ゲスト
(ka0000)
世界はそれでも尚、美しい
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在12人 / 4~12人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2014/09/12 09:00
- リプレイ完成予定
- 2014/09/21 09:00
オープニング
宿屋の一室をレイチェルが覗きこむと、そこには旅を続けていた老いた詩人は椅子に深く腰掛け、開いた窓から流れ込む夏の風と子供の遊ぶ声に聞き入っていた。彼にはそこから音楽を導いているのか、膝に置いた骨の浮かぶ枯れた指をリズム良く動かしている。しかしそれは弱々しく時に乱れていた。深いシワに埋もれた彼の瞳はぼうっとしており、今ではない時間を見つめていた。肌は蒼白で生気が失われかかっており、長い長い彼の旅路が間もなくここで終わることになることを示している。
レイチェルは勇気を出してドアノブを回した。老詩人が頭を巡らせこちらに振り向くとレイチェルの姿を捉えたのであろう。その姿を見るや否や、彼の瞳に光が灯り、肌がさっと色づいた。まるで人形に命が宿ったかのようだ。
「レイチェル、お帰り」
温かみのある優しい詩人の声は、レイチェルの心の強張りを溶かした。彼の声には不思議な力を感じずにはいられなかった。出会った時からそうだ。乾いた砂に水が吸われるように、すっと心に染み入るのだ。
「ただいま、グイン。今日は羽振りの良いお客さんが多くて良かったわ。おかげで今日はあなたの好きなシチューを作れるわ」
レイチェルは広場での仕事を話しながらベッドに腰掛け、グインにたくさんの食材が詰まった袋を見せた。
「嬉しいな、君の手料理を食べられるなんて。私は幸せ者だ」
グインは子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。それが何よりたまらなくレイチェルの胸を熱くするのだ。
もうこのように寄り添って何年だろうか。閉鎖的なエルフの生活をしていた時は世界は色褪せたように見えていた。だが、グインが来て、彼がリュートを奏でながら歌った恋情歌はそれらをすべて一変させた。心に躍動が生まれ、世界は色鮮やかに生まれ変わったように感じた。それから森を飛び出て、彼と共に何年も旅をした。彼の歌声はいつでもレイチェルを振るわせた。彼の笑顔はいつでもときめかせた。
今日はどんなにして彼を喜ばせよう。今日はどんな歌を披露してくれるのかな。この幸せをどうやって分かち合おうか。
四六時中そればかり考えていた。そして彼も同じように、レイチェルを見てはいつでも恋に満ちた青年の表情を浮かべてくれるのだ。婚姻を結ぶことも子宝に恵まれることもなかったが、つながっている。その気持ちだけで二人は十分だった。
「うまいこと言っちゃって。ふふ、それじゃ腕によりをかけて作らなきゃね」
宿屋の台所を借りて作ってくるからね。レイチェルは立ち上がろうとした時、グインが不意に手を伸ばした。彼の動きは緩慢でレイチェルをつかむことはできなかった。
「どうしたの?」
「……君と離れたくない、と思って」
「大丈夫よ、下にいるだけなんだから。お料理ができあがったら、ゆっくりお話ししましょ」
すっかり照れた顔になったレイチェルはそう言って、グインの傍を離れた。レイチェルもずっと彼の傍にいたいという気持ちは同じであったが、そうやって恋を語らった時は気が付くと夕飯時を迎えてしまい、食事が真夜中になることもしばしばあった。だから、料理を作る時だけは少し我慢。それが通例だった。
だが、それが間違いだった。
グインと言葉を交わしたのはそれが最後になってしまった。
●
天命だったのだろう。人間はエルフに比べて遥かに短命だ。そんな人間で、しかも流浪の生活を続けながらもグインは70近くまで生きた。レイチェルはその半分以上の時間を共にし、最期まで互いに慕い続けることができたのだ。
だけど、だけど。
泣き疲れたレイチェルは落ちくぼんだ瞳で鏡を見ていた。自分の容貌はグインと出会った時からほとんど変わっていない。そう、エルフなのだから。この長く尖った耳が何よりの証拠。
