●カチャ・タホとアレックス・バンダーの会話。

「そうなんですアレックスさん。そのスペットっていう墓荒らし、猫の顔をしていたんです。もう私たちびっくりしちゃって、その隙に逃げられちゃって」

「へー。そいつは歪虚だったわけか、カチャ」

「うーん……歪虚にしては人間ぽかったんですけど」

「人間みたいな歪虚もいるだろ？」

「いますけど、それにしてはそこまで強くも無さそうだったというか」


●墓荒らしで現行犯逮捕された、ブルーチャーの言い分


「勘弁してくださいよ刑事さん、わしはスペットの素性については、ほとんど何も知らないんですよ。ただ仕事の関係上だけでの付き合いでして……。
　知り合ったきっかけ？　確かそう……飲みに行った帰り、夜の公園をぶらついていたときにですな、あいつを見かけたんです。ベンチで寝てる酔っ払いをガタガタ揺すったり小突いたりして回っていました。
　何をしているんだと聞いたら、『死んでないかどうか確かめてるんや』とこうでしたよ。
　ええ、その時は単にお節介な奴だと思ったんですが、今になって考えてみればありゃ死体を探していたのかも知れませんな。
　とにかくそういうきっかけから知り合って、例のモンスタードールの設計を頼むに至ったわけですが、止めときゃよかったと思いますよ正直今となってはね。
　猫の顔をしてるってこたあ知りませんでしたね。何しろいつも頭巾被っていたもんですから。絶対それを取ろうとしませんでしたからね、夏のさなかにも。だから、よっぽどまずい顔でもしてるのかと思ってましたが、そうですか、猫ですか。へえ。
　しかし……それがそんなに驚くようなこってすかね。仮にも魔術師なら、好きに自分の姿を変えることが出来るもんじゃねえんですか？
　そんな魔法は存在しない？
　まさか。だって魔術師は――いや、ハンターはと言うべきでしょうかね――とにかくああいう連中は、術を使うとき背中から翼を出したり頭に角を生やしたり、はたまた獣の耳を生やしたり、平気でやるじゃねえですか。なら猫の顔になるくらいお茶の子さいさいってもんじゃ……それは魔法ではなくて覚醒現象？
　どうもよく分からねえな。違うものなんですかい、その２つは」


●ほんとのところは


「しくったなあ……顔見られてまうとは……」

　スペットは洗面所の鏡に映る自分を見ていた。
　猫の顔。正真正銘猫の顔。

「あいつら俺を何やと思うたやろなあ」

　これは自分本来の顔ではない。後からくっつけられた、別の顔だ。だが剥ごうとしたって剥げるものではない。すでに体の一部として、完全なる融合を遂げてしまっているのだから。
　自分をこのような姿にした人間は死んでしまった。元に戻る方法を明かさないままに。
　もしかしたら一生このままかも知れない。
　そのことを思うとスペットは、げんなりしてきた。
　しかしすぐ気を取り直す。
　人間の顔を猫の顔に出来るのなら、猫の顔を人間の顔にすることも可能なはずだ。
　そのためには自分で突き止めなければならない。異種の動物を継ぎ合わせ、かつ分離させる方法を。

（とは言うものの、墓場漁りはしばらく控えた方がよさそやな）

　思いながら彼は洗面所から出た。

「さ、今度はうまくいっとるかな」

　部屋の一角に積み重ねられた飼育ケースの中を覗き見て、額を曇らせる。

「あかーん。また雑魔化しとる。なんでやろなあ。なんでうまいことくっつかへんねやろなあ」

　彼は箱を持って洗面所へ戻る。洗面台に水を溜め、ケースの中身をそこに入れ、栓を抜いた。
　小さな歪虚は渦に飲まれ、あっと言う間に流れて行く。下水道の中へ。

「達者でなー」


●そしてこうなる


　朝一番。ハンターオフィスに来たハンターたちは、ひと騒ぎにぶつかった。
　道のマンホールから雑魔が１匹這い出してきたのである。
　頭部が金魚、体が蛙というキテレツな代物。下水道から出てきたせいもあろうが、とにかくひどい悪臭だ。全体的に腐り気味でもある。体のあちこちが崩れ、糸を引いている有り様。

　ぶお～～～。

　歪虚が鳴いた。口からむわんと黄色っぽいガスが吹き出した。
　立ちのぼるそれを浴びたカラスが、白目を剥いて落ちてくる。塀を歩いていた猫も、猫に吠えていた犬も、泡を噴いてぶっ倒れた。
　群衆が全速力で散って行く。激臭から逃れるために。
　通りはあっと言う間に無人地帯となった。職務上逃げたくても逃げられないハンターたちだけを残して。

補足説明

　これはいきなり出てきたオクサレ歪虚を退治するシナリオです。
　流れとしては「悪い奴らはよくつるむ」に続く話ですが、起きているのは単純な歪虚出現案件なので、前の話を知らなくても十分活躍出来ます。
　ＯＰの最初の方に出ているＮＰＣカチャとアレックスは、歪虚出現の現場に居合わせておりません。戦闘はＰＣのみで行われることとなります。



歪虚データ。

大きさ：最初は５センチだったが、いまや２メートル。
状態：現在進行形で腐敗中。
匂い：シュールストレミングと張り合える。
動き：ゆっくり。
攻撃：生物の忍耐の限度を超える体臭と口臭。
性質：フレンドリー。人を見ると寄ってくる。来るなと言っても寄ってくる。逃げるとますます寄ってくる。


ＮＰＣ

スペット／男／結界術が得意な魔術師。顔が猫。

ＫＩＮＵＴＡです。


合成生物を安易に捨てると生態系及び社会秩序を乱します。
絶対に止めましょう。
捨てるというならその前に、ハンターオフィスへ一報を。