に震える自身の体を抱きしめていた。エリカの姿は１５年前のあの日と同じだった。日々強まる大人達の追及に、彼女は耳を塞ぐだけだった。
　今も同じだ。周りで見ているだけで触れることはできない。今の自分とあの日の自分、何一つ変わっていないのではないか。アランは知らず、拳を握り締めていた。
「アラン……」
　名を呼ぶ声が聞こえた。迷いは消えうせた。それが成れの果てでも、言葉が届かなくても、触れることができなくても。彼女はエリカだ。それで十分だ。アランは他のハンターの制止も聞かず、ツヴァイハンダーを構えるや群成すゴブリンの中央、巨躯のゴブリンとの間合いを一気に詰めた。
「おおおおおおお！！！」
　飛び込みざま大剣を大上段に振り下ろした。過剰に発散されたマテリアルが衝撃波を発生させる。大剣を受けたゴブリンの周囲の地面に大きな亀裂が走る。
「貴様もか。貴様も俺と同じ！　ならば奪ってみろ！　今までそうしてきたようにな！」
「黙れ！！　エリカに手を触れるな！！！」
　続けざまにアランは横薙の第二撃を放つがゴブリンは受け流し、再び風を纏った一撃でアランを吹き飛ばした。圧縮した空気に吹き飛ばされたアランは中空で一回転すると、着地と同時に態勢を立て直す。
「エリカ、そこで待ってろ。今度こそ俺が守る。絶対にだ！！」
　それが今の精一杯。アランは聖女の亡霊を背に正眼の構えをとった。対するリーダーも大刀に圧縮した空気を再び纏わせる。取り巻きのゴブリン達も俊敏な動きで周囲を囲み始めた。ハンター達も慌てて迎撃に入る。静かな地下空洞は突如として剣撃の音で満たされた。

●依頼解説
　ＯＰの通りです
　強力なゴブリンの集団と戦闘になりました

●敵情報（ＰＬ情報込み）
・ゴブリンのリーダー（？）
　リーダーの強さは圧倒的です
　攻撃は大刀での攻撃とＯＰのような風の魔術（？）を使用します
　それ以外は不明ですが、エンフォーサーとマギステルを足したようなスキル構成のようです

・ゴブリンの部隊
　武器は粗末ですが、剣・槍・斧・弓と多彩です
　個体の強さも平均的なゴブリンを上回っています。
　数は多く総数も不明ですが、入り口が狭いことと、リーダーの間合いが広すぎることで
　戦力を展開できずにいます

●ＮＰＣ紹介
・アラン
　聖女エリカの元婚約者。強力なエンフォーサー
　速度と威力だけならダンテにも比肩する剛剣使い
　武器はツヴァイハンダーの両手持ち

・リルエナ・ピチカート
　こちらの依頼では出ません
　赤山ＭＳの連動依頼を参照してください

●地形
　高さ５ｍ。半径３０ｍ程度の半球状ドーム型の地下空洞
　大きな入り口が三ヶ所ある
　空洞の東側は低くなっており、水没している
　聖女の亡霊が立つのはドームの中央
　ゴブリンは北から侵入してきています
　ハンターは南側から入り、聖女の近辺に集まっています　
（全て別方向に繋がっており、別のルートからの襲撃はありません）

●勝利条件
・リーダーに大ダメージを与えて撤退させる
・ゴブリンの集団に大きな損害を与えて撤退させる
・リルエナ（及び周囲で活動する騎士団）の到着まで持たせる

お待たせしました、純戦闘依頼です
仲間が来るまで斬って斬って斬りまくればＯＫ

……で、済めば楽ですけどそうは問屋がおろしません
難易度に相応しい判定を行いますので
覚悟の決まった方から御参加ください