レイチェルは己の長く尖った耳を鷲掴みにし、思い切り引っ張った。耳の付け根が焼けるように痛み、チリリと音が響いたが、それでもレイチェルは止めなかった。
400年の寿命などいらない。悠久の若さなど欲しいならくれてやる。
どうして添い遂げられないのか。何故共に老いることができないのか。長くてもあと数年しか生きられぬというなら、その余生を懐かしむためだけに生きてもいい。だが、彼女はグインと過ごしてきた時間の何倍も生きなくてはならないのだ。孤独と共に。
耐えられない。
耐えるなんてできない。
死のう。そう決心した。自ら命を絶つことはグインは悲しむだろう。生への渇望と死の渇望は誰にでもある。そのせめぎ合いで人は苦悩し、また輝くのだ、死にたくなっても死んではいけない。と常に言っていた。
だけど、グレーの世界を生きる勇気はない。常世で怒られてもいい、いいや、出会えなくてもいい。ただ同じ世界に身をやつすだけで、この寂しさは満たされるのだ。
「グイン……」
料理に使っていた包丁を首の袂に向けたところで、大きな力でそれから引き離された。
レイチェルは絶叫して死を懇願したが、許してはくれなかった。
そこに立っていたのは、『あなた』達だった。
●
時は遡り、ハンターソサエティ。
そこには一つの依頼が届いていた。その主文には何とも珍しいことに手紙が添えられていた。
『今を生きる人々へ
この手紙が誰かの目についている時には 私はもう冥界の扉を開いていることだろう
故に、この依頼を受ける心優しい人々に直接会って話せない無礼を許してもらいたい
相談したいのは、レイチェルというエルフの女性についてだ
私にとって無二の存在であり、永らく、同じものを見て、同じものを食べ、同じ時間を過ごしてきた
連れ添った40年という時間は私にとって最高の時間だった
だが、エルフのレイチェルにとって40年はそれほど長い時間ではない
彼女は私の死後、何倍もの時間を過ごさなくてはならない
レイチェルは私の詩歌を聴いて、この世に喜びがあることを知った 世界が色で満ちていることに気づいた
詩人にとってこれほど嬉しいことはない。ましてやそれが私の一番大切な人に伝えられたのだから
だが私の死後、世界は再び闇に覆われ、色を無くしてしまうだろう
彼女に伝えることができなかったのだ
本当は私が伝えるべきこと、もしくは彼女がそれを自分で見つけ出す事柄なのだろう
だが、私はできなかった。二人の生活に寄りかかっていたのは私の方だったからだ
死にゆく人間が、残された人間にこんなお願いをするのは何と傲岸不遜だと思われるかもしれない
どうか彼女に伝えてほしいのだ
世界はそれでも尚、美しいのだと』
レイチェルは勇気を出してドアノブを回した。老詩人が頭を巡らせこちらに振り向くとレイチェルの姿を捉えたのであろう。その姿を見るや否や、彼の瞳に光が灯り、肌がさっと色づいた。まるで人形に命が宿ったかのようだ。
「レイチェル、お帰り」
温かみのある優しい詩人の声は、レイチェルの心の強張りを溶かした。彼の声には不思議な力を感じずにはいられなかった。出会った時からそうだ。乾いた砂に水が吸われるように、すっと心に染み入るのだ。
「ただいま、グイン。今日は羽振りの良いお客さんが多くて良かったわ。おかげで今日はあなたの好きなシチューを作れるわ」
レイチェルは広場での仕事を話しながらベッドに腰掛け、グインにたくさんの食材が詰まった袋を見せた。
「嬉しいな、君の手料理を食べられるなんて。私は幸せ者だ」
グインは子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。それが何よりたまらなくレイチェルの胸を熱くするのだ。
もうこのように寄り添って何年だろうか。閉鎖的なエルフの生活をしていた時は世界は色褪せたように見えていた。だが、グインが来て、彼がリュートを奏でながら歌った恋情歌はそれらをすべて一変させた。心に躍動が生まれ、世界は色鮮やかに生まれ変わったように感じた。それから森を飛び出て、彼と共に何年も旅をした。彼の歌声はいつでもレイチェルを振るわせた。彼の笑顔はいつでもときめかせた。
