瓦も壁も窓ガラスもぴかぴか。庭には青々した芝生。すっくと立つ若木。そして花壇。
　新築住宅は、いささか気恥ずかしくなるほどの幸福感を撒き散らしている。
　しかし人類の敵である歪虚は、こんな場所にさえ姿を現す。
　依頼を受けた八橋杏子は、仲間のハンターたちとともに、急遽現場へ向かった。

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「弱りましたよ、折角いい値がついて、話もまとまって、後は本格的な引っ越しだけってところですのに、モンスターハウス化するなんて」

「なんとか今日中に解決してください。買い手さんにはこの話伏せているんです。不安に思われて解約なんて事になったら、目も当てられませんから」

　汗をふきふき言っているのは、住宅販売員たち。

　異変が起きたのは、ここ数日の間だという。それまでは何一つ不審な点はなかったのだとか。
　ハンターたちの一人が聞いた。

「失礼ですが、もう一度よく思い出してもらえませんか？　異常が起きる前にこう、何かしらこの周辺で特別なことがあったとか……」

「いいえ、思い当たる節はさっぱり」

「特別なことと言われても……家具を設置したくらいで……ないですねえ、何もあやしいことは」

「家具というのは、何と何ですか？」

「ええと、ベッドとクローゼットと、食器棚、それにチェスト、本棚と――」

「あっ、ピアノもありますよ、ピアノ。ほら、買い手さんに、『うちは置き場がないから、ついでにこちらへ搬入しておいてほしい』って頼まれた奴」

「ああ、そうだった。それもあったな」

「そのピアノは、どういう素性のものなんですか？」

「なんでも買い手さんのお嬢さんへ、御祖父様が寄越してきたのだそうで。新居祝いだとかで。フリル一杯のカバーで包んであって……そうそう、お人形やぬいぐるみも上に乗せてありました」

　どうもこれ以上情報は出てきそうにない。
　百聞は一見にしかず。ハンターたちは、まず家の中に入ってみることとした。
　八橋杏子がドアノブに手をかける。

「じゃあ、開けるわよ？」

　そう言った途端。

　バアン！

　ものすごい勢いでドアが開き、杏子の顔面を打った。

「へぶっ！？」

　開いたときと同様、ものすごい勢いで閉まるドア。
　顔を押さえしばしうずくまる杏子。
　据わった目をして再度立ち上がり、獲物である仕込み刀に手をかけ……そうになるも、堪える。

「ふふふふふ……舐めた真似してくれるじゃない……」

　外壁、内装、家具、とにかく一切家を傷めないようにしてくれ――それが今回の依頼における制約なのだ。
　モンスターハウスからどんな攻撃をくらっても、ハンターたちは、思いのままに攻撃するわけにはいかないのである……。

補足説明


　これはモンスターハウスがモンスター化した原因を突き止め、それを排除することを目的とするシナリオです。

　モンスターハウスはモンスター化して日が浅いので、いきなり死に直結するほどの攻撃は出来ません。
　その代わりちまちま攻めてきます。

　攻めの例

・不意に開きぶつかってくるドア。
・不意に閉まって挟んでくる窓。
・常に小指がぶつかる位置にあるテーブルの足。
・額の位置まで急に下がってくる鴨居。
・人に当たる機会を常にうかがっている各所の引き出し。
・やたら滑る廊下。
・やたら滑る風呂のタイル。
・滑った先に熱湯が入った浴槽。
・上っているところで段差が引っ込みただの急斜面と化す階段。
・座ろうとしたら絶妙のタイミングで引き尻餅を打たせる椅子。
・人がちょうど下にいるときを狙って落ちてくる額。
・鍵盤に触れると間髪入れず蓋が閉まるピアノ。


　等いろいろなことが起きるでしょうが、それでも全て壊してはいけません。攻撃力より忍耐と回避力が試されます。
　モンスターハウスとなった原因は、ピアノの上にある歪虚化した人形です。それを排除すれば、怪奇現象は収まります。
　この人形だけは破壊してもかまいません。

ＫＩＮＵＴＡです。

熱湯風呂があるからって、無理に押さなくてもいいんですよ？