今日はどんなにして彼を喜ばせよう。今日はどんな歌を披露してくれるのかな。この幸せをどうやって分かち合おうか。
四六時中そればかり考えていた。そして彼も同じように、レイチェルを見てはいつでも恋に満ちた青年の表情を浮かべてくれるのだ。婚姻を結ぶことも子宝に恵まれることもなかったが、つながっている。その気持ちだけで二人は十分だった。
「うまいこと言っちゃって。ふふ、それじゃ腕によりをかけて作らなきゃね」
宿屋の台所を借りて作ってくるからね。レイチェルは立ち上がろうとした時、グインが不意に手を伸ばした。彼の動きは緩慢でレイチェルをつかむことはできなかった。
「どうしたの?」
「……君と離れたくない、と思って」
「大丈夫よ、下にいるだけなんだから。お料理ができあがったら、ゆっくりお話ししましょ」
すっかり照れた顔になったレイチェルはそう言って、グインの傍を離れた。レイチェルもずっと彼の傍にいたいという気持ちは同じであったが、そうやって恋を語らった時は気が付くと夕飯時を迎えてしまい、食事が真夜中になることもしばしばあった。だから、料理を作る時だけは少し我慢。それが通例だった。
だが、それが間違いだった。
グインと言葉を交わしたのはそれが最後になってしまった。
●
天命だったのだろう。人間はエルフに比べて遥かに短命だ。そんな人間で、しかも流浪の生活を続けながらもグインは70近くまで生きた。レイチェルはその半分以上の時間を共にし、最期まで互いに慕い続けることができたのだ。
だけど、だけど。
泣き疲れたレイチェルは落ちくぼんだ瞳で鏡を見ていた。自分の容貌はグインと出会った時からほとんど変わっていない。そう、エルフなのだから。この長く尖った耳が何よりの証拠。
レイチェルは己の長く尖った耳を鷲掴みにし、思い切り引っ張った。耳の付け根が焼けるように痛み、チリリと音が響いたが、それでもレイチェルは止めなかった。
400年の寿命などいらない。悠久の若さなど欲しいならくれてやる。
どうして添い遂げられないのか。何故共に老いることができないのか。長くてもあと数年しか生きられぬというなら、その余生を懐かしむためだけに生きてもいい。だが、彼女はグインと過ごしてきた時間の何倍も生きなくてはならないのだ。孤独と共に。
耐えられない。
耐えるなんてできない。
死のう。そう決心した。自ら命を絶つことはグインは悲しむだろう。生への渇望と死の渇望は誰にでもある。そのせめぎ合いで人は苦悩し、また輝くのだ、死にたくなっても死んではいけない。と常に言っていた。
だけど、グレーの世界を生きる勇気はない。常世で怒られてもいい、いいや、出会えなくてもいい。ただ同じ世界に身をやつすだけで、この寂しさは満たされるのだ。
「グイン……」
料理に使っていた包丁を首の袂に向けたところで、大きな力でそれから引き離された。
レイチェルは絶叫して死を懇願したが、許してはくれなかった。
そこに立っていたのは、『あなた』達だった。
●
時は遡り、ハンターソサエティ。
そこには一つの依頼が届いていた。その主文には何とも珍しいことに手紙が添えられていた。
『今を生きる人々へ
この手紙が誰かの目についている時には 私はもう冥界の扉を開いていることだろう
故に、この依頼を受ける心優しい人々に直接会って話せない無礼を許してもらいたい
相談したいのは、レイチェルというエルフの女性についてだ
私にとって無二の存在であり、永らく、同じものを見て、同じものを食べ、同じ時間を過ごしてきた
連れ添った40年という時間は私にとって最高の時間だった
だが、エルフのレイチェルにとって40年はそれほど長い時間ではない
彼女は私の死後、何倍もの時間を過ごさなくてはならない
レイチェルは私の詩歌を聴いて、この世に喜びがあることを知った 世界が色で満ちていることに気づいた
詩人にとってこれほど嬉しいことはない。ましてやそれが私の一番大切な人に伝えられたのだから
だが私の死後、世界は再び闇に覆われ、色を無くしてしまうだろう
彼女に伝えることができなかったのだ
本当は私が伝えるべきこと、もしくは彼女がそれを自分で見つけ出す事柄なのだろう
だが、私はできなかった。二人の生活に寄りかかっていたのは私の方だったからだ
死にゆく人間が、残された人間にこんなお願いをするのは何と傲岸不遜だと思われるかもしれない
どうか彼女に伝えてほしいのだ
世界はそれでも尚、美しいのだと』
解説
愛する人を失い絶望の淵に立たされたエルフ、レイチェルを助けてあげてください。
見た目は30歳(実年齢は100手前くらいで、そろそろ森で過ごさなくてはならない歳です)くらいです。主に旅をしながら歌や踊りで生計を立てています。メインは横笛です。
グインもそうですがハンターとして登録はしていますが、覚醒者ではありません。ハンターの依頼で歌で慰問するなどがあれば受けていたという感じです。
オープニングにある通り、参加者はすでにレイチェルの自殺を止めたところに登場しています。リプレイはその後からの流れとなります。
ちなみにグインの葬儀はまだ終わってません。自殺をしようとしたのは料理を作り終えたレイチェルが亡くなったグインを見つけ慟哭した後ですから、グイン死亡の数時間後と捉えてください。
ちなみにグインの死因は老衰です。ハンターとしてはかなり珍しいです。
グインは詩人としては多少有名です。もし希望する方がいるなら知っていることにしていても大丈夫です。その場合70近いの人ですので、ご自身の設定と齟齬がないようにだけお気を付けください。
プレイングは白紙提出になってしまった! ということがないよう、正式参加後、やりたいことや思いついたことを羅列するだけでもいいので、書き込んでおき、相談の上、随時編集していくことをお勧めします。
見た目は30歳(実年齢は100手前くらいで、そろそろ森で過ごさなくてはならない歳です)くらいです。主に旅をしながら歌や踊りで生計を立てています。メインは横笛です。
グインもそうですがハンターとして登録はしていますが、覚醒者ではありません。ハンターの依頼で歌で慰問するなどがあれば受けていたという感じです。
オープニングにある通り、参加者はすでにレイチェルの自殺を止めたところに登場しています。リプレイはその後からの流れとなります。
ちなみにグインの葬儀はまだ終わってません。自殺をしようとしたのは料理を作り終えたレイチェルが亡くなったグインを見つけ慟哭した後ですから、グイン死亡の数時間後と捉えてください。
ちなみにグインの死因は老衰です。ハンターとしてはかなり珍しいです。
グインは詩人としては多少有名です。もし希望する方がいるなら知っていることにしていても大丈夫です。その場合70近いの人ですので、ご自身の設定と齟齬がないようにだけお気を付けください。
プレイングは白紙提出になってしまった! ということがないよう、正式参加後、やりたいことや思いついたことを羅列するだけでもいいので、書き込んでおき、相談の上、随時編集していくことをお勧めします。
マスターより
グインの命を助けてあげてください、という主旨ではないところがDoLLerらしいところです。
森の中で暮らすエルフはそんな事考えないでしょうけど、人と同じ時間の潮流の中で過ごしていたら、とても寂しい時間もあると思うのです。
皆様のお考えはいかがでしょうか。どんな答えであってもその一つ一つがきっとレイチェルを救う輝きになると思います。
それでは皆様、よき時間を。
森の中で暮らすエルフはそんな事考えないでしょうけど、人と同じ時間の潮流の中で過ごしていたら、とても寂しい時間もあると思うのです。
皆様のお考えはいかがでしょうか。どんな答えであってもその一つ一つがきっとレイチェルを救う輝きになると思います。
それでは皆様、よき時間を。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2014/09/15 07:23
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/08 13:15:48 |
|
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相談卓 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/12 08:26:05